(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】銅張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 19/00 20060101AFI20231226BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20231226BHJP
B32B 37/02 20060101ALI20231226BHJP
C25D 5/02 20060101ALI20231226BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20231226BHJP
C25D 5/56 20060101ALI20231226BHJP
C25D 21/00 20060101ALI20231226BHJP
C25D 21/12 20060101ALI20231226BHJP
C25D 21/14 20060101ALI20231226BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C25D19/00 D
B32B15/08 J
B32B37/02
C25D5/02 J
C25D5/10
C25D5/56 Z
C25D21/00 B
C25D21/12 H
C25D21/14 B
H05K3/18 G
(21)【出願番号】P 2020029991
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2022-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 芳英
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-204049(JP,A)
【文献】特開2018-178222(JP,A)
【文献】特開2017-031472(JP,A)
【文献】特開2017-014564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 19/00
B32B 15/08
B32B 37/02
H05K 3/18
C25D 5/02
C25D 5/10
C25D 5/56
C25D 21/12
C25D 21/14
C25D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールツーロールにより基材を搬送しつつ、該基材をブライトナー成分を含む銅めっき液を用いた電解めっきを行なうめっき槽と該基材に付着した該銅めっき液を除去する空走区間とを交互に通し、該基材の一方の面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、
前記銅めっき液のブライトナー成分の濃度を高くすることで前記銅張積層板の
前記銅めっき被膜側が窪んだ凹形状の反りを低減し、前記銅めっき液のブライトナー成分の濃度を低くすることで前記銅張積層板の
前記銅めっき被膜側が突出した凸形状の反りを低減する
ことを特徴とす
る銅張積層板の製造方法。
【請求項2】
ロールツーロールにより基材を搬送しつつ、該基材をブライトナー成分を含む銅めっき液を用いた電解めっきを行なうめっき槽と該基材に付着した該銅めっき液を除去する空走区間とを交互に通し、該基材の一方の面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、
前記銅めっき液のブライトナー成分の濃度を所定値に設定して第1の銅張積層板を製造し、
前記第1の銅張積層板が
前記銅めっき被膜側が窪んだ凹形状の反りを有する場合は、前記銅めっき液のブライトナー成分の濃度を高くして第2の銅張積層板を製造し、
前記第1の銅張積層板が
前記銅めっき被膜側が突出した凸形状の反りを有する場合は、前記銅めっき液のブライトナー成分の濃度を低くして第2の銅張積層板を製造する
ことを特徴とす
る銅張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅張積層板の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、フレキシブルプリント配線板(FPC)などの製造に用いられる銅張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電子機器には、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板や、フレキシブルプリント配線板に半導体チップを実装したチップオンフィルムが用いられる。
【0003】
フレキシブルプリント配線板は銅張積層板から製造される。銅張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている。メタライジング法による銅張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行なわれる。まず、樹脂フィルムの表面にニッケルクロム合金からなる下地金属層を成膜する。つぎに、下地金属層の上に銅薄膜層を成膜する。つぎに、銅薄膜層の上に銅めっき被膜を成膜する。銅めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで導体層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接導体層が形成された、いわゆる2層基板と称されるタイプの銅張積層板が得られる。
【0004】
サブトラクティブ法、セミアディティブ法(特許文献1参照)などにより、銅張積層板に配線パターンを形成することで、フレキシブルプリント配線板が得られる。また、フレキシブルプリント配線板にスズめっきを行なった後、ソルダーレジスト、カバーレイなどにより保護膜を形成し、半導体チップを実装すれば、チップオンフィルムが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
銅張積層板を製造する際に、ロールツーロール方式のめっき装置を用いて基材の一方の面に銅めっき被膜を成膜すると、得られた銅張積層板に反りが生じることがある。銅張積層板に反りがあると、配線パターンを形成する装置内での銅張積層板の搬送が安定しない。また、露光工程において行なわれる銅張積層板の真空吸着が困難になる。そのため、反りのない銅張積層板を製造することが求められる。
【0007】
銅張積層板の反りはロールツーロール方式のめっき装置において基材にかかる搬送張力が一因となっている。搬送張力に対して伸びやすいフィルムの場合、フィルムが伸びた状態で銅めっき被膜が成膜される。めっき後に搬送張力から開放されたフィルムは元の長さに縮もうとする。しかし、フィルムの表面には銅めっき被膜が成膜されているため、銅めっき被膜側は縮むことができない。そのため、銅張積層板には銅めっき被膜側が突出した凸形状の反りが生じる。一方、搬送張力に対して伸びにくいフィルムの場合、めっき後のフィルムはあまり収縮しない。しかし、銅めっき被膜は時間の経過とともに再結晶が進行して収縮しようとする。そのため、銅張積層板には銅めっき被膜側が窪んだ凹形状の反りが生じる。
【0008】
例えば、高周波用の液晶ポリマーフィルムは搬送張力に対して伸びやすい。そのため、液晶ポリマーフィルムを用いて銅張積層板を製造すると、凸形状の反りが生じやすい。また、ポリイミドフィルムは搬送張力に対して伸びにくい。そのため、ポリイミドフィルムを用いて銅張積層板を製造すると、凹形状の反りが生じやすい。このように、フィルムの種類によって反りの傾向が異なる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、反りの少ない銅張積層板が得られる銅張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1態様の銅張積層板の製造方法は、ロールツーロールにより基材を搬送しつつ、該基材をブライトナー成分を含む銅めっき液を用いた電解めっきを行なうめっき槽と該基材に付着した該銅めっき液を除去する空走区間とを交互に通し、該基材の一方の面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、前記銅めっき液のブライトナー成分の濃度を高くすることで前記銅張積層板の前記銅めっき被膜側が窪んだ凹形状の反りを低減し、前記銅めっき液のブライトナー成分の濃度を低くすることで前記銅張積層板の前記銅めっき被膜側が突出した凸形状の反りを低減することを特徴とする。
第2態様の銅張積層板の製造方法は、ロールツーロールにより基材を搬送しつつ、該基材をブライトナー成分を含む銅めっき液を用いた電解めっきを行なうめっき槽と該基材に付着した該銅めっき液を除去する空走区間とを交互に通し、該基材の一方の面に銅めっき被膜を成膜して銅張積層板を得るにあたり、前記銅めっき液のブライトナー成分の濃度を所定値に設定して第1の銅張積層板を製造し、前記第1の銅張積層板が前記銅めっき被膜側が窪んだ凹形状の反りを有する場合は、前記銅めっき液のブライトナー成分の濃度を高くして第2の銅張積層板を製造し、前記第1の銅張積層板が前記銅めっき被膜側が突出した凸形状の反りを有する場合は、前記銅めっき液のブライトナー成分の濃度を低くして第2の銅張積層板を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、銅めっき液のブライトナー成分の濃度を調整することで、反りの少ない銅張積層板を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る方法により製造される銅張積層板1は、基材10と、基材10の表面に成膜された銅めっき被膜20とからなる。
図1に示すように基材10の片面のみに銅めっき被膜20が成膜されてもよいし、基材10の両面に銅めっき被膜20が成膜されてもよい。
【0014】
銅めっき被膜20は電解めっきにより成膜される。したがって、基材10は銅めっき被膜20が成膜される側の表面に導電性を有する素材であればよい。例えば、基材10は絶縁性を有するベースフィルム11の表面に金属層12が成膜されたものである。ベースフィルム11として液晶ポリマー(LCP)フィルム、ポリイミドフィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。金属層12はスパッタリング法などの乾式成膜法により成膜される。金属層12は下地金属層13と銅薄膜層14とからなる。下地金属層13と銅薄膜層14とはベースフィルム11の表面にこの順に積層されている。一般に、下地金属層13はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。特に限定されないが、下地金属層13の厚さは5~50nmが一般的であり、銅薄膜層14の厚さは50~400nmが一般的である。
【0015】
銅めっき被膜20は金属層12の表面に成膜されている。特に限定されないが、銅めっき被膜20の厚さは1~12μmが一般的である。なお、金属層12と銅めっき被膜20とを合わせて「導体層」と称する。
【0016】
銅めっき被膜20は、例えば、
図2に示すようなロールツーロール方式のめっき装置3により成膜される。めっき装置3は、ロールツーロールにより長尺帯状の基材10を搬送しつつ、基材10に対して電解めっきを行なう装置である。めっき装置3はロール状に巻回された基材10を繰り出す供給装置31と、めっき後の基材10(銅張積層板1)をロール状に巻き取る巻取装置32とを有する。
【0017】
基材10の搬送経路には複数のめっき槽33が設けられている。めっき槽33には銅めっき液が貯留されている。また、めっき槽33の内部にはアノードが配置されている。基材10はめっき槽33を通過する際に銅めっき液に浸漬する。その状態で、アノードと基材10との間に電流を流すことで電解めっきが行なわれ、基材10の表面に銅めっき被膜20が成膜される。
【0018】
隣り合うめっき槽33の間には空間が設けられている。この空間を空走区間34と称する。空走区間34では電解めっきが行なわれない。空走区間34において基材10は銅めっき液から引き上げられて空気中を搬送される。各空走区間34には基材10を搬送する複数の搬送ローラが配置されている。また、空走区間34には基材10に電流を供給する給電ローラが配置されることが一般的である。
【0019】
めっき槽33から出た直後の基材10には銅めっき液が付着している。基材10に付着した銅めっき液は搬送ローラにより掻き取られ、除去される。したがって、空走区間34では基材10に付着した銅めっき液が除去される。搬送ローラの抱き角が大きいほど、搬送ローラによって多くの銅めっき液が掻き取られるようになるため、銅めっき液の除去量が多くなる。ここで、抱き角とは、搬送ローラの周面のうち基材10のめっき面(銅めっき被膜20を成膜する方の面)と接している部分の搬送ローラの回転軸を中心とした角度範囲を意味する。
【0020】
基材10はめっき槽33と空走区間34とを交互に通過する。この搬送の過程で、基材10には電解めっきよりその表面に銅めっき被膜20が成膜される。これにより、長尺帯状の銅張積層板1が得られる。
【0021】
なお、めっき槽33および空走区間34の数は特に限定されない。一般に、めっき槽33は4~19槽配置され、空走区間34は3~18区間となる。最も上流のめっき槽33と供給装置31との間に前処理槽を設けてもよい。また、最も下流のめっき槽33と巻取装置32との間に後処理槽を設けてもよい。
【0022】
本実施形態では、基材10を供給装置31から巻取装置32まで搬送する一回のめっき処理により、基材10の一方の面に銅めっき被膜20を成膜する。基材10の片面のみに銅めっき被膜20が成膜された片面銅張積層板を製造する場合には、一回のめっき処理で終了する。基材10の両面に銅めっき被膜20が成膜された両面銅張積層板を製造する場合には、基材10の表裏を反転させつつ二回のめっき処理を行なう。具体的には、基材10の一方の面に銅めっき被膜20を成膜して片面銅張積層板を得た後、基材10の表裏を反転させて他方の面に銅めっき被膜20を成膜し、両面銅張積層板を得る。特に、表裏の銅めっき被膜20の厚さが異なる両面銅張積層板を製造する場合、成膜の条件によっては銅張積層板1に反りが生じることがある。
【0023】
めっき槽33に貯留される銅めっき液は水溶性銅塩を含む。銅めっき液に一般的に用いられる水溶性銅塩であれば、特に限定されず用いられる。水溶性銅塩として、無機銅塩、アルカンスルホン酸銅塩、アルカノールスルホン酸銅塩、有機酸銅塩などが挙げられる。無機銅塩として、硫酸銅、酸化銅、塩化銅、炭酸銅などが挙げられる。アルカンスルホン酸銅塩として、メタンスルホン酸銅、プロパンスルホン酸銅などが挙げられる。アルカノールスルホン酸銅塩として、イセチオン酸銅、プロパノールスルホン酸銅などが挙げられる。有機酸銅塩として、酢酸銅、クエン酸銅、酒石酸銅などが挙げられる。
【0024】
銅めっき液に用いる水溶性銅塩として、無機銅塩、アルカンスルホン酸銅塩、アルカノールスルホン酸銅塩、有機酸銅塩などから選択された1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。例えば、硫酸銅と塩化銅とを組み合わせる場合のように、無機銅塩、アルカンスルホン酸銅塩、アルカノールスルホン酸銅塩、有機酸銅塩などから選択された1つのカテゴリー内の異なる2種類以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、銅めっき液の管理の観点からは、1種類の水溶性銅塩を単独で用いることが好ましい。
【0025】
銅めっき液は硫酸を含んでもよい。硫酸の添加量を調整することで、銅めっき液のpHおよび硫酸イオン濃度を調整できる。
【0026】
銅めっき液は一般的にめっき液に添加される添加剤を含む。銅めっき液は少なくともブライトナー成分を含む。また、銅めっき液はレベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などを含んでもよい。
【0027】
ブライトナー成分は硫黄を含む。ブライトナー成分として、特に限定されないが、ビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(略称SPS)、3-メルカプトプロパン-1-スルホン酸(略称MPS)などから選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。レベラー成分は窒素を含有するアミンなどで構成される。レベラー成分として、特に限定されないが、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ヤヌス・グリーンBなどから選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。ポリマー成分として、特に限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体から選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。塩素成分として、特に限定されないが、塩酸、塩化ナトリウムなどから選択された1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることが好ましい。
【0028】
銅めっき液の各成分の含有量は任意に選択できる。ただし、銅めっき液は銅を15~70g/L、硫酸を20~250g/L含有することが好ましい。そうすれば、銅めっき被膜20を十分な速度で成膜できる。銅めっき液はブライトナー成分を1~50mg/L含有することが好ましい。そうすれば、析出結晶を微細化し銅めっき被膜20の表面を平滑にできる。銅めっき液はレベラー成分を1~300mg/L含有することが好ましい。そうすれば、突起を抑制し平坦な銅めっき被膜20を形成できる。銅めっき液はポリマー成分を10~1,500mg/L含有することが好ましい。そうすれば、基材10端部への電流集中を緩和し均一な銅めっき被膜20を形成できる。銅めっき液は塩素成分を20~80mg/L含有することが好ましい。そうすれば、異常析出を抑制できる。
【0029】
銅めっき液の温度は20~35℃が好ましい。また、めっき槽33内の銅めっき液を撹拌することが好ましい。銅めっき液を撹拌する手段は、特に限定されないが、噴流を利用した手段を用いることができる。例えば、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材10に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌できる。
【0030】
電解めっきと空走(電解めっきを伴わない搬送)とを交互に行なうことにより成膜された銅めっき被膜20は、
図1に示すような積層構造を有する。すなわち、銅めっき被膜20は低硫黄濃度層21と高硫黄濃度層22とが、厚さ方向に交互に積層された構造を有する。ここで、低硫黄濃度層21は相対的に硫黄濃度が低い層であり、高硫黄濃度層22は相対的に硫黄濃度が高い層である。
【0031】
このように、低硫黄濃度層21と高硫黄濃度層22とが積層される理由は、つぎのとおりであると考えられる。
電解を行なっている間は、銅めっき被膜20の表面に添加剤(ブライトナー成分、レベラー成分およびポリマー成分)が吸着する。ここで、レベラー成分およびポリマー成分は電解に起因する電気的な作用により銅めっき被膜20の表面に吸着する。一方、ブライトナー成分は電解に関わらず銅めっき被膜20の表面に吸着する。
【0032】
電解の後、空走を行なうと、銅めっき被膜20の表面に付着した銅めっき液の大部分は搬送ローラにより除去される。これにともない、銅めっき被膜20の表面に吸着していたレベラー成分およびポリマー成分の大部分が脱落する。これは、電気的な作用による吸着がなくなり、また、搬送ローラによる物理的な作用が働くからである。一方、ブライトナー成分は比較的銅めっき被膜20の表面に残留しやすい。その結果、銅めっき被膜20の表面は、相対的にブライトナー成分が多く吸着した状態となる。
【0033】
この状態で次の電解が行なわれると、電解の初期において、銅めっき被膜20に新たな銅が積層される際に多くのブライトナー成分が取り込まれる。そうすると、相対的にブライトナー成分が濃い層が形成される。ブライトナー成分には硫黄が含まれることから、ブライトナー成分が濃い層が高硫黄濃度層22となる。
【0034】
ところで、銅張積層板1が反りを有することがある。銅張積層板1を構成するベースフィルム11は、めっき装置3の搬送張力により伸びた状態となるため、めっき後に搬送張力から開放されると収縮しようとする。また、銅めっき被膜20は時間の経過とともに再結晶が進行して収縮しようとする。ベースフィルム11が銅めっき被膜20よりも収縮した場合、銅張積層板1には銅めっき被膜20側が突出した凸形状の反りが生じる。一方、銅めっき被膜20がベースフィルム11よりも収縮した場合、銅張積層板1には銅めっき被膜20側が窪んだ凹形状の反りが生じる。
【0035】
本願発明者は、銅めっき液のブライトナー成分の濃度を調整することで、銅張積層板1の反りを低減できることを見出した。具体的には、銅めっき液のブライトナー成分の濃度を高くすることで銅張積層板1の凹形状の反りを低減できる。また、銅めっき液のブライトナー成分の濃度を低くすることで銅張積層板1の凸形状の反りを低減できる。
【0036】
銅めっき液のブライトナー成分の濃度によって銅張積層板1の反りが変化する理由は、つぎのとおりであると考えられる。
銅めっき液のブライトナー成分の濃度を高くすると、空走区間34において銅めっき液が除去された後においても、銅めっき被膜20の表面に残留する添加剤は、レベラー成分およびポリマー成分の比率が低く、ブライトナー成分の比率が高い。銅めっき被膜20に取り込まれる不純物の総量はめっき条件により定まる。したがって、めっき条件が同じであれば、銅めっき被膜20の表面に残留する添加剤のブライトナー成分の比率が高いほど、高硫黄濃度層22における硫黄濃度が高くなる。その結果、銅めっき被膜20の再結晶を抑える効果が高くなり、銅めっき被膜20の収縮が抑制される。銅めっき被膜20の収縮が抑制されることから、銅張積層板1の反りは凸傾向側に変化する。
【0037】
これに対して、銅めっき液のブライトナー成分の濃度を低くすると、空走区間34において銅めっき液が除去された後においても、銅めっき被膜20の表面に残留する添加剤は、レベラー成分およびポリマー成分の比率が高く、ブライトナー成分の比率が低い。そのため、高硫黄濃度層22における硫黄濃度が低くなる。その結果、銅めっき被膜20の再結晶を抑える効果が低くなり、銅めっき被膜20が収縮しやすくなる。銅めっき被膜20が収縮しやすいことから、銅張積層板1の反りは凹傾向側に変化する。
【0038】
銅めっき液のブライトナー成分の濃度によって銅めっき被膜20の収縮しやすさが変化する。銅めっき被膜20の収縮をベースフィルム11の収縮に釣り合うようにすれば、銅張積層板1の反りを低減できる。
【0039】
銅めっき液のブライトナー成分の濃度の調整は、製造された銅張積層板1の反り量をフィードバックすることで行なわれる。まず、銅めっき液のブライトナー成分の濃度を所定値に設定して第1の銅張積層板1を製造する。そして、第1の銅張積層板1の反り量を測定する。第1の銅張積層板1が凹形状の反りを有する場合は、銅めっき液のブライトナー成分の濃度を高くして第2の銅張積層板1を製造する。第1の銅張積層板1が凸形状の反りを有する場合は、銅めっき液のブライトナー成分の濃度を低くして第2の銅張積層板1を製造する。これを繰り返し行なうことで、反りのない(反り量が許容範囲)の銅張積層板1が得られるブライトナー成分の濃度を特定する。以上のように、銅めっき液のブライトナー成分の濃度を調整することで、反りの少ない銅張積層板1を製造できる。
【実施例】
【0040】
つぎに、実施例を説明する。
(ブライトナー成分濃度と反り量との関係性の評価1)
銅めっき液のブライトナー成分濃度と銅張積層板の反り量との関係性を評価した。
つぎの手順で、基材を準備した。ベースフィルムとして、厚さ35μmの液晶ポリマーフィルム(KGK社製 SAR35)を用意した。ベースフィルムをマグネトロンスパッタリング装置にセットした。マグネトロンスパッタリング装置内にはニッケルクロム合金ターゲットと銅ターゲットとが設置されている。ニッケルクロム合金ターゲットの組成はCrが20質量%、Niが80質量%である。真空雰囲気下で、ベースフィルムの片面に、厚さ18nmのニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成し、その上に厚さ150nmの銅薄膜層を形成した。
【0041】
つぎに、銅めっき液を調整した。銅めっき液は銅を30g/L、硫酸を70g/L、レベラー成分を50mg/L、ポリマー成分を1,100mg/L、塩素成分を50mg/L含有する。レベラー成分としてジアリルジメチルアンモニウムクロライド-二酸化硫黄共重合体(ニットーボーメディカル株式会社製 PAS-A―5)を用いた。ポリマー成分としてポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体(日油株式会社製 ユニルーブ50MB-11)を用いた。塩素成分として塩酸(和光純薬工業株式会社製の35%塩酸)を用いた。
【0042】
また、銅めっき液はブライトナー成分を含む。ブライトナー成分としてビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(RASCHIG GmbH社製の試薬)を用いた。ブライトナー成分の濃度が5、10、15、20mg/Lの4種類の銅めっき液を用意した。
【0043】
ロールツーロール方式のめっき装置を用いて、基材の片面に厚さ8.0μmの銅めっき被膜を成膜した。ここで、基材を前記銅めっき液が貯留されためっき槽と空走区間とを交互に通した。銅めっき液の温度を31℃とした。電解めっきの間、ノズルから噴出させた銅めっき液を基材の表面に対して略垂直に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌した。
【0044】
めっき槽は7槽、空走区間は6区間である。電解めっきの一回あたりの時間は2分である。1槽目の電解めっきでは電流密度を1A/dm2とした。2槽目の電解めっきでは電流密度を2A/dm2とした。3~7槽目の電解めっきでは電流密度を3A/dm2とした。また、空走区間における搬送ローラの基材の抱き角を120°とした。
【0045】
ブライトナー成分の濃度が異なる4種類の銅めっき液を用いて、4つの銅張積層板を製造した。得られた4つの銅張積層板を、それぞれ試料1~4と称する。得られた試料1~4について、つぎの手順で反り量を測定した。まず、試料を1辺が10cmの正方形に切り出した。切り出した試料を側方から観察して反り量を測定した。ここで、銅めっき被膜が成膜された面を上向きとして、四隅が浮き上がった凹形状の反りが生じている場合は、四隅の浮き上がり量を反り量とした。以下、凹形状の反り量を+表記する。また、銅めっき被膜が成膜された面を上向きとして、中央部が浮き上がった凸形状の反りが生じている場合は、中央部の浮き上がり量を反り量とした。以下、凸形状の反り量を-表記する。
【0046】
【0047】
表1より、銅めっき液のブライトナー成分の濃度を高くするほど、銅張積層板の反りが凸傾向側に変化する。これより、ブライトナー成分の濃度を調整することで、銅張積層板の反りを低減できることが確認された。
【0048】
(ブライトナー成分濃度と反り量との関係性の評価2)
ベースフィルムとして厚さ35μmのポリイミドフィルム(宇部興産社製 Upilex-35SGAV1)を用いた以外は、上記評価と同様の手順で銅張積層板を製造した。また、空走区間における搬送ローラの基材の抱き角を180°とした。
【0049】
ブライトナー成分の濃度が異なる4種類の銅めっき液を用いて、4つの銅張積層板を製造した。得られた4つの銅張積層板を、それぞれ試料5~8と称する。
【0050】
得られた試料5~8について反り量を測定した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0051】
表2からも、銅めっき液のブライトナー成分の濃度を高くするほど、銅張積層板の反りが凸傾向側に変化することが分かる。したがって、液晶ポリマーフィルムを用いた場合に限らず、ポリイミドフィルムを用いた場合でも、ブライトナー成分の濃度を調整することで、銅張積層板の反りを低減できることが確認された。
【符号の説明】
【0052】
1 銅張積層板
10 基材
20 銅めっき被膜
3 めっき装置
33 めっき槽
34 空走区間