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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】光電変換素子及び発電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20231226BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20231226BHJP
   H10K 30/86 20230101ALI20231226BHJP
   H10K 85/10 20230101ALI20231226BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/86
H10K85/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020079685
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021174940
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 英典
(72)【発明者】
【氏名】武井 出
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104681731(CN,A)
【文献】特開2019-087675(JP,A)
【文献】特表2014-527281(JP,A)
【文献】特表2012-507151(JP,A)
【文献】特表2011-516695(JP,A)
【文献】特開2015-046583(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0254472(US,A1)
【文献】特開2014-072327(JP,A)
【文献】RYU, Seungchan et al.,Voltage output of efficient perovskite solar cells with high open-circuit voltage and fill factor,Energy & Environmental Science,2014年05月16日,Vol.7,pp.2614-2618
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層と、前記活性層と前記一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、有機半導体化合物を含有する正孔輸送層と、を有する光電変換素子であって、
前記活性層のイオン化ポテンシャルが-6.0eV以上-5.7eV以下であり、かつ、前記活性層のバンドギャップが1.6eV以上2.3eV以下であるとともに、前記正孔輸送層のイオン化ポテンシャルが-5.8eV以上-5.eV以下であり、
前記有機半導体化合物が、ポリトリアリールアミン構造を有する半導体化合物であり、
前記正孔輸送層が、さらにドーパントを含有する、光電変換素子。
【請求項2】
前記ドーパントは、3価のヨウ素を含む有機化合物である、請求項に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記ドーパントは、ジアリールヨードニウム塩である、請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記有機無機ハイブリッド型半導体化合物が、ペロブスカイト構造を有する化合物である、請求項1~3いずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の光電変換素子を有する、発電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子及び発電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子として、一対の電極の間に、活性層、及びバッファ層等が配置されたものが知られている。この光電変換効率の向上を目的として、有機無機ハイブリッド半導体材料を活性層として用いることが検討されており、特に、ペロブスカイト構造を有する化合物が注目されている。
【0003】
また、このような光電変換素子の正孔輸送層としては、有機半導体化合物等が使用されており、特許文献1では、光電変換素子の耐久性を向上させるため、フタロシアニン系の有機半導体化合物を正孔輸送層に適用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-066096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このような有機半導体化合物を正孔輸送層に用いた場合、特に、エネルギーハーベスティング用途で重要な、蛍光灯やLED等による可視光を光源とする、室内のような低照度環境下における発電効率が低下することがあった。
【0006】
本発明は、有機無機ハイブリッド半導体材料を活性層として用いた光電変換素子において、低照度における発電効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定範囲のイオン化ポテンシャル及びバンドギャップを有する活性層とともに、特定範囲のイオン化ポテンシャルを有する正孔輸送層を採用することによって、可視光による低照度環境下においても、優れた発電効率を有する光電変換素子を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、以下に存する。
[1]上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層と、前記活性層と前記一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、有機半導体化合物を含有する正孔輸送層と、を有する光電変換素子であって、
前記活性層のイオン化ポテンシャルが-6.0eV以上-5.7eV以下であり、かつ、前記活性層のバンドギャップが1.6eV以上2.3eV以下であるとともに、前記正孔輸送層のイオン化ポテンシャルが、-5.8eV以上-5.4eV以下である、光電変換素子。
[2]前記有機半導体化合物が、ポリトリアリールアミン構造を有する半導体化合物である、[1]に記載の光電変換素子。
[3]前記正孔輸送層が、さらにドーパントを含有する、[1]又は[2]に記載の光電変換素子。
[4]前記ドーパントは、3価のヨウ素を含む有機化合物である、[3]に記載の光電変換素子。
[5]前記ドーパントは、ジアリールヨードニウム塩である、[3]又は[4]に記載の光電変換素子。
[6]前記有機無機ハイブリッド型半導体化合物が、ペロブスカイト構造を有する化合物である、[1]~[5]のいずれかに記載の光電変換素子。
[7]200ルクスにおける光電変換効率が25%以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の光電変換素子。
[8][1]~[7]のいずれかに記載の光電変換素子を有する、発電デバイス。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、有機無機ハイブリッド半導体材料を用いた光電変換素子において、特に室内光源を用いた低照度環境下の発電効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態としての光電変換素子を模式的に表す断面図である。
図2】一実施形態としての太陽電池を模式的に表す断面図である。
図3】一実施形態としての太陽電池モジュールを模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一形態である光電変換素子は、上部電極と下部電極とにより構成される一対の電極と、前記一対の電極間に位置し、有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層と、前記活性層と前記一対の電極の少なくとも一方との間に位置し、有機半導体化合物を含有する正孔輸送層と、を有する光電変換素子である。そして、前記活性層のイオン化ポテンシャルが-6.0eV以上-5.7eV以下であり、かつ、前記活性層のバンドギャップが1.6eV以上2.3eV以下であるとともに、前記正孔輸送層のイオン化ポテンシャルが-5.8eV以上-5.4eV以下である。このような構成を有する光電変換素子は、低照度環境下における発電効率に優れる。
なお、本明細書において、低照度領域とは、10~5000ルクスを意味し、典型的には200ルクス周辺である。
【0012】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定はされない。
【0013】
[1.一実施形態に係る光電変換素子]
図1は、本発明に係る光電変換素子の一実施形態を模式的に表す断面図である。図1に示される光電変換素子は、一般的な薄膜太陽電池に用いられる光電変換素子であるが、本発明に係る光電変換素子が図1に示されるものに限られるわけではない。
図1に示す光電変換素子100においては、下部電極101、活性層103、及び上部電極105がこの順に配置されている。また、光電変換素子100において、下部電極101と活性層103との間に存在するバッファ層102は、有機半導体化合物を含有する正孔輸送層とすることができる。この場合、有機半導体化合物とともに、ドーパントをさらに含有させることもできる。もっとも、光電変換素子100が上部電極105と活性層103との間にバッファ層104を有していてもよく、この場合、このバッファ層104を上述の正孔輸送層とすることもできる。また、図1に示すように、光電変換素子100が、基材106を有していてもよく、絶縁体層、及び仕事関数チューニング層のようなその他の層を有していてもよい。
【0014】
[2.活性層]
活性層は、有機無機ハイブリッド型半導体材料を含有し、そのイオン化ポテンシャルの範囲が-6.0eV以上-5.7eV以下であり、かつ、そのバンドギャップが1.6e
V以上2.3eV以下である。
【0015】
活性層のイオン化ポテンシャルを-6.0eV以上-5.7eV以下とするとともに、バンドギャップを1.6eV以上2.3eV以下とすることによって、屋内や室内において広範に用いられる可視光光源である蛍光灯やLED灯に対する、発電効率を向上させることができる。
これは、活性層のイオン化ポテンシャルが-6.0eV未満だと、白色光を与える可視光領域の光源に対し、長波長領域の吸収可能域が不足するためである。好ましくは、-5.95eV以上であり、より好ましくは、-5.9eV以上である。
また、活性層のイオン化ポテンシャルが-5.7eVを超えると、可視光領域の光源に対し、得られる電圧のロスが大きくなる。好ましくは、-5.75eV以下であり、より好ましくは、-5.8eV以下である。
さらに、活性層のバンドギャップが1.6eV未満だと、屋内光源を受けることによって半導体中に生成する励起子を正負電荷に分離する際に必要なエネルギーが不足する。好ましくは、1.65eV以上であり、より好ましくは、1.7eV以上であり、さらに好ましくは1.75eV以上である。
また、活性層のバンドギャップが2.3eVを超えると、屋内光源によって生成する励起子に対し過剰なエネルギーとなり、発電効率に劣る。好ましくは、2.25eV以下であり、より好ましくは、2.2eV以下であり、さらに好ましくは、2.15eV以下である。
【0016】
図1の実施形態において、活性層103は光電変換が行われる層である。光電変換素子100が光を受けると、光が活性層103に吸収されてキャリアが発生し、発生したキャリアは下部電極101及び上部電極105から取り出される。
【0017】
本実施形態において、活性層103は有機無機ハイブリッド型半導体材料を含有する。有機無機ハイブリッド型半導体材料とは、有機成分と無機成分とが分子レベル又はナノレベルで組み合わせられた材料であって、半導体特性を示す材料のことを指す。
【0018】
本実施形態において、有機無機ハイブリッド型半導体材料は、ペロブスカイト構造を有する化合物(以下、ペロブスカイト半導体化合物と呼ぶことがある)であることが好ましい。ペロブスカイト半導体化合物とは、ペロブスカイト構造を有する半導体化合物のことを指す。ペロブスカイト半導体化合物としては、特段の制限はないが、例えば、Galasso et al. Structure and Properties of Inorganic Solids, Chapter 7 - Perovskite type and related structuresで挙げられているものから選ぶことができる。例えば、ペロブスカイト半導体化合物としては、一般式AMXで表されるAMX型のもの、又は一般式AMXで表されるAMX型のものが挙げられる。ここで、Mは2価のカチオンを、Aは1価のカチオンを、Xは1価のアニオンを指す。
【0019】
1価のカチオンAに特段の制限はないが、上記Galassoの著書に記載されているものを用いることができる。より具体的な例としては、周期表第1族及び第13族乃至第16族元素を含むカチオンが挙げられる。これらの中でも、セシウムイオン、ルビジウムイオン、カリウムイオン、置換基を有していてもよいアンモニウムイオン又は置換基を有していてもよいホスホニウムイオンが好ましい。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの例としては、1級アンモニウムイオン又は2級アンモニウムイオンが挙げられる。置換基にも特段の制限はない。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの具体例としては、アルキルアンモニウムイオン又はアリールアンモニウムイオンが挙げられる。特に、立体障害を避けるために、3次元の結晶構造となるモノアルキルアンモニウムイオ
ンが好ましく、安定性向上の観点からは、一つ以上のフッ素基を置換したアルキルアンモニウムイオンを用いることが好ましい。また、カチオンAとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。
【0020】
1価のカチオンAの具体例としては、メチルアンモニウムイオン、モノフッ化メチルアンモニウムイオン、ジフッ化メチルアンモニウムイオン、トリフッ化メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、イソプロピルアンモニウムイオン、n-プロピルアンモニウムイオン、イソブチルアンモニウムイオン、n-ブチルアンモニウムイオン、t-ブチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、フェニルアンモニウムイオン、ベンジルアンモニウムイオン、フェネチルアンモニウムイオン、グアニジウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、アセトアミジニウムイオン又はイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0021】
2価のカチオンMにも特段の制限はないが、2価の金属カチオン又は半金属カチオンであることが好ましい。具体的な例としては周期表第14族元素のカチオンが挙げられ、より具体的な例としては、鉛カチオン(Pb2+)、スズカチオン(Sn2+)、ゲルマニウムカチオン(Ge2+)が挙げられる。また、カチオンMとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。なお、安定な光電変換素子を得る観点からは、鉛カチオン又は鉛カチオンを含む2種以上のカチオンを用いることが特に好ましい。
【0022】
1価のアニオンXの例としては、ハロゲン化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン、アセチルアセトナートイオン、炭酸イオン、クエン酸イオン、硫黄イオン、テルルイオン、チオシアン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン、2,4-ペンタンジオナトイオン又はケイフッ素イオン等が挙げられる。バンドギャップを調整するためには、Xは1種類のアニオンであってもよいし、2種類以上のアニオンの組み合わせであってもよい。一実施形態において、Xとしてはハロゲン化物イオン、又はハロゲン化物イオンとその他のアニオンとの組み合わせが挙げられる。ハロゲン化物イオンXの例としては、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオン等が挙げられる。半導体のバンドギャップを広げすぎない観点から、ヨウ化物イオンもしくは臭化物イオンを主に用いることが好ましいが、ヨウ化物イオンと臭化物イオンとを適当な比率で組み合わせてもよい。
【0023】
ペロブスカイト半導体化合物の好ましい例としては、有機-無機ペロブスカイト半導体化合物が挙げられ、特にハライド系有機-無機ペロブスカイト半導体化合物が挙げられる。ペロブスカイト半導体化合物の具体例としては、CHNHPbI、CHNHPbBr、CHNHPbCl、CHNHSnI、CHNHSnBr、CHNHSnCl、CHNHPbI(3-x)Cl、CHNHPbI(3-x)Br、CHNHPbBr(3-x)Cl、CHNHPb(1-y)Sn、CHNHPb(1-y)SnBr、CHNHPb(1-y)SnCl、CHNHPb(1-y)Sn(3-x)Cl、CHNHPb(1-y)Sn(3-x)Br、及びCHNHPb(1-y)SnBr(3-x)Cl、並びに、上記の化合物においてCHNHの代わりにCFHNH、CFHNH、又はCFNHを用いたもの、等が挙げられる。なお、xは0以上3以下、yは0以上1以下の任意の値を示す。
【0024】
活性層103は、2種類以上のペロブスカイト半導体化合物を含有していてもよい。例えば、A、B及びXのうちの少なくとも1つが異なる2種類以上のペロブスカイト半導体化合物が活性層103に含まれていてもよい。また活性層103は、異なる材料を含み又は異なる成分を有する複数の層で形成される積層構造を有していてもよい。
【0025】
活性層103に含まれるペロブスカイト半導体化合物の量は、良好な半導体特性が得られるように、好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。上限に特に制限はない。また、活性層103には、ペロブスカイト半導体化合物に加えて添加剤が含まれていてもよい。添加剤の例としては、ハロゲン化物、酸化物、又は硫化物、硫酸塩、硝酸塩若しくはアンモニウム塩等の無機塩のような、無機化合物、又は有機化合物が挙げられる。
【0026】
活性層103の厚さに特段の制限はない。より多くの光を吸収できる点で、活性層103の厚さは、一実施形態において10nm以上、別の実施形態において50nm以上、さらに別の実施形態において100nm以上、さらに別の実施形態において120nm以上である。一方で、直列抵抗が下がる点、又は電荷の取出し効率を高める点で、活性層103の厚さは、一実施形態において1500nm以下、別の実施形態において1200nm以下、さらに別の実施形態において800nm以下である。
【0027】
活性層103の形成方法は特に限定されず、任意の方法を用いることができる。具体例としては、塗布法及び蒸着法(又は共蒸着法)が挙げられる。簡易に活性層103を形成できる点で、塗布法を用いることができる。例えば、ペロブスカイト半導体化合物又はその前駆体を含有する塗布液を塗布し、必要に応じて加熱乾燥することにより活性層103を形成する方法が挙げられる。また、このような塗布液を塗布した後で、ペロブスカイト半導体化合物の溶解性が低い溶媒をさらに塗布することにより、ペロブスカイト半導体化合物を析出させることもできる。
【0028】
ペロブスカイト半導体化合物の前駆体とは、塗布液を塗布した後にペロブスカイト半導体化合物へと変換可能な材料のことを指す。具体的な例として、加熱することによりペロブスカイト半導体化合物へと変換可能なペロブスカイト半導体化合物前駆体を用いることができる。例えば、一般式AXで表される化合物と、一般式MXで表される化合物と、溶媒と、を混合して加熱攪拌することにより、塗布液を作製することができる。この塗布液を塗布して加熱乾燥を行うことにより、一般式AMXで表されるペロブスカイト半導体化合物を含有する活性層103を作製することができる。溶媒としては、ペロブスカイト半導体化合物及び添加剤が溶解するのであれば特に限定されず、例えばN,N-ジメチルホルムアミドのような有機溶媒が挙げられる。
【0029】
塗布液の塗布方法としては任意の方法を用いることができるが、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。
【0030】
活性層のイオン化ポテンシャルを上記所望の範囲とするための方法としては、例えば、前記のペロブスカイト半導体化合物におけるカチオン成分を適宜変更することがあげられる。
また、活性層のバンドギャップを上記所望の範囲とするための方法としては、例えば、前記ペロブスカイト半導体化合物におけるハロゲン元素の構成比率を適宜変更することがあげられる。
【0031】
[3.電極]
電極は、活性層103における光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。本発明の一実施形態に係る光電変換素子100は一対の電極を有し、一対の電極のうち一方を上部電極と呼び、他方を下部電極と呼ぶ。光電変換素子100が基材を有するか又は基材上に設けられている場合、基材により近い電極を下部電極と、基材からより遠い
電極を上部電極と、それぞれ呼ぶことができる。また、透明電極を下部電極と、下部電極よりも透明性が低い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶこともできる。図1に示す光電変換素子100は、下部電極101及び上部電極105を有している。
【0032】
一対の電極としては、正孔の捕集に適したアノードと、電子の捕集に適したカソードとを用いることができる。この場合、光電変換素子100は、下部電極101がアノードであり上部電極105がカソードである順型構成を有していてもよいし、下部電極101がカソードであり上部電極105がアノードである逆型構成を有していてもよい。
【0033】
一対の電極は、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であっても構わない。透光性があるとは、太陽光が40%以上透過することを指す。また、透明電極の太陽光線透過率は70%以上であることが、より多くの光が透明電極を透過して活性層103に到達するために好ましい。光の透過率は、分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U-4100)で測定できる。
【0034】
下部電極101及び上部電極105、又はアノード及びカソードの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の部材及びその製造方法を使用することができる。
【0035】
[4.バッファ層]
バッファ層は、活性層103と一対の電極101、105の少なくとも一方との間に位置する層である。バッファ層は、例えば、活性層103から下部電極101又は上部電極105へのキャリア移動効率を向上させるために用いることができる。
【0036】
(正孔輸送層)
本発明においては、バッファ層として、有機半導体化合物を含有する正孔輸送層を少なくとも有し、この正孔輸送層のイオン化ポテンシャルは、-5.8eV以上-5.4eV以下である。
これは、正孔輸送層のイオン化ポテンシャルが-5.8eV未満だと、活性層において生成する正孔に対してミスマッチとなり、エネルギー損失につながるためである。好ましくは、-5.75eV以上であり、より好ましくは、-5.70eV以上である。
また、正孔輸送層のイオン化ポテンシャルが-5.4eVを超えると、活性層において生成する正孔に対してミスマッチとなり、電圧損失につながる。好ましくは、-5.45eV以下であり、より好ましくは、-5.5eV以下である。
【0037】
また、この正孔輸送層には、有機半導体化合物とともに、そのドーパントを含有させることで、その導電性や正孔輸送能力等の特性をコントロールすることもできる。
この場合、ドーパントの含有量は、前記有機半導体化合物と前記ドーパントの合計量に対して、例えば0.001~5質量%の範囲とすることができる。
ドーパントの含有量を0.001質量%以上とすることによって、バッファ層の導電性や正孔輸送能力を前記活性層に対してより向上できる傾向にある。より好ましくは、0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.05質量%以上であり、特に好ましくは0.1質量%以上である。
また、ドーパントの含有量を5質量%以下とすることによって、光電変換素子のリーク電流の発生を抑制し、特に低照度領域における発電効率をより向上できる傾向にある。より好ましくは、4.5質量%以下であり、さらに好ましくは、4質量%以下である。
正孔輸送層のイオン化ポテンシャルを上記所望の範囲とするための方法としては、例えば、正孔輸送層を構成する有機半導体化合物に電子吸引性官能基を導入することや、この有機半導体化合物の共役部位成分を拡張することで電子を非局在化させ安定性を向上させ
ることがあげられる。
【0038】
(有機半導体化合物)
半導体化合物とは、半導体特性を示す半導体材料として使用可能な化合物のことを指す。なお、本明細書において「半導体」とは、固体状態におけるキャリア移動度の大きさによって定義される。キャリア移動度とは、周知であるように、電荷(電子又は正孔)がどれだけ速く(又は多く)移動されうるかを示す指標となるものである。具体的には、本明細書における「半導体」は、室温におけるキャリア移動度が好ましくは1.0×10-6cm/V・s以上、より好ましくは1.0×10-5cm/V・s以上、さらに好ましくは5.0×10-5cm/V・s以上、特に好ましくは1.0×10-4cm/V・s以上である。なお、キャリア移動度は、例えば電界効果トランジスタのIV特性の測定、又はタイムオブフライト法等により測定できる。
【0039】
本発明においては半導体化合物として有機半導体化合物が用いられるが、その種類は特に限定されず、例えば従来知られているものを用いることができる。有機半導体化合物としては、低分子化合物及び高分子化合物が知られている。低分子の有機半導体化合物としては、多環芳香族化合物が挙げられ、具体例としてはテトラセン若しくはペンタセン等のアセン類化合物、オリゴチオフェン類化合物、フタロシアニン類化合物、ペリレン類化合物、ルブレン類化合物、又はトリアリールアミン化合物等のアリールアミン化合物、等が挙げられる。また、高分子の有機半導体化合物としては、ポリチオフェン系ポリマー、ポリアセチレン系ポリマー、ポリアニリン系ポリマー、ポリフェニレン系ポリマー、ポリフェニレンビニレン系ポリマー、ポリフルオレン系ポリマー、若しくはポリピロール系ポリマーのような共役ポリマー、又はトリアリールアミンポリマーのようなアリールアミンポリマーが挙げられる。
【0040】
有機半導体化合物として好ましくはアリールアミン系化合物であり、より好ましくはトリアリールアミン系化合物である。アリールアミン系化合物とは、アリールアミン構造(アリール基と窒素原子との結合)を有する化合物のことであり、アリールアミン系ポリマーを含む。アリールアミン系ポリマーとは、繰り返し単位がアリールアミン構造を含んでいるポリマーのことであり、ポリアリールアミン系化合物ともいう。また、トリアリールアミン系化合物とは、トリアリールアミン構造(3つのアリール基の同じ窒素原子への結合)を有する化合物のことであり、トリアリールアミン系ポリマーを含む。トリアリールアミンポリマーとは、繰り返し単位がトリアリールアミン構造を含んでいるポリマーのことであり、ポリトリアリールアミン系化合物ともいう。このようなアリールアミン系化合物又はトリアリールアミン系化合物は、ドーパントにより安定に酸化され、良好な半導体特性を示しうる点で好ましく、中でもトリアリールアミン系化合物がより好ましい。
【0041】
ここで、アリール基(又は芳香族基)は、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基のことを指し、単環のもの、縮合環のもの、及び単環又は縮合環が連結しているもの、を含む。芳香族基としては、特に限定されないが、炭素数30以下であることが好ましく、炭素数12以下であることがより好ましい。芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基、又はビフェニル基等が挙げられる。芳香族複素環基の具体例としては、チエニル基、フリル基、ピロリル基、ピリジル基、又はイミダゾリル基等が挙げられる。
【0042】
芳香族基は、さらなる置換基を有していてもよい。芳香族基が有していてもよい置換基としては、特に制限されないが、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、チオ基、セレノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基等が挙げられる。アリール基が有している置換基として好ましくは、アミノ基又は炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。ここ
で、アミノ基として好ましくは、炭素数2~12のジアルキルアミノ基、炭素数7~20のアルキルアリールアミノ基、又は炭素数12~30のジアリールアミノ基である。
【0043】
本発明に用いられる有機半導体化合物としては、上述の通りトリアリールアミン系化合物が好適であるが、高い電気化学的安定性、及び、高い正孔輸送能を有し、湿式成膜法に適した化合物である点から、特に、下記式(I)で表される繰り返し単位を有するポリトリアリールアミン系化合物であることがさらに好ましい。
【0044】
【化1】

【0045】
式(I)中、R及びRは、各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、置換基を有していてもよい芳香族複素環基又は置換基を有していてもよいアルキル基を表し、R及びRは互いに結合して環を形成してもよく、
nは0~3の整数を表し、
Ar及びArは、各々独立に、直接結合、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表し、
Ar~Arは、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。
【0046】
上記式(I)の主鎖にあるフルオレン環は、この部分にHOMO(highest occupied molecular orbital) 及びLUMO(lowest
unoccupied molecular orbital)が広がることにより、電荷輸送に強く関与する。
【0047】
Ar~Arにおける、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環又は2~5縮合環由来の基を挙げることができる。
【0048】
また、Ar~Arにおける、置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5又は6員環の単環又は2~4縮合環由来の基を挙げることができる。
【0049】
有機溶剤に対する溶解性、及び耐熱性の点から、Ar~Arは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基が好ましい。
また、Ar~Arとしては、前記群から選ばれる1種又は2種以上の環を直接結合、又は-CH=CH-基により連結した2価の基も好ましく、ビフェニレン基及びターフェニレン基、がさらに好ましい。
Ar~Arにおける芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、特に制限はないが、例えば、下記[置換基群Z]から選ばれる1種又は2種以上を挙ることができる。
【0050】
[置換基群Z]
メチル基、エチル基等の好ましくは炭素数1~24、更に好ましくは炭素数1~12のアルキル基;ビニル基等の好ましくは炭素数2~24、更に好ましくは炭素数2~12のアルケニル基;
エチニル基等の好ましくは炭素数2~24、更に好ましくは炭素数2~12のアルキニル基;
メトキシ基、エトキシ基等の好ましくは炭素数1~24、更に好ましくは炭素数1~12のアルコキシ基;
フェノキシ基、ナフトキシ基、ピリジルオキシ基等の好ましくは炭素数4~36、更に好ましくは炭素数5~24のアリールオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の好ましくは炭素数2~24、更に好ましくは炭素数2~12のアルコキシカルボニル基;
ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の好ましくは炭素数2~24、更に好ましくは炭素数2~12のジアルキルアミノ基;
ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、N - カルバゾリル基等の好ましくは炭素数10~36、更に好ましくは炭素数12~24のジアリールアミノ基;
フェニルメチルアミノ基等の好ましくは炭素数6~36、更に好ましくは炭素数7~24のアリールアルキルアミノ基;
【0051】
アセチル基、ベンゾイル基等の好ましくは炭素数2~24 、好ましくは炭素数2~1
2のアシル基;
フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;
トリフルオロメチル基等の好ましくは炭素数1~2、更に好ましくは炭素数1~6のハロアルキル基;
メチルチオ基、エチルチオ基等の好ましくは炭素数1~24、更に好ましくは炭素数1~12のアルキルチオ基;
フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基等の好ましくは炭素数4~36、更に好ましくは炭素数5~24のアリールチオ基;
トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基等の好ましくは炭素数2~36、更に好ましくは炭素数3~24のシリル基;
トリメチルシロキシ基、トリフェニルシロキシ基等の好ましくは炭素数2~36、更に好ましくは炭素数3~24のシロキシ基;
シアノ基;
フェニル基、ナフチル基等の好ましくは炭素数6~36、更に好ましくは炭素数6~24の芳香族炭化水素基;
チエニル基、ピリジル基等の好ましくは炭素数3~36、更に好ましくは炭素数4~24の芳香族複素環基;
上記各置換基は、さらに置換基を有していてもよく、その例としては前記置換基群Zに例示した基を挙げることができる。
【0052】
Ar~Arにおける芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有してもよい置換基の分子量としては、さらに置換した基を含めて500以下が好ましく、250以下がさらに好ましい。
有機溶媒に対する溶解性が向上する点で、Ar~Arにおける芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、各々独立に、炭素数1~12のアルキル基及び炭素数1~12のアルコキシ基が好ましい。
【0053】
なお、nが2以上である場合、前記式(I)で表される繰り返し単位は、2個以上のAr及びArを有することになる。その場合、Ar及びAr同士は、各々、同じでもよく、異なっていてもよい。さらに、Ar同士、Ar同士は、各々互いに直接又は連結基を介して結合して環状構造を形成していてもよい。
【0054】
上述のポリトリアリールアミン系化合物の合成方法は特に限定されないが、例えば、特開2009-263665号公報に記載されているような方法で合成することができ、トリアリールアミンモノマーの酸化重合や遷移金属触媒を用いたカップリング反応により合成できる。
このポリトリアリールアミン系化合物の数平均分子量は、反応温度、反応時間、触媒などで調整することができるが、8,500以上とするのが好ましい。
【0055】
このポリトリアリールアミン系化合物の数平均分子量を8,500以上とすることで、光電変換素子の耐久性(光電変換効率の維持率)を向上させることができる傾向にある。より好ましくは9,000以上であり、さらに好ましくは10,000以上であり、特に好ましくは15,000以上であり、最も好ましくは20,000以上である。
一方、この数平均分子量の上限は特に限定されるものでないが、例えば500,000以下とするのが、ポリトリアリールアミン系化合物のコスト面、および溶媒への溶解性を担保する点で好ましい。より好ましくは300,000以下であり、さらに好ましくいは200,000以下である。
【0056】
さらに、ポリトリアリールアミン系化合物の重量平均分子量は、15,000以上とするのが好ましく、20,000以上とするのがより好ましく、30,000以上とするのがさらに好ましいく、35,000以上とするのが特に好ましく、40,000以上とするのが最も好ましい。この下限とすることで光電変換素子の耐久性が向上する傾向にある。一方、重量平均分子量の上限は、特に限定されるものでないが、500,000以下とするのが好ましく、300,000以下とするのがより好ましく、200,000以下とするのが特に好ましい。この上限とすることでコスト低減が図れ、かつ溶剤への溶解度を担保できる傾向にある。ポリトリアリールアミン系化合物が、上記数平均分子量と重量平均分子量の範囲を同時に満足すると、光電変換効率の維持率がさらに向上することがある。
【0057】
(ドーパント)
ドーパントとは上述の有機半導体化合物への添加物であり、本発明における正孔輸送層の導電性や正孔輸送能力を前記活性層に対して最適化するための物質である。
ドーパントとして使用できる物質としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートなどのホウ素化合物、トリス[1-(メトキシカルボニル)-2-(トリフルオロ
メチル)-エタン-1,2-ジチオレン]モリブデンなどのモリブデン化合物、2,3,4,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタンといったテトラシアノキノジメタン骨格を有する有機化合物などが挙げられる。ドーパントは、正孔輸送層の成膜前または成膜後で、少なくとも一つの有機半導体化合物との間で電荷移動反応を起こすことが好ましい。ドーパントとしては、溶解性に優れ、加熱等により酸化剤として機
能する電子受容活性部位を産生する点で、超原子価ヨウ素化合物が好ましい。
【0058】
この超原子価ヨウ素化合物は、有機半導体化合物に対するドーパントとして働き、電子受容性(すなわち酸化剤としての働き)を示すことが知られている。また、電子受容性のドーパントは、半導体化合物から電子を奪うことにより、半導体化合物の導電性又は正孔輸送能力を向上させることができる。このように、超原子価ヨウ素化合物は、半導体化合物の電荷輸送特性を向上させることができる。
【0059】
超原子価ヨウ素化合物とは、超原子価ヨウ素を含む化合物であり、酸化数が+3以上となっているヨウ素を含む化合物と定義される。例えば、ドーパントは、ヨウ素(III)化合物又はヨウ素(V)化合物でありうる。5価のヨウ素を含むヨウ素(V)化合物は、例えば、デス・マーチン・ペルヨージナンのようなペルヨージナン化合物でありうる。また、3価のヨウ素を含むヨウ素(III)化合物としては、(ジアセトキシヨード)ベンゼンのようなヨードベンゼンが酸化された構造を有する化合物、又はジアリールヨードニウム塩が挙げられる。良好な電子受容性を示し、また酸化過程において分子が破壊されると逆反応が起こりにくい点で、ドーパントは、3価のヨウ素を含む有機化合物が好ましく、中でもジアリールヨードニウム塩を用いるのがより好ましい。
【0060】
ジアリールヨードニウム塩とは、[Ar-I-Ar]X構造を有する塩のことである。ここで、2つのArはそれぞれアリール基を表す。アリール基(芳香族基)は特に限定されず、例えば有機半導体化合物に関して既に挙げたものでありうる。Xは、任意のアニオンを表す。Xとしては、例えば、ハロゲン化物イオン、トリフルオロ酢酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、又はテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸イオン等でありうる。溶解性が高く、塗布液の生成反応が円滑に進行しうる点で、X-はフッ素原子を有するアニオンであることが好ましい。
【0061】
ドーパントの好ましい例としては、一般式(II)に表されるものが挙げられる。式(II)において、Xは、任意のアニオンを表し、具体例としては上記の通りである。
[R11-I-R12]X (II)
【0062】
式(II)において、R11及びR12は、それぞれ独立に1価の有機基である。1価の有機基の例としては、脂肪族基又は芳香族基が挙げられる。脂肪族基の例としては、炭素数1~20の脂肪族炭化水素基又は炭素数4~20の脂肪族複素環基が挙げられる。例えば、脂肪族基としては、シクロアルキル基を含むアルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基等が挙げられ、具体例としてはメチル基、エチル基、ブチル基、シクロヘキシル基、又はテトラヒドロフリル基等が挙げられる。
【0063】
芳香族基の例としては、炭素数6~20の芳香族炭化水素基又は炭素数2~20の芳香族複素環基が挙げられる。例えば、芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、チエニル基、又はピリジル基等が挙げられる。
【0064】
なお、上記の脂肪族基及び芳香族基は、置換基を有していてもよい。有していてもよい置換基としては、特段の制限はないが、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アルキルカルボニル基、アセチル基、スルホニル基、シリル基、ボリル基、ニトリル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、チオ基、セレノ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基等が挙げられる。
【0065】
11及びR12は、好ましくは炭素数6~20の芳香族炭化水素基であり、より好ましくはフェニル基である。ここで、芳香族炭化水素基は置換基を有さない又は炭素数1~6のアルキル基を有することが好ましい。R11及びR12は、特に、パラ位にアルキル
基を有するフェニル基であることが好ましい。
【0066】
上述のように、光電変換素子100は、下部電極101と活性層103との間にバッファ層102を有することができ、又は、上部電極105と活性層103との間にバッファ層104を有することができる。また、光電変換素子100は、バッファ層102とバッファ層104との双方を有することもできる。ここで、下部電極101と活性層103との間に設けられるバッファ層102と、上部電極105と活性層103との間に設けられるバッファ層104とは、異なる材料で構成されていてもよい。すなわち、一方のバッファ層が有機半導体化合物を含有する正孔輸送層である一方、他方のバッファ層はこれと異なる物質で構成される電子輸送層等であってもよい。なお、上述の通り、有機半導体化合物を含有する正孔輸送層は、下部電極101と活性層103との間に位置していてもよいし、活性層103と上部電極105との間に位置していてもよい。但し、有機半導体化合物を含有する正孔輸送層を塗布法により成膜する際には、塗布溶媒が活性層103を浸漬して、活性層103に影響を及ぼす可能性があるため、正孔輸送層は、下部電極101と、活性層103との間に位置していることが好ましい。
【0067】
アノードと活性層との間に設けられたバッファ層は正孔輸送層と呼ばれることがあり、カソードと活性層との間に設けられたバッファ層は電子輸送層と呼ばれることがある。本発明においては、n-i-p積層型光電変換素子において輸送電荷量の制御が容易となる傾向にあることから、有機半導体化合物を含有するバッファ層は正孔輸送層として使用される。
【0068】
なお、本発明においては、上記の有機半導体化合物やそのドーパントを含むバッファ層を正孔輸送層として好適に使用することができるが、バッファ層に関しては、材料に特に限定はない。例えば、正孔輸送層については、活性層からアノードへの正孔の取り出し効率を向上させることが可能な任意の材料を用いることができる。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、有機化合物、又は本発明に係る有機無機ペロブスカイト化合物が挙げられる。例えば、無機化合物としては、酸化銅、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化鉄、酸化モリブデン、酸化バナジウム又は酸化タングステン等の金属酸化物が挙げられる。また、有機化合物としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミン又はポリアニリン等にドーパントがドーピングされた導電性ポリマー、スルホニル基を置換基に有するポリチオフェン誘導体、アリールアミン等の導電性有機化合物、ナフィオン、又はリチウムドーピングされたspiro-OMeTADが挙げられる。
【0069】
同様に、電子輸送層についても、活性層からカソードへの電子の取り出し効率を向上させることが可能な任意の材料を用いることができる。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、有機化合物、又は本発明に係る有機無機ペロブスカイト化合物が挙げられる。例えば、無機化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウム等のアルカリ金属の塩、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム又は酸化インジウム等の金属酸化物が挙げられる。有機化合物としては、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントレン(Bphen)、(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、フラーレン化合物、又はホスフィンオキシド化合物若しくはホスフィンスルフィド化合物等の周期表第16族元素と二重結合を有するホスフィン化合物が挙げられる。
【0070】
バッファ層の膜厚は、本発明における正孔輸送層を含めて特に限定はないが、一実施形態において0.5nm以上、別の実施形態において1nm以上、さらに別の実施形態において5nm以上である、一方、一実施形態において1μm以下、別の実施形態において500nm以下、さらに別の実施形態において200nm以下、さらに別の実施形態において150nm以下である。バッファ層の膜厚が上記の範囲内にあることで、キャリアの移動効率が向上しやすくなり、光電変換効率が向上しうる。
【0071】
また、本発明における正孔輸送層を含めて、バッファ層の形成方法に制限はなく、材料の特性に合わせて形成方法を選択することができる。例えば、上述の有機半導体化合物、ドーパント、及び溶媒を含有する塗布液を作製し、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法を用いることにより、バッファ層を形成することができる。また、真空蒸着法等の乾式成膜法により、バッファ層を形成することもできる。
【0072】
[5.基材]
光電変換素子100は、通常は支持体となる基材106を有する。もっとも、本発明に係る光電変換素子は基材106を有さなくてもよい。基材106の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されず、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の材料を使用することができる。
【0073】
[6.光電変換素子の作製方法]
上述の方法に従って、光電変換素子100を構成する各層を形成することにより、光電変換素子100を作製することができる。光電変換素子100を構成する各層の形成方法に特段の制限はなく、シートツゥーシート(万葉)方式、又はロールツゥーロール方式で形成することができる。
【0074】
なお、ロールツゥーロール方式とは、ロール状に巻かれたフレキシブルな基材を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら、巻き取りロールにより巻き取られるまでの間に加工を行う方式である。ロールツゥーロール方式によれば、kmオーダの長尺基板を一括処理することが可能であるため、ロールツゥーロール方式はシートツゥーシート方式に比べて量産化に適している。一方、ロールツゥーロール方式で各層を成膜しようとすると、その構造上、成膜面とロールとが接触することにより膜に傷がついたり、部分的に剥がれてしまったりする場合がある。
【0075】
ロールツゥーロール方式に用いることのできるロールの大きさは、ロールツゥーロール方式の製造装置で扱える限り特に限定されないが、外径の上限は、好ましくは5m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは1m以下である。一方、下限は好ましくは10cm以上、さらに好ましくは20cm以上、より好ましくは30cm以上である。ロール芯の外径の上限は、好ましくは4m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは0.5m以下である。一方、下限は好ましくは1cm以上、さらに好ましくは3cm以上、より好ましくは5cm以上、さらに好ましくは10cm以上、特に好ましくは20cm以上である。これらの径が上記上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、下限以上であることは各工程で成膜される層が曲げ応力により破壊される可能性が低くなる点で好ましい。ロールの幅の下限は、好ましくは5cm以上、さらに好ましくは10cm以上、より好ましくは20cm以上である。一方、上限は、好ましくは5m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは2m以下である。幅が上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、下限以上であることは光電変換素子100の大きさの自由度が高くなるため好ましい。
【0076】
また、上部電極105を積層した後に、光電変換素子100を一実施形態において50
℃以上、別の実施形態において80℃以上、一方、一実施形態において300℃以下、別の実施形態において280℃以下、さらに別の実施形態において250℃以下の温度範囲において、加熱することができる(この工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。アニーリング処理工程を50℃以上の温度で行うことは、光電変換素子100の各層間の密着性、例えばバッファ層102と下部電極101、バッファ層102と活性層103等の層間の密着性が向上する効果が得られる。各層間の密着性が向上することにより、光電変換素子の熱安定性や耐久性等が向上しうる。アニーリング処理工程の温度を300℃以下にすることは、光電変換素子100に含まれる有機化合物が熱分解する可能性が低くなる。アニーリング処理工程においては、上記の温度範囲内において異なる温度を用いた段階的な加熱を行ってもよい。
【0077】
加熱時間としては、熱分解を抑えながら密着性を向上させるために、一実施形態において1分以上、別の実施形態において3分以上、一方、一実施形態において180分以下、別の実施形態において60分以下である。アニーリング処理工程は、太陽電池性能のパラメータである開放電圧、短絡電流及びフィルファクターが一定の値になったところで終了させることができる。また、アニーリング処理工程は、構成材料の熱酸化を防ぐ上でも、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で実施することができる。加熱方法としては、ホットプレート等の熱源に光電変換素子を載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に光電変換素子を入れてもよい。また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
【0078】
[7.光電変換特性]
光電変換素子100の光電変換特性は次のようにして求めることができる。光電変換素子100に適当なスペクトルの光をある照射強度で照射して、電流-電圧特性を測定する。得られた電流-電圧曲線から、光電変換効率(PCE)、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、直列抵抗、シャント抵抗といった光電変換特性を求めることができる。一例として、光電変換素子100に色温度5000Kの白色LED光を適当な照射強度(照度)で照射することで、各照度における電流-電圧特性を測定することができる。
【0079】
本発明の光電変換素子は低照度領域(10~5000ルクス)における発電効率に優れ、特に白色LED光等の光源を用いた場合において、光電変換効率を20%以上とすることができる。また、200ルクスにおける光電変換効率を25%以上とすることができる。この効率の上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。
なお、この光電変換効率(PCE)は、所定の照射光により測定される、光電変換素子の電流-電圧曲線の最適動作点における出力(最大出力)をこの照射光が有する総エネルギー量(例えば、強度AM1.5Gの太陽光であれば100mW/cm)で除した値(%)である。
【0080】
[8.発電デバイス]
一実施形態において、本発明に係る光電変換素子100は、発電デバイス、中でも室内用太陽電池として好適に使用される。図2は本発明の一実施形態に係る太陽電池の構成を模式的に表す断面図であり、図2には本発明の一実施形態に係る太陽電池である太陽電池が示されている。図2に表すように、本実施形態に係る薄膜太陽電池14は、耐候性保護フィルム1と、紫外線カットフィルム2と、ガスバリアフィルム3と、ゲッター材フィルム4と、封止材5と、太陽電池素子6と、封止材7と、ゲッター材フィルム8と、ガスバリアフィルム9と、バックシート10と、をこの順に備える。本実施形態に係る薄膜太陽電池14は、太陽電池素子6として、本発明に係る光電変換素子を有している。そして、保護フィルム1が形成された側(図2中下方)から光が照射されて、太陽電池素子6が発電するようになっている。なお、薄膜太陽電池14は、これらの構成部材を全て有する必要はなく、必要な構成部材を任意に選択することができる。
【0081】
光電変換素子を構成するこれらの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の技術を使用することができる。
【0082】
本実施形態に係る太陽電池、特に上述した薄膜太陽電池14の用途に制限はなく、任意の用途に用いることができる。例えば、一実施形態に係る太陽電池は、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、インテリア用太陽電池、鉄道用太陽電池、船舶用太陽電池、飛行機用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池又は玩具用太陽電池として用いることができる。上記説明したとおり、低照度環境下で優れた変更効率を有することから、特にエネルギーハーベスティング用途に、好適に適用できる。
【0083】
本実施形態に係る太陽電池、特には上述した薄膜太陽電池14はそのまま用いてもよいし、太陽電池モジュールの構成要素として用いられてもよい。例えば、図3に示すように、本実施形態に係る太陽電池、特には上述した太陽電池14を基材12上に備える太陽電池モジュール13を作製し、この太陽電池モジュール13を使用場所に設置して用いることができる。
【実施例
【0084】
以下に、実施例により本発明の実施形態を説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施例には限定されない。
【0085】
[イオン化ポテンシャルの測定]
薄膜ITOが形成されたガラス基板上に、評価対象となる半導体化合物を成膜し、これに光をあてることによって生成する光電子の数を酸素が必要なオープンカウンターで計測した。このオープンカウンターでは、大気下で光電子を酸素分子に捕捉させることで、イオン化された酸素分子が計測される。照射する光のエネルギーを上げていくと光電子の放出が始まる閾値が観測されるが、この閾値、すなわち照射エネルギーが光電子をはじき出すのに必要な最低エネルギー(eV)が、イオン化ポテンシャル(eV)に相当する値となる。このような光電子係数方式によるイオン化ポテンシャル測定を、理研計器(株)のAC-2、AC-3等のシリーズで行った。
【0086】
[バンドギャップの算出]
半導体化合物のバンドギャップは、その化合物の吸収端波長と吸光度とから算出した。透明ガラス基板等の適当な試料上に半導体化合物薄膜を成膜し、その透過スペクトルを測定し、横軸波長をeVに、縦軸透過率を√(ahν)に変換し、この吸収の立ち上がりを直線としてフィッティングし、ベースラインと交わるeV値をバンドギャップとして算出した。この透過スペクトルは、例えば、日立ハイテク製U-4100等の分光光度計を使用して測定した。
【0087】
[光電変換素子の光電変換効率の測定]
照度計を用いて照射強度を200ルクスに調整した、色温度5000Kの白色LED光を光電変換素子に照射した。この環境下で、ソースメータを用いて電流-電圧曲線(I-V曲線)を測定し、その最大出力値を求めた。この値を上記の照射光が有する総エネルギー量で除して、光電変換素子の光電変換効率(%)を得た。
【0088】
[実施例1]
(電子輸送層用塗布液の調製)
酸化スズ(IV)15質量%水分散液(Alfa Aesar社製)に超純水を加える
ことにより、7.5質量%の酸化スズ水分散液を調製した。
【0089】
(活性層用塗布液の調製)
ヨウ化鉛(II)をバイアル瓶に量りとりグローブボックスに導入した。ヨウ化鉛(II)の濃度が1.3mol/Lとなるように溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドを加え、その後、100℃で1時間加熱撹拌することで活性層用塗布液1を調製した。
【0090】
次に、別のバイアル瓶にホルムアミジン臭化水素酸塩(FABr)、メチルアミン臭化水素酸塩(MABr)、及びメチルアミン塩化水素酸塩(MACl)を7.25:1:1.5の質量比となるよう量りとり、グローブボックスに導入した。そこへ溶媒としてイソプロピルアルコールを加えることにより、FABr、MABr、及びMAClの合計濃度が0.49mol/Lである活性層用塗布液2を調製した。
【0091】
(ポリトリアリールアミン化合物Aの合成)
国際公開第2015/133437号や特開2016-084370号公報に記載されている方法と同様な方法にて、下記式(A)で示すポリトリアリールアミン化合物Aを合成した。
【0092】
【化3】
【0093】
(正孔輸送層用塗布液の調製)
64mgのポリトリアリールアミン化合物Aと、2.6mgの4-イソプロピル-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(TPFB,TCI社製)とをバイアル瓶に量りとり、グローブボックスに導入した。そこへ溶媒として1.6mLのオルトジクロロベンゼンを加えた。次に、得られた混合液を150℃で1時間加熱撹拌することにより、正孔輸送層用塗布液を調製した。
【0094】
(光電変換素子の作製)
パターニングされた酸化インジウムスズ(ITO)透明導電膜を備えるガラス基板(ジオマテック社製)に対して、超純水を用いた超音波洗浄、窒素ブローによる乾燥、及びUV-オゾン処理を行った。
【0095】
次に、上記のように調製した電子輸送層用塗布液を、室温で、上記の基板上に2000rpmの速度でスピンコートすることにより、厚さ約35nmの電子輸送層を形成した。その後、基板をホットプレート上150℃で10分間加熱した。
【0096】
さらに、基板をグローブボックスに導入し、100℃に加熱した活性層用塗布液1を電子輸送層上に150μL滴下し、2000rpmの速度でスピンコートした。次に、基板をホットプレート上100℃で10分間加熱アニールすることにより、ヨウ化鉛層を形成した。次に、基板が室温に戻った後、ヨウ化鉛層上に活性層塗布液2(120μL)を2000rpmの速度でスピンコートし、150℃で20分間加熱することにより、有機無機ペロブスカイトの活性層(厚さ650nm)を形成した。
【0097】
次に、基板が室温に戻った後、活性層上に、正孔輸送層塗布液(120μL)を2000rpmの速度でスピンコートし、さらにホットプレート上90℃で5分間加熱することで、正孔輸送層(100nm)を形成した。
【0098】
次に、正孔輸送層上に、抵抗加熱型真空蒸着法により厚さ約10nmのMoO、次いで約30nmのIZO及び約100nmの銀を蒸着させ、上部電極を形成した。
以上のようにして、光電変換素子を作製した。
この光電変換素子における、活性層のイオン化ポテンシャル、活性層のバンドギャップ、正孔輸送材料のイオン化ポテンシャル、及び白色LED光200ルクス照射条件下での光電変換効率の測定結果を表1に示す。
【0099】
[実施例2]
ポリトリアリールアミン化合物Aの代わりに、国際公開第2015/133437号や特開2016-084370号公報に記載されている方法と同様に合成した、下記式(B)で示すポリトリアリールアミン化合物Bを用いた以外は実施例1と同様にして、光電変換素子を作製した。
【0100】
【化4】
【0101】
この光電変換素子における、活性層のイオン化ポテンシャル、活性層のバンドギャップ、正孔輸送材料のイオン化ポテンシャル、及び白色LED光200ルクス照射条件下での光電変換効率の測定結果を表1に示す。
【0102】
[比較例1]
正孔輸送層塗布液として、ポリトリアリールアミン化合物Aを用いる代わりに、ポリ[ビス(4-フェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)アミン]を用いた以外は実施例1と同様にして、光電変換素子を作製した。この光電変換素子における、活性層のイオン化ポテンシャル、活性層のバンドギャップ、正孔輸送材料のイオン化ポテンシャル、及び白色LED光200ルクス照射条件下での光電変換効率の測定結果を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1に示すように、活性層のイオン化ポテンシャルが-6.0eV以上-5.7eV以
下であり、前記活性層のバンドギャップが1.6eV以上2.3eV以下であり、かつ、正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルが-5.8eV以上-5.4eV以下である、実施
例1及び実施例2において、光電変換素子の白色LED光200ルクスにおける光電変換効率は、それぞれ27.0%及び26.8%であり、高い変換効率を示した。
一方、活性層のイオン化ポテンシャルが-5.8eVであり、かつ、前記活性層のバンドギャップが1.6eV以上2.3eV以下であるものの、正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルが、-5.3eVである比較例1においては、光電変換素子の白色LED光200ルクスにおける光電変換効率は23.5%と不充分な値を示した。
【符号の説明】
【0105】
1 耐候性保護フィルム
2 紫外線カットフィルム
3,9 ガスバリアフィルム
4,8 ゲッター材フィルム
5,7 封止材
6 太陽電池素子
10 バックシート
12 基材
13 太陽電池モジュール
14 薄膜太陽電池
100 光電変換素子
101 下部電極
102 バッファ層
103 活性層
104 バッファ層
105 上部電極
106 基材
図1
図2
図3