(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】廃電池からの有価金属回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20231226BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20231226BHJP
C22B 23/02 20060101ALI20231226BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20231226BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20231226BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20231226BHJP
B09B 3/30 20220101ALI20231226BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20231226BHJP
B02C 13/16 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C22B7/00 C
C22B1/02
C22B23/02
C22B15/00
H01M10/54
B09B5/00 A ZAB
B09B3/30
B09B3/40
B02C13/16
(21)【出願番号】P 2020039181
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-346160(JP,A)
【文献】特開2013-146701(JP,A)
【文献】特開2019-135321(JP,A)
【文献】中国実用新案第204638273(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/00
B02C 13/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃電池を焙焼する焙焼工程と、
焙焼物を破砕容器に入れてチェーンミルを用いて破砕する破砕工程と、
破砕物を篩別けして篩上物と篩下物とに分離する篩別工程と、を有
し、
前記破砕工程における破砕処理に用いるチェーンミルは、
前記破砕容器の底面に対して垂直に立設された回転軸棒と、
前記回転軸棒の側面に取り付けられるチェーンと、を備えており、
前記回転軸棒における前記チェーンの取り付け高さを調節できる構造を有し、
前記チェーンミルは、
前記破砕容器の底面からの距離が10mm以上100mm以下の範囲となる取り付け位置に前記チェーンが取り付けられている
廃電池からの有価金属回収方法。
【請求項2】
前記チェーンミルは、
前記回転軸棒の側面においてその回転方向に2箇所以上の取り付け位置が設けられ、その取り付け位置のそれぞれに前記チェーンが取り付けられている
請求項
1に記載の廃電池からの有価金属回収方法。
【請求項3】
前記篩下物を酸化焙焼する酸化焙焼工程と、
酸化焙焼物を還元熔融して、スラグと、有価金属を含有する合金とを得る還元熔融工程と、をさらに有する、
請求項1
又は2に記載の廃電池からの有価金属回収方法。
【請求項4】
前記有価金属は、少なくとも、コバルト、ニッケル、及び銅からなる群から選ばれる1種以上を含む、
請求項1乃至
3のいずれかに記載の廃電池からの有価金属回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃電池に含まれる有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力が得られる二次電池としてリチウムイオン電池が普及している。リチウムイオン電池の基本構造として、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶の内側に、銅箔で作られた負極集電体とアルミニウム箔で作られた正極集電体とがある。
【0003】
負極集電体の表面には黒鉛等の負極活物質が固着され、負極材を構成する。また、正極集電体の表面にはニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質が固着され、正極材を構成する。負極材と正極材は、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなるセパレータを介して上述した外装缶の中に装入され、その隙間には六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質を含む電解液等が封入される。
【0004】
リチウムイオン電池は、現在ではハイブリッド自動車や電気自動車等の車載用電池としての利用が進んでいる。しかしながら、自動車に搭載されたリチウムイオン電池は、使用を重ねるにつれて次第に劣化し、最後は寿命が来て廃棄される。
【0005】
自動車の動力がガソリンから電気へと変化する中で、自動車用途に用いられる電池が増加することは、同時に廃棄される電池も増加していくことになる。
【0006】
このような廃棄されたリチウムイオン電池や、リチウムイオン電池の製造中に生じた不良品等(以下、まとめて「廃電池」と称する)を資源として再利用する試みと具体的提案は、従来から多く行われている。そして、その多くは、廃リチウムイオン電池を高温の炉に投入して全量を熔解する乾式製錬プロセスが主流のものとなっている。
【0007】
ここで、廃電池には、ニッケル、コバルト、銅等の商業的に再利用の価値のある元素(以下、これらを「有価金属」と称する)のほかに、炭素、アルミニウム、フッ素、リン等の商業的に回収対象とならない元素(以下、まとめて「不純物」と称する)が含まれている。廃電池から有価金属を回収する場合、上述する不純物を有価金属と効率よく分離する必要がある。
【0008】
このため、例えば、廃電池を焙焼してフッ素やリン等を除去する無害化処理を行ったのち、破砕や粉砕を行い、その後篩機や磁選機を用いて分別して、その分別物から上述の乾式製錬プロセス(以下、単に「乾式処理」とも称する)や、酸や有機溶媒等の液体を用いて分離する湿式製錬プロセス(以下、単に「湿式処理」とも称する)を用いて、有価金属を回収する方法が行われている。
【0009】
乾式処理による廃電池からの有価金属であるコバルトの回収方法として、例えば特許文献1では、廃リチウムイオン電池を熔融炉へ投入し、酸素を吹き込んで酸化するプロセスが提案されている。
【0010】
また、特許文献2では、廃リチウムイオン電池を熔融し、スラグを分離して有価物を回収した後、石灰系の溶剤(フラックス)を添加してリンを除去するプロセスが提案されている。
【0011】
さらに、特許文献3では、複数の単電池を直列接続してなる組電池と、組電池を制御する制御部とを含み、樹脂製部品を有する電池パックをリサイクルする方法として、充電状態の組電池を収容した電池パックをそのまま焙焼する工程と、電池パックの焙焼時に発生した未燃焼分の熱分解ガスを完全燃焼させる完全燃焼工程と、を有し、焙焼する工程における焙焼温度を、樹脂製部品を形成する樹脂の炭化温度以上で且つ電池パックの金属部品の融点以下とし、非酸化性雰囲気下又は還元雰囲気下で電池パック内の組電池を焙焼するリサイクル方法が開示されている。
【0012】
しかしながら、これらの方法は、脱水や乾燥の処理、装置本体やメンテナンスにも、多大なコストを要するという問題がある。特に、廃電池を破砕する際に適切な破砕の大きさを維持できないと有価金属が多く分布する細かな粉体と不純物の多い塊状物の分離がうまくいかず、有価金属の回収率が低下することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2013-091826号公報
【文献】特表2013-506048号公報
【文献】特開2010-3512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、廃電池に含まれる有価金属を回収する方法において、回収率の低下を抑制しながら、有価金属を効率的に回収することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、廃電池を焙焼して得られる焙焼物を、チェーンミルを用いて破砕する破砕処理を施すことで、効率的に有価金属を回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
(1)本発明の第1の発明は、廃電池を焙焼する焙焼工程と、焙焼物を破砕容器に入れてチェーンミルを用いて破砕する破砕工程と、破砕物を篩別けして篩上物と篩下物とに分離する篩別工程と、を有する、廃電池からの有価金属回収方法である。
【0017】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記破砕工程における破砕処理に用いるチェーンミルは、前記破砕容器の底面に対して垂直に立設された回転軸棒と、前記回転軸棒の側面に取り付けられるチェーンと、を備えており、前記回転軸棒における前記チェーンの取り付け高さを調節できる構造を有する、廃電池からの有価金属回収方法である。
【0018】
(3)本発明の第3の発明は、第2の発明において、前記チェーンミルは、前記破砕容器の底面からの距離が5mm以上300mm以下の範囲となる取り付け位置に前記チェーンが取り付けられている、廃電池からの有価金属回収方法である。
【0019】
(4)本発明の第4の発明は、第2又は第3の発明において、前記チェーンミルは、前記回転軸棒の側面においてその回転方向に2箇所以上の取り付け位置が設けられ、その取り付け位置のそれぞれに前記チェーンが取り付けられている、廃電池からの有価金属回収方法である。
【0020】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記篩下物を酸化焙焼する酸化焙焼工程と、酸化焙焼物を還元熔融して、スラグと、有価金属を含有する合金とを得る還元熔融工程と、をさらに有する、廃電池からの有価金属回収方法である。
【0021】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記有価金属は、少なくとも、コバルト、ニッケル、及び銅からなる群から選ばれる1種以上を含む、廃電池からの有価金属回収方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、廃電池から有価金属を回収するに際し、その回収率の低下を抑制しながら、効率的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】有価金属回収方法の流れの一例を示す工程図である。
【
図2】チェーンミルを用いた破砕処理について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0025】
≪1.有価金属回収方法の概要≫
本実施の形態に係る有価金属の回収方法は、廃電池から有価金属を回収する方法である。一般的に、廃電池から有価金属を回収するにあたっては、乾式処理に加えて湿式処理を行う場合があるが、本実施の形態に係る有価金属回収方法は、主として乾式処理に関わる。
【0026】
具体的に、この有価金属回収方法は、無害化のために廃電池を焙焼したのち、得られる焙焼物を破砕容器に入れてチェーンミルを用いた破砕処理を行うことを特徴とするものである。その破砕処理を経て得られる破砕物に対しては、篩別処理を施すことによって、有価金属の多くが分配される粉状物(粉末状物)の篩下物と、不純物を含む篩上物とに分離する。
【0027】
このような方法によれば、焙焼物に対してチェーンミルを用いた破砕処理を行うようにすることで、有価金属を主として含む粉状の破砕物を効率的に得ることができ、篩別処理を経てその粉状の篩下物から有価金属を効果的に回収することができる。
【0028】
ここで、廃電池とは、上述したように、使用済みのリチウムイオン電池等の二次電池や、二次電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等のリチウムイオン電池の製造工程内における廃材を含む概念である。このような廃電池には、上述のように、ニッケル、コバルト、銅等の、回収して再利用する経済的価値のある有価金属が含まれている。
【0029】
≪2.有価金属回収方法の各工程について≫
図1は、本実施の形態に係る有価金属回収方法の流れの一例を示す工程図である。この有価金属回収方法は、廃電池を焙焼する焙焼工程S1と、チェーンミルを用いて焙焼物を破砕する破砕工程S2と、破砕物に対して篩別処理を施して篩上物となる塊状物と篩下物となる粉末とに分離する篩別工程S3と、を有する。ここで、ニッケルやコバルト等の有価金属は、正極活物質に含まれる金属で、粉末状で回収されることになるため篩下物に多く分配される。
【0030】
また、得られた篩下物を酸化焙焼する酸化焙焼工程S4と、酸化焙焼物を還元熔融することにより、スラグと、有価金属を含有する合金(メタル)とを得る還元熔融工程S5と、をさらに有する。
【0031】
なお、このような一連の乾式処理を経て得られる有価金属の合金を、中和処理や溶媒抽出処理、電解採取等の湿式処理に付すことによって、その合金中に残留する不純物成分を除去して有価金属をさらに精製し、高付加価値なメタルとして回収できる。
【0032】
[焙焼工程]
焙焼工程S1は、廃電池に含有される電解液成分であるフッ素成分等を取り除いて無害化し、また、次工程での破砕を容易とすることを主な目的とする。
【0033】
焙焼処理における条件は、特に限定されないが、確実に無害化するとともに、廃電池を脆くして次工程での破砕を容易にする観点から、焙焼温度としては700℃以上に加熱して行うことが好ましい。なお、焙焼温度の上限としては、特に限定されないが、1200℃以下とすることが好ましい。焙焼温度が高すぎると、主に廃電池の外部シェルに用いられている鉄等の一部がキルン等の焙焼炉本体の内壁等に付着してしまい、円滑な操業の妨げになったり、あるいはキルン自体の劣化につながる場合があり好ましくない。
【0034】
また、焙焼処理に供する廃電池を炉内に積み重ねすぎると、内部まで十分に焙焼できず焼きムラができてしまう。そのため、均一に焙焼できるようにする観点から、処理量や焙焼炉の加熱能力等を選定することが好ましい。例えば、予め予備試験を行って、最適温度や焙焼時間を決定することが好ましい。
【0035】
焙焼時の加熱方式は、特に限定されず、電気式であってよく、石油やガス等の燃料を使用するバーナー式であってよい。特に、バーナー式の加熱は低コストであり好ましい。
【0036】
[破砕工程]
破砕工程S2では、焙焼工程S1にて廃電池を焙焼して得られた焙焼物を、破砕し、細かく分離する。このとき、本実施の形態に係る有価金属回収方法では、焙焼物を破砕容器に入れて、チェーンミルを用いた破砕処理を施すことを特徴としている。
【0037】
このように、チェーンミルを破砕装置として用いて焙焼物を破砕することで、得られる破砕物中において、有価金属を多く含む粉状物と、その他の回収対象ではない不純物とを分離し易くできる。そして、次工程の篩別工程S3において、得られた破砕物に対して篩下物と篩上物とに篩別けることで、その篩下物から有価金属を効率的に回収することができる。しかも、チェーンミルを用いた破砕処理によって細かく破砕できることから、主として不純物からなる塊状物に有価金属が付着してロスとなることを防ぐことができるため、回収率の低下を抑制することができる。
【0038】
(チェーンミル装置について)
図2は、チェーンミルを用いた破砕処理の一例について説明するための図である。
図2に示すように、破砕処理は、チェーンミル装置2を備えた破砕容器1の内部にて行われる。破砕容器1は、試料投入口11と、試料回収口12と、ガス給排気管13とを備える。また、破砕容器1内部の処理空間には、チェーンミル装置2が設けられている。
【0039】
破砕容器1においては、試料投入口11より破砕処理対象の焙焼物が投入され、内部の処理空間に設けられている後述のチェーンミル装置2に供給される。チェーンミル装置2による破砕処理後に得られた破砕物は、試料回収口12から回収される。また、破砕処理においては、破砕容器1の上部(天井部)に設けられたガス給排気管13からガスの排気及びガスの給気が行われ、雰囲気ガスの調整を行うことが可能となっている。
【0040】
チェーンミル装置2は、破砕容器1内部の底面1Fに対して垂直に立設された回転軸棒21と、回転軸棒21の側面に取り付けられるチェーン22と、を備えている。チェーンミル装置2では、回転軸棒21に取り付けられたチェーン22が回転することで、その回転に伴って撓んだチェーン22に、破砕処理対象である焙焼物が衝突することによって、その焙焼物を所定の大きさに破砕する。このように撓んだチェーン22が焙焼物に衝突して破砕するため、その他の従来公知の破砕装置に比べて、より強力に破砕できる。
【0041】
・回転軸棒
より具体的に、回転軸棒21は、後述するチェーン22が側面の所定位置に取り付けられ、軸を中心として回動することで、側面に取り付けたチェーンを処理空間内において回転させる。なお、回転軸棒21に取り付けるチェーンの数は、特に限定されないが、2つ以上であることが好ましい。この点については後述する。
【0042】
回転軸棒21は、破砕容器1内部の底面1Fから垂直に立設されている。そのため、回転軸棒21の側面に取り付けられるチェーン22の取り付け高さ(
図2中において「H」で示す)は、破砕容器1の底面1Fを基準とした高さになり、破砕容器1の底面1Fからのチェーン22の取り付け位置までの距離を意味する。
【0043】
ここで、回転軸棒21においては、その側面に取り付けるチェーン22の取り付け高さHを調節できる構造を有することが好ましい。破砕処理では、廃電池の焙焼物を単に細かく破砕できればよいのではなく、回収対象である有価金属とその他の回収対象ではない不純物とを可能な限り明確に分離できるようにすることが、効率性の点で重要となる。例えば、粉砕強度が強過ぎで破砕の程度が細くなり過ぎると、次工程の篩別工程S3の処理で得られる篩下物にまで不純物が多く分配してしまう可能性がある。一方で、粉砕強度が弱過ぎると、篩上物に移行する破砕物に有価金属までもが巻き込まれてしまい、有価金属の回収率が低下してしまう可能性がある。
【0044】
破砕の程度は、破砕時間や破砕のエネルギー等に依存するが、破砕容器1の底面1Fからのチェーン22の取り付け高さH、つまりチェーン高さを調節することで、破砕物の大きさや破砕形状等を高い精度で制御して破砕処理を行うことができる。そしてこのことにより、有価金属の回収率を向上することができる。
【0045】
回転軸棒21においてチェーン22の取り付け高さHを調節できる構造としては、特に限定されず、取り付けたチェーン22の位置を高さ方向の上下に調節できるものであればよい。具体的には、例えば、回転軸棒21の側面に可動溝を設け、自動又は手動で取り付け高さを調節できるものとすることができる。
【0046】
回転軸棒21において、チェーン22の取り付け高さHとしては、特に限定されないが、5mm以上300mm以下の範囲とすることが好ましく、8mm以上200mm以下の範囲とすることがより好ましく、10mm以上100mm以下の範囲とすることが特に好ましい。このような範囲で取り付ける高さHを調整しながらチェーン22を取り付けることで、破砕の程度をより適切に制御して破砕処理を行うことができる。
【0047】
・チェーン
チェーン22は、上述したように回転軸棒21の側面に取り付けられ、回転軸棒21の回動により回転し、破砕対象である焙焼物を衝突させて破砕する。チェーン22は、金属製のリングが所定の長さに連なって構成されている(
図2の模式図を参照)。
【0048】
チェーンミル装置2において、回転軸棒21に取り付けるチェーン22の数は、特に限定されないが、回転方向には2つ以上のチェーン22を取り付けることが好ましい。具体的に、回転方向に2つ以上のチェーンを取り付ける場合には、回転軸棒21の側面においてその回転方向の所定の2箇所以上にチェーン22の取り付け位置を設け、その取り付け位置のそれぞれにチェーン22を独立して取り付ける。このように、回転軸棒21に2つ以上のチェーン22を取り付けて破砕処理を行うことによって、破砕強度を高めることができ、焙焼物に含まれる有価金属を粉状の破砕物にし易くなり、より効率的に有価金属を回収することができる。
【0049】
また、回転軸棒21の軸方向に取り付けるチェーン22の数は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0050】
上述したように、回転軸棒21には、好ましくはその側面に取り付けるチェーン22の取り付け高さHを調節できる構造を有する。したがって、その側面に取り付けるチェーン22は、取り付け高さH(破砕容器1の底面1Fからチェーン22の取り付け位置までの高さ)を調節可能となっている。このような構造を有するチェーンミル装置2であることにより、回収対象である有価金属とその他の回収対象ではない不純物とをより明確に分離できるようになり、より効率的に有価金属を回収することができる。
【0051】
[篩別工程]
篩別工程S3では、破砕工程S2における破砕処理により得られた破砕物を、所定の目開きの篩(篩機)を用いて篩上物と篩下物とに篩別けして分離する。特に廃電池の場合、有価金属を多く含む正極活物質は破砕によって粉状化し、篩下に分配される。そのため、篩別けにより篩下物と篩上物とに分離することで、有価金属を効率的に回収できる。
【0052】
そして、本実施の形態に係る有価金属回収方法では、前工程の破砕工程S2においてチェーンミルを用いた破砕処理を施していることから、有価金属を多く含む粉状物を効率的に得ることができる。そして、当該篩別工程S3において、得られた破砕物に対して篩下物と篩上物とに篩別けることで、有価金属を多く含む粉状物とその他の回収対象ではない不純物とを分離し易くなり、その篩下物から有価金属を効率的に回収することができる。
【0053】
篩別処理については、特に限定されず、市販の篩機を用いて行うことができる。また、篩の目開き(スクリーンの目開き)等は、篩上物と篩下物との篩別けの条件に基づいて適宜設定することができる。なお、篩の目開きが大きすぎると、篩下に有価金属と共に非有価金属が多く回収されてしまうことがあり好ましくない。また、篩の目開きが小さすぎると、篩上に多くの有価金属が含まれてしまうことがあり好ましくない。例えば、篩の目開きとしては5mm以下であると、有価金属を効率的に回収でき好ましい。
【0054】
篩機は、密閉された空間内に載置して、破砕物が周囲に飛散しない構造を構成していることが好ましい。このように密閉状態で破砕物を篩機に供給できるようにすることで、粉状物の飛散や、それに伴う有価金属の回収ロスをより効率的に防ぐことができ、また、安全面並びに作業環境面の観点からも好ましい。
【0055】
[酸化焙焼工程]
次に、酸化焙焼工程S4では、篩別工程S3で得られた篩下物を酸化雰囲気下で焙焼する。酸化焙焼工程S4での焙焼処理により、篩下物に含まれる炭素成分(カーボン)を酸化して除去することができる。具体的に、得られる酸化焙焼物中の炭素の含有量をほぼ0質量%とする。
【0056】
このように、酸化雰囲気下での焙焼により炭素を除去することができ、その結果、次工程の還元熔融工程S5において局所的に発生する還元有価金属の熔融微粒子が、炭素による物理的な障害なく凝集することが可能となり、一体化した合金として回収できる。また、還元熔融工程S5において電池の内容物に含まれるリンが炭素により還元されることを抑制し、有効にリンを酸化除去して、有価金属の合金中に分配されることを抑制できる。
【0057】
酸化焙焼工程S4では、例えば600℃以上の温度(酸化焙焼温度)で酸化焙焼する。焙焼温度を600℃以上とすることで、電池に含まれる炭素を有効に酸化除去できる。また、好ましくは700℃以上とすることで、処理時間を短縮させることもできる。また、酸化焙焼温度の上限値としては900℃以下とすることが好ましく、これにより熱エネルギーコストを抑制することができ、処理効率を高めることができる。
【0058】
酸化焙焼の処理は、公知の焙焼炉を使用して行うことができる。また、次工程の還元熔融工程S5における熔融処理で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を設け、その予備炉内において行うことが好ましい。焙焼炉としては、酸素を供給しながら破砕物を加熱することによりその内部で酸化処理(焙焼)を行うことが可能な、あらゆる形式のキルンを用いることができる。一例として、公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)等を好適に用いることができる。
【0059】
[還元熔融工程]
還元熔融工程S5では、酸化焙焼工程S4での焙焼処理により得られた酸化焙焼物を還元熔融することにより、不純物を含むスラグと、有価金属を含有する合金(メタル)とを得る。還元熔融工程S5では、酸化焙焼処理にて酸化させて得られた、不純物元素の酸化物はそのままで、その酸化焙焼処理で酸化してしまった有価金属の酸化物については還元及び熔融させることにより、不純物と分離して還元物を一体化した合金を得ることができる。なお、熔融物として得られる合金を「熔融合金」ともいう。
【0060】
還元熔融工程S5では、例えば炭素の存在下で処理を行うことができる。炭素としては、回収対象である有価金属のニッケル、コバルト等を容易に還元する能力がある還元剤であって、例えば、炭素1モルでニッケル酸化物等の有価金属の酸化物2モルを還元できる黒鉛等が挙げられる。また、炭素1モルあたり2モル~4モルを還元できる炭化水素等を炭素の供給源として用いることもできる。このように、還元剤としての炭素の存在下で還元熔融することで、有価金属を効率的に還元して、有価金属を含む合金を効果的に得ることができる。
【0061】
炭素としては、人工黒鉛や天然黒鉛のほか、製品や後工程で不純物が許容できる程度であれば、石炭やコークス等を使用することもできる。また、還元熔融処理に際しては、炭素の存在量を適度に調節することが望ましい。具体的に、好ましくは、処理対象の酸化焙焼物100質量%に対して7.5質量%を超え10質量%以下となる割合、より好ましくは、8.0質量%以上9.0質量%以下となる割合の量の炭素の存在下で熔融する。
【0062】
還元熔融処理における温度条件(熔融温度)としては、特に限定されないが、1320℃以上1600℃以下の範囲とすることが好ましく、1450℃以上1550℃以下の範囲とすることがより好ましい。また、還元熔融処理においては、酸化物系フラックスを添加して用いてもよい。なお、還元熔融処理においては、粉塵や排ガス等が発生することがあるが、従来公知の排ガス処理を施すことによって無害化することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0064】
[実施例、比較例]
(焙焼工程)
廃電池として、外形が角形をした車載用のリチウムイオン電池の使用済み品を用意した。この廃電池を大気雰囲気下で920℃の温度で6時間かけて焙焼した。
【0065】
(破砕工程)
次に、破砕工程では、焙焼工程から得られた焙焼物を1バッチ10kgとして破砕容器に入れて、破砕機としてチェーンミルを用いて破砕処理を施した(
図2の模式図を参照)。具体的に、実施例1~10では、下記表1に示す破砕条件にて処理した。なお、実施例8~10では、チェーンの取り付け箇所数を4つとし、2種類の取り付け高さ位置のパターンでそれぞれ2本ずつ設置して粉砕処理を施した。
【0066】
他方、比較例1では、破砕機として二軸破砕機を用いて破砕処理を施した。
【0067】
実施例、比較例のそれぞれにおいて、破砕により得られた破砕物を回収し、そのまま次工程の篩別処理に使用する篩機に供した。
【0068】
(篩別工程)
次に、篩別工程では、破砕機から回収した1バッチ分の破砕物を秤量し、直径2.0mmの孔が多数開口した金属(ステンレス)板を篩に用いた篩機にかけ、篩別けした。
【0069】
以上のような篩別処理により、回収物として、粉状の篩下物と、塊状の篩上物とに区分してそれぞれを回収し、市販のICP発光分光分析器を用いてニッケルとコバルトの含有量を分析し、篩下物と篩上物とにおけるニッケル、コバルトの分配を求めた。
【0070】
[結果]
下記表1に、実施例1~10及び比較例1における、篩下物と篩上物のそれぞれのニッケル、コバルトの含有量分析値に基づくニッケル、コバルトの分配率の測定結果を示す。
【0071】
【0072】
表1に示すように、チェーンミルを用いて破砕処理を行った実施例1~10では、有価金属であるニッケル及びコバルトが篩下物に多く分配され、効率的に選別できていることがわかる。また、チェーンミル装置において、チェーンの取り付け高さHの位置によってニッケル及びコバルトの分配率に違いが生じたことから、チェーンの取り付け高さHによって破砕を制御できることがわかった。特に、チェーンの取り付け高さHが、50mm、90mmにおいて、ニッケル及びコバルトの分配率が向上し、効率的に有価金属を回収できることがわかった。
【0073】
一方で、比較例1では、実施例に比べて篩下物におけるニッケル及びコバルトの分配率が低下した。
【符号の説明】
【0074】
1 破砕容器
1F 底面(破砕容器の内部の底面)
11 試料投入口
12 試料回収口
13 ガス給排気管
2 チェーンミル装置
21 回転軸棒
22 チェーン