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特許7407700コイル用カーボンナノチューブ被覆線材、コイル用カーボンナノチューブ被覆線材を用いたコイル及びカーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法
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  • 特許-コイル用カーボンナノチューブ被覆線材、コイル用カーボンナノチューブ被覆線材を用いたコイル及びカーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法 図1
  • 特許-コイル用カーボンナノチューブ被覆線材、コイル用カーボンナノチューブ被覆線材を用いたコイル及びカーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法 図2
  • 特許-コイル用カーボンナノチューブ被覆線材、コイル用カーボンナノチューブ被覆線材を用いたコイル及びカーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】コイル用カーボンナノチューブ被覆線材、コイル用カーボンナノチューブ被覆線材を用いたコイル及びカーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/04 20060101AFI20231222BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20231222BHJP
   H01F 5/06 20060101ALI20231222BHJP
   H02K 3/02 20060101ALI20231222BHJP
   H02K 15/04 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
H01B1/04
H01F5/00 F
H01F5/06 H
H01F5/06 T
H01F5/06 W
H02K3/02
H02K15/04 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020509387
(86)(22)【出願日】2019-04-01
(86)【国際出願番号】 JP2019014404
(87)【国際公開番号】W WO2019189925
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-12-17
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2018069824
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】會澤 英樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 智
(72)【発明者】
【氏名】三好 一富
【合議体】
【審判長】岩間 直純
【審判官】野崎 大進
【審判官】山内 裕史
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171545(JP,A)
【文献】特開2008-108583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/04
H01F 5/00 - 5/06
H02K 3/02
H02K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルに用いられるカーボンナノチューブ被覆線材であり、
複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体または複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ素線の複数からなるカーボンナノチューブ線材と、前記カーボンナノチューブ線材を被覆する被覆層と、を備え、
前記カーボンナノチューブ線材を構成する前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線の本数が、10本~1000本であり、
前記カーボンナノチューブ集合体及び前記カーボンナノチューブ素線が、金属性の挙動を示すアームチェア型の前記カーボンナノチューブを含み、
前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線の円相当直径が、20nm以上1000nm以下であり、
前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線が、隣接する他の前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線と接触しているコイル用カーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ線材における撚り線密度が0.5g/cm~2.5g/cmである請求項1に記載のコイル用カーボンナノチューブ線材。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブ線材における前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線の密度が1.1g/cm~1.8g/cmである請求項1または2に記載のコイル用カーボンナノチューブ線材
【請求項4】
前記カーボンナノチューブ線材における撚り線密度が1.2g/cm~1.5g/cmである請求項2に記載のコイル用カーボンナノチューブ線材。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブ線材における前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線の密度が1.5g/cm~1.8g/cmである請求項3に記載のコイル用カーボンナノチューブ線材。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブ線材を構成する前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線の本数が、300本~600本である請求項1乃至5のいずれか1項に記載のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ線材の円相当直径が、0.05mm以上2.0mm以下である請求項1乃至6のいずれか1項に記載のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブ線材の円相当直径が、0.30mm以上1.0mm以下である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブ線材の撚り数が、1T/m以上1000T/m以下である請求項1乃至8のいずれか1項に記載のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブ線材の撚り数が、10T/m以上800T/m以下である請求項1乃至9のいずれか1項に記載のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材の巻線を用いたコイル。
【請求項12】
複数のカーボンナノチューブ素線からカーボンナノチューブ線材を作製する工程と、
前記カーボンナノチューブ線材を被覆材で被覆してカーボンナノチューブ被覆線材を作製する工程と、
前記カーボンナノチューブ被覆線材を巻回して巻線とする工程と、を含み、
前記カーボンナノチューブ素線が、複数のカーボンナノチューブで構成され、
前記カーボンナノチューブ線材を構成する前記カーボンナノチューブ素線の本数が、10本~1000本であり、
前記カーボンナノチューブ素線が、金属性の挙動を示すアームチェア型の前記カーボンナノチューブを含み、
前記カーボンナノチューブ素線の円相当直径が、20nm以上1000nm以下であ
前記カーボンナノチューブ素線が、隣接する他の前記カーボンナノチューブ素線と接触している、
カーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法。
【請求項13】
複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体または複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ素線からなるカーボンナノチューブ線材を被覆材で被覆してカーボンナノチューブ被覆線材を作製する工程と、
前記カーボンナノチューブ被覆線材を巻回して巻線とする工程と、を含み、
前記カーボンナノチューブ線材を構成する前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線の本数が、10本~1000本であり、
前記カーボンナノチューブ集合体及び前記カーボンナノチューブ素線が、金属性の挙動を示すアームチェア型の前記カーボンナノチューブを含み、
前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線の円相当直径が、20nm以上1000nm以下であ
前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線が、隣接する他の前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線と接触している、
カーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法。
【請求項14】
前記カーボンナノチューブ線材の円相当直径が、0.05mm以上2.0mm以下である請求項12または13に記載のカーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法。
【請求項15】
前記カーボンナノチューブ線材の撚り数が、1T/m以上1000T/m以下である請求項12乃至14のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ線材を被覆材料で被覆したコイルに用いられるカーボンナノチューブ被覆線材、前記カーボンナノチューブ被覆線材を用いたコイル及びカーボンナノチューブ被覆線材を用いたコイルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高周波電流を通電するモーター等の各種の電動機器には、コイルが利用されている。コイルは、導体線を有する巻線を螺旋状に巻回することによって作製される。電動機器の小型化や出力向上の点から、隣り合うターン間の間隔を狭くして巻回することが要求されることがある。しかし、巻回される導体線間が近接配置されると、導体線に渦電流が生じて渦電流量が増大し、結果、導体線に生じる渦電流による電流損失が大きくなり、コイルの電流損失が増大してしまう。
【0003】
そこで、導体線と、導体線の外周に磁性材料によって形成された磁性体層とを備えるコイル用線材により、渦電流を低減することが提案されている(特許文献1)。
【0004】
一方で、電動機器の出力向上の点から、導体線の太線化と導体線の断面積率(占積率)の向上が要求される。しかし、電線材を巻線に加工するには、1本の導体線を太線化するには限界があり、また、渦電流も増大する。そこで、巻線への加工性と渦電流の低減のために、コイルを形成する導体線を複数に分割すること(特許文献2)や、中心導体と中心導体を被覆する磁性層とを備えた細い電線を撚り合わせて太線化すること(特許文献3)が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1では、高周波電流を通電して電動機器の出力を向上させるために、複数の線材を用いた撚り線とする場合、撚り合わされた各線材間における導電性を低減する必要がある。よって、特許文献1では、撚り線を構成するそれぞれの線材に磁性体層を形成する必要がある。上記から、特許文献1では、渦電流を抑制するにあたり、導体線の断面積率(占積率)が低いため改善の余地があり、また、高周波特性にも改善の余地があるので、十分な出力特性が得られない場合があった。また、特許文献1では、撚り線を構成するそれぞれの線材に磁性体層を形成する必要があるので、製造コストがかさむという問題があった。
【0006】
また、高周波電流を通電する際に、特許文献2でも、分割線間の導電性を低減するために、各分割線に絶縁層を被覆する必要があり、特許文献3でも、渦電流を抑制するために線材を撚り合わせる場合には、撚り合わされた各線材間における導電性を低減するために、各中心導体に磁性層を被覆する必要がある。従って、特許文献2、3でも、渦電流を抑制するにあたり、導体線の占積率に改善の余地があり、また、高周波特性にも改善の余地があるので、十分な出力特性が得られない場合があった。また、特許文献2、3でも、撚り線を構成するそれぞれの線材に被覆層を形成する必要があるので、製造コストがかさむという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-37896号公報
【文献】特開2013-138594号公報
【文献】特開2015-65081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、渦電流が低減し、高出力特性に優れたコイル用カーボンナノチューブ被覆線材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体または複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ素線の複数からなるカーボンナノチューブ線材と、前記カーボンナノチューブ線材を被覆する被覆層と、を備え、
前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線が、隣接する他の前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線と接触しているコイル用カーボンナノチューブ被覆線材。
[2]前記カーボンナノチューブ線材における撚り線密度が0.5g/cm~2.5g/cmである[1]に記載のコイル用カーボンナノチューブ線材。
[3]前記カーボンナノチューブ線材における前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線の密度が1.1g/cm~1.8g/cmである[1]または[2]に記載のコイル用カーボンナノチューブ線材。
[4]前記カーボンナノチューブ線材における撚り線密度が1.2g/cm~1.5g/cmである[2]に記載のコイル用カーボンナノチューブ線材。
[5]前記カーボンナノチューブ線材における前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線の密度が1.5g/cm~1.8g/cmである[3]に記載のコイル用カーボンナノチューブ線材。
[6]前記カーボンナノチューブ線材を構成する前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線の本数が、10本~1000本である[1]乃至[5]のいずれか1つに記載のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材。
[7]前記カーボンナノチューブ線材を構成する前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線の本数が、300本~600本である[1]乃至[6]のいずれか1つに記載のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材。
[8]前記カーボンナノチューブ線材の円相当直径が、0.05mm以上2.0mm以下である[1]1乃至[7]のいずれか1つに記載のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材。
[9]前記カーボンナノチューブ線材の円相当直径が、0.30mm以上1.0mm以下である[1]乃至[8]のいずれか1つに記載のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材。
[10]前記カーボンナノチューブ線材の撚り数が、1T/m以上1000T/m以下である[1]乃至[9]のいずれか1つに記載のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材。
[11]前記カーボンナノチューブ線材の撚り数が、10T/m以上800T/m以下である[1]乃至[10]のいずれか1つに記載のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材。
[12][1]乃至[11]のいずれか1つに記載のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材の巻線を用いたコイル。
[13]複数のカーボンナノチューブ素線からカーボンナノチューブ線材を作製する工程と、
前記カーボンナノチューブ線材を被覆材で被覆してカーボンナノチューブ被覆線材を作製する工程と、
前記カーボンナノチューブ被覆線材を巻回して巻線とする工程と、を含むカーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法。
[14]複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ集合体または複数のカーボンナノチューブで構成されるカーボンナノチューブ素線からなるカーボンナノチューブ線材を被覆材で被覆してカーボンナノチューブ被覆線材を作製する工程と、
前記カーボンナノチューブ被覆線材を巻回して巻線とする工程と、を含むカーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法。
[15]撚り合わされる前記カーボンナノチューブ集合体または前記カーボンナノチューブ素線の本数が、10本~1000本である[14]に記載のカーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法。
[16]前記カーボンナノチューブ線材の円相当直径が、0.05mm以上2.0mm以下である[13]乃至[15]のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法。
[17]前記カーボンナノチューブ線材の撚り数が、1T/m以上1000T/m以下である[13]乃至[16]のいずれか1つに記載のカーボンナノチューブ被覆線材コイルの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、渦電流が低減し、高出力特性に優れたコイル用カーボンナノチューブ被覆線材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るコイル用カーボンナノチューブ被覆線材の説明図である。
図2】本発明の実施形態に係るコイル用カーボンナノチューブ被覆線材に用いるカーボンナノチューブ線材の説明図である。
図3】本発明の実施形態に係るコイル用カーボンナノチューブ被覆線材をモーターに用いた概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態に係るコイル用カーボンナノチューブ被覆線材について、図面を用いながら説明する。
【0013】
図1に示すように、本発明の実施形態に係るコイル用カーボンナノチューブ被覆線材(以下、「コイル用CNT被覆線材」ということがある。)1は、カーボンナノチューブ線材(以下、「CNT線材」ということがある。)10の外周面に被覆層21が被覆された構成となっている。すなわち、CNT線材10の長手方向に沿って被覆層21が被覆されている。CNT被覆線材1では、CNT線材10の外周面全体が、被覆層21によって被覆されている。また、CNT被覆線材1では、被覆層21はCNT線材10の外周面と直接接した態様となっている。
【0014】
CNT線材10は、複数本のカーボンナノチューブ集合体(以下、「CNT集合体」ということがある。)11または複数本のカーボンナノチューブ素線(以下、「CNT素線」ということがある。)11が撚り合わされて形成され、撚り線の形態となっている(以下、「CNT集合体11」と「CNT素線11」とを総称して「CNT素線等11」ということがある。)。撚り線の形態となっているコイル用CNT被覆線材1においては、撚り線を構成するCNT素線等11は長手方向に高い導電性を示し、他方、CNT素線等11間は導電性が低いため、導体が素線ごとに分割された状態に近くなるため、渦電流を抑制することができ、結果、電流損失を抑制できるコイルを得ることができる。なお、図1では、便宜上、CNT素線等11の本数は7本としている。
【0015】
CNT線材10では、CNT素線等11は、隣接する他のCNT素線等11と被覆層21を介さずに接触している。すなわち、CNT素線等11は、隣接する他のCNT素線等11と直接接触している。CNT線材10を撚り線の形態とすることで、CNT線材10を太線化することができる。また、後述するように、CNT素線等11は、長手方向の導電性に優れた線材であり、このCNT素線等11が、隣接する他のCNT素線等11と直接接触しているので、コイル用CNT被覆線材1は、径方向の断面における導体の断面積率(占積率)を向上させることができる。
【0016】
図2に示すように、コイル用CNT被覆線材1に用いられるCNT素線等11は、1層以上の層構造を有する複数のカーボンナノチューブ(以下、「CNT」ということがある。)11a,11a,・・・で構成される。ここで、CNT線材とはCNTの割合が90質量%以上のCNT線材を意味する。なお、CNT線材におけるCNT割合の算定においては、メッキとドーパントは除く。CNT線材10は、複数のCNT素線等11が、撚り合わされて束ねられた構成となっている。CNT素線等11の長手方向が、CNT線材10の長手方向を形成している。従って、CNT素線等11は、線状となっている。CNT線材10における複数のCNT素線等11,11,・・・は、CNT線材10の長手方向の中心軸に沿って所定の撚り数にて撚り合わされている。従って、CNT線材10における複数のCNT素線等11,11,・・・は、配向している。
【0017】
CNT素線等11は、1層以上の層構造を有する長尺なCNT11aの束である。CNT11aの長手方向が、CNT素線等11の長手方向を形成している。CNT素線等11における複数のCNT11a,11a、・・・は、その長軸方向がほぼ揃って配されている。従って、CNT素線等11における複数のCNT11a,11a、・・・は、配向している。CNT素線等11の円相当直径は、例えば、20nm以上1000nm以下であり、このうち、CNT集合体11の円相当直径は、例えば、20nm以上80nm以下であり、CNT素線11の円相当直径は、例えば、80nm超1000nm以下である。また、CNT11aの最外層の幅寸法は、例えば、1.0nm以上5.0nm以下である。
【0018】
コイル用CNT被覆線材1において、CNT素線等11を構成するCNT11aは、単層構造又は複層構造を有する筒状体であり、それぞれ、SWNT(Single-walled nanotube)、MWNT(Multi-walled nanotube)と呼ばれる。図2では、2層構造を有するCNT11aのみを記載しているが、CNT素線等11には、3層構造以上の層構造を有するCNTや単層構造の層構造を有するCNTも含まれていてもよく、3層構造以上の層構造を有するCNTまたは単層構造の層構造を有するCNTから形成されていてもよい。
【0019】
CNT素線等11を構成するCNT11aにおいて、2層構造を有するCNT11aでは、六角形格子の網目構造を有する2つの筒状体T1、T2が略同軸で配された3次元網目構造体となっており、DWNT(Double-walled nanotube)と呼ばれる。構成単位である六角形格子は、その頂点に炭素原子が配された六員環であり、他の六員環と隣接してこれらが連続的に結合している。
【0020】
CNT素線等11を構成するCNT11aの性質は、上記筒状体のカイラリティに依存する。カイラリティは、アームチェア型、ジグザグ型、及びカイラル型に大別され、アームチェア型は金属性、ジグザグ型は半導体性および半金属性、カイラル型は半導体性および半金属性の挙動を示す。従って、CNT11aの導電性は、筒状体がいずれのカイラリティを有するかによって大きく異なる。コイル用カーボンナノチューブ被覆線材1のCNT線材10を構成するCNT素線等11では、導電性をさらに向上させる点から、金属性の挙動を示すアームチェア型のCNT11aの割合を増大させることが好ましい。
【0021】
次に、CNT線材10におけるCNT11a及びCNT素線等11の配向性について説明する。小角X線散乱(SAXS)を用いて、CNT線材10についてX線散乱像の情報を分析すると、CNT線材10において、複数のCNT11a,11a・・・及び複数のCNT素線等11,11,・・・が良好な配向性を有していることが分かる。このように、複数のCNT11a,11a・・・及び複数のCNT素線等11,11,・・・が良好な配向性を有しているので、CNT線材10は、CNT11a及びCNT素線等11の長手方向に沿って優れた導電性を有している。すなわち、CNT素線等11が長手方向に配向性を有することで、CNT素線等11は径方向の導電性と比較して長手方向の導電性に優れている特性を有する。複数のCNT素線等11が撚り合わされたCNT線材10は、その長手方向の導電性に優れ、かつ撚り合わされたCNT素線等11間の導電性は小さい。従って、コイル用CNT被覆線材1のCNT線材10は、金属製の撚り線からなるコイル用線材と比較して、径方向の導電性を抑えつつ、長手方向に優れた導電性を発揮する。上記から、CNT線材10は、金属製の撚り線と比較して、優れた高周波特性を得ることが可能となる。
【0022】
また、コイル用CNT被覆線材1のCNT線材10は径方向よりも長手方向に優れた導電性を発揮するので、CNT線材10では、それぞれのCNT素線等11に絶縁被覆層を被覆する必要がない。よって、CNT線材10では、CNT素線等11は、隣接する他のCNT素線等11と直接接触した態様で撚り合わせることができる。このように、CNT線材10では、隣接する他のCNT素線等11と直接接触した態様で撚り合わされているので、コイル用CNT被覆線材1は、金属製の撚り線からなるコイル用線材と比較して、導体の占積率を向上させることが可能となる。また、CNT線材10では、各CNT素線等11に絶縁被覆層を形成する必要がないので、製造コストを低減できる。
【0023】
このように、撚り線の形態であるCNT線材10は、渦電流が低減されつつ、優れた高周波特性と導体の高い占積率を得ることが可能となるので、コイル用カーボンナノチューブ被覆線材1は、渦電流を低減して電流損失を抑制しつつ、高出力特性を発揮することができる。
【0024】
1本のCNT線材10あたり、撚り合わされているCNT素線等11の本数は、特に限定されず、例えば、数本から数千本であり、より具体的には、渦電流がより確実に低減されつつ撚り線の形成が容易である点から、2本~5000本が好ましく、高周波特性をより向上させることで優れた高出力特性を得る点から、10本~1000本がより好ましく、300本~600本が特に好ましい。
【0025】
CNT線材10の円相当直径は、特に限定されないが、太線化による大電流の電導と巻回の容易さの点から、0.01mm以上5.0mm以下が好ましく、高周波特性と占積率共に向上させることで優れた高出力特性を得る点から、0.05mm以上2.0mm以下がより好ましく、0.30mm以上1.0mm以下特に好ましい。
【0026】
CNT線材10の撚り数は、特に限定されないが、撚り線の形成と巻回の容易さの点から、1T/m以上1000T/m以下が好ましく、高周波特性と導体の占積率をより向上させることで優れた高出力特性を得る点から、10T/m以上800T/m以下がより好ましく、さらに優れた高周波特性を得る点から50T/m以上500T/m以下がさらに好ましく、優れた許容電流をさらに得る点から50T/m以上300T/m以下が特に好ましい。
【0027】
CNT線材10の密度は、特に限定されず、例えば、長手方向の導電性を向上させつつ撚り線の形成が容易である点から、0.50g/cm以上2.5g/cm以下が好ましく、導体の占積率をより向上させることで優れた高出力特性を得る点から、1.2g/cm以上1.8g/cm以下がより好ましく、さらには優れた許容電流を得る点から1.2g/cm以上1.5g/cm以下が特に好ましく、占積率を向上させる観点からは1.4g/cm以上がより好ましい。また、CNT素線等11の密度は、特に限定されず、例えば、長手方向の導電性を向上させ且つCNT素線等11の生産性に優れる点から、1.0g/cm以上3.0g/cm以下が好ましく、1.1g/cm以上1.8g/cm以下がより好ましく、優れた許容電流を得やすい点から1.5g/cm~1.8g/cmが特に好ましい。
【0028】
次に、コイル用CNT被覆線材1に用いるCNT線材10の外面を被覆する被覆層21について説明する。
【0029】
被覆層21としては、絶縁被覆層を挙げることができる。絶縁被覆層の材料としては、芯線として金属を用いた被覆電線の絶縁被覆層に用いる材料を使用することができ、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン等を挙げることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリイミド、フェノール樹脂等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。
【0030】
図1に示すように、被覆層21は、一層としてもよく、これに代えて、二層以上としてもよい。また、必要に応じて、CNT線材10の外面と被覆層21との間に、さらに、熱硬化性樹脂の層が設けられていてもよい。
【0031】
次に、本発明の実施形態に係るコイル用カーボンナノチューブ被覆線材1の製造方法例について説明する。コイル用カーボンナノチューブ被覆線材1は、まず、CNT11aを製造し、得られた複数のCNT11aからCNT素線等11を製造する。次に、複数本のCNT素線等11を撚り合わせてCNT線材10を製造する。次に、CNT線材10の外周面に被覆層21(例えば、絶縁被覆層)を被覆することで、コイル用カーボンナノチューブ被覆線材1を製造することができる。
【0032】
CNT11aは、例えば、浮遊触媒法(特許第5819888号公報)、基板法(特許第5590603号公報)などの方法で作製することができる。CNT素線等11は、例えば、乾式紡糸(特許第5819888号公報、特許第5990202号公報、特許第5350635号公報)、湿式紡糸(特許第5135620号公報、特許第5131571号公報、特許第5288359号公報)、液晶紡糸(特表2014-530964号公報)等で作製することができる。
【0033】
上記のようにして得られたCNT線材10の外周面に被覆層21を被覆する方法は、アルミニウムや銅の芯線に絶縁被覆層を被覆する方法を使用できる。例えば、被覆層21の原料である熱可塑性樹脂を溶融させ、CNT線材10の周りに押し出してCNT線材10を被覆することで被覆層21を形成する方法を挙げることができる。
【0034】
本発明の実施形態に係るコイル用カーボンナノチューブ被覆線材1は、巻回すことで巻線にしてコイルを作製するための線材として用いる。コイル用カーボンナノチューブ被覆線材1を巻線にしたコイル50は、例えば、モーターやトランスなどの各種電気機器に用いることができる。
【0035】
ここでは、コイル用カーボンナノチューブ被覆線材1を螺旋状に巻いて巻線にしたコイル50を用いたモーターを例にとって、図面を用いて説明する。モーターの構造は特に限定されないが、例えば、図3のモーター100の概略に示すように、モーター100は、中空筒状の金属製ケース51を有し、その内周面には永久磁石53が固着され、金属製ケース51の閉塞部51aの中央には軸受け54が取り付けられている。また、金属製ケース51の内部には回転自在に支持された回転子55が取り付けられている。
【0036】
回転子55は、金属製ケース51の閉塞部51aの軸受け54に一端を貫通させる回転軸56と、回転軸56に取り付けられて金属製ケース51内に収容されるコイル50と、回転軸56の他端の近傍に取り付けられる整流子58とを有している。コイル50は、回転軸56が貫通されている鉄心59にコイル用カーボンナノチューブ被覆線材1が巻き付けられて構成されている。
【0037】
本発明のコイル用カーボンナノチューブ被覆線材1を用いたコイル50は、鉄心59に発生する渦電流を低減でき、また、優れた高周波特性と導体の占積率を得ることができるので、高出力特性に優れたモーター100を得ることができる。
【実施例
【0038】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明の趣旨を超えない限り、下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例1~22、比較例1~2について
実施例1~22のCNT線材の製造方法について
先ず、浮遊触媒法で作製したCNTを直接紡糸する乾式紡糸方法(特許第5819888号公報)または湿式紡糸する方法(特許第5135620号公報、特許第5131571号公報、特許第5288359号公報)で、NT素線(単線)を得た。次に、CNT素線を下記表1に示す撚り線の本数及び撚り数にて撚り合わせて、下記表1に示す円相当直径のCNT線材(撚り線)を得た。
【0040】
CNT線材の外面に被覆層(絶縁被覆層)を被覆する方法について
ポリプロピレン樹脂を用いて、通常の電線製造用押出成形機を用いて導体周囲に押出被覆することにより絶縁被覆層を形成し、下記表1の実施例で使用するコイル用CNT被覆線材を作製した。
【0041】
比較例1~2のコイル用線材について
下記表1に示す単線の銅線(比較例1)と、下記表1に示す撚り線の本数及び撚り数にて撚り合わせた銅リッツ線(比較例2)を用いた。なお、比較例1では、単線である銅線について、上記ポリプロピレン樹脂を用いて、通常の電線製造用押出成形機を用いて銅線周囲に押出被覆することにより絶縁被覆層を形成した。比較例2では、銅リッツ線を構成するそれぞれの銅線に、上記と同様にして絶縁被覆層を形成してから、絶縁被覆銅線を撚り合わせて、銅リッツ線を作製した。
【0042】
撚り線密度の測定
カーボンナノチューブ被覆線材の長手方向に垂直な面で切断し、断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。被覆を含まない、撚り線部分の面積をS1とし、そのうちCNT素線が占める面積をS2、空隙部分の面積をS3とした。この時、S1=S2+S3が成り立つ。後述する素線の密度をd(素線)とし、下記式から撚り線の密度d(撚り線)を算出した。
d(撚り線)=d(素線)×S2/S1
【0043】
素線密度の測定
長さ2cmの素線を用い、密度勾配管法直読式比重測定装置(株式会社柴山科学器械製作所製)によって密度を計測した。
【0044】
上記のように作製した各コイル用線材試料について、以下の評価を行った。
【0045】
(a)高周波特性
実施例の線材及び比較例の線材について、インピーダンスアナライザIM3570(日置電機株式会社製)にて、1Hzのインピーダンス(Z1)と1MHzのインピーダンス(Z2)を測定し、以下の基準から高周波特性を評価した。
「◎」:Z2/Z1の比が2.0未満
「○」:Z2/Z1の比が2.0以上10以下
「×」:Z2/Z1の比が10超
【0046】
(b)コイルにしたときの径方向の断面に占める導体面積の割合(占積率)
実施例の線材及び比較例の線材を用いて、直径10mmの円柱状の鉄製のコアに幅10mmで5層の巻線を手巻きで一定速度で、線材間の隙間ができないように巻くことでコイルを作製した。得られたコイルを、エポキシ樹脂で全体を固めた後、コアの中心軸を通り、なす角が90°の2つの面で、コイルを4分割し、各断面の光学顕微鏡による観察から、占積率(占積率(%)=(導体部分の断面積の和)/(コイルの断面積) × 100)を求め、4つの断面の平均値を算出することによりコイルの占積率を求めた。以下の基準から占積率を評価した。
「◎」:80%超
「○」:50%以上80%以下
「×」:50%未満
【0047】
(c)渦電流低減特性
(b)に記載の方法で作製したコイルについて、JIS C 4034-2-1に記載の方法で、10kHz、50kHz、100kHz、500kHz、1MHzの5段階の交流で鉄損(Pfe)を測定した。横軸に周波数(f)、縦軸に周波数、縦軸にPfe/fをプロットし、傾きαを算出した。
同じ径の銅の単線で同様の測定を実施して求めた傾きαCuとの比α/αCuを算出し、以下の基準から渦電流提言特性を評価した。
「◎」:α/αCuが10以上
「○」:α/αCuが3以上10未満
「×」:α/αCuが3未満
【0048】
(d)許容電流
実施例の線材5cm及び比較例の線材5cmについて、ソースメータ(ケースレー社製)で電流を徐々に上げながら流していき、赤熱して断線する電流値を測定し、これを許容電流とした。得られた許容電流の値から単位断面積当たりの許容電流を算出し、下記の基準で評価した。
「◎」:30A/mm以上
「○」:15A/mm以上30A/mm未満
「×」:15A/mm未満
【0049】
高周波特性と占積率と渦電流低減特性及び許容電流の結果を、下記表1に示す。なお、高周波特性と占積率のうち、少なくともいずれか一方の評価結果が「◎」または高周波特性と占積率のいずれもが「○」以上の評価結果の場合、本発明の目的とする高出力特性が得られると判断した。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示すように、CNT素線を撚り合わせて得たCNT線材を用いたコイル用CNT被覆線材である実施例では、高周波特性と占積率のうち、少なくともいずれか一方の評価結果が「◎」または高周波特性と占積率のいずれもが「○」以上の評価結果であり、高出力特性が得られることが判明した。さらに、導体としてCNT素線の撚り線であるCNT線材を用いた実施例では、渦電流を低減できたので、電流損失を抑制できることが判明した。
【0052】
特に、CNT素線の撚り本数が18本~4710本である実施例1~21では、高周波特性が「○」以上の評価であり、より優れた高出力特性が得られることが判明した。また、CNT線材の撚り数が100T/m~800T/mであり、素線密度が1.8g/cmである実施例2~4、8、10~12、14~16、19、20、22では、導体の占積率が「◎」に向上して、より優れた高出力特性が得られることが判明した。また、素線密度が1.5g/cm~1.8g/cmであると、撚り数を5T/m以上500T/m未満とすることで、優れた許容電流値を確実に得ることができた。さらに、CNT素線の撚り本数が18本~4710本、且つCNT線材の撚り数が5T/m~800T/mである実施例1~21では、高周波特性と占積率のいずれもが「○」以上となり、さらに優れた高出力特性が得られることが判明した。
【0053】
また、CNT線材の密度が1.4g/cm~1.7g/cmである実施例2~4、8、10~12、14~16、19、20、22では、導体の占積率を「◎」に向上させることで優れた高出力特性が得られることが判明した。また、CNT線材の密度が1.2g/cm~1.5g/cmである実施例1、2、7~10、13、14、17~22では、許容電流の評価が「◎」と、優れた許容電流値を得ることができた。
【0054】
一方で、単線である銅線を用いた比較例1では、高周波特性が得られず、また、占積率が「○」評価にとどまったので、高出力特性が得られないことが判明した。さらに、導体として単線である銅線を用いた比較例1では、渦電流を十分低減できなかった。また、銅線を撚り合わせたリッツ線を用いた比較例2では、占積率が得られず、また、高周波特性が「○」評価にとどまったので、高出力特性が得られないことが判明した。さらに、比較例1、2では、許容電流値が15A/mm未満と、良好な許容電流が得られなかった。
【符号の説明】
【0055】
1 コイル用カーボンナノチューブ被覆線材
10 カーボンナノチューブ線材
11 カーボンナノチューブ素線等
11a カーボンナノチューブ
21 被覆層
図1
図2
図3