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  • 特許-イオンセンサの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-22
(45)【発行日】2024-01-05
(54)【発明の名称】イオンセンサの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/333 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
G01N27/333 331E
G01N27/333 331Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022536129
(86)(22)【出願日】2021-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2021009783
(87)【国際公開番号】W WO2022014095
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2020121933
(32)【優先日】2020-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】竹内 孝憲
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-205034(JP,A)
【文献】特開平11-295261(JP,A)
【文献】特開平09-210949(JP,A)
【文献】特開平09-005293(JP,A)
【文献】特開昭55-009138(JP,A)
【文献】特開昭59-102153(JP,A)
【文献】特開昭60-010163(JP,A)
【文献】実開平07-029457(JP,U)
【文献】韓国特許第10-0474880(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部溶液を収容するとともに内部電極を備える電極体に、イオン感応膜を接着させるイオンセンサの製造方法であって、
前記電極体のうち、前記イオン感応膜を載置する電極ボディの載置面に水を塗布する塗布工程と、
前記載置面に水が存在した状態で、前記イオン感応膜を載置する載置工程と、
前記イオン感応膜を、前記電極ボディの反対側から、加圧する加圧工程と、
前記イオン感応膜が前記電極ボディに押し付けられた状態で、前記電極ボディの反対側からレーザ光を照射する照射工程と、を有するイオンセンサの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のイオンセンサの製造方法において、
前記加圧工程では、前記レーザ光を透過する重りが用いられることを特徴とするイオンセンサの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のイオンセンサの製造方法において、
前記照射工程は、前記加圧工程が続いている間に行われることを特徴とするイオンセンサの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のイオンセンサの製造方法において、
前記電極ボディの載置面の融点は、前記イオン感応膜よりも低いことを特徴とするイオンセンサの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のイオンセンサの製造方法において、
前記電極ボディの載置面には、前記電極ボディの本体とは別の材料が設けられていることを特徴とするイオンセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンセンサの製造方法およびイオンセンサ用電極体に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンセンサはリファレンス電極とともに用いられ、サンプル中のイオン電解物質濃度を測定するものであり、臨床分析装置、水質分析装置、土壌分析装置、食品分析装置等の分析装置に搭載されて用いられる。
【0003】
イオンセンサの感応面上に形成されるイオン感応膜としては、従来からポリ塩化ビニル等の疎水性有機高分子をベースとし、これにジブチルフタレート(DBP)、ジプロピルフタレート(DPP)、オルトニトロフェニルオクチルエーテル(NPOE)などの可塑剤を適宜加えると共に、バリノマイシン、大環状ポリエーテル誘導体等のイオン感応物質を混合した膜が知られている。
【0004】
このイオン感応膜は、イオン感応膜のベースとなる有機高分子と、イオン感応物質が所定の比率で揮発性溶媒に溶解された溶媒溶液を、イオンセンサの感応面にハケ塗り、ディッピング、滴加等により塗布して溶液の塗膜をまず形成し、その後に感応面方向へ応力を付与させつつ溶媒の蒸発を進行させて作製される。このように、応力を与えながら溶媒を蒸発させた場合、単なる塗布乾燥の場合と比べて、表面が極めて平滑なイオン感応膜が得られ、蛋白質等の付着による悪影響を大幅に抑制したイオンセンサを得ることができる。
【0005】
また、イオンセンサは、一般に(例えば、特許文献1)、電極ボディ、内部溶液、イオン感応膜、内部電極より構成される。ここで、フロー型のイオンセンサの電極ボディには、検体流路があり、検体流路の側面の一部には、貫通穴が設けられている。そして、貫通穴がイオン感応膜によって覆われて応答面を形成するとともに、当該応答面以外の箇所でイオン感応膜と電極ボディとが接着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-132991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
イオン感応膜と電極ボディとの接着作業は、その接着界面において、イオン感応膜および電極ボディを構成する有機高分子を、テトラヒドロフラン(THF)等の揮発性溶媒により一度溶解した後、揮発性溶媒を蒸発させることにより行われる。
【0008】
ここで、筆者らは、イオンセンサの電極ボディの形状およびイオン感応膜の形状と、イオンセンサの性能、を調査した結果、以下の課題があることに気付いた。すなわち、電極ボディやイオン感応膜の材料ばらつきにより、電極ボディとイオン感応膜との接着強度が弱く剥がれやすく、応答面がはがれると性能不良になり易い、という課題である。
【0009】
本発明の目的は、電極ボディとイオン感応膜との接着強度を材料ばらつきに寄らず向上させることで、性能不良が少ない、イオンセンサの製造方法およびイオンセンサ用電極体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、内部溶液を収容するとともに内部電極を備える電極体に、イオン感応膜を接着させるイオンセンサの製造方法であって、前記電極体のうち、前記イオン感応膜を載置する電極ボディの載置面に水を塗布する塗布工程と、前記載置面に水が存在した状態で、前記イオン感応膜を載置する載置工程と、前記イオン感応膜を、前記電極ボディの反対側から、加圧する加圧工程と、前記イオン感応膜が前記電極ボディに押し付けられた状態で、前記電極ボディの反対側からレーザ光を照射する照射工程と、を有する。
【0011】
また、イオン感応膜に生じる電位を出力する内部電極と、前記内部電極と前記イオン感応膜を電気的に導通させる内部溶液を収容する電極ボディと、を備えたイオンセンサ用電極体であって、前記電極ボディは、測定対象の検体を含む液体が流通する流路と、前記イオン感応膜を載せる載置面と、を有し、前記流路の上面の所定位置には、前記載置面へ露出して前記検体を前記イオン感応膜と接触させる貫通部が形成されており、前記載置面のうち前記貫通部以外に水が存在した状態で、前記イオン感応膜の上方から加圧およびレーザ光照射することにより、前記イオン感応膜と前記載置面とが接着される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電極ボディとイオン感応膜との接着強度が材料ばらつきに寄らず向上し、性能不良が少ない、イオンセンサの製造方法およびイオンセンサ用電極体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態であるイオンセンサの製造方法を説明する全体図である。
図2】本発明の実施形態であるイオンセンサの製造方法を示すフローチャートである。
図3図2のステップS1における塗布工程を示す図である。
図4図2のステップS2における載置工程を示す図である。
図5図2のステップS3における加圧工程を示す図である。
図6図2のステップS4における照射工程を示す図である。
図7図2のステップS5における組み付け工程を示す図である。
図8】電極ボディとイオン感応膜との対向面の状態を示す図であり、(a)が比較例として水2を用いない場合、(b)が本実施形態のように水2を用いる場合、である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本実施形態に係るイオンセンサ1の製造方法の概要を説明する全体図である。本実施形態のイオンセンサ1の製造方法では、水2、レーザ照射機3、重り4が用いられる。なお、電極ボディ5においては、手前側の壁面は図示されていないが、これは分かりやすくするためのもので、実際には奥側の壁面と同様な壁面が備えられている。
【0016】
まず、イオンセンサ1に用いられる電極体の構成について、図7を用いて説明する。イオンセンサ用電極体は、イオン感応膜に電位を出力する内部電極14と、内部電極14とイオン感応膜10を電気的に導通させる内部溶液(図示せず)を収容する電極ボディ5と、内部溶液が漏れないように封止するための電極ボディピン15と、内部容器を収容する底面となる電極ボディ板13と、を備える。
【0017】
ここで、電極ボディ5は、その内部に形成され測定対象の検体を含む液体が流通する検体流路7と、イオン感応膜10を載せる載置面9(接合面)と、を有する。この電極ボディ5は、外形寸法が11mm×20mm×24mm程度の直方体形状で、検体流路7は、直径が1mm程度で、載置面9は、5mm×5mm程度である。また、検体流路7の一部は、載置面9へ露出して検体をイオン感応膜10と接触させる、0.9mm×3mm程度の長円形状の貫通部8が形成されている。また、電極ボディ5の材料は、電極ボディ5の全体を、熱可塑性の樹脂としたり、顔料を含有した硬質の樹脂としたりすることが考えられる。あるいは、硬質の樹脂で形成された電極ボディ本体とは別に、電極ボディ5の載置面9へ顔料を塗布したものであっても良い。このように、電極ボディ5の少なくとも載置面9については、熱エネルギーが発生し易い材料として、イオン感応膜よりも融点の低い材料を用いるのが望ましい。
【0018】
次に、イオンセンサ1の製造方法について、図2図7を用いて詳細に説明する。図2は、イオンセンサの製造方法を示すフローチャートであり、図3図7は、イオンセンサの製造方法における各工程を説明する図である。
【0019】
まず、電極ボディ5の載置面9に水2を塗布する(ステップS1)。図3は、このステップS1における塗布工程を示す図である。なお、載置面9に塗布された水は、表面張力によって載置面9の表面に保持されるため、貫通部8から検体流路へ流下することはない。
【0020】
次に、載置面9のうち貫通部8以外に水2が存在した状態で(水2が蒸発してなくなってしまう前に)、電極ボディ5の載置面9に上方からイオン感応膜10を載置する(ステップS2)。図4は、このステップS2における載置工程を示す図である。ここで、イオン感応膜10は、直径5mm、厚さ0.1mm~0.5mm程度の軟質または硬質の樹脂の材料で形成される。また、イオン感応膜10は、遠赤外線領域の波長を透過し、載置面9にある電極ボディ5よりも高い融点を有する。
【0021】
その後、イオン感応膜10を、電極ボディ5の反対側から加圧する(ステップS3)。図5は、このステップS3における加圧工程を示す図である。この加圧工程では、重り4が用いられ、この重り4によってイオン感応膜10が、水2を挟んで電極ボディ5の載置面9へ鉛直方向に押し付けられる。重り4でイオン感応膜10全体を加圧する力は、10N~100N程度とすることにより、イオン感応膜10と水2と電極ボディ5との密着性が良好となる。ここで、重り4の材料は、例えば石英ガラスといった透明なガラスの他、セラミックなども考えられるが、遠赤外線領域の波長を透過させる材料であれば、これらに限らない。また、イオン感応膜10と接触する側である、重り4の下端面は、電極ボディ5の載置面9と同程度の大きさで、載置面9と類似の形状となっている。なお、加圧する力は、重り4自体の重力だけでなく、サーボモータなどの外力を使って得るようにしても良い。
【0022】
続く工程では、イオン感応膜10が載置面9に押し付けられた状態で、イオン感応膜10の上方(電極ボディ5の反対側)からレーザ光を照射する(ステップS4)。図6は、このステップS4における照射工程を示す図である。レーザ光は、レーザ照射機3から発せられる遠赤外線領域の波長であり、載置面9の全体または重り4の全体に照射されると、レーザ光のエネルギーが熱エネルギーに変わり、電極ボディ5の載置面9が発熱により溶融する。このとき、イオン感応膜10と電極ボディ5との対向面の隙間は、ステップS1における塗布工程で塗布した水で満たされているため、レーザ光照射により発生した熱が行き渡るようになっている。なお、レーザ光の照射時間は、電極ボディ5の載置面9が溶融して硬化してくるまでを考慮して、1秒~20秒程度とするのが望ましい。また、照射工程は、ステップS3の加圧工程が続いている間に行われ、溶融した状態の載置面9に対してイオン感応膜10が押し付けられるため、互いに接着し易くなる。さらに、照射工程の終了後も1秒~20秒程度の加圧工程を行うことで、貫通部8近くの載置面9についても、イオン感応膜10との接着強度が向上する。
【0023】
照射工程と加圧工程が終了すると、イオンセンサ1の最終的な組み付け工程に入る(ステップS5)。図7は、このステップS5における組み付け工程を示す図である。この組み付け工程では、まず、電極ボディ5に電極ボディ板13を接着固定し、穴部12から内部溶液を充填する。さらに、穴部12から内部電極14を挿入して電極ボディ5に接着固定した後、穴部12から電極ボディピン15を挿入して電極ボディ5に接着固定する。これにより、イオンセンサ1の製造が完了する。
【0024】
以下、本実施形態に係るイオンセンサ1の製造方法における、水2の効果について説明する。図8は、イオン感応膜10を重り4で加圧したときの、電極ボディ5とイオン感応膜10との対向面の状態を示す図であり、(a)が、比較例として水2を用いない場合、(b)が、本実施形態のように水2を用いる場合、である。ここでは、電極ボディ5の材料にばらつきがあり、載置面9に凹凸が生じているときを例に挙げて説明するが、イオン感応膜10の材料にばらつきがあるときも同様である。
【0025】
まず、比較例のように水2を用いない場合、図8(a)に示すように、隙間11が存在するため、レーザ照射機3でレーザ光が照射されても、電極ボディ5とイオン感応膜10との間に熱エネルギーが一様に伝わり難い。
【0026】
一方、本実施形態では、図8(b)に示すように、電極ボディ5とイオン感応膜10との間にあった隙間が水2で埋められるので、レーザ光が照射されると、熱エネルギーが一様に伝わる。ここで、水2自体は熱により蒸発するが、電極ボディ5の載置面9における溶融が満遍なく促進され、電極ボディ5とイオン感応膜10との密着性が向上する。その結果、本実施形態によれば、電極ボディ5に材料ばらつきがある場合においても、電極ボディ5とイオン感応膜10との接着強度が強くなるため、応答面の剥がれによる性能不良を抑制でき、品質の安定と高い歩留まり率を得ることが可能となる。
【0027】
なお、上記の実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0028】
1:イオンセンサ、2:水、3:レーザ照射機、4:重り、5:電極ボディ、7:検体流路、8:貫通部、9:載置面、10:イオン感応膜、11:隙間、12:穴部、13:電極ボディ板、14:内部電極、15:電極ボディピン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8