(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】放電イオン化検出器およびガスクロマトグラフ分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/64 20060101AFI20231225BHJP
H01J 49/10 20060101ALI20231225BHJP
H01J 49/16 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
G01N30/64 F
H01J49/10
H01J49/16 100
(21)【出願番号】P 2020163184
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】品田 恵
(72)【発明者】
【氏名】松岡 諭史
(72)【発明者】
【氏名】北野 勝久
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-117854(JP,A)
【文献】特開2018-040721(JP,A)
【文献】特開2013-134817(JP,A)
【文献】特開2009-267032(JP,A)
【文献】米国特許第04266196(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/64
G01N 27/62 - 27/70
H01J 49/10
H01J 49/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電用ガスが流通するガス流路を成し、管軸方向に延びる誘電体管と、
前記誘電体管の外壁に設けられた高圧電極と、
電気的に接地され、前記誘電体管の外壁に設けられた接地電極ユニットと、
前記高圧電極に接続され、前記誘電体管内で放電を発生させて前記放電用ガスからプラズマを生成するために、前記高圧電極と前記接地電極ユニットとの間に交流電圧を印加する電圧印加部と、
前記誘電体管を流通する前記放電用ガスに対して励起光を照射する光源と、
前記プラズマから発せられた光によって、前記ガス流路に導入された試料ガス中の試料成分から生成されたイオンを収集する収集電極を含む電荷収集部とを備え、
前記接地電極ユニットは、前記誘電体管の管軸方向に互いに離間して配置された第1接地電極と第2接地電極とを有し、
前記高圧電極は、前記第1接地電極と前記第2接地電極との間に設けられ、
前記第1接地電極と前記高圧電極との間の距離は、前記第2接地電極と前記高圧電極との間の距離よりも短く、
前記誘電体管の外壁であって前記第1接地電極と前記高圧電極との間の位置には、被覆部が設けられ、
前記光源は、光軸方向が前記被覆部を避けた位置を指すように前記励起光を照射する、放電イオン化検出器。
【請求項2】
前記光源は、光軸方向が前記被覆部が設けられていない側の前記第1接地電極の端、または前記高圧電極の端を指すように前記励起光を照射する、請求項1に記載の放電イオン化検出器。
【請求項3】
前記光源は、光軸方向が前記第1接地電極と前記高圧電極との間の所定位置を指すように当該光源を傾けて前記励起光を照射する、請求項1または請求項2に記載の放電イオン化検出器。
【請求項4】
前記第1接地電極は、穴部を有し、
前記光源は、光軸方向が前記穴部を指すように前記励起光を照射する、請求項1に記載の放電イオン化検出器。
【請求項5】
前記放電用ガスは、Arである、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の放電イオン化検出器。
【請求項6】
前記励起光は、300nm以下の波長を含む光である、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の放電イオン化検出器。
【請求項7】
前記光源は、紫外LEDである、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の放電イオン化検出器。
【請求項8】
請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の放電イオン化検出器と、
前記試料ガス中の試料成分を成分ごとに分離する分析カラムとを備え、
前記分析カラムで分離された試料成分を前記放電イオン化検出器の前記ガス流路に導入する、ガスクロマトグラフ分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電イオン化検出器およびガスクロマトグラフ分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ(GC)用の微量ガス検出器としては、熱伝導度検出器(TCD:Thermal Conductive Detector)、エレクトロンキャプチャ検出器(ECD:Electron Capture Detector)、水素炎イオン化検出器(FID:Flame Ionization Detector)など、様々な方式の検出器が提案され、実用化されている。また、高圧放電で生成したプラズマで不活性ガス(He、N2、Ar、Ne、Xeなど)の励起種を生成し、その励起種が基底状態に戻る際に生成される真空紫外光によってサンプルをイオン化する検出器も古くから提案されている。その中で、最近開発されたものとして低周波誘電体バリア放電を利用した放電イオン化電流検出器(BID:dielectric Barrier discharge Ionization Detector)がある。放電イオン化検出器(BID)は、電極表面が誘電体で覆われた誘電体バリア放電を利用するものである(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
誘電体バリア放電の場合、高電圧を電極に印加するだけでは放電を確実に開始させることは困難な場合がある。そこで、特許文献2では、誘電体管の外側から、LEDなどの光源によって励起光を照射することで、放電開始を促している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-60354号公報
【文献】特開2011-117854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、プラズマ放電特性は使用する放電用ガスに応じて異なるため、誘電体管の外側に設けられた複数の電極の配置が適宜調整される。このとき、電極間の距離が短くなって誘電体の外側でも放電が生じてしまうことがあり、これを防ぐため、誘電体管の外壁に、被覆部を設けることがある。従来、誘電体管の外壁に遮光部材を設ける構成において、励起光を照射する構成については十分に検討されていない。
【0006】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、誘電体管の外壁に被覆部を設ける構成において、励起光が確実に放電用ガスに照射される放電イオン化検出器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に従う放電イオン化検出器は、誘電体管と、高圧電極と、接地電極ユニットと、電圧印加部と、光源と、電荷収集部とを備える。誘電体管は、放電用ガスが流通するガス流路を成し、管軸方向に延びる。高圧電極は、誘電体管の外壁に設けられている。接地電極は、電気的に接地され、誘電体管の外壁に設けられている。電圧印加部は、高圧電極に接続され、誘電体管内で放電を発生させて放電用ガスからプラズマを生成するために、高圧電極と接地電極ユニットとの間に交流電圧を印加する。光源は、誘電体管を流通する放電用ガスに対して励起光を照射する。電荷収集部は、プラズマから発せられた光によって、ガス流路に導入された試料ガス中の試料成分から生成されたイオンを収集する収集電極を含む。接地電極ユニットは、誘電体管の管軸方向に互いに離間して配置された第1接地電極と第2接地電極とを有する。高圧電極は、第1接地電極と第2接地電極との間に設けられている。第1接地電極と高圧電極との間の距離は、第2接地電極と高圧電極との間の距離よりも短い。誘電体管の外壁であって第1接地電極と高圧電極との間の位置には、被覆部が設けられている。光源は、光軸方向が被覆部を避けた位置を指すように励起光を照射する。
【0008】
本開示の別の局面に従う放電イオン化検出器は、誘電体管と、高圧電極と、接地電極と、電圧印加部と、光源と、電荷収集部と、遮光部材と、透過部材とを備える。誘電体管は、放電用ガスが流通するガス流路を成し、管軸方向に延びる。高圧電極は、誘電体管の外壁に設けられている。接地電極は、電気的に接地され、誘電体管の外壁に設けられている。電圧印加部は、高圧電極に接続され、誘電体管内で放電を発生させて放電用ガスからプラズマを生成するために、高圧電極と接地電極との間に交流電圧を印加する。光源は、誘電体管を流通する放電用ガスに対して励起光を照射する。電荷収集部は、プラズマから発せられた光によって、ガス流路に導入された試料ガス中の試料成分から生成されたイオンを収集する収集電極を含む。遮光部材は、誘電体管の外壁に設けられ、励起光に対して不透明である。透過部材は、誘電体管の外壁であって誘電体管の管軸方向において遮光部材と異なる位置に設けられ、励起光に対して透明である。光源は、光軸方向が遮光部材を避けた位置を指すように励起光を照射する。
【0009】
本開示の別の局面に従うガスクロマトグラフ分析装置は、放電イオン化検出器と、試料ガス中の試料成分を成分ごとに分離する分析カラムとを備える。分析カラムで分離された試料成分を放電イオン化検出器のガス流路に導入する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、誘電体管の外壁に被覆部を設ける構成において、励起光が確実に放電用ガスに照射される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施の形態に係る放電イオン化検出器を備えるガスクロマトグラフ分析装置の概略構成図である。
【
図6】接地電極が穴部を有する場合における、光源の設置位置の一例を示す図である。
【
図7】本実施の形態の変形例に係る放電イオン化検出器の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0013】
ガスクロマトグラフ(GC)用の微量ガス検出器としては、TCD、ECDなど、様々な方式の検出器が提案され、実用化されている。こうした検出器の中で、現在、最も一般的に使用されているのは、FIDである。FIDは、水素炎によりガスサンプルをイオン化し、そのイオン化電流を測定することで、広いダイナミックレンジ(約7桁)を達成している。
【0014】
また、高圧放電で生成したプラズマで不活性ガス(He、N2、Ar、Ne、Xeなど)の励起種を生成し、その励起種が基底状態に戻る際に生成される真空紫外光によってサンプルをイオン化する検出器も古くから提案されている。最近開発された低周波誘電体バリア放電を利用したイオン化電流検出器(BID)は、電極表面が誘電体で覆われた誘電体バリア放電を利用することで、金属電極を利用した場合のような熱電子および二次電子などの放出が少ない。また、低周波高圧電源により、中性ガス温度が非常に低い(ほとんど発熱がない)非平衡プラズマを生成することで、内壁材料の加熱による不純物ガスの発生を抑えて、安定性の高い放電状態を作り出し、高いSN比を実現している(非特許文献:「品田ほか4名、「誘電体バリア放電を応用したガスクロマトグラフ用新規イオン化検出器の開発」、島津評論、第69巻、第3・4号、2013年3月29日発行」参照)。また、一般に誘電体バリア放電は、高圧電極と接地電極の“いずれか”が誘電体で覆われている構成全般を指すが、上記非特許文献では、高圧電極、接地電極の両方が誘電体で覆われた構成にすることで、SN比が向上することを示している。
【0015】
このような放電イオン化検出器における放電ガスとしては、先にあげた不活性ガスの中でも特にHeおよびAr(またはArを微量添加したHe)ガスが実用上、多く使われる。この理由は、それぞれ下記(A)、(B)の通りである。
【0016】
(A)Heガス放電光のエネルギーは非常に高い(約17.7eV)ため、Ne、He以外のほとんどの化合物をイオン化し、検出することができる。FIDは無機物質をイオン化できない(検出できない)ため、特に無機物質の検出に有用となる。
【0017】
(B)Ar(またはArを微量添加したHe)ガス放電光のエネルギーは、約11.7eVであるため、FID同様、無機物質はイオン化できない(検出できない)。この特性は、有機物検出用に特化した場合、例えば水溶液中の微量有機物の検出において、溶媒である(したがって非常に量が多い)水に対して感度を持たないため、目的である微量有機物の検出が容易になるという利点になる。
【0018】
ガス種によって放電特性は異なるので、BIDにおける最適な電極配置(電極幅や電極間距離など)も異なってくる。HeとArとを比べると、放電を開始するための電圧は、一般にArの方が高くなる。パッシェンの法則から、大気圧におけるArの放電開始電圧はHeの約2倍である。言い換えると同じ放電開始電圧で動作させるためには、Arでは電極間距離を1/2以下にする必要がある。
【0019】
パッシェンの法則は、火花放電に対する実験則なので、BIDに使われる誘電体バリア放電では誘電体材質や、ガス純度(不純物量)、放電電源周波数、電源波形などのパラメータも関わるので、最適な電極形状や放電条件を予測するのは困難であるが、同一条件で比較した場合、ArではHeよりも電極間距離を短くする(あるいは放電電圧を高くする)必要がある。
【0020】
しかし、特に誘電体バリア放電の場合、上記条件を整えても、高電圧を電極に印加するだけでは放電を確実に開始させることは困難な場合がある。そこで、He放電の場合、誘電体管の外側から、LEDなどによって励起光を照射することで、放電開始を促している(特開2011-117854号公報)。しかし、Ar放電の場合、これと同様の青または緑色のLED光源を使っても、放電開始効果が得られなかった。
【0021】
また、Arガスを使用するBIDにおいては、電流アンプから出力される検出信号のベースラインを安定化させるために、上流側電極間距離d1<放電開始距離<下流側電極間距離d2の関係が成立するように、設けられた3つの電極を配置する必要がある(特許第6675709号公報の
図1)。
【0022】
このように、プラズマ放電特性は使用する放電用ガスに応じて異なるため、誘電体管の外側に設けられた複数の電極の配置が適宜調整される。このとき、電極間の距離が短くなって誘電体の外側でも放電が生じてしまうことがあり、これを防ぐため、誘電体管の外壁に、被覆部を設けることがある。従来、誘電体管の外壁に遮光部材を設ける構成において、励起光を照射する構成については十分に検討されていない。
【0023】
本実施の形態に係る放電イオン化検出器は、このような問題を解決すべく構成されるものであり、以下、図を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る放電イオン化検出器を備えるガスクロマトグラフ分析装置の概略構成図である。
【0024】
図1に示すように、ガスクロマトグラフ分析装置は、放電イオン化検出器(BID)10と、試料導入部34と、分析カラム36とを備えている。ガスクロマトグラフ分析装置は、キャリアガスによって試料を試料導入部34に搬送した後に、分析カラム36に試料を搬送する。分析カラム36は、試料ガス中の試料成分を成分ごとに分離する。そして、ガスクロマトグラフ分析装置は、分析カラム36で分離された試料成分を放電イオン化検出器10のガス流路に導入する。
【0025】
放電イオン化検出器10は、ガスクロマトグラフ分析装置により分離された試料成分を検出するための検出器である。放電イオン化検出器10は、誘電体管(「誘電体円筒管」とも称する)111と、高圧電極112と、接地電極ユニットと、電圧印加部(「励起用高圧交流電源」とも称する)115と、制御部22と、光源23とを備える。接地電極ユニットは、誘電体管の管軸方向に互いに離間して配置された接地電極113と接地電極114とを有する。
【0026】
誘電体管111は、放電用ガス(「プラズマ生成ガス」とも称する)が流通するガス流路を成し、管軸方向に延びる。プラズマ生成ガスは、たとえば、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、窒素(N
2)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)のいずれか1つ、またはそれらの混合ガスを用いればよい。本実施の形態においては、プラズマ生成ガスとして、アルゴン(Ar)ガスを用いている。以下では説明の便宜上、誘電体円筒管111内におけるガスの流通方向(
図1中の下向きの矢印で示す方向)における上流側を上、下流側を下として上下方向を定義するが、これによりBIDの使用時の方向が限定されるものではない。
【0027】
誘電体円筒管111の外壁面には、前記ガスの流通方向に沿って、例えばSUSや銅などの導電体からなる環状の電極(電極112、113、114)が周設されている。電極112を「高圧電極」、電極113を「上流側接地電極」あるいは「第1接地電極」、114を「下流側接地電極」あるいは「第2接地電極」とも称し、これらを総称して「プラズマ生成用電極」とも称する。
【0028】
高圧電極112は、励起用高圧交流電源115が接続され、誘電体管111の外壁に設けられている。接地電極113、114は、電気的に接地され、誘電体管111の外壁に設けられている。接地電極は、第1接地電極(上流側接地電極)113と、第2接地電極(下流側接地電極)114との2つの接地電極を有する。高圧電極112は、第1接地電極113と第2接地電極114との間に設けられている。
【0029】
励起用高圧交流電源115は、誘電体管111内で放電を発生させてプラズマ生成ガス(アルゴンガス)からプラズマを生成するために、高圧電極112と接地電極113、114との間に交流電圧を印加する。励起用高圧交流電源115は、周波数が1kHz~100kHzの範囲、更に好ましくは5kHz~30kHz程度(低周波数)で、電圧が5kV~10kV程度である高圧交流電圧を発生する。なお、交流電圧の波形形状は、正弦波、矩形波、三角波、鋸歯状などのいずれでもよい。
【0030】
本実施の形態のBIDでは、
図1中で下流側接地電極114の下端よりも上側の領域を放電部110と称し、下流側接地電極114の下端よりも下側の領域を電荷収集部120と称する。
【0031】
また、誘電体円筒管111の上端に設けられた管路先端部材116にはガス供給管116aが接続され、このガス供給管116aを通して、誘電体円筒管111の内部に希釈ガスを兼ねるプラズマ生成ガス(本実施の形態においては、アルゴンガス)が供給される。プラズマ生成用電極112、113、114と前記プラズマ生成ガスとの間には誘電体円筒管111の壁面が存在するから、この壁面自体がプラズマ生成用電極112、113、114の表面を被覆する誘電体被覆層として機能し、誘電体バリア放電を可能としている。
【0032】
誘電体円筒管111の下流には、同一内径の円筒形状体である接続部材121、バイアス電極122、および収集電極123が、アルミナ、PTFE樹脂などの絶縁体125a、125bを間に介挿してガスの流通方向に沿って配置されている。さらに、収集電極123の下流側には絶縁体125cを介挿して有底円筒形状の管路末端部材124が配置されている。これらの接続部材121、バイアス電極122、収集電極123、管路末端部材124、および絶縁体125a、125b、125cにより形成される内部空間は、前記誘電体円筒管111の内部空間と連通している。
【0033】
接続部材121の周面にはプラズマ生成ガスの一部を外部に排出するバイパス排気管121aが接続されており、管路末端部材124の周面には試料排気管124aが接続されている。さらに、管路末端部材124の下面には、細径の試料導入管126が挿通されており、この試料導入管126を通して電荷収集部120内に試料ガスが供給される。なお、電荷収集部は、試料ガスの気化状態を保つため、図示しない外部ヒータによって最大450℃程度まで加熱される。
【0034】
接続部材121は接地されており、ガス流に乗って移動するプラズマ中の荷電粒子が収集電極123に到達することを防止するための反跳電極として機能する。バイアス電極122はバイアス直流電源127に接続され、収集電極123は電流アンプ128に接続されている。
【0035】
このBIDにおける、試料ガスに含まれる試料成分の検出動作を概略的に説明する。
図1中に右向き矢印で示すように、誘電体円筒管111中にはガス供給管116aを通して希釈ガスを兼ねるプラズマ生成ガスが供給される。プラズマ生成ガスは誘電体円筒管111中を下向きに流れ、一部はバイパス排気管121aを通して外部に排出され、その残りは希釈ガスとして電荷収集部中を下向きに流れ試料排気管124aを通して外部に排出される。一方、試料成分を含む試料ガスは試料導入管126を通して供給され、その末端の試料ガス吐出口から電荷収集部中に吐き出される。試料ガス吐出口からは希釈ガスの流通方向とは逆方向に試料ガスが吐き出されるが、
図1中に矢印で示すように、試料ガスはすぐに押し返され、希釈ガスと合流して下方向に進む。
【0036】
プラズマ生成ガスが誘電体円筒管111中を流通しているときに、励起用高圧交流電源115は、高圧交流電圧を高圧電極112と上流側接地電極(第1接地電極)113との間および高圧電極112と下流側接地電極(第2接地電極)114との間に印加する。これにより、誘電体円筒管111中で誘電体バリア放電が起こり、プラズマ生成ガスが電離されてプラズマ(大気圧非平衡プラズマ)が発生する。
【0037】
収集電極123は、プラズマから発せられた光によって、ガス流路に導入された試料ガス中の試料成分から生成されたイオンを収集する。具体的には、大気圧非平衡プラズマから放出された励起光は、放電部110および電荷収集部120中を通って試料ガスが存在する部位まで到達し、その試料ガス中の試料成分をイオン化する。こうして生成されたイオンは、バイアス電極122に印加されている直流電圧によって形成される電場の作用によって収集電極123に近づくように移動し、収集電極123において電子を授受する。
【0038】
これにより、励起光の作用により生成された、試料成分由来のイオンの量、つまりは試料成分の量に応じたイオン電流が電流アンプ128に入力され、電流アンプ128はこれを増幅して検出信号を出力する。このようにして、本実施の形態に係るBIDでは、試料導入管126を通して導入された試料ガスに含まれる試料成分の量(濃度)に応じた検出信号が出力される。
【0039】
本実施の形態のBIDの基本的な構成要素は一般的なBIDと同じである。また、上述した基本的な検出動作は一般的なBIDと同様である。本実施の形態に係るBIDの構成上の特徴は、高圧電極112と上流側接地電極113の距離(以下、「上流側電極間距離」と称する)d1が、両者の間における放電開始距離よりも短く、高圧電極112と下流側接地電極114の距離(以下、「下流側電極間距離」と称する)d2が、両者の間における放電開始距離よりも長くなっていることにある。
【0040】
つまり、本実施の形態においては、上流側接地電極113と高圧電極112との間の距離(上流側電極間距離d1)は、下流側接地電極114と高圧電極112との間の距離(下流側電極間距離d2)よりも短くなるように構成されている。なお、放電開始距離は、低周波交流電圧の周波数、電圧振幅、電源波形、プラズマ生成ガスの種類、濃度、および誘電体円筒管111の材質などのパラメータに依存するため、上流側電極間距離d1および下流側電極間距離d2は、これらのパラメータに応じて適宜調整される。
【0041】
たとえば、電極間距離d1、d2をいずれも放電開始距離よりも短くして成るBIDにおいては、高圧電極112と上流側接地電極113との間のみならず、高圧電極112と下流側接地電極114の間においても放電が発生する。このように両者において放電が発生する場合は、電流アンプ128から出力される検出信号のベースラインを安定化することができない。
【0042】
一方で、本実施の形態のように、上流側電極間距離d1を放電開始距離よりも小さく、下流側電極間距離d2を放電開始距離よりも大きくすることにより、励起用高圧交流電源115から、高圧電極112と上流側接地電極113の間、および高圧電極112と下流側接地電極114の間に低周波高圧交流電圧を印加した際に、高圧電極112と上流側接地電極113との間のみで放電を発生させることができる。
【0043】
その結果、誘電体円筒管111内部におけるプラズマ生成領域の位置変動が抑えられるため、電流アンプ128から出力される検出信号のベースラインを安定化させることができ、安定した出力を得ることができる。
【0044】
以上説明したような特徴は、プラズマ生成ガスとしてアルゴンガスを用いた場合に特有の特徴である。プラズマ生成ガスとしてヘリウムガスを用いた場合は、上記のように、必ずしも、上流側電極間距離d1<下流側電極間距離d2となるように電極を設置する必要はない。
【0045】
本実施の形態においては、誘電体円筒管111は外径が4mm、内径が2mm、長さが164mmの石英から成る管である。高圧電極112の長さは4mmであり、上流側接地電極113の長さは14.5mmである。上流側電極間距離d1は1.5mmであり、下流側電極間距離d2は10mmである。また、上流側接地電極113の上端から管路先端部材116までの距離は20mmである。仮に、上流側電極間距離d1および下流側電極間距離d2の距離がいずれも1.5mmである場合は、両電極の間で放電が起こる(すなわち1.5mmは放電開始距離よりも短い)。上流側電極間距離d1および下流側電極間距離d2の距離が10mmである場合は、両電極間で放電が起こらない(すなわち10mmは放電開始距離よりも長い)。
【0046】
なお、上流側電極間距離d1を短く、下流側電極間距離d2を長くするものに限らず、上流側電極間距離d1を長く、下流側電極間距離d2を短くしてもよい。この場合、これらの電極間距離d1、d2は、励起用高圧交流電源115によって印加される交流電圧の周波数および振幅、ならびにプラズマ生成ガスの種類や濃度、および誘電体円筒管111を構成する誘電体材料などのパラメータに応じて、誘電体円筒管111内における放電が高圧電極112と下流側接地電極114との間の領域に限定されるように調整される。また、上記で示した寸法(単位はmm)はあくまで一例であり、これに限定されるものではない。
【0047】
誘電体円筒管111は、石英などの透光性を有する誘電体から成る。誘電体円筒管111は、外径が4mmの石英管を用いている。本実施の形態の放電イオン化検出器10に特徴的な構成として、誘電体円筒管111の外側には、誘電体円筒管111の周面に向けて(実際にはガス流路中のプラズマ生成領域に向けて)光(励起光)を照射する光源23が備えられている。つまり、光源23は、誘電体管111を流通するプラズマ生成ガスに対して励起光を照射する。本実施の形態においては、光源23から照射する励起光は、300nm以下の波長を含む光(紫外光)である。
【0048】
光源23は、たとえば、紫外LEDである。光源23と誘電体円筒管111外周面との離間距離は、たとえば、10mmである(10mm~15mm程度であってもよい)。CPUなどを備える制御部22は、光源23をオン(点灯)・オフ(消灯)させる制御を行う。また、制御部22は、励起用高圧交流電源115のオン・オフ動作も制御する。
【0049】
アルゴンガスがガス流路中に流通している状態で、制御部22からの制御信号により、励起用高圧交流電源115が駆動され、励起用高圧交流電源115は低周波の高圧交流電圧をプラズマ生成用の電極112と電極113、114との間に印加する。その電圧印加と同時に、所定時間だけ遅延して、または、所定時間だけ先行して、制御部22は光源23を点灯させるように指示を与える。
【0050】
誘電体円筒管111の材料である石英(合成石英)はおおよそ170nm~2200nmの範囲の波長を透過させる。したがって、光源23から発した光は誘電体円筒管111の周壁を通過し、ガス流路中を流通するアルゴンガスに当たる。すると、光エネルギーによりアルゴン分子またはアルゴンガス中に含まれる微量の不純物ガス分子は励起され、電離エネルギーを超えれば光電離が生じる。
【0051】
これにより、ガス流路中で電極112、113で挟まれるプラズマ生成領域は放電が起こり易い状態となるので、電極112と電極113、114との間に印加される低周波交流電圧が通常(光照射がない状態)では放電が開始されない程度の低い電圧であっても、電極112、113との間で放電が起こる。この放電は誘電体被覆層(誘電体円筒管111)を通して行われるため誘電体バリア放電である。この誘電体バリア放電によって、ガス流路中を流れるアルゴンガスが広く電離されてプラズマ(大気圧非平衡マイクロプラズマ)が発生する。
【0052】
上記のように生成された大気圧非平衡マイクロプラズマから放出された励起光やアルゴン励起種は、ガス流路中を通して試料ガスが存在する部位まで到達し、その試料ガス中の試料成分分子(または原子)をイオン化することになる。
【0053】
このように、光源23からの光照射を契機として放電が開始されることになる。励起用高圧交流電源115から所定の電圧が印加されている状態と光源23がオンしている(光が照射されている)状態とが所定時間以上重なるようにする。一旦放電が開始されさえすれば、光の照射は不要であってどの時点で光源23をオフするようにしてもよい。
【0054】
本実施の形態においては、放電用ガス(プラズマ生成ガス)としてアルゴンガスを用いて説明したが、これに限らず、ヘリウム、窒素、ネオン、キセノンといった不活性ガスであればよい。アルゴンガスを用いた場合は、放電を開始させるために、光源から300nm以下の波長を含む光を照射する必要がある。しかし、たとえば、ヘリウムガスを用いる場合は、光源として、青色LED(波長:470nm)、緑色LED(波長:520nm)、橙色LED(波長:592nm)を用いても、放電を開始可能である。
【0055】
ある程度以上の光エネルギーをプラズマ生成領域に供給することで、放電を開始させることが可能である。光エネルギーは波長が短いほど高くなるから、照射する光の波長は短いほうがより好ましい。
【0056】
なお、本実施の形態においては、波長が300nmあるいは285nmの紫外LEDを用いるが、これに限らず、300nm以下の波長を含む光を照射可能なものであればよい。LEDに代えて、殺菌用ランプとして使われている300nm以下の紫外ランプなどを光源23として用いてもよい。
【0057】
また、本実施の形態においては、誘電体管111の外壁であって第1接地電極113と高圧電極112との間の位置には、被覆部130が設けられている。先に説明したように、電極間の距離が短くなると誘電体の外側でも放電が生じてしまうことがある。本実施の形態においては、高圧電極112と第1接地電極113との距離(上流側電極間距離d1)が短いために、これらの間の誘電体管111の外壁(つまり、高圧電極112と第1接地電極113とを最短でつなぐ石英管の表面)に沿って沿面放電が発生し得る。高圧電極112と第1接地電極113との間の誘電体管111の外壁が空気にさらされないように、
図1に示すように被覆部130を設けることで、誘電体管111の外壁上で沿面放電が発生することを抑制することができる。被覆部130を設けた場合、高圧電極112から第1接地電極113への沿面放電が発生する最短経路は、空気に触れている被覆部130の表面上に沿った経路となる。しかし、この場合、放電開始距離よりも十分長くなるために、外側での放電が起こらなくなる。このように、第1接地電極113と高圧電極112とを最短でつなぐ誘電体管111の外壁が空気にさらされないように被覆部130を設けることで、誘電体管111の外側で放電が発生することを抑制している。被覆部130は、波長300nm以下の紫外光を遮光する部材である。このため、被覆部130が設けられた位置に励起光の照射を行ったとしても、被覆部130に遮られて、放電を発生させることができない。ただし、被覆部130は、必ずしも遮光を目的とした遮光材である必要はなく、透明あるいは半透明の部材であってもよい。
【0058】
以上説明したような事情から、光源23は、光軸方向が被覆部130を避けた位置を指すように励起光を照射する必要がある。たとえば、
図1のように、矢印で示す光軸方向が上流側接地電極113の上端付近の位置を指すように光源23を設置するようにしてもよい。以下、
図2~
図6を用いて、光源23の設置位置および設置角度について説明する。
【0059】
図2~
図5は、光源の設置位置の一例を示す図である。上述のように、光源23は、光軸方向が被覆部130を避けた位置を指すように励起光を照射する。また、光源23は、光軸方向が被覆部130が設けられていない側の第1接地電極(上流側接地電極)113の端、または高圧電極112の端を指すように励起光を照射すればよい。また、光源23は、光軸方向が第1接地電極113と高圧電極112との間の所定位置を指すように当該光源23を傾けて励起光を照射すればよい。
【0060】
上述のように、放電は上流側接地電極113と高圧電極112との間で起きる。ここで、上流側接地電極113と高圧電極112との中間位置を「所定位置」と呼ぶ。励起光を照射する位置として、所定位置に近ければ近いほど、放電がしやすくなる。
【0061】
このため、本来であれば、上流側接地電極113と高圧電極112との間の所定位置に照射されるように、光軸方向が上流側接地電極113と高圧電極112との間の位置を指すように光源23を配置することが望ましい。しかしながら、上述のように、第1接地電極の一部と高圧電極との間は被覆部130が設けられているため、この位置に向けて照射を行ったとしても、励起光が被覆部130に遮られてしまうため、放電を開始させることができない。
【0062】
このような事情から、光源23は、光軸方向が被覆部130を避けた位置を指すように励起光を照射する必要がある。この場合、たとえば、
図2に示すように、光源23は、光軸方向が被覆部130が設けられていない側の上流側接地電極113の端を指すように励起光を照射する。具体的には、光源23は、上流側接地電極113の上端にできる限り近い誘電体円筒管111が露出した位置に向けて励起光を照射すればよい。本実施の形態においては、誘電体円筒管111と光源23との距離は、10mmとしている。
図2の例では、水平方向に励起光が照射されるように、光源23を設置している。
【0063】
あるいは、
図3に示すように、光源23は、光軸方向が被覆部130が設けられていない側の高圧電極112の端を指すように励起光を照射してもよい。本実施の形態においては、誘電体円筒管111と光源23との距離は、10mmとしている。また、誘電体円筒管111に対して、水平方向に励起光を照射されるように、光源23を設置している。
【0064】
このように、所定位置から離れるが、所定位置になるべく近い、上流側接地電極113の上端または高圧電極112の下端に向けて励起光を照射することが望ましい。なお、本実施の形態においては、上流側接地電極113の上端よりも高圧電極112の下端の方が所定位置に近いため、
図2よりも、
図3のように高圧電極112の下端に向けて励起光を照射する方が望ましい。
【0065】
また、ガスクロマトグラフ分析装置の構造上、
図2や
図3のような位置に光源23を設置することが難しい場合もある。このような場合は、
図2や
図3の位置以外でも、なるべく所定位置に近い位置に向けて励起光を照射するようにすればよい。
【0066】
また、ガスクロマトグラフ分析装置の構造上、光源23を設置する角度に制約がある場合がある。このような場合、
図2や
図3に示したような角度で光源23を設置する必要はない。光源23は、光軸方向が第1接地電極113と高圧電極112との間の所定位置を指すように当該光源23を傾けて励起光を照射するのが望ましい。その際、できる限り所定位置に近い位置に励起光が照射されるように光源23を傾ければよい。
【0067】
たとえば、
図4に示すように、上流側接地電極113の上端側から励起光を照射するような場合は、所定位置の方向に照射されるように当該光源23を下方向に傾けて励起光を照射すればよい。このようにすることで、できる限り、所定位置に近い位置に励起光が照射される。
図4の光源23の位置において、たとえば、上方向に傾けて励起光を照射した場合は、所定位置から遠ざかってしまうため、このような角度で光源23を設置することは望ましくない。
【0068】
あるいは、
図5に示すように、高圧電極112の下端側から励起光を照射するような場合は、所定位置の方向に照射されるように当該光源23を上方向に傾けて励起光を照射すればよい。このようにすることで、できる限り、所定位置に近い位置に励起光が照射される。
図5の光源23の位置において、たとえば、下方向に傾けて励起光を照射した場合は、所定位置から遠ざかってしまうため、このような角度で光源23を設置することは望ましくない。なお、本実施の形態においては、上流側接地電極113の上端よりも高圧電極112の下端の方が所定位置に近いため、
図4よりも、
図5に示すように高圧電極112の下端から上方向に傾けて励起光を照射する方が望ましい。
【0069】
次に、接地電極が穴部を有する場合について説明する。
図6は、接地電極が穴部を有する場合における、光源の設置位置の一例を示す図である。
【0070】
図6に示すように、第1接地電極113は、穴部113Aを有するとする。穴部113Aは、誘電体円筒管111内部に励起光が照射できる程度の穴であればよい。たとえば、穴部113Aは、直径1mm程度の穴であってもよい。
【0071】
光源23は、光軸方向が穴部113Aを指すように励起光を照射する。たとえば、
図6のような、穴部113Aに向けて励起光を照射可能な位置に光源23を設置する。第1接地電極113がこのような穴部113Aを有する場合、第1接地電極113の上端から照射する場合に比べて、所定位置に近づくため、設置位置としては望ましい。
【0072】
また、
図6の例に限らず、第1接地電極113や高圧電極112において、被覆部130が設けられていない位置に穴部を有するものであって、穴部に向けて励起光を照射可能な位置に光源23を設置するものであってもよい。
【0073】
図7は、本実施の形態の変形例に係る放電イオン化検出器の概略構成図である。本実施の形態の
図1と同一の構成要素には同一符号を付して詳しい説明を省略する。変形例の放電イオン化検出器11では、収集電極123よりも下方に接続された試料導入管226から試料成分を含む試料ガスが供給される。試料導入管226の出口は収集電極123よりも下方に位置している。また、収集電極123よりも下方に接続された希釈ガス供給管224aを通して希釈ガスが供給される。バイパス排気管121aから、プラズマガスと希釈ガスとが共に排出される。
【0074】
図7中に矢印で示すように、プラズマ生成領域をプラズマガスは下向きに流れ、電流検出領域を希釈ガスは上向きに流れ、両者は合流してバイパス排気管121aを通して外部に排出される。この場合、ガス流路の下端付近で希釈ガスと試料ガスとが混合され上向きに進むから、電流検出領域の上部付近では試料ガスは十分に希釈された状態になっている。したがって、試料ガスの試料濃度が高い場合でもイオンが過剰に発生することがなく、直線性の高い範囲で検出を行うことができる。また、この構成では、プラズマ生成ガスと希釈ガスとを異なる種類のガスとしてもよい。
【0075】
なお、放電イオン化検出器10、11は、接地電極として、下流側接地電極114を備えないものであってもよい。この場合、
図1や
図7において、上流側接地電極113と高圧電極112を備えるが、下流側接地電極114が備えられていないものとなる。あるいは、この場合、上流側接地電極113と高圧電極112とが上下逆に配置されていてもよい。なお、その他の構成は、
図1や
図7と同じである。
【0076】
この場合、放電イオン化検出器10、11は、誘電体管111と、高圧電極112と、接地電極113と、電圧印加部115と、光源23と、電荷収集部120と、被覆部(以下、「遮光部材」とも称する)130とを備えるようにしてもよい。誘電体管111は、放電用ガスが流通するガス流路を成し、管軸方向に延びる。高圧電極112は、誘電体管111の外壁に設けられている。接地電極113は、電気的に接地され、誘電体管111の外壁に設けられている。電圧印加部115は、高圧電極112に接続され、誘電体管111内で放電を発生させて放電用ガスからプラズマを生成するために、高圧電極112と接地電極113との間に交流電圧を印加する。光源23は、誘電体管111を流通する放電用ガスに対して励起光を照射する。電荷収集部120は、プラズマから発せられた光によって、ガス流路に導入された試料ガス中の試料成分から生成されたイオンを収集する収集電極123を含む。遮光部材130は、誘電体管の外壁111に設けられる。光源23は、光軸方向が遮光部材130を避けた位置を指すように励起光を照射する。
【0077】
図1に示したように、遮光部材130は、高圧電極112と接地電極113との間に設けられている。遮光部材130は、励起光に対して不透明であり、上述のように紫外光を透過しない。このため、遮光部材130を避けて、
図2~
図6に示したような位置から励起光を照射する必要がある。また、放電イオン化検出器10、11は、透過部材を備えてもよい。透過部材は、誘電体管111の外壁であって誘電体管の管軸方向において遮光部材と異なる位置に設けられる。また、透過部材は、励起光に対して透明であり、紫外光を透過する。このため、たとえば、
図2~
図6に示したような位置に透過部材が設けられている場合であっても、当該位置から励起光を照射して放電を開始させることができる。
【0078】
[態様]
上述した実施の形態およびその変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0079】
(第1項)一態様に係る放電イオン化検出器は、誘電体管と、高圧電極と、接地電極ユニットと、電圧印加部と、光源と、電荷収集部とを備える。誘電体管は、放電用ガスが流通するガス流路を成し、管軸方向に延びる。高圧電極は、誘電体管の外壁に設けられている。接地電極は、電気的に接地され、誘電体管の外壁に設けられている。電圧印加部は、高圧電極に接続され、誘電体管内で放電を発生させて放電用ガスからプラズマを生成するために、高圧電極と接地電極ユニットとの間に交流電圧を印加する。光源は、誘電体管を流通する放電用ガスに対して励起光を照射する。電荷収集部は、プラズマから発せられた光によって、ガス流路に導入された試料ガス中の試料成分から生成されたイオンを収集する収集電極を含む。接地電極ユニットは、誘電体管の管軸方向に互いに離間して配置された第1接地電極と第2接地電極とを有する。高圧電極は、第1接地電極と第2接地電極との間に設けられている。第1接地電極と高圧電極との間の距離は、第2接地電極と高圧電極との間の距離よりも短い。誘電体管の外壁であって第1接地電極と高圧電極との間の位置には、被覆部が設けられている。光源は、光軸方向が被覆部を避けた位置を指すように励起光を照射する。
【0080】
このような構成によれば、誘電体管の外壁に被覆部を設ける構成において、励起光が確実に放電用ガスに照射される。
【0081】
(第2項)第1項に記載の放電イオン化検出器において、光源は、光軸方向が被覆部が設けられていない側の第1接地電極の端、または高圧電極の端を指すように励起光を照射する。
【0082】
このような構成によれば、光軸方向が被覆部が設けられていない側の第1接地電極の端、または高圧電極の端を指すように励起光を照射するため、励起光が確実に放電用ガスに照射される。
【0083】
(第3項)第1項または第2項に記載の放電イオン化検出器において、光源は、光軸方向が第1接地電極と高圧電極との間の所定位置を指すように当該光源を傾けて励起光を照射する。
【0084】
このような構成によれば、光軸方向が第1接地電極と高圧電極との間の所定位置を指すように当該光源を傾けて励起光を照射するため、励起光が確実に放電用ガスに照射される。
【0085】
(第4項)第1項に記載の放電イオン化検出器において、第1接地電極は、穴部を有する。光源は、光軸方向が穴部を指すように励起光を照射する。
【0086】
このような構成によれば、光軸方向が穴部を指すように励起光を照射するため、励起光が確実に放電用ガスに照射される。
【0087】
(第5項)第1項~第4項のいずれか1項に記載の放電イオン化検出器において、放電用ガスは、Arである。
【0088】
このような構成によれば、Arからプラズマを生成する場合において、励起光が確実に放電用ガスに照射される。
【0089】
(第6項)第1項~第5項のいずれか1項に記載の放電イオン化検出器において、励起光は、300nm以下の波長を含む光である。
【0090】
このような構成によれば、光エネルギーの高い300nm以下の波長を含む光を照射することで、確実に放電を開始させることができる。
【0091】
(第7項)第1項~第6項のいずれか1項に記載の放電イオン化検出器において、光源は、紫外LEDである。
【0092】
このような構成によれば、低消費電力、長寿命の部品により光源を構成することができる。
【0093】
(第8項)一態様に係る放電イオン化検出器は、誘電体管と、高圧電極と、接地電極と、電圧印加部と、光源と、電荷収集部と、遮光部材と、透過部材とを備える。誘電体管は、放電用ガスが流通するガス流路を成し、管軸方向に延びる。高圧電極は、誘電体管の外壁に設けられている。接地電極は、電気的に接地され、誘電体管の外壁に設けられている。電圧印加部は、高圧電極に接続され、誘電体管内で放電を発生させて放電用ガスからプラズマを生成するために、高圧電極と接地電極との間に交流電圧を印加する。光源は、誘電体管を流通する放電用ガスに対して励起光を照射する。電荷収集部は、プラズマから発せられた光によって、ガス流路に導入された試料ガス中の試料成分から生成されたイオンを収集する収集電極を含む。遮光部材は、誘電体管の外壁に設けられ、励起光に対して不透明である。透過部材は、誘電体管の外壁であって誘電体管の管軸方向において遮光部材と異なる位置に設けられ、励起光に対して透明である。光源は、光軸方向が遮光部材を避けた位置を指すように励起光を照射する。
【0094】
このような構成によれば、誘電体管の外壁に遮光部材を設ける構成において、励起光が確実に放電用ガスに照射される。
【0095】
(第9項)一態様に係るガスクロマトグラフ分析装置は、第1項~第8項のいずれか1項に記載の放電イオン化検出器と、試料ガス中の試料成分を成分ごとに分離する分析カラムとを備える。分析カラムで分離された試料成分を放電イオン化検出器のガス流路に導入する。
【0096】
このような構成によれば、誘電体管の外壁に被覆部を設ける構成において、励起光が確実に放電用ガスに照射される。
【0097】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0098】
10、11 放電イオン化検出器、22 制御部、23 光源、32 試料導入部、34 分析カラム、111 誘電体円筒管、112 高圧電極、113 上流側接地電極、113A 穴部、114 下流側接地電極、115 励起用高圧交流電源、116 管路先端部材、116a ガス供給管、120 電荷収集部、121 接続部材、121a バイパス排気管、122 バイアス電極、123 収集電極、124 管路末端部材、124a 試料排気管、125a、125b、125c 絶縁体、126、226 試料導入管、127 バイアス直流電源、128 電流アンプ、130 被覆部、224a 希釈ガス供給管、d1 上流側電極間距離、d2 下流側電極間距離。