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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】脱脂粉乳
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/15 20060101AFI20231222BHJP
   A23C 9/123 20060101ALI20231222BHJP
   A23C 9/00 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
A23C9/15
A23C9/123
A23C9/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019561639
(86)(22)【出願日】2018-12-21
(86)【国際出願番号】 JP2018047217
(87)【国際公開番号】W WO2019131497
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-07
(31)【優先権主張番号】P 2017247228
(32)【優先日】2017-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(72)【発明者】
【氏名】後藤 浩文
(72)【発明者】
【氏名】眞壁 芳美
(72)【発明者】
【氏名】溝口 智奈弥
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/041045(WO,A1)
【文献】特表2015-500484(JP,A)
【文献】特開平05-292879(JP,A)
【文献】日本家政学会誌,1996年,Vol.47,No.11,pp.1085-1091
【文献】農化,1977年,Vol.51,No.4,pp.203-208
【文献】日本乳酸菌学会編,乳酸菌とビフィズス菌のサイエンス,2010年,京都大学学術出版会,pp.184-189
【文献】PLASSER Anton J. et al,NPN-Komponenten der Milch als analytische Indikatoren in Lebensmitteln,Z Lebensm Unters Forsch,1988年,Vol.187, No.6,p.552-557
【文献】OLALLA Manuel et al.,Nitrogen fractions of Andalusian goat milk compared to similar types of commercial milk,Food Chemistry,2009年,Vol.113,p.835-838
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10%還元脱脂粉乳を調製した際に前記還元脱脂粉乳中のホモセリン濃度が3.4μM以上及びクレアチニン濃度が950μM以上を示す、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)によるヨーグルト発酵用の脱脂粉乳。
【請求項2】
乳酸菌スターターとしてラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)を用いて、10%還元脱脂粉乳を調製した際に前記還元脱脂粉乳中のホモセリン濃度が3.4μM以上及びクレアチニン濃度が950μM以上を示す脱脂粉乳を発酵させる、ヨーグルトの製造方法。
【請求項3】
脱脂粉乳の発酵性の評価方法であって、
前記発酵性が、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)を用いてヨーグルト発酵する際の発酵性であり、
前記脱脂粉乳から10%還元脱脂粉乳を調製し、前記還元脱脂粉乳中のホモセリン濃度及びクレアチニン濃度を定量することを特徴とする、評価方法。
【請求項4】
前記定量方法が、HPLC法又はMS法である、請求項に記載の評価方法。
【請求項5】
10%還元全粉乳を調製した際に前記還元全粉乳中のホモセリン濃度が3.4μM以上及びクレアチニン濃度が950μM以上を示す、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)によるヨーグルト発酵用の全粉乳。
【請求項6】
乳酸菌スターターとしてラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)を用いて、10%還元全粉乳を調製した際に前記還元全粉乳中のホモセリン濃度が3.4μM以上及びクレアチニン濃度が950μM以上を示す全粉乳を発酵させる、ヨーグルトの製造方法。
【請求項7】
全粉乳の発酵性の評価方法であって、
前記発酵性が、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)を用いてヨーグルト発酵する際の発酵性であり、
前記全粉乳から10%還元粉乳を調製し、前記還元粉乳中のホモセリン濃度及びクレアチニン濃度を定量することを特徴とする、評価方法。
【請求項8】
前記定量方法が、質量分析法である、請求項に記載の評価方法。
【請求項9】
ホモセリン濃度が3.4μM以上及びクレアチニン濃度が950μM以上を示す、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)によるヨーグルト発酵用の脱脂濃縮乳。
【請求項10】
乳酸菌スターターとしてラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)を用いて、ホモセリン濃度が3.4μM以上及びクレアチニン濃度が950μM以上を示す脱脂濃縮乳を発酵させる、ヨーグルトの製造方法。
【請求項11】
脱脂濃縮乳の発酵性の評価方法であって、
前記発酵性が、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)を用いてヨーグルト発酵する際の発酵性であり、
前記脱脂濃縮乳中のホモセリン濃度及びクレアチニン濃度を定量することを特徴とする、評価方法。
【請求項12】
前記定量方法が、質量分析法である、請求項1に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵性の高い脱脂粉乳に関する。
【背景技術】
【0002】
ヨーグルトの製造には、無脂乳固形分(SNF)源として脱脂粉乳が用いられる。脱脂粉乳は、生乳からクリームを分離して得られる脱脂乳を殺菌・濃縮・噴霧乾燥して得られる粉末である。脱脂粉乳などの乳原料の性質は、ヨーグルトの製造効率や品質に様々な影響を与える。そこで、発酵時間の短縮やヨーグルトの物性改善、乳酸菌の生残性の向上方法など、ヨーグルト製造に関する種々の方法が提案されている。
【0003】
特開平11-028056号公報には、乳原料ミックスに乳タンパク質濃縮物と脱乳糖パーミエートとを配合すると、発酵が促進され発酵時間が短縮されて、硬度や粘度、風味などの優れた発酵乳が得られることが記載されている(特許文献1)。さらに、国際公開2010/113680号には、遊離リン酸濃度が0.25質量%未満である乳成分を原料とする培地では、乳酸菌培養物中の乳酸菌数を安定して維持できないが、培地にリン酸塩を添加することにより、得られる乳酸菌培養物中の乳酸菌数を安定して維持できることが記載されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平11-028056号公報
【文献】国際公開第2010/113680号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脱脂粉乳の組成は、季節や地域、製造条件によって変動するため、常に一定の性質の脱脂粉乳を確保し続けることは困難である。例えば、脱脂粉乳の種類によっては、発酵性が悪く、ヨーグルト製造時に発酵遅延が起こることがある。発酵遅延が起こると、ヨーグルトの製造効率の低下や、品質悪化などの問題が起こる。そこで、脱脂粉乳の成分のうち、その濃度と発酵時間とが相関するような物質を特定し、脱脂粉乳の発酵性の指標とすれば、発酵性に優れた脱脂粉乳の開発や選択が可能になり、ヨーグルト製造時の発酵遅延を予防することができる。以上より、本発明では、上記指標物質を至適量含有する発酵性に優れた脱脂粉乳や、その活用、及び、上記指標物質を用いた脱脂粉乳の発酵性の評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは、脱脂粉乳の成分分析と発酵性試験を詳細に実施した。その結果、ホモセリン濃度やクレアチニン濃度が高い脱脂粉乳は、ヨーグルト製造時の発酵時間が短いこと、つまり、発酵性に優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
(1)10%還元脱脂粉乳を調製した際に前記還元脱脂粉乳中のホモセリン濃度が3.4μM以上及びクレアチニン濃度が950μM以上を示す、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)によるヨーグルト発酵用の脱脂粉乳。
)乳酸菌スターターとしてラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)を用いて、10%還元脱脂粉乳を調製した際に前記還元脱脂粉乳中のホモセリン濃度が3.4μM以上及びクレアチニン濃度が950μM以上を示す脱脂粉乳を発酵させる、ヨーグルトの製造方法。
脱脂粉乳の発酵性の評価方法であって、前記発酵性が、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)を用いてヨーグルト発酵する際の発酵性であり、前記脱脂粉乳から10%還元脱脂粉乳を調製し、前記還元脱脂粉乳中のホモセリン濃度及びクレアチニン濃度を定量することを特徴とする、評価方法。
)前記定量方法が、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)又は質量分析法(MS法)である、()に記載の評価方法。
)10%還元全粉乳を調製した際に前記還元全粉乳中のホモセリン濃度が3.4μM以上及びクレアチニン濃度が950μM以上を示す、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)によるヨーグルト発酵用の全粉乳。
)乳酸菌スターターとしてラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)を用いて、10%還元全粉乳を調製した際に前記還元全粉乳中のホモセリン濃度が3.4μM以上及びクレアチニン濃度が950μM以上を示す全粉乳を発酵させる、ヨーグルトの製造方法。
全粉乳の発酵性の評価方法であって、前記発酵性が、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)を用いてヨーグルト発酵する際の発酵性であり、前記全粉乳から10%還元粉乳を調製し、前記還元粉乳中のホモセリン濃度及びクレアチニン濃度を定量することを特徴とする、評価方法。
)前記定量方法が、質量分析法(MS法)である、()に記載の評価方法。
)ホモセリン濃度が3.4μM以上及びクレアチニン濃度が950μM以上を示す、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)によるヨーグルト発酵用の脱脂濃縮乳。
(1)乳酸菌スターターとしてラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)を用いて、ホモセリン濃度が3.4μM以上及びクレアチニン濃度が950μM以上を示す脱脂濃縮乳を発酵させる、ヨーグルトの製造方法。
(1脱脂濃縮乳の発酵性の評価方法であって、前記発酵性が、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)を用いてヨーグルト発酵する際の発酵性であり、前記脱脂濃縮乳中のホモセリン濃度及びクレアチニン濃度を定量することを特徴とする、評価方法。
(1)前記定量方法が、質量分析法(MS法)である、(1)に記載の評価方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヨーグルト製造時に、ホモセリン及び/又はクレアチニン濃度の高い脱脂粉乳を用いることで、脱脂粉乳の性質に起因する発酵遅延の防止や、発酵時間短縮によるヨーグルト製造の効率化が可能となる。また、脱脂粉乳中のホモセリン及び/又はクレアチニンの濃度を定量することで、脱脂粉乳の発酵性を迅速かつ簡便に評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、脱脂粉乳とは、脱脂乳(獣乳からほとんどの乳脂肪分を除去したもの、牛乳の場合、無脂固形分8.0%以上、乳脂肪分0.5%未満)を乾燥したものをいう。
【0010】
本発明の脱脂粉乳は、ホモセリンを含有する。ホモセリンはアミノ酸の一つであり、生体内ではシスタチオニンの前駆物質になると考えられている。本発明において、ホモセリンは脱脂粉乳の発酵性の指標の一つである。本発明の脱脂粉乳中のホモセリン濃度は、前記脱脂粉乳の10%還元脱脂粉乳を調製して定量することができる。前記10%還元脱脂粉乳中のホモセリン濃度は、発酵遅延を生じさせない範囲の濃度であれば特に制限はないが、その下限は、好ましくは3.4μMであり、より好ましくは3.7μMであり、さらに好ましくは4.0μMである。前記濃度が3.4μM以上である場合は、ヨーグルト製造時に発酵が促進されやすい。また、前記10%還元脱脂粉乳中のホモセリン濃度の上限は、特に制限はないが、好ましくは7.0μMであり、より好ましくは6.0μMであり、さらに好ましくは5.5μMである。本発明の脱脂粉乳中のホモセリン濃度の範囲は、これらの下限値及び上限値をそれぞれ任意に組み合わせて、設定することができる。
なお、ここで、「10%還元脱脂粉乳」とは、脱脂粉乳を10重量%濃度で水に溶解させたものである。
【0011】
本発明の脱脂粉乳は、クレアチニンを含有する。クレアチニンはクレアチンの無水物であり、生体内では筋肉細胞中のクレアチンの代謝産物として尿中に排泄される。本発明において、クレアチニンは脱脂粉乳の発酵性の指標の一つである。本発明の脱脂粉乳中のクレアチニン濃度は、前記脱脂粉乳の10%還元脱脂粉乳を調製して定量することができる。前記10%還元脱脂粉乳中のクレアチニン濃度は、発酵遅延を生じさせない範囲の濃度であれば特に制限はないが、その下限は、好ましくは950μMであり、より好ましくは1000μMであり、さらに好ましくは1100μMである。前記濃度が950μM以上である場合は、ヨーグルト製造時に発酵が促進されやすい。また、前記10%還元脱脂粉乳中のクレアチニン濃度の上限は、特に制限はされないが、好ましくは1700μMであり、より好ましくは1600μMであり、さらに好ましくは1500μMである。本発明の脱脂粉乳中のクレアチニン濃度の範囲は、これらの下限値及び上限値をそれぞれ任意に組み合わせて、設定することができる。
【0012】
本発明の脱脂粉乳の発酵性の指標には、ホモセリン、クレアチニンのいずれか一方を用いればよいが、両方を用いることでより正確に、脱脂粉乳の発酵性を評価することができる。
【0013】
また、本発明の発酵性の指標としてのホモセリン、クレアチニンは共に、脱脂濃縮乳や全粉乳にも適用することができる。脱脂濃縮乳とは、生乳からクリームを分離して得られる脱脂乳を殺菌・濃縮して得られる液体であり、全粉乳とは、生乳、牛乳、特別牛乳から水分を除去して得られる粉末である。
【0014】
なお、本発明の脱脂粉乳においては、ホモセリンやクレアチニンを脱脂粉乳に添加することで、調製することもできる。
【0015】
本発明の脱脂粉乳は、優れた発酵性を示す。具体的には、本発明の脱脂粉乳を用いてヨーグルトを製造する場合に要する時間は、従来の脱脂粉乳を用いたヨーグルト製造時の発酵時間と比べて、非常に短くなる。ここで、発酵時間の測定方法は一般的な方法であれば特に制限されないが、例えば、所定量の10%還元脱脂粉乳に、発酵乳スターターとしてL.bulgaricusとS.thermophilusからなる凍結菌を所定量接種し、43℃で発酵させた際に、pHが4.6となるまでに要する時間を発酵時間とすることができる。本発明において、前記発酵時間の下限は、特に制限はされないが、好ましくは240分であり、より好ましくは270分であり、さらに好ましくは300分である。
【0016】
本発明において、ヨーグルトの製造方法は、一般的な方法であれば特に制限されないが、例えば、脱脂粉乳などの乳原料を用いて発酵乳ミックスを調製する工程、発酵乳ミックスを加熱殺菌する工程、加熱殺菌した発酵乳ミックスに発酵乳スターターを添加して発酵させる工程からなる。発酵乳ミックスは、発酵乳の原料を混合した原料調製物であり、脱脂粉乳などの乳原料に、水、砂糖や甘味料、安定化剤、香料などを添加(配合)し、必要に応じて、加温しながら溶解して調製される。スターターとは、発酵乳ミックスを発酵させるために接種する、乳酸菌や酵母などの種菌を意味する。本発明においてスターターには、公知のスターターを適宜用いることができるが、スターターとして乳酸菌スターターを用いることが好ましい。乳酸菌スターターには、ラクトバチルス・ブルガリカス(L.bulgaricus)およびストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus)などを用いることができる。スターターの添加量は、一般的な発酵乳の製造方法において採用されている添加量設定方法にしたがって、適宜設定することができる。また、スターターの接種方法も、特に制限されることなく、発酵乳の製造で慣用されている方法を適宜用いることができる。発酵処理の条件は、発酵乳の種類や所望の風味、使用するスターターの種類などを考慮して、適宜設定することができる。
【0017】
本発明において、ヨーグルトには、例えば、乳等省令で定義される「発酵乳」又は「乳酸菌飲料」が含まれる。乳等省令における「発酵乳」とは、「乳又はこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳などを乳酸菌又は酵母で発酵させ、糊状又は液状にしたもの」又は「これらを凍結したもの」と定義されている。ヨーグルトは、「容器充填後に発酵させて固化させたハードヨーグルト(固形状発酵乳、セットタイプヨーグルト)」、「発酵後にカードを粉砕し、容器充填したソフトヨーグルト(糊状発酵乳)」、「ソフトヨーグルトを均質機でさらに細かく砕き、液状の性質を高めたドリンクヨーグルト(液状発酵乳)」に大別される。また、乳等省令における「乳酸菌飲料」とは、「乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させたものを加工し、又は主原料とした飲料(発酵乳を除く。)」をいう。
【0018】
また、本発明は、脱脂粉乳中のホモセリン濃度及び/又はクレアチニン濃度を定量することを特徴とする、脱脂粉乳の発酵性の評価方法でもある。ホモセリン濃度及び/又はクレアチニン濃度が高い脱脂粉乳ほど、優れた発酵性を示す。ここで、本発明におけるホモセリン濃度の定量方法としては、質量分析法(以下、MS法)が採用される。なお、測定値がMS法における測定値と一致することを前提として、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC法)が代替方法とされてもよい。また、クレアチニン濃度の定量方法としては、MS法が採用される。なお、MS法における測定値と一致することを前提として、HPLC法が代替方法とされてもよい。
【実施例
【0019】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【0020】
10種類の脱脂粉乳について、それぞれ10%還元脱脂粉乳を80g作製した。これに、L.bulgaricus株と、S.thermophilus株からなる凍結菌を0.15%接種した後、これを43℃で発酵し、そのpHが4.6となるまでに要する時間を測定し、その測定時間を発酵時間とした。
また、これらの10%還元脱脂粉乳のホモセリン濃度、クレアチニン濃度を質量分析法により測定した。
【0021】
各脱脂粉乳の発酵時間、ホモセリン濃度、クレアチニン濃度を表1に示した。なお、脱脂粉乳中のホモセリン濃度、クレアチニン濃度は、10%還元脱脂粉乳溶液中のホモセリン濃度、クレアチニン濃度から算出した値である。
【0022】
【表1】
【0023】
表1に示した結果から、脱脂粉乳中のホモセリン濃度、クレアチニン濃度が高いほど、脱脂粉乳の発酵時間が短くなることがわかった。具体的には、10%還元脱脂粉乳を調製した際のホモセリン濃度が3.4μM以上6.0μM以下の範囲内である場合に、発酵時間が320分を下回り、10%還元脱脂粉乳を調製した際のクレアチニン濃度が950μM以上1647μM以下の範囲内である場合に、発酵時間が345分を下回り、発酵時間が短くなることが示された。特に、10%還元脱脂粉乳を調製した際のホモセリン濃度が3.8μM以上6.0μM以下の範囲内である場合、又は10%還元脱脂粉乳を調製した際のクレアチニン濃度が1467μM以上1647μM以下の範囲内である場合に、発酵時間が300分を下回り、脱脂粉乳の発酵時間が非常に短くなることが示された。このことから、ホモセリン濃度、クレアチニン濃度が高い脱脂粉乳は、発酵性に優れていることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明によれば、ホモセリン及び/又はクレアチニン濃度が高い脱脂粉乳は、ヨーグルト製造時の発酵時間が短く、発酵性に優れていることを見出した。また、本発明は、脱脂粉乳の性質に起因する発酵遅延の防止や、発酵時間短縮によるヨーグルト製造の効率化が可能となるものであり、産業上、非常に有用である。