(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物、全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物、全固体二次電池用電極、全固体二次電池用固体電解質層、および全固体二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20231226BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231226BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231226BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231226BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2020539391
(86)(22)【出願日】2019-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2019032835
(87)【国際公開番号】W WO2020045227
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2018163944
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】松尾 祐作
(72)【発明者】
【氏名】松村 卓
(72)【発明者】
【氏名】前田 耕一郎
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/033600(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/026583(WO,A1)
【文献】特開2004-227974(JP,A)
【文献】特開2010-205449(JP,A)
【文献】特開平08-250380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/13
H01M 10/0562
H01M 10/0565
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の重合体
(但し、ポリフッ化ビニリデンを除く)、第二の重合体、および溶媒を含む全固体二次電池用バインダー組成物であって、
前記第一の重合体は、前記溶媒に対して難溶性であり、
前記第二の重合体は、ニトリル基含有単量体単位を含み、そして前記溶媒に対して易溶性であ
り、
前記第二の重合体における前記ニトリル基含有単量体単位の含有割合が、5質量%以上30質量%以下である、全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項2】
前記第一の重合体と前記第二の重合体の合計中に占める前記第一の重合体の割合が、10質量%以上90質量%以下である、請求項1に記載の全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項3】
前記溶媒がキシレンと酪酸ブチルの少なくとも一方を含有する、請求項1
または2に記載の全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項4】
固体電解質と、電極活物質と、請求項1~
3の何れかに記載の全固体二次電池用バインダー組成物とを含む、全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物。
【請求項5】
固体電解質と、請求項1~
3の何れかに記載の全固体二次電池用バインダー組成物とを含む、全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物。
【請求項6】
請求項
4に記載の全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物を用いて形成される電極合材層を有する、全固体二次電池用電極。
【請求項7】
請求項
5に記載の全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物を用いて形成される、全固体二次電池用固体電解質層。
【請求項8】
請求項
6に記載の全固体二次電池用電極と、請求項
7に記載の全固体二次電池用固体電解質層との少なくとも一方を備える、全固体二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物、全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物、全固体二次電池用電極、全固体二次電池用固体電解質層、および全固体二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の二次電池は、携帯情報端末や携帯電子機器などの携帯端末に加えて、家庭用小型電力貯蔵装置、自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車など、様々な用途での需要が増加している。そして、用途の広がりに伴い、二次電池には安全性の更なる向上が要求されている。
【0003】
そこで、安全性の高い二次電池として、引火性が高くて漏洩時の発火危険性が高い有機溶媒電解質に代えて、固体電解質を用いた全固体二次電池が注目されている。固体電解質は、例えば、結着材により、固体電解質などの成分が互いに結着されて形成される固体電解質含有層(電極合材層、固体電解質層)として、全固体二次電池内に含有される。
【0004】
ここで、一般に、全固体二次電池においては、集電体上に電極合材層を備える電極(正極および負極)の間に、固体電解質層が配置されている。そして、電極合材層や固体電解質層などの固体電解質含有層の作製には、結着材としての重合体を含む全固体二次電池用バインダー組成物が用いられる。具体的には、固体電解質含有層の形成には、バインダー組成物を用いて調製される固体電解質含有層用スラリー組成物が使用される。
例えば、バインダー組成物と、固体電解質と、電極活物質を含む全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物(以下、「電極合材層用スラリー組成物」と略記する場合がある。)を乾燥することで、電極合材層を形成することができる。また、例えば、バインダー組成物と、固体電解質を含む全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物(以下、「固体電解質層用スラリー組成物」と略記する場合がある。)を乾燥することで、固体電解質層を形成することができる。
【0005】
そして、バインダー組成物に含まれる結着材を改良することで、全固体二次電池の性能を向上させる試みが従来からなされている。
具体的には、例えば特許文献1では、所定範囲内の厚みを有する固体電解質層の形成に際し、結着材として、ゲル構造を有する重合体を含むバインダー組成物を用いると共に、粒子径が異なる2種類の固体電解質粒子を用いることにより、当該固体電解質層を備える全固体二次電池の充放電特性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来のバインダー組成物には、当該バインダー組成物を用いて調製される固体電解質含有層用スラリー組成物を塗布して固体電解質含有層を形成するに際し、固体電解質含有層用スラリー組成物の塗膜の平滑性が損なわれ、均一な厚みを有する固体電解質含有層の形成が困難となる場合があった(すなわち、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性が低下してしまう場合があった)。また、上記従来のバインダー組成物には、全固体二次電池の出力特性を向上させるという点において改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、良好なレベリング性を有する固体電解質含有層用スラリー組成物を調製可能であると共に、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る固体電解質含有層を形成可能な全固体二次電池用バインダー組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、良好なレベリング性を有し、且つ、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る電極合材層を形成可能な全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物を提供することを目的とする。
そして、本発明は、良好なレベリング性を有し、且つ、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る固体電解質層を形成可能な全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物を提供することを目的とする。
更に、本発明は、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る全固体二次電池用電極および全固体二次電池用固体電解質層を提供することを目的とする。
加えて、本発明は、出力特性に優れる全固体二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、所定の2種類の重合体と、溶媒とを含むバインダー組成物を用いれば、当該バインダー組成物を用いて調製される固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を向上させ得ると共に、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、第一の重合体、第二の重合体、および溶媒を含む全固体二次電池用バインダー組成物であって、前記第一の重合体は、前記溶媒に対して難溶性であり、前記第二の重合体は、ニトリル基含有単量体単位を含み、そして前記溶媒に対して易溶性であることを特徴とする。このように、溶媒中に、当該溶媒に対して難溶性である第一の重合体と、当該溶媒に対して易溶性であり且つニトリル基含有単量体単位を含む第二の重合体とを含有するバインダー組成物を用いれば、良好なレベリング性を有する固体電解質含有層用スラリー組成物(電極合材層用スラリー組成物および固体電解質層用スラリー組成物)の調製、並びに、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る固体電解質含有層(電極合材層および固体電解質層)の形成が可能になる。
なお、本発明において、重合体が、溶媒に対して「難溶性」であるとは、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定される「溶媒への不溶分量」が50質量%以上であることを意味し、「易溶性」であるとは、同「溶媒への不溶分量」が50質量%未満であることを意味する。
また、本発明において、「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。
【0011】
ここで、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、前記第一の重合体と前記第二の重合体の合計中に占める前記第一の重合体の割合が、10質量%以上90質量%以下であることが好ましい。第一の重合体と第二の重合体の合計中に占める第一の重合体の割合が上述した範囲内であれば、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を更に向上させつつ、全固体二次電池の出力特性を一層高めることができる。
【0012】
そして、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、前記第二の重合体における前記ニトリル基含有単量体単位の含有割合が、5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。第二の重合体のニトリル基含有単量体単位の含有割合が上述した範囲内であれば、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を更に向上させつつ、全固体二次電池の出力特性を一層高めることができる。
なお、本発明において、重合体を構成する各繰り返し単位(単量体単位)を含有する割合は、1H-NMRおよび13C-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
ここで、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、前記溶媒がキシレンと酪酸ブチルの少なくとも一方を含有することが好ましい。溶媒としてキシレンおよび/または酪酸ブチルを含むバインダー組成物を用いれば、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング特性が更に向上させると共に、固体電解質含有層のイオン伝導度を高めつつ全固体二次電池の出力特性を一層向上させることができる。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物は、固体電解質と、電極活物質と、上述した何れかの全固体二次電池用バインダー組成物とを含むことを特徴とする。このように、固体電解質と、電極活物質と、上述したバインダー組成物の何れかを含む電極合材層用スラリー組成物は、良好なレベリング性を有し、そして当該電極合材層用スラリー組成物によれば、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る電極合材層の形成が可能になる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物は、固体電解質と、上述した何れかの全固体二次電池用バインダー組成物とを含むことを特徴とする。このように、固体電解質と、上述したバインダー組成物の何れかを含む固体電解質層用スラリー組成物は、良好なレベリング性を有し、そして当該固体電解質層用スラリー組成物によれば、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る固体電解質層の形成が可能になる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池用電極は、上述した全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物を用いて形成される電極合材層を有することを特徴とする。このように、上述した電極合材層用スラリー組成物から形成される電極合材層を有する電極によれば、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させることができる。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池用固体電解質層は、上述した全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物を用いて形成されることを特徴とする。このように、上述した固体電解質層用スラリー組成物から形成される固体電解質層によれば、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させることができる。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の全固体二次電池は、上述した全固体二次電池用電極と、上述した全固体二次電池用固体電解質層との少なくとも一方を備えることを特徴とする。このように、少なくとも何れかの固体電解質含有層を、上述したバインダー組成物を含む固体電解質含有層用スラリー組成物を用いて形成すれば、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、良好なレベリング性を有する固体電解質含有層用スラリー組成物を調製可能であると共に、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る固体電解質含有層を形成可能な全固体二次電池用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、良好なレベリング性を有し、且つ、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る電極合材層を形成可能な全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物を提供することができる。
そして、本発明によれば、良好なレベリング性を有し、且つ、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る固体電解質層を形成可能な全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物を提供することができる。
更に、本発明によれば、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る全固体二次電池用電極および全固体二次電池用固体電解質層を提供することができる。
加えて、本発明によれば、出力特性に優れる全固体二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物は、全固体二次電池の製造用途に用いることができ、例えば、全固体二次電池を構成する固体電解質含有層(電極合材層および/または固体電解質層層)の製造に用いる固体電解質含有層用スラリー組成物(全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物および/または全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物)の調製に用いることができる。また、本発明の全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物は、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物を含み、電極合材層の形成に用いることができる。更に、本発明の全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物は、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物を含み、固体電解質層の形成に用いることができる。そして、本発明の全固体二次電池用電極は、本発明の全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物を用いて作製することができる。また、本発明の全固体二次電池用固体電解質層は、本発明の全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物を用いて作製することができる。更に、本発明の全固体二次電池は、本発明の全固体二次電池用電極および/または本発明の全固体二次電池用固体電解質層を備えるものである。
【0020】
(全固体二次電池用バインダー組成物)
本発明のバインダー組成物は、第一の重合体、第二の重合体、および溶媒を少なくとも含有し、任意に、その他の成分を更に含有し得る。ここで、本発明のバインダー組成物において、上記第一の重合体は、上記溶媒に対して難溶性であり、上記第二の重合体は、上記溶媒に対して易溶性である。また、上記第二の重合体は、ニトリル基含有単量体単位を含む。
そして、溶媒中に、上述した第一の重合体および第二の重合体を含むバインダー組成物によれば、良好なレベリング性を有する固体電解質含有層用スラリー組成物を調製することができ、そして、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る固体電解質含有層を形成することができる。
【0021】
なお、本発明のバインダー組成物を用いることで、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を高めると共に、全固体二次電池の出力特性を向上させることができる理由は、明らかではないが、以下の通りであると推察される。
即ち、本発明のバインダー組成物に含まれる第一の重合体は、バインダー組成物の溶媒に対して難溶性であるため、通常、粒子状を呈して溶媒中に微粒子として分散している。このため、バインダー組成物を用いて調製される固体電解質含有層用スラリー組成物中において、第一の重合体が固体電解質や電極活物質などの分散成分同士の間に介在することで、これら分散成分が物理的に接触して凝集することを抑制することができる。一方、本発明のバインダー組成物に含まれる第二の重合体は、バインダー組成物の溶媒に対して易溶性であるため、バインダー組成物を用いて調製される固体電解質含有層用スラリー組成物中においてその分子鎖が十分に広がり、固体電解質含有層用スラリー組成物に適切な粘性を付与することができる。更に、第二の重合体は、ニトリル基含有単量体単位を含むため、固体電解質含有層用スラリー組成物中において、ニトリル基を介して固体電解質に良好に吸着し、固体電解質の分散性を高めることができる。
このように、本発明のバインダー組成物によれば、分散成分の凝集を抑制しうる第一の重合体と、固体電解質含有層用スラリー組成物に適切な粘性を付与しつつ、固体電解質の分散性を向上させうる第二の重合体の寄与が相まって、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を高めることができる。そして、本発明のバインダー組成物を用いて調製された、良好なレベリング性を有する固体電解質含有層用スラリー組成物によれば、固体電解質が良好に遍在してイオン伝導度に優れる固体電解質含有層を得ることができるため、当該固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を向上させることができる。
【0022】
<第一の重合体>
第一の重合体は、本発明のバインダー組成物に含まれる溶媒に対して難溶性である。なお、本発明のバインダー組成物は、第一の重合体として、1種類の重合体を含んでいてもよく、2種類以上の重合体を含んでいてもよい。
【0023】
<<溶媒への不溶分量>>
ここで、第一の重合体の溶媒への不溶分量は、50質量%以上100質量%以下であることが必要であり(即ち、第一の重合体は、溶媒に対して難溶性であり)、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましい。第一の重合体の溶媒への不溶分量が50質量%未満であると、固体電解質や電極活物質の凝集を抑制することができず、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を十分に高めることができない。そして、固体電解質含有層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性が低下する。一方、第一の重合体の溶媒への不溶分量が99質量%以下であれば、第一の重合体が、十分な結着能を有する結着材として良好に機能しうり、固体電解質含有層の接着性向上に寄与することができる。そのため、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。
なお、第一の重合体および第二の重合体などの重合体の「溶媒への不溶分量」は、重合体の調製に用いる単量体の種類および使用量、分子量調整剤の種類および使用量、並びに、反応温度および反応時間などの重合条件を変更することにより調整することができる。
【0024】
<<溶媒中での体積平均粒子径>>
また、第一の重合体の溶媒中での体積平均粒子径は、100nm以上1μm以下であることが好ましい。第一の重合体の溶媒中での体積平均粒子径が100nm以上であれば、第一の重合体の大きさが十分に確保され立体障害として好適に機能しうるため、固体電解質や電極活物質などの分散成分の物理的接触および凝集を良好に抑制することができる。一方、第一の重合体の溶媒中での体積平均粒子径が1μm以下であれば、第一の重合体の単位質量当たりの粒子数が十分に確保されることで、固体電解質や電極活物質などの分散成分の物理的接触および凝集を良好に抑制することができる。したがって、第一の重合体の溶媒中での体積平均粒子径が上述した範囲内であれば、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を更に高めつつ、全固体二次電池の出力特性を一層向上させることができる。
なお、本発明において、「溶媒中での体積平均粒子径」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0025】
<<組成>>
ここで、第一の重合体の組成は、第一の重合体が溶媒に対して難溶性であれば特に限定されないが、固体電解質および電極活物質の凝集を十分に抑制すると共に、固体電解質含有層に柔軟性および接着性を付与して、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させる観点からは、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位を含む重合体(以下、「エステル系重合体」と称する場合がある。)であることが好ましい。以下、第一の重合体がエステル系重合体である場合を一例に挙げて、第一の重合体の組成を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0026】
[エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位]
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位を形成しうるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、例えば、エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステルからなる単量体や、エチレン性不飽和ジカルボン酸のジエステルからなる単量体を用いることができる。
ここで、エチレン性不飽和モノカルボン酸のエステルからなる単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体が挙げられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/又はメタクリルを意味する。
そして、(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、グリシジルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。
また、エチレン性不飽和ジカルボン酸のジエステルからなる単量体としては、ジエチルマレエート、ジブチルマレエート等のマレイン酸ジアルキルエステル;ジエチルフマレート、ジブチルフマレート等のフマル酸ジアルキルエステル;ジエチルイタコネート、ジブチルイタコネート等のイタコン酸ジアルキルエステル;などが挙げられる。
これらの中でも、全固体二次電池の出力特性を更に向上させる観点から、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルアクリレート、エチルアクリレート、ジブチルイタコネート、ジブチルマレエート、ジブチルフマレートが好ましい。なお、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0027】
そして、第一の重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合は、第一の重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以上であることが特に好ましく、99質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることが更に好ましい。第一の重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合が50質量%以上であれば、固体電解質含有層の接着性および柔軟性を十分に確保して、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。一方、第一の重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合が99質量%以下であれば、バインダー組成物の溶媒に対する親和性が過度に高まることもなく、溶媒への不溶分量を確保して固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を十分に向上させることができる。
【0028】
[架橋性単量体単位]
第一の重合体は、上述したエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位に加えて、架橋性単量体単位を含むことが好ましい。ここで、架橋性単量体単位を形成しうる架橋性単量体としては、一分子内にエチレン性不飽和結合を二つ以上有する単量体が挙げられる。より具体的には、架橋性単量体単位としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エチレングリコールジメタクリレートなどの多官能(メタ)アクリレート化合物;ジビニルベンゼンなどの多官能芳香族化合物;が挙げられる。これらの中でも、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性および全固体二次電池の出力特性を更に向上させる観点から、多官能(メタ)アクリレート化合物が好ましく、エチレングリコールジメタクリレートがより好ましい。ここで、架橋性単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0029】
そして、第一の重合体における架橋性単量体単位の含有割合は、第一の重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることが更に好ましく、0.5質量%以上であることが特に好ましく、5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることが更に好ましい。第一の重合体における架橋性単量体単位の含有割合が0.01質量%以上であれば、溶媒への不溶分量を確保して固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を十分に向上させることができる。加えて、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。一方、第一の重合体における架橋性単量体単位の含有割合が5質量%以下であれば、得られる固体電解質含有層の接着性および柔軟性を十分に確保して、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。
【0030】
[その他の繰り返し単位]
第一の重合体は、上述したエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位および架橋性単量体単位以外の繰り返し単位を含むことができる。その他の繰り返し単位としては、上述したエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体および架橋性単量体と共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位を用いることができ、例えば、芳香族モノビニル単量体単位、ニトリル基含有単量体単位が挙げられる。なお、第一の重合体は、1種類のその他の繰り返し単位を含んでいてもよく、2種類以上のその他の繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0031】
―芳香族モノビニル単量体単位―
芳香族モノビニル単量体単位を形成しうる芳香族モノビニル単量体としては、例えば、スチレン、スチレンスルホン酸およびその塩(スチレンスルホン酸ナトリウムなど)、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、4-(tert-ブトキシ)スチレンが挙げられる。これらの中でも、全固体二次電池の出力特性を更に向上させる観点から、スチレンが好ましい。なお、芳香族モノビニル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0032】
そして、第一の重合体が芳香族モノビニル単量体単位を含む場合、第一の重合体における芳香族モノビニル単量体単の含有割合は、第一の重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることが更に好ましく、9質量%以上であることが特に好ましく、30質量%以下であることが好ましく、27質量%以下であることがより好ましく、23質量%以下であることが更に好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。第一の重合体における芳香族モノビニル単量体単位の含有割合が1質量%以上であれば、溶媒への不溶分量を確保して固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を十分に向上させることができる。加えて、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。一方、第一の重合体における芳香族モノビニル単量体単位の含有割合が30質量%以下であれば、得られる固体電解質含有層の接着性および柔軟性を十分に確保して、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。
【0033】
―ニトリル基含有単量体単位―
ニトリル基含有単量体単位を形成しうるニトリル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらの中でも、全固体二次電池の出力特性を更に向上させる観点から、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。なお、ニトリル基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0034】
そして、第一の重合体がニトリル基含有単量体単位を含む場合、第一の重合体におけるニトリル基含有単量体単位の含有割合は、第一の重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることが更に好ましく、9質量%以上であることが特に好ましく、30質量%以下であることが好ましく、27質量%以下であることがより好ましく、23質量%以下であることが更に好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。第一の重合体におけるニトリル基含有単量体単位の含有割合が1質量%以上であれば、固体電解質含有層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質含有層の接着性を十分に高めて、当該固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。一方、第一の重合体におけるニトリル基含有単量体単位の含有割合が30質量%以下であれば、溶媒への不溶分量を確保して固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を十分に向上させることができる。加えて、固体電解質含有層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質含有層が過度に剛直となることもなく、当該固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を十分に向上させることができる。
【0035】
<<第一の重合体の調製方法>>
第一の重合体の調製方法は特に限定されない。第一の重合体は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造される。なお、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、第一の重合体中の所望の単量体単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
なお、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合、各種縮合重合、付加重合などいずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。
【0036】
<第二の重合体>
第二の重合体は、本発明のバインダー組成物に含まれる溶媒に対して易溶性である。なお、本発明のバインダー組成物は、第二の重合体として、1種類の重合体を含んでいてもよく、2種類以上の重合体を含んでいてもよい。
【0037】
<<溶媒への不溶分量>>
ここで、第二の重合体の溶媒への不溶分量は、50質量%未満であることが必要であり(即ち、第二の重合体は、溶媒に対して易溶性であり)、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以下であることが特に好ましく、0質量%(測定限界以下)であることが最も好ましい。第二の重合体の溶媒への不溶分量が50質量%以上であると、固体電解質含有層用スラリー組成物に適切な粘性を付与することができず、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を十分に高めることができない。そして、固体電解質含有層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性が低下する。
【0038】
<<組成>>
ここで、第二の重合体は、少なくともニトリル基含有単量体単位を含む重合体であり、ニトリル基含有単量体単位以外の繰り返し単位(その他の繰り返し単位)を含むことができる
【0039】
[ニトリル基含有単量体単位]
ニトリル基含有単量体単位を形成しうるニトリル基含有単量体としては、「第一の重合体」の項で例示したものと同様のものを使用することができる。これらの中でも、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を更に向上させつつ、全固体二次電池に一層優れた出力特性を発揮させる観点からは、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。なお、ニトリル基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0040】
そして、第二の重合体におけるニトリル基含有単量体単位の含有割合は、第二の重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、0質量%超であることが必要であり、5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以上であることが特に好ましく、30質量%以下であることが好ましく、28質量%以下であることがより好ましく、26質量%以下であることが更に好ましく、25質量%以下であることが特に好ましい。第二の重合体におけるニトリル基含有単量体単位の含有割合が0質量%であると(即ち、第二の重合体がニトリル基含有単量体単位を含まないと)、第二の重合体の結着能が低下するため、固体電解質が良好に分散した固体電解質含有層用スラリー組成物を調製することができず、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性が低下する。そして、固体電解質含有層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性が低下する。一方、第二の重合体におけるニトリル基含有単量体単位の含有割合が30質量%以下であれば、第二の重合体の溶媒への溶解性が確保され、固体電解質が十分良好に分散した固体電解質含有層用スラリー組成物を調製することができる。そのため、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性を十分に確保すると共に、固体電解質含有層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。
【0041】
[その他の繰り返し単位]
第二の重合体が、上述したニトリル基含有単量体単位以外に含みうるその他の繰り返し単位としては、上述したニトリル基含有単量体と共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位であれば特に限定されないが、例えば、脂肪族共役ジエン単量体単位、脂肪族共役ジエン単量体単位の水素化物からなる繰り返し単位(脂肪族共役ジエン水素化物単位)、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位が挙げられる。ここで、第二の重合体は、1種類のその他の繰り返し単位を含んでいてもよく、2種類以上のその他の繰り返し単位を含んでいてもよい。
なお、以下、「脂肪族共役ジエン単量体単位」と「脂肪族共役ジエン水素化物単位」を纏めて、「脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位」と称する場合がある。
【0042】
そして、第二の重合体の具体例としては、例えば、以下の(A)~(C):
(A)ニトリル基含有単量体単位と、脂肪族共役ジエン単量体単位を含み、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位を含まない重合体およびその水素化物(以下、これらを纏めて第二の重合体(A)と略記する場合がある。)、
(B)ニトリル基含有単量体単位と、脂肪族共役ジエン単量体単位と、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位とを含む重合体およびその水素化物(以下、これらを纏めて第二の重合体(B)と略記する場合がある。)、並びに、
(C)ニトリル基含有単量体単位と、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位とを含み、脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位を含まない重合体(以下、第二の重合体(C)と略記する場合がある。)
が挙げられる。
以下、第二の重合体が、第二の重合体(A)、第二の重合体(B)、および第二の重合体(C)の何れかである場合を例に挙げて、第二の重合体の組成を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、第二の重合体としては、第二の重合体(A)~(C)の中から1種類単独で使用してもよく、第二の重合体(A)~(C)の中から2種類以上組み合わせて使用してもよい。そして、重合体(A)~(C)の中でも、電極活物質、導電材、および固体電解質の全てに対する親和性に特に優れるためと推察されるが、これらの分散性を高めることで固体電解質含有層用スラリー組成物(特には、電極合材層用スラリー組成物)のレベリング性をより一層向上させる観点から、第二の重合体(B)が好ましい。
【0043】
―第二の重合体(A)―
第二の重合体(A)は、ニトリル基含有単量体単位に加え、脂肪族共役ジエン単量体単位と脂肪族共役ジエン水素化物単位の少なくとも一方を少なくとも含む。なお、第二の重合体(A)は、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位以外であれば特に限定されず、ニトリル基含有単量体単位と脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位に該当しない任意の繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0044】
脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位を形成しうる脂肪族共役ジエン単量体としては、特に限定されることなく、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンなどが挙げられる。これらの中でも、固体電解質含有層の柔軟性を十分に確保しつつ、全固体二次電池の出力特性を更に向上させる観点から、1,3-ブタジエンが好ましい。なお、脂肪族共役ジエン単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。換言すると、重合体(A)は、脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位として、例えば、1,3-ブタジエン単位、1,3-ブタジエン水素化物単位、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)単位、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)水素化物単位、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン単位、および2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン水素化物単位からなる群から選択される少なくとも1つを含むことができ、1,3-ブタジエン単位と1,3-ブタジエン水素化物単位の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0045】
そして、第二の重合体(A)における脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位の含有割合(即ち、脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合と脂肪族共役ジエン水素化物単位の含有割合の合計)は、当該重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、70質量%以上であることが好ましく、72質量%以上であることがより好ましく、74質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以下であることが好ましく、92質量%以下であることがより好ましく、88質量%以下であることが更に好ましく、80質量%以下であることが特に好ましい。第二の重合体(A)における脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位の含有割合が70質量%以上であれば、固体電解質含有層の柔軟性が確保され、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。一方、第二の重合体(A)における脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位の含有割合が95質量%以下であれば、第二の重合体(A)の強度が確保されて、固体電解質含有層に良好な接着性を発揮させることができる。そのため、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を十分に向上させることができる。
【0046】
―第二の重合体(B)―
第二の重合体(B)は、ニトリル基含有単量体単位に加え、脂肪族共役ジエン単量体単位と脂肪族共役ジエン水素化物単位の少なくとも一方と、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位とを含む。なお、第二の重合体(B)は、ニトリル基含有単量体単位と、脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位と、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位以外の任意の繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0047】
脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位を形成しうる脂肪族共役ジエン単量体としては、「第二の重合体(A)」の項で例示したものと同様のものを使用することができる。これらの中でも、固体電解質含有層の柔軟性を十分に確保しつつ、全固体二次電池の出力特性を更に向上させる観点から、1,3-ブタジエンが好ましい。なお、脂肪族共役ジエン単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。換言すると、重合体(B)は、脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位として、例えば、1,3-ブタジエン単位、1,3-ブタジエン水素化物単位、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)単位、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)水素化物単位、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン単位、および2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン水素化物単位からなる群から選択される少なくとも1つを含むことができ、1,3-ブタジエン単位と1,3-ブタジエン水素化物単位の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0048】
そして、第二の重合体(B)における脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位の含有割合(即ち、脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合と脂肪族共役ジエン水素化物単位の含有割合の合計)は、当該重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましく、60質量%以下であることが特に好ましい。第二の重合体(B)における脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位の含有割合が30質量%以上であれば、固体電解質含有層の柔軟性が確保され、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。一方、第二の重合体(B)における脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位の含有割合が90質量%以下であれば、第二の重合体(B)の強度が確保されて、固体電解質含有層に良好な接着性を発揮させることができる。そのため、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を十分に向上させることができる。
【0049】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位を形成しうるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、「第一の重合体」の項で例示したものと同様のものを使用することができる。これらの中でも、固体電解質含有層の柔軟性を十分に確保しつつ、全固体二次電池の出力特性を更に向上させる観点から、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレートが好ましく、n-ブチルアクリレート、ジブチルイタコネートがより好ましい。なお、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0050】
そして、第二の重合体(B)におけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位は、当該重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、5質量%以上であることが好ましく、8質量%以上であることがより好ましく、12質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以上であることが特に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、45質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが更に好ましい。第二の重合体(B)におけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合が5質量%以上であれば、固体電解質含有層の柔軟性が確保され、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。一方、第二の重合体(B)におけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合が50質量%以下であれば、第二の重合体(B)の強度が確保されて、固体電解質含有層に良好な接着性を発揮させることができる。そのため、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を十分に向上させることができる。
【0051】
―第二の重合体(C)―
第二の重合体(C)は、ニトリル基含有単量体単位に加え、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位を含む。なお、第二の重合体(C)は、脂肪族共役ジエン単量体(水素化物)単位以外であれば特に限定されず、ニトリル基含有単量体単位とエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位に該当しない任意の繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0052】
エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位を形成しうるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、「第一の重合体」の項で例示したものと同様のものを使用することができる。ここで、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そして、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としては、固体電解質含有層の柔軟性を十分に確保しつつ、全固体二次電池の出力特性を更に向上させる観点から、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、ジブチルイタコネートが好ましい。
【0053】
そして、第二の重合体(C)におけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位は、当該重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、70質量%以上であることが好ましく、72質量%以上であることがより好ましく、74質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以下であることが好ましく、92質量%以下であることがより好ましく、88質量%以下であることが更に好ましい。第二の重合体(C)におけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合が70質量%以上であれば、固体電解質含有層の柔軟性が確保され、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。一方、第二の重合体(C)におけるエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合が95質量%以下であれば、第二の重合体(C)の強度が確保されて、固体電解質含有層に良好な接着性を発揮させることができる。そのため、固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を十分に向上させることができる。
【0054】
<<第二の重合体の調製方法>>
第二の重合体の調製方法は特に限定されない。第二の重合体は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合し、任意に水素添加反応に供することにより製造される。なお、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、第二の重合体中の所望の単量体単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
なお、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合、各種縮合重合、付加重合などいずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。加えて、水素添加反応は、特に限定されず、既知の水素添加反応を採用することができる。
【0055】
<第一の重合体と第二の重合体の含有量比>
ここで、上述した第一の重合体と、上述した第二の重合体の合計中に占める第一の重合体の割合は、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましい。第一の重合体と第二の重合体の合計量中に占める第一の重合体の量の割合が10質量%以上であれば、固体電解質含有層用スラリー組成物中において、固体電解質や電極活物質などの分散成分の凝集を抑制することができる。そのため、得られる固体電解質含有層のイオン伝導度を高めることができ、全固体二次電池の出力特性を一層向上させることができる。一方、第一の重合体と第二の重合体の合計量中に占める第一の重合体の量の割合が90質量%以下であれば、固体電解質含有層用スラリー組成物が十分に良好な粘性を発現することにより、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング特性が更に向上する。そして、固体電解質含有層用スラリー組成物を用いて形成される固体電解質含有層を備える全固体二次電池の出力特性を一層向上させることができる。
【0056】
<溶媒>
本発明のバインダー組成物が含む溶媒としては、特に限定されることなく、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの環状脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;酪酸ブチル;ジイソブチルケトン;n-ブチルエーテルが挙げられる。これらの溶媒は、単独で、或いは、2種以上を混合して用いることができる。そしてこれらの中でも、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング特性が更に向上させると共に、固体電解質含有層のイオン伝導度を高めつつ全固体二次電池の出力特性を一層向上させる観点から、キシレン、酪酸ブチルが好ましい。
【0057】
<その他の成分>
本発明のバインダー組成物が任意に含むことができるその他の成分としては、分散剤、レベリング剤、消泡剤、導電材および補強材などが挙げられる。更に、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合には、その他の成分としては、リチウム塩も挙げられる。これらのその他の成分は、電池反応に影響を及ぼさないものであれば、特に制限されない。
【0058】
<バインダー組成物の調製方法>
本発明のバインダー組成物の調製方法は、特に限定されない。例えば、第一の重合体が溶媒中に分散してなる分散液と、第二の重合体が溶媒中に溶解してなる溶液とを既知の方法で混合し、任意にその他の成分を添加することで、第一の重合体と、第二の重合体と、溶媒とを含むバインダー組成物を調製することができる。
【0059】
(全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物)
本発明の電極合材層用スラリー組成物は、固体電解質と、電極活物質と、上述した本発明のバインダー組成物とを含む。より具体的には、本発明の電極合材層用スラリー組成物は、固体電解質と、電極活物質と、上述した第一の重合体と、上述した第二の重合体と、それら以外に任意に含まれる成分(任意成分)とが、溶媒中に分散および/または溶解してなる組成物である。
そして、本発明の電極合材層用スラリー組成物は本発明のバインダー組成物を含んでいるため、本発明の電極合材層用スラリー組成物を用いて電極合材層を作製すれば、当該電極合材層を備える電極により、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させることができる。
【0060】
<固体電解質>
固体電解質としては、リチウムイオン等の電荷担体の伝導性を有していれば特に限定されず、無機固体電解質および高分子固体電解質の何れも用いることができる。なお、固体電解質は、無機固体電解質と高分子固体電解質との混合物であってもよい。
【0061】
<<無機固体電解質>>
無機固体電解質としては、特に限定されることなく、結晶性の無機イオン伝導体、非晶性の無機イオン伝導体またはそれらの混合物を用いることができる。そして、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合には、無機固体電解質としては、通常は、結晶性の無機リチウムイオン伝導体、非晶性の無機リチウムイオン伝導体またはそれらの混合物を用いることができる。
なお、以下では、一例として全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物が全固体リチウムイオン二次電池電極合材層用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
そして、結晶性の無機リチウムイオン伝導体としては、Li3N、LISICON(Li14Zn(GeO4)4)、ペロブスカイト型Li0.5La0.5TiO3、ガーネット型Li7La3Zr2O10、LIPON(Li3+yPO4-xNx)、Thio-LISICON(Li3.75Ge0.25P0.75S4)などが挙げられる。
また、非晶性の無機リチウムイオン伝導体としては、ガラスLi-Si-S-O、Li-P-Sなどが挙げられる。
【0062】
上述した中でも、全固体リチウムイオン二次電池用の無機固体電解質としては、導電性の観点から、非晶性の無機リチウムイオン伝導体が好ましく、LiおよびPを含む非晶性の硫化物がより好ましい。LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、リチウムイオン伝導性が高いため、無機固体電解質として用いることで電池の内部抵抗を低下させることができると共に、出力特性を向上させることができる。
【0063】
なお、LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、電池の内部抵抗低下および出力特性向上という観点から、Li2SとP2S5とからなる硫化物ガラスであることがより好ましく、Li2S:P2S5のモル比が65:35~85:15であるLi2SとP2S5との混合原料から製造された硫化物ガラスであることが特に好ましい。また、LiおよびPを含む非晶性の硫化物は、Li2S:P2S5のモル比が65:35~85:15のLi2SとP2S5との混合原料をメカノケミカル法によって反応させて得られる硫化物ガラスセラミックスであることが好ましい。なお、リチウムイオン伝導度を高い状態で維持する観点からは、混合原料は、Li2S:P2S5のモル比が68:32~80:20であることが好ましい。
【0064】
そして、全固体リチウムイオン二次電池用の無機固体電解質のリチウムイオン伝導度は、特に限定されることなく、1×10-4S/cm以上であることが好ましく、1×10-3S/cm以上であることがさらに好ましい。
【0065】
なお、無機固体電解質は、イオン伝導性を低下させない程度において、上記Li2S、P2S5の他に出発原料としてAl2S3、B2S3およびSiS2からなる群より選ばれる少なくとも1種の硫化物を含んでいてもよい。かかる硫化物を加えると、無機固体電解質中のガラス成分を安定化させることができる。
同様に、無機固体電解質は、Li2SおよびP2S5に加え、Li3PO4、Li4SiO4、Li4GeO4、Li3BO3およびLi3AlO3からなる群より選ばれる少なくとも1種のオルトオキソ酸リチウムを含んでいてもよい。かかるオルトオキソ酸リチウムを含ませると、無機固体電解質中のガラス成分を安定化させることができる。
【0066】
そして、無機固体電解質の個数平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、7μm以下であることが更に好ましく、5μm以下であることが特に好ましい。無機固体電解質の個数平均粒子径が0.1μm以上であれば、ハンドリングが容易であると共に、電極合材層用スラリー組成物を用いて形成される電極合材層の接着性を十分に高めることができる。一方、無機固体電解質の個数平均粒子径が20μm以下であれば、無機固体電解質の表面積を十分に確保し、全固体二次電池の出力特性を十分に向上させることができる。
なお、本発明において、無機固体電解質および電極活物質の「個数平均粒子径」は、100個の無機固体電解質および電極活物質について、それぞれ電子顕微鏡にて観察し、JIS Z8827-1:2008に従って粒子径を測定し、平均値を算出することにより求めることができる。
【0067】
<<高分子固体電解質>>
高分子固体電解質としては、ポリエチレンオキサイド誘導体およびポリエチレンオキサイド誘導体を含む重合体、ポリプロピレンオキサイド誘導体およびポリプロピレンオキサイド誘導体を含む重合体、リン酸エステル重合体、並びに、ポリカーボネート誘導体およびポリカーボネート誘導体を含む重合体等に電解質塩を含有させたものが挙げられる。
【0068】
そして、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合、電解質塩としては、特に限定されることなく、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などの含フッ素リチウム塩が挙げられる。
【0069】
<<電極活物質>>
電極活物質は、全固体二次電池の電極において電子の受け渡しをする物質である。そして、例えば全固体二次電池が全固体リチウムイオン二次電池の場合には、電極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
なお、以下では、一例として全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物が全固体リチウムイオン二次電池電極合材層用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0070】
そして、全固体リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定されることなく、無機化合物からなる正極活物質と、有機化合物からなる正極活物質とが挙げられる。なお、正極活物質は、無機化合物と有機化合物との混合物であってもよい。
【0071】
無機化合物からなる正極活物質としては、例えば、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物(リチウム含有複合金属酸化物)、遷移金属硫化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、Fe、Co、Ni、Mn等が使用される。正極活物質に使用される無機化合物の具体例としては、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合金属酸化物(Li(Co Mn Ni)O2)、Ni-Co-Alのリチウム含有金属複合酸化物、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2、LiMn2O4)、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、LiFeVO4等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS2、TiS3、非晶質MoS2等の遷移金属硫化物;Cu2V2O3、非晶質V2O-P2O5、MoO3、V2O5、V6O13等の遷移金属酸化物;などが挙げられる。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。
【0072】
有機化合物からなる正極活物質としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N-フルオロピリジニウム塩などが挙げられる。
【0073】
また、全固体リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、グラファイトやコークス等の炭素の同素体が挙げられる。なお、炭素の同素体からなる負極活物質は、金属、金属塩、酸化物などとの混合体や被覆体の形態で利用することもできる。また、負極活物質としては、ケイ素、錫、亜鉛、マンガン、鉄、ニッケル等の酸化物または硫酸塩;金属リチウム;Li-Al、Li-Bi-Cd、Li-Sn-Cd等のリチウム合金;リチウム遷移金属窒化物;シリコーン;なども使用できる。
【0074】
電極活物質の個数平均粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。電極活物質の個数平均粒子径が0.1μm以上であれば、ハンドリングが容易であると共に、得られる電極合材層の接着性を十分に高めることができる。一方、電極活物質の個数平均粒子径が40μm以下であれば、電極活物質の表面積を十分に確保し、全固体二次電池の出力特性を十分に向上させることができる。
【0075】
なお、電極合材層用スラリー組成物に含まれる固体電解質の量は、電極活物質と固体電解質との合計量(100質量%)中に占める固体電解質の比率が10質量%以上となる量であることが好ましく、20質量%以上となる量であることがより好ましく、70質量%以下となる量であることが好ましく、60質量%以下となる量であることがより好ましい。固体電解質の比率が上記下限値以上であれば、イオン伝導性を十分に確保し、電極活物質を有効に活用して、全固体二次電池の容量を十分に高めることができる。また、固体電解質の比率が上記上限値以下であれば、電極活物質の量を十分に確保し、全固体二次電池の容量を十分に高めることができる。
【0076】
<<第一の重合体>>
電極合材層用スラリー組成物には、「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で上述した第一の重合体が含まれる。
そして、電極合材層用スラリー組成物中に含まれる第一の重合体の量は、電極合材層用スラリー組成物中の全固形分(電極活物質、固体電解質、第一の重合体、第二の重合体、および導電材などの合計)100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、0.7質量部以上であることが更に好ましく、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、1.5質量部以下であることが更に好ましく、1.3質量部以下であることが特に好ましい。電極合材層用スラリー組成物中の第一の重合体の含有量が、全固形分100質量部当たり0.1質量部以上であれば、電極合材層用スラリー組成物中で固体電解質などの分散成分の凝集を十分に抑制して、当該スラリー組成物を用いて形成される電極合材層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。一方、電極合材層用スラリー組成物中の第一の重合体の含有量が、全固形分100質量部当たり5質量部以下であれば、第一の重合体によって電極合材層のイオン伝導度が低下するのを抑制して、全固体二次電池に良好な出力特性を発揮させることができる。
【0077】
<<第二の重合体>>
電極合材層用スラリー組成物には、「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で上述した第二の重合体が含まれる。
そして、電極合材層用スラリー組成物中に含まれる第二の重合体の量は、電極合材層用スラリー組成物中の全固形分(電極活物質、固体電解質、第一の重合体、第二の重合体、および導電材などの合計)100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、0.7質量部以上であることが更に好ましく、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、1.5質量部以下であることが更に好ましく、1.3質量部以下であることが特に好ましい。電極合材層用スラリー組成物中の第二の重合体の含有量が、全固形分100質量部当たり0.1質量部以上であれば、電極合材層用スラリー組成物に十分良好な粘性を付与して、電極合材層用スラリー組成物のレベリング性を更に向上させることができる。更には、全固体二次電池に一層優れた出力特性を発揮させることができる。一方、電極合材層用スラリー組成物中の第二の重合体の含有量が、全固形分100質量部当たり5質量部以下であれば、第二の重合体によって電極合材層のイオン伝導度が低下するのを抑制して、全固体二次電池に良好な出力特性を発揮させることができる。
【0078】
<<任意成分および溶媒>>
任意成分および溶媒としては、特に限定されない。任意成分としては、例えば「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で「その他の成分」として例示した成分を用いることができる。また、溶媒としては、例えば、「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で例示した溶媒を用いることができる。
【0079】
<<電極合材層用スラリー組成物の調製方法>>
電極合材層用スラリー組成物は、上述した各成分を混合して得られる。上記のスラリー組成物の各成分の混合法は特に限定はされないが、例えば、攪拌式、振とう式、および回転式などの混合装置を使用した方法が挙げられる。また、ホモジナイザー、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、および遊星式混練機などの分散混練装置を使用した方法が挙げられ、電極活物質および/または固体電解質の凝集を抑制できるという観点から、遊星式混練機(自転公転ミキサーなど)、ボールミル又はビーズミルを使用した方法が好ましい。
【0080】
(全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物)
本発明の固体電解質層用スラリー組成物は、固体電解質と、上述した本発明のバインダー組成物とを含む。より具体的には、本発明の固体電解質層用スラリー組成物は、固体電解質と、上述した第一の重合体と、上述した第二の重合体と、それら以外に任意に含まれる成分(任意成分)とが、溶媒中に分散および/または溶解してなる組成物である。
そして、本発明の固体電解質層用スラリー組成物は本発明のバインダー組成物を含んでいるため、本発明の固体電解質層用スラリー組成物を用いて固体電解質層を作製すれば、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させることができる。
【0081】
<固体電解質>
固体電解質としては、「全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物」の項で例示したものと同様のものを用いることができる。そして、固体電解質層用スラリー組成物に含まれる固体電解質の好適例および好適性状等は、電極合材層用スラリー組成物に含まれる固体電解質の好適例および好適性状等と同じである。
【0082】
<<第一の重合体>>
固体電解質層用スラリー組成物には、「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で上述した第一の重合体が含まれる。
そして、固体電解質層用スラリー組成物中に含まれる第一の重合体の量は、固体電解質100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、0.7質量部以上であることが更に好ましく、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、1.5質量部以下であることが更に好ましく、1.3質量部以下であることが特に好ましい。固体電解質層用スラリー組成物中の第一の重合体の含有量が、固体電解質100質量部当たり0.1質量部以上であれば、固体電解質層用スラリー組成物中で固体電解質の凝集を十分に抑制して、当該スラリー組成物を用いて形成される固体電解質層を備える全固体二次電池の出力特性を更に向上させることができる。一方、固体電解質層用スラリー組成物中の第一の重合体の含有量が、固体電解質100質量部当たり5質量部以下であれば、第一の重合体によって固体電解質層のイオン伝導度が低下するのを抑制して、全固体二次電池に良好な出力特性を発揮させることができる。
【0083】
<<第二の重合体>>
固体電解質層用スラリー組成物には、「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で上述した第二の重合体が含まれる。
そして、固体電解質層用スラリー組成物中に含まれる第二の重合体の量は、固体電解質100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、0.7質量部以上であることが更に好ましく、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましく、1.5質量部以下であることが更に好ましく、1.3質量部以下であることが特に好ましい。固体電解質層用スラリー組成物中の第二の重合体の含有量が、固体電解質100質量部当たり0.1質量部以上であれば、固体電解質層用スラリー組成物に十分良好な粘性を付与して、固体電解質層用スラリー組成物のレベリング性を更に向上させることができる。更には、全固体二次電池に一層優れた出力特性を発揮させることができる。一方、電極合材層用スラリー組成物中の第二の重合体の含有量が、固体電解質100質量部当たり5質量部以下であれば、第二の重合体によって固体電解質層のイオン伝導度が低下するのを抑制して、全固体二次電池に良好な出力特性を発揮させることができる。
【0084】
<<任意成分および溶媒>>
任意成分および溶媒としては、特に限定されない。任意成分としては、例えば「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で「その他の成分」として例示した、分散剤、レベリング剤、消泡剤などを用いることができる。また、溶媒としては、例えば、「全固体二次電池用バインダー組成物」の項で例示した溶媒を用いることができる。
【0085】
(全固体二次電池用電極)
上述した本発明の電極合材層用スラリー組成物を用いて、本発明の全固体二次電池用電極を作製することができる。例えは、本発明の電極合材層用スラリー組成物を用いて集電体上に電極合材層を形成することで、集電体と、集電体上に電極合材層を備える電極を得ることができる。そして、本発明の電極合材層用スラリー組成物から形成される電極合材層を備える、本発明の電極によれば、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させることができる。
【0086】
<集電体>
集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するとの観点から、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などの金属材料が好ましい。中でも、正極用としてはアルミニウムが特に好ましく、負極用としては銅が特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001mm以上0.5mm以下程度のシート状のものが好ましい。集電体は、電極合材層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、集電体と電極合材層との接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0087】
<電極合材層>
電極合材層は、上述した通り、本発明の電極合材層用スラリー組成物を用いて形成される。具体的には、電極合材層は、本発明の電極合材層用スラリー組成物の乾燥物よりなり、当該電極合材層には、少なくとも、固体電解質と、電極活物質と、第一の重合体と、第二の重合体とが含まれている。なお、電極合材層中に含まれている各成分は、電極合材層用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、電極合材層用スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
【0088】
<全固体二次電池用電極の製造方法>
電極は、例えば、本発明の電極合材層用スラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布された電極合材層用スラリー組成物を乾燥して電極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て製造される。
【0089】
<<塗布工程>>
電極合材層用スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗りなどが挙げられる。
また、塗布量は、特に限定されず、所望の固体電解質層の厚み等に応じて適宜設定することができる。
【0090】
<<乾燥工程>>
集電体上の電極合材層用スラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、乾燥方法としては、温風、熱風、又は低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥が挙げられる。乾燥条件は、応力集中が起こって電極合材層に亀裂が入ったり、電極合材層が集電体から剥離したりしない程度の条件の中で、できるだけ短時間に溶媒が揮発するように調整することが好ましい。
具体的な乾燥温度としては、50℃以上250℃以下であることが好ましく、80℃以上200℃以下が好ましい。上記範囲とすることにより、第一の重合体および/または第二の重合体の熱分解を抑制して良好な電極合材層を形成することが可能となる。乾燥時間については、特に限定されることはないが、通常10分以上60分以下の範囲で行われる。
なお、乾燥後の電極をプレスすることにより電極を安定させてもよい。プレス方法は、金型プレスやカレンダープレスなどの方法が挙げられるが、限定されるものではない。
【0091】
上述のようにして得られる電極における電極合材層の目付量は、特に限定されないが、1.0mg/cm2以上20.0mg/cm2以下であることが好ましく、5.0mg/cm2以上15.0mg/cm2以下であることがより好ましい。
【0092】
(全固体二次電池用固体電解質層)
上述した本発明の固体電解質層用スラリー組成物を用いて、本発明の固体電解質層を作製することができる。そして、本発明の固体電解質層用スラリー組成物を用いて作製される、本発明の固体電解質層によれば、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させることができる。
【0093】
ここで、本発明の固体電解質層は、上述した通り、本発明の固体電解質層用スラリー組成物を用いて形成される。具体的には、固体電解質層は、本発明の固体電解質層用スラリー組成物の乾燥物よりなり、当該固体電解質層には、少なくとも、固体電解質と、第一の重合体と、第二の重合体とが含まれている。なお、固体電解質層中に含まれている各成分は固体電解質層用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、固体電解質層用スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
【0094】
<全固体二次電池用固体電解質層の製造方法>
固体電解質層を形成する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
1)本発明の固体電解質層用スラリー組成物を電極上(通常、電極合材層の表面。以下同じ。)に塗布し、次いで乾燥することで、電極上に固体電解質層を形成する方法;
2)本発明の固体電解質層用スラリー組成物を基材上に塗布し、乾燥した後、得られた固体電解質層を電極上に転写することで、電極上に固体電解質層を形成する方法;および、
3)本発明の固体電解質層用スラリー組成物を基材上に塗布し、乾燥して得られた固体電解質層用スラリー組成物の乾燥物を粉砕して粉体とし、次いで、得られた粉体を層状に成型することで、自立可能な固体電解質層を形成する方法。
【0095】
上述した1)~3)の方法で用いられる、塗布、乾燥、転写、粉砕、成型などの方法としては、何れも既知の方法を採用することができる。
【0096】
そして、上述のようにして得られる固体電解質層の厚みは、特に限定されないが、10μm以上500μm以下であることが好ましく、20μm以上300μm以下であることがより好ましく、30μm以上200μm以下であることが更に好ましい。固体電解質層の厚みが上述した範囲内であることで、全固体二次電池の内部抵抗を小さくすることができ、当該全固体二次電池に更に優れた出力特性を発揮させることができる。なお、固体電解質層の厚さが10μm以上であることで、全固体二次電池内部における正極と負極の短絡を十分抑制することができる。
【0097】
(全固体二次電池)
本発明の全固体二次電池は、上述した本発明の電極と、上述した本発明の固体電解質層の少なくとも一方を備える。即ち、本発明の全固体二次電池は、正極合材層を備える正極、負極合材層を備える負極、および固体電解質層を備え、正極合材層、負極合材層、および固体電解質層からなる群から選択される少なくとも1つが、上述した本発明のバインダー組成物を含む固体電解質含有層用スラリー組成物(電極合材層用スラリー組成物または固体電解質層用スラリー組成物)を用いて形成されている。
【0098】
そして、本発明の全固体二次電池は、正極合材層、負極合材層、および/または固体電解質層の少なくとも1つに、本発明のバインダー組成物に由来する第一の重合体および第二の重合体が含まれるため、出力特性などの電池特性に優れている。
【0099】
なお、本発明の全固体二次電池に使用しうる、本発明の電極合材層用スラリー組成物を用いて形成される電極合材層を有する本発明の電極以外の電極(正極および負極)としては、本発明の電極合材層用スラリー組成物を用いてなる電極合材層を有さないものであれば特に限定されることなく、任意の電極を用いることができる。
【0100】
また、本発明の全固体二次電池に使用しうる、本発明の固体電解質層用スラリー組成物を用いて形成される本発明の固体電解質層以外の固体電解質層としては、本発明の固体電解質層用スラリー組成物を用いて形成されていないものであれば特に限定されることなく、任意の固体電解質層を用いることができる。
【0101】
そして、本発明の全固体二次電池は、正極と負極とを、正極の正極合材層と負極の負極合材層とが固体電解質層を介して対向するように積層し、任意に加圧して積層体を得た後、電池形状に応じて、そのままの状態で、または、巻く、折るなどして電池容器に入れ、封口することにより得ることができる。なお、必要に応じて、エキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを電池容器に入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をする事もできる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【実施例】
【0102】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
そして、実施例および比較例において、重合体の組成、溶媒への不溶分量および溶媒中での体積平均粒子径、負極合材層用スラリー組成物および固体電解質層用スラリー組成物のレベリング性、固体電解質層のリチウムイオン伝導度、ならびに、全固体二次電池の出力特性は、以下の方法で測定、評価した。
【0103】
<組成>
重合体の水分散液100gをメタノール1Lで凝固させた後、温度60℃で12時間真空乾燥し、乾燥重合体を得た。得られた乾燥重合体を1H-NMRで分析し、得られたスペクトルのピーク面積に基づいて、重合体に含まれる繰り返し単位の含有量の比(質量比)を算出した。
<溶媒への不溶分量>
重合体の水分散液を、50%湿度、23℃~25℃の環境下で乾燥させて、厚み3±0.3mmのフィルムを作製した。次いで、作製したフィルムを5mm角に裁断してフィルム片を用意した。これらのフィルム片約1gを精秤し、精秤されたフィルム片の重量をW0とした。そして、精秤したフィルム片を、バインダー組成物の溶媒(温度25℃)100gに24時間浸漬した。24時間浸漬後、溶媒からフィルム片を引き揚げ、引き揚げたフィルム片を105℃で3時間真空乾燥して、その重量(不溶分の重量)W1を精秤した。そして、下記式に従って、溶媒への不溶分量(%)を算出した。
溶媒への不溶分量(%)=W1/W0×100
<溶媒中での体積平均粒子径>
重合体の固形分濃度を1.0質量%に調整した当該重合体の溶媒(キシレンまたは酪酸ブチル)分散液を測定試料とした。この測定試料について、レーザー回折式粒子径分布測定装置(島津製作所社製、製品名「SALD-3100」)により測定された粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を、重合体の溶媒中での体積平均粒子径とした。
<レベリング性>
内径30mm、高さ120mmであり、底面から55mmおよび85mmの高さに標線(それぞれ、A線およびB線)が付された、ガラス製の平底円筒型透明容器に、スラリー組成物(固体電解質層用スラリー組成物または負極合材層用スラリー組成物)をA線まで充填し、ゴム栓により容器を封止した。封止後、25℃環境下で10分間、直立状態で放置した。放置後、容器を倒して水平状態として、水平状態としてからスラリー組成物の液面の先端がB線を通過するまでの時間Tを測定し、以下の基準で評価した。時間Tが短いほど、スラリー組成物がレベリング性に優れることを意味する。
AA:時間Tが1秒未満
A:時間Tが1秒以上3秒未満
B:時間Tが3秒以上5秒未満
C:時間Tが5秒以上10秒未満
D:時間Tが10秒以上
<リチウムイオン伝導度>
固体電解質層用スラリー組成物を130℃のホットプレートで乾燥し、得られた粉体を、φ11.28mm×0.5mmの円筒状に成形して測定試料とした。この測定試料について、交流インピーダンス法によるリチウムイオン伝導度(常温)の測定を行った。測定には、周波数応答アナライザー(Solartron Analytical社製、製品名「ソーラトロン(登録商標)1260」)を用い、測定条件は、印加電圧10mV、測定周波数域0.01MHz~1MHzとした。固体電解質単独の時のリチウムイオン伝導度を100%として、第一の重合体や第二の重合体などの重合体と混合した際のリチウムイオン伝導度の維持率(伝導度維持率)を以下の基準で評価した。伝導度維持率の値が大きいほど、固体電解質層用スラリー組成物を用いて得られる固体電解質層が、リチウムイオン伝導性に優れることを意味する。
A:伝導度維持率が30%以上
B:伝導度維持率が20%以上30%未満
C:伝導度維持率が10%以上20%未満
D:伝導度維持率が10%未満
<出力特性>
10セルの全固体二次電池を0.1Cの定電流法によって4.3Vまで充電しその後0.1Cにて3.0Vまで放電し、0.1C放電容量を求めた。次いで、0.1Cにて4.3Vまで充電しその後10Cにて3.0Vまで放電し、10C放電容量を求めた。10セルの0.1C放電容量の平均値を放電容量a、10セルの10C放電容量の平均値を放電容量bとし、放電容量aに対する放電容量bの比(容量比)=放電容量b/放電容量a×100(%)を求め、以下の基準で評価した。容量比の値が大きいほど、出力特性に優れることを意味する。
A:容量比が50%以上
B:容量比が40%以上50%未満
C:容量比が30%以上40%未満
D:容量比が30%未満
【0104】
(実施例1)
<第一の重合体のキシレン分散液の調製>
攪拌機を備えたセプタム付き1Lフラスコにイオン交換水100部を加え、気相部を窒素ガスで置換し、70℃に昇温した後、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム(APS)0.5部をイオン交換水20.0部に溶解させた溶液を加えた。
一方、別の容器で、イオン交換水40部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部、そして芳香族モノビニル単量体としてのスチレン15部、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート85部、および架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート1部を混合して、単量体組成物を得た。
得られた単量体組成物を、2時間かけて上述したセプタム付き1Lフラスコに連続的に添加して、重合を行った。なお、単量体組成物の添加中は、反応温度を70℃とした。単量体組成物の添加後は、80℃で3時間攪拌し、その後重合を終了した。得られた第一の重合体の水分散液を用いて、第一の重合体の組成を測定した。結果を表1に示す。
そして、得られた第一の重合体の水分散液に、キシレンを適量添加して混合物を得た。その後、90℃にて減圧蒸留を実施して混合物から水および過剰なキシレンを除去し、第一の重合体のキシレン分散液(固形分濃度:8%)を得た。なお、得られた第一の重合体について、溶媒(キシレン)に対する不溶分量を測定し、第一の重合体は、溶媒(キシレン)に対して難溶性であることを確認した。また、得られた第一の重合体について、溶媒中(キシレン)での体積平均粒子径を測定した。これらの結果を表1に示す。
<第二の重合体のキシレン溶液の調製>
内容積10リットルの反応器中に、イオン交換水100部、並びに、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル25部および脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン75部を仕込み、乳化剤としてのオレイン酸カリウム2部、安定剤としてのリン酸カリウム0.1部、さらに、分子量調整剤としての2,2′,4,6,6′-ペンタメチルヘプタン-4-チオール(TIBM)0.5部を加えて、重合開始剤として過硫酸カリウム0.35部の存在下に30℃で乳化重合を行い、アクリロニトリルと1,3-ブタジエンとを共重合した。
重合転化率が90%に達した時点で、0.2部のヒドロキシルアミン硫酸塩を添加して重合を停止させた。続いて、加温し、減圧下で約70℃にて水蒸気蒸留して、残留単量体を回収した後、老化防止剤としてアルキル化フェノールを2部添加して、重合体の水分散液を得た。
次に、得られた重合体の水分散液400mL(全固形分:48g)を、攪拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して水分散液中の溶存酸素を除去した。その後、水素化反応触媒として、酢酸パラジウム50mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応させた。
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレーターにより固形分濃度が40%となるまで濃縮して、第二の重合体(水素化ニトリルゴム)の水分散液を得た。得られた第二の重合体の水分散液を用いて、第二の重合体の組成を測定した。結果を表1に示す。
そして、得られた第二の重合体の水分散液に、キシレンを適量添加して混合物を得た。その後、90℃にて減圧蒸留を実施して混合物から水および過剰なキシレンを除去し、第二の重合体のキシレン溶液(固形分濃度:8%)を得た。なお、得られた第二の重合体について、溶媒(キシレン)に対する不溶分量を測定し、第二の重合体は、溶媒(キシレン)に対して易溶性であることを確認した。結果を表1に示す。
<第一の重合体および第二の重合体を含むバインダー組成物の調製>
上述のようにして得られた第一の重合体のキシレン分散液および第二の重合体のキシレン溶液を、それらの量比(固形分相当量)が第一の重合体:第二の重合体=50:50となるように混合して、バインダー組成物(負極合材層用および固体電解質層用)を調製した。
<負極合材層用スラリー組成物の調製>
負極活物質としてのグラファイト(個数平均粒子径:20μm)65部と、固体電解質としてのLi2SとP2S5とからなる硫化物ガラス(Li2S/P2S5=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:0.4μm)30部と、導電剤としてのアセチレンブラック3部と、上記バインダー組成物2部(固形分相当量)とを混合して、得られた混合液にキシレンを加えて、固形分濃度60%の組成物を調製した。この組成物を遊星式混練機で混合して、負極合材層用スラリー組成物を得た。得られた負極合材層用スラリー組成物を用いて、レベリング性を評価した。結果を表1に示す。
<正極合材層用スラリー組成物の調製>
単量体として、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル20部、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン60部、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート20部を使用した以外は、上述した「第二の重合体のキシレン溶液の調製」と同様にして、重合体のキシレン溶液を調製した。そして、得られた重合体のキシレン溶液を、バインダー組成物(正極合材層用)とした。
次いで、正極活物質としてのCo-Ni-Mnのリチウム複合酸化物系の活物質NMC532(LiNi5/10Co2/10Mn3/10O2、個数平均粒子径:10.0μm)65部と、固体電解質としてのLi2SとP2S5とからなる硫化物ガラス(Li2S/P2S5=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:0.4μm)30部と、導電剤としてのアセチレンブラック3部と、上述のようにして調製したバインダー組成物(正極合材層用)2部(固形分相当量)とを混合し、得られた混合液にキシレンを加えて、固形分濃度75%の組成物を調製した。この組成物を遊星式混練機で60分混合し、さらにキシレンで固形分濃度70%に調整した後に遊星式混練機で10分間混合して、正極合材層用スラリー組成物を得た。
<固体電解質層用スラリー組成物の調製>
固体電解質としてのLi2SとP2S5とからなる硫化物ガラス(Li2S/P2S5=70mol%/30mol%、個数平均粒子径:0.4μm)98部と、上記バインダー組成物2部(固形分相当量)とを混合し、得られた混合液にキシレンを加えて、固形分濃度60%の組成物を調製した。この組成物を遊星式混練機で混合して、固体電解質層用スラリー組成物を得た。得られた固体電解質層用スラリー組成物を用いて、レベリング性およびイオン伝導度を評価した。結果を表1に示す。
<固体電解質層の作製>
上記固体電解質層用スラリー組成物を、基材としての剥離シート上で乾燥させ、剥離シート上から剥離させた乾燥物を乳鉢ですりつぶし粉体を得た。得られた粉体0.05mgを10mmφの金型に入れて、200Mpaの圧力で成型することで、厚みが500μmのペレット(固体電解質層)を得た。
<負極の作製>
集電体としての銅箔の表面に、上記負極合材層用スラリー組成物を塗布し、120℃で20分間乾燥することで、集電体としての銅箔の片面に負極合材層(目付け量:10.0mg/cm2)を有する負極を得た。
<正極の作製>
集電体としてのアルミニウム箔の表面に、上記正極合材層用スラリー組成物を塗布し、120℃で30分間乾燥することで、集電体としてのアルミニウム箔の片面に正極合材層(目付け量:18.0mg/cm2)を有する正極を得た。
<全固体二次電池の製造>
上記のようにして得られた負極、正極を、それぞれ10mmφで打ち抜いた。打ち抜いた後の正極と負極で、上記のようにして得られた固体電解質層を挟み(この際、各電極の電極合材層が固体電解質層に接する)、200MPaの圧力でプレスして全固体二次電池用の積層体を得た。得られた積層体を、評価用セル内に配置して(拘束圧:40Mpa)、全固体二次電池を得た。そして、得られた全固体二次電池の出力特性を評価した。結果を表1に示す。
【0105】
(実施例2)
第一の重合体のキシレン分散液の調製時に、単量体として、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル15部、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート40部およびエチルアクリレート45部、架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート1部を使用した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体のキシレン分散液、第二の重合体のキシレン溶液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0106】
(実施例3~4)
バインダー組成物調製時に、第一の重合体と第二の重合体の混合比(第一の重合体:第二の重合体)を、それぞれ、75:25(実施例3)、25:75(実施例4)に変更した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体のキシレン分散液、第二の重合体のキシレン溶液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0107】
(実施例5~6)
負極合材層用スラリー組成物および固体電解質層用スラリー組成物調製時に、バインダー組成物の固形分相当量を、それぞれ、4部(実施例5)、1部(実施例6)に変更した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体のキシレン分散液、第二の重合体のキシレン溶液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
(実施例7~10)
第一の重合体のキシレン分散液の調製時に、第一の重合体の調製に用いるアクリロニトリルと1,3-ブタジエンの量を、それぞれ、10部と90部(実施例7)、28部と72部(実施例8)、3部と97部(実施例9)、35部と65部(実施例10)に変更した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体のキシレン分散液、第二の重合体のキシレン溶液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0109】
(実施例11)
第二の重合体のキシレン溶液の調製時に、単量体として、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル20部、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン60部、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート20部を使用した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体のキシレン分散液、第二の重合体のキシレン溶液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0110】
(実施例12)
以下のようにして調製した第二の重合体のキシレン溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体のキシレン分散液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
<第二の重合体のキシレン溶液の調製>
内容積10リットルの反応器中に、イオン交換水100部、並びに、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル20部および脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン80部を仕込み、乳化剤としてのオレイン酸カリウム2部、安定剤としてのリン酸カリウム0.1部、さらに、分子量調整剤としての2,2′,4,6,6′-ペンタメチルヘプタン-4-チオール(TIBM)0.5部を加えて、重合開始剤として過硫酸カリウム0.35部の存在下に30℃で乳化重合を行い、アクリロニトリルと1,3-ブタジエンとを共重合した。
重合転化率が90%に達した時点で、0.2部のヒドロキシルアミン硫酸塩を添加して重合を停止させた。続いて、加温し、減圧下で約70℃にて水蒸気蒸留して、残留単量体を回収した後、老化防止剤としてアルキル化フェノールを2部添加して、第二の重合体(ニトリルゴム)の水分散液を得た。
得られた第二の重合体の水分散液に、キシレンを適量添加して混合物を得た。その後、90℃にて減圧蒸留を実施して混合物から水および過剰なキシレンを除去し、第二の重合体のキシレン溶液(固形分濃度:8%)を得た。なお、得られた第二の重合体について、溶媒(キシレン)に対する不溶分量を測定し、第二の重合体は、溶媒(キシレン)に対して易溶性であることを確認した。結果を表2に示す。
【0111】
(実施例13)
第二の重合体のキシレン溶液の調製時に、単量体として、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル20部、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン60部、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート20部を使用した以外は、実施例12と同様にして、第一の重合体のキシレン分散液、第二の重合体のキシレン溶液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0112】
(実施例14)
以下のようにして調製した第二の重合体のキシレン溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体のキシレン分散液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
<第二の重合体のキシレン溶液の調製>
攪拌機を備えたセプタム付き1Lフラスコにイオン交換水100部を加え、気相部を窒素ガスで置換し、70℃に昇温した後、重合開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)0.5部をイオン交換水20.0部に溶解させた溶液を加えた。
一方、別の容器でイオン交換水40部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部、そしてニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル20部、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート45部およびエチルアクリレート35部を混合して単量体組成物を得た。
得られた単量体組成物を、2時間かけて上述したセプタム付き1Lフラスコに連続的に添加して、重合を行った。なお、単量体組成物の添加中は、反応温度を70℃とした。単量体組成物の添加後は、80℃で3時間攪拌し、その後重合を終了した。
得られた第二の重合体の水分散液に、キシレンを適量添加して混合物を得た。その後、90℃にて減圧蒸留を実施して混合物から水および過剰なキシレンを除去し、第二の重合体のキシレン溶液(固形分濃度:8%)を得た。なお、得られた第二の重合体について、溶媒(キシレン)に対する不溶分量を測定し、第二の重合体は、溶媒(キシレン)に対して易溶性であることを確認した。結果を表2に示す。
【0113】
(実施例15)
第二の重合体のキシレン溶液の調製時に、単量体として、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル20部、エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート40部およびメチルメタクリレート40部を使用した以外は、実施例14と同様にして、第一の重合体のキシレン分散液、第二の重合体のキシレン溶液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表2に示す。
【0114】
(実施例16)
溶媒として、キシレンに代えて酪酸ブチルを使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、そして測定および評価を行った。すなわち、キシレンに代えて酪酸ブチルを用いた以外は、実施例1と同様の操作により、第一の重合体の酪酸ブチル分散液、第二の重合体の酪酸ブチル溶液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0115】
(実施例17)
溶媒として、キシレンに代えて酪酸ブチルを使用した以外は、実施例11と同様の操作を行い、そして測定および評価を行った。すなわち、キシレンに代えて酪酸ブチルを用いた以外は、実施例1と同様の操作により、第一の重合体の酪酸ブチル分散液、第二の重合体の酪酸ブチル溶液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0116】
(実施例18)
溶媒として、キシレンに代えてジイソブチルケトンを使用した以外は、実施例14と同様の操作を行い、そして測定および評価を行った。すなわち、キシレンに代えてジイソブチルケトンを用いた以外は、実施例14と同様の操作により、第一の重合体のジイソブチルケトン分散液、第二の重合体のジイソブチルケトン溶液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0117】
(実施例19)
溶媒として、キシレンに代えてn-ブチルエーテルを使用した以外は、実施例14と同様の操作を行い、そして測定および評価を行った。すなわち、キシレンに代えてn-ブチルエーテルを用いた以外は、実施例14と同様の操作により、第一の重合体のn-ブチルエーテル分散液、第二の重合体のn-ブチルエーテル溶液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0118】
(比較例1)
第一の重合体を調製せず、バインダー組成物として、第二の重合体のキシレン溶液を使用した以外は、実施例1と同様にして、第二の重合体のキシレン溶液(バインダー組成物)、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0119】
(比較例2)
第二の重合体を調製せず、バインダー組成物として、第一の重合体のキシレン分散液を使用した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体のキシレン分散液(バインダー組成物)、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表3に示す。
【0120】
(比較例3)
第二の重合体のキシレン溶液に代えて、以下のようにして調製したエステル系重合体のキシレン溶液を調製した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体のキシレン分散液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表3に示す。
<エステル系重合体のキシレン分散液の調製>
攪拌機を備えたセプタム付き1Lフラスコにイオン交換水100部を加え、気相部を窒素ガスで置換し、70℃に昇温した後、重合開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)0.5部をイオン交換水20.0部に溶解させた溶液を加えた。
一方、別の容器でイオン交換水40部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.0部、そしてエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としてのn-ブチルアクリレート55部およびエチルアクリレート45部を混合して単量体組成物を得た。
得られた単量体組成物を、2時間かけて上述したセプタム付き1Lフラスコに連続的に添加して、重合を行った。なお、単量体組成物の添加中は、反応温度を70℃とした。単量体組成物の添加後は、80℃で3時間攪拌し、その後重合を終了した。
得られたエステル系重合体の水分散液に、キシレンを適量添加して混合物を得た。その後、90℃にて減圧蒸留を実施して混合物から水および過剰なキシレンを除去し、エステル系重合体のキシレン溶液(固形分濃度:8%)を得た。なお、得られたエステル系重合体について、溶媒(キシレン)に対する不溶分量を測定し、エステル系重合体は、溶媒(キシレン)に対して易溶性であることを確認した。結果を表3に示す。
【0121】
(比較例4)
第二の重合体のキシレン溶液に代えて、以下のようにして調製した水素化ニトリルゴムのキシレン分散液を調製した以外は、実施例1と同様にして、第一の重合体のキシレン分散液、バインダー組成物、負極合材層用スラリー組成物、正極合材層用スラリー組成物、固体電解質層用スラリー組成物、固体電解質層、負極、および全固体二次電池を製造し、測定および評価を行った。結果を表3に示す。
<水素化ニトリルゴムのキシレン分散液の調製>
単量体として、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル25部および脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン75部に加え、架橋性単量体としてのエチレングリコールジメタクリレート0.5部を使用した以外は、
実施例1の「第二の重合体のキシレン溶液の調製」で記載した手順と同様にして、重合反応を行い、重合体の水分散液を得た。
次に得られた、重合体の水分散液を用い、実施例1の「第二の重合体のキシレン溶液の調製」で記載した手順と同様にして、水素化反応を行った。
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレーターにより固形分濃度が40%となるまで濃縮して、水素化ニトリルゴムの水分散液を得た。得られた水素化ニトリルゴムの水分散液を用いて、水素化ニトリルゴムの組成を測定した。結果を表2に示す。
そして、得られた水素化ニトリルゴムの水分散液に、キシレンを適量添加して混合物を得た。その後、90℃にて減圧蒸留を実施して混合物から水および過剰なキシレンを除去し、水素化ニトリルゴムのキシレン分散液(固形分濃度:8%)を得た。なお、得られた水素化ニトリルゴムについて、溶媒(キシレン)に対する不溶分量を測定し、水素化ニトリルゴムは、溶媒(キシレン)に対して難溶性であることを確認した。結果を表3に示す。
【0122】
なお、以下に示す表1~3中、
「ST」は、スチレン単位を示し、
「2EHA」は、2-エチルへキシルアクリレート単位を示し、
「EDMA」は、エチレングリコールジメタクリレート単位を示し、
「AN」は、アクリロニトリル単位を示し、
「BD」は、1,3-ブタジエン単位を示し、
「H-BD」は、1,3-ブタジエン水素化物単位を示し、
「BA」は、n-ブチルアクリレート単位を示し、
「EA」は、エチルアクリレート単位を示し、
「MMA」は、メチルメタクリレート単位を示し、
「スラリー中の配合量」は、負極合材層用スラリー組成物中の全固形分100質量部当たりの配合量(質量部)を示し、
「DIK」は、ジイソブチルケトンを示し、
「BE」は、n-ブチルエーテルを示し、
「レベリング性(負極)」は、負極合材層用スラリー組成物のレベリング性を示し、
「レベリング性(固体)」は、固体電解質層用スラリー組成物のレベリング性を示す。
【0123】
【0124】
【0125】
【0126】
表1~3より、第一の重合体と、第二の重合体と、溶媒とを含み、第一の重合体が溶媒に対して難溶性であり、第二の重合体が、ニトリル基含有単量体単位を含み且つ溶媒に対して易溶性であるバインダー組成物を用いた実施例1~19では、レベリング性に優れる固体電解質含有層用スラリー組成物を調製可能であると共に、リチウムイオン伝導度に優れる固体電解質層および出力特性に優れる全固体二次電池を作製可能であることが分かる。
また、表3より、上記第一の重合体と上記第二の重合体の一方を含まないバインダー組成物を用いた比較例1~2では、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性、固体電解質層のリチウムイオン伝導度、および全固体二次電池の出力特性が低下することが分かる。そして、表3より、上記第二の重合体に代えて、ニトリル基含有単量体単位を含まないエステル系重合体を用いた比較例3では、全固体二次電池の出力特性が低下することが分かる。加えて、表3より、第二の重合体に代えて、溶媒に対して難溶性である水素化ニトリルゴムを用いた比較例4では、固体電解質含有層用スラリー組成物のレベリング性、固体電解質層のリチウムイオン伝導度、および全固体二次電池の出力特性が低下することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明によれば、良好なレベリング性を有する固体電解質含有層用スラリー組成物を調製可能であると共に、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る固体電解質含有層を形成可能な全固体二次電池用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、良好なレベリング性を有し、且つ、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る電極合材層を形成可能な全固体二次電池電極合材層用スラリー組成物を提供することができる。
そして、本発明によれば、良好なレベリング性を有し、且つ、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る固体電解質層を形成可能な全固体二次電池固体電解質層用スラリー組成物を提供することができる。
更に、本発明によれば、全固体二次電池に優れた出力特性を発揮させ得る全固体二次電池用電極および全固体二次電池用固体電解質層を提供することができる。
加えて、本発明によれば、出力特性に優れる全固体二次電池を提供することができる。