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特許7409088有機薄膜の製造方法、有機薄膜及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】有機薄膜の製造方法、有機薄膜及びその利用
(51)【国際特許分類】
   H10K 71/12 20230101AFI20231226BHJP
   H10K 50/15 20230101ALI20231226BHJP
   H10K 50/17 20230101ALI20231226BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20231226BHJP
   H10K 77/10 20230101ALI20231226BHJP
   H10K 85/10 20230101ALI20231226BHJP
【FI】
H10K71/12
H10K50/15
H10K50/17
H10K59/10
H10K77/10
H10K85/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019554437
(86)(22)【出願日】2018-11-19
(86)【国際出願番号】 JP2018042595
(87)【国際公開番号】W WO2019098356
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/041629
(32)【優先日】2017-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】加茂 和幸
(72)【発明者】
【氏名】児玉 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】福島 伊織
(72)【発明者】
【氏名】森山 良太
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 智嗣
(72)【発明者】
【氏名】本名 涼
(72)【発明者】
【氏名】石塚 健一
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/119483(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188023(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/043502(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/076375(WO,A1)
【文献】特開2013-214565(JP,A)
【文献】特開2006-185864(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147204(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 71/12
H10K 50/15
H10K 50/17
H10K 59/10
H10K 77/10
H10K 85/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷輸送性化合物を含有する有機エレクトロニクス材料を塗布して塗布膜を形成する工程と、前記塗布膜を不活性ガス雰囲気下で加熱して有機薄膜を形成する工程とを含み、
前記電荷輸送性化合物が、下記構造単位L1-1と、下記構造単位B1と、下記構造単位T1-1と、下記構造単位T2-2とを含む有機薄膜の製造方法。
【化1】
【化2】
[上記構造単位T2-2において、Rは、炭素数1~22の直鎖、環状若しくは分岐のアルキル基であり、前記アルキル基の水素原子の一部は、塩素原子、フッ素原子、又は臭素原子で置換されていてもよい。]
【請求項2】
前記構造単位T2-2におけるRが-CFである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機エレクトロニクス材料が、更に溶媒を含む、請求項1又は2に記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記電荷輸送性化合物が、正孔注入性又は正孔輸送性を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項5】
前記有機エレクトロニクス材料が、更に重合開始剤を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項6】
前記重合開始剤が、イオン化合物である、請求項5に記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項7】
前記イオン化合物が、オニウム塩である、請求項6に記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項8】
陽極と陰極との間に、少なくとも、前記陽極に隣接する有機薄膜と、発光層とを順に有する、有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法であって、
前記陽極の上に、請求項1~7のいずれか1項に記載の有機薄膜の製造方法によって前記有機薄膜を形成する工程と、前記発光層を形成する工程と、前記陰極を形成する工程とを有する、有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機薄膜とその製造方法に関する。また、本開示は、上記有機薄膜を有する有機エレクトロルミネセンス素子と、上記有機エレクトロルミネセンス素子を用いた表示素子、照明装置、及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクス素子は、有機物を用いて電気的な動作を行う素子であり、省エネルギー、低価格、柔軟性といった特長を発揮できると期待され、従来のシリコンを主体とした無機半導体に替わる技術として注目されている。有機エレクトロニクス素子の一例として、有機エレクトロルミネセンス素子(以下、「有機EL素子」ともいう)、有機光電変換素子、有機トランジスタなどが挙げられる。
【0003】
有機EL素子は、例えば、白熱ランプ又はガス充填ランプの代替えとなる大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0004】
有機EL素子は、使用される有機エレクトロニクス材料から、低分子型有機EL素子及び高分子型有機EL素子の2つに大別される。高分子型有機EL素子では、有機エレクトロニクス材料として高分子化合物が用いられ、低分子型有機EL素子では、低分子化合物が用いられる。一方、有機EL素子の製造方法は、主に真空系で成膜が行われる乾式プロセスと、凸版印刷、凹版印刷等の有版印刷、インクジェット等の無版印刷などにより成膜が行われる湿式プロセスの2つに大別される。簡易成膜が可能であるため、湿式プロセスは、今後の大画面有機ELディスプレイには不可欠な方法として期待されている。
【0005】
このため、湿式プロセスに適した材料の開発が進められており、例えば、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を利用して多層構造を形成する検討が行われている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-279007号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】廣瀬健吾、熊木大介、小池信明、栗山晃、池畑誠一郎、時任静士、第53回応用物理学関係連合講演会、26p-ZK-4(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
湿式プロセスに従い製造した有機EL素子は、低コスト化及び大面積化が容易であるという特長を有している。しかし、湿式プロセスに従い製造した従来の有機EL素子は、駆動電圧、発光効率、及び発光寿命といった素子特性が必ずしも十分でなく、更なる改善が望まれている。
通常、湿式プロセスでは、電荷輸送性化合物を溶媒に溶解させた溶液を塗布して塗布膜を形成し、次いで、塗布膜を加熱することよって有機薄膜を形成する。そのため、有機薄膜の材料として用いた電荷輸送性化合物の酸化耐性が不十分であると、加熱時に、有機薄膜の表面酸化が起こりやすい。
有機薄膜の表面酸化は、有機薄膜の本来の性能を低下させ、駆動電圧の上昇などの素子特性の低下原因となるため、望ましくない。重合性官能基を有する電荷輸送性化合物は、湿式プロセスに適した材料であるが、酸化耐性等の観点から、さらなる改善が望まれている。一方、素子特性を向上させるためには、有機薄膜の材料の開発だけでなく、有機薄膜の性能低下を抑制する方法も重要となる。したがって、湿式プロセスによる有機薄膜の製造において、成膜時の有機薄膜の性能低下を抑制し、優れた性能を有する有機薄膜を形成できる製造方法が望まれている。
【0009】
本開示は、上記に鑑み、湿式プロセスによる成膜時の有機薄膜の性能低下を抑制し、優れた性能を有する有機薄膜を形成できる製造方法を提供することを目的とする。また、上記製造方法によって得られる有機薄膜を有する有機EL素子、並びに、それを用いた表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、湿式プロセスによる有機薄膜の製造について鋭意検討した結果、成膜時の加熱プロセスの雰囲気が、有機薄膜の性能に大きく影響することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に記載する実施形態に関する。但し、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
一実施形態は、有機薄膜の製造方法に関し、上記製造方法は、電荷輸送性化合物を含有する有機エレクトロニクス材料を塗布して塗布膜を形成する工程と、上記塗布膜を不活性ガス雰囲気下で加熱して有機薄膜を形成する工程とを含む。
【0012】
上記実施形態の製造方法において、上記有機エレクトロニクス材料は、更に溶媒を含むことが好ましい。
【0013】
上記電荷輸送性化合物は、正孔注入性又は正孔輸送性を有することが好ましい。
【0014】
上記電荷輸送性化合物は、芳香族アミン構造、ピロール構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ベンゼン構造、アニリン構造、フェノキサジン構造、及びフルオレン構造からなる群から選択される1以上の構造を含むことが好ましい。
【0015】
上記電荷輸送性化合物は、3方向以上に分岐した構造を有することが好ましい。
【0016】
上記電荷輸送性化合物は、少なくとも1つの重合性官能基を有することが好ましい。
【0017】
上記重合性官能基は、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、アクリロイル基、及びメタクリロイル基からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0018】
上記有機エレクトロニクス材料は、更に重合開始剤を含むことが好ましい。
【0019】
上記重合開始剤は、イオン化合物であることが好ましい。上記イオン化合物は、オニウム塩であることが好ましい。
【0020】
他の実施形態は、上記実施形態の有機薄膜の製造方法によって製造された、有機薄膜に関する。
【0021】
他の実施形態は、電荷輸送性化合物を含有する有機エレクトロニクス材料から形成された有機薄膜と、上記有機薄膜の上に設けられた上層とを有する積層体であって、上記上層側から、ガスクラスターイオンビームを照射し、飛行時間型二次イオン質量分析計によって深さ方向で測定した酸素イオン強度から算出される、上記有機薄膜と上記上層との界面を含めた深さ方向の酸素原子分布のばらつきが8.0%以下である、積層体に関する。
【0022】
他の実施形態は、上記実施形態の有機薄膜、又上記実施形態の積層体を有する、有機エレクトロルミネセンス素子に関する。上記有機エレクトロルミネセンスルは、フレキシブル基板を更に有することが好ましい。また、有機エレクトロルミネセンスルは、樹脂フィルム基板を更に有することが好ましい。
【0023】
他の実施形態は、上記実施形態の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、表示素子に関する。
【0024】
他の実施形態は、上記実施形態の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた、照明装置に関する。
【0025】
他の実施形態は、上記実施形態の照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えた、表示装置に関する。
【0026】
他の実施形態は、陽極と陰極との間に、少なくとも、上記陽極に隣接する有機薄膜と、発光層とを順に有する、有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法に関し、上記製造方法は、上記陽極の上に、上記実施形態の有機薄膜の製造方法によって上記有機薄膜を形成する工程と、上記発光層を形成する工程と、上記陰極を形成する工程とを有する。
【発明の効果】
【0027】
本開示によれば、成膜時の性能低下を抑制し、優れた性能を有する有機薄膜の製造方法を提供することができる。また、上記製造方法によって得られる有機薄膜を用いて、駆動電圧等の素子特性に優れた有機EL素子、並びに、それを用いた表示素子、照明装置、及び表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の一実施形態である有機EL素子の一例を示す断面模式図である。
図2図2は、ガスクラスターイオンビームを用いる飛行時間型二次イオン質量分析法(GCIB-TOF-SIMS)によって深さ方向で測定した酸素原子分布のプロファイルであり、(a)は実施例9の測定結果、(b)は比較例9の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
<有機薄膜の製造方法>
一実施形態において、有機薄膜の製造方法は、電荷輸送性化合物を含有する有機エレクトロニクス材料の塗布膜を形成する工程と、上記塗布膜を不活性ガス雰囲気下で加熱して有機薄膜を形成する工程とを含む。
【0030】
塗布膜の形成は、大気雰囲気下、又は不活性ガス雰囲気下で、上記有機エレクトロニクス材料を塗布することによって実施される。塗布膜の形成は、室温下で実施されることが好ましい。ここで室温とは、10℃~40℃の範囲内のいずれかの温度を意味し、好ましくは20℃~30℃の範囲である。上記有機エレクトロニクス材料は、該材料を溶媒に溶解して得られる塗布溶液(インク組成物)の形態で使用されることが好ましい。塗布方法としては、例えば、スピンコーティング法;キャスト法;浸漬法;凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平版印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、及びグラビア印刷等の有版印刷法;インクジェット法等の無版印刷法などの公知の方法が挙げられる。
【0031】
有機薄膜の形成は、塗布膜を不活性ガス雰囲気下で加熱することによって実施される。塗布膜を加熱することによって、塗布膜が固化した有機薄膜が得られる。一実施形態において、有機薄膜は、塗布膜中の溶媒が蒸発して形成される乾燥膜である。他の実施形態において、電荷輸送性化合物が重合性官能基を有する場合、有機薄膜は、加熱、及び必要に応じて実施される光照射によって、電荷輸送性化合物の重合反応が進行して形成される硬化膜である。湿式プロセスによる多層化の観点から、有機薄膜は硬化膜であることが好ましい。本開示の製造方法によれば、塗布膜形成後の加熱を不活性ガス雰囲気下で実施することにより、優れた性能を有する有機薄膜を得ることができる。
塗布膜及び有機薄膜の厚さは、特に限定されず、有機薄膜の用途を考慮して、調整することができる。一実施形態において、厚さは、0.1nm~300nmの範囲であってよい。0.1nm以上の膜厚とした場合、電荷輸送の効率を向上させることが容易となる。一方、膜厚を300nmとした場合、電気抵抗を小さくすることが容易となる。厚さは、1nm~200nmの範囲がより好ましく、3~100nmの範囲が更に好ましい。
【0032】
ここで、「不活性ガス」とは、例えば、ヘリウムガス及びアルゴンガス等の希ガス、窒素ガス、並びにこれらの混合ガスが挙げられる。「不活性ガス雰囲気下」とは、プロセス雰囲気中の不活性ガスの濃度が、体積比で、99.5%以上、好ましくは99.9%以上であることを意味する。上記製造方法において、塗布膜の加熱は、コスト及び簡便性から、窒素ガス雰囲気下で実施することが好ましい。
【0033】
「塗布膜の加熱」は、塗布膜に熱を加えて、塗布膜の温度を上昇させることを意味する。加熱は、特に限定されないが、溶媒を効率良く除去する観点から、インク組成物に用いた溶媒の沸点以上の温度で実施することが好ましい。また、電荷輸送性化合物が重合性官能基を有する場合、重合反応が効率良く進行する温度が好ましい。一実施形態において、塗布膜の加熱温度は、好ましくは140℃以上、より好ましくは170℃以上、更に好ましくは180℃以上である。一方、熱劣化等による有機薄膜の性能低下を抑制する観点から、上記加熱温度は、好ましくは300℃以下、より好ましくは280℃以下、更に好ましくは250℃以下である。ここで、有機薄膜の性能低下とは、熱劣化又は表面酸化等によるキャリア密度、及び電荷移動度等の低下を意味する。上記実施形態の製造方法によれば、有機薄膜の性能低下が抑制され、優れた性能を有する有機薄膜が容易に得られる。このような有機薄膜を使用することで、素子において駆動電圧、発光効率及び発光寿命の向上が容易となる。
【0034】
加熱時間は、特に限定されないが、生産性の向上の観点から、好ましくは2時間以下、より好ましくは1時間以下、更に好ましくは30分以下である。また、溶媒の除去、及び重合反応の進行を確実にする観点から、加熱時間は、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、更に好ましくは5分以上である。
塗布膜の加熱は、例えば、ホットプレート又はオーブンを用いて実施できる。不活性ガス雰囲気下での加熱は、例えば、不活性ガス雰囲気下でホットプレートを使用するか、又はオーブン内を不活性ガス雰囲気にすることによって実施できる。
【0035】
一実施形態において、塗布膜の加熱は、窒素ガス雰囲気下、180~250℃、より好ましくは190~240℃の温度、更に好ましくは200~230℃の温度で、加熱時間5~60分間の条件で実施されることが好ましい。同じ加熱温度であっても、加熱時間が長くなると、有機薄膜の性能が低下しやすい。したがって、加熱時間は30分以下とすることがより好ましい。
塗布膜の加熱は、例えば、不活性ガス雰囲気下に設置され、かつ180~250℃の範囲の温度に設定したホットプレートの表面に、塗布膜を形成した基板を、5~60分間にわたって接触させることにより実施することが好ましい。加熱(ホットプレート表面への接触)時間は、30分以下とすることがより好ましい。
【0036】
上記有機薄膜の製造方法で使用する有機エレクトロニクス材料は、特に限定されない。有機薄膜の性能低下の抑制効果を更に高める観点から、耐熱性、及び酸化耐性等に優れる電荷輸送性化合物を含む有機エレクトロニクス材料を使用することが好ましい。以下、上記有機薄膜の製造方法で使用可能な有機エレクトロニクス材料について、より具体的に説明する。
【0037】
(有機エレクトロニクス材料)
一実施形態において、湿式プロセスによる有機薄膜の多層化が容易となる観点から、有機薄膜を形成する有機エレクトロニクス材料は、分子内に重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を含むことが好ましい。一実施形態において、有機エレクトロニクス材料は、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物の2種以上を含有しても、更に他の電荷輸送性化合物を含んでもよい。
[電荷輸送性化合物]
【0038】
一実施形態において、電荷輸送性化合物は、電荷輸送性を有する構造単位を1以上有し、上記構造単位の少なくとも1つが、下式で表される構造部位を有する。
-Ar-(L)a-Z
式中、Arはアリーレン基又はヘテロアリーレン基、Lは連結基であり、aは0又は1であり、Zは置換又は非置換の重合性官能基を示す。上式において、連結基Lは、2価の有機基であり、特に限定されない。
【0039】
一実施形態において、電荷輸送性化合物は、電荷輸送性を有する構造単位を1以上有し、上記構造単位の少なくとも1つが、下式(I)で表される構造部位を有することが好ましい。
-Ar-X-Y-Z (I)
式中、Arはアリーレン基又はヘテロアリーレン基、Xは後述する連結基、Yは炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、Zは置換又は非置換の重合性官能基を表す。
【0040】
各式において、Arは、アリーレン基又はヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基は、芳香族炭化水素から水素原子を2個取り除いた原子団を意味する。芳香族炭化水素の具体例として、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、テトラセン、フルオレン、及びフェナントレン等が挙げられる。アリーレン基は、炭素数6~30であることが好ましい。
ヘテロアリーレン基は、芳香族複素環から水素原子を2個取り除いた原子団を意味する。芳香族複素環の具体例として、ピリジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントロリン、フラン、ピロール、チオフェン、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、トリアゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾオキサジアゾール、ベンゾチアジアゾール、ベンゾトリアゾール、及びベンゾチオフェン等が挙げられる。ヘテロアリーレン基は、炭素数2~30であることが好ましい。
Arは、例えばベンゼンのような単環構造であってもよく、例えばナフタレンのように環が互いに縮合してなる縮合環構造であってもよい。また、Arは、独立した単環及び縮合環から選択される2個以上が結合した構造であってもよい。このような構造の一例として、ビフェニル、ターフェニル、及びトリフェニルベンゼンが挙げられる。Arは、非置換であるか、又は1以上の置換基を有してよい。Arが置換基を有する場合、置換基は、例えば、炭素数1~22の直鎖、環状又は分岐のアルキル基であってよい。
一実施形態において、Arは、好ましくは、フェニレン基、又はナフチレン基であり、より好ましくはフェニレン基である。
【0041】
上記式(I)において、Xは、下式(x1)~(x10)からなる群から選択されるいずれか1つの連結基である。
【化1】
【0042】
式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~22の直鎖、環状若しくは分岐のアルキル基、又は、炭素数6~30のアリール基若しくは炭素数2~30のヘテロアリール基を表す。一実施形態において、Rは、炭素数1~22の直鎖、環状若しくは分岐のアルキル基であることが好ましい。炭素数は、より好ましくは2~16、更に好ましくは3~12、特に好ましくは4~8である。他の実施形態において、Rは、炭素数6~30のアリールであることが好ましく、フェニル基又はナフチル基であることがより好ましく、フェニル基であることが更に好ましい。
【0043】
一実施形態において、上記連結基Xは、x1であることが好ましい。すなわち、電荷輸送性化合物は、下式(I-1)で示される構造部位を有することが好ましい。
-Ar-O-Y-Z (I-1)
【0044】
式(I)において、Yは、炭素数1~10の2価の脂肪族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は、直鎖、分岐、環状、又はこれらを組み合わせた構造を有してよい。脂肪族炭化水素基は、飽和であっても、不飽和であってもよい。
【0045】
一実施形態において、原料となるモノマーの入手が容易である観点から、Yは、直鎖の脂肪族炭化水素基であることが好ましく、飽和であることがより好ましい。これらの観点から、式(I)において、Yは、-(CH-であることが好ましい。すなわち、一実施形態において、電荷輸送性化合物は、下式(I-2)で示される構造部位を有することが好ましい。
-Ar-X-(CH-Z (I-2)
式中、nは1~10であり、好ましくは1~8、より好ましくは1~6である。耐熱性の観点から、nは1~4であることが更に好ましく、nは1又は2であることが最も好ましい。
【0046】
上述のように、電荷輸送性化合物は、上式(I-1)又は(I-2)で示される構造部位を有することが好ましく、下式(I-3)で示される構造部位を有することがより好ましい。
-Ar-O-(CH-Z (I-3)
式中、nは1~10であり、好ましくは1~8、より好ましくは1~6である。耐熱性の観点から、nは1~4であることが更に好ましく、nは1又は2であることが最も好ましい。
【0047】
上記各式において、Zは、重合性官能基を示す。「重合性官能基」とは、熱及び/又は光を加えることにより、結合を形成し得る官能基をいう。重合性官能基Zは、非置換であっても、置換基を有してよい。重合性官能基Zの具体例として、炭素-炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基、エチニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、小員環を有する基(例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基等の環状アルキル基;エポキシ基(オキシラニル基)、オキセタン基(オキセタニル基)等の環状エーテル基;ジケテン基;エピスルフィド基;ラクトン基;ラクタム基等)、複素環基(例えば、フラン-イル基、ピロール-イル基、チオフェン-イル基、シロール-イル基)などが挙げられる。
【0048】
重合性官能基Zとしては、特に、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、及びオキセタン基が好ましい。反応性及び有機エレクトロニクス素子の特性の観点から、ビニル基、オキセタン基、又はエポキシ基がより好ましい。これらの重合性官能基は、置換基を有してもよい。置換基は、炭素数1~22の直鎖、環状、又は分岐のアルキル基が好ましい。炭素数は1~8がより好ましく、1~4が更に好ましい。置換基は、1~4の直鎖のアルキル基であることが最も好ましい。
【0049】
一実施形態において、保存安定性の観点から、重合性官能基Zは、下式(z1)で示されるオキセタン基であることが好ましい。式中、Rは、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基であってよい。Rは、メチル基、又はエチル基であることが特に好ましい。
【化2】
【0050】
式(I)で表される構造部位を少なくとも1つ有する電荷輸送性化合物は、その構造内に少なくとも1つの重合性官能基Zを含むことになる。重合性官能基を含む化合物は、重合反応によって硬化可能であり、硬化によって溶媒への溶解度を変化させることが可能である。そのため、式(I)で表される構造部位を少なくとも1つ有する電荷輸送性化合物は、優れた硬化性を有し、湿式プロセスに適した材料となる。
【0051】
一実施形態において、電荷輸送性化合物は、上記式(I)で表される構造部位を有し、かつ、電荷を輸送する能力を有していればよい。一実施形態において、輸送する電荷は、正孔が好ましい。正孔輸送性の化合物であれば、例えば、有機EL素子の正孔注入層や正孔輸送層の材料として用いることができる。また、電子輸送性の化合物であれば、電子輸送層や電子注入層の材料として用いることができる。また、正孔と電子の両方を輸送する化合物であれば、発光層の材料などに用いることができる。
一実施形態において、上記電荷輸送性化合物は、正孔注入層及び/又は正孔輸送層の材料として使用することが好ましく、正孔注入層材料として使用することがより好ましい。そのため、上記電荷輸送性化合物は、正孔注入性又は正孔輸送性を有することが好ましく、正孔注入性を有することがより好ましい。
【0052】
電荷輸送性化合物は、1つ又は2つ以上の電荷輸送性を有する構造単位を有し、上記構造単位の少なくとも1つが上記式(I)で表される構造部位を有する。電荷輸送性材料は、1つの構造単位から構成される低分子化合物と、複数の構造単位から構成される高分子化合物とに大別され、これらのいずれであってもよい。
【0053】
電荷輸送性化合物が低分子化合物である場合、高純度の材料が容易に得られる点で好ましい。電荷輸送性化合物が高分子化合物である場合、組成物の調製が容易であり、また、成膜性に優れる点で好ましい。更に、両者の利点を得る観点から、電荷輸送性化合物として低分子化合物と高分子化合物とを混合して用いることも可能である。以下、電荷輸送性化合物の一例として、電荷輸送性を有する複数の構造単位から構成される高分子化合物について、より具体的に説明する。
【0054】
[電荷輸送性ポリマー]
電荷輸送性化合物が高分子化合物である場合、電荷輸送性化合物は、ポリマー又はオリゴマーであってよい。以下、これらをまとめて「電荷輸送性ポリマー」と称する。電荷輸送性ポリマーは、その構造内に、先に説明した下式(I)で表される少なくとも1つの構造部位を有することが好ましい。
-Ar-X-Y-Z (I)
【0055】
電荷輸送性ポリマーの末端部に、-Ar-CH-O‐で表される構造を含む連結基を介して重合性官能基が存在する場合、電荷輸送性ポリマーは、重合開始剤と併用した場合、加熱によって分子内の結合が切断し、分解物が生じやすい傾向がある。これに対し、式(I)で表される構造部位を有する電荷輸送性ポリマーは、重合開始剤と併用した場合であっても、加熱による分解物が生じ難い。このようなことから、上記実施形態の有機薄膜の製造方法において、上式(I)で表される少なくとも1つの構造部位を有する電荷輸送性ポリマーを含む有機エレクトロニクス材料を使用した場合、優れた性能を有する有機薄膜を得ることが、更に容易となる。
【0056】
電荷輸送性ポリマーは、直鎖状であっても、又は、分岐構造を有していてもよい。電荷輸送性ポリマーは、好ましくは、電荷輸送性を有する2価の構造単位Lと末端部を構成する1価の構造単位Tとを少なくとも含み、分岐部を構成する3価以上の構造単位Bを更に含んでもよい。電荷輸送性ポリマーは、各構造単位を、それぞれ1種のみ含んでいても、又は、それぞれ複数種含んでいてもよい。電荷輸送性ポリマーにおいて、各構造単位は、「1価」~「3価以上」の結合部位において互いに結合している。
【0057】
(電荷輸送性ポリマーの構造)
電荷輸送性ポリマーに含まれる部分構造の例として、以下が挙げられる。電荷輸送性ポリマーは以下の部分構造を有するポリマーに限定されない。部分構造中、「L」は構造単位Lを、「T」は構造単位Tを、「B」は構造単位Bを表す。「*」は、他の構造単位との結合部位を表す。以下の部分構造中、複数のLは、互いに同一の構造単位であっても、互いに異なる構造単位であってもよい。T及びBについても、同様である。
【0058】
直鎖状の電荷輸送性ポリマー
【化3】
【0059】
分岐構造を有する電荷輸送性ポリマー
【化4】
【化5】
【0060】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、電荷輸送性の2価の構造単位Lを有することが好ましい。また、一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、3方向以上に分岐した構造を有する、すなわち上記構造単位Bを有することが好ましい。電荷輸送性ポリマーは、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、ビチオフェン構造、ベンゼン構造、フェノキサジン構造、及びフルオレン構造からなる群から選択される少なくとも1種の構造を含むことが好ましい。この構造は、好ましくは、後述する構造単位Lに含まれてもよいが、構造単位Bに含まれてもよく、構造単位L及び構造単位Bの双方に含まれてもよい。電荷輸送性ポリマーが上記構造のいずれかを含むことによって、電荷輸送性、特に、正孔輸送性を向上させることができる。
【0061】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、ポリマーを構成する構造単位L、B、及びTの少なくとも1つに、式(I)で表される構造部位を含んでいればよく、その導入位置は特に限定されない。好ましい実施形態において、硬化性を高める観点から、式(I)で表される構造部位は、電荷輸送性ポリマーの少なくとも1つの末端部を構成する構成単位Tに存在することが好ましい。式(I)で表される構造部位は、電荷輸送性ポリマーを構成するモノマー化合物の合成が容易であるという観点からも、末端部を構成する構造単位Tに存在することが好ましい。以下、電荷輸送性ポリマーの構造単位についてより具体的に説明する。
【0062】
(構造単位L)
構造単位Lは、電荷輸送性を有する2価の構造単位である。構造単位Lは、電荷を輸送する能力を有する原子団を含んでいればよく、特に限定されない。例えば、構造単位Lは、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ビフェニル構造、ターフェニル構造、ナフタレン構造、アントラセン構造、テトラセン構造、フェナントレン構造、ジヒドロフェナントレン構造、ピリジン構造、ピラジン構造、キノリン構造、イソキノリン構造、キノキサリン構造、アクリジン構造、ジアザフェナントレン構造、フラン構造、ピロール構造、オキサゾール構造、オキサジアゾール構造、チアゾール構造、チアジアゾール構造、トリアゾール構造、ベンゾチオフェン構造、ベンゾオキサゾール構造、ベンゾオキサジアゾール構造、ベンゾチアゾール構造、ベンゾチアジアゾール構造、ベンゾトリアゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択される。芳香族アミン構造は、好ましくはトリアリールアミン構造であり、より好ましくはトリフェニルアミン構造である。
【0063】
一実施形態において、構造単位Lは、優れた正孔輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、チオフェン構造、フルオレン構造、ベンゼン構造、ピロール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましく、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることがより好ましい。他の実施形態において、構造単位Lは、優れた電子輸送性を得る観点から、置換又は非置換の、フルオレン構造、ベンゼン構造、フェナントレン構造、ピリジン構造、キノリン構造、及び、これらの1種又は2種以上を含む構造から選択されることが好ましい。
【0064】
構造単位Lの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Lは、以下に限定されない。
【0065】
【化6】
【0066】
【化7】
【0067】
Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。好ましくは、Rは、それぞれ独立に、-R、-OR、-SR、-OCOR、-COOR、-SiR、ハロゲン原子、及び、後述する重合性官能基を含む基からなる群から選択される。R~Rは、それぞれ独立に、水素原子;炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基;又は、炭素数6~30のアリール基又は炭素数2~30のヘテロアリール基を表す。アリール基は、芳香族炭化水素から水素原子1個を除いた原子団である。ヘテロアリール基は、芳香族複素環から水素原子1個を除いた原子団である。アルキル基は、更に、炭素数2~20個のアリール基又はヘテロアリール基により置換されていてもよく、アリール基又はヘテロアリール基は、更に、炭素数1~22個の直鎖、環状又は分岐アルキル基により置換されていてもよい。
一実施形態において、Rは、それぞれ独立して、水素原子、又は、アルキル基、アリール基、又はアルキル置換アリール基、及びハロゲン原子からなる群から選択される置換基であることが好ましい。ハロゲン原子は、塩素原子、フッ素原子、臭素原子等であってよく、フッ素原子が好ましい。
Arは、炭素数6~30のアリーレン基又は炭素数2~30ヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基は、芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団である。ヘテロアリーレン基は、芳香族複素環から水素原子2個を除いた原子団である。Arは、好ましくはアリーレン基であり、より好ましくはフェニレン基である。
【0068】
芳香族炭化水素としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。芳香族複素環としては、単環、縮合環、又は、単環及び縮合環から選択される2個以上が単結合を介して結合した多環が挙げられる。
一実施形態において、構造単位Lは、下式で表される構造単位L1を含むことが好ましい。
【化7A】
式中、Rは、先に説明したRと同様である。この実施形態において、Rは、炭素数1~22の直鎖のアルキル基、又はハロゲン原子であることが好ましい。上記直鎖のアルキル基は、より好ましくは炭素数が2~16であり、更に好ましくは炭素数が3~12であり、特に好ましくは炭素数が4~8である。上記ハロゲン原子は、塩素原子、フッ素原子、又は臭素原子であってよく、フッ素原子が好ましい。構造単位L1の中でも、成膜時の有機薄膜の性能低下を抑制しやすい傾向があることから、Rがフッ素原子である構造がより好ましい。
【0069】
(構造単位B)
構造単位Bは、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合に、分岐部を構成する3価以上の構造単位である。構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、好ましくは6価以下であり、より好ましくは3価又は4価である。構造単位Bは、電荷輸送性を有する単位であることが好ましい。例えば、構造単位Bは、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、置換又は非置換の、芳香族アミン構造、カルバゾール構造、縮合多環式芳香族炭化水素構造、及び、これらの1種又は2種以上を含有する構造から選択される。
【0070】
構造単位Bの具体例として、以下が挙げられる。構造単位Bは、以下に限定されない。
【化8】
【0071】
Wは、3価の連結基を表し、例えば、炭素数6~30のアレーントリイル基又は炭素数2~30のヘテロアレーントリイル基を表す。アレーントリイル基は、芳香族炭化水素から水素原子3個を除いた原子団である。ヘテロアレーントリイル基は、芳香族複素環から水素原子3個を除いた原子団である。Arは、それぞれ独立に2価の連結基を表し、例えば、それぞれ独立に、炭素数6~30のアリーレン基又は炭素数2~30のヘテロアリーレン基を表す。Arは、好ましくはアリーレン基、より好ましくはフェニレン基である。Yは、2価の連結基を表し、例えば、構造単位LにおけるR(ただし、重合性官能基を含む基を除く。)のうち水素原子を1個以上有する基から、更に1個の水素原子を除いた2価の基が挙げられる。Zは、炭素原子、ケイ素原子、又はリン原子のいずれかを表す。構造単位中、ベンゼン環及びArは、置換基を有していてもよく、置換基の例として、先に説明した構造単位LにおけるRが挙げられる。
一実施形態において、構造単位Bは、下式で表される構造単位B1を含むことが好ましい。
【化8A】
【0072】
(構造単位T)
構造単位Tは、電荷輸送性ポリマーの末端部を構成する1価の構造単位である。電荷輸送性ポリマーは硬化性を高める観点から末端部に重合性官能基を有することが好ましい。したがって、構造単位Tは、重合性官能基を含む構造を有することが好ましい。以下、重合性官能基を含む構造単位Tを構造単位T1と称す。一実施形態において、構造単位T1は、下式で表される構造を有する。
-Ar-(L)a-Z
式中、Arはアリーレン基又はヘテロアリーレン基、Lは連結基であり、aは0又は1であり、Zは置換又は非置換の重合性官能基を示す。上式において、連結基Lは、2価の有機基であり、特に限定されない。
他の実施形態において、構造単位T1は、例えば、ピロール-イル基等のそれ自身が重合性官能基となる構造であってもよい。
【0073】
一実施形態において、構造単位T1は下式(I)で表される構造を有することが好ましい。
-Ar-X-Y-Z (I)
式中、Arはアリーレン基又はヘテロアリーレン基、Xは連結基、Yは炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、Zは置換又は非置換の重合性官能基を表す。
各式中、Ar、X、Y、Zは、先に式(I)で表される構造部位について説明したとおりである。
【0074】
上記構造単位T1を含む電荷輸送性ポリマーを使用することによって、湿式プロセスによる成膜時に優れた硬化性を得ることが容易となる。また、上記実施形態の製造方法によって、優れた性能を有する有機薄膜を得ることが更に容易となる。構造単位T1は、先に示した式(I-1)又は(I-2)で表される有機基であることが好ましい。構造単位T1は、先に示した式(I-3)で表される有機基であることがより好ましい。
【0075】
一実施形態において、上記構造単位T1は、式(I)で表される重合性官能基Zを有する構造単位と、これ以外の重合性官能基を有する構造単位を含んでもよい。但し、成膜時の有機薄膜の性能低下を効果的に抑制することが容易となる観点から、上記構造単位T1の全量を基準として、式(I)で表される構造単位の割合は、50モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましく、85モル%以上が更に好ましい。上記構造単位の割合は、100モル%であることが最も好ましい。
【0076】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、上記構造単位T1に加えて、重合性官能基を持たない1価の構造単位(以下、構造単位T2と称す)を含んでよい。電荷輸送性ポリマーが、構造単位T1と構造単位T2とを有する場合、上記実施形態の製造方法によって、優れた性能を有する有機薄膜を得ることが、更にいっそう容易となる。
【0077】
構造単位T2は、構造内に重合性官能基を持たない任意の1価の有機基であってよく、先に説明した構造単位L及び構造単位Bと価数を除いて同じ構造を有する1価の有機基であってもよい。一実施形態において、構造単位T2は、電荷の輸送性を低下させずに耐久性を付与するという観点から、置換又は非置換の芳香族炭化水素構造であることが好ましく、置換又は非置換のベンゼン構造であることがより好ましい。
【0078】
構造単位T2の具体例として、以下が挙げられる。
【化9】
【0079】
式中、Rは、水素原子又は置換基を表す。置換基については、構造単位Lにおいて説明したRと同様であってよい(但し、重合性官能基は除く)。*は、他の構造単位との結合部位を表す。一実施形態において、Rは、炭素数1~22の直鎖、環状若しくは分岐のアルキル基であることが好ましい。アルキル基の炭素数は、より好ましくは2~16、更に好ましくは3~12であり、特に好ましくは4~8である。他の実施形態において、上記アルキル基の水素原子の一部は、塩素原子、フッ素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0080】
特に限定するものではないが、好ましい構造単位T2の一実施形態として、式(II)において、Rの1つがアルキル基であり、その他のRは水素原子となる構造が挙げられる。なかでも、他の構造単位との結合部位から見てパラ位にアルキル基を有する構造が好ましく、アルキル基は直鎖構造を有することがより好ましい。上記アルキル基の炭素数は、好ましくは炭素数が2~16であり、より好ましくは炭素数が3~12であり、さらに好ましくは炭素数が4~8である。
構造単位T2の他の実施形態として、式(II)において、Rの2つがアルキル基であり、その他のRは水素原子となる構造が挙げられる。なかでも、他の構造単位との結合部位から見てメタ位にアルキル基をそれぞれ有する構造が好ましい。このような構造において、アルキル基は、水素原子の一部又は全部が、塩素原子、フッ素原子、臭素原子などのハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子で置換されたアルキル基の一例として、-CF、-CH(CF、及び-CF(CF等挙げられ、なかでも-CFが好ましい。
【0081】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーの硬化性を高める観点から、全構造単位Tを基準として、構造単位T1の割合は、50モル%以上が好ましく、75モル%以上がより好ましく、85モル%以上が更に好ましい。上記構造単位T1の割合は、100モル%とすることもできる。上記構造単位T1の割合は、電荷輸送性ポリマーが、式(I)で表される構造単位と、これ以外の重合性官能基を含む構造単位を含む場合、これらの構造単位の合計を意味する。
【0082】
一実施形態において、構造単位T1に加えて、構造単位T2を使用する場合、構造単位T2の割合は、全構造単位T(T1+T2)を基準として、75モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましく、25%以下が更に好ましい。一方、構造単位T1の割合は、25モル%以上が好ましく、50モル%がより好ましく、75モル%以上が更に好ましい。構造単位T1及びT2の割合を上記範囲内に調整することによって、硬化性を低下させることなく、優れた性能を有する有機薄膜を得ることが、更に容易となる。
【0083】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、分子内に少なくとも1つの重合性官能基を有し、上記重合性官能基の少なくとも1つが式(I)で表される構造部位に含まれる重合性官能基Zである。重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの末端部(すなわち、構造単位T)に導入されていても、末端部以外の部分(すなわち、構造単位L又はB)に導入されていても、末端部と末端以外の部分の両方に導入されていてもよい。硬化性の観点からは、少なくとも末端部に導入されていることが好ましく、硬化性及び電荷輸送性の両立を図る観点からは、末端部のみに導入されていることが好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが分岐構造を有する場合、重合性官能基は、電荷輸送性ポリマーの主鎖に導入されていても、側鎖に導入されていてもよく、主鎖と側鎖の両方に導入されていてもよい。
【0084】
重合性官能基は、硬化性に寄与する観点からは、電荷輸送性ポリマー中に多く含まれる方が好ましい。一方、電荷輸送性を妨げない観点からは、電荷輸送性ポリマー中に含まれる量が少ない方が好ましい。重合性官能基の含有量は、これらを考慮し、適宜設定できる。
【0085】
例えば、電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基の数は、優れた硬化性を得る観点から、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。また、重合性官能基数は電荷輸送性を保つ観点から、1,000個以下が好ましく、500個以下がより好ましい。ここで、重合性官能基の数は、式(I)で表される構造部位に含まれる重合性官能基Zと、その他の構造部位に含まれる重合性官能基との合計を意味する。
【0086】
電荷輸送性ポリマー1分子あたりの重合性官能基の数は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量の合計に対する、重合性官能基を有するモノマーの仕込み量の割合、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を用い、平均値として求めることができる。
また、重合性官能基の数は、電荷輸送性ポリマーのH NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおける重合性官能基に由来するシグナルの積分値と全スペクトルの積分値との比、電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量等を利用し、平均値として算出できる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0087】
(数平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの数平均分子量は、溶媒への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。数平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、500以上が好ましく、1,000以上がより好ましく、2,000以上が更に好ましい。また、数平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下が更に好ましい。一実施形態において、電荷輸送性ポリマーの数平均分子量は、5,000~40,000が好ましく、8,000~30,000がより好ましく、10,000~20,000が更に好ましい。
【0088】
(重量平均分子量)
電荷輸送性ポリマーの重量平均分子量は、溶媒への溶解性、成膜性等を考慮して適宜、調整できる。重量平均分子量は、電荷輸送性に優れるという観点から、1,000以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、10,000以上が更に好ましい。また、重量平均分子量は、溶媒への良好な溶解性を保ち、インク組成物の調製を容易にするという観点から、1,000,000以下が好ましく、700,000以下がより好ましく、400,000以下が更に好ましい。一実施形態において、電荷輸送性ポリマーの重量数平均分子量は、20,000~200,000が好ましく、30,000~150,000がより好ましく、40,000~100,000が更に好ましい。
【0089】
数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて下記の条件で測定することができる。
送液ポンプ:L-6050 株式会社日立ハイテクノロジーズ
UV-Vis検出器:L-3000 株式会社日立ハイテクノロジーズ
カラム:Gelpack(登録商標) GL-A160S/GL-A150S 日立化成株式会社
溶離液:THF(HPLC用、安定剤を含まない) 和光純薬工業株式会社
流速:1mL/min
カラム温度:室温
分子量標準物質:標準ポリスチレン
【0090】
(構造単位の割合)
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Lの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、全構造単位を基準として、10モル%以上が好ましく、20モル%以上がより好ましく、30モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Lの割合は、構造単位T及び必要に応じて導入される構造単位Bを考慮すると、95モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下が更に好ましい。
【0091】
電荷輸送性ポリマーに含まれる構造単位Tの割合は、有機エレクトロニクス素子の特性向上の観点、又は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点から、全構造単位を基準として、5モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、15モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Tの割合は、十分な電荷輸送性を得る観点から、60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。一実施形態において、構造単位Tの割合は、式(I)で表される構造部位を有する構造単位T1の割合を意味する。他の実施形態において、構造単位Tの割合は、上記構造単位T1と、これ以外の構造単位T2との合計量を意味する。
【0092】
電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位Bの割合は、有機エレクトロニクス素子の耐久性向上の観点から、全構造単位を基準として、1モル%以上が好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上が更に好ましい。また、構造単位Bの割合は、粘度の上昇を抑え、電荷輸送性ポリマーの合成を良好に行う観点、又は、十分な電荷輸送性を得る観点から、50モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましく、30モル%以下が更に好ましい。
【0093】
電荷輸送性ポリマーにおける重合性官能基の割合は、電荷輸送性ポリマーを効率よく硬化させるという観点から、全構造単位を基準として0.1モル%以上が好ましく、1モル%以上がより好ましく、3モル%以上が更に好ましい。また、重合性官能基の割合は、良好な電荷輸送性を得るという観点から、70モル%以下が好ましく、60モル%以下がより好ましく、50モル%以下が更に好ましい。なお、ここでの「重合性官能基の割合」とは、重合性官能基を有する構造単位の割合をいう。電荷輸送性ポリマーが、式(I)の構造部位に含まれる重合性官能基Zと、これ以外の構造部位に重合性官能基を有する場合、これらの合計量を意味する。
【0094】
電荷輸送性、耐久性、生産性等のバランスを考慮すると、構造単位L及び構造単位Tの割合(モル比)は、L:T=100:1~70が好ましく、100:3~50がより好ましく、100:5~30が更に好ましい。また、電荷輸送性ポリマーが構造単位Bを含む場合、構造単位L、構造単位T、及び構造単位Bの割合(モル比)は、L:T:B=100:10~200:10~100が好ましく、100:20~180:20~90がより好ましく、100:40~160:30~80が更に好ましい。
【0095】
構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーを合成するために使用した、各構造単位に対応するモノマーの仕込み量を用いて求めることができる。また、構造単位の割合は、電荷輸送性ポリマーのH NMRスペクトルにおける各構造単位に由来するスペクトルの積分値を利用し、平均値として算出することができる。簡便であることから、仕込み量が明らかである場合は、好ましくは、仕込み量を用いて求めた値を採用する。
【0096】
電荷輸送性ポリマーが正孔輸送性材料であるとき、高い正孔注入性及び正孔輸送性を得る観点から、芳香族アミン構造を有する単位及び/又はカルバゾール構造を有する単位を主要な構造単位として有する化合物であることが好ましい。この観点から、高分子化合物中の全構造単位数(但し、末端の構造単位を除く。)に対する芳香族アミン構造を有する単位及び/又はカルバゾール構造を有する単位の全数の割合は、40%以上が好ましく、45%以上がより好ましく、50%以上が更に好ましい。芳香族アミン構造を有する単位及び/又はカルバゾール構造を有する単位の全数の割合を100%とすることも可能である。
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、芳香族アミン構造としてトリフェニルアミンから誘導される2価及び/又は3価の構造単位を含むことが好ましい。上記トリフェニルアミン構造において、ベンゼン環は置換基を有してもよい。一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、アルキル基又はハロゲン原子を有するトリフェニルアミン構造から誘導される構造単位を含むことが好ましい。
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、以下に示す構造を含むことが好ましい。式中、Rは、アルキル基又はハロゲン原子であり、詳細は先に説明したとおりである。また、-Ar-X-Y-Zは、式(I)で表される構造部位として先に説明したとおりである。
【化9A】

一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、先に記載した構造単位L1と構造単位B1とを含むことが好ましい。式中、Rは先に構造単位L1において説明した通りである。
この実施形態の電荷輸送性ポリマーは、成膜時に加熱プロセスによる有機薄膜の性能低下が起こり難い傾向がある。そのため、上記実施形態の製造方法において、上記実施形態の電荷輸送性ポリマーを好適に使用することができ、これらの組合せによって、より優れた性能を有する有機薄膜を容易に提供することが可能となる。この実施形態の電荷輸送性ポリマーは、例えば、以下に示す構造を含むことが好ましい。式中、Rは、先に構造単位L1において説明した通りである。
【化9B】
一実施形態において、電荷輸送性ポリマーは、下式で表される構造単位L1-1とB1とを含むことがより好ましい。
【化9C】
また、上記電荷輸送性ポリマーは、上記構造単位L1-1及び構造単位B1と、下式で表される構造単位T1-1とを含むことが好ましい。
【化9D】
上記実施形態の電荷輸送性ポリマーは、さらに下式で表される構造単位T2-1又はT2-2のいずれかを含むことがより好ましい。式中、Rは、先に説明したとおりである。
【化9E】
【0097】
(電荷輸送性ポリマーの製造方法)
電荷輸送性ポリマーは、種々の合成方法により製造でき、特に限定されない。例えば、鈴木カップリング、根岸カップリング、薗頭カップリング、スティルカップリング、ブッフバルト・ハートウィッグカップリング等の公知のカップリング反応を用いることができる。鈴木カップリングは、芳香族ボロン酸誘導体と芳香族ハロゲン化物の間で、Pd触媒を用いたクロスカップリング反応を起こさせるものである。鈴木カップリングによれば、所望とする芳香環同士を結合させることにより、電荷輸送性ポリマーを簡便に製造できる。
【0098】
カップリング反応では、触媒として、例えば、Pd(0)化合物、Pd(II)化合物、Ni化合物等が用いられる。また、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)、酢酸パラジウム(II)等を前駆体とし、ホスフィン配位子と混合することにより発生させた触媒種を用いることもできる。電荷輸送性ポリマーの合成方法については、例えば、国際公開第2010/140553号の記載を参照できる。
【0099】
[ドーパント]
有機エレクトロニクス材料は、ドーパントを更に含有してもよい。ドーパントは、有機エレクトロニクス材料に添加することでドーピング効果を発現させ、電荷の輸送性を向上させ得る化合物であればよく、特に制限はない。ドーピングには、p型ドーピングとn型ドーピングがあり、p型ドーピングではドーパントとして電子受容体として働く物質が用いられ、n型ドーピングではドーパントとして電子供与体として働く物質が用いられる。正孔輸送性の向上にはp型ドーピング、電子輸送性の向上にはn型ドーピングを行うことが好ましい。有機エレクトロニクス材料に用いられるドーパントは、p型ドーピング又はn型ドーピングのいずれの効果を発現させるドーパントであってもよい。また、1種のドーパントを単独で添加しても、複数種のドーパントを混合して添加してもよい。
【0100】
p型ドーピングに用いられるドーパントは、電子受容性の化合物であり、例えば、ルイス酸、プロトン酸、遷移金属化合物、イオン化合物、ハロゲン化合物、π共役系化合物等が挙げられる。具体的には、ルイス酸としては、FeCl、PF、AsF、SbF、BF、BCl、BBr等;プロトン酸としては、HF、HCl、HBr、HNO、HSO、HClO等の無機酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、1-ブタンスルホン酸、ビニルフェニルスルホン酸、カンファスルホン酸等の有機酸;遷移金属化合物としては、FeOCl、TiCl、ZrCl、HfCl、NbF、AlCl、NbCl、TaCl、MoF;イオン化合物としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、AsF (ヘキサフルオロ砒酸イオン)、BF (テトラフルオロホウ酸イオン)、PF (ヘキサフルオロリン酸イオン)等のパーフルオロアニオンを有する塩、アニオンとして上記プロトン酸の共役塩基を有する塩など;ハロゲン化合物としては、Cl、Br、I、ICl、ICl、IBr、IF等;π共役系化合物としては、TCNE(テトラシアノエチレン)、TCNQ(テトラシアノキノジメタン)等が挙げられる。また、特開2000-36390号公報、特開2005-75948号公報、特開2003-213002号公報等に記載の電子受容性化合物を用いることも可能である。好ましくは、ルイス酸、イオン化合物、π共役系化合物等であり、好ましくはイオン化合物である。イオン化合物のなかでも、オニウム塩が好ましい。オニウム塩とは、ヨードニウム及びアンモニウム等のオニウムイオンを含むカチオン部と、アニオン部を有する化合物を意味する。
【0101】
n型ドーピングに用いられるドーパントは、電子供与性の化合物であり、例えば、Li、Cs等のアルカリ金属;Mg、Ca等のアルカリ土類金属;LiF、CsCO等のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩;金属錯体;電子供与性有機化合物などが挙げられる。
【0102】
有機薄膜の硬化性を高めるために、ドーパントとして、重合性官能基に対する重合開始剤として作用し得る化合物を用いることが好ましい。ドーパントとしての機能と重合開始剤としての機能とを兼ねる物質として、例えば、上記イオン化合物が挙げられる。
【0103】
[他の任意成分]
有機エレクトロニクス材料は、電荷輸送性低分子化合物、及び他の電荷輸送性ポリマー等を更に含有してもよい。
【0104】
[含有量]
電荷輸送性化合物の含有量は、良好な電荷輸送性を得る観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。100質量%とすることも可能である。
【0105】
ドーパントを含有する場合、その含有量は、有機エレクトロニクス材料の電荷輸送性を向上させる観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。また、成膜性を良好に保つ観点から、有機エレクトロニクス材料の全質量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0106】
[重合開始剤]
有機エレクトロニクス材料は、好ましくは、重合開始剤を含有する。重合開始剤として、公知のラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤等を使用できる。インク組成物を簡便に調製できる観点から、ドーパントとしての機能と重合開始剤としての機能とを兼ねる物質を用いることが好ましい。ドーパントとしての機能も備えた重合開始剤として、例えば、上記イオン化合物が挙げられる。イオン化合物の中でも、オニウム塩が好ましい。オニウム塩とは、ヨードニウム及びアンモニウム等のオニウムイオンを含むカチオン部とアニオン部を有する化合物を意味する。例えば、パーフルオロアニオン部を有する化合物が挙げられ、具体例として、以下の化合物が挙げられる。
【化10】
【0107】
<インク組成物>
有機エレクトロニクス材料は、上記実施形態の有機エレクトロニクス材料に、該材料を溶解又は分散し得る溶媒を更に含有するインク組成物であってよい。このようなインク組成物を構成して用いることによって、塗布法といった簡便な方法によって有機薄膜を容易に形成できる。
【0108】
[溶媒]
溶媒としては、水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を使用できる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン;シクロヘキサン等の環状アルカン;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族炭化水素;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール-1-モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル;1,2-ジメトキシベンゼン、1,3-ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2-メトキシトルエン、3-メトキシトルエン、4-メトキシトルエン、2,3-ジメチルアニソール、2,4-ジメチルアニソール等の芳香族エーテル;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、乳酸エチル、乳酸n-ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n-ブチル等の芳香族エステル;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられる。好ましくは、芳香族炭化水素、脂肪族エステル、芳香族エステル、脂肪族エーテル、芳香族エーテル等である。
【0109】
[添加剤]
インク組成物は、更に、任意成分として添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、重合禁止剤、安定剤、増粘剤、ゲル化剤、難燃剤、酸化防止剤、還元防止剤、酸化剤、還元剤、表面改質剤、乳化剤、消泡剤、分散剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0110】
[含有量]
インク組成物における溶媒の含有量は、種々の塗布方法へ適用することを考慮して定めることができる。例えば、溶媒の含有量は、溶媒に対し電荷輸送性ポリマーの割合が、0.1質量%以上となる量が好ましく、0.2質量%以上となる量がより好ましく、0.5質量%以上となる量が更に好ましい。また、溶媒の含有量は、溶媒に対し電荷輸送性ポリマーの割合が、20質量%以下となる量が好ましく、15質量%以下となる量がより好ましく、10質量%以下となる量が更に好ましい。
【0111】
<有機薄膜>
本開示の一実施形態である有機薄膜は、上記実施形態の製造方法によって製造された有機薄膜に関する。すなわち、有機薄膜は、塗布膜形成後の加熱を不活性ガス雰囲気下で実施することにより得られ、成膜時の有機薄膜の特性劣化が少なく、本来の特性を維持することができる。そのため、このような有機薄膜を使用して有機エレクトロニクス素子を構成することによって、優れた素子特性を得ることが可能となる。
乾燥後又は硬化後の有機薄膜の厚さは、電荷輸送の効率を向上させる観点から、好ましくは0.1nm以上であり、より好ましくは1nm以上であり、更に好ましくは3nm以上である。また、有機薄膜の厚さは、電気抵抗を小さくする観点から、好ましくは300nm以下であり、より好ましくは200nm以下であり、更に好ましくは100nm以下である。
【0112】
湿式プロセスによる有機薄膜の形成は、通常、コストの観点から、大気下で実施されている。特に、有機EL素子の製造において正孔注入層又は正孔輸送層として有機薄膜を形成する場合には、酸素ドーピングの観点からも、大気下で有機薄膜を形成することが好ましいと考えられている。しかし、本発明者らによる検討において、正孔注入層又は正孔輸送層として有機薄膜を形成する場合、塗布膜の加熱を不活性ガス雰囲気下で実施することで、有機薄膜の性能向上が可能となることが明らかになった。理論によって拘束するものではないが、塗布膜の加熱を不活性ガス雰囲気下で実施することで、加熱プロセスの雰囲気による影響が低減され、有機薄膜の熱劣化又は表面酸化が抑制され、本来の性能を維持することが容易となるためと考えられる。特に限定するものではないが、上記実施形態の有機薄膜は、陽極に隣接する正孔注入層又は正孔輸送層として形成されることが好ましい。
【0113】
<積層体>
本開示の一実施形態である積層体は、電荷輸送性化合物を含有する有機エレクトロニクス材料から形成された有機薄膜と、上記有機薄膜の上に設けられた上層とを有する。上記積層体において、上記上層側から、ガスクラスターイオンビームを照射し、飛行時間型二次イオン質量分析計によって測定した深さ方向の酸素イオン強度から算出される、上記有機薄膜と上記上層との界面を含めた深さ方向の酸素原子分布のばらつきは、1.0%~8.0%であることが好ましい。上記深さ方向の酸化原子分布のばらつきが8.0%以下の場合、有機薄膜の表面酸化が抑制されていると考えられ、有機EL素子において、優れた素子特性を得ることが容易となる。
【0114】
上記酸素原子分布のばらつきは、より具体的には、以下のようにして求めることができる。
(1)上記積層体の上層側から、ガスクラスターイオンビームを照射し、飛行時間型二次イオン質量分析計によって、深さ方向の酸素イオン強度を測定する。
(2)測定によって得られるプロファイルを用いて、有機薄膜と上層との界面を含めた、例えば、深さ方向(膜厚方向)10~40nmの一定の範囲での、深さ方向の酸素イオン強度の平均値A及び標準偏差Bをそれぞれ求める。次いで、平均値A及び標準偏差Bから、酸素原子分布のばらつき(B/A)の割合(%)を得る。
【0115】
上記のようにして求めた深さ方向の酸素原子分布のばらつき(%)が小さいほど、有機薄膜の表面酸化が少なく、有機薄膜の成膜時の性能低下が抑制されていると考えられる。そのため、一実施形態において、上記深さ方向の酸素原子分布のばらつきは、7.0%以下がより好ましく、5.0%以下が更に好ましく、4.0%以下であることが更にいっそう好ましい。実質的に酸素原子分布のばらつきがないことが最も好ましい。
【0116】
一実施形態において、上記積層体の有機薄膜は、先に説明した有機エレクトロニクス材料から形成された有機薄膜であってよい。なかでも、構造単位T1を有する電荷輸送性化合物を含む有機エレクトロニクス材料から形成された有機薄膜であることが好ましい。構造単位T1と構造単位T2とを有する電荷輸送性化合物を含む有機エレクトロニクス材料から形成された有機薄膜であることがより好ましい。上記有機薄膜は、任意の成膜方法によって製造されたものであってよいが、上記実施形態の有機薄膜の製造方法に従って形成された場合、上記深さ方向の酸素原子分布のばらつきが上記範囲内となる積層体を得ることが容易となる。
【0117】
上記積層体において、上層は、任意の材料から形成された薄膜であってよい。有機エレクトロニクス材料から形成される薄膜であることが好ましい。一実施形態において、上記積層体の上層は、先に説明した有機エレクトロニクス材料から形成された有機薄膜であってよい。なかでも、上層は、下層の有機薄膜を構成する材料とは異なる、構造単位T1を有する電荷輸送性化合物を含む有機エレクトロニクス材料から形成された有機薄膜であることが好ましい。上層の有機薄膜は、構造単位T1と構造単位T2とを有する電荷輸送性化合物を含む有機エレクトロニクス材料から形成された有機薄膜であることがより好ましい。他の実施形態において、上層は、構造単位T1を含まない(重合性官能基を持たない)電荷輸送性化合物を含む有機エレクトロニクス材料から形成された有機薄膜であってもよい。上層は、任意の成膜方法によって製造されたものであってよいが、上記実施形態の有機薄膜の製造方法に従って形成された場合、上記深さ方向の酸素原子分布のばらつきが上記範囲内となる積層体を得ることが容易となる。
一実施形態において、上記積層体は、第1の有機薄膜と第2の有機薄膜とを有する積層体であることが好ましく、正孔注入層と正孔輸送層とを有する積層体であることがより好ましい。このような積層体を使用して有機エレクトロニクス素子を構成した場合、所望とする優れた素子特性を得ることが容易となると考えられる。
【0118】
<有機エレクトロニクス素子>
本開示の一実施形態である有機エレクトロニクス素子は、少なくとも上記実施形態の有機薄膜、又は積層体を有する。有機エレクトロニクス素子として、例えば、有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ等が挙げられる。有機エレクトロニクス素子は、好ましくは、陽極及び陰極からなる少なくとも一対の電極の間に、有機薄膜が配置された構造を有する。
【0119】
[有機EL素子]
上記実施形態の有機EL素子は、少なくとも上記実施形態の有機薄膜を有する。有機EL素子は、通常、発光層、陽極、陰極、及び基板を備えており、必要に応じて、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層等の他の機能層を備えている。各層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。有機EL素子は、好ましくは、有機薄膜を発光層又は他の機能層として有し、より好ましくは機能層として有し、更に好ましくは正孔注入層及び正孔輸送層の少なくとも一方として有する。
【0120】
図1は、有機EL素子の一実施形態を示す断面模式図である。図1の有機EL素子は、多層構造の素子であり、基板8、陽極2、上記実施形態の有機薄膜からなる正孔注入層3及び正孔輸送層6、発光層1、電子輸送層7、電子注入層5、並びに陰極4をこの順に有している。図1において、例えば、正孔注入層3及び正孔輸送層6が、上記実施形態の製造方法によって形成された有機薄膜である。しかし、本開示の実施形態の有機EL素子はこのような構造に限らず、他の層が上記実施形態の製造方法によって形成された有機薄膜であってもよい。以下、各層について説明する。
【0121】
[発光層]
発光層に用いる材料として、低分子化合物、ポリマー、デンドリマー等の発光材料を使用できる。ポリマーは、溶媒への溶解性が高く、塗布法に適しているため好ましい。発光材料としては、蛍光材料、燐光材料、熱活性化遅延蛍光材料(TADF)等が挙げられる。
【0122】
蛍光材料として、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクリドン、スチルベン、色素レーザー用色素、アルミニウム錯体、これらの誘導体等の低分子化合物;ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン-トリフェニルアミン共重合体、これらの誘導体等のポリマー;これらの混合物等が挙げられる。
【0123】
燐光材料として、Ir、Pt等の金属を含む金属錯体などを使用できる。Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)(イリジウム(III)ビス[(4,6-ジフルオロフェニル)-ピリジネート-N,C]ピコリネート)、緑色発光を行うIr(ppy)(ファク トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム)、赤色発光を行う(btp)Ir(acac)(ビス〔2-(2’-ベンゾ[4,5-α]チエニル)ピリジナート-N,C〕イリジウム(アセチル-アセトネート))、Ir(piq)(トリス(1-フェニルイソキノリン)イリジウム)等が挙げられる。Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行うPtOEP(2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィンプラチナ)等が挙げられる。
【0124】
発光層が燐光材料を含む場合、燐光材料の他に、更にホスト材料を含むことが好ましい。ホスト材料としては、低分子化合物、ポリマー、又はデンドリマーを使用できる。低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4’-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル)、mCP(1,3-ビス(9-カルバゾリル)ベンゼン)、CDBP(4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)-2,2’-ジメチルビフェニル)、これらの誘導体等が、ポリマーとしては、上記実施形態の有機エレクトロニクス材料、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0125】
熱活性化遅延蛍光材料としては、例えば、Adv. Mater., 21, 4802-4906 (2009);Appl. Phys. Lett., 98, 083302 (2011);Chem. Comm., 48, 9580 (2012);Appl. Phys. Lett., 101, 093306 (2012);J. Am. Chem. Soc., 134, 14706 (2012);Chem. Comm., 48, 11392 (2012);Nature, 492, 234 (2012);Adv. Mater., 25, 3319 (2013);J. Phys. Chem. A, 117, 5607 (2013);Phys. Chem. Chem. Phys., 15, 15850 (2013);Chem. Comm., 49, 10385 (2013);Chem. Lett., 43, 319 (2014)等に記載の化合物が挙げられる。
【0126】
[正孔輸送層、正孔注入層]
図1では、正孔注入層3及び正孔輸送層6の少なくとも一方が、上記実施形態の製造方法によって形成された有機薄膜であってよい。有機EL素子は、このような構造に限らず、他の機能層が上記実施形態の製造方法によって形成された有機薄膜であってもよい。一実施形態において、上記有機薄膜を、正孔輸送層及び正孔注入層の少なくとも一方として使用することが好ましく、少なくとも正孔注入層として使用することが更に好ましい。
上記有機薄膜を正孔注入層及び正孔輸送層として使用する場合、成膜時に使用する有機エレクトロニクス材料として、例えば、芳香族アミン系化合物(例えば、N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニル-ベンジジン(α-NPD)などの芳香族ジアミン)、フタロシアニン系化合物、チオフェン系化合物(例えば、チオフェン系導電性ポリマー(例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン):ポリ(4-スチレンスルホン酸塩)(PEDOT:PSS)等)等が挙げられる。有機エレクトロニクス材料の好ましい実施形態は、先に説明したとおりである。
【0127】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層及び電子注入層に用いる材料としては、例えば、フェナントロリン誘導体、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレン、ペリレンなどの縮合環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体(例えば、2,2’,2”-(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)(TPBi))、キノキサリン誘導体、アルミニウム錯体(例えば、ビス(2-メチル-8-キノリノレート)-4-(フェニルフェノラト)アルミニウム(BAlq)、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq))等が挙げられる。また、先に説明した有機エレクトロニクス材料を使用することもできる。
【0128】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金が用いられる。
【0129】
[陽極]
陽極材料としては、例えば、金属(例えば、Au)又は導電性を有する他の材料が用いられる。他の材料として、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン-ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))が挙げられる。
【0130】
[基板]
基板として、ガラス、プラスチック等を使用できる。基板は、透明であることが好ましく、また、フレキシブル性を有することが好ましい。石英ガラス、光透過性の樹脂フィルム等が好ましく用いられる。
【0131】
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート等からなるフィルムが挙げられる。
【0132】
樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気、酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素、窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0133】
[発光色]
有機EL素子の発光色は特に限定されない。白色の有機EL素子は、家庭用照明、車内照明、時計又は液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0134】
白色の有機EL素子を形成する方法としては、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させる方法を用いることができる。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されないが、青色、緑色及び赤色の3つの発光極大波長を含有する組み合わせ、青色と黄色、黄緑色と橙色等の2つの発光極大波長を含有する組み合わせなどが挙げられる。発光色の制御は、発光材料の種類と量の調整により行うことができる。
【0135】
一実施形態において、有機EL素子の製造方法は、陽極と陰極との間に、上記実施形態の有機薄膜の製造方法に従い有機薄膜を形成する工程を有する。特に限定するものではないが、有機薄膜は、正孔注入層又は正孔輸送層として形成されることが好ましい。このような観点から、一実施形態において、有機EL素子は、陽極に隣接する有機薄膜と、発光層とを順に有することが好ましい。上記実施形態の有機エレクトロルミネセンス素子の製造方法は、陽極の上に、上記実施形態の有機薄膜の製造方法によって有機薄膜を形成する工程と、発光層を形成する工程と、陰極を形成する工程とを有する。上記実施形態において、発光層、及び陰極を形成する工程は、当技術分野で用いられる通常の成膜方法を適用して実施することができる。例えば、塗布法及び蒸着法のいずれであってもよいが、使用可能な材料特性の観点から、蒸着法を適用することが好ましい。他の実施形態において、上記有機薄膜を形成する工程を繰り返して、多層の有機薄膜を形成してもよい。
【0136】
<表示素子、照明装置、表示装置>
一実施形態において、表示素子は、上記実施形態の有機EL素子を備えている。例えば、赤、緑及び青(RGB)の各画素に対応する素子として、有機EL素子を用いることで、カラーの表示素子が得られる。画像の形成方法には、マトリックス状に配置した電極でパネルに配列された個々の有機EL素子を直接駆動する単純マトリックス型と、各素子に薄膜トランジスタを配置して駆動するアクティブマトリックス型とがある。
【0137】
また、一実施形態において、照明装置は、上記実施形態の有機EL素子を備えている。更に、一実施形態において、表示装置は、照明装置と、表示手段として液晶素子とを備えている。例えば、表示装置は、バックライトとして上記実施形態の照明装置を用い、表示手段として公知の液晶素子を用いた表示装置、すなわち液晶表示装置とできる。
【実施例
【0138】
以下、本発明の実施形態について実施例に従いより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。
<正孔輸送性ポリマーの調製>
(Pd触媒の調製)
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、室温下、サンプル管にトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(73.2mg、80μmol)を秤取り、トルエン(15mL)を加え、30分間撹拌した。同様に、サンプル管にトリス(t-ブチル)ホスフィン(129.6mg、640μmol)を秤取り、トルエン(5mL)を加え、5分間撹拌した。これらの溶液を混合し、室温で30分間撹拌した後に触媒として使用した。全ての溶媒は30分以上、窒素バブルにより脱気した後に使用した。
【0139】
後述する各正孔輸送性ポリマーの調製で使用したモノマーは以下のとおりである。
【化11】
【0140】
(正孔輸送性ポリマー1の調製)
三口丸底フラスコに、モノマーA1(5.0mmol)、モノマーB1(2.0mmol)、モノマーC1(4.0mmol)、メチルトリ-n-オクチルアンモニウムクロリド(Alfa Aesar社「アリコート336」)(0.03g)、水酸化カリウム(1.12g)、純水(5.54mL)、及びトルエン(50mL)を加え、更に、先に調製したPd触媒トルエン溶液(3.0mL)を加えて混合し、この混合液を2時間にわたって加熱還流することによって反応を行った。ここまでの全ての操作は窒素気流下で行った。また、全ての溶媒は、30分以上、窒素バブルにより脱気した後に使用した。
【0141】
上記反応終了後、有機層を水洗し、有機層をメタノール-水(9:1)に注いだ。生じた沈殿を吸引ろ過により回収し、メタノール-水(9:1)で洗浄した。得られた沈殿をトルエンに溶解し、メタノールから再沈殿した。得られた沈殿を吸引ろ過により回収し、トルエンに溶解し、金属吸着剤(Strem Chemicals社製「Triphenylphosphine, polymer-bound on styrene-divinylbenzene copolymer」、沈殿物100mgに対して200mg)を加えて、80℃で2時間撹拌した。
撹拌終了後、金属吸着剤と不溶物をろ過して取り除き、ろ液をメタノールから再沈殿した。生じた沈殿を吸引ろ過により回収し、メタノールで洗浄した。得られた沈殿を真空乾燥し、正孔注入性化合物1を得た。分子量は、後述するように溶離液としてTHFを用いたGPC(ポリスチレン換算)により測定した。得られた正孔輸送性ポリマー1の数平均分子量は14,700であり、重量平均分子量は46,100であった。
【0142】
数平均分子量及び重量平均分子量は、溶離液にテトラヒドロフラン(THF)を用いたGPC(ポリスチレン換算)により測定した。測定条件は以下のとおりである。
送液ポンプ:L-6050 株式会社日立ハイテクノロジーズ
UV-Vis検出器:L-3000 株式会社日立ハイテクノロジーズ
カラム:Gelpack(登録商標) GL-A160S/GL-A150S 日立化成株式会社
溶離液:THF(HPLC用、安定剤を含まない) 和光純薬工業株式会社
流速:1mL/min
カラム温度:室温
分子量標準物質:標準ポリスチレン
【0143】
(正孔輸送性ポリマー2の調製)
三口丸底フラスコに、モノマーA2(5.0mmol)、モノマーB1(2.0mmol)、モノマーC1(2.0mmol)、モノマーC2(2.0mmol)、メチルトリ-n-オクチルアンモニウムクロリド(Alfa Aesar社「アリコート336」)(0.03g)、水酸化カリウム(1.12g)、純水(5.54mL)、及びトルエン(50mL)を加え、更に、先に調製したPd触媒トルエン溶液(3.0mL)を加えて混合し、この混合液を2時間にわたって加熱還流することによって反応を行った。ここまでの全ての操作は窒素気流下で行った。また、全ての溶媒は、30分以上、窒素バブルにより脱気した後に使用した。これ以降は、正孔輸送性ポリマー1と同様の操作を行い、正孔輸送性ポリマー2を得た。得られた正孔輸送性ポリマー2の数平均分子量は13,800であり、重量平均分子量は50,100であった。
【0144】
(正孔輸送性ポリマー3の調製)
三口丸底フラスコに、モノマーA2(5.0mmol)、モノマーB1(2.0mmol)、モノマーC1(2.0mmol)、モノマーC3(2.0mmol)、メチルトリ-n-オクチルアンモニウムクロリド(Alfa Aesar社「アリコート336」)(0.03g)、水酸化カリウム(1.12g)、純水(5.54mL)、及びトルエン(50mL)を加え、更に、先に調製したPd触媒トルエン溶液(3.0mL)を加えて混合し、この混合液を2時間にわたって加熱還流することによって反応を行った。ここまでの全ての操作は窒素気流下で行った。また、全ての溶媒は、30分以上、窒素バブルにより脱気した後に使用した。これ以降は、正孔輸送性ポリマー1と同様の操作を行い、正孔輸送性ポリマー3を得た。得られた正孔輸送性ポリマー3の数平均分子量は15,000であり、重量平均分子量は51,300であった。
【0145】
<有機ホールオンリーデバイス(HOD)の製造及び評価>
以下は、有機薄膜の形成工程を含む有機HODの製造及びその導電性の評価に関する。
【0146】
1.有機HODの製造
(実施例1)
大気下で、正孔輸送性ポリマー1(10.0mg)とトルエン(516μL)とを混合した溶液に、下記重合開始剤1(5.0mg)とトルエン2.5mLとを予め混合した溶液を51μL加えて混合し、インク組成物1を調製した。また、正孔輸送性ポリマー1(10.0mg)とトルエン(2301μL)とを混合し、インク組成物2を調製した。
【化12】
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下(25℃)で、インク組成物1を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、上記塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚80nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。
次に、上記正孔注入層の上に、大気下(25℃)で、インク組成物2を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、上記塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で230℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚20nmの有機薄膜(正孔輸送層)を形成した。
上記のようにして得た、ITO/正孔注入層/正孔輸送層を有するガラス基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上にAl(100nm)を蒸着法で成膜してAl電極を形成し、次いで封止処理を行って、有機HOD(1A)を得た。
【0147】
(比較例1)
正孔注入層(下層の有機薄膜)を形成するための塗布膜の加熱を、大気雰囲気下で実施したことを除き、実施例1の有機HOD(1A)の製造方法と同様にして、有機HOD(1B)を製造した。すなわち、先ず、実施例1と同様にして、ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下で、インク組成物1を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。
次に、上記塗布膜を有するガラス基板を、大気雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚80nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。次いで、実施例1と同様にして、正孔注入層の上に、正孔輸送層及びAl電極を形成し、封止処理を行って、有機HOD(1B)を得た。
【0148】
(実施例2)
大気下で、正孔輸送性ポリマー2(10.0mg)とトルエン(516μL)とを混合した溶液に、上記重合開始剤1(5.0mg)とトルエン2.5mLとを予め混合した溶液を51μL加えて混合し、インク組成物3を調製した。また、正孔輸送性ポリマー2(10.0mg)とトルエン(2301μL)とを混合し、インク組成物4を調製した。
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下(25℃)で、インク組成物3を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、上記塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚80nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。
次に、上記正孔注入層の上に、大気下(25℃)で、インク組成物4を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、上記塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で230℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚20nmの有機薄膜(正孔輸送層)を形成した。
上記のようにして得た、ITO/正孔注入層/正孔輸送層を有するガラス基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上にAl(100nm)を蒸着法で成膜してAl電極を形成し、次いで封止処理を行って、有機HOD(2A)を得た。
【0149】
(比較例2)
正孔注入層(下層の有機薄膜)を形成するための塗布膜の加熱を、大気雰囲気下で実施したことを除き、実施例2の有機HOD(2A)の製造方法と同様にして、有機HOD(2B)を製造した。すなわち、先ず、実施例2と同様にして、ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下で、インク組成物3を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。
次に、上記塗布膜を有するガラス基板を、大気雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚80nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。次いで、実施例2と同様にして、正孔注入層の上に、正孔輸送層及びAl電極を形成し、封止処理を行って、有機HOD(2B)を得た。
【0150】
(実施例3)
大気下で、正孔輸送性ポリマー3(10.0mg)とトルエン(516μL)とを混合した溶液に、上記重合開始剤1(5.0mg)とトルエン2.5mLとを予め混合した溶液を51μL加えて混合し、インク組成物5を調製した。また、正孔輸送性ポリマー3(10.0mg)とトルエン(2301μL)とを混合し、インク組成物6を調製した。
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下(25℃)で、インク組成物5を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、上記塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚80nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。
次に、上記正孔注入層の上に、大気下(25℃)で、インク組成物6を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、上記塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で230℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚20nmの有機薄膜(正孔輸送層)を形成した。
上記のようにして得た、ITO/正孔注入層/正孔輸送層を有するガラス基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上にAl(100nm)を蒸着法で成膜してAl電極を形成し、封止処理を行って、有機HOD(3A)を得た。
【0151】
(比較例3)
正孔注入層(下層の有機薄膜)を形成するための塗布膜の加熱を、大気雰囲気下で実施したことを除き、実施例3の有機HOD(3A)の製造方法と同様にして、有機HOD(3B)を製造した。すなわち、先ず、実施例3と同様にして、ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下で、インク組成物5を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。
次に、上記塗布膜を有するガラス基板を、大気雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚80nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。次いで、実施例3と同様にして、正孔注入層の上に、正孔輸送層及びAl電極を形成し、封止処理を行って、有機HOD(3B)を得た。
【0152】
(実施例4)
大気下で、正孔輸送性ポリマー1(10.0mg)とトルエン(516μL)とを混合した溶液に、上記重合開始剤1(5.0mg)とトルエン2.5mLとを予め混合した溶液を51μL加えて混合し、インク組成物1を調製した。また、正孔輸送性ポリマー1(10.0mg)とトルエン(2301μL)とを混合し、インク組成物2を調製した。
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下(25℃)で、インク組成物1を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、上記塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で200℃、60分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚80nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。
次に、上記正孔注入層の上に、大気下(25℃)で、インク組成物2を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、上記塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で230℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚20nmの有機薄膜(正孔輸送層)を形成した。
上記のようにして得た、ITO/正孔注入層/正孔輸送層を有するガラス基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上にAl(100nm)を蒸着法で成膜してAl電極を形成し、封止処理を行って、有機HOD(4A)を得た。
【0153】
(比較例4)
正孔注入層(下層の有機薄膜)を形成するための塗布膜の加熱を、大気雰囲気下で実施したことを除き、実施例4の有機HOD(4A)の製造方法と同様にして、有機HOD(4B)を製造した。すなわち、先ず、実施例4と同様にして、ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下で、インク組成物1を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、上記塗布膜を有するガラス基板を、大気雰囲気下、ホットプレート上で200℃、60分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚80nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。次いで、正孔注入層の上に、正孔輸送層及びAl電極を形成し、封止処理を行って、実施例4と同様にして、有機HOD(4B)を得た。
【0154】
2.有機HODの評価
実施例1~4及び比較例1~4で得た各有機HODに電圧を印加したところ、いずれも電流が流れることが分かり、正孔注入性の機能を有することが確認された。各有機HODについて、電流密度300mA/cm時の駆動電圧を測定した。測定結果を表1に示す。
【表1】
【0155】
表1に示した結果から、塗布膜の加熱を大気下で行った比較例1~4の有機HOD(1B~4B)と比較して、塗布膜の加熱を不活性ガス(窒素ガス)雰囲気下で行った実施例1~4の有機HOD(1A~4A)は、より低い電圧で駆動することが明らかである。したがって、実施例1~4のように、塗膜形成後の加熱を不活性ガス(窒素ガス)雰囲気下で行った場合、成膜時の有機薄膜の性能低下を抑制できることがわかる。更に詳細には、実施例1と実施例4との対比において、実施例1がより低い駆動電圧であることから、不活性ガス雰囲気下での加熱時間を短くすることで、有機薄膜の性能低下の抑制がより容易となることが分かる。また、実施例1と実施例2及び3との対比から、電荷輸送性ポリマーにおける重合性官能基の割合を低減した場合、不活性ガス雰囲気下での加熱による有機薄膜の性能低下の抑制効果を更に向上させることが容易となることが分かる。
【0156】
<有機EL素子の製造及び評価>
以下は、有機薄膜の形成工程を含む有機EL素子の製造及びその特性評価に関する。
1.有機EL素子の製造
(実施例5)
大気下で、正孔輸送性ポリマー1(10.0mg)とトルエン(516μL)とを混合した溶液に、上記重合開始剤1(5.0mg)とトルエン2.5mLとを予め混合した溶液を51μL加えて混合し、インク組成物1を調製した。また、正孔輸送性ポリマー1(10.0mg)とトルエン(2301μL)とを混合し、インク組成物2を調製した。
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下(25℃)で、インク組成物1を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚80nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。
次に、上記正孔注入層の上に、大気下(25℃)で、インク組成物2を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、上記塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で230℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚20nmの有機薄膜(正孔輸送層)を形成した。
上記のようにして得た、ITO/正孔注入層/正孔輸送層を有するガラス基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上に、CBP:Ir(ppy)(94:6、30nm)、BAlq(10nm)、Alq(30nm)、LiF(0.8nm)、及びAl(100nm)の順に蒸着法で各層を成膜し、封止処理を行って、有機EL素子(1A)を製造した。
【0157】
(比較例5)
正孔注入層を形成する塗布膜の硬化を大気雰囲気下で実施したことを除き、実施例5の有機EL素子(1A)の製造方法と同様にして、有機EL素子(1B)を製造した。すなわち、実施例5と同様にして、ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下(25℃)で、インク組成物1を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を有するガラス基板を、大気雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚20nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した、次いで、実施例5と同様にして、正孔注入層の上に各層を成膜し、封止処理を行って、有機EL素子(1B)を製造した。
【0158】
(実施例6)
大気下で、正孔輸送性ポリマー2(10.0mg)とトルエン(516μL)とを混合した溶液に、上記重合開始剤1(5.0mg)とトルエン2.5mLとを予め混合した溶液を51μL加えて混合し、インク組成物3を調製した。また、正孔輸送性ポリマー2(10.0mg)とトルエン(2301μL)とを混合し、インク組成物4を調製した。
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下(25℃)で、インク組成物3を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚80nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。
次に、上記正孔注入層の上に、大気下(25℃)で、インク組成物4を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、上記塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で230℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚20nmの有機薄膜(正孔輸送層)を形成した。
上記のようにして得た、ITO/正孔注入層/正孔輸送層を有するガラス基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上に、CBP:Ir(ppy)(94:6、30nm)、BAlq(10nm)、Alq(30nm)、LiF(0.8nm)、及びAl(100nm)の順に蒸着法で各層を成膜し、封止処理を行って、有機EL素子(2A)を製造した。
【0159】
(比較例6)
正孔注入層を形成する塗布膜の硬化を大気雰囲気下で実施したことを除き、実施例6の有機EL素子(2A)の製造方法と同様にして、有機EL素子(2B)を製造した。すなわち、実施例6と同様にして、ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下(25℃)で、インク組成物3を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を有するガラス基板を、大気雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚20nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した、次いで、実施例6と同様にして、正孔注入層の上に各層を成膜し、封止処理を行って、有機EL素子(2B)を製造した。
【0160】
(実施例7)
大気下で、正孔輸送性ポリマー3(10.0mg)とトルエン(516μL)とを混合した溶液に、上記重合開始剤1(5.0mg)とトルエン2.5mLとを予め混合した溶液を51μL加えて混合し、インク組成物5を調製した。また、正孔輸送性ポリマー3(10.0mg)とトルエン(2301μL)とを混合し、インク組成物6を調製した。
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下(25℃)で、インク組成物5を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚80nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。
次に、上記正孔注入層の上に、大気下(25℃)で、インク組成物6を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、上記塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で230℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚20nmの有機薄膜(正孔輸送層)を形成した。
上記のようにして得た、ITO/正孔注入層/正孔輸送層を有するガラス基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上にCBP:Ir(ppy)(94:6、30nm)、BAlq(10nm)、Alq(30nm)、LiF(0.8nm)、及びAl(100nm)の順に蒸着法で成膜し、封止処理を行って、有機EL素子(3A)を製造した。
【0161】
(比較例7)
正孔注入層を形成する塗布膜の硬化を大気雰囲気下で実施したことを除き、実施例7の有機EL素子(3A)の製造方法と同様にして、有機EL素子(3B)を製造した。すなわち、実施例7と同様にして、ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下で、インク組成物5を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を有するガラス基板を、大気雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚20nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した、次いで、実施例7と同様にして、正孔注入層の上に各層を成膜し、封止処理を行って、有機EL素子(3B)を製造した。
【0162】
(実施例8)
大気下で、正孔輸送性ポリマー1(10.0mg)とトルエン(516μL)とを混合した溶液に、上記重合開始剤1(5.0mg)とトルエン2.5mLとを予め混合した溶液を51μL加えて混合し、インク組成物1を調製した。また、正孔輸送性ポリマー1(10.0mg)とトルエン(2301μL)とを混合し、インク組成物2を調製した。
ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下(25℃)で、インク組成物1を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で200℃、60分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚80nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。
次に、上記正孔注入層の上に、大気下(25℃)で、インク組成物2を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、上記塗布膜を有するガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で230℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚20nmの有機薄膜(正孔輸送層)を形成した。
上記のようにして得た、ITO/正孔注入層/正孔輸送層を有するガラス基板を、真空蒸着機中に移し、正孔輸送層上に、CBP:Ir(ppy)(94:6、30nm)、BAlq(10nm)、Alq(30nm)、LiF(0.8nm)、及びAl(100nm)の順に蒸着法で各層を成膜し、封止処理を行って、有機EL素子(4A)を製造した。
【0163】
(比較例8)
正孔注入層を形成する塗布膜の硬化を大気雰囲気下で実施したことを除き、実施例8の有機EL素子(4A)の製造方法と同様にして、有機EL素子(4B)を製造した。すなわち、実施例8と同様にして、ITOを1.6mm幅にパターニングしたガラス基板上に、大気下で、インク組成物1を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を有するガラス基板を、大気雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚20nmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した、次いで、実施例8と同様にして、正孔注入層の上に各層を成膜し、封止処理を行って、有機EL素子(4B)を製造した。
【0164】
2.有機EL素子の評価
実施例5~8及び比較例5~8で得た各有機EL素子に電圧を印加したところ、緑色発光が確認された。各有機EL素子について、発光輝度1,000cd/m時の駆動電圧及び発光効率、並びに初期輝度5,000cd/mにおける発光寿命(輝度半減時間)を測定した。測定結果を表2に示す。
【0165】
【表2】
【0166】
表2に示した結果から、正孔注入層を形成する塗布膜の加熱を大気下で行った比較例の有機EL素子(1B~4B)と比較して、上記塗布膜の加熱を不活性ガス(窒素ガス)雰囲気下で行った実施例の有機EL素子(1A~4A)は、駆動電圧が低く、発光効率が高く、発光寿命が長いことが分かる。以上の結果から、有機薄膜を不活性ガスで加熱することにより、優れた特性を有する有機薄膜を形成できることが分かる。したがって、本発明による製造方法によって製造された有機薄膜を使用することで、有機EL素子の特性を向上できることが分かる。
【0167】
<有機薄膜(積層体)の酸素濃度分布>
1.積層体の製造
(実施例9)
大気下で、正孔輸送性ポリマー1(10.0mg)とトルエン(516μL)とを混合した溶液に、上記重合開始剤1(5.0mg)とトルエン2.5mLとを予め混合した溶液を51μL加えて混合し、インク組成物1を調製した。また、正孔輸送性ポリマー1(10.0mg)とトルエン(2301μL)とを混合し、インク組成物2を調製した。
ITOを成膜した石英ガラス基板(以下、ITO基板という)上に、大気下(25℃)で、インク組成物1を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を有する石英ガラス基板を、窒素雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することにより塗布膜を硬化させ、膜厚80μmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。
次に、上記正孔注入層の上に、大気下(25℃)でインク組成物2を回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を窒素雰囲気下、ホットプレート上で230℃、30分間加熱することによって塗布膜を硬化させ、膜厚20nmの有機薄膜(正孔輸送層)を形成した。このようにして、ITO基板上に正孔注入層と正孔輸送層とを有する積層体を製造し、測定用サンプル(1A)として使用した。
【0168】
(比較例9)
実施例9で製造した測定用サンプル(1A)について、正孔注入層を形成するための塗布膜の加熱を、大気雰囲気下で実施したことを除き、全て実施例9と同様の方法によって測定用サンプル(1B)を製造した。すなわち、先ず、ITO基板上に、実施例9と同様にして調製したインク組成物1を、大気下(25℃)で、回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を有するITO基板を、大気雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することによって塗布膜を硬化させ、膜厚80μmの有機薄膜(正孔注入層)を形成した。
次に、正孔注入層の上に、大気下(25℃)で、上記実施例9と同様にして調製したインク組成物2を、回転数3,000min-1でスピンコートして塗布膜を形成した。次いで、塗布膜を窒素雰囲気下、ホットプレート上で200℃、30分間加熱することによって塗布膜を硬化させ、膜厚20μの有機薄膜(正孔輸送層)を形成した。このようにして、ITO基板上に正孔注入層と正孔輸送層とを含む積層体を製造し、測定用サンプル(1B)として使用した。
【0169】
2.酸素原子分布ばらつきの評価
実施例9及び比較例9で製造した各測定サンプルについて、以下のようにして、ガスクラスターイオンビームを用いる飛行時間型二次イオン質量分析法(GCIB-TOF-SIMS)に従い、2つの有機薄膜の界面を含む積層体の深さ方向(縦方向)の酸素イオン強度(カウント数)を測定した。次いで、測定値から酸素原子分布のばらつきを評価した。
(1)測定
各測定用サンプルの表面(正孔輸送層)側から、ガスクラスターイオンビームとしてArクラスターを照射して、飛行時間型二次イオン質量分析計によって、深さ方向の酸素イオン強度(カウント数)を測定した。測定条件は、以下のとおりである。
(測定条件)
測定装置:株式会社日立マクセルサイエンス製の「TOF.SIMS5-200P」
一次イオン源:Bi
一次加速電圧:25kV
上述のようにして、GCIB-TOF-SIMSによって深さ方向で測定した酸素原子分布のプロファイルを図2に示す。図2(a)は実施例9の測定結果であり、図2(b)は比較例9の測定結果である。各プロファイルにおいて、プロファイルの縦軸は、酸素イオン強度(カウント数)を表す。
(2)酸素原子分布のばらつき
深さ方向10~40nmの範囲において、1nmごとに読み取った各プロファイルの酸素イオン強度の値の平均値A及び標準偏差Bから、酸素原子分布のばらつき(B/A)の割合(%)を求めた。その結果を表3に示す。
【表3】
【0170】
表3から分かるように、比較例9では酸素原子量のばらつきが大きいのに対し、実施例9では酸素ばらつきが明らかに少ない結果であった。このことから、ITO基板上に隣接する有機薄膜を湿式プロセスに従い形成する際に、塗布膜の加熱を不活性ガス雰囲気中で実施することによって、有機薄膜の表面酸化を効果的に抑制できることがわかる。実際のところ、先に示した実施例と比較例との対比からも分かるように、有機HOD及び有機EL素子において、有機薄膜の製造方法の違いによって、有機薄膜の性能に明らかな違いが生じている。したがって、湿式プロセスに従い有機薄膜を形成する際に、塗布膜の加熱を不活性ガス雰囲気中で実施することによって、有機薄膜の性能低下を抑制することができ、このような有機薄膜を用いて有機EL素子を構成することによって、駆動電圧等の素子特性の向上が可能となることが分かる。
【符号の説明】
【0171】
1:発光層
2:陽極
3:正孔注入層
4:陰極
5:電子注入層
6:正孔輸送層
7:電子輸送層
8:基板
図1
図2