(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/44 20060101AFI20231222BHJP
【FI】
G02B6/44 331
(21)【出願番号】P 2020553894
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2019042179
(87)【国際公開番号】W WO2020090742
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2018204298
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武笠 和則
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-033466(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159146(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0058780(US,A1)
【文献】特表2016-522428(JP,A)
【文献】特開2013-125064(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第3098631(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/10
G02B 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英系ガラスからなるコア部と、
前記コア部の外周を覆い、前記コア部の最大屈折率よりも低い屈折率を有する石英系ガラスからなるクラッド部と、
前記クラッド部の外周を覆うコーティング部と、
を備え、
前記クラッド部の外径は100μm以下であり、
前記コア部の比屈折率差Δ1は
0.25%以上0.5%以下であり、
前記コーティング部の厚さは10μm以上であ
り、
前記コーティング部は、前記クラッド部側に位置するプライマリコーティング層と、前記プライマリコーティング層の外周側に位置するセカンダリコーティング層とを有し、前記プライマリコーティング層の厚さが10μm以上30μm以下であり、
波長1550nmにおけるマイクロベンド損失が、ITU-T G.652で定義される規格に準拠する特性を有しかつクラッド部の外周に厚さが62.5μmの樹脂コーティング部を有する標準光ファイバの波長1550nmにおけるマイクロベンド損失の10倍以下であり、
ステップ型、W型、トレンチ型のいずれかの屈折率プロファイルを有する
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項2】
前記クラッド部の外径が95μm以下である
ことを特徴とする請求項
1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記マイクロベンド損失は、研磨紙法にて測定した値である
ことを特徴とする請求項
1または2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記コア部は、ゲルマニウムが添加されている
ことを特徴とする請求項1
または2記載の光ファイバ。
【請求項5】
ステップ型の屈折率プロファイルを有する
ことを特徴とする請求項1~
3のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項6】
W型の屈折率プロファイルを有
し、
前記コア部は、直径が2aのセンタコア部と、センタコア部の外周を囲んでおり、屈折率がクラッド部の屈折率よりも小さく内径が2aで外径が2bのディプレスト層とで構成され、
前記ディプレスト層の比屈折率差Δ2は、-0.7%以上-0.1%以下であり、
b/aが1.5以上6.0以下である
ことを特徴とする請求項1~
3のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項7】
トレンチ型の屈折率プロファイルを有
し、
前記コア部は、直径が2aのセンタコア部と、センタコア部の外周を囲んでおり、屈折率がセンタコア部の屈折率よりも小さく内径が2aで外径が2bの中間層と、前記中間層の外周を囲んでおり、屈折率が前記クラッド部の屈折率よりも小さく内径が2bで外径が2cのトレンチ層とで構成され、
前記中間層の比屈折率差Δ2は-0.2%以上0.2%以下であり、
前記トレンチ層の比屈折率差Δ3は-0.7%以上-0.1%以下であり、
b/aが1.5以上5.0以下であり、
c/aが2.0以上7.0以下である
ことを特徴とする請求項1~
3のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項8】
波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.0μmから10.0μmまでの範囲内である
ことを特徴とする請求項1~
6のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【請求項9】
波長1550nmにおけるモードフィールド径が9μm以上である
ことを特徴とする請求項1~
7のいずれか一つに記載の光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
データコムやテレコムの分野において、高密度光ファイバケーブルを実現する光ファイバとして、細径の光ファイバが注目されている。ここで、細径光ファイバとは、主に光ファイバのガラスからなる部分を細径化したものであり、クラッド径が細径のものである。ただし、クラッド径が細径化されたことによって、クラッド部の外周を覆うように形成されたコーティング部を含む外径が細径化されたものも細径光ファイバに含まれる。
【0003】
従来、細径の光ファイバとして、クラッド部に対するコア部の比屈折率差を高くした構成が開示されている(非特許文献1)。非特許文献1の光ファイバは、比屈折率差を高くしているので、その特性が、ITU-T(国際電気通信連合)G.652で定義される標準的なシングルモード光ファイバの規格(以下、G.652規格)に準拠するものではない。また、細径の光ファイバとして、比屈折率差が-0.08%以上のトレンチ層を設けた構成が開示されている(特許文献1)。特許文献1の光ファイバは、G.652規格に準拠するものであり、そのクラッド径(ファイバ径)は100μm~125μm程度である。また、細径の光ファイバとして、プライマリコート層とセカンダリコート層とをコーティング部として有し、セカンダリコーティング層を25μm以下にした構成が開示されている(特許文献2)。特許文献2の光ファイバは、ファイバ径は125μmであるが、コーティング厚を小さくすることによって細径化を実現している。
【0004】
また、特許文献3には、有効コア断面積(Aeff)が130μm2以上と比較的大きい光ファイバにて、マイクロベンド損失を抑制する構成が開示されている。特許文献3の光ファイバは、プライマリコーティング層の外径が185μm以上220μm以下であり、セカンダリコーティング層の外径が225μm以上260μm以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/190297号
【文献】特開平5-19144号公報
【文献】特開2015-219271号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】村瀬 他、「細径クラッドファイバの開発」、昭和電線レビュー、vol.53、N0.1(2003)、pp.32-36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、石英系ガラスからなる光ファイバにおいて、クラッド径を細径化、たとえば100μm以下にした場合には、その細径化が光ファイバのマイクロベンド損失に影響を及ぼし、マイクロベンド損失が増加すると考えられる。特に、マイクロベンド損失の増加は、最も実用化されている光ファイバである、G.652規格に準拠する特性、またはそれに近い特性を有する光ファイバにおいて重要である。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、細径であるとともにマイクロベンド損失の増加が抑制された光ファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る光ファイバは、石英系ガラスからなるコア部と、前記コア部の外周を覆い、前記コア部の最大屈折率よりも低い屈折率を有する石英系ガラスからなるクラッド部と、前記クラッド部の外周を覆うコーティング部と、を備え、前記クラッド部の外径は100μm以下であり、前記コア部の比屈折率差Δ1は0.5%以下であり、前記コーティング部の厚さは10μm以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様に係る光ファイバは、前記コーティング部は、前記クラッド部側に位置するプライマリコーティング層と、前記プライマリコーティング層の外周側に位置するセカンダリコーティング層とを有し、前記プライマリコーティング層の厚さが10μm以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様に係る光ファイバは、前記プライマリコーティング層の厚さが30μm以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様に係る光ファイバは、前記クラッド部の外径が95μm以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の一態様に係る光ファイバは、波長1550nmにおけるマイクロベンド損失が、ITU-T G.652で定義される規格に準拠する特性を有しかつクラッド部の外周に厚さが62.5μmの樹脂コーティング部を有する標準光ファイバの波長1550nmにおけるマイクロベンド損失の10倍以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の一態様に係る光ファイバは、前記マイクロベンド損失は、研磨紙法にて測定した値であることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係る光ファイバは、ステップ型の屈折率プロファイルを有することを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る光ファイバは、W型の屈折率プロファイルを有することを特徴とする。
【0017】
本発明の一態様に係る光ファイバは、トレンチ型の屈折率プロファイルを有することを特徴とする。
【0018】
本発明の一態様に係る光ファイバは、波長1310nmにおけるモードフィールド径が8.0μmから10.0μmまでの範囲内であることを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様に係る光ファイバは、波長1550nmにおけるモードフィールド径が9μm以上であることを特徴とする。
【0020】
本発明の一態様に係る光ファイバは、前記コア部の比屈折率差Δ1が0.25%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれは、細径であるとともにマイクロベンド損失の増加が抑制された光ファイバを実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、実施形態に係る光ファイバの模式的な断面図である。
【
図2A】
図2Aは、実施形態に係る光ファイバにおいて用いることができるステップ型の屈折率プロファイルの模式図である。
【
図2B】
図2Bは、実施形態に係る光ファイバにおいて用いることができるW型の屈折率プロファイルの模式図である。
【
図2C】
図2Cは、実施形態に係る光ファイバにおいて用いることができるトレンチ型の屈折率プロファイルの模式図である。
【
図3】
図3は、センタコアΔと、モードフィールド径または限界ファイバ径との関係の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、有効コア断面積と規格化マイクロベンド損失との関係の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、プライマリ厚と規格化マイクロベンド損失との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する構成要素には適宜同一の符号を付している。また、本明細書においては、カットオフ波長とは、ITU-T G.650.1で定義するケーブルカットオフ波長をいう。また、その他、本明細書で特に定義しない用語についてはG.650.1およびG.650.2における定義、測定方法に従うものとする。
【0024】
(実施形態)
図1は、実施形態に係る光ファイバの模式的な断面図である。光ファイバ1は、略中心に位置するコア部1aと、コア部1aの外周を覆うクラッド部1bと、クラッド部1bの外周を覆うコーティング部1cとを備えている。
【0025】
コア部1aとクラッド部1bとは、いずれも石英系ガラスからなる。たとえば、コア部1aは、ゲルマニウム(Ge)やフッ素(F)などの屈折率調整用のドーパントが添加された石英ガラスからなる。クラッド部1bは、コア部1aの最大屈折率よりも低い屈折率を有する。クラッド部1bは、たとえば屈折率調整用のドーパントを含まない純石英ガラスからなる。
【0026】
クラッド部1bの外径(クラッド径)は、100μm以下、好ましくは100μm未満であり、G.652規格に準拠するシングルモード光ファイバのクラッド径である約125μmよりも細径化されている。なお、クラッド径は95μm以下であることが細径化の観点からはより好ましい。以下、G.652規格に準拠するシングルモード光ファイバを標準光ファイバとして標準SMFと記載する場合がある。このような標準SMFは、通常はクラッド部の外周に厚さが約62.5μmの樹脂コーティング部を有している。したがって、樹脂コーティング部の外径は約250μmとなる。
【0027】
光ファイバ1は、たとえば
図2A、
図2B、および
図2Cに示すような屈折率プロファイルを有する。
図2A、
図2B、および
図2Cはいずれも、光ファイバ1のコア部1aの中心軸から半径方向における屈折率プロファイルを示している。
【0028】
図2Aは、ステップ型の屈折率プロファイルを示している。
図2Aにおいて、プロファイルP11がコア部1aの屈折率プロファイルを示し、プロファイルP12がクラッド部1bの屈折率プロファイルを示す。なお、屈折率プロファイルは、クラッド部1bに対する比屈折率差で示している。ステップ型の屈折率プロファイルでは、コア部1aの直径(コア径)は2aであり、クラッド部1bに対するコア部1aの比屈折率差はΔ1である。
【0029】
図2Bは、いわゆるW型の屈折率プロファイルを示している。
図2Bにおいて、プロファイルP21がコア部1aの屈折率プロファイルを示し、プロファイルP22がクラッド部1bの屈折率プロファイルを示す。W型の屈折率プロファイルでは、コア部1aは、直径が2aのセンタコア部と、センタコア部の外周を囲んでおり、屈折率がクラッド部の屈折率よりも小さく内径が2aで外径が2bのディプレスト層とで構成されている。クラッド部1bに対するセンタコア部の比屈折率差はΔ1である。クラッド部1bに対するディプレスト層の比屈折率差はΔ2である。
【0030】
図2Cは、いわゆるトレンチ型の屈折率プロファイルを示している。
図2Cにおいて、プロファイルP31がコア部1aの屈折率プロファイルを示し、プロファイルP32がクラッド部1bの屈折率プロファイルを示す。トレンチ型の屈折率プロファイルでは、コア部1aは、直径が2aのセンタコア部と、センタコア部の外周を囲んでおり、屈折率がセンタコア部の屈折率よりも小さく内径が2aで外径が2bの中間層と、中間層の外周を囲んでおり、屈折率がクラッド部の屈折率よりも小さく内径が2bで外径が2cのトレンチ層とで構成されている。中間層に対するセンタコア部の比屈折率差はΔ1である。クラッド部1bに対する中間層の比屈折率差はΔ2である。なお、Δ2は、通常は0%またはその近傍、たとえば-0.2%~0.2%の間の範囲に設定される。クラッド部1bに対するトレンチ層の比屈折率差はΔ3である。
【0031】
図1に戻って、コーティング部1cは、たとえば樹脂からなり、光ファイバ1のガラス部分を保護する機能を有する。コーティング部1cは、たとえばUV硬化樹脂等からなり、1層または2層以上の層構造を有する。コーティング部1cが2層構造の場合、コーティング部1cは、クラッド部側に位置するプライマリコーティング層と、プライマリコーティング層の外周側に位置するセカンダリコーティング層とからなる。コーティング部1cに用いられるUV硬化樹脂としては、たとえばウレタンアクリレート系、ポリブタジエンアクリレート系、エポキシアクリレート系、シリコーンアクリレート系、ポリエステルアクリレート系などがあるが、光ファイバのコーティングに使用されるものであれば特に限定されない。
【0032】
コーティング部1cは、1層構造の場合は、ヤング率が10~800MPaの程度であり、本実施形態では200MPaである。一方、コーティング部1cが2層構造の場合は、プライマリコーティング層のヤング率は0.2~1.5MPaの程度であり、本実施形態では0.5MPaである。セカンダリコーティング層のヤング率は500~2000MPaの程度であり、本実施形態では1000MPaである。
【0033】
コーティング部1cの厚さは10μm以上であり、特に2層構造の場合はプライマリコーティング層の厚さが10μm以上である。
【0034】
本実施形態に係る光ファイバ1は、上記構成を備えることによって、クラッド部1bが100μm以下と細径であるとともに、マイクロベンド損失の増加が抑制されたものとなる。したがって、光ファイバ1は、高密度光ファイバケーブルの実現に好適なものである。
【0035】
以下、具体的に説明する。本発明者らは、マイクロベンド損失の増加が抑制された細径光ファイバを実現するために、以下のような検討を行った。
【0036】
まず、細径光ファイバを実現するためには、リーケージ損失(漏れ損失)が小さいことが重要である。リーケージ損失は、たとえば波長1625nmにて0.001dB/km以下に抑制されていることが好ましい。また、細径光ファイバを標準SMFと光接続した際に接続損失を抑制するためには、細径光ファイバの波長1550nmにおけるモードフィールド径(MFD)が9μm以上であることが好ましい。そこで、
図2に例示する3種の屈折率プロファイルの場合に、
図2に示す屈折率プロファイルに関するパラメータの様々な組み合わせに対してシミュレーション計算を行ない、各組み合わせにおける光ファイバの光学特性を算出した。そして、リーケージ損失が波長1625nmにて0.001dB/km以下とできる最小のクラッド径(限界ファイバ径)と、波長1550nmにおけるMFDとを、シミュレーション計算によって調査した。なお、限界ファイバ径が小さい程、光ファイバの細径化に適したパラメータの組み合わせといえる。
【0037】
表1は、
図2に示したパラメータであるΔ1、Δ2、Δ3、b/a、c/aについて、シミュレーション計算に用いた値の範囲を示している。なお、2aは、6.5μmから10μmまでの範囲内の値とした。
【0038】
【0039】
図3は、上記計算結果に基づく、センタコアΔと、MFDまたは限界ファイバ径との関係の一例を示す図である。ここで、センタコアΔはΔ1を意味する。また、
図3では、シミュレーション計算の結果においてカットオフ波長が1530nm以下であったデータのみをプロットしている。また、
図3では、白四角または黒菱形の凡例で示したデータ点について、データ点の輪郭が重なっている部分では輪郭の図示を省略している。また、
図3では、屈折率プロファイルによって凡例を区別していないので、屈折率プロファイルによらない傾向を示しているといえる。
【0040】
図3から明らかなように、波長1550nmにおけるMFDを9μm以上にする場合には、屈折率プロファイルによらず、センタコアΔ(Δ1)を0.5%以下にすることが好ましい。また、限界ファイバ径を100μm以下にする場合には、センタコアΔを0.25%以上にすることが好ましく、限界ファイバ径を95μm以下にする場合には、センタコアΔを0.3%以上にすることが好ましい。したがって、Δ1は0.5%以下が好ましく、0.25%以上が好ましく、0.3%以上がより好ましい。なお、細径光ファイバの波長1550nmにおけるMFDを10.5μm以下程度とし、標準SMFのMFDとの差を小さくする観点からも、Δ1は0.25%以上が好ましい。このように2つ光ファイバのMFDの差を小さくすることによって、2つ光ファイバの接続特性等の適合性が確保される。
【0041】
なお、細径光ファイバのMFDを近づけ、適合性を高くする対象の光ファイバとしては、標準SMFの他に、たとえば以下の光ファイバが例示できる。すなわち、ITU-TのG.654規格に準拠する光ファイバ(いわゆるカットオフシフト光ファイバ)やG.657規格に準拠する光ファイバ(いわゆる曲げ耐性光ファイバ)などである。したがって、細径光ファイバの特性としては、波長1310nmにおけるMFDが8.0μmから10.0μmまでの範囲内であることも好ましい。なお、G.652規格では、波長1310nmにおけるMFDは8.6μmから9.5μmまでの範囲内である。
【0042】
つづいて、マイクロベンド損失の検討結果について説明する。通常、光ファイバの伝送損失は、光ファイバケーブルとされた状態では増加する。このときの伝送損失の増加量はマイクロベンド損失と密接な関係があり、マイクロベンド損失が大きいと増加量も大きい。
【0043】
細径光ファイバのマクロベンド損失を検討する上で、まず、現在、海底光ケーブルなどの用途で実用化されている、Aeffが大きい光ファイバ(Aeff拡大光ファイバとも呼ばれる)におけるマイクロベンド損失の程度を検討した。
【0044】
図4は、標準SMFおよび幾つかのAeff拡大光ファイバの波長1550nmにおけるAeffと、規格化マイクロベンド損失との関係の一例を示す図である。ここで、規格化マイクロベンド損失とは、或る光ファイバのマイクロベンド損失を、標準SMFのマイクロベンド損失で規格化した値である。なお、標準SMFのAeffは約80μm2であり、標準SMF自身の規格化マイクロベンド損失は1である。なお、標準SMFは、クラッド部の外周に厚さが約62.5μmの2層構造の樹脂コーティング部を有しているものとする。
【0045】
細径光ファイバのマイクロベンド損失についても、実用化されている、Aeffが150μm2程度までのAeff拡大光ファイバのマイクロベンド損失程度に抑制することが、実用上好ましい。したがって、
図4からわかるように、規格化マイクロベンド損失は10以下が好ましく、5以下がより好ましい。すなわち、細径光ファイバのマイクロベンド損失は、標準SMFの10倍以下が好ましく、5倍以下がより好ましい。なお、
図4に示すマイクロベンド損失は、JIS C6823:2010_10で規定された固定径ドラム法(研磨紙法の一種)で測定されたものである。
【0046】
以上の検討結果をもとに、屈折率プロファイルをステップ型、W型、またはトレンチ型に設定して、各プロファイルにおけるΔ1等の設計パラメータをシミュレーション計算にて最適化した。ここで、最適化とは、G.652規格、G.654規格、またはG.657規格で規定される光ファイバに対する適合性を最適化することを意味する。このシミュレーション計算結果に基づき、クラッド径を75μmから100μmまでの範囲の異なる値とした複数の細径光ファイバを作製した。なお、コーティング部については、プライマリコーティング層とセカンダリコーティング層との2層構造とした。プライマリコーティング層のヤング率は0.5MPaとし、セカンダリコーティング層のヤング率は1000MPaとした。セカンダリコーティング層の厚さは120μmとし、プライマリコーティング層の厚さは5μmから30μmまでの範囲の異なる値とした。そして、作製したこれらの細径光ファイバのマイクロベンド損失を、固定ドラム径法にて測定した。
【0047】
図5は、上記測定におけるプライマリ厚と規格化マイクロベンド損失との関係の一例を示す図である。ここで、プライマリ厚とはプライマリコーティング層の厚さである。
図5に示すように、規格化マイクロベンド損失を10以下にするには、プライマリ厚を10μm以上とする必要がある。つまり、コーティング部の厚さは10μm以上とする必要がある。また、プライマリ厚が30μmであれば、規格化マイクロベンド損失を1程度とできるので、プライマリ厚は30μm以下でもよい。また、セカンダリコーティング層の厚さと規格化マイクロベンド損失との間にはあまり相関がなく、プライマリ厚が重要であることも確認された。
【0048】
なお、上記実施形態では、屈折率プロファイルとしてステップ型、W型、トレンチ型を例示しているが、セグメントコア型やW+サイドコア型などのその他の屈折率プロファイルについても適用できる。
【0049】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る光ファイバは、データコムやテレコムなどの光通信分野に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1 光ファイバ
1a コア部
1b クラッド部
1c コーティング部
P11、P12、P21、P22、P31、P32 プロファイル