IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友金属鉱山株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ニッケル酸化鉱石の製錬方法 図1
  • 特許-ニッケル酸化鉱石の製錬方法 図2
  • 特許-ニッケル酸化鉱石の製錬方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20231226BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20231226BHJP
   C22C 33/04 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B5/10
C22C33/04 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019197878
(22)【出願日】2019-10-30
(65)【公開番号】P2021070848
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-073020(JP,A)
【文献】特開2019-077905(JP,A)
【文献】特開2018-150571(JP,A)
【文献】特開2017-179430(JP,A)
【文献】特開2019-019388(JP,A)
【文献】特開2006-097107(JP,A)
【文献】特開2018-178252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/02
C22B 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石を還元してフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法であって、
前記ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合工程と、
バーナーを備えた還元炉内において前記混合物に還元処理を施す還元工程と、を含み
記還元工程では、前記還元炉内に載置した前記混合物に向けて不活性ガスを供給しながら、該混合物に還元処理を施し、
前記還元炉において、前記不活性ガスを供給する供給口が、前記バーナーの火口よりも下方の高さ位置に設けられている、
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記還元炉において、前記不活性ガスを供給する供給口が該還元炉の側壁に設けられ、該供給口から前記混合物に向けて不活性ガスを供給する、
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項3】
前記還元炉は、前記不活性ガスを供給するための供給管を備え、
前記供給管に設けられた1又は複数の前記供給口から前記混合物に向けて不活性ガスを供給する、
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項4】
前記還元工程では、前記還元炉内に供給する前記不活性ガスの供給量を50L/(分・m3)以上に制御する、
請求項1乃至3に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項5】
前記還元工程では、還元温度を1200℃以上1500℃以下にして前記還元処理を施す、
請求項1乃至4のいずれかに記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項6】
前記還元工程では、還元温度を1300℃以上1450℃以下にして前記還元処理を施す、
請求項5に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項7】
前記不活性ガスは、窒素及びアルゴンから選ばれる一種以上である、
請求項1乃至6のいずれかに記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル酸化鉱石を還元してフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用してフェロニッケルを製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用してミックスサルファイドを製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
ニッケル酸化鉱石を製錬する場合、まずその原料鉱石を塊状物化、スラリー化等するための前処理が行われる。具体的に、ニッケル酸化鉱石を塊状物化、すなわち粉や微粒状から塊状にする際には、そのニッケル酸化鉱以外の成分、例えばバインダーや還元剤と混合し混合物として、さらに水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば10~30mm程度の塊状物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」とも呼ぶ。)とするのが一般的である。
【0004】
このペレットは、例えば、水分を飛ばすためある程度の通気性が必要である。さらにペレット内で還元が均一に行われないと組成が不均一になりメタルが分散、偏在してしまう。このため混合物を均一に混合したり、ペレット還元時に、可能な限り均一な温度とすることが重要である。
【0005】
加えて、還元後のペレットが再び酸化されることがないようにすることも重要である。還元が行われる炉内では、その還元炉内を加熱する化石燃料を用いたバーナーから発生する排ガス中の水蒸気や、未反応の酸素などの酸化性のガスが存在しており、よって、これらのガスとの接触を防止することが求められる。折角、還元を行っても、還元後のペレットが酸化されてしまうことによって、メタルの品質や収率が悪化してしまう恐れがある。
【0006】
例えば、特許文献1には、還元炉内の還元区域に非酸化性ガスを供給しながら、酸化鉄のペレットの周囲を非酸化性雰囲気として、還元後のペレットが再び酸化されることを抑制する還元鉄の製造方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、この方法は、塊成物装入層の上面近傍を非酸化性雰囲気にしながら混合物に還元処理を施すことを特徴としており、混合物の周囲に存在する酸化性ガスとの接触を効果的に抑制することができない。
【0008】
このように、還元後にペレットが再び酸化されることをより効果的に防ぐことができて、高品質のフェロニッケルを効率よく製造する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法の開発が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-178252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を含む混合物を還元することでメタルを製造する製錬方法において、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質のメタルを効率的に製造することができるニッケル酸化鉱石の製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物へ向けて不活性ガスを供給しながら還元処理を施すことによって、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)本発明の第1は、ニッケル酸化鉱石を還元してフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法であって、前記ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合工程と、バーナーを備えた還元炉内において前記混合物に還元処理を施す還元工程と、を含み、前記還元工程では、前記還元炉内に載置した前記混合物に向けて不活性ガスを供給しながら、該混合物に還元処理を施す、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0013】
(2)本発明の第2は、第1に記載の発明において、前記還元炉において、前記不活性ガスを供給する供給口が、前記バーナーの火口よりも下方の高さ位置に設けられている、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0014】
(3)本発明の第3は、第2の発明において、前記還元炉において、前記不活性ガスを供給する供給口が該還元炉の側壁に設けられ、該供給口から前記混合物に向けて不活性ガスを供給するニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0015】
(4)本発明の第4は、第2の発明において、前記還元炉は、前記不活性ガスを供給するための供給管を備え、前記供給管に設けられた1又は複数の前記供給口から前記混合物に向けて不活性ガスを供給するニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0016】
(5)本発明の第5は、第1乃至第4のいずれかに記載の発明において、前記還元工程では、前記還元炉内に供給する前記不活性ガスの供給量を50L/(分・m)以上に制御する、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0017】
(6)本発明の第6は、第1乃至第5のいずれかに記載の発明において、前記還元工程では、還元温度を1200℃以上1500℃以下にして前記還元処理を施す、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0018】
(7)本発明の第7は、第6の発明において、前記還元工程では、還元温度を1300℃以上1450℃以下にして前記還元処理を施す、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0019】
(8)本発明の第8は、第1乃至第7のいずれかに記載の発明において、前記不活性ガスは、窒素及びアルゴンから選ばれる一種以上である、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る方法によれば、高品質なフェロニッケルメタルを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
図2】還元炉内に載置した混合物に向けて不活性ガスを供給する様子を説明するための図である。
図3】還元炉の構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0023】
≪ニッケル酸化鉱石の製錬方法≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を炭素質還元剤等と混合し、その混合物に対して製錬炉(還元炉)内で還元処理を施すことによって、メタルとスラグとを生成させるものである。そして、この製錬方法では、混合物に対する還元処理に際し、その混合物に向けて不活性ガスを供給しながら還元処理を施すことを特徴とする。
【0024】
具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、図1に示すように、ニッケル酸化鉱石と、炭素質還元剤と、を含有する混合物を得る混合工程S1と、バーナーを備えた還元炉内において混合物に還元処理を施す還元工程S2と、得られた還元物からメタルを回収する回収工程S3と、を含む。
【0025】
<1.混合工程>
混合工程S1は、ニッケル酸化鉱石と還元剤である炭素質還元剤とを混合して混合物を得る。具体的には、この混合工程S1では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と共に、炭素質還元剤を添加して混合し、また任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の、例えば粒径が0.2~0.8mm程度の粉末を混合して混合物を得る。なお、混合処理は、混合機等を用いて行うことができる。
【0026】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石は、酸化ニッケル(NiO)と、酸化鉄(Fe)とを少なくとも含有する。
【0027】
本実施の形態においては、ニッケル酸化鉱石に対して、特定量の炭素質還元剤を混合して混合物とする。炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、この炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石の粒度や粒度分布と同等の大きさのものであると、均一に混合しやすく、還元反応も均一に進みやすくなるため好ましい。
【0028】
炭素質還元剤の混合量としては、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量を100%としたとき、50.0%以下の割合とすることが好ましく、40.0%以下とすることがより好ましい。このように、炭素質還元剤の混合量を、化学当量の合計値を100%としたときに50.0%以下の割合とすることで、還元反応を効率的に進行させることができる。
【0029】
なお、酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量とは、酸化ニッケルの全量をニッケルメタルに還元するのに必要な化学当量と、酸化鉄を鉄メタルに還元するのに必要な化学当量との合計値(以下、「化学当量の合計値」ともいう)と言い換えることができる。
【0030】
炭素質還元剤の混合量の下限値としては、特に限定されないが、化学当量の合計値を100%としたときに、10.0%以上の割合とすることが好ましく、15.0%以上の割合とすることがより好ましい。
【0031】
ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤のほか、任意成分として添加する添加剤である鉄鉱石としては、特に限定されないが、例えば、鉄品位が50%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。
【0032】
また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。
【0033】
下記表1に、混合工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(質量%)の一例を示す。なお、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0034】
【表1】
【0035】
混合に際しては、混合性を高めるために混練を同時に行ってもよく、混合後に混練を行ってもよい。混練は、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸混練機、二軸混練機等を用いて行うことができる。混合物を混練することによって、その混合物にせん断力を加え、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いて均一に混合できるとともに、各々の粒子の密着性を向上させ、また空隙を減少させることができる。これにより、その混合物において還元反応が起りやすくなるとともに均一に反応させることができ、還元反応の反応時間を短縮することができる。また、品質のばらつきを抑えることができる。
【0036】
また、混合を行った後、あるいは混合及び混練を行った後、押出機を用いて押出してもよい。これにより、混合物に対して圧力(せん断力)が加えられ、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いてその混合物をより均一に混合させた状態とすることができる。さらに、混合物内の空隙を減少させることができる。これらのことから、後述する還元工程S2において混合物の還元反応が均一に起りやすくなり、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質なメタルを製造することができる。
【0037】
押出機は、高圧、高せん断力で混合物を混練して成形できるものであることが好ましく、一軸押出機、二軸押出機等を挙げることができる。特に、二軸押出機を備えたものであることが好ましい。高圧、高せん断で混合物を混練することにより、原料粉の混合物の凝集を解くことができ、また効果的に混練することができるうえ、混合物の強度を高めることができる。また、二軸押出機を備えたものを用いることにより、連続的に高い生産性を保ちながら混合物を得ることができる。
【0038】
また、混合物を所定形状の成形物(ペレット)に成形してもよい。成形物の形状としては、例えば、球状、直方体状、立方体状、円柱状等とすることができる。このような形状は、簡易な形状であって複雑なものではないため、成形コストを抑制しつつ不良品の発生を抑制することができ、得られる成形物の品質も均一となり、歩留り低下を抑制することができる。また、例えば、球状、直方体状、立方体状、円柱状等の形状にすることにより、積層しやすく、還元時に処理する量を多くすることが可能となる。これにより、1つのペレットの形状を巨大化しなくても還元時の処理量を増やせるため取扱いしやすく、また移動時等に崩れ落ちたりすることがなく不良等の発生を抑えることができる。
【0039】
成形(塊状化)した混合物のペレットの体積は8000mm以上であってよい。ペレットの体積が小さすぎると成形コストが高くなったり、還元炉に投入するのに手間がかかったりしてしまう。またペレットの体積が小さい場合はペレット全体に占める表面積の割合が高くなるため表面と内部の還元の差が現れやすくなり高い品質のフェロニッケルを製造し難くなる。混合物のペレットの体積は8000mm以上であると成形コストを抑えることができ、取扱いがしやすくて好ましい。さらに高い品質のフェルニッケルが製造可能となる。
【0040】
また、成形後の混合物の水分は30質量%程度(固形分が70質量%程度)であることが好ましい。特に、水分が多い場合には、混合物中の水分により、還元時に急激な昇温によって水分が一気に気化、膨張して混合物が粉々になってしまう恐れがある。よって、水分が30質量%となるように、必要に応じて乾燥工程を設けてもよい。
【0041】
乾燥方法は特に限定されないが、より具体的な混合物に対する乾燥処理としては、例えば150~400℃の熱風を混合物に対して吹き付けて乾燥させる。なお、比較的大きな混合物のペレットの場合、乾燥前や乾燥後の混合物にひびや割れが入っていてもよい。
【0042】
下記表2に、乾燥処理後の混合物における固形分中組成(質量部)の一例を示す。なお、混合物の組成としては、これに限定されるものではない。
【0043】
【表2】
【0044】
<2.還元工程>
還元工程S2は、混合工程S1で得られた混合物を還元炉内に載置し、その混合物を加熱して還元処理を施す工程である。還元工程S2における加熱還元処理により、製錬反応(還元反応)が進行して、フェロニッケルメタル(以下、単に「メタル」という)と、フェロニッケルスラグ(以下、単に「スラグ」という)とが分かれて生成する。
【0045】
(不活性ガスの供給について)
本実施の形態に係る製錬方法では、混合物に向けて不活性ガスを供給しながら還元処理を施すことを特徴としている。
【0046】
還元炉内には、空気中の酸素やバーナーの火炎中に含まれる未反応の酸素などの酸化性気体が存在し、そのような酸化性気体が存在する雰囲気下で混合物に還元処理を施すと、還元反応が阻害され、又は一度生成したメタルの一部がその酸化性気体によって再び酸化されてしまうという問題がある。
【0047】
そこで、還元処理に際して混合物に向けて不活性ガスを供給することにより、その混合物が不活性ガスによって酸化性気体から遮断された状態とすることができるため、生成したメタルの一部が酸化されてしまうことを効果的に防ぐことができる。
【0048】
ここで、「混合物に向けて不活性ガスを供給する」とは、例えば後述するような不活性ガスの供給口を混合物が存在する方向に向けるなどして、その混合物に直接的に不活性ガスが向かうように供給することを意味する。
【0049】
図2は、還元炉の炉床12に載置した混合物Mに向けて不活性ガスを供給する様子を説明するための図である。図2の(A)と(B)とは、それぞれ90°異なる側面から還元炉を視たときの図(断面図)である。
【0050】
図2に示すように、還元炉内には、不活性ガスを供給するための供給管11が備えられ、その供給管11の側面には複数の供給口11hが設けられている。供給管11において、それぞれの供給口11hは、炉床12に載置した混合物Mの方向に向いて設けられており、その供給口11hから混合物Mに直接的に向かって(図中矢印)不活性ガスが供給されるようになっている。
【0051】
このように、混合物Mに向けて不活性ガスが供給されるようにすることで、その混合物Mが不活性ガスによって酸化性気体から遮断された状態となるため、還元処理により生成したメタルの一部が酸化されてしまうことを効果的に防ぐことができる。
【0052】
不活性ガスとしては、特に限定されるものではなく、窒素ガスやアルゴンガス等を用いることができる。
【0053】
なお、不活性ガスを噴き出させるための供給口11hが、バーナーの火口よりも下方の高さ位置に設けられている状態で混合物Mに不活性ガスを向けずに不活性ガスを供給した場合(例えば、図3の還元炉1の構成では、供給管11から不活性ガスを上方向に供給した場合)であってもバーナー13の火炎中に含まれる酸化性気体を遮断して同様の効果を得ることができるようにも思えるが、混合物Mの還元反応自体が短時間で進行することから、混合物Mの還元反応が進行している時に酸化性気体を十分に遮断することができず高品質のフェロニッケルを製造する効果を十分に得ることができない。
【0054】
(還元炉について)
次に、上述したような不活性ガスの供給口が設けられた還元炉について説明する。
【0055】
図3は、本実施の形態に係る還元処理に使用する還元炉(バーナー炉)1の構成の一例を示す図である。図3の(A)と(B)とは、それぞれ90°異なる側面から還元炉を視たときの図(断面図)である。図3に示すように、還元炉1は、その炉床12に載置した混合物Mの上方に、不活性ガスを供給するための供給管11を備えている。なお、詳しくは後述するが、供給管11は一の炉壁面から他の炉壁面に渡って水平方向に延在して設けられ、その供給管11には炉床12に載置した混合物Mに向かうように複数の供給口11hが設けられている。
【0056】
このように、還元炉1内に供給管11を備え、その供給管11を介して不活性ガスを供給することにより、混合物Mに向けて不活性ガスを安定的に供給することが可能となる。なお、供給管11としては、還元炉内の還元温度に耐えられるような鋼管などの金属配管とすることができる。
【0057】
供給管11には、不活性ガスを噴き出させるための供給口11hが設けられており、供給口11hはバーナー13の火口よりも下方の高さ位置に設けられている。このような高さ位置に供給口11hが設けられていることにより、バーナー13の火炎中に含まれる酸化性気体をより効果的に遮断した状態で、混合物Mに還元処理を施すことが可能となり、生成したメタルの一部が酸化されてしまうことを防ぐことができる。
【0058】
また、供給管11は、還元炉1内の一の炉壁面から他の炉壁面に渡って水平方向に延在しており、その供給管11の側面には混合物Mが存在する略垂直下方向に向けて供給口11hが設けられるように構成されている。このような構成であることにより、載置された混合物Mの上方から略垂直下方向に不活性ガスを噴出することが可能となり、混合物Mが不活性ガスによって酸化性気体からより効果的に遮断された状態とすることができる。
【0059】
また、供給管11は、還元炉1内において複数設けるようにすることができ、例えば、供給管11の長さ方向(軸方向)に対して垂直な方向に、所定間隔で離間させて配列して構成されるようにすることができる。このように供給口11hが設けられた供給管11が所定間隔で離間させて配列することにより、供給管11の延在方向と平面視において直交する方向に供給口11hを所定の間隔で設けるように構成することが可能となる。このため、混合物Mに対して不活性ガスを均一に噴出することが可能となり、混合物Mが不活性ガスによって酸化性気体からより効果的に遮断された状態とすることができる。
【0060】
また、供給管11は、その側面に複数の供給口11hを、軸方向に所定の間隔をあけて設けることができる。供給管11は、炉壁14から炉壁14に渡って延在しているため、その側面に複数の供給口11hを設けることで、延在している方向に不活性ガスを均一に噴出することが可能となる。
【0061】
還元炉の構成としては、上述した例に限定されるものではない。例えば、還元炉内の炉壁とその炉壁と反対側の炉壁に渡って延在した供給管を備えた還元炉を用いる場合であっても、供給管は1つであってもよい。また、1又は複数の供給管の側面に設けられる供給口は1つであってもよい。また、複数の供給管を備えた還元炉を用いる場合であっても、それぞれ並行に並んでいなくともよく、例えば、交差するようにそれぞれの供給管を設けてもよい。さらに、供給管は所定の形状に屈曲したものであってもよい。
【0062】
また、不活性ガスを噴出する供給口が側壁に設けられ、この供給口から混合物に向けて不活性ガスを噴出するように構成された還元炉も好ましい。還元炉の内部に供給管が存在しないため、バーナーの火炎の影響も小さく供給管の劣化が起こりにくい。さらに、内部に存在する供給管をメンテナンスする必要もなく、メンテナンス性に優れる。
【0063】
炉壁に供給管を備えた還元炉の場合、供給口は1つであってもよいが複数あることが好ましい。混合物に対して不活性ガスを均一に噴出することが可能となる。例えば、還元炉が円筒状である場合、供給口の間隔が均一になるように供給口を設けることが好ましい。例えば、供給口をn個設ける場合には、還元炉の中心から360/n度の間隔で供給口を設けることが好ましい。混合物に対して不活性ガスを均一に噴出することが可能となる。
【0064】
なお、還元炉としては、移動炉床炉であってもよい。移動炉床炉としては、例えば、円形状であって複数の処理領域に区分けされた回転炉床炉を用いることができる。回転炉床炉では、所定の方向に回転しながら、各領域においてそれぞれの処理を行う。この回転炉床炉では、各領域を通過する際の時間(移動時間、回転時間)を制御することで、それぞれの領域での処理温度を調整することができ、回転炉床炉が1回転する毎に混合物が製錬処理される。また、移動炉床炉としては、ローラーハースキルン等であってもよい。
【0065】
(不活性ガスの供給量について)
不活性ガスの供給量は、特に限定されず、例えば、30L/(分・m)以上とすることができる。還元炉内の容積によって還元炉内の酸化性気体の量も変わり得ることから、還元炉内の容積に対する供給量を30L/(分・m)以上に制御することにより混合物が不活性ガスによって酸化性気体から遮断された状態にすることができる。
【0066】
また、不活性ガスの供給量は、50L/(分・m)以上とすることが好ましく、100L/(分・m)以上とすることがより好ましい。これにより、混合物が不活性ガスによって酸化性気体からより効果的に遮断された状態にすることができる。
【0067】
より具体的に、不活性ガスの供給量は、混合物が載置される炉床と供給口の位置との関係から特定される有効空間における供給量として算出することができる。例えば、図3に示す還元炉1の例では、混合物Mが載置される炉床12と、還元炉の炉壁14と、炉床12と平行であって不活性ガスの供給口11hを含む仮想面と、に囲まれる空間を有効空間Eと定義することができる。この有効空間の容積は、混合物Mが載置される炉床12の面積と炉床12と供給口11hの高さ(炉床からの距離)との積により算出することができる。
【0068】
なお、不活性ガスの供給口11hが複数ある場合には、炉床12から高さ方向に最も近い供給口11hを基準として混合物Mが載置される炉床12の面積と炉床12と供給口11hの高さとの積により有効空間の容積を算出してもよい。
【0069】
このような有効空間Eにおいて、不活性ガスの供給量を、好ましくは50L/(分・m)以上に、より好ましくは100L/(分・m)以上に制御することにより混合物Mが不活性ガスによって酸化性気体からより効果的に遮断された状態にすることができる。
【0070】
また、不活性ガスの供給量を50L/(分・m)以上に制御し、不活性ガスを噴出する供給口11hが複数存在する場合において、供給口11h1つあたりの不活性ガスの供給量が500L/分以下となるような数の供給口11hを設けることが好ましい。これにより、混合物Mに対して不活性ガスを均一に噴出することが可能となり、混合物Mが不活性ガスによって酸化性気体からより効果的に遮断された状態にすることができる。
【0071】
(還元処理について)
還元工程S2における還元処理は、ニッケル酸化鉱石を含む混合物を、所定の還元温度に加熱することによって行われる。還元処理においては、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルは可能な限り完全にかつ優先的に還元し、一方で、ニッケル酸化鉱石に含まれる酸化鉄は一部だけ還元して、目的とする高いニッケル品位のフェロニッケルが得られる、いわゆる部分還元処理を施してもよい。部分還元処理では、先ず還元反応の進みやすい混合物の表面近傍において混合物中のニッケル酸化鉱石及び鉄酸化物が還元されメタル化してフェロニッケルとなり、殻(シェル)を形成する。一方で、殻の中では、その殻の形成に伴ってスラグ成分が徐々に熔融して液相のスラグが生成する。これにより、混合物中では、メタルと、スラグとが分かれて生成する。そして、生成したメタルとスラグとは混ざり合うことがなく、冷却によってメタル固相とスラグ固相との別相として混在する混合物となる。この混合物の体積は、還元前の混合物と比較すると、50~60体積%程度に収縮している。
【0072】
還元処理における温度(還元温度)としては、特に限定されないが、1200℃以上1500℃以下の範囲とすることが好ましく、1300℃以上1450℃以下の範囲とすることがより好ましい。このような温度範囲で還元することによって、均一に還元反応を生じさせることができ、品質のばらつきを抑制したフェロニッケルを生成させることができる。また、より好ましくは1300℃以上1400℃以下の範囲の還元温度で還元することで、比較的短時間で所望の還元反応を生じさせることができる。
【0073】
部分還元処理を施す場合には、混合物を還元炉に装入するにあたって、予めその還元炉の炉床に炭素質還元剤(以下、「炉床炭素質還元剤」ともいう)を敷き詰めて、その敷き詰められた炉床炭素質還元剤の上に混合物を載置するようにしてもよい。或いは、酸化物を主成分とした床敷材を敷いてその上に混合物を載置してよい。このように炉床に炭素質還元剤や床敷材などを炉床の上に載置することによって、炉床と混合物の反応を抑制することができ、よって炉床の寿命を延ばすことができて好ましい。
【0074】
<3.回収工程>
回収工程S3は、得られた還元物からメタルを回収する工程である。部分還元処理を施した場合には、混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混在物(還元物)からメタル相を分離して回収する。
【0075】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0076】
また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、大きな混在物に対して、例えば、所定の落差を設けて落下させる、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を与えることで、その混在物からメタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【実施例
【0077】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0078】
[混合工程]
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:85質量%、平均粒径:約80μm)を、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合して混合物を得た。炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe)とを過不足なく還元するのに必要な量を100%としたときに、28%の割合となる量で含有させた。
【0079】
次に、得られた混合物を、パン型造粒機を用いて造粒して、φ15.5±1.0mmの大きさに篩った。その後、篩った試料を23に分けた。
【0080】
各試料は還元前に、固形分が70質量%程度、水分が30質量%程度となるように、170~250℃の熱風を吹き付けることで乾燥処理を施した。下記表3に、乾燥処理後の試料の固形分組成(炭素を除く)を示す。
【0081】
【表3】
【0082】
[還元工程]
次に、混合物を載置する炉床の面積が10m(幅2m、奥行き5m)である還元炉(移動炉床炉)内に供給管を設けた。具体的には、所定の間隔で5つの供給口を設けた供給管を5本用意し、この供給管を炉床の移動方向に対して平面視で直交するように設けた。このときに、それぞれの供給管同士の間隔は1mとなるように等間隔で配置した。供給管の供給口はバーナーの火口よりも下方の高さ位置であり、供給口の向きは炉床のある下方向にすることにより、混合物を炉床に載置したときに不活性ガスが直接的に混合物に向かって噴出するようにした。このときの供給口の高さはいずれも2.3m(有効空間の容積が23m)であった。
【0083】
次に、還元炉の炉床に灰(主成分はSiO、その他の成分としてAl、MgO等の酸化物を少量含有する)を敷き詰め、その上に図3に示すように混合物を載置した。
【0084】
そして実施例1~12では、供給量が200L/(分・m)(供給口1つあたりの不活性ガスの供給量は184L/分)となるように混合物に向けて不活性ガスを噴出しながら還元加熱処理を行った。また、実施例13~16では、供給量が30L/(分・m)(供給口1つあたりの不活性ガスの供給量は27.6L/分)となるように混合物に向けて不活性ガスを供給しながら還元加熱処理を行った。
【0085】
なお、供給量とは、混合物が載置された炉床と、還元炉の内壁と、炉床と平行であって不活性ガスの供給口を含む仮想面と、に囲まれる空間を有効空間と定義したときに、有効空間の容積(m)に対する不活性ガスの供給量を意味するものであり、図3に示す有効空間Eの容積を基準とした。
【0086】
一方で、比較例1~3では、不活性ガスを還元炉内に供給せずに混合物に還元加熱処理を行った。また、比較例4~7では、不活性ガス(窒素・アルゴン)を、供給量が200L/(分・m)となるように、供給口から不活性ガスを上方に向けて噴出しながら還元加熱処理を行った。
【0087】
[回収工程]
このような還元処理の後、得られた還元物冷却後の実施例1~16、比較例1~7の試料を粉砕し、その後磁力選別によってメタルを回収した。
【0088】
還元加熱処理後の各試料について、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率、メタル回収率を、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100型)により分析して算出した。
【0089】
ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル含有率、ニッケルメタル回収率は、以下の式(1)、(2)、(3)により算出した。
ニッケルメタル化率=メタル中のニッケルの質量/(還元物中の全てのニッケルの質量)×100(%) ・・・(1)式
メタル中ニッケル含有率=メタル中のニッケルの質量/(メタル中のニッケルと鉄の合計質量)×100(%) ・・・(2)式
ニッケルメタル回収率=回収されたニッケルの量/(投入した鉱石の量×鉱石中のニッケル含有割合)×100 ・・・(3)式
【0090】
下記表4には、実施例、比較例の試料における、ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル含有率、ニッケルメタル回収率を、以下の基準を用いて示す。
[ニッケルメタル化率]
◎:96%以上
〇:95%以上96%未満
△:93%以上95%未満
×:93%未満
[メタル中ニッケル含有率]
◎:18%以上
〇:17%以上18%未満
△:16%以上17%未満
×:16%未満
[メタル回収率]
◎:94%以上
〇:93%以上94%未満
△:90%以上93%未満
×:90%未満
【0091】
【表4】
【0092】
表4の結果に示されるように、混合物に向けて不活性ガスを供給しながら還元加熱処理を行った実施例1~16は、ニッケルメタル化率が95%以上、メタル中ニッケル含有率17%以上、メタル回収率93%以上であり良好な結果(判定:OK)が得られた。これは、還元時において混合物に向けて不活性ガスを供給することによって、混合物が酸化性気体と遮断された状態で混合物に還元処理を施すことが可能となり、生成したメタルの一部が酸化されてしまうことを効果的に防ぐことができたためであると考えられる。
【0093】
一方で、還元炉内にそもそも不活性ガスを供給していない比較例1~3では、ニッケルメタル化率が93%未満であってメタル回収率が90%未満であり、ニッケルメタル化率及びメタル回収率が低下した(判定:NG)。
【0094】
また、還元炉内に不活性ガスを供給したが、混合物に向けずに供給した比較例4~7では、メタル回収率が90%未満であり、メタル回収率が低下した(判定:NG)。これは、混合物に向けずに不活性ガスを供給したため、酸化性気体を十分に遮断することができなかったためであると考えられる。
【符号の説明】
【0095】
1 還元炉
11 供給管
11h 供給口
12 炉床
13 バーナー
14 炉壁(内壁)
M 混合物
E 有効空間
図1
図2
図3