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特許7407581水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/32 20060101AFI20231222BHJP
   G03F 7/40 20060101ALI20231222BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231222BHJP
   G03F 7/42 20060101ALN20231222BHJP
【FI】
G03F7/32
G03F7/40 521
G03F7/32 501
H01L21/304 647A
G03F7/42
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019220630
(22)【出願日】2019-12-05
(65)【公開番号】P2020118958
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2019009734
(32)【優先日】2019-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】橘 昇二
(72)【発明者】
【氏名】東野 誠司
(72)【発明者】
【氏名】石津 澄人
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-026645(JP,A)
【文献】特開2004-048039(JP,A)
【文献】特開昭64-072155(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/00-7/42
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化第4級アンモニウムと、
前記水酸化第4級アンモニウムを溶解する、第1の有機溶媒と
を含む、半導体製造用処理液組成物であって、
前記第1の有機溶媒は、ヒドロキシ基を複数個有する水溶性有機溶媒であり、
組成物中の水分含有量が、組成物全量基準で1.0質量%以下であり、
組成物中のNa、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、及びZnの含有量が、組成物全量基準でそれぞれ100質量ppb以下であり、
組成物中のClの含有量が、組成物全量基準で100質量ppb以下であり、
組成物中の水分含有量/水酸化第4級アンモニウム含有量が、0.0007以上0.10以下である、
ことを特徴とする、半導体製造用処理液組成物。
【請求項2】
組成物中の水分含有量が、組成物全量基準で0.5質量%以下であり、
組成物中のNa、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、及びZnの含有量が、組成物全量基準でそれぞれ50質量ppb以下であり、
組成物中のClの含有量が、組成物全量基準で80質量ppb以下である、
請求項1に記載の半導体製造用処理液組成物。
【請求項3】
組成物中の水分含有量が、組成物全量基準で0.3質量%以下であり、
組成物中のNa、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、及びZnの含有量が、組成物全量基準でそれぞれ20質量ppb以下であり、
組成物中のClの含有量が、組成物全量基準で50質量ppb以下である、
請求項1又は2に記載の半導体製造用処理液組成物。
【請求項4】
前記水酸化第4級アンモニウムの含有量が、組成物全量基準で5.0質量%以上である、
請求項1~3のいずれかに記載の半導体製造用処理液組成物。
【請求項5】
前記水酸化第4級アンモニウムの含有量が、組成物全量基準で2.38~25.0質量%であり、
前記水酸化第4級アンモニウムが、水酸化テトラメチルアンモニウムである、
請求項1~3のいずれかに記載の半導体製造用処理液組成物。
【請求項6】
前記第1の有機溶媒が、炭素原子、水素原子、及び酸素原子からなる沸点150~300℃の2価アルコール及び3価アルコールから選ばれる1種以上のアルコールである、
請求項1~5のいずれかに記載の半導体製造用処理液組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液系の半導体製造用処理液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水酸化第4級アンモニウムを含有する溶液は、半導体素子、液晶表示装置等の製造工程において、フォトレジスト(単に「レジスト」ということがある。)の現像液、変性フォトレジスト(例えばイオン注入プロセス後のフォトレジスト、アッシング後のフォトレジスト等。)の剥離液および洗浄液、シリコンエッチング液等として用いられている。
【0003】
例えば、フォトレジストの現像プロセスにおいては、基板表面に例えばノボラック樹脂、ポリスチレン樹脂等の樹脂を含有するネガ型又はポジ型のフォトレジストを塗布し、塗布したフォトレジストに対してパターン形成用のフォトマスクを介して光を照射することにより、光照射を受けたフォトレジストを硬化または可溶化させ、未硬化の又は可溶化したフォトレジストを現像液を用いて除去することにより、フォトレジストのパターンが形成される。
【0004】
形成されたフォトレジストのパターンは、その後のプロセス(例えばエッチング、ドーピング、イオン注入等。)において、フォトレジストのパターンで被覆されていない箇所が選択的に処理されるようにする役割を果たす。その後、不要となったフォトレジストパターンは、必要に応じてアッシング処理を経た後、レジスト剥離液により基板表面から除去される。必要に応じて、レジスト残渣を除去するため、基板は洗浄液でさらに洗浄される。
【0005】
これらの用途には従来、水酸化第4級アンモニウムの水溶液が用いられてきた。しかしながら、フォトレジストパターンがイオン注入等のプロセスを経ると、フォトレジストパターンが変質し、その表面に炭素質のクラストが形成される。表面にクラストが形成された変性フォトレジストは、従来の水酸化第4級アンモニウム水溶液では除去することが容易でない。またフォトレジストパターンのアッシング残渣も炭素質に近い性質を有しており、従来の水酸化第4級アンモニウム水溶液では除去することが容易でない。
【0006】
そこで、このような変性フォトレジスト又はフォトレジストのアッシング残渣をより効果的に除去することを目的として、水酸化第4級アンモニウムの水溶液に代えて、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液を用いることが提案されている。水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液は、水溶液に比較して、配線に用いられる金属材料、及び、Si、SiO、SiN、Al、TiN、W、Ta等の無機質基体材料を腐食させにくい点においても有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4673935号公報
【文献】特許第4224651号公報
【文献】特許第4678673号公報
【文献】特許第6165442号公報
【文献】国際公開2016/163384号パンフレット
【文献】国際公開2017/169832号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
変性フォトレジスト又はフォトレジストのアッシング残渣に対する除去能力を高める観点、及び、金属材料および無機質基体材料に対する適合性の観点からは、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液中の水分量は低いことが望ましい。また、半導体素子の製造歩留りを高める観点からは、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液中の金属不純物の含有量は低いことが望ましい。
【0009】
しかしながら例えば、水酸化第4級アンモニウムの一種である水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)は、濃度2.38~25質量%の水溶液、又はTMAH・5水和物の結晶性固体(純度97~98質量%程度)として商業的に入手可能であるが、実質的に水分を含まない無水のTMAHは商業的に流通していない。
【0010】
一般に水酸化第4級アンモニウムは、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)等の、第4級アンモニウムハライドの水溶液を電気分解することにより製造される(電解法)。この電気分解により、第4級アンモニウムイオンの対イオンであるハライドイオンが水酸化物イオンに交換され、水酸化第4級アンモニウムの水溶液が製造される。例えば電解法により製造されるTMAH水溶液の濃度は通常20~25質量%程度である。電解法によれば、金属不純物の含有量が各金属について概ね0.1質量ppm以下の高純度な水酸化第4級アンモニウム水溶液が製造可能であり、特にTMAHについては金属不純物の含有量が各金属について0.001質量ppm以下(すなわち1質量ppb以下)の高純度な水酸化第4級アンモニウム水溶液が製造可能である。
【0011】
しかしながら、水酸化第4級アンモニウム水溶液から無水の水酸化第4級アンモニウムを得ることは極めて困難である。例えばTMAH水溶液の濃度が高くなると、TMAH・5水和物(TMAH含有量:約50質量%)の結晶性固体が析出する。TMAH・5水和物の結晶性固体を加熱しても、TMAH・3水和物(TMAH含有量:約63質量%)が生成することはあっても同時にTMAHの分解(トリメチルアミンの発生及び遊離)が進行してしまう。
【0012】
水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液を製造する方法として、塩交換法が知られている。例えばメタノール中で塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)と水酸化カリウム(KOH)とを混合することにより、TMAH及び塩化カリウム(KCl)が生成するとともに、メタノール中の溶解度が低いKClが析出する。析出したKClを濾別することにより、TMAHメタノール溶液が得られる。塩交換法によれば水分量の比較的低いTMAHメタノール溶液を得ることは可能であるが、該溶液には0.5~数質量%程度のKCl及び水等の不純物が含まれる。このように塩交換法では、半導体の製造プロセスにおいて有用な高純度のTMAHメタノール溶液を得ることはできない。
【0013】
水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液の他の製造方法として、特許文献1には、水酸化第4級アンモニウムの濃縮液の製造方法であって、含水結晶又は水溶液の形態の水酸化第4級アンモニウムと、グリコールエーテル類、グリコール類、及びトリオール類からなる群から選択される水溶性有機溶剤とを混合して混合液を調製し、その混合液を減圧下に薄膜蒸留して留出物を留去することを特徴とする製造方法が記載されている。特許文献1には、例えば、25質量%TMAH水溶液を出発物質として用いて、薄膜蒸留によりTMAHのプロピレングリコール溶液(TMAH含有量12.6質量%、含水量2.0質量%)を得た旨が記載されている。
【0014】
しかしながら、本発明者らが、高純度の水酸化第4級アンモニウム水溶液を出発物質として用いて、特許文献1に記載の方法を追試したところ、薄膜蒸留により得られた水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液からは、0.1質量ppmを大幅に上回る金属不純物が検出された。半導体素子の製造プロセスに用いる観点からは、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液中の金属不純物含有量は、少なくとも各金属について0.1質量ppm以下であることが望ましい。
【0015】
このように、半導体製造プロセス用途の観点から見て十分高い純度を有する水酸化第4級アンモニウム有機溶媒溶液は、未だ得られていない。
【0016】
本発明は、半導体製造プロセス用途に有用な水準の高い純度を有する、水酸化第4級アンモニウム有機溶媒溶液系の半導体製造用処理液組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、下記[1]~[6]の形態を包含する。
[1] 水酸化第4級アンモニウムと、
前記水酸化第4級アンモニウムを溶解する、第1の有機溶媒と
を含む、半導体製造用処理液組成物であって、
前記第1の有機溶媒は、ヒドロキシ基を複数個有する水溶性有機溶媒であり、
組成物中の水分含有量が、組成物全量基準で1.0質量%以下であり、
組成物中のNa、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、及びZnの含有量が、組成物全量基準でそれぞれ100質量ppb以下であり、
組成物中のClの含有量が、組成物全量基準で100質量ppb以下であることを特徴とする、半導体製造用処理液組成物。
【0018】
[2] 組成物中の水分含有量が、組成物全量基準で0.5質量%以下であり、
組成物中のNa、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、及びZnの含有量が、組成物全量基準でそれぞれ50質量ppb以下であり、
組成物中のClの含有量が、組成物全量基準で80質量ppb以下である、[1]に記載の半導体製造用処理液組成物。
【0019】
[3] 組成物中の水分含有量が、組成物全量基準で0.3質量%以下であり、
組成物中のNa、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、及びZnの含有量が、組成物全量基準でそれぞれ20質量ppb以下であり、
組成物中のClの含有量が、組成物全量基準で50質量ppb以下である、[1]又は[2]に記載の半導体製造用処理液組成物。
【0020】
[4] 前記水酸化第4級アンモニウムの含有量が、組成物全量基準で5.0質量%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の半導体製造用処理液組成物。
【0021】
[5] 前記水酸化第4級アンモニウムの含有量が、組成物全量基準で2.38~25.0質量%であり、
前記水酸化第4級アンモニウムが、水酸化テトラメチルアンモニウムである、[1]~[3]のいずれかに記載の半導体製造用処理液組成物。
【0022】
[6] 前記第1の有機溶媒が、炭素原子、水素原子、及び酸素原子からなる沸点150~300℃の2価アルコール及び3価アルコールから選ばれる1種以上のアルコールである、[1]~[5]のいずれかに記載の半導体製造用処理液組成物。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、半導体製造プロセス用途に有用な水準の高い純度を有する、水酸化第4級アンモニウム有機溶媒溶液系の半導体製造用処理液組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一の実施形態に係る流下膜式の薄膜蒸留装置10Aを模式的に説明する図である。
図2】装置10Aにおける蒸発容器37の詳細を模式的に説明する断面図である。
図3】他の実施形態に係る薄膜蒸留装置10Bを模式的に説明する図である。
図4】他の実施形態に係る薄膜蒸留装置10Cを模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の上記した作用および利得は、以下に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。ただし、本発明はこれらの形態に限定されるものではない。なお、図面は必ずしも正確な寸法を反映したものではない。また図では、一部の符号およびハッチングを省略することがある。本明細書においては特に断らない限り、数値A及びBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。また「又は」及び「若しくは」の語は、特に断りのない限り論理和を意味するものとする。また要素E及びEについて「E及び/又はE」という表記は「E若しくはE、又はそれらの組み合わせ」を意味するものとし、要素E、…、E(Nは3以上の整数)について「E、…、EN-1、及び/又はE」という表記は「E、…、EN-1、若しくはE、又はそれらの組み合わせ」を意味するものとする。
【0026】
<1.半導体製造用処理液組成物>
本発明の半導体製造用処理液組成物(以下において単に「組成物」ということがある。)は、水酸化第4級アンモニウムと、該水酸化第4級アンモニウムを溶解する第1の有機溶媒とを含んでなる。第1の有機溶媒は、ヒドロキシ基を複数個有する水溶性有機溶媒である。
【0027】
(1.1 水酸化第4級アンモニウム)
水酸化第4級アンモニウム(以下において「QAH」ということがある。)は、窒素原子に4つの有機基が結合したアンモニウムカチオンと、水酸化物イオン(アニオン)とから構成されるイオン性化合物である。本発明の組成物は水酸化第4級アンモニウムを1種のみ含んでいてもよく、2種以上の水酸化第4級アンモニウムを含んでいてもよい。水酸化第4級アンモニウムの例としては、下記一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。
【0028】
【化1】

一般式(1)において、R~Rはそれぞれ独立に、ヒドロキシ基を有していてもよい炭化水素基であり、好ましくはヒドロキシ基を有していてもよいアルキル基である。レジスト及び変性レジストの除去性能及びエッチング性能等の観点からは、R~Rは特に好ましくはヒドロキシ基を有していてもよい炭素数1~4のアルキル基である。R~Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2-ヒドロキシエチル基等を挙げることができる。
【0029】
一般式(1)において、R~Rは同一であってもよく、相互に異なっていてもよい。一の実施形態において、R~Rは同一の基、好ましくは炭素数1~4のアルキル基であり得る。他の実施形態において、R~Rが同一の基(第1の基)であり、RがR~Rと異なる基(第2の基)であり得る。一の実施形態において、第1の基および第2の基はそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基であり得る。他の実施形態において、第1の基は炭素数1~4のアルキル基であり、第2の基は炭素数1~4のヒドロキシアルキル基であり得る。
【0030】
水酸化第4級アンモニウムの具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH)、水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)、水酸化テトラブチルアンモニウム(TBAH)、トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムハイドロオキサイド(別名:水酸化コリン)等を挙げることができる。
【0031】
これらの中でもTMAHは、レジスト及び変性レジストの除去性能、エッチング性能等が特に優れ、安価で用途が広いため、特に好ましい。またTMAHのメチル基の一部または全部をエチル基、プロピル基、ブチル基等の他の基に置換した化合物、即ち上記TEAH、TPAH、TBAH、水酸化コリン等は、レジスト及び変性レジストの除去性能、エッチング性能等はTMAHには劣るものの、毒物ではないこと、及び、用いられるレジスト材料との相性の観点から、半導体素子の製造現場で好まれる場合もある。
【0032】
一の実施形態において、組成物中の水酸化第4級アンモニウムの含有量は、2.38~25.0質量%であり得る。一の好ましい実施形態において、水酸化第4級アンモニウムとしてTMAHを用いることができ、組成物中のTMAHの含有量は、組成物全量基準で2.38~25.0質量%とすることができる。
【0033】
一の実施形態において、組成物中の水酸化第4級アンモニウムの含有量は、組成物全量基準で好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは8.0質量%以上であり得る。組成物中の水酸化第4級アンモニウムの含有量が上記下限値以上であることにより、組成物の流通コストを節約できる。当該含有量の上限値は特に制限されるものではないが、一の実施形態において72質量%以下、他の実施形態において55質量%以下であり得る。組成物中の水酸化第4級アンモニウムの含有量が上記上限値以下であることにより、組成物の高粘度化が抑制されるので、組成物を使用する際のハンドリング、送液、混合等が容易になる。
【0034】
組成物中の水酸化第4級アンモニウムの濃度は、電位差滴定装置、液体クロマトグラフィー等によって正確に測定することが可能である。これらの測定手段は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0035】
(1.2 第1の有機溶媒)
本発明の組成物は、溶媒として、上記水酸化第4級アンモニウムを溶解する第1の有機溶媒を含有する。第1の有機溶媒は、ヒドロキシ基を複数個有する水溶性有機溶媒である。第1の有機溶媒としては1種の溶媒を単独で用いてもよく、2種以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
ヒドロキシ基を2つ以上有する水溶性有機溶媒は水よりも高沸点であるため、組成物から水を留去することにより組成物中の水分量を低減することが可能である。圧力0.1MPaにおける第1の有機溶媒の沸点は好ましくは150~300℃、より好ましくは150~200℃である。第1の有機溶媒の沸点が150℃以上であることにより、水分を留去する際に第1の有機溶媒が留出しにくいため、組成物中の水分量を低減することが容易になる。また沸点が上記上限値以下である第1の有機溶媒は、粘度がそれほど高くないため、水分を留去する際の効率を高めることが可能である。
【0037】
第1の有機溶媒としては、炭素原子、水素原子、及び酸素原子からなる沸点150~300℃の2価又は3価アルコール、より好ましくは2価又は3価の脂肪族アルコールから選ばれる1種以上のアルコールを好ましく用いることができる。第1の有機溶媒の融点は好ましくは25℃以下、より好ましくは20℃以下である。
【0038】
好ましい第1の有機溶媒の具体例としては、エチレングリコール(沸点197℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)、ジエチレングリコール(沸点244℃)、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、トリプロピレングリコール(沸点267℃)、ヘキシレングリコール(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)(沸点198℃)等の2価アルコール;及び、グリセリン(沸点290℃)等の3価アルコール;並びにそれらの組み合わせを挙げることができる。
【0039】
これらの中でも、組成物の保存安定性の観点から、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ヘキシレングリコール等の、第2級又は第3級炭素原子に結合したヒドロキシ基を有するアルコールを第1の有機溶媒として好ましく用いることができる。なかでもプロピレングリコール及びヘキシレングリコールは、上記説明した沸点及び組成物の保存安定性の観点から特に好ましく、さらには入手可能性及びコストの観点からも好ましい。
【0040】
(1.3 第2の有機溶媒)
また本発明の組成物は、その処理対象に応じて、上記ヒドロキシ基を複数個有する水溶性有機溶媒以外の有機溶媒(以下において「第2の有機溶媒」ということがある。)をさらに含んでいてもよい。第2の有機溶媒としては、例えば、半導体製造用処理液組成物に配合される有機溶媒として既知の有機溶媒を挙げることができる。第2の有機溶媒の好ましい例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノールなどの、ヒドロキシ基を1個のみ有する水溶性有機溶媒(水溶性1価アルコール)を挙げることができる。これらのヒドロキシ基を1個のみ有する水溶性1価アルコールは、例えば組成物の粘度を調整するために好ましく用いることができる。
【0041】
本発明の組成物中の全有機溶媒に占める、第1の有機溶媒の割合は、有機溶媒全量基準で50質量%以上であることが好ましく、75質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましく、実質的に100質量%であることが特に好ましい。ここで、第1の有機溶媒が組成物中の全有機溶媒の「実質的に100質量%」を占めるとは、組成物中の全有機溶媒が上記第1の有機溶媒のみからなるか、又は、組成物中の全有機溶媒が上記第1の有機溶媒と不可避的不純物とからなることを意味する。
【0042】
(1.4 組成物中の水分含有量)
組成物中の水分含有量は、組成物全量基準で1.0質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下である。組成物中の水分含有量が上記上限値以下であることにより、変性フォトレジスト及びフォトレジストのアッシング残渣の除去性能を高めるとともに、金属材料および無機質基体材料に対する腐食性を低減することが可能になる。組成物中の水分含有量の下限は特に制限されるものではないが、例えば0.05質量%以上であり得る。
【0043】
組成物中の水分量は、ガスクロマトグラフィーによって測定できるほか、カールフィッシャー法(以下において「カールフィッシャー滴定」ということがある。)を用いたカールフィッシャー水分計と、ガスクロマトグラフィーとを組み合わせることによっても測定可能である。カールフィッシャー水分計によれば簡単な操作で測定が可能であるが、カールフィッシャー滴定による測定値はアルカリ存在下では妨害反応による誤差を含み得る。他方、ガスクロマトグラフィーによれば、アルカリの存在の有無に関わらず水分量の正確な測定が可能であるが、測定操作は必ずしも簡便ではない。組成物と同程度のアルカリ濃度を有する溶液について、カールフィッシャー水分計による水分量測定値を縦軸に、ガスクロマトグラフィーによる水分量測定値を横軸に、それぞれプロットした検量線を予め作成し、カールフィッシャー水分計による測定値を該検量線を用いて補正することで、水分量を簡単な操作で正確に定量することが可能である。なお、ガスクロマトグラフィー及びカールフィッシャー水分計としては商業的に入手可能な装置をそれぞれ用いることができる。
【0044】
カールフィッシャー水分計による水分量測定値を検量線を用いて補正する操作は、次の(1)~(6)の手順により好ましく行うことができる。
(1)測定すべき組成物中の有機溶媒と同一の有機溶媒中の水分量をカールフィッシャー滴定により測定する。該有機溶媒に水を加えることにより、水分量の異なる、例えば5種類の溶液(以下において「水/有機溶媒溶液」ということがある。)を調製する。有機溶媒に加える水の量は、水/有機溶媒溶液中の水分量の範囲に、測定すべき組成物中の水分量が包含されるように選択する。例えば、測定すべき組成物中の水分量が0.05~5.0質量%であると考えられる場合には、水/有機溶媒溶液中の水分量が0.05~5.0質量%の5段階になるように、有機溶媒に加える水の量を決定することができる。なお、調製した5種類の水/有機溶媒溶液中の水分量をカールフィッシャー滴定により測定し、得られた値が有機溶媒中の水分量および加えた水の量から算出される理論値と良好な一致を示すことを確認することが望ましい。
(2)上記(1)で調製した5種類の水/有機溶媒溶液のそれぞれについて、ガスクロマトグラフィー(以下において「GC」ということがある。)により分析を行い、水および有機溶媒のピークを含むGCチャートを得る。得られたGCチャート中の水のピークの面積を縦軸(Y)にとり、水/有機溶媒溶液中の水分量(有機溶媒中の水分量および加えた水の量から算出される理論値)を横軸(X)にとってプロットする。Yを目的変数、Xを説明変数として最小二乗法により回帰直線を算出することにより、GCチャート中の水のピークの面積から水分量を与える検量線(以下において「第1の検量線」ということがある。)を得る。
(3)標準液として、測定すべき組成物中の有機溶媒と同一の有機溶媒に、測定すべき組成物中の水酸化第4級アンモニウム(QAH)と同一のQAHの濃厚水溶液(濃厚水溶液中のQAH濃度は、入手可能な範囲で高ければよく、例えば10~25質量%とすることができる。)を加えることにより、5種類の混合液を調製する。有機溶媒中の水分量は上記(1)においてカールフィッシャー滴定により正確に測定されている。QAH濃厚水溶液中のQAH濃度は電位差自動滴定装置により正確に測定する。これによりQAH濃厚水溶液中の水分量も同時に決定される。有機溶媒とQAH濃厚水溶液との混合質量比は、混合液中の水分量が上記(1)と同じ5段階となるように選択する。
(4)上記(3)で調製した5種類の標準液をそれぞれガスクロマトグラフィーで分析し、上記(2)で得た第1の検量線を用いて、GCチャート中の水のピークの面積から各標準液中の水分量を得る。一般に、GCによる水分量の測定値は、有機溶媒中の水分量、QAH濃厚水溶液中の水分量、および有機溶媒とQAH濃厚水溶液との混合質量比から算出される標準液中の水分量の理論値と良好な一致を示す。
(5)上記(3)で調製した5種類の標準液について、それぞれカールフィッシャー滴定により水分量を測定する。各標準液について、カールフィッシャー滴定によって測定された水分量を縦軸(Y)にとり、上記(3)でGCにより測定した標準液中の水分量を横軸(X)にとってプロットする。Yを目的変数、Xを説明変数として最小二乗法により回帰直線を算出することにより、QAH及び水を含む有機溶媒溶液についてカールフィッシャー滴定による水分量測定値をGCによる水分量測定値に補正する検量線(以下において「第2の検量線」ということがある。)を得る。
(6)測定すべき実際の組成物の水分量をカールフィッシャー滴定によって測定し、得られた測定値を、上記(5)で得た第2の検量線を用いて、GCによって測定される水分量に補正する。
【0045】
なお、組成物中の水分量をカールフィッシャー滴定により測定することは必須ではない。上記手順(1)~(2)により得られる第1の検量線を用いれば、アルカリを含む組成物中の水分量をガスクロマトグラフィー分析により正確に測定することができる。
【0046】
組成物中の水分含有量(単位:質量%)の、組成物中の水酸化第4級アンモニウム含有量(単位:質量%)に対する比(水分含有量/水酸化第4級アンモニウム含有量)は、好ましくは0.42以下、より好ましくは0.21以下、更に好ましくは0.10以下である。当該比が上記上限値以下であることにより、変性フォトレジスト及びフォトレジストのアッシング残渣の除去性能を維持ないし向上しながら、金属材料および無機質基体材料に対する腐食性をさらに低減することが可能になる。当該比の下限は特に制限されるものではないが、例えば0.0007以上であり得る。
【0047】
(1.5 組成物中の不純物)
組成物中の金属不純物の含有量は、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、及びZnのそれぞれについて、組成物全量基準で100質量ppb以下であり、好ましくは50質量ppb以下、より好ましくは20質量ppb以下である。本明細書において、組成物中の金属不純物の含有量は、0価の金属であるか金属イオンであるかに関わらず、当該金属元素の総含有量を意味する。
【0048】
組成物中の塩素不純物(Cl)の含有量は、組成物全量基準で100質量ppb以下であり、好ましくは80質量ppb以下、より好ましくは50質量ppb以下である。本明細書において、組成物中の塩素不純物の含有量は、塩素元素の総含有量を意味する。なお組成物中において、塩素不純物は通常、塩化物イオン(Cl)の形で存在する。
【0049】
組成物中の金属不純物の含有量は、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)等の微量分析装置により測定可能である。また塩素不純物の含有量は、イオンクロマトグラフィー等の微量分析装置により測定可能である。
【0050】
組成物中の上記金属不純物の含有量(単位:質量ppb)の、組成物中の水酸化第4級アンモニウム含有量(単位:質量%)に対する比(金属不純物の含有量/水酸化第4級アンモニウム含有量)は、上記金属元素のそれぞれについて好ましくは42以下、より好ましくは21以下、更に好ましくは10以下である。当該比が上記上限値以下であることにより、変性フォトレジスト及びフォトレジストのアッシング残渣の除去性能を維持ないし向上しながら、半導体素子の製造歩留りをさらに高めることが可能になる。当該比の下限は特に制限されるものではなく、低いほど好ましいが、金属不純物の測定装置の定量限界などを考慮すると、例えば0.0001以上であり得る。
【0051】
組成物中の塩素不純物の含有量(単位:質量ppb)の、組成物中の水酸化第4級アンモニウム含有量(単位:質量%)に対する比(塩素含有量/水酸化第4級アンモニウム含有量)は、好ましくは42以下、より好ましくは34以下、更に好ましくは21以下である。当該比が上記上限値以下であることにより、変性フォトレジスト及びフォトレジストのアッシング残渣の除去性能を維持ないし向上しながら、半導体素子の製造歩留りをさらに高めることが可能になる。当該比の下限は特に制限されるものではなく、低いほど好ましいが、塩素不純物の測定装置の定量限界などを考慮すると、例えば0.001以上であり得る。
【0052】
(1.6 用途)
本発明の組成物は例えば、半導体素子の製造工程において使用されるフォトレジストの現像液、変性レジストの剥離液及び洗浄液、並びにシリコンエッチング液等の薬液として好ましく用いることができる。
【0053】
なお半導体製造の分野においては、上記各種薬液そのものだけでなく、溶媒等で希釈することにより上記各種薬液を調製するために用いられる濃厚液もまた処理液と称される。本明細書においても、上記各種薬液としてそのまま使用可能な濃度を有する組成物だけでなく、このような希釈を前提とした濃厚液もまた「半導体製造用処理液組成物」に該当するものとする。本発明の組成物は、上記濃厚液としても好ましく用いることができる。例えば、本発明の組成物を上記第1の有機溶媒、上記第2の有機溶媒、水、もしくは水酸化第4級アンモニウム水溶液、又はそれらの組み合わせによって希釈(濃度調整)することにより、所望の水酸化第4級アンモニウム濃度及び溶媒組成を有する薬液を得ることができる。
【0054】
<2.製造(1)>
一の実施形態において、本発明の組成物は例えば、(a)薄膜蒸留装置を用いて原料混合液を薄膜蒸留することにより、該原料混合液から水を除去する工程(以下において「工程(a)ということがある。)を含む方法(以下において「第1の実施形態に係る方法」ということがある。)により、好ましく製造することができる。
【0055】
(2.1 原料混合液)
原料混合液は、水酸化第4級アンモニウム(以下において「QAH」ということがある。)、水、及び、該水酸化第4級アンモニウムを溶解する第1の有機溶媒を含む。第1の有機溶媒は、ヒドロキシ基を複数個有する水溶性有機溶媒である。
【0056】
(2.1.1 水酸化第4級アンモニウム)
原料混合液において、水酸化第4級アンモニウムとしては、上記1.1節において説明した水酸化第4級アンモニウムを採用でき、その好ましい態様についても上記同様である。
【0057】
(2.1.2 第1の有機溶媒)
原料混合液において、第1の有機溶媒としては、上記1.2節において説明した、ヒドロキシ基を複数個有する水溶性有機溶媒を採用でき、その好ましい態様についても上記同様である。原料混合液における第1の有機溶媒としては、1種の溶媒を単独で用いてもよく、2種以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
(2.1.3 原料混合液の組成)
原料混合液における上記3成分の割合は特に限定されるものではないが、水は可能な範囲で少ないことが望ましい。現在工業的な規模で商業的に入手可能な水酸化第4級アンモニウムは、通常、電解法によって製造されており、しばしば水溶液の形態で流通している。例えば現在商業的に入手可能なTMAHの濃厚水溶液のTMAH濃度は、典型的には20~25質量%程度である。また例えば、現在商業的に入手可能なTEAH、TPAH、TBAH、及び水酸化コリンの濃厚水溶液の濃度は、典型的には10~55質量%程度である。原料混合液は例えば、水酸化第4級アンモニウム水溶液と、上記水溶性有機溶媒とを混合することにより調製することができる。そのように調製された原料混合液中の水酸化第4級アンモニウムと水との混合比は、用いた水酸化第4級アンモニウム水溶液の濃度を反映する。薄膜蒸留において留去すべき水の量を低減する観点からは、原料混合液の調製に用いる水酸化第4級アンモニウム水溶液の濃度は高いことが望ましい。例えばTMAH・5水和物等の結晶性固体を水溶性有機溶媒に溶解して用いることもできるが、高濃度の水酸化第4級アンモニウム水溶液や結晶性固体はしばしば高価である。原料混合液中の水分量は、水酸化第4級アンモニウム水溶液や結晶性固体の入手コスト、不純物含有量等を考慮して決めることができる。
【0059】
原料混合液中の第1の有機溶媒の含有量は、原料混合液全量基準で例えば好ましくは30~85質量%、より好ましくは40~85質量%、さらに好ましくは40~80質量%、特に好ましくは60~80質量%であり得る。
【0060】
原料混合液中の水酸化第4級アンモニウムの含有量は、原料混合液全量基準で例えば好ましくは2.0~40質量%、より好ましくは2.0~30質量%、さらに好ましくは2.0~25%、特に好ましくは5.0~10質量%であり得る。原料混合液中の水分量は、原料混合液全量基準で例えば好ましくは10~30質量%、より好ましくは15~30質量%であり得る。
【0061】
原料混合液中の不純物量は少ないことが望ましい。特に金属不純物、及び塩化物イオンや炭酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等の不揮発性の不純物は、薄膜蒸留によって取り除くことが難しいので、少ないことが望ましい。
【0062】
金属不純物は、溶液中ではイオン又は微粒子として存在する。本明細書において金属不純物とは金属イオンおよび金属粒子の両方を包含する。上記説明した高純度の組成物を得る観点からは、原料混合液中の各金属不純物の含有量は、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、及びZnのそれぞれについて、原料混合液全量基準で、例えば好ましくは50質量ppb以下、より好ましくは20質量ppb以下、更に好ましくは10質量ppb以下であり得る。
【0063】
原料混合液中の塩素不純物の含有量は、原料混合液全量基準で、例えば好ましくは50質量ppb以下、より好ましくは30質量ppb以下、更に好ましくは20質量ppb以下であり得る。
【0064】
原料混合液の調製に用いる水酸化第4級アンモニウム水溶液中の各金属不純物の含有量は、該水溶液全量基準で好ましくは100質量ppb以下、より好ましくは1質量ppb以下である。また水酸化第4級アンモニウム源として水溶液ではなくTMAH・5水和物等の結晶性固体原料を用いる場合も、各金属不純物の含有量が当該結晶性固体原料全量基準で100質量ppb以下であることが好ましい。
【0065】
原料混合液の調製に用いる第1の有機溶媒中の各金属不純物の含有量は、第1の有機溶媒全量基準で好ましくは50質量ppb以下、より好ましくは10質量ppb以下である。商業的に入手可能な第1の有機溶媒中の不純物含有量が多い場合には、当該第1の有機溶媒を単独で蒸留することにより純度を高めることができる。
【0066】
原料混合液の調製に用いる第1の有機溶媒は無水溶媒でなくてもよいが、薄膜蒸留の効率を高める観点からは、原料混合液の調製に用いる第1の有機溶媒中の水分量は、第1の有機溶媒全量基準で好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0067】
(2.2 工程(a):薄膜蒸留)
工程(a)は、薄膜蒸留装置を用いて原料混合液を薄膜蒸留することにより、該原料混合液から水を除去する工程である。薄膜蒸留とは、減圧下で、原料液の薄膜を形成し、該薄膜を加熱し、原料液に含まれる成分の蒸気圧に応じてその一部を蒸発させるとともに蒸気を冷却して凝縮させ、留出液と残渣液(溶解物も含む)とに分離する方法である。上記説明した原料混合液を薄膜蒸留に供することにより、原料混合液から水を留去し、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液を残渣液として回収することができる。水とともに有機溶媒の一部が留去されてもよい。原料混合液から留去された水(及び有機溶媒の一部)は留出液として回収される。薄膜蒸留によれば、水酸化第4級アンモニウムの熱分解を抑制しながら水を留去することが可能である。
【0068】
(2.2.1 薄膜蒸留装置)
工程(a)において、薄膜蒸留装置としては、流下膜式、遠心式、回転式、ブレード式、上昇式等の公知の薄膜蒸留装置を用いることができ、これらの中でも流下膜式の薄膜蒸留装置を特に好ましく用いることができる。図1は、工程(a)において用いることが可能な、一の実施形態に係る薄膜蒸留装置10A(以下において「薄膜蒸留装置10A」又は単に「装置10A」ということがある。)を模式的に説明する図である。装置10Aは流下膜式の短行程式薄膜蒸留装置である。
【0069】
薄膜蒸留装置10Aは、原料混合液を貯留する原料容器31と、実際に蒸留が行われる蒸発容器(蒸発缶)37と、原料容器31から蒸発容器37に原料混合液を移送する原料配管33とを備える。図1に示すように、原料配管33の途中には、ニードルバルブ32が設けられている。装置10Aはさらに、蒸発容器37に接続され蒸留残渣液を受け容れる残渣液回収容器12と、蒸発容器37に接続され留出液を受け容れる留出液回収容器13と、蒸発容器37から蒸留残渣を残渣液回収容器12に導く流路の途中に設けられた流量確認用ガラス配管8及び(残渣液側)ギアポンプ(送液ポンプ)10と、蒸発容器37から留出液を留出液回収容器13に導く流路の途中に設けられた流量確認用ガラス配管9及び(留出液側)ギアポンプ(送液ポンプ)11と、蒸発容器37の内部を減圧する真空ポンプ15と、蒸発容器37から真空ポンプ15に至る流路の途中に設けられたコールドトラップ14と、を備えている。
【0070】
原料混合液は、原料容器31を出て、ニードルバルブ32及び原料配管33を通り、蒸発容器(蒸発缶)37に流入する。真空ポンプ15、ニードルバルブ32、並びに(残渣液側および留出液側)ギアポンプ(送液ポンプ)10、11の作用により、蒸発容器37を含む系内が一定の真空度に保たれる。原料容器31内の原料混合液は、系内の真空度と大気圧との差圧によって、ニードルバルブ32を介して原料配管33内に自発的に流入する。
【0071】
薄膜蒸留装置10Aにおいて、原料容器31から蒸発容器37に至るまでの原料混合液の流路における接液部、具体的には、原料容器31の内面の接液部、及び、(ニードルバルブ32の接液部を含む)原料配管33の接液部は、樹脂で構成されていることが好ましい。上記接液部が樹脂で構成されていることにより、該接液部からの金属材料の溶出を抑制することが可能になる。原料として入手可能な水酸化第4級アンモニウムは水を含まざるを得ない。そして一般に金属材料の溶出反応には水が関与する。原料容器31から蒸発容器37に至るまでの原料混合液の流路における接液部が樹脂で構成されていることにより、水酸化第4級アンモニウムと水が共存する原料混合液が金属材料と接触する時間を短縮できるので、当該接液部から金属材料が液中に溶出して液中の金属不純物となる反応を抑制することが可能になる。接液部からの金属材料の溶出をさらに抑制する観点からは、蒸発容器37から残渣液回収容器12に至るまでの流路における接液部も樹脂で構成されていることが好ましい。
【0072】
上記接液部を構成する樹脂としては、アルカリ水溶液及び水溶性有機溶媒に対して耐久性を有する樹脂材料を好ましく用いることができる。そのような樹脂材料の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ素樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン樹脂;アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂(ABS樹脂)、ナイロン、アクリル樹脂、アセタール樹脂、硬質塩化ビニル等の熱可塑性樹脂;及び、メラミン樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、等を挙げることができる。中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びフッ素樹脂は、加工が容易であり、また金属不純物の溶出量が少ないため、特に好ましく用いることができる。
【0073】
構造材としての強度をそれほど必要としない小口径の配管としては、樹脂のみからなる配管を用いてもよい。その一方で、強度を必要とする大口径の配管や原料容器31においては、構造部材を金属材料(例えばステンレス鋼等。)で構成し、接液部を上記樹脂材料で被覆することが好ましい。接液部の樹脂被覆は、剥がれない程度の厚さを有していればよく、好ましくは例えば0.5~5mm程度の厚さとすることができる。
【0074】
なお、ガラスも化学薬品に侵されにくい材質として知られているが、水酸化第4級アンモニウムのような塩基性の高い物質と水とが共存する原料混合液は、ガラスであっても少しずつ浸食する可能性があるため、上記接液部を構成する材料としてはガラスよりも樹脂を用いることが好ましい。
【0075】
樹脂材料が多孔質構造を有する場合には樹脂の内部からも金属不純物が溶出する可能性があるため、上記樹脂材料としては多孔質でない樹脂材料が好ましい。接液部を構成する樹脂材料中の金属不純物の含有量は、Na、Ca、Al、Feのそれぞれについて、樹脂全量基準で好ましくは1質量ppm以下、より好ましくは0.1質量ppm以下である。そのような高純度の樹脂は商業的に入手可能である。
【0076】
ここで樹脂中の金属不純物としてNa、Ca、Al、及びFeを挙げた理由は、第1に、これら4種類の金属不純物が樹脂に混入する代表的な不純物であり、これら4種類の金属不純物のそれぞれについて樹脂中の含有量が0.1質量ppm以下であれば、一般には当該樹脂中の他の金属不純物の含有量も大抵の場合0.1質量ppm以下であること、及び、第2に、あらゆる種類の金属不純物についてその含有量を悉く把握することは容易でなく、商業的に入手可能な樹脂においては製造者から十分なデータが得られることが稀であることによる。厳密には、上記説明したNa、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、及びZnのそれぞれについて、樹脂中の含有量が1質量ppm以下であることが好ましく、0.1質量ppm以下であることがより好ましい。
【0077】
図2は、装置10Aにおける蒸発容器37の詳細を模式的に説明する断面図である。図2において、図1に既に表れた要素には図1における符号と同一の符号を付し、説明を省略する。装置10Aは、蒸発容器37と、蒸発容器37の上部から蒸発容器37内部に原料混合液を導入する第1の流路(原料配管33)とを備える。第1の流路(原料配管33)から蒸発容器37内部に導入された原料混合液は、液膜となって蒸発容器37の内壁面に沿って流下する。装置10Aはさらに、内壁面に沿って流下する液膜を加熱する、内壁面に配置された加熱面24と、蒸発容器37の内部に配置され、液膜から発生した蒸気を冷却して液化させる凝縮器(内部コンデンサー)22と、凝縮器22によって液化された留出液を蒸発容器37から留出液回収容器13に回収する第2の流路と、加熱面24で蒸発せずに加熱面24から流下した残渣液を蒸発容器37から残渣液回収容器12に回収する第3の流路と、を備えている。装置10Aはまた、蒸発容器37内部に配置され、蒸発容器37の内壁面に沿って回転するワイパー(ローラーワイパー)21を備えている。第1の流路(配管33)から蒸発容器37内部に導入された原料混合液は、回転するワイパー21によって内壁面に塗布されて液膜を形成する。
【0078】
加熱面24は、循環する熱媒25によって加熱されている。原料混合液23を蒸発容器37に導入する際の流量は、ニードルバルブ32又は流量調節器(不図示)によって調整することができる。ローラーワイパー21により蒸発容器37の内壁に液膜が形成され、蒸発容器37の内壁面に配置された加熱面24において熱交換が行われ、水が蒸発する。通常、これと同時に、有機溶媒の一部も該有機溶媒の蒸気圧に応じて蒸発する。蒸発した水及び有機溶媒は、蒸発容器37の中心部付近に上記液膜から離隔して配置された凝縮器(内部コンデンサー)22で凝縮され、留出液となる。凝縮器22は、循環する冷媒26によって冷却されている。
【0079】
蒸発容器37の内壁は、耐熱性、耐摩耗性、耐食性、熱伝導性、及び強度等の材料特性の総合的な観点から、一般的にはステンレス鋼等の耐食性の高い金属材料で構成することが好ましい。金属不純物の溶出をさらに抑制する観点からは、蒸発容器37の内壁を樹脂製部材または樹脂被覆された金属製部材で構成することも考えられるが、蒸発容器37の内壁も樹脂製部材または樹脂被覆された部材とした場合には、加熱面24における液膜と熱媒25との熱交換の効率が低下するため、加熱面24の温度をより高温に制御することが必要になり、結果として薄膜蒸留中に水酸化第4級アンモニウムの熱分解が進行するおそれがある。また蒸発容器37内部ではローラーワイパー21が回転するため、蒸発容器37の内壁も樹脂製部材または樹脂被覆された部材の場合には、ローラーワイパー21が蒸発容器37の内壁と接触した際に蒸発容器37の内壁から樹脂が剥落し、回収される残渣液に樹脂片が混入するおそれがある。
【0080】
蒸発容器37の内壁を金属材料で構成しても、得られる組成物(残渣液)中の金属不純物の含有量はさほど悪化しない。その理由は完全には理解されていないが、以下の三つが考えられる:(1)蒸発容器の内壁面における液膜の滞在時間が数秒~数分であり、金属不純物が溶出するには短い時間である;(2)アルカリ液中に金属材料が溶出する反応には水が必要であるが、薄膜蒸留においては短時間で液膜から水がほとんど取り除かれるため、金属不純物が溶出する条件が満たされる時間が非常に短い;(3)本発明の製造方法により得られる組成物は通常、該組成物中の水溶性有機溶媒より高い粘度を有する。また原料混合液は水溶性有機溶媒の粘度および水酸化第4級アンモニウムの濃度に応じて比較的高い粘度を有するが、水が留去されることにより粘度がさらに増大する。すなわち、原料混合液が蒸発容器37の加熱面24を通過する際、加熱面24と液膜との界面では短時間で水のほとんどが失われるとともに液の粘度が増大することによって、液膜内部で液を撹拌する流れが生じにくくなるため、加熱面24に水が接触し難くなり、結果として金属不純物の溶出が抑制されると考えられる。
【0081】
ローラーワイパー21としては、樹脂製のものを用いることができるが、ローラーワイパー21を構成する樹脂材料中にはガラス繊維などの強化部材が配合されていないことが好ましい。ローラーワイパー21は薄膜蒸留中に原料混合液および液膜と接触し続けるため、ローラーワイパー21を構成する樹脂中にガラス繊維が含まれていると、ガラス繊維中のAlやCaなどの金属不純物が液中に溶出する可能性がある。また、ローラーワイパー21を構成する樹脂中にガラス繊維が含まれていると、ローラーワイパー21が蒸発容器37内壁面に接触した際に、ガラス繊維の破片や内壁面から発生する微細な粒子が残渣液に混入するおそれがある。
【0082】
ローラーワイパー21を構成する樹脂材料の好ましい例としては、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)等の汎用エンジニアリングプラスチック;並びに、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、フッ素樹脂等のスーパーエンジニアリングプラスチック等の、耐熱性を有し比較的高強度の樹脂を挙げることができる。中でもPEEK、PI、フッ素樹脂等は耐熱性、強度、純度等の観点から好ましく用いることができる。
【0083】
凝縮器22によって凝縮された留出液は、(留出液側)ギアポンプ(送液ポンプ)11を備える第2の流路を通じて留出液回収容器13へ導かれ回収される。また凝縮されなかった蒸気は、コールドトラップ14で捕捉され、回収される。水が留去されて加熱面24から流下した残渣液は、(残渣液側)ギアポンプ(送液ポンプ)10を備える第3の流路を通じて残渣液回収容器12に導かれ回収される。
【0084】
薄膜蒸留装置10A(図1)においては、蒸留後の液の流れを確認する等の目的で、残渣液を回収する第3の流路に残渣液側流量確認用ガラス配管8(以下において「ガラス配管8」ということがある。)が、及び、留出液を回収する第2の流路に留出液側流量確認用ガラス配管9(以下において「ガラス配管9」ということがある。)が、それぞれ設けられている。しかしながら、ガラス配管8及び9は必ずしも必要ではない。むしろガラス配管8及び9はガラス製であることから汚染源(金属不純物の溶出源)となる可能性がある。製造される組成物(残渣液)中の金属不純物の含有量をさらに低減する観点からは、例えば、薄膜蒸留装置10A(図1)に代えて、薄膜蒸留装置10Aの第3の流路からガラス配管8を取り除いた薄膜蒸留装置10B(図3)を好ましく用いることができる。
【0085】
薄膜蒸留装置10A(図1)は、蒸発容器37内部を含む系内の気密を保つための要素として、蒸発容器37から残渣液回収容器12に残渣液を導く第3の流路の途中に設けられた(残渣液側)ギアポンプ(送液ポンプ)10、及び、蒸発容器37から留出液回収容器13に留出液を導く第2の流路の途中に設けられた(留出液側)ギアポンプ(送液ポンプ)11を備えている。ギアポンプ(送液ポンプ)10及び11は、系内の気密を保ちつつ、残渣液側または留出液側の液を回収容器12又は13に向けて押し出す送液ポンプである。これらの気密を兼ねた送液ポンプの接液部に使用される各部品(ケーシング、歯車など)の材質は、十分な耐食性を有する金属材料(例えばステンレス鋼等。)であってもよい。その理由は、蒸発容器の内壁を樹脂で被覆しなくてよい理由と同様である。すなわち、残渣液側の送液ポンプ10の接液部が接触する残渣液の水含有量は十分低く、且つ残渣液が送液ポンプ10の接液部に接触する時間は十分短いため、送液ポンプ10の接液部が例えばステンレス鋼等の金属材料で構成されていても、送液ポンプ10の接液部から残渣液への金属不純物の溶出はほとんど生じないと考えられる。ただし、製造される組成物中の金属不純物の含有量をさらに低減する観点から、エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック等の樹脂製の接液部を有する送液ポンプを残渣液側の送液ポンプ10として用いることも可能である。
【0086】
真空ポンプ15の例としては、油回転式ポンプ(ロータリーポンプ)、油拡散式ポンプ、クライオポンプ、揺動ピストン型真空ポンプ、メカニカルブースターポンプ、ダイアフラムポンプ、ルーツ型ドライポンプ、スクリュー型ドライポンプ、スクロール型ドライポンプ、ベーン型ドライポンプなどの公知の真空ポンプを挙げることができる。真空ポンプ15としては1つの真空ポンプを単独で用いてもよく、複数の真空ポンプを組み合わせて用いてもよい。
【0087】
コールドトラップ14は、凝縮器22で凝縮されなかった蒸気を液体または固体に凝縮ないし固化させ、蒸発した水や有機溶媒が真空ポンプ15に達することを防ぐとともに、油回転式ポンプなどの真空ポンプ15から気化したオイル又はオイルミストが蒸発容器37側に流入して系内を汚染することを防ぐ役割を果たす。コールドトラップ14としては、公知のコールドトラップ装置を用いることができる。コールドトラップ14の冷却は例えば、ドライアイス、ドライアイスと有機溶媒(アルコール、アセトン、ヘキサン等)とを混合した冷却剤、液体窒素、循環式の冷媒等を用いて行うことができる。
【0088】
上記説明では、蒸発容器37の下流側にのみ送液ポンプ10、11を備える形態の薄膜蒸留装置10A(図1)及び10B(図3)を例に挙げたが、薄膜蒸留装置は蒸発容器37の上流側にも送液ポンプを備えていてもよい。図4は、そのような他の実施形態に係る薄膜蒸留装置10C(以下において単に「装置10C」ということがある。)を模式的に説明する図である。図4において、図1~3に既に表れた要素には図1~3における符号と同一の符号を付し、説明を省略する。薄膜蒸留装置10Cは、原料容器31から蒸発容器37に原料混合液を導く原料配管33に代えて原料配管3を有し、原料配管3の途中であってニードルバルブ32下流側に、原料ギアポンプ4、プレヒーター(予備加熱器)5、及びデガッサー(脱ガス装置)6を上流側からこの順にさらに有する点において、薄膜蒸留装置10A(図1)と異なっている。装置10Cにおいて、原料容器31から蒸発容器37に至るまでの原料混合液の流路における接液部、すなわち、(ニードルバルブ32を含む)原料配管3、原料ギアポンプ4、プレヒーター(予備加熱器)5、及びデガッサー(脱ガス装置)6の接液部は、樹脂材料で構成されることが好ましい。ただし、原料ギアポンプ4、プレヒーター(予備加熱器)5、及びデガッサー(脱ガス装置)6の接液部を全て樹脂材料で構成することは一般に装置コストの増大を招くため、上記説明した装置10A及び10Bにおけるように、原料ギアポンプ4、プレヒーター(予備加熱器)5、及びデガッサー(脱ガス装置)6を備えない形態の薄膜蒸留装置を好ましく採用できる。
【0089】
なお上記説明では、バルブ32としてニードルバルブを備える形態の薄膜蒸留装置10A(図1)、10B(図3)、及び10C(図4)を例に挙げたが、バルブ32は必ずしもニードルバルブである必要はなく、バルブ32としてニードルバルブに代えてダイヤフラムバルブ、バタフライバルブ、ボールバルブ、ゲートバルブ等の他の公知のバルブを採用することも可能である。
【0090】
工程(a)において用いることのできる商業的に入手可能な薄膜蒸留装置の例としては、短行程式蒸留装置(UIC社製);ワイプレン(登録商標)、エクセバ(登録商標)(いずれも神鋼環境ソリューション社製);コントロ、セブコン(登録商標)(いずれも日立プラントメカニクス社製);ビスコン、フィルムトルーダー(いずれもBuss-SMS-Canzler GmbH製、木村化工機社より入手可能);エバリアクター、Hi-Uブラッシャー、ウォールウェッター(いずれも関西化学機械製作社製);NRH(日南機械社製);エバポール(登録商標)(大川原製作所製)、等を挙げることができる。水酸化第4級アンモニウムは長時間加熱されると分解するため、蒸留効率を高める観点から、流下膜式の薄膜蒸留装置を用いることが好ましい。同様の観点から、短行程式の薄膜蒸留装置を好ましく用いることができ、流下膜式の短工程式薄膜蒸留装置を特に好ましく用いることができる。
なお本明細書において、流下膜式の薄膜蒸留装置とは、蒸発容器内部に導入した液の薄膜(液膜)を蒸発容器内部の加熱面に(例えば回転翼等により)形成し、加熱面に沿って液膜を流下させながら蒸留を行う形態の薄膜蒸留装置を意味する。短工程式の薄膜蒸留装置(短工程蒸留装置)は、分子蒸留の技術思想を出発点として、分離性能を高めるように開発されてきた薄膜蒸留装置である。短工程蒸留装置においては、凝縮器の冷却面が蒸発容器の加熱面と向かい合うように、円筒形の蒸発容器の内部に凝縮器が配置されている。短工程蒸留装置を用いた蒸留(短工程蒸留)は、中真空(10-1~10Paのオーダ)程度の圧力下で行われることが多い。
【0091】
なお商業的に入手可能な上記の薄膜蒸留装置を用いるにあたっては、蒸発容器よりも上流側の接液部が樹脂製となるように改変した装置を用いることが好ましい。
【0092】
(2.2.2 蒸留条件)
薄膜蒸留によって得られる水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液の性状は、原料混合液の蒸発容器37に入る直前の温度(第1の温度)、蒸発容器37の加熱面24の温度(第2の温度)、及び系の真空度によって主に影響を受け得る。
【0093】
原料混合液の蒸発容器37に入る直前の温度(第1の温度)は、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下である。第1の温度が上記上限値以下であることにより、水分量が多い状態の原料混合液が蒸発容器37の内壁面に触れた際の蒸発容器37からの金属不純物の溶出をさらに低減することが可能になる。また第1の温度は好ましくは5℃以上、より好ましくは15℃以上である。第1の温度が上記下限値以上であることにより、水酸化第4級アンモニウムを含む析出物の生成を抑制するとともに、蒸発効率をさらに高めることが可能になる。
【0094】
加熱面24の温度(第2の温度)は、上記第1の温度より高温であることが好ましく、好ましくは60~140℃、より好ましくは70~120℃である。第2の温度が上記下限値以上であることにより、蒸発効率をさらに高め、液膜中の水分量を素早く減少させることができるので、蒸発容器37からの金属不純物の溶出をさらに低減することが可能になる。また第2の温度が上記上限値以下であることにより、有機溶媒の蒸発を低減するとともに、蒸発容器37からの金属不純物の溶出をさらに低減することが可能になる。本明細書において、薄膜蒸留装置の「加熱面の温度」とは、液膜が熱せられる熱源の温度を意味する。
【0095】
系の真空度(蒸発容器37内部または蒸発容器37から真空ポンプ手前までの真空度)は、好ましくは600Pa以下、より好ましくは550Pa以下、さらに好ましくは400Pa以下であり、一の実施形態において200Pa以下であり得る。系の真空度が上記上限値以下であることにより、蒸発効率を高め、液膜中の水分量を素早く減少させることができるので、蒸発容器37からの金属不純物の溶出をさらに低減することが可能になる。真空度の下限は特に制限されるものではないが、一の実施形態において0.1Pa以上、他の実施形態において1Pa以上であり得る。系の真空度が上記下限値以上であることにより、コールドトラップ14に凝縮ないし凝固する蒸発物による排気系配管の閉塞を避けることが容易になる。系の真空度は、蒸発容器37と真空ポンプ15とを接続する排気系配管の途中に設けられたマノメータ、真空計などの圧力測定器(不図示)を用いて測定することができる。一の実施形態において、圧力測定器はコールドトラップ14と真空ポンプ15との間に設けることができる。
【0096】
蒸発容器37への原料混合液の好ましい供給量(フィードレート)は、薄膜蒸留装置の規模によって異なり得る。フィードレートが高すぎると蒸発効率が低下し、フィードレートが低すぎると生産性が低下する。加熱面24の温度や蒸発容器37内の真空度等の蒸留条件が同一であれば、薄膜蒸留装置の伝熱面積(加熱面24の面積)が大きいほど、フィードレートを高めることが可能になる。例えば、伝熱面積が0.1mの薄膜蒸留装置を用いる場合、フィードレートは例えば好ましくは1~10kg/時間とすることができる。原料混合液の蒸発容器37に入る直前の温度(第1の温度)、加熱面24の温度(第2の温度)、及び系の真空度(蒸発容器37内部または蒸発容器37から真空ポンプ手前までの真空度)が上記範囲内である場合には、加熱面24の単位面積あたりのフィードレートを、例えば10~100kg/時間・mとすることができる。
【0097】
工程(a)を経ることにより、原料混合液から水を蒸発除去して、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液を得ることができる。
【0098】
(2.3 工程(b):洗浄工程)
一の実施形態において、工程(a)の前に予め、原料容器31から蒸発容器37に至るまでの原料混合液の流路における接液部(例えば上記装置10Aにおいては、原料容器31の内面の接液部、及び、(ニードルバルブ32の接液部を含む)原料配管33の接液部。)を、上記水酸化第4級アンモニウムを含む溶液で洗浄する工程(以下において「工程(b)」ということがある。)を行うことが好ましい。工程(b)において洗浄に用いる洗浄液の好ましい例としては、原料の一部として用いる水酸化第4級アンモニウム水溶液、原料混合液等の、上記水酸化第4級アンモニウムを含む溶液を挙げることができ、これらの中でも原料混合液に含まれる水酸化第4級アンモニウムと同一の水酸化第4級アンモニウムを含む溶液を洗浄液として特に好ましく用いることができる。当該水酸化第4級アンモニウムを含む溶液(洗浄液)中の金属不純物の含有量は、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、及びZnのそれぞれについて、溶液全量基準で好ましくは0.05質量ppm以下、より好ましくは0.02質量ppm以下、更に好ましくは0.01質量ppm以下である。
【0099】
接液部の洗浄は、例えば、接液部を構成する(例えば樹脂製の)部分に上記洗浄液を10分~2時間程度流通させる、又は接液部を構成する(例えば樹脂製の)部分に上記洗浄液を溜めて保持する等により行うことができる。工程(a)の前に工程(b)を行うことによって、溶出可能な状態にある金属不純物が接液部を構成する部材の表面から低減ないし除去されるので、薄膜蒸留中に接液部から溶出する金属不純物をさらに低減することが可能になる。一の好ましい実施形態において、水酸化第4級アンモニウム水溶液または原料混合液で接液部を洗浄した後、さらに超純水や純水等の金属不純物含有量が非常に少ない水で接液部を短時間洗浄(リンス)してもよい。かかる形態の工程(b)によれば、工程(a)における接液部からの金属不純物の溶出量をさらに低減することが可能になる。なお、例えば溶出可能な金属不純物が接液部を構成する(例えば樹脂製の)部材表面から既に低減ないし除去されていることが明らかである場合には、工程(b)を行わない形態の水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液の製造方法とすることも可能である。
【0100】
接液部の洗浄を酸水溶液によって行うことも可能であるが、酸水溶液を接液部に接触させると、酸水溶液中に含まれるアニオンが樹脂表面に残留しやすいため、該アニオンを超純水や純水等で洗浄して除去する処理に時間が掛かる。したがって、接液部の洗浄には酸水溶液を用いないことが好ましく、接液部の洗浄は水酸化第4級アンモニウムを含む溶液、及び/又は、純水や超純水等の金属不純物含有量が非常に少ない水を用いて行うことが好ましい。
【0101】
(2.4 水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液の性状)
(2.4.1 水酸化第4級アンモニウム含有量)
一の実施形態において、薄膜蒸留によって得られる水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液(以下において「有機溶媒溶液」又は単に「溶液」ということがある。)中の水酸化第4級アンモニウムの含有量は、溶液全量基準で好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは8.0質量%以上であり得る。溶液中の水酸化第4級アンモニウムの含有量が上記下限値以上であることにより、溶液の流通コストを節約できる。当該含有量の上限値は特に制限されるものではないが、一の実施形態において72質量%以下、他の実施形態において55質量%以下であり得る。溶液中の水酸化第4級アンモニウムの含有量が上記上限値以下であることにより、溶液の高粘度化が抑制されるので、溶液を使用する際のハンドリング、送液、混合等が容易になる。
【0102】
溶液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度は、電位差滴定装置、液体クロマトグラフィー等によって正確に測定することが可能である。これらの測定手段は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。これらの測定方法は、原料混合液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度の測定にも適用できる。
【0103】
一の実施形態において、溶液中の水酸化第4級アンモニウムの含有量は、溶液全量基準で2.38~25.0質量%であり得る。一の好ましい実施形態において、水酸化第4級アンモニウムとしてTMAHを用いることができ、溶液中のTMAHの含有量は、溶液全量基準で2.38~25.0質量%とすることができる。
【0104】
(2.4.2 水分含有量)
薄膜蒸留によって得られる溶液中の水分含有量は、組成物全量基準で1.0質量%以下とすることができ、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下とすることができる。溶液中の水分含有量が上記上限値以下であることにより、この溶液を用いて製造される組成物中の水分量を1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.3質量%以下とすることが容易になるので、この溶液を用いて製造される組成物の変性フォトレジスト及びフォトレジストのアッシング残渣に対する除去性能を高めるとともに、金属材料および無機質基体材料に対する腐食性を低減することが可能になる。溶液中の水分含有量の下限は特に制限されるものではないが、例えば0.05質量%以上であり得る。
【0105】
溶液中の水分量は、本発明の組成物に関連して上記1.4節において説明した方法と同様の方法により好ましく測定できる。
【0106】
溶液中の水分含有量(単位:質量%)の、溶液中の水酸化第4級アンモニウム含有量(単位:質量%)に対する比(水分含有量/水酸化第4級アンモニウム含有量)は、好ましくは0.42以下、より好ましくは0.21以下、更に好ましくは0.10以下である。当該比が上記上限値以下であることにより、変性フォトレジスト及びフォトレジストのアッシング残渣の除去性能を維持ないし向上しながら、金属材料および無機質基体材料に対する腐食性をさらに低減することが可能になる。当該比の下限は特に制限されるものではないが、例えば0.0007以上であり得る。
【0107】
(2.4.3 不純物含有量)
薄膜蒸留によって得られる溶液中の金属不純物の含有量は、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、及びZnのそれぞれについて、溶液全量基準で好ましくは100質量ppb以下、より好ましくは50質量ppb以下、さらに好ましくは20質量ppb以下である。本明細書において、溶液中の金属不純物の含有量は、0価の金属であるか金属イオンであるかに関わらず、当該金属元素の総含有量を意味する。
【0108】
溶液中の塩素不純物(Cl)の含有量は、溶液全量基準で好ましくは100質量ppb以下、より好ましくは80質量ppb以下、さらに好ましくは50質量ppb以下である。本明細書において、溶液中の塩素不純物の含有量は、塩素元素の総含有量を意味する。なお溶液中において、塩素不純物は通常、塩化物イオン(Cl)の形で存在する。
【0109】
溶液中の金属不純物の含有量は、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)等の微量分析装置により測定可能である。また塩素不純物の含有量は、イオンクロマトグラフィー等の微量分析装置により測定可能である。これらの金属不純物および塩素不純物含有量の測定方法は、原料混合液中の金属不純物および塩素不純物含有量の測定にも適用できる。
【0110】
溶液中の上記金属不純物の含有量(単位:質量ppb)の、溶液中の水酸化第4級アンモニウム含有量(単位:質量%)に対する比(金属不純物の含有量/水酸化第4級アンモニウム含有量)は、上記金属元素のそれぞれについて好ましくは42以下、より好ましくは21以下、更に好ましくは10以下である。当該比が上記上限値以下であることにより、変性フォトレジスト及びフォトレジストのアッシング残渣の除去性能を維持ないし向上しながら、半導体素子の製造歩留りをさらに高めることが可能になる。当該比の下限は特に制限されるものではなく、低いほど好ましいが、金属不純物の測定装置の定量限界などを考慮すると、例えば0.0001以上であり得る。
【0111】
溶液中の塩素不純物の含有量(単位:質量ppb)の、溶液中の水酸化第4級アンモニウム含有量(単位:質量%)に対する比(塩素含有量/水酸化第4級アンモニウム含有量)は、好ましくは42以下、より好ましくは34以下、更に好ましくは21以下である。当該比が上記上限値以下であることにより、変性フォトレジスト及びフォトレジストのアッシング残渣の除去性能を維持ないし向上しながら、半導体素子の製造歩留りをさらに高めることが可能になる。当該比の下限は特に制限されるものではなく、低いほど好ましいが、塩素不純物の測定装置の定量限界などを考慮すると、例えば0.001以上であり得る。
【0112】
(2.4.4 用途)
薄膜蒸留により得られる溶液は、例えばそのままで本発明の組成物として用いることができる。また例えば、薄膜蒸留により得られる溶液を上記第1の有機溶媒、もしくは上記第2の有機溶媒、またはそれらの組み合わせで希釈することにより、所望の水酸化第4級アンモニウム濃度を有する本発明の組成物を得ることができる。
【0113】
また、本発明の組成物に水を加えることにより、水分含有量が制御された各種薬液を製造することも可能である。すなわち、本発明の組成物を、制御された水分含有量を有する薬液を製造するための原料として用いることも可能である。上記2.1.3節において説明したような工業的な規模で商業的に入手可能な水酸化第4級アンモニウム水溶液を有機溶媒で希釈するだけでは、水酸化第4級アンモニウム濃度および有機溶媒濃度が所望の範囲内である組成を有する溶液が得られない場合がある。そのような組成の水酸化第4級アンモニウム溶液を得るための原料としても、本発明の組成物は有用である。
例えば、シリコンエッチング液などのエッチング液は、水分含有量によってエッチング速度を制御することが求められる場合がある。そのような用途においては、薬液中の水分含有量を厳密に制御することが求められる。本発明の組成物に超純水などの高純度の水を添加することにより、厳密に水分含有量が制御された溶液を得ることができる。このような用途における水の添加は、例えば、溶液中の水分含有量が溶液の全量基準で好ましくは1.0~40質量%、より好ましくは2.0~30質量%、更に好ましくは3.0~20質量%となるように行うことができる。水添加後の溶液が有するべき水分含有量は、例えば、所望のエッチング速度によって決定される。水分含有量および水酸化第4級アンモニウムの濃度の両方を調整するために、上記1.2節及び1.3節において説明した有機溶媒(第1の有機溶媒、若しくは第2の有機溶媒、又はそれらの組み合わせ)を水とともに添加してもよい。
【0114】
<3.製造(2)>
他の一の実施形態において、本発明の組成物は、(i)上記第1の実施形態に係る方法により、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液を得る工程(以下において「工程(i)」ということがある。)、(ii)該溶液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度を把握する工程(以下において「工程(ii)」ということがある。)、及び、(iii)該溶液に有機溶媒を加えることにより、該溶液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度を調整する工程(以下において「工程(iii)」ということがある。)、を含む方法(以下において「第2の実施形態に係る方法」ということがある。)により、好ましく製造することができる。
【0115】
(3.1 工程(i):溶液製造工程)
工程(i)は、上記第1の実施形態に係る方法により、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液を得る工程であり、その詳細は上記2.節で説明した通りである。
【0116】
(3.2 工程(ii):濃度把握工程)
工程(ii)は、工程(i)で得られた溶液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度を把握する工程である。該溶液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度の測定は、上記第1の実施形態に係る方法に関連して上記2.4.1節で説明した方法と同様の方法により好ましく行うことができる。なお、工程(i)を行った条件と同一の条件(原料混合液の組成および蒸留条件)で第1の実施形態に係る方法により水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液を製造し、得られた溶液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度を測定した実績が過去にある場合には、その過去の運転実績で測定された溶液中の水酸化第4級アンモニウム濃度を工程(i)で得られた溶液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度とみなしてもよい。
【0117】
溶液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度は、電位差滴定装置、液体クロマトグラフ等の商業的に入手可能な測定装置によって正確に測定することが可能である。これらの測定手段は単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。測定に用いる試料としては、溶液から採取した試料をそのまま用いてもよく、溶液から採取した試料を溶媒(例えば水等。)で正確に希釈した希釈試料を用いてもよい。
【0118】
電位差滴定装置は、JIS K0113に規定の電位差滴定法により測定を行う装置である。自動で測定を行うことが可能な電位差滴定装置が商業的に入手可能であり、好ましく用いることができる。電位差滴定法は、被滴定溶液中の目的成分の濃度(活量)に応答する指示電極と参照電極との間の電極電位差の変化に基づいて、容量分析の当量点を決定する、電気化学的測定法である。
電位差滴定装置は、被滴定溶液が入れられる滴定槽と、滴定槽に標準溶液を加えるためのビュレットと、溶液中に入れるべき指示電極および参照電極と、両電極間の電位差を測定するための電位差計とを備えてなる。電位差滴定装置を用いた測定は例えば以下のように行われる。被滴定溶液を滴定槽に入れ、適当な指示電極および参照電極をその中に差し入れて、両電極間の電位差を電位差計によって測定する。次に所定量の標準溶液をビュレットから滴定槽中に滴下し、よく撹拌して標準溶液と被滴定溶液とを反応させた後、両極間の電位差を測定する。この操作を繰り返して、標準溶液の添加量に対応する両極間の電位差を記録することにより、電位差-標準溶液添加量曲線(以下において「電位差滴定曲線」ということがある。)が得られる。得られた電位差滴定曲線において、電位差が急変する点に対応する標準溶液添加量を求めることにより、滴定の終点を決定できる。滴定の終点までに滴下した標準溶液の添加量および濃度、ならびに滴定反応の反応モル比などから、被滴定溶液中の目的成分の濃度を算出できる。水酸化第4級アンモニウムの濃度を測定する場合、標準溶液としては通常、硫酸、塩酸などの酸(例えば1.0規定以下)が用いられる。溶液が水酸化第4級アンモニウムを1種類のみ含む場合には、電位差滴定法により溶液中の水酸化第4級アンモニウム濃度(mol/L)を迅速かつ簡便に測定できる。また、溶液が2種以上の水酸化第4級アンモニウムを含む場合であっても、溶液中の水酸化第4級アンモニウムの合計濃度(mol/L)は、電位差滴定法により迅速かつ簡便に測定できる。
【0119】
2種以上の水酸化第4級アンモニウムを含む溶液中の水酸化第4級アンモニウムの混合比が未知である場合には、液体クロマトグラフィーを用いることにより溶液中の水酸化第4級アンモニウムの混合モル比を正確に測定できる。例えば、それぞれの水酸化第4級アンモニウムについて濃度が既知の標準試料を調製し(標準試料中の水酸化第4級アンモニウム濃度(mol/L)は電位差滴定法により正確に測定できる);標準試料を複数の異なる混合比で混合して得られる混合物のそれぞれについて液体クロマトグラフィーによる測定を行って、クロマトグラム中のピーク強度の比を混合比に対してプロットすることにより検量線を作成し;混合比が未知の2種以上の水酸化第4級アンモニウムを含む水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液について、液体クロマトグラフィーによる測定を行い;クロマトグラム中のピーク強度の比から検量線を用いて、溶液中の水酸化第4級アンモニウムの混合モル比を求めることができる。溶液中の水酸化第4級アンモニウムの合計濃度(mol/L)は上記の通り電位差滴定法により測定できるので、電位差滴定法による測定と液体クロマトグラフィーによる測定とを組み合わせることにより、2種以上の水酸化第4級アンモニウムを含む溶液中の各水酸化第4級アンモニウムの濃度を正確に測定することができる。
但し、2種以上の水酸化第4級アンモニウムを含む原料混合液を調製した時点で、原料混合液中の水酸化第4級アンモニウムの混合比はわかっていることが多い。さらに、工程(i)において原料混合液を薄膜蒸留に供しても水酸化第4級アンモニウムは蒸発しない。よって実際には、液体クロマトグラフィーによる測定を行う必要はない場合が多い。
【0120】
上記説明した測定方法は、本発明の第1の態様に係る組成物中の水酸化第4級アンモニウムの濃度の測定、及び、原料混合液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度の測定にも適用できる。
【0121】
(3.3 工程(iii):希釈工程)
工程(iii)は、工程(i)で得られた溶液に有機溶媒を加えることにより、該溶液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度を調整する工程である。すなわち、工程(i)で得られた溶液を有機溶媒で希釈する工程である。
【0122】
(3.3.1 希釈溶媒)
工程(iii)において用いる有機溶媒(以下において「希釈溶媒」ということがある。)としては、上記工程(i)で得られた溶液に含まれる第1の有機溶媒と混合可能な有機溶媒を用いることができる。好ましい希釈溶媒の例としては、本発明の組成物に関連して上記1.2節において説明した、ヒドロキシ基を複数個有する水溶性有機溶媒(第1の有機溶媒)を挙げることができ、その好ましい態様についても上記同様である。一の実施形態において、工程(i)で得られた溶液に含まれる第1の有機溶媒と同一の水溶性有機溶媒を、希釈溶媒として特に好ましく用いることができる。
また本発明の組成物に関連して上記1.3節で説明したように、本発明の組成物は、溶媒として、ヒドロキシ基を複数個有する水溶性有機溶媒(第1の有機溶媒)に加えて、ヒドロキシ基を複数個有する水溶性有機溶媒以外の有機溶媒(第2の有機溶媒)をさらに含んでいてもよい。このような第2の有機溶媒を含む組成物を得るために、工程(iii)における希釈溶媒として、第1の有機溶媒と、第2の有機溶媒とを組み合わせて用いてもよい。第2の有機溶媒の例としては、第2の有機溶媒として上記1.3節で説明した有機溶媒を挙げることができ、その好ましい態様についても上記同様である。
工程(iii)においては、製造される組成物中の各成分の濃度が所望の範囲内となるように、希釈溶媒を構成する各有機溶媒の添加量を決定することができる。
【0123】
希釈溶媒中の水分含有量は、希釈溶媒全量基準で好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下である。希釈溶媒中の水分含有量が上記上限値以下であることにより、例えば剥離液や洗浄液の用途においては、得られる組成物の変性フォトレジスト及びフォトレジストのアッシング残渣の除去性能を高めるとともに、金属材料および無機質基体材料に対する腐食性を低減することが可能になる。希釈溶媒中の水分含有量の下限は特に制限されるものではないが、例えば0.05質量%以上であり得る。
【0124】
希釈溶媒中の金属不純物の含有量は、Na、Mg、Al、K、Ca、Ti、Cr、Mn、Fe、Ni、Cu、及びZnのそれぞれについて、希釈溶媒全量基準で好ましくは100質量ppb以下、より好ましくは50質量ppb以下、さらに好ましくは20質量ppb以下である。本明細書において、希釈溶媒中の金属不純物の含有量は、0価の金属であるか金属イオンであるかに関わらず、当該金属元素の総含有量を意味する。
【0125】
希釈溶媒中のCl(塩素不純物)の含有量は、希釈溶媒全量基準で好ましくは100質量ppb以下、より好ましくは80質量ppb以下、さらに好ましくは50質量ppb以下である。本明細書において、希釈溶媒中の塩素不純物の含有量は、塩素元素の総含有量を意味する。なお希釈溶媒中において、塩素不純物は通常、塩化物イオン(Cl)の形で存在する。
【0126】
希釈溶媒中の金属不純物の含有量は、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)等の微量分析装置により測定可能である。また塩素不純物の含有量は、イオンクロマトグラフィー等の微量分析装置により測定可能である。
【0127】
(3.3.2 希釈条件)
工程(iii)において、工程(i)で得られた溶液に加える希釈溶媒の量は、本発明の組成物が得られる量とすることができる。かかる量は、製造すべき組成物中の水酸化第4級アンモニウム濃度と、工程(i)で得られた溶液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度とから決定することができる。
【0128】
工程(i)~(iii)を経ることにより、上記本発明の第1の態様に係る半導体製造用処理液組成物を好ましく製造することができる。
【0129】
(3.4 他の薬液の製造)
上記説明した第2の実施形態に係る方法は、上記2.4.4節において説明したエッチング液等の、水分含有量が組成物全量基準で1.0質量%を超えるように改変した組成物(薬液)の製造にも応用できる。上記3.3節において説明した工程(iii)(希釈工程)において、必要に応じた量の水(例えば超純水など。)をさらに加えることにより、水分含有量が組成物全量基準で1.0質量%を超えるように改変した組成物を製造することが可能である。かかる改変された形態の製造方法において、工程(iii)(希釈工程)で使用する有機溶媒(希釈溶媒)は、その金属不純物および塩素不純物の濃度が上記3.3.1節で説明した範囲内である限りにおいて、その水分含有量が1.0質量%を超えていてもよい。
【実施例
【0130】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明についてさらに詳細に説明する。但し、以下の実施例は本発明を説明するための例に過ぎず、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0131】
(測定方法)
実施例および比較例において、溶液中の水酸化第4級アンモニウムの濃度は、電位差自動滴定装置AT-610(京都電子工業製)を用いて、電位差滴定により測定した。
【0132】
得られた溶液中の水分量は、カールフィッシャー滴定により測定した値を、検量線を用いて補正することにより得た。カールフィッシャー滴定による水分量の測定は、カールフィッシャー水分計MKA-510(京都電子工業製)を用いて行った。ガスクロマトグラフィー(以下において単に「GC」ということがある。)による水分量の測定は、島津製作所製ガスクロマトグラフGC-2014(カラム:DB-WAX(Agilent Technologies社製)、検出器:熱伝導度型検出器)を用いて行った。
【0133】
カールフィッシャー滴定による水分量測定値の検量線による補正は、次の(1)~(6)の手順により行った。
(1)測定すべき溶液中の有機溶媒と同一の有機溶媒(溶液中の有機溶媒がプロピレングリコール(PG)ならプロピレングリコール、溶液中の有機溶媒がヘキシレングリコール(HG)ならヘキシレングリコール。)中の水分量をカールフィッシャー滴定により測定した。続いて、該有機溶媒に少量の水を加えることにより、水分量の異なる5種類の溶液(以下において「水/有機溶媒溶液」ということがある。)を調製した。有機溶媒に加える水の量は、水/有機溶媒溶液中の水分量が0.25~5.0質量%の5段階(0.25質量%、0.50質量%、1.0質量%、2.0質量%、及び5.0質量%)になるように選択した。調製した5種類の水/有機溶媒溶液中の水分量をカールフィッシャー滴定により測定したところ、得られた値が有機溶媒中の水分量および加えた水の量から算出される理論値と良好な一致を示すことが確認された。
(2)上記(1)で調製した5種類の水/有機溶媒溶液のそれぞれについて、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析を行い、水および有機溶媒のピークを含むGCチャートを得た。得られたGCチャート中の水のピークの面積を縦軸(Y)にとり、水/有機溶媒溶液中の水分量(有機溶媒中の水分量および加えた水の量から算出される理論値)を横軸(X)にとってプロットしたところ、両者は直線性の良い相関を示した。Yを目的変数、Xを説明変数として最小二乗法により回帰直線を算出することにより、GCチャート中の水のピークの面積から水分量を与える検量線(第1の検量線)を得た。
(3)標準液として、測定すべき溶液中の有機溶媒と同一の有機溶媒に、測定すべき溶液中の水酸化第4級アンモニウム(QAH)と同一のQAHの濃厚水溶液(溶液中のQAHがTMAHなら25質量%TMAH水溶液、溶液中のQAHがTEAHなら20質量%TEAH水溶液、溶液中のQAHがTPAHなら10質量%TPAH水溶液、溶液中のQAHがTBAHなら10質量%TBAH水溶液。)を少量加えることにより、5種類の混合液を調製した。有機溶媒中の水分量は上記(1)においてカールフィッシャー滴定により正確に測定されている。QAH濃厚水溶液中のQAH濃度は電位差自動滴定装置により正確に測定した(これによりQAH濃厚水溶液中の水分量も同時に決定された。)。有機溶媒とQAH濃厚水溶液との混合質量比は、混合液中の水分量が上記(1)と同じ0.25~5.0質量%の5段階となるように選択した。
(4)標準液中の水分量をGCにより測定した。すなわち、上記(3)で調製した5種類の標準液をそれぞれガスクロマトグラフィーで分析し、上記(2)で得た第1の検量線を用いて、GCチャート中の水のピークの面積から各標準液中の水分量を得た。このGCによる水分量の測定値は、有機溶媒中の水分量、QAH濃厚水溶液中の水分量、および有機溶媒とQAH濃厚水溶液との混合質量比から算出される標準液中の水分量の理論値と良好な一致を示すことが確認された。
(5)上記(3)で調製した5種類の標準液について、それぞれカールフィッシャー滴定により水分量を測定した。各標準液について、カールフィッシャー滴定によって測定された水分量を縦軸(Y)にとり、上記(3)でGCにより測定した標準液中の水分量を横軸(X)にとってプロットした。Yを目的変数、Xを説明変数として最小二乗法により回帰直線を算出することにより、QAH及び水を含む有機溶媒溶液についてカールフィッシャー滴定による水分量測定値をGCによる水分量測定値に補正する検量線(第2の検量線)を得た。
(6)測定すべき実際の溶液の水分量をカールフィッシャー滴定によって測定し、得られた測定値を、上記(5)で得た第2の検量線を用いて、GCによって測定される水分量に補正した。
【0134】
得られた溶液中の各金属不純物の含有量は、アジレントテクノロジー製ICP-MS 7500cxを用いて、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)により測定した。得られた溶液中の塩化物イオン量は、陽イオン除去用前処理カートリッジを用いて溶液を前処理した後、サーモフィッシャーサイエンティフィック製イオンクロマトグラフィーICS-1100(カラム:Dionex(登録商標)Ionpac(登録商標)AS7陰イオン交換カラム、溶離液:添加剤含有NaOH水溶液、検出器:電気伝導度検出器)を用いて、イオン交換クロマトグラフィーにより測定した。
【0135】
(薄膜蒸留装置)
薄膜蒸留装置としては、商業的に入手可能な流下膜式の短行程薄膜蒸留装置(UIC社製、KD-10、伝熱面積0.1m)を購入時の状態のままで又は改造して用いた。各実施例および比較例での装置構成は以下の通りである。
【0136】
装置C:図4(薄膜蒸留装置10C)に示すように、上流側から順に、原料容器31、バルブ32、配管3、原料ギアポンプ4、プレヒーター5、デガッサー6、蒸発容器(ローラーワイパー21及び内部コンデンサー22を含む)37、(残渣液側及び留出液側)流量確認用ガラス配管8及び9、(残渣液側及び留出液側)ギアポンプ10及び11、残渣液回収容器12、留出液回収容器13、真空ポンプ(ロータリーポンプ及びルーツポンプ)15、コールドトラップ14、並びにそれらを接続する他の配管類及びバルブ等を有する。
【0137】
装置Cにおける接液部の材質については、ローラーワイパー21がPTFEとガラス繊維との複合材料により構成され、それ以外の接液部はステンレス鋼(SUS304、SUS316L、SUS316Ti、SUS630又は同等品)で構成され、残渣液回収容器12及び留出液回収容器13はPE製である。加熱面24の面積は0.1mである。
【0138】
装置A:図1(薄膜蒸留装置10A)に示すように、装置Cの構成から原料ギアポンプ4、プレヒーター5、及びデガッサー6を取り除いたほか、バルブ32をニードルバルブに変更した。
【0139】
装置Aにおける接液部の材質については、原料容器31をPE製、配管33をPFA製、流量調節用のニードルバルブ32をPTFE製とした。また蒸発容器37の内部のローラーワイパー21の材質は、PTFEとガラス繊維との複合材料からPEEK製(ガラス繊維無し)に変更した。
【0140】
なお装置Aの接液部に用いたPE、PFA、PTFE、及びPEEKの各樹脂から、小片サンプルを切り出し、分解処理して、ICP-MSで各樹脂中のNa、Ca、Al、Feの各金属不純物を測定した結果、いずれも1質量ppm以下であった。
【0141】
装置B:図3(薄膜蒸留装置10B)に示すように、装置Aから更に、(残渣液側)流量確認用ガラス配管8を取り除いた。また、蒸発容器37の出口から残渣液回収容器12、留出液回収容器13までの配管38をそれぞれPFA製とした。
【0142】
装置A~Cのいずれにおいても、系内の真空度は、コールドトラップ14と真空ポンプ15との間に設けられた真空計(不図示)により測定した。
【0143】
各実施例、比較例において用いた材料の略号及び入手先は以下の通りである。
25質量%TMAH水溶液:水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)濃度が25質量%のTMAH水溶液(トクヤマ製)
PG:プロピレングリコール(AGC製)
HG:ヘキシレングリコール(三井化学製)
【0144】
また、TEAH水溶液、TPAH水溶液、及びTBAH水溶液(いずれも和光純薬製)を、水溶液系の2槽型の電解法によってそれぞれ精製し、TEAH濃度が20質量%のTEAH水溶液(20質量%TEAH水溶液)、TPAH濃度が10質量%のTPAH水溶液(10質量%TPAH水溶液)、及びTBAH濃度が10質量%のTBAH水溶液(10質量%TBAH水溶液)をそれぞれ調製して、原料の水酸化第4級アンモニウム水溶液として用いた。また、原料の水酸化第4級アンモニウム水溶液及び水溶性有機溶媒は、室温23℃の部屋に保管し、その後、原料混合液の調製に用いた。
【0145】
各実施例および比較例において用いた原料混合液の金属不純物の含有量を表1に示す。表1中、「<1」は1質量ppb未満の値であったことを意味する。
【0146】
【表1】

<比較例1>
装置C(薄膜蒸留装置10C(図4))を用いて薄膜蒸留を行うことにより、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液を製造した。
【0147】
装置の配管類は、予め分解、洗浄し、組み立てた後、TMAH濃度が25質量%のTMAH水溶液および超純水を交互に2回ずつ流通させることにより洗浄した。
【0148】
25質量%TMAH水溶液4kg、PG20kgをPE製クリーンボトル内で混合して調製した原料混合液を、SUS304製の原料容器に入れた(TMAH水溶液/PG混合質量比=1/5)。プレヒーター温度70℃、蒸留容器に入る直前の原料混合液の温度68℃、蒸発容器の加熱面の温度(熱媒温度)100℃、真空度1900Pa、フィードレート7.0kg/時間(加熱面の単位面積あたりのフィードレート:70kg/時間・m)の条件で薄膜蒸留を行い、残渣液回収容器にTMAHを含むPG溶液(約8kg)を得た。各条件を表2に示す。表2中、原料混合液について「混合比」とは、水酸化第4級アンモニウム水溶液と水溶性有機溶媒との混合質量比(水酸化第4級アンモニウム水溶液/水溶性有機溶媒)を意味する。得られた溶液中のTMAH濃度、水分量、各金属不純物の含有量、及び塩化物イオン量を表3に示す。表3中、「TXAH濃度」とは水酸化第4級アンモニウム濃度を意味し、「<1」は1質量ppb未満の値であったことを意味する。
【0149】
<実施例1>
装置A(薄膜蒸留装置10A(図1))を用いて薄膜蒸留(工程(a))を行うことにより、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液(本発明の組成物)を製造した。
【0150】
装置の配管類は、予め分解、洗浄し、組み立てた後、TMAH濃度が25質量%のTMAH水溶液および超純水を交互に2回ずつ流通させることにより洗浄した(工程(b))。
【0151】
25質量%TMAH水溶液4kg、PG16kgをPE製クリーンボトル内で混合して調製した原料混合液を、PE製の原料容器に入れた(TMAH水溶液/PG混合質量比=1/4)。蒸留容器に入る直前の原料混合液の温度23℃、蒸発容器の加熱面の温度(熱媒温度)100℃、真空度600Pa、フィードレート10.0kg/時間(加熱面の単位面積あたりのフィードレート:100kg/時間・m)の条件で薄膜蒸留を実施することにより、残渣液回収容器にTMAHを含むPG溶液(約5kg)を得た(工程(a))。条件及び結果を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0152】
<実施例2>
装置A(薄膜蒸留装置10A(図1))を用いて、実施例1と同様の装置洗浄(工程(b))を行い、その後、薄膜蒸留(工程(a))を行うことにより、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液(本発明の組成物)を製造した。
【0153】
25質量%TMAH水溶液4kg、PG16kgをPE製クリーンボトル内で混合して調製した原料混合液を、PE製の原料容器に入れた(TMAH水溶液/PG混合質量比=1/4)。蒸留容器に入る直前の原料混合液の温度23℃、蒸発容器の加熱面の温度(熱媒温度)105℃、真空度500Pa、フィードレート7.0kg/時間(加熱面の単位面積あたりのフィードレート:70kg/時間・m)の条件で薄膜蒸留を実施し、残渣液回収容器にTMAHを含むPG溶液(約4kg)を得た。条件及び結果を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0154】
<実施例3>
装置B(薄膜蒸留装置10B(図3))を用いて、実施例1と同様の装置洗浄(工程(b))を行い、その後、薄膜蒸留(工程(a))を行うことにより、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液(本発明の組成物)を製造した。
【0155】
25質量%TMAH水溶液4kg、PG16kgをPE製クリーンボトル内で混合して調製した原料混合液を、PE製の原料容器に入れた(TMAH水溶液/PG混合質量比=1/4)。蒸留容器に入る直前の原料混合液の温度23℃、蒸発容器の加熱面の温度(熱媒温度)105℃、真空度500Pa、フィードレート5.0kg/時間(加熱面の単位面積あたりのフィードレート:50kg/時間・m)の条件で、薄膜蒸留を実施し、残渣液回収容器にTMAHを含むPG溶液(約4kg)を得た。条件及び結果を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0156】
<実施例4>
真空度を300Paとした以外は実施例3と同様にして、薄膜蒸留を行うことにより、残渣液回収容器にTMAHを含むPG溶液(約3kg)を得た。条件及び結果を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0157】
<実施例5>
加熱面の温度(熱媒温度)80℃、真空度16Pa、フィードレート2.5kg/時間(加熱面の単位面積あたりのフィードレート:25kg/時間・m)とした以外は実施例3と同様にして、薄膜蒸留を行うことにより、残渣液回収容器にTMAHを含むPG溶液(約4kg)を得た。条件及び結果を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0158】
<実施例6>
装置B(薄膜蒸留装置10B(図3))を用いて、実施例1と同様の装置洗浄を行い(工程(b))、その後、薄膜蒸留(工程(a))を行うことにより、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液(本発明の組成物)を製造した。
【0159】
25質量%TMAH水溶液4kg、PG8kgをPE製クリーンボトル内で混合して調製した原料混合液を、PE製の原料容器に入れた(TMAH水溶液/PG混合質量比=1/2)。蒸留容器に入る直前の原料混合液の温度23℃、蒸発容器の加熱面の温度(熱媒温度)105℃、真空度16Pa、フィードレート2.5kg/時間(加熱面の単位面積あたりのフィードレート:25kg/時間・m)の条件で、薄膜蒸留を実施し、残渣液回収容器にTMAHを含むPG溶液(約3kg)を得た。条件及び結果を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0160】
<実施例7>
装置B(薄膜蒸留装置10B(図3))を用いて、実施例1と同様の装置洗浄(工程(b))を行い、その後、薄膜蒸留(工程(a))を行うことにより、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液(本発明の組成物)を製造した。
【0161】
25質量%TMAH水溶液4kg、HG16kgをPE製クリーンボトル内で混合して調製した原料混合液を、PE製の原料容器に入れた(TMAH水溶液/HG混合質量比=1/4)。蒸留容器に入る直前の原料混合液の温度23℃、蒸発容器の加熱面の温度(熱媒温度)105℃、真空度500Pa、フィードレート7.0kg/時間(加熱面の単位面積あたりのフィードレート:70kg/時間・m)の条件で、薄膜蒸留を実施し、残渣液回収容器にTMAHを含むHG溶液(約4kg)を得た。条件及び結果を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0162】
<実施例8>
装置B(薄膜蒸留装置10B(図3))を用いて、実施例1と同様の手順で装置洗浄を行った(工程(b))。但し、TMAH水溶液に代えて、20質量%TEAH水溶液を洗浄液として用いた。その後、以下の手順で薄膜蒸留(工程(a))を行うことにより、水酸化第4級アンモニウムの有機溶媒溶液(本発明の組成物)を製造した。
【0163】
20質量%TEAH水溶液4kg、PG16kgをPE製クリーンボトル内で混合して調製した原料混合液を、PE製の原料容器に入れた(TEAH水溶液/PG混合質量比=1/4)。蒸留容器に入る直前の原料混合液の温度23℃、蒸発容器の加熱面の温度(熱媒温度)105℃、真空度100Pa、フィードレート5.0kg/時間(加熱面の単位面積あたりのフィードレート:50kg/時間・m)の条件で、薄膜蒸留を実施し、残渣液回収容器にTEAHを含むPG溶液(約4kg)を得た。条件及び結果を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0164】
<実施例9、10>
洗浄及び原料混合液の調製に使用したTEAH水溶液を10質量%TPAH水溶液(実施例9)、又は10質量%TBAH水溶液(実施例10)に変更した以外は実施例8と同様にして、それぞれ薄膜蒸留を実施し、残渣液回収容器にTPAHを含むPG溶液(約4kg)、又はTBAHを含むPG溶液(約4kg)を得た。条件及び結果を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0165】
【表2】
【0166】
【表3】

比較例1において得られたTMAHのPG溶液は、金属不純物であるNa、Ca、Feの含有量が100質量ppbを超えており、また塩素不純物も100質量ppbを超えていた。
実施例1~10においては、種々の水酸化第4級アンモニウムについて、水分が1.0質量%以下、各金属不純物が100質量ppb以下、且つ塩素不純物が100質量ppb以下の高純度な水酸化第4級アンモニウム有機溶媒溶液が得られた。このような高純度の水酸化第4級アンモニウム有機溶媒溶液は、従来得られていなかったものである。薄膜蒸留の条件により、水分を0.3質量%以下、各金属不純物を20質量ppb以下、塩素不純物を50質量ppb以下とすることも可能であった(実施例5-6)。上記実施例1~10において得られた水酸化第4級アンモニウム有機溶媒溶液は、そのままで半導体製造用処理液組成物として用いることのできる濃度および純度を有していた。上記実施例1~10において得られた水酸化第4級アンモニウム有機溶媒溶液に対して、上記説明した第2の実施形態に係る方法の工程(iii)(上記3.3節参照。)をさらに行うことにより、半導体製造用処理液組成物を得ることも可能である。
【符号の説明】
【0167】
3、33 原料配管
4 原料ギアポンプ
5 プレヒーター(予備加熱器)
6 デガッサー(脱ガス装置)
8、9 流量確認用ガラス配管
10 送液ポンプ((残渣液側)ギアポンプ)
11 送液ポンプ((留出液側)ギアポンプ)
12 残渣液回収容器
13 留出液回収容器
14 コールドトラップ
15 真空ポンプ
21 ワイパー(ローラーワイパー)
22 凝縮器(内部コンデンサー)
23 原料混合液
24 加熱面
25 (循環する)熱媒
26 (循環する)冷媒
31 原料容器
32 バルブ(ニードルバルブ)
37 蒸発容器
38 配管
図1
図2
図3
図4