IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-レーザ加工方法およびレーザ加工装置 図1
  • 特許-レーザ加工方法およびレーザ加工装置 図2
  • 特許-レーザ加工方法およびレーザ加工装置 図3
  • 特許-レーザ加工方法およびレーザ加工装置 図4
  • 特許-レーザ加工方法およびレーザ加工装置 図5
  • 特許-レーザ加工方法およびレーザ加工装置 図6
  • 特許-レーザ加工方法およびレーザ加工装置 図7
  • 特許-レーザ加工方法およびレーザ加工装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-21
(45)【発行日】2024-01-04
(54)【発明の名称】レーザ加工方法およびレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/0622 20140101AFI20231222BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20231222BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20231222BHJP
   H01S 3/131 20060101ALI20231222BHJP
   B23K 26/38 20140101ALN20231222BHJP
   H01S 3/067 20060101ALN20231222BHJP
【FI】
B23K26/0622
B23K26/00 N
H01S3/00 B
H01S3/131
B23K26/38 A
H01S3/067
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022552056
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2021034982
(87)【国際公開番号】W WO2022065407
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2020161473
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻野 篤
(72)【発明者】
【氏名】田村 亮祐
(72)【発明者】
【氏名】柏木 孝介
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正和
(72)【発明者】
【氏名】富永 敬介
(72)【発明者】
【氏名】茅原 崇
(72)【発明者】
【氏名】松永 啓伍
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-107349(JP,A)
【文献】特開2015-032682(JP,A)
【文献】特表2013-512111(JP,A)
【文献】特表平2-500628(JP,A)
【文献】特開2010-171131(JP,A)
【文献】国際公開第2012/036097(WO,A1)
【文献】特開2010-081884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
H01S 3/00
H01S 3/067
H01S 3/131
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1枚の金属箔からなる加工対象をレーザ加工する方法であって、
半導体レーザを含む励起光源にパルス状の電力を供給し、パルス状の励起光を発生させるステップと、
光ファイバレーザの増幅用光ファイバ前記励起を供給し、光励起によりレーザ光を発生させるステップと、
前記加工対象の表面に前記レーザ光を照射するステップと、
を含み、
前記レーザ光は、前記レーザ光の発生の初期に、前記光ファイバレーザにおける緩和振動発振に起因して発生するパルス光成分と、前記パルス光成分よりも時間的に後に続く、連続光成分とを含み、
前記パルス光成分のエネルギーに対する前記連続光成分のエネルギーの比が所定値以下になるように、前記連続光成分の持続時間を制限するステップをさらに含む
レーザ加工方法。
【請求項2】
前記比が40以下である
請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記比が5以下である
請求項2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記レーザ光の時間幅が12μs以下である
請求項1~3のいずれか一つに記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記時間幅が2.3μs以下である
請求項4に記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記電力のパルスは矩形状であって、時間幅が10μs以下である
請求項1~5のいずれか一つに記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記電力のパルスは矩形状であって、時間幅が最短オン時間以上に設定され、
前記最短オン時間は、前記時間幅が当該最短オン時間よりも狭いと前記パルス光成分のピークパワーが減少する値である
請求項1~6のいずれか一つに記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
前記電力のパルスの繰り返し周波数は5kHz以上である
請求項のいずれか一つに記載のレーザ加工方法。
【請求項9】
前記電力のパルスの繰り返し周波数は50kHz以上300kHz未満である
請求項に記載のレーザ加工方法。
【請求項10】
前記加工対象の表面における前記レーザ光の照射位置を前記加工対象に対して相対的に移動させるステップをさらに含む
請求項1~のいずれか一つに記載のレーザ加工方法。
【請求項11】
少なくとも1枚の金属箔からなる加工対象をレーザ加工する装置であって、
半導体レーザを含む励起光源と、増幅用光ファイバとを備え、前記励起光源から前記増幅用光ファイバにパルス状の励起を供給し、光励起によりレーザ光を発生させる光ファイバレーザであるレーザ装置と、
前記加工対象の表面に前記レーザ光を照射する光学ヘッドと、
前記レーザ装置を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記レーザ光が、前記レーザ光の発生の初期に、前記光ファイバレーザにおける緩和振動発振に起因して発生するパルス光成分と、前記パルス光成分よりも時間的に後に続く連続光成分とを含み、前記パルス光成分のエネルギーに対する前記連続光成分のエネルギーの比が所定値以下になるように、前記連続光成分の持続時間を制限する制御を行う
レーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工方法およびレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ファイバレーザ装置を用いて加工対象を加工する方法として、ジャイアントパルスを加工対象に照射して、該加工対象の温度を上げてレーザ光の吸収率を上昇させ、ジャイアントパルスの発生後に、定常出力のレーザ光を加工対象に照射して該加工対象を加工する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6347676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された方法では、定常出力のレーザ光を加工対象に照射して該加工対象を加工するため、薄い金属箔からなる加工対象を加工する場合、たとえば加工した部分にドロスや変色などの不具合が発生することがあり、改善の余地があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、金属箔からなる加工対象の加工に適するレーザ加工方法およびレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、少なくとも1枚の金属箔からなる加工対象をレーザ加工する方法であって、レーザ媒質にパルス状の励起エネルギーを供給し、レーザ光を発生させるステップと、前記加工対象の表面に前記レーザ光を照射するステップと、を含み、前記レーザ光は、パルス光成分と、前記パルス光成分よりも時間的に後に続く、連続光成分とを含み、前記パルス光成分のエネルギーに対する前記連続光成分のエネルギーの比が所定値以下になるように、前記連続光成分の持続時間を制限するステップをさらに含む、レーザ加工方法である。
【0007】
前記比が40以下であるものでもよい。
【0008】
前記比が5以下であるものでもよい。
【0009】
前記レーザ光の時間幅が12μs以下であるものでもよい。
【0010】
前記時間幅が2.3μs以下であるものでもよい。
【0011】
励起光源にパルス状の電力を供給し、前記励起エネルギーとして励起光を発生させるステップをさらに含むものでもよい。
【0012】
前記電力のパルスは矩形状であって、時間幅が10μs以下であるものでもよい。
【0013】
前記電力のパルスは矩形状であって、時間幅が最短オン時間以上に設定され、前記最短オン時間は、前記時間幅が当該最短オン時間よりも狭いと前記パルス光成分のピークパワーが減少する値であるものでもよい。
【0014】
前記電力のパルスの繰り返し周波数は5kHz以上であるものでもよい。
【0015】
前記電力のパルスの繰り返し周波数は50kHz以上300kHz未満であるものでもよい。
【0016】
前記加工対象の表面における前記レーザ光の照射位置を前記加工対象に対して相対的に移動させるステップをさらに含むものでもよい。
【0017】
本発明の一態様は、加工対象をレーザ加工する装置であって、レーザ媒質にパルス状の励起エネルギーを供給し、レーザ光を発生させるレーザ装置と、前記加工対象の表面に前記レーザ光を照射する光学ヘッドと、前記レーザ装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記レーザ光が、前記レーザ光の発生の初期に、緩和振動発振に起因して発生するパルス光成分と、前記パルス光成分よりも時間的に後に続く連続光成分とを含み、前記パルス光成分のエネルギーに対する前記連続光成分のエネルギーの比が所定値以下になるように、前記連続光成分の持続時間を制限する制御を行う、レーザ加工装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属箔からなる加工対象の加工に適するレーザ加工方法およびレーザ加工装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施形態1に係るレーザ加工装置の模式的な構成図である。
図2図2は、図1に示すレーザ装置の模式的な構成図である。
図3図3は、図2に示す駆動部の模式的な構成図である。
図4図4は、レーザ光の1パルスの波形を示す図である。
図5図5は、図4の一部の時間範囲の拡大図である。
図6図6は、レーザ光の時間幅の説明図である。
図7図7は、繰り返し周波数と最短オン時間との関係の一例を示す図である。
図8図8は、実施形態2に係るレーザ加工装置の模式的な構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付し、重複説明を省略する。また、各図面において、XYZ直交座標系を用いて方向を表す場合がある。
【0021】
(実施形態1)
<レーザ加工装置>
図1は、実施形態1に係るレーザ加工装置の模式的な構成図である。このレーザ加工装置100は、レーザ装置110と、光学ヘッド120と、レーザ装置110と光学ヘッド120とを接続する光ファイバ130と、制御装置140と、を備えている。
【0022】
レーザ加工装置100は、溶接、穿孔、切断等のレーザ加工のうち、レーザ切断を行う装置である。
【0023】
レーザ加工装置100の加工対象Wは、金属材料で構成されている。金属材料は、たとえば、銅や銅合金のような銅系材料や、アルミニウムやアルミニウム合金のようなアルミニウム系材料である。
【0024】
また、加工対象Wは、少なくとも1枚の金属箔で構成されている。たとえば、加工対象Wは、1枚の金属箔、または積層された複数枚の金属箔で構成されている。ここで、金属箔は、たとえばJIS H 4160に規定される、厚さが6μmから200μmのアルミニウム系の圧延材であるが、厚さはそれには限定されず、たとえば500μm以下や250μm以下でもよい。金属箔が他の金属材料からなる場合も同様である。
【0025】
また、加工対象Wは、リチウムイオン電池のような電池の電極であってもよい。この場合、加工対象Wには、二酸化マンガンやリチウムのような活物質が塗布されていてもよい。また、加工対象Wには活物質とは異なる物質が塗布されていたり、めっき層のような表層や被膜が表面の全面にまたは部分的に形成されていたりしてもよい。
【0026】
レーザ装置110は、一例としては、数kWのパワーのシングルモードのレーザ光を出力できるよう構成されている。レーザ装置110については後に詳述する。
【0027】
光ファイバ130は、レーザ装置110から出力されたレーザ光を光学ヘッド120に導く。レーザ装置110が、シングルモードレーザ光を出力する場合、光ファイバ130は、シングルモードレーザ光を伝播するよう構成される。この場合、シングルモードレーザ光のMビーム品質は、1.2以下に設定される。また、レーザ装置110が、マルチモードレーザ光を出力する場合、光ファイバ130はマルチモードレーザ光を伝播するよう、構成される。
【0028】
光学ヘッド120は、レーザ装置110から入力されたレーザ光を、加工対象Wへ照射するための光学装置である。光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と、集光レンズ122と、を有している。なお、光学ヘッド120は、コリメートレンズ121および集光レンズ122以外の光学部品を有してもよい。
【0029】
コリメートレンズ121は、入力されたレーザ光をコリメートする。集光レンズ122は、コリメートされたレーザ光を集光し、レーザ光L(出力光)として、加工対象Wに照射する。
【0030】
このような構成により、光学ヘッド120は、加工対象Wの表面Waへ、Z軸の負の向きにレーザ光Lを照射する。
【0031】
なお、加工対象Wの表面におけるレーザ光Lの照射位置は、加工対象Wに対して相対的に移動可能である。このような相対的な移動は、光学ヘッド120の移動、加工対象Wの移動、または光学ヘッド120および加工対象Wの双方の移動により、光学ヘッド120と加工対象Wとが相対的に移動することによって実現され得る。たとえば、加工対象Wを固定し、光学ヘッド120をX軸の正の向きに移動させれば、加工対象Wの表面におけるレーザ光Lの照射位置は、図1の掃引方向SDに掃引される。このような相対移動を実現するため、光学ヘッド120はXY方向に移動可能な移動機構を備えているか、加工対象Wは加工対象をXY方向に移動させることが可能なステージに支持されている。
【0032】
ただし、レーザ加工が穿孔の場合は上記のような相対移動は必ずしも必要ではなく、切断や溶接においても、たとえばスポット溶接や細い金属箔の切断などであれば、相対移動が必要でない場合もある。
【0033】
制御装置140は、レーザ装置110の作動や、光学ヘッド120または加工対象Wを支持するステージの駆動機構の作動を制御する。制御装置140は、たとえばパーソナルコンピュータおよびその周辺機器によって構成され得る。
【0034】
図2は、図1に示すレーザ装置110の模式的な構成図である。レーザ装置110は、連続波(CW)のレーザ光を出力し得るCWレーザ装置として構成されている。したがって、パルスレーザ光を出力するためのQスイッチ機構を備えていなくてもよい。
【0035】
レーザ装置110は、光ファイバレーザであって、複数の半導体励起光源1と、複数の光ファイバ2と、光合波器3と、光ファイバブラッググレーティング(FBG)4と、増幅用光ファイバ5と、FBG7と、光合波器8と、複数の光ファイバ9と、複数の半導体励起光源6と、出力光ファイバ11と、駆動部20とを備えている。各要素は適宜光ファイバで接続されている。出力光ファイバ11は、図1に示される光ファイバ130と光学的に結合されるか、あるいは光ファイバ130の一部(入力端)である。各半導体励起光源1、6は、励起光源の一例であり、レーザダイオードモジュール(LDM)として構成されている。
【0036】
各半導体励起光源1は、増幅用光ファイバ5に供給する励起光を出力する。増幅用光ファイバ5はレーザ媒質の一例であり、励起光は励起エネルギーの一例である。励起光は、増幅用光ファイバ5を光励起できる波長、たとえば915[nm]の波長を有している。複数の光ファイバ2は、それぞれ、各半導体励起光源1から出力された励起光を伝搬し、光合波器3に出力する。
【0037】
光合波器3は、本実施形態ではTFB(Tapered Fiber Bundle)で構成されている。光合波器3は、各光ファイバ2から入力された励起光を、信号光ポートの光ファイバに合波し、増幅用光ファイバ5へ出力する。
【0038】
増幅用光ファイバ5は、石英系ガラスで作られたコア部に増幅物質であるイッテルビウム(Yb)イオンが添加されたYDF(Ytterbium Doped Fiber)であり、コア部の外周には石英系ガラスで作られた内側クラッド層と樹脂等で作られた外側クラッド層とが順次形成されたダブルクラッド型の光ファイバである。なお、増幅用光ファイバ5のコア部はNAがたとえば0.08であり、Ybイオンの発光、たとえば波長1070[nm]の光をシングルモードで伝搬するように構成されている。増幅用光ファイバ5のコア部の吸収係数は、たとえば波長915[nm]において200[dB/m]である。また、コア部に入力された励起光からレーザ発振光へのパワー変換効率はたとえば70%である。ただし、吸収係数やパワー変換効率はこれらに限定されない。
【0039】
後端側反射手段であるFBG4は、光合波器3の信号光ポートの光ファイバと増幅用光ファイバ5との間に接続されている。FBG4は、中心波長がたとえば1070[nm]であり、中心波長およびその周辺の約2[nm]の幅の波長帯域における反射率が約100%であり、波長915[nm]の光はほとんど透過する。また、出力側反射手段であるFBG7は、光合波器8の信号光ポートの光ファイバと増幅用光ファイバ5との間に接続されている。FBG7は、中心波長がFBG4と略同じであるたとえば1070[nm]であり、中心波長における反射率が10%~30%程度であり、反射波長帯域の半値全幅が約1[nm]であり、波長915[nm]の光はほとんど透過する。
【0040】
FBG4,7は、増幅用光ファイバ5の両端のそれぞれに対して配置され、波長1070[nm]の光に対して光ファイバ共振器を構成する。
【0041】
各半導体励起光源6は、増幅用光ファイバ5に供給する励起光を出力する。励起光は、増幅用光ファイバ5を光励起できる波長、たとえば915[nm]の波長を有している。複数の光ファイバ9は、それぞれ、各半導体励起光源6から出力された励起光を伝搬し、光合波器8に出力する。
【0042】
光合波器8は、光合波器3と同様に、本実施形態ではTFBで構成されている。光合波器8は、各光ファイバ9から入力された励起光を信号光ポートの光ファイバに合波し、増幅用光ファイバ5へ出力する。
【0043】
増幅用光ファイバ5では、励起光によってコア部のYbイオンが光励起され、波長1070[nm]を含む帯域の光を発光する。波長1070[nm]の発光は、増幅用光ファイバ5の光増幅作用とFBG4,7によって構成される光共振器の作用とによってレーザ発振する。これにより、レーザ装置110はレーザ光を発生させる。
【0044】
出力光ファイバ11は、FBG7とは反対側に配置され、光合波器8の信号光ポートの光ファイバに接続されている。発振したレーザ光(レーザ発振光)は出力光ファイバ11から出力される。
【0045】
駆動部20は、制御装置140から入力された指示電圧信号に応じて、各半導体励起光源1、6に駆動電流を供給する。
【0046】
図3は、図2に示す駆動部の模式的な構成図である。駆動部20は、主にアナログ回路で構成されており、電源装置21と、電界効果トランジスタ(FET)22と、シャント抵抗23と、オペアンプ24と、フィードバック回路25とを備えている。
【0047】
電源装置21は、各半導体励起光源1、6に電流を供給するように接続された公知の直流電源である。たとえば、各半導体励起光源1は直列接続され、各半導体励起光源6は各半導体励起光源1とは別に直列接続されている。また、各半導体励起光源1と各半導体励起光源6とが全て直列接続されていてもよい。
【0048】
FET22は、電源装置21からグラウンドに到る電源ラインにおいて、各半導体励起光源1、6の下流側に接続されている。FET22は、印加されるゲート電圧に応じて、電源装置21から電源ラインを介して各半導体励起光源1、6に供給される電流量を調整する。
【0049】
シャント抵抗23は、電源ラインにおいて、FET22の下流側に接続されている。シャント抵抗23は、電源ラインを流れる電流量の情報を電圧値として取り出す機能を有する。
【0050】
オペアンプ24は、非反転入力に指示電圧信号が入力され、反転入力にシャント抵抗23の電圧値が入力され、出力はFET22のゲートに接続されている。
【0051】
フィードバック回路25は、コンデンサを含んだ積分回路として構成されており、オペアンプ24の出力から反転入力への帰還経路を構成する。
【0052】
上記構成によって、駆動部20は、各半導体励起光源1、6に定電流を供給する定電流制御を実行することができる。定電流は、指示電圧信号の電圧レベルに応じた電流値である。
【0053】
<レーザ加工方法>
つぎに、レーザ加工装置100を用いたレーザ加工方法の一例を、レーザ切断の場合を例として説明する。
【0054】
はじめに、レーザ加工装置100において、レーザ媒質にパルス状の励起エネルギーを供給し、レーザ光を発生させるステップを実行する。具体的には、まず、制御装置140は、レーザ装置110の駆動部20に、所定の繰返し周期を有するパルス状の指示電圧信号を出力するステップを実行する。これにより、駆動部20は、各半導体励起光源1、6にパルス状の駆動電力(駆動電流)を供給し、励起エネルギーとしてパルス状の励起光を発生させるステップを実行する。ここで、駆動電力のパルスはたとえば矩形状である。その後、レーザ装置110では、各半導体励起光源1、6が増幅用光ファイバ5にパルス状の励起光を供給し、所定の繰返し周期を有するパルス状のレーザ光を発生させる。
【0055】
その後、レーザ光が入力された光学ヘッド120は、加工対象Wの表面Waにレーザ光Lを照射するステップと、加工対象Wの表面Waにおけるレーザ光Lの照射位置を加工対象Wに対して相対的に移動させるステップを実行する。なお、レーザ光Lの照射位置を加工対象Wに対して相対的に移動させるステップは、制御装置140が、加工対象Wを支持するステージを駆動させることによって実行されてもよい。これにより、加工対象Wのレーザ切断が実行される。
【0056】
このとき、レーザ光Lは、レーザ光Lの発生の初期に、緩和振動発振に起因して発生するパルス光成分と、パルス光成分よりも時間的に後に続く、連続光成分とを含んでいる。そして、レーザ光Lにおいて、たとえば、パルス光成分のエネルギーに対する連続光成分のエネルギーの比が所定値以下である場合や、それに加えてレーザ光Lの時間幅が所定値以下である場合に、ドロスや変色の発生が抑制されたレーザ切断を実行することができる。なお、当該エネルギー比と時間幅は、制御装置140がレーザ装置110を制御することによって実現できる。
【0057】
このように、レーザ装置110は、レーザ媒質にパルス状の励起エネルギーを供給し、レーザ光を発生させるステップを実行することによって、Qスイッチ機構を備えることなく、たとえば汎用の制御回路を用いた駆動制御にてパルス光成分を発生できる。そして、本発明者らは、そのパルス光成分が緩和振動に起因して発生する先鋭的なピークのため、従来は困難とされていた金属箔の加工に適用できることを見出した。さらに、本発明者らは、このパルス光成分に続く連続光成分のパワーまたはエネルギーが強すぎると、金属箔への入熱量が過剰になり、かえって金属箔の加工に不都合であることも見出した。そこで、本発明者らは、パルス光成分のエネルギーに対する連続光成分のエネルギーの比が所定値以下になるように、連続光成分の持続時間を制限する制御を行うことで、入熱量を調整して好適な金属箔加工を実現するという技術思想を想到したのである。さらに、本発明者らは、所望のエネルギーの比の調整には、各半導体励起光源1、6に供給するパルス状の電力のパルス幅を調整することで容易に実現可能であることも見出したのである。
【0058】
エネルギー比は一例として40以下であり、レーザ光Lの時間幅は一例として12μs以下である。また、連続光成分の持続時間とは、一例としては、後述する図5、6における時刻t3から時刻t9までの時間として定義されるが、連続光成分がパワーを有する時間的な長さを表す定義であれば特に限定はされない。
【0059】
以下、レーザ光の時間軸における波形と実験例とを用いてより詳細に説明する。図4は、レーザ光Lの1パルスの波形を示す図である。図5は、図4の一部の時間範囲の拡大図である。図4、5において、横軸は時刻[μs]であり、縦軸はパワー[W]である。横軸の時刻は、レーザ光Lの1パルスの発生前の所定時刻を0μsとした時刻である。図4に示すように、レーザ光Lは、1パルスにおいて、パルス光成分PCと連続光成分CCとを含んでいる。
【0060】
レーザ装置110では、各半導体励起光源1、6から増幅用光ファイバ5にパルス状の励起光が供給されることによって、励起光の立ち上がりの形状に応じて、緩和振動発振に起因したパルス光成分PCが発生する。パルス光成分PCはパワーが高くパルス幅が短い先鋭的なピーク形状を有する。その後、パルス光成分PCよりも時間的に後に続いて、時間的に連続な連続光成分CCが発生するが、励起光の立ち下がりによって連続光成分CCのパワーは早期に減少する。なお、線L1はパルス光成分PCが発生する前の時刻t1、線L2は連続光成分CCが減衰した後の時刻t2の位置を示しており、いずれの時刻でも光のパワーは0Wである。
【0061】
線L3は、レーザ光Lにおいてパルス光成分PCのパワーがピークに達した後に最初に極小値を取る時刻t3の位置を示している。本明細書では、このような極小値の位置をパルス光成分PCと連続光成分CCとの境界と定義する。なお、図4では、時刻t3の後にも、パルス光成分PCよりもパワーが小さい振動成分が発生しているが、本明細書ではこの成分も連続光成分CCに含める。したがって、パルス光成分PCのエネルギーは、パルス光成分PCのパワーをたとえば時刻t1から時刻t3の範囲で時間積分して得られる。エネルギーの単位はたとえばジュールである。また、連続光成分CCのエネルギーは、連続光成分CCのパワーを時刻t3から時刻t2の範囲で時間積分して得られる。なお、時刻t1は、パルス光成分PCのパワーが0Wであればこの値に限定されず、時刻t2は連続光成分CCのパワーが0Wであればこの値に限定されない。
【0062】
また、本実施形態では、レーザ光Lの時間幅が12μs以下である。図6は、レーザ光の時間幅の説明図である。線L4は、パルス光成分PCのピークのパワーレベルを示し、線L5は、ピークの50%のパワーレベルを示す。また、線L6は、連続光成分CCの最大値のパワーレベルを示し、線L7は、最大値の50%のパワーレベルを示す。このとき、本明細書では、レーザ光の時間幅TWを、パルス光成分PCの立ち上がりでピークの50%となる時刻t8(線L8で示す)から、連続光成分CCの立下りで最大値の50%となる時刻t9(線L9で示す)までの時間幅で定義する。
【0063】
本実施形態では、パルス光成分PCのエネルギーに対する連続光成分CCのエネルギーのエネルギー比を、たとえば40以下とし、レーザ光Lの時間幅TWを、たとえば12μs以下とする。これによって、パワーが高くパルス幅が短いパルス光成分PCを利用して金属箔からなる薄い加工対象Wを加工しつつ、連続光成分CCを適正に少なくして連続光成分CCによる加工対象Wへの過度な入熱を抑制できる。その結果、加工した部分におけるドロスや変色のような不具合が発生を抑制することができる。
【0064】
また、エネルギー比が5以下である場合、または、時間幅TWが2.3μs以下である場合は、連続光成分CCによる入熱がさらに抑制されるので、入熱による不具合の発生がさらに抑制される。
【0065】
エネルギー比や時間幅TWの値は、たとえば加工対象Wの特性、たとえば金属箔の材質や厚さ、枚数等に応じて適宜設定されてもよい。
【0066】
なお、レーザ光Lの波形やパワーは、各半導体励起光源1、6が出力する励起光のパルスの波形に依存して変化する。励起光のパルスの波形は、駆動部20からの駆動電力のパルスの波形に依存して変化する。さらには、駆動電力のパルスの波形は、制御装置140からの指示電圧信号のパルスの波形で制御できる。したがって、レーザ光Lの波形やパワーは、制御装置140からの指示電圧信号のパルスの波形の変更によって制御できる。
【0067】
また、駆動電力のパルスの繰り返し周波数は、特に限定されないが、たとえば5kHz以上である。繰り返し周波数が5kHz以上であれば、レーザ光Lの波形として、上述したエネルギー比が40以下、時間幅TWが12μs以下である好適な波形を得やすい。駆動電力のパルスのオン時間は、駆動電力のパルスの時間幅である。
【0068】
また、駆動電力のパルスの時間幅は、ある程度狭い方が、連続光成分CCのエネルギーを小さくするのに適するが、本発明者らの鋭意検討によれば、狭すぎるとパルス光成分PCのピークパワーが減少する。そこで、パルス光成分PCのエネルギーをレーザ加工に効率的に活用するためには、パルス光成分PCのピークパワーが減少しない程度に狭い時間幅が好ましい。そこで、本明細書では、駆動電力のパルスの時間幅の指標の一つとして、最短オン時間を規定する。最短オン時間は、駆動電力のパルスの時間幅が当該最短オン時間よりも狭いとパルス光成分のピークパワーが減少する値である。この場合、電力のパルスの時間幅が最短オン時間以上に設定されれば、パルス光成分PCのエネルギーをレーザ加工に効率的に活用することができる。
【0069】
図7は、実施形態1のレーザ装置110と同じ構成のレーザ装置における、繰り返し周波数と最短オン時間との関係を示す図である。横軸は駆動電力のパルスの繰り返し周波数であり、縦軸は最短オン時間である。また、凡例における「104」から「1002」までの数値は、レーザ装置110に対して設定される各指示値での定常状態での平均パワー[W]の値を示している。ここで指示値とは指示電圧信号の電圧値のことである。なお、レーザ装置110は1000Wが定格のレーザ出力となるように構成されている。
【0070】
図7に示すように、最短オン時間は繰り返し周波数の減少にしたがって増加する。また、最短オン時間は平均パワーの減少にしたがって増加する。レーザ光Lの波形として時間幅TWを12μs以下とするためには、駆動電力のパルスのオン時間は10μs程度以下とすることが好ましい。この時、繰り返し周波数を5kHz以上とすれば、様々な平均パワーの値において、オン時間を最短オン時間に設定することができる。
【0071】
なお、レーザ装置110は、CWレーザ装置として構成されておりながらも、緩和振動発振を利用した先鋭的なピークを有するパルス光成分PCを発生させることができるので、Qスイッチ機構を備えるパルスレーザ装置よりも簡易かつ低コストで装置を構成することができる。
【0072】
(加工実験)
実施形態1のレーザ加工装置100と同じ構成のレーザ加工装置を作製し、金属箔からなる加工対象の切断実験を行った。加工対象は厚さ8μmの銅箔1枚とした。そして、各指示値での定常状態での平均パワーが1000Wとなるように駆動電力を設定した。駆動電力のパルスの繰り返し周波数は5kHz未満から300kHzまでの間の様々な値に設定した。また、駆動電力のパルスのオン時間は0.5μsから100μsまでの間の様々な値に設定した。
【0073】
表1は加工結果を示す。加工品質は、ドロスや変色(酸化部の生成などによる)の観点から顕微鏡による外観確認を行い、所定の評価基準にしたがって階級付けした。ここでは、ドロスのサイズが大きく許容できない品質を「不良」、ドロスのサイズが小さく酸化部のサイズが大きく、許容できる品質を「良」、ドロスのサイズが小さく酸化部のサイズが中程度で、品質がより高い階級を「優良」、ドロスおよび酸化部のサイズが小さく品質が最も高い階級を「最良」と評価した。また、「-」は実験をしていない条件に該当する。表1に示すように、エネルギー比Rが40以下であり、レーザ光の時間幅TWが12μs以下の場合に「良」または「優良」の結果が得られ、エネルギー比Rが5以下であり、レーザ光の時間幅TWが2.3μs以下の場合に「優良」または「最良」の結果が得られた。特に、繰り返し周波数が5kHz以上50kHz未満であると、レーザ光の時間幅TWが2.3μsを超え12μs以下の場合に「良」、0.1μsを超え2.3μs以下の場合に「優良」の結果が得られた。さらに、繰り返し周波数が50kHz以上300kHz未満であると、レーザ光の時間幅TWが2.3μsを超え12μs以下の場合に「優良」、0.1μsを超え2.3μs以下の場合に「最良」の結果が得られた。
【表1】
【0074】
(実施形態2)
図8は、実施形態2に係るレーザ加工装置の模式的な構成図である。本実施形態では、光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と集光レンズ122との間に、ガルバノスキャナ126を有している。ガルバノスキャナ126は、二つのミラー126aを有している。これら二つのミラー126aの姿勢の変化により、レーザ光Lの照射方向および照射位置が変化する。すなわち、レーザ加工装置100Aは、光学ヘッド120を移動させることなく、レーザ光Lの照射位置を移動させ、レーザ光Lを掃引することができる。制御装置140は、ミラー126aの角度(姿勢)が変化するよう、各ミラー126aに対応するモータ126bの作動を制御することができる。本実施形態によっても、実施形態1と同様の作用および効果が得られる。
【0075】
なお、上記実施形態では、増幅用光ファイバ5はYDFであるが、エルビウム(Erbium)やネオジム(Neodymium)などの他の希土類元素が増幅媒体として添加された増幅用光ファイバでもよい。この場合、励起光の波長や発生するレーザ光の波長は増幅媒体の種類に応じた波長とする。
【0076】
また、上記実施形態では、レーザ装置110は光ファイバレーザであるが、半導体レーザや固体レーザなどの他の形式のレーザを用いたレーザ装置でもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、駆動電力のパルスは矩形状であるが、パルス光成分のエネルギーに対する連続光成分のエネルギーの比が40以下であり、レーザ光の時間幅が12μs以下であるレーザ光を発生できるものであれば、矩形状に限定されない。励起光のパルスの形状についても同様に限定はされない。
【0078】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本発明は、レーザ加工方法およびレーザ加工装置に利用して好適なものである。
【符号の説明】
【0080】
1、6 :半導体励起光源
2、9、130 :光ファイバ
3、8 :光合波器
5 :増幅用光ファイバ
11 :出力光ファイバ
20 :駆動部
21 :電源装置
22 :FET
23 :シャント抵抗
24 :オペアンプ
25 :フィードバック回路
100、100A :レーザ加工装置
110 :レーザ装置
120 :光学ヘッド
121 :コリメートレンズ
122 :集光レンズ
126 :ガルバノスキャナ
126a :ミラー
126b :モータ
140 :制御装置
CC :連続光成分
L :レーザ光
PC :パルス光成分
SD :掃引方向
TW :時間幅
W :加工対象
Wa :表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8