(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】用紙搬送装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
B65H 29/58 20060101AFI20231226BHJP
B65H 5/38 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B65H29/58 A
B65H5/38
(21)【出願番号】P 2019230598
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100090527
【氏名又は名称】舘野 千惠子
(72)【発明者】
【氏名】梶山 博史
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-182997(JP,A)
【文献】特開2014-141324(JP,A)
【文献】特開平11-193159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 5/00
B65H 5/04
B65H 5/08-5/20
B65H 5/24-5/38
B65H 29/52-29/70
G03G 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐した第一の搬送路と第二の搬送路を有する用紙搬送路と、
前記用紙搬送路を構成するガイド部材と、
搬送されてきた用紙の搬送方向を、前記第一の搬送路と前記第二の搬送路のいずれかに切替えるための回動可能な分岐爪と、
前記分岐爪を回動させる駆動手段と、を備え、
前記分岐爪は、前記ガイド部材とともに前記第一の搬送路を構成する第一搬送面と、前記第二の搬送路を構成する第二搬送面とを有し、
前記ガイド部材は、前記分岐爪の第一搬送面と対向する領域の少なくとも一部に弾性部材を備え、
前記分岐爪の第一搬送面と前記弾性部材とが、前記分岐爪が切替え位置に停止した状態においては当接せず、前記分岐爪が回動動作においてオーバーランした時にのみ当接することを特徴とする用紙搬送装置。
【請求項2】
前記分岐爪が前記ガイド部材に最も近接した切替え位置に停止した状態において、
前記分岐爪の第一搬送面の表面の接線と、対向する前記弾性部材の搬送路側表面の接線とのなす角が10°以下であることを特徴とする請求項1に記載の用紙搬送装置。
【請求項3】
前記分岐爪が前記ガイド部材に最も近接した切替え位置に停止した状態において、
前記分岐爪の第一搬送面の表面の接線と、対向する前記弾性部材の搬送路側表面の接線とが略平行であることを特徴とする請求項1に記載の用紙搬送装置。
【請求項4】
前記弾性部材は、弾性材料と、前記弾性材料の外周面を被覆するシート材料からなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の用紙搬送装置。
【請求項5】
前記シート材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなることを特徴とする請求項4に記載の用紙搬送装置。
【請求項6】
前記シート材料は、ウレタン樹脂からなることを特徴とする請求項4に記載の用紙搬送装置。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれかに記載の用紙搬送装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、用紙搬送装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ等の画像形成装置には、記録媒体(以下、「用紙」ともいう)を給紙部から縦(鉛直方向)に搬送する用紙搬送装置を備えるものがあり、用紙搬送装置としては、搬送される用紙を異なる方向に選択的に分岐させる部材を備えたものが知られている。分岐後の用紙の搬送方向としては、例えば、片面に画像を形成された用紙を排紙トレイ上に排紙するための搬送方向と、片面に画像が形成された用紙の他面に画像を形成するために両面ユニット等に向けて搬送する搬送方向とが挙げられる。
【0003】
用紙の搬送方向を分岐させる部材として分岐爪が知られている。搬送方向を切り替えるために分岐爪を回動させる駆動手段としては、例えば、ソレノイドが知られている。しかし、ソレノイドは作動に伴う遅延時間があり、また分岐爪の動作途中の位置制御が困難であり、オーバーランを生じることがある。
【0004】
これに対し、ステッピングモータを用いて分岐爪を回動させる技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、ステッピングモータを用いた場合も、ステップ角誤差により分岐爪が目標とする切替位置に対してオーバーランすることがある。
オーバーラン量がある値に達すると、分岐爪がシート搬送路を形成しているガイド板等に衝突して騒音が発生したり、ステッピングモータの脱調を招いたりすることがある。また、分岐爪の疲労破壊にもつながる。
これに対し、特許文献1では、オーバーランして回動した分岐爪が搬送路を形成する部材に衝突する前に、分岐爪側の一部(先端部)を弾性部材を介して当接させ、弾性部材の弾性変形によって分岐爪を戻し方向に付勢する戻し機構を具備する構成が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置のように、分岐爪先端の突出した部位が弾性部材を弾性変形させるように圧接する態様では、弾性部材の劣化や破損をまねくおそれがある。
また、劣化した弾性部材と当接したときに所望の付勢力や戻りが得られず、分岐爪の動作の安定性が損なわれることがある。
【0006】
そこで本発明は、分岐爪と当接する弾性部材の破損や劣化を防ぎ、分岐爪の安定した動作を維持可能な用紙搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の用紙搬送装置は、分岐した第一の搬送路と第二の搬送路を有する用紙搬送路と、前記用紙搬送路を構成するガイド部材と、搬送されてきた用紙の搬送方向を、前記第一の搬送路と前記第二の搬送路のいずれかに切替えるための回動可能な分岐爪と、前記分岐爪を回動させる駆動手段と、を備え、前記分岐爪は、前記ガイド部材とともに前記第一の搬送路を構成する第一搬送面と、前記第二の搬送路を構成する第二搬送面とを有し、前記ガイド部材は、前記分岐爪の第一搬送面と対向する領域の少なくとも一部に弾性部材を備え、前記分岐爪の第一搬送面と前記弾性部材とが、前記分岐爪が切替え位置に停止した状態においては当接せず、前記分岐爪が回動動作においてオーバーランした時にのみ当接することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分岐爪と当接する弾性部材の破損や劣化を防ぎ、分岐爪の安定した動作を維持可能な用紙搬送装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る用紙搬送装置の分岐爪と分岐した搬送路の一例を示す説明図である。
【
図2】本実施形態に係る用紙搬送装置の分岐爪と分岐した搬送路の一例を示す説明図である。
【
図3】本実施形態に係る用紙搬送装置の分岐爪の駆動手段の一例を示す説明図である。
【
図4】本実施形態に係る用紙搬送装置の分岐爪と弾性部材の位置関係の一例を示す説明図である。
【
図5】本実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る用紙搬送装置及び画像形成装置について図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0011】
[画像形成装置]
本実施形態に係る画像形成装置の一例を
図5に示す。
図5では、記録媒体(以下、「用紙」という)の主な搬送経路を示している。本実施形態の画像形成装置は、用紙の搬送経路に後述の本発明に係る用紙搬送装置が配設されている。
【0012】
図5に示す画像形成装置において、用紙載置部1にセットされた用紙は、給紙ローラ2によって分離されて給紙された後、レジストローラ対3によって所定のタイミング待機後、作像部4において画像が転写される。作像部4は、転写ベルト41及び転写ローラ42を備えている。次いで、用紙は定着部5に搬送され、転写された画像の定着が行われた後、搬送ローラ対6を通過し、排紙部10または反転部9へ搬送される。
【0013】
画像が定着された用紙が、排紙部10へ搬送されるか反転部9へ搬送されるかの搬送経路の切り替えは、分岐爪8によって行われる。
本実施形態では、分岐爪8がAの位置にあるときに用紙は排紙部10へ搬送され、分岐爪8がBの位置にあるときに用紙は反転部9に搬送される。
【0014】
排紙部10から排出された用紙は、排紙トレイ200に排紙される。なお、排出された用紙が図示しない後処理周辺機(例えば、ステープラ等)に搬送され、後処理(例えば、綴じ処理、紙折り処理等)をされる構成とすることができる。
【0015】
一方、反転部9に搬送された用紙は、反転ローラ対19の正逆回転切り替えによりスイッチバックされ、両面搬送部に搬送される。
本実施形態の装置では、両面入口ローラ対12、両面中継ローラ対13、両面出口ローラ対14を経由して、再びレジストローラ対3に搬送される。
【0016】
[用紙搬送装置]
本実施形態に係る用紙搬送装置の分岐爪と分岐した搬送路の一例を
図1及び
図2に示し、分岐爪の駆動手段の要部を
図3に示す。
本実施形態の用紙搬送装置は、分岐した第一の搬送路L1と第二の搬送路L2を有する用紙搬送路と、用紙搬送路を構成するガイド部材20と、搬送されてきた用紙の搬送方向を、第一の搬送路L1と第二の搬送路L2のいずれかに切替えるための回動可能な分岐爪8と、分岐爪8を回動させる駆動手段と、を備える。
分岐爪8は、ガイド部材20とともに第一の搬送路L1を構成する第一搬送面81と、第二の搬送路L2を構成する第二搬送面82とを有する。
【0017】
ガイド部材20は、分岐爪の第一搬送面81と対向する領域の少なくとも一部に弾性部材7を備える。
分岐爪の第一搬送面81と弾性部材7とは、分岐爪8が切替え位置に停止した状態においては当接せず、分岐爪8が回動動作においてオーバーランした時にのみ当接する。
【0018】
以下、第一の搬送路L1を用紙を排紙部10へ搬送する経路、第二の搬送路L2を用紙を反転部9に搬送する経路として説明する。
【0019】
画像形成装置において両面印刷を行う場合、用紙の搬送経路を第一の搬送路L1(排紙部10へ搬送する経路:
図1)と、第二の搬送路L2(反転部9に搬送する経路:
図2)との間で切替えるために分岐爪8を回動させ、切替え位置に停止させる。両面印刷時の高い生産性を実現するためには、分岐爪8を迅速に動作させる必要がある。
【0020】
分岐爪8の駆動手段として、
図3に示すように分岐爪駆動ソレノイド83及び分岐爪リンク84を用い、ソレノイドをオンまたはオフとすることによって分岐爪8を移動可能とし、分岐爪8の位置を切替えることができる。
なお、分岐爪8の駆動手段として、ステッピングモータ等を採用することで、停止位置を多段階に決め得るように構成してもよい。
【0021】
通常、分岐爪8と対向するガイド部材20には、分岐爪8の動作軌道において接触がないように逃げ形状を形成する。しかしながら、分岐爪8を迅速に動作させる場合には、動作量をガイド部材20と当接しないように規制してもオーバーランして衝突してしまうことがある。
【0022】
これに対し、ガイド部材20の分岐爪8との当接部位に弾性部材7を設けることにより、衝突時の衝撃を緩和し、衝突音の発生を防止することができる。
【0023】
分岐爪8の切替え動作時における衝突音が発生する箇所としては、駆動手段である分岐爪駆動ソレノイド83も挙げられる。一方、分岐爪8を迅速に動作させる場合には、分岐爪8の動作停止時に回転支点に衝撃が加わることとなる。回転支点に繰り返し衝撃が加わることで疲労破壊が生じたり、分岐爪とリンク機構のガタ等の影響で騒音が生じたりすることもある。これらの不具合についても、上述の弾性部材7を設けることにより解消することができる。
【0024】
分岐爪8と弾性部材7とが当接する際の押圧力が大きく、また当接している時間が長くなると、分岐爪8が塑性変形するおそれや、弾性部材7が破損するおそれが生じる。
分岐爪8が塑性変形してしまうと、分岐爪8の搬送路切替えのための停止位置が所望の位置とずれてしまい、ジャムの発生等の不具合を生じることがある。
【0025】
この問題対し、本実施形態の用紙搬送装置では、分岐爪の第一搬送面81と弾性部材7とが、分岐爪8が切替え位置に停止した状態においては当接せず、分岐爪8が回動動作においてオーバーランした時にのみ当接する。
これにより、分岐爪8と弾性部材7が当接して反力が発生するのが分岐爪8のオーバーラン時のみとなるため、分岐爪8の塑性変形や弾性部材7の破損のリスクを低減することができる。
また、分岐爪8が防振効果を有する弾性部材7と当接することで、分岐爪8の動きが収束するまでの時間を短縮することができ、また紙間隔の低減の効果も得られる。
【0026】
なお、分岐爪8の先端の突出した部位が弾性部材7に圧接すると、弾性部材7の劣化を早め、破損をまねくおそれがある。
一方、本実施形態において、分岐爪8は搬送路を形成する面(先端部以外)で弾性部材7と当接する。
分岐爪8と弾性部材7との衝突実験を100,000回繰り返し行った結果、分岐爪8の先端が当接する弾性部材よりも、分岐爪の搬送路形成面が当接する弾性部材の方が、表面状態が良好に維持されることが確認された。
【0027】
分岐爪8と弾性部材7との位置関係を
図4に示す。
図4(A)は、分岐爪8がガイド部材20に最も近接した切替え位置に停止した状態を示す模式図であり、
図4(B)は(A)の破線で囲んだ領域の拡大図である。
本実施形態の用紙搬送装置において、分岐爪8がガイド部材20に最も近接した切替え位置に停止した状態において、分岐爪の第一搬送面81の表面の接線T2と、対向する弾性部材7の搬送路側表面の接線T1とのなす角が10°以下であることが好ましく、分岐爪の第一搬送面81の表面の接線T2と、対向する弾性部材7の搬送路側表面の接線T1とが略平行であることがより好ましい。
分岐爪8と弾性部材7とが、上述の関係を満たすことにより、衝突時の衝撃が緩和され、弾性部材7の表面状態が良好に維持され、損傷の発生が抑制されることが確認された。
【0028】
弾性部材7を構成する弾性材料としては、例えば、樹脂やゴム等を発泡成形して得られる多孔質材料のスポンジ等が挙げられる。
好ましい弾性材料としては発泡ウレタンフォームが挙げられ、特に、微細なセル構造を高密度かつ均一に有する発泡ウレタンフォームであるポロン(PORON:登録商標)が好ましい。
【0029】
弾性材料は、装置内の熱や搬送される用紙が持つ熱の影響を受けて変質したり、経時劣化を生じることがある。特に、エステルフォーム(ポリウレタン)は、加水分解を生じることがある。劣化した弾性部材7では所望の効果が得られず、さらに分岐爪8の動作の安定性を損なうことがある。例えば、劣化により粘性を生じた弾性部材7に分岐爪8が接着して、安定した動作が妨げられることがある。
【0030】
これに対し、弾性部材7は、弾性材料と該弾性材料の外周面を被覆するシート材料からなる構成とすることが好ましい。
弾性材料の表面をシート材料(フィルム状部材)で被覆することにより、分岐爪8との接着を防止し、分岐爪8の安定した動作を維持することができる。また、被覆されることで、弾性材料の加水分解等による劣化を防ぐことができる。
【0031】
弾性材料を被覆するシート材料としては、弾性材料の機能に影響を及ぼすことが無く、かつ経時劣化や加水分解のおそれが極めて低い材料であればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0032】
上述のように、本実施形態の用紙搬送装置は、弾性部材7を分岐爪8の搬送路形成面(通紙面)と当接するように配置することで、弾性部材7と分岐爪8との衝突による損傷や劣化を防止することができる。また、接触時の双方の接触面の接線が略平行であることにより、弾性部材7と分岐爪8との衝突時の衝撃が軽減される。さらに、弾性部材7が経時劣化のおそれがある弾性材料の表面をシート材料で被覆した構成であることにより、弾性材料の劣化を防ぐとともに、弾性材料と分岐爪との接着に起因して分岐爪の動作が妨げられるのを防止できる。
【符号の説明】
【0033】
6 搬送ローラ対
7 弾性部材
8 分岐爪
9 反転部
10 排紙部
11 排紙ローラ対
19 反転ローラ対
20 ガイド部材
81 第一搬送面
82 第二搬送面
83 分岐爪駆動ソレノイド
84 分岐爪リンク
L1 第一の搬送路
L2 第二の搬送路
T1 弾性部材の搬送路側表面の接線
T2 分岐爪の第一搬送面の表面の接線
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】