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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】荒引線製造方法及び荒引線製造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/06 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
B22D11/06 320C
B22D11/06 320F
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020056684
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021154340
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】辻 隆之
(72)【発明者】
【氏名】秦 昌平
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 和久
(72)【発明者】
【氏名】早坂 孝
(72)【発明者】
【氏名】前川 裕宣
(72)【発明者】
【氏名】荒川 悟史
(72)【発明者】
【氏名】木村 仁志
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-168751(JP,A)
【文献】特開昭57-036044(JP,A)
【文献】特開2006-095578(JP,A)
【文献】特開2019-155384(JP,A)
【文献】特開昭63-260656(JP,A)
【文献】特開平02-258153(JP,A)
【文献】特開昭63-260655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荒引線を製造する荒引線製造方法であって、
アセチレンと空気または酸素を混合した混合気体を不完全燃焼させてスートを形成するスート形成工程であって、150μm以下の厚さの前記スートの層を、金属溶湯と接触する鋳型の第1の面及び第2の面のそれぞれの面ごとに形成する前記スート形成工程と、
前記スート形成工程により前記スートが形成された前記鋳型を用いて、前記金属溶湯の鋳造を行う鋳造工程と、
を有する、荒引線製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の荒引線製造方法であって、
前記鋳造工程は、前記鋳型を移動させながら前記金属溶湯の鋳造を行い、
前記スート形成工程における前記混合気体が不完全燃焼した火炎流が送出される向きは、前記鋳型の移動方向とは反対方向を向いている、荒引線製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の荒引線製造方法であって、
前記第1の面は前記鋳型における前記金属溶湯と接触する溝部の溝側面であり、
前記第2の面は前記溝部の溝底面であり、
前記スート形成工程において、前記第2の面に前記スートを形成するときの前記溝底面から前記混合気体を送出する孔の位置までの距離は、前記溝底面から前記溝側面の上端までの距離よりも短い、荒引線製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の荒引線製造方法であって、
前記スート形成工程は、
前記鋳型の前記第1の面及び前記第2の面に堆積したスートを除去するスート除去工程、
を有する、荒引線製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の荒引線製造方法であって、
前記スート形成工程は、前記スートの厚さを10μm以上150μm以下の範囲とする、荒引線製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の荒引線製造方法であって、
前記スート形成工程は、
前記第1の面に前記スートを付着させる第1付着工程と、
前記第2の面に前記スートを付着させる第2付着工程と、
を有する、荒引線製造方法。
【請求項7】
荒引線を製造する荒引線製造装置であって、
アセチレンと空気または酸素を混合した混合気体を不完全燃焼させてスートを形成するスート形成部であって、150μm以下の範囲の厚さの前記スートを、金属溶湯と接触する第1の面に形成する側面スーター及び第2の面に形成する底面スーターを有する前記スート形成部と、
前記スート形成部により前記スートが形成された鋳型を有し、該鋳型を用いて前記金属溶湯の鋳造を行う鋳造部と、
を備える、荒引線製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋳造により荒引線を製造する荒引線製造方法及び荒引線製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、銅荒引線の製造において用いられる銅鋳造材の製造装置が記載されている。
この種の銅鋳造材の製造装置においては、鋳型に銅溶湯(以下、「溶銅」ともいう)を流し込み、冷却することにより銅の荒引線を鋳造する。荒引線を鋳造する際、銅溶湯を鋳造に用いられる鋳型に流し込む前に、あらかじめ鋳型の表面に離型剤であるスートを付着させる。付着させたスートが鋳型の表面に堆積することによってスートからなる離型剤の層となる。当該離型剤の層により、鋳造された銅鋳造材は、鋳型から剥がれやすくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-158344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した鋳造装置の鋳造工程において、鋳型に堆積された離型剤であるスートの層の厚さが厚くなると、スートの層の断熱作用によって、鋳型内の銅溶湯や凝固殻の冷却が遅くなる。そして、一旦薄い厚さの凝固殻が形成されてしまうと、凝固殻の厚さ方向の温度差が十分でなくなってしまうため、液相を含んだ形で凝固殻が成長してしまう。凝固殻中に取り残された液相が凝固収縮すると、銅鋳造材の表面または表面近傍に引け巣からなる欠陥が生じる。
【0005】
本開示の一局面は、鋳造の際に、引け巣の欠陥の発生を抑制できる荒引線製造方法及び荒引線製造装置の技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様は、荒引線を製造する荒引線製造方法であって、スート形成工程と、鋳造工程と、を有する。スート形成工程では、150μm以下の範囲の厚さのスートの層を、金属溶湯と接触する鋳型の第1の面及び第2の面に形成する。鋳造工程では、スート形成工程によりスートが形成された鋳型を用いて、金属溶湯の鋳造を行う。
【0007】
また、本開示の別の一態様は、荒引線を製造する荒引線製造装置であって、スート形成部と、鋳造部と、を備える。スート形成部は、150μm以下の厚さのスートを、金属溶湯と接触する鋳型の第1の面及び第2の面に形成する。鋳造部は、スート形成部によりスートが形成される鋳型を有し、該鋳型を用いて金属溶湯の鋳造を行う。
【0008】
このような構成によれば、金属溶湯の鋳造において、あらかじめ決められた範囲の厚さとして、150μm以下の厚さのスートを第1の面及び第2の面の両方に形成することにより、スートの厚さがそれよりも厚い場合と比較して、スートの断熱作用を抑制することができる。その結果、鋳型に供給される金属溶湯の冷却を促進することができ、鋳造された鋳造材において引け巣からなる欠陥の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態における荒引線製造装置の構成を表した図である。
図2】本実施形態における鋳造機の一部の構成を表した図である。
図3】本実施形態におけるスーターの配置を表した図である。
図4】本実施形態における底面スーターとホイールの溝部との位置関係を表した図である。
図5】本実施形態におけるジェッターにおけるジェッター水のホイールの溝部に対する吹き付けを表した図である。
図6】本実施形態におけるホイール表面に形成されるスートの層の例を表した図である。
図7】ホイールの回転方向に対して直交する断面視における、共通スーターを用いた場合の共通スーターとホイールの溝部との位置関係を表した断面模式図である。
図8】ホイールの円周に対する法線方向に沿って、ホイールの溝部の底面に向かってみた平面視における、共通スーターを用いた場合の共通スーター及び側面スーターとホイールの溝部との位置関係を表した平面模式図である。
図9】共通スーターを用いた場合の操業時間に対するスートの厚さの関係を表した図である。
図10】変形例におけるジェッターにおけるジェッター水の吹き付けを表した断面模式図である。
図11】変形例におけるジェッターにおけるジェッター水のホイールの溝部に対する吹き付けを表した図である。図11(A)は、ホイールの回転方向に対して直交する断面視におけるジェッターの配置を表したものであり、図11(B)は、ホイール底面の法線方向に沿って、ホイール底面に向かって見たホイールとジェッターの配置を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[1.構成]
本実施形態での荒引線を製造する連続鋳造装置である荒引線製造装置1について図1を用いて説明する。図1は、荒引線製造装置の構成を表した図である。
【0011】
本実施形態における荒引線製造装置1は、銅合金材の荒引線を連続鋳造するように構成されている。
荒引線製造装置1は、溶解炉2と、上樋4と、保持炉6と、下樋8と、タンディッシュ10と、鋳造機16と、連続圧延装置18と、コイラー20と、スーター22と、ジェッター24と、を備える。
【0012】
溶解炉2は、原料である銅を加熱して溶解させ、溶銅(すなわち、銅溶湯)110を生成するように構成されている。溶解炉2は、例えば、炉本体とバーナーとを有していてもよい。溶解炉2は、原料である銅が炉本体に投入され、バーナーで加熱されることにより、溶銅110を連続的に生成するように構成されている。
【0013】
上樋4は、溶解炉2で生成された溶銅110を下流側の保持炉6に移送するように構成されている。上樋4は、溶解炉2の下流側に設けられる。すなわち、上樋4は溶解炉2から溶銅110が流出する位置に設けられる。上樋4は、溶解炉2と保持炉6との間を連結するように構成されている。上樋4は、例えば、溶解炉2から保持炉6に向かって、溶銅110が流れるように下方向に傾斜してもよい。
【0014】
保持炉6は上樋4から移送される溶銅110を所定の温度で加熱し、一時的に貯留するように構成されている。また、保持炉6は、溶銅110を所定の温度に保持し、所定量の溶銅110を下樋8に移送するように構成されている。保持炉6は、上樋4の下流側に設けられる。
【0015】
下樋8は、保持炉6から移送される溶銅110を下流側のタンディッシュ10に移送するように構成されている。下樋8は、保持炉6の下流側に設けられる。
なお、上樋4からタンディッシュ10までの装置では、供給される溶銅110に対して、所定の金属元素を連続的に添加するように構成されてもよい。
【0016】
タンディッシュ10は、溶銅110を一時的に貯留し、貯留した溶銅110を所定量ずつ鋳造機16に供給する。タンディッシュ10は、下樋8の下流側に設けられる。タンディッシュ10は、ポット12と注湯ノズル14とを備える。ポット12は、下樋8から移送される溶銅110を一時的に貯留するように構成されている。注湯ノズル14は、ポット12の下流側に備えられる。注湯ノズル14は、ポット12に一時的に貯留された溶銅110を鋳造機16に対して所定量ずつ連続的に供給する(すなわち、溶銅110を注湯する)ように開口を有する。注湯ノズル14の開口の大きさは例えば、13mmx30mmの大きさに形成されてもよい。注湯ノズル14は、例えば、セラミックにより形成される。具体的には、注湯ノズル14はケイ素酸化物、ケイ素炭化物、ケイ素窒化物などの耐熱性を有する材料で形成されている。注湯ノズル14の開口近傍には、注湯ノズル14を介して鋳造機16へ注湯される溶銅110の供給量を調整するための調整部材が設けられてもよい。
【0017】
鋳造機16は、いわゆるベルト&ホイール方式の連続鋳造機である。鋳造機16は、ホイール162とベルト164とを備える。なお、ホイール162は、リングとも称する。
ホイール162は、円環状に形成される。ホイール162は、円環状に形成された外周に所定の断面形状を有する溝部を有する。溝部の形状は、例えば、円環状の円周方向に対して直交する断面の断面形状がU字形状であってもよい。言い換えると、溝部は、ホイール162の円環状の中心に対して外側からホイール162の中心に向かって深くなるように形成されてもよい。なお、以下では、溝部の断面のU字形状において、対向する2つの面を溝側面162bとも表記し、当該2つの溝側面162bに挟まれた位置に位置し、開口と対向する面を溝底面162aとも表記する。
【0018】
ベルト164は、ホイール162の外周面の一部に接触しながらホイール162の周面を周回移動するように形成されている。
ホイール162に形成された溝部とベルト164との間に形成される空間は、タンディッシュ10から注湯された溶銅110が進入するように構成される。
【0019】
また、ホイール162とベルト164とは、溶銅110の温度より低い温度となるように冷却されるように構成されている。ホイール162とベルト164とを冷却する構成は、例えば、ホイール162とベルト164との内部を冷却水が循環する冷却機構であってもよい。冷却機構による冷却により、ホイール162の溝部とベルト164との間に注湯された溶銅110は凝固する。溶銅110が凝固した結果、ホイール162の溝部とベルト164との形状に応じた断面形状の銅鋳造材120が連続的に鋳造される。鋳造された銅鋳造材120は、連続圧延装置18に移送される。
【0020】
連続圧延装置18は、銅鋳造材120を圧延することにより所定の外形を有する銅荒引線130に成形加工するように構成される。連続圧延装置18は、例えば、鋳造機16から移送される銅鋳造材120を連続的に熱間圧延するように構成されている。連続圧延装置18は、鋳造機16の下流側に設けられる。ここでいう鋳造機16の下流側とは、鋳造機16から銅鋳造材120が排出される側である。
【0021】
コイラー20は、連続圧延装置18の下流側に設けられる。ここでいう、連続圧延装置18の下流側とは、連続圧延装置18から銅荒引線130が排出される側をいう。コイラー20は、連続圧延装置18から移送される銅荒引線130を巻き取るように構成される。
【0022】
図1から図4までの図を用いて、荒引線製造装置1の各構成について説明する。ここで、図1は、本実施形態における荒引線製造装置1の構成を表した図である。また、図2は、本実施形態における荒引線製造装置1が備える鋳造機16の一部の構成を表した断面模式図である。さらに、図3は、本実施形態におけるスーター22の配置を表した図である。そして、図4は、本実施形態における底面スーター22aとホイール162の溝部との位置関係を表した断面模式図である。
【0023】
図1から図4までの図に示すスーター22は、ホイール162の溝部(すなわち、鋳型)の表面に、離型剤であるスート220を付着させる。スーター22により付着されたスート220は、ホイール162の溝部の表面に堆積し、層を形成する。形成されたスート220の層により、鋳造機16で鋳造された銅鋳造材120を連続圧延装置18に移送する際に、ホイール162の溝部から離型しやすくなる。スーター22は、ホイール162の周囲に設けられる。具体的にはスーター22は、鋳造された銅鋳造材120がホイール162から離型される位置から新たに溶銅110が注湯される位置までの間に配置される。
【0024】
スーター22によるスート220の生成は、アセチレンと空気または酸素とを用いて行われる。具体的には、スーター22は、アセチレンと空気または酸素との混合気体を送出する孔を有し、当該孔から混合気体をホイール162の溝部へ連続的に送出しながら不完全燃焼させることにより、火炎流250を送出する。これにより、スーター22は、火炎流250が送出される向きに位置するホイール162の溝部の表面に、カーボンスートからなるスート220を付着させる。付着されたスート220は、ホイール162の溝部の表面に堆積することによって層を形成する。ここで、スーター22によるスート220は、ホイール162の溝部の表面全面に渡って連続的にスート220を付着させることにより形成される。すなわち、図3に示すように、ホイール162の溝部の表面の一部に所定の厚さの層状のスート220を形成させるだけでなく、溝部の溝底面(第2の面)162a及び溝側面(第1の面)162bのそれぞれに150μm以下の厚さの層状のスート220を形成させる。なお、溝部の溝底面162a及び溝側面162bのそれぞれに形成されたスート220は、図3及び図4に示すように、ホイール162の回転方向Rrに直交する方向(ホイール162の幅方向)において、溝底面162aから溝側面162bに渡って150μm以下の厚さで連続して形成されている。また、スート220は、ホイール162の回転方向Rrに沿った方向にも150μm以下の厚さで連続して形成されている。
【0025】
スート220の厚さは、好ましくは、10μm以上150μm以下であり、より好ましくは、50μm以上100μm以下である。
また、スーター22の向きは、ホイール162の回転方向Rrとは反対方向を向いてスート220を付着させるように配置されてもよい。ここでいう、スーター22の向きとは、例えば、アセチレンと空気または酸素との混合気体を送出する孔が開口している向きをいい、不完全燃焼の際の火炎流250が送出される向きに対応する。また、回転方向Rrと反対向きとは、例えば回転方向Rrの法線方向に対して直交する向きに、回転方向Rrの中心に向かってホイール162の表面をみた際に、下流側から上流側を向く向きをいう。
【0026】
さらに、スーター22の向きは、ホイール162の接線方向に対して、平行よりも下向き、すなわち、開口の中心軸がホイール162の接線方向に対してホイール162の回転軸側、言い換えると、ホイール162の溝部の底面側を向くように傾斜して配置されてもよい。
【0027】
スーター22は、図3に示すように、底面スーター22a及び側面スーター22bにより構成されてもよい。底面スーター22aは、ホイール162の溝部の底面である溝底面162aだけにスート220を付着させる溝底面専用のスーター22であり、側面スーター22bは、ホイール162の溝部の側面である溝側面162bだけにスート220を付着させる溝側面専用のスーター22である。
【0028】
底面スーター22aと側面スーター22bとは、底面スーター22aが上流側、側面スーター22bが下流側に配置される。ここでいう、上流側、下流側とは、ホイール162の回転に対して、先に通過する側を上流、後に通過する側を下流とする。
【0029】
底面スーター22aは、例えば、溝部の底面と平行に並んで配置された複数の孔からアセチレンと空気または酸素との混合気体を炎とともに火炎流250として底面向き火炎流251を送出させる。これにより、底面スーター22aは、溝底面専用のスーター22として、溝底面162aにスート220を付着させる。
【0030】
底面スーター22aに設けられる複数の孔は、直径3mm以下の円形状の孔が4つ備えられていてもよい。また、混合気体に用いられるアセチレンのガスの流量は、1分当たり11リットルから15リットルまでの量であってもよく、空気または酸素の流量は1分当たり5.5リットルから9.0リットルまでの量であってもよい。また、アセチレンと空気または酸素との流量は、必ずしもこのような値に限定されるものではない。例えば、アセチレンと空気または酸素との混合比率は、混合気体の不完全燃焼を起こすことができる比率で混合されていれば、他の流量であってもよい。また、底面スーター22aに設けられる複数の孔の数、形状及び径は、限定されるものではない。
【0031】
さらに、図4に示すように底面スーター22aの先端は、略U字状の断面からなるホイール162の溝部に入り込むような位置に配置される。ここでいう、底面スーター22aの先端とは、底面スーター22aにおいて、スート220が生成される孔が配置されている位置をいう。言い換えると、底面スーター22aは、ホイール162の溝部の溝底面162aから底面スーター22aの先端までの距離がホイール162の溝部の溝底面162aから溝側面162bの上端までの距離よりも短くなるような位置に配置されてもよい。これにより、底面スーター22aにより生成したスート220がホイール162の溝部の溝側面162bに付着することを抑制し、溝部の溝底面162aだけに付着しやすくなる。そのため、スート220による溶銅110の冷却が安定し、鋳造された銅鋳造材120には、引け巣等の欠陥が発生しにくくなる。
【0032】
側面スーター22bは例えば、底面スーター22aよりもホイール162の回転方向Rrに沿って下流側に配置されてもよい。
側面スーター22bは、例えば、アセチレンと空気または酸素との混合気体を炎とともに火炎流250として側面向き火炎流252を送出させる。側面スーター22bは、側面向き火炎流252により、ホイール162の対向する2つの内側面である溝側面162bにスート220を付着させる。また、側面スーター22bにより送出される側面向き火炎流252の向きは、溝側面162bにスート220が付着するように、底面スーター22aと比較して、スート220を付着させる側面スーター22bの向きが向かってくる方向に対してあらかじめ決められた以上の角度を有するように設けられてもよい。
【0033】
側面スーター22bに用いられるアセチレンと空気または酸素との流量は、底面スーター22aのアセチレンと空気または酸素との流量とそれぞれ異なっていてもよい。例えば、側面スーター22bでは、アセチレンの流量が、1分当たり5.0リットルから9.0リットルまでの量であってもよく、空気または酸素の流量が、1分当たり5.0リットルから9.0リットルまでの量であってもよい。また、アセチレンと空気または酸素との流量は、必ずしもこのような値に限定されるものではない。例えば、アセチレンと空気または酸素との混合比率は、混合気体の不完全燃焼を起こすことができる比率で混合されていれば、他の流量であってもよい。
【0034】
また、底面スーター22aと側面スーター22bとの位置の間隔は特に限定されるものではない。底面スーター22aと側面スーター22bとの位置の間隔は、例えば、以下のような条件を満たすことが好ましい。底面スーター22aと側面スーター22bとは、例えば、底面スーター22a及び側面スーター22bのうちの一方のスーター22が不完全燃焼を生じさせた際の火炎流250の熱により他方のスーター22の温度があらかじめ決められた温度以上にならないような位置に配置されてもよい。ここでいう、あらかじめ決められた温度とは、例えば、他方のスーター22が熱くなりすぎない温度、言い換えると、他方のスーター22が正常に動作することができる程度の温度であってもよい。また、底面スーター22aと側面スーター22bとは、例えば、底面スーター22aと側面スーター22bのうち、一方のスーター22が生じさせる火炎流250が他方のスーター22が生じさせる火炎流250に対して与える影響があらかじめ決められた程度よりも小さい位置に配置されてもよい。ここで、スーター22の一方が他方に与える影響としては、例えば、一方のスーター22から混合気体が他方のスーター22の混合気体に当たって、スーター22から噴出する火炎流250の向きが変わることなどをいう。また、火炎流250に与える影響があらかじめ決められた程度とは、両方のスーター22から火炎流250を噴出させた際に、一方の火炎流250により他方の火炎流250の向きが変わらない程度であってもよい。
【0035】
図5は、本実施形態におけるジェッター24によるジェッター水240のホイール162の溝部に対する吹き付けを表した断面模式図である。
ジェッター24は、図5に示すように、ホイール162の溝部の溝底面162a及び溝側面162bに堆積したスート220の少なくとも一部を取り除くことにより、ホイール162の溝部の溝底面162a及び溝側面162bに形成されるスート220の層の厚さを調整する。具体的には、ジェッター24は、ホイール162の溝部に所定の水圧の水であるジェッター水240を吹き付ける。当該ジェッター水240の水圧により、ホイール162の溝部の溝底面162a及び溝側面162bにおいて、ジェッター水240が吹き付けられた箇所のスート220が取り除かれる。吹き付けるジェッター水240の水圧の大きさは、例えば、5.0MPa以下であってもよい。例えば、水圧の大きさは、1.2MPaであってもよい。また、吹き付けるジェッター水240の水圧の大きさは可変であってもよい。当該水圧の大きさを調整することにより、ホイール162の溝部の溝底面162a及び溝側面162bに堆積したスート220の厚さを調整することができる。すなわち、吹き付けるジェッター水240の水圧の大きさを大きくすれば、単位時間あたりの取り除かれるスート220の量が多くなるため、ホイール162の溝部の溝底面162a及び溝側面162bに堆積したスート220の厚さを短時間で薄く調整しやすくすることができ、吹き付けるジェッター水240の水圧の大きさを小さくすれば、単位時間あたりの取り除かれるスート220の量が少なくなるため、ホイール162の溝部の表面に溝底面162a及び溝側面162bしたスート220の厚さを厚めに調整しやすくすることができる。
【0036】
ジェッター水240が吹き付けられることによって取り除かれるスート220は、ジェッター水240の吹き付けられる箇所のスート220の全てであってもよく、一部であってもよい。なお、ジェッター水240の吹き付けられる箇所のスート220の全てを除去する場合は、除去した後、除去した部分にスーター22によってスート220を付着させる。生産性の向上の観点からは、スート220の一部を除去することが好ましい。ジェッター24は、ホイール162の周囲であって、ホイール162の溝部の溝底面162aと対向する位置に設けられる。
【0037】
具体的にはジェッター24は、鋳造された銅鋳造材120がホイール162の溝部から離型される位置からスーター22によりスート220が付着される位置までの間に配置される。なお、ジェッター24が配置される位置は、鋳造された銅鋳造材120がホイール162の溝部から離型される位置からスーター22によりスート220が付着される位置までの間に限定されるものではない。ジェッター24が配置される位置は、鋳造された銅鋳造材120がホイール162の溝部から離型される位置から注湯ノズル14により溶銅110が注湯される位置までの間でホイール162に堆積したスート220が除去できればよい。
【0038】
ジェッター24は例えば、任意の平面にジェッター水240を吹き付けた場合に、該平面内の異なる位置のそれぞれに対するジェッター水240の吹き付け量が均等となるようなものであってもよい。このようなジェッター24を用いた場合、図5に示すようにホイール162の溝部の溝底面162a及び溝側面162bに対して、均等にジェッター水240を吹き付けることができる。これにより、ホイール162の溝部の溝底面162aや溝側面162bに堆積したスート220を均等に取り除くことができる。このため、スーター22及びジェッター24によってホイール162の溝部の溝底面162aや溝側面162bにスート220を均等に形成させることができる。
【0039】
言い換えると、スーター22及びジェッター24によって、ホイール162の溝底面162a及び溝側面162bの各面に渡って連続的に150μm以下の厚さの層状のスート220を形成することができる。
【0040】
[2.作用]
図1に示したように、荒引線製造装置1による銅荒引線130の製造工程は、一連の工程として連続的に行われる。ここでいう、銅荒引線130の一連の工程は、例えば、溶融工程、タンディッシュ貯留工程、溶湯供給工程、鋳造工程、連続圧延工程を有している。
【0041】
溶融工程は銅を溶融することにより溶銅110を生成する工程である。
具体的には、溶融工程では、溶解炉2の炉本体に、原料である銅が投入される。投入された銅は、加熱された溶解炉2に備えられたバーナーにより炉本体を加熱する。これにより連続的に溶銅110が生成される。
【0042】
溶融工程により生成された溶銅110は、上樋4を介して、あらかじめ決められた温度に保持された状態で、保持炉6に移送される。
次にタンディッシュ貯留工程で、溶融工程により生成された溶銅110がタンディッシュ10に貯留される。
【0043】
保持炉6に移送された溶銅110は、下樋8を介してタンディッシュ10に移送される。下樋8を介してタンディッシュ10に移送された溶銅110は、タンディッシュ10に一時的に貯留される。
【0044】
なお、上樋4からタンディッシュ10までの間の溶銅110に対して例えば錫などの金属元素が添加されてもよい。
次に、溶湯供給工程において、注湯ノズル14はポット12に一時的に貯留された溶銅110を鋳造機16に注湯し、供給する。具体的には、タンディッシュ10から注湯ノズル14を介して流出させた溶銅110を、鋳造機16におけるホイール162の溝部とベルト164との間に形成される空間に注湯する。
【0045】
次に、図2に示すように、鋳造工程において、鋳造機16は、ベルト164をホイール162の外周面の一部と接触させながら周回移動させる。このとき、ホイール162及びベルト164は冷却水により冷却される。冷却水によりホイール162およびベルト164が冷却されることにより、図2に示すように、溶銅110が徐々に凝固して固体化された層である固体層320が形成される。そして、固体層320が銅鋳造材120として連続的に鋳造される。以下では、液体の溶銅110の表面に形成された固体層320を凝固殻とも表現する。
【0046】
次に、連続圧延工程において、連続圧延装置18は、鋳造機16から移送される銅鋳造材120を所定の温度範囲に保ちながら、連続的に圧延する。これにより、所定の外径(例えば、8mm以上15mm以下の外径)を有する銅荒引線130が成形される。成形された銅荒引線130は、コイラー20により巻き取られる。以上の工程により銅荒引線130が製造される。
【0047】
なお、製造された銅荒引線130は、さらに芯線加工や圧延加工を施して外径を細くし、更に必要に応じて熱処理を施すことにより、電線等の導体に適用するための導線として成形加工される。
【0048】
また、以上示した銅荒引線130の一連の工程を構成する、溶融工程、タンディッシュ貯留工程、溶湯供給工程、鋳造工程及び連続圧延工程は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0049】
なお、溶銅110が金属溶湯の一例に相当する。また、注湯ノズル14が溶湯供給部としての構成の一例に相当し、鋳造機16が鋳造部としての構成の一例に相当する。
<スート形成工程>
次にスーター22及びジェッター24が実行するスート形成工程について説明する。なお、スーター22によりスート220を付着させる工程をスート付着工程、ジェッター24によりスート220を除去する工程をスート除去工程とも表記する。
【0050】
スート形成工程は、鋳型であるホイール162の溝部において、金属溶湯である溶銅110と接触する面であるホイール162の表面にスート220を形成する工程である。スート形成工程は、例えば、スート220の厚さを10μm以上150μm以下の範囲で形成する。例えば、スート付着工程により、150μm以下の範囲の厚さになるように、鋳型であるホイール162の溝部にスート220を付着させる。ホイール162の溝部に付着したスート220は、当該ホイール162の溝部に堆積する。
【0051】
スート除去工程は、銅鋳造材120が離型したあとの鋳型の金属溶湯と接触する面に堆積したスートを除去することにより、スートの厚さを150μm以下の範囲の厚さとしてもよい。
【0052】
スート形成工程は、鋳造工程後から次の鋳造工程が開始するまでの間のホイール162に対して行われる工程である。ここでいう鋳造工程後とは、例えば、鋳造工程により溶銅110から鋳造された銅鋳造材120がホイール162から離れた時点より後をいう。また、鋳造工程が開始するまでとは、そのホイール162に当該離れた銅鋳造材120の次の銅鋳造材120を鋳造するための溶銅110が、注湯ノズル14により注湯されるまでの時点である。
【0053】
本実施形態におけるホイール162の表面に形成されるスート220の層の例を図6に示す。スート付着工程及びスート除去工程により、注湯ノズル14により溶銅110が注湯される段階で、ホイール162の溝部の溝底面162a及び溝側面162bには、図6に示すように、厚さが150μm以下の層状のスート220が形成される。
【0054】
ここで層状のスート220は、例えば、第1スート220aと第2スート220bに分けられる。ここでいう第1スート220aとは、前回(例えば、ホイール162の溝部の溝底面162a及び溝側面162bに溶銅110が接触する前)のスート形成工程により形成されたスート220をいい、第2スート220bは、今回(例えば、ホイール162の溝部の溝底面162a及び溝側面162bに溶銅110が接触した後)のスート形成工程により形成されたスート220をいう。ここでいう、今回のスート形成工程とは、注湯ノズル14により溶銅110がホイール162の溝部へ注湯される直前の段階でのスート形成工程により形成されたスート220をいう。言い換えると、前回の鋳造工程において、銅鋳造材120が取り外された後に付けられたスート220をいう。
【0055】
第1スート220aは、焼き固まっているため、第1スート220aは取り除くことが第2スート220bに比べ困難であるが、適切な水圧に設定されたジェッターによって、その厚さを調整することができる。
【0056】
また、スート220全体において、第1スート220aの厚さと第2スート220bの厚さとを比較すると、第1スート220aの厚さの方が第2スート220bの厚さよりも厚く形成されてもよい。ここで、第1スート220a及び第2スート220bの厚さは、例えば、第1スート220aの層の厚さは、例えば、8μm以上125μm以下の範囲で形成され、第2スート220bの層の厚さは、例えば、2μm以上25μm以下の範囲で形成されてもよい。すなわち、第1スート220aの厚さと、第2スート220bの厚さとの比は、およそ5:1の割合で形成されてもよい。なお、第1スート220aの厚さと、第2スート220bの厚さ及びそれぞれの層の厚さの比は、これらの値に限定されるものではない。
【0057】
図7及び図8を用いて、共通スーター22cを用いたスート220の付着及び堆積による、スート220の形成について説明する。なお、図7は、ホイール162の回転方向に対して直交する断面視における、共通スーター22cを用いた場合の共通スーター22cとホイール162の溝部との位置関係を表した断面模式図である。図8は、ホイール162の円周に対する法線方向に沿って、ホイール162の溝部の底面に向かってみた平面視における、共通スーター22cを用いた場合の共通スーター22c及び側面スーター22bとホイール162の溝部との位置関係を表した平面模式図である。
【0058】
例えば、スーター22が、図7及び図8に示すように、溝底面162aと溝側面162bとの両方にスート220を同時に付着させるような向き及び位置に配置された共通スーター22cである場合、共通スーター22cにより送出される火炎流である共通火炎流253は、溝底面162a及び溝側面162bの両方にスート220を同時に付着させる。そのため、共通スーター22cを用いてスート220を付着させる場合、溝底面162a及び溝側面162bに形成されるスート220の厚さをそれぞれ調整することは困難であった。このような共通スーター22cを用いた場合、操業時間に対するスート220の厚さは、図9に示すように表される。ここでいう操業時間とは、例えば、鋳造機16において、銅鋳造材120の鋳造を行う動作を継続した時間をいう。ここで、本実施形態における操業時間の長さと、スートの厚さの関係を図9に示す。図9によれば、操業時間の経過にしたがって、溝底面162a及び溝側面162bに形成されたスート220の厚さが厚くなることがわかる。具体的には、溝底面162a及び溝側面162bのそれぞれに形成されるスート220の厚さを操業時間ごとに測定した。そして、溝底面162a及び溝側面162bのそれぞれにおいて測定したスート220の厚さの近似直線である溝底面直線Ld、溝側面直線Lsは、それぞれ操業時間に対して増加していることを表している。
【0059】
これに対して、図3及び図4に示すような底面スーター22a及び側面スーター22bを用いてスート220を付着させ、層状に堆積させる場合には、溝底面162a及び溝側面162bのそれぞれの面ごとにスート220を付着させ、層状に堆積させることができる。このため、共通スーター22cを用いた場合に比べて付着され、層状に堆積されるスート220の厚さを150μm以下に調整しやすくすることができる。
【0060】
ここで、形成されるスート220の厚さは、10μm以上である場合、離型剤としての機能を十分に発揮するため、好ましい。さらに、形成されるスート220の厚さは、50μm以上であるとブローホール欠陥の発生を抑制しやすくなる。具体的には、50μmより薄い場合には、溶銅110からホイール162及びベルト164への熱が伝わりやすく、溶銅110が早く冷却される。溶銅110が早く冷却されると、溶銅110の表面の凝固が早い。これにより溶銅110の凝固が早く、銅鋳造材120が鋳造される際に気泡が取り込まれた状態で固まった場合は、ブローホール欠陥となりやすい。以上から、形成されるスート220の厚さが50μm以上であれば、スート220の断熱性により、冷却が早くなされるのを抑制しやすくなり、ブローホール欠陥の発生を抑制しやすくなる。
【0061】
また、スート220の厚さは、150μm以下となるように形成される。形成されるスート220が150μmより厚い場合には、引け巣からなる欠陥及び一酸化炭素ガス(COガス)または二酸化炭素ガス(COガス)による欠陥を生じさせやすい。具体的には、スート220の厚さが厚くなると、スート220の断熱作用によって、鋳型内の溶銅110や凝固殻の冷却が遅くなる。一旦薄い凝固殻を形成した後、凝固殻の厚さ方向の温度差が十分でないため、液相を含んだ形で凝固殻が成長してしまう。凝固殻中に取り残された液相が凝固収縮すると、表面または表面近傍に引け巣等の欠陥が生じる。また、スート220が厚くなりすぎると冷却がより遅くなる。このため、溶銅110の状態でスートと接触する時間が長くなり、溶銅110中の酸素とスート220中のカーボンが反応し、一酸化炭素ガス(COガス)または二酸化炭素ガス(COガス)が発生する。これらのガス気泡が表面近傍の欠陥となる。そして、本発明者等の検討によれば、スート220の厚さを150μmよりも厚くして鋳造した銅鋳造材120では、特に引け巣欠陥が生じやすく、スートの厚さが150μm以下の場合では、引け巣欠陥の発生が見られないとの知見が得られた。このため、形成されるスート220の厚さは150μm以下であることが好ましい。特に、スート220の厚さが100μm以下である場合には、引け巣欠陥及びガス気泡に起因する欠陥の発生は見られなかった。そのため、スート220の厚さは100μm以下であることがさらに好ましい。
【0062】
なお、図9に示す形成されるスート220の厚さは、渦電流を用いた膜厚計を用いて測定されたものである。具体的には、株式会社ケツト化学研究所製の製品番号LZ-900を用いて測定されたものである。なお、スート220の厚さとして測定される値は、スート220全体の厚さに限定されるものではなく、例えば、第1スート220aの厚さであってもよい。
【0063】
[3.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)上記実施形態の荒引線製造装置1により行われる荒引線製造方法のスート形成工程では、荒引線の内部に生じる欠陥の発生を抑制するあらかじめ決められた範囲の厚さとして、150μm以下の厚さのスート220を鋳型の金属溶湯と接触する第1の面及び第2の面に形成する。鋳造工程では、スート形成工程によりスート220が形成された鋳型を用いて、荒引線の鋳造を行う。
【0064】
また、上記実施形態の荒引線を製造する荒引線製造装置1は、スート形成部と、鋳造部と、を備える。スート形成部は、荒引線の内部に生じる欠陥の発生を抑制するあらかじめ決められた範囲の厚さとして、150μm以下のスート220を鋳型の金属溶湯と接触する第1の面及び第2の面に形成する。鋳造部は、スート形成部によりスート220が形成される鋳型を有し、荒引線の鋳造を行う。
【0065】
このような構成によれば、あらかじめ決められた範囲の厚さである150μm以下の厚さのスート220を第1の面及び第2の面の両方に形成することにより、スート220の厚さが厚い場合と比較して、スート220の断熱作用を抑制することができる。その結果、鋳型に供給される金属溶湯の冷却を促進することができ、鋳造された荒引線において引け巣欠陥の発生を抑制することができる。
【0066】
(2)上記実施形態の荒引線製造装置1により行われる荒引線製造方法のスート形成工程は、スート除去工程を有する。スート除去工程では、鋳型の第1の面及び第2の面に堆積したスートを除去する。
【0067】
このような構成によれば、スート形成工程は、鋳型の第1の面及び第2の面に堆積したスート220を除去することにより、所望の厚さのスート220を形成しやすくなる。
(3)上記実施形態のスート形成工程は、スート220の厚さを10μm以上150μm以下の範囲とすることができる。
【0068】
このような構成によれば、スート220は、スート220の厚さが10μm未満の場合と比較して、スート220の厚さが10μm以上の場合には、荒引線を鋳型から離型させやすい。また、スート220の厚さが150μmを超えた場合と比較して、スート220の厚さが150μm以下の場合には、鋳造した荒引線に引け巣欠陥が発生することを抑制しやすい。特に、スート220の厚さを100μm以下とした場合には、100μmより大きい場合と比較して引け巣欠陥の発生をさらに抑制しやすい。
【0069】
(4)また、形成されるスート220が150μmより厚い場合には、冷却が遅くなる。このため、溶銅110の状態でスートと接触する時間が長くなり、溶銅110中の酸素とスート220中のカーボンが反応し、一酸化炭素ガス(COガス)または二酸化炭素ガス(COガス)が発生する。これらのガスの気泡が表面近傍の欠陥となる。特に、スート220の厚さを100μm以下とした場合には、100μmより大きい場合と比較して上述したガスの気泡に起因する欠陥の発生をさらに抑制しやすい。
【0070】
したがって、上記実施形態の荒引線製造装置1では、一酸化炭素ガス(COガス)または二酸化炭素ガス(COガス)の気泡に起因した表面近傍の欠陥の発生を抑制しやすくなる。
【0071】
(5)上記実施形態のスート形成工程は、溝側面162bにスート220を付着する第1付着工程と、溝底面162aにスート220を付着する第2付着工程と、を有する。
このような構成によれば、第1付着工程により溝側面162bだけにスート220が付着され、第1付着工程とは異なる第2付着工程により溝底面162aだけにスート220が付着される。第1付着工程及び第2付着工程を有することにより、溝側面162bと溝底面162aとの両方に対して同時にスート220を付着する場合と比べて、溝側面162bと溝底面162aとに付着されるスート220の厚さをそれぞれ調整しやすくすることができる。
【0072】
[4.変形例]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0073】
(1)上記実施形態では、スーター22において不完全燃焼を起こすための気体としてアセチレンと空気を用いた。しかし、スーター22において不完全燃焼を起こすための気体としては、アセチレンと酸素などの種々の気体が用いられてもよい。
【0074】
(2)また、上記実施形態ではジェッター24から吹き付けられるジェッター水240は、任意の平面に対してその量や圧力が均等に吹き付けられる。しかしジェッター24から吹き付けられるジェッター水240は、その量や圧力が均等に吹き付けられるものに限定されるものではない。ここで、本実施形態の変形例での、ホイール162の円周方向に直交する断面視における、ジェッター24によるジェッター水240の吹き付けを表した断面模式図を図10に示す。図10に示すように、中央に密で外側に向かって粗となるような分布を有するジェッター24であってもよい。
【0075】
(3)また、このような粗と密を有する分布のジェッター水240を吹き付けるジェッター24が複数配置されてもよい。ここで、図11は、ジェッター24を複数配置した場合におけるジェッター24によるジェッター水240のホイール162の溝部に対する吹き付けを表した図である。図11(A)は、ホイールの回転方向に対して直交する断面視におけるジェッターの配置を表したものであり、図11(B)は、ホイール底面の法線方向に沿って、ホイール底面に向かって見たホイールとジェッターの配置を表した図である。
具体的には図11に示すように、ジェッター水240を吹き付けるジェッター24を3つ備え、3方向にジェッター水240を吹き付けるように構成されてもよい。また、3つのジェッター24のそれぞれは、2つの溝側面162bと1つの溝底面162aとのそれぞれにジェッター水240を吹き付けるように構成されてもよい。このような構成によれば、2つの溝側面162bと1つの溝底面162aとのそれぞれの膜厚をジェッター水240の水圧の強さなどにより、調整することができる。
【0076】
また、3つのジェッター24のそれぞれは、ホイール162の回転方向Rrに沿って、それぞれ上流から順に、一方の溝側面162bのスート220を除去するジェッター24、他方の溝側面162bのスート220を除去するジェッター24、そして溝底面162aのスート220をジェッター24の順に配置されてもよい。このような構成によれば、溝側面162bのジェッター24のジェッター水240が吹き付けられて除去されたスート220が、仮に溝底面162aに流れたとしても溝底面162aのジェッター24によりジェッター水240が吹き付けられることで、溝底面162aに流れた溝側面162bに付着されたスート220が溝底面162aに付着し、付着したスート220が堆積し、層が形成され、形成された層が固まることを抑制しやすくなる。
【0077】
(4)上記実施形態では、荒引線製造装置1の連続鋳造圧延装置の方式は、ベルト&ホイール方式であった。しかし、荒引線製造装置1の連続鋳造圧延装置の方式は、ベルト&ホイール方式に限定されるものではない。例えば、荒引線製造装置1の連続鋳造圧延装置の方式は、双ベルト方式など、種々の方式であってもよい。
【0078】
(5)上記実施形態で用いられる銅の原料としては、タフピッチ銅が用いられてもよい。また、銅の原料としては、無酸素銅、高純度銅などの純銅により構成される電気銅等が用いられてもよい。また、上記実施形態では、荒引線製造装置1が製造する荒引線の原料が銅である例に適用して説明した。しかし、荒引線の原料は銅に限定されるものではなく、種々の金属であってもよい。すなわち、製造される荒引線は銅荒引線130に限定されるものではなく、種々の金属の荒引線であってもよい。すなわち、本実施形態における溶銅110の代わりに金属溶湯が用いられる構成であってもよい。例えば、荒引線の原料として、アルミニウムが用いられてもよい。すなわち、荒引線製造装置1により製造される荒引線は、アルミニウムの荒引線であってもよい。すなわち、金属溶湯として溶銅110の代わりにアルミニウムの溶湯が用いられてもよい。
【0079】
(6)上記実施形態のスート形成工程では、ジェッター24が吹き付けるジェッター水240の水圧の大きさを調整することにより形成されるスート220の厚さを調整することができるとしたが、形成されるスート220の厚さを調整する構成としては、ジェッター24が吹き付けるジェッター水240の水圧の大きさを調整する構成に限定されるものではない。例えば、スーター22の混合気体の流量を調整することにより、スート220の厚さを調整するものであってもよい。具体的には、スーター22の混合気体の流量を多くすることにより、形成されるスート220の厚さを厚くし、スーター22の混合気体の流量を少なくすることにより、形成されるスート220の厚さを薄くしてもよい。
【0080】
(7)上記実施形態のスート形成工程において、さらに、ジェッター24とスーター22との間に膜厚計を備えていてもよい。
膜厚計は、例えば、接触式の膜厚計が用いられてもよい。具体的には、ここで、接触式の膜厚計により測定されるスート220の厚さは、スート220全体の厚さに限定されるものではなく、第1スート220aの厚さであってもよい。例えば、第1スート220aに対して第2スート220bの厚さが厚く、第1スート220aの厚さの方が断熱作用に対して、支配的である場合、第1スート220aを測定することにより断熱作用を推定することができる。また、第1スート220aは、焼き固まっているため、第2スート220bと比較して硬く形成される。このため、接触式の膜厚計を用いた場合であっても第1スート220aはホイール162の表面に対して剥がれにくい。よって、第1スート220aは、接触式の膜厚計を用いてもより正確に測定しやすい。
【0081】
また、膜厚計は例えば、温度を測定することによりスート220の厚さを測定するものであってもよい。例えば、スート220の厚さが厚い場合には、ホイール162の温度が伝わりにくいため、温度が低くなり、スート220の厚さが薄い場合には、ホイール162の温度が伝わりやすいため温度が高くなる。このような性質から温度を測定することにより厚さを測定するものであってもよい。また、膜厚計により測定されたスート220の厚さにより測定された厚さに応じてスーター22及びジェッター24の少なくとも一方を用いてスート220の厚さを所定の厚さの範囲に調整してもよい。
【0082】
さらに、スート220の厚さとして測定される値は、スート220全体の厚さに限定されるものではなく、スート220が第1スート220a及び第2スート220bなどの複数の層により形成される場合、その層の一部の厚さであってもよい。
【0083】
(8)上記実施形態において、側面スーター22bは、例えば、底面スーター22aよりもホイール162の回転方向Rrに沿って下流側に配置されてもよい。しかし、底面スーター22aと側面スーター22bとの位置は、上記実施形態のような位置に限定されるものではない。具体的には、底面スーター22aと側面スーター22bとの位置関係が反対であってもよい。言い換えると、底面スーター22aが、例えば、側面スーター22bよりもホイール162の回転方向Rrに沿って下流側に配置されてもよい。
【0084】
(9)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【符号の説明】
【0085】
1…荒引線製造装置、2…溶解炉、4…上樋、6…保持炉、8…下樋、10…タンディッシュ、12…ポット、14…注湯ノズル、16…鋳造機、18…連続圧延装置、20…コイラー、22…スーター、22a…底面スーター、22b…側面スーター、22c…共通スーター、24…ジェッター、110…溶銅、120…銅鋳造材、130…銅荒引線、162…ホイール、162a…溝底面、162b…溝側面、164…ベルト、220…スート、220a…第1スート、220b…第2スート、240…ジェッター水、250,251,252…火炎流、253…共通火炎流、320…固体層、Ld…溝底面直線、Ls…溝側面直線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11