(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】フッ素系共重合体組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20231225BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20231225BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20231225BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20231225BHJP
C08L 27/20 20060101ALI20231225BHJP
C08L 71/12 20060101ALI20231225BHJP
B29C 48/00 20190101ALI20231225BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L27/12
C08L27/16
C08L27/18
C08L27/20
C08L71/12
B29C48/00
(21)【出願番号】P 2021522432
(86)(22)【出願日】2019-09-30
(86)【国際出願番号】 US2019053835
(87)【国際公開番号】W WO2020086218
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-08-29
(32)【優先日】2018-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514180476
【氏名又は名称】エージーシー ケミカルズ アメリカズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正登志
(72)【発明者】
【氏名】スプリック,キャサリン,エム.
(72)【発明者】
【氏名】タッカー,ライアン,ティー.
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-079391(JP,A)
【文献】国際公開第93/021272(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188280(WO,A1)
【文献】特開昭61-203153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B29C 48/00-48/96
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の:
ASTM D3835により、キャピラリーレオメーターを用いて、せん断速度243/秒、温度360℃で測定した場合のせん断応力(τA)が、0.11MPaより大きい熱可塑性樹脂A;及び
熱可塑性樹脂A内に分散された、平均分散粒径が50μm未満であるフッ素系エラストマーB;
を含む、フッ素系共重合体組成物であって、
ここで、ASTM D3835により、せん断速度12.1/秒、360℃の条件でキャピラリーレオメーターを用いて粘度を測定する場合の熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBの粘度の比が、0.35より大きい
フッ素系共重合体組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂Aは、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリアリ
ールスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、芳香族ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリアリ
ールエーテルケトン、ポリアミドイミド及び液晶ポリエステルからなる群から選択される少なくとも1の溶融成形可能な耐熱性熱可塑性樹脂であって、ここで前記フッ素系エラストマーBは、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン及びクロロトリフルオロエチレンからなる群から選択される少なくとも1の単量体に由来する単位を含む、
請求項1に記載のフッ素系共重合体組成物。
【請求項3】
曲げ弾性率が1,000~3,700MPaであり;かつ、ASTM D3835により、せん断速度12.1/秒、360℃のキャピラリーレオメーターで測定した場合のフッ素系エラストマーBの粘度は、2,000Pa・s以上である、請求項1又は2に記載のフッ素系共重合体組成物。
【請求項4】
ASTM D3835により、せん断速度12.1/秒、360℃の条件でキャピラリーレオメーターを用いて粘度を測定する場合の熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBの粘度の比が、0.35~1.7である、請求項1~3のいずれか1項に記載のフッ素系共重合体組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂Aは、ポリアリ
ールエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエーテルアミド及びポリアリ
ールスルホンからなる群から選択され、かつ、前記フッ素系エラストマーBは、テトラフルオロエチレンとプロピレンに由来する単位を有する共重合体である、請求項1~4のいずれか一項に記載のフッ素系共重合体組成物。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂Aの質量%とフッ素系エラストマーBの質量%との比は、99/1~55/45であり、ASTM D638-14により200℃で測定した場合に引張伸びが120%以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のフッ素系共重合体組成物。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂Aのせん断応力(τA)が、0.2MPaより高く、ASTM D3835によるせん断速度12.1/秒、360℃でキャピラリーレオメーターを用いて粘度を測定した場合の、熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBの粘度の比は、1.1以上1.3未満である、請求項1~6のいずれか一項に記載のフッ素系共重合体組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂A内に分散されたフッ素系エラストマーBの平均分散粒径は、15μm未満であり、前記熱可塑性樹脂Aは、ポリアリ
ールエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン又はそれらの組み合わせであり、前記フッ素系エラストマーBは、テトラフルオロエチレン及びプロピレンから誘導される単位を有する共重合体である、請求項1~7のいずれか一項に記載のフッ素系共重合体組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のフッ素系共重合体組成物を含む成形品又は押出成形品。
【請求項10】
以下の:
(i)熱可塑性樹脂Aに(ii)フッ素系エラストマーBを溶融混練して、フッ素系エラストマーBが熱可塑性樹脂A内に50μm以下の平均分散粒径で分散するように、フッ素系共重合体組成物を形成する工程;
を含むフッ素系共重合体組成物を形成する方法であって、ここで、
ASTM D3835により、キャピラリーレオメーターを用いてせん断速度243/秒、温度360℃で測定した場合の前記熱可塑性樹脂Aのせん断応力(τA)は0.11MPaより大きく、
ASTM D3835によりせん断速度12.1/秒、360℃のキャピラリーレオメーターで測定した場合の前記熱可塑性樹脂Aの粘度と前記フッ素系エラストマーBの粘度の比は、0.35より大きい、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年4月28日に出願された日本特許出願第2016-91886号及び72016年9月2日に出願された日本特許出願第2016-172023号に基づき、当該出願の優先権の利益を主張する2017年4月25日に出願されたPCT出願第PCT/JP2017/016436号の継続出願である2018年10月24日に出願された米国特許出願第16/169,247号の優先権を主張する。これらの各出願の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
以下の開示は、フッ素系共重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンケトン等のエンジニアリングプラスチックは、耐熱性、機械的特性等に優れており、各種射出成形品に汎用されている。しかし、これらのエンジニアリングプラスチックは、常温や低温での耐衝撃性に問題があり、その改良が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
開示の概要及び利点
本開示は、熱可塑性樹脂Aと、熱可塑性樹脂A内に分散されたフッ素系エラストマーBとを含むフッ素系共重合体組成物を提供する。熱可塑性樹脂Aは、ASTM D3835による、キャピラリーレオメーターを用いて、せん断速度243/秒、温度360℃で測定したときのせん断応力(τA)が0.11MPa以上である。熱可塑性樹脂A内に分散されたフッ素系エラストマーBは、平均分散粒径が50μm以下である。
【0006】
本開示はまた、フッ素系重合体組成物を形成する方法を提供する。当該方法は、熱可塑性樹脂Aを、フッ素系エラストマーBで溶融混練して、フッ素系エラストマーBが熱可塑性樹脂A内に50μm以下の平均分散粒径で分散する工程を含む。ASTM D3835により、キャピラリーレオメーターを用いてせん断速度243/秒、温度360℃で測定した場合の熱可塑性樹脂Aのせん断応力(τA)は0.11MPaより大きい。
【0007】
せん断応力が0.11MPaより大きい熱可塑性樹脂と平均分散粒径のフッ素系エラストマーBの組み合わせが相乗的に作用して、所望の耐熱性、機械的特性、成形性を維持しつつ、優れた耐衝撃性を有するフッ素系共重合体組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示の当該フッ素系共重合体組成物は、熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーBを含む。当該フッ素系共重合体組成物に含まれる前記熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBの体積比(A:B)は、99/1~55/45であってよい。ある実施形態では、体積比(A:B)は、97:3~55:45、95:5~57:43、95:5~60:40、93:7~60:40、又は90:10~65:35である。一実施形態では、熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBの体積比(A:B)は、90:10~65:35である。
【0009】
体積比(A:B)は、以下の手順で得られる。当該フッ素系共重合体組成物の製造時に溶融混練される(ニーダーに導入される)熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーBの各質量(g)を、各比重(g/cm3)で除して各体積(cm3)を求め、熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーBの各体積(cm3)から、上記体積比(A:B)を算出する。比重は、23℃における値である。なお、熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーBの各比重は、水中置換(懸濁)法により測定することができる。
【0010】
当該フッ素系共重合体組成物における熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーBの体積の合計は、通常、少なくとも50%である。ある実施形態では、当該フッ素系共重合体組成物における熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーBの体積の合計は、当該フッ素系重合体組成物の体積のフッ素系共重合体組成物の体積の60~99%、又は70~97%である。熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーBの組み合わせにおける当該フッ素系共重合体組成物の総体積を集合的に形成する場合による成分は以下に記載する。
【0011】
当該フッ素系共重合体組成物中の熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBの体積の合計が50%以上であると、柔軟性や機械的強度等の優れた機械的特性が実現される。また、フッ素系共重合体組成物中の熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBの体積の合計が上記上限範囲又はその近傍値(例えば99%)である場合、優れた耐熱性と、柔軟性や機械的強度等の優れた機械的特性が実現される。
【0012】
当該フッ素系共重合体組成物は、熱可塑性樹脂A内に分散したフッ素系エラストマーBを含む。当該熱可塑性樹脂A内に分散したフッ素系エラストマーBの平均粒径(平均分散粒径ともいう)は50μm以下である。ある実施形態では、フッ素系エラストマーBの平均分散粒径は、40μm未満、30μm未満、20μm未満、又は10μm未満である。あるいは、平均分散粒径は、0.1~50μmである。ある実施形態では、平均分散粒径は、0.1~40μm、0.1~30μm、0.1~20μm、0.1~15μm、0.1~10μm、0.1~7μm、0.1~6μm、又は0.1~3μmである。一実施形態では、フッ素系エラストマーBの平均分散粒径は、0.1~15μmである。他の実施形態では、フッ素系エラストマーBの平均分散粒径は、0.1~7μmである。他の実施形態では、フッ素系エラストマーBの平均分散粒径は、0.1~6μmである。他の実施形態では、フッ素系エラストマーBの平均分散粒径は、0.1~3μmである。
【0013】
さらに、平均分散粒径が0.1~50μmであることから、後述する溶融混練工程において、一般に、フッ素系エラストマーBを必要以上にせん断する必要がない。すなわち、平均分散粒径が0.1~50μmであることにより、フッ素系エラストマーBを熱可塑性樹脂Aに分散させた状態で分子構造が保持されるため、フッ素系エラストマーBの柔軟性を確保しつつ熱可塑性樹脂Aに分散させることで、熱可塑性樹脂Aだけでは不十分だった耐衝撃性をフッ素系共重合体組成物に付与することができ、耐衝撃性が向上したフッ素系共重合体組成物を製造することが可能となる。
【0014】
フッ素系エラストマーBの平均分散粒径は、100個の粒子を無作為抽出して、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により各径を測定することにより算出した。無作為抽出した100個の粒子の平均直径が、算出したフッ素系エラストマーBの平均分散粒径である。
【0015】
特定の理論に拘束されることなく、必須ではないが、ASTM D3835により、キャピラリーレオメーターを用いて、せん断速度243/秒、温度360℃で粘度を測定した場合の熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBの粘度の比が0.35以上となるように、熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBを選択することで、熱可塑性樹脂A内でのフッ素系エラストマーBの安定した分散性が得られると考えられる。換言すれば、特定の熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBの組み合わせの粘度比が0.35より大きい場合、熱可塑性樹脂A内に平均分散粒径が50μm未満であるフッ素系エラストマーBの安定した分散が達成される。当業者は、一貫した(consistent)分散が、耐衝撃性等の機械的特性に有益であることを理解する。
【0016】
ある実施形態では、熱可塑性樹脂Aのフッ素系エラストマーBに対する粘度比は、0.5、0.7、0.9、1.1、1.2、1.3、1.5、又は1.7よりも大きい。他の実施形態では、熱可塑性樹脂Aのフッ素系エラストマーBに対する粘度比は、0.35~1.7、0.5~1.5、0.7~1.3、0.9~1.3、又は1.1~1.3である。ある実施形態では、熱可塑性樹脂Aのフッ素系エラストマーBに対する粘度比は0.35~1.7であり、フッ素系エラストマーBの平均分散粒径は0.1~50μmである。他の実施形態では、熱可塑性樹脂Aのフッ素系エラストマーBに対する粘度比は、1.1~1.3であり、フッ素系エラストマーBの平均分散粒径は、0.1~15μm又は0.1~7μmである。
【0017】
必須ではないが、当該フッ素系共重合体組成物の曲げ弾性率は、通常1,000~3,700MPaである。あるいは、当該フッ素系共重合体組成物の曲げ弾性率は、1,300~3,500MPa、1,500~3,400MPa、又は1,700~3,300MPaであってよい。当該フッ素系共重合体組成物の曲げ弾性率が1,000~3,700MPaである場合、当該フッ素系共重合体組成物中のフッ素系エラストマーBは、フッ素系エラストマーBが架橋可能であるにもかかわらず、架橋されていないか、実質的に架橋されていない。したがって、当該フッ素系共重合体組成物の曲げ弾性率が通常1,000~3,700MPaである実施形態では、当該フッ素系共重合体組成物は、一般的に、架橋剤又は架橋共剤の非存在下で形成される。当該フッ素系共重合体組成物の曲げ弾性率は、ASTM D790により測定される。
【0018】
当該フッ素系共重合体組成物の優れた曲げ弾性率に加えて、当該フッ素系共重合体組成物は、フッ素系共重合体組成物は優れた引張伸びを備えうる。特に、ASTM D638-14により200℃で当該フッ素系共重合体組成物の引張伸びを測定する場合、120%より高くありうる。ある実施形態では、当該引張伸びは、140%、160%、180%、又はさらに200%よりも高くありうる。当該フッ素系共重合体組成物の優れた引張伸びにより、当該フッ素系共重合体組成物は、以下にさらに記載される多種多様な用途(例えば、航空宇宙から民生用電子機器用途、及び自動車から家庭用品用途)に用いるのに適する。
【0019】
ある実施形態では、当該フッ素系共重合体組成物は、以下の式:
CR1/2-B/CR1/2-A<0
を満たす。CR1/2-Bは、窒素雰囲気中、315℃の等温制御下でのフッ素系エラストマーBの結晶化に由来する発熱ピークの最大値に達するまでの時間(分)である。また、CR1/2-Aは、熱可塑性樹脂Aの結晶化に由来する発熱ピークが315℃の窒素雰囲気下で等温制御されて最大になるまでの時間(分)である。
【0020】
(熱可塑性樹脂A)
熱可塑性樹脂Aは、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリアリールスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、芳香族ポリエーテルイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリアリールエーテルケトン、ポリアミドイミド及び液晶ポリエステルからなる群から選択される少なくとも1の溶融成形可能な耐熱性熱可塑性樹脂である。
【0021】
熱可塑性樹脂Aとしては、1又は2若しくはそれ以上を用いてよい。すなわち、熱可塑性樹脂Aは、1又は2又は3又は4等の熱可塑性樹脂を含み、含まれる各熱可塑性樹脂を総称して熱可塑性樹脂Aと称してよい。通常、熱可塑性樹脂Aに含まれるのは、1の熱可塑性樹脂のみである。
【0022】
熱可塑性樹脂Aは通常、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、芳香族ポリエーテルアミド及びポリアリールスルホンからなる群から選択される少なくとも1の熱可塑性耐熱性樹脂である。ポリアリールエーテルケトンとしては、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、又はポリエーテルケトンケトン(PEKK)が好ましい。ある実施形態では、熱可塑性樹脂Aは、PAEKである。他の実施形態では、熱可塑性樹脂AはPEEKである。他の実施形態では、熱可塑性樹脂AはPESである。一実施形態では、熱可塑性樹脂Aは、PEEK、PAEK、及びPESの組み合わせである。
【0023】
熱可塑性樹脂Aの融点は、通常、200~430℃である。あるいは、熱可塑性樹脂Aの融点は、250~400℃であり、又は280~380℃である。
【0024】
融点が少なくとも200℃以上である場合、通常、当該フッ素系共重合体組成物が示す優れた耐熱性を維持しうる。融点が最大で430℃である場合、通常、溶融混練時のフッ素系エラストマーBの熱分解による物性の低下を抑制しうる。また、柔軟性、耐衝撃性、耐薬品性等のフッ素系エラストマーの特性を維持しうる。
【0025】
熱可塑性樹脂Aのメルトフローレート(MFR)は、通常0.1~300g/10分である。あるいは、MFRは、1~100g/10分、又は3~70g/10分であってよい。
【0026】
MFRが少なくとも0.1g/10分である場合、通常、外観上の粗さがない溶融成形可能な組成物が得られる。また、メルトフローレート(MFR)が最大で300g/10分である場合、熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBとの組成物中での分散性が良好となり、その結果、通常機械的特性や耐熱性が優れる。
【0027】
MFRは、ASTM D3307により測定され、372℃で49N(5kg)の荷重をかけて直径2mm、長さ8mmのノズルから10分間に流出する樹脂の質量(g)を測定し、得られた値をMFR(g/10分)として採用する。
【0028】
熱可塑性樹脂Aとしては、市販の熱可塑性耐熱性樹脂を用いてよいし、各種原料から公知の方法で製造してよい。
【0029】
熱可塑性樹脂Aは、多種多様なポリマーを含んでよいが、熱可塑性樹脂Aに用いるのに適さないポリマーもある。特に、本開示の熱可塑性樹脂Aは、ASTM D3835により、キャピラリーレオメーターを用いて、せん断速度243/秒、360℃で測定する場合のせん断応力(τA)が0.11MPa以上である必要がある。特定の理論に拘束されることなく、せん断応力が0.11MPa以上の熱可塑性樹脂Aは、特に熱可塑性樹脂A内にフッ素系エラストマーBが平均分散粒径50μm以下で分散されている場合、当該フッ素系共重合体組成物の耐衝撃性を著しく向上させると考えられる。すなわち、上記のように、PAEK及び/又はPEEKは、好適かつ通常の熱可塑性樹脂Aであるが、PAEK及びPEEKのすべての形態又は等級が好適ではない。例えば、せん断応力(上記手順で測定)が0.11MPa以上であるPAEK等級は、耐衝撃性に劣る従来のフッ素系共重合体組成物であり、好ましくない。せん断応力は、熱可塑性樹脂Aの重要な特性であり、フッ素系エラストマーBの平均分散粒径が50μm未満である場合のフッ素系共重合体組成物の耐衝撃性と直接相関すると考えられるからである。
【0030】
ある実施形態では、熱可塑性樹脂Aのせん断応力は、0.11MPa~0.4Mpaである。あるいは、熱可塑性樹脂Aのせん断応力は、0.11~0.4Mpa、0.13~0.4Mpa、0.15~0.35Mpa、0.2~0.35Mpa、0.2~0.3Mpa、0.23~0.3Mpa、0.26~0.3Mpa、又は約0.27Mpaであってよい。
【0031】
ある実施形態では、熱可塑性樹脂Aのせん断応力は、0.11~0.4MPa又は0.2~0.3MPaであり、フッ素系エラストマーBの平均分散粒径は、0.1~15μm又は0.1~7μmである。また、当該実施形態では、熱可塑性樹脂Aは、PEEK又はPAEKであってよい。さらに、当該実施形態では、熱可塑性樹脂Aのフッ素系エラストマーBに対する粘度比は、0.35~1.7であってよい。当該各実施形態のフッ素系共重合体組成物は、優れた耐衝撃性を示す。当該実施形態では、熱可塑性樹脂Aのせん断応力に対するフッ素系エラストマーBのせん断応力の比は、0.7以上であってよい。あるいは、熱可塑性樹脂Aのせん断応力に対するフッ素系エラストマーBのせん断応力の比は、1.4~2.3であってよい。
【0032】
(フッ素系エラストマーB)
フッ素系エラストマーBは、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニリデン(VdF)及びクロロトリフルオロエチレン(CTFE)からなる群から選択される少なくとも1の単量体(以下、「単量体(MB1)」ともいう)に由来する単位を含むフッ素系弾性共重合体である。「単量体に由来する単位」とは、単量体の重合によって形成される単位を意味する。単量体由来の単位は、単量体の重合反応によって直接形成された単位であってよく、又はポリマーや単位の処理によって他の構造に変換された単位であってよい。
【0033】
フッ素系エラストマーBとしては、1のフッ素系エラストマーを用いてよく、又は2若しくはそれ以上のフッ素系エラストマーを用いてよい。すなわち、フッ素系エラストマーBは、含まれる各フッ素系エラストマーを総称してフッ素系エラストマーBと称して、1又は2又は3又は4のフッ素系エラストマーを含んでよいが、通常、フッ素系エラストマーBが含むのは、1のフッ素系エラストマーのみである。
【0034】
フッ素系エラストマーBは、TFEに基づく単位(以下、「TFE単位」ともいう;他の単位も同様)、HFP単位、VdF単位及びCTFE単位からなる群から選択される2若しくは3の単位のみからなるフッ素系弾性共重合体であってよく、又は単量体(MB1)に基づく単位及び単量体(MB1)と共重合可能な以下の単量体(MB2)に基づく単位の少なくとも1つからなるフッ素系弾性共重合体であってよい。
【0035】
当該単量体(MB2)は、エチレン(E)、プロピレン(P)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、フッ化ビニル(VF)、1,2-ジフルオロエチレン(DiFE)、1,1,2-トリフルオロエチレン(TrFE)、3,3,3-トリフルオロ-1-プロピレン(TFP)、1,3,3,3-テトラフルオロプロピレン、及び2,3,3,3-テトラフルオロプロピレンからなる群から選択される少なくとも1の単量体である。
【0036】
ここで、PAVEとは、以下の式(I):
CF2=CF(ORF) (I)
(式中、RFは、C1~8の直鎖状又は分岐状のパーフルオロアルキル基である)
で表される化合物であり、具体的には、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、又はパーフルオロ(ブチルビニルエーテル)(PBVE)を用いることができる。
【0037】
フッ素系エラストマーBは、単量体(MB1)及び単量体(MB2)以外の他の単量体(以下、「単量体(MB3)」ともいう)に由来する単位のうち、単量体(MB1)と共重合可能なものを少なくとも1つ備えてよく、これにより、当該共重合体は弾性共重合体となる。
【0038】
フッ素系エラストマーBを構成する全ての単位のうち、単量体(MB3)に由来する単位は、通常、20mol%を超えない量で含まれる。あるいは、フッ素系エラストマーBに含まれる単量体(MB3)に由来する単位の量は、最大でも5モル%である。もちろん、フッ素系エラストマーBは、モノマー(MB3)に由来する単位が欠落してよい(すなわち、含まない)。一実施形態では、フッ素系エラストマーBは、モノマー(MB1)及び(MB2)に由来する単位のみを含み、したがって、モノマー(MB3)に由来する単位を含まない。
【0039】
通常、フッ素系エラストマーBを構成する全単位の100モル%が、単量体(MB1)に由来する2若しくは3の単位で構成されるか、又は単量体(MB1)に由来する少なくとも1の単位と単量体(MB2)に由来する少なくとも1の単位で構成される。ただし、単量体(MB1)及び(MB2)以外の単位を不純物等として含むことは許容される。
【0040】
フッ素系エラストマーBは、TFE/P含有共重合体(TFE単位及びP単位を含む共重合体を意味する;ここで、「/」で連結された各単位の合計、すなわちTFE/P含有共重合体の場合、TFE単位及びP単位の合計が、全単位の合計に占める割合は、通常は50モル%以上である;他の「含有共重合体」についても同様である)、HFP/VdF含有共重合体、又はTFE/PAVE含有共重合体であってよい。
【0041】
通常、TFE/PAVE共重合体には、TFE単位及びPAVE単位はあっても、さらにP単位又はVdF単位を含む共重合体は含まない。さらに、通常、HFP/VdF含有共重合体には、HFP単位とVdF単位があっても、さらにP単位を含む共重合体は含まない。
【0042】
TFE/P含有共重合体は、TFE/P(TFE単位とP単位を含む共重合体を意味する。以下同様)、TFE/P/VF、TFE/P/VdF、TFE/P/E、TFE/P/TFP、TFE/PAVE、TFE/P/1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、TFE/P/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、TFE/P/TrFE、TFE/P/DiFE、TFE/P/VdF/TFP又はTFE/P/VdF/PAVEであってよい。一実施形態では、TFE/P含有共重合体は、TFE/P(すなわち、TFE及びP以外の単位を含まない)である。
【0043】
HFP/VdF含有共重合体は、HFP/VdF、TFE/VdF/HFP、TFE/VdF/HFP/TFP、TFE/VdF/HFP/PAVE、VdF/HFP/TFP又はVdF/HFP/PAVEであってよい。一実施形態では、HFP/VdF含有共重合体は、HFP/VdFである。
【0044】
TFE/PAVE含有共重合体は、TFE/PAVE、TFE/PMVE、又はTFE/PMVE/PPVEであってよい。一実施形態では、TFE/PAVE含有共重合体は、TFE/PAVEである。
【0045】
フッ素系エラストマーBとしては、上記のTFE/P含有共重合体、HFP/VdF含有共重合体、TFE/PAVE含有共重合体、及び、TFENdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、VdF/PAVE、VdF/2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、又はE/HFPを用いてよい。
【0046】
上記のうち、フッ素系エラストマーBは、通常、少なくとも1つのTFE/P含有共重合体、HFP/VdF含有共重合体又はTFE/PAVE含有共重合体を含む。一実施形態では、フッ素系エラストマーBは、溶融混練時の熱安定性に優れ、溶融混練時の搬送が安定し、かつ成形時の変色及び発泡が回避できるため、TFE/Pとして選択される。
【0047】
当該エラストマーの組成は、フッ素系共重合体組成物の柔軟性に寄与しやすいという観点から、以下の範囲であることが好ましい。
【0048】
TFE/P(TFE単位のP単位に対するモル比を意味し、以下の比も同様にモル比である)は、通常30~80:70~20である。あるいは、TFE単位に対するP単位の比は、40~70:60~30又は60~50:40~50であってよい。TFE/P/VFでは、TFE:P:VFの比は、通常30~60:60~20:0.05~40、又は30~60:60~20:0.05~40である。TFE/P/Eでは、TFE:P:Eの比は、通常20~60:70~30:0.05~40である。TFE/P/TFPでは、TFE:P:TFPの比率は、通常30~60:60~30:0.05~20である。TFE/P/PAVEでは、TFE:P:PAVEの比率は、通常40~70:60~29.95:0.05~20である。TFE/P/1,3,3,3~テトラフルオロプロペンでは、TFE:P:1,3,3,3~テトラフルオロプロペンの比率は、通常30~60:60~20:0.05~40である。TFE/P/2,3,3,3~テトラフルオロプロペンでは、TFE:P:2,3,3,3~テトラフルオロプロペンの比率は、通常30~60:60~20:0.05~40である。TFE/P/TrFEでは、TFE:P:TrFEの比率は、通常30~60:60~20:0.05~40である。TFE/P/DiFEでは、TFE:P:DiFEの比は、通常30~60:60~20:0.05~40である。TFE/P/VdF/TFPでは、TFE:P:VdF:TFPの比は、通常30~60:60~20:0.05~40:0.05~20である。TFE/P/VdF/PAVEでは、TFE:P:VdF:PAVEの比率は、通常30~70:60~20:0.05~40:0.05~20である。HFP/VdFでは、HFP:VdFの比率は、通常99~5:1~95である。TFE/VdF/HFPでは、TFE:VdF:HFPの比は、通常20~40:1~40:20~40である。TFE/VdF/HFP/TFPでは、TFE:VdF:HFP:TFPの比は、通常30~60:0.05~40:60~20:0.05~20である。TFE/VdF/HFP/PAVEでは、TFE:VdF:HFP:PAVEの比率は、通常30~70:60~20:0.05~40:0.05~20である。VdF/HFP/TFPでは、VdF:HFP:TFPの比率は、通常1~90:95~5:0.05~20である。VdF/HFP/PAVEでは、VdF:HFP:PAVEの比率は、通常20~90:9.95~70:0.05~20である。TFE/PAVEでは、TFE:PAVEの比率は、通常40~70:60~30である。TFE/PMVEでは、TFE:PMVEの比率は、通常40~70:60~30である。TFE/PMVE/PPVEでは、TFE:PMVE:PPVEの比は、通常40~70:3~57:3~57である。TFE/VdF/2,3,3,3~テトラフルオロプロペンでは、TFE:VdF:2,3,3,3~テトラフルオロプロペンの比率は、通常1~30:30~90:5~60である。VdF/PAVEでは、VdF:PAVEの比率は、通常3~95:97~5である。VdF/2,3,3,3~テトラフルオロプロペンでは、VdF:2,3,3,3~テトラフルオロプロペンの比は、通常30~95:70~5である。E/HFPでは、E:HFPの比は、通常40~60:60~40である。
【0049】
フッ素系エラストマーB中のフッ素含有量は、通常50~74質量%、又は55~70質量%、57~60質量%である。フッ素系エラストマーBがTFE/Pである場合、フッ素含有量は通常66~71質量%である。フッ素系エラストマーBがHFP/VdFである場合、フッ素含有量は通常66~70質量%である。
【0050】
フッ素系エラストマーBのフッ素含有量が少なくとも50質量%より高い場合、耐熱性及び耐薬品性が優れる。また、その含有量が最大で74質量%であると、当該フッ素系共重合体組成物の柔軟性が向上する。
【0051】
フッ素含有量は、フッ素系エラストマーBを構成する全原子の総質量に対するフッ素原子の質量の比率を示す。当該フッ素含有量の分析は、溶融NMR測定及び全フッ素含有量測定から、フッ素系共重合体中の各単位のモル比を求めることにより行われる。
【0052】
フッ素系エラストマーBの数平均分子量は、通常、10,000~1,500,000、20,000~1,000,000、20,000~800,000、又は50,000~600,000である。数平均分子量が上記下限値以上であると、成形体の機械的強度が良好となる。また、数平均分子量が上記上限値以上であると、フッ素系エラストマーBの流動性が高くなり、熱可塑性樹脂Aへの分散性が良好となり、フッ素系共重合体組成物の柔軟性が向上する。
【0053】
フッ素系エラストマーBのムーニー粘度(ML1+10、121℃)は、通常、20~200、30~150又は40~120である。
【0054】
ムーニー粘度は、分子量を表す指標であり、JIS K6300-1:2000により測定することができる。この値が大きいほど分子量が大きく、小さいほど分子量が小さいことを意味する。ムーニー粘度が20~200の範囲内であると、フッ素系共重合体組成物は機械的特性や成形性に優れる。
【0055】
他の粘度測定として、フッ素系エラストマーBは、ASTM D3835により、キャピラリーレオメーターを用いて、せん断速度12.1/秒、360℃で測定したときの粘度が2,000Pa・sより大きい場合がある。
【0056】
溶融混練前のフッ素系エラストマーBの数平均粒子径は、通常最大でも10mmである。この直径を有する粒子は、「クラム(crumb)」ともいう。あるいは、溶融混練前のフッ素系エラストマーBの数平均粒子径は、最大で8mm、又は最大で6mmである。上記範囲内の場合、溶融混練時のスクリューによる搬送が良好となる。なお、溶融混練前のフッ素系エラストマー(B)の数平均粒子径は、光学顕微鏡によりランダムに100個の粒子を選択し、その粒子径を測定して平均値を算出したものである。
【0057】
ある実施形態では、フッ素系エラストマーBはTFE/Pである。熱可塑性樹脂Aのせん断応力は、0.11~0.4Mpa又は0.2~0.3Mpaであってよく、フッ素系エラストマーBの平均分散粒径は、0.1~15μm又は0.1~7μmである。また、当該実施形態では、熱可塑性樹脂Aは、PAEK又はPEEKであってよい。さらに、当該実施形態では、熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBの粘度比は、0.35~1.7であってよい。これらの各実施形態のフッ素系共重合体組成物は、優れた耐衝撃性を示す。
【0058】
ある実施形態では、熱可塑性樹脂Aのせん断応力のフッ素系エラストマーBのせん断応力に対する比は、0.7より大きくてよい。あるいは、熱可塑性樹脂Aのせん断応力のフッ素系エラストマーBのせん断応力に対する比は、0.8、1.0、1.2、又は1.4よりも大きくてよい。あるいは、当該比率は、0.7~2.3、0.9~2.3、1.1~2.3、1.4~2.3、又は1.6~2.0であってよい。
【0059】
(フッ素系エラストマーBの調製)
フッ素系エラストマーBは、少なくとも1の単量体(MB1)と、場合によっては単量体(MB2)及び単量体(MB3)の片方又は両方とを共重合させることにより製造することができる。
【0060】
重合法は、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、バルク重合法等であってよい。水性媒体及び乳化剤の存在下で単量体を重合する乳化重合法では、フッ素系共重合体又は共重合体組成物の数平均分子量を調整することが容易であり、生産性にも優れるため、通常利用される。
【0061】
当該乳化重合法では、水性媒体、乳化剤及びラジカル重合開始剤の存在下で、上記単量体を含む単量体成分を重合(乳化重合)する工程(乳化重合工程)を経て、エラストマーのラテックスを得ることができる。なお、乳化重合工程では、pH調整剤を添加してよい。
(その他の成分)
フッ素系共重合体組成物は、熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーB及びいかなる他の成分を含んでよい。
【0062】
他の成分は、充填剤、可塑剤、難燃剤等の添加剤であってよい。
【0063】
当該添加剤は、1つを単独で用いてよく、又は、2又はそれ以上を組み合わせて用いてよい。
【0064】
フッ素系共重合体組成物に他の成分が含まれる場合、当該他の成分の体積の合計は、通常、フッ素系共重合体組成物の体積のせいぜい50%である。あるいは、他の成分の体積の合計は、1~40体積%又は3~30体積%であってよい。
【0065】
他の成分としてのフィラーは、無機フィラー等であってよい。
【0066】
当該無機フィラーは、CaCO3、SiO2、TiO2、BaSO4、ZnO、Al(OH)3、Mg(OH)2、タルク、マイカ、カーボンブラック、ホワイトカーボン、クレイ、カーボンナノチューブ、ガラス繊維、炭素繊維等であってよい。
【0067】
カーボンブラックは、フッ素ゴムのフィラーとして用いられるのであれば、特に制限なく用いられる。その具体例としては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、グラファイト等が挙げられる。他の成分がカーボンブラックを含む場合、通常、カーボンブラックはファーネスブラックである。ファーネスブラックとしては、HAF-LSカーボン、HAFカーボン、HAF-HSカーボン、FEFカーボン、GPFカーボン、APFカーボン、SRF-LMカーボン、SRF-HMカーボン、MTカーボン等が挙げられ、中でも、通常、MTカーボンが利用される。
【0068】
フッ素系共重合体組成物がカーボンブラックを含有する場合、カーボンブラックの含有量は、フッ素系エラストマーB100質量部を基準として、通常1~50質量部、又は3~20質量部であり、カーボンブラックの含有量が1質量部以上であると、必須ではないものの、フッ素系共重合体組成物を架橋して得られる架橋物は、カーボンブラックの配合による補強効果により、強度に優れる。さらに、カーボンブラックの含有量が最大で50質量部であると、架橋物の伸びも優れる。このように、カーボンブラックの含有量が1~50質量部であると、架橋物の強度と伸びのバランスが良好となる。
【0069】
フッ素系共重合体組成物がカーボンブラック以外のフィラーを含む場合、その含有量は、フッ素系エラストマーB100質量部を基準として、通常、5~200質量部、又は10~100質量部である。
【0070】
充填剤としては、少なくとも1つを単独で用いてよく、カーボンブラックと他の充填剤とを併用してよい。成形品がカーボンブラックと他のフィラーとを含む場合、その含有量は、フッ素系エラストマーB100質量部を基準として、通常、1~100質量部、又は3~50質量部である。
【0071】
他の成分としての可塑剤や難燃剤は特に限定されず、公知の可塑剤や難燃剤を採用しうる。当該可塑剤としては、フタル酸エステル、アジピン酸エステル等を用いることができる。当該難燃剤としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、三酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、五酸化アンチモン、ホスファゼン化合物、リン酸エステル、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、メラムメレム、赤リン、モリブデン化合物、ボレート化合物、PTFE等を用いることができ;かつ、三酸化アンチモン;リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸トリキシレニル、リン酸クレシルフェニル、リン酸2-エチルヘキシルジフェニル等の芳香族リン酸エステル;樹脂中にフィブリル構造を形成する滴下防止剤であるPTFE;が好ましい。
【0072】
〔フッ素系共重合体組成物の製造方法〕
本開示はまた、フッ素系共重合体組成物を製造する方法を提供する。
この方法としては、熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBとを溶融混練する工程(以下、「溶融混練工程」という)があげられる。
【0073】
フッ素系共重合体組成物に他の成分を配合する場合、熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBを溶融混練する工程で他の成分を添加してよく、又は熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBを溶融混練した後に他の成分を添加してよい。
【0074】
当該溶融混練工程では、熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBの体積比(A:B)が99:1~55:45になるように調整して溶融混練を行う。この体積比(A:B)は、あるいは、95:5~57:43、95:5~60:40、93:7~60:40、または90:10~65:35であってよい。
【0075】
体積比(A:B)が99:1~55:45の範囲にある場合、通常、溶融混練時に得られるストランドには視覚的な粗さが見られず、その結果、溶融混練して得られるペレットは溶融成形性に優れる。
【0076】
さらに、熱可塑性樹脂Aが上記体積範囲で含有されている場合、耐熱性や機械的特性が優れる。また、フッ素系エラストマーBが上記体積範囲内に含まれている場合、柔軟性に優れ、また、成形品の表面の荒れの発生を抑制しうる。
【0077】
溶融混練工程で用いる装置としては、溶融混練機能を備える公知の装置を用いうる。例えば、混練効果の高いスクリューを備えた単軸押出機や二軸押出機などを用いうる。また、一例として、ラボプラストミルミキサー(株式会社東洋精機製作所製)を用いてよい。
【0078】
熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBを溶融混練機能がある装置に供給する方法としては、熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーBを予め混合し、得られた混合物を溶融混練機能がある装置に供給してよく、又は熱可塑性樹脂Aとフッ素系エラストマーBを別個に溶融混練機能がある装置に供給してよい。
【0079】
さらに、フッ素系共重合体組成物に、場合によっては、他の成分を配合する場合、そのような他の成分を熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーBの一方と予め混合し、その混合物を溶融混練機能がある装置に供給してよい。
あるいは、そのような他の成分を熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーBとは別に装置に供給してよい。さらに、上記のように、熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーBを溶融混練した後に、当該他の成分を添加してよい。
【0080】
溶融混練工程における混練温度は、熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーBの種類に応じて選択しうる。通常、混練温度は、220~480℃、280~450℃、290~420℃、又は300~400℃である。
【0081】
溶融混練工程における押出せん断速度は、上記溶融混練工程における混練温度で溶融混練される成分の溶融粘度に基づいて選択される。通常、溶融混練工程における押出せん断速度は、3~2,500/秒、10~2,000/秒、又は15~1,500/秒である。
【0082】
溶融混練工程において、溶融混練される対象物の溶融混練機能を有する装置内での滞留時間は、通常、10~290秒、20~240秒、又は30~210秒である。
【0083】
本発明のフッ素系重合体組成物の製造方法において、溶融混練工程は、フッ素系エラストマーBが、分散平均粒子径が0.1~50μmの粒子として熱可塑性樹脂A中に分散するように行われる。
【0084】
溶融混練工程における混練温度、押出せん断速度、装置内の滞留時間を適当に調整して、フッ素系エラストマーBを熱可塑性樹脂Aに分散させ、分散平均粒子径を0.1~50μmにしうる。
【0085】
さらに、溶融混練工程は、通常、実質的に架橋剤または架橋助剤の非存在下で実施される。「実質的に架橋剤又は架橋助剤の非存在下で実施される」とは、フッ素系共重合体組成物中のフッ素系エラストマーBを実質的に架橋させずに、溶融混練を行うことを意味する。フッ素系共重合体組成物中のフッ素系エラストマーBが実質的に架橋されているか否かは、フッ素系共重合体組成物の曲げ弾性率の値で確認することができる。フッ素系エラストマーBが実質的に架橋されていると、フッ素系弾性共重合体の柔軟性が失われ、それによってフッ素系共重合体組成物の曲げ弾性率が3,700MPaを超えることになる。
【0086】
架橋剤及び架橋助剤の実質的な非存在下で溶融混練工程を行うことにより、フッ素系共重合体組成物におけるフッ素系エラストマーBの柔軟性を確実にし、フッ素系共重合体組成物の耐衝撃性を向上させうる。
【0087】
以上のように、熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーB、並びに含まれる場合には他の成分を溶融混練することにより、熱可塑性樹脂A及びフッ素系エラストマーBを含むフッ素系共重合体組成物が得られ、得られたフッ素系共重合体組成物は溶融成形が可能であり、溶融成形により成形品とすることができる。
【0088】
本開示のフッ素系共重合体組成物は、粉末状にしてコーティング材として用いうる。コーティングされた物品としての用途は、その全体が参照により本明細書に援用される特許文献1に記載されてよい。
【0089】
本開示のフッ素系共重合体組成物は、繊維補強化成形品の添加剤として、または本開示のプリプレグのマトリクス樹脂として有用である。
【0090】
〔成形品〕
本開示の成形品は、フッ素系共重合体組成物を含む成形材料を成形して得られる成形品である。
【0091】
本開示のフッ素系共重合体組成物以外の成形材料に含有させる成分として、ポリマーフィラーを用いてよい。
【0092】
当該ポリマーフィラーとして、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアリレート、ポリカプロラクトン、フェノキシ樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブタジエン、ブタジエン-スチレン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、アクリルゴム、スチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-フェニルマレイミド共重合体等を用いてよい。
【0093】
本開示のフッ素系共重合体組成物を含む成形材料を成形する方法は、通常の成形方法である限り特に限定されず、例えば、射出成形、押出成形、共押出成形、ブロー成形、圧縮成形、インフレーション成形、トランスファー成形、カレンダー成形等があげられる。当該フッ素系共重合体組成物は、通常、溶融成形性に優れて、したがって、成形品は、通常、射出成形により形成された射出成形品である。
【0094】
当該フッ素系共重合体組成物の溶融成形に用いる溶融成形装置は、溶融成形に一般的に用いられているものであればよく、例えば、ホットプレスデュプレックス「Model.SA-301(溶融熱プレス機、テスター産業株式会社製)」を用いうる。
【0095】
成形品の製造は、当該フッ素系重合体組成物の製造に引き続き連続して行ってよい。
【0096】
当該成形品は、様々な用途で用いうる。具体例としては、特に限定されないが、摺動部材、シール材、ギア、アクチュエータ、ピストン、ベアリング、ハウジング、航空機内装材、燃料管、ブッシュ、チューブ、ホース、タンク、シール、ワイヤ、ケーブル、フィルム、シート、ボトル、繊維等であってよい。
チューブ、ホース、タンク、シールまたはワイヤとしては、特許文献1に記載のものを用いうる。さらに、チューブやホースは、石油、天然ガス、シェールオイル等のエネルギー資源を掘削するチューブであってよい。電線、ケーブル等の電線被覆材は、通常、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)の駆動モータに用いられる電線やモータコイル用の平角銅線の絶縁被覆として用いられ、その場合、絶縁被覆は、通常、フィルムによってなされる。また、石油、天然ガス、シェールオイル等のエネルギー資源を掘削するダウンホールケーブルへの応用も考えられる。さらに、スピーカーの振動板、外傷や骨折用の板、モータの絶縁紙等の各種電気絶縁性粘着テープの絶縁紙、石油や天然ガスの配管に用いられるシールテープ等の用途がある。
【0097】
本開示の成形品の形状は特に限定されず、特許文献1に記載されるような形状、用途、ライザーパイプとして用いてよい。
【0098】
当該フッ素系共重合体組成物から作製される本開示の成形品は、熱可塑性耐熱性樹脂が本来有する優れた耐熱性や機械的特性は損なわれず、耐衝撃性が向上し、成形性に優れる。これらの特性により、本成形品は、住宅や航空機の内装等の高機能用途に有用である。
【0099】
フィルムの溶融押出し成形方法は特に限定されない。フラットダイ法やインフレーション法等を用いうる。フラットダイ法では、ダイ内のチョークバーやリップを調整することで、溶融樹脂の流量や製品の厚みを精密に制御しうる。さらに、インフレーション法では、円形のダイから押出成形品に空気を導入して膨らませてフィルムを得ることで、フィルムの厚さを均一に制御することが可能である。
【0100】
上記成形時のシリンダ温度は、通常300~420℃、又は330~370℃である。さらに、ダイの温度は、好ましくは350~420℃、より好ましくは350~380℃である。この範囲では、金型との摩擦応力が低減されるため表面平滑性に優れると同時に、成形時の熱履歴による樹脂の分解が抑制され、膜の表面平滑性に優れる。
【0101】
フィルム成形中の押出せん断速度は、通常3~2,500/秒、10~/秒、又は10~100/秒である。装置での滞留時間は、通常、10~1000秒、又は60~500秒である。
【0102】
〔プリプレグ〕
本開示のプリプレグは、マトリクス樹脂及び補強用繊維を含む。特に、これは、補強用繊維に含浸されたマトリクス樹脂を備えるシート状材料であり、当該マトリクス樹脂(すなわち、フッ素系重合体組成物)に埋め込まれた補強用繊維を備えるシート状材料といってよい。
【0103】
(補強用繊維)
補強用繊維としては、当該繊維補強化成形品の機械的特性の観点から、長さが少なくとも10mmの連続長繊維が一般的に用いられる。補強用繊維シートの縦方向の全長にわたって、又は幅方向の全幅方向にわたって補強用繊維を連続させなくてよく、中央で分割してよい。
【0104】
当該補強用繊維の加工形態としては、当該繊維補強化成形品の機械的特性の観点から、シート状に加工されたもの(以下、「補強用繊維シート」という。)が典型的である。当該補強用繊維シートは、複数の補強用繊維から構成される補強用繊維束、当該補強用繊維束で織った布、一方向に整列した複数の補強用繊維を備える一方向性補強用繊維束、当該一方向性繊維束から構成される一方向性布、それらの組み合わせ、複数の補強用繊維束を積層したもの等から構成される補強用繊維束であってよい。
【0105】
当該補強用繊維は、無機繊維、金属繊維、有機繊維等であってよい。
【0106】
無機繊維は、炭素繊維、グラファイト繊維、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、窒化ケイ素繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、ホウ素繊維等であってよい。
【0107】
金属繊維は、アルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス鋼繊維等であってよい。
【0108】
有機繊維は、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾール繊維(PBO)、ポリフェニレンスルファイド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維等である。
【0109】
補強用繊維は、表面処理が施されてよい。
【0110】
補強用繊維としては、1つのタイプを単独で用いるか、又は、2若しくはそれ以上のタイプを組み合わせて用いてよい。
【0111】
ある実施形態では、当該補強用繊維は、比重が比較的低く、かつ強度及び弾性率が比較的高い炭素繊維である。
【0112】
[繊維補強化成形品]
本開示の繊維補強化成形品は、本開示のプリプレグを用いる。
【0113】
繊維補強化成形品は、本開示のプリプレグのみを用いて形成されるか、又は本開示のプリプレグと本開示のプリプレグ以外のプリプレグとを用いて形成された積層体、若しくは本開示のプリプレグと、必要に応じて、他のプリプレグと、プリプレグ以外の部材とを用いて形成された積層体であってよい。
【0114】
他のプリプレグは、マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂Aを含み、かつフッ素系エラストマーBを含まないプリプレグ、又はマトリクス樹脂がフッ素系エラストマーBを含み、かつ熱可塑性樹脂Aを含まないプリプレグ、であってよい。
【0115】
プリプレグ以外の部材としては、金属部材、熱可塑性樹脂Aを含有する樹脂フィルム、フッ素系エラストマーBを含有する樹脂フィルム等であってよい。
【0116】
金属部材は、金属箔、種々の金属部品等であってよい。金属としては、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、黄銅、ニッケル、亜鉛等を用いてよい。金属部材の形状は、特に限定されないが、得られる繊維補強化成形品に応じて適宜選択されてよい。本開示の繊維補強化成形品は、本開示のプリプレグを用いた通常のホットプレス成形処理により形成することができる。
【0117】
本開示の繊維補強化成形品は、特許文献1に開示されているもの、スマートフォン用ハウジング、電力線用の芯材、ガソリン等の水素又は燃料油を貯蔵する圧力容器、トンネル又は道路用の修理又は補強シート、航空機部材、風車用のブレード、自動車用の外板、電子装置用ハウジング、トレイ又はシャーシ、スポーツ用品(テニスラケット、バット、ゴルフクラブシャフト、釣り棒、自転車フレーム、リム、ホイール、クランク等)として用いてよい。
【0118】
さらに、成形された製品は、他の材料と積層又は部分的に複合されて用いてよい。そのような他の材料として、金属(鉄、銅、ステンレス鋼等)、ガラス、プラスチック、ゴム等が用いられてよい。
【0119】
プラスチックの形態の他の材料のある例は、例えば、液晶ポリマー、ポリアリールケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリアセタール、ポリウレタン等の特許文献1に記載されているものであってよい。ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/66共重合体、ポリアミド6/66/610共重合体、ポリアミドMXD6、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド6/6T共重合体等である。
【実施例】
【0120】
試料及び比較試料は、二軸スクリュー押出機を用いて調製した。試料1~12の組成物を表1に示し、二軸スクリュー押出機のプロセスパラメータを表3に示す。比較例A及びBの組成物を表2に、二軸スクリュー押出機のプロセスパラメータを表4に示す。比較実施例Bは、一般に、国際公開第2017/188280号に記載された実施例1~4に対応することに留意されたい。
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
【表4】
フッ素系エラストマー(F-1)は、テトラフルオロエチレン-プロピレン共重合体(旭硝子(株)製、製品名「AFLAS 150FC」)である。
【0125】
熱可塑性樹脂(PEEK 1)は、商品名Vestakeakee 5000Gのポリエーテルエーテルケトンである。
【0126】
熱可塑性樹脂(PEEK 2)は、商品名ビクトレックス(Victrex)PEEK 150Pのポリエーテルエーテルケトンである。
【0127】
熱可塑性樹脂(PEEK 3)は、商品名Ketaspire KT-820NTのポリエーテルエーテルケトンである。
【0128】
熱可塑性樹脂(PEEK 4)は、商品名ビクトレックスPEE450Gのポリエーテルエーテルケトンである。
【0129】
他の試料情報と性能データを表5~7に示す。
【0130】
【0131】
【0132】
【表7】
質量比、粘度比、せん断応力、平均分散粒子サイズ、及びせん断応力の比は、全て、上記で広範囲にわたり記載したように計算されることが理解されるべきである。Izod衝撃強度は、ASTM D 256-10試験方法Aにより、70°±5°F、50%±10% R.H.で、以下の条件:A40+時間、70°±5°f、50%±10% R.H.、端半径が0.010”の45°の角度であるノッチを用いて測定された。テストバーの成形方法は、射出成形温度プロファイル(F)、NOZ=707-734、バレル680-716、及びツール390を用いた。蒸気浸漬は、蒸気を用いて260℃で21日間行った。ディーゼル燃料の浸漬は、CAS No.68476-34-6に規定される質量比100%のディーゼル燃料No.2を用いて、150℃で21日間行った。
【0133】
上記のように、表5及び6では、試料1、7、8、10及び11の衝撃強度は各々、比較試料A及びBを大幅に上回った。特に、試料1~12の熱可塑性樹脂のせん断応力は0.11MPaより大きかった。一方、比較試料A及びBの熱可塑性樹脂のせん断応力は0.11MPa以下であった。
【0134】
開示全体を通しての前記実施形態の全ての組み合わせは、たとえそのような開示が上記の単一の段落又は項目で逐語的に記載されなくても、1又はそれ以上の非限定的な実施形態において明確に意図される。換言すれば、明確に企図される実施形態は、本開示のいかなる部分から選択され、組み合わされた、上記のいかなる1又はそれ以上の要素を含んでよい。
【0135】
上記の1又はそれ以上の値は、分散が開示の範囲内である限り、±5%、±10%、±15%、±20%、±25%等で変化しうる。予期せぬ結果は、他のメンバーからは独立している、マーカッシュグループの各メンバーから得られる可能性がある。各部材は、個々に、又は組み合わせて依拠されてよく、添付の請求項内の特定の実施形態を適当に支持する。独立クレーム及び従属クレームの全ての組み合わせの主題事項は、単独及び多重従属ともに、本明細書で明示的に企図される。本開示は、限定ではなく説明の言葉を含む例示である。上記の教示に照らせば、本開示の多くの修正及び変形が可能であり、本開示は、本明細書に具体的に記載されている以外の方法で実施することができる。
【0136】
また、本開示の様々な実施形態を説明する場合に依拠されるいかなる範囲及び亜範囲も、独立してかつ集合的に、添付の請求項に含まれ、そのような値が本明細書に明示的に書かれていなくても、その中の全体及び/又は分数値を含む全ての範囲を説明し、考慮することが理解されるべきである。当業者は、列挙された範囲及び亜範囲が、本開示の種々の実施形態を十分に説明し、かつ可能にすることを容易に認識し、関連するそのような範囲及び亜範囲の半分、3分の1、4分の1、5分の1等にさらに説明することができる。一例として、「0.1~0.9」の範囲は、さらに、下位1/3、すなわち0.1~0.3、中央1/3、すなわち0.4~0.6、及び上位1/3、すなわち0.7~0.9に概略されてよく、これらは、個別に及び集合的に、添付の請求項内にあり、個別に及び/又は集合的に依拠し、添付の請求項の特定の実施形態を適当に支持しうる。さらに、「少なくとも」、「より大きい」、「より小さい」、「より小さい」、「より小さい」等の範囲を定義し、又は修正する用語に関して、当該用語は、亜範囲及び/又は上限若しくは下限を含むことが理解されるべきである。他の例として、「少なくとも10」の範囲は、本質的に、少なくとも10~35の亜範囲、少なくとも10~25の亜範囲、25~35の亜範囲等を含み、各亜範囲は、個別及び/又は集合的に依存し、添付の請求項内の特定の実施形態を適当にサポートしうる。最後に、開示された範囲内の個々の番号は、添付の請求項の特定の実施形態に依拠し、適当に支持しうる。例えば、「1~9の範囲」には、3のような様々な整数や、4.1のような小数点(または分数)を含む個々の数字が含まれ、これらは添付の請求項の範囲内で特定の実施形態に依拠し、適当に支持しうる。