(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】水浸食性研磨法で完成部品に成形される未処理部品の幾何学的形状を決定する方法
(51)【国際特許分類】
B24B 31/00 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
B24B31/00 C
(21)【出願番号】P 2020567098
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2019063038
(87)【国際公開番号】W WO2019228847
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-19
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイッケルト,マティアス
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-315849(JP,A)
【文献】特開2003-122801(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0115026(US,A1)
【文献】特開2011-067902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを使用することによって、研磨粒子を含む液体を被処理面上に流す処理方法である水浸食性研磨法で完成部品に成形される未処理部品の幾何学的形状を決定する方法であって、
(a)製造される完成部品の構造モデルを生成するステップであって、前記製造される完成部品の構造モデルは次のステップ(b)の最初の実行の初期モデルとして使用される、ステップ;
(b)初期モデルから出発して、修正された幾何学的形状を有する中間モデルを生成する、水浸食性研磨法の数学的シミュレーションを行うステップ;
(c)ステップ(b)で生成された中間モデルと前記完成部品の構造モデルを比較し、前記製造される完成部品の構造モデルと前記中間モデルの間の、前記構造モデルの各ノードにおける、前記完成部品の構造モデルの表面に直交する距離を決定し、前記直交距離を所定の限界値と比較するステップ;
(d)ステップ(b)で初期モデルとして使用されるモデルの表面の各ノードにおいて、ステップ(c)で決定された距離の5~99%を、表面に直交して逆符号で加算することによって、部品の修正モデルを生成し、ステップ(b)から(d)を繰り返し、該ステップ(d)で生成された前記修正モデルは、ステップ(c)で決定された直交距離が少なくとも1つのノードで前記所定の限界値よりも大きい場合に、ステップ(b)で新たな初期モデルとして使用される、ステップ;
(e)各ノードにおける前記完成部品の構造モデルと前記中間モデルの間のステップ(c)で決定された前記直交距離が所定の限界値より小さくなった時点でシミュレーションを終了し、前記未処理部品の幾何学的形状に対応して最後に行われたステップ(b)の初期モデルが決定される、ステップ、
を有する、方法。
【請求項2】
前記数学的シミュレーション(b)が、有限差分法、有限要素法または有限体積法を用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
意図された後続の製造処理に対応する処理データが、ステップ(b)の前記数学的シミュレーションの境界条件および物質データとして使用される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記処理データが、体積流量、使用される研磨粒子を含む液体の物質データ、使用される研磨粒子の形状、大きさおよび材料、研磨粒子を含む液体の幾何学的形状データ、圧力および温度、および水浸食性研磨法の持続時間を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
水浸食性研磨法で意図される処理条件の変動が、前記研磨法の数学的シミュレーションにも考慮される、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
処理条件の変動が、体積流量の変動、圧力の変動、同様に研磨法の期間中の幾何学的形状の変動を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(e)で決定された前記未処理部品の幾何学的形状が、未処理部品のための、または未処理部品を生産するためのツールのためのCNC支援生産工程で仕様として使用される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
コンピュータ上で実行されるときに、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法を実行するコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水浸食性研磨法で完成部品に成形される未処理部品の幾何学的形状を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水浸食性研磨法は、研磨粒子を含む液体を被処理面上に流す処理方法である。流れの間に、液体に含まれる研磨粒子が被処理部品の表面に衝突し、それにより、対応する表面が、衝突時に部品から材料を浸食する研磨粒子により、浸食的に研磨される。研磨粒子の幾何学的形状、特に形状とサイズ分布に応じて、表面の非常に微細な処理、また特に非常に微細な構造の処理がこの場合可能である。水浸食性研磨法は、例えば、表面粗さ50~500μmを有する金属、セラミックおよび/またはプラスチックで作られた3Dプリント部品の表面を処理するために使用され得る。これらの表面粗さは、対応する部品を使用する際に、例えば汚れ又は圧力損失の増加などの望ましくない影響をもたらす。研磨法の後に誤差許容範囲内の正確な幾何学的形状を遵守することができるようにするためには、部品の幾何学的形状は、特に3Dプリンティング法による製造の場合には、その製造法の間にすでに任意で修正されている必要があり、かつ、研磨法を正確にかつ制御された方式で調整することが可能でなければならない。
【0003】
WO2014/00954A1から、例えば、内燃機関用噴射弁の噴射ノズルのボアを水浸食性研磨法で丸め、鋭利なエッジの遷移を研削して、燃料が内燃機関に高圧で噴射される非常に小さなボアに丸めることができることが知られている。この方法では、研磨粒子を含む液体が噴射ノズルを通って流れる。噴射ノズルのボアを通る均一な流れのために、したがってエッジの均一な丸めのために、噴射弁に中空体が導入され、研磨粒子を含む液体が、中空体に形成された内側流路と、中空体と噴射弁の内壁との間に形成された外側流路とを通って案内される。この場合、均一な結果を得るために、内側および外側の流路を通って流れる研磨粒子を含む異なる液体を使用することが可能であり、および/または、研磨粒子を含む液体が、異なる流量または圧力で内側および外側の流路を通って送達され得る。
【0004】
水浸食研磨の数学的シミュレーションが、例えば、P.A. Rizkallaによる、「オイラーオイラーアプローチと組み合わせた半経験的方法を使用したハイドロエロージョンモデルの開発」、論文、ロイヤルメルボルン工科大学、メルボルン大学、2007年11月、36~44頁に記載されている。これは研磨によって表面が修正される方法を説明しているが、それからはしかし、所望の寸法を有する完成部品が未処理部品から形成されるように、未処理部品が成形されなければならない方法を推論することはできない。
【0005】
特開平06-315849A号公報は、研磨される物体の形状を測定すること、測定結果から研磨面の様々な点での必要な研磨量を計算すること、研磨に必要な回数を計算すること、及び、最適な研磨軌跡で研磨されたと仮定した物体の表面形状を判断することにより、高精度の研磨を提供する方法を開示している。この方法は、研磨される物体の最終的な所望の幾何学的形状が得られるまで、物体を研磨し、研磨ステップの結果を測定するステップを反復して行うことから生じる従来の研磨処理で必要とされていた労力を軽減することを目的としている。しかし、この文献で提案されている方法は、研磨される物体の所与の未処理の形状と、選択された研磨装置およびツールの処理パラメータによって制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2014/00954A1
【文献】特開平06-315849号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】P.A. Rizkalla、「オイラーオイラーアプローチと組み合わせた半経験的方法を使用したハイドロエロージョンモデルの開発」、論文、ロイヤルメルボルン工科大学、メルボルン大学、2007年11月、36~44頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、したがって、水浸食性研磨法によって製造される完成部品が所定の許容範囲内の必要な幾何学的形状を有するように、水浸食性研磨法で完成部品に成形される未処理部品の幾何学的形状を決定することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、以下のステップを含む、水浸食性研磨法で完成部品に成形される未処理部品の幾何学的形状を決定するための方法によって達成される。
(a)製造される完成部品の構造モデルを生成するステップであって、該製造される完成部品の構造モデルは次のステップ(b)の最初の実行の初期モデルとして使用される、ステップ;
(b)初期モデルから出発して、修正された幾何学的形状を有する中間モデルを生成する、水浸食性研磨法の数学的シミュレーションを行うステップ;
(c)ステップ(b)で生成された中間モデルと完成部品の構造モデルを比較し、製造される完成部品の構造モデルと中間モデルの間の、構造モデルの各ノードにおける、完成部品の構造モデルの表面に直交する距離を決定し、該直交距離を所定の限界値と比較するステップ;
(d)ステップ(b)で初期モデルとして使用されるモデルの表面の各ノードにおいて、ステップ(c)で決定された距離の5~99%の距離を、表面に直交して逆符号で加算することによって、部品の修正モデルを生成し、ステップ(b)から(d)を繰り返し、該ステップ(d)で生成された修正モデルは、ステップ(c)で決定された直交距離が少なくとも1つのノードで所定の限界値よりも大きい場合に、ステップ(b)で新たな初期モデルとして使用される、ステップ;
(e)各ノードにおける完成部品の構造モデルと中間モデルの間のステップ(c)で決定された直交距離が所定の限界値より小さくなった時点でシミュレーションを終了し、未処理部品の幾何学的形状に対応して最後に行われたステップ(b)の初期モデルが決定される、ステップ。
【0010】
この方法によれば、水浸食性研磨法が実施される間に所望の形成部品が成形されるように、未処理部品が有すべき幾何学的形状を、完成部品の所定の許容範囲内で、決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
製造される完成部品の構造モデルを生成するために、所望の完成部品の3次元画像が、任意の所望のコンピュータ支援設計プログラム(CADプログラム)を用いて、最初に生成されることが好ましい。所望の完成部品の三次元画像の作成中に、三次元画像が所望の完成部品の縮尺を正確に反映しているように注意する必要がある。このようにして作成された画像は、その後、構造モデルに転送される。構造モデルでは、完成部品の画像上にグリッドが配置される。この場合、グリッドの個々のノード、すなわち、少なくとも2本のグリッド線が180°と等しくない角度で交差する点を、構造モデルが所望の完成部品を十分な精度で反映するように、選択することが必要である。特に小さな構造、例えば小さな半径や曲率などでは、2つのノード間の距離は、幾何学的形状をそれでも正確に表すために、十分に小さくなければならない。研磨粒子を含む液体の流れが乱される部品位置、例えば表面の隆起または窪みでは、このように修正された流れは、表面における研磨粒子の修正された効果をもたらすため、個々のノード間の距離も、そのような位置で十分に小さくなるように選択する必要がある。この場合、ノード間で選択される距離は、被処理部品のサイズおよび完成部品の要求される寸法許容範囲に依存する。寸法許容範囲が大きいほど、2つのノード間の距離を大きく選択することができる。被処理表面からの距離が増大すると、2つのノード間の距離も同様に増大してもよい。完成部品の画像を生成することも可能なシミュレーションプログラムがステップ(b)の計算に使用される場合、もちろん、同じプログラムが画像の生成と画像から構造モデルの生成とをするために使用されてよい。
【0013】
適切な構造モデルが構築される方法は当業者に知られており、一般に構造モデルを生成するモジュールも含む従来のシミュレーションプログラムを、構造モデルの生成に使用してもよい。ステップ(b)の所望の計算方法に応じて、有限差分、有限要素または有限体積で作動するシミュレーションプログラムを使用することができる。従来の好ましいものは、有限要素に基づくシミュレーションプログラム、例えば、ANSYS(登録商標)から入手可能なシミュレーションプログラムの使用である。
【0014】
ステップ(b)では、初期モデルから開始され、水浸食性研磨法が数学的にシミュレーションされ、該数学的シミュレーションによって中間モデルが生成される。水浸食性研磨法の数学的シミュレーションでは、一方では研磨粒子を含む液体の流れが数学的にシミュレーションされ、他方では液体中の研磨粒子の輸送、及び、これに関連して研磨粒子の被処理物体への影響とそれに起因する材料の浸食が数学的にシミュレーションされる。計算には市販のシミュレーションプログラムを使用することができる。水浸食性研磨法の1つの可能なモデルが、例えば、P.A. Rizkallaによる、「オイラーオイラーアプローチと組み合わせた半経験的方法を使用したハイドロエロージョンモデルの開発」、論文、ロイヤルメルボルン工科大学、メルボルン大学、2007年11月、36~44ページに記載されている。しかしながら、ここで説明した数学的シミュレーションに加えて、当業者に知られている、液体に含まれる研磨粒子による表面からの材料の浸食および浸食の形態が記述されている研削方法の任意の他の数学的シミュレーションを使用することもできる。
【0015】
すでに上で説明したように、数学的シミュレーションは、有限差分法、有限要素法、または有限体積法、一般に有限要素法を使用する商用シミュレーションプログラムを使用して実行することができる。
【0016】
意図された後続の製造処理に対応する処理データが、好ましくは、数学的シミュレーションの境界条件と物質データとして使用される。数学的シミュレーションに使用される物質データは、意図された後続の製造方法の物質データに対応するものであることが好ましい。例えば、使用される研磨粒子を含む液体の圧力、温度、体積流量は、水浸食性研磨法の数学的シミュレーションのための境界条件として使用される。数学的シミュレーションに用いられる研磨粒子を含む液体の物質データは、例えば、液体の粘度、液体の密度であり、さらなる物質データは、液体中の研磨粒子の量と同様に、研磨粒子の形状、大きさ、材質である。さらなる処理データは、形状が構造モデルとして使用される部品の幾何学的形状であり、同様に、研磨粒子を含む液体が搬送されるチャネルの幾何学的形状である。数学的シミュレーションに使用される更なる処理量は、研磨法の持続時間である。
【0017】
水浸食性研磨法の実施中に処理条件、例えば研磨粒子を含む液体の圧力または温度、または具体的には研磨粒子を含む液体の体積流量を変更することが計画されている場合は、処理条件のこれらの変化は、研磨法の数学的シミュレーションでも考慮される。体積流量の変化及び圧力の変化に加えて、処理条件の変化は、研磨法の間の幾何学的形状の変化にも関係する。
【0018】
研磨粒子を含む液体が被処理面を一方向に流れることにより、該表面の処理される全ての位置に到達することができない場合、研磨粒子を含む液体が該表面を別の方向に流れるように、部品を再配置し、または、研磨粒子を含む液体が被処理表面を逆方向に流れるように、研磨粒子を含む液体の流れの方向を逆にすることが可能である。この研磨粒子を含む液体の流れ方向の変化は、同様に、研磨法の数学的シミュレーションにおいて考慮されるべき処理条件の変化である。
【0019】
ステップ(b)の水浸食性研磨法の数学的シミュレーションの結果、中間モデルは、初期モデルに水浸食性研磨法を適用したときに形成される幾何学的形状に対応する幾何学的形状を有する。最初にステップ(b)を行う際には、完成部品の構造モデルが初期モデルとして使用されるため、最初にステップ(b)を行うときに決定された中間モデルはある形状を有し、該形状の被処理表面は、生成された中間モデルが表面が完成部品を起点として研磨された部品を反映するように修正されている。したがって、中間モデルは、研磨処理の終了時に所望の完成部品を得るために、初期モデルとして要求される幾何学的形状とは本質的に全く逆の方式で、完成部品の所望の幾何学的形状とは異なる幾何学的形状を有している。
【0020】
所望の完成部品を要求される許容範囲内で得るために要求される未加工部品の幾何学的形状を近似するために、ステップ(c)では、ステップ(b)で生成された中間モデルが完成部品の構造モデルと比較され、製造される完成部品の構造モデルと中間モデルの間の、完成部品の構造モデルの表面に直交する距離が、構造モデルの各ノードで決定される。この各ノードで決定された直交距離は、所定の限界値と比較される。該所定の限界値は、この場合、好ましくは、完成部品の寸法許容範囲である。
【0021】
完成部品の構造モデルとステップ(b)で決定された中間モデルの間の直交距離が、少なくとも1つのノードにおいて所定の限界値よりも大きい場合には、ステップ(d)が実行され、全てのノードにおいて完成部品の構造モデルとステップ(b)で決定された中間モデルの間の直交距離が、所定の限界値よりも小さい場合には、ステップ(e)が実行され、方法が終了される。
【0022】
ステップ(d)では、ステップ(c)で決定された距離の5~99%、好ましくはステップ(c)で決定された直交距離の30~70%、特に、ステップ(c)で決定された距離の40~60%、例えば50%を、ステップ(b)で初期モデルとして使用されるモデルの表面の各ノードにおいて、初期モデルの表面に直交して逆符号で追加することにより、部品の修正されたモデルが生成される。続いて、ステップ(b)から(d)が繰り返され、ステップ(d)で生成された修正モデルがステップ(b)で新たな初期モデルとして使用される。ステップ(c)で決定された直交距離全体ではなく、ステップ(c)で決定された直交距離の5~99%、好ましくは30~70%、特に40~60%、例えば50%が、ステップ(b)で使用される初期モデルに追加されるという事実は、方法が収束し、全ての場合において、水浸食性研磨法で完成部品が製造される未処理部品のための幾何学的形状が見出されることを確実にする。
【0023】
ステップ(b)で生成された中間モデルとステップ(c)の完成部品の構造モジュールを比較した結果、各実行で初期モデルと完成部品の差が依然として生じる直交距離は登録される。この直交距離の一部を、その後のステップ(b)から(d)の実行のための新しい初期モデルを作成するために、ステップ(b)の初期モデルに追加することにより、各実行で要求される未処理部品の形状がより近く近似される。この反復方法は、ステップ(b)で生成された中間モデルが、各ノードにおいて、所定の限界値よりも小さい完成部品の構造モデルからの直交距離を有するようになると、直ちに水浸食性研磨法により完成部品を製造するために必要とされる未処理部品の形状を導き出す。未処理部品の形状は、この場合、ステップ(b)の初期モデルによって反映され、そこでは、その表面が所定の許容範囲内、すなわち所定の限界値内で完成部品に対応するモデルが中間モデルとして生成される。
【0024】
生成される完成部品に応じて、要求される許容範囲、したがって所定の限界値は、生成される完成部品の被処理表面の全体にわたって等しくてよい。しかしながら、ステップ(b)からの中間モデルと完成部品の構造モデルとの間の直交距離に対する異なる限界値が得られるように、完成部品の異なる表面または表面の異なる領域に対して異なる許容範囲を指定することも可能である。
【0025】
水浸食性研磨法により、部品の内側表面、例えばボア、または部品の外側表面、すなわち部品の外側表面の両方を処理することができる。部品の内側表面の場合、部品は、ボアの入口および出口によって、研磨粒子を含む液体が流れるラインに接続されていることが好ましい。このようにして、研磨粒子を含む液体は、処理されるボアのみを通って案内され、外側表面上には流れず、そのため、後者は研磨粒子を含む液体によって修正されない。
【0026】
外側表面が水浸食性研磨法によって処理されることを意図している場合は、部品は研磨粒子を含む液体が流れるチャネル内に配置される。この場合、液体は外側表面上を流れることができる。この場合の数学的シミュレーションでは、該チャネルもシミュレーションで考慮されなければならない。部品の内側と外側の表面が水浸食性研磨法によって処理されることが意図されている場合には、部品をチャネル内に配置することによって1作業ステップで処理することも可能であるし、または代替的に、部品の開口を閉塞して最初に内側表面に流し、次に外側表面を処理するために部品をチャネル内に配置することによって2作業ステップで処理することも可能である。もちろん、処理はまた、異なる順序で、例えば最初に外側表面を処理し、次に内側表面を処理することによって行われてもよい。数学的シミュレーションは、それぞれの場合においても、水浸食性研磨法が意図される方法で実施される。
【0027】
数学的シミュレーションによって決定された未処理部品の幾何学的形状、すなわち水浸食性研磨法によって処理されて完成部品を形成することが意図されている未処理部品の幾何学的形状が、未処理部品のための、または未処理部品の生産のためのツールのためのCNC支援生産工程で仕様として使用されることは、特に有利である。代替として、数学的シミュレーションによって決定された未処理部品の幾何学的形状は、3Dプリントのような付加的製造方法に使用されてもよい。
【0028】
未処理部品の製造のためのツールは、例えば、未処理部品が機械加工製造方法によって製造できないが、例えば鋳造方法によって製造される場合に使用される。可能な全ての材料、例えば金属、プラスチック、またはセラミックが、水浸食性研磨法によって処理されてもよい。処理される材料に応じて、適切な材料、適切な形状および適切なサイズが研磨粒子のために選択される。同様に、処理される未処理部品の材料に応じて選択されるのは、液体中の研磨粒子の割合、液体と圧力、液体の温度と体積流量、同様に研磨法の持続時間である。
【0029】
未処理部品の幾何学的形状を決定する方法は、異なる処理条件または異なる物質データで繰り返し実行されてよい。このようにして、本方法は、未処理部品の幾何学的形状を決定するためにだけでなく、最適な処理条件および研磨粒子を決定するために使用されてもよく、その場合、完成部品の一定の形状については、変更された処理条件および研磨粒子は、未処理部品の異なる幾何学的形状をもたらすことがあり得る。
【0030】
数学的シミュレーションの複雑さのため、未処理部品の幾何学的形状を決定する方法は、プログラム可能なコンピュータユニット、特にコンピュータまたはタブレットで実行されることが好ましく、その場合、コンピュータユニットは、データを例えばキーボードまたはタッチスクリーンを介して入力できるように構成されなければならない。この目的のために、コンピュータプログラムが使用され、このコンピュータプログラムによって、プログラム可能なコンピュータユニット上でコンピュータプログラムが実行されるときに、方法が実行される。コンピュータプログラムは、機械読み取り可能な記憶媒体、例えば永久記憶媒体または書き換え可能な記憶媒体に、またはコンピュータ装置と関連して、またはリムーバブルCD-ROM、DVD、ブルーレイディスクまたはUSBスティックに格納されていてもよい。さらに、または代替として、コンピュータプログラムは、例えばインターネットのようなデータネットワーク、または通信接続、例えば電話回線または無線接続を介してダウンロードするために、コンピュータ装置、例えばサーバ上に提供されてもよい。
【実施例】
【0031】
本発明の方法は、例示的に図示されており、以下の説明の助けを借りてより詳細に説明される。
【0032】
単一の図は、本発明による方法のフローチャートを示す。
【0033】
第1ステップ1では、所望の部品の三次元画像が作成される。好ましくは、三次元画像の作成は、コンピュータ支援グラフィックスプログラム、従来的にはCADプログラムの助けを借りて行われる。適切なプログラムの助けを借りて、三次元画像から構造モデルが生成される。この場合、構造モデルは、長方形グリッドや三角形グリッドに基づいて生成されるが、多角形の単位を有する他のグリッド形状、例えば、五角形、六角形、八角形のグリッド要素も可能である。頂点数が異なるグリッド要素の組み合わせも可能である。しかし、長方形グリッドや三角形グリッドを使用することが好ましい。
【0034】
所望の部品の構造モデルの生成に続いて第2ステップ2が行われ、そこでは、初期モデルから出発して、水浸食性研磨法がシミュレーションされ、それによって、中間モデルが生成され、該中間モデルの幾何学的形状は、シミュレーションに使用された初期モデルの水浸食性研磨処理の後に有する幾何学的形状と対応するようになる。
【0035】
この場合、水浸食性研磨処理は、部品の製造に使用される水浸食性研磨処理で使用されることを意図する処理条件でシミュレーションされる。
【0036】
初回のステップ2が実行され、ステップ1で生成された所望の部品の構造モデルが、数学的シミュレーションのための初期モデルとして使用される。
【0037】
第3ステップ3では、ステップ2で生成された中間モデルが、所望の部品の構造モデルと比較される。このために、所望の部品の構造モデルの各ノードにおいて、数学的シミュレーションで算出された中間モデルの表面に対する直交距離が決定され、所定の限界値と比較される。該所定の限界値は、この場合、好ましくは、所望の部品の寸法許容範囲である。
【0038】
少なくとも1つのノードにおける直交距離が所定の限界値よりも大きい場合には、第4ステップ4が実行され、そこでは、ステップ2で数学的シミュレーションに使用された初期モデルの表面までの直交距離の5~99%、好ましくは30~70%、特に好ましくは40~60%、より好ましくは50%が逆符号で加算される。これは、所望の部品の表面よりも下に位置する中間モデルで算出された表面成分の距離は初期モデルの表面に加算することで初期モデルの表面が上昇するようにし、一方、所望の部品の表面よりも上に位置する中間モデルで算出された表面成分の距離は初期モデルの表面から減算することで初期モデルの表面が下降するようにすることを意味している。このようにして、修正モデルが生成される。この修正モデルを初期モデルとして、ステップ2およびステップ3が再び実行される。ステップ3での比較中に、少なくとも1つのノードでの直交距離が再び所定の限界値よりも大きくなった場合には、ステップ4、ステップ2、およびステップ3が再び繰り返される。この手順は、ステップ3において、所望の部品の構造モデルとステップ2で算出された中間モデルの間の直交距離が、各ノードにおいて所定の限界値よりも小さくなるまで繰り返される。
【0039】
直交距離が各ノードでの所定の限界値より小さくなるとすぐに、本方法は終了する。これは参照番号5で表されている。このステップ2の最後の実行に使用された初期モデルは、次に、所望の部品を得るために水浸食性研磨法で使用される未処理部品の幾何学的形状に対応する。
【0040】
好ましくは、三次元画像、特にCAD表現が、水浸食性研磨法で使用される未処理部品に対応する初期モデルから生成される。この三次元画像は、次に、例えば、未処理部品を製造するためのCNC処理の入力ファイルとして使用されてもよく、未処理部品が製造されるツールを製造するための入力ファイルとして使用されてもよい。
【0041】
上述したように、未処理部品の製造は、特に機械加工法が使用される場合にはCNC法によって行われ、未処理部品が鋳造されることを意図している場合にはツールの製造が行われる。
【0042】
しかし、上述した製造方法の他に、代替手段として、例えば3Dプリンティング法などの付加的製造方法によって、未処理部品を製造することもできる。