(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】合金薄帯積層体の製造方法及び合金薄帯積層体の製造装置
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20231226BHJP
H01F 1/153 20060101ALI20231226BHJP
H01F 38/14 20060101ALI20231226BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20231226BHJP
C21D 6/00 20060101ALN20231226BHJP
【FI】
H01F41/02 B
H01F1/153 133
H01F1/153 108
H01F38/14
C22C38/00 303S
C21D6/00 C
(21)【出願番号】P 2021520850
(86)(22)【出願日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2020020158
(87)【国際公開番号】W WO2020235642
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019095278
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019095279
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗山 安男
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/157526(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/046140(WO,A1)
【文献】特開昭61-227156(JP,A)
【文献】特表2015-505166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/153
H01F 38/14
C22C 38/00
C21D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着層と、合金薄帯と、を有する第1の積層部材の前記合金薄帯表面に、複数の凸状部材を周面に配置したロールの凸状部材を押しつけて、直接外力を付与することによって前記合金薄帯に、前記合金薄帯を貫通するクラックを形成し、前記接着層と、前記クラックが形成された前記合金薄帯と、を有する第1の積層体を得る工程と、
接着層と、合金薄帯と、を有する第2の積層部材の前記合金薄帯表面に、複数の凸状部材を周面に配置したロールの凸状部材を押しつけて、直接外力を付与することによって前記合金薄帯に、前記合金薄帯を貫通するクラックを形成し、リリースフィルムと、前記接着層と、前記クラックが形成された前記合金薄帯と、を有する少なくとも1つの第2の積層体を得る工程と、
前記第1の積層体の前記合金薄帯に、前記少なくとも1つの第2の積層体のリリースフィルムを剥離して、前記第2の積層体の前記接着層を積層し、前記接着層と前記クラックが形成された前記合金薄帯とが交互に積層された合金薄帯積層体を得る工程と、
を有し、
前記第1の積層体を得る工程と、前記第2の積層体を得る工程と、前記合金薄帯積層体を得る工程とは、順次行われ、
前記第2の積層体を得る工程は、前記接着層と、前記接着層から剥離が可能な樹脂製のリリースフィルムと、を有するクラック用テープの前記接着層に合金薄帯を接着し、前記リリースフィルムと、前記接着層と、前記合金薄帯と、を有する
前記第2の積層部材を得る工程を有する、合金薄帯積層体の製造方法。
【請求項2】
前記合金薄帯積層体を得る工程は、前記接着層と前記クラックが形成された前記合金薄帯とが交互に積層された合金薄帯積層体と、前記第2の積層体と、を搬送させながら、前記合金薄帯積層体に、さらに、少なくとも1つの第2の積層体の前記リリースフィルムを剥離して、前記第2の積層体の前記接着層を積層することを含み、前記接着層と前記クラックが形成された前記合金薄帯とがそれぞれ3層以上交互に積層された合金薄帯積層体を得る工程である、請求項1に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
【請求項3】
前記合金薄帯を貫通するクラックが、前記合金薄帯の表面の複数箇所に線状の凸状部材を周面に配置したロールの凸状部材を押しつけて直接外力を付与することによって形成される、請求項1又は請求項2に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の積層体を得る工程は、接着層と、前記接着層から剥離が可能なリリースフィルムと、を有するクラック用テープの前記接着層に合金薄帯を接着し、前記リリースフィルムと、前記接着層と、前記合金薄帯と、を有する第1の積層部材を得る工程と、前記第1の積層部材の前記合金薄帯表面に、複数の凸状部材を周面に配置したロールの凸状部材を押しつけて、直接外力を付与することによって前記合金薄帯に前記合金薄帯を貫通するクラックを形成する工程と、前記リリースフィルムを剥離し、前記接着層と、前記クラックが形成された前記合金薄帯と、を有する第1の積層体を得る工程と、を有する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
【請求項5】
接着層と、保護フィルムと、を有する保護層に、前記第1の積層体を積層する工程を有する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
【請求項6】
前記第1の積層体を得る工程は、接着層と、保護フィルムと、を有する保護層の前記接着層に合金薄帯を接着し、前記保護フィルムと、前記接着層と、前記合金薄帯と、を有する第1の積層部材を得る工程と、前記第1の積層部材の前記合金薄帯に直接外力を付与することによって前記合金薄帯に、前記合金薄帯を貫通するクラックを形成し、前記保護フィルムと、前記接着層と、前記クラックが形成された前記合金薄帯と、をこの順に有する第1の積層体を得る工程と、を有する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
【請求項7】
前記合金薄帯積層体の積層方向の一方の端面又は両方の端面に保護フィルムを接着する工程を有する、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
【請求項8】
前記合金薄帯はナノ結晶合金薄帯である、請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
【請求項9】
前記合金薄帯積層体を得る工程において前記第1の積層体の前記合金薄帯に前記少なくとも1つの第2の積層体の前記リリースフィルムを剥離して、前記第2の積層体の前記接着層を積層して得られる前記合金薄帯積層体は長尺状の合金薄帯積層体であり、前記合金薄帯積層体を得る工程の後に前記長尺状の合金薄帯積層体をロール状に巻く工程を有する、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
【請求項10】
ロール状に巻かれた合金薄帯を巻き出す機構と、巻き出された前記合金薄帯を搬送する機構と、をそれぞれ複数備え、
前記合金薄帯を搬送させながら、接着層と、前記接着層から剥離が可能な樹脂製のリリースフィルムと、を有するクラック用テープの前記接着層に合金薄帯を接着する複数の機構Aと、
前記合金薄帯を搬送させながら、前記クラック用テープに接着された前記合金薄帯表面に、複数の凸状部材を周面に配置したロールの凸状部材を押しつけて、直接外力を付与して、前記合金薄帯に、前記合金薄帯を貫通する線状のクラックを形成する複数の機構Bと、
前記合金薄帯を搬送させながら、前記リリースフィルムを剥離し、前記接着層と、前記クラックが形成された前記合金薄帯と、を有する積層体を形成する複数の機構Cと、
複数の前記機構Aと複数の前記機構Bと複数の前記機構Cとにより形成される、前記接着層と、前記クラックが形成された前記合金薄帯と、を有する複数の積層体を積層して合金薄帯積層体とする機構Dと、
を備え、
前記機構A、機構B、及び機構Cは、ロール状に巻かれた前記合金薄帯を巻き出す側から、前記合金薄帯積層体を得る機構D側に向かって順次備えられた合金薄帯積層体の製造装置。
【請求項11】
前記合金薄帯積層体を加工する機構を備える、請求項10に記載の合金薄帯積層体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合金薄帯積層体の製造方法及び合金薄帯積層体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年急速にスマートフォン、タブレット型情報端末、あるいは携帯電話等の電子機器が普及している。特に、携帯電話(例えば、スマートフォン)、Web端末、ミュージックプレイヤー等は携帯機器としての利便性のため、長時間の連続使用が可能であることが求められている。これら小型携帯機器では電源としてリチウムイオン電池などの二次電池が使用されている。この二次電池の充電方法には受電側の電極と給電側の電極とを直接接触させて充電を行う接触充電方式と、給電側と受電側の両方に伝送コイルを設け、電磁誘導を利用した電力伝送によって充電する非接触充電方式とがある。非接触充電方式は給電装置と受電装置を直接接触させるための電極が必要ないため、同じ給電装置を用いて異なる受電装置に充電することも可能である。また、非接触充電方式は、携帯機器のみならず、その他の電子機器や電気自動車やドローン等でも利用されうる技術である。
【0003】
非接触充電方式において、給電装置の一次伝送コイルに発生した磁束は給電装置と受電装置の筐体を介して受電装置の二次伝送コイルに起電力を発生させることで給電が行われる。高い電力伝送効率を得るためには、伝送コイルに対して、給電装置と受電装置の接触面とは反対側にコイルヨークとして磁性シートが設置される。かかる磁性シートには以下のような役割がある。
第一の役割は、磁気シールド材としての役割である。例えば、非接触充電装置の充電作業中に発生した漏れ磁束が二次電池を構成する金属部材などの他の部品に流れると、これらの部品が渦電流によって発熱する。磁性シートは、磁気シールド材としてこの発熱を抑制できる。
磁性シートの第二の役割は、充電中にコイルで発生した磁束を還流させるヨーク部材として作用することである。
【0004】
従来、非接触充電装置の磁性シートに用いられる軟磁性材料はフェライト材が主流であったが、最近では、特開2008-112830号公報に示されるように、アモルファス合金やナノ結晶合金からなる軟磁性材料からなる合金薄帯も適用され始めている。
特開2008-112830号公報は、シート基材上に接着層を介して薄板状磁性体(合金薄帯)を接着して磁性シートを形成する工程と、上記合金薄帯を上記シート基材に接着された状態を維持しつつ、Q値の向上または渦電流損の低減のために外力により複数に分割する工程とを具備する磁性シートの製造方法について、開示している。また、特開2008-112830号公報は、合金薄帯に外力を加えて複数に分割することで、磁性シートを例えばインダクタ用磁性体として用いる場合にQ値の向上を図ることができることを、開示している。また、特開2008-112830号公報は、磁性シートを磁気シールド用磁性体として用いる場合には、合金薄帯の電流路を分断して渦電流損を低減できることを、開示している。さらには、特開2008-112830号公報は、合金薄帯を複数に分割する場合において、分割した磁性体片は、その面積が0.01mm2以上25mm2以下の範囲であることが好ましいことを、開示している。
【0005】
また、特表2015-505166号公報は、磁性シートの製造方法の一例として、次の二つのステップ、つまり、1)少なくとも1層の非晶質リボンからなる薄膜磁性シート(合金薄帯)の両側面に、保護フィルムと、露出面にリリースフィルムが形成された両面テープとを付着して、積層シートを形成するステップと、2)上記積層シートをフレーク処理して、上記合金薄帯を多数の細片に分割するステップと、を適用することが開示されている。
そしてさらに、その後のステップとして、3)さらに上記フレーク処理された積層シートをラミネート処理して、積層シートの平坦化及びスリム化と共に、上記保護フィルムと両面テープに備えられた第1及び第2接着層の一部を上記多数の細片の隙間に充填させて絶縁(isolation)させるステップと、を行うことが開示されている。上記ステップ3)により、上記のシートの平坦化及びスリム化がなされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分割した複数の合金薄帯を用いた磁性シートを非接触充電装置に用いる場合、その分割の状態を定量化するための磁気特性として、透磁率が代用されることが多い。通常は、128kHzにおける交流比透磁率μrが100以上2000以下の磁性シートが要望される。この透磁率の数値を有する磁性シートとするには、合金薄帯を1mm程度の間隔で細かく分割する必要がある。
しかし、特表2015-505166号公報のように、樹脂フィルムを介して外力を与えることで、内部の合金薄帯を細かく複数に分割した場合、磁性シートの樹脂フィルムは弾性力が大きいため、付与する外力が小さい場合は合金薄帯を細かく分割できない。その一方で、付与する外力が合金薄帯を細かく分割できる程度に大きい場合は、樹脂フィルムや合金薄帯の表面に凹凸が残ってしまう。その場合、磁性シートは、樹脂フィルムの弾力により合金薄帯の凹凸が変形したり、複数に分割された薄帯の間隔が変わったりすることで、交流比透磁率μrが、時間の経過により徐々に変化してしまう。そのため、量産時と磁性シートが電子機器に組みつけられた後とで、交流比透磁率μrが異なることがある。その結果、電子機器の特性が十分に得られないという問題が発生する。
【0007】
従って、発明が解決しようとする課題は、合金薄帯を複数に分割する外力の大きさを小さくすること、分割された合金薄帯の平面状態を良好とすること、磁気特性の経時変化を抑制すること、の少なくとも一つが可能な合金薄帯積層体の製造方法及び上記合金薄帯積層体の製造装置を提供することである。
なお、この合金薄帯積層体は、例えば、磁性シートに適用可能である。ただし、合金薄帯積層体は、磁性シートに限られず、クラックが形成された合金薄帯の積層体として、他の用途にも適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 接着層と、合金薄帯と、を有する第1の積層部材の上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯にクラックを形成し、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有する第1の積層体を得る工程と、接着層と、合金薄帯と、を有する第2の積層部材の上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯にクラックを形成し、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有する少なくとも1つの第2の積層体を得る工程と、上記第1の積層体に上記少なくとも1つの第2の積層体を積層し、上記接着層と上記クラックが形成された上記合金薄帯とが交互に積層された合金薄帯積層体を得る工程と、を有する、合金薄帯積層体の製造方法。
<2> 上記第2の積層体を得る工程は、接着層と、上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムと、を有するクラック用テープの上記接着層に合金薄帯を接着し、上記リリースフィルムと、上記接着層と、上記合金薄帯と、を有する第2の積層部材を得る工程と、上記第2の積層部材の上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯にクラックを形成する工程と、上記リリースフィルムを剥離し、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有する第2の積層体を得る工程と、を有する、<1>に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<3> 上記第1の積層体を得る工程は、接着層と、上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムと、を有するクラック用テープの上記接着層に合金薄帯を接着し、上記リリースフィルムと、上記接着層と、上記合金薄帯と、を有する第1の積層部材を得る工程と、上記第1の積層部材の上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯にクラックを形成する工程と、上記リリースフィルムを剥離し、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有する第1の積層体を得る工程と、を有する、<1>又は<2>に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<4> 上記リリースフィルムは、樹脂製のリリースフィルムである、<2>又は<3>に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<5> 上記接着層は、両面に接着剤が被覆されている基材フィルムである、<1>~<4>のいずれか1つに記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<6> 接着層と、保護フィルムと、を有する保護層に、上記第1の積層体を積層する工程を有する、<1>~<5>のいずれか1つに記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<7> 上記第1の積層体を得る工程は、接着層と、保護フィルムと、を有する保護層の上記接着層に合金薄帯を接着し、上記保護フィルムと、上記接着層と、上記合金薄帯と、を有する第1の積層部材を得る工程と、上記第1の積層部材の上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯にクラックを形成し、上記保護フィルムと、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、をこの順に有する第1の積層体を得る工程と、を有する、<1>又は<2>に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<8> 上記合金薄帯積層体の積層方向の一方の端面又は両方の端面に保護フィルムを接着する工程を有する、<1>~<7>のいずれか1つに記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<9> 上記保護フィルムは、樹脂製の保護フィルムである、<6>~<8>のいずれか1つに記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<10> 上記第2の積層体を得る工程は、上記接着層の上記合金薄帯が配置された面とは反対側の面に上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムを配置した状態で上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯に上記クラックを形成する工程と、上記リリースフィルムを剥離する工程と、を有する、<1>に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<11> 上記第1の積層体を得る工程において、上記クラックの形成は、上記接着層の上記合金薄帯が配置された面とは反対側の面に保護フィルム又は上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムを配置した状態で上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯に上記クラックを形成する工程を有する、<1>に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<12> 上記クラックの形成では、上記合金薄帯の表面の複数箇所に凸状部材を押しつけて上記合金薄帯に複数のクラックを形成する、<1>~<11>のいずれか1つに記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<13> 上記合金薄帯に上記凸状部材を押しつけて上記複数のクラックを形成した後、上記複数のクラック同士を繋ぐネットワーククラックを形成する工程を有する、<12>に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<14> 上記合金薄帯はナノ結晶合金薄帯である、<1>~<13>のいずれか1つに記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<15> 上記ナノ結晶合金薄帯は、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯に張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行って得られたナノ結晶合金薄帯である、<14>に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<16> 上記ナノ結晶合金薄帯は、一般式:(Fe1-aMa)100-x-y-z-α-β-γCuxSiyBzM’αM”βXγ(原子%)により表される組成を有し、上記一般式中、MはCo及び/又はNiであり、M’はNb、Mo、Ta、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn及びWからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、M”はAl、白金族元素、Sc、希土類元素、Zn、Sn、及びReからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、XはC、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、及びAsからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、a、x,y、z、α、β及びγはそれぞれ0≦a≦0.5、0.1≦x≦3、0≦y≦30、0≦z≦25,5≦y+z≦30、0≦α≦20、0≦β≦20及び0≦γ≦20を満たす、<14>又は<15>に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<17> 上記合金薄帯積層体を得る工程において上記第1の積層体に上記少なくとも1つの第2の積層体を積層して得られる上記合金薄帯積層体は長尺状の合金薄帯積層体であり、上記合金薄帯積層体を得る工程の後に上記長尺状の合金薄帯積層体をロール状に巻く工程を有する、<1>~<16>のいずれか1つに記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<18> ロール状に巻かれた上記長尺状の合金薄帯積層体を巻き出し、切り出す工程を有する、<17>に記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<19> 上記合金薄帯積層体を得る工程において上記第1の積層体に上記少なくとも1つの第2の積層体を積層して得られる上記合金薄帯積層体は長尺状の合金薄帯積層体であり、上記合金薄帯積層体を得る工程の後に、上記長尺状の合金薄帯積層体を加工する工程を有する、<1>~<16>のいずれか1つに記載の合金薄帯積層体の製造方法。
<20> 接着層と、上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムと、を有するクラック用テープの上記接着層に合金薄帯を接着する複数の機構Aと、上記クラック用テープに接着された上記合金薄帯に直接外力を付与して、上記合金薄帯にクラックを形成する複数の機構Bと、上記リリースフィルムを剥離し、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有する積層体を形成する複数の機構Cと、複数の上記機構Aと複数の上記機構Bと複数の上記機構Cとにより形成される、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有する複数の積層体を積層して合金薄帯積層体とする機構Dと、を備える合金薄帯積層体の製造装置。
<21> 上記合金薄帯積層体を加工する機構を備える、<20>に記載の合金薄帯積層体の製造装置。
<22> ロール状に巻かれた上記合金薄帯を巻き出す機構を備える、<20>又は<21>に記載の合金薄帯積層体の製造装置。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、合金薄帯を複数に分割する外力の大きさを小さくすること、分割された合金薄帯の平面状態を良好とすること、磁気特性の経時変化を抑制すること、の少なくとも一つが可能な合金薄帯積層体の製造方法及び上記合金薄帯積層体の製造装置が提供される。例えば、本開示によれば、クラックを形成するために合金薄帯に加える外力の大きさを小さくすることができ、クラックが形成された合金薄帯の平面状態を良好とすることができる。これにより、クラックが形成された合金薄帯を積層して、合金薄帯積層体を構成したとき、平面状態が良好な合金薄帯積層体を得ることができる。また、合金薄帯積層体の磁気特性の経時変化を抑制することができる。また、磁性シートに適用可能な合金薄帯積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1の実施形態を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、第2の実施形態を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、第2の実施形態の変形例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、工程(1)によって得られた積層体の断面を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、工程(2)によって得られた積層体を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、工程(3)によって得られた積層体を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、工程(4)によって得られた磁性シートを模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、クラック同士を繋ぐ合金薄帯の割れ及び/又はひび(ネットワーククラック)の状態を説明するための図である。
【
図9】
図9は、工程(5)によって得られた積層体の断面を模式的に示す図である。
【
図10】
図10は、工程(6)によって得られた積層体を模式的に示す図である。
【
図11】
図11は、工程(7)によって得られた磁性シートを模式的に示す図である。
【
図12】
図12は、第2の実施形態で得られる別の磁性シートを模式的に示す図である。
【
図13】
図13は、第1の実施形態に用いる製造装置を示す図である。
【
図14】
図14は、第2の実施形態に用いる製造装置を示す図である。
【
図15】
図15は、凸状部材によって外力が加えられる箇所を示す合金薄帯の平面図である。
【
図16】
図16は、本開示に係る合金薄帯積層体の製造方法により得られた磁性シートの一例を示す断面写真である。
【
図17】
図17は、従来の製造方法により得られた磁性シートの断面写真である。
【
図18】
図18は、従来の製造方法により得られた磁性シートの断面写真である。
【
図19】
図19は、従来の磁性シートを製造後に放置した場合の透磁率の変化を示す図である。
【
図21】
図21は、ナノ結晶合金薄帯を得るインラインアニール装置の模式図である。
【
図22】
図22は、合金薄帯に形成するクラックの様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されず、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0012】
本開示の実施形態について図面を参照して説明する場合、図面において重複する構成要素、及び符号については、説明を省略することがある。図面において同一の符号を用いて示す構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0013】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を示す。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0014】
本開示において、序数詞(例えば、「第1」、及び「第2」)は、構成要素を区別するために使用する用語であり、構成要素の数、及び構成要素の優劣を制限するものではない。
【0015】
本開示において、「工程」との用語には、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0016】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0017】
従来、軟磁性材料からなる合金薄帯が複数積層され、かつ、上記合金薄帯にクラックが形成された磁性シートを製造するには、合金薄帯を複数積層して磁性シートとした後に、外力を付与して合金薄帯にクラックを形成していた。また、少なくとも1層の合金薄帯の両側面に保護フィルム等を付着させて積層シートを形成した後、フレーク処理していた。
【0018】
本開示では、複数の合金薄帯を積層する前に各合金薄帯に直接外力を付与して、各合金薄帯にクラックを形成することを一つの特徴としている。
本開示では、合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成し、そして、合金薄帯1枚ごとにクラックを形成することで、クラックを形成するための過大な外力を不要とし、合金薄帯の過大な変形を抑制することができる。つまり、クラックを形成するために合金薄帯に加える外力の大きさを小さくすることができ、クラックが形成された合金薄帯の平面状態を良好とすることができる。
上記によって得られた合金薄帯を複数積層して、クラックが形成された合金薄帯と接着層とが交互に積層された合金薄帯積層体を構成することで、所望の特性を有し、変形を抑制した合金薄帯積層体が得られる。本開示に係る合金薄帯積層体は、例えば、磁性シートとして適用可能である。また、本開示に係る合金薄帯積層体は、ブロック状の積層体、又はトロイダル状の積層体に形成して用いることもできる。例えば、本開示に係る合金薄帯積層体は、誘導素子などとして使用することができる。
【0019】
本開示の一実施形態は、(1)接着層と、合金薄帯と、を有する第1の積層部材の上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯にクラックを形成し、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有する第1の積層体を得る工程と、(2)接着層と、合金薄帯と、を有する第2の積層部材の上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯にクラックを形成し、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有する少なくとも1つの第2の積層体を得る工程と、(3)上記第1の積層体に上記少なくとも1つの第2の積層体を積層し、上記接着層と上記クラックが形成された上記合金薄帯とが交互に積層された合金薄帯積層体を得る工程と、を有する、合金薄帯積層体の製造方法である。
【0020】
本開示の一実施形態に係る合金薄帯積層体の製造方法では、1枚の合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成しているため、付与する外力が、合金薄帯に直接加えられる上、1枚の合金薄帯分にクラックを入れる強さのみとなる。この結果、複数の合金薄帯を積層してから同時に外力を付与してクラックを形成する従来の製造方法、又は保護フィルムの上から外力を付与してクラックを形成する従来の製造方法より、付与する外力を小さくすることができ、分割された合金薄帯の表面状態も凹凸が抑制されて、良好な平面状態とすることができる。なお、「良好な平面状態」とは、対象物の表面に凹凸が無い、あるいは対象物の表面にある凹凸が少ないことを意味する。分割された合金薄帯に関して「良好な平面状態」という用語が使用される場合、「良好な平面状態」とは、上記の意味に加えて、分割されたそれぞれの合金薄帯を連続してみたとき、全体として平坦な状態であることをいう。
【0021】
本開示において「積層部材」との用語は、クラックが形成された合金薄帯を有する積層体と区別するために使用され、クラックが形成される前の合金薄帯を有する積層体を指す。後述するように、例えば、接着層と、上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムと、を有するクラック用テープの上記接着層に合金薄帯を接着することによって積層部材を形成することができる。また、例えば、接着層と、保護フィルムと、を有する保護層の上記接着層に合金薄帯を接着することによって積層部材を形成することもできる。
【0022】
本開示において「第2の積層体」との用語は、第1の積層体と区別するために使用され、第1の積層体に積層される1つ又は2つ以上の積層体を指す。
【0023】
本開示の一実施形態に係る合金薄帯積層体の製造方法では、第1の積層体に少なくとも1つの第2の積層体を積層することで、接着層とクラックが形成された合金薄帯とが交互に積層された領域が形成される。例えば、ある積層体(例えば第1の積層体)の合金薄帯と別の積層体(例えば第2の積層体)の接着層とを接触させることで、接着層とクラックが形成された合金薄帯とが交互に積層された領域を形成することができる。合金薄帯積層体の層構成は、接着層とクラックが形成された合金薄帯とが交互に積層された領域を有する限り、制限されない。接着層とクラックが形成された合金薄帯とが交互に積層された領域の最小単位は、2つの積層体(すなわち第1の積層体及び第2の積層体)を積層することによって形成される「接着層/クラックが形成された合金薄帯/接着層/クラックが形成された合金薄帯」である。第1の積層体に積層される第2の積層体の数は、2つ以上であってもよい。第2の積層体の数が2つ以上である場合、例えば、第1の積層体に第2の積層体を1つずつ積層してもよい。合金薄帯積層体の積層方向の一方又は両方に位置する最外層は、接着層及びクラックが形成された金属薄帯以外の層(例えば、保護フィルム)であってもよい。接着層とクラックが形成された合金薄帯とが交互に積層された合金薄帯積層体を得ることができる限り、第2の積層体に第1の積層体を積層してもよい。
【0024】
また、ある実施形態において、合金薄帯は、クラックが形成される際、接着層を介してリリースフィルム又は保護フィルムに接着された状態であるため、リリースフィルム又は保護フィルムの弾性力により、合金薄帯の表面の凹凸の発生が更に抑制される。また、もし合金薄帯の表面に凹凸が発生しても、リリースフィルム又は保護フィルムの弾性力により、凹凸が平坦になるように変形される。以下、合金薄帯にクラックを形成する際にリリースフィルム又は保護フィルムを使用するいくつかの実施形態について説明する。
【0025】
例えば、第1の積層体を得る工程において、クラックの形成は、接着層の合金薄帯が配置された面とは反対側の面に「保護フィルム」又は上記接着層から剥離が可能な「リリースフィルム」を配置した状態で上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯に上記クラックを形成する工程を有することが好ましい。接着層を介して保護フィルム又はリリースフィルムに接着された合金薄帯に直接外力を付与することで、表面状態が良好な合金薄帯を得ることができる。上記方法において、保護フィルム又はリリースフィルムは、少なくとも、合金薄帯に直接外力が付与される際に配置されていればよい。例えば、接着層と合金薄帯とを有する第1の積層部材、及び保護フィルム又はリリースフィルムをそれぞれ準備した後、上記第1の積層部材の上記接着層と、上記保護フィルム又は上記リリースフィルムとを接触させた際に上記合金薄帯に直接外力を付与してもよい。例えば、保護フィルム又はリリースフィルムと、接着層と、合金薄帯と、を有する第1の積層部材を事前に作製した後、上記合金薄帯に直接外力を付与してもよい。クラックを形成した後、必要に応じてリリースフィルムを剥離してもよい。
【0026】
例えば、第1の積層体を得る工程は、(1)接着層と、上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムと、を有するクラック用テープの上記接着層に合金薄帯を接着し、上記リリースフィルムと、上記接着層と、上記合金薄帯と、を有する第1の積層部材を得る工程と、(2)上記第1の積層部材の上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯にクラックを形成する工程と、(3)上記リリースフィルムを剥離し、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有する第1の積層体を得る工程と、を有することが好ましい。接着層を介してリリースフィルムに接着された合金薄帯に直接外力を付与することで、表面状態が良好な合金薄帯を得ることができる。
【0027】
例えば、第1の積層体を得る工程は、(1)接着層と、保護フィルムと、を有する保護層の上記接着層に合金薄帯を接着し、上記保護フィルムと、上記接着層と、上記合金薄帯と、を有する第1の積層部材を得る工程と、(2)上記第1の積層部材の上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯にクラックを形成し、上記保護フィルムと、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、をこの順に有する第1の積層体を得る工程と、を有することが好ましい。接着層を介して保護フィルムに接着された合金薄帯に直接外力を付与することで、表面状態が良好な合金薄帯を得ることができる。
【0028】
例えば、第2の積層体を得る工程は、(1)接着層の合金薄帯が配置された面とは反対側の面に上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムを配置した状態で上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯に上記クラックを形成する工程と、(2)上記リリースフィルムを剥離する工程と、を有することが好ましい。接着層を介してリリースフィルムに接着された合金薄帯に直接外力を付与することで、表面状態が良好な合金薄帯を得ることができる。上記方法において、リリースフィルムは、少なくとも、合金薄帯に直接外力が付与される際に配置されていればよい。例えば、接着層と合金薄帯とを有する第2の積層部材、及びリリースフィルムをそれぞれ準備した後、上記第2の積層部材の上記接着層と、上記リリースフィルムとを接触させた際に上記合金薄帯に直接外力を付与してもよい。例えば、リリースフィルムと、接着層と、合金薄帯と、を有する第2の積層部材を事前に作製した後、上記合金薄帯に直接外力を付与してもよい。
【0029】
例えば、第2の積層体を得る工程は、(1)接着層と、上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムと、を有するクラック用テープの上記接着層に合金薄帯を接着し、上記リリースフィルムと、上記接着層と、上記合金薄帯と、を有する第2の積層部材を得る工程と、(2)上記第2の積層部材の上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯にクラックを形成する工程と、(3)上記リリースフィルムを剥離し、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有する第2の積層体を得る工程と、を有することが好ましい。接着層を介してリリースフィルムに接着された合金薄帯に直接外力を付与することで、表面状態が良好な合金薄帯を得ることができる。
【0030】
上記したように、本開示に係る合金薄帯積層体は、良好な平面状態の合金薄帯を積層して製造されるので、合金薄帯積層体の表面も良好な平面状態のものとなる。
これらの結果、磁気特性を変動させる要因を減らせるので、磁気特性の経時変化が小さい合金薄帯積層体を得ることができる。
【0031】
本開示に係る合金薄帯積層体は、長尺状の合金薄帯積層体であってもよい。合金薄帯積層体を得る工程において第1の積層体に少なくとも1つの第2の積層体を積層して得られる上記合金薄帯積層体は長尺状の合金薄帯積層体であることが好ましい。長尺状の合金薄帯積層体は、例えば、長尺の合金薄帯を用いて製造することができる。合金薄帯積層体を得る工程において長尺状の合金薄帯積層体を得る場合、本開示の一実施形態に係る合金薄帯積層体の製造方法は、合金薄帯積層体を得る工程の後に長尺状の合金薄帯積層体をロール状に巻く工程を有することが好ましい。さらに、本開示の一実施形態に係る合金薄帯積層体の製造方法は、ロール状に巻かれた長尺状の合金薄帯積層体を巻き出し、切り出す工程を有することが好ましい。また、合金薄帯積層体を得る工程において長尺状の合金薄帯積層体を得る場合、本開示の一実施形態に係る合金薄帯積層体の製造方法は、上記合金薄帯積層体を得る工程の後に、上記長尺状の合金薄帯積層体を加工する(好ましくは切り出す)工程を有することが好ましい。上記工程によって、所望の形状に加工された合金薄帯積層体を得ることができる。
【0032】
以下、本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこの実施形態に限られない。
なお、以下では、本開示の合金薄帯積層体を説明するにあたり、合金薄帯積層体の一態様である磁性シートを例にして説明する。この磁性シートは本開示の合金薄帯積層体にあたるものである。
【0033】
[磁性シート]
本開示の磁性シートの一例は、軟磁性材料からなる合金薄帯が複数積層され、かつ、合金薄帯にクラックが形成されたものである。なお、本開示におけるクラックとは、合金薄帯に形成される磁気的なギャップを指し、例えば、合金薄帯の割れ及び/又はひびが包含される。
【0034】
磁性シートは、クラック同士を繋ぐ合金薄帯の割れ及び/又はひび(以後、ネットワーククラックという)が形成された合金薄帯を有することが好ましい。
合金薄帯にネットワーククラックが形成されることで、例えば、特開2018-112830号公報に記載される効果が得られる。つまり、磁性シートをインダクタ用磁性体として用いる場合にQ値の向上がさらに図れる。また、磁性シートを磁気シールド用磁性体として用いる場合には、合金薄帯の電流路を分断して渦電流損をさらに低減できる。
【0035】
本開示の磁性シートにおいては、合金薄帯が複数積層される。合金薄帯同士は、例えば、接着層を介して積層される。接着層は、例えば、アクリル系の接着剤、シリコーン系の接着剤、ウレタン系の接着剤、合成ゴム、天然ゴム等の、既知の接着剤を用いて形成することができる。アクリル系の接着剤は、耐熱性、耐湿性に優れ、かつ、接着可能な材質も幅広いため、好ましい。本開示における接着層は、単層構造又は多層構造を有してもよい。例えば、接着層は、接着剤を含む、単層構造を有する接着層であってもよい。接着層は、両面に接着剤が被覆されている基材フィルム(層構成:接着剤/基材フィルム/接着剤)であってもよい。
合金薄帯が3層以上で積層される場合、それぞれの層の間の接着層は、同じものであってもよいし異なるものでもよい。
【0036】
[保護フィルム]
また、磁性シートは、さらに保護フィルムが積層されていてもよい。保護フィルムは、合金薄帯が、意図しない外力によりクラック又はネットワーククラックが不要に増えたり、脱落したり、又は錆びたりしないように機能する。また、磁性シートを所定形状に加工する際に表面の凹凸が発生する等の、不要な変形が発生しないように機能する。
保護フィルムは、単体で積層されることもあるし、接着層と保護フィルムとを有する保護層として積層されることもある。単体で積層される場合、合金薄帯と保護フィルムは、後述するシート部材(本開示における積層体の一例である。以下同じ。)の接着層により接着されることがある。保護層として積層される場合、合金薄帯と保護フィルムは、保護層の接着層により接着されることがある。
保護フィルムは、露出する合金薄帯を覆うように、積層されていることが好ましい。
また、磁性シートに保護層を形成する場合、保護層にシート部材を積層する方法、又は、保護層に合金薄帯を接着し、その合金薄帯に直接外力を付与して、合金薄帯にクラックを形成し、クラックが形成された合金薄帯の上に、シート部材を積層する方法を用いることができる。前者の方法の具体例としては、接着層と、保護フィルムと、を有する保護層に、第1の積層体を積層する工程が挙げられる。上記工程においては、保護層の接着層と、第1の積層体の接着層とを接触させることが好ましい。
【0037】
保護フィルムは、樹脂製の保護フィルムであることが好ましく、弾力性を有する樹脂製の保護フィルムであることがより好ましい。上記したように、例えば、第1の積層体を得る工程は、(1)接着層と、保護フィルムと、を有する保護層の上記接着層に合金薄帯を接着し、上記保護フィルムと、上記接着層と、上記合金薄帯と、を有する第1の積層部材を得る工程と、(2)上記第1の積層部材の上記合金薄帯に直接外力を付与することによって上記合金薄帯にクラックを形成し、上記保護フィルムと、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、をこの順に有する第1の積層体を得る工程と、を有してもよい。保護フィルムが樹脂製であると、保護フィルムの弾性力により、合金薄帯の表面における凹凸の発生自体が更に抑制される。また、もし合金薄帯の表面に凹凸が発生しても、保護フィルムの弾性力により、凹凸が平坦になるように変形させられる。これにより、良好な平面状態の合金薄帯とすることができ、磁気特性の経時変化が小さい磁性シートを得ることができる。例えば、保護フィルムの樹脂としては、引張弾性率の下限が、0.1GPaの樹脂を使用できる。引張弾性率が0.1GPa以上であれば、上記の効果が十分に得られやすい。引張弾性率の下限は、0.5GPaが好ましく、1.0GPaがさらに好ましい。引張弾性率の上限は10GPaとすることが好ましい。引張弾性率が10GPaを超えると、クラックを形成する際、合金薄帯の変形を抑制してしまうことがある。引張弾性率の上限は7GPaが好ましく、5GPaがさらに好ましい。
【0038】
また、保護フィルムは、厚みが1μm~100μmの保護フィルムであることが好ましい。保護フィルムの厚みが増すと変形させることが難しくなり、曲面又は屈曲面に倣って磁性シートを配置するのを阻害することがある。また、厚さが1μm未満であると、保護フィルム自体の変形が一層容易となるので、ハンドリングが難しくなるとともに、合金薄帯を支持する機能が十分に得られない場合がある。また、フィルムの強度が弱くなるので、保護する機能が十分でなくなる場合がある。
スマートフォンや携帯電話等の携帯機器に用いられる磁性シートは、薄いものが求められる。そのため、携帯機器用の磁性シートは、保護フィルムの厚さの上限を100μm以下とすることが好ましく、さらには、20μmとすることが好ましい。
【0039】
また、保護層においては、保護フィルムが接着層から剥離可能なリリースフィルムであってもよい。この場合、保護層は、保護フィルムを剥離するまでの保護層として機能する。
保護フィルムを剥離した後、接着層により、磁性シートが電子機器等の被遮蔽物に貼り付けられる。
この場合、磁性シートの加工性を向上させることを目的として、保護フィルムは厚さが20μm超のものを用いることもできる。
【0040】
保護フィルムは、磁性シートの積層方向の一方の端面又は両方の端面に、積層させることができる。磁性シートの積層方向の両方の端面に配置された保護フィルムの少なくとも一方を、接着層から剥離可能なものとすることができる。例えば、磁性シートの積層方向の一方の端面又は両方の端面に保護フィルムを接着する工程によって、磁性シートの積層方向の一方の端面又は両方の端面に保護フィルムを積層させることができる。
また、保護フィルムは、複数のシート部材を積層して合金薄帯積層体を得た後、合金薄帯積層体の積層方向の一方の端面又は両方の端面に接着することができる。
【0041】
保護フィルムの樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、アクリル樹脂、セルロース等を用いることができる。耐熱性及び誘電損失の観点から、ポリアミド及びポリイミドが特に好ましい。
【0042】
保護層の接着層としては、既知のものを使用でき、例えば、感圧性接着剤を用いることができる。感圧性接着剤としては、例えば、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系、合成ゴム、天然ゴム等の感圧性接着剤を用いることができる。接着層は、両面に接着剤が被覆されている基材フィルム(層構成:接着剤/基材フィルム/接着剤)であってもよい。
【0043】
[合金薄帯]
合金薄帯としては、例えば、ロール急冷により製造された厚さが100μm以下の合金薄帯を用いることができる。合金薄帯の厚さは、好ましくは50μm以下であり、更に好ましくは30μm以下であり、特に好ましくは25μm以下である。また、合金薄帯の厚さが余りに薄いと取り扱いが困難となるため、合金薄帯の厚さは、5μm以上であることが好ましく、更に好ましくは10μm以上である。
例えば、合金薄帯は、Fe基又はCo基の合金組成であり、ナノ結晶合金又はアモルファス合金の、合金薄帯を使用できる。
合金薄帯としては、特にナノ結晶合金からなる合金薄帯(以下、「ナノ結晶合金薄帯」という場合がある。)を用いることが好ましい。ナノ結晶合金薄帯は、アモルファス合金薄帯よりも機械的に脆く、合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成する際、小さな外力でクラックが形成される。そのため、合金薄帯の表面に凹凸が実質的に形成されずにクラックが形成できるので、良好な平面状態の合金薄帯とすることができ、磁性シートとした後の合金薄帯の形状の経時変化も小さく、磁気特性の経時変化を抑制することができる。
上記したようにある実施形態では、クラックの形成は、接着層の合金薄帯が配置された面とは反対側の面に保護フィルム又は上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムを配置した状態で上記合金薄帯に直接外力を付与することによって行われる。上記方法によれば、ナノ結晶合金薄帯に簡易にクラックが形成できるので、外力によるリリースフィルムもしくは保護フィルムの変形を抑制できる。そのため、良好な平面状態の合金薄帯とすることができ、磁気特性の経時変化が小さい磁性シートを得ることができる。
【0044】
ナノ結晶合金からなる合金薄帯は、例えば、合金溶湯を急冷して、ナノ結晶化が可能なアモルファス合金薄帯を得る工程と、このアモルファス合金薄帯を結晶化開始温度以上で熱処理して微細な結晶粒を形成させる熱処理工程と、を含む製造方法によって製造される。熱処理の温度は、合金組成により異なるが、一般的には450℃以上である。
微細な結晶粒は、例えば、Siなどが固溶した体心立方格子構造のFeである。この微細な結晶粒の分析は、X線回折及び透過電子顕微鏡を用いて行うことができる。ナノ結晶合金においては、ナノ結晶合金の少なくとも50体積%が、最大寸法で測定した粒径の平均が100nm以下の微細な結晶粒で占められる。また、ナノ結晶合金のうちで微細結晶粒以外の部分は主に非晶質である。微細結晶粒の割合は実質的に100体積%であってもよい。
【0045】
また、ナノ結晶合金薄帯としては、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯に張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行って得られたナノ結晶合金薄帯を用いることができる。
【0046】
ナノ結晶化が可能なアモルファス合金薄帯の合金組成として、例えば、次の一般式で示される組成が挙げられる。例えば、次の一般式で示される組成を有するアモルファス合金薄帯を熱処理することで、次の一般式で示される組成を有するナノ結晶合金薄帯を得ることができる。ナノ結晶合金薄帯は、次の一般式により表される組成を有することが好ましい。
【0047】
一般式:(Fe1-aMa)100-x-y-z-α-β-γCuxSiyBzM’αM”βXγ(原子%)
【0048】
上記一般式中、MはCo及び/又はNiであり、M’はNb、Mo、Ta、Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mn及びWからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、M”はAl、白金族元素、Sc、希土類元素、Zn、Sn、及びReからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、XはC、Ge、P、Ga、Sb、In、Be、及びAsからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、a、x、y、z、α、β及びγはそれぞれ0≦a≦0.5、0.1≦x≦3、0≦y≦30、0≦z≦25、5≦y+z≦30、0≦α≦20、0≦β≦20及び0≦γ≦20を満たす。
好ましくは、上記一般式において、a、x、y、z、α、β及びγは、それぞれ0≦a≦0.1、0.7≦x≦1.3、12≦y≦17、5≦z≦10、1.5≦α≦5、0≦β≦1及び0≦γ≦1である。
【0049】
次に、合金薄帯として、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯に張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行って得られたナノ結晶合金薄帯を用いる場合の、熱処理の実施形態について説明する。
【0050】
まず、本実施形態のナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯を用意する工程について、記載する。
ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯とは、例えば、熱処理することによりナノ結晶が生成される非晶質状態の合金薄帯であり、ナノ結晶合金となる合金組成に配合された溶湯を急冷凝固させて製造することができる。溶湯を急冷凝固させる方法には、単ロール法又は双ロール法と呼ばれる方法を用いることができる。これらはロール冷却を用いた方法である。このロール冷却を用いた方法は、よく知られた方法を適用することができる。このロール冷却を用いた方法では、溶湯を連続して急冷し、長尺の非晶質合金薄帯が得られる。薄帯状に急冷凝固されたものは、ナノ結晶は備えておらず、非晶質状態のものであり、その後、熱処理を行うことで、ナノ結晶を生成(ナノ結晶化)させ、ナノ結晶合金薄帯となるものである。なお、この長尺の非晶質合金薄帯は巻き軸に巻き取られ、ロール状の巻回体として、搬送されることが多い。なお、ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯には、微細結晶が存在している場合もある。その場合、微細結晶は熱処理によりナノ結晶となる。
【0051】
次に、本実施形態の非晶質合金薄帯に張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行い、ナノ結晶合金薄帯を得る工程について記載する。
ナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯に張力を付与した状態で、ナノ結晶化の熱処理を行うことで、ナノ結晶合金薄帯の交流比透磁率μrを調整することが可能である。そして、この工程により、交流比透磁率μrが100以上2000以下のナノ結晶合金薄帯を得ることが好ましい。なお、ナノ結晶合金とは、粒径が100nm以下の微結晶組織を有する合金である。
本実施形態では、例えば、非晶質合金薄帯を張力が加わる状態で連続走行させ、その非晶質合金薄帯の一部の領域をナノ結晶化させる。ナノ結晶化は、結晶化開始温度以上の熱が付与されることで行われ、例えば、熱処理炉の中を通過させたり、伝熱媒体に接触させたりする手段を採用できる。具体的な本実施形態では、例えば、張力が加わった状態の非晶質合金薄帯と伝熱媒体とを接触させ、非晶質合金薄帯を、伝熱媒体との接触を維持しながら連続走行させる。そして、非晶質合金薄帯は、伝熱媒体と接触することにより、熱処理され、ナノ結晶合金薄帯となる。
このとき、非晶質合金薄帯に加わっている張力の方向は、伝熱媒体に接触する直前の非晶質合金薄帯の走行方向、伝熱媒体に接触している時の非晶質合金薄帯の走行方向、及び、伝熱媒体から離れた直後のナノ結晶合金薄帯の走行方向と同一であり、いずれも直線状である。このように、非晶質合金薄帯を走行させて処理する場合の非晶質合金薄帯は、長尺の非晶質合金薄帯であり、その非晶質合金薄帯の長手方向と付与される張力の方向とは同一となる。
但し、非晶質合金薄帯は、「伝熱媒体に接触する直前」よりも走行方向上流側においては、搬送ローラー等を経由しながら蛇行走行していてもよい。同様に、非晶質合金薄帯から得られたナノ結晶合金薄帯は、「伝熱媒体から離れた直後」よりも走行方向下流側においては、搬送ローラー等を経由しながら蛇行走行していてもよい。
この張力としては、1.0N~50.0Nが好ましく、2.0N~40.0Nがより好ましく、3.0N~35.0Nが特に好ましい。
張力が1.0N以上であると、透磁率を十分に低下することができる。
張力が50.0N以下であると、非晶質合金薄帯又はナノ結晶合金薄帯の破断をより抑制できる。
【0052】
また、本実施形態のナノ結晶化の熱処理では、非晶質合金薄帯を結晶化温度Tc1以上(例えば430℃以上)の到達温度まで昇温させる。これにより、合金薄帯の組織において、ナノ結晶化が進行する。
到達温度は、430℃~600℃が好ましい。
到達温度が600℃以下である場合(特に、Bの含有量が10原子%以上20原子%以下である場合)には、例えば、ナノ結晶合金薄帯の軟磁気特性(Hc、Bs等)を劣化させ得るFe-B化合物の析出頻度をより低減できる。
また、設定する到達温度と、伝熱媒体の温度とを同一温度としておくことが好ましい。
【0053】
また、ナノ結晶化の熱処理に伝熱媒体を用いる場合、伝熱媒体としては、例えば、プレート、ツインロール等が挙げられるが、非晶質合金薄帯と接触する面が多い、プレート状のものが好ましい。プレート状の接触面は、平面であることが好ましいが、多少の曲面が設けられていてもよい。また、伝熱媒体の合金薄帯との接触面に吸引孔を設け、吸引孔において減圧吸引することを可能としてもよい。これにより、合金薄帯を伝熱媒体の吸引孔を有する面に吸引吸着させることができ、合金薄帯の伝熱媒体への接触性が向上し、熱処理の効率を向上できる。
【0054】
また、伝熱媒体の材質としては、例えば、銅、銅合金(青銅、真鍮等)、アルミニウム、鉄、鉄合金(ステンレス等)などが挙げられる。このうち、銅、銅合金、又はアルミニウムが、熱伝導率(熱伝達率)が高く好ましい。
伝熱媒体は、Niめっき、Agめっき等のめっき処理が施されていてもよい。
また、この伝熱媒体を加熱する手段を別途設けておき、加熱された伝熱媒体と非晶質合金薄帯とを接触させて、非晶質合金薄帯を加熱して、熱処理することができる。また、伝熱媒体の周りを任意の部材で囲ってもよい。
また、本実施形態では、到達温度まで昇温後、伝熱媒体上にて、ナノ結晶合金薄帯の温度を一定時間保持してもよい。
また、本実施形態では、得られたナノ結晶合金薄帯を(好ましくは室温まで)冷却することが好ましい。
また、本実施形態は、得られたナノ結晶合金薄帯(好ましくは上記冷却後のナノ結晶合金薄帯)を巻き取ることにより、ナノ結晶合金薄帯の巻回体を得ることを含んでもよい。
【0055】
本実施形態のナノ結晶化が可能な非晶質合金薄帯の厚さは、10μm~50μmの範囲が好ましい。10μm未満では、合金薄帯自体の機械的強度が低いため、安定して長尺の合金薄帯を鋳造することが困難である。また、50μmを超えると合金の一部が結晶化しやすくなり、特性が劣化する場合がある。非晶質合金薄帯の厚さは、より好ましくは11μm~30μmであり、さらに好ましくは12μm~27μmである。
また、非晶質合金薄帯の幅は特に制限はないが、5mm~300mmであることが好ましい。非晶質合金薄帯の幅が5mm以上であると、非晶質合金薄帯の製造適性に優れる。非晶質合金薄帯の幅が300mm以下であると、ナノ結晶合金薄帯を得る工程において、ナノ結晶化の均一性がより向上する。非晶質合金薄帯の幅は、200mm以下であることが好ましい。
【0056】
なお、本実施形態では、ロール状の巻回体に構成された非晶質合金薄帯から非晶質合金薄帯を巻き出し、その非晶質合金薄帯に張力を加えながら、非晶質合金薄帯を走行させ、その走行する非晶質合金薄帯を伝熱媒体に接触させて加熱し、その加熱による熱処理によりナノ結晶化し、ナノ結晶合金薄帯を得て、そのナノ結晶合金薄帯をロール状の巻回体に巻き取る、連続ラインを設けてナノ結晶合金薄帯を作製することもできる。
【0057】
連続ラインを設けてナノ結晶合金薄帯を作製する方法の一実施形態を、
図21を用いて説明する。
図21に示すのは、インラインアニール装置150であり、巻出しロールから巻取りロールに亘って、長尺の非晶質合金薄帯に対して昇温工程~降温(冷却)工程を含む連続した熱処理工程を施し、ナノ結晶合金薄帯を得るインラインアニール工程を行う装置である。
【0058】
インラインアニール装置150は、非晶質合金薄帯の巻回体111から合金薄帯110を巻き出す巻き出しローラー112(巻き出し装置)と、巻き出しローラー112から巻き出された合金薄帯110を加熱する加熱プレート(伝熱媒体)122と、加熱プレート122によって加熱された合金薄帯110を降温する冷却プレート(伝熱媒体)132と、冷却プレート132によって降温された合金薄帯110を巻き取る巻き取りローラー114(巻き取り装置)と、を備える。
図21では、合金薄帯110の走行方向を、矢印Rで示している。
【0059】
巻き出しローラー112には、非晶質合金薄帯の巻回体111がセットされている。
巻き出しローラー112が矢印Uの方向に軸回転することにより、非晶質合金薄帯の巻回体111から合金薄帯110が巻き出される。
この一例では、巻き出しローラー112自体が回転機構(例えばモーター)を備えていてもよいし、巻き出しローラー112自体は回転機構を備えていなくてもよい。
巻き出しローラー112自体は回転機構を備えていない場合でも、後述の巻き取りローラー114による合金薄帯110の巻き取り動作に連動し、巻き出しローラー112にセットされた非晶質合金薄帯の巻回体111から合金薄帯110が巻き出される。
【0060】
図21中、丸で囲った拡大部分に示すように、加熱プレート122は、巻き出しローラー112から巻き出された合金薄帯110が接触しながら走行する第1平面122Sを含む。この加熱プレート122は、第1平面122Sに接触しながら第1平面122S上を走行している合金薄帯110を、第1平面122Sを介して加熱する。これにより、走行中の合金薄帯110が、安定的に急速加熱され、ナノ結晶化される。
加熱プレート122は、不図示の熱源に接続されており、この熱源から供給された熱によって所望とする温度に加熱されている。加熱プレート122は、熱源に接続されることに代えて、又は、熱源に接続されることに加えて、加熱プレート122自身の内部に熱源を備えていてもよい。
加熱プレート122の材質としては、例えば、ステンレス、Cu、Cu合金、Al合金等が挙げられる。
【0061】
加熱プレート122は、加熱室120に収容されている。
加熱室120は、加熱プレート122に対する熱源とは別に、加熱室の温度を制御するための熱源を備えていてもよい。
加熱室120は、合金薄帯110の走行方向(矢印R)の上流側及び下流側のそれぞれに、合金薄帯が進入又は退出する開口部(不図示)を有している。合金薄帯110は、上流側の開口部である進入口を通って加熱室120内に進入し、下流側の開口部である退出口を通って加熱室120内から退出する。
【0062】
また、
図21中、丸で囲った拡大部分に示すように、冷却プレート132は、合金薄帯110が接触しながら走行する第2平面132Sを含む。この冷却プレート132は、第2平面132Sに接触しながら第2平面132S上を走行している合金薄帯110を、第2平面132Sを介して降温する。
冷却プレート132は、冷却機構(例えば水冷機構)を有していてもよいし、特段の冷却機構を有していなくてもよい。
冷却プレート132の材質としては、例えば、ステンレス、Cu、Cu合金、Al合金等が挙げられる。
冷却プレート132は、冷却室130に収容されている。
冷却室130は、冷却機構(例えば水冷機構)を有していてもよいが、特段の冷却機構を有していなくてもよい。即ち、冷却室130による冷却の態様は、水冷であってもよいし、空冷であってもよい。
冷却室130は、合金薄帯110の走行方向(矢印R)の上流側及び下流側のそれぞれに、合金薄帯が進入又は退出する開口部(不図示)を有している。合金薄帯110は、上流側の開口部である進入口を通って冷却室130内に進入し、下流側の開口部である退出口を通って冷却室130内から退出する。
【0063】
巻き取りローラー114は、矢印Wの方向に軸回転する回転機構(例えばモーター)を備えている。巻き取りローラー114の回転により、合金薄帯110が所望とする速度で巻き取られる。
【0064】
インラインアニール装置150は、巻き出しローラー112と加熱室120との間に、合金薄帯110の走行経路に沿って、ガイドローラー41、ダンサーローラー60(引張応力調整装置の一つ)、ガイドローラー42、並びに、一対のガイドローラー43A及び43Bを備えている。引張応力の調整は、巻き出しローラー112及び巻き取りローラー114の動作制御によっても行われる。
ダンサーローラー60は、鉛直方向(
図21中の両側矢印の方向)に移動可能に設けられている。このダンサーローラー60の鉛直方向の位置を調整することにより、合金薄帯110の引張応力を調整できる。
これにより、非晶質合金薄帯に張力を付与した状態でナノ結晶化の熱処理を行うことができる。
【0065】
巻き出しローラー112から巻き出された合金薄帯110は、これらのガイドローラー及びダンサーローラーを経由して、加熱室120内に導かれる。
インラインアニール装置150は、加熱室120と冷却室130との間に、一対のガイドローラー44A及び44B、並びに、一対のガイドローラー45A及び45Bを備えている。
加熱室120から退出した合金薄帯110は、これらのガイドローラーを経由して冷却室130内に導かれる。
【0066】
インラインアニール装置150は、冷却室130と巻き取りローラー114との間に、合金薄帯110の走行経路に沿って、一対のガイドローラー46A及び46B、ガイドローラー47、ダンサーローラー62、ガイドローラー48、ガイドローラー49、並びに、ガイドローラー50を備えている。
ダンサーローラー62は、鉛直方向(
図21中の両側矢印の方向)に移動可能に設けられている。このダンサーローラー62の鉛直方向の位置を調節することにより、合金薄帯110の引張応力を調整できる。
冷却室130から退出した合金薄帯110は、これらのガイドローラー及びダンサーローラーを経由して、巻き取りローラー114に導かれる。
【0067】
インラインアニール装置150において、加熱室120の上流側及び下流側に配置されたガイドローラー(43A、43B、44A、及び44B)は、合金薄帯110と加熱プレート122の第1平面122Sとを全面的に接触させるために、合金薄帯110の位置を調整する機能を有する。
インラインアニール装置150において、冷却室130の上流側及び下流側に配置されたガイドローラー(45A、45B、46A、及び46B)は、合金薄帯110と冷却プレート132の第2平面132Sとを全面的に接触させるために、合金薄帯110の位置を調整する機能を有する。
【0068】
このインラインアニール装置150によって、ナノ結晶合金薄帯を作製し、そのナノ結晶合金薄帯を用いて、上記した合金薄帯積層体を作製することができる。
【0069】
[クラック用テープ]
ある実施形態では、合金薄帯にクラックを形成する際に上記合金薄帯にクラック用テープが接着されている。
クラック用テープは、接着層と、上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムと、を有する。上記クラック用テープは、合金薄帯の片側に接着され、合金薄帯がクラックされる際、合金薄帯を支持する。その後、リリースフィルムを剥離し、接着層を露出させて、接着層とクラックが形成された合金薄帯とを有するシート部材(本開示における積層体の一例)とする。シート部材は、接着層により、他の合金薄帯等と接着することができる。クラック用テープの接着層は磁性シートに残る。接着層に対して、リリースフィルムは製造途中で剥離される場合があるので、磁性シートに残らないことがある。
【0070】
[リリースフィルム]
リリースフィルムは、樹脂製のリリースフィルムであることが好ましく、弾力性を有する樹脂製のリリースフィルムであることがより好ましい。
本開示の一実施形態に係る合金薄帯積層体の製造方法は、接着層と接着層から剥離が可能なリリースフィルムとを有するクラック用テープに、合金薄帯を接着する工程と、合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成する工程と、を有する。この場合、リリースフィルムが樹脂製であると、リリースフィルムの弾性力により、合金薄帯の表面における凹凸の発生自体が抑制される。また、もし合金薄帯の表面に凹凸が発生しても、リリースフィルムの弾性力により、凹凸が平坦になるように変形される。これにより、良好な平面状態の合金薄帯とすることができ、磁気特性の経時変化が小さい磁性シートを得ることができる。
例えば、リリースフィルムの樹脂としては、引張弾性率の下限が、0.1GPaの樹脂を使用できる。引張弾性率が0.1GPa以上であれば、上記の効果が十分に得られやすい。引張弾性率の下限は、0.5GPaが好ましく、1.0GPaがさらに好ましい。引張弾性率の上限は10GPaとすることが好ましい。10GPaを超えると、クラックを形成する際、合金薄帯の変形を抑制してしまうことがある。引張弾性率の上限は7GPaが好ましく、5GPaがさらに好ましい。リリースフィルムの樹脂は、保護層の保護フィルムの樹脂と同じものを用いることができる。
【0071】
また、リリースフィルムは、厚みが1μm~100μmのリリースフィルムであることが好ましい。リリースフィルムの厚みが増すと変形し難くなり、曲面又は屈曲面に倣って磁性シートを配置するのを阻害することがある。また、厚さが1μm未満であると、リリースフィルム自体の変形が一層容易となるので扱いが難しくなり、合金薄帯を支持する機能が十分に得られない場合がある。
【0072】
接着層は、保護層の接着層と同じものを用いることができる。
【0073】
[クラック]
クラックは、例えば、凸状部材を、合金薄帯の表面に押しつけて形成することができる。凸状部材の形状は、例えば、棒状、又は錐状でもよい。凸状部材の端部の先端は、平坦、錐状、中央が窪む逆錐状、又は筒状でもよい。
クラックの形成では、合金薄帯の表面の複数箇所に凸状部材を押しつけて上記合金薄帯に複数のクラックを形成することが好ましい。例えば、クラックの形成において、複数の凸状部材が規則的に配置されたプレス部材を用いることができる。例えば、複数の凸状部材を周面に配置したロール(以後、クラッキングロールという)を用いてクラックの形成を行うことができる。例えば、長尺の合金薄帯をクラッキングロールに押し付けたり、又は長尺の合金薄帯をクラッキングロール同士の間に通したりすることで、連続的にクラックを形成できる。また、複数のクラッキングロールを用いてクラックを形成することもできる。
【0074】
図15は、凸状部材によって外力が加えられる箇所を示す合金薄帯の平面図である。合金薄帯内の模様の形状は、外力が加えられた部分の凸状部材の先端形状に相当する。
図15(a)は、端部の断面形状が円状の凸状部材を用いた場合の、外力が加えられる箇所を概念的に示すものである。
図15(b)は、端部の外形が十字状の凸状部材を用いた場合の、外力が加えられる箇所を概念的に示すものである。
図15(c)は、端部の外形が図形縦方向に線状の凸状部材と、横方向に線状の凸状部材をそれぞれ用いた場合の、外力が加えられる箇所を概念的に示すものである。本図においては、外力が加えられる箇所は、それぞれ不連続、かつ、マトリクス状になるように配置されている。
図15(d)は、端部の外形が図形縦方向に対してθ°傾いた(
図15(d)では45°傾いた)線状の凸状部材と、-θ°傾いた(
図15(d)では-45°傾いた)線状の凸状部材を用いた場合の、外力が加えられる箇所を概念的に示すものである。本図においては、外力が加えられる箇所は、それぞれ不連続、かつ、一方の線状の外力が加えられる箇所は、その延長線上において、他方の外力が加えられる箇所の両端の間で交差するように、配置されている。
図15(e)は、端部の外形が図形縦方向に対してθ°傾いた(
図15(e)では45°傾いた)線状の凸状部材と、-θ°
傾いた(
図15(e)では-45°傾いた)線状の凸状部材を用いた場合の、外力が加えられる箇所を概念的に示すものである。本図においては、外力が加えられる箇所は、それぞれ不連続、かつ、傾いたマトリクス状になるように配置されている。
図15(f)は、端部の外形が図形縦方向に線状の凸状部材と、横方向に線状の凸状部材をそれぞれ用いた場合の、外力が加えられる箇所を概念的に示すものであり、
図15(c)に対し、位置関係を変えたものである。凸状部材の配置は、図に示すものに限られず、適宜設定することができる。
これらの外力が加えられる箇所は、この外力が加えられる箇所と全く同一の形態のクラックが形成されることが望ましい。しかしながら、その他のクラックが形成される場合や、同一形態のクラックが形成されない(部分的にしかクラックが形成されない)場合があってもよい。
また、クラックを線状のものとし、複数のクラックを連続的に繋がるように形成してもよい。
【0075】
図15(c)、
図15(d)、
図15(e)、又は
図15(f)のクラックを形成する場合、例えば、一方の凸状部材をクラッキングロールに配置し、他方の凸状部材を別のクラッキングロールに配置し、両者のクラッキングロールで、順次、合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成することができる。
【0076】
凸状部材を用いたクラックの形成では、さらに、複数のクラック同士を繋ぐネットワーククラックを形成することが好ましい。具体的に、ある実施形態は、合金薄帯に凸状部材を押しつけて複数のクラックを形成した後、上記複数のクラック同士を繋ぐネットワーククラックを形成する工程を有することが好ましい。例えば、凸状部材で合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成した後、合金薄帯を湾曲したり、巻き取ったりする等の手段によって第2の外力を付与できる。これにより、クラックを脆性破壊及び/又は亀裂破壊の起点として、クラック同士を繋ぐ割れ及び/又はひび(クラック同士を繋ぐ磁気的なギャップ)を形成することができる。ネットワーククラックを形成する工程では、上記のような第2の外力を付与することなく、複数のクラックが形成される過程でネットワーククラックが形成されてもよい。
【0077】
[製造工程]
以下、本開示に係る合金薄帯積層体の製造方法について具体的な実施形態を示しながら説明する。まず、第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態のフローチャートである。
第1の実施形態は、以下に記載の磁性シートの製造方法である。
第1の実施形態は、軟磁性材料からなる合金薄帯が複数積層され、かつ、上記合金薄帯にクラックが形成された磁性シートの製造方法であって、接着層と、上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムと、を有するクラック用テープの上記接着層に、合金薄帯を接着する工程(
図1の工程(1))と、上記合金薄帯に直接外力を付与して、クラックを形成する工程(
図1の工程(2))と、上記リリースフィルムを上記接着層から剥離し、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有するシート部材を形成する工程(
図1の工程(3))と、複数の上記シート部材を積層する工程(
図1の工程(4))と、を有する、磁性シートの製造方法である。上記工程(4)において使用される複数のシート部材は、例えば、上記工程(1)、上記工程(2)、及び上記工程(3)を含む一連の過程を複数回繰り返すことによって供給される。
【0078】
第1の実施形態では、工程(1)において、接着層と、接着層から剥離が可能なリリースフィルムとを有するクラック用テープに、合金薄帯が接着される。
クラック用テープは、接着層とリリースフィルムとが一体となっているものを用いることができる。同様に、接着層とリリースフィルムとを個別に用意してその後に一体化させたものを用いることもできる。
【0079】
図4は、工程(1)によって得られた積層部材10aの断面を模式的に示した図である。積層部材10aにおいては、合金薄帯4と、接着層3と、リリースフィルム1とが積層されている。
【0080】
第1の実施形態では、工程(2)において、合金薄帯に直接外力が付与されてクラックが形成される。
このように、本開示では、合金薄帯を複数積層した後ではなく、合金薄帯を積層する前で、かつ、合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成しているため、付与する外力が合金薄帯に直接加えられる上、合金薄帯1層分にクラックを入れる強さのみとなる。この結果、複数の合金薄帯に同時にクラックを形成する従来の製造方法、又は保護フィルムの上から外力を付与してクラックを形成する従来の製造方法より、小さい外力でクラックを形成することができる。そのため、クラックが形成された合金薄帯の表面の凹凸を抑制することができ、合金薄帯の平面状態を良好とすることができる。
また、工程(2)において、クラックの形成は、リリースフィルムに合金薄帯が接着された状態で行われるため、リリースフィルムの弾性力により、合金薄帯の表面の凹凸の発生自体が抑制され、合金薄帯の平面状態を良好とすることができる。また、もし合金薄帯の表面に凹凸が発生しても、リリースフィルムの弾性力により、凹凸が平坦になるように変形させられる。その結果、磁気特性の経時変化が小さい磁性シートを得ることができる。
【0081】
図5は、工程(2)によって得られた積層体10bを模式的に示した図である。
図5(2-a)は積層方向に見た平面図であり、
図5(2-b)は
図5(2-a)のA-A断面図である。なお、後述の
図6、
図7、
図10、
図11、及び
図12における上下の(*-a)、及び(*-b)の図も同じ関係であり、以後の説明は省略する。
積層体10bにおいては、合金薄帯4と、接着層3と、リリースフィルム1とが、積層されている。また、合金薄帯4には、図面の上下方向に伸びる線状のクラック9が複数規則的に形成されている。
図5(2-b)に示すように、クラック9は、合金薄帯4に形成された、割れ及び/又はひびである。リリースフィルムは、前記の通り、弾力性を有する樹脂製であることが好ましい。
なお、合金薄帯に線状のクラックを形成する場合、例えば
図22に示すとおり、合金薄帯の鋳造方向(ロール冷却により、連続的に鋳造(急冷凝固)する場合の長手方向に相当し、ロールの回転方向に沿う方向である)に平行に形成することが好ましい。なお、
図22に示す矢印が鋳造方向を示す。
【0082】
第1の実施形態では、工程(3)において、リリースフィルムが剥離される。リリースフィルムは、従来の製造方法においては活用されていなかったが、本開示では、工程(2)で、合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成する際の、合金薄帯に凹凸ができないようにするための補助部材として用いられる。
【0083】
図6は、工程(3)によって得られた積層体10c(すなわちシート部材)を模式的に示した図である。積層体10c(すなわちシート部材)においては、合金薄帯4と、接着層3が、積層されている。なお、リリースフィルムは剥離されている。
【0084】
第1の実施形態では、工程(4)において、複数のシート部材が積層される。磁性シートは、工程(2)でクラックが形成された表面の凹凸が無い若しくは少ない、平面状態が良好な合金薄帯が、そのまま積層されて製造されるので、磁性シートとした後の合金薄帯の表面の凹凸も小さく、平面状態が良好であり、磁気特性の経時変化が小さい磁性シートを得ることができる。
【0085】
図7は、工程(4)によって得られた磁性シート20a(合金薄帯積層体)を模式的に示した図である。磁性シート20aにおいては、複数のシート部材が、積層されている。複数のシート部材は、3つの第2の積層体(10c1~10c3)と第1の積層体10c4とを含む。
この実施形態の磁性シート20aは、
図7(4-a)に示すように、第2の積層体10c1に形成されたクラック9と、第2の積層体10c2に形成されたクラック9-1と、第2の積層体10c3に形成されたクラック9-2とが、積層方向に見て、異なる位置に形成されている。このように、本開示の一例では、それぞれの合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成しているため、複数の合金薄帯に同時にクラックを形成する従来の製造方法と異なり、合金薄帯の層毎でクラックの位置を変えることができるので、磁気ギャップが均等に形成された磁性シートにすることができる。そのため、この磁性シートに対し、さらに所望の形状に打ち抜いたり、又は切断したりする加工を行う場合、加工位置による透磁率の変動が少なく、安定したシールド特性を有する磁性シートを製造することができる。なお、第1の積層体10c4のクラック9-4は、第2の積層体10c1に形成されたクラック9と重なる位置に形成されている。
【0086】
第1の実施形態におけるその他の工程として、例えば、保護フィルムを第2の積層体10c1の上に積層する工程を採用することができる。保護フィルムにより、合金薄帯が意図しない外力によりクラック及びネットワーククラックが不要に増えたり、合金薄帯が脱落したり、又は合金薄帯が錆びたりすることを、抑制できる。また、保護フィルムは、磁性シートを所定形状に加工する際に不要な表面の凹凸が発生しないように機能する。
保護フィルムを積層する工程は、工程(1)~工程(4)のいずれの工程でも行うことができる。
【0087】
図8は、クラック同士を繋ぐ合金薄帯の割れ及び/又はひび(ネットワーククラック)の状態を説明するための図である。具体的に、
図8は、合金薄帯に形成された、クラック9とネットワーククラック11の形態を示す模式図である。クラック9が不連続である場合、合金薄帯4に、湾曲させる、巻き回す等の第2の外力を付与し、クラック9を脆性破壊の起点として、合金薄帯4に割れ及び/又はひびを形成させ、その割れ及び/又はひび(クラック9同士を繋ぐ磁気的なギャップ)でクラック9同士を繋ぐネットワーククラック11を形成してもよい。
ネットワーククラック11の形成は、工程(2)以降であれば、いつでも可能である。
【0088】
次に、第1の実施形態に使用する磁性シートの製造装置の一例及び上記製造装置を用いた磁性シートの製造方法を、
図13により説明する。
図13に示される磁性シートの製造装置は、接着層と、上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムと、を有するクラック用テープの上記接着層に合金薄帯を接着する複数の機構Aと、上記クラック用テープに接着された上記合金薄帯に直接外力を付与して、上記合金薄帯にクラックを形成する複数の機構Bと、上記リリースフィルムを剥離し、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有する積層体を形成する複数の機構Cと、複数の上記機構Aと複数の上記機構Bと複数の上記機構Cとにより形成される、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有する複数の積層体を積層して合金薄帯積層体とする機構Dと、を備える。さらに、
図13に示される磁性シートの製造装置は、ロール状に巻かれた合金薄帯を巻き出す機構と、磁性シートを加工する機構と、を備える。以下に示される具体的な品名及び数値は、磁性シートの製造方法及び磁性シートの製造装置を詳細に説明するための例である。
【0089】
・工程(1)「接着層と、上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムと、を有するクラック用テープの上記接着層に、合金薄帯を接着する工程」の実施形態
先ず、テープ2Aを巻き付けたロールが4箇所に配置される。その後、テープ2Aがロールから引き出される。テープ2Aは、リリースフィルム1A(25μm)と、接着層(5μm)と、リリースフィルム1B(25μm)の3層構造である。リリースフィルム1Aとリリースフィルム1Bは同じ材質(PET)であり、引張弾性力が3.9GPaである。接着層は、両面にアクリル系の接着剤が被覆されている基材フィルムである。リリースフィルム1A、1Bは、接着層から剥離が可能である。
リリースフィルム1Aはテープ2Aから剥離される。リリースフィルム1Aの剥離が、テープ2Aがロールから引き出されるのとほぼ同じタイミングで行われる。本実施形態では、リリースフィルム1Aの剥離により得られた接着層とリリースフィルム1Bからなるテープを、クラック用テープとして用いる。
工程(1)において使用される合金薄帯4は、長尺の合金薄帯である。合金薄帯4は、ロールに巻かれている。合金薄帯4が巻かれたロールは、ロール状に巻かれた合金薄帯を巻き出す機構の一例である。合金薄帯4がロールから引き出され、機構Aの一例である圧着ロールにより、クラック用テープの接着層に接着される。合金薄帯4はFe-Cu-Nb-Si-B系のナノ結晶合金からなる合金薄帯(日立金属株式会社製FT-3)である。
図13に示される製造装置において、合金薄帯4は、後述するカッター7によって切断されるまで連続して流される。
【0090】
・工程(2)「合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成する工程」の実施形態
クラック用テープに接着された合金薄帯4に、機構Bの一例であるクラッキングロール5により、直接外力が付与されてクラックが形成される。クラッキングロール5においては、複数の突出部材が周面に規則的に配置されている。クラックを形成する際、クラッキングロールからの外力を逃がさないよう、リリースフィルム1B側に、合金薄帯4をクラッキングロール側に押し付ける圧縮ロールを配置することもできる。
【0091】
・工程(3)「リリースフィルムを接着層から剥離し、接着層とクラックが形成された合金薄帯とを有するシート部材を形成する工程」の実施形態
クラック用テープの接着層から、リリースフィルム1Bを剥離し、接着層を露出させる。リリースフィルム1Bを剥離することで、接着層とクラックが形成された合金薄帯を有するシート部材を形成する。リリースフィルム1Bの剥離は、機構Cの一例であるロールにより実行される。リリースフィルム1Bを剥離する際に発生する合金薄帯4への外力を利用して、ネットワーククラックを形成することもできる。
図13に示される製造装置は、工程(1)から工程(3)までを実行するための機構A、機構B、及び機構Cの組み合わせを4つ備えているただし、上記組み合わせの数は、4つに限定されるものではなく、目的により、5つ以上としてもよいし、3つ以下としてもよい。
【0092】
・工程(4)「複数のシート部材を積層する工程」の実施形態
工程(1)~工程(3)を経て製造した複数のシート部材を、接着層と合金薄帯とが交互になるように、それぞれ圧縮ロールで積層し、磁性シートを得る。圧縮ロールは、機構Dの一例である。複数のシート部材は、保護層6Aに積層される。
【0093】
なお、
図13に示す第1の実施形態では、磁性シートの積層方向の一方の端面に保護層6Aが、他方の端面に保護フィルム6aが接着される。
保護層6Aは、磁性シートの積層方向の一方の端面の接着層に接着される。保護層6Aは、厚さが5μmの接着層と、厚さが75μmの保護フィルムの2層構造である。なお、この保護フィルムは接着層から剥離可能である。シート部材の接着層と、保護層の接着層が、圧着ロールにより接着される。保護フィルムが剥離されると保護層の接着層が露出し、磁性シートを電子機器等に貼り付けることが可能になる。
保護フィルム6aは、別のテープ2Bの接着層を介して、磁性シートの他方の端面の合金薄帯に接着される。テープ2Bは、リリースフィルム1Cと、接着層(5μm)と、リリースフィルム1Dの3層構造である。リリースフィルム1C、及びリリースフィルム1Dは、接着層から剥離可能である。テープ2Bからリリースフィルム1Cが剥離され、露出された接着層と合金薄帯が圧着ロールにより接着される。その後、リリースフィルム1Dが剥離される。さらにその後、保護フィルム6aが、テープ2Bの接着層に圧着される。保護フィルム6aは厚さが25μmのPET製保護フィルムである。
【0094】
第1の実施形態では、その保護フィルム6aが積層された後、磁性シートがカッター7によって必要な大きさに切断され、トレー8に搬送される。カッター7は、磁性シートを加工する機構の一例である。カッター7の代わりに、打抜き型等の加工装置によって所望の形状に加工することもできる。
【0095】
第2の実施形態について説明する。
図2は、第2の実施形態を示すフローチャートである。
第2の実施形態は、以下に記載の、磁性シートの製造方法である。
第2の実施形態は、軟磁性材料からなる合金薄帯が複数積層され、かつ、上記合金薄帯にクラックが形成された磁性シートの製造方法であって、接着層と、上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムと、を有するクラック用テープの上記接着層に、合金薄帯を接着する工程(
図2の工程(1))と、上記合金薄帯に直接外力を付与して、クラックを形成する工程(
図2の工程(2))と、上記リリースフィルムを上記接着層から剥離し、上記接着層と、上記クラックが形成された上記合金薄帯と、を有するシート部材を形成する工程(
図2の工程(3))と、接着層と保護フィルムとを有する保護層の上記接着層に、合金薄帯を接着する工程(
図2の工程(5))と、上記保護層に接着された上記合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成する工程(
図2の工程(6))と、上記保護層に接着された上記合金薄帯に、上記シート部材を積層する工程(
図2の工程(7))と、を有する、磁性シートの製造方法である。
【0096】
第2の実施形態では、第1の実施形態と同じ、工程(1)~工程(3)を有する。
工程(1)~工程(3)の説明は省略する。
【0097】
第2の実施形態では、工程(5)において、接着層と保護フィルムとを有する保護層の接着層に、合金薄帯が接着される。
保護層は、接着層と保護フィルムが一体となっているものを用いてもよいし、接着層と保護フィルムを個別に用意してその後に一体化させたものを用いてもよい。
なお、工程(5)は、工程(1)~工程(3)と同時に行うこともできる。
【0098】
図9は、工程(5)によって得られた積層部材10dの断面を模式的に示す図である。積層部材10dでは、合金薄帯4’、及び、接着層6bと保護フィルム6aとからなる保護層6が積層されている。
保護層は、接着層と保護フィルムが一体となって販売されているものを用いてもよいし、接着層と保護フィルムを個別に用意してその後に一体化させたものを用いてもよい。
保護層の接着層と保護フィルムの材質は、前記と同様である。
【0099】
第2の実施形態では、工程(6)において、保護層に接着された合金薄帯に直接外力が付与されてクラックが形成される。
このように、本開示では、合金薄帯を積層した後ではなく、合金薄帯を積層する前で、かつ、合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成しているため、付与する外力が、合金薄帯に直接加える上、合金薄帯1層分にクラックを入れる強さのみとなる。そのため、複数の合金薄帯に同時にクラックを形成する従来の製造方法、又は保護フィルムの上から外力を付与してクラックを形成する従来の製造方法より、小さい外力でクラックを形成することができる。クラックを形成するための外力が小さいので、クラックが形成された合金薄帯の表面の凹凸を抑制することができ、合金薄帯の平面状態を良好とすることができる。
また、工程(6)において、クラックの形成は、保護フィルムに合金薄帯が接着された状態で行われるため、保護フィルムの弾性力により、合金薄帯の表面における凹凸の発生自体が抑制され、合金薄帯の平面状態を良好とすることができる。また、もし合金薄帯の表面に凹凸が発生しても、保護フィルムの弾性力により、凹凸が平坦になるように変形される。その結果、磁気特性の経時変化が小さい磁性シート(合金薄帯積層体)を得ることができる。
【0100】
図10は、工程(6)によって得られた第1の積層体10eを模式的に示す図である。合金薄帯4’には、図面上下方向に伸びる線状のクラック9’が複数規則的に形成されている。
図10(6-b)に示すように、クラック9’は、合金薄帯4’に形成された、割れ及び/又はひびである。
【0101】
保護フィルムは弾力性を有する樹脂製の保護フィルムであることが好ましい。保護フィルムの、樹脂の引張弾性率、厚みの好ましい範囲、及び樹脂の種類は、前記の通りである。
【0102】
第2の実施形態では、工程(7)において、保護層に接着された合金薄帯に、工程(1)~工程(3)で得られたシート部材(すなわち、第2の積層体10c3)が積層される。シート部材の合金薄帯と保護層に接着された合金薄帯のどちらも、表面の凹凸が無い若しくは少ない、平面状態が良好な合金薄帯である。それらの合金薄帯が、そのまま積層されているので、磁性シートとした後の合金薄帯の表面の凹凸も小さく、平面状態が良好であり、磁気特性の経時変化が小さい磁性シートを得ることができる。
【0103】
図11は、工程(7)によって得られた磁性シート20bを模式的に示す図である。
図11(7-a)に示すように、磁性シート20bにおいては、保護層6に接着された合金薄帯4’に、第2の積層体10c3が積層されている。この磁性シート20bにおいては、第2の積層体10c3の合金薄帯4に形成されたクラック9と、保護層6に接着された合金薄帯4’に形成されたクラック9’が、積層方向に見て、異なる位置に形成されている。このように、本開示では、それぞれの合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成しているため、複数の合金薄帯に同時にクラックを形成する従来の製造方法と異なり、合金薄帯の層毎でクラックの位置を変えることができるので、磁気ギャップが均等に形成された磁性シートにすることができる。そのため、この磁性シートをさらに所望の形状に打ち抜いたり、切断したりして加工する場合、加工位置による透磁率の変動が少なく、安定したシールド特性を有する磁性シートを製造することができる。
磁性シートは、積層方向で、保護層6とは反対側の面に、別の保護フィルム又は保護層を積層することができる。どちらの保護層においても、保護フィルムとして接着層から剥離可能なリリースフィルムを用いることができる。
【0104】
第2の実施形態においても、
図8での説明と同様に、ネットワーククラック11を形成することができる。
【0105】
第2の実施形態において、シート部材に、さらに別のシート部材を積層する工程(
図3の工程(4))を行うことができる。このシート部材に、さらに別のシート部材を積層する工程(工程(4))は、保護層に接着された合金薄帯にシート部材を積層した後、そのシート部材に、さらに別のシート部材を積層する工程とすることができる。この場合、
図2に示すフローチャートにおいて、工程(7)の次に、工程(4)を行うことになる。
また、別の方法として、複数のシート部材を積層した後、そのシート部材の積層体を保護層に接着された合金薄帯に積層することもできる。
図3は、この方法のフローチャートである。
図3のフローチャートにおいては、第2の実施形態の工程(3)の後に、第1の実施形態の工程(4)を行う。各工程についての説明は、前記と同様である。
なお、これに限らず、合金薄帯を積層する手順は、都度設定できる。
【0106】
図12は、第2の実施形態で得られる別の磁性シートを模式的に示す図である。具体的に、
図12に示される磁性シートは、
図3のフローチャートに示される工程によって得られる。
図12(a)に示すように、磁性シート20cは、保護層6に接着された合金薄帯4’に、第2の積層体10c1~第2の積層体10c3が、積層されている。磁性シート20cは、第2の積層体10c1~第2の積層体10c3にそれぞれ形成されたクラック9、クラック9-1、及びクラック9-2と、保護層6に接着された合金薄帯4’に形成されたクラック9’が、積層方向に見て、異なる位置に形成されている。このように、本開示では、それぞれの合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成しているため、複数の合金薄帯に同時にクラックを形成する従来の製造方法と異なり、合金薄帯の層毎でクラックの位置を変えることができるので、磁気ギャップが均等に形成された磁性シートにすることができる。そのため、この磁性シートに対し、さらに所望の形状に打ち抜いたり、切断したりする加工を施しても、加工位置による透磁率の変動が少なく、安定したシールド特性を有する磁性シートを製造することができる。
磁性シート20cにおいては、積層方向で、保護層6とは反対側の面に、別の保護フィルム又は保護層を積層することができる。どちらの保護層においても、保護フィルムとして接着層から剥離可能なリリースフィルムを用いることができる。
【0107】
次に、第2の実施形態に使用する磁性シートの製造装置の一例を、
図14により説明する。
図14に示される磁性シートの製造装置は、
図13に示される磁性シートの製造装置に含まれる機構と同様の機構を有する。なお、第2の実施形態として、
図2に示す工程の製造方法について述べる。
・工程(1)「接着層と、上記接着層から剥離が可能なリリースフィルムと、を有するクラック用テープの上記接着層に、合金薄帯を接着する工程」の実施形態
先ず、リリースフィルム1Eが巻き付けられたロールが3箇所に配置される。また、リリースフィルム1Eに接着層を接着させるためのテープ2Cが巻き付けられたロールが、3箇所に配置される。テープ2Cは、接着層(5μm)と、リリースフィルム1F(25μm)の2層構造である。リリースフィルム1Eとリリースフィルム1Fは同じ材質(PET)であり、引張弾性力が3.9GPaである。
その後、リリースフィルム1Eとテープ2Cがロールから引き出され、圧着ロールにより接着される。接着層は、両面にアクリル系の接着剤が被覆されている基材フィルムである。リリースフィルム1Fは、接着層から剥離が可能である。リリースフィルム1Eは、接着層に接着した後、剥離が可能である。
その後、リリースフィルム1Fは接着層から剥離される。本実施形態では、リリースフィルム1Fの剥離により得られた接着層とリリースフィルム1Eからなるテープを、クラック用テープとして用いる。
その後、合金薄帯4がロールから引き出され、圧着ロールにより、露出した接着層に接着される。合金薄帯4はFe-Cu-Nb-Si-B系のナノ結晶合金からなる合金薄帯(日立金属株式会社製FT-3)である。
【0108】
・工程(2)「合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成する工程」の実施形態
複数の突出部材が周面に規則的に配置されたクラッキングロール5により、クラック用テープに接着された合金薄帯4に、直接外力が付与されてクラックが形成される。クラックを形成する際、クラッキングロール5からの外力を逃がさないよう、リリースフィルム1E側に、圧縮ロールを配置することもできる。
【0109】
・工程(3)「リリースフィルムを接着層から剥離し、接着層とクラックが形成された合金薄帯とを有するシート部材を形成する工程」の実施形態
クラック用テープの接着層から、リリースフィルム1Eを剥離し、接着層を露出させる。リリースフィルム1Eを剥離する際に発生する合金薄帯4への外力を利用して、ネットワーククラックを形成することもできる。
【0110】
・工程(5)「接着層と保護フィルムとを有する保護層の接着層に、合金薄帯を接着する工程」の実施形態
先ず、保護フィルム6a1が巻き付けられたロールが配置される。また、保護フィルム6a1が巻き付けられたロールの近傍に、テープ2Cを巻き付けたロールが配置される。保護フィルム6a1とテープ2Cがロールから引き出され、テープ2Cの接着層に保護フィルム6a1が圧着ロールにより接着される。テープ2Cは、前記の通り、接着層(5μm)と、リリースフィルム1F(25μm)の2層構造である。
リリースフィルム1Fと保護フィルム6a1の材質は同じ材質(PET)であり、引張弾性力が3.9GPaである。また、接着層としては、両面にアクリル系の接着剤が被覆されている基材フィルムを用いる。
リリースフィルム1Fは、接着層から剥離が可能である。保護フィルム6a1は、接着層に接着した後、剥離が可能である。
その後、リリースフィルム1Fはテープ2Cから剥離される。本実施形態では、これにより得られた接着層と保護フィルム6a1からなるテープを、保護層として用いる。
その後、合金薄帯4’がロールから引き出され、圧着ロールにより、露出した接着層に接着される。合金薄帯4’は、合金薄帯4と同じ材質のものでもよいし、異なるものでもよい。
【0111】
・工程(6)「保護層に接着された合金薄帯に直接外力を付与してクラックを形成する工程」の実施形態
複数の突出部材が周面に規則的に配置されたクラッキングロール5により、保護層6a1に接着された合金薄帯4’に、直接外力が付与されてクラックが形成される。この際、クラッキングロールからの外力を逃がさないよう、保護フィルム6a1側に、圧縮ロールを配置することもできる。
【0112】
・工程(7)「保護層に接着された合金薄帯にシート部材を積層する工程」の実施形態
保護層の接着層に接着された合金薄帯4’に、工程(1)~工程(3)で製造されたシート部材を積層する。
本実施形態においては、先ず1枚のシート部材を、保護層に接着された合金薄帯4’に接着し、その後、別の2枚のシート部材を順次、積層する。
【0113】
なお、この第2の実施形態では、積層方向で、保護フィルム6a1が接着された端面とは反対側の端面に、保護フィルム6a2(厚み10μm)が接着される。
工程(7)で得られた磁性シートに、テープ2Cが接着される。その後、テープ2Cからリリースフィルム1Fが剥離され、保護フィルム用の接着層が最外層に形成された磁性シートが得られる。そして、この接着層に、保護フィルム6a2が接着される。
なお、保護フィルム6a1及び保護フィルム6a2は保護層の接着層に接着後、剥離が可能なものを用いることもできる。その場合、保護フィルムが剥離されることで保護層の接着層が露出し、磁気シールドする対象の電子機器に貼り付けることが可能になる。
【0114】
第2の実施形態では、保護フィルム6a2を積層した後、磁性シートがカッター7によって必要な大きさに切断され、トレー8に搬送される。カッター7の代わりに、打抜きによって所望の形状に加工することもできる。
【0115】
図16は、本開示に係る合金薄帯積層体の製造方法により得られた磁性シートの一例を示す断面写真である。写真中、白色の部分が合金薄帯であり、合金薄帯間のグレーの部分は、接着層である。また、4層の合金薄帯よりも積層方向で外側に、シート部材の接着層又は保護層がある。
下から1層目~3層目の合金薄帯では、割れ又はひびの存在が観察でき、磁気的なギャップが存在することがわかる。また、全ての合金薄帯の面には凹凸(面から突出する立体構造)が実質的に存在しなく、合金薄帯の平面状態が良好である。また、4層の積層体である磁性シートの平面状態も良好である。
【0116】
図18は、従来の製造方法(複数の合金薄帯を積層してから、外力を付与してクラックを形成する製造方法)により、得られた磁性シートの断面写真である。従来の磁性シートは、合金薄帯がうねるように変形し、かつ、接着層、及び端の保護層も同様にうねるように変形している。
図17は、従来の製造方法により得られた磁性シートの断面写真である。具体的に、
図17に示される磁性シートは、
図18の磁性シートの両面を平坦な板状部材でプレス成形を行い、平坦化した磁性シートである。
図17の磁性シートにおいては、
図18の磁性シートよりも合金薄帯が平坦に並んでいるが、写真中央下側の部分で、一番下側の合金薄帯が二重構造になっており、合金薄帯が表面に突出する立体構造が形成されている。
【0117】
図19は、従来の磁性シートを製造後に放置した場合の透磁率の変化を示す図である。具体的に、
図19は、従来の磁性シートを製造した直後を0時間とし、70℃の大気中で、1000時間経過する過程での交流比透磁率を測定し、0時間の値からの変化率を求めた結果を示す図である。
図19において、(a)は交流比透磁率μrの実数値分(実部)μr’を示したグラフ、(b)は交流比透磁率μrの虚数値(虚部)μr’’を示したグラフである。
図19に示される測定においては、従来の製造方法(複数の合金薄帯を積層してから、外力を付与してクラックを形成する製造方法)により作製した磁性シートを使用している。
【0118】
交流比透磁率μrの測定においては、インピーダンス(Z)と直列等価回路のインダクタンス(LS)をインピーダンスアナライザ(キーサイト・テクノロジー社製E4990A、測定治具:16454A)にて、OSCレベルを0.03Vとし、25℃の温度で128kHzの周波数で測定し、以下の式に基づいて交流比透磁率μrを算出する。評価サンプルは、外径20mm、内径9mmのリング状に打ち抜いたシートを10~20層重ねたものを使用する。
μr=2π×Z/(2π×μ0×f×t×n×ln(OD/ID))
Z:インピーダンスの絶対値
f:周波数(Hz)
t:薄帯厚み(m)
n:層数
μ0:真空透磁率(4×π×10-7H/m)
OD:外径(m)
ID:内径(m)
【0119】
図19に示されるように、従来の製造方法により得られた磁性シートは、経時変化による交流比透磁率μrの変化が大きい。
【0120】
[非接触充電装置]
本開示の磁性シートを用いる例として、非接触充電装置の一例を示す。非接触充電装置は、例えば、
図20に示す回路構成を有する。給電装置2
0は、交流電流を供給する給電部21と、交流電流を直流電流に整流するために給電部21に接続された整流回路22と、直流電流を入力して所定周波数の高周波電流に変換するスイッチング回路23と、高周波電流が流れるようにスイッチング回路23に接続された一次コイル201と、スイッチング回路23と同じ周波数で共振するように一次コイル201に並列接続された共振用コンデンサ26と、スイッチング回路23に接続された制御回路24と、制御回路24に接続された制御用一次コイル25とを具備する。制御回路24は、制御用一次コイル25から得られる誘導電流に基づきスイッチング回路23の動作を制御する。
【0121】
受電装置30は、一次コイル201から発生した磁束を受ける二次コイル301と、二次コイル301に接続された整流回路32と、整流回路32に接続された二次電池33と、二次電池33の電圧から蓄電状況を検出するために二次電池33に接続された電池制御回路34と、電池制御回路34に接続された制御用二次コイル35とを具備する。二次コイル301には共振用コンデンサ(図示せず)を並列接続してもよい。整流された電流は、二次電池33に蓄電される他、例えば、電子回路及び駆動部材(図示せず)等に利用される。電池制御回路34は、二次電池33の蓄電状況に応じて最適な充電を行うための信号を制御用二次コイル35に流す。例えば、二次電池33が完全に充電された場合、その情報の信号を制御用二次コイル35に流し、制御用二次コイル35に電磁結合する制御用一次コイル25を介して信号を給電装置200の制御回路24に伝える。制御回路24はその信号に基づきスイッチング回路23を停止する。
【0122】
本開示の磁性シートは、給電装置においては、例えば、一次コイル201とその他の給電装置の電子部材の間、及び制御用一次コイル25とその他の給電装置の電子部材の間に用いられる。本開示の磁性シートは、受電装置においては、例えば、二次コイル301とその他の受電装置の電子部材の間、及び制御用二次コイル35とその他の給電装置の電子部材の間に用いられる。
【実施例】
【0123】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0124】
<実施例1>
図13に示される構成要素を有する製造装置を用いて磁性シートを作製した。磁性シートの製造方法(条件、及び材料を含む。)は、上記した第1の実施形態と同様である。具体的な条件及び材料を以下に示す。
・合金薄帯:FT-3(日立金属株式会社製)
・合金薄帯の厚さ:16μm
・合金薄帯の幅:60mm
・積層数:4枚
・クラッキングロールの加圧力:0.3MPa
・磁性シートの寸法:50mm×50mm
【0125】
<実施例2>
実施例1と同様の手順によって磁性シートを作製した。
【0126】
<評価>
磁性シートの交流比透磁率μr(128kHz)を評価した。評価結果を表1に示す。
【0127】
【0128】
表1に示されるように、実施例1~2では、300日後(7200時間後)の変化率が±3.0%以内であった。一方、従来の製造方法(接着層を介して積層された4層の合金薄帯を2層の樹脂フィルムの間にはさみ、樹脂フィルムの上から外力を付与してクラックを形成した)により作製した磁性シートでは、100時間後の変化率が7%~10%であった。上記の結果は、実施例1~2において、透磁率の変化が小さい磁性シートが得られたことを示す。
【0129】
2019年5月21日に出願された日本国特許出願2019-095278号の開示、及び2019年5月21日に出願された日本国特許出願2019-095279号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記載された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。
【符号の説明】
【0130】
1、1A、1B、1C、1D、1E、1F:リリースフィルム
2、2A、2B、2C:テープ
3:接着層
4、4’、110:合金薄帯
5:クラッキングロール
6、6A:保護層
6a、6a1、6a2:保護フィルム
6b:接着層
7:カッター
8:トレー
9、9’、9-1、9-2:クラック
10a、10d:積層部材
10b、10c:積層体
10c4、10e:第1の積層体
10c1、10c2、10c3:第2の積層体
11:ネットワーククラック
20a、20b、20c:磁性シート
200:給電装置
21:給電部
22:整流回路
23:スイッチング回路
24:制御回路
25:制御用一次コイル
26:共振用コンデンサ
201:一次コイル
300:受電装置
32:整流回路
33:二次電池
34:電池制御回路
35:制御用二次コイル
41、42、43A、43B、44A、44B、45A、45B、46A、46B、47、48、49、50:ガイドローラー
60、62:ダンサーローラー
301:二次コイル
111:巻回体
112:巻き出しローラー
114:巻き取りローラー
120:加熱室
122:加熱プレート
122S:第1平面
130:冷却室
132:冷却プレート
132S:第2平面
150:インラインアニール装置