(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法、並びにダイシング・ダイボンディング一体型フィルム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/301 20060101AFI20231226BHJP
H01L 21/52 20060101ALI20231226BHJP
C09J 7/24 20180101ALI20231226BHJP
C09J 7/25 20180101ALI20231226BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20231226BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20231226BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01L21/78 Q
H01L21/78 M
H01L21/52 E
C09J7/24
C09J7/25
C09J7/35
C09J7/38
C09J201/00
(21)【出願番号】P 2019206920
(22)【出願日】2019-11-15
【審査請求日】2022-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】田澤 強
(72)【発明者】
【氏名】木村 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】森 修一
【審査官】湯川 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-182268(JP,A)
【文献】国際公開第2008/047610(WO,A1)
【文献】特開2012-069586(JP,A)
【文献】特開2004-134689(JP,A)
【文献】特開2005-268434(JP,A)
【文献】国際公開第2017/191815(WO,A1)
【文献】特開2019-114599(JP,A)
【文献】特開2016-072546(JP,A)
【文献】特開2018-107386(JP,A)
【文献】国際公開第2019/221246(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/220599(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
H01L 21/52
C09J 7/24
C09J 7/25
C09J 7/35
C09J 7/38
C09J 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)基材層、粘着剤層及び接着剤層がこの順序で積層されており、前記粘着剤層が活性エネルギー線の照射によって前記接着剤層に対する粘着力が予め低下している第1の領域を有するダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを準備する工程と、
(B)ウェハに対してステルスダイシング、又はブレードによるハーフカットをする工程と、
(C)前記接着剤層における、前記第1の領域に対応する領域に前記ウェハを貼る工程と、
(D)前記基材層を冷却条件下においてエキスパンドすることによって、前記ウェハ及び前記接着剤層が個片化されてなる接着剤片付きチップを得る工程と、
(E)前記粘着剤層に活性化エネルギー線を照射することによって、前記接着剤片付きチップに対する前記粘着剤層の粘着力を低下させる工程と、
(F)前記基材層をエキスパンドした状態で前記接着剤片付きチップを前記粘着剤層からピックアップする工程と、
(G)前記接着剤片付きチップを、基板又は他のチップ上にマウントする工程と、
を含み、
(A)工程における前記ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムは、温度23℃において剥離角度30°及び剥離速度60mm/分の条件で測定される、前記接着剤層に対する前記第1の領域の粘着力が6.0N/25mm以上12.5N/25mm以下である、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
(D)工程で得られる前記接着剤片付きチップは、平面視において、正方形又は長方形の形状を有し且つ6.0mm以上の辺を有する、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記粘着剤層は、前記接着剤層に対する粘着力が前記第1の領域よりも大きい第2の領域を有し、
(C)工程と同時又は(D)工程の前において、前記第2の領域にダイシングリングが貼り付けられる、請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
基材層と、
接着剤層と、
前記基材層と前記接着剤層の間に配置されており、活性エネルギー線の照射によって前記接着剤層に対する粘着力が予め低下している第1の領域を有する粘着剤層と、
を備え、
温度23℃において剥離角度30°及び剥離速度60mm/分の条件で測定される、前記接着剤層に対する前記第1の領域の粘着力が6.0N/25mm以上12.5N/25mm以下である、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム。
【請求項5】
前記第1の領域に対して150mJ/cm
2の量の紫外線が照射された後、温度23℃において剥離角度30°及び剥離速度60mm/分の条件で測定される、前記接着剤層に対する当該第1の領域の粘着力が1.2N/25mm以下である、請求項4に記載のダイシング・ダイボンディング一体型フィルム。
【請求項6】
ウェハを面積30~250mm
2の複数のチップに個片化する工程を含む半導体装置製造プロセスに適用される、請求項4又は5に記載のダイシング・ダイボンディング一体型フィルム。
【請求項7】
前記粘着剤層は、前記接着剤層に対する粘着力が前記第1の領域よりも大きい第2の領域を有する、請求項4~6のいずれか一項に記載のダイシング・ダイボンディング一体型フィルム。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか一項に記載のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの製造方法であって、
基材層の表面上に、活性エネルギー線が照射されることによって粘着力が低下する組成物からなる粘着剤層と、前記粘着剤層の表面上に形成された前記接着剤層とを含む積層体を作製する工程と、
前記積層体に含まれる前記粘着剤層の前記第1の領域となる領域に活性エネルギー線を照射する工程と、
をこの順序で含む、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項4~7のいずれか一項に記載のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの製造方法であって、
基材層の表面上に、活性エネルギー線が照射されることによって粘着力が低下する組成物からなる粘着剤層を形成する工程と、
前記粘着剤層の前記第1の領域となる領域に活性エネルギー線を照射する工程と、
前記活性エネルギー線を照射した後の前記粘着剤層の表面上に前記接着剤層を積層する工程と、
をこの順序で含む、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置の製造方法、並びにダイシング・ダイボンディング一体型フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は以下の工程を経て製造される。まず、ウェハにダイシング用粘着フィルムを貼り付けた状態でダイシング工程を実施する。その後、エキスパンド工程、ピックアップ工程及びダイボンディング工程等が実施される。
【0003】
半導体装置の製造プロセスにおいて、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムと称されるフィルムが使用されている。このフィルムは、基材層と粘着剤層と接着剤層がこの順序で積層された構造を有し、例えば、次のように使用される。まず、ウェハに対して接着剤層側の面を貼り付けるとともにダイシングリングでウェハを固定した状態でウェハをダイシングする。これにより、ウェハが多数のチップに個片化される。続いて、粘着剤層に対して紫外線を照射することによって接着剤層に対する粘着剤層の粘着力を弱めた後、接着剤層が個片化されてなる接着剤片とともにチップを粘着剤層からピックアップする。その後、接着剤片を介してチップを基板等にマウントする工程を経て半導体装置が製造される。なお、ダイシング工程を経て得られるチップと、これに付着した接着剤片とからなる積層体は接着剤片付きチップと称される。
【0004】
上述のように、紫外線の照射によって粘着力が弱まる粘着剤層(ダイシングフィルム)はUV硬化型と称される。これに対し、半導体装置の製造プロセスにおいて紫外線が照射されることなく、粘着力が一定のままの粘着剤層は感圧型と称される。感圧型の粘着剤層を備えるダイシング・ダイボンディング一体型フィルムは、ユーザー(主に半導体装置メーカー)にとって、紫外線を照射する工程を実施する必要がなく、また、このための設備が不要であるというメリットがある。特許文献1は、粘着剤層が紫外線によって硬化する成分を含有する点でUV硬化型であると言える一方、粘着剤層の所定の部分のみに予め紫外線が照射されており、ユーザーは半導体装置の製造プロセスにおいて紫外線を照射する必要がない点で感圧型であるとも言えるダイシング・ダイボンドフィルムを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ダイシング・ダイボンド一体型フィルムの粘着剤層は、ダイシング工程において接着剤層及びダイシングリングに対する高い粘着力が求められる。粘着剤層の粘着力が不十分であると、ダイシングブレードの高速回転に伴って接着剤層と粘着剤層の間で剥離が生じるとともに接着剤層が破断し、接着剤層の切れ端が飛散する現象が生じる。この現象は「DAF飛び」と称される。なお、DAFはDie attach filmを意味する。あるいは、切削水の水流によってダイシングリングが粘着剤層から剥離する現象(以下、この現象を「リング剥がれ」という。)が生じる。また近年、ウェハ薄化に伴い冷却エキスパンドによってウェハ及び接着剤層を個片化するプロセスが増えている。冷却エキスパンド工程においても粘着剤層の粘着力が不十分であると、エキスパンド時の衝撃及び応力により、DAFの外周部が破断し、切れ端が飛散する現象(DAF飛び)が生じたり、接着剤片付きチップの端部と粘着剤層との剥離(チップエッジ剥離)が生じ、その後の工程に不具合が発生する場合がある。
【0007】
ところで、ダイシング・ダイボンド一体型フィルムのユーザーは、なるべく一定の条件で活性化エネルギー線(例えば紫外線)の照射を実施したいというニーズを有している。そのため、例えば、ダイシング・ダイボンド一体型フィルムの処方の変更に伴って粘着剤層の粘着力が変わったとしても、ユーザーに対して活性化エネルギー線の照射条件を柔軟に調整することを要求することは難しい状況にある。
【0008】
本開示は、ユーザーにとって使い勝手が良く且つ半導体装置を効率的に製造するのに有用なダイシング・ダイボンディング一体型フィルム及びその製造方法を提供する。また、本開示は、上記ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを用いた半導体装置の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面は、半導体装置の製造方法に関する。この製造方法は以下の工程を含む。
(A)基材層、粘着剤層及び接着剤層がこの順序で積層されており、粘着剤層が活性エネルギー線の照射によって接着剤層に対する粘着力が予め低下している第1の領域を有するダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを準備する工程
(B)ウェハに対してステルスダイシング、又はブレードによるハーフカットをする工程
(C)接着剤層における、第1の領域に対応する領域にウェハを貼る工程
(D)基材層を冷却条件下においてエキスパンドすることによって、ウェハ及び接着剤層が個片化されてなる接着剤片付きチップを得る工程
(E)粘着剤層に活性化エネルギー線を照射することによって、接着剤片付きチップに対する粘着剤層の粘着力を低下させる工程
(F)基材層をエキスパンドした状態で接着剤片付きチップを前記粘着剤層からピックアップする工程
(G)接着剤片付きチップを、基板又は他のチップ上にマウントする工程
そして、(A)工程におけるダイシング・ダイボンディング一体型フィルムは、温度23℃において剥離角度30°及び剥離速度60mm/分の条件で測定される、接着剤層に対する第1の領域の粘着力が6.0N/25mm以上12.5N/25mm以下である。
【0010】
上記製造方法によれば、活性エネルギー線の照射(一回目の照射)によって接着剤層に対する粘着剤層の粘着力が予め調整されたダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを使用し且つ(E)工程における活性化エネルギー線の照射(二回目の照射)によって接着剤片付きチップに対する粘着剤層の粘着力を低下させる。このため、(D)工程におけるDAF飛び又はチップエッジ剥離の発生を十分に抑制でき、且つ(F)工程において優れたピックアップ性を達成できる。
【0011】
(D)工程で得られる接着剤片付きチップは、比較的サイズの大きなものであってもよい。すなわち、上記接着剤片付きチップは、平面視において、正方形又は長方形の形状を有し且つ6.0mm以上の辺を有するものであってもよい。比較的サイズの大きい接着剤片付きチップは反りが生じやすく、これに起因して(D)工程において接着剤片付きチップが剥離し、(F)工程においてチップが割れたり、ピックアップ不良が発生しやすい。本開示に係る製造方法によれば、(F)工程におけるこれらの不具合を十分に抑制できる。
【0012】
粘着剤層は、接着剤層に対する粘着力が第1の領域よりも大きい第2の領域を有してもよい。この場合、(C)工程と同時又は(D)工程の前において、第2の領域にダイシングリングを貼り付けることができる。
【0013】
本開示の一側面に係るダイシング・ダイボンディング一体型フィルムは、基材層と、接着剤層と、基材層と接着剤層の間に配置されており活性エネルギー線の照射によって接着剤層に対する粘着力が予め低下している第1の領域を有する粘着剤層とを備え、温度23℃において剥離角度30°及び剥離速度60mm/分の条件で測定される、接着剤層に対する第1の領域の粘着力が6.0N/25mm以上12.5N/25mm以下である。
【0014】
このダイシング・ダイボンディング一体型フィルムは、接着剤層に対する粘着剤の粘着力が活性エネルギー線の照射によって予め調整されている。例えば、ダイシング・ダイボンド一体型フィルムの処方の変更に伴って粘着剤層の粘着力が変わったとしても、当該フィルムのメーカーがその粘着力を予め調整してユーザーに提供することで、ユーザーは活性化エネルギー線の照射条件を変更することなく、従前の条件のまま半導体装置の製造を継続し得る。
【0015】
上記ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムは、優れたピックアップ性の観点から、第1の領域に対して150mJ/cm2の量の紫外線が照射された後、温度23℃において剥離角度30°及び剥離速度60mm/分の条件で測定される、接着剤層に対する当該第1の領域の粘着力が1.2N/25mm以下であることが好ましい。上記ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムは、ウェハを面積30~250mm2の複数のチップに個片化する工程を含む半導体装置製造プロセスに適用することができる。
【0016】
本開示の一側面は上記ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの製造方法に関する。この製造方法の第1の態様は、基材層の表面上に、活性エネルギー線が照射されることによって粘着力が低下する組成物からなる粘着剤層と、粘着剤層の表面上に形成された接着剤層とを含む積層体を作製する工程と、積層体に含まれる粘着剤層の第1の領域となる領域に活性エネルギー線を照射する工程とをこの順序で含む。他方、この製造方法の第2の態様は、基材層の表面上に、活性エネルギー線が照射されることによって粘着力が低下する組成物からなる粘着剤層を形成する工程と、粘着剤層の第1の領域となる領域に活性エネルギー線を照射する工程と、活性エネルギー線を照射した後の前記粘着剤層の表面上に接着剤層を積層する工程とをこの順序で含む。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、ユーザーにとって使い勝手が良く且つ半導体装置を効率的に製造するのに有用なダイシング・ダイボンディング一体型フィルム及びその製造方法が提供される。また、本開示によれば、上記ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを用いた半導体装置の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1(a)はダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの一実施形態を示す平面図であり、
図1(b)は
図1(a)に示すB-B線に沿った模式断面図である。
【
図2】
図2はダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの粘着剤層の周縁部にダイシングリングが貼り付けられるとともに、接着剤層の表面にウェハが貼り付けられた状態を示す模式図である。
【
図3】
図3は接着剤層に対する粘着剤層の30°ピール強度を測定している様子を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図4は半導体装置の一実施形態の模式断面図である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は、接着剤片付きチップを製造する過程を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6(a)~
図6(c)は、接着剤片付きチップを製造する過程を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7(a)及び
図7(b)は
図4に示す半導体装置を製造する過程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態について詳細に説明する。以下の説明では、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0020】
<ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム>
図1(a)は、本実施形態に係るダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを示す平面図であり、
図1(b)は、
図1のB-B線に沿った模式断面図である。ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム10(以下、場合により、単に「フィルム10」という。)は、基材層1と、基材層1と対面する第1の面F1及びその反対側の第2の面F2を有する粘着剤層3と、粘着剤層3の第2の面F2の中央部を覆うように設けられた接着剤層5とをこの順序で備える。本実施形態においては、正方形の基材層1の上に、粘着剤層3及び接着剤層5の積層体が一つ形成された態様を例示したが、基材層1が所定の長さ(例えば、100m以上)を有し、その長手方向に並ぶように、粘着剤層3及び接着剤層5の積層体が所定の間隔で配置された態様であってもよい。
【0021】
(粘着剤層)
粘着剤層3は、接着剤層5におけるウェハWの貼付け位置に対応する領域Rwを少なくとも含む第1の領域3aと、第1の領域3aを囲むように位置する第2の領域3bとを有する。
図1(a)及び
図1(b)における破線は第1の領域3aと第2の領域3bの境界を示す。第1の領域3a及び第2の領域3bは、活性エネルギー線の照射前において同一の組成物からなる。第1の領域3aは、紫外線等の活性エネルギー線が照射されることによって、第2の領域3bと比較して粘着力が低下した状態の領域である。第2の領域3bはダイシングリングDRが貼り付けられる領域である(
図2参照)。第2の領域3bは活性エネルギー線が照射されていない領域であり、ダイシングリングDRに対する高い粘着力を有する。
【0022】
接着剤層5に対する第1の領域3aの粘着力は6.0N/25mm以上12.5N/25mm以下である。この粘着力は、温度23℃において剥離角度30°及び剥離速度60mm/分の条件で測定される30°ピール強度である。
図3は支持板80に測定試料(幅25mm×長さ100mm)の接着剤層5を固定した状態で、粘着剤層3の30°ピール強度を測定している様子を模式的に示す断面図である。接着剤層5に対する第1の領域3aの粘着力(30°ピール強度)を上記範囲とすることで、冷却エキスパンド時におけるDAF飛び又はチップエッジ剥離を十分に抑制できる。これにより、十分に高い歩留まりで半導体装置を製造することが可能となる。この粘着力の下限値は6.5N/25mm又は7.0N/25mmであってもよく、上限値は11.5N/25mm又は10.5N/25mmであってもよい。
【0023】
接着剤層5に対する第1の領域3aの粘着力は、第1の領域3aに対して150mJ/cm
2の量の紫外線(主波長:365nm)が照射された後において、1.2N/25mm以下であることが好ましく、0.4N/25mm以上1.2N/25mm以下又は0.5N/25mm以上1.1N/25mm以下であってもよい。かかる粘着剤層3を備えるフィルム10によれば、優れたピックアップ性を達成できる。なお、この粘着力は、上記と同様、温度23℃において剥離角度30°及び剥離速度60mm/分の条件で測定される30°ピール強度である(
図3参照)。
【0024】
第2の領域3bのステンレス基板に対する粘着力は0.2N/25mm以上であることが好ましい。この粘着力は、温度23℃において剥離角度90°及び剥離速度50mm/分の条件で測定される90°ピール強度である。この粘着力が0.2N/25mm以上であることで、ダイシング時におけるリング剥がれを十分に抑制することができる。この粘着力の下限値は0.3N/25mm又は0.4N/25mmであってもよく、上限値は、例えば、2.0N/25mmであり、1.0N/25mmであってもよい。
【0025】
活性エネルギー線照射前の粘着剤層は、例えば、(メタ)アクリル系樹脂と、光重合開始剤と、架橋剤とを含む粘着剤組成物からなる。活性エネルギー線が照射されない第2の領域3bは活性エネルギー線照射前の粘着剤層と同じ組成からなる。以下、粘着剤組成物の含有成分について詳細に説明する。
【0026】
[(メタ)アクリル系樹脂]
粘着剤組成物は、連鎖重合可能な官能基を有する(メタ)アクリル系樹脂を含み、官能基がアクリロイル基及びメタクリロイル基から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。活性エネルギー線照射前の粘着剤層における上記官能基の含有量は、例えば、0.1~1.2mmol/gであり、0.3~1.0mmol/g又は0.5~0.8mmol/gであってもよい。上記官能基の含有量が0.1mmol/g以上であることで、活性エネルギー線の照射によって粘着力が適度に低下した領域(第1の領域3a)を形成しやすく、他方、1.2mmol/g以下であることで、優れたピックアップ性を達成しやすい。
【0027】
(メタ)アクリル系樹脂は、既知の方法で合成することで得ることができる。合成方法としては、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法、析出重合法、気相重合法、プラズマ重合法、超臨界重合法が挙げられる。また、重合反応の種類としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、リビングラジカル重合、リビングカチオン重合、リビングアニオン重合、配位重合、イモーダル重合等の他、ATRP(原子移動ラジカル重合)及びRAFTP(可逆的付加開裂連鎖移動重合)といった手法も挙げられる。この中でも、溶液重合法を用いてラジカル重合により合成することは、経済性の良さ、反応率の高さ、重合制御の容易さなどの他、重合で得られた樹脂溶液をそのまま用いて配合できる等の利点を有する。
【0028】
ここで、溶液重合法を用いてラジカル重合によって、(メタ)アクリル系樹脂を得る方法を例に、(メタ)アクリル系樹脂の合成法について詳細に説明する。
【0029】
(メタ)アクリル系樹脂を合成する際に用いられるモノマーとしては、一分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有するものであれば特に制限はない。その具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチルヘプチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、モノ(2-(メタ)アクリロイロキシエチル)スクシネート等の脂肪族(メタ)アクリレート;シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、モノ(2-(メタ)アクリロイロキシエチル)テトラヒドロフタレート、モノ(2-(メタ)アクリロイロキシエチル)ヘキサヒドロフタレート等の脂環式(メタ)アクリレート;ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、o-ビフェニル(メタ)アクリレート、1-ナフチル(メタ)アクリレート、2-ナフチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、p-クミルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、1-ナフトキシエチル(メタ)アクリレート、2-ナフトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(o-フェニルフェノキシ)プロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(1-ナフトキシ)プロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-(2-ナフトキシ)プロピル(メタ)アクリレート等の芳香族(メタ)アクリレート;2-テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、N-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-N-カルバゾール等の複素環式(メタ)アクリレート、これらのカプロラクトン変性体、ω-カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、α-エチルグリシジル(メタ)アクリレート、α-プロピルグリシジル(メタ)アクリレート、α-ブチルグリシジル(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、2-エチルグリシジル(メタ)アクリレート、2-プロピルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシブチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシヘプチル(メタ)アクリレート、α-エチル-6,7-エポキシヘプチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、o-ビニルベンジルグリシジルエーテル、m-ビニルベンジルグリシジルエーテル、p-ビニルベンジルグリシジルエーテル等のエチレン性不飽和基とエポキシ基を有する化合物;(2-エチル-2-オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-オキセタニル)メチル(メタ)アクリレート、2-(2-エチル-2-オキセタニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-メチル-2-オキセタニル)エチル(メタ)アクリレート、3-(2-エチル-2-オキセタニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(2-メチル-2-オキセタニル)プロピル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和基とオキセタニル基を有する化合物;2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等のエチレン性不飽和基とイソシアネート基を有する化合物;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和基とヒドロキシル基を有する化合物が挙げられ、これらを適宜組み合わせて目的とする(メタ)アクリル系樹脂を得ることができる。
【0030】
(メタ)アクリル系樹脂は、後述する官能基導入化合物又は架橋剤との反応点として、水酸基、グリシジル基及びアミノ基等から選ばれる少なくとも一種の官能基を有することが好ましい。水酸基を有する(メタ)アクリル系樹脂を合成するためのモノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和基とヒドロキシル基を有する化合物が挙げられ、これらは一種を単独で、あるいは、二種以上を併用することができる。
【0031】
グリシジル基を有する(メタ)アクリル系樹脂を合成するためのモノマーとしては、グリシジル(メタ)アクリレート、α-エチルグリシジル(メタ)アクリレート、α-プロピルグリシジル(メタ)アクリレート、α-ブチルグリシジル(メタ)アクリレート、2-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、2-エチルグリシジル(メタ)アクリレート、2-プロピルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシブチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシヘプチル(メタ)アクリレート、α-エチル-6,7-エポキシヘプチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、o-ビニルベンジルグリシジルエーテル、m-ビニルベンジルグリシジルエーテル、p-ビニルベンジルグリシジルエーテル等のエチレン性不飽和基とエポキシ基を有する化合物が挙げられ、これらは一種を単独で、あるいは、二種以上を併用することができる。
【0032】
これらのモノマーから合成される(メタ)アクリル系樹脂は、連鎖重合可能な官能基を含むことが好ましい。連鎖重合可能な官能基は、例えば、アクリロイル基及びメタクリロイル基から選ばれる少なくとも一種である。連鎖重合可能な官能基は、例えば、上述のように合成された(メタ)アクリル系樹脂に以下の化合物(官能基導入化合物)を反応させることにより、当該(メタ)アクリル系樹脂中に導入することができる。官能基導入化合物の具体例として、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、メタ-イソプロペニル-α,α-ジメチルベンジルイソシアネート、メタクリロイルイソシアネート、アリルイソシアネート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートもしくは4-ヒドロキシブチルエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物;ジイソシアネート化合物またはポリイソシアネート化合物と、ポリオール化合物と、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られるアクリロイルモノイソシアネート化合物などが挙げられる。これらの中でも、特に2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートが好ましい。これらの化合物は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
[光重合開始剤]
光重合開始剤としては、活性エネルギー線(紫外線、電子線及び可視光線から選ばれる少なくとも一種)を照射することで連鎖重合可能な活性種を発生するものであれば、特に制限はなく、例えば、光ラジカル重合開始剤が挙げられる。ここで連鎖重合可能な活性種とは、連鎖重合可能な官能基と反応することで重合反応が開始されるものを意味する。
【0034】
光ラジカル重合開始剤としては、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンゾインケタール;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のα-ヒドロキシケトン;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、1,2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン等のα-アミノケトン;1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタジオン-2-(ベンゾイル)オキシム等のオキシムエステル;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド;2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;ベンゾフェノン、N,N´-テトラメチル-4,4´-ジアミノベンゾフェノン、N,N´-テトラエチル-4,4´-ジアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4´-ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;2-エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ベンズアントラキノン、2-フェニルアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-メチルアントラキノン、1,4-ナフトキノン、9,10-フェナントラキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルアントラキノン等のキノン化合物;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル;ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン化合物;ベンジルジメチルケタール等のベンジル化合物;9-フェニルアクリジン、1,7-ビス(9、9´-アクリジニルヘプタン)等のアクリジン化合物:N-フェニルグリシン、クマリンが挙げられる。
【0035】
粘着剤組成物における光重合開始剤の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂の含有量100質量部に対し、例えば、0.1~30質量部であり、0.3~10質量部であることが好ましく、0.5~5質量部であることがより好ましい。光重合開始剤の含有量が0.1質量部未満であると粘着剤層が活性エネルギー線照射後に硬化不足となり、ピックアップ不良が起こりやすい。光重合開始剤の含有量が30質量部を超えると接着剤層への汚染(光重合開始剤の接着剤層への転写)が生じやすい。
【0036】
[架橋剤]
架橋剤は、例えば、粘着剤層の弾性率及び/又は粘着性の制御を目的に用いられる。架橋剤は、上記(メタ)アクリル系樹脂が有する水酸基、グリシジル基及びアミノ基等から選ばれる少なくとも一種の官能基と反応し得る官能基を一分子中に二つ以上有する化合物であればよい。架橋剤と(メタ)アクリル系樹脂との反応によって形成される結合としては、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、ウレア結合等が挙げられる。
【0037】
本実施形態においては、架橋剤として、一分子中に二つ以上のイソシアネート基を有する化合物を採用することが好ましい。このような化合物を用いると、上記(メタ)アクリル系樹脂が有する水酸基、グリシジル基及びアミノ基等と容易に反応し、強固な架橋構造を形成することができる。
【0038】
一分子中に二つ以上のイソシアネート基を有する化合物としては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4´-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4´-ジイソシアネート、3-メチルジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4´-ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-2,4´-ジイソシアネート、リジンイソシアネート等のイソシアネート化合物が挙げられる。
【0039】
架橋剤として、上述のイソシアネート化合物と、一分子中に二つ以上のOH基を有する多価アルコールの反応物(イソシアネート基含有オリゴマー)を採用してもよい。一分子中に二つ以上のOH基を有する多価アルコールの例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオールが挙げられる。
【0040】
これらの中でも、架橋剤として、一分子中に二つ以上のイソシアネート基を有する多官能イソシアネートと、一分子中に三つ以上のOH基を有する多価アルコールの反応物(イソシアネート基含有オリゴマー)であることが更に望ましい。このようなイソシアネート基含有オリゴマーを架橋剤として用いることで、粘着剤層3が緻密な架橋構造を形成し、これにより、ピックアップ工程において接着剤層5に粘着剤が付着することを十分に抑制できる。
【0041】
粘着剤組成物における架橋剤の含有量は、粘着剤層に対して求められる凝集力及び破断伸び率、並びに、接着剤層5との密着性等に応じて適宜設定すればよい。具体的には、架橋剤の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂の含有量100質量部に対し、例えば、3~30質量部であり、4~15質量部であることが好ましく、7~10質量部であることがより好ましい。架橋剤の含有量を上記範囲とすることで、ダイシング工程において粘着剤層に求められる特性と、ダイボンディング工程において粘着剤層3に求められる特性とをバランスよく両立することが可能であるとともに、優れたピックアップ性も達成し得る。
【0042】
架橋剤の含有量が(メタ)アクリル系樹脂の含有量100質量部に対して3質量部未満であると、架橋構造の形成が不十分となりやすく、これに起因して、ピックアップ工程において、接着剤層5との界面密着力が十分に低下せずにピックアップ時に不良が発生しやすい。他方、架橋剤の含有量が(メタ)アクリル系樹脂の含有量100質量部に対して30質量部を超えると、粘着剤層3が過度に硬くなりやすく、これに起因して、エキスパンド工程において半導体チップが剥離しやすい。
【0043】
粘着剤組成物の全質量に対する架橋剤の含有量は、例えば、0.1~20質量%であり、3~17質量%又は5~15質量%であってもよい。架橋剤の含有量が0.1質量%以上であることで、活性エネルギー線の照射によって粘着力が適度に低下した領域(第1の領域3a)を形成しやすく、他方、15質量%以下であることで、優れたピックアップ性を達成しやすい。
【0044】
粘着剤層3の厚さは、エキスパンド工程の条件(温度及び張力等)に応じて適宜設定すればよく、例えば、1~200μmであり、5~50μmであることが好ましく、10~20μmであることがより好ましい。粘着剤層3の厚さが1μm未満であると粘着性が不十分となりやすく、200μmを超えると、エキスパンド時にカーフ幅が狭く(ピン突き上げ時に応力を緩和してしまい)ピックアップが不十分になりやすい。
【0045】
粘着剤層3は基材層1上に形成されている。粘着剤層3の形成方法としては、既知の手法を採用できる。例えば、基材層1と粘着剤層3との積層体を二層押し出し法で形成してもよいし、粘着剤層3の形成用ワニスを調製し、これを基材層1の表面に塗工する、あるいは、離型処理されたフィルム上に粘着剤層3を形成し、これを基材層1に転写してもよい。
【0046】
粘着剤層3の形成用ワニスは、(メタ)アクリル系樹脂、光重合開始剤及び架橋剤を溶解し得る有機溶剤であって加熱により揮発するものを使用して調製することが好ましい。有機溶剤の具体例としては、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、p-シメン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の環状エーテル;メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の多価アルコールアルキルエーテルアセテート;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミドが挙げられる。
【0047】
これらの中で、溶解性及び沸点の観点から、例えば、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、N,N-ジメチルアセトアミドであることが好ましい。これらの有機溶剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。ワニスの固形分濃度は、通常10~60質量%であることが好ましい。
【0048】
(基材層)
基材層1としては、既知のポリマーシート又はフィルムを用いることができ、低温条件下において、エキスパンド工程を実施可能なものであれば、特に制限はない。具体的には、基材層1として、結晶性ポリプロピレン、非晶性ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、低密度直鎖ポリエチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリフェニルスルフイド、アラミド(紙)、ガラス、ガラスクロス、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース系樹脂、シリコーン樹脂、又は、これらに可塑剤を混合した混合物、あるいは、電子線照射により架橋を施した硬化物が挙げられる。
【0049】
基材層1は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン-ポリプロピレンランダム共重合体、ポリエチレン-ポリプロピレンブロック共重合体から選ばれる少なくとも一種の樹脂を主成分とする表面を有し、この表面と粘着剤層3が接していることが好ましい。これらの樹脂は、ヤング率、応力緩和性及び融点等の特性、並びに、価格面、使用後の廃材リサイクル等の観点からも良好な基材である。基材層1は、単層でも構わないが、必要に応じて異なる材質からなる層が積層された多層構造を有していてもよい。粘着剤層3との密着性を制御するため、基材層1の表面に対して、マット処理、コロナ処理等の表面粗化処理を施してもよい。
【0050】
(接着剤層)
接着剤層5には、既知のダイボンディングフィルムを構成する接着剤組成物を適用できる。具体的には、接着剤層5を構成する接着剤組成物は、エポキシ基含有アクリル共重合体、エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化剤を含有することが好ましい。これらの成分を含む接着剤層5によれば、チップ/基板間、チップ/チップ間の接着性に優れ、また電極埋め込み性及びワイヤ埋め込み性等も付与可能で、かつダイボンディング工程では低温で接着でき、短時間で優れた硬化が得られる、封止剤でモールド後は優れた信頼性を有する等の特徴があり好ましい。
【0051】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジリエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジリエーテル化物、フェノール類のジグリシジリエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、及びこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物等の二官能エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。また、多官能エポキシ樹脂及び複素環含有エポキシ樹脂等、一般に知られているその他のエポキシ樹脂を適用してもよい。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。なお、特性を損なわない範囲でエポキシ樹脂以外の成分が不純物として含まれていてもよい。
【0052】
エポキシ樹脂硬化剤としては、例えば、フェノール化合物と二価の連結基であるキシリレン化合物を、無触媒又は酸触媒の存在下に反応させて得ることができるフェノール樹脂のようなものが挙げられる。フェノール樹脂の製造に用いられるフェノール化合物としては、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、o-エチルフェノール、p-エチルフェノール、o-n-プロピルフェノール、m-n-プロピルフェノール、p-n-プロピルフェノール、o-イソプロピルフェノール、m-イソプロピルフェノール、p-イソプロピルフェノール、o-n-ブチルフェノール、m-n-ブチルフェノール、p-n-ブチルフェノール、o-イソブチルフェノール、m-イソブチルフェノール、p-イソブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、2,4-キシレノール、2,6-キシレノール、3,5-キシレノール、2,4,6-トリメチルフェノール、レゾルシン、カテコール、ハイドロキノン、4-メトキシフェノール、o-フェニルフェノール、m-フェニルフェノール、p-フェニルフェノール、p-シクロヘキシルフェノール、o-アリルフェノール、p-アリルフェノール、o-ベンジルフェノール、p-ベンジルフェノール、o-クロロフェノール、p-クロロフェノール、o-ブロモフェノール、p-ブロモフェノール、o-ヨードフェノール、p-ヨードフェノール、o-フルオロフェノール、m-フルオロフェノール、p-フルオロフェノール等が例示される。これらのフェノール化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。フェノール樹脂の製造に用いられる二価の連結基であるキシリレン化合物としては、次に示すキシリレンジハライド、キシリレンジグリコール及びその誘導体が用いることができる。すなわち、α,α´-ジクロロ-p-キシレン、α,α´-ジクロロ-m-キシレン、α,α´-ジクロロ-o-キシレン、α,α´-ジブロモ-p-キシレン、α,α´-ジブロモ-m-キシレン、α,α´-ジブロモ-o-キシレン、α,α´-ジヨード-p-キシレン、α,α´-ジヨード-m-キシレン、α,α´-ジヨード-o-キシレン、α,α´-ジヒドロキシ-p-キシレン、α,α´-ジヒドロキシ-m-キシレン、α,α´-ジヒドロキシ-o-キシレン、α,α´-ジメトキシ-p-キシレン、α,α´-ジメトキシ-m-キシレン、α,α´-ジメトキシ-o-キシレン、α,α´-ジエトキシ-p-キシレン、α,α´-ジエトキシ-m-キシレン、α,α´-ジエトキシ-o-キシレン、α,α´-ジ-n-プロポキシ-p-キシレン、α,α´-ジ-n-プロポキシ-m-キシレン、α,α´-ジ-n-プロポキシ-o-キシレン、α,α´-ジ-イソプロポキシ-p-キシレン、α,α´-ジイソプロポキシ-m-キシレン、α,α´-ジイソプロポキシ-o-キシレン、α,α´-ジ-n-ブトキシ-p-キシレン、α,α´-ジ-n-ブトキシ-m-キシレン、α,α´-ジ-n-ブトキシ-o-キシレン、α,α´-ジイソブトキシ-p-キシレン、α,α´-ジイソブトキシ-m-キシレン、α,α´-ジイソブトキシ-o-キシレン、α,α´-ジ-tert-ブトキシ-p-キシレン、α,α´-ジ-tert-ブトキシ-m-キシレン、α,α´-ジ-tert-ブトキシ-o-キシレンを挙げることができる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
上記したフェノール化合物とキシリレン化合物を反応させる際には、塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸等の鉱酸類;ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機カルボン酸類;トリフロロメタンスルホン酸等の超強酸類;アルカンスルホン酸型イオン交換樹脂のような、強酸性イオン交換樹脂類;パーフルオロアルカンスルホン酸型イオン交換樹脂の様な、超強酸性イオン交換樹脂類(商品名:ナフィオン、Nafion、Du Pont社製、「ナフィオン」は登録商標);天然及び合成ゼオライト類;活性白土(酸性白土)類等の酸性触媒を用い、50~250℃において実質的に原料であるキシリレン化合物が消失し、且つ反応組成が一定になるまで反応させて得られる。反応時間は原料及び反応温度にもよるが、おおむね1時間~15時間程度であり、実際には、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)等により反応組成を追跡しながら決定すればよい。
【0054】
エポキシ基含有アクリル共重合体は、原料としてグリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートを、得られる共重合体に対し0.5~6質量%となる量用いて得られた共重合体であることが好ましい。この量が0.5質量%以上であることで高い接着力を得やすく、他方、6質量%以下であることでゲル化を抑制できる。その残部はメチルアクリレート、メチルメタクリレート等の炭素数1~8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、及びスチレン、アクリロニトリル等の混合物を用いることができる。これらの中でもエチル(メタ)アクリレート及び/又はブチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。混合比率は、共重合体のTgを考慮して調整することが好ましい。Tgが-10℃未満であるとBステージ状態での接着剤層5のタック性が大きくなる傾向があり、取り扱い性が悪化する傾向にある。なお、エポキシ基含有アクリル共重合体のガラス転移点(Tg)の上限値は、例えば、30℃である。重合方法は特に制限がなく、例えば、パール重合、溶液重合が挙げられる。市販のエポキシ基含有アクリル共重合体としては、例えば、HTR-860P-3(商品名、ナガセケムテックス株式会社製)が挙げられる。
【0055】
エポキシ基含有アクリル共重合体の重量平均分子量は10万以上であり、この範囲であると接着性及び耐熱性が高く、30万~300万であることが好ましく、50万~200万であることがより好ましい。重量平均分子量が300万以下であると、半導体チップと、これを支持する基板との間の充填性が低下することを抑制できる。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値である。
【0056】
接着剤層5は、必要に応じて、第三級アミン、イミダゾール類、第四級アンモニウム塩類等の硬化促進剤を更に含有してもよい。硬化促進剤の具体例としては、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテートが挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0057】
接着剤層5は、必要に応じて、無機フィラーを更に含有してもよい。無機フィラーの具体例としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ほう酸アルミウイスカ、窒化ほう素、結晶質シリカ、非晶質シリカが挙げられる。これらは一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0058】
接着剤層5の厚さは、例えば、1~300μmであり、5~150μmであることが好ましく、10~100μmであることがより好ましい。接着剤層5の厚さが1μm未満であると接着性が不十分となりやすく、他方、300μmを超えるとエキスパンド時の分断性及びピックアップ性が不十分となりやすい。
【0059】
なお、接着剤層5は熱硬化性樹脂を含まない態様であってもよい。例えば、接着剤層5が反応性基含有(メタ)アクリル共重合体を含む場合、接着剤層5は、反応性基含有(メタ)アクリル共重合体と、硬化促進剤と、フィラーとを含むものであればよい。
【0060】
<ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの製造方法>
フィルム10の製造方法は、基材層1の表面上に、活性エネルギー線が照射されることによって粘着力が低下する粘着剤組成物からなる粘着剤層と、粘着剤層の表面上に形成された接着剤層5とを含む積層体を作製する工程と、積層体に含まれる粘着剤層の第1の領域3aとなる領域に活性エネルギー線を照射する工程とをこの順序で含む。第1の領域3aとなる領域に対する活性エネルギー線の照射量は、例えば、10~1000mJ/cm2であり、100~700mJ/cm2又は200~500mJ/cm2であってもよい。
【0061】
上記製造方法は、粘着剤層と接着剤層5の積層体を先に作製し、その後、粘着剤層の特定の領域に活性エネルギー線を照射するものである。以下のとおり、接着剤層5と貼り合わせる前の粘着剤層に対して活性エネルギー線を照射して第1の領域3aを形成してもよい。すなわち、フィルム10の製造方法は、基材層1の表面上に、活性エネルギー線が照射されることによって粘着力が低下する組成物からなる粘着剤層を形成する工程と、粘着剤層の第1の領域3aとなる領域に活性エネルギー線を照射する工程と、活性エネルギー線を照射した後の粘着剤層3の表面上に接着剤層5を積層する工程とをこの順序で含むものであってよい。
【0062】
<半導体装置及びその製造方法>
図4は本実施形態に係る半導体装置を模式的に示す断面図である。この図に示す半導体装置100は、基板70と、基板70の表面上に積層された四つのチップS1,S2,S3,S4と、基板70の表面上の電極(不図示)と四つのチップS1,S2,S3,S4とを電気的に接続するワイヤW1,W2,W3,W4と、これらを封止している封止層50とを備える。
【0063】
基板70は、例えば、有機基板であり、リードフレーム等の金属基板であってもよい。半導体装置100の反りを抑制する観点から、基板70の厚さは、例えば、70~140μmであり、80~100μmであってもよい。
【0064】
四つのチップS1,S2,S3,S4は、接着剤片5Pの硬化物5Cを介して積層されている。平面視におけるチップS1,S2,S3,S4の形状は、例えば正方形又は長方形である。チップS1,S2,S3,S4の面積は30~250mm2であり、40~200mm2又は50~150mm2であってもよい。チップS1,S2,S3,S4の一辺の長さは、例えば、6.0mm以上であり、7.0~18mm又8.0~15mmであってもよい。チップS1,S2,S3,S4の厚さは、例えば、10~150μmであり、20~80μmであってもよい。なお、四つのチップS1,S2,S3,S4の一辺の長さは同じであっても、互いに異なっていてもよく、厚さについても同様である。また、四つのチップS1,S2,S3,S4は比較的サイズが小さいものであってもよい。すなわち、チップS1,S2,S3,S4の面積は、30mm2未満であってもよく、例えば、0.1~20mm2又は1~15mm2であってもよい。
【0065】
半導体装置100の製造方法は、以下の工程を含む。
(A)フィルム10を準備する工程
(B)ウェハWに対してステルスダイシング、又はブレードによるハーフカットをする工程
(C)接着剤層5における、第1の領域に対応する領域RwにウェハWを貼る工程
(D)基材層1を冷却条件下においてエキスパンドすることによって、ウェハW及び接着剤層5が個片化されてなる接着剤片付きチップ8を得る工程
(E)粘着剤層3に活性化エネルギー線を照射することによって、接着剤片付きチップ8に対する粘着剤層3の粘着力を低下させる工程
(F)基材層1をエキスパンドした状態で接着剤片付きチップ8を粘着剤層3からピックアップする工程
(G)接着剤片付きチップ8を、基板又は他のチップ上にマウントする工程
【0066】
半導体装置100の製造方法の一例について具体的に説明する。まず、ウェハWの回路面Waに保護フィルム(BGテープとも称される)を貼り付ける。ウェハWにレーザを照射して複数本の切断予定ラインLを形成する(ステルスダイシング)。その後、必要に応じて、ウェハWに対してバックグラインディング及びポリッシングの処理をする。なお、ここではレーザによるステルスダイシングを例示したが、これの代わりに、ブレードによってウェハWをハーフカットしてもよい。ハーフカットは、ウェハWを切断するのではなく、ウェハWの切断予定ラインLに対応した切込みを形成することを意味する。
【0067】
次いで、
図5(a)に示すように、ウェハWの裏面Wbに接着剤層5が接するようにフィルム10を貼り付ける。また、粘着剤層3の第2の領域3bに対してダイシングリングDRを貼り付ける。その後、0~-15℃の温度条件下での冷却エキスパンドによって、ウェハW及び接着剤層5を個片化する。すなわち、
図5(b)に示すように、基材層1におけるダイシングリングDRの内側領域1aをリングRaで突き上げることによって基材層1に張力を付与する。これにより、ウェハWが切断予定ラインLに沿って分断されるとともに、これに伴って接着剤層5は接着剤片5Pに分断され、粘着剤層3の表面上に複数の接着剤片付きチップ8が得られる。接着剤片付きチップ8は、チップSと、接着剤片5Pとによって構成される。
【0068】
基材層1におけるダイシングリングDRの内側領域1aを加熱することによって内側領域1aを収縮させる。
図6(a)は、ヒータHのブローによって内側領域1aを加熱している様子を模式的に示す断面図である。内側領域1aを環状に収縮させて基材層1に張力を付与することで、隣接する接着剤片付きチップ8の間隔を広げることができる。これにより、ピックアップエラーの発生をより一層抑制できるとともに、ピックアップ工程における接着剤片付きチップ8の視認性を向上させることができる。
【0069】
次いで、
図6(b)に示すように、活性化エネルギー(例えば、紫外線UV)の照射によって粘着剤層3の粘着力を低下させる。粘着剤層3に対する活性エネルギー線の照射量は、例えば、10~1000mJ/cm
2であり、100~700mJ/cm
2又は200~500mJ/cm
2であってもよい。その後、
図6(c)に示すにように、突き上げ冶具42で接着剤片付きチップ8を突き上げることによって粘着剤層3から接着剤片付きチップ8をはく離させるとともに、接着剤片付きチップ8を吸引コレット44で吸引してピックアップする。
【0070】
接着剤片付きチップ8は、半導体装置の組立装置(不図示)に搬送され、回路基板等に圧着される。
図7(a)に示すように、接着剤片5Pを介して一段目のチップS1(チップS)を基板70の所定の位置に圧着する。次に、加熱によって接着剤片5Pを硬化させる。これにより、接着剤片5Pが硬化して硬化物5Cとなる。接着剤片5Pの硬化処理は、ボイドの低減の観点から、加圧雰囲気下で実施してもよい。
【0071】
基板70に対するチップS1のマウントと同様にして、チップS1の表面上に二段目のチップS2をマウントする。更に、三段目及び四段目のチップS3,S4をマウントすることによって
図7(b)に示す構造体60が作製される。チップS1,S2,S3,S4と基板70とをワイヤW1,W2,W3,W4で電気的に接続した後、封止層50によって半導体素子及びワイヤを封止することによって
図4に示す半導体装置100が完成する。
【実施例】
【0072】
以下、本開示について、実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に記述がない限り、薬品は全て試薬を使用した。
【0073】
<実施例1>
[アクリル樹脂の合成]
粘着剤層に配合するアクリル樹脂を次のようにして合成した。すなわち、スリーワンモータ、撹拌翼、窒素導入管が備え付けられた容量2000mlのフラスコに以下の成分を入れた。
・酢酸エチル(溶剤):635g
・2-エチルヘキシルアクリレート:395g
・2-ヒドロキシエチルアクリレート:100g
・メタクリル酸:5g
・アゾビスイソブチロニトリル:0.2g
【0074】
十分に均一になるまで内容物を撹拌した後、流量500ml/分にて60分間バブリングを実施し、系中の溶存酸素を脱気した。1時間かけて78℃まで昇温し、昇温後6時間重合させた。次に、スリーワンモータ、撹拌翼、窒素導入管が備え付けられた容量2000mlの加圧釜に反応溶液を移し、120℃、0.28MPaにて4.5時間加温後、室温(25℃、以下同様)に冷却した。
【0075】
次に酢酸エチルを490g加えて撹拌し希釈した。これに重合禁止剤としてメトキノンを0.025g、ウレタン化触媒として、ジオクチルスズジラウレートを0.10g添加した後、2-メタクリロキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製、カレンズMOI(商品名))を81g加え、70℃で6時間反応させたのち室温に冷却した。その後、酢酸エチルを加え、アクリル樹脂溶液中の不揮発分含有量が35質量%となるよう調整し、連鎖重合可能な官能基を有する(A)アクリル樹脂溶液を得た。
【0076】
上記のようにして得た(A)アクリル樹脂を含む溶液を60℃で一晩真空乾燥した。これによって得られた固形分を全自動元素分析装置(エレメンタール社製、商品名:varioEL)にて元素分析し、導入された2-メタクリロキシエチルイソシアネートの含有量を窒素含有量から算出したところ、0.89mmol/gであった。
【0077】
また、以下の装置を使用して(A)アクリル樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量を求めた。すなわち、東ソー株式会社製SD-8022/DP-8020/RI-8020を使用し、カラムには日立化成株式会社製Gelpack GL-A150-S/GL-A160-Sを用い、溶離液にテトラヒドロフランを用いてGPC測定を行った。その結果、ポリスチレン換算重量平均分子量は35万であった。
【0078】
[ダイシングフィルムの作製]
以下の成分を混合することで、粘着剤層形成用のワニスを調製した。このワニスによって形成される粘着剤層は紫外線が照射されることによって硬化するものである。酢酸エチル(溶剤)の量は、ワニスの総固形分含有量が25質量%となるように調整した。
・(A)アクリル樹脂の溶液:100質量部(固形分)、
・(B)光開始剤(1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チバスペシャリティケミカルズ株式会社製、イルガキュア184、「イルガキュア」は登録商標):2.0質量部
・(C)架橋剤(多官能イソシアネート、日本ポリウレタン工業株式会社製、コロネートL、固形分75%):1.1質量部(固形分)
・酢酸エチル(溶剤)
【0079】
一方の面に離型処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルム(幅450mm、長さ500mm、厚さ38μm)を準備した。剥離処理が施された面に、アプリケータを用いて粘着剤層形成用ワニスを塗布した後、80℃で5分間乾燥した。これにより、ポリエチレンテレフタレートフィルムと、その上に形成された粘着剤層(厚さ10μm)とからなる積層体(ダイシングフィルム)を得た。
【0080】
一方の面にコロナ処理が施されたポリオレフィンフィルム(幅450mm、長さ500mm、厚さ100μm)を準備した。コロナ処理が施された面と、上記積層体の粘着剤層とを室温にて貼り合わせた。次いで、ゴムロールで押圧することで粘着剤層をポリオレフィンフィルム(カバーフィルム)に転写した。その後、室温で3日間放置することで粘着剤層を備えるダイシングフィルムを得た。
【0081】
[ダイボンディングフィルムの作製]
以下の成分にシクロヘキサノンを加えて攪拌混合した後、ビーズミルを用いて90分混練した。
・エポキシ樹脂(YDCN-703(商品名)、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量210、分子量1200、軟化点80℃):55質量部
・フェノール樹脂(ミレックスXLC-LL(商品名)、三井化学株式会社製、水酸基当量175、吸水率1.8%、350℃における加熱重量減少率4%):45質量部
・シランカップリング剤1(NUC A-189(商品名)、日本ユニカー株式会社製、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン):1.7質量部
・シランカップリング剤2(NUCA-1160(商品名)、日本ユニカー株式会社製、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン)3:.2質量部
・フィラー(アエロジルR972(商品名)、日本アエロジル株式会社製、シリカ、平均粒径0.016μm):32質量部
なお、「アエロジルR972」は有機基(例えば、メチル基)を表面に有するシリカ粒子であって、シリカ粒子の表面にジメチルジクロロシランを被覆し、400℃の反応器中で加水分解させたものである。
【0082】
上記成分の混合物に以下の成分を加え、攪拌混合した。その後、真空脱気することによって接着剤層形成用のワニスを得た。
・アクリルゴム(HTR-860P-3(商品名)、ナガセケムテックス株式会社製、グリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートの含有量:3質量%、重量平均分子量80万):280質量部
・硬化促進剤(キュアゾール2PZ-CN(商品名)、「キュアゾール」は登録商標、四国化成工業株式会社製、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール):0.5質量部
【0083】
一方の面に離型処理が施されたポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ35μm)を準備した。剥離処理が施された面に接着剤層形成用ワニスを塗布した後、140℃で5分間加熱乾燥した。これにより、ポリエチレンテレフタレートフィルム(キャリアフィルム)と、その上に形成されたBステージ状態の接着剤層(厚さ10μm)とからなる積層体(ダイボンディングフィルム)を得た。
【0084】
[ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの作製]
上記のようにして得たダイボンディングフィルムをキャリアフィルムごと円形(直径:312mm)にカットした。これにカバーフィルムを剥離したダイシングテープを室温で貼り付け後、室温で1日放置した。その後、ダイシングテープを円形(直径:370mm)にカットした。このようにして得たダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの接着剤層におけるウェハの貼付け位置に対応する領域(粘着剤層の第1の領域)に対し、高圧水銀ランプを用いて以下の条件で紫外線を照射した。
・紫外線の主波長:365nm
・紫外線の照度:13mW/cm2
・紫外線の照射量:20mJ/cm2
・粘着剤層の第1の領域:直径302mmの円形
【0085】
上記のようにして、本実施形態に係るダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。なお、後述の種々の評価試験に供するための複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを作製した。
【0086】
<実施例2>
紫外線の照射量を20mJ/cm2とする代わりに、30mJ/cm2としたことの他は、実施例1と同様にして、複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
【0087】
<実施例3>
粘着剤層形成用のワニスを調製する際、架橋剤の量を1.1質量部とする代わりに0.45質量部としたことの他は、実施例2と同様にして、複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
【0088】
<比較例1>
粘着剤層形成用のワニスを調製する際、架橋剤の量を1.1質量部とする代わりに4.1質量部としたことの他は、実施例2と同様にして、複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
【0089】
<比較例2>
紫外線の照射量を30mJ/cm2とする代わりに、50mJ/cm2としたことの他は、実施例2と同様にして、複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
【0090】
<比較例3>
紫外線照射を行わなかったことの他は、実施例1と同様にして、複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
【0091】
<比較例4>
紫外線照射を行わなかったことの他は、実施例3と同様にして、複数のダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを得た。
【0092】
[評価試験]
(1)粘着剤層の粘着力(30°ピール強度)の測定(一回目の紫外線照射後)
実施例及び比較例に係るダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの接着剤層に対する粘着剤層の粘着力を30°ピール強度を測定することによって評価した。すなわち、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムから幅25mm及び長さ100mmの試料を切り出した。引張試験機を用いて接着剤層に対する粘着剤層のピール強度を測定した。測定条件は、剥離角度30°、引張速度60mm/分とした。なお、試料の保存及びピール強度の測定は、温度23℃、相対湿度40%の環境下で行った。実施例1~3及び比較例1,2に係るダイシング・ダイボンディング一体型フィルムは一回の紫外照射を経たものである。表1及び表2に結果を示す。比較例3,4は、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムのプロセスにおいて紫外線が照射されていないものの、表2においては便宜上、「1回目の紫外線照射」の欄に結果を記載した。
【0093】
(2)粘着剤層の粘着力(30°ピール強度)の測定(二回目の紫外線照射後)
実施例1~3及び比較例1,2に係るダイシング・ダイボンディング一体型フィルムに対し、接着剤片付きチップのピックアップ前に実施される二回目の紫外線照射に相当する以下の条件で二回目の紫外線を照射した。その後、上記と同じ条件で接着剤層に対する粘着剤層の粘着力を30°ピール強度を測定した。表1及び表2に結果を示す。なお、比較例3,4は、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムのプロセスにおいて紫外線が照射されていないから、一回目の紫外線照射であるものの、表2においては便宜上、「2回目の紫外線照射」の欄に結果を記載した。
<二回目の紫外線照射条件>
・紫外線の主波長:365nm
・紫外線の照度:100mW/cm2
・紫外線の照射量:150mJ/cm2
【0094】
(2)プロセス性評価
(i)プロセス性評価用試料の作製
シリコンウェハ(直径:12インチ、厚さ:775μm)の表面に保護テープ(BGテープ)を貼り付けた。その後、シリコンウェハのステルスダイシングを行った。すなわち、BGテープが貼り付けられた側と反対側のシリコンウェハの面(裏面)に対して以下条件でレーザ光を照射することによって、シリコンウェハ内部に改質層を形成した。
<ステルスダイシング条件>
・ステルスダイシング装置:DFL7361(株式会社ディスコ製)
・レーザ発振器型式:半導体レーザ励起Qスイッチ固体レーザ
・波長:1342nm
・周波数:90kHz
・出力:1.7W
・パス数:2
・チップサイズ:10mm×10mm
・ダイシング速度:700mm/秒
【0095】
ステルスダイシング後のシリコンウェハを厚さ30μmになるまで研磨した。研磨にはグラインダポリッシャ装置(DGP8761、株式会社ディスコ製)を使用した。研磨後のシリコンウェハ及びダイシングリングにダイシング・ダイボンディング一体型フィルムを以下条件で貼り付けた。その後、シリコンウェハの表面からBGテープを剥離した。
<貼付条件>
・貼付装置:DFM2800(株式会社ディスコ製)
・貼付温度:70℃
・貼付速度:10mm/s
・貼付テンションレベル:レベル6
【0096】
次いで、ダイセパレータ(DDS2300、株式会社ディスコ製)を使用して以下条件で冷却エキスパンドした。その後、ダイシング・ダイボンディング一体型フィルムの基材層(ポリエチレンテレフタレートフィルム)を以下の条件でヒートシュリンクさせた。これらの工程を経て、シリコンウェハ及び接着剤層を複数の接着剤片付きチップ(サイズ10mm×10mm)に個片化した。
<冷却エキスパンド条件>
・冷却温度:-15℃
・冷却時間:120秒
・突上げ量:12mm
・突上げ速度:200mm/秒
・突上げ後の保持時間:3秒
<ヒートシュリンク条件>
・ヒータ温度:220℃
・ヒータ回転速度:5°/秒
・突上げ量:8mm
・テープ冷却待ち時間:10秒
【0097】
シリコンウェハ及び接着剤層を個片化した後、粘着剤層に対して以下の条件で紫外線照射を行った。これにより、粘着剤層を硬化させて接着剤層に対する粘着力を低下させた。
<紫外線照射条件>
・紫外線の照度:100mW/cm2
・紫外線の照射量:150mJ/cm2
【0098】
(ii)各プロセス性の評価
(DAF飛び)
冷却エキスパンド及びヒートシュリンク後に、DAF飛びについて以下の基準で評価した。
A:DAF飛びが全く発生しなかった。
B:DAF飛びには至らなかったが、接着剤層と粘着剤層との界面で剥離又は浮きが認められた。
C:DAF飛びが少なくとも一箇所で発生した。
【0099】
(チップエッジ剥離)
冷却エキスパンド及びヒートシュリンク後に、接着剤片付きチップのエッジ部における接着剤層と粘着剤層の剥離について以下の基準で評価した。
A:エッジ部において剥離が全く見られなかった。
B:エッジ部から1mm以上2mm未満の長さで剥離が見られた。
C:エッジ部から2mm以上3mm未満の剥離が見られた。
D:エッジ部から3mm以上の剥離が見られた。
【0100】
(接着剤層の分断性)
冷却エキスパンド及びヒートシュリンク後のシリコンウェハの全面に顕微鏡で観察し、接着剤層の分断性を以下の基準で評価した。
A:接着剤層が完全に分断されていた。
D:接着剤層の少なくとも一箇所に分断されていない部分があった。
【0101】
(カーフ幅)
個片化後の接着剤層付きチップの間隔(カーフ幅)を顕微鏡を用いて測長した。シリコンウェハ外周部(上下左右)の二箇所ずつと、中央部の一箇所についてMD/TD方向のカーフ幅をそれぞれ測長(計18点)し、平均値を求めた。以下の基準で評価した。
S:カーフ幅の平均値が100μm以上150μm未満であった。
A:カーフ幅の平均値が70μm以上100μm未満であった。
B:カーフ幅の平均値が50μm以上70μm未満であった。
【0102】
(ピックアップ性)
上記の評価を実施した後、以下の条件で100個の接着剤片付きチップをピックアップした。
<ピックアップ条件>
・ダイボンダ装置:DB-830P(ファスフォードテクノロジ株式会社製)
・突上げピン:EJECTOR NEEDLE SEN2-83-05(直径:0.7mm、先端形状:半径350μmの半球、マイクロメカニクス社製)
・突き上げ高さ:250μm
・突き上げ速度:1mm/秒
・突上げピン数:9本
<評価基準>
A:ピックアップの成功率が100%であった。
B:ピックアップの成功率が80%以上100%未満であった。
C:ピックアップの成功率が60%以上80%未満であった。
【0103】
【0104】
【0105】
実施例1~3に係るフィルムはプロセス性評価の結果がいずれも良好であった。特に、実施例1,2はカーフ幅の評価が「S」であった。実施例3はカーフ幅の評価が「A」であり、比較例3と同じであるものの、比較例3よりもMD/TDバランスが良好であった。カーフ幅は、優れたピックアップ性を達成する観点から、ステルスダイシングのプロセスにおいて重要視される項目の一つである。
【符号の説明】
【0106】
1…基材層、3…粘着剤層、3a…第1の領域、3b…第2の領域、5…接着剤層、8…接着剤片付きチップ、10…ダイシング・ダイボンディング一体型フィルム、W…ウェハ