(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】環状の砥石の製造方法
(51)【国際特許分類】
B24D 3/06 20060101AFI20231225BHJP
B24D 5/12 20060101ALI20231225BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
B24D3/06 B
B24D5/12 Z
H01L21/78 F
(21)【出願番号】P 2019108506
(22)【出願日】2019-06-11
【審査請求日】2022-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】相川 弘樹
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-154463(JP,A)
【文献】特開2015-037833(JP,A)
【文献】特開昭55-007517(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0009026(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/06
B24D 5/12
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき層からなる結合材と、該結合材中に分散され固定された砥粒と、を含む砥石部を備え
、該結合材は、スズニッケル合金であ
る環状の砥石
の製造方法であって、
該砥粒が混入されためっき液が収容されためっき浴槽を準備し、
基台と、ニッケル電極と、を該めっき浴槽内の該めっき液に浸漬させ、
該基台を陰極として、該ニッケル電極を陽極として、該めっき液に直流電流を流し、該基台の表面に該めっき層を堆積させ、
該基台の全部または一部を除去することで該環状の砥石を製造し、
該めっき液は、ニッケルを含有する塩と、スズを含有する塩と、が溶解した電解液であり、該砥粒が混入されていることを特徴とする環状の砥石の製造方法。
【請求項2】
前記スズニッケル合金におけるスズの含有率は、57wt%以上75wt%未満であることを特徴とする請求項1記載の環状の砥石
の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の環状の砥石
の製造方法であって、
前記環状の砥石は、前記砥石部からなることを特徴とする環状の砥石
の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の環状の砥石
の製造方法であって、
前記環状の砥石は、把持部を有する環状基台をさらに備え、
前記砥石部は、該環状基台の外周縁に露出することを特徴とする環状の砥石
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削装置に装着される環状の砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器等に搭載されるデバイスチップは、例えば、半導体を含む円板状のウェーハが切断されることで形成される。交差する複数の分割予定ラインをウェーハの表面に設定し、分割予定ラインで区画された各領域に該半導体を含むIC(Integrated Circuit)等のデバイスを形成する。そして、ウェーハを該分割予定ラインに沿って分割すると個々のデバイスチップが形成される。
【0003】
ウェーハの分割には、環状の砥石(切削ブレード)が装着された切削ユニットを備える切削装置が使用される。切削装置でウェーハ等の被加工物を切削して分割する際には、環状の砥石を被加工物の上面に垂直な面内に回転させながら該被加工物に切り込ませる。該環状の砥石は、砥粒と、該砥粒が分散され固定された結合材と、を含む砥石部を有し、結合材から適度に露出した砥粒が被加工物に接触することで被加工物が切削される。
【0004】
被加工物の切削を進めると砥粒が消耗するが、結合材も消耗して新たな砥粒が次々に結合材から露出するため、該環状の砥石の切削能力は維持される。環状の砥石のこのような作用は、自生発刃と呼ばれる。
【0005】
近年、シリコンウェーハから形成されたデバイスと比較して高耐圧であり、大電流の電気信号を制御できる半導体デバイスとして、パワーデバイスが着目されている。パワーデバイスは、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、エアコンの電源回路等に使用される。パワーデバイスの製造には、シリコンウェーハよりも電気特性が良好なシリコンカーバイド(SiC)ウェーハが使用される。
【0006】
SiCウェーハは硬質材料であるため、SiCウェーハを切削して分割する際には、例えば、結合材がニッケル(Ni)で形成された環状の砥石が使用されていた。しかし、ニッケルで形成された結合材は消耗しにくいため、自生発刃の作用が十分な水準では発現しないことがあった。そのため、該環状の砥石でSiCウェーハを切削すると、該環状の砥石の切削能力が徐々に低下して、形成されるデバイスチップの側面にチッピングと呼ばれる欠け等が生じやすかった。
【0007】
そこで、高い加工品質でSiCウェーハを分割できる方法として、分割予定ラインに沿ってSiCウェーハにレーザビームを照射して非晶質を含むシールドトンネルをSiCウェーハに形成する方法が知られている(特許文献1参照)。また、環状の砥石に超音波を付与しつつSiCウェーハを切削する方法が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-221483号公報
【文献】特開2014-13812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
レーザ加工装置や環状の砥石に超音波を付与できる切削装置は高価であるため、これらの装置を使用した加工はコストが高くなる。そこで、SiCウェーハ等の硬質材料を高品質に切削できる環状の砥石の開発が切望されている。既存の切削装置に該環状の砥石を装着して硬質材料を高品質に切削できるのであれば、切削装置に特別な構成を組み込む必要がないため加工コストを抑えられる。さらに、既存の切削装置に新たな用途が与えられるため、既存の切削装置の価値が高まる。
【0010】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、SiCウェーハ等の硬質材料を高品質に切削できる環状の砥石を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、めっき層からなる結合材と、該結合材中に分散され固定された砥粒と、を含む砥石部を備え、該結合材は、スズニッケル合金である環状の砥石の製造方法であって、該砥粒が混入されためっき液が収容されためっき浴槽を準備し、基台と、ニッケル電極と、を該めっき浴槽内の該めっき液に浸漬させ、該基台を陰極として、該ニッケル電極を陽極として、該めっき液に直流電流を流し、該基台の表面に該めっき層を堆積させ、該基台の全部または一部を除去することで該環状の砥石を製造し、該めっき液は、ニッケルを含有する塩と、スズを含有する塩と、が溶解した電解液であり、該砥粒が混入されていることを特徴とする環状の砥石の製造方法が提供される。好ましくは、前記スズニッケル合金におけるスズの含有率は、57wt%以上75wt%未満である。
【0012】
また、好ましくは、該環状の砥石は、前記砥石部からなる。または、好ましくは、該環状の砥石は、把持部を有する環状基台をさらに備え、前記砥石部は、該環状基台の外周縁に露出する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係る環状の砥石は、結合材と、該結合材中に分散され固定された砥石と、を含む砥石部を備える。そして、該結合材は、スズニッケル合金を含む。該環状の砥石はSiCウェーハ等の硬質材料を切削したときに結合材が大きく消耗するため、自生発刃の作用が適切に発現して該環状の砥石の切削能力が維持される。そのため、硬質材料を切削する間、加工品質が低下しない。また、該環状の砥石は既存の切削装置に装着可能であるため、加工コストが抑制される。
【0014】
したがって、本発明の一態様により、SiCウェーハ等の硬質材料を高品質に切削できる環状の砥石が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1(A)は、砥石部からなる環状の砥石を模式的に示す斜視図であり、
図1(B)は、環状基台及び砥石部を備える環状の砥石を模式的に示す斜視図である。
【
図2】砥石部からなる環状の砥石の製造工程を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図3(A)は、形成されためっき層を模式的に示す断面図であり、
図3(B)は、基台の除去を模式的に示す断面図である。
【
図4】砥石部及び環状基台を備える環状の砥石の製造工程を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5(A)は、形成されためっき層を模式的に示す断面図であり、
図5(B)は、部分的な基台の除去を模式的に示す断面図である。
【
図6】結合材がニッケルで形成された環状の砥石及び結合材がスズニッケル合金で形成された環状の砥石を使用してSiCウェーハを切削したときのチッピングの発生状況を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る実施形態について説明する。
図1(A)は、本実施形態に係る環状の砥石(切削ブレード)の一例として、砥石部からなる環状の砥石を模式的に示す斜視図である。
図1(A)に示す環状の砥石1aは、ワッシャータイプと呼ばれる環状の砥石である。
【0017】
環状の砥石1aは、中央に貫通孔を有する円環状の砥石部3aからなる。環状の砥石1aは、切削装置の切削ユニットに装着される。この際、該貫通孔には切削ユニットが備えるスピンドルが通される。被加工物を切削する際、該スピンドルが回転することで環状の砥石1aが該貫通孔の伸長方向に垂直な面内に回転される。そして、回転する環状の砥石1aの砥石部3aを被加工物に接触させると、被加工物が切削される。
【0018】
また、
図1(B)は、環状基台及び砥石部を備える環状の砥石を模式的に示す斜視図である。
図1(B)に示す環状の砥石1bは、環状基台5の外周縁に砥石部3bが配設されたハブタイプと呼ばれる砥石である。環状基台5は、環状の砥石1bを切削装置の切削ユニットに装着する際に切削装置の使用者(オペレータ)が持つ把持部となる。環状の砥石1bが切削装置の切削ユニットに装着される際、環状基台5に形成された貫通孔に該切削ユニットのスピンドルが通される。
【0019】
砥石部3a,3bは、例えば、電解めっき等の方法でアルミニウム等の金属でなる基台上にダイヤモンド砥粒等の砥粒を含む結合材を形成することにより作製される。なお、電解めっき等の方法で形成される環状の砥石1a,1bは、電着砥石または、電鋳砥石とも呼ばれる。環状の砥石1a,1bの砥石部3a,3bは、結合材と、該結合材中に分散され固定された砥粒と、を含む。結合材から適度に露出した砥粒が被加工物に接触することで被加工物が切削される。
【0020】
被加工物の切削を進めると、砥粒が結合材から脱落したり摩耗したりして消耗するため、環状の砥石1a,1bの切削能力は徐々に低下していく。しかしながら、被加工物の切削を進めると結合材もまた消耗するため、次々に該結合材から新たな砥粒が露出される。そのため、環状の砥石1a,1bの切削能力は一定以上に保たれる。この作用は自生発刃と呼ばれている。
【0021】
近年、シリコンウェーハから形成されたデバイスと比較して高耐圧であり、大電流の電気信号を制御できる半導体デバイスとして、パワーデバイスが着目されている。パワーデバイスは、例えば、電気自動車、ハイブリッド自動車、エアコンの電源回路等に使用される。パワーデバイスの製造には、SiC(シリコンカーバイド)ウェーハが使用される。
【0022】
従来、硬質材料であるSiCウェーハの切削には、例えば、結合材がニッケルで形成された環状の砥石が使用されていた。しかし、ニッケルで形成された結合材は消耗しにくいため、該環状の砥石では自生発刃の作用が十分な水準では発現しないことがあった。そのため、該環状の砥石でSiCウェーハを切削すると、該環状の砥石の切削能力が徐々に低下するため、デバイスチップの側面にチッピングと呼ばれる欠け等が生じやすかった。
【0023】
これに対して、本実施形態に係る環状の砥石1a,1bは、結合材にスズニッケル(Sn-Ni)合金が使用された砥石部3a,3bを備える。好ましくは、結合材はスズニッケル合金からなる。結合材にスズニッケル合金が使用されると、該環状の砥石で硬質材料を切削したとき該結合材が激しく消耗するため、自生発刃の作用が適切に発現する。そのため、該環状の砥石は、加工品質を低下させることなく硬質材料を切削できる。
【0024】
なお、環状の砥石1a,1bでは、結合材に使用されるスズニッケル合金におけるスズの含有率(例えば、スズと、ニッケルと、の総重量に占めるスズの重量)を、57wt%以上75wt%未満とするのが好ましい。より好ましくは、スズニッケル合金におけるスズの含有率を64wt%以上70wt%以下とする。
【0025】
スズニッケル合金は、スズとニッケルの原子数比が1:1であると特に安定的となる。このときの該スズニッケル合金におけるスズの含有率は、約67wt%である。そのため、スズの含有率が67wt%程度のスズニッケル合金を主成分とする結合材を環状の砥石1a,1bの砥石部3a,3bに使用すると、環状の砥石1a,1bの性能が安定する。この場合、極めて安定した品質で被加工物を切削でき、加工品質のばらつきが極めて小さくなる。
【0026】
一般的に、被加工物の切削条件を決定する際、切削品質のばらつきを考慮してある程度余裕のある切削条件が選択される。すなわち、切削品質にある程度のばらつきが生じたとしても許容される加工結果が得られるように、所定の加工結果を得るのに十分と考えられる切削条件よりも厳しい切削条件を選択しなければならない。そのため、想定される加工のばらつきが大きい場合、選択できる加工条件の幅が狭くなる場合があった。
【0027】
これに対して、本実施形態に係る環状の砥石の性能のばらつきは小さいため、該環状の砥石を使用して被加工物を切削したとき、切削品質のばらつきも小さくなる。そのため、該環状の砥石を使用して被加工物を切削するための切削条件を決定する際に、切削条件の制限は比較的小さく、切削条件の選択の幅が広がる。
【0028】
さらに、スズニッケル合金を主成分とする結合材を後述の通り電解めっき法により形成すると、スズとニッケルの原子数比が1:1となりやすいため、スズの含有率が約67wt%となる該結合材は安定的に製造しやすく、生産性が良い。例えば、該環状の砥石を製造する際、電解めっきが実施されるめっき槽に含まれるめっき液の組成に変化が生じても、形成される結合材の組成は大きくは変化しない。したがって、本実施形態に係る環状の砥石は、その製造工程の管理も容易である。
【0029】
本実施形態に係る環状の砥石1a,1bは、SiC(シリコンカーバイド)に代表される硬質材料で形成された被加工物を切削する用途に特に適している。ただし、環状の砥石1a,1bで切削できる被加工物はこれに限定されず、例えば、シリコン等の半導体等の材料、または、サファイア、ガラス、石英等の材料で形成された被加工物を切削してもよい。
【0030】
例えば、被加工物の表面は格子状に配列された複数の分割予定ラインで区画されており、区画された各領域にはIC(Integrated Circuit)やLED(Light Emitting Diode)等のデバイスが形成されている。最終的に、被加工物が分割予定ラインに沿って分割されることで、個々のデバイスチップが形成される。
【0031】
次に、
図1(A)に示すワッシャータイプの環状の砥石1aの製造方法について説明する。
図2は、砥石部からなる環状の砥石1aの製造工程を模式的に示す断面図である。環状の砥石1aは、電解めっき等の方法で形成される。該製造方法では、まず、砥粒が混入されためっき液16が収容されためっき浴槽2を準備する。
【0032】
めっき液16は、ニッケルを含有する塩と、スズを含有する塩と、が溶解した電解液である。それぞれの塩は、例えば、硫酸塩、スルファミン酸塩、塩化物、臭化物、酢酸塩、クエン酸塩、または、ピロリン酸塩のいずれかである。それぞれの塩は、ニッケルとスズの原子数比が概ね1:1となるようにめっき液16に投入される。ただし、めっき液16に含有されるそれぞれのイオンの原子数比が1:1とはならない場合においても、形成されるめっき層の組成は影響を受けにくい。すなわち、めっき液16の管理は容易である。
【0033】
さらに、めっき液16には、重フッ化アンモニウム、または、フッ化ナトリウム等のフッ化物が添加されるとよい。または、めっき液16には、グリシン等のアルファアミノ酸が添加されるとよい。めっき液16にこのような添加剤が導入されると、Sn2+又はNi2+の析出電位が互いに近づけられる。また、めっき液16には、さらに、ダイヤモンド砥粒等の砥粒が混入されている。
【0034】
めっき浴槽2の準備が完了した後、電着により砥石部3aが形成される基台20aと、ニッケル電極6と、をめっき浴槽2内のめっき液16に浸漬させる。基台20aは、例えば、ステンレスやアルミニウム等の金属材料で円盤状に形成されており、その表面には、所望の砥石部3aの形状に対応した形状の開口を有するマスク22aが形成されている。なお、本実施形態では、円環状の砥石1aを形成できるようなマスク22aが形成される。
【0035】
基台20aは、スイッチ8を介して直流電源10のマイナス端子(負極)に接続される。一方、ニッケル電極6は、直流電源10のプラス端子(正極)に接続される。ただし、スイッチ8は、ニッケル電極6と直流電源10との間に配置されても良い。
【0036】
その後、基台20aを陰極、ニッケル電極6を陽極としてめっき液16に直流電流を流し、マスク22aで覆われていない基台20aの表面にめっき層を堆積させる。
図2に示すように、モータ等の回転駆動源12でファン14を回転させてめっき液16を攪拌しながら、基台20aと直流電源10との間に配置されたスイッチ8を短絡させる。
【0037】
図3(A)は、形成されためっき層24aを模式的に示す断面図である。めっき層24aが所望の厚さとなったとき、スイッチ8を切断してめっき層24aの堆積を停止させる。めっき層24aは、ダイヤモンド砥粒が均等に分散されたスズニッケル合金となる。
【0038】
その後、該基台20aの全部を除去して該めっき層24aを剥離させる。
図3(B)は、基台20aの除去を模式的に示す断面図である。これにより、スズニッケル合金を含む結合材と、該結合材中に分散固定された砥粒と、を備える砥石部3aを形成でき、ワッシャータイプの環状の砥石1aが完成する。
【0039】
次に、
図1(B)に示すハブタイプの環状の砥石1bの製造方法について説明する。
図4は、砥石部及び環状基台を備える環状の砥石1bの製造工程を模式的に示す断面図である。環状の砥石1bは、環状の砥石1aと同様に、例えば、めっき浴槽2における電解めっき等の方法で形成される。該製造方法では、環状の砥石1aの製造方法と同様のめっき浴槽を準備する。
【0040】
めっき浴槽2、及びめっき液16の構成は、上述の環状の砥石1aの製造方法と同様であるため説明を省略する。ただし、直流電源10の負極に接続される基台20bの一部は環状の砥石1bの砥石部3bを支持する環状基台5となるため、基台20bの形状は、該環状基台5に対応した形状とする。また、基台20bの表面には砥石部3bの形状に対応した開口を有するマスク22bを形成する。そして、上述の環状の砥石1aの製造方法と同様に、基台20bの露出部分にめっき層を堆積させる。
【0041】
図5(A)は、基台20bの表面に形成されためっき層24bを模式的に示す断面図である。めっき層24を所定の厚さで形成した後、
図5(A)に示す通り、該基台20bの一部を除去してめっき層24bの該基台20bで覆われていた領域の一部を露出させる。また、基台除去工程を実施する前に予めマスク22bを基台20bから除去しておく。
【0042】
そして、
図5(B)に示すように、基台20bにおいてめっき層24bが形成されていない側の外周領域を部分的にエッチングして、めっき層24bの基台20bに覆われていた領域の一部を露出させる。これにより、環状基台5の外周領域に砥石部3bが固定されたハブタイプの環状の砥石1bが完成する。
【実施例】
【0043】
本実施例では、スズニッケル合金を含む結合材と、該結合材中に分散され固定された砥粒と、を含む砥石部3aを備える環状の砥石1aを作製した。作製された環状の砥石は、実施例ブレードと呼ぶこととする。そして、該実施例ブレードを使用して被加工物としてSiC単結晶基板を切削し、切削後の被加工物を観察して被加工物に生じたチッピング等の損傷の大きさを測定した。また、切削後の実施例ブレードの径を測定し、切削前の実施例ブレードの径と比較して消耗量を算出した。
【0044】
また、本実施例では、比較のために、ニッケルからなる結合材と、該結合材中に分散され固定された砥粒と、を含む砥石部を備える環状の砥石を作製した。作製された環状の砥石は、比較例ブレードと呼ぶこととする。そして、同様に該比較例ブレードを使用してSiC単結晶基板を切削して、被加工物に生じたチッピング等の損傷の大きさを測定し、また、消耗量を算出した。
【0045】
まず、作製したそれぞれの環状の砥石1aについて説明する。実施例ブレードの厚さは、被加工物を切削したときに被加工物に形成される切削溝の幅が25μm~30μmとなる厚さとした。そして、砥石部では、結合材にスズニッケル合金を使用し、砥粒にダイヤモンド砥粒を使用した。ここで、スズニッケル合金におけるスズの含有率を67wt%とした。
【0046】
また、ダイヤモンド砥粒には、粒度が♯2000の砥粒を使用した。なお、粒度については、日本工業標準調査会(JISC:Japanese Industrial Standards Committee)により制定されるJIS R6001-2:2017(研削といし用研削材の粒度-第2部:微粉)を参照されたい。また、砥粒の集中度を50とした。
【0047】
なお、比較例ブレードは、結合材にスズニッケル合金に代えてニッケル(100wt%)を使用したこと以外、実施例ブレードと同様に作製された。
【0048】
実施例ブレード及び比較例ブレードで切削する被加工物として、厚さが130μmで4インチ径の円板状のSiC単結晶基板を準備した。本実施例では、該SiC単結晶基板の裏面側に粘着テープを貼着し、該粘着テープを介して切削装置の保持テーブル上にSiC単結晶基板を載せて、保持テーブルに該SiC単結晶基板を保持させた。また、該切削装置の切削ユニットに実施例ブレードまたは比較例ブレードを装着した。
【0049】
切削ユニットに装着された実施例ブレード又は比較例ブレードを毎分50,000回転の速度で回転させ、切削ユニットを所定の高さ位置に位置付け、保持テーブル及び切削ユニットを該保持テーブルの保持面に平行な方向に相対移動させる。すると、回転する実施例ブレード又は比較例ブレードがSiC単結晶基板を切削し、SiC単結晶基板が分断される。
【0050】
このとき、切削ユニットは、実施例ブレード又は比較例ブレードの下端がSiC単結晶基板の裏面に貼着された粘着テープの上面から30μm程下方の高さ位置に位置付けられる高さとした。すなわち、切削ユニットで一部の粘着テープごとSiC単結晶基板を切削し、SiC単結晶基板を分断した。また、保持テーブルと、切削ユニットと、の相対速度を5mm/secとした。
【0051】
SiC単結晶基板を切削した後、SiC単結晶基板の裏面側を光学顕微鏡で観察してチッピング等の損傷を検出した。具体的には、SiC単結晶基板の一端から他端までを15ライン切削し、各ラインに沿ってSiC単結晶基板を観察した。そして、各ラインに生じたチッピングのうち最大のもののチッピングの大きさを測定した。
【0052】
以下の表1には、実施例ブレードを使用した場合及び比較例ブレードを使用した場合における切削されたSiC単結晶基板の各ラインに確認されたチッピングのうち最大のものの大きさが示されている。また、
図6には、各ラインに確認された最大のチッピングの大きさの分布状況が示されている。
【0053】
【0054】
なお、実施例ブレードを使用したときにSiC単結晶基板に確認されたチッピングのうち最大のものの大きさは13.3μmであり、各ラインの最大チッピングの大きさの平均値は8.4μmであった。さらに、15ラインの最大チッピングの大きさの分布について、平均値に3σを加えた値は15.4μmとなった。すなわち、実施例ブレードを使用してSiC単結晶基板切削すると、15.4μmを超えるチッピングは極めて発生しにくいことが理解される。
【0055】
これに対して比較例ブレードを使用したときにSiC単結晶基板に確認されたチッピングのうち最大のものの大きさは37.7μmであり、各ラインの最大チッピングの大きさの平均値は26.6μmであった。さらに、15ラインの最大チッピングの大きさの分布について、平均値に3σを加えた値は53.8μmとなった。すなわち、比較例ブレードを使用してSiC単結晶基板切削すると、53.8μm以下のチッピングは、発生し得ることが理解される。
【0056】
したがって、砥石部にスズニッケル合金を含む結合材を備える環状の砥石は、被加工物が硬質材料である場合においても、極めて高品質に切削を実施できることが本実施例から確認された。
【0057】
さらに、実施例ブレード又は比較例ブレードを使用して、SiC単結晶基板を切削長さが5mとなるまで切削したときの消耗量として、それぞれの径の変化を測定した。その結果、実施例ブレードでは消耗量が14.7μmであったのに対して、比較例ブレードでは消耗量が2.5μmであった。
【0058】
本結果により、実施例ブレードは比較例ブレードと比較して被加工物の切削により消耗しやすく、自生発刃の作用が積極的に生じることが理解される。すなわち、砥石部にスズニッケル合金を含む結合材を備える環状の砥石は、被加工物を切削しても自生発刃の作用により切削能力が維持される。したがって、該環状の砥石で被加工物を高品質に切削できるのは、自生発刃の作用が十分に生じることに起因することが示唆された。
【0059】
以上、説明した通り、本実施形態によると、SiCウェーハ等の硬質材料を高品質に切削できる環状の砥石が提供される。本実施形態に係る環状の砥石は既存の環状の砥石の形状と同様であるため、既存の切削装置に容易に装着可能である。既存の切削装置で硬質材料の高品質な切削が可能となり、被加工物の加工コストを抑えられる。さらに、既存の切削装置に新たな用途が与えられるため、既存の切削装置の価値が高まる。
【0060】
なお、上記実施形態では、環状の砥石で被加工物を切削して分断する場合について説明したが、本発明の一態様に係る環状の砥石は他の目的で使用されてもよい。例えば、被加工物に裏面側に達しない深さで環状の砥石を切り込ませ、底面が該裏面に達しない切削溝を被加工物に形成してもよい。この場合においても、本発明の一態様に係る環状の砥石は、被加工物を高品質に切削できる。
【0061】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0062】
1a,1b 環状の砥石
3a,3b 砥石部
5 環状の基台
2 めっき浴槽
6 ニッケル電極
8 スイッチ
10 直流電源
12 回転駆動源
14 ファン
16 めっき液
20a,20b 基台
22a,22b マスク
24a,24b めっき層