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特許7408783液晶ポリエステル繊維およびその製造方法
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  • 特許-液晶ポリエステル繊維およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/62 20060101AFI20231225BHJP
   C08G 63/00 20060101ALI20231225BHJP
   C08G 63/80 20060101ALI20231225BHJP
   D01F 6/84 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
D01F6/62 308
C08G63/00
C08G63/80
D01F6/84 303B
D01F6/84 311
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022514326
(86)(22)【出願日】2021-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2021006143
(87)【国際公開番号】W WO2021205757
(87)【国際公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2020070885
(32)【優先日】2020-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】池端 桂一
(72)【発明者】
【氏名】寺本 幸広
(72)【発明者】
【氏名】井出 潤也
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-176161(JP,A)
【文献】特開2018-188742(JP,A)
【文献】特開平03-260114(JP,A)
【文献】特開昭52-017595(JP,A)
【文献】特開昭61-287922(JP,A)
【文献】国際公開第2020/175216(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 6/96
D01F 9/00 - 9/04
C08G 63/00
C08G 63/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全カルボキシ末端量(全CEG量)が5.0meq/kg以下であり、強度が18cN/dtex以上であり、初期弾性率バラつきが3.0%以下である、液晶ポリエステル繊維。
【請求項2】
請求項1に記載の液晶ポリエステル繊維であって、初期弾性率が100~1000cN/dtexである、液晶ポリエステル繊維。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液晶ポリエステル繊維であって、4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位を50モル%以上有する液晶ポリエステルを含む、液晶ポリエステル繊維。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル繊維であって、カルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量が4.0meq/kg以下である、液晶ポリエステル繊維。
【請求項5】
全カルボキシ末端量(全CEG量)が5.0meq/kg以下であり、強度が18cN/dtex以上である、液晶ポリエステル繊維を製造する方法であって、
液晶ポリエステル繊維の紡糸原糸を80~220℃で予備加熱する工程と、
予備加熱工程後の前記紡糸原糸を230℃以上で固相重合する工程と、を少なくとも含み、
少なくとも前記固相重合工程において、前記紡糸原糸を伸長倍率1.000~1.200倍で搬送して熱処理を行う、液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法であって、前記紡糸原糸をロール・トゥ・ロール方式で搬送しながら前記予備加熱および前記固相重合を行う、液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の製造方法であって、固相重合前後の強度比が1.5倍以上である、液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項8】
請求項5~のいずれか一項に記載の製造方法であって、前記固相重合工程に供する紡糸原糸の水分率が200ppm以下である、液晶ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶ポリエステル繊維を少なくとも一部に含む繊維構造体。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、日本国で2020年4月10日に出願した特願2020-070885の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、液晶ポリエステル繊維およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、自転車、自動車、鉄道車両、航空機、風力発電機等、振動に晒される構造体の部材として、高い強度を有するとともに、金属線、ガラス繊維、炭素繊維等と比して優れた振動減衰性を有する、液晶ポリエステル繊維を強化繊維として用いた繊維強化複合プラスチックが報告されている。例えば、特許文献1(特開2016-125051号公報)には、少なくとも一方の最表面に、全芳香族ポリエステル繊維およびマトリックス樹脂を含有する層を配したシート状物であって、前記層はその全重量に対して0.1~80重量%の全芳香族ポリエステル繊維を含有し、前記全芳香族ポリエステル繊維の目付は20~4000g/m2であり、前記マトリックス樹脂はその全重量に対して85重量%以上の熱硬化性樹脂を含み、前記層の厚さは0.03~50mmである、シート状物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-125051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、シート状物を熱硬化性樹脂の軟化点以上であって硬化温度未満の温度で成形した後、前記硬化温度以上の温度で硬化させることにより振動減衰部材を製造している。このように加熱を含む工程により液晶ポリエステル繊維を用いた繊維強化複合プラスチックを製造する場合、特定の加熱温度以上では液晶ポリエステル繊維から生じた熱分解ガスによる気泡がプラスチック内に生じてしまう。そのため、得られる繊維強化複合プラスチックの力学特性等の物性や外観性を保つには、樹脂が比較的低温で処理できるものに限られ、例えばポリカーボネート樹脂のような成形に高温を要する樹脂と組み合わせられないという課題があった。
【0006】
本発明はこのような問題に基づきなされたものであり、繊維強化複合プラスチックの製造時において気泡が発生せず、品位の高い繊維強化複合プラスチックを得ることのできる液晶ポリエステル繊維およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、プラスチック内に生じる気泡は、液晶ポリエステル繊維からの熱分解ガスの発生が原因となっており、これは、液晶ポリエステル繊維を構成する液晶ポリエステルの分子末端にカルボキシ基が存在する場合に、そのカルボキシ基において脱炭酸反応が起こることが引き金となっていることを見出した。そして、ガス発生の要因となっている分子末端のカルボキシ基の量を減少させるために研究を重ねた結果、液晶ポリエステル繊維は、強度を向上させるために紡糸原糸に対して熱処理を施して固相重合を行う必要があるが、水分量が多い状態で固相重合が実効的に進行する温度に達すると、高分子鎖中のエステル結合において加水分解が起こり、末端のカルボキシ基の量が増えてしまうことを見出した。さらに、これらの知見を基に、水分量を調整した後に固相重合を行うことにより、末端のカルボキシ基の量の少ない液晶ポリエステル繊維を得ることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様で構成されうる。
〔態様1〕
全カルボキシ末端量(全CEG量)が5.0meq/kg以下(好ましくは4.5meq/kg以下、より好ましくは4.0meq/kg以下)であり、強度が18cN/dtex以上(好ましくは20cN/dtex以上、より好ましくは23cN/dtex以上)である、液晶ポリエステル繊維。
〔態様2〕
態様1に記載の液晶ポリエステル繊維であって、初期弾性率バラつきが3.0%以下(好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.0%以下)である、液晶ポリエステル繊維。
〔態様3〕
態様1または2に記載の液晶ポリエステル繊維であって、4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位を50モル%以上(好ましくは53モル%以上、より好ましくは60モル%以上)有する液晶ポリエステルを含む、液晶ポリエステル繊維。
〔態様4〕
態様1~3のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル繊維であって、カルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量が4.0meq/kg以下(好ましくは3.5meq/kg以下、より好ましくは3.0meq/kg以下)である、液晶ポリエステル繊維。
〔態様5〕
態様1~4のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル繊維を製造する方法であって、
液晶ポリエステル繊維の紡糸原糸を80~220℃(好ましくは85~210℃、より好ましくは90~205℃)で予備加熱する工程と、
予備加熱工程後の前記紡糸原糸を230℃以上(好ましくは240℃以上、より好ましくは250℃以上)で固相重合する工程と、を少なくとも含み、
少なくとも前記固相重合工程において、前記紡糸原糸を伸長倍率1.000~1.200倍(好ましくは1.001~1.150倍、より好ましくは1.002~1.100倍、さらに好ましくは1.003~1.050倍)で搬送して固相重合を行う、液晶ポリエステル繊維の製造方法。
〔態様6〕
態様5に記載の製造方法であって、前記紡糸原糸をロール・トゥ・ロール方式で搬送しながら前記予備加熱および前記固相重合を行う、液晶ポリエステル繊維の製造方法。
〔態様7〕
態様1に記載の液晶ポリエステル繊維を製造する方法であって、液晶ポリエステル繊維の紡糸原糸を230℃以上(好ましくは240℃以上、より好ましくは250℃以上)で固相重合する工程を含み、前記固相重合工程において、前記紡糸原糸をボビンに巻き付けた状態でバッチ式で熱処理を行い、前記固相重合工程に供する前記紡糸原糸は、熱処理温度が230℃に到達した時点での、熱処理中の糸から生じるガスに含まれる水分量が1分間・糸1kg当たり1g以下(好ましくは0.1g以下、より好ましくは0.01g以下)である、液晶ポリエステル繊維の製造方法。
〔態様8〕
態様5~7のいずれか一態様に記載の製造方法であって、固相重合工程前後の強度比が1.5倍以上(好ましくは1.8倍以上、より好ましくは2.0倍以上)である、液晶ポリエステル繊維の製造方法。
〔態様9〕
態様5~8のいずれか一態様に記載の製造方法であって、前記固相重合工程に供する紡糸原糸の水分率が200ppm以下(好ましくは180ppm以下、より好ましくは150ppm以下)である、液晶ポリエステル繊維の製造方法。
〔態様10〕
態様1~4のいずれか一態様に記載の液晶ポリエステル繊維を少なくとも一部に含む繊維構造体。
【0009】
なお、請求の範囲および/または明細書および/または図面に開示された少なくとも2つの構成要素のどのような組み合わせも、本発明に含まれる。特に、請求の範囲に記載された請求項の2つ以上のどのような組み合わせも本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液晶ポリエステル繊維によれば、加熱時にガスの発生を抑制することができ、気泡の少ない品質の良好な繊維強化複合プラスチックを製造することができる。
【0011】
また、本発明の製造方法によれば、全カルボキシ末端量(全CEG量)の少ない液晶ポリエステル繊維を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
この発明は、添付の図面を参考にした以下の好適な実施形態の説明から、より明瞭に理解されるであろう。しかしながら、実施形態および図面は単なる図示および説明のためのものであり、この発明の範囲を定めるために利用されるべきものではない。この発明の範囲は添付の請求の範囲によって定まる。
図1】実施例1の液晶ポリエステル繊維の製造における工程概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[液晶ポリエステル繊維]
本発明の液晶ポリエステル繊維は、液晶ポリエステルで構成される。液晶ポリエステルとしては、例えば芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等に由来する反復構成単位からなり、本発明の効果を損なわない限り、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位は、その化学的構成については特に限定されるものではない。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、液晶ポリエステルは、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸に由来する構成単位を含んでいてもよい。例えば、好ましい構成単位としては、表1に示す例が挙げられる。
【0014】
【表1】
【0015】
表1の構成単位において、mは0~2の整数であり、式中のYは、1~置換可能な最大数の範囲において、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの炭素数1から4のアルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)などが挙げられる。
【0016】
より好ましい構成単位としては、下記表2、表3および表4に示す例(1)~(18)に記載される構成単位が挙げられる。なお、式中の構成単位が、複数の構造を示しうる構成単位である場合、そのような構成単位を二種以上組み合わせて、ポリマーを構成する構成単位として使用してもよい。
【0017】
【表2】
【0018】
【表3】
【0019】
【表4】
【0020】
表2、表3および表4の構成単位において、nは1または2の整数で、それぞれの構成単位n=1、n=2は、単独でまたは組み合わせて存在してもよく、Y1およびY2は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基などの炭素数1から4のアルキル基など)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基など)、アリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基(フェニルメチル基)、フェネチル基(フェニルエチル基)など)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ基など)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基など)などであってもよい。これらのうち、水素原子、塩素原子、臭素原子、またはメチル基が好ましい。
【0021】
また、Zとしては、下記式で表される置換基が挙げられる。
【0022】
【化1】
【0023】
液晶ポリエステルは、好ましくは、ナフタレン骨格を構成単位として有する組み合わせであってもよい。ヒドロキシ安息香酸由来の構成単位(A)と、ヒドロキシナフトエ酸由来の構成単位(B)の両方を含むことが、特に好ましい。例えば、構成単位(A)としては下記式(A)が挙げられ、構成単位(B)としては下記式(B)が挙げられ、溶融成形性を向上する観点から、構成単位(A)と構成単位(B)の比率は、好ましくは9/1~1/1、より好ましくは7/1~1/1、さらに好ましくは5/1~1/1の範囲であってもよい。
【0024】
【化2】
【0025】
【化3】
【0026】
また、(A)の構成単位と(B)の構成単位の合計は、例えば、全構成単位に対して65モル%以上であってもよく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上であってもよい。ポリマー中、特に(B)の構成単位が4~45モル%である液晶ポリエステルが好ましい。
【0027】
また、液晶ポリエステルは、芳香族ヒドロキシカルボン酸として4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位を含み、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位および芳香族ジオールに由来する構成単位を含んでいてもよい。例えば、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位として下記式(C)および下記式(D)からなる群から選択される少なくとも1種を用いてもよく、芳香族ジオールに由来する構成単位として下記式(E)および下記式(F)からなる群から選択される少なくとも1種を用いてもよい。好ましくは、4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位(A)(上記式(A))と、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸に由来する構成単位(C)(下記式(C))と、イソフタル酸に由来する構成単位(D)(下記式(D))と、芳香族ジオールとして4,4'-ジヒドロキシビフェニルに由来する構成単位(E)(下記式(E))とを含む液晶ポリエステル、4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位(A)(上記式(A))と、芳香族ジカルボン酸としてテレフタル酸に由来する構成単位(C)(下記式(C))と、イソフタル酸に由来する構成単位(D)(下記式(D))と、芳香族ジオールとして4,4'-ジヒドロキシビフェニルに由来する構成単位(E)(下記式(E))と、ヒドロキノンに由来する構成単位(F)(下記式(F))とを含む液晶ポリエステル等であってもよい。
【0028】
【化4】
【0029】
【化5】
【0030】
【化6】
【0031】
【化7】
【0032】
液晶ポリエステルは、4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位を含んでいてもよく、好ましくは50モル%以上含んでいてもよく、より好ましくは53モル%以上、さらに好ましくは60モル%以上含んでいてもよい。液晶ポリエステル中の4-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位の含有量の上限は特に限定されないが、例えば、90モル%以下であってもよく、好ましくは88モル%以下、より好ましくは85モル%以下であってもよい。
【0033】
本発明で好適に用いられる液晶ポリエステルの融点(以下、Mp0と称することがある)は250~380℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは255~370℃、さらに好ましくは260~360℃、さらにより好ましくは260~330℃である。なお、ここでいう融点とは、JIS K 7121試験法に準拠し、示差走査熱量計(DSC;メトラー社製「TA3000」)で測定し、観察される主吸収ピーク温度である。具体的には、前記DSC装置に、サンプルを10~20mgをとりアルミ製パンへ封入した後、キャリヤーガスとして窒素を100mL/分流し、20℃/分で昇温したときの吸熱ピークを測定する。ポリマーの種類によってDSC測定において1st runで明確なピークが現れない場合は、予想される流れ温度よりも50℃高い温度まで50℃/分で昇温し、その温度で3分間完全に溶融した後、80℃/分の降温速度で50℃まで降温し、しかる後に20℃/分の昇温速度で吸熱ピークを測定するとよい。
【0034】
なお、上記液晶ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂等の熱可塑性ポリマーを添加してもよい。また酸化チタン、カオリン、シリカ、酸化バリウム等の無機物、カーボンブラック、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0035】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、液晶ポリエステルを50重量%以上含有していてもよく、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは95重量%以上、さらにより好ましくは99.9重量%以上含有していてもよい。
【0036】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、全カルボキシ末端量(全CEG量)が5.0meq/kg以下である。全カルボキシ末端量(全CEG量)は、後述の実施例に記載した方法により測定される値であり、繊維1kg中の主として液晶ポリエステル繊維を構成する分子中の分子末端に存在するカルボキシ基の量で構成される。例えば、液晶ポリエステル中の高分子末端に存在するカルボキシ基としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジカルボン酸などのカルボキシ基を有するモノマーに由来する構成単位が高分子末端を形成しており、そのような高分子末端に存在する構成単位において反応せずに残存しているカルボキシ基であってもよい。
【0037】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、加熱時のガス発生量を抑制する観点から、全CEG量が、好ましくは4.5meq/kg以下、より好ましくは4.0meq/kg以下であってもよい。全CEG量の下限は特に限定されないが、例えば、0.1meq/kg以上であってもよい。
【0038】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、加熱時のガス発生量を抑制する観点から、分子末端のカルボキシ基のうちカルボキシフェニル(-Ph-COOH(式中:Ph上に他の置換基があっても構わない))末端のカルボキシ基についてのCEG量が4.0meq/kg以下であってもよく、好ましくは3.5meq/kg以下、より好ましくは3.0meq/kg以下であってもよい。カルボキシフェニル末端のカルボキシ基は、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸等のカルボキシフェニル基を有するモノマー(任意で、カルボキシフェニル基のフェニルには、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基などの置換基を有していてもよい)に由来し、特に脱炭酸反応を引き起こしやすい化学構造であるため、カルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量を低減しているのが好ましい。カルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量の下限は特に限定されないが、例えば、0.1meq/kg以上であってもよい。
【0039】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、加熱時のガス発生量を抑制する観点から、全CEG量に対するカルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量の比率が90%以下であってもよく、好ましくは85%以下、より好ましくは80%以下であってもよい。全CEG量に対するカルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量の比率の下限は特に限定されないが、例えば、5%以上であってもよい。
【0040】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、強度が18cN/dtex以上である。また、液晶ポリエステル繊維を強化繊維として用いた繊維強化複合プラスチックの機械的強度を向上させる観点から、強度は、好ましくは20cN/dtex以上、より好ましくは23cN/dtex以上であってもよい。また、強度の上限値は特に限定されないが、例えば、35cN/dtex程度である。本発明において、液晶ポリエステル繊維の強度とは、引張強度をいい、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0041】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、繊維強化複合プラスチック全体としての力学物性を向上させる観点から、強度バラつきが3.0%以下であってもよく、好ましくは2.7%以下、より好ましくは2.3%以下であってもよい。また、強度バラつきの下限値は特に限定されないが、例えば、0.1%程度である。なお、強度バラつきは、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0042】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、寸法安定性向上の観点から、初期弾性率が100cN/dtex以上であってもよく、好ましくは300cN/dtex以上、より好ましくは500cN/dtex以上であってもよい。初期弾性率の上限値は特に限定されないが、例えば、1000cN/dtex程度である。なお、初期弾性率は、強度-伸び率曲線における伸び率0.25%と1.00%の2点を結ぶ直線の傾きを示し、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0043】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、繊維強化複合プラスチック全体としての力学物性を向上させる観点から、初期弾性率バラつきが3.0%以下であってもよく、好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.3%以下であってもよい。また、初期弾性率バラつきの下限値は特に限定されないが、例えば、0.1%程度である。このような初期弾性率バラつきは、後述の液晶ポリエステル繊維の製造方法において連続熱処理により達成することができる。なお、初期弾性率バラつきは、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0044】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、融点が290~400℃であってもよく、好ましくは300~380℃、より好ましくは305~350℃であってもよい。液晶ポリエステル繊維は固相重合によりその融点が紡糸原糸の融点(以下、Mpと称することがある)から上昇する。なお、液晶ポリエステル繊維の融点は、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0045】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、単繊維繊度を用途等により適宜調整することができ、例えば、単繊維繊度が0.5~50dtexであってもよく、好ましくは1.0~35dtex、より好ましくは1.0~15dtex、さらに好ましくは1.5~10dtexであってもよい。
【0046】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、モノフィラメントであってもよく、マルチフィラメントであってもよい。マルチフィラメントの場合、そのフィラメント本数は用途等により適宜調整することができ、例えば、フィラメント本数は5~5000本であってもよく、好ましくは10~4000本、より好ましくは30~3000本であってもよい。
【0047】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、総繊度を用途等により適宜調整することができ、例えば、総繊度が10~50000dtexであってもよく、好ましくは15~30000dtex、より好ましくは25~10000dtexであってもよい。
【0048】
[液晶ポリエステル繊維の製造方法]
本発明の発明者らは、全CEG量をあらかじめ調整した液晶ポリエステルを紡糸しても、上述のような液晶ポリエステル繊維を製造することができないことを見出した。紡糸原糸が水分を含む状態で固相重合を行うと、高分子鎖中のエステル結合において加水分解が起こり、その結果、末端のカルボキシ基の量が増えてしまう。そこで、本発明の製造方法では、紡糸原糸の状態で水分量を調整した後に固相重合を行うことにより、末端のカルボキシ基の量の少ない液晶ポリエステル繊維を得ている。
【0049】
すなわち、本発明の液晶ポリエステル繊維を製造する方法としては、紡糸原糸を230℃以上で固相重合する工程を少なくとも含み、後述するようにその固相重合工程前に紡糸原糸の水分量を調整する。固相重合工程における熱処理の方法は特に限定されず、例えば、搬送による連続熱処理であってもよく、バッチ式での熱処理であってもよい。繊維長手方向の物性のバラつきを抑制する観点からは、搬送による連続熱処理が好ましい。
【0050】
(搬送による連続熱処理)
搬送による連続熱処理の場合、本発明の液晶ポリエステル繊維の製造方法は、液晶ポリエステル繊維の紡糸原糸を80~220℃で予備加熱する工程と、
予備加熱工程後の前記紡糸原糸を230℃以上で固相重合する工程と、を少なくとも含んでいてもよく、
少なくとも前記固相重合工程において、前記紡糸原糸を伸長倍率1.000~1.200倍で搬送して熱処理を行ってもよい。
【0051】
搬送による連続熱処理において、固相重合工程前に紡糸原糸を特定条件の予備加熱工程に供することにより、紡糸原糸を乾燥させ、水分量を低減することができる。そのため、その後の固相重合工程で液晶ポリエステルの加水分解を抑制することができ、全CEG量が少なく、高強度の液晶ポリエステル繊維を得ることができる。
さらに、特定の伸長倍率で連続的に搬送しながら熱処理することにより、繊維長手方向にわたってより均一な環境で熱処理することができるため、繊維長手方向の力学物性のバラつきが低減された液晶ポリエステル繊維を得ることができる。
【0052】
液晶ポリエステル繊維の紡糸原糸は、その繊維化の方法は限定されないが、通常、溶融紡糸により得られる繊維を用いることができる。溶融紡糸は公知または慣用の方法により行うことができ、例えば、押出機において液晶ポリエステルで構成される紡糸原糸を得るための繊維形成樹脂を溶融させた後、所定の紡糸温度でノズルから吐出して、固化点以降でゴデットローラー等により巻き取ることで得ることができる。
【0053】
予備加熱工程では、紡糸原糸を80~220℃で予備加熱することにより紡糸原糸を乾燥させることができる。予備加熱の温度は、紡糸原糸中の水分を効率的に除去する観点から、好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上であってもよい。また、水分が多い状態で固相重合が実効的に進行する温度に達すると加水分解が生じてCEG量が増加してしまうため、好ましくは210℃以下、より好ましくは205℃以下であってもよい。加えて、予備加熱の温度は、紡糸原糸のフィラメント本数や単繊維繊度等に応じて水分を効率的に除去する観点から、上記温度の範囲内で段階的に高めながら予備加熱してもよい。
【0054】
また、予備加熱の時間は、紡糸原糸中の水分を効率的に除去する観点から、1分間以上であってもよい。予備加熱の時間とは、紡糸原糸の同一部分に予備加熱する時間をいい、好ましくは5分間以上、より好ましくは10分間以上であってもよい。予備加熱の時間の上限は特に限定されず、200分間以下であってもよいが、例えば、製造効率向上の観点からは、30分間以下であってもよい。
【0055】
予備加熱は、公知の方法を用いることができ、例えば、雰囲気加熱、接触加熱等の手段が挙げられる。雰囲気としては空気、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン)あるいはそれらを組み合わせた雰囲気等が好適に用いられる。また、水分除去の観点から、予備加熱を減圧下で行ってもよい。
【0056】
予備加熱を雰囲気下で実施する場合、露点の低い雰囲気を用いることによって、水分除去を効率的に行うことができる。露点は30℃以下であってもよく、好ましくは0℃以下、より好ましくは-30℃以下であってもよい。
【0057】
固相重合工程では、予備加熱工程後の紡糸原糸を230℃以上で熱処理することにより固相重合を行い、紡糸原糸の強度を向上させることができる。固相重合の温度は、効率的な強度向上の観点から、好ましくは240℃以上、より好ましくは250℃以上であってもよい。また、固相重合の温度は、融解を防ぐために固相重合工程に供する液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)の融点(Mp)未満であってもよく、例えば、230℃以上の範囲において、Mp-80℃以上Mp℃未満であってもよく、好ましくはMp-50℃以上Mp℃未満、より好ましくはMp-30℃以上Mp℃未満であってもよい。ただし、固相重合の進行と共に液晶ポリエステル繊維の融点は上昇するため、固相重合工程における最初の温度を液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)の融点(Mp)未満にすればよく、固相重合の温度を固相重合の進行状態に応じて段階的に高めることで、一定の温度で熱処理を行う場合に比し、固相重合工程に供する時点の融点を超えて高温で行うことができる。なお、固相重合の温度を時間に対し段階的にあるいは連続的に高めることは、融着を防ぐと共に固相重合の時間効率を高めることができる点で好ましい。
【0058】
搬送による連続熱処理における固相重合工程の時間は、強度向上および製造効率向上の観点から、5~1000分間であってもよく、好ましくは8~500分間、より好ましくは10~100分間、さらに好ましくは15~60分間であってもよい。また、固相重合は、上述の予備加熱と同様に公知の方法を用いることができる。
【0059】
搬送による連続熱処理での固相重合は、公知の方法を用いることができ、例えば、雰囲気加熱、接触加熱等の手段が挙げられる。雰囲気としては空気、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン)あるいはそれらを組み合わせた雰囲気等が好適に用いられる。また、固相重合を減圧下で行っても何等差し支えない。
【0060】
搬送による連続熱処理での固相重合を雰囲気下で実施する場合、露点の低い雰囲気を用いることによって、水分除去を効率的に行うことができる。露点は0℃以下であってもよく、好ましくは-20℃以下、より好ましくは-50℃以下であってもよい。
【0061】
搬送処理は、少なくとも固相重合工程で行っていればよく、所望により予備加熱工程で行ってもよい。予備加熱工程および固相重合工程で搬送処理を行う場合、各工程で別々に搬送処理が行われてもよい。例えば、予備加熱工程として搬送による予備加熱を行った後一旦繊維を巻き取り、その後別の搬送装置を用いて固相重合工程として搬送による熱処理を行ってもよい。または、予備加熱工程および固相重合工程の双方を同一の搬送装置を利用して行ってもよい。製造効率向上の観点から、予備加熱工程および固相重合工程の双方を同一の搬送装置を利用して行うのが好ましい。また、予備加熱工程および固相重合工程の双方を同一の搬送装置を利用して行う場合、予備加熱した後、予備加熱での温度から一旦下げた後に再度温度を上げて固相重合を行ってもよく、予備加熱での温度からそのまま固相重合工程での温度まで上げてもよいが、より水分量を低減した状態で固相重合を行う観点から、予備加熱での温度からそのまま固相重合工程での温度まで上げて行うのが好ましい。例えば、予備加熱の温度から固相重合の温度に段階的または連続的に上がるように、熱処理炉内の温度を制御することにより、予備加熱に引き続き固相重合を行ってもよい。
【0062】
固相重合工程における搬送方法は、接触搬送(例えば、コンベア方式、サポートロール方式、加熱されたローラー状での熱処理方式)、非接触搬送(ロール・トゥ・ロール方式)のいずれで行ってもよいが、接触による熱のムラを避け、より均一な環境での処理を行い、繊維長手方向の力学特性のバラつきを抑制する観点から、紡糸原糸をロール・トゥ・ロール方式で搬送しながら熱処理炉を用いて熱処理を行うことが好ましい。また、処理経路は一直線でなくてもよく、装置内に折り返しローラーやガイドを配置して、処理経路の長さ、角度、曲率等を適宜変更して熱処理を行ってもよい。また、予備加熱工程でも同様の方法を用いることができる。
【0063】
固相重合工程における搬送は、紡糸原糸を伸長倍率1.000~1.200倍で搬送してもよい。特定の伸長倍率で伸長して搬送することにより、マルチフィラメントの場合に単繊維同士が、繊維長手方向の全ての箇所において、弛みなく平行に引き揃えることができるため、繊維長手方向の力学特性のバラつきを抑制することができるとともに、伸長による強度の低下を抑制することができる。また、予備加熱工程でも同様に行ってもよい。
【0064】
伸長倍率とは、伸長前後で液晶ポリエステル繊維が何倍に伸びたかを表す数値である。伸長を速度差のついた2個のローラーで行う場合は、その速度比から算出する。ダンサーローラーの荷重による延伸等、速度比で表せない装置で伸長を行う場合は、伸長前後(熱処理前後)の繊維の総繊度比から算出する。伸長倍率は、伸長によって強度が大きく低下しない限りは範囲を限定されるものではないが、単繊維同士の引き揃えの観点から、好ましくは1.001~1.150倍であってもよく、より好ましくは1.002~1.100倍、さらに好ましくは1.003~1.050倍であってもよい。
【0065】
この伸長の方法としては、特定の伸長倍率を特に制限されるものではないが、例えば、ロール・トゥ・ロール方式で予備加熱および固相重合を行う際に、下流側の駆動ローラーの回転速度を上流側の搬送ローラーの回転速度より大きくする方法や、搬送途中にダンサーローラーを使用して一定の荷重を掛けながら熱処理を行う方法、加熱されたネルソンローラーを通過させる方法、糸をピン等で固定して搬送熱処理することにより、液晶ポリエステル繊維が繊維軸方向に対して負の熱膨張係数を有することを利用して伸長を行う方法等が挙げられる。
【0066】
なお、繊維を伸長させながら熱処理を行う技術として広く延伸技術が知られているが、この延伸技術は、分子配向性の低い繊維に適用して、糸の強度や弾性率を向上させるための技術であり、本発明の液晶ポリエステル繊維のように、既に高度に配向した高次構造を持つ繊維に適用することを想定した技術ではない。また、好適な処理条件も異なり、延伸技術ではできるだけ配向性を高めるために延伸倍率を1.5倍以上に設定することが多いが、本発明では単繊維同士が引き揃えられるだけの伸長がなされればよいため、伸長倍率は1.000~1.200倍の範囲が好適であり、これを超える倍率で処理を行うと、分子鎖の滑り等を経て高次構造に欠陥が発生し、強度の低下を招きやすい。以上のように、本発明の伸長技術は延伸技術とは異なる技術であるため、本発明では延伸倍率ではなく伸長倍率という用語を用いている。
【0067】
また、固相重合工程の際にかける張力は、固相重合工程に供する液晶ポリエステル繊維の総繊度等に応じて調整することができるが、糸道を安定させ、断糸を抑制する観点から、例えば、0.001~0.06cN/dtexであってもよく、好ましくは0.003~0.05cN/dtex、より好ましくは0.005~0.04cN/dtexであってもよい。また、予備加熱工程でも同様に行ってもよい。
【0068】
(バッチ式熱処理)
バッチ式での熱処理の場合、本発明の液晶ポリエステル繊維の製造方法は、液晶ポリエステル繊維の紡糸原糸を230℃以上で固相重合する工程を含み、
前記固相重合工程において、前記紡糸原糸をボビンに巻き付けた状態でバッチ式で熱処理を行い、前記固相重合工程に供する前記紡糸原糸は、熱処理温度が230℃に到達した時点での、熱処理中の糸から生じるガスに含まれる水分量が1分間・糸1kg当たり1g以下であってもよい。
【0069】
バッチ式での熱処理において、固相重合工程に供する紡糸原糸として特定の水分量に調整した紡糸原糸を用いることにより、固相重合工程で液晶ポリエステルの加水分解を抑制することができ、全CEG量が少なく、高強度の液晶ポリエステル繊維を得ることができる。
【0070】
固相重合工程に供する紡糸原糸は、好ましくは、熱処理温度が230℃に到達した時点での、熱処理中の糸から生じるガスに含まれる水分量が1分間・糸1kg当たり0.1g以下であってもよく、より好ましくは0.01g以下であってもよい。なお、水分量は、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0071】
熱処理温度が230℃に到達した時点での、熱処理中の糸から生じるガスに含まれる水分量を一定以下の水準に調整する方法としては、特定の方法に特に制限されるものではないが、密閉熱処理ではなく常に乾燥した気体を流し続ける方法や、糸乾燥用オーブンと水分除去設備とを備えた循環経路を用いて乾燥した気体を循環させる方法等を用いてもよい。また、一つのオーブンで糸の予備加熱と固相重合を連続的に行うことで、空気中の水分が繊維に付着することを防ぐことができる。このとき、予備加熱工程後に一旦糸温度を室温まで下げたのちに固相重合を行ってもよいし、熱効率の観点から、好ましくは予備加熱工程を終えた後に降温を行わず昇温して固相重合を行ってもよい。
【0072】
固相重合工程では、特定の水分量に調整した紡糸原糸を230℃以上で熱処理することにより固相重合を行い、全CEG量が増加することなく、紡糸原糸の強度を向上させることができる。固相重合の温度は、強度向上の観点から、好ましくは240℃以上、より好ましくは250℃以上であってもよい。また、固相重合の温度は、融解を防ぐために固相重合工程に供する液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)の融点(Mp)未満であってもよく、例えば、230℃以上の範囲において、Mp-80℃以上Mp℃未満であってもよく、好ましくはMp-50℃以上Mp℃未満、より好ましくはMp-30℃以上Mp℃未満であってもよい。ただし、固相重合の進行と共に液晶ポリエステル繊維の融点は上昇するため、固相重合工程における最初の温度を液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)の融点(Mp)未満にすればよく、固相重合の温度を固相重合の進行状態に応じて段階的に高めることで、一定の温度で熱処理を行う場合に比し、固相重合工程に供する時点の融点を超えて高温で行うことができる。なお、固相重合の温度を時間に対し段階的にあるいは連続的に高めることは、融着を防ぐと共に固相重合の時間効率を高めることができる点で好ましい。
【0073】
バッチ式での熱処理における固相重合工程の時間は、強度向上の観点から、2~30時間であってもよく、好ましくは3~24時間、より好ましくは5~20時間であってもよい。また、固相重合は、公知の方法を用いることができ、例えば、雰囲気加熱、接触加熱等の手段が挙げられる。雰囲気としては空気、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン)あるいはそれらを組み合わせた雰囲気等が好適に用いられる。また、固相重合を減圧下で行っても何等差し支えない。
【0074】
バッチ式での熱処理での固相重合を雰囲気下で実施する場合、露点の低い雰囲気を用いることによって、水分除去を効率的に行うことができる。露点は0℃以下であってもよく、好ましくは-20℃以下、より好ましくは-50℃以下であってもよい。
【0075】
バッチ式での熱処理では、例えば、ボビンにパッケージ状に巻き付けた状態で熱処理を行ってもよく、ボビンは固相重合の温度に耐える必要があり、アルミや真鍮、鉄、ステンレス等の金属製であることが好ましい。
【0076】
本発明の液晶ポリエステル繊維の製造方法では、連続熱処理およびバッチ式での熱処理のいずれにおいても、液晶ポリエステル繊維の固相重合工程前後の強度比が1.5倍以上であってもよく、好ましくは1.8倍以上、より好ましくは2.0倍以上であってもよい。液晶ポリエステル繊維の固相重合工程前後の強度比の上限は特に限定されないが、例えば、10倍以下であってもよい。ここで、固相重合工程前後の強度比とは、固相重合工程後の液晶ポリエステル繊維の引張強度を固相重合工程前の液晶ポリエステル繊維(紡糸原糸)の引張強度で除した値のことをいう。液晶ポリエステル繊維の紡糸原糸の強度は一般的に12cN/dtex以下であるため、固相重合工程前後の強度比が1.5倍以上となるよう適当な条件で固相重合を行うことで、液晶ポリエステル繊維の強度を向上させることができる。
【0077】
本発明の液晶ポリエステル繊維の製造方法では、連続熱処理およびバッチ式での熱処理のいずれにおいても、固相重合工程に供する糸(予備加熱工程後の糸)の水分率(以下、工程水分率と称する場合がある)が200ppm以下であってもよい。固相重合工程に供する糸として特定の工程水分率に調整した糸を用いることにより、固相重合工程で液晶ポリエステルの加水分解を抑制することができ、全CEG量が少なく、高強度の液晶ポリエステル繊維を得ることができる。固相重合工程に供する糸の工程水分率は、好ましくは180ppm以下、より好ましくは150ppm以下であってもよい。固相重合工程に供する糸の工程水分率の下限は特に限定されないが、例えば、1ppm以上であってもよい。なお、工程水分率は、後述の実施例に記載した方法により測定される値である。
【0078】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、それを少なくとも一部に含む繊維構造体に加工して各種用途に使用することができる。繊維構造体は、ステープルファイバー、ショートカットファイバー、フィラメントヤーン、紡績糸、紐状物、ロープなどのあらゆる一次元構造体として使用することができるし、また、液晶ポリエステル繊維を用いた不織布、織物、編物などの二次元構造体として使用することもできる。このような一次元構造体や二次元構造体は、公知の方法により液晶ポリエステル繊維を用いて製造することができる。
【0079】
繊維構造体は、液晶ポリエステル繊維単独で構成されてもよく、液晶ポリエステル繊維と他の繊維とを組み合わせてもよい。繊維構造体は、例えば、液晶ポリエステル繊維と他の繊維とを使用した複合繊維(例えば、液晶ポリエステル繊維と他の繊維とを混繊した混繊糸等)であってもよい。また、繊維構造体は、液晶ポリエステル繊維と他の繊維とを使用した複合布類(例えば、液晶ポリエステル繊維と他の繊維とを混繊した混繊不織布や混繊織編物、液晶ポリエステル繊維からなる布類と他の繊維からなる布類との積層物等)であってもよい。
【0080】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、一般に液晶ポリエステル繊維が使用される用途に使用することができるが、特に加熱時のガスの発生を抑制することができるため、繊維強化複合プラスチックの強化材料やマトリックス材料として好適に使用できる。
【実施例
【0081】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。なお、以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0082】
(総繊度、単繊維繊度)
JIS L 1013:2010 8.3.1 A法に基づき、株式会社大栄科学精器製作所製検尺器「Wrap Reel by Motor Driven」を用いて液晶ポリエステル繊維を100mカセ取りし、その重量(g)を100倍して1水準当たり2回の測定を行い、その平均値を、得られた液晶ポリエステル繊維の総繊度(dtex)とした。また、この値をフィラメント本数で除した商を単繊維繊度(dtex)とした。
【0083】
(融点)
JIS K 7121に準拠し、示差走査熱量計(DSC;メトラー社製、「TA3000」)を用いて測定し、観察される主吸収ピーク温度を融点とした。具体的には、前記DSC装置に、試料を10~20mgをとりアルミ製パンへ封入した後、キャリヤーガスとして窒素を100mL/分の流量で流し、25℃から20℃/分で昇温したときの吸熱ピークを測定した。
【0084】
(強度、強度バラつき)
切れ目なく連続した液晶ポリエステル繊維から、1mの測定用試料を50本採取した。これらの測定用試料は繊維全長を長手方向に50等分した点から各々±0.5%幅を持った範囲でそれぞれ採取した。
次に、JIS L 1013:2010 8.5.1を参考に、株式会社島津製作所製オートグラフ「AGS-100B」を用いて、試験長10cm、初荷重2.94mN/dtex、引張速度10cm/分の条件で引張試験を行い、50本の測定用試料それぞれにつき1回ずつ破断時の強度を測定し、計50回の測定の平均値(A1)を強度(cN/dtex)とした。
また、50回の測定結果における標準偏差(σ1)を、平均値(A1)で除した商に、100を掛けたものを強度バラつき(%)とした。
強度バラつき(%)=(σ1/A1)×100 (1)
【0085】
(初期弾性率、初期弾性率バラつき)
上記強度の測定と同じ条件で測定した結果において、強度-伸び率曲線における伸び率0.25%と1.00%の2点を結ぶ直線の傾きを算出し、計50回の測定の平均値(A2)を初期弾性率(cN/dtex)とした。
また、50回の測定結果における標準偏差(σ2)を、平均値(A2)で除した商に、100を掛けたものを初期弾性率バラつき(%)とした。
初期弾性率バラつき(%)=(σ2/A2)×100 (2)
【0086】
(工程水分率(固相重合工程に供する糸の水分率))
1検体につき0.2~0.5gの液晶ポリエステル繊維サンプルを用意した。水分率計(株式会社三菱アナリテック製、微量水分測定装置「CA-200」および水分気化装置「VA-200」)のサンプル用ボートに入れられる程度に液晶ポリエステル繊維サンプルを小さく束ね、サンプル用ボートにサンプルを入れ、水分率を測定した。サンプルが室温以上の温度環境下にあった場合は、測定作業中の水分の変動をなるべく小さくするため、サンプルを用意してから水分気化装置に入れるまでの時間は1分以内とした。
なお、予備加熱工程と固相重合工程を直結して行う場合、固相重合工程に相当するゾーンの加熱を取りやめて処理した液晶ポリエステル繊維、もしくは、予備加熱工程が完了した段階でオーブンの加熱や気流流通を止めて取り出した液晶ポリエステル繊維を、サンプルとして工程水分率を求めた。
【0087】
(熱処理中の糸から生じるガスに含まれる水分量)
熱処理チャンバーの気流出口側配管に気体採取用の側管を設け、そこからAリットルの気体を採取し、採取した気体中に含まれる水分量を水分率計(株式会社三菱アナリテック製、微量水分測定装置「CA-200」)を用いて測定し、その測定値をBグラムとした。熱処理が行われている液晶ポリエステル繊維(熱処理前の紡糸原糸)の重量をCキログラム、気流の流通速度をDリットル/分として、熱処理中の糸から生じるガスに含まれる1分間・糸1kg当たりの水分量W[g/(分・kg)]を以下の式より算出した。
W = (B×D)/(A×C) (3)
【0088】
(CEG量)
液晶ポリエステル樹脂または繊維試料をd90=100μm以下(d90:粒子径分布において累積容積が90%となる粒子径)になるまで凍結粉砕し、その粉砕試料に大過剰のn-プロピルアミンを加え、40℃で90分間加熱攪拌処理を行い、試料を分解した。この場合、高分子鎖の内部に存在したエステル結合はカルボン酸n-プロピルアミドとヒドロキシ基に分解され、高分子鎖の末端に存在したカルボキシ基(CEG)とヒドロキシ基はそのままカルボキシ基とヒドロキシ基から変化しないので、HPLC法により分解物を分離し、カルボキシ基を有する分解物のピーク面積を、それぞれの標品のHPLC分析により作成した検量線と比較することで各々のモノマー由来のカルボキシ末端量(meq/kg)を定量した。例えば、4-ヒドロキシ安息香酸や6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸といった一価のカルボン酸由来のCEG量は、そのまま4-ヒドロキシ安息香酸や6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸を定量することで求められ、テレフタル酸やイソフタル酸や2,6-ナフタレンジカルボン酸といった二価のカルボン酸由来のCEG量は、テレフタル酸モノn-プロピルアミドやイソフタル酸モノn-プロピルアミドや2,6-ナフタレンジカルボン酸モノn-プロピルアミドといった片方のカルボキシ基がアミド化した物質を定量することで求められる。
各試料が含む全てのカルボキシ末端量の合計を、その試料の全カルボキシ末端量(全CEG量)とした。また、各試料が含むカルボキシフェニルのカルボキシ末端(例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸等のカルボキシフェニル基を有するモノマー由来のカルボキシ末端)量の合計を、カルボキシフェニル末端のカルボキシ基についてのCEG量とした。
【0089】
(CO2ガス発生量)
液晶ポリエステル繊維を加熱した際のCO2ガス発生量を、熱分解GC-BID法にて評価した。具体的には、まず液晶ポリエステル繊維をd90=100μm以下になるまで凍結粉砕し分析用試料とした。これを試料導入部にパイロライザー、ガス検知器にBID(誘電体バリア放電イオン化検出器)を備えたGC(ガスクロマトグラフ)装置を用いて、300℃で10分間処理し生じたガスからCO2を分離検出し定量した。測定は同一試料に対して3回行い、平均値をその試料からのCO2ガス発生量(meq/kg)とした。
【0090】
(繊維強化複合プラスチックの外観評価)
まず液晶ポリエステル繊維を用いて、緯糸密度13本/2.5cm、経糸密度13本/2.5cmの平織物を作製した。この織物の目付は、180g/m2であり、厚さは0.29mmであった。この織物を一辺10cmの正方形に裁断し、その上下両面に、同じく一辺10cmの正方形に裁断したポリカーボネートフィルム(三菱ガス化学社製、「ユーピロン・フィルムFE-2000」、厚さ100μm)を1枚ずつ重ね合わせ、フィルムが完全に溶ける温度である280℃で3分間加熱し、3MPaの圧力を1分間かけた後、100℃以下まで冷却することで、外観評価用試料である液晶ポリエステル繊維強化複合ポリカーボネート樹脂を得た。なお、該複合体における繊維と樹脂の重量比率は3:4である。この外観評価用試料の中央、一辺6cmの正方形の領域の表裏をルーペで観察し、長径1mm以上の気泡の数をカウントした。
【0091】
[実施例1]
下記式で示した構成単位(A)と(B)が(A)/(B)=73/27(mol比)である液晶ポリエステル(α)(Mp0:281℃)を使用した。これを押出機にて溶融押し出しし、ギアポンプで計量しつつ紡糸頭にポリマーを供給した。このときの押出機出口から紡糸頭の温度は310℃とした。紡糸頭には孔径0.125mmφ、ランド長0.175mm、孔数300個の紡糸口金を備え、吐出量168g/分でポリマーを吐出し、巻き取り速度1000m/分でボビンに巻き取り紡糸原糸を得た。この際、紡糸口金直下に配置したオイリングガイドから、2重量%のドデシルリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、和光一級)水溶液を紡糸原糸に付与した。この水溶液の付与量は8.4g/分であり、紡糸原糸に対するドデシルリン酸ナトリウムの付着比率は計算上0.1重量%であった。
【0092】
【化8】
【0093】
次に、図1の工程概略図に示すように、この紡糸原糸9を巻出機1から巻き出し、第一ローラー2、熱処理炉3、第二ローラー4、巻取機5の順に装置を通して巻き取ることで、ロール・トゥ・ロール方式で搬送による連続熱処理を行い、本実施例の熱処理糸10を得た。ここで、熱処理炉3は、1本のセラミック管からなる炉管7と、その炉管7の内部を雰囲気加熱するためのヒーター部を有する制御部8とを有している。炉管7は、6つの加熱ゾーン6a~6fを有しており、各加熱ゾーン6a~6fは、制御部8により、別々の温度制御が可能であり、それらの経路長は同じ長さである。連続熱処理の条件を以下のように設定した。熱処理炉3の炉管7を通過する時間(熱処理炉3の炉管7を糸試料が通過する距離/第一ローラー2の搬送速度)が60分間になるように第一ローラー2の回転速度を設定した。また、伸長倍率(第二ローラー4の回転速度/第一ローラー2の回転速度)が1.005倍になるように第二ローラー4の回転速度を設定した。また、熱処理炉3内は、窒素雰囲気で、露点は-55℃であり、6つの加熱ゾーン6a~6fの温度は通過する順に200℃、260℃、260℃、260℃、290℃、290℃とした。ここで、予備加熱は加熱ゾーン6aにおいて200℃で10分間行われ、固相重合は加熱ゾーン6b~6fにおいて260℃~290℃で50分間行われた。なお、糸道の高さ等の調整のため、適宜、表面梨地処理のセラミックローラーやセラミックガイド(いずれも不図示)も用いた。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および予備加熱前強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0094】
[実施例2]
実施例1と同様にして得た紡糸原糸を用い、以下に述べるようにロール・トゥ・ロール方式で搬送による連続熱処理を2回行った。
1回目は、熱処理炉3の炉管7を通過する時間(熱処理炉3の炉管7を糸試料が通過する距離/第一ローラー2の搬送速度)が60分間になるように第一ローラー2の回転速度を設定した。また、伸長倍率(第二ローラー4の回転速度/第一ローラー2の回転速度)が1.005倍になるように第二ローラー4の回転速度を設定した。また、熱処理炉3内は、窒素雰囲気で、露点は-55℃であり、加熱ゾーン6aは200℃とし、他の加熱ゾーン6b~6fは加熱を行わなかった。
2回目は、1回目に巻取機5で採取した処理糸を再び巻出機1に配して、熱処理炉3の炉管7を通過する時間(熱処理炉3の炉管7を糸試料が通過する距離/第一ローラー2の搬送速度)が60分間になるように第一ローラー2の回転速度を設定した。また、伸長倍率(第二ローラー4の回転速度/第一ローラー2の回転速度)が1.005倍になるように第二ローラー4の回転速度を設定した。また、熱処理炉3内は、窒素雰囲気で、露点は-55℃であり、加熱ゾーン6aは加熱を行わず、加熱ゾーン6b~6fは通過する順に260℃、260℃、260℃、290℃、290℃とした。
ここで、予備加熱は1回目の連続熱処理において加熱ゾーン6aにおいて200℃で10分間行われ、固相重合は2回目の連続熱処理において加熱ゾーン6b~6fにおいて260℃~290℃で50分間行われた。なお、糸道の高さ等の調整のため、適宜、表面梨地処理のセラミックローラーやセラミックガイド(いずれも不図示)も用いた。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および予備加熱前強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0095】
[実施例3]
予備加熱温度を100℃とすることを目的に、熱処理炉3に於ける加熱ゾーン6aの温度を100℃にした以外は実施例1と同様にして熱処理糸を得た。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および予備加熱前強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0096】
[実施例4]
孔径0.100mmφ、ランド長0.140mm、孔数600個の紡糸口金を用いたこと以外は実施例1と同様にして紡糸原糸を得た。その後、実施例1と同様に予備加熱、固相重合を行い、熱処理糸を得た。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および予備加熱前強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0097】
[実施例5]
孔径0.150mmφ、ランド長0.210mm、孔数50個の紡糸口金を用いたこと以外は実施例1と同様にして紡糸原糸を得た。その後、実施例1と同様に予備加熱、固相重合を行い、熱処理糸を得た。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および予備加熱前強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0098】
[実施例6]
孔径0.125mmφ、ランド長0.175mm、孔数20個の紡糸口金を用いたこと、吐出量11.2g/分でポリマーを吐出したこと、およびオイリングガイドからのドデシルリン酸ナトリウム水溶液の付与量を0.56g/分にしたこと以外は実施例1と同様にして紡糸原糸を得た。その後、実施例1と同様に予備加熱、固相重合を行い、熱処理糸を得た。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および予備加熱前強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0099】
[実施例7]
実施例1で用いた紡糸頭および紡糸口金を4個同時に使用し、各々から吐出量168g/分で吐出したポリマーを、1糸条として重ねて巻き取り速度1000m/分でボビンに巻き取り紡糸原糸を得たこと以外は実施例1と同様にして紡糸原糸を得た。この際オイリングガイドからドデシルリン酸ナトリウム水溶液を付与する工程は、1糸条として重ねるより前段階でそれぞれ行い、各紡糸口金直下で実施例1と同様にして付与した。その後、実施例1と同様に予備加熱、固相重合を行い、熱処理糸を得た。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および予備加熱前強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0100】
[実施例8]
連続熱処理において、熱処理炉3の炉管7を通過する時間(熱処理炉3の炉管7を糸試料が通過する距離/第一ローラー2の搬送速度)が960分間になるように第一ローラー2の回転速度を設定し、また、伸長倍率(第二ローラー4の回転速度/第一ローラー2の回転速度)が1.005倍になるように第二ローラー4の回転速度を設定したこと以外は実施例1と同様にして熱処理糸を得た。ここで、予備加熱は加熱ゾーン6aにおいて200℃で160分間行われ、固相重合は加熱ゾーン6b~6fにおいて260℃~290℃で800分間行われた。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および予備加熱前強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0101】
[実施例9]
連続熱処理において、伸長倍率(第二ローラー4の回転速度/第一ローラー2の回転速度)が1.100倍になるように第二ローラー4の回転速度を設定したこと以外は実施例1と同様にして熱処理糸を得た。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および予備加熱前強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0102】
参考例10]
連続熱処理において、伸長倍率(第二ローラー4の回転速度/第一ローラー2の回転速度)が1.000倍になるように第二ローラー4の回転速度を設定した以外は、実施例1と同様にして熱処理糸を得た。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および予備加熱前強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0103】
[実施例11]
実施例1に記載の液晶ポリエステル(α)ではなく、下記式で示した各構成単位のmol比が(A)/(C)/(D)/(E)=65/10/5/20である液晶ポリエステル(β)(Mp0:348℃)を使用し、押出機出口から紡糸頭の温度を350℃とした以外は、実施例1と同様にして紡糸原糸を得た。その後、熱処理炉3における6つの加熱ゾーン6a~6fの温度を通過する順に200℃、300℃、300℃、300℃、330℃、330℃とした以外は、実施例1と同様にして熱処理糸を得た。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および予備加熱前強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0104】
【化9】
【0105】
[実施例12]
実施例1に記載の液晶ポリエステル(α)ではなく、下記式で示した各構成単位のmol比が(A)/(C)/(D)/(E)/(F)=54/15/8/16/7である液晶ポリエステル(γ)(Mp0:315℃)を使用し、押出機出口から紡糸頭の温度を340℃とした以外は、実施例1と同様にして紡糸原糸を得た。熱処理炉3における6つの加熱ゾーン6a~6fの温度を通過する順に200℃、280℃、280℃、280℃、310℃、310℃とした以外は、実施例1と同様にして熱処理糸を得た。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および予備加熱前強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0106】
【化10】
【0107】
[比較例1]
連続熱処理において、加熱ゾーン6aの温度を260℃とした以外は、実施例1と同様にして熱処理糸を得た。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および紡糸原糸強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0108】
[比較例2]
連続熱処理において、加熱ゾーン6b~6fの温度を200℃とした以外は、実施例1と同様にして熱処理糸を得た。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および予備加熱前強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0109】
[比較例3]
連続熱処理において、加熱ゾーン6aの温度を300℃とした以外は、実施例11と同様にして熱処理糸を得た。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および紡糸原糸強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0110】
[比較例4]
連続熱処理において、加熱ゾーン6aの温度を280℃とした以外は、実施例12と同様にして熱処理糸を得た。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果、および紡糸原糸強度や工程水分率など工程中の分析結果を表5に示す。
【0111】
参考例13]
上記構成単位(A)と(B)が(A)/(B)=73/27(mol比)である液晶ポリエステル(α)(Mp:281℃)を使用した。これを押出機にて溶融押し出しし、ギアポンプで計量しつつ紡糸頭にポリマーを供給した。このときの押出機出口から紡糸頭の温度は310℃とした。紡糸頭には孔径0.125mmφ、ランド長0.175mm、孔数300個の紡糸口金を備え、吐出量168g/分でポリマーを吐出し、巻き取り速度1000m/分でボビンに巻き取り紡糸原糸を得た。この際、紡糸口金直下に配置したオイリングガイドから、2.00重量%のドデシルリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、和光一級)水溶液を紡糸原糸に付与した。この水溶液の付与量は8.40g/分であり、紡糸原糸に対するドデシルリン酸ナトリウムの付着比率は0.100重量%であった。
【0112】
次に、この紡糸原糸5kgを、巻密度0.6g/cm3になるようアルミニウム製ボビンに巻き返し、加熱窒素流通と電気ヒーターの二種の熱源を併用する形式のオーブンを用いて窒素雰囲気下、露点-55℃で熱処理を行った。この際、20℃から220℃まで10分間(平均10℃/分)で昇温し、220℃から230℃まで1分間(平均10℃/分)で昇温し、ガスに含まれる水分量の測定のため230℃で1分間保持し、230℃から250℃まで2分間(平均10℃/分)で昇温し、250℃で16時間保持を行い、熱処理糸を得た。なお、230℃に到達した時点での熱処理中の糸から生じるガスに含まれる水分量は0.0022g/(分・kg)であった。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果を表5に示す。
【0113】
[比較例5]
オイリングガイドから付与したドデシルリン酸ナトリウム(和光純薬工業社製、和光一級)水溶液の液濃度を0.200重量%にし、該水溶液の紡糸原糸への付与量を84.0g/分にした以外は参考例13と同様にして熱処理糸を得た。なお、230℃に到達した時点での熱処理中の糸から生じるガスに含まれる水分量は3.0g/(分・kg)であった。得られた液晶ポリエステル繊維(熱処理糸)の分析結果を表5に示す。
【0114】
【表5】
【0115】
表5に示すように、実施例13~9、11および12、ならびに参考例10では、熱処理炉3の加熱ゾーン6aにおいて200℃または100℃で予備加熱していたため、その後の加熱ゾーン6b~6fにおいて、水分量を低減した状態で固相重合を行っており、全CEG量を低減できている。また、実施例2では、連続熱処理を2回に分け、1回目の連続熱処理により200℃で予備加熱していたため、その後の2回目の連続熱処理において、水分量を低減した状態で固相重合を行っており、全CEG量を低減できている。そのため、実施例1~9、11および12、ならびに参考例10の液晶ポリエステル繊維は、ガス発生量を抑制できており、それを用いて製造した繊維強化複合プラスチックは気泡の発生を抑制できている。また、実施例1~9、11および12では、特定の伸長倍率に制御して搬送による連続熱処理により液晶ポリエステル繊維を製造したため、繊維長手方向の力学特性のバラつきを抑制することができている。
【0116】
一方、比較例1、3および4では、水分量を低減する予備加熱をすることなく、熱処理炉3の加熱ゾーン6aから液晶ポリエステル樹脂の種類に応じてそれぞれ260℃、300℃および280℃で加熱して熱処理を行ったため、全CEG量が大きい。これは、水分量が多い状態で固相重合を行ったことにより、加水分解が生じて全CEG量が増加したためではないかと考えられる。そのため、比較例1、3および4の液晶ポリエステル繊維は、実施例1の2倍以上多くのCOガスが発生し、それを用いて製造した繊維強化複合プラスチックにおいても気泡が実施例1~9、11および12、ならびに参考例10と比較して多く生じている。
【0117】
比較例2では、固相重合が実効的に進行する温度である230℃以上の加熱を行っていないため、熱処理後の強度が18cN/dtexに達していない。そのため、比較例2の液晶ポリエステル繊維を用いて製造した繊維強化複合プラスチックは力学特性が十分でないと推察される。
【0118】
また、参考例13では、バッチ式における固相重合に供する紡糸原糸の水分量を低減しているため、全CEG量を低減できている。そのため、参考例13の液晶ポリエステル繊維は、ガス発生量を抑制できており、それを用いて製造した繊維強化複合プラスチック気泡の発生を抑制できている。
【0119】
一方、比較例5では、固相重合に供する紡糸原糸の水分量が多いため、全CEG量が大きい。そのため、比較例5の液晶ポリエステル繊維は、参考例13の2倍以上多くのCOガスが発生し、それを用いて製造した繊維強化複合プラスチックにおいても気泡が参考例13と比較して多く生じている。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の液晶ポリエステル繊維は、加熱時のガスの発生を抑制することができるため、繊維強化複合プラスチックの強化材料として好適に使用できる。また、例えば短繊維としてゴムや樹脂等に混合して用いる用途においても、成形や使用の際に加熱時のガスの発生を抑制することができるため、フィラー材料として好適に使用できる。
【0121】
以上のとおり、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0122】
1・・・巻出機
2・・・第一ローラー
3・・・熱処理炉
4・・・第二ローラー
5・・・巻取機
6a,6b,6c,6d,6e,6f・・・加熱ゾーン
7・・・炉管
8・・・制御部
図1