(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコールフィルム及びそれを用いた偏光フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20231225BHJP
C08K 5/06 20060101ALI20231225BHJP
C08K 5/521 20060101ALI20231225BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20231225BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231225BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
C08L29/04 A
C08K5/06
C08K5/521
C08K5/20
C08J5/18 CEX
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2021526866
(86)(22)【出願日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 JP2020023913
(87)【国際公開番号】W WO2020256052
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019114947
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鷹取 洋平
(72)【発明者】
【氏名】中井 慎二
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090691(JP,A)
【文献】特開2011-144221(JP,A)
【文献】特開2004-263157(JP,A)
【文献】国際公開第2019/124310(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 5/18
G02B 5/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール(A)、ノニオン型界面活性剤(B)、及び下記式(I)又は(II)から選択される少なくとも一種の界面活性剤(C)を含有するポリビニルアルコールフィルムであって、
前記界面活性剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.04~0.4質量部であり、前記界面活性剤(C)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して
0.06~0.2質量部であるポリビニルアルコールフィルム。
【化1】
[式(I)中、R
1は炭素数
10~14のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n)が
4~7であり、Mはアルカリ金属またはアミンである。]
【化2】
[式(II)中、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、炭素数
10~14のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n+m)が
4~7であり、Mはアルカリ金属またはアミンである。]
【請求項2】
前記界面活性剤(B)が下記式(b1)で表される2級アミド型の脂肪族アルカノールアミドである、請求項1に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【化3】
[式(b1)中、R
4は炭素数8~18のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n)が2~10である。]
【請求項3】
前記界面活性剤(B)と前記界面活性剤(C)との質量比率(B:C)が1:0.1~1:10である、請求項1又は2に記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項4】
フィルムの幅が1.5m以上である、請求項1~3のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項5】
フィルムの長さが3000m以上である、請求項1~4のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項6】
フィルムの厚みが10~70μmである、請求項1~5のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のポリビニルアルコールフィルムを染色する工程及び延伸する工程を有する偏光フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール(A)、ノニオン型界面活性剤(B)、及び特定の式で表される界面活性剤(C)を含有するポリビニルアルコールフィルム及びそれを用いた偏光フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記することがある)フィルムは、透明性、光学特性、機械的強度、水溶性などに関するユニークな性質を利用して様々な用途に使用されている。特に、その優れた光学特性を利用して、液晶ディスプレイ(LCD)の基本的な構成要素である偏光板を構成する偏光フィルムの製造原料(原反フィルム)としてPVAフィルムが使用されており、その用途が拡大している。LCD用偏光板には高い光学性能が求められ、その構成要素である偏光フィルムに対しても高い光学性能が要求される。
【0003】
偏光板は、一般的に、原反のPVAフィルムに染色、一軸延伸、および必要に応じてホウ素化合物等による固定処理等を施して偏光フィルムを製造した後、当該偏光フィルムの表面に三酢酸セルロース(TAC)フィルムなどの保護膜を貼り合わせることによって製造される。そして、原反のPVAフィルムは、一般的に、キャスト製膜法等のPVAを含む製膜原液を乾燥させる方法によって製造される。
【0004】
特許文献1には、PVA樹脂、硫酸エステル塩型アニオン系界面活性剤(a)としてドデシル硫酸ナトリウム、エーテル型ノニオン系界面活性剤(b)としてポリオキシエチレンドデシルエーテル、及び含窒素型ノニオン系界面活性剤(c)としてラウリン酸ジエタノールアミドを含むPVAフィルムが記載されている。これによれば、光学的スジや光学的色ムラ等のない優れた光学特性を有し、かつ耐ブロッキング性に優れた効果を発揮できるとされている。
【0005】
特許文献2には、PVA樹脂、エーテル型ノニオン系界面活性剤(a)としてポリオキシエチレンドデシルエーテル、及び二種類の含窒素型ノニオン系界面活性剤(b)としてポリオキシエチレンドデシルアミンとラウリン酸ジエタノールアミドを含有するPVAフィルムが記載されている。これによれば、光学的スジ等のない優れた光学特性を有し、かつ耐ブロッキング性に優れた効果を発揮できるとされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2で得られるPVAフィルムでは、活性剤凝集物が形成され、Hazeが悪化することになり、改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-206809号公報
【文献】特開2005-206810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、活性剤凝集物数及び光学欠陥が少なく、Hazeの値が低く、かつ剥離性に優れたPVAフィルム、及びそれを用いた偏光フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、ポリビニルアルコール(A)、ノニオン型界面活性剤(B)、及び下記式(I)又は(II)から選択される少なくとも一種の界面活性剤(C)を含有するポリビニルアルコールフィルムであって、前記界面活性剤(B)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.04~0.4質量部であり、前記界面活性剤(C)の含有量が、ポリビニルアルコール(A)100質量部に対して0.04~0.4質量部であるポリビニルアルコールフィルムを提供することによって解決される。
【0010】
【化1】
[式(I)中、R
1は炭素数8~15のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n)が3~8であり、Mはアルカリ金属またはアミンである。]
【0011】
【化2】
[式(II)中、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、炭素数8~15のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n+m)が3~8であり、Mはアルカリ金属またはアミンである。]
【0012】
このとき、前記界面活性剤(B)が下記式(b1)で表される2級アミド型の脂肪族アルカノールアミドであることが好ましい。
【化3】
[式(b1)中、R
4は炭素数8~18のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n)が2~10である。]
【0013】
このとき、前記界面活性剤(B)と前記界面活性剤(C)との質量比率(B:C)が1:0.1~1:10であることが好ましい。
【0014】
また、フィルムの幅が1.5m以上であることが好ましい。フィルムの長さが3000m以上であることも好ましい。フィルムの厚みが10~70μmであることも好ましい。
【0015】
上記課題は、上記ポリビニルアルコールフィルムを染色する工程及び延伸する工程を有する偏光フィルムの製造方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のPVAフィルムは、活性剤凝集物数及び光学欠陥が少なく、Hazeの値が低く、かつ剥離性に優れている。したがって、当該PVAフィルムを原反として用いることによって、光学性能が良好な偏光フィルムが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のPVAフィルムは、ポリビニルアルコール(A)(以下、PVA(A)と略記することがある)、ノニオン型界面活性剤(B)、及び下記式(I)又は(II)から選択される少なくとも一種の界面活性剤(C)(以下、界面活性剤(C)と略記することがある)を含有する。
【0018】
【化4】
[式(I)中、R
1は炭素数8~15のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n)が3~8であり、Mはアルカリ金属またはアミンである。]
【0019】
【化5】
[式(II)中、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、炭素数8~15のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n+m)が3~8であり、Mはアルカリ金属またはアミンである。]
【0020】
本発明のPVAフィルムにおいては、PVA(A)に対してノニオン型界面活性剤(B)と、上記式(I)又は(II)から選択される少なくとも一種の界面活性剤(C)を所定の含有量で併用することが重要である。本発明者らは、PVA(A)に対してノニオン型界面活性剤(B)を単独で使用した場合、得られるPVAフィルムにおいて、活性剤凝集物の個数が多く、Hazeの値が高く、光学欠陥が発生することを確認している。また本発明者らは、PVA(A)に対して界面活性剤(C)を単独で使用した場合、得られるPVAフィルムにおいて、光学欠陥が発生することを確認している。
【0021】
本発明では、PVA(A)に対してノニオン型界面活性剤(B)と、上記式(I)又は(II)から選択される少なくとも一種の界面活性剤(C)を所定の含有量で併用することによって、活性剤凝集物数及び光学欠陥が少なく、Hazeの値が低く、かつ剥離性に優れたPVAフィルムを得ることができる。したがって、ノニオン型界面活性剤(B)とともに界面活性剤(C)を所定の含有量で併用することが重要であることが分かる。
【0022】
[PVA(A)]
PVA(A)としては、ビニルエステルを重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造されたものを使用することができる。ビニルエステルとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができる。これらは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよいが前者が好ましい。入手性、コスト、PVA(A)の生産性などの観点からビニルエステルとして酢酸ビニルが好ましい。
【0023】
ビニルエステルと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数3~30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。これらの他のモノマーは1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でも、他のモノマーとして、エチレンおよび炭素数3~30のオレフィンが好ましく、エチレンがより好ましい。
【0024】
前記ビニルエステル系重合体に占める上記他のモノマーに由来する構造単位の割合に特に制限はないが、ビニルエステル系重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0025】
PVA(A)の重合度に必ずしも制限はないが、重合度が下がるにつれてフィルム強度が低下する傾向があることから200以上であることが好ましく、より好適には300以上、更に好適には400以上、特に好適には500以上である。また、重合度が高すぎるとPVA(A)の水溶液あるいは溶融したPVA(A)の粘度が高くなり、製膜が難しくなる傾向があることから、10,000以下であることが好ましく、より好適には9,000以下、更に好適には8,000以下、特に好適には7,000以下である。ここでPVA(A)の重合度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定される平均重合度を意味し、PVA(A)を再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から次式により求められる。
重合度 = ([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0026】
PVA(A)のけん化度に特に制限はなく、例えば60モル%以上のPVA(A)を使用することができるが、偏光フィルム等の光学フィルム製造用の原反フィルムとして使用する観点から、PVA(A)のけん化度は95モル%以上であることが好ましく、98モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上であることが更に好ましい。ここでPVA(A)のけん化度とは、PVA(A)が有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル系モノマー単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)を意味する。PVA(A)のけん化度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定することができる。
【0027】
PVA(A)は、1種のPVAを単独で用いてもよいし、重合度、けん化度、変性度などが異なる2種以上のPVAを併用してもよい。但し、PVAフィルムが、カルボキシル基、スルホン酸基等の酸性官能基を有するPVA;酸無水物基を有するPVA;アミノ基等の塩基性官能基を有するPVA;これらの中和物など、架橋反応を促進させる官能基を有するPVAを含有すると、PVA分子間の架橋反応によって当該PVAフィルムの二次加工性が低下することがある。したがって、光学フィルム製造用の原反フィルムのように、優れた二次加工性が求められる場合においては、PVA(A)における、酸性官能基を有するPVA、酸無水物基を有するPVA、塩基性官能基を有するPVAおよびこれらの中和物の含有量はそれぞれ0.1質量%以下であることが好ましく、いずれも含有しないことがより好ましい。
【0028】
前記PVAフィルムにおけるPVA(A)の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることが更に好ましい。
【0029】
[ノニオン型界面活性剤(B)]
本発明で用いられるノニオン型界面活性剤(B)の種類は特に限定されず、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等の脂肪族アルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが挙げられる。これらの中でも、脂肪族アルカノールアミド型、アルキルエーテル型、又はアルキルアミン型が好適であり、脂肪族アルカノールアミド型、又はアルキルエーテル型がより好適であり、脂肪族アルカノールアミド型がさらに好適である。脂肪族アルカノールアミド型としては、3級アミド型の脂肪族アルカノールアミド及び2級アミド型の脂肪族アルカノールアミドが挙げられる。活性剤凝集物の個数が少なく、Hazeの値が低くなる観点から、下記式(b1)で表される2級アミド型の脂肪族アルカノールアミドが好適に用いられる。
【0030】
【化6】
[式(b1)中、R
4は炭素数8~18のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n)が2~10である。]
【0031】
上記式(b1)中、R4は炭素数8~18のアルキル基である。前記アルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖であることが好ましい。R4の炭素数(アルキル鎖長)が8未満の場合、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生する。R4の炭素数は9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。一方、R4の炭素数が18を超える場合、PVAフィルム中の活性剤凝集物数が多くなる、Hazeの値が高くなる、という問題が発生する。R4の炭素数は15以下であることが好ましく、13以下であることがより好ましい。
【0032】
上記式(b1)中、ポリオキシエチレン鎖数(n)は2~10である。ポリオキシエチレン鎖数(n)が2未満の場合、PVAフィルム中の活性剤凝集物数が多くなる、Hazeの値が高くなる、という問題が発生する。ポリオキシエチレン鎖数(n)は4以上であることが好ましい。一方、ポリオキシエチレン鎖数(n)が10を超える場合、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生する。ポリオキシエチレン鎖数(n)は、8以下であることが好ましい。
【0033】
上記3級アミド型の脂肪族アルカノールアミドの種類は特に限定されないが、下記式(b2)で示される化合物が好適に用いられる。
【0034】
【化7】
[式(b2)中、R
5は炭素数8~18のアルキル基である。]
【0035】
上記式(b2)中、R5は炭素数8~18のアルキル基である。前記アルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖であることが好ましい。R5の炭素数(アルキル鎖長)が8未満の場合、PVAに光学欠陥が多数発生する。R5の炭素数は9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。一方、R5の炭素数が18を超える場合、PVAフィルムにおいて活性剤凝集物数が多くなる、Hazeの値が高くなる、という問題が発生する。R5の炭素数は15以下であることが好ましく、13以下であることがより好ましい。
【0036】
上記アルキルエーテル型のノニオン系界面活性剤の種類は特に限定されないが、下記式(b3)で示される化合物が好適に用いられる。
【0037】
【化8】
[式(b3)中、R
6は炭素数8~18のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n)は2~10である。]
【0038】
上記式(b3)中、R6は炭素数8~18のアルキル基である。前記アルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖であることが好ましい。R6の炭素数(アルキル鎖長)が8未満の場合、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生する。R6の炭素数は9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。一方、R6の炭素数が18を超える場合、PVAフィルムにおいて活性剤凝集物数が多くなる、Hazeの値が高くなる、という問題が発生する。R6の炭素数は15以下であることが好ましく、13以下であることがより好ましい。
【0039】
上記式(b3)中、ポリオキシエチレン鎖数(n)は2~10である。ポリオキシエチレン鎖数(n)が2未満の場合、PVAフィルムにおいて活性剤凝集物数が多くなる、Hazeの値が高くなる、という問題が発生する。ポリオキシエチレン鎖数(n)は4以上であることが好ましい。一方、ポリオキシエチレン鎖数(n)が10を超える場合、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生する。ポリオキシエチレン鎖数(n)は、8以下であることが好ましい。
【0040】
上記アルキルアミン型のノニオン系界面活性剤の種類は特に限定されないが、下記式(b4)で示される化合物が好適に用いられる。
【0041】
【化9】
[式(b4)中、R
7は炭素数9~16のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(m+n)が14~22である。]
【0042】
上記式(b4)中、R7は炭素数9~16のアルキル基である。前記アルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖であることが好ましい。R7の炭素数(アルキル鎖長)が9未満の場合、PVAフィルムに光学欠陥が多数発生する。R7の炭素数は9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。一方、R7の炭素数が16を超える場合、PVAフィルムにおいて活性剤凝集物数が多くなる、Hazeの値が高くなる、という問題が発生する。R7の炭素数は15以下であることが好ましく、13以下であることがより好ましい。
【0043】
上記式(b4)中、ポリオキシエチレン鎖数(m+n)は14~22である。ポリオキシエチレン鎖数(m+n)が14未満の場合、PVAフィルムにおいて活性剤凝集物数が多くなり、Hazeの値が高くなる。ポリオキシエチレン鎖数(m+n)は15以上であることが好ましい。一方、ポリオキシエチレン鎖数(m+n)が22を超える場合、分子サイズが大きいため、キャストドラムとの界面に配向する活性剤量が少なくなり、剥離性が悪くなる。ポリオキシエチレン鎖数(m+n)は、21以下であることが好ましい。
【0044】
ノニオン系界面活性剤(B)の含有量は、PVA(A)100質量部に対して0.04~0.4質量部である。界面活性剤(B)の含有量が0.04質量部未満の場合、PVAフィルムに光学欠陥が発生する。界面活性剤(B)の含有量は0.08質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましい。一方、界面活性剤(B)の含有量が0.4質量部を超える場合、PVAフィルムにおいて活性剤凝集物数が多くなる、Hazeの値が高くなる、光学欠陥が発生する、という問題が発生する。界面活性剤(B)の含有量は0.35質量部以下であることが好ましく、0.30質量部以下であることがより好ましい。ノニオン系界面活性剤(B)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
[界面活性剤(C)]
本発明においては、界面活性剤(C)が下記式(I)又は(II)から選択される少なくとも一種であることが重要である。
【0046】
【化10】
[式(I)中、R
1は炭素数8~15のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n)が3~8であり、Mはアルカリ金属またはアミンである。]
【0047】
【化11】
[式(II)中、R
2及びR
3は、それぞれ独立して、炭素数8~15のアルキル基であり、ポリオキシエチレン鎖数(n+m)が3~8であり、Mはアルカリ金属またはアミンである。]
【0048】
上記式(I)及び(II)中、R1、R2及びR3は、それぞれ独立して、炭素数8~15のアルキル基である。前記アルキル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよいが、直鎖であることが好ましい。R1、R2及びR3の炭素数(アルキル鎖長)が8未満の場合、PVAフィルムにおいて活性剤凝集物数が多くなる、Hazeの値が高くなる、剥離性が悪化する、光学欠陥が発生するという問題が発生する。R1、R2及びR3の炭素数は9以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。一方、R1、R2及びR3の炭素数が15を超える場合、PVAフィルムにおいて活性剤凝集物の個数が多くなる、Hazeの値が高くなる、光学欠陥が発生するという問題が発生する。R1、R2及びR3の炭素数は14以下であることが好ましい。
【0049】
上記式(I)又は(II)中、ポリオキシエチレン鎖数(nまたはn+m)は3~8である。ポリオキシエチレン鎖数(nまたはn+m)が3未満の場合、PVAフィルムにおいて活性剤凝集物の個数が多くなる、Hazeの値が高くなる、光学欠陥が発生する、という問題が発生する。ポリオキシエチレン鎖数(nまたはn+m)は4以上であることが好ましい。一方、ポリオキシエチレン鎖数(nまたはn+m)が8を超える場合、PVAフィルムにおいて活性剤凝集物の個数が多くなる、Hazeの値が高くなる、光学欠陥が発生するという問題が発生する。ポリオキシエチレン鎖数(nまたはn+m)は7以下であることが好ましい。
【0050】
上記式(I)及び(II)中、Mはアルカリ金属またはアミンである。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム及びセシウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ナトリウム及びカリウムからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。またアミンとしては、アンモニア、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ジエタノールアミンであることがより好ましい。
【0051】
上記式(I)又は(II)から選択される少なくとも一種の界面活性剤(C)の含有量は、PVA(A)100質量部に対して0.04~0.4質量部である。界面活性剤(C)の含有量が0.04質量部未満の場合、PVAフィルムにおいて活性剤凝集物が多数発生する、Hazeの値が高くなる、光学欠陥が発生する、という問題が発生する。界面活性剤(C)の含有量は0.06質量部以上であることが好ましい。一方、界面活性剤(C)の含有量が0.4質量部を超える場合、PVAフィルムに光学欠陥が発生するという問題が発生する。界面活性剤(C)の含有量は、0.2質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましい。本発明で用いられる界面活性剤(C)は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
本発明において、ノニオン型界面活性剤(B)と界面活性剤(C)との質量比率(B:C)が1:0.1~1:10であることが好ましい。含有質量比率(B:C)が、1:0.1未満の場合、活性剤凝集物が多数発生する、Hazeの値が高くなる、という問題が発生するおそれがある。含有質量比率(B:C)は、1:0.2以上であることがより好ましい。一方、含有質量比率(B:C)が、1:10を超える場合、光学欠陥が発生する、という問題が発生するおそれがある。含有質量比率(B:C)は、1:8以下であることがより好ましく、1:5以下であることがさらに好ましく、1:3以下であることが特に好ましい。
【0053】
本発明において、ノニオン型界面活性剤(B)と界面活性剤(C)の合計含有量(B+C)が、PVA(A)100質量部に対して、0.08~0.5質量部であることが好ましい。合計含有量(B+C)が0.08質量部未満の場合、表面張力を低減させる能力が不十分であり工程通過性が悪くなるとともに、PVAフィルムに光学欠陥が発生するおそれがある。合計含有量(B+C)は、0.1質量部以上であることがより好ましい。一方、合計含有量(B+C)が0.5質量部を超える場合、PVAフィルムの活性剤凝集物の個数が多くなる、Hazeの値が高くなる、という問題が発生するおそれがある。合計含有量(B+C)は、0.45質量部以下であることがより好ましい。
【0054】
[PVAフィルム]
PVAフィルムに柔軟性を付与させることができる観点から、本発明のPVAフィルムは可塑剤を含有することが好ましい。好ましい可塑剤としては多価アルコールが挙げられ、具体的には、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン等を挙げることができる。これらは1種の可塑剤のみを用いてもよいし、2種以上の可塑剤を併用してもよい。中でも、PVA(A)との相溶性や入手性などの観点から、エチレングリコールまたはグリセリンが好ましい。
【0055】
可塑剤の含有量は、PVA(A)100質量部に対して1~30質量部の範囲内であることが好ましい。可塑剤の含有量が1質量部以上であると衝撃強度などの機械的物性や二次加工時の工程通過性に問題が生じ難い。一方、可塑剤の含有量が30質量部以下であるとフィルムが適度に柔軟になり、取り扱い性が向上する。
【0056】
前記樹脂組成物は、PVA、界面活性剤および可塑剤以外の他の成分を、必要に応じて更に含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤、充填剤(無機物粒子・デンプン等)、防腐剤、防黴剤、上記した成分以外の他の高分子化合物などが挙げられる。前記樹脂組成物中の他の成分の含有量は10質量%以下が好ましい。
【0057】
本発明のPVAフィルムの幅に特に制限はないが、近年幅広の偏光フィルムが求められていることから、当該幅は1.5m以上であることが好ましく、3m以上であることがより好ましく、4.5m以上であることが更に好ましく、5.0m以上であることが特に好ましく、5.5m以上であることが最も好ましい。一方、PVAフィルムの幅があまりに広すぎると、PVAフィルムを製膜するための製膜装置の製造費用が増加したり、更には、実用化されている製造装置で光学フィルムを製造する場合において均一に延伸することが困難になったりすることがあることから、PVAフィルムの幅は7.5m以下であることが好ましく、7.0m以下であることがより好ましく、6.5m以下であることが更に好ましい。
【0058】
本発明のPVAフィルムの形状は特に制限されないが、より均一なPVAフィルムを連続して円滑に製造することができる点や、光学フィルム等を製造する際に連続して使用する点などから、長尺のフィルムであることが好ましい。長尺のフィルムの長さ(流れ方向の長さ)は特に制限されず、適宜設定することができる。フィルムの長さは、3000m以上であることが好ましい。一方、フィルムの長さは、30000m以下であることが好ましい。長尺のフィルムはコアに巻き取るなどしてフィルムロールとすることが好ましい。
【0059】
本発明のPVAフィルムの厚みは特に制限されず、適宜設定することができる。偏光フィルム等の光学フィルム製造用の原反フィルムとして使用する観点から、フィルムの厚みは、10~70μmであることが好ましい。なお、PVAフィルムの厚みは、任意の10ヶ所において測定された値の平均値として求めることができる。
【0060】
本発明のPVAフィルムのHaze及び活性剤凝集個数は、下記の実施例に記載の方法により測定される。かかるHazeの値は、0.4未満であることが好ましく、0.3未満であることがより好ましく、0.2未満であることがさらに好ましい。また、かかる活性剤凝集の個数は、10個未満であることが好ましく、5未満であることがより好ましく、3未満であることがさらに好ましく、1未満であることが特に好ましい。
【0061】
本発明のPVAフィルムの製造方法に特に制限はなく、例えば、PVA(A)、ノニオン型界面活性剤(B)、及び界面活性剤(C)、液体媒体、および必要に応じて更に上記した可塑剤やその他の成分を含有する製膜原液を用いて、流延製膜法や溶融押出製膜法など公知の方法により製造することができる。なお、製膜原液は、PVA(A)が液体媒体に溶解してなるものであってもよいし、PVA(A)が溶融したものであってもよい。
【0062】
製膜原液における上記液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、環境に与える負荷が小さいことや回収性の点から水が好ましい。
【0063】
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の製膜原液中における含有割合)は製膜方法、製膜条件等によっても異なるが、50~90質量%の範囲内であることが好ましく、55~80質量%の範囲内であることがより好ましい。製膜原液の揮発分率が50質量%以上であることにより、製膜原液の粘度が高くなりすぎず製膜が容易になる。一方、製膜原液の揮発分率が90質量%以下であることにより、製膜原液の粘度が低くなりすぎず得られるPVAフィルムの厚み均一性が向上する。
【0064】
上記の製膜原液を用いて、流延製膜法や溶融押出製膜法によって本発明のPVAフィルムを製造する際の具体的な製造方法に特に制限はなく、例えば、当該製膜原液をドラムやベルト等の支持体上に膜状に流延または吐出し、当該支持体上で乾燥させることにより得ることができる。得られたフィルムに対し、必要に応じて、乾燥ロールや熱風乾燥装置により更に乾燥したり、熱処理装置により熱処理を施したり、調湿装置により調湿したりしてもよい。製造されたPVAフィルムは、コアに巻き取るなどしてフィルムロールとすることが好ましい。また、製造されたPVAフィルムの幅方向の両端部を切り取ってもよい。
【0065】
本発明のPVAフィルムは、偏光フィルム、位相差フィルム、特殊集光フィルム等を製造するための原反フィルムとして好適に使用することができる。本発明により、光透過率が高くて品質が高いPVAフィルムを得ることができる。したがって、光学用PVAフィルムであることが本発明の好適な実施態様である。
【0066】
前記PVAフィルムを染色する工程と延伸する工程とを有する偏光フィルムの製造方法が本発明の好適な実施態様である。当該製造方法が更に固定処理工程、乾燥処理工程、熱処理工程等を有していてもよい。染色と延伸の順序は特に限定されず、延伸処理の前に染色処理を行ってもよいし、延伸処理と同時に染色処理を行ってもよいし、または延伸処理の後に染色処理を行ってもよい。また、延伸、染色などの工程は複数回繰り返してもよい。特に延伸を2段以上に分けると均一な延伸を行いやすくなるため好ましい。
【0067】
PVAフィルムの染色に用いる染料としては、ヨウ素または二色性有機染料(例えば、DirectBlack 17、19、154;DirectBrown 44、106、195、210、223;DirectRed 2、23、28、31、37、39、79、81、240、242、247;DirectBlue 1、15、22、78、90、98、151、168、202、236、249、270;DirectViolet 9、12、51、98;DirectGreen 1、85;DirectYellow 8、12、44、86、87;DirectOrange 26、39、106、107などの二色性染料)などを使用することができる。これらの染料は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。染色は、通常、上記染料を含有する溶液中にPVAフィルムを浸漬することにより行うことができるが、その処理条件や処理方法は特に制限されるものではない。
【0068】
PVAフィルムを延伸する方法として、一軸延伸方法および二軸延伸方法が挙げられ、前者が好ましい。PVAフィルムを流れ方向(MD)等に延伸する一軸延伸は、湿式延伸法または乾熱延伸法のいずれで行ってもよいが、得られる偏光フィルムの性能および品質の安定性の観点から湿式延伸法が好ましい。湿式延伸法としては、PVAフィルムを、純水、添加剤や水溶性の有機溶媒等の各種成分を含む水溶液、または各種成分が分散した水分散液中で延伸する方法が挙げられる。湿式延伸法による一軸延伸方法の具体例としては、ホウ酸を含む温水中で一軸延伸する方法、前記染料を含有する溶液中や後述する固定処理浴中で一軸延伸する方法などが挙げられる。また、吸水後のPVAフィルムを用いて空気中で一軸延伸してもよいし、その他の方法で一軸延伸してもよい。
【0069】
一軸延伸する際の延伸温度は特に限定されないが、湿式延伸する場合は好ましくは20~90℃、より好ましくは25~70℃、更に好ましくは30~65℃の範囲内の温度が採用され、乾熱延伸する場合は好ましくは50~180℃の範囲内の温度が採用される。
【0070】
一軸延伸処理の延伸倍率(多段で一軸延伸を行う場合は合計の延伸倍率)は、偏光性能の点からフィルムが切断する直前までできるだけ延伸することが好ましく、具体的には4倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、5.5倍以上であることが更に好ましい。延伸倍率の上限はフィルムが破断しない限り特に制限はないが、均一な延伸を行うためには8.0倍以下であることが好ましい。
【0071】
偏光フィルムの製造にあたっては、一軸延伸されたPVAフィルムへの染料の吸着を強固にするために、固定処理を行うことが好ましい。固定処理としては、一般的なホウ酸および/またはホウ素化合物を添加した処理浴中にPVAフィルムを浸漬する方法等を採用することができる。その際に、必要に応じて処理浴中にヨウ素化合物を添加してもよい。
【0072】
一軸延伸処理、または一軸延伸処理と固定処理を行ったPVAフィルムを次いで乾燥処理や熱処理を行うことが好ましい。乾燥処理や熱処理の温度は30~150℃が好ましく、特に50~140℃であることが好ましい。温度が低すぎると、得られる偏光フィルムの寸法安定性が低下しやすくなる。一方、温度が高すぎると染料の分解などに伴う偏光性能の低下が発生しやすくなる。
【0073】
上記のようにして得られた偏光フィルムの両面または片面に、光学的に透明で、かつ機械的強度を有する保護膜を貼り合わせて偏光板にすることができる。その場合の保護膜としては、三酢酸セルロース(TAC)フィルム、酢酸・酪酸セルロース(CAB)フィルム、アクリル系フィルム、ポリエステル系フィルムなどが使用される。また、保護膜を貼り合わせるための接着剤としては、PVA系接着剤やウレタン系接着剤などが一般に使用されており、そのうちでもPVA系接着剤が好ましく用いられる。
【0074】
上記のようにして得られた偏光板は、アクリル系などの粘着剤を被覆した後、ガラス基板に貼り合わせて液晶ディスプレイ装置の部品として使用することができる。偏光板をガラス基板に貼り合わせる際に、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルムなどを同時に貼り合わせてもよい。
【実施例】
【0075】
以下に、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0076】
[Hazeの測定方法]
測定対象となるPVAフィルムロールの表層側から10mの領域を切り出し、幅方向に5cm、長さ方向に5cm、厚みが60μmの正方形のサンプルを切り出した。その後、スガ試験機株式会社製のヘーズメーター「HZ-1」を用い、ASTM D1003-61に従って全光線透過率Tt及び拡散透過率Tdを測定し、Hazeを下式より算出した。
Haze=Td/Tt×100
【0077】
[活性剤凝集物数の測定方法]
測定対象となるPVAフィルムロールの表層側から10mの領域を切り出し、幅方向に1.5cm、長さ方向に1.5cm、厚みが60μmの正方形のサンプルを切り出した。その後、微分干渉顕微鏡を用いて1000倍率にてフィルム厚み方向中心部の画像を撮影した。撮影した画像を「株式会社日本ローパー」社製画像解析ソフト「ImagePro」を用いて解析し、135μm×100μmの領域中の活性剤凝集物数を測定した。
【0078】
[剥離性の評価方法]
4000m以上の長尺フィルムの製膜において、キャストドラムから膜を剥離する際に問題なく剥離できたものをa、ドラムへの付着で剥離できなかったものをbとして評価した。
【0079】
[光学欠陥の評価方法]
切り出したPVAフィルムを暗室下で白色スクリーンと投影機の間に配置して、スクリーンに映る陰影を観察した。濃淡が見られず均一であればaとし、不連続な濃淡やスジ状の濃淡が確認できればbとした。なお、観察の際には、スクリーンと投影機との距離を360cmとし、スクリーンとPVAフィルムとの距離を10cmとした。
【0080】
実施例1
重合度2400、けん化度99.9モル%のPVAチップ100質量部を70℃の蒸留水2500質量部に24時間浸漬させた後、遠心脱水を行い、揮発分率70質量%のPVA含水チップを得た。当該PVA含水チップ333質量部(乾燥PVAは100質量部)に対して、グリセリン10質量部、ノニオン型界面活性剤(B)としてラウリン酸ジエタノールアミド0.27質量部、及び界面活性剤(C)としてポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸カリウム0.08質量部を混合した後、得られた混合物をベント付き二軸押出機で加熱溶融(最高温度130℃)して製膜原液とした。このとき用いた界面活性剤(C)は、上記式(I)におけるR1の炭素数(アルキル鎖長)が13であり、ポリオキシエチレン鎖数(n)が4であった。
【0081】
この製膜原液を熱交換器で100℃に冷却した後、180cm幅のコートハンガーダイから表面温度が90℃のドラム上に押出製膜して、さらに熱風乾燥装置を用いて乾燥し、次いで、製膜時のネックインにより厚くなったフィルムの両端部を切り取ることにより、膜厚60μm、幅165cmのPVAフィルムを連続的に製造した。当該PVAフィルムのうちの長さ4000m分を円筒状のコアに巻き取ってフィルムロールとした。得られたPVAフィルムについて上記した方法によりHaze、活性剤凝集物数、剥離性、光学欠陥を評価した。結果を表1に示す。
【0082】
実施例2~6、比較例1~10
ノニオン型界面活性剤(B)、及び界面活性剤(C)の種類・使用量を表1に示されるとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にして、PVAフィルムの製造および評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
ここで、実施例3で用いた界面活性剤(B)は、上記式(b1)におけるR4の炭素数(アルキル鎖長)が12であり、ポリオキシエチレン鎖数(n)が6の2級アミド型の脂肪族アルカノールアミドであった。実施例4で用いた界面活性剤(B)は、上記式(b3)におけるR6の炭素数(アルキル鎖長)が12であり、ポリオキシエチレン鎖数(n)は5であるアルキルエーテル型のノニオン系界面活性剤であった。実施例5で用いた界面活性剤(B)は、上記式(b4)におけるR7の炭素数(アルキル鎖長)が12であり、ポリオキシエチレン鎖数(m+n)が20のアルキルアミン型のノニオン系界面活性剤であった。実施例6で用いた界面活性剤(B)はラウリン酸ジエタノールアミドであり、活性剤(C)はジポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸カリウムである。
【0084】
【0085】
表1に示される通り、実施例1~6のPVAフィルムでは、Hazeが0.3以下と低く、活性剤凝集物数が0~3個であり、剥離性に優れ、光学欠陥も見られなかった。
【0086】
一方、界面活性剤(B)としてラウリン酸ジエタノールアミド、界面活性剤(C)としてアルキル鎖長が12、ポリオキシエチレン鎖数が3のポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを用いた比較例1では、活性剤凝集物数が多く、Haze値が良好でなかった。界面活性剤(B)としてラウリン酸ジエタノールアミド、界面活性剤(C)としてスチレンユニット数が2、ポリオキシエチレン鎖数が4のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸カリウムを用いた比較例2では、活性剤凝集物数が多く、Haze値が良好でなく、剥離性、光学欠陥の評価結果が良好ではなかった。界面活性剤(C)を用いない比較例3では、活性剤凝集数が多く、Hazeの値が良好ではなく、光学欠陥の評価結果も良好ではなかった。ノニオン型界面活性剤(B)を用いない比較例4では、光学欠陥の評価結果が良好ではなかった。ノニオン型界面活性剤(B)の含有量が0.4質量部を超える比較例5では、活性剤凝集数が多く、Hazeの値が良好ではなく、光学欠陥の評価結果も良好ではなかった。また、界面活性剤(C)の含有量が0.4質量部を超える比較例6では、光学欠陥の評価結果が良好ではなかった。ポリオキシエチレン鎖数(n)が3~8を満たさない界面活性剤(C)を用いた比較例7、8では活性剤凝集数が多く、Hazeの値が良好ではなく、光学欠陥の評価結果も良好ではなかった。アルキル鎖長が15を超える界面活性剤(C)を用いた比較例9では活性剤凝集数が多く、Hazeの値が良好ではなく、光学欠陥の評価結果も良好ではなかった。アルキル鎖長が8未満の界面活性剤(C)を用いた比較例10では活性剤凝集数が多く、Hazeの値が良好ではなく、剥離性及び光学欠陥の評価結果も良好ではなかった。