(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】付着物除去方法及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/314 20060101AFI20231226BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20231226BHJP
C23C 16/44 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01L21/314 A
H01L21/205
C23C16/44 J
(21)【出願番号】P 2020563036
(86)(22)【出願日】2019-12-10
(86)【国際出願番号】 JP2019048351
(87)【国際公開番号】W WO2020137527
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2018240515
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100175259
【氏名又は名称】尾林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168701
【氏名又は名称】豆塚 浩二
(74)【代理人】
【識別番号】100109715
【氏名又は名称】塩谷 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】谷本 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】長田 師門
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-503882(JP,A)
【文献】特開2016-207789(JP,A)
【文献】特開2012-039084(JP,A)
【文献】特開2018-188339(JP,A)
【文献】特開昭61-064317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/314
H01L 21/205
C23C 16/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーの内面及び前記チャンバーに接続された配管の内面の少なくとも一方に付着している、硫黄を含有する付着物を、酸素含有化合物ガスを含有するクリーニングガスと反応させることにより除去
し、前記酸素含有化合物ガスが、一酸化窒素、亜酸化窒素、及び一酸化炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種である付着物除去方法。
【請求項2】
温度20℃以上800℃以下、圧力20Pa以上101kPa以下の条件下で、前記クリーニングガスを前記付着物に接触させる請求項1に記載の付着物除去方法。
【請求項3】
硫黄含有化合物ガスを含有するパッシベーションガスを、基板が収容されたチャンバーに供給し、前記基板と前記パッシベーションガスとを反応させて、前記基板の表面にパッシベーション膜を成膜するパッシベーション工程と、
前記パッシベーション工程を行った後に、前記チャンバーの内面及び前記チャンバーに接続された配管の内面の少なくとも一方に付着している、硫黄を含有する付着物を除去する付着物除去工程と、
を備え、
前記付着物除去工程を、請求項1
又は請求項2に記載の付着物除去方法によって行う成膜方法。
【請求項4】
前記硫黄含有化合物ガスが硫化水素ガスである
請求項3に記載の成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は付着物除去方法及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体分野において、シリコン(Si)以外の元素を含有する半導体材料が注目されている。シリコン以外の元素を含有する半導体材料としては、例えば、ゲルマニウム(Ge)、インジウムガリウム砒素(InGaAs)等のIII-V族元素を含有する半導体材料や、金属カルコゲナイドを含有する半導体材料が挙げられる。
これらの半導体材料は、シリコン材料と比較してモビリティ(移動度)が高いというメリットを有しているものの、成膜が困難である場合や、材料間の界面の欠陥密度が高くなる場合があった。
【0003】
そこで、材料間の界面の欠陥密度を低くするために、ゲルマニウム、モリブデン等の基板の上に硫化水素(H2S)ガスを用いてパッシベーション膜を形成する方法が提案されている(例えば特許文献1を参照)。また、金属カルコゲナイドの成膜方法として、モリブデン酸化物層、タングステン酸化物層を硫化水素ガスで処理して硫化モリブデン層、硫化タングステン層を形成する方法が提案されている(例えば特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許公開公報 2016年第207789号
【文献】日本国特許公開公報 2017年第61743号
【文献】日本国特許公開公報 2011年第189338号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
材料間の界面の欠陥密度を低くする上記方法においては、高温下で反応が行われるため、該反応が行われるチャンバーの内面や、チャンバーの下流側に配された配管の内面に、硫化水素の分解によって生成した硫黄を含有する付着物が付着する場合があった。
チャンバーの内面やチャンバーの下流側に配された配管の内面に硫黄を含有する付着物が付着した状態で、ウエハ等の基板をチャンバー内に導入すると、チャンバー内を真空にして不活性ガスで置換した際に硫黄のパーティクルがウエハ等の基板に付着するおそれがあった。そして、硫黄のパーティクルが基板に付着すると、製造された半導体構造の性能が低下するおそれがあった。
【0006】
例えば特許文献3には、プラズマ洗浄装置を用いて基板を洗浄する技術が開示されている。この技術においては、基板の洗浄に使用した六フッ化硫黄ガスに由来する硫黄が基板に付着するので、この付着した硫黄をアルゴンによるスパッタリングで除去している。
しかしながら、特許文献3に開示の技術では、硫黄を物理的に除去しているため、除去された硫黄がプラズマ洗浄装置内の別の場所に再付着したり、プラズマ洗浄装置の下流側に配された配管に再付着したりするという問題があった。
【0007】
したがって、チャンバーの内面やチャンバーの下流側に配された配管の内面に、硫黄を含有する付着物が付着した場合には、チャンバーを解体して洗浄を行う必要があった。
本発明は、チャンバーの内面又はチャンバーに接続された配管の内面に付着している、硫黄を含有する付着物を、チャンバーを解体することなく除去することが可能な付着物除去方法及び成膜方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の一態様は以下の[1]~[6]の通りである。
[1] チャンバーの内面及び前記チャンバーに接続された配管の内面の少なくとも一方に付着している、硫黄を含有する付着物を、酸素含有化合物ガスを含有するクリーニングガスと反応させることにより除去する付着物除去方法。
【0009】
[2] 温度20℃以上800℃以下、圧力20Pa以上101kPa以下の条件下で、前記クリーニングガスを前記付着物に接触させる[1]に記載の付着物除去方法。
[3] 前記酸素含有化合物ガスが、酸素ガス、一酸化窒素、亜酸化窒素、及び一酸化炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種である[1]又は[2]に記載の付着物除去方法。
[4] 前記酸素含有化合物ガスが酸素ガスである[1]又は[2]に記載の付着物除去方法。
【0010】
[5] 硫黄含有化合物ガスを含有するパッシベーションガスを、基板が収容されたチャンバーに供給し、前記基板と前記パッシベーションガスとを反応させて、前記基板の表面にパッシベーション膜を成膜するパッシベーション工程と、
前記パッシベーション工程を行った後に、前記チャンバーの内面及び前記チャンバーに接続された配管の内面の少なくとも一方に付着している、硫黄を含有する付着物を除去する付着物除去工程と、
を備え、
前記付着物除去工程を、[1]~[4]のいずれか一項に記載の付着物除去方法によって行う成膜方法。
[6] 前記硫黄含有化合物ガスが硫化水素ガスである[5]に記載の成膜方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チャンバーの内面又はチャンバーに接続された配管の内面に付着している、硫黄を含有する付着物を、チャンバーを解体することなく除去することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る成膜方法の一実施形態を説明する成膜装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について以下に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0014】
〔第一実施形態〕
本発明の第一実施形態は、付着物除去方法の実施形態であり、チャンバーの内面及びチャンバーに接続された配管の内面の少なくとも一方に付着している、硫黄を含有する付着物(以下、単に「付着物」と記すこともある)を、酸素含有化合物ガスを含有するクリーニングガスと反応させることにより除去する方法である。なお、酸素含有化合物ガスとクリーニングガスは硫黄原子を含有しない。
【0015】
硫黄を使用する反応をチャンバー中で行った場合などにおいては、チャンバーの内面や、チャンバーに接続された配管(例えば、チャンバーの上流側に接続されたクリーニングガスの給気用配管や、チャンバーの下流側に接続された排気用配管)の内面に、硫黄を含有する付着物が付着する場合がある。付着物が付着したまま次の反応を行うと、反応に悪影響が及ぶおそれがあるので、付着物を除去した後に次の反応を行うことが好ましい。
【0016】
第一実施形態に係る付着物除去方法は、付着物にクリーニングガスを接触させ、付着物中の硫黄とクリーニングガス中の酸素含有化合物ガスとを反応させて二酸化硫黄等の硫黄酸化物ガスを生成することによって付着物を除去するので、チャンバーの内面やチャンバーに接続された配管の内面に付着している付着物を、チャンバーを解体することなく除去することが可能である。よって、付着物の除去を容易に行うことができる。
【0017】
クリーニングガスと付着物との接触は、温度20℃以上800℃以下の条件下で行うことが好ましく、温度40℃以上600℃以下の条件下で行うことがより好ましい。800℃以下の温度であれば、クリーニングガス中の酸素含有化合物ガスや生成した硫黄酸化物ガスがチャンバーや配管を形成するステンレス鋼等の金属材料を腐食させにくいことに加えて、付着物中の硫黄とクリーニングガス中の酸素含有化合物ガスとの反応によって生成した硫黄酸化物ガスが硫黄へ戻る逆反応が起こりにくい。一方、20℃以上の温度であれば、付着物中の硫黄とクリーニングガス中の酸素含有化合物ガスとの反応が進行しやすい。
【0018】
また、クリーニングガスと付着物との接触は、絶対圧力で圧力20Pa以上101kPa以下の条件下で行うことが好ましく、圧力60Pa以上90kPa以下の条件下で行うことがより好ましい。101kPa以下の圧力であれば、チャンバーや配管に不具合が生じにくい。例えば、チャンバーが、基板とパッシベーションガスとを反応させて基板の表面にパッシベーション膜を成膜する成膜装置の反応容器である場合には、減圧環境下での使用が前提となるので、圧力条件は101kPa以下であることが好ましい。一方、20Pa以上の圧力であれば、付着物中の硫黄とクリーニングガス中の酸素含有化合物ガスとの反応が進行しやすい。
【0019】
酸素含有化合物ガスは、酸素原子を有する化合物のガスであって、さらには硫黄原子及びハロゲン原子を有しないガスであり、例えば、酸素ガス、酸化窒素ガス、及び酸化炭素ガスを挙げることができる。これらの中では、酸素ガス(O2)、一酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(N2O)、及び一酸化炭素(CO)からなる群より選ばれる少なくとも一種のガスが好ましく、酸素ガス及び一酸化炭素の少なくとも一方がより好ましい。
【0020】
酸素ガスは101kPaの圧力下では190℃以上の温度で硫黄と反応するため、クリーニングガス中に酸素ガスを含有する場合は、190℃以上800℃以下の温度でクリーニングガスと硫黄(付着物)を接触させることが好ましい。なお、クリーニングガス中に酸素ガスを含有する場合は、付着物を効率的に除去するために、チャンバーの内部や配管を加熱しながら付着物の除去を行うことが好ましい。一酸化炭素は101kPaの圧力下では300℃以上の温度で硫黄と反応するため、クリーニングガス中に一酸化炭素を含有する場合は、300℃以上800℃以下の温度でクリーニングガスと硫黄(付着物)を接触させることが好ましい。
【0021】
クリーニングガスにおける酸素含有化合物ガスの含有比率は、硫黄(付着物)を除去するのに十分な量であれば特に限定されるものではないが、5体積%以上であることが好ましく、20体積%以上であることがより好ましく、90体積%以上であることがさらに好ましく、100体積%であることが特に好ましい。クリーニングガスに含有される酸素含有化合物ガス以外の成分は、硫黄原子を有しない化合物のガスであれば特に限定されるものではないが、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを挙げることができる。
【0022】
チャンバーは、硫化水素に対する耐性を有する素材で形成されていれば特に限定されるものではないが、所定の圧力に減圧可能な構造を有することが好ましく、素材としては例えば表面がアルマイト処理されたアルミニウムなどを挙げることができる。また、チャンバーに接続された配管についても、硫化水素に対する耐性を有する素材で形成されていれば特に限定されるものではないが、所定の圧力に耐える構造を有することが好ましい。例えば、半導体の成膜装置に反応容器として備えられるチャンバー、及び、該チャンバーに接続された配管に対して、第一実施形態に係る付着物除去方法を好適に適用することができる。
【0023】
〔第二実施形態〕
本発明の第二実施形態は、成膜方法の実施形態であり、硫黄含有化合物ガスを含有するパッシベーションガスを、基板が収容されたチャンバーに供給し、基板とパッシベーションガスとを反応させて、基板の表面にパッシベーション膜を成膜するパッシベーション工程と、パッシベーション工程を行った後に、チャンバーの内面及びチャンバーに接続された配管の内面の少なくとも一方に付着している、硫黄を含有する付着物を除去する付着物除去工程と、を備える方法である。そして、この付着物除去工程は、第一実施形態の付着物除去方法によって行われるものである。
【0024】
パッシベーションガスを用いて基板の表面にパッシベーション膜を成膜するパッシベーション工程においては、チャンバーの内面や、チャンバーに接続された配管(例えば、チャンバーの上流側に接続されたパッシベーションガス又はクリーニングガスの給気用配管や、チャンバーの下流側に接続された排気用配管)の内面に、硫黄を含有する付着物が付着する場合がある。
【0025】
チャンバーの内面や配管の内面に付着物が付着した状態で基板をチャンバー内に導入すると、チャンバー内を真空にして不活性ガスで置換した際に硫黄のパーティクルが基板に付着するおそれがある。そして、硫黄のパーティクルが基板に付着すると、製造された半導体構造の性能が低下するおそれがある。また、硫黄のパーティクルが基板に付着したまま次のパッシベーション工程を行うと、パッシベーション膜の成膜速度や膜質の低下などの不具合が生じるおそれがある。よって、付着物を除去した後に次のパッシベーション工程を行うことが好ましい。
【0026】
第二実施形態に係る成膜方法は、付着物にクリーニングガスを接触させ、付着物中の硫黄とクリーニングガス中の酸素含有化合物ガスとを反応させて硫黄酸化物ガスを生成することによって付着物を除去するので、チャンバーの内面やチャンバーに接続された配管の内面に付着している付着物を、チャンバーを解体することなく除去することが可能である。よって、付着物の除去を容易に行うことができる。また、第二実施形態に係る成膜方法であれば、付着物の除去によって硫黄のパーティクルが基板に付着することを抑制することができるので、優れた性能を有する半導体構造を製造することができる。
【0027】
なお、第二実施形態に係る成膜方法においては、パッシベーション工程を行うごとに毎回必ず付着物除去工程を行わなければならないわけではなく、パッシベーション工程を複数回行うごとに付着物除去工程を行ってもよい。パッシベーション工程を行う回数に対して付着物除去工程を行う回数を少なくすれば、成膜装置の利用効率を向上させることができる。
【0028】
硫黄含有化合物ガスを含有するパッシベーションガスの種類は、硫黄を有する化合物のガスであれば特に限定されるものではないが、パッシベーション性能が良好であることから硫化水素ガスが好ましい。
パッシベーションガスにおける硫黄含有化合物ガスの含有比率は、パッシベーション膜の成膜に十分な量であれば特に限定されるものではないが、1体積%以上であることが好ましく、2体積%以上であることがより好ましく、10体積%以上であることがさらに好ましく、100体積%であることが特に好ましい。パッシベーションガスに含有される硫黄含有化合物ガス以外の成分は、特に限定されるものではないが、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスを挙げることができる。
【0029】
基板を形成する材料の種類は、半導体材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、シリコン、ゲルマニウム、III-V族化合物、モリブデン、タングステン等の元素を含有する材料が挙げられる。シリコンとしては、半導体素子の形成に使用されるシリコンが好適であり、例えば、アモルファスシリコン、ポリシリコン、単結晶シリコンなどが挙げられる。ゲルマニウム、III-V族化合物、モリブデン、タングステンについても、半導体素子の形成に使用されるものが好適である。
【0030】
パッシベーション工程においてパッシベーション膜を成膜する際のチャンバー内の圧力は、特に限定されるものではないが、1Pa以上101kPa以下であることが好ましく、10Pa以上90kPa以下であることがより好ましく、100Pa以上80kPa以下であることがさらに好ましい。
【0031】
パッシベーション工程において基板とパッシベーションガスとを反応させる際の基板の温度は、特に限定されるものではないが、基板の表面のパッシベーションガスによる処理の高い面内均一性を得るためには、20℃以上1500℃以下であることが好ましく、50℃以上1200℃以下であることがより好ましく、100℃以上1000℃以下であることがさらに好ましい。
【0032】
パッシベーション工程においてパッシベーション時間の長さは特に限定されるものではないが、半導体素子製造プロセスの効率を考慮すると、120分以内であることが好ましい。なお、パッシベーション時間とは、基板が収容されたチャンバーにパッシベーションガスを供給してから、パッシベーションガスによる基板の表面の処理を終えるためにチャンバー内のパッシベーションガスを真空ポンプ等により排気するまでの時間を指す。
【0033】
第二実施形態に係る成膜方法は、基板の表面にパッシベーション膜を成膜する半導体の成膜装置に対して好適に適用することができる。この成膜装置の構造は特に限定されるものではなく、反応容器であるチャンバー内に収容された基板と、チャンバーに接続された配管との位置関係も特に限定されない。
【実施例】
【0034】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をより詳細に説明する。
(実施例1)
図1に示す成膜装置1を用いて、基板の表面にパッシベーション膜を成膜するパッシベーション工程と、硫黄を含有する付着物を除去する付着物除去工程とを繰り返し行った。成膜装置1は、パッシベーション工程や付着物除去工程を行うチャンバー10と、チャンバー10の内部の温度を調整する温度調整装置(図示せず)と、を有する。チャンバー10の内部には、試料20を支持するステージ11が備えられている。試料20としては、シリコン基板上に厚さ150nmのシリコン酸化膜が形成され、さらにその上に厚さ80nmのゲルマニウム膜が形成されたものを使用した。
【0035】
チャンバー10には、その上流側に、硫黄含有化合物ガスを含有するパッシベーションガスをチャンバー10に供給するパッシベーションガス給気用配管12と、酸素含有化合物ガスを含有するクリーニングガスをチャンバー10に供給するクリーニングガス給気用配管13と、不活性ガスをチャンバー10に供給する不活性ガス給気用配管14とが、それぞれバルブ32、33、34を介して接続されている。
【0036】
また、チャンバー10には、その下流側に、チャンバー10内のガスを外部に排出する排気用配管15が接続されており、排気用配管15の下流側にはバルブ35を介して真空ポンプ38が接続されている。チャンバー10の内部の圧力は、バルブ35を制御する圧力コントローラ37により制御される。
【0037】
このような成膜装置1を使用して、まずパッシベーション工程を行った。ステージ11上に試料20を設置し、チャンバー10内の圧力を10Pa未満まで減圧した後に、チャンバー10内の温度を800℃に昇温した。その後、バルブ32を開状態とし、パッシベーションガス給気用配管12からチャンバー10内にパッシベーションガスとして硫化水素ガスを101kPaの圧力で供給した。このときのパッシベーションガスの流量は100sccmとし、試料20の表面にパッシベーション膜を成膜する際のチャンバー10内の圧力は67kPaとした。なお、sccmは、0℃、101.3kPaにおける流量(mL/min)を表す。
【0038】
パッシベーションガスの導入を30分間行って、温度800℃、圧力67kPaの条件下で試料20の表面を硫化しパッシベーション膜を成膜したら、パッシベーションガスの導入を停止した。そして、チャンバー10の内部を真空ポンプ38で真空にし、不活性ガス給気用配管14からチャンバー10内に不活性ガスを供給してチャンバー10の内部を不活性ガスで置換した。その後、チャンバー10内の温度を室温に下げて、パッシベーション膜を成膜した試料20をチャンバー10から取り出した。
【0039】
次に、成膜装置1を使用して付着物除去工程を行った。試料20を取り出したチャンバー10内の圧力を10Pa未満まで減圧した後に、チャンバー10内の温度を500℃に昇温した。その後、バルブ33を開状態とし、クリーニングガス給気用配管13からチャンバー10の内部及び排気用配管15にクリーニングガスとして酸素ガスを供給した。このときのクリーニングガスの流量は100sccmとし、付着物を除去する際のチャンバー10内の圧力は67kPaとした。
【0040】
クリーニングガスの導入を5分間行って、温度500℃、圧力67kPaの条件下で付着物と酸素ガスとを反応させて付着物の除去を行ったら、クリーニングガスの導入を停止した。そして、チャンバー10の内部を真空ポンプ38で真空にし、不活性ガス給気用配管14からチャンバー10内に不活性ガスを供給してチャンバー10の内部を不活性ガスで置換した。
【0041】
付着物除去工程が終了したら、上記と同様にしてパッシベーション工程を行い、新たな試料20にパッシベーション膜を成膜した。そして、上記と同様にして付着物除去工程を行った。このような操作を繰り返して、パッシベーション膜を成膜した試料20を合計で100枚製造した。
【0042】
(実施例2)
付着物除去工程におけるチャンバー10内の温度を350℃、圧力を100Paとした点以外は、実施例1と同様にして、パッシベーション膜を成膜した試料20を100枚製造した。
【0043】
(実施例3)
付着物除去工程におけるチャンバー10内の温度を20℃とした点以外は、実施例1と同様にして、パッシベーション膜を成膜した試料20を100枚製造した。
(実施例4)
付着物除去工程におけるチャンバー10内の温度を800℃とした点以外は、実施例1と同様にして、パッシベーション膜を成膜した試料20を100枚製造した。
【0044】
(実施例5)
付着物除去工程におけるチャンバー10内の圧力を20Paとした点以外は、実施例1と同様にして、パッシベーション膜を成膜した試料20を100枚製造した。
(実施例6)
付着物除去工程におけるチャンバー10内の圧力を101kPaとした点以外は、実施例1と同様にして、パッシベーション膜を成膜した試料20を100枚製造した。
【0045】
(実施例7)
付着物除去工程におけるクリーニングガス給気用配管13から供給するクリーニングガスを一酸化炭素とした点以外は、実施例1と同様にして、パッシベーション膜を成膜した試料20を100枚製造した。
(比較例1)
付着物除去工程を行わずパッシベーション工程のみを繰り返し行う点以外は、実施例1と同様にして、パッシベーション膜を成膜した試料20を100枚製造した。
【0046】
実施例1~7及び比較例1の試料20について、1枚目から100枚目の各試料20のパッシベーション工程が終了するたびに、試料20の表面に付着している硫黄のパーティクルの個数を測定した。パーティクルの個数の測定は、KLAテンコール社製のウエハ検査装置サーフスキャン(登録商標)6240を用いて行った。測定結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
表1から分かるように、付着物除去工程を行わずパッシベーション工程のみを繰り返し行う比較例1では、行ったパッシベーション工程の回数が多くなるに連れて、すなわちパッシベーション膜を成膜した試料20の製造枚数が多くなるに連れて、試料20に付着したパーティクルの個数が多くなり、30回目では1000個/m2以上、100回目では6000個/m2以上であった。
【0049】
これに対して、パッシベーション工程の後に付着物除去工程を行った実施例1~7では、試料20に付着したパーティクルの個数は少なく、パッシベーション工程の回数が100回目でも実施例1では100個/m2以下であり、実施例2では300個/m2以下であり、他の実施例でも1000個/m2以下であった。
このように、付着物除去工程を行うことにより、チャンバーを解体洗浄することなく、付着するパーティクルの個数を低く保ったままパッシベーション工程を繰り返し行うことができることが示された。
【符号の説明】
【0050】
1・・・成膜装置
10・・・チャンバー
11・・・ステージ
12・・・パッシベーションガス給気用配管
13・・・クリーニングガス給気用配管
14・・・不活性ガス給気用配管
15・・・排気用配管
20・・・試料