(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】多層構造体及びそれを用いた包装材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/28 20060101AFI20231225BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231225BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20231225BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
B32B27/28 102
B32B27/00 H
B32B27/32 C
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020551089
(86)(22)【出願日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 JP2019039214
(87)【国際公開番号】W WO2020071513
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2018189161
(32)【優先日】2018-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 真
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-086949(JP,A)
【文献】特開2014-034647(JP,A)
【文献】特開2001-079996(JP,A)
【文献】特開2000-318095(JP,A)
【文献】国際公開第2009/051158(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/28
B32B 27/00
B32B 27/32
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬質層(A)と、樹脂組成物層(B1)または樹脂組成物層(B2)とを有
し、ポリアミド系樹脂層を有さない多層構造体であって、
硬質層(A)の突き刺し強度が40N/mm以上150N/mm以下であり、
樹脂組成物層(B1)を構成する樹脂が、融点Tm1が170℃以上であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(b1)と融点Tm2が170℃未満であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(b2)からなり、
樹脂組成物層(B2)を構成する樹脂が、下記式(I)で表される一級水酸基を持つ変性基を含有する変性エチレン-ビニルアルコール共重合体からなる、多層構造体。
【化1】
[式(I)中、Xは水素原子、メチル基又はR
2-OHで表される基を表す。R
1,R
2は、それぞれ独立して、単結合、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表し、前記アルキレン基及び前記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
【請求項2】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(b1)に対するエチレン-ビニルアルコール共重合体(b2)の質量比(b2/b1)が1/99~50/50である、請求項1に記載の多層構造体。
【請求項3】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(b2)のエチレン含有量(モル%)とエチレン-ビニルアルコール共重合体(b1)のエチレン含有量(モル%)の差の絶対値|b2-b1|が5以上である、請求項1又は2に記載の多層構造体。
【請求項4】
硬質層(A)がオレフィン系重合体を含む、請求項1~3のいずれかに記載の多層構造体。
【請求項5】
前記オレフィン系重合体が直鎖状低密度ポリエチレンである、請求項4に記載の多層構造体。
【請求項6】
前記直鎖状低密度ポリエチレンが、メタロセン触媒を用いて重合されたエチレン重合体又は共重合体である、請求項5に記載の多層構造体。
【請求項7】
前記オレフィン系重合体が植物由来ポリエチレンを含む、請求項4~6のいずれかに記載の多層構造体。
【請求項8】
前記オレフィン系重合体がエチレン-不飽和カルボン酸共重合体アイオノマーである、請求項4に記載の多層構造体。
【請求項9】
前記オレフィン系重合体の密度が0.940以下である、請求項4~7のいずれかに記載の多層構造体。
【請求項10】
前記オレフィン系重合体の融点が130℃以下である、請求項4~9のいずれかに記載の多層構造体。
【請求項11】
前記オレフィン系重合体のメルトフローレート(190℃、2160g)が5.0g/10分未満である、請求項4~10のいずれかに記載の多層構造体。
【請求項12】
樹脂組成物層(B1)または樹脂組成物層(B2)が2つの硬質層(A)の間に配置されてなる、請求項1~11のいずれかに記載の多層構造体。
【請求項13】
硬質層(A)と、樹脂組成物層(B1)または樹脂組成物層(B2)との間に、さらに接着性樹脂層(C)を有する、請求項1~12のいずれかに記載の多層構造体。
【請求項14】
接着性樹脂層(C)/樹脂組成物層(B1)または樹脂組成物層(B2)/接着性樹脂層(C)の層構成を有する、請求項13に記載の多層構造体。
【請求項15】
請求項1~14のいずれかに記載の多層構造体からなる、包装材。
【請求項16】
請求項1~14のいずれかに記載の多層構造体の回収物を含む、回収組成物。
【請求項17】
請求項1~14のいずれかに記載の多層構造体の回収物を溶融混錬する、回収組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱成形性に優れ、かつ回収して再利用する際にブツの発生が少ない多層構造体、及びそれを用いた包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から透明で酸素バリア性の高い包装材料として、エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと称することがある)などからなるガスバリア性樹脂フィルムが用いられている。また、高いガスバリア性に加えて、熱成形性の利点を生かして積層包装材等の用途にもEVOHが使用されている。積層包装材としては、例えば積層フィルムの強度向上を目的に、EVOHの両側にポリアミド系樹脂(ナイロン)を共押出しした積層フィルムが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の積層フィルムは、それを回収して再利用する際に、ポリアミド系樹脂とEVOHが化学反応することで架橋し、ブツが発生するため、リサイクル性が低下する課題があった。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、機械的強度及び熱成形性に優れ、かつ回収して再利用する際のブツの発生が少ない多層構造体、並びに該多層構造体を用いた包装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、
[1]硬質層(A)と、樹脂組成物層(B1)または樹脂組成物層(B2)とを有する多層構造体であって、硬質層(A)の突き刺し強度が40N/mm以上150N/mm以下であり、樹脂組成物層(B1)を構成する樹脂が、融点Tm1が170℃以上であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(b1)(以下、EVOH(b1)と称することがある)と融点Tm2が170℃未満であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(b2)(以下、EVOH(b2)と称することがある)からなり、樹脂組成物層(B2)を構成する樹脂が、下記式(I)で表される一級水酸基を持つ変性基を含有する変性EVOHからなる、多層構造体;
【化1】
[式(I)中、Xは水素原子、メチル基又はR
2-OHで表される基を表す。R
1,R
2は、それぞれ独立して、単結合、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表し、前記アルキレン基及び前記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
[2]EVOH(b1)に対するEVOH(b2)の質量比(b2/b1)が1/99~50/50である、[1]の多層構造体;
[3]EVOH(b2)のエチレン含有量(モル%)とEVOH(b1)のエチレン含有量(モル%)の差の絶対値|b2-b1|が5以上である、[1]又は[2]の多層構造体;
[4]硬質層(A)がオレフィン系重合体を含む、[1]~[3]のいずれかの多層構造体;
[5]前記オレフィン系重合体が直鎖状低密度ポリエチレンである、[4]の多層構造体;
[6]直鎖状低密度ポリエチレンが、メタロセン触媒を用いて重合されたエチレン重合体又は共重合体である、[5]の多層構造体;
[7]前記オレフィン系重合体が植物由来ポリエチレンを含む、[4]~[6]のいずれかの多層構造体;
[8]前記オレフィン系重合体がエチレン-不飽和カルボン酸共重合体アイオノマーである、[4]の多層構造体;
[9]前記オレフィン系重合体の密度が0.940以下である、[4]~[7]のいずれかの多層構造体;
[10]前記オレフィン系重合体の融点が130℃以下である、[4]~[9]のいずれかの多層構造体;
[11]前記オレフィン系重合体のメルトフローレート(190℃、2160g)(以下、メルトフローレートをMFRと称することがある)が5.0g/10分未満である、[4]~[10]のいずれかの多層構造体;
[12]樹脂組成物層(B1)または樹脂組成物層(B2)が2つの硬質層(A)の間に配置されてなる、[1]~[11]のいずれかの多層構造体;
[13]硬質層(A)と、樹脂組成物層(B1)または樹脂組成物層(B2)との間に、さらに接着性樹脂層(C)を有する、[1]~[12]のいずれかの多層構造体;
[14]接着性樹脂層(C)/樹脂組成物層(B1)または樹脂組成物層(B2)/接着性樹脂層(C)の層構成を有する、[13]の多層構造体;
[15][1]~[14]のいずれかの多層構造体からなる包装材;
[16][1]~[14]のいずれかの多層構造体の回収物を含む、回収組成物;
[17][1]~[14]のいずれかの多層構造体の回収物を溶融混錬する、回収組成物の製造方法を提供することにより解決される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多層構造体及びそれを用いた包装材は、機械的強度および熱成形性に優れるとともに、その回収物を溶融成形する際に、樹脂の劣化(ゲル化)によるブツの発生等が抑制され、リサイクル性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の多層構造体は、硬質層(A)と、樹脂組成物層(B1)又は樹脂組成物層(B2)とを有する多層構造体であって、硬質層(A)の突き刺し強度が40N/mm以上150N/mm以下であり、樹脂組成物層(B1)を構成する樹脂が、融点Tm1が170℃以上であるEVOH(b1)と融点Tm2が170℃未満であるEVOH(b2)からなり、樹脂組成物層(B2)を構成する樹脂が、下記式(I)で表される一級水酸基を持つ変性基を有する変性EVOHからなる、多層構造体である。
【0009】
【0010】
[式(I)中、Xは水素原子、メチル基又はR2-OHで表される基を表す。R1,R2は、それぞれ独立して、単結合、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表し、前記アルキレン基及び前記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
【0011】
(硬質層(A))
硬質層(A)の突き刺し強度は40N/mm以上150N/mm以下である。突き刺し強度が上記範囲であることで、本発明の多層構造体を用いた包装材で包装された食品等を運搬する際に、該包装材におけるピンホールの発生を防ぐことができる。突き刺し強度は45N/mm以上が好ましく、50N/mm以上がより好ましく、55N/mm以上がさらに好ましく、65N/mm以上が特に好ましい。また、突き刺し強度は120N/mm以下が好ましく、100N/mm以下がより好ましく、75N/mm以下がさらに好ましい。本明細書における硬質層(A)の突き刺し強度は、硬質層(A)と同じ組成の単層フィルムからなる試験片を、23℃、50%RH条件下で24時間調湿した後、同条件下で、先端直径1mmの針が、50mm/minの速度で試験片を突き抜けた時の荷重を測定し、その平均値を試験片厚み(mm)で除することにより算出される値(N/mm)である。
【0012】
硬質層(A)に使用される樹脂としては、オレフィン系重合体、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、芳香族又は脂肪族ポリケトン、脂肪族ポリアルコール等が挙げられ、好適にはオレフィン系重合体が用いられる。
【0013】
オレフィン系重合体としては、例えば直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体アイオノマー、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィン(炭素数4~20のα-オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンの単独又は共重合体、これらのオレフィンの単独又は共重合体を不飽和カルボン酸又はそのエステルでグラフト変性したもの及びこれらのブレンド物などを挙げることができる。中でも、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-不飽和カルボン酸共重合体アイオノマーが、硬質層(A)の突き刺し強度を上記範囲に調整しやすい点で好ましい。
【0014】
上記ポリエチレンの原料は石油由来であっても、植物由来であってもよいが、製造時の環境負荷の低減等の観点からは、前記オレフィン系重合体が、植物由来の原料を用いて得られた植物由来ポリエチレンを含むことが好ましい。
【0015】
上記直鎖状低密度ポリエチレンは、メタロセン触媒を用いて重合されたエチレン重合体又は共重合体であることが特に好ましい。メタロセン触媒を用いて重合されたエチレン重合体又は共重合体とは、エチレンの単独重合体又はエチレンと炭素数3以上のα-オレフィンの共重合体であって、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を少なくとも1個以上有する、周期律表4族の遷移金属、好ましくはジルコニウムの化合物、有機アルミニウムオキシ化合物及び必要により添加される各種成分から形成される触媒の存在下に、エチレンを重合又はエチレンと前記α-オレフィンとを共重合することによって製造されるものである。
【0016】
上記エチレン共重合体における炭素数3以上のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、4-メチル-1-ペンテンなどが挙げられる。上記エチレン共重合体として、特に炭素数3~12のα-オレフィンの共重合体が好ましい。
【0017】
メタロセン触媒を用いて重合されたエチレン重合体又は共重合体は、工業的に製造されたものが市販されており、例えば「カーネル」(日本ポリケム社製)、「エボリュー」(プライムポリマー社製)、「エグザクト」(エクソンケミカル社製)、「アフィニティー」「エンゲージ」(ダウケミカル社製)等が挙げられる。
【0018】
前記オレフィン系重合体の密度は0.940以下が好ましい。密度が上記範囲であると、得られる多層構造体は十分な延伸性を有し、突き刺し強度に優れる。密度は0.930以下がより好ましく、0.920以下がさらに好ましく、0.915以下が特に好ましく、0.910以下が最も好ましい。
【0019】
前記オレフィン系重合体の融点は130℃以下が好ましい。融点が上記範囲であると、前記オレフィン系重合体の結晶性が低下し、得られる多層構造体が十分な延伸性を有し、突き刺し強度がさらに向上する。融点は120℃以下がより好ましく、110℃以下がさらに好ましく、100℃以下が特に好ましい。前記オレフィン系重合体の融点は、後述するEVOHと同様の方法にて測定される。
【0020】
前記オレフィン系重合体のMFR(190℃、2160g)は5.0g/10分未満が好ましい。MFRが上記範囲であると、得られる多層構造体は十分な延伸性を有し、突き刺し強度がさらに向上する。MFRは2.0g/10分未満がより好ましく、1.5g/10分未満がさらに好ましい。前記オレフィン系重合体のMFRは、JIS K 7210に準拠して190℃、2.16kg荷重下により測定される。
【0021】
上記オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体アイオノマーは、オレフィンを主成分として不飽和カルボン酸および/又は不飽和カルボン酸エステルを共重合した重合体のことであり、カルボン酸成分が金属イオンにより(部分)中和されていてもよい。該共重合体を構成するオレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、スチレン等が挙げられ、中でもエチレンが好適に用いられる。
【0022】
オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体アイオノマーを構成する不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸や、フマール酸、イタコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸などのエチレン性不飽和ジカルボン酸やその無水物、ハーフエステル等が挙げられ、このうちアクリル酸及びメタクリル酸が最も好適に用いられる。該共重合体中の不飽和カルボン酸の含有量は、1~30質量%が好ましく、2~25質量%がより好ましく、3~20質量%がさらに好ましい。不飽和カルボン酸含有量が1質量%未満では、得られる多層構造体の熱成形性が不十分となることがあり、30質量%を越えると、硬質層(A)の熱安定性が低下するおそれがある。
【0023】
オレフィン-不飽和カルボン酸共重合体のカルボン酸成分を(部分)中和する金属イオンとしては、例えば亜鉛、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、リチウム等が挙げられ、亜鉛、ナトリウム、カリウムが好適に用いられる。カルボン酸成分の金属イオンによる中和度は、5~100%が好ましく、10~90%がより好ましく、30~70%がさらに好ましい。
【0024】
硬質層(A)中の樹脂の含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0025】
(樹脂組成物層(B1))
樹脂組成物層(B1)を構成する樹脂は、EVOH(b1)とEVOH(b2)からなる。EVOH(b1)の融点Tm1が170℃よりも小さい場合には、得られる多層構造体の突き刺し強度とガスバリア性が低下する。また、EVOH(b2)の融点Tm2が170℃以上の場合には、得られる多層構造体の熱成形性が低下する。樹脂組成物層(B1)を構成する樹脂は、EVOH(b1)とEVOH(b2)のみからなることが好ましい。
【0026】
突き刺し強度及びガスバリア性と、熱成形性とのバランスが向上する点からは、EVOH(b1)の融点Tm1とEVOH(b2)の融点Tm2の差(Tm1-Tm2)は5以上が好ましく、10以上がより好ましく、15以上がさらに好ましく、20以上が特に好ましい。
【0027】
本発明において、融点は、試料をJIS K7121に記載の方法に従って、示差走査熱量計(DSC)で一旦200℃まで昇温した後、冷却速度30℃/分にてガラス移転点より約50℃低い温度まで冷却し、再び昇温速度10℃/分にて昇温して測定する(セカンドラン)。
【0028】
融点Tm1及び融点Tm2を上記範囲に調整する方法としては、例えばEVOH中のエチレン含有量を調整する方法が挙げられる。また、同一のエチレン含有量であるEVOHにおいても、そのケン化度を調整することで、融点を調整できる。EVOHのエチレン含有量およびケン化度は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0029】
樹脂組成物層(B1)を構成する、EVOH(b2)のエチレン含有量(モル%)とEVOH(b1)のエチレン含有量(モル%)の差の絶対値|b2-b1|を5以上とすることが好ましい。絶対値|b2-b1|は7以上がより好ましく、9以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。一方、絶対値|b2-b1|は30以下が好ましく、20以下がより好ましい。
【0030】
EVOH(b1)のエチレン含有量は15~38モル%が好ましく、18~35モル%がより好ましい。また、EVOH(b2)のエチレン含有量は35~55モル%が好ましく、38~45モル%がより好ましい。それぞれのエチレン含有量が該範囲を下回ると、得られる多層構造体の高湿時のガスバリア性や熱成形性が低下するおそれがあり、該範囲を上回ると、得られる多層構造体のガスバリア性が不十分となるおそれがある。
【0031】
EVOH(b1)及びEVOH(b2)のケン化度は、ともに90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。ケン化度が90モル%未満であると、ガスバリア性、熱成形性が低下するおそれがある。
【0032】
EVOH(b1)及びEVOH(b2)は、熱分析、特にDSC分析において、単一組成(一種類)のEVOHと区別することができる。混合される二種類のEVOHの融点が大きく異なる場合は、通常、DSCのピークが二本以上観測される。融点が近いEVOHを混合した場合には、混合質量比等にもよるが、見掛け上単一ピークになったり、融点が一定値以上離れている場合には、ピークの形状がブロードとなったりする。ただし、単一ピークになる場合であっても、DSCでEVOHの融点を測定する際の昇温速度を下げることにより、二本のピーク、もしくは主ピークの肩部にピークの存在を観測することができる場合もある。このように、DSC分析で観測されるDSC曲線のピークの特徴から、本発明に用いられる樹脂組成物層(B1)を特定できる。
【0033】
樹脂組成物層(B1)におけるEVOH(b1)に対するEVOH(b2)の質量比(b2/b1)は1/99~50/50が好ましい。質量比(b2/b1)が上記範囲であると、熱成形性が良好になる。質量比(b2/b1)は5/95以上がより好ましい。一方、質量比(b2/b1)は40/60以下がより好ましい。
【0034】
樹脂組成物層(B1)中のEVOH(b1)及びEVOH(b2)の合計含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0035】
EVOH(b1)及びEVOH(b2)は、それぞれエチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することによって得られる。エチレン-酢酸ビニル共重合体は、公知の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などにより製造される。エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。また、本発明の効果を阻害しない範囲で共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合させてもよく、かかる単量体としては、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩あるいは炭素数1~18のモノ又はジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のニトリル類;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル、アリルアルコール、ジメチルアリルアルコール、トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0036】
EVOH(b1)及びEVOH(b2)の混合方法は特に限定されず、混合の均一性の点からは溶融状態で混練することが好ましい。例えばニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー、プラストミルなどの公知の混練装置を使用して行うことができ、単軸又は二軸の押出機を用いることが工業上好ましく、また、必要に応じて、ベント吸引装置、ギヤポンプ装置、スクリーン装置等を設けることも好ましい。具体的には、例えば(1)EVOH(b1)及びEVOH(b2)をドライブレンドしてから一括して押出機に供給する方法、(2)一方のEVOHを押出機に供給して溶融させたところに他方のEVOHを供給する方法、(3)一方のEVOHを押出機に供給して溶融させたところに溶融状態の他方のEVOHを供給する方法等が挙げられる。中でも(1)の方法が装置の簡便さやコスト面等で実用的である。
【0037】
(樹脂組成物層(B2))
樹脂組成物層(B2)を構成する樹脂は、下記式(I)で表される一級水酸基を持つ変性基を含有する変性EVOHを含む。この変性EVOHがエチレン単位及びビニルアルコール単位に加えて、一級水酸基を持つ変性基を含有することによって、得られる多層構造体の熱成形性が向上するとともに、樹脂組成物層(B2)と後述する接着性樹脂層(C)との接着性が向上する。
【0038】
【0039】
[式(I)中、Xは水素原子、メチル基又はR2-OHで表される基を表す。R1,R2は、それぞれ独立して、単結合、炭素数1~9のアルキレン基又は炭素数1~9のアルキレンオキシ基を表し、前記アルキレン及び前記アルキレンオキシ基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
【0040】
前記変性EVOHにおける、全単量体単位に対するエチレン単位含有量は好ましくは18モル%以上55モル%以下である。エチレン単位含有量が18モル%未満では、溶融成形性が悪化するおそれがある。エチレン単位含有量は、より好ましくは25モル%以上である。一方、エチレン単位含有量が55モル%を超えると、ガスバリア性が不足するおそれがある。エチレン単位含有量は、より好ましくは50モル%以下であり、さらに好ましくは45モル%以下である。
【0041】
前記変性EVOHのビニルエステル成分のケン化度は好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、特に好ましくは99%以上である。
【0042】
Xは、好ましくは水素原子又はR2-OHで表される基であり、より好ましくはR2-OHで表される基である。R2-OHで表される基は好ましくはヒドロキシアルキル基(R2がアルキレン基)である。
【0043】
R1、R2として用いられるアルキレン基及びアルキレンオキシ基は、水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。当該アルキレン基及びアルキレンオキシ基は直鎖であっても分岐であってもよいし、環を形成していてもよい。R1、R2は、好ましくは炭素数1~5のアルキレン基又はアルキレンオキシ基であり、より好ましくは炭素数1~3のアルキレン基又はアルキレンオキシ基である。
【0044】
上記式(I)で表される構造(変性基)の具体例としては、例えば、下記の式(II)~(IV)で表される構造単位が挙げられ、中でも下記式(II)で表される構造単位が好ましい。
【0045】
【0046】
[式(II)中、R3及びR4は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表し、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
【0047】
【0048】
[式(III)中、R5は式(I)中のXと同義である。R6は、水素原子又は炭素数1~8のアルキル基を表し、該アルキル基は水酸基、アルコキシ基又はハロゲン原子を含んでもよい。]
【0049】
【0050】
[式(IV)中、R7及びR8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基または水酸基を表す。また、前記アルキル基、前記シクロアルキル基が有する水素原子の一部または全部は、水酸基、アルコキシ基またはハロゲン原子で置換されていてもよい。]
【0051】
本発明において、式(I)中のR1が単結合で、Xがヒドロキシメチル基(式(II)中のR3、R4が水素原子)であることが好ましい。この変性基を有する変性EVOHを樹脂組成物層(B2)に用いることで、得られる多層構造体の熱成形性及びガスバリア性が向上する。このとき、前記変性EVOH中の前記一級水酸基を持つ変性基の含有量は0.05モル%以上20モル%以下が好ましい。前記変性基の含有量が0.05モル%未満では熱成形性が低下するおそれがある。前記変性基の含有量はより好ましくは0.1モル%以上であり、更に好ましくは0.4モル%以上であり、最も好ましくは0.8モル%以上である。一方、前記変性基の含有量が20モル%より大きい場合は、バリア性が低下するおそれがある。前記変性基の含有量はより好ましくは10モル%以下であり、更に好ましくは8モル%以下であり、最も好ましくは5モル%以下である。
【0052】
本発明において、式(I)中のR1がヒドロキシメチレン基、Xが水素原子(式(III)中のR5、R6が水素原子)であることも好ましい。この変性基を有する変性EVOHを樹脂組成物層(B2)に用いることにより、得られる多層構造体の熱形成性が向上する。このとき、前記変性EVOH中の前記一級水酸基を持つ変性基の含有量は0.1モル%以上20モル%以下が好ましい。前記変性基の含有量が0.1モル%未満では熱成形性が低下するおそれがある。前記変性基の含有量はより好ましくは0.4モル%以上であり、更に好ましくは1.0モル%以上である。前記変性基の含有量が20モル%を超える場合、バリア性が低下するおそれがある。前記変性基の含有量はより好ましくは10モル%以下であり、更に好ましくは5モル%以下である。
【0053】
本発明において、式(I)中のR1がメチルメチレンオキシ基、Xが水素原子であることも好ましい。この変性基を有する変性EVOHを樹脂組成物層(B2)に用いることにより、得られる多層構造体の熱成形性が向上する。また、前記メチルメチレンオキシ基は、酸素原子が主鎖の炭素原子に結合している。すなわち、式(IV)中、R7、R8の一方がメチル基であり、他方が水素原子であることが好ましい。このとき、前記変性EVOH中の前記一級水酸基を持つ変性基の含有量は0.1モル%以上20モル%以下が好ましい。前記変性基の含有量が0.1モル%未満では熱形成性が低下するおそれがある。前記変性基の含有量はより好ましくは1.0モル%以上であり、更に好ましくは2.0モル%以上である。前記変性基の含有量が20モル%を超える場合、バリア性が低下するおそれがある。前記変性基の含有量はより好ましくは15モル%以下であり、更に好ましくは10モル%以下である。
【0054】
前記変性EVOHは、未変性EVOHとの混合物であってもよい。コストが低減の観点から、当該混合物における、前記変性EVOHと未変性EVOHとの質量比(変性EVOH/未変性EVOH)は、1/9~9/1が好ましい。本発明の効果がより顕著に奏される点から、質量比(変性EVOH/未変性EVOH)は9/1以上であることが好ましく、樹脂組成物層(B2)が未変性EVOHを実質的に含有しないことがより好ましい。
【0055】
樹脂組成物層(B2)中の前記変性EVOHの含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。
【0056】
上記式(I)で表される一級水酸基を持つ変性基を含有する変性EVOHは、WO2018/52014に記載された方法等により製造することができる。
【0057】
樹脂組成物層(B1)及び(B2)には本発明の目的を阻害しない範囲で、その他の添加剤を配合してもよい。その他の添加剤としては例えば、飽和脂肪族アミド(ステアリン酸アミド等)、不飽和脂肪酸アミド(オレイン酸アミド等)、ビス脂肪酸アミド(エチレンビスステアリン酸アミド等)、脂肪酸金属塩(ステアリン酸カルシウム等)、低分子量ポリオレフィン(分子量500~10,000程度の低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン等)などの滑剤;無機充填剤(ハイドロタルサイト等);可塑剤(エチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール等の脂肪族多価アルコールなど);酸素吸収剤(無機系酸素吸収剤として、還元鉄粉類、さらにこれに吸水性物質や電解質等を加えたもの、アルミニウム粉、亜硫酸カリウム、光触媒酸化チタン等が挙げられ、有機化合物系酸素吸収剤として、アスコルビン酸、さらにその脂肪酸エステルや金属塩、ハイドロキノン、没食子酸、水酸基含有フェノールアルデヒド樹脂等の多価フェノール類、ビス-サリチルアルデヒド-イミンコバルト、テトラエチレンペンタミンコバルト、コバルト-シッフ塩基錯体、ポルフィリン類、大環状ポリアミン錯体、ポリエチレンイミン-コバルト錯体等の含窒素化合物と遷移金属との配位結合体、テルペン化合物、アミノ酸類とヒドロキシル基含有還元性物質の反応物、トリフェニルメチル化合物等)、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、充填材(例えば無機フィラー等)などを配合してもよい。
【0058】
樹脂組成物層(B1)又は(B2)にその他の添加剤として、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属及び/又はカルシウムやマグネシウムなどのアルカリ土類金属を、それぞれ金属塩として含有させてもよい。これにより、樹脂の架橋を抑制でき、リサイクル性により優れた多層構造体が得られる。アルカリ金属の塩としては、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、ラウリル酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の有機酸や、硫酸、亜硫酸、炭酸、ホウ酸、リン酸等の無機酸の金属塩が挙げられる。アルカリ金属の含有量は、樹脂組成物層(B1)又は(B2)に対して金属元素換算で5~1000ppmが好ましく、10~500ppmがより好ましく、20~300ppmがさらに好ましい。アルカリ土類金属の塩としては、例えば酢酸塩、ホウ酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩が挙げられる。アルカリ土類金属の含有量としては、樹脂組成物層(B1)又は(B2)に対して金属元素換算で5~500ppmが好ましく、10~300ppmがより好ましく、20~250ppmがさらに好ましい。なお、樹脂組成物層(B1)又は(B2)中に二種以上のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が含有される場合は、その総計が上記の含有量の範囲にあることが好ましい。
【0059】
樹脂組成物層(B1)中にアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含有させる方法としては、例えば予めEVOH(b1)又はEVOH(b2)に含有させたり、EVOH(b1)とEVOH(b2)の混合時に同時に含有させたり、EVOH(b1)とEVOH(b2)の混合後の樹脂組成物層(B1)に含有させたり、これらの方法を組み合わせたりすることができる。
【0060】
予めEVOHにアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含有させる方法としては、(1)含水率20~80質量%のEVOHの多孔性析出物を、アルカリ(土類)金属化合物水溶液と接触させて、EVOHにアルカリ金属化合物を含有させてから乾燥する方法、(2)EVOHの均一溶液(水/アルコール溶液等)にアルカリ(土類)金属化合物を含有させた後、当該溶液を凝固液中にストランド状に押し出し、次いで得られたストランドを切断してペレットとして、更に乾燥処理をする方法、(3)EVOHとアルカリ(土類)金属化合物を一括して混合してから押出機等で溶融混練する方法、(4)EVOHの製造時において、ケン化工程で使用したアルカリ(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)を酢酸で中和して、副生成する酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の量を水洗処理により調整する方法等を挙げることができる。本発明の効果をより顕著に得るためには、アルカリ(土類)金属の分散性に優れる(1)、(2)及び(4)の方法が好ましい。
【0061】
樹脂組成物層(B2)中にアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含有させる方法としては、これらをEVOHに含有させる方法として上述した方法が挙げられる。
【0062】
(接着性樹脂層(C))
本発明の多層構造体は、硬質層(A)と樹脂組成物層(B1)又は樹脂組成物層(B2)との間に、さらに接着性樹脂層(C)を有することが好ましい。接着性樹脂層(C)に用いられる接着性樹脂としては、例えば不飽和カルボン酸又はその無水物をオレフィン系重合体に付加反応やグラフト反応等により化学的に結合させて得られるカルボキシル基を含有する変性オレフィン系重合体を挙げることができる。不飽和カルボン酸又はその無水物としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられ、中でも、無水マレイン酸が好適に用いられる。具体的には、無水マレイン酸グラフト変性ポリエチレン、無水マレイン酸グラフト変性ポリプロピレン、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-プロピレン共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-エチルアクリレート共重合体、無水マレイン酸グラフト変性エチレン-酢酸ビニル共重合体等から選ばれた1種又は2種以上の混合物が好適なものとして挙げられる。
【0063】
接着性樹脂にはポリイソブチレン、エチレン-プロピレンゴム等のゴム・エラストマー成分や、接着性樹脂の母体のポリオレフィン系樹脂とは異なるポリオレフィン系樹脂を混合すると、接着性が向上することがある。
【0064】
(多層構造体)
本発明の多層構造体は、樹脂組成物層(B1)又は樹脂組成物層(B2)が2つの硬質層(A)の間に配置されてなることが好ましい。この場合、硬質層(A)と、樹脂組成物層(B1)又は(B2)の間に任意の他の層を設けても良い。
【0065】
上記任意の他の層として、硬質層(A)と、樹脂組成物層(B1)又は樹脂組成物層(B2)との間に、さらに接着性樹脂層(C)を有することが好ましい。かかる多層構造体を製造するに当たっては、最終的に、(A)/(C)/(B1)又は(B2)/(C)/(A)の層構成を有する多層構造体が得られればよい。その積層方法としては、例えば各樹脂を共押出する方法、予め樹脂組成物層(B1)又は(B2)として用いられる単層フィルム等や、樹脂組成物層(B1)又は(B2)と、接着性樹脂層(C)として用いられる多層[(C)/(B1)又は(B2)/(C)]フィルム等を作製しておき、これらに他の樹脂を溶融押出する方法、及び前記単層又は多層フィルムに他の樹脂からなる単層フィルムや多層フィルムを公知の接着剤を用いてドライラミネートする方法等が挙げられる。さらに、インフレーション法により共押出する場合は、[外側](A)/(C)/(B1)又は(B2)/(C)[内側]の層構成からなる多層フィルムを製膜してから、その筒状のフィルムの内側同士を熱等により融着させて巻き取ることにより得ることも可能である。溶融成形時の成形温度は、150~300℃の範囲から選ぶことが多い。なお、樹脂組成物層(B1)又は(B2)を中間層とし、該中間層の両側に直接接するように接着性樹脂層(C)を設け、接着性樹脂層(C)/(B1)又は(B2)/(C)の層構成を有することも好ましい。この場合、樹脂組成物層(B1)又は(B2)と、接着性樹脂層(C)の間には他の樹脂層は含まれない。
【0066】
(A)/(C)/(B1)又は(B2)/(C)/(A)の層構成を有する多層構造体の各層の厚みは、表面層の熱可塑性樹脂の種類、用途や包装材の形態、要求される物性などによって変動し得るが、通常(A)/(C)/(B1)又は(B2)/(C)/(A)がそれぞれ5~200μm/1~50μm/1~50μm/1~50μm/5~200μmであり、好ましくは、10~100μm/2~20μm/2~30μm/2~20μm/10~100μmである。硬質層(A)が5μm未満では機械的強度が不足し破れやすくなり、逆に200μmを越えると柔軟性が低下するとともに、必要以上に質量が大きくなり好ましくない。樹脂組成物層(B1)又は(B2)の厚みが1μm未満ではガスバリア性が不足し、またその厚み制御が不安定となり、50μmを越えると柔軟性が劣り、かつ経済的でなく好ましくない。接着性樹脂層(C)が1μm未満では層間接着強度が不足し、またその厚み制御が不安定となり、50μmを越えると柔軟性が低下するとともに、経済的でなく好ましくない。
【0067】
本発明の多層構造体は、上述した(A)/(C)/(B1)又は(B2)/(C)/(A)の層構成を有するものに限らず、該硬質層(A)の外側又は内側に更に別の層(X)を設けた、(A)/(X)/(C)/(B1)又は(B2)/(C)/(X)/(A)、(X)/(A)/(C)/(B1)又は(B2)/(C)/(A)/(X)、又は(X)/(A)/(X)/(C)/(B1)/(C)/(X)/(A)/(X)等の7層以上有するものであってもよい。層構成中の記号が同一である層に使用される樹脂や組成は同じでも異なっていてもよい。なお、本発明の多層構造体において、硬質層(A)および接着性樹脂層(C)が複数用いられる場合、それぞれ異なった種類の樹脂を用いることもできる。
【0068】
本発明の多層構造体の突き刺し強度は用途に応じて調整すればよく特に限定されないが、4~20Nであることが好ましい。突き刺し強度が当該範囲である多層構造体は、包装材等として好適に用いられる。当該突き刺し強度は5N以上がより好ましく、6N以上がさらに好ましく、7.5N以上が特に好ましい。本明細書における多層構造体の突き刺し強度は、JIS Z 1707に準拠して測定され、具体的には実施例に記載された方法が採用される。
【0069】
本発明の多層構造体の酸素透過度(OTR)は用途に応じて調整すればよく特に限定されないが、5cc/m2.day.atm以下が好ましい。OTRが当該範囲である多層構造体は、包装材等として好適に用いられる。OTRは4cc/m2.day.atm以下がより好ましく、OTRは3cc/m2.day.atm以下がさらに好ましく、OTRは2cc/m2.day.atm以下が特に好ましい。JIS K 7126-2(等圧法;2006年)に準じて測定され、具体的には実施例に記載された方法が採用される。
【0070】
また、本発明の多層構造体の各層には、成形加工性や諸物性の向上のために、前述の各種添加剤や改質剤、充填材、他樹脂等を本発明の効果を阻害しない範囲で添加することもできる。
【0071】
本発明の多層構造体を製造する際に発生する端部や不良品を回収した回収物(スクラップ)を再使用することが好ましい。このように、多層構造体の回収に関しては、製造する際に発生するオフスペック品を回収してもよいが、市場に流通した多層構造体を回収することが好適な実施態様である。本発明の多層構造体の回収物を含む回収組成物は多層構造体の原料等として好適に使用される。
【0072】
本発明の多層構造体は再使用の目的で粉砕し再度成形することも可能である。また、本発明の多層構造体は機械的強度および熱成形性に優れる。一方で、当該多層構造体は、ポリアミド系樹脂層を含有しないため、溶融成形される際に該ポリアミド系樹脂とEVOHが化学反応して架橋することに起因すると考えられるブツの発生が少なく、再使用して得られる回収組成物は外観に優れる。このようなブツの発生がより低減する観点から、前記多層構造体を構成するすべての層がポリアミド樹脂を含まないことが好ましい。本発明の多層構造体の回収物を含む回収組成物は、前記多層構造体の回収物を溶融混錬することにより製造することが好ましい。前記回収物の溶融成形法としては押出成形、インフレーション押出、ブロー成形、溶融紡糸、射出成形等が可能である。溶融温度は該共重合体の融点等により異なるが150~270℃程度が好ましい。前記回収組成物は未使用の樹脂を含有していても構わないが、当該回収組成物中の回収物の含有量は10質量%以上が好ましい。
【0073】
本発明の多層構造体からなる包装材が本発明の好適な実施態様である。当該包装材は、チューブ状や袋状などの形態に加工されて、食品、飲料、医薬品、化粧品、工業薬品、農薬、洗剤等各種の包装材料として有用であるが、広範囲の用途に使用することが可能であり、これらの用途に限定されない。
【0074】
前記包装材に内容物を充填してなる包装体が前記包装材の好適な実施態様である。本発明の包装体は、酸素による内容物の香味低下を防止しうるため有用である。充填できる内容物としては、飲料ではワイン、フルーツジュース等;食品では果物、ナッツ、野菜、肉製品、幼児食品、コーヒー、ジャム、マヨネーズ、ケチャップ、食用油、ドレッシング、ソース類、佃煮類、乳製品等;その他では医薬品、化粧品、ガソリン等、酸素存在下で劣化を起こしやすい内容物などが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0075】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、実施例中「部」、「%」とあるのは、特に断わりのない限り、質量基準を意味する。
【0076】
(実施例1)
共押出多層キャスト製膜装置を用いて、硬質層(A)がメタロセン触媒を用いて重合された直鎖状低密度ポリエチレン(mLLDPE-1;プライムポリマー社製「エボリューSP0510」)からなり、樹脂組成物層(B1)がEVOH(b1)としてEVOH(エチレン含有量27モル%、ケン化度99.9モル%、融点190℃)を80質量部、及びEVOH(b2)としてEVOH(エチレン含有量44モル%、ケン化度99.9モル%、融点165℃)を20質量部配合した樹脂組成物からなり、接着性樹脂層(C)が無水マレイン酸変性ポリエチレン(三井化学社製「AdmerNF518」)からなる多層構造体((A)/(C)/(B1)/(C)/(A)=41μm/6μm/6μm/6μm/41μmの層厚みと層構成を有する5層共押出多層キャストフィルム)を得た。このときの製膜条件は以下に示す。
共押出条件
硬質層(A)の押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=170/220/220/220℃
樹脂組成物層(B1)の押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=170/220/220/220℃
接着樹脂層(C)の押出温度:供給部/圧縮部/計量部/ダイ=170/220/220/220℃
押出機:
・硬質層(A) 32φ押出機 GT-32-A型(株式会社プラスチック工学研究所製)
・接着性樹脂 25φ押出機 P25-18-AC型(大阪精機工作株式会社製)
・樹脂組成物 20φ押出機 ラボ機ME型CO-EXT(株式会社東洋精機製)
Tダイ:300mm幅3種5層用(株式会社プラスチック工学研究所製)
冷却ロールの温度:60℃
引取速度:3m/分
【0077】
得られた多層構造体及び包装材の各特性を以下の要領で評価した。
【0078】
(突き刺し強度)
20mmφ単軸押出機(押出温度200℃)を用いて、硬質層(A)に使用される樹脂からなる厚み100μmの単層フィルムを製膜し、当該単層フィルムを試験片として用いた。当該試験片を23℃、50%RH条件下で24時間調湿した後、同条件下で、先端直径1mmの針が、50mm/minの速度で試験片を突き抜けた時の荷重を測定し、その平均値を試験片厚み(mm)で除することにより突き刺し強度(N/mm)を算出した。
【0079】
(熱成形性)
得られた多層構造体を熱成形機(浅野製作所製:真空圧空深絞り成形機「FX-0431-3型」)にて、シート温度を110℃にして、圧縮空気(気圧5kgf/cm2)により丸カップ形状の包装材(金型形状:上部75mmφ、下部60mmφ、深さ37mm、絞り比S=0.5)に熱成形した。得られた包装材を目視で観察し、熱成形性を評価した。成形条件及び評価の基準を以下に示す。
ヒーター温度:600℃
プラグ:45φ×65mm
金型温度:40℃
A:外観異常なし
B:一部白化不良あり
C:破断箇所あり
【0080】
(多層構造体の突き刺し強度)
得られた多層構造体をJIS Z 1707に準拠し、23℃、50%RHの条件下で調湿した後、直径10cmの円形にカットして試験片を得た。治具を用いて試験片を固定し、AUTOGRAPH(島津製作所製「AGS-H」)で直径1.0mm、先端形状が半径0.5mmの半円形である針を50mm/分の速度で試験片に突き刺すことで、針が貫通するまでの最大応力(N)を測定して、多層構造体の突き刺し強度とした。
【0081】
(OTR)
酸素透過量測定装置(MOCON社製「MOCON OX-TRAN2/20型」)を用い、20℃、65%RH条件下でJIS K 7126-2(等圧法;2006年)に準じて、得られた多層構造体の酸素透過度(OTR)を測定し、その平均値を求めた。
【0082】
(リサイクル性)
多層構造体を粉砕して得られた回収物を20mmφ押出機を用いて、厚み20μmのフィルムに製膜した。得られたフィルムの単位面積当たりに見られるブツの個数(個数/m2)を計測した。ブツの個数が少ないほど、リサイクル性に優れると評価した。
A:500個/m2未満
B:500個/m2以上、750個/m2未満
C:750個/m2以上、1000個/m2未満
D:1000個/m2以上
【0083】
(実施例2~9、比較例1~5)
硬質層(A)、樹脂組成物層(B1)、及び接着性樹脂層(C)を表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、多層構造体及び包装材を得た後、各種評価を行った。結果を表1に示す。なお、硬質層(A)として、実施例2ではエチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマーである三井デュポンケミカル社製「ハイミラン1706」を用いた。実施例3ではメタロセン触媒を用いて重合された直鎖状低密度ポリエチレンであるプライムポリマー社製「エボリューSP1510」を用いた。実施例6ではメタロセン触媒を用いて重合された直鎖状低密度ポリエチレンであるプライムポリマー社製「エボリューSP4510」を用いた。実施例7では植物由来のエチレンを原料とする植物由来ポリエチレン(メタロセン触媒を用いて重合された直鎖状低密度ポリエチレン)であるブラスケム社製「SLL318」を用いた。比較例2及び比較例5では、無水マレイン酸変性ポリエチレンの代わりにポリアミド樹脂(BASF社製「Ultramid C40L」)を用いて、接着性樹脂層(C)の代わりにポリアミド樹脂からなる層を形成した。EVOH(b1)として、実施例8ではEVOH(エチレン含有量32モル%、ケン化度99.9モル%、融点183℃)を用いて樹脂組成物層(B1)を形成した。実施例9では表2に記載の式(I)においてXがCH2OH、R1が単結合で表される一級水酸基を持つ変性基を含有する変性EVOH(エチレン含有量27モル%、ケン化度99.9モル%、変性度1.0モル%)を用いて樹脂組成物層(B1)の代わりに樹脂組成物層(B2)を形成した。
【0084】
【0085】
【0086】
表1の結果から、各実施例の多層構造体は、熱成形性及びリサイクル性に優れることがわかる。一方、樹脂組成物層(B1)の代わりに、融点が170℃以上のEVOHのみからなる層が形成された比較例1の多層構造体は、熱成形性及びリサイクル性に劣った。樹脂組成物層(B1)の代わりに、融点が170℃未満のEVOHのみからなる層が形成された比較例3の多層構造体は、ガスバリア性に劣った。接着性樹脂層(C)の代わりにポリアミド層が形成された比較例2及び5の多層構造体は、該多層構造体の回収物を溶融混錬して再利用した際に、該ポリアミド層がEVOHと反応して架橋することにより多数のブツが発生し、リサイクル性に劣っていた。また、硬質層(A)の代わりに、低密度ポリエチレンである日本ポリエチレン社製「ノバテック LC600」からなる層を有する比較例4の多層構造体は突き刺し強度が低いうえに、固さが不十分であるため熱成形性に劣っていた。