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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】ノルボルネン系開環重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 32/00 20060101AFI20231226BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20231226BHJP
   C08F 4/78 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C08F32/00
C08F2/00 A
C08F4/78
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019127137
(22)【出願日】2019-07-08
(65)【公開番号】P2021011549
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-06-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100119079
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 佐保子
(72)【発明者】
【氏名】安 祐輔
【審査官】飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/052302(WO,A1)
【文献】特開2013-010309(JP,A)
【文献】特開2008-013604(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163371(WO,A1)
【文献】特開2006-052333(JP,A)
【文献】特開2005-089744(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 32/00
C08F 2/00
C08F 4/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン系単量体を、メタセシス重合触媒の存在下で、開環メタセシス重合させるノルボルネン系開環重合体の製造方法であって、
前記メタセシス重合触媒が、式(1):
M(NR)X4―p(OR・L (1)
(式中、
Mは、タングステン原子であり、
は、3、4及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基であり、
は、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
Xは、ハロゲン原子であり、
Lは、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン及びテトラヒドロピランから選ばれる、電子供与性の中性配位子であり、
pは、0であり、
qは、2であり、
複数のXが存在するとき、複数のXは同一であっても異なっていてもよく、
複数のLが存在するとき、複数のLは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される遷移金属イミド錯体であり、
前記ノルボルネン系単量体の少なくとも一部を、20分以上200分以下の時間で、重合反応系に、連続的に添加し、
前記式(1)で表される遷移金属イミド錯体の少なくとも一部を、前記重合反応系に、連続的に添加することを特徴とするノルボルネン系開環重合体の製造方法。
【請求項2】
重合温度が、20℃以上60℃以下である、請求項1記載のノルボルネン系開環重合体の製造方法。
【請求項3】
前記ノルボルネン系単量体の添加が終了した時点での重合転化率が40%以上である、請求項1又は2記載のノルボルネン系開環重合体の製造方法。
【請求項4】
前記ノルボルネン系単量体の添加が終了した時点での重合転化率が60%以上である、請求項3記載のノルボルネン系開環重合体の製造方法。
【請求項5】
前記重合反応系が、連鎖移動剤を含む、請求項1~4のいずれか一項記載のノルボルネン系開環重合体の製造方法。
【請求項6】
前記連鎖移動剤が、α-オレフィンである、請求項5記載のノルボルネン系開環重合体の製造方法。
【請求項7】
前記連鎖移動剤の使用量が、前記ノルボルネン系単量体100モル%に対して0.1モル%以上15モル%未満である、請求項5又は6記載のノルボルネン系開環重合体の製造方法。
【請求項8】
前記ノルボルネン系開環重合体のシス含有率が80.0%以上である、請求項1~7のいずれか一項記載のノルボルネン系開環重合体の製造方法。
【請求項9】
前記ノルボルネン系単量体の少なくとも一部を、前記重合反応系に連続的に添加するタイミングと同じタイミングで、前記式(1)で表される遷移金属イミド錯体の少なくとも一部を、前記重合反応系に連続的に添加する、請求項1~8のいずれか一項記載のノルボルネン系開環重合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルボルネン系開環重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリジシクロペンタジエンをはじめとするノルボルネン系開環重合体は、透明性、低複屈折性等の光学特性、耐湿性、耐熱性等の耐候性、低誘電率、低誘電正接等の電気特性などを活かし、光学材料、医療材料、電子・電気部品用材料等として、広く使用されている。最近では、フィルム化したときの柔軟性を活かし、光学フィルムへの応用が盛んに行われている。
【0003】
ノルボルネン系開環重合体は、ノルボルネン系単量体を、メタセシス重合触媒の存在下で、開環重合させることにより得られることが知られており、ノルボルネン系開環重合体の分子量の制御については、開環重合体中の低分子量体(分子量2000以下)を低減させるために触媒を工夫すること(特許文献1)、分子量分布の狭いノルボルネン系開環重合体を製造するためにプロセスを工夫すること(特許文献2)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-143642号公報
【文献】特開2013-75976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ノルボルネン系開環重合体を使用した光学フィルムにおいては、分子量のみならず、立体化学が制御されていることも要求される。
【0006】
また、フィルム化は通常、キャスト成形法によって行われるところ、本発明者は従来のノルボルネン系開環重合体を使用した場合、キャストロールに汚れが付着することがあり、長時間の連続操業の妨げになり得るとともに、光学フィルムの品質に影響を与えかねないことを見出した。そして、この汚れが、開環重合体中のノルボルネン系単量体の二量体及び三量体に起因するものであることを突き止めた。
【0007】
本発明は、立体化学が制御され、かつノルボルネン系単量体の二量体及び三量体の含有率が低減されたノルボルネン系開環重合体を得ることを可能にする、ノルボルネン系開環重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のノルボルネン系開環重合体の製造方法は、ノルボルネン系単量体を、メタセシス重合触媒の存在下で、開環メタセシス重合させるノルボルネン系開環重合体の製造方法であって、
前記メタセシス重合触媒が、式(1):
M(NR)X4-p(OR・L (1)
(式中、
Mは、周期律表第6族の遷移金属原子から選択される金属原子であり、
は、3、4及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基又は-CHで表される基であり、ここで、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
は、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
Xは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルシリル基であり、
Lは、電子供与性の中性配位子であり、
pは、0又は1であり、
qは、0~2の整数であり、
複数のXが存在するとき、複数のXは同一であっても異なっていてもよく、
複数のLが存在するとき、複数のLは同一であっても異なっていてもよい。)
で表される遷移金属イミド錯体であり、
前記ノルボルネン系単量体の少なくとも一部を、重合反応系に、連続的に添加することを特徴とする。本発明の製造方法においては、特定の遷移金属イミド錯体が、遷移金属原子を中心とした立体構造を変えながら開環メタセシス重合を触媒し、このような触媒の存在下で、触媒作用を受けるノルボルネン系単量体の重合反応系への供給を制御することにより、立体化学が制御され、かつ二量体等の含有率が低減されたノルボルネン系開環重合体を得ることが可能になると推測される。
【0009】
ここで、立体化学の制御とは、ノルボルネン系開環重合体において、繰り返し単位中の多環体が主鎖の炭素-炭素二重結合に対してシス位置で結合している繰り返し単位の割合であるシス含有率(%)が高いことを意味する。シス含有率(%)は、重クロロホルムを用いたH-NMR法により、シス:3.1-2.7ppm付近に現れるピーク群の積算値、トランス:2.7-2.5ppm付近に現れるピーク群の積算値から算出することができる。シス含有率は、例えば、光学フィルム用途では、78.0%以上が好ましく、より好ましくは80.0%以上、さらに好ましくは82.0%以上である。
【0010】
ここで、ノルボルネン系開環重合体中の二量体及び三量体(以下「二量体等」ともいう。)の含有率は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって得られるチャートから、二量体及び三量体に対応するピーク面積を求め、全面積に占めるそれらの面積の割合(%)とすることができる。本発明の製造方法によれば、二量体等の含有率は、例えば、0.60%未満まで低減させることができる。二量体等の含有率は、汚れ防止の点からは、0.30%未満であることが好ましい。
【0011】
ここで、連続的に添加とは、一定の速度で添加を継続することを意味し、一定の時間をおきながら、一定量の添加を継続することを含む。具体的には、ノルボルネン系単量体を溶媒に溶解又は分散させた液体を、連続的に滴下することが挙げられる。
【0012】
本発明の製造方法では、立体化学の制御の点から、重合温度が、20℃以上60℃以下であることが好ましい。ここで、重合温度は、反応容器内の温度を意味する。
【0013】
本発明の製造方法においては、安定的に目的物であるノルボルネン系開環重合体が得られる観点から、ノルボルネン系単量体の連続的な添加が終了した時点での重合転化率が40%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上である。
【0014】
また、本発明の製造方法においては、安定的に重合反応を進行させる観点から、式(1)で表される遷移金属イミド錯体の少なくとも一部を重合反応系に、連続的に添加することが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の製造方法においては、分子量制御性の点から、重合反応系が連鎖移動剤を含むことが好ましい。この場合、連鎖移動剤としてはα-オレフィンが好ましく、また、連鎖移動剤の使用量はノルボルネン系単量体100モル%に対して0.1モル%以上15モル%未満とすることができる。
【0016】
本発明の製造方法によれば、シス含有率が80.0%以上のノルボルネン系開環重合体を得ることができる。
【0017】
本発明はまた、重量平均分子量が15000以上50000以下、ノルボルネン系単量体の二量体及び三量体の含有率が0.60%未満、シス含有率が80.0%以上である、ノルボルネン系開環重合体に関する。二量体等の含有率の下限は特に限定されないが、例えば、0.01%まで低減させることができ、シス含有率の上限は特に限定されないが、例えば、95%まで改善することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のノルボルネン系開環重合体の製造方法によれば、立体化学が制御され、かつ二量体等の含有率が低減されたノルボルネン系開環重合体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の製造方法について、詳細に説明する。本発明のノルボルネン系開環重合体の製造方法は、ノルボルネン系単量体を、メタセシス重合触媒の存在下で、開環メタセシス重合させる。
【0020】
<ノルボルネン系単量体>
ノルボルネン系単量体は、式(2)で表されるノルボルネン構造を有する化合物である。
【化1】
【0021】
ノルボルネン系単量体としては、分子内にノルボルネン環と縮合する環を有しないノルボルネン系単量体及び3環以上の多環式ノルボルネン系単量体等が挙げられる。
【0022】
分子内にノルボルネン環と縮合する環を有しないノルボルネン系単量体としては、
ノルボルネン、5-メチルノルボルネン、5-エチルノルボルネン、5-ブチルノルボルネン、5-ヘキシルノルボルネン、5-デシルノルボルネン、5-シクロヘキシルノルボルネン、5-シクロペンチルノルボルネン等の非置換又はアルキル基を有するノルボルネン類;
5-エチリデンノルボルネン、5-ビニルノルボルネン、5-プロペニルノルボルネン、5-シクロヘキセニルノルボルネン、5-シクロペンテニルノルボルネン等のアルケニル基を有するノルボルネン類;
5-フェニルノルボルネン等の芳香環を有するノルボルネン類;
5-メトキシカルボニルノルボルネン、5-エトキシカルボニルノルボルネン、5-メチル-5-メトキシカルボニルノルボルネン、5-メチル-5-エトキシカルボニルノルボルネン、ノルボルネニル-2-メチルプロピオネート、ノルボルネニル-2-メチルオクタネート、5-ヒドロキシメチルノルボルネン、5,6-ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5,5-ジ(ヒドロキシメチル)ノルボルネン、5-ヒドロキシ-i-プロピルノルボルネン、5,6-ジカルボキシノルボルネン、5-メトキシカルボニル-6-カルボキシノルボルネン等の酸素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;
5-シアノノルボルネン等の窒素原子を含む極性基を有するノルボルネン類;
等が挙げられる。
【0023】
3環以上の多環式ノルボルネン系単量体とは、分子内にノルボルネン環と、該ノルボルネン環と縮合している1つ以上の環とを有するノルボルネン系単量体である。その具体例としては、下記に示す式(3)又は式(4)で示される単量体が挙げられる。
【0024】
【化2】
【0025】
(式(3)中、
及びRはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基(例えば、アルキル基);又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、互いに結合して環を形成していてもよく、
は置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の二価の炭化水素基(例えば、アルキレン基)である。)
【0026】
【化3】
【0027】
(式(4)中、
~Rはそれぞれ独立に水素原子;ハロゲン原子;置換基を有していてもよい炭素原子数1~20の炭化水素基(例えば、アルキル基);又はケイ素原子、酸素原子もしくは窒素原子を含む置換基;を表し、RとRは互いに結合して環を形成していてもよく、
mは1又は2である。)
【0028】
式(3)で示される単量体としては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-8-エン等が挙げられる。また、テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロ-9H-フルオレンともいう)、テトラシクロ[10.2.1.02,11.04,9]ペンタデカ-4,6,8,13-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9,9a,10-ヘキサヒドロアントラセンともいう)等の芳香環を有するノルボルネン誘導体も挙げることができる。
【0029】
式(4)で示される単量体としては、mが1であるテトラシクロドデセン類、mが2であるヘキサシクロヘプタデセン類が挙げられる。
【0030】
テトラシクロドデセン類としては、
テトラシクロドデセン、8-メチルテトラシクロドデセン、8-エチルテトラシクロドデセン、8-シクロヘキシルテトラシクロドデセン、8-シクロペンチルテトラシクロドデセン等の非置換又はアルキル基を有するテトラシクロドデセン類;
8-メチリデンテトラシクロドデセン、8-エチリデンテトラシクロドデセン、8-ビニルテトラシクロドデセン、8-プロペニルテトラシクロドデセン、8-シクロヘキセニルテトラシクロドデセン、8-シクロペンテニルテトラシクロドデセン等の環外に二重結合を有するテトラシクロドデセン類;
8-フェニルテトラシクロドデセン等の芳香環を有するテトラシクロドデセン類;
8-メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8-メチル-8-メトキシカルボニルテトラシクロドデセン、8-ヒドロキシメチルテトラシクロドデセン、8-カルボキシテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン-8,9-ジカルボン酸、テトラシクロドデセン-8,9-ジカルボン酸無水物等の酸素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;
8-シアノテトラシクロドデセン、テトラシクロドデセン-8,9-ジカルボン酸イミド等の窒素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;
8-クロロテトラシクロドデセン等のハロゲン原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;8-トリメトキシシリルテトラシクロドデセン等のケイ素原子を含む置換基を有するテトラシクロドデセン類;
等が挙げられる。
【0031】
ヘキサシクロヘプタデセン類としては、前記のテトラシクロドデセン類とシクロペンタジエンとのディールズ・アルダー付加体をいずれも用いることができる。
【0032】
ノルボルネン系単量体は、中でも、反応性の点から、ジシクロペンタジエン類、テトラシクロドデセン類が好ましく、生成する開環重合体の水素化後の耐熱性及び汎用性の点から、ジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセンがより好ましく、ジシクロペンタジエンがさらに好ましい。
【0033】
ノルボルネン系単量体は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。3環以上の多環式ノルボルネン系単量体には、エンド体とエキソ体の異性体が含まれるが、これらのいずれも使用することができ、異性体の混合物であってもよい。
【0034】
本発明の効果を損なわない限り、共重合可能なその他の単量体を併用することができる。共重合可能なその他の単量体は、全単量体を100モル%としたとき、50モル%以下であることが好ましい。
【0035】
共重合可能なその他の単量体としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4-ジメチルシクロペンテン、3-メチルシクロヘキセン、2-(2-メチルブチル)-1-シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a-テトラヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン等のシクロオレフィン;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン等の非共役ジエン;等が挙げられる。これらの共重合可能な単量体は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
<メタセシス重合触媒>
メタセシス重合触媒として、式(1)で表される遷移金属イミド錯体を用いる。
M(NR)X4-p(OR・L (1)
(式中、
Mは、周期律表第6族の遷移金属原子から選択される金属原子であり、
は、3、4及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基又は-CHで表される基であり、ここで、Rは、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
は、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、
Xは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルシリル基であり、
Lは、電子供与性の中性配位子であり、
pは、0又は1であり、
qは、0~2の整数であり、
複数のXが存在するとき、複数のXは同一であっても異なっていてもよく、
複数のLが存在するとき、複数のLは同一であっても異なっていてもよい。)
【0037】
<<遷移金属イミド錯体>>
式(1)におけるMは、周期律表第6族の遷移金属原子であり、クロム、モリブデン及びタングステンから選択することができる。中でも、モリブデン、タングステンが好ましく、タングステンがより好ましい。
【0038】
式(1)の遷移金属イミド錯体は、金属イミド結合(N=R)を含む。Rは、金属イミド結合を構成する窒素原子上の置換基である。
【0039】
式(1)におけるRは、3、4及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基又は-CHで表される基である。
【0040】
の、3、4及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基の置換基としては、
アルキル基(例えば、メチル基、エチル基等の炭素原子数1~4のアルキル基);
ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等);
アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等の炭素原子数1~4のアルコキシ基);
等が挙げられ、3、4及び5位の少なくとも2つの位置に存在する置換基が互いに結合したものであってもよい。
【0041】
3、4及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニル基としては、フェニル基;
4-メチルフェニル基、4-クロロフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-シクロヘキシルフェニル基、4-メトキシフェニル基等の一置換フェニル基;
3,5-ジメチルフェニル基、3,5-ジクロロフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基等の二置換フェニル基;
3,4,5-トリメチルフェニル基、3,4,5-トリクロロフェニル基等の三置換フェニル基;
2-ナフチル基、3-メチル-2-ナフチル基、4-メチル-2-ナフチル基等の置換基を有していてもよい2-ナフチル基;
等が挙げられる。
【0042】
の、-CHで表される基におけるRの、置換基を有していてもよいアルキル基の炭素原子数は特に限定されず、通常1~20、好ましくは1~10、より好ましくは1~4である。このアルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。置換基は特に限定されず、例えば、フェニル基、置換基を有していてもよいフェニル基(例えば、4-メチルフェニル基等);アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等の炭素原子数1~4のアルコキシ基);等が挙げられる。
【0043】
の、置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。置換基は特に限定されず、例えば、フェニル基、置換基を有していてもよいフェニル基(例えば、4-メチルフェニル基等);アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等の炭素原子数1~4のアルコキシ基);等が挙げられる。
【0044】
としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等の炭素原子数が1~20のアルキル基が好ましい。
【0045】
式(1)における(4-p)は4又は3であり、式(1)は、4個又は3個のXを有する。Xは、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基又はアルキルシリル基である。Xは同じであっても異なっていてもよい。
Xについて、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基等が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基、4-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、ベンジル基、ネオフィル基等が挙げられる。
アルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
【0046】
式(1)におけるpは0又1はであり、式(1)は、1個の金属アルコキシド結合又は1個の金属アリールオキシド結合(OR)を有するものであってもよい。Rは、金属アルコキシド結合又は金属アリールオキシド結合を構成する酸素原子上の置換基である。
【0047】
は、置換基を有していてもよいアルキル基又は置換基を有していてもよいアリール基であり、前述のRの、置換基を有していてもよいアルキル基及び置換基を有していてもよいアリール基として例示及び好適例が適用される。
【0048】
式(1)におけるqは0~2の整数であり、式(1)は、1個又は2個の電子供与性の中性配位子(L)を有するものであってもよい。
Lとしては、周期律表第14族又は第15族の原子を含有する電子供与性化合物が挙げられ、
トリメチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;
ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類;
トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ルチジン等のアミン類;
等が挙げられる。これらの中でも、エーテル類が好ましい。
【0049】
式(1)の遷移金属イミド錯体としては、フェニルイミド基を有するタングステンイミド錯体(式(1)中、Mがタングステン原子で、Rがフェニル基であるタングステンイミド錯体)が好ましく、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロピラン)がより好ましい。
【0050】
式(1)の遷移金属イミド錯体は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
式(1)の遷移金属イミド錯体は、第6族遷移金属のオキシハロゲン化物と、3、4及び5位の少なくとも1つの位置に置換基を有していてもよいフェニルイソシアナート類又は一置換メチルイソシアナート類を、必要に応じて電子供与性の中性配位子(L)、アルコール類、金属アルコキシド、金属アリールオキシドとともに混合する方法等(例えば、特開平5-345817号公報に記載された方法)により合成することができる。合成された遷移金属イミド錯体は、結晶化等により精製・単離した後、開環重合反応に用いてもよいし、精製することなく、得られた混合液をそのまま触媒液として用いてもよい。
【0052】
式(1)の遷移金属イミド錯体の使用量は、ノルボルネン系単量体100モル%に対して、0.00005モル%以上1モル%以下とすることができ、0.0001モル%以上0.2モル%が好ましく、0.0002モル%以上0.1モル%以下がより好ましい。上記範囲内であれば、触媒除去が困難となることを十分回避でき、十分な重合活性を得ることができる。
【0053】
<<活性化剤>>
式(1)の遷移金属イミド錯体は、単独でも触媒活性を示すが、活性化剤と組み合わせることにより、より高活性な重合用触媒となり得る。
【0054】
活性化剤としては、炭素原子数1~20の炭化水素基(例えば、アルキル基)を有する周期律表第1、2、12、13、14族の化合物が挙げられる。中でも、有機リチウム、有機マグネシウム、有機亜鉛、有機アルミニウム、又は有機スズが好ましく用いられ、有機アルミニウム又は有機スズが特に好ましく用いられる。
【0055】
有機リチウムとしては、メチルリチウム、n-ブチルリチウム、フェニルリチウム等が挙げられる。
有機マグネシウムとしては、ブチルエチルマグネシウム、ブチルオクチルマグネシウム、ジヘキシルマグネシウム、エチルマグネシウムクロリド、n-ブチルマグネシウムクロリド、アリルマグネシウムブロミド等が挙げられる。
有機亜鉛としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジフェニル亜鉛等が挙げられる。
有機アルミニウムとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムエトキシド、ジイソブチルアルミニウムイソブトキシド、エチルアルミニウムジエトキシド、イソブチルアルミニウムジイソブトキシド等が挙げられる。
有機スズとしては、テトラメチルスズ、テトラ(n-ブチル)スズ、テトラフェニルスズ等が挙げられる。
【0056】
活性化剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
活性化剤を使用する場合、使用量は、式(1)の遷移金属イミド錯体に対して、0.1モル倍以上100モル倍以下とすることができ、0.2モル倍以上50モル倍以下が好ましく、0.5モル倍以上20モル倍以下がより好ましい。上記範囲内であれば、活性化剤の使用による重合活性の向上が十分得られ、副反応が生ずることを十分回避できる。
【0058】
<<その他>>
重合速度や得られる開環重合体の分子量分布を制御するため、さらにルイス塩基を添加することができる。
ルイス塩基としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;
トリエチルアミン、N,N-ジエチルアニリン等のアミン類;ピリジン、ルチジン等のピリジン類;トリフェニルホスフィン等のホスフィン類;ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;トリフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド類;エチルアセテート等のエステル類;等が挙げられる。これらの中でも、エーテル類、ピリジン類、ニトリル類が好ましい。ルイス塩基は、単独でも、2種以上を組み合わせ用いてもよい。
【0059】
ルイス塩基を使用する場合、使用量は、式(1)の遷移金属イミド錯体に対して、0.1モル倍以上1,000モル倍以下とすることができ、0.2モル倍以上500モル倍以下が好ましく、0.5モル倍以上200モル倍以下がより好ましい。
【0060】
<連鎖移動剤>
開環重合において、連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤を用いることで、得られる開環重合体の分子量を調整するとともに、二量体等の含有率を効果的に低減させることができる。
【0061】
連鎖移動剤としては、α-オレフィン、内部オレフィン、芳香族ビニル化合物等が挙げられる。内部オレフィンは、二重結合をオレフィン鎖の末端ではなく内部に有する化合物をいう。芳香族ビニル化合物は、ビニル基上に置換基(例えば、アルキル基)を有する化合物を包含する。
【0062】
α-オレフィンとしては、α位に二重結合を有する炭素原子数2~20個のアルケンが挙げられ、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。
内部オレフィンとしては、2-ブテン、3-ヘキセン等が挙げられる。
芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン等が挙げられる。
中でも、反応性及び分子量制御性の点から、1-ヘキセン、スチレン、1-デセンが好ましく、1-ヘキセン、スチレンがよりに好ましい。
【0063】
連鎖移動剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
連鎖移動剤を使用する場合、連鎖移動剤の使用量は、ノルボルネン系単量体100モル%に対して、0.1モル%以上15モル%未満とすることができる。上記範囲内であれば、連鎖移動剤を使用することによる効果が十分に得られる。二量体等の含有率の低減の点から、連鎖移動剤は、0.3モル%以上10モル%未満が好ましく、0.5モル%以上9モル%以下がより好ましく、1モル%以上6モル%以下がさらに好ましい。
【0065】
<有機溶媒>
開環重合反応は、通常、有機溶媒中で行われる。
【0066】
有機溶媒は、ノルボルネン系単量体及び目的物であるノルボルネン系開環重合体を溶解又は分散可能であり、反応に不活性なものであれば、特に限定されず、例えば、
ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素;
シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ビシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタン等の脂環族炭化水素;
ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;
ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン系脂肪族炭化水素;
クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン系芳香族炭化水素;
ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリル等の含窒素炭化水素系溶媒;
ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;又はこれらの混合溶媒が挙げられる。これらの溶媒の中でも、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、エーテル類が好ましく用いられる。
【0067】
有機溶媒は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0068】
有機溶媒は、ノルボルネン系単量体の濃度が、1質量%以上50質量%以下となるような量で使用することができ、2質量%以上45質量%以下が好ましく、3質量%40質量%以下がより好ましい。上記範囲であれば、生産性が十分であり、取り扱い性の点からも便利である。
【0069】
<開環重合反応>
開環重合反応は、ノルボルネン系単量体、式(1)の遷移金属イミド錯体、及び任意の活性化剤、連鎖移動剤を、通常有機溶媒中で撹拌することにより行うことができるが、本発明は、その際、ノルボルネン系単量体の少なくとも一部を、連続的に添加することを特徴とする。
【0070】
連続的に添加するノルボルネン系単量体以外の成分は、予め反応器に装入し、撹拌しておけばよい。反応器内の反応液の撹拌は、ノルボルネン系単量体の連続的な添加の間も継続して行い、開環重合を進めることができる。
【0071】
連続的に添加するノルボルネン系単量体は、全量であっても、一部であってもよい。反応選択性及び反応安定性の点から、連続的に添加するノルボルネン系単量体を一部とし、残部を予め反応器中に装入しておくことが好ましい。予め反応器に装入するノルボルネン系単量体の量は、全量を100質量%とした場合、0.1質量%以上70質量%以下とすることができ、0.5質量%以上50質量%以下が好ましく、1質量%以上35質量%以下がより好ましい。上記範囲内であれば、得られる開環重合体の重量平均分子量の制御が容易となる。
【0072】
ノルボルネン系単量体の連続的な添加は、前述の有機溶媒に溶解又は分散させた液体として、連続的に滴下することにより行うことができる。液体中のノルボルネン系単量体の濃度は1質量%以上50質量%以下とすることができ、2質量%以上45質量%以下が好ましく、3質量%以上40質量%以下がより好ましい。この範囲であれば、生産性が十分であり、取り扱い性の点からも便利である。
【0073】
連続的な添加の時間は、20分以上200分以下とすることができる。立体化学の制御の点から、40分以上180分以下が好ましく、60分以上160分以下がより好ましい。
【0074】
重合温度は、20℃以上60℃以下とすることができる。立体化学の制御の点から、22.5℃以上50℃以下が好ましく、25℃以上45℃以下がより好ましい。
【0075】
連続的に添加するノルボルネン系単量体の温度は、20℃以上60℃以下とすることができる。立体化学の制御の点から、22.5℃以上50℃以下が好ましく、25℃以上45℃以下がより好ましい。
【0076】
ノルボルネン系単量体の連続的な添加は、分子量の制御の点から、連続的な添加終了時の重合反応系においてノルボルネン系単量体の重合転化率が40%以上となるように行うことが好ましい。重合転化率はより好ましくは60%以上である。重合転化率は、ノルボルネン系単量体の添加の速度等の添加の条件、重合温度等の開環重合反応の条件を調整することにより、制御することができる。添加の際の速度以外の条件が同一の場合、速度を大きくすると、重合転化率は高くなり、速度を小さくすると、重合転化率は小さくなる傾向にあり、温度が高いと、重合転化率は高く、温度が低いと重合転化率は小さくなる傾向にある。上限は、特に限定されないが、通常99%以下である。
【0077】
連続的な添加が終了した後、反応液を継続的に撹拌して、重合反応を終了させる。終了後の混合撹拌の時間は、15分以上300分以下とすることができる。重合転化率及び生産性の点から、30分以上270分以下が好ましく、50分以上240分以下がより好ましい。
【0078】
遷移金属イミド錯体については、少なくとも一部を連続的に添加してもよい。これにより、反応選択性が期待できる。連続的に添加する遷移金属イミド錯体は、前述の有機溶媒に溶解又は分散させた液体として、連続的に滴下することにより行うことができる。液体中の遷移金属イミド錯体の濃度は0.01質量%以上20質量%以下とすることができる。錯体の溶液安定性の点から、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、0.5質量%以上10質量%以下がより好ましい。連続的に添加するタイミングは、ノルボルネン系単量体の連続添加のタイミングと同じであっても、異なっていてもよい。
【0079】
連鎖移動剤を使用する場合、立体化学の制御及び二量体等の含有率の低減の点から、ノルボルネン系開環重合体の連続的な添加の量が、連鎖移動剤1モルあたり、0.060モル/分以上となるような量とすることができ、0.080モル/分以上となるような量が好ましく、また、2.000モル/分以下となるような量とすることができ、1.000モル/分以下が好ましい。
【0080】
<ノルボルネン系開環重合体>
本発明の製造方法により、ノルボルネン系開環重合体中の二量体及び三量体の含有率を低減させることができ、例えば0.60%未満まで低減させることができ、好ましくは0.30%未満とすることができる。二量体等の含有率の下限は特に限定されないが、例えば、0.01%まで低減させることができる。
【0081】
本発明の製造方法により、ノルボルネン系開環重合体のシス含有率を改善することができ、例えば80.0%以上まで改善することができ、好ましくは84.0%以上とすることができる。シス含有率の上限は特に限定されないが、例えば、95%まで改善することができる
【0082】
本発明の製造方法により得られるノルボルネン系開環重合体は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、通常5000以上200000以下であり、好ましくは10000以上100000以下であり、より好ましくは15000以上50000以下である。
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は、通常5.0以下であり、好ましくは4.5以下であり、より好ましくは4.0以下である。比(Mw/Mn)は1.0以上であり、1.0であってもよい。
【0083】
<水素添加物>
ノルボルネン系開環重合体は、主鎖中に炭素-炭素二重結合を有しており、重合させる単量体の種類によって主鎖や5員環に結合した基(以下、側鎖という)の中に、炭素-炭素二重結合を有することもある。これらの炭素-炭素二重結合を水素添加して飽和結合にした、水素添加物とすることができる。水素添加物とすることによって、耐熱性、耐候性、耐光性、耐溶剤性、耐薬品性、耐水性などの特性が改善されることがある。水素添加の方法としては、公知の方法を利用することができ、例えば、水素添加触媒の存在下でノルボルネン系開環重合体の溶液に水素を供給し付加反応させることにより行うことができる。
<成形材料>
【0084】
本発明の製造方法により得られたノルボルネン系開環重合体及びその水素添加物は、各種成形法により成形され、光学、医療、電子・電気部品等の分野で広く使用することができる。中でも、フィルム化に適しており、とりわけ光学用途のフィルム等に好適に使用することができる。
【0085】
本発明の製造方法により得られたノルボルネン系開環重合体及びその水素添加物は、キャスト成形法によりフィルム化した際に、キャストロールへの汚れ付着を抑制することができ、長時間の連続操業を可能とするものである。
【実施例
【0086】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0087】
各種の物性の測定は、下記の方法に従って行った。
【0088】
<重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)>
テトラヒドロフランを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算値として求めた。測定条件は、以下のとおりである。
測定装置:HLC-8320(東ソー社製)
カラム:TSKgelH2000、H4000、H5000(東ソー社製)
検出器:示差屈折計RI-8320(東ソー社製)
【0089】
<二量体等の含有率>
上記GPC測定によって得られたチャートから、二量体及び三量体に対応するピーク面積を求め、全体面積に占めるそれらの面積の割合を含有率(%)とした。
【0090】
<重合転化率>
ガスクロマトグラフィーにより、残留しているジシクロペンタジエンの量を測定し、投入した全ジシクロペンタジエン量に対する割合を求め、重合転化率とした。測定条件は、以下のとおりである。
測定装置:Agilent 6850シリーズ(アジレント・テクノロジーズ社製)
カラム:HP-1(無極性)
【0091】
<シス含有率>
H-NMR測定により、シス:3.1-2.7ppm付近に現れるピーク群の積算値、トランス:2.7-2.5ppm付近に現れるピーク群の積算値から算出した。測定条件は、以下のとおりである。
測定装置:AVANCE III(周波数500MHz)(ブルカー社製)
溶媒:重クロロホルム
測定温度:室温(25℃)
【0092】
(実施例1)
窒素雰囲気下、40℃の耐圧反応器に、シクロヘキサン589グラム、内部標準物質としてドデカン1.15グラム(0.00675mol)、連鎖移動剤として1-ヘキセン2.93グラム(0.0348mol、投入するDCPD全量(100モル%)に対して4モル%)を加えた後、濃度15質量%のジシクロペンタジエン(DCPD)のシクロヘキサン溶液49.28グラム(投入するDCPD全量(100質量%)に対し30質量%)を加え、100rpmで撹拌した。続いて、ジエチルアルミニウムエトキシド(EtAl(OEt))を0.714グラム(0.00104mol)加えた。そこに、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)(錯体1)の1質量%トルエン溶液を12.763グラム(錯体1が0.261mmol相当)加え、重合反応を開始させた。10分間の撹拌後に、濃度15質量%のDCPDのシクロヘキサン溶液115グラム(投入するDCPD全量(100質量%)に対し70質量%)を120分かけて滴下し、連続的な滴下終了後撹拌を続け、80分エージングさせた。一連の操作において反応器内の温度は、40℃に保持した。最終的に、メタノール(1.67グラム)を加えて重合反応を停止させ、ペールイエロー色の重合溶液を得た。
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の重量平均分子量(Mw)、分散度(Mw/Mn)、二量体等の含有率、シス含有率を表1に示す。
また、連続的な滴下終了後に採取した溶液における重合転化率及び最終の開環重合体溶液における重合転化率を表1に示す。
【0093】
(実施例2)
1-ヘキセンの量を2モル%に変更し、連続的な滴下終了後の撹拌を60分間に変更したこと以外は、実施例1と同様である。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例3)
1-ヘキセンの量を3モル%に変更し、連続的な滴下終了後の撹拌を60分間に変更したこと以外は、実施例1と同様である。結果を表1に示す。
【0095】
(実施例4)
1-ヘキセンの量を5モル%に変更し、連続的な滴下終了後の撹拌を60分間に変更したこと以外は、実施例1と同様である。結果を表1に示す。
【0096】
(実施例5)
ジシクロペンタジエン溶液の連続的な滴下を160分かけて行い、連続的な滴下終了後の撹拌を60分間に変更したこと以外は、実施例1と同様である。結果を表1に示す。
【0097】
(実施例6)
ジシクロペンタジエン溶液の連続的な滴下を110分かけて行い、連続的な滴下終了後の撹拌を70分間に変更したこと以外は、実施例1と同様である。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例7)
ジシクロペンタジエン溶液の連続的な滴下を110分かけて行い、連続的な滴下終了後の撹拌を70分間に変更し、耐圧反応器の温度を53℃に変更し、保持したこと以外は、実施例1と同様である。結果を表1に示す。
【0099】
(実施例8)
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)の1質量%トルエン溶液の初期仕込み量を3.83グラム(全量(100質量%)の30質量%、錯体1が0.078mmol相当)に変更し、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)の1質量%トルエン溶液8.93グラム(全量(100質量%)の70質量%、錯体1が0.183mmol相当)を160分かけて連続的に滴下し、ジシクロペンタジエン溶液の連続的な滴下を160分かけて行い、連続的な滴下終了後の撹拌を20分間に変更したこと以外は、実施例1と同様である。結果を表1に示す。
【0100】
(実施例9)
ジシクロペンタジエン溶液の連続的な滴下を60分かけて行い、連続的な滴下終了後の撹拌を90分間に変更したこと以外は、実施例1と同様である。結果を表1に示す。
【0101】
(実施例10)
1-ヘキセンの量を8モル%に変更し、連続的な滴下終了後の撹拌を60分間に変更したこと以外は、実施例1と同様である。結果を表1に示す。
【0102】
(実施例11)
触媒をテトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロピラン)(錯体2)に変更したこと以外は、実施例1と同様である。結果を表1に示す。
【0103】
(比較例1)
触媒をヘキサクロロタングステン(錯体3)に変更し、耐圧反応器の温度を53℃に変更したこと以外は、実施例1と同様である。結果を表1に示す。
【0104】
(比較例2)
窒素雰囲気下、53℃の耐圧反応器に、シクロヘキサン589グラム、内部標準物質としてドデカン1.15グラム(0.00675mol)、連鎖移動剤として1-ヘキセン5.86グラム(0.0696 mol、投入するDCPD全量(100モル%)に対して8モル%)を加えたのち、濃度15質量%のジシクロペンタジエン(DCPD)のシクロヘキサン溶液164.3グラムを加え、100rpmで撹拌させた。続いて、ジエチルアルミニウムエトキシド(EtAl(OEt))を0.714グラム(0.00104mol)加えた。そこに、テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)(錯体1)の1質量%トルエン溶液を12.763グラム(錯体1が0.261mmol相当)加え、重合反応を開始させた。徐々に粘度が挙がっていき、270分間の撹拌後に、メタノール(1.67グラム)を加えて重合反応を停止させ、ペールイエロー色の重合溶液を得た。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
式(1)の遷移金属イミド錯体をメタセシス重合触媒を用い、ノルボルネン系開環重合体を連続滴下した実施例では、開環重合体のシス含有率は80.0%以上であり、開環重合体中の主鎖の二重結合がシス選択的に制御されており、かつ二量体等の含有率が0.60未満まで低減されていた。一方、メタセシス重合触媒が本発明の範囲外の比較例1では、立体化学が制御されておらず、二量体等の含有率の低減は、反応器内の温度が同じく53℃である実施例7に及ばなかった。また、一括重合を行った比較例2では二量体等の含有率の低減が実施例に及ばなかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の製造方法によれば、立体化学が制御され、かつ二量体等の含有率が低減されたノルボルネン系開環重合体を得ることを可能となる。本発明の製造方法により得られるノルボルネン系開環重合体は、キャスト成形法によりフィルム化した際に、キャストロールへの汚れ付着を抑制することができ、長時間の連続操業を可能とするとともに、得られたフィルムの優れた品質を活かし、光学フィルムに好適に使用することができる。