(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】再精製パーム系油脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C11B 3/10 20060101AFI20231225BHJP
A23D 9/02 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C11B3/10
A23D9/02
(21)【出願番号】P 2020048575
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青柳 寛司
(72)【発明者】
【氏名】辻野 祥伍
(72)【発明者】
【氏名】関口 吉則
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-123331(JP,A)
【文献】特開2008-011779(JP,A)
【文献】特表2014-501808(JP,A)
【文献】特開2016-123330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00-15/00
C11C 1/00- 5/02
A23D 7/00- 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再精製パーム系油脂の製造方法において、
精製パーム系油脂を、白土とアルカリ水溶液とを接触させる工程を行い、
該アルカリ水溶液が、10-7~10-4mol/L濃度のアルカリ金属水酸化物の水溶液である、
再精製パーム系油脂の製造方法。
【請求項2】
前記白土が、活性白土及び/又は酸性白土であり、精製パーム系油脂100質量部に対して、0.1~7質量部用いる、
請求項1に記載の再精製パーム系油脂の製造方法。
【請求項3】
前
記アルカ
リ水溶液が、精製パーム系油脂100kgに対して、0.1~3Lである、
請求項1又は2に記載の再精製パーム系油脂の製造方法。
【請求項4】
前記精製パーム系油脂がRBDパーム系油脂である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の再精製パーム系油脂の製造方法。
【請求項5】
前記精製パーム系油脂の過酸化物価が1以上である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の再精製パーム系油脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再精製パーム系油脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーム油やその分別油は、東南アジア等で生産される。通常は、パーム油やその分別油は、東南アジアで精製の後、輸入されるが、輸入や保管の間に劣化が起ることが知られている。特許文献1には、精製パーム油は輸送状態や保存温度の差異によって、酸価・過酸化物価・色調などの項目では殆ど差が無くても、風味上の差異を示すことがあり、風味の劣化を示すことがあるとされ、レシチンを添加してなるパーム油由来の精製油脂が提案されている。
【0003】
しかし、この方法では、冬場等の低温時の風味劣化を改善することしかできず、温暖な東南アジア等からの輸入時の風味劣化等に対応できないため、輸入・保管の間に品質劣化した精製パーム油をさらに再精製して風味等の品質向上を行っている。しかし、輸送・保管の劣化風味は、再精製を行って、改善されるものの、精製パーム油の製造時に比べると若干の異味・異臭等の風味が残る再精製パーム系油脂が得られる問題があった。また、パーム油は天然物から製造されるため、原料のばらつきに加え、流通・貯蔵時の保管状態によっては、風味品質のばらつきが多くなることもあった。
【0004】
一方、特許文献2においては、RBDパーム系油脂(精製パーム系油脂)を、白土と2.5~10%(w/v)水酸化ナトリウム水溶液で処理し、冷蔵保存時の風味を改善する提案がなされている。しかし、同文献では、多量の水酸化ナトリウムと接触させた場合において、酸化が進んでいないにも関わらず低温保存で発生する「もどり臭」の効果が示されるだけで、少量の、あるいは希薄なアルカリ金属水酸化物の水溶液の効果については、示唆されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭63-020396号公報
【文献】特開2016-123331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、品質劣化した精製パーム系油脂を再精製して得られた再精製パーム系油脂の風味を改善する製造技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、品質劣化した精製パーム系油脂を、白土と特定濃度のアルカリ金属水酸化物と接触させることによって上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するにいたった。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) 再精製パーム系油脂の製造方法において、精製パーム系油脂を、白土とアルカリ水溶液とを接触させる工程を行い、該アルカリ水溶液が、10-7~10-4mol/L濃度のアルカリ金属水酸化物の水溶液である、再精製パーム系油脂の製造方法。
(2) 前記白土が、活性白土及び/又は酸性白土であり、精製パーム系油脂100質量部に対して、0.1~7質量部用いる、(1)の再精製パーム系油脂の製造方法。
(3) 前記水酸化アルカリ金属水溶液が、精製パーム系油脂100kgに対して、0.1~3Lである、(1)又は(2)の再精製パーム系油脂の製造方法。
(4) 前記精製パーム系油脂がRBDパーム系油脂である、(1)~(3)のいずれかの再精製パーム系油脂の製造方法。
(5) 前記精製パーム系油脂の過酸化物価が1以上である、(1)~(4)のいずれかの再精製パーム系油脂の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、風味が良好な再精製パーム系油脂を得ることができる。また、再精製工程において、着色等が抑制されるため、色度も良好な再精製パーム系油脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、本明細書において、「A(数値)~B(数値)」は「A以上B以下」を意味し、割合は特に記載がない場合は質量割合を意味する。また、本発明において、「L」あるいは「l」は、リットル(単位)を意味し、「mol/L」は、1リットル当たりのモル濃度(単位)を意味する。
【0011】
なお、本発明において、「精製パーム系油脂」は、白土とアルカリ水溶液を接触させる工程の前のパーム系油脂を意味し、「再精製パーム系油脂」は、白土とアルカリ水溶液を接触させる工程を含む再精製を経たパーム系油脂を意味する。
【0012】
なお、本発明において過酸化物価(POV)は日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.5.2.1-2013 過酸化物価(酢酸-イソオクタン法)」に準拠して測定する値である。酸価は、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.3.1-2013 酸価」に準拠して測定する値である。
【0013】
<再精製パーム系油脂の製造方法>
本発明の製造方法は、精製パーム系油脂を、白土とアルカリ水溶液とを接触させる工程を行う。
【0014】
[精製パーム系油脂]
本発明で用いる精製パーム系油脂は、パームから採油されたパーム油及びその分別油の精製油である。精製パーム系油脂を得るための精製条件としては、パーム系油脂で通常用いられている、アルカリ脱酸を経ないフィジカル精製を用いることができる(RBDパーム系油脂)。また、アルカリ脱酸工程を経るアルカリ精製を用いてもよい(NBDパーム系油脂)。また、精製パーム系油脂は品質劣化しているものが好ましく、品質劣化の程度は特に限定するものではないが、輸入及び/又は保管等による品質劣化の程度が挙げられる。また、酸化劣化が進んだ精製パーム系油脂は、品質改善効果がより期待できる。例えば、精製パーム系油脂は、過酸化物価が1以上であることが好ましく、過酸化物価が5以上であることがより好ましく、過酸化物価が10以上であることがさらに好ましい。また、精製パーム系油脂は、過酸化物価が30以下であることが好ましく、過酸化物価が5~20であることがより好ましく、過酸化物価が5~15であることがさらに好ましい。
【0015】
[白土とアルカリ水溶液とを接触させる工程]
本発明で用いる白土は、酸性白土、中性白土、アルカリ白土、活性白土を用いることができる。白土は、本願の効果を得るための他、脱色効果も有する。白土は、酸性白土や活性白土等のように、10%懸濁水溶液としたときに酸性を呈するものが、脱色効率が高く好ましい。また、白土の使用量は、精製パーム系油脂100質量部に対して、0.1~7質量部であることが好ましく、0.5~5質量部であることがより好ましく、0.5~2質量部であることがさらに好ましい。
【0016】
本発明で用いるアルカリ水溶液は、10-7~10-4mol/L濃度のアルカリ金属水酸化物の水溶液である。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。また、濃度は、10-7.5~10-4.5mol/Lが好ましく、10-7~10-4mol/Lがより好ましく、10-6~10-5mol/Lがさらに好ましい。アルカリ水溶液の添加量は、精製パーム系油脂100kgに対して、0.1~3Lが好ましく、0.2~2Lがより好ましく、0.5~1.5Lがさらに好ましい。
【0017】
精製パーム系油脂を、アルカリ水溶液と効率よく接触させるために、アルカリ水溶液が微粒子になるように油脂中に分散、あるいは、撹拌させることが好ましい。接触させた後には、アルカリ金属水酸化物を白土に吸着除去することが好ましい。精製パーム系油脂への白土の添加は、アルカリ水溶液の添加の前、アルカリ水溶液の添加と同時、あるいはアルカリ水溶液の添加ししばらく接触させた後でもよい。
【0018】
例えば、精製パーム系油脂に、白土とアルカリ水溶液を添加、撹拌し、しばらく後に、減圧にしてアルカリ水溶液の水分を除去して、白土に吸着して濾別することができる。
アルカリ水溶液と接触させる温度は、精製パーム系油脂が液状でアルカリ水溶液の水分の揮発が抑えられている範囲であればよく、20~100℃未満の温度が好ましく、40~95℃がより好ましく、60~90℃がさらに好ましく、70~90℃がことさらに好ましい。また、アルカリ水溶液と接触させる間の圧力は水分が蒸発しない程度が好ましく、大気圧がより好ましい。アルカリ水溶液と接触させる時間は、例えば、10秒以上が好ましく、1~60分がより好ましく、10~40分、あるいは15~30分がさらに好ましい。
水分を除去する際には、温度を100℃以上にすることが好ましく、100~160℃がより好ましく、100~130℃がさらに好ましい。また、水分を除去する際の圧力は、減圧が好ましく、80kPaがより好ましく、400Pa以下がさらに好ましい。
【0019】
[その他の再精製工程]
本発明において、上記白土とアルカリ水溶液とを接触させる工程のほか、必要に応じて油脂に用いられる精製工程のいずれかを上記アルカリ土類金属の塩化物と接触させる工程の前後に行うことができる。例えば、アルカリ脱酸工程、水洗工程、脱臭工程などが挙げられる。
【0020】
各工程の精製条件は、通常の油脂の精製で用いる条件で行うことができる。また、脱臭工程は、白土とアルカリ水溶液とを接触させる工程の後に行うことが好ましい。
【0021】
脱臭工程の条件は、特に限定するものではないが、例えば、脱臭温度180~280℃、真空度100~800Pa、水蒸気量0.3~10質量%(対油脂)、脱臭時間30~120分の範囲が挙げられる。脱臭温度は200~270℃が好ましく、230~260℃がより好ましく、240~250℃がさらに好ましい。真空度は、200~600Paが好ましく、300~500Paがより好ましい。水蒸気量は、1~8質量%(対油)が好ましく、1~5質量%(対油)がより好ましく、1~3質量%(対油)がさらに好ましい。脱臭時間は40~120分が好ましく、40~80分がより好ましい。
【0022】
なお、脱臭工程において、脱臭処理の終了時に、クエン酸を添加してもよい。クエン酸を添加することで、酸化安定性が高まる。クエン酸は、脱臭油脂に対して10~50ppm添加することが好ましく、26~50ppm添加することがより好ましい。なお、クエン酸はそのままでは油中に分散・溶解しないので、5~20質量%の水溶液として添加することが好ましい。
【0023】
<再精製パーム系油脂>
本発明の再精製パーム系油脂は、従来の精製パーム系油脂あるいは再精製パーム系油脂と同様な用途に用いることができ、また、従来と同様に、他の油脂や添加物とブレンドして用いることができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
<分析方法>
各試験における分析は、以下の方法に従って実施した。
【0026】
(酸価:AV)
酸価は、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.3.1-2013 酸価」に準拠して測定した。
【0027】
(過酸化物価:POV)
過酸化物価は、日本油化学会制定「基準油脂分析試験法 2.5.2.1-2013 過酸化物価(酢酸-イソオクタン法)」に準拠して測定した。
【0028】
(生風味)
風味を下記の基準に基づき専門パネラー10名で評価した。なお、評価は各サンプルをそれぞれ数g、口に含み評価した。表1に評価の平均点を示した。風味は弱いほど良好なため、点数の大きい方が良好である。
5:風味の強さが、比較例2(再精製油5)より弱く、雑味等をほとんど感じない。
4:風味の強さが、比較例2(再精製油5)より弱い。
3:風味の強さが、比較例2(再精製油5)と同等である。
2:風味の強さが、参考例2(再精製油5)より強く、参考例1より弱い。
1:風味の強さが、参考例1(RBDパーム油)と同等である。
【0029】
<再精製パーム系油脂>
(再精製油1)
RBDパーム油(インドネシア産:POV8.2)2kgに、RBDパーム油に対して活性白土(水澤化学工業株式会社)を20g(1質量%)添加して脱色処理(110℃、20分、減圧)を行った後、活性白土を濾別して脱色油を得た。得られた脱色油を脱臭(脱臭温度235℃、圧力400Pa、蒸気量 対油脂4.3質量%、90分)し、再精製油1を得た。
【0030】
(再精製油2~5)
0.1mol/L水酸化ナトリウム液(関東化学株式会社製)を、イオン交換水で、100倍、1000倍、10000倍、100000倍に希釈して、10-3、10-4、10-5、10-6mol/Lの各濃度の水酸化ナトリウム水溶液を調整した。
RBDパーム油(インドネシア産:POV8.2)2kgに、RBDパーム油に対して活性白土(水澤化学工業株式会社)20g(1質量%)と、10-3、10-4、10-5、10-6mol/Lのいずれかの水酸化ナトリウム水溶液を20ml添加して、大気圧下、80℃で20分間、撹拌を行った。その後、減圧しながら加熱し、110℃、約133Paで20分間、撹拌し、その後、濾別して脱色油を得た。得られた脱色油を脱臭(脱臭温度235℃、蒸気量 対油脂3.6質量%、90分)し、再精製油2~5を得た。
【0031】
【0032】
表1に示されるように、再精製油1、5は、生風味が悪かった。一方、再精製油2~4は生風味が良好であった。