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特許7408625変性ビニルアルコール系重合体粒子の製造方法及びそれにより得られる粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】変性ビニルアルコール系重合体粒子の製造方法及びそれにより得られる粒子
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/14 20060101AFI20231225BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20231225BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20231225BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C08F8/14
C08J3/12 Z
C08L29/04 S
C08K3/30
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021505130
(86)(22)【出願日】2020-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2020010775
(87)【国際公開番号】W WO2020184659
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2019047539
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立花 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】天野 雄介
(72)【発明者】
【氏名】清水 由貴
(72)【発明者】
【氏名】前川 一彦
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-321099(JP,A)
【文献】特開2001-288214(JP,A)
【文献】特開2012-057073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F2/00-301/00
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸、酸触媒及び水を含む混合媒体と、ビニルアルコール系重合体粒子とを混合する変性ビニルアルコール系重合体粒子の製造方法であって、
前記不飽和カルボン酸が下記式(1)で示されるものであり、
前記混合媒体における、水の含有量が0.5~30質量%であり、前記不飽和カルボン酸の含有量が前記ビニルアルコール系重合体粒子100質量部に対して、5~2000質量部であり、
前記混合媒体と前記ビニルアルコール系重合体粒子を混合して、スラリーまたは分散液とし、スラリーまたは分散液の状態で前記不飽和カルボン酸と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを反応させること、または
前記混合媒体と前記ビニルアルコール系重合体粒子を混合して、前記ビニルアルコール系重合体粒子に前記混合媒体を均一に馴染ませた粉体とし、粉体の状態で前記不飽和カルボン酸と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを反応させることにより、下記式(2)で示されるビニルエステル単位を含み、全構成単位に対するビニルアルコール単位の含有量が95~99.99モル%であり、平均粒子径が50~2000μmである変性ビニルアルコール系重合体粒子を得る、製造方法。
【化1】
[式(1)中、Xは炭素-炭素結合または炭素数1~10の分岐構造を有していてもよい2価の飽和炭化水素基を表し、Yは水素原子または炭素数1~6の分岐構造を有していてもよい飽和炭化水素基を表し、Zは水素原子またはメチル基を表す。]
【化2】
[式(2)中のX、Y、Zは式(1)と同義である。]
【請求項2】
前記変性ビニルアルコール系重合体粒子の比表面積が0.01~1.0m/gである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記混合媒体がさらに酢酸を含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
Yが水素原子である、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
Xが炭素-炭素結合である、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記変性ビニルアルコール系重合体粒子をさらに洗浄する、請求項1~のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
下記式(2)で示されるビニルエステル単位を含む変性ビニルアルコール系重合体粒子であって、全構成単位に対するビニルアルコール単位の含有量が95~99.99モル%であり、硫黄分の含有量が0.01~20000ppmであり、平均粒子径が50~2000μmである、変性ビニルアルコール系重合体粒子。
【化3】
[式(2)中、Xは炭素-炭素結合または炭素数1~10の分岐構造を有していてもよい2価の飽和炭化水素基を表し、Yは水素原子または炭素数1~6の分岐構造を有していてもよい飽和炭化水素基を表し、Zは水素原子またはメチル基を表す。]
【請求項8】
前記変性ビニルアルコール系重合体における、全ビニルエステル単位に対する、三連鎖以上で存在するビニルエステル単位の割合が10モル%以下である、請求項に記載の粒子。
【請求項9】
ASTM D1925にしたがって測定されるイエローインデックス(YI)が50以下である、請求項7または8に記載の粒子。
【請求項10】
全構成単位に対する前記式(2)で示されるビニルエステル単位の含有量が0.01~5モル%である、請求項7~9のいずれかに記載の粒子。
【請求項11】
Yが水素原子である、請求項7~10のいずれかに記載の粒子。
【請求項12】
Xが炭素-炭素結合である、請求項7~11のいずれかに記載の粒子。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側鎖に不飽和炭化水素基を有する変性ビニルアルコール系重合体粒子の製造方法及びそれにより得られる粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコールに代表されるビニルアルコール系重合体は、数少ない結晶性の水溶性高分子として優れた界面特性および強度特性を有することから、紙加工、繊維加工およびエマルジョン用の安定剤などに利用されている。また、ビニルアルコール系重合体を種々の方法で架橋させたビニルアルコール系重合体ゲルは、その親水性や安全性から、高吸水性樹脂(Super Absorbent Polymer)やコンタクトレンズ、水系/有機溶媒系SECカラムの充填剤などに利用されている。特に、ビニルアルコール単位の含有量が95モル%以上のビニルアルコール系重合体は、カラム充填剤として高い親水性を発現するとともに、このようなビニルアルコール系重合体の水溶液を用いて得られる被膜や繊維は優れた強度を有する。また、特定の機能を向上させるためにビニルアルコール系重合体に対する官能基の導入等が試みられており、種々の変性ビニルアルコール系共重合体が開発されている。
【0003】
中でも、側鎖に不飽和炭化水素基が導入された変性ビニルアルコール系重合体は、高エネルギー線照射による架橋耐水化や、グラフト重合による改質などが可能である。側鎖に不飽和炭化水素基を導入する方法としては、ビニルアルコール系重合体が有する水酸基と種々の化合物とを反応させる方法が一般的である。例えば、特許文献1には、不飽和炭化水素基を有するアルデヒドを用いたアセタール化により不飽和炭化水素基含有ビニルアルコール系重合体を合成する方法が開示されている。特許文献2には、不飽和炭化水素基を有するエポキシ化合物を用いたエーテル化により不飽和炭化水素基含有ビニルアルコール系重合体を合成する方法が開示されている。しかしながら、アルデヒドやエポキシのような化合物の中には変異原性を有するものがあるといわれており、これらの化合物を使用しない方法が求められている。
【0004】
一方、より安全性の高い不飽和カルボン酸や不飽和カルボン酸エステルを用いたエステル化により不飽和炭化水素基含有ビニルアルコール系重合体を合成する方法も開示されている。例えば、特許文献3及び4には、ビニルアルコール系重合体をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させ、続いて不飽和カルボン酸エステルを用いてエステル交換させた後、貧溶媒に析出させて変性ビニルアルコール系重合体を得る方法が開示されている。特許文献5には、ビニルアルコール系重合体を水に溶解させた後、不飽和カルボン酸および酸触媒を用いてエステル化させて、変性ビニルアルコール系重合体を含む溶液を製造する方法が記載されている。非特許文献1には、ビニルアルコール系重合体を水に溶解させ、続いて不飽和カルボン酸、酢酸および酸触媒を用いてエステル化させた後、貧溶媒に析出させて変性ビニルアルコール系重合体を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-108305号公報
【文献】特開2003-231715号公報
【文献】WO2018/124015号公報
【文献】WO2018/124014号公報
【文献】特開2007-321099号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】ジャーナルオブポリマーサイエンス:パートA:ポリマーケミストリー1997年、35巻、p.3603-3611
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3および4に記載の変性ビニルアルコール系重合体の製造方法では、DMSO中にビニルアルコール系重合体を溶解させた状態でエステル交換反応を行っており、変性ビニルアルコール系重合体を単離するためには反応後に大量の貧溶媒中に当該重合体を析出させる必要があり、極めて煩雑で経済的に不利であった。また、このような方法で重合体を析出させた場合、粒子形状の制御が難しく、得られた重合体をカラムの充填剤として使用した場合に通液不良を引き起こすなどの問題を生じることも判明した。
【0008】
また、本発明者らにより、DMSOはビニルアルコール系重合体との親和性が極めて高く、貧溶媒に析出させた場合でも樹脂中に残留しやすいという問題が判明した。そのため、得られたビニルアルコール系重合体をカラムの充填剤として使用する場合に、硫黄分が経時的に溶出しコンタミネーションを引き起こすという問題があった。加えて、特許文献3及び4に記載の製造方法で得られた変性ビニルアルコール系重合体を水溶液として保存した際に、残留硫黄分による臭気が著しいという問題もあった。
【0009】
特許文献5および非特許文献1に記載の変性ビニルアルコール系重合体の製造方法では、DMSOではなく水を溶媒として反応を行っているため、硫黄分の残留の問題は解消できるものの、変性ビニルアルコール系重合体を単離するためには反応後に大量の貧溶媒中に前記重合体を析出させる必要があり、極めて煩雑で経済的に不利であった。また、このような方法で重合体を析出させた場合、粒子形状の制御が難しく、得られた重合体をカラムの充填剤として使用した場合に通液不良を引き起こすなどの問題を生じることも判明した。さらに、特許文献5には、変性ビニルアルコール系重合体を含む溶液が開示されているのみであって、粒子形状については全く開示されていない。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、粒子形状の制御が可能であり、コスト面でも優れる、不飽和炭化水素基を有する変性ビニルアルコール系重合体粒子の製造方法を提供することを目的とする。また、硫黄分の含有量が少なく、かつ平均粒子径が所定の範囲である、不飽和炭化水素基を有する変性ビニルアルコール系重合体粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の点を見出した。すなわち、不飽和カルボン酸、酸触媒及び水を含む混合媒体と、ビニルアルコール系重合体粒子とを混合して不飽和カルボン酸とビニルアルコール系重合体粒子との反応を行うことにより、反応生成物の単離に大量の貧溶媒への析出を必要としないのみならず、得られる変性ビニルアルコール系重合体の粒子形状の制御が可能となることを見出した。また、硫黄分の含有量を低減させることにより、変性ビニルアルコール系重合体粒子を水溶液として用いた際の臭気が低減することを見出した。さらに、変性ビニルアルコール系重合体粒子における、平均粒子径を特定の範囲とするとともに硫黄分の含有量を低減させることにより、変性ビニルアルコール系重合体粒子をカラムの充填剤として用いた際の通液性やコンタミネーションの問題が解消されることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、上記課題は、不飽和カルボン酸、酸触媒及び水を含む混合媒体と、ビニルアルコール系重合体粒子とを混合する変性ビニルアルコール系重合体粒子の製造方法であって、前記不飽和カルボン酸が下記式(1)で示されるものであり、前記混合媒体と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを混合して、前記不飽和カルボン酸と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを反応させることにより、下記式(2)で示されるビニルエステル単位を含み、全構成単位に対するビニルアルコール単位の含有量が95~99.99モル%であり、平均粒子径が50~2000μmである変性ビニルアルコール系重合体粒子を得る、製造方法を提供することによって解決される。
【0013】
【化1】
【0014】
[式(1)中、Xは炭素-炭素結合または炭素数1~10の分岐構造を有していてもよい2価の飽和炭化水素基を表し、Yは水素原子または炭素数1~6の分岐構造を有していてもよい飽和炭化水素基を表し、Zは水素原子またはメチル基を表す。]
【0015】
【化2】
【0016】
[式(2)中のX、Y、Zは式(1)と同義である。]
【0017】
このとき、前記変性ビニルアルコール系重合体粒子の比表面積が0.01~1.0m/gであることが好ましい。前記混合媒体における水の含有量が1~30質量%であることも好ましい。前記混合媒体がさらに酢酸を含むことも好ましい。Yが水素原子であることも好ましい。Xが炭素-炭素結合であることも好ましい。
【0018】
前記製造方法において、前記変性ビニルアルコール系重合体粒子をさらに洗浄することが好ましい。
【0019】
上記課題は、下記式(2)で示されるビニルエステル単位を含む変性ビニルアルコール系重合体粒子であって、全構成単位に対するビニルアルコール単位の含有量が95~99.99モル%であり、硫黄分の含有量が0.01~20000ppmであり、平均粒子径が50~2000μmである、変性ビニルアルコール系重合体粒子を提供することによっても解決される。
【0020】
【化3】
【0021】
[式(2)中、Xは炭素-炭素結合または炭素数1~10の分岐構造を有していてもよい2価の飽和炭化水素基を表し、Yは水素原子または炭素数1~6の分岐構造を有していてもよい飽和炭化水素基を表し、Zは水素原子またはメチル基を表す。]
【0022】
このとき、前記変性ビニルアルコール系重合体における、全ビニルエステル単位に対する、三連鎖以上で存在するビニルエステル単位の割合が10モル%以下であることが好ましい。前記変性ビニルアルコール系重合体粒子のASTM D1925にしたがって測定されるイエローインデックス(YI)が50以下であることも好ましい。前記変性ビニルアルコール系重合体粒子中の全構成単位に対する前記式(2)で示されるビニルエステル単位の含有量が0.01~5モル%であることも好ましい。Yが水素原子であることも好ましい。Xが炭素-炭素結合であることも好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体粒子の製造方法は、反応時に使用する液体媒体等に由来する硫黄分の残留の問題がないうえに、粒子形状を維持したままビニルアルコール系重合体粒子を変性することが可能であるため、大量の貧溶媒へ重合体を析出させる工程が不要であることから、簡便であり経済的にも優れる。また、本発明の変性ビニルアルコール系重合体粒子は、硫黄分の含有量が少なく、優れた高エネルギー線反応性を有し、かつ平均粒子径が所定の範囲であるため、カラム充填剤等として好適に使用される。さらに、被膜や繊維を製造する場合に、本発明の変性ビニルアルコール系重合体粒子を水溶液として用いた際の臭気が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、不飽和カルボン酸、酸触媒及び水を含む混合媒体と、ビニルアルコール系重合体粒子とを混合する変性ビニルアルコール系重合体粒子の製造方法であって、前記不飽和カルボン酸が下記式(1)で示されるものであり、前記混合媒体と前記ビニルアルコール系重合体粒子を混合して、前記不飽和カルボン酸と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを反応させることにより、下記式(2)で示されるビニルエステル単位を含み、全構成単位に対するビニルアルコール単位の含有量が95~99.99モル%であり、平均粒子径が50~2000μmである変性ビニルアルコール系重合体粒子を得る、製造方法である。
【0025】
【化4】
【0026】
[式(1)中、Xは炭素-炭素結合または炭素数1~10の分岐構造を有していてもよい2価の飽和炭化水素基を表し、Yは水素原子または炭素数1~6の分岐構造を有していてもよい飽和炭化水素基を表し、Zは水素原子またはメチル基を表す。]
【0027】
【化5】
【0028】
[式(2)中のX、Y、Zは式(1)と同義である。]
【0029】
本発明の製造方法において、前記ビニルアルコール系重合体粒子と反応させる不飽和カルボン酸として、式(1)で示されるものが用いられる。式(1)中のXは、炭素-炭素結合または炭素数1~10の分岐構造を有していてもよい2価の飽和炭化水素基を表す。高エネルギー線反応性の点から、Xが炭素-炭素結合であることが好ましい。Xが炭素―炭素結合である場合の不飽和カルボン酸の具体例としてはメタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0030】
Xとして用いられる飽和炭化水素基の炭素数は1~10である。当該炭素数が10を超える場合、水溶性が悪化する。当該炭素数は5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。
【0031】
Xとして用いられる2価の飽和炭化水素基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基等が挙げられる。アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基等が挙げられる。シクロアルキレン基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等が挙げられる。Xとして用いられるアルキレン基及びシクロアルキレン基が、メチル基、エチル基等のアルキル基を分岐構造として有していてもよい。
【0032】
式(1)中のYは水素原子または炭素数1~6の分岐構造を有していてもよい飽和炭化水素基を表す。Yが水素原子であることが好ましい。
【0033】
Yとして用いられる飽和炭化水素基の炭素数は1~6である。当該炭素数が6を超える場合、水溶性が悪化するおそれがある。当該炭素数は5以下が好ましく、3以下がより好ましく、2以下がさらに好ましい。
【0034】
Yとして用いられる飽和炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基等が挙げられる。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基及びネオペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。Yとして用いられるアルキル基及びシクロアルキル基が、メチル基、エチル基等のアルキル基を分岐構造として有していてもよい。
【0035】
式(1)で示される不飽和カルボン酸として具体的には、メタクリル酸、アクリル酸、クロトン酸、3-メチル-3-ブテン酸、4-ペンテン酸、2-メチル-4-ペンテン酸、5-ヘキセン酸、3,3-ジメチル-4-ペンテン酸、7-オクテン酸、trans-3-ペンテン酸、trans-4-デセン酸、10-ウンデセン酸などが挙げられる。中でも、工業的な入手容易性や反応性の観点から、メタクリル酸、アクリル酸、4-ペンテン酸、10-ウンデセン酸が好ましい。
【0036】
本発明の製造方法において、前記不飽和カルボン酸とビニルアルコール系重合体粒子との反応の触媒として、酸触媒が使用される。これにより、不飽和カルボン酸とビニルアルコール系重合体粒子との反応が促進される。前記酸触媒は、式(1)で示される不飽和カルボン酸とビニルアルコール系重合体粒子の水酸基との脱水エステル化反応を触媒するものであればよく、有機酸および無機酸のいずれでも使用可能である。有機酸としては、例えば、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸が挙げられ、無機酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸が挙げられる。中でも、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸及び硫酸が好ましく、特にパラトルエンスルホン酸が好ましい。
【0037】
本発明で使用されるビニルアルコール系重合体粒子を構成するビニルアルコール系重合体のけん化度は95~99.99モル%が好ましい。また、前記ビニルアルコール系重合体の粘度平均重合度は100~5000が好ましく、200~4000がより好ましい。粘度平均重合度が100未満である場合、得られる変性ビニルアルコール系重合体の機械的強度が低下するおそれがある。一方、粘度平均重合度が5000を超える場合、ビニルアルコール系重合体粒子の工業的な製造が難しくなるおそれがある。ビニルアルコール系重合体のけん化度及び粘度平均重合度はJIS K6726に準拠して測定される。
【0038】
前記ビニルアルコール系重合体中のビニルアルコール単位は、加水分解や加アルコール分解などによってビニルエステル単位から誘導することができる。そのためビニルエステル単位からビニルアルコール単位に変換する際の条件等によってはビニルアルコール系重合体中にビニルエステル単位が残存することがある。
【0039】
上記ビニルエステル単位のビニルエステルの例としては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニルなどを挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが工業的観点から好ましい。
【0040】
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、前記ビニルアルコール系重合体がビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外の他の単量体単位を含有していてもよい。このような他の単量体単位としては、ビニルエステルと共重合可能なエチレン性不飽和単量体に由来するものが挙げられる。このようなエチレン性不飽和単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン等のα-オレフィン類;アクリル酸及びその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩(例えば4級塩);メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、2,3-ジアセトキシ-1-ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその塩又はそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。
【0041】
前記ビニルアルコール系重合体中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外の他の単量体単位の含有量は、通常10モル%以下であり、5モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。
【0042】
本発明で使用されるビニルアルコール系重合体粒子の平均粒子径は50~2000μmであることが好ましい。前記平均粒子径が50μm未満の場合、得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子をカラムの充填剤として使用する場合に、通液性が不十分になるおそれがある。前記平均粒子径は100μm以上がより好ましく、200μm以上がさらに好ましく、300μm以上が特に好ましく、500μm以上が最も好ましい。一方、前記平均粒子径が2000μmを超える場合、粒子の内外で反応が均一に進行しないおそれがある。前記平均粒子径は900μm以下がより好ましく、800μm以下がさらに好ましい。
【0043】
式(1)で示される不飽和カルボン酸、前記酸触媒及び水を含む混合媒体と、ビニルアルコール系重合体粒子とを混合して、前記不飽和カルボン酸と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを反応させることにより変性ビニルアルコール系重合体粒子を得る。このように、前記ビニルアルコール系重合体粒子と前記不飽和カルボン酸とを反応させること、すなわち、原料のビニルアルコール系重合体粒子の粒子形状を維持したまま反応を行うことにより、反応生成物の単離に大量の貧溶媒への析出を必要としないのみならず、変性ビニルアルコール系重合体粒子の粒子形状の制御が可能となる。また、反応時に使用する液体媒体等に由来する硫黄分が変性ビニルアルコール系重合体粒子に残留する問題がない。さらに、得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子において、三連鎖以上で存在するビニルエステル単位の割合が低減するため、水溶液とした場合の粘度安定性が向上する。前記不飽和カルボン酸と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを反応させる方法としては、前記混合媒体と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを混合して前記混合媒体中に前記ビニルアルコール系重合体粒子を分散させることにより、前記不飽和カルボン酸と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを反応させる方法が好ましい。具体的には、前記混合媒体と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを混合してスラリーや分散液とすることにより、前記不飽和カルボン酸と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを反応させる方法が挙げられる。また、前記ビニルアルコール系重合体粒子に前記混合媒体を均一に馴染ませることにより、前記不飽和カルボン酸と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを反応させる方法等も挙げられる。
【0044】
前記混合媒体とビニルアルコール系重合体粒子の混合方法は、両者を均一に混合することが可能であれば特に限定されない。具体的には、(1)前記混合媒体を調製した後、当該前記混合媒体と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを混合する方法、(2)前記ビニルアルコール系重合体と前記混合媒体の一部の成分とを混合した後、得られた混合物と前記混合媒体の残りの成分を混合する方法、(3)前記混合媒体の各成分と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを同時に混合する方法等が挙げられ、中でも(1)が好ましい。
【0045】
前記混合媒体とビニルアルコール系重合体粒子とを混合する際の前記混合媒体に対する前記ビニルアルコール系重合体粒子の質量比[重合体粒子/混合媒体]は、3/97~90/10が好ましい。質量比[重合体粒子/混合媒体]が3/97未満の場合、反応性が著しく低下するおそれがある。質量比[重合体粒子/混合媒体]は10/90以上がより好ましい。一方、質量比[重合体粒子/混合媒体]が90/10を超える場合、前記混合媒体とビニルアルコール系重合体粒子とを均一に混合することができないおそれや反応性が著しく低下するおそれがある。質量比[重合体粒子/混合媒体]は80/20以下がより好ましく、50/50以下がさらに好ましい。
【0046】
前記混合媒体における水の含有量が1~30質量%であることが好ましい。水の含有量が1質量%未満の場合、得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子が着色し易くなるおそれがある。水の含有量は3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、8質量%以上が特に好ましい。一方、水の含有量が30質量%を超える場合、反応中にビニルアルコール系重合体が溶解して、粒子形状を維持したままビニルアルコール系重合体粒子を変性することが困難になるおそれがある。水の含有量は20質量%以下がより好ましく、18質量%以下がさらに好ましい。
【0047】
前記不飽和カルボン酸と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを反応させる際の前記酸触媒の添加量は前記ビニルアルコール系重合体中の水酸基1モルに対して、0.0001~0.1モルが好ましい。前記添加量は、0.0005モル以上がより好ましい。一方、前記添加量は、0.08モル以下がより好ましい。
【0048】
前記混合媒体における、前記不飽和カルボン酸の含有量は、ビニルアルコール系重合体粒子100質量部に対して、5~2000質量部が好ましい。不飽和カルボン酸の添加量が5質量部未満の場合、反応性が低下するおそれがある。不飽和カルボン酸の含有量は、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましく、30質量部以上が特に好ましい。一方、不飽和カルボン酸の含有量が2000質量部を超える場合、未反応の不飽和カルボン酸が増加してコストが上昇するおそれがある。不飽和カルボン酸の含有量は、1500質量部以下がより好ましく、1000質量部以下がさらに好ましく、700質量部以下が特に好ましい。
【0049】
変性ビニルアルコール系重合体の酢酸ビニル単位の含有量を制御する観点から、前記混合媒体がさらに酢酸を含むことが好ましい。前記混合媒体における酢酸の含有量は、前記混合媒体中における水100質量部に対して、1~1000質量部が好ましい。酢酸の含有量は5質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましい。一方、酢酸の含有量は800質量部以下がより好ましく、600質量部以下がさらに好ましい。
【0050】
前記混合媒体が、式(1)で示される不飽和カルボン酸、前記酸触媒、水及び酢酸以外の他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤として、例えば、界面活性剤や有機溶剤が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン-アルキルエーテル型、ポリオキシエチレン-アルキルフェノール型、ポリオキシエチレン-多価アルコールエステル型、多価アルコールと脂肪酸とのエステル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックポリマー等の非イオン性界面活性剤;高級アルコール硫酸塩、高級脂肪酸アルカリ塩、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタリンスルホン酸塩ホルマリン縮合物、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、反応性界面活性剤が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類;n-ヘキサン、n-ペンタン、シクロヘキサンなどの脂肪族または脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、アニソール、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチルなどのエステル類などが挙げられる。他の添加剤として、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、消泡剤も挙げられる。前記混合媒体における、他の添加剤の含有量は、50質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましい。また、前記混合媒体が硫黄を含有する液体媒体を含有しないことが好ましい。
【0051】
前記不飽和カルボン酸と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを反応させる際の温度は、10~120℃が好ましい。前記温度は、30℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。一方、前記温度は、100℃以下がより好ましく、90℃以下がさらに好ましい。前記不飽和カルボン酸と前記ビニルアルコール系重合体粒子とを反応させる際の反応時間は、通常0.5~72時間である。
【0052】
反応後の変性ビニルアルコール系重合体粒子をさらに洗浄することが好ましい。具体的な洗浄方法としては、前記粒子を溶媒で洗浄する方法が挙げられる。具体的には、前記粒子を溶媒に浸漬した後、脱液する方法や、洗浄塔にて溶媒を流通させながら当該溶媒と前記粒子を接触させて洗浄する方法、前記粒子を流動させながら洗浄溶媒を噴霧する方法等が挙げられる。使用される溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類;n-ヘキサン、n-ペンタン、シクロヘキサンなどの脂肪族または脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ジエチルエーテル、ジフェニルエーテル、アニソール、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサンなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸エチルなどのエステル類などが挙げられる。中でも、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類がより好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチルがさらに好ましく、メタノール、プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチルが特に好ましい。これらの有機溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0053】
反応後の変性ビニルアルコール系重合体粒子を必要に応じて洗浄した後、当該粒子を乾燥させることが好ましい。このとき、通常、乾燥温度は20~150℃、乾燥時間は1~72時間である。また、変性ビニルアルコール系重合体粒子の乾燥は大気圧下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。
【0054】
こうして得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子の平均粒子径が50~2000μmである必要がある。このような平均粒子径である変性ビニルアルコール系重合体粒子は、カラム充填剤として用いた場合の通液性等に優れる。そして、本発明の製造方法によれば、変性ビニルアルコール系重合体の粒子形状の制御が容易であるため、このような平均粒子径の変性ビニルアルコール系重合体粒子を簡便に製造することができる。前記平均粒子径が50μm未満の場合、得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子をカラムの充填剤として使用する場合に、通液性が不十分になる。前記平均粒子径は100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、300μm以上がさらに好ましく、500μm以上が特に好ましい。一方、前記平均粒子径が2000μmを超える場合、変性ビニルアルコール系重合体粒子の製造時に、粒子の内外で反応が均一に進行しない。前記平均粒子径は900μm以下が好ましく、800μm以下がより好ましい。
【0055】
得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子の比表面積が0.01~1.0m/gであることが好ましい。前記比表面積が0.01m/g未満の場合、カラム充填剤として用いた場合に分離性能が悪化するおそれがある。前記比表面積は0.1m/g以上がより好ましい。一方、前記比表面積が1.0m/gを超える場合、カラム充填剤として用いた場合に粒子が圧密化しろ過不良が発生するおそれがある。
【0056】
水溶液とした際の粘度安定性が向上する点から、得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子において、全ビニルエステル単位に対する、三連鎖以上で存在するビニルエステル単位の割合が10モル%以下であることが好ましい。前記割合は9モル%以下がより好ましく、8モル%以下がさらに好ましく、7モル%以下が特に好ましい。一方、三連鎖以上で存在するビニルエステル単位の割合は通常0.1モル%以上である。三連鎖以上で存在するビニルエステル単位の割合は、後述する実施例に記載されたH-NMR測定を用いた方法により求めることができる。
【0057】
得られる変性ビニルアルコール系重合体における、全構成単位に対するビニルアルコール単位の含有量が95~99.99モル%である必要がある。ビニルアルコール単位の含有量が95モル%未満の場合、変性ビニルアルコール系重合体の結晶性が著しく低下し、機械的強度が低下するおそれがある。ビニルアルコール単位の含有量は、95.5モル%以上がより好ましい。一方、ビニルアルコール単位の含有量が99.99モル%を超える場合、変性ビニルアルコール系重合体を工業的に製造することが困難になるおそれがある。ビニルアルコール単位の含有量は99.9モル%以下が好ましい。
【0058】
得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子中の全構成単位に対する式(2)で示されるビニルエステル単位の含有量が0.01~5モル%であることが好ましい。前記ビニルエステル単位の含有量が0.01モル%未満の場合、変性ビニルアルコール系重合体粒子の架橋反応を行った際に、十分に架橋反応が進行しないおそれがある。前記ビニルエステル単位の含有量は0.05モル%以上がより好ましく、0.3モル%以上がさらに好ましく、0.5モル%以上が特に好ましい。一方、前記ビニルエステル単位の含有量が5モル%を超える場合、変性ビニルアルコール系重合体粒子の水溶性が悪化するおそれがある。式(2)で示されるビニルエステル単位の含有量は、後述する実施例に記載されたH-NMR測定を用いた方法により求めることができる。
【0059】
本発明の効果を阻害しない範囲であれば、得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子がビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外の他の単量体単位を含有していてもよい。このような他の単量体単位としては、変性ビニルアルコール系重合体粒子の製造に用いられるビニルアルコール系重合体粒子に含有されるビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外の単量体単位として上述したものが挙げられる。前記変性ビニルアルコール系重合体粒子中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外の他の単量体単位の含有量は、通常10モル%以下であり、5モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。
【0060】
得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子の粘度平均重合度は100~5000が好ましく、200~4000がより好ましい。粘度平均重合度が100未満である場合、得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子の機械的強度が低下するおそれがある。一方、粘度平均重合度が5000を超える場合、ビニルアルコール系重合体粒子の工業的な製造が難しくなるおそれがある。変性ビニルアルコール系重合体粒子の粘度平均重合度はJIS K6726に準拠して測定される。
【0061】
得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子中の硫黄分の含有量が0.01~20000ppmであることが好ましい。このように硫黄分の含有量が少ない変性ビニルアルコール系重合体粒子には、カラムの充填剤として使用する場合の硫黄分の溶出によるコンタミネーションの問題が生じにくい。また、前記変性ビニルアルコール系重合体粒子を水溶液とした際に臭気が少ない。硫黄分の含有量は10000ppm以下がより好ましく、5000ppm以下がさらに好ましく、3000ppm以下が特に好ましい。一方、硫黄分の含有量が0.01ppm未満の場合、変性ビニルアルコール系重合体粒子の工業的な製造が難しくなるおそれがある。硫黄分の含有量は0.1ppm以上がより好ましく、1ppm以上がさらに好ましい。
【0062】
得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子のASTM D1925にしたがって測定されるイエローインデックス(YI)が50以下であることが好ましい。このような変性ビニルアルコール系重合体粒子を用いることにより、外観の良好な被膜や繊維等の成形品が得られる。また、色相の良好な変性ビニルアルコール系重合体粒子をカラムの充填剤として用いた場合には、色相の変化を指標としてカラムの劣化を判断することができる。YIは40以下がより好ましく、30以下がさらに好ましく、20以下が特に好ましい。
【0063】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体粒子は、下記式(2)で示されるビニルエステル単位を含む変性ビニルアルコール系重合体粒子であって、全構成単位に対するビニルアルコール単位の含有量が95~99.99モル%であり、硫黄分の含有量が0.01~20000ppmであり、平均粒子径が50~2000μmであるものである。
【0064】
【化6】
【0065】
[式(2)中、Xは炭素-炭素結合または炭素数1~10の分岐構造を有していてもよい2価の飽和炭化水素基を表し、Yは水素原子または炭素数1~6の分岐構造を有していてもよい飽和炭化水素基を表し、Zは水素原子またはメチル基を表す。]
【0066】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体粒子における、式(2)で示されるビニルエステル単位は、上述した製造方法により得られる変性ビニルアルコール系重合体粒子における、式(2)で示されるビニルエステル単位と同じである。
【0067】
本発明の変性ビニルアルコール系重合体粒子における、全ビニルエステル単位に対する、三連鎖以上で存在するビニルエステル単位の割合が10モル%以下であることが好ましい。前記変性ビニルアルコール系重合体粒子のASTM D1925にしたがって測定されるイエローインデックス(YI)が50以下であることも好ましい。前記変性ビニルアルコール系重合体粒子中の全構成単位に対する前記式(2)で示されるビニルエステル単位の含有量が0.01~5モル%であることも好ましい。
【0068】
このような変性ビニルアルコール系重合体粒子は、硫黄分の含有量が少なく、優れた高エネルギー線反応性を有し、かつ平均粒子径が所定の範囲であるため、カラム充填剤として好適に使用される。本発明の変性ビニルアルコール系重合体粒子は、色相が良好であり、水溶液とした際の粘度安定性が高く、臭気も少ないため、被膜や繊維等の成形品にも好適に使用される。平均粒子径が所定の範囲にある本発明の変性ビニルアルコール系重合体粒子は効率よく運搬されるため、コスト低減が期待される。また、本発明の変性ビニルアルコール系重合体粒子において、硫黄を含む微粉の含有量が少ないため、それらの吸引による作業者の健康被害の防止も図られる。
【実施例
【0069】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「%」および「部」は特に断りのない限り、それぞれ「質量%」および「質量部」を表す。
【0070】
[ビニルアルコール単位の含有量の算出]
日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMBDA 500」を用い、DMSO-d6溶媒にて室温で変性ビニルアルコール系重合体粒子のH-NMRを測定し、水酸基の結合したメチンプロトン由来のピーク(3.4~4.0ppm)の積分値およびビニルエステル基のメチンプロトン由来のピーク(4.7~5.3ppm)の積分値から、当該重合体粒子のビニルアルコール単位の含有量を算出した。
【0071】
[変性率の算出]
日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMBDA 500」を用い、室温で変性ビニルアルコール系重合体粒子のH-NMRを測定し、オレフィンプロトン由来のピーク(5.0~7.5ppm)の積分値から、当該重合体粒子の変性率[全構成単位に対する前記式(2)で示されるビニルエステル単位の含有量(モル%)]を算出した。例えば、実施例1においては、5.6ppmおよび6.0ppmに表れるオレフィンプロトン由来のピークの積分値から、変性率を算出した。
【0072】
[三連鎖以上で存在するビニルエステル基の割合の算出]
日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「LAMBDA 500」を用い、DMSO-d6溶媒にて80℃で変性ビニルアルコール系重合体粒子のH-NMRを測定した。(a)4.7~4.9ppm(水酸基-ビニルエステル基-水酸基の真ん中のメチンプロトン)、(b)4.9~5.05ppm(水酸基-ビニルエステル基-ビニルエステル基の真ん中のメチンプロトン)、(c)5.05~5.25ppm(ビニルエステル基三連鎖の真ん中のメチンプロトン)の積分値から、以下の式に従い、全ビニルエステル単位に対する、三連鎖以上で存在するビニルエステル基の割合を算出した。

三連鎖以上で存在するビニルエステル基の割合(%)
=(c)/{(a)+(b)+(c)}×100
【0073】
[平均粒子径の測定]
変性ビニルアルコール系重合体粒子をメタノール中に分散させ、株式会社堀場製作所製レーザー回折装置「LA-950V2」を用いて体積平均粒子径(μm)を測定した。
【0074】
[比表面積の測定]
ユアサアイオニクス株式会社製比表面積測定装置「MONOSORB」を用い、窒素吸着によるBET一点法により、変性ビニルアルコール系重合体粒子の比表面積(m/g)を導出した。
【0075】
[色相(イエローインデックス;YI)の測定]
実施例または比較例で得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子のYI(ASTM D1925)を、下記の方法により、コニカミノルタ株式会社製分光測色計「CM-8500d」を用いて測定した(光源:D65、CM-A120白色校正板、CM-A126シャーレセット使用、正反射測定SCE、測定径φ30mm)。シャーレに試料5gを添加し、粉体を押さえつけないようにして軽く側面をたたいてシャーレを振とうし、均一に粉体を敷き詰めた。この状態で合計10回の測定を行い(各回でシャーレを一度振とうしてから再測定)、その平均値を重合体粒子のYIとした。
【0076】
[感光性の評価]
実施例又は比較例で得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子を溶解させた水溶液(濃度5質量%)に、光開始剤として2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンを、粒子100質量部に対して1質量部になるように添加してから溶解させることにより塗工液を調製した。当該塗工液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの端を折り曲げて作製した15cm×15cmの型枠に流延し、室温大気圧下で溶媒を十分に揮発させ、厚さ約100μmのフィルムを得た。ここに10J/cmの強度で紫外線を照射し、評価用フィルムを作製した後、質量(W2)を測定した。得られた評価用フィルムを沸騰水中に1時間浸漬し、水から取り出して、40℃で12時間真空乾燥した後に質量(W1)を測定した。得られた質量(W1)と浸漬前のフィルムの質量(W2)とから、以下の式に従って煮沸条件下における溶出率を算出し、この溶出率を感光性の指標とした(溶出率が低いほど感光性が高いことを意味する)。なお、水中に浸漬中に評価用フィルムが溶解した場合には「測定不能」と評価し、表1には「-」と記載した。
溶出率(質量%)=100×([W2]-[W1])/[W2]
【0077】
[粘度安定性]
Brookfield製粘度計「LVDV-2 +PRO」を用い、実施例又は比較例で得られた粒子を溶解させた水溶液(濃度15質量%)の調製直後の粘度ηと調製してから7日後の粘度ηをそれぞれ測定した後、粘度比η/ηを計算して下記の基準で粘度安定性を評価した。粘度比η/ηの値が大きいほど溶液粘度の上昇度合いが大きく、粘度安定性が悪いことを意味する。
A:ηが1.3未満
B:ηが1.3以上1.6未満
C:ηが1.6以上
【0078】
[通液性の評価]
実施例又は比較例で得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子に電子線を150kGy照射して架橋耐水化した。架橋された変性ビニルアルコール系重合体粒子100質量部を、クロマトカラム(内径50mm、開口径40~50μmのガラスフィルター及びコック付)に充填した。ここにメタノール/水=9/1(質量比)混合液130質量部を充填後、コックを開いてろ過を開始した。ろ液を回収し、添加した混合液の90%(すなわち、117質量部)がろ液として採取された時点を「ろ過完了」とし、ろ過開始からろ過完了までに要した時間によって通液性を評価した。
A:150秒未満でろ過が完了した場合
B:150秒以上300秒未満で完了した場合
C:ろ過完了までに300秒以上要した場合
【0079】
[硫黄分の含量量の評価]
実施例又は比較例で得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子を80℃で12時間乾燥させたのち、パーキンエルマー製有機元素分析装置2400IIを用いて、変性ビニルアルコール系重合体粒子中の硫黄分の含有量を測定した。
【0080】
[実施例1]
攪拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、メタクリル酸482.0質量部、イオン交換水85.1質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、47%硫酸4.5質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度平均重合度500、けん化度98.5モル%、平均粒子径723μm)100質量部を添加して、撹拌しながら80℃まで昇温し、スラリー状態で5時間反応させた。その後、室温まで冷却し、内容物をろ過して変性ビニルアルコール系重合体を回収し、大量のメタノールで洗浄した後、40℃、1.3Paで20時間乾燥することにより、目的の粒子を得た。得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子の構造解析結果、物性評価結果を表1に示す。
【0081】
[実施例2]
攪拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、4-ペンテン酸510.3質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度平均重合度1700、けん化度98.5モル%、平均粒子径698μm)100質量部を添加して、撹拌しながら60℃まで昇温し、スラリー状態で3時間反応させた。その後、実施例1と同様に後処理し、目的の粒子を得た。得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子の構造解析結果、物性評価結果を表1に示す。
【0082】
なお、得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子のH-NMR測定を行った結果、不飽和炭化水素基由来のオレフィンプロトンピークとビニルエステル基のメチンプロトンピークが重複したため、三連鎖以上で存在するビニルエステル基の割合を算出できなかった。そこで、水に変性ビニルアルコール系重合体粒子を溶解(変性ビニルアルコール系重合体の含有量5質量%)した後、プロパンチオールを、前記オレフィン1モルに対して、1モル添加し、さらに、光開始剤である2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノンを、プロパンチオール1モルに対して、1モル添加した。こうして調製した溶液に3000mJ/cmの強度で紫外線を照射した。得られた溶液を大量のメタノールに添加して重合体粒子を析出させた後、当該粒子をH-NMRで分析したところ、チオールの付加によりオレフィンプロトンピークが消失したことで、三連鎖以上で存在するビニルエステル基の割合を算出できた。
【0083】
[実施例3]
攪拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、メタクリル酸454.2質量部、酢酸5.7質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度平均重合度1700、けん化度99.5モル%、平均粒子径128μm)100質量部を添加して、撹拌しながら90℃まで昇温し、スラリー状態で3時間反応させた。その後、実施例1と同様に後処理し、目的の粒子を得た。得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子の構造解析結果、物性評価結果を表1に示す。
【0084】
[実施例4]
攪拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、メタクリル酸510.3質量部、酢酸28.4質量部、イオン交換水28.4質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物8.1質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度平均重合度1700、けん化度95モル%、平均粒子径730μm)100質量部を添加して、撹拌しながら65℃まで昇温し、スラリー状態で5時間反応させた。その後、実施例1と同様に後処理し、目的の粒子を得た。得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子の構造解析結果、物性評価結果を表1に示す。
【0085】
[実施例5]
攪拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、アクリル酸493.3質量部、酢酸17.0質量部、イオン交換水56.7質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度重合度1000、けん化度98.5モル%、平均粒子径725μm)100質量部を添加して、撹拌しながら65℃まで昇温し、スラリー状態で5時間反応させた。その後、実施例1と同様に後処理し、目的の粒子を得た。得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子の構造解析結果、物性評価結果を表1に示す。
【0086】
[実施例6]
攪拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度平均重合度1700、けん化度98.5モル%、平均粒子径698μm)100質量部を仕込み、室温で攪拌しながら、事前に混合したメタクリル酸58.0質量部、酢酸2.0質量部、イオン交換水6.7質量部、p-メトキシフェノール0.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物12.6質量部の混合液を少量ずつ添加した。十分攪拌してポリビニルアルコール樹脂全体に混合液を均一になじませたのち、撹拌しながら70℃まで昇温して、粉体状態で5時間反応させた。その後、粉体を大量のメタノールで洗浄した後、40℃、1.3Paで12時間乾燥することにより、目的の粒子を得た。得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子の構造解析結果、物性評価結果を表1に示す。
【0087】
[実施例7]
攪拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、メタクリル酸564.2質量部、イオン交換水2.8質量部、p-メトキシフェノール1.3質量部、パラトルエンスルホン酸一水和物4.2質量部を順次仕込み、室温で撹拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度平均重合度500、けん化度98.5モル%、平均粒子径720μm)100質量部を添加して、撹拌しながら80℃まで昇温し、スラリー状態で5時間反応させた。その後、実施例1と同様に後処理し、目的の粒子を得た。得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子の構造解析結果、物性評価結果を表1に示す。
【0088】
[比較例1]
市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度平均重合度1700、けん化度98.5モル%、平均粒子径698μm)を評価した。構造解析結果、物性評価結果を表1に示す。
【0089】
[比較例2]
攪拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、ジメチルスルホキシド400.0質量部、事前に80℃で24時間真空乾燥させた市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度平均重合度1700、けん化度98.5モル%、平均粒子径698μm)100質量部を加え、攪拌しながら100℃に昇温することで均一溶液を得た。当該溶液にメタクリル酸メチルを33.4質量部、フェノチアジンを1.1質量部添加し、均一になるまで攪拌した。得られた溶液に、エステル交換触媒として酢酸ナトリウムを1.9質量部添加し、5時間反応させたのち、室温に放冷した。反応溶液にDMSOを加え希釈した後、メタノールに滴下してポリマーを単離し、40℃、1.3Paで12時間乾燥させた。得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子の構造解析結果、物性評価結果を表1に示す。
【0090】
[比較例3]
攪拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、ジメチルスルホキシド400.0質量部、事前に80℃で24時間真空乾燥させた市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度平均重合度500、けん化度98.5モル%、平均粒子径723μm)100質量部を加え、攪拌しながら100℃に昇温することで均一溶液を得た。当該溶液に3,3-ジメチルペンテン酸メチル(MPM)を40.0質量部添加し、均一になるまで攪拌した。得られた溶液に、エステル交換触媒としてテトラメチルアンモニウムメチルカーボネート0.4質量部を添加し、5時間反応させたのち、室温に放冷した。反応溶液にDMSOを加え希釈した後、メタノールに滴下してポリマーを単離し、40℃、1.3Paで12時間乾燥させた。得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子の構造解析結果、物性評価結果を表1に示す。
【0091】
[比較例4]
攪拌機、還流管、添加口を備えた反応器に、イオン交換水288.0質量部を仕込み、攪拌しながら市販のポリビニルアルコール樹脂(粘度平均重合度500、けん化度98.5モル%、平均粒子径723μm)100質量部を加え、95℃に昇温し、3時間加熱攪拌することで均一溶液を得た。溶液を室温まで冷却し、攪拌しながら、メタクリル酸558.0質量部、p-メトキシフェノール2質量部、36%塩酸水溶液27.0質量部を順次仕込み、撹拌しながら80℃まで昇温し、均一溶液状態で2時間反応させた後、室温まで冷却した。得られた溶液を希釈し、大量のメタノールを強く攪拌しているところへ少量ずつ添加し、変性ビニルアルコール系重合体微粒子を析出させた。析出物を回収し、さらに大量のメタノールで洗浄した後、40℃、1.3Paで12時間乾燥することにより、目的の微粒子を得た。得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子の構造解析結果、物性評価結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
実施例1~7から明らかなように、本発明の製造方法では、粒子形状のまま変性させるため、反応生成物を貧溶媒に析出させる操作を行うことなく、簡便に変性ビニルアルコール系重合体粒子を単離することができる。本発明の変性ビニルアルコール系重合体粒子は、水溶液とした場合に、高い粘度安定性を発現し、かつ硫黄分に起因した臭気も低い。また、当該変性ビニルアルコール系重合体粒子は、優れた高エネルギー線反応性を有しており、架橋させたのちカラムの充填剤として使用する場合、優れた通液性を有する。さらに、本発明の製造方法では、DMSOを使用しないため、硫黄分のコンタミネーションも抑制できる。
【0094】
比較例2~4のように、ビニルアルコール系重合体粒子を溶媒に溶解させて反応させる場合、反応生成物である変性ビニルアルコール系重合体粒子を単離するために貧溶媒に析出させる必要があり、操作が煩雑なうえ、粒子形状の制御も容易でなかった。また、比較例1の無変性のビニルアルコール系重合体粒子は、感光性を発現しなかった。比較例1及び2の三連鎖以上で存在するビニルエステル基の割合が10%を超えるビニルアルコール系重合体粒子は水溶液とした際の粘度安定性が低い。比較例2~4のように、ビニルアルコール系重合体粒子が溶解した状態で反応させて得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子は、平均粒子径が50μm未満であり通液性が悪かった。比較例2および3のように反応時にDMSOを使用した場合は、変性ビニルアルコール系重合体粒子中の硫黄分の含有量が極めて多かった。
【0095】
[実施例8]
実施例6で得られた変性ビニルアルコール系重合体粒子のカラム充填剤としての評価を行った。当該粒子に電子線を150kGy照射し、架橋耐水化した。架橋された変性ビニルアルコール系重合体粒子100質量部を、クロマトカラム(内径50mm、開口径40~50μmのガラスフィルター及びコック付)に充填し、溶離液として超脱水メタノールを1000質量部通液し、前記重合体粒子を湿潤させた。カラムの上部の重合体粒子に、イオン交換水を5質量%含む超脱水メタノールを吸着させたのち、溶離液として、超脱水メタノールを100質量部通液させた。カラム出口より液を回収し、分析に供した。
【0096】
上記試験の間、良好な通液性を維持していた。回収液をH-NMRで分析したところ、回収液中には水は含まれていなかったことから、変性ビニルアルコール系重合体粒子に水が保持されていることが確認された。また、回収液を元素分析に供したところ、回収液中の硫黄分含有量は18ppmであった。