(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】紫外線照射装置及び光ファイバ製造装置
(51)【国際特許分類】
C03C 25/6226 20180101AFI20231222BHJP
【FI】
C03C25/6226
(21)【出願番号】P 2020051644
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100114915
【氏名又は名称】三村 治彦
(74)【代理人】
【識別番号】100125139
【氏名又は名称】岡部 洋
(72)【発明者】
【氏名】蓬田 直也
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-082594(JP,A)
【文献】特開2009-294254(JP,A)
【文献】特開2005-221778(JP,A)
【文献】特開平07-165443(JP,A)
【文献】特開平04-175245(JP,A)
【文献】特開2012-236728(JP,A)
【文献】特開2016-074562(JP,A)
【文献】特開2004-315321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 25/00-25/70
G02B 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化型樹脂が塗布された光ファイバが上流側から下流側に向かって走行する内部空間を有する紫外線照射炉と、
前記紫外線照射炉の前記内部空間を走行する前記光ファイバに紫外線を照射して前記紫外線硬化型樹脂を硬化させる紫外線照射部と、
前記紫外線照射炉の前記内部空間に前記紫外線照射炉の下流端部から前記紫外線照射炉の前記内部空間に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
前記紫外線照射炉の上流に設けられ、前記紫外線照射炉の前記内部空間に供給された前記不活性ガスを排気する不活性ガス排気部と
を有し、
前記不活性ガス排気部は、前記紫外線照射炉の上流側に向かって前記不活性ガスを排気する第1の排気部を有
し、
前記第1の排気部は、前記光ファイバが入線する光ファイバ入線部を有し、前記光ファイバ入線部から前記不活性ガスを前記紫外線照射炉の上流側に排気し、
前記不活性ガス排気部は、前記光ファイバが走行する経路に対して交差する方向に前記不活性ガスを排気する第2の排気部を有し、
前記第2の排気部は、前記不活性ガスの排気を調整する調整機構を有し、
前記第1の排気部は、排気管であり、
前記排気管の内径は、3mm~10mmであり、
前記排気管の長さは、15cm以下である
ことを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項2】
前記第1の排気部は、圧力を検知する圧力検知部を有する
ことを特徴とする請求項
1記載の紫外線照射装置。
【請求項3】
前記圧力検知部は、前記第2の排気部よりも前記光ファイバの入線側にある
ことを特徴とする請求項2記載の紫外線照射装置。
【請求項4】
前記排気管の前記内径は、3mm~4mmであり、
前記排気管の前記長さは、10cm以下である
ことを特徴とする請求項
1乃至3のいずれか1項に記載の紫外線照射装置。
【請求項5】
前記光ファイバは、外周に形成された被覆層を有する光ファイバ素線である
ことを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の紫外線照射装置。
【請求項6】
請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の紫外線照射装置と、
前記紫外線照射装置による紫外線の照射により硬化する前記紫外線硬化型樹脂を前記光ファイバに塗布する塗布装置と
を有することを特徴とする光ファイバ製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線照射装置及び光ファイバ製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2には、光ファイバ素線の外周に塗布した紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させる際に酸素により硬化が阻害されるのを防止する技術が記載されている。
【0003】
特許文献1には、紫外線硬化型樹脂を外周に塗布した光ファイバが上方から下方に通過する石英管の上流側端部の不活性ガス供給口から石英管内に不活性ガスを供給し、石英管の外側に配置した紫外線照射部からの紫外線照射で紫外線硬化型樹脂を硬化させることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、紫外線硬化型樹脂を塗布する塗布装置のファイバ出線部と紫外線照射装置のファイバ入線部との間に光ファイバを覆うパイプを配置し、パイプ内部に不活性ガスを供給しながら紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5780005号公報
【文献】特開2019-70774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2に記載された技術では、紫外線硬化型樹脂の硬化が酸素により阻害されるのを十分に防止することができず、硬化された紫外線硬化型樹脂について、光ファイバ素線に対して高い密着性を確保することが困難であった。
【0007】
本発明の目的は、上述した課題を鑑み、光ファイバに塗布された紫外線硬化型樹脂を光ファイバに対して高い密着性で硬化させることができる紫外線照射装置及び光ファイバ製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によれば、紫外線硬化型樹脂が塗布された光ファイバが上流側から下流側に向かって走行する内部空間を有する紫外線照射炉と、前記紫外線照射炉の前記内部空間を走行する前記光ファイバに紫外線を照射して前記紫外線硬化型樹脂を硬化させる紫外線照射部と、前記紫外線照射炉の前記内部空間に前記紫外線照射炉の下流端部から前記紫外線照射炉の前記内部空間に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、前記紫外線照射炉の上流に設けられ、前記紫外線照射炉の前記内部空間に供給された前記不活性ガスを排気する不活性ガス排気部とを有し、前記不活性ガス排気部は、前記紫外線照射炉の上流側に向かって前記不活性ガスを排気する第1の排気部を有することを特徴とする紫外線照射装置が提供される。
【0009】
本発明の他の観点によれば、上記の紫外線照射装置と、前記紫外線照射装置による紫外線の照射により硬化する前記紫外線硬化型樹脂を前記光ファイバに塗布する塗布装置とを有することを特徴とする光ファイバ製造装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光ファイバに塗布された紫外線硬化型樹脂を光ファイバに対して高い密着性で硬化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による光ファイバ製造装置を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態による光ファイバ製造装置における紫外線照射装置の一部を拡大して示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態による光ファイバ製造装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[一実施形態]
本発明の一実施形態による光ファイバ製造装置について
図1乃至
図3を用いて説明する。
【0013】
まず、本実施形態による光ファイバ製造装置の構成について
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は、本実施形態による光ファイバ製造装置を示す概略図である。
図2は、本実施形態による光ファイバ製造装置における紫外線照射装置の一部を拡大して示す概略図である。
【0014】
本実施形態による光ファイバ製造装置は、光ファイバ素線の外周に紫外線硬化型樹脂である着色樹脂を塗布して硬化させ、硬化した着色樹脂よりなる着色層を光ファイバ素線の外周に形成して着色層を有する光ファイバを形成するものである。
図1に示すように、本実施形態による光ファイバ製造装置1は、繰り出しボビン10と、塗布装置20と、紫外線照射装置30と、ガイドローラ40と、制御装置50とを有している。繰り出しボビン10は、塗布装置20の前段に設置されている。紫外線照射装置30は、塗布装置20の後段に設置されている。ガイドローラ40は、紫外線照射装置30の後段に設置されている。
【0015】
繰り出しボビン10は、外周に着色層を形成して着色層で被覆すべき光ファイバ素線が巻かれている。繰り出しボビン10は、制御装置50による制御に従って回転駆動して光ファイバ素線60を繰り出す。繰り出しボビン10から繰り出された光ファイバ素線60は、塗布装置20及び紫外線照射装置30が設置された区間を上方から下方に向かって走行する。
【0016】
光ファイバ素線60は、裸光ファイバと、裸光ファイバの外周に形成された被覆層とを有している。裸光ファイバは、中心部のコアと、コアの外周を覆うコアよりも屈折率の高いクラッドとを有している。被覆層は、例えば、クラッドの外周に形成された1次被覆層(プライマリ層)と、1次被覆層の外周に形成された2次被覆層(セカンダリ層)とを含んでいる。1次被覆層、2次被覆層等の被覆層は、例えば、紫外線硬化型樹脂が塗布されて硬化したものである。
【0017】
塗布装置20は、繰り出しボビン10から繰り出された光ファイバ素線60の外周に紫外線硬化型樹脂である着色樹脂のインクを塗布するものである。塗布装置20は、インクで満たされたディップ槽202を有している。塗布装置20には、ディップ槽202にインクを供給するインク供給タンク204がインク供給管206を介して接続されている。
【0018】
塗布装置20は、繰り出しボビン10から繰り出されて上方から下方に向かって走行する光ファイバ素線60がディップ槽202中を通過するように繰り出しボビン10の下方に設置されている。光ファイバ素線60は、インクで満たされたディップ槽202中を上方から下方に向かって走行する。これにより、光ファイバ素線60の外周にインクが塗布される。
【0019】
紫外線照射装置30は、光ファイバ素線60の外周に塗布された紫外線硬化型樹脂である着色樹脂のインクに対して紫外線を照射してインクを硬化させるものである。紫外線照射装置30は、紫外線照射炉302と、不活性ガス供給部304と、不活性ガス排気部306と、紫外線照射部308とを有している。
【0020】
紫外線照射炉302は、塗布装置20でインクが塗布された光ファイバ素線60が走行して通過する上下方向に細長い円柱状の内部空間302sを有する中空体の炉である。紫外線照射炉302の上側は光ファイバ素線60が入線する上流側、紫外線照射炉302の下側は光ファイバ素線60が出線する下流側になっている。紫外線照射炉302において、光ファイバ素線60は、上流側である上方から下流側である下方に向かって内部空間302sを走行して通過する。紫外線照射炉302は、特に限定されるものではないが、例えば石英管により構成されている。
【0021】
紫外線照射炉302の上流側の面である上面には、紫外線照射炉302の内部空間302sに光ファイバ素線60が入線する開口部である光ファイバ入線部302iが設けられている。紫外線照射炉302の下流側の面である下面には、紫外線照射炉302の内部空間302sを通過する光ファイバ素線60が出線する開口部である光ファイバ出線部302oが設けられている。
【0022】
不活性ガス供給部304は、紫外線照射炉302の下流端部である下端部から紫外線照射炉302の内部空間302sに不活性ガスを供給するように、紫外線照射炉302の下端部に不活性ガス供給管310を介して接続されている。不活性ガス供給部304は、不活性ガスが内部空間302sを下流側である下方から上流側である上方に向かって流れるように不活性ガスを内部空間302sに供給する。不活性ガス供給部304は、例えば、不活性ガスを貯蔵するガス容器、不活性ガスの流量を制御するマスフローコントローラ等を有している。不活性ガス供給部304が供給する不活性ガスは、特に限定されるものではないが、例えば、窒素ガス、希ガス等である。希ガスとしては、例えばアルゴンガスを用いることができる。
【0023】
不活性ガス供給管310は、紫外線照射炉302の下端側部から内部空間302sに不活性ガスを供給可能に紫外線照射炉302の下端側部に接続されている。なお、不活性ガス供給管310は、紫外線照射炉302の光ファイバ出線部302oから内部空間302sに不活性ガスを供給可能に光ファイバ出線部302oに対して配置されていてもよい。
【0024】
不活性ガス排気部306は、紫外線照射炉302の上流に設けられている。すなわち、紫外線照射炉302の光ファイバ入線部302iを含む紫外線照射炉302の上部に設けられている。不活性ガス排気部306は、不活性ガスを排気する2箇所の排気部として、第1の排気部である上方排気部312と、第2の排気部である側方排気部314とを有している。また、不活性ガス排気部306は、接続部316と、圧力検知部318とを有している。
図2は、
図1における破線の楕円で囲まれた不活性ガス排気部306を含む部分を拡大して示す斜視図である。
【0025】
上方排気部312は、接続部316を介して紫外線照射炉302の内部空間302sに連絡され、内部空間302sからの不活性ガスを紫外線照射炉302の上流側である上方に向かって排気する排気管である。また、側方排気部314は、接続部316を介して紫外線照射炉302の内部空間302sに連絡され、内部空間302sからの不活性ガスを紫外線照射炉302の側方に向かって排気する排気管である。
【0026】
上方排気部312は、上下方向に細長い円柱状の内部空間312sを有している。側方排気部314は、上下方向に交差する方向、例えば横方向に細長い内部空間314sを有している。また、接続部316は、上下方向に細長い円柱状の内部空間316sを有している。上方排気部312の内部空間312sは、接続部316の内部空間316sを介して紫外線照射炉302の内部空間302sと接続されている。側方排気部314の内部空間314sは、接続部316の内部空間316sを介して紫外線照射炉302の内部空間302sと接続されている。
【0027】
上方排気部312の上流側の面である上面には、上方排気部312の内部空間312sに光ファイバ素線60が入線する開口部である光ファイバ入線部312iが設けられている。不活性ガス排気部306は、塗布装置20でインクが塗布された光ファイバ素線60が、上方排気部312の光ファイバ入線部312iに入線して内部空間312s、316sを経て紫外線照射炉302の光ファイバ入線部302iに入線するように配置されている。
【0028】
上方排気部312は、不活性ガス供給部304により紫外線照射炉302の内部空間302sに供給された不活性ガスを光ファイバ入線部312iから紫外線照射炉302の上流側である上方に向かって排気する。すなわち、不活性ガス供給部304により紫外線照射炉302の内部空間302sに供給された不活性ガスは、内部空間302sを下方から上方に向かって流れる。紫外線照射炉302の内部空間302sを流れた不活性ガスは、光ファイバ入線部302iから接続部316の内部空間316sに流入する。接続部316の内部空間316sに流入した不活性ガスの一部は、内部空間316sを下方から上方に向かって流れる。接続部316の内部空間316sを流れた不活性ガスは、さらに、上方排気部312の内部空間312sを下方から上方に向かって流れて光ファイバ入線部312iから上方に向かって外部に排出される。
【0029】
上方排気部312は、接続部316の内部空間316sに抜き差し可能に差し込まれて接続部316に取り付けられていてもよい。この場合、上方排気部312を内部空間316sに差し込む差し込み長さを調整することができる。上方排気部312の差し込まれた部分は、側方排気部314の内部空間314sと接続部316の内部空間316sとが連絡する開口部を部分的に遮蔽してその開口部の断面積を調整することができる。このため、上方排気部312の差し込み長さを調整することにより、内部空間314sと内部空間316sとが連絡する開口部の断面積を調整して側方排気部314からの不活性ガスの排気流量を調整することができる。
【0030】
側方排気部314は、塗布装置20でインクが塗布された光ファイバ素線60が走行する経路に対して側方に不活性ガスを排気する。光ファイバ素線60が走行する経路は、上方排気部312の内部空間312s、接続部316の内部空間316s、紫外線照射炉302の内部空間302sにより構成されている。すなわち、側方排気部314は、塗布装置20でインクが塗布された光ファイバ素線60が走行する経路に対して交差する方向、例えば横方向に不活性ガスを排気する。なお、側方排気部314は、光ファイバ素線60が走行する経路に対して交差する方向であれば、水平方向に不活性ガスを排気するように構成されていてもよいし、斜め上方向又は斜め下方向の斜め方向に不活性ガスを排気するように構成されていてもよい。
【0031】
側方排気部314において、不活性ガス供給部304により紫外線照射炉302の内部空間302sに供給された不活性ガスは、接続部316の内部空間316sを介して、内部空間314sを側方に向かって流れて排風機320により外部に排出される。すなわち、接続部316の内部空間316sに流入した不活性ガスの残部は、内部空間316sを介して側方排気部314の内部空間314sに流入する。側方排気部314の内部空間314sに流入した不活性ガスは、内部空間314sを側方に向かって流れて排風機320により外部に排出される。
【0032】
側方排気部314の下流端には、側方排気部314の内部空間314sから不活性ガスを排出する排風機320が接続されている。排風機320により強制的に不活性ガスを排気することにより、不活性ガスの安定した排気を実現することができる。なお、側方排気部314からの不活性ガスの排気は、排風機320による強制排気であってもよいし、側方排気部314の下流端を大気開放した状態での自然排気であってもよい。
【0033】
側方排気部314を構成する排気管には、調整弁322が設けられている。調整弁322は、不活性ガスの排気を調整する調整機構として機能する。すなわち、調整弁322は、自動的に開度を調整することにより、側方排気部314から排気される不活性ガスの排気流量を調整して一定の設定値に保つことができる。
【0034】
圧力検知部318は、上方排気部312の内部空間312sの圧力を検知する。圧力検知部318は、例えば、内部空間312sに接する上方排気部312の内壁に埋設されている。圧力検知部318は、特に限定されるものではないが、例えば、拡散式、静電容量式等の圧力センサである。圧力検知部318は、検知した圧力を制御装置50に送信する。
【0035】
紫外線照射部308は、紫外線照射炉302の内部空間302sを上方から下方に向かって走行するインクが塗布された光ファイバ素線60に紫外線を照射することができるように紫外線照射炉302に設置されている。紫外線照射部308は、例えば紫外線ランプにより構成されている。紫外線照射部308は、光ファイバ素線60に紫外線を照射することにより、光ファイバ素線60の外周に塗布された紫外線硬化型樹脂である着色樹脂のインクを硬化させる。これにより、光ファイバ素線60の外周には、硬化した着色樹脂よりなる着色層が形成される。
【0036】
ガイドローラ40は、紫外線照射炉302において着色層が形成されて紫外線照射炉302の光ファイバ出線部302oから出線した光ファイバ素線60を後段に送るローラである。ガイドローラ40の後段には、例えば、ガイドローラ40により送られた光ファイバ素線60を巻き取る不図示の巻き取りボビンが設置されている。
【0037】
制御装置50は、光ファイバ製造装置1の各部の管理及び制御を行う情報処理装置である。制御装置50は、種々の演算、制御、判別等の処理を実行するCPU(Central Processing Unit)(図示せず)を有している。また、制御装置50は、CPUによって実行される様々な制御プログラム、CPUが参照するデータベース等を格納する記憶装置(図示せず)を有している。また、制御装置50は、CPUが処理しているデータ、入力データ等を一時的に格納するRAM(Random Access Memory)(図示せず)を有している。
【0038】
制御装置50は、例えば、繰り出しボビン10、不活性ガス供給部304、圧力検知部318と通信可能に接続されている。制御装置50は、繰り出しボビン10を制御して、繰り出しボビン10から繰り出されて走行する光ファイバ素線60の線速を制御することができる。また、制御装置50は、不活性ガス供給部304を制御して、紫外線照射炉302の内部空間302sを流れる不活性ガスの流量を制御することができる。また、制御装置50は、圧力検知部318から受信した圧力信号に基づき不活性ガス供給部304を制御して、上方排気部312の内部空間312sの圧力を制御することができる。
【0039】
こうして、本実施形態による光ファイバ製造装置1が構成されている。
【0040】
裸光ファイバに1次被覆層及び2次被覆層が形成された光ファイバ素線に着色層を形成するには、一般的に、被覆装置において、着色した紫外線硬化型樹脂で満たされたディップ槽に光ファイバ素線を通過させることにより光ファイバ素線に着色樹脂を塗布する。その後、紫外線を照射することにより、着色樹脂を硬化させて光ファイバ素線の外周に着色層を形成する。さらに、着色層が形成された光ファイバを複数本整列させてテープ樹脂を塗布して硬化させることにより光ファイバテープが形成される。
【0041】
しかしながら、着色層の形成工程において着色樹脂に紫外線光を照射する際に酸素が混入すると、酸素により着色層の硬化が阻害される結果、着色層とその下地の2次被覆層との密着力が低下する。ファイバ素線と着色層との密着力が、着色層とテープ樹脂との密着力よりも小さくなると、光ファイバをテープ化して断面をカットした際に、着色層がテープ樹脂と一緒に剥がれてしまうという問題がある。
【0042】
これに対して、上述のように、特許文献1、2には、光ファイバ素線の外周に塗布した紫外線硬化型樹脂に紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させる際に酸素により硬化が阻害されるのを防止する技術が記載されている。
【0043】
特許文献1には、光ファイバの外周に紫外線硬化型樹脂を塗布し、光ファイバを導入する紫外線照射炉のファイバの入線口径を3mmから10mm、出線口の下位口径が4mmから20mmとして不活性ガスを出線口から排気する構造が提案されている。
【0044】
しかしながら、特許文献1に記載の構造では、紫外線照射炉の上流側の被覆装置側から不活性ガスが供給されるため、光ファイバの線引き速度が高速になると、光ファイバに巻き込まれた酸素を含む空気が不活性ガスの流れにおされて紫外線照射炉に混入しうる。不活性ガスを供給していたとしても酸素を含む空気が混入したのでは、紫外線硬化型樹脂の密着力が低下するおそれがある。
【0045】
また、特許文献2には、紫外線硬化型樹脂を入れたディップ槽から紫外線照射装置までの経路をパイプで囲み、不活性ガスの供給をパイプの上流側の被覆装置側から行い、パイプ内を不活性ガスで満たして空気の侵入を防ぐ構造が提案されている。また、特許文献2には、紫外線照射装置への入線側はいったん開放し、この開放部に設けられたシャッタにより小さな貫通孔を閉じる機構を設けることにより空気の侵入を極力避ける構造が提案されている。
【0046】
しかしながら、特許文献2に記載の構造では、パイプ、シャッタ、及びシャッタの開閉を行う駆動部が必要になるため、装置全体が複雑になる結果、装置のコストが増加するとともに装置の維持管理に費用が発生してコスト高になるという課題があった。また、特許文献2に記載の構造では、シャッタを形成する場合は空気に触れる空間が生じ、不活性ガスの供給をパイプの上流側の被覆装置側から行うため、ファイバを高速で線引きする場合は空気の回り込みが発生し、紫外線照射時に酸素混入のおそれがある。
【0047】
これに対して、本実施形態では、光ファイバ素線60が出線する側の紫外線照射炉302の下流端部である下端部から不活性ガスを紫外線照射炉302の内部空間302sに供給する。さらに、本実施形態では、光ファイバ素線60が入線する側の紫外線照射炉302の上流に設けられた不活性ガス排気部306から不活性ガスを排気する。不活性ガス排気部306の上方排気部312は、光ファイバ入線部312iに上方から下方に向かって入線する光ファイバ素線60の走行方向とは逆方向に下方から上方に向かって光ファイバ入線部312iから不活性ガスを排気する。このため、本実施形態では、光ファイバ素線60の走行速度が高速になっても、光ファイバ素線60が入線する光ファイバ入線部302i、312iでの光ファイバ素線60による酸素を含む空気の巻き込みを効果的に防止又は抑制することができる。
【0048】
こうして、本実施形態では、酸素を含む空気の巻き込みを防止又は抑制することにより、光ファイバ素線60に塗布された紫外線硬化型樹脂のインクを光ファイバ素線60に対して高い密着性で硬化させることができる。
【0049】
また、本実施形態では、不活性ガス排気部306において、上方排気部312と、側方排気部314との2つの排気部による排気経路を有している。すなわち、本実施形態では、光ファイバ素線60が入線する経路に沿った上方排気部312による排気経路に加えて、光ファイバ素線60が入線する経路に対して交差する方向に沿った側方排気部314による排気経路を有している。このため、本実施形態では、高速で走行する光ファイバ素線60により巻き込まれた酸素を含む空気を、光ファイバ素線60に影響を与えることなく側方排気部314から効果的に排出することができる。
【0050】
また、本実施形態では、側方排気部314において調整弁322により不活性ガスの排気流量を調整して不活性ガスの排気を調整することができる。本実施形態では、光ファイバ素線60が入線する上方排気部312で不活性ガスの排気を調整しないため、不活性ガスの排気の調整により光ファイバ素線60が受ける汚染等の影響を低減又は回避することができる。なお、調整弁322のみならず、側方排気部314の下流端に接続された排風機320の風量を調整することにより不活性ガスの排気流量を調整して、不活性ガスの排気を調整することもできる。
【0051】
さらに、本実施形態では、上方排気部312設けられた圧力検知部318により不活性ガスの圧力を検知することができるので、圧力検知部318により検知された圧力に基づき、不活性ガスの排気を高精度かつ効果的に調整することができる。
【0052】
なお、上方排気部312を構成する排気管の内径IDは3mm~10mm、長さLは15cm以下、具体的には2cm~15cmとすることが好ましい。内径ID及び長さLをこのような範囲に設定して排気管について間口を小さくしつつ長さを持たせることにより、紫外線照射炉302の内部空間302sへの酸素を含む空気の侵入を効果的に阻止することができる。また、内径IDは3mm~4mm、長さは10cm以下、具体的には5cm~10cmとすることがより好ましい。内径ID及び長さLをこのような範囲に設定することにより、より効果的に紫外線照射炉302の内部空間302sへの酸素を含む空気の侵入を効果的に阻止することができる。
【0053】
また、不活性ガスが排出される上方排気部312を構成する排気管の内部空間312sの圧力は、不活性ガスの排気時において、大気圧を基準とする差圧で2kPa~30kPaの陽圧であることが好ましい。内部空間312sの圧力がこのような範囲の陽圧であることにより、紫外線照射炉302の内部空間302sへの酸素を含む空気の侵入を効果的に阻止することができる。
【0054】
次に、本実施形態による光ファイバ製造装置1の動作についてさらに
図3を用いて説明する。
図3は、本実施形態による光ファイバ製造装置1の動作を示すフローチャートである。
【0055】
まず、制御装置50は、不活性ガス供給部304を制御して、不活性ガス供給部304により不活性ガスを紫外線照射炉302の内部空間302sに供給する(ステップS102)。不活性ガス供給部304は、紫外線照射炉302の下流端部である下端部から紫外線照射炉302の内部空間302sに不活性ガスを供給して、内部空間302sに不活性ガスを下方から上方に向かって流す。不活性ガス供給部304は、処理の間、継続して不活性ガスを紫外線照射炉302の内部空間302sに供給する。
【0056】
紫外線照射炉302に不活性ガスが供給されている状態で、制御装置50は、繰り出しボビン10を制御して、繰り出しボビン10から光ファイバ素線60を繰り出す(ステップS104)。繰り出しボビン10から繰り出された光ファイバ素線60は、塗布装置20及び紫外線照射装置30を上方から下方に向かって走行する。
【0057】
塗布装置20において、光ファイバ素線60は、紫外線硬化型樹脂である着色樹脂のインクで満たされたディップ槽202を上方から下方に向かって走行して通過する。これにより、ディップ槽202を通過した光ファイバ素線60の外周にインクが塗布される(ステップS106)。ディップ槽202には、インク供給タンク204からインク供給管206を介してインクが適宜供給される。
【0058】
紫外線照射装置30において、インクが塗布された光ファイバ素線60は、上方排気部312の光ファイバ入線部312iから不活性ガス排気部306に入線して上方排気部312の内部空間312s及び接続部316の内部空間316sを通過する。
【0059】
さらに、光ファイバ素線60は、紫外線照射炉302の光ファイバ入線部302iから紫外線照射炉302の内部空間302sに入線して内部空間302sを通過し、光ファイバ出線部302oから出線する。
【0060】
紫外線照射炉302において、内部空間302sを通過する光ファイバ素線60には、紫外線照射部308により紫外線が照射される(ステップS108)。紫外線の照射により、光ファイバ素線60の外周に塗布された紫外線硬化型樹脂である着色樹脂のインクが硬化する。こうして、光ファイバ素線60の外周には、インクが硬化してなる着色層が形成される。
【0061】
着色層が形成されて紫外線照射炉302から出線した光ファイバ素線60は、ガイドローラ40により後段に送られて、例えば巻き取りボビンに巻き取られる。
【0062】
制御装置50は、例えば、繰り出しボビン10の重量変化、処理開始からの経過時間等に基づき、光ファイバ素線60への着色層の形成が完了したか否かを判定する(ステップS110)。制御装置50は、着色層の形成が完了していないと判定すると(ステップS110、NO)、処理を継続する。
【0063】
一方、制御装置50は、着色層の形成が完了したと判定すると(ステップS110、YES)、繰り出しボビン10を制御して、繰り出しボビン10からの光ファイバ素線60の繰り出しを停止する(ステップS112)。また、制御装置50は、不活性ガス供給部304を制御して、不活性ガス供給部304からの紫外線照射炉302の内部空間302sへの不活性ガスの供給を停止する(ステップS114)。なお、制御装置50は、上記ステップS112、S114を、先後を問わず適時の順序で実行することができる。
【0064】
このように、本実施形態によれば、光ファイバ素線60に塗布された紫外線硬化型樹脂のインクを光ファイバ素線60に対して高い密着性で硬化させることができる。
【0065】
[実施例]
実施例1では、上記実施形態による光ファイバ製造装置1を用いて、線速2000m/分で走行する光ファイバ素線60に対して紫外線硬化型樹脂のインクの塗布、硬化を実施して光ファイバ素線60に着色層を形成した。上方排気部312を構成する排気管の内径IDは3mm、長さLは8cmであった。また、不活性ガス供給部304により紫外線照射炉302の光ファイバ出線部302oから窒素ガスを10リットル/分で紫外線照射炉302の内部空間302sに導入し、導入した窒素ガスを上方排気部312及び側方排気部314から排気した。このとき、側方排気部314の調整弁322により、上方排気部312の排気管に設けられた圧力検知部318が検知する圧力が10kPaの陽圧になるように調整した。
【0066】
従来、紫外線照射炉の光ファイバ入線部から不活性ガスの供給を行っていた場合は、硬化後の試験で着色剤のはがれが発生していた。これに対して、上記実施例1では、窒素ガスを光ファイバ出線部302oから供給し、上方排気部312の排気管で光ファイバ入線部312iの径を絞り、酸素を含む空気の巻き込みを防いだ。この結果、実施例1では、約20万mの光ファイバ素線60に着色層を形成して光ファイバを製造したが、不良は発生しなかった。また以下の表1に示すように実施例2~4において条件を変更して実験を行ったが、同様に実施例2~4のいずれの場合も不良は発生しなかった。
【0067】
なお、表1において、「窒素ガス流量」は、紫外線照射炉302の光ファイバ出線部302oから供給する窒素ガスの流量である。「排気管内径」及び「排気管長さ」は、それぞれ上方排気部312を構成する排気管の内径ID及び長さLである。「圧力差」は、圧力検知部318により検知された圧力であり、大気圧を基準とする差圧である。「しごき試験」は、光ファイバ素線60への着色層の形成後にテープ樹脂を用いて形成した光ファイバ心線について、手を用いて光ファイバ心線をスポンジたわしで挟み、光ファイバ心線の長手方向に3回しごいて着色層の剥がれの有無を観察した結果を示す。
【0068】
【0069】
[変形実施形態]
本発明は、上記実施形態に限らず、種々の変形が可能である。
【0070】
例えば、上記実施形態では、光ファイバ素線60が、上流側である上方から下流側である下方に向かって上下方向に走行するように光ファイバ製造装置1の各構成が配置されている場合について説明しているが、これに限定されるものではない。上下方向において光ファイバ素線60が走行する方向の上流及び下流を設定するのみならず、水平方向、斜め方向等の種々の方向において光ファイバ素線60が走行する方向の上流及び下流を適宜設定することができる。例えば、光ファイバ素線60が、水平方向において上流側の一方から下流側の他方に向かって走行するように光ファイバ製造装置1の各構成を配置することができる。
【0071】
また、上記実施形態では、紫外線硬化型樹脂である着色樹脂のインクを光ファイバ素線60に塗布して硬化させる場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。紫外線硬化型樹脂は、必ずしも着色されている必要はない。例えば、上述した光ファイバ製造装置1の構成は、光ファイバの外周に塗布した紫外線硬化型樹脂を硬化させて1次被覆層、2次被覆層等の被覆層を光ファイバの外周に形成する装置の構成に広く採用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1…光ファイバ製造装置
10…繰り出しボビン
20…塗布装置
30…紫外線照射装置
40…ガイドローラ
50…制御装置
60…光ファイバ素線
202…ディップ槽
204…インク供給タンク
206…インク供給管
302…紫外線照射炉
302i…光ファイバ入線部
302o…光ファイバ出線部
302s…内部空間
304…不活性ガス供給部
306…不活性ガス排気部
308…紫外線照射部
310…不活性ガス供給管
312…上方排気部
312i…光ファイバ入線部
312s…内部空間
314…側方排気部
314s…内部空間
316…接続部
316s…内部空間
318…圧力検知部
320…排風機
322…調整弁