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特許7409304ラジカル重合性パテ状樹脂組成物、シール剤、およびひび割れ修復方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】ラジカル重合性パテ状樹脂組成物、シール剤、およびひび割れ修復方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20231226BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20231226BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20231226BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C08F290/06
C08F2/44 A
C08F2/44 B
C09K3/10 E
E04G23/02 B
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020523546
(86)(22)【出願日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2019015836
(87)【国際公開番号】W WO2019235063
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-01-19
(31)【優先権主張番号】P 2018108075
(32)【優先日】2018-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019006926
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新林 良太
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-078568(JP,A)
【文献】特開昭62-146364(JP,A)
【文献】特開2005-255937(JP,A)
【文献】特開2009-292890(JP,A)
【文献】特表2017-524784(JP,A)
【文献】特開2018-009155(JP,A)
【文献】特開2015-098527(JP,A)
【文献】特開平09-208641(JP,A)
【文献】特開2002-234921(JP,A)
【文献】特開平08-301953(JP,A)
【文献】特開平09-053281(JP,A)
【文献】特開平03-239775(JP,A)
【文献】特開平08-134426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00-2/60;283/01;290/00-299/08
C09K 3/10-3/12
E04G 23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル反応性樹脂(A)と、分子中に(メタ)アクリロイル基を有するラジカル重合性不飽和単量体(B)とを含む樹脂成分と、
下記一般式(I)で表される芳香族3級アミン(C)と、
有機過酸化物(D)と、
充填材(E)と、
可塑剤(F)と、
を含有することを特徴とするラジカル重合性パテ状樹脂組成物であって、
前記ラジカル反応性樹脂(A)が、ビニルエステル樹脂、およびウレタン(メタ)アクリレート樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であるラジカル重合性パテ状樹脂組成物であって、
前記一般式(I)で表される芳香族3級アミン(C)の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し0.5~10質量部であり、
前記充填材(E)の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し0.1~20質量部であり、
可塑剤(F)の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し5~20質量部であるラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【化1】

(式中、R は、水素原子、メチル基またはメトキシ基であり、R およびR は、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基または炭素数1~20のヒドロキシアルキル基である。)
【請求項2】
さらに、内部離型剤(G)を含有する請求項1に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項3】
前記ラジカル重合性不飽和単量体(B)が、モノ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸エステルおよびトリ(メタ)アクリル酸エステルから選択される少なくと も1種である請求項1又は2に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項4】
前記一般式(I)で表される芳香族3級アミン(C)において、式中、R1が、水素原 子、メチル基またはメトキシ基であり、R2およびR3が、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基または炭素数1~6のヒドロキシアルキル基である請求項1~3のいずれか1項に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項5】
前記有機過酸化物(D)が、ジベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルm-メチルベン ゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイドおよびt-ブチルパーオキシベンゾエートからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~4のいずれか1項に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項6】
前記充填材(E)が、タルク、炭酸カルシウム、珪砂およびシリカパウダーからなる無機充填材、並びにポリエステルまたはポリオレフィンからなる有機化合物繊維からなる有機充填材からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~5のいずれか1項に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項7】
前記可塑剤(F)が、フタル酸エステル、アジピン酸エステルおよびクエン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1~6のいずれか1項に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項8】
さらに内部離型剤(G)を含有し、当該内部離型剤(G)が、リン酸エステルである請求項2~7のいずれか1項に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項9】
前記ラジカル重合性不飽和単量体(B)に対する前記ラジカル反応性樹脂(A)の質量比〔(A)/(B)〕が、1/4~3/2である請求項1~8のいずれか1項に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項10】
前記ラジカル重合性パテ状樹脂組成物全量に対する、前記ラジカル反応性樹脂(A)の含有量が20~60質量%である請求項1~9のいずれか1項に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項11】
前記ラジカル重合性パテ状樹脂組成物全量に対する、前記ラジカル重合性不飽和単量体(B)の含有量が40~80質量%である請求項1~10のいずれか1項に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項12】
前記一般式(I)で表される芳香族3級アミン(C)の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し0.1~10質量部である請求項1~11のいずれか1項に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項13】
前記有機過酸化物(D)の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し0.1~10質量部である請求項1~12のいずれか1項に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項14】
前記充填材(E)の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し0.1~100質量部である請求項1~13のいずれか1項に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項15】
前記可塑剤(F)の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し5~200質量部である請求項1~14のいずれか1項に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物を含むシール剤。
【請求項17】
構造物のひび割れ表面に、請求項16に記載のシール剤を塗布して硬化させる工程を有することを特徴とするひび割れ修復方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル重合性パテ状樹脂組成物、シール剤、およびひび割れ修復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、補修の必要なコンクリート構造物が増加している。コンクリート構造物は、中性化や塩害等によって劣化する。建設から50年以上経過したコンクリート構造物が増えているなかで、補修を早急に行うことが要求されている。また、特に寒冷地のコンクリート構造物は、コンクリート中に含まれる水分の凍結融解に加え、融雪剤として用いられる塩化カルシウムや塩化ナトリウムといった塩化物の影響によって、劣化が著しく進む。
【0003】
コンクリート構造物の補修方法の1つとして、コンクリート構造物のひび割れ内に注入剤を注入する方法がある。注入方法としては、注入器を用いて低圧から高圧で注入剤を注入するものや、表面に塗布することでひび割れに浸透させるものがある。このうち、注入器を用いる方法においては、一般的に注入孔以外のひび割れ部を塞ぐためにシール剤が用いられる。
【0004】
シール剤においては、一般的に有機系のシール剤が使用されてきた。シール剤は、注入圧に耐えられるだけのコンクリート下地への接着性が求められるとともに、注入器を注入孔に取り付けるために注入座金を設置することから、シール剤が硬化するまで座金を固定するだけの保持力を有すること、つまりダレを生じないことが重要である。そこで、シール剤としてはパテ状樹脂組成物が用いられてきた。また、シール剤はひび割れ注入後には撤去されることから、使用後の剥離、撤去が容易であることも求められる。
【0005】
従来のパテ状樹脂組成物としては、例えば、光硬化性樹脂組成物(特許文献1および特許文献2参照)、光を必要としないエポキシ樹脂組成物(特許文献3参照)等が報告されている。また、低温環境下でも短時間で硬化可能な低温硬化性樹脂組成物の報告もある(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-274145号公報
【文献】特開平11―49833号公報
【文献】特開2006-219624号公報
【文献】特開2009-292890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1および特許文献2に記載の光硬化性樹脂組成物は、硬化に光を必要とすることから、光が当たり難い箇所では硬化遅延や硬化不良を引き起こすという問題があり、また、光の照度により硬化が促進されることから、日光があたる外部環境においては作業時間が確保し難くなるという問題もあった。また、前記特許文献3に記載のエポキシ樹脂組成物は、低温環境下では硬化遅延や硬化不良を引き起こすことが知られているため、上記のようにコンクリートの劣化の進行が早く、より早急な補修が求められる寒冷地においては、使用に課題があった。また、前記特許文献4に記載の低温硬化性樹脂組成物は、パテ状でないため、シール剤に適用できない。
以上のことから、従来は、日光などの外部環境や使用温度環境に左右されず、座金の保持力、つまりダレの生じない材料が達成されていなかった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、-10℃以下の低温環境下でも短時間で硬化し、座金を取り付けてもダレを生じず、良好な接着性を有する硬化物が得られるラジカル重合性パテ状樹脂組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記パテ状樹脂組成物を含むシール剤、およびこれを用いたひび割れ修復方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の発明により当該課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本願開示は、以下に関する。
[1]ラジカル反応性樹脂(A)と、分子中に(メタ)アクリロイル基を有するラジカル重合性不飽和単量体(B)とを含む樹脂成分と、下記一般式(I)で表される芳香族3級アミン(C)と、有機過酸化物(D)と、充填材(E)と、を含有することを特徴とするラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
【0011】
【化1】

(式中、Rは、水素原子、メチル基またはメトキシ基であり、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基または炭素数1~20のヒドロキシアルキル基である。)
[2]さらに、可塑剤(F)を含有する上記[1]に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[3]さらに、内部離型剤(G)を含有する上記[1]又は[2]に記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[4]前記ラジカル反応性樹脂(A)が、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂およびポリエステル(メタ)アクリレート樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である上記[1]~[3]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[5]前記ラジカル重合性不飽和単量体(B)が、モノ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸エステルおよびトリ(メタ)アクリル酸エステルから選択される少なくとも1種である上記[1]~[4]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[6]前記一般式(I)で表される芳香族3級アミン(C)において、式中、Rが、水素原子、メチル基またはメトキシ基であり、RおよびRが、それぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基または炭素数1~6のヒドロキシアルキル基である上記[1]~[5]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[7]前記有機過酸化物(D)が、ジベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルm-メチルベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイドおよびt-ブチルパーオキシベンゾエートからなる群から選択される少なくとも1種である上記[1]~[6]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[8]前記充填材(E)が、タルク、炭酸カルシウム、珪砂および微粒子シリカからなる無機充填材、並びにポリエステルまたはポリオレフィンからなる有機化合物繊維からなる有機充填材からなる群から選択される少なくとも1種である上記[1]~[7]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[9]さらに可塑剤(F)を含有し、当該可塑剤(F)が、フタル酸エステル、アジピン酸エステルおよびクエン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種である上記[2]~[8]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[10]さらに内部離型剤(G)を含有し、当該内部離型剤(G)が、リン酸エステルである上記[3]~[9]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[11]前記ラジカル重合性不飽和単量体(B)に対する前記ラジカル反応性樹脂(A)の質量比〔(A)/(B)〕が、1/4~3/2である上記[1]~[10]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[12]前記ラジカル重合性パテ状樹脂組成物全量に対する、前記ラジカル反応性樹脂(A)の含有量が20~60質量%である上記[1]~[11]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[13]前記ラジカル重合性パテ状樹脂組成物全量に対する、前記ラジカル重合性不飽和単量体(B)の含有量が40~80質量%である上記[1]~[12]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[14]前記一般式(I)で表される芳香族3級アミン(C)の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し0.1~10質量部である上記[1]~[13]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[15]前記有機過酸化物(D)の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し0.1~10質量部である上記[1]~[14]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[16]前記充填材(E)の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し0.1~100質量部である上記[1]~[15]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[17]さらに可塑剤(F)を含有し、当該可塑剤(F)の含有量が、前記樹脂成分100質量部に対し5~200質量部である上記[2]~[16]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物。
[18]上記[1]~[17]のいずれかに記載のラジカル重合性パテ状樹脂組成物を含むシール剤。
[19]構造物のひび割れ表面に、上記[18]に記載のシール剤を塗布して硬化させる工程を有することを特徴とするひび割れ修復方法。
[20]さらに、構造物のひび割れ内にひび割れ注入剤を注入し、硬化させた後、前記シール剤を撤去する上記[19]に記載のひび割れ修復方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、-10℃以下の低温環境下でも短時間で硬化し、座金を取り付けてもダレを生じず、良好な接着性を有する硬化物が得られるラジカル重合性パテ状樹脂組成物を提供することができる。
【0013】
また、本発明のシール剤は、上記ラジカル重合性パテ状樹脂組成物を含むため、-10℃以下の低温環境下でも短時間で硬化し、ダレを生じず、良好な接着性を有する。したがって、本発明のシール剤を用いることで、様々な環境下において、構造物のひび割れを効率よく修復することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のラジカル重合性パテ状樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう)、シール剤およびひび割れ修復方法を詳細に説明する。
なお、本発明において「パテ状樹脂組成物」とは、チクソインデックス(TI)が3.5以上の樹脂組成物をいう。
[TI]
本発明において用いられる「TI」なる技術用語は、本発明のラジカル重合性パテ状樹脂組成物を25℃にて、JIS K 6901 5.5、5.6 規定に基づき、次に述べる測定方法で測定されるものである。
<測定方法>
1)前記ラジカル重合性パテ状樹脂組成物をサンプル瓶に入れ、遮光環境下、25℃の恒温水槽で2時間放置した後、BH型粘度計にて20rpm、2rpmの時の粘度を測定する。
2)2rpmで測定した時の数値を20rpmで測定した時の数値で除した値が揺変度で、これをTIとする。
【0015】
[ラジカル重合性パテ状樹脂組成物]
本実施形態のラジカル重合性パテ状樹脂組成物は、ラジカル反応性樹脂(A)と、分子中に(メタ)アクリロイル基を有するラジカル重合性不飽和単量体(B)とを含む樹脂成分と、下記一般式(I)で表される芳香族3級アミン(C)と、有機過酸化物(D)と、充填材(E)と、を含有することを特徴とする。
【0016】
【化2】

(式中、Rは、水素原子、メチル基またはメトキシ基であり、RおよびRは、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基または炭素数1~20のヒドロキシアルキル基である。)
【0017】
<樹脂成分>
本実施形態のラジカル重合性パテ状樹脂組成物に含まれる樹脂成分は、ラジカル反応性樹脂(A)と、分子中に(メタ)アクリロイル基を有するラジカル重合性不飽和単量体(B)(以下、「ラジカル重合性不飽和単量体(B)」という場合がある。)とを含み、好ましくはラジカル反応性樹脂(A)と、ラジカル重合性不飽和単量体(B)とからなる。
本実施形態において「(メタ)アクリロイル基」とは、「アクリロイル基およびメタクリロイル基の一方または両方」を意味する。本実施形態において「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレートおよびメタクリレートの一方または両方」を意味する。
【0018】
「ラジカル反応性樹脂(A)」
ラジカル反応性樹脂(A)は、側鎖および/または主鎖にエチレン性炭素-炭素二重結合を有する。ラジカル反応性樹脂(A)は、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂およびポリエステル(メタ)アクリレート樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
(ビニルエステル樹脂)
ビニルエステル樹脂は、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂と呼ばれることもある。ビニルエステル樹脂としては、エポキシ化合物と不飽和一塩基酸と(必要に応じて飽和二塩基酸と)のエステル化反応により得られる従来公知のものを制限なく用いることができる。このような公知のビニルエステル樹脂は、例えば、「ポリエステル樹脂ハンドブック」、日刊工業新聞社、1988年発行、および「塗料用語辞典」、色材協会編、1993年発行などに記載されている。
【0020】
ビニルエステル樹脂の原料として用いられるエポキシ化合物としては、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物、水素化ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物、シクロヘキサンジメタノールとエピクロルヒドリンとの反応物、ノルボルナンジアルコールとエピクロルヒドリンとの反応物、テトラブロムビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物、トリシクロデカンジメタノールとエピクロルヒドリンとの反応物、アリサイクリックジエポキシカーボネート、アリサイクリックジエポキシアセタール、アリサイクリックジエポキシカルボキシレート、ノボラック型グリシジルエーテル、クレゾールノボラック型グリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0021】
ビニルエステル樹脂の原料として用いられる不飽和一塩基酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。
ビニルエステル樹脂の原料として用いられる飽和二塩基酸としては、例えば、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸などが挙げられる。
【0022】
本実施形態におけるビニルエステル樹脂としては、硬化物の柔軟性や靭性といった観点から、ビスフェノールA系ビニルエステル樹脂が好ましい。
【0023】
(ウレタン(メタ)アクリレート樹脂)
本実施形態におけるウレタン(メタ)アクリレート樹脂は、エチレン性炭素-炭素二重結合を有するポリウレタンである。具体的には、ポリイソシアネートと、ポリヒドロキシ化合物または多価アルコール類とを反応させた後、余剰のイソシアナト基と水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させて得られるエチレン性炭素-炭素二重結合含有オリゴマーである。上記の反応では、必要に応じて水酸基含有(メタ)アクリレートとともに、水酸基含有アリルエーテル化合物を反応させてもよい。また、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂は、ポリイソシアネートと、ポリヒドロキシ化合物または多価アルコール類と、水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させた後、ポリヒドロキシ化合物または多価アルコール類由来の未反応のヒドロキシ基に、ポリイソシアネートを反応させて製造してもよい。この反応においても、必要に応じて水酸基含有(メタ)アクリレートとともに、水酸基含有アリルエーテル化合物を反応させてもよい。
【0024】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられるポリイソシアネートとしては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネートおよびその異性体、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、バーノック(登録商標)D-750(商品名;DIC社製)、クリスボン(登録商標)NK(商品名;DIC社製)、デスモジュール(登録商標)L(商品名;住友バイエル社製)、コロネートL(商品名;日本ポリウレタン社製)、タケネート(登録商標)D102(商品名;三井化学社製)、イソネート143L(商品名;三菱化学社製)、デュラネート(登録商標)シリーズ(商品名;旭化成ケミカル社製)などが挙げられる。これらのポリイソシアネートは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、コストの観点からは、ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく、樹脂に耐候性を付与する観点からは、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートが好ましく、樹脂に靭性を付与する観点からは、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ナフタリンジイソシアネートなどの環状構造を有するものが好ましい。
【0025】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料に用いられるポリヒドロキシ化合物としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールなどが挙げられる。より具体的には、グリセリン-エチレンオキシド付加物、グリセリン-プロピレンオキシド付加物、グリセリン-テトラヒドロフラン付加物、グリセリン-エチレンオキシド-プロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパン-エチレンオキシド付加物、トリメチロールプロパン-プロピレンオキシド付加物、トリメチロールプロパン-テトラヒドロフラン付加物、トリメチロールプロパン-エチレンオキシド-プロピレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールプロピレンオキシド付加物、ジペンタエリスリトールテトラヒドロフラン付加物、ジペンタエリスリトールエチレンオキシド-プロピレンオキシド付加物などが挙げられる。
これらのポリヒドロキシ化合物は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0026】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、ビスフェノールAと、プロピレンオキシドまたはエチレンオキシドとの付加物、1,2,3,4-テトラヒドロキシブタン、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,3-ブタンジオール、1,2-シクロヘキサングリコール、1,3-シクロヘキサングリコール、1,4-シクロヘキサングリコール、パラキシレングリコール、ビシクロヘキシル-4,4-ジオール、2,6-デカリングリコール、2,7-デカリングリコールなどが挙げられる。中でも、樹脂組成物に柔軟性を付与する観点から、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが好ましい。
これらの多価アルコール類は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0027】
上記ウレタン(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリン(モノ)(メタ)アクリレート、ブレンマー(登録商標)シリーズ(商品名;日油社製)などが挙げられる。中でも、ラジカル重合性不飽和単量体(B)との相溶性の観点から、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが好ましい。
これらの水酸基含有(メタ)アクリレートは、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0028】
(ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂)
本実施形態におけるポリエステル(メタ)アクリレート樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有するポリエステルである。ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂は、例えば、以下に示す(1)~(3)のいずれかの製造方法により製造できる。
【0029】
(1)飽和多塩基酸および不飽和多塩基酸の少なくともいずれか一方と、多価アルコールとから得られる末端がカルボキシ基のポリエステルに、α,β-不飽和カルボン酸エステル基を含有するエポキシ化合物を反応させる。
(2)飽和多塩基酸および不飽和多塩基酸の少なくともいずれか一方と、多価アルコールとから得られる末端がカルボキシ基のポリエステルに、水酸基含有(メタ)アクリレートを反応させる。
(3)飽和多塩基酸および不飽和多塩基酸の少なくともいずれか一方と、多価アルコールとから得られる末端が水酸基のポリエステルに、(メタ)アクリル酸を反応させる。
【0030】
ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる飽和多塩基酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などの重合性不飽和結合を有していない多塩基酸またはその無水物等が挙げられる。
ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる不飽和多塩基酸としては、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸またはその無水物等が挙げられる。
【0031】
ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオ-ル、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、シクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0032】
ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂の原料として用いられるα,β-不飽和カルボン酸エステル基を含有するエポキシ化合物としては、グリシジルメタクリレートが代表例として挙げられる。
本実施形態におけるポリエステル(メタ)アクリレート樹脂としては、機械的強度の観点から、ビスフェノールA型ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂が好ましい。
【0033】
樹脂成分中に含まれるラジカル反応性樹脂(A)の含有量は、20質量%~60質量%であることが好ましく、25質量%~50質量%であることがより好ましい。
【0034】
また、ラジカル重合性パテ状樹脂組成物全量に対する、ラジカル反応性樹脂(A)の含有量は、20質量%~60質量%であることが好ましく、22~50質量%であることがより好ましく、25質量%~50質量%であることがさらに好ましい。
【0035】
「分子中に(メタ)アクリロイル基を有するラジカル重合性不飽和単量体(B)」
ラジカル重合性不飽和単量体(B)は、これを含む樹脂組成物の硬化物における硬度、強度を確保するために重要である。
【0036】
本実施形態におけるラジカル重合性不飽和単量体(B)としては、分子内に(メタ)アクリロイル基を有していれば特に限定されないが、好ましくはモノ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸エステル、トリ(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
モノ(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メトキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸-n-プロピル、(メタ)アクリル酸-i-プロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。
ジ(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
トリ(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトシキ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス-(2-アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
4価以上の多価(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、ジメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0037】
中でもモノ(メタ)アクリル酸エステルやジ(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、その中でも、樹脂に柔軟性を付与する観点から、(メタ)アクリル酸ラウリル、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートおよびフェノキシエチル(メタ)アクリレートなどが好ましく、靭性を付与する観点から、(メタ)アクリロイルモルホリンが好ましい。樹脂の強度を高める観点から、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。また、添加物との相溶性の観点から、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチル、メトキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
また、2,2-ビス[4-(メタクリロキシエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(メタクリロキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(メタクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシ・ジエトキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(アクリロキシ・ポリエトキシ)フェニル]プロパンなどの(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物;マレイン酸やフマル酸、イタコン酸などの不飽和酸とアルコールとの縮合物なども用いることができる。
ラジカル重合性不飽和単量体(B)は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0038】
樹脂成分中に含まれるラジカル重合性不飽和単量体(B)の含有量は、40質量%~80質量%であることが好ましく、50質量%~75質量%であることがより好ましい。
【0039】
また、ラジカル重合性パテ状樹脂組成物全量に対する、ラジカル重合性不飽和単量体(B)の含有量は、40質量%~80質量%であることが好ましく、50質量%~75質量%であることがより好ましい。
【0040】
ラジカル重合性不飽和単量体(B)に対するラジカル反応性樹脂(A)の質量比〔(A)/(B)〕は1/4~3/2であることが好ましく、1/3~1/1であることがより好ましい。
【0041】
樹脂成分中にラジカル反応性樹脂(A)およびラジカル重合性不飽和単量体(B)以外のラジカル反応性樹脂や反応性単量体が含まれる場合、当該ラジカル反応性樹脂および反応性単量体の合計含有量は、樹脂成分全量に対し30質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
<芳香族3級アミン(C)>
芳香族3級アミン(C)は、下記一般式(I)で表される。本実施形態において、芳香族3級アミン(C)は、樹脂組成物の硬化促進剤として機能する。
【0043】
【化3】
【0044】
一般式(I)中のRは、水素原子、メチル基またはメトキシ基であり、好ましくはメチル基である。
一般式(I)中のRおよびRは、それぞれ独立して炭素数1~20のアルキル基または炭素数1~20のヒドロキシアルキル基である。RおよびRは、どちらも炭素数1~20のヒドロキシアルキル基であることが好ましい。RおよびRとしてのアルキル基およびヒドロキシアルキル基の炭素数は、1~10が好ましく、1~6であることがより好ましい。具体的には、RおよびRは、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ヒドロキシメチル基、β-ヒドロキシエチル基、β-ヒドロキシプロピル基などが挙げられる。これらの中でも、低温硬化性の観点から、β-ヒドロキシエチル基、β-ヒドロキシプロピル基が好ましい。
【0045】
本実施形態における芳香族3級アミン(C)としては、例えば、N-メチル-N-β-ヒドロキシエチルアニリン、N-ブチル-N-β-ヒドロキシエチルアニリン、N-メチル-N-β-ヒドロキシエチル-p-トルイジン、N-ブチル-N-β-ヒドロキシエチル-p-トルイジン、N-メチル-N-β-ヒドロキシプロピルアニリン、N-メチル-N-β-ヒドロキシプロピル-p-トルイジン、N,N-ジ(β-ヒドロキシエチル)アニリン、N,N-ジ(β-ヒドロキシプロピル)アニリン、N,N-ジ(β-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ジ(β-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジン、N,N-ジイソプロピロール-p-トルイジン、N,N-ジ(β-ヒドロキシエチル)-p-アニシジン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジンなどが挙げられる。
【0046】
上記の芳香族3級アミン(C)の中でも特に、低温硬化性の観点から、N,N-ジ(β-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ジ(β-ヒドロキシプロピル)-p-トルイジンが好ましい。
上記の芳香族3級アミン(C)は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
本実施形態の樹脂組成物では、樹脂成分100質量部に対し、芳香族3級アミン(C)を0.1質量部~10質量部含有することが好ましく、0.5質量部~5質量部含有することがより好ましい。樹脂成分100質量部に対する芳香族3級アミン(C)の含有量が0.1質量部以上であると、樹脂組成物の低温環境下での硬化性がより一層良好となる。また、樹脂成分100質量部に対する芳香族3級アミン(C)の含有量が10質量部以下であると、樹脂組成物をシール剤として使用した場合の接着性に、芳香族3級アミン(C)が影響を来すことがなく、好ましい。
【0048】
<有機過酸化物(D)>
有機過酸化物(D)は、ラジカル重合開始剤として作用する。有機過酸化物(D)としては、公知の有機過酸化物が用いられる。有機過酸化物(D)は、10時間半減期温度が、30~180℃のものが好ましい。有機過酸化物(D)としては、例えば、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアリルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネートに分類されるものが挙げられる。
【0049】
有機過酸化物(D)の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、3-イソプロピルヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジクミルヒドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、イソブチルパーオキサイド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスカルボンアミド、ベンゾイルm-メチルベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。
【0050】
これらの有機過酸化物(D)の中でも、特に、ジベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルm-メチルベンゾイルパーオキサイド、m-トルオイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイドおよびt-ブチルパーオキシベンゾエートからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0051】
本実施形態の樹脂組成物では、樹脂成分100質量部に対し、有機過酸化物(D)を0.1質量部~10質量部含有することが好ましく、2質量部~8質量部含有することがより好ましい。樹脂成分100質量部に対する有機過酸化物(D)の含有量が0.1質量部以上であると、樹脂組成物の硬化が十分に進むため好ましい。また、樹脂成分100質量部に対する有機過酸化物(D)の含有量が10質量部以下であると、経済的であるため好ましい。
【0052】
<充填材(E)>
充填材(E)は、樹脂組成物のパテ化として作用する。充填材(E)としては、無機充填材および有機充填材を挙げることができる。無機充填材としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、珪砂、微粒子シリカ、マイカ、アスベストなどが挙げられる。有機充填材としては、例えば、ポリエステル、ポリオレフィンなどからなる有機化合物繊維、水素添加ひまし油系、酸化ポリエチレン系、アマイドワックス系などが挙げられる。中でも、充填材(E)としては、タルク、炭酸カルシウム、珪砂および微粒子シリカからなる無機充填材、並びにポリエステルまたはポリオレフィンからなる有機化合物繊維からなる有機充填材からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、特にシリカ系充填材が好ましい。
また、具体的には、シリカパウダー、マイカパウダー、炭酸カルシウムパウダー、短繊維アスベスト、水素化ひまし油など公知のものを用いることができる。
【0053】
本実施形態の樹脂組成物では、樹脂成分100質量部に対し、充填材(E)を0.1質量部~100質量部含有することが好ましく、0.1質量部~20質量部含有することがより好ましく、1~10質量部含有することがさらに好ましい。樹脂成分100質量部に対する充填材(E)の含有量が0.1質量部以上であると、樹脂成分の粘度および揺変性を向上させることができる。また、樹脂成分100質量部に対する充填材(E)の含有量が100質量部以下であると、混合作業性に優れる。
【0054】
<可塑剤(F)>
本実施形態の樹脂組成物は、さらに可塑剤(F)を含有することが、樹脂組成物の硬化性の調製および剥離性向上の観点から好ましい。
可塑剤(F)としては、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシルなどのフタル酸エステル;アジピン酸ジエチルヘキシル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソノニルなどのアジピン酸エステルを含む脂肪族二塩基酸エステル;クエン酸エステル;トリメリット酸エステル;アジピン酸ブチレングリコール系ポリエステル、アジピン酸プロピレングリコール系ポリエステルなどの脂肪族系ポリエステル;フタル酸系ポリエステル;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどのエポキシ構造を有するもの;安息香酸2-エチルヘキシル、安息香酸イソデシル、安息香酸グリコールエステルなどの安息香酸エステル;グリコールジエステル;ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエートなどのグリコールジベンゾエート;が挙げられる。中でも、コストの観点からフタル酸エステル、アジピン酸エステルおよびクエン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種が好まく、特にフタル酸ジブチルが好ましい。また、樹脂組成物中の保留性の観点から脂肪族系ポリエステル、フタル酸系ポリエステル、安息香酸エステルが好ましく、その中でも安息香酸2-エチルヘキシル、安息香酸イソデシルが望ましい。
【0055】
本実施形態の樹脂組成物では、樹脂成分100質量部に対し、可塑剤(F)を5
~200質量部含有することが好ましく、5~100質量部含有することがより好ましく、5~50質量部含有することがさらに好ましく、5~20質量部含有することがよりさらに好ましい。可塑剤(F)の含有量を上記範囲内とすることで、樹脂組成物の硬化性の調製を良好にし、該樹脂組成物の硬化物の剥離性を向上させることができる。
【0056】
<内部離型剤(G)>
本実施形態の樹脂組成物は、さらに内部離型剤(G)を含有することが、剥離性向上の観点から好ましい。
内部離型剤(G)としては、例えば、リン酸エステル、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、フッ素含有離型剤などが挙げられる。また、内部離型剤(G)の市販品としては、例えば、リン酸エステルとして、ゼレックUN(商品名、マエダ化成株式会社製);BYK-P9912(商品名、ビックケミー社製);パーフルオロアルキルポリエステルとして、ダイフリー FB-961(商品名、ダイキン工業株式会社製);フッ素ポリマーとして、ダイフリー FB-962(商品名、ダイキン工業株式会社製);ステアリン酸として、ステアリン酸さくら(商品名、日油株式会社製);ステアリン酸亜鉛として、ジンクステアレート GF-200(商品名、日油株式会社製)などが挙げられる。中でも、樹脂組成物中の保留性の観点から、リン酸エステル、フッ素含有離型剤が好ましく、リン酸エステルがより好ましい。具体的な市販品としては、溶解性の高いゼレックUN、BYK-P9912、ダイフリー FB-961、ダイフリー FB-962が好ましく、その中でも液体であるゼレックUN、BYK-P9912がより好ましい。
【0057】
本実施形態の樹脂組成物では、樹脂成分100質量部に対し、内部離型剤(G)を0.01質量部以上5質量部未満含有することが好ましく、0.01~1質量部含有することがより好ましく、0.1~1質量部含有することがさらに好ましい。内部離型剤(G)の含有量を上記範囲内とすることで、樹脂組成物の硬化物の剥離性を向上させることができる。
【0058】
なお、リン酸エステルは、その含有量が5質量部以上のとき可塑剤(F)としても機能し得るが、本発明においては、リン酸エステルは内部離型剤(G)として取り扱うものとする。
【0059】
<任意成分>
本実施形態の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、重合禁止剤、ワックス類、補強材、カップリング剤、揺変助剤、芳香族3級アミン(C)以外の硬化促進剤等を添加してもよい。
【0060】
重合禁止剤としては、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、ターシャリーブチルカテコール、2,6-ジ-ターシャリーブチル・4-メチルフェノールなどが挙げられる。中でも、樹脂との混合が容易であるため、2,6-ジ-ターシャリーブチル・4-メチルフェノールが好ましい。重合禁止剤は、樹脂成分100質量部に対し、0.0001質量部~10質量部の割合で配合されることが好ましい。
【0061】
ワックス類は、樹脂組成物の乾燥性を向上させる目的で配合される。ワックス類としては、公知のものを制限なく用いることができる。例えば、ワックス類として、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンなどの石油ワックス;キャンデリラワックス、ライスワックス、木蝋などの植物系ワックス;蜜蝋、鯨蝋などの動物系ワックス;モンタンワックスなどの鉱物系ワックス;ポリエチレンワックス、アミドワックスなどの合成ワックスなどが用いられる。
【0062】
ワックス類としては、具体的には、融点が20℃~80℃程度のパラフィンワックスやBYK-S-750(商品名、ビックケミー社製)、BYK-S-740(商品名、ビックケミー社製)、BYK-S-780(商品名、ビックケミー社製)などが挙げられる。また、ワックス類として、融点の異なる二種以上のワックス類を組み合わせて用いてもよい。また、パラフィンワックスと特開2002-97233号公報に記載されているような乾燥性付与剤を併用してもよい。この場合、パラフィンワックスを含むことによる効果をより有効に引き出すことができる。
【0063】
ワックス類は、樹脂成分100質量部に対し、0.01質量部~5.0質量部含有することが好ましい。ワックス類の含有量を上記範囲内とすることで、乾燥性が良好な樹脂組成物となるとともに、ワックス類を含むことによる樹脂組成物の硬化物の物性低下を防止できる。
【0064】
また、パラフィンワックスの溶解性や分散性を向上させるために、溶剤を用いることができる。溶剤としては、公知のものを用いることができる。溶剤として、例えば、酢酸エチルなどのアルキルエーテルアセテート類;テトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、オクタン、デカン、ドデカンなどの炭化水素類;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサなどの石油系溶剤;乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどの乳酸エステル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどが挙げられる。
【0065】
補強材としては、例えば、カーボン、ガラス、セラミックス、ステンレススチールなどからなる微粉などが挙げられる。
【0066】
カップリング剤としては、公知のものを用いることができる。カップリング剤としては、アミノシラン、ビニルシラン、エポキシシラン、アクリルシランなどのシランカップリング剤が好ましい。
【0067】
揺変助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、エチレングリコール、ポリカルボン酸アミドなどが挙げられる。
【0068】
芳香族3級アミン(C)以外の硬化促進剤としては、特に限定されないが、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、α-アセチル-γ-ブチロラクトン、N-ピロジニノアセトアセタミド、N,Nジメチルアセトアセタミドなどのβ-ジケトン類などが挙げられる。
本実施形態の樹脂組成物においては、貯蔵安定性の観点から、硬化促進剤として、金属塩を用いないことが好ましい。樹脂組成物中に金属塩を含む場合、貯蔵安定性を確保するために、1000ppm以下とすることが好ましい。
【0069】
本実施形態の樹脂組成物中、樹脂成分、一般式(I)で表される芳香族3級アミン(C)、有機過酸化物(D)および充填材(E)の含有量は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。また、本実施形態の樹脂組成物が、可塑剤(F)および/または内部離型剤(G)を含有する場合、本実施形態の樹脂組成物中、樹脂成分、一般式(I)で表される芳香族3級アミン(C)、有機過酸化物(D)、充填材(E)、可塑剤(F)および/または内部離型剤(G)の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0070】
本実施形態の樹脂組成物は、上述した樹脂成分と、一般式(I)で表される芳香族3級アミン(C)と、有機過酸化物(D)と、充填材(E)とを含有し、さらに必要に応じて上記可塑剤(F)、内部離型剤(G)を含有する。
本実施形態の樹脂組成物は、硬化に光を必要とせず、ダレを生じず、良好な接着性を有する硬化物を得ることができる。また、本実施形態の樹脂組成物が、可塑剤(F)を含有することにより、当該樹脂組成物の硬化物の剥離性を高めることができる。
したがって、本実施形態の樹脂組成物は、コンクリート構造物のひび割れ修復用のシール剤の材料として好適である。特に、本実施形態の樹脂組成物の硬化物は、コンクリート、アスファルトコンクリート、モルタルなどを含む材料に対して良好な接着性を有する。したがって、本実施形態の樹脂組成物は、コンクリート構造物のひび割れ修復用のシール剤の材料として好適である。
【0071】
[シール剤]
本実施形態のシール剤は、上述した樹脂組成物を含むものである。
本実施形態のシール剤は、上述した樹脂成分と、一般式(I)で表される芳香族3級アミン(C)と、充填材(E)と、さらに必要に応じて上記可塑剤(F)および/または内部離型剤(G)とを含有する第一液と、有機過酸化物(D)を含有する第二液とに分けて貯蔵し、使用時に第一液と第二液とを混合して用いる二液型であることが好ましい。
【0072】
本実施形態のシール剤は、コンクリート、アスファルトコンクリート、モルタル、木材および金属からなる群から選択される少なくとも1つの材料からなる構造物などに生じたひび割れを、修復する用途に用いることができる。
また、上述した樹脂組成物の硬化物はセメントを含む材料に対して良好な接着性を有する。そのため、本実施形態のシール剤は、コンクリート、アスファルトコンクリート、モルタルなどのセメントを含む材料からなる構造物、木材および/または金属とセメントを含む材料とからなる構造物のひび割れを修復する用途に特に好適である。
【0073】
本実施形態のシール剤が二液型である場合、第一液と第二液とを混合してから-20℃~常温(25℃)の環境下で放置することにより24時間以内に強度発現性に優れた硬化物を形成できる。
【0074】
本実施形態のシール剤は、本実施形態の樹脂組成物を含むものであれば特に限定されない。したがって、本実施形態のシール剤は、本実施形態の樹脂組成物のみからなるものであってもよいし、本実施形態の樹脂組成物とともに他の成分を含むものであってもよい。他の成分としては、公知のシール剤に含まれる成分が挙げられる。
【0075】
[ひび割れ修復方法]
本実施形態のひび割れ修復方法は、構造物のひび割れ表面に、上述したシール剤を塗布して硬化させる工程を有することを特徴とする。
本実施形態のひび割れ修復方法において、シール剤として二液型のものを用いる場合、まず、上述した樹脂成分と、一般式(I)で表される芳香族3級アミン(C)と、充填材(E)と、さらに必要に応じて上記可塑剤(F)および/または内部離型剤(G)とを含有する第一液と、有機過酸化物(D)を含有する第二液とに分けて貯蔵し、使用時に第一液と第二液とを混合して、シール剤を調製する。
【0076】
次に、構造物のひび割れ上に上記シール剤を塗布する。この時、座金を必要とする注入方法の場合は、座金にシール剤を塗布し、これをひび割れ上に固定する。その後、座金取付部以外のひび割れ上において、ひび割れにそってシール剤を塗布する。このとき、シール剤の厚みや、幅、使用する器具については、特に限定されない。
なお、ここでいう座金とは、注入剤をひびの中に注入するための器具(例えばチューブシリンダー)を固定するためのアダプターである。
【0077】
さらに、構造物のひび割れ内に、ひび割れ注入剤を注入する。ひび割れ注入剤は、特に限定されず、無機系でも有機系でもよい。ひび割れ注入剤が有機系の場合、用いる樹脂種は特に限定されない。
構造物のひび割れ内に、ひび割れ注入剤を注入する方法としては、特に限定されないが、例えば、シリンダーなどを用いて構造物のひび割れ内に直接注入する方法が挙げられる。構造物のひび割れ内にひび割れ注入剤を注入する際に要する圧力は低圧、中圧、高圧のいずれでもよく、特に限定されない。
このようにして構造物のひび割れ内に注入されたひび割れ注入剤は、ひび割れ内で硬化して硬化物となる。
【0078】
次に、必要であれば、構造物のひび割れ上に塗布したシール剤を撤去する。このとき、撤去に用いる器具は限定されない。
【実施例
【0079】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0080】
以下に示す合成例1~合成例4に記載の方法により、ラジカル反応性樹脂(A)(以下、「成分(A)」という場合がある。)と、分子中に(メタ)アクリロイル基を有するラジカル重合性不飽和単量体(B)(以下、「成分(B)」という場合がある。)とを含む樹脂成分(VE1、VE2、VE3、UA1)を得た。
【0081】
(合成例1)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管および温度計を備えた反応装置に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三井化学社製、エポミック(登録商標)R140P、当量189):151g、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(当量157):188g、トリメチロールプロパンジアリルエーテル:129g、テトラヒドロ無水フタル酸:91g、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート:145gを仕込み、90℃まで昇温させた。その温度を維持した状態で、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール:1.0g、メチルハイドロキノン:0.3gを加え、空気を流しながら110℃に昇温し、反応させた。酸価が25mgKOH/gになったところでメタクリル酸:120g、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール:1.0gを添加し、130℃に昇温した。その温度を維持した状態で反応させ、酸価が14mgKOH/gになったところで反応を終了し、成分(A)としてのビニルエステル樹脂と成分(B)としてのジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートの混合物を得た。
【0082】
次いで、この成分(A)と成分(B)の混合物に、パラフィンワックス125°F:1.1gと、成分(B)としてのジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート:289g、フェノキシエチルメタクリレート:670g、アクリロイルモルホリン:167gの3種とを加えた。これにより、35質量%の成分(A)と65質量%の成分(B)とからなるビニルエステル樹脂組成物(VE1)を得た。
【0083】
(合成例2)
合成例1と同様にして、成分(A)としてのビニルエステル樹脂と成分(B)としてのジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートの混合物を得た。この成分(A)と成分(B)の混合物に、パラフィンワックス125°F:1.1gと、成分(B)としてのジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート:289g、フェノキシエチルメタクリレート:547g、ジエチレングリコールジメタクリレート:290gの3種とを加えた。これにより、35質量%の成分(A)と65質量%の成分(B)とからなるビニルエステル樹脂組成物(VE2)を得た。
【0084】
(合成例3)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管および温度計を備えた反応装置に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三井化学社製、エポミック(登録商標)R140P、当量189):189g、トリメチロールプロパンジアリルエーテル:73.2gを仕込み、90℃まで昇温させた。その温度を維持した状態で、メチルハイドロキノン:0.1gを加え、空気を流しながら110℃に昇温し、反応させた。酸価が18mgKOH/gになったところでメタクリル酸:69g、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール:0.5gを添加し、130℃に昇温した。その温度を維持した状態で反応させ、酸価が12mgKOH/gになったところで反応を終了し、成分(A)としてのビニルエステル樹脂を得た。
【0085】
この成分(A)に、パラフィンワックス125°F:0.4gと、ラジカル重合性不飽和単量体(B)としてのジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート:338g、フェノキシエチルメタクリレート:35gを加えた。これにより、47質量%の成分(A)と53質量%の成分(B)とからなるビニルエステル樹脂組成物(VE3)を得た。
【0086】
(合成例4)
撹拌機、還流冷却器、ガス導入管および温度計を備えた反応装置に、4-4’-ジフェニルメタンジイソシアネート:226g(分子量250)、ポリプロピレングリコール:610g(分子量1011)、アクリロイルモルホリン:320g、メトキシエチルメタクリレート:576g、ハイドロキノン:0.3gを仕込み、空気を流しながら60℃まで昇温させた。その温度を維持した状態でジブチルチンジアルレート:0.02gを添加した。その後、70℃に昇温させて、反応させた。赤外吸収スペクトル測定(IR測定)の結果、波数2270cm-1と波数1730cm-1のピーク比に変化が見られなくなったところで、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート:91g、次いでジブチルチンジアルレート:0.06gを加え、75℃に昇温させて反応させた。IR測定の結果、波数2270cm-1のイソシアネートに由来するピークが消失したことを確認して反応を終了し、成分(A)としてのウレタンメタクリレート樹脂と、成分(B)としてのアクリロイルモルホリンおよびメトキシエチルメタクリレートとの混合物を得た。
【0087】
この成分(A)と成分(B)の混合物に、ラジカル重合性不飽和単量体(B)としてのジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート:832g、メタクリル酸ラウリル:448g、メタクリル酸メチル:96gの3種を加えた。これにより、29質量%の成分(A)と、71質量%の成分(B)とからなるウレタンメタクリレート樹脂(UA1)を得た。
【0088】
(実施例1~4)
合成例1~4により合成した樹脂成分(VE1、VE2、VE3、UA1)と、以下に示す、芳香族3級アミン(C)、有機過酸化物(D)、充填剤(E)、可塑剤(F)、内部離型剤(G)及び揺変助剤とを表1に示す割合で23℃の雰囲気下で混合し、実施例1~4の各ラジカル重合性パテ状樹脂組成物を調製し、シール剤とした。なお、表1中、空欄は配合なしを表す。
【0089】
芳香族3級アミン(C)としては、N,N-ジ(β-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン(商品名:PT-2HE、モーリン化学工業株式会社製)を用いた。
有機過酸化物(D)としては、ジベンゾイルパーオキサイド(商品名:ナイパーNS、日油社製)を用いた。
充填材(E)としては、シリカパウダー(商品名:アエロジル(登録商標)200、日本アエロジル社製)を用いた。
可塑剤(F)としては、フタル酸ジブチル(昭和エーテル株式会社製)を用いた。
内部離型剤(G)としては、リン酸エステル(商品名:ゼレックUN、マエダ化成株式会社製)を用いた。
揺変助剤としてBYK R605(商品名、ビックケミー社製)を用いた。
【0090】
(実施例5~8)
可塑剤(F)を使用しなかったこと以外は、実施例1~4と同様にして実施例5~8の各ラジカル重合性パテ状樹脂組成物を調製し、シール剤とした。
【0091】
(実施例9)
さらに内部離型剤(G)を0.1質量部使用したこと以外は、実施例8と同様にして実施例9のラジカル重合性パテ状樹脂組成物を調製し、シール剤とした。
【0092】
(比較例1)
充填材(E)及び揺変助剤を使用しなかったこと以外は実施例7と同様にして比較例1の樹脂組成物を調製し、シール剤とした。
【0093】
(比較例2)
充填材(E)及び揺変助剤を使用しなかったこと以外は実施例8と同様にして比較例2の樹脂組成物を調製し、シール剤とした。
【0094】
(比較例3)
シール剤として、A液とB液とからなる2液型エポキシ樹脂(商品名:クイックメンダー、コニシ株式会社製)を使用した。
【0095】
[ダレ防止性]
実施例1~9及び比較例1、2において、有機過酸化物(D)以外の成分を混合した各パテ状樹脂組成物を、-10℃の低温雰囲気中でそれぞれ24時間放置した。-10℃の低温雰囲気中で24時間放置した各パテ状樹脂組成物に対し、有機過酸化物(D)を混合し、-10℃の低温雰囲気中で硬化するまでの状態におけるダレ防止性を、以下に示す基準により評価した。その結果を表1に示す。
比較例3において、A液とB液を、-10℃の低温雰囲気中でそれぞれ24時間放置した。-10℃の低温雰囲気中で24時間放置したA液とB液とを、重量比で1:1の比率で混合し、-10℃の低温雰囲気中で硬化するまでの状態におけるダレ防止性を、以下に示す基準により評価した。その結果を表1に示す。
ここで、評価にあたっては、一般的なシリンダー工法で用いられる注入座金を用いた。注入座金は注入器を取り付けるための器具である。座金のコンクリートなどへの設置面に対して、シール剤を塗布し、これをコンクリート表面に押し付け、設置した。
「基準」
A:座金に塗布した樹脂組成物がダレず、コンクリート表面に設置した座金がずれ落ちない
C:座金に塗布した樹脂組成物がダレる、あるいはコンクリート表面に座金を設置できない
【0096】
[硬化性]
-10℃の低温雰囲気中で、実施例1~9及び比較例1、2で得られた各ラジカル重合性パテ状樹脂組成物を、-10℃の低温雰囲気中でそれぞれ24時間放置した。-10℃の低温雰囲気中で24時間放置した各ラジカル重合性パテ状樹脂組成物の硬化性を、以下に示す基準により評価した。その結果を表1に示す。
比較例3において、A液とB液を、-10℃の低温雰囲気中でそれぞれ24時間放置した。-10℃の低温雰囲気中で24時間放置したA液とB液とを、重量比で1:1の比率で混合し、得られた混合液を-10℃の低温雰囲気中で24時間放置したが、当該混合液は硬化しなかった。
「基準」
A:硬化している
C:未硬化である
【0097】
[接着性]
実施例1~9及び比較例1、2で得られた各ラジカル重合性パテ状樹脂組成物において、上記[ダレ防止性]の評価及び上記[硬化性]の評価がいずれも「A」であったラジカル重合性パテ状樹脂組成物を、-10℃の低温雰囲気中でそれぞれ24時間放置した後、接着性を以下に示す基準により評価した。その結果を表1に示す。なお、比較例1及び2は、上記[ダレ防止性]の評価において、ダレ防止性が低く座金が設置できなかったため接着性の評価は行わなかった。また、比較例3で調製した混合液は、上記[硬化性]の評価において未硬化であったため接着性の評価は行わなかった。
ここでは、一般的なシリンダー工法で用いられる注入座金を用いた。注入座金は注入器を取り付けるための器具である。座金のコンクリートなどへの設置面に対して、シール剤(ラジカル重合性パテ状樹脂組成物)を塗布し、これをコンクリート表面に押し付け、設置した。コンクリートへのシール剤の塗布は、2mm厚で行った。
評価に関しては、一般的なシリンダー工法の内、低圧注入工法で用いられる注入器および注入用座金を用いた。ここでは0.3MPaの圧力で空気を注入した。
「基準」
A:注入圧に耐えられる
C:注入圧に耐えられず、空気が漏れる
【0098】
[剥離性]
実施例1~9及び比較例1、2で得られた各ラジカル重合性パテ状樹脂組成物において、上記[ダレ防止性]の評価及び上記[硬化性]の評価がいずれも「A」であったラジカル重合性パテ状樹脂組成物を、-10℃の低温雰囲気中でそれぞれ24時間放置した後、剥離性を以下に示す基準により評価した。その結果を表1に示す。なお、比較例1及び2は、上記[ダレ防止性]の評価において、ダレ防止性が低く座金が設置できなかったため剥離性の評価は行わなかった。また、比較例3で調製した混合液は、上記[硬化性]の評価において未硬化であったため剥離性の評価は行わなかった。
評価においては、素手、皮スキ、あるいはスクレーパー等による剥離作業を実施した。
「基準」
A:容易に剥がせ、かつ剥離に伴う設置面の破壊が見られない
B:剥離可能だが設置面表層の破壊を伴う
C:剥がせない
【0099】
【表1】
【0100】
表1に示すように、実施例1~9のラジカル重合性パテ状樹脂組成物は、-10℃の低温環境下でも短時間で硬化し、良好なダレ防止性を有する。また、実施例1~9のラジカル重合性パテ状樹脂組成物の硬化物は良好な接着性を有する。さらに、実施例1~4及び9のラジカル重合性パテ状樹脂組成物の硬化物は、良好な剥離性を有することを確認した。
【0101】
これに対し、充填材(E)を用いない比較例1および比較例2は、-10℃の低温環境下での硬化性を有するものの、ダレ防止性は低く、注入器取付用の座金を設置できなかった。さらに、エポキシ樹脂を用いた比較例3では、ダレ防止性は高いものの、-10℃で24時間以内に硬化しなかった。比較例1~3は、座金を設置できない、あるいは硬化しないため、接着性および剥離性の評価には至らなかった。