IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】表面凹凸分布の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/08 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
G01N15/08 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020084921
(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公開番号】P2021179367
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 健二
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/132248(WO,A1)
【文献】特開2015-178648(JP,A)
【文献】特表2007-524188(JP,A)
【文献】特許第7070804(JP,B2)
【文献】米国特許第5277931(US,A)
【文献】中国特許出願公開第112362549(CN,A)
【文献】鷲尾 一裕,粉体表面物性測定技術 ガス吸着法~水銀圧入法,日本画像学会誌,Vol.46,No.6,PP.482-488
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アマルガム形成金属を有する試料表面に、保護層を膜厚15~100nmで形成する工程と、
前記保護層側から水銀圧入法にて試料表面層の凹凸分布を測定する工程とを有し、
前記保護層が融点が950℃以上の物質からなる層であることを特徴とする、試料の表面凹凸分布の測定方法。
【請求項2】
前記保護層が、金、銀、銅、プラチナ、鉄、ニッケル、チタン、酸化チタン、シリカから選ばれる少なくとも1つからなる層である、請求項1に記載の表面凹凸分布の測定方法。
【請求項3】
前記アマルガム形成金属が、融点が950℃未満の金属である、請求項1または2に記載の表面凹凸分布の測定方法。
【請求項4】
前記アマルガム形成金属が、アルミニウム、亜鉛、鉛、スズ、マグネシウムおよびそれらの合金から選ばれる少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか1項に記載の表面凹凸分布の測定方法。
【請求項5】
前記保護層を形成する方法が、乾式めっき法である、請求項1~4のいずれか1項に記載の表面凹凸分布の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アマルガム形成金属を有する試料の表面凹凸分布の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の表面の凹凸は、物体の外観や触感に影響を与えるだけでなく、他の物体との密着性や接着性といった接合面や、摩擦等、様々な物性に影響を与える重要な因子である。特に、マイクロ・ナノサイズの微小な凹凸の定量評価は、次世代製品の開発には欠かせない技術である。
物体表面の凹凸を測定する方法は、従来様々な方法が用いられている。一般的には接触式の測定法と非接触式の測定法とが存在する。
【0003】
接触式の測定法としては、例えば走査型プローブ顕微鏡での測定が挙げられる。プローブと試料間での物理量変化を検出することで表面形状を測定することが可能な検出法であり、走査型トンネル顕微鏡や原子間力顕微鏡等が挙げられる。しかし、これらの方法は測定範囲が10μm程度と極狭い範囲であることから、広い範囲の表面測定を行うには、試料測定箇所を変えて何度も測定しなければならないという課題がある。
【0004】
非接触式の測定法としては、顕微鏡を用いて観察を行う方法が挙げられる。例えばレーザー顕微鏡、共焦点顕微鏡等を用い、視野内の凹凸を観察することができる。また、焦点距離を変えることで、三次元構造を得ることも可能であり、一次元あるいは2次元構造の表面粗さパラメーターを得ることができる。しかし、これらの方法も、測定範囲が1mm程度と狭い範囲であることから、広い範囲の表面を測定しようといった場合には、複数個所測定する必要があり、煩雑であった。
【0005】
物体表面の比表面積や孔径を測定する方法としては、ガス吸着法と水銀圧入法が知られている。
ガス吸着法は、ガスを試料に吸着させそのデータから細孔分布を求める方法であり、広い範囲の表面の微細領域を精度よく利用することが可能であるが、その原理から直径200nm以上の細孔は測定することが難しいという課題がある。
一報、水銀圧入法は、物体表面の細孔に水銀を圧入し、その時の圧入量と圧力から細孔分布を求める方法である。ナノからサブミリサイズの細孔径を一度に測定でき、かつ測定サンプルの広い範囲を一度に測定できることから、無機粉体やセラミック成形体、プラスチックの表面凹凸分布の測定に利用されている。
【0006】
しかし、水銀圧入法は水銀を用いることから、水銀とアマルガムを形成する金属の表面については、測定することができなかった。金属と水銀が反応し、金属表面の凹凸を塞いでしまうためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-60677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アマルガム形成金属を有する試料表面の凹凸分布を、幅広い孔径かつ広範囲で測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、アマルガム形成金属を有する試料表面に、水銀と反応しにくい材質からなる保護層を形成することで、水銀圧入法による測定が可能となる方法を見出した。
【0010】
すなわち本発明は、アマルガム形成金属を有する試料表面に、保護層を膜厚15~100nmで形成する工程と、前記保護層側から水銀圧入法にて試料表面層の凹凸分布を測定する工程とを有し、
保護層が融点が950℃以上の物質からなる層であることを特徴とする、試料の表面凹凸分布の測定方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、アマルガムを形成する金属を含有する試料であっても、表面を保護層で薄膜コートすることで、アマルガムを形成せずに試料表面の凹凸分布を測定可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本明細書において、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0013】
<水銀圧入法>
本発明で用いる水銀圧入法は、通常の水銀圧入法であってよく、JIS R 1655:2003に準拠する。具体的には、水銀ポロシメーターを用いて水銀を圧入する。その際の水銀を圧入する圧力から、以下式(1)で表されるWashburnの式で細孔径に換算することで、様々な表面解析を行うことができる。
Pr=-2γcosθ ・・・(1)
P : 圧力
r : 細孔半径
γ : 水銀の表面張力
θ : 水銀と試料の接触角
【0014】
水銀圧入法で得られるデータとしては、比表面積、全細孔容積、平均細孔径、細孔分布、等である。
【0015】
本発明における試料表面の細孔直径の好適な測定範囲は、100nm~500μmである。100nm以上であれば第2金属層の影響を受けずに測定できるからである。好ましくは100nm~300μmであって、より好ましくは100nm~100μmである。
【0016】
<アマルガム形成金属を有する試料>
本発明の測定方法で好適に測定可能な試料は、アマルガム形成金属を有する試料である。アマルガム形成金属は、通常の水銀圧入法では測定することできないが、本発明の測定方法であれば測定することが可能である。
【0017】
アマルガム形成金属としては、融点が950℃未満の金属が挙げられる。融点が950℃未満の金属は、アマルガムを形成しやすいためである。具体的には、アルミニウム、カドミウム、錫、鉛、マグネシウム及びこれらの合金であって融点が950℃未満の金属等が挙げられる。これらは一種類でもよく、複数種が混じった状態でも構わない。また、試料中に複数の金属種が別途存在していても構わない。
なお、本発明において、融点には溶融温度範囲も含むこととする。
【0018】
本発明の試料は、前述したアマルガム形成金属のみからなってもよいし、その他の材料を含んでいてもよい。その他の材料としては、有機材料であっても無機材料であってもよく、例えば樹脂、セラミック、アマルガムを形成しにくい金属、コンクリート等の建材、紙や木材等が挙げられる。
その他の材料を含有する形態としては特に限定はない。例えば、樹脂基板にはんだ付の配線がなされた基板や、アルミニウムとコンクリートで形成された建材、紙上にメタリックアルミインクで印刷された印刷物等、様々な形態に適応が可能である。
【0019】
本発明において、試料表面の凹凸形状に限定はなく、球形や柱状であっても、不定形であっても構わない。また、試料自体が三次元構造を有していてもよく、例えば球状やレンズ状といった立体構造を有していてもよく、溝等の大きなパターンを有していても測定可能である。
試料の大きさは、水銀ポロシメーターのサンプル室に入る大きさであればよいため、装置の大きさに依存するが、顕微鏡を用いる表面解析方法に比べ、格段に広い範囲の測定を一度に行うことが可能である。
【0020】
<保護層>
本発明において、試料表面をアマルガムを形成しにくい物質からなる保護層で被覆することで、アマルガムの形成を抑制しつつ水銀圧入法で表面凹凸分布の測定を可能とする。
【0021】
本発明の保護層は、膜厚15~100nmであることを特徴とする。10nmより薄い場合、水銀圧入時の衝撃によって保護膜が破損する可能性があるためである。また、100nmより厚い場合、試料の凹凸が閉塞されて正確な値が測定できない可能性があるためである。膜厚としては、好ましくは30nm以上、より好ましくは40nm以上から、好ましくは70nm以下、より好ましくは50nm以下の範囲である。
【0022】
保護層としては、アマルガムを形成しにくい物質からなる層であればよい。アマルガムを形成しにくい物質としては、融点が950℃以上の物質が挙げられる。融点が950℃以上であると、水銀との反応が進みにくいため、水銀圧入法に耐えうるためである。好ましくは融点が1000℃以上の物質であり、さらに好ましくは融点が1000℃以上の金属である。
アマルガムを形成しにくい物質としては、具体的には、金、銀、銅、プラチナ、ニッケル、鉄、シリカ、チタン、酸化チタン、酸化亜鉛、マンガン等が挙げられる。好ましくは金、銅、プラチナ、鉄、ニッケルであり、さらに好ましくはプラチナである。これらは後述するスパッタリング法で均一な薄膜が形成しやすいためである。これら保護層は、1種類で構成されていても2種以上で構成されていてもよく、単層であっても複数層であっても構わず、複数層の場合は同一材質であっても異なる材質から構成されていても構わない。
【0023】
保護層の形成方法は特に限定はなく、所定の膜厚で試料上に形成されればよい。好ましい形成方法としては乾式めっき法である。乾式めっき法であると、保護層の膜厚調整が容易であるため好ましい。
乾式メッキ法としては、物理蒸着法(PVD)と化学蒸着法(CVD)とあり、試料や第2金属の種類によって適宜選択することができるが、好ましくはPVDである。PVDとしては、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等が挙げられるが、保護層の強度に優れることからスパッタリング法が好ましい。
【0024】
<測定方法>
本発明の表面凹凸分布の測定方法は、以下の2つの工程を有することを特徴とする。
1)アマルガム形成金属を有する試料表面に、保護層を膜厚15~100nmで形成する工程
2)保護層側から水銀圧入法にて試料表面層の凹凸分布を測定する工程
【0025】
上記工程1)において、保護層は試料におけるアマルガム形成金属部分にのみ形成されていればよいが、試料全面に保護層を形成しても構わない。適切な方法で試料上に保護層を形成した後、保護層を有する試料を水銀ポロシメーターで測定することで、アマルガム形成金属を有する試料であっても好適に測定可能である。
【実施例
【0026】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
<試料の調製>
アルミダイキャスト(ADC12、Al-Si-Cu、融点580℃)、およびアルミニウム合金(A6061、Al-Mg-Si、溶解範囲温度582~652℃)の板から、長さ10.0mm・幅5.0mm・厚さ2.0mmの長方形に切り出し、それぞれ金属板とした。得られた金属板について、以下表1-1~1-2にあるように、粗化処理およびスパッタリング処理を行い、試料1~11を得た。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
(粗化処理)
金属板を50℃、4%水酸化ナトリウム水溶液に60秒間浸漬後、純水で洗浄したうえで乾燥させた。
(スパッタリング処理_金)
金属板を、真空スパッタ装置(製品名:MSP-20-UM、株式会社真空デバイス製)を用いて金ターゲットを用いたスパッタリング処理を行った。膜厚はスパッタ時間により調整を行い、スパッタ後の金属片の断面を走査型電子顕微鏡で観察してスパッタ厚を確認した。
(スパッタリング処理_白金)
上記と同様の方法を用いて、金属板に白金ターゲットを用いたスパッタリング処理を行った。膜厚はスパッタ時間により調整を行い、 スパッタ後の金属片の断面を走査型電子顕微鏡で観察してスパッタ厚を確認した 。
【0031】
<実施例1>
前述した試料1を50枚準備し、前処理として試料1を25℃で10分間真空脱気を行った。水銀ポロシメーター(製品名:PASCAL240、PASCAL140、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、水銀圧入法(JIS R 1655-2003)に準拠して、測定温度25℃(水銀の表面張力480mN/m、水銀の接触角141.3degとして評価)の条件下で細孔径Dが0.1~150μm範囲の積算細孔比容積V(ml/g)を得た。Vを試料1金属の真密度で乗じ、試料1のバルク体積/試料1の投影表面積(粗化による凹凸の影響を含まない面積)で乗じることにより試料1の単位投影面積あたりの積算細孔比容積V’(ml/mm)を得た。細孔が円筒状(長さL、直径D)、その円筒に圧入する水銀量がΔV’とすると、円筒の側面積ΔSはΔS=4xΔV’/Dとなる。V’の差分から算出したΔSを測定範囲のDにおいてすべて足し合わせ、試料1に対する単位投影面積あたりの細孔比表面積ΣSa(mm/mm)を得た。
【0032】
<実施例および比較例>
実施例1と同様にして、表2-1~2-3に記載の試料を用いて、各試料に対する単位投影面積当たりの細孔比表面積ΣSa(mm/mm)を得た。
【0033】
<参考例1>
試料1の中心部を共焦点顕微鏡(Lasertec製、OPTELICS HYBRID)の共焦点モードで三次元構造を観察した。白色光源を使用し、対物レンズは100倍のものを使用した。高さ方向のスキャン分解能を10nmとし、サーチピークモードで金属粗化表面の三次元高さの原表面像を得た。原表面像に対して表面傾斜補正を行った後、ノイズカット用のメディアンフィルタ(フィルタサイズ3×3)を1回かけて得た三次元高さ像の全体を評価領域とした。評価領域の粗化による凹凸影響も含む表面積をソフトウェア(LMEye7)上で評価し、これを評価領域の面積(粗化による凹凸影響を含まない投影面積)で除した後、1で減することにより粗化影響による凹凸比表面積Sb(mm/mm)を得た。これを5枚の試験片に対して行った結果、凹凸比表面積Sb(mm/mm)の平均値を得た。
【0034】
<参考例2~3>
参考例1と同様にして、表2-1~2-3に記載の試料を用いて、各試料に対する凹凸比表面積Sb(mm/mm)の平均値を得た。
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
比較例において、スパッタリング膜厚10nmおよびスパッタリング処理なしの試料については、水銀圧入時にアマルガム形成による圧力異常を示したため、測定することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の測定方法を用いることで、アマルガム形成金属を有する試料であっても、ナノからサブミリサイズの凹凸分布を一度に測定でき、かつ測定サンプルの広い範囲を一度に測定することができる。それにより、外観等の光学特性や密着接合摩擦等、様々な物性に影響を与える重要な因子である表面状態の把握を素早く行うことができる。