(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】接着剤及び接着方法
(51)【国際特許分類】
C09J 111/02 20060101AFI20231226BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C09J111/02
C09J11/04
(21)【出願番号】P 2021525956
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2020019519
(87)【国際公開番号】W WO2020250621
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019109689
(32)【優先日】2019-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100175259
【氏名又は名称】尾林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168701
【氏名又は名称】豆塚 浩二
(74)【代理人】
【識別番号】100109715
【氏名又は名称】塩谷 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】関岡 直樹
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 彰
(72)【発明者】
【氏名】尾川 展子
(72)【発明者】
【氏名】牧尾 凌
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特許第5043423(JP,B2)
【文献】特開昭54-152037(JP,A)
【文献】特開平09-003423(JP,A)
【文献】特開2011-122141(JP,A)
【文献】特開2000-104028(JP,A)
【文献】特開平06-336579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン共重合体(A)を含有するクロロプレン共重合体ラテックスと、金属酸化物(B)と、を含有する接着剤であって、
前記クロロプレン共重合体(A)は、クロロプレン(A-1)とα,β-不飽和カルボン酸(A-2)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)とを含有する単量体群の共重合体であり、
前記クロロプレン共重合体(A)の量を100質量部とした場合に、前記クロロプレン共重合体(A)は、前記クロロプレン(A-1)に由来する単位を80.0質量部以上99.4質量部以下、前記α,β-不飽和カルボン酸(A-2)に由来する単位を0.5質量部以上10.0質量部以下、前記2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)に由来する単位を0.1質量部以上4.0質量部以下有し、
また、前記クロロプレン共重合体(A)は、テトラヒドロフランに可溶のテトラヒドロフラン可溶成分を有し、前記テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量が8万以上14万以下であり、
さらに、前記金属酸化物(B)の含有量は、前記クロロプレン共重合体(A)100質量部に対する前記金属酸化物(B)の量をY質量部、前記テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量をXとした場合に、-1.2×X/100000+1.6<Y<-4.2×X/100000+5.7なる式を満たす接着剤。
【請求項2】
前記金属酸化物(B)が酸化亜鉛である請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
前記α,β-不飽和カルボン酸(A-2)がメタクリル酸である請求項1又は請求項2に記載の接着剤。
【請求項4】
前記テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量が9万以上13.6万以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項5】
前記クロロプレン共重合体(A)はテトラヒドロフランに不溶のゲルを有し、前記クロロプレン共重合体(A)中の前記ゲルの含有量が0.1質量%以上15質量%未満である請求項1~4のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項6】
前記クロロプレン共重合体ラテックスが乳化剤を含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項7】
前記乳化剤が部分ケン化ポリビニルアルコールである請求項6に記載の接着剤。
【請求項8】
膜状をなす請求項1~7のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項9】
ポリオレフィンで形成された被着体の接着に使用される請求項1~8のいずれか一項に記載の接着剤。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の接着剤を用いて2つの被着体を接着する接着方法であって、前記2つの被着体のうち少なくとも一方がポリオレフィンで形成された接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接着剤及び接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレンと他の単量体との共重合体(以下、「クロロプレン共重合体」と記すこともある)は、様々な種類の被着体に対して低圧着で高い接着力が得られるため、有機溶剤系接着剤等の接着剤用途で好適に使用されている。そして、環境汚染や人体の健康に対する配慮の観点からの揮発性有機化学物質(VOC)規制や有機溶剤規制に対応するため、有機溶剤を使用しない水系接着剤の開発が進められており、クロロプレン共重合体ラテックスを含有する水系接着剤が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、クロロプレンとα,β-不飽和カルボン酸と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体のラテックスを含有する水系接着剤が提案されている。α,β-不飽和カルボン酸を共重合することにより、高温での接着力(耐熱性)を向上させている。しかしながら、特許文献1に開示の水系接着剤は、従来の有機溶剤系接着剤に比べて接着力が低いという問題があった。
【0004】
クロロプレン共重合体ラテックスを含有する水系接着剤の接着力を向上させる技術として、種々の技術が提案されている。例えば、特許文献2には、有機溶剤不溶成分を含有しないクロロプレン共重合体のラテックスを用いた水系接着剤が提案されており、特許文献3には、所定量の有機溶剤不溶成分と所定分子量の有機溶剤可溶成分を含有するクロロプレン共重合体のラテックスを用いた水系接着剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許公開公報 平成8年第218044号
【文献】日本国特許公開公報 平成9年第3423号
【文献】日本国特許公報 第5043423号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、接着剤には、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンに対する接着力が求められているが、特許文献1~3に開示の水系接着剤は、ポリオレフィンに対する接着力が十分ではなかった。
本発明は、上記のような従来技術が有する問題点を解決し、ポリオレフィンに対して高い接着力を発現する水系接着剤及び接着方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明の一態様は以下の[1]~[10]の通りである。
[1] クロロプレン共重合体(A)を含有するクロロプレン共重合体ラテックスと、金属酸化物(B)と、を含有する接着剤であって、
前記クロロプレン共重合体(A)は、クロロプレン(A-1)とα,β-不飽和カルボン酸(A-2)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)とを含有する単量体群の共重合体であり、
前記クロロプレン共重合体(A)の量を100質量部とした場合に、前記クロロプレン共重合体(A)は、前記クロロプレン(A-1)に由来する単位を80.0質量部以上99.4質量部以下、前記α,β-不飽和カルボン酸(A-2)に由来する単位を0.5質量部以上10.0質量部以下、前記2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)に由来する単位を0.1質量部以上4.0質量部以下有し、
また、前記クロロプレン共重合体(A)は、テトラヒドロフランに可溶のテトラヒドロフラン可溶成分を有し、前記テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量が8万以上14万以下であり、
さらに、前記金属酸化物(B)の含有量は、前記クロロプレン共重合体(A)100質量部に対する前記金属酸化物(B)の量をY質量部、前記テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量をXとした場合に、-1.2×X/100000+1.6<Y<-4.2×X/100000+5.7なる式を満たす接着剤。
【0008】
[2] 前記金属酸化物(B)が酸化亜鉛である[1]に記載の接着剤。
[3] 前記α,β-不飽和カルボン酸(A-2)がメタクリル酸である[1]又は[2]に記載の接着剤。
[4] 前記テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量が9万以上13.6万以下である[1]~[3]のいずれか一項に記載の接着剤。
【0009】
[5] 前記クロロプレン共重合体(A)はテトラヒドロフランに不溶のゲルを有し、前記クロロプレン共重合体(A)中の前記ゲルの含有量が0.1質量%以上15質量%未満である[1]~[4]のいずれか一項に記載の接着剤。
[6] 前記クロロプレン共重合体ラテックスが乳化剤を含有する[1]~[5]のいずれか一項に記載の接着剤。
[7] 前記乳化剤が部分ケン化ポリビニルアルコールである[6]に記載の接着剤。
【0010】
[8] 膜状をなす[1]~[7]のいずれか一項に記載の接着剤。
[9] ポリオレフィンで形成された被着体の接着に使用される[1]~[8]のいずれか一項に記載の接着剤。
[10] [1]~[8]のいずれか一項に記載の接着剤を用いて2つの被着体を接着する接着方法であって、前記2つの被着体のうち少なくとも一方がポリオレフィンで形成された接着方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリオレフィンに対して高い接着力を発現する接着剤及び接着方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】金属酸化物(B)の量Yとテトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量Xとの関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について以下に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0014】
本発明の一実施形態に係る接着剤は、クロロプレン共重合体(A)を含有するクロロプレン共重合体ラテックスと、金属酸化物(B)と、を含有する接着剤である。クロロプレン共重合体(A)は、クロロプレン(A-1)とα,β-不飽和カルボン酸(A-2)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)とを含有する単量体群の共重合体である。
【0015】
そして、クロロプレン共重合体(A)の量を100質量部とした場合に、クロロプレン共重合体(A)は、クロロプレン(A-1)に由来する単位を80.0質量部以上99.4質量部以下、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)に由来する単位を0.5質量部以上10.0質量部以下、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)に由来する単位を0.1質量部以上4.0質量部以下有する。
【0016】
また、クロロプレン共重合体(A)は、テトラヒドロフランに可溶のテトラヒドロフラン可溶成分を有し、テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量が8万以上14万以下である。なお、クロロプレン共重合体(A)は、テトラヒドロフランに不溶のゲルを有することが好ましく、クロロプレン共重合体(A)中のゲルの含有量は0.1質量%以上15質量%未満であることが好ましい。
【0017】
さらに、本実施形態に係る接着剤中の金属酸化物(B)の含有量は、クロロプレン共重合体(A)100質量部に対する金属酸化物(B)の量をY質量部、テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量をXとした場合に、-1.2×X/100000+1.6<Y<-4.2×X/100000+5.7なる式を満たす。
【0018】
このような本実施形態に係る接着剤は、有機溶剤を含有しない水系の接着剤であり、ポリオレフィンに対して高い接着力を発現する。よって、本実施形態に係る接着剤は、ポリオレフィンで形成された被着体の接着に好適である。すなわち、接着される2つの被着体のうち少なくとも一方の被着体が、接着しにくい材質であるポリオレフィン製であったとしても、例えば0.7kN/m以上の高い接着力を発現して、2つの被着体を接着することができる。ただし、本実施形態に係る接着剤は、ポリオレフィン以外の素材で形成された被着体の接着にも適用することができる。被着体の形態は特に限定されるものではなく、本実施形態に係る接着剤は、発泡体、シート、フィルム等の接着に用いることができる。なお、本発明における接着剤とは、粘着剤も包含するものとする。
【0019】
以下に、本実施形態に係る接着剤及び接着方法について、さらに詳細に説明する。本実施形態に係る接着剤はラテックスを含有し、このラテックスは、クロロプレン共重合体(A)を含有するクロロプレン共重合体ラテックスである。そして、クロロプレン共重合体(A)は、クロロプレン(A-1)とα,β-不飽和カルボン酸(A-2)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)とを含有する単量体群の共重合体である。
〔1〕クロロプレン(A-1)について
クロロプレン共重合体(A)の主要な単量体であるクロロプレン(A-1)は、2-クロロ-1,3-ブタジエン、CDとも呼称されている化合物である。
【0020】
〔2〕α,β-不飽和カルボン酸(A-2)について
クロロプレン共重合体(A)の一つの単量体であるα,β-不飽和カルボン酸(A-2)は、分子内に反応性の二重結合を有するカルボン酸である。α,β-不飽和カルボン酸(A-2)の種類は特に限定されるものではないが、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、2-ブチルアクリル酸等を挙げることができる。これらの中では、メタクリル酸がより好ましい。α,β-不飽和カルボン酸(A-2)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
〔3〕2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)について
2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)は、クロロプレン共重合体(A)の一つの単量体であり、クロロプレン(A-1)、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)等の他の単量体と共重合して、クロロプレン共重合体(A)を生成する。
【0022】
〔4〕第4の単量体(A-4)について
クロロプレン共重合体(A)は、クロロプレン(A-1)、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)、及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)の3種の単量体の共重合体であってもよいが、クロロプレン(A-1)、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)と共にその他の単量体である第4の単量体(A-4)を共重合した共重合体であってもよい。
【0023】
すなわち、クロロプレン共重合体(A)は、クロロプレン(A-1)、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)、及び第4の単量体(A-4)からなる単量体群の共重合体であってもよい。
この第4の単量体(A-4)は、クロロプレン(A-1)、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)、及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)との共重合が可能な反応性を有している必要がある。
【0024】
第4の単量体(A-4)の種類は、上記反応性を有していれば特に限定されるものではないが、例えば、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等を挙げることができる。第4の単量体(A-4)は、1種の単量体を単独で使用してもよいし、2種以上の単量体を併用してもよい。
【0025】
〔5〕クロロプレン共重合体(A)について
クロロプレン共重合体(A)は、クロロプレン(A-1)とα,β-不飽和カルボン酸(A-2)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)とを少なくとも含有する単量体群の共重合体であるが、クロロプレン共重合体(A)を構成する各単位のうち、クロロプレン(A-1)に由来する単位を80.0質量部以上99.4質量部以下、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)に由来する単位を0.5質量部以上10.0質量部以下、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)に由来する単位を0.1質量部以上4.0質量部以下有する。なお、これらの数値は、クロロプレン共重合体(A)の量を100質量部とした場合の数値である。
【0026】
クロロプレン(A-1)に由来する単位は、85.0質量部以上98.0質量部以下であることが好ましく、88.0質量部以上96.0質量部以下であることがより好ましい。α,β-不飽和カルボン酸(A-2)に由来する単位は、2.0質量部以上8.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以上7.5質量部以下であることがより好ましい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)に由来する単位は、0.5質量部以上10.0質量部以下であることが好ましく、0.75質量部以上5.0質量部以下であることがより好ましい。
【0027】
α,β-不飽和カルボン酸(A-2)に由来する単位が0.5質量部以上であれば、接着剤の粘着力が十分に高くなる。また、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)に由来する単位が10.0質量部以下であれば、クロロプレン共重合体ラテックスに凝集物が発生し難いことに加えて、重合後に残留するα,β-不飽和カルボン酸(A-2)の量が少ない。重合後に残留するα,β-不飽和カルボン酸(A-2)の量が少ないと、接着剤の臭気が少なく、接着剤の接着力、粘着力が十分に高くなる。
【0028】
2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)に由来する単位が0.1質量部以上であれば、接着剤の粘着力が十分に高くなる。また、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)に由来する単位が4.0質量部以下であれば、クロロプレン共重合体(A)の結晶性が低くなるため、接着剤の粘着力が十分に高くなる。
【0029】
クロロプレン共重合体(A)が、クロロプレン(A-1)、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)、及び第4の単量体(A-4)からなる単量体群の共重合体である場合は、第4の単量体(A-4)の含有量は特に限定されるものではないが、クロロプレン共重合体(A)は、クロロプレン共重合体(A)を構成する各単位のうち、クロロプレン(A-1)に由来する単位を80.0質量部以上99.4質量部以下、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)に由来する単位を0.5質量部以上10.0質量部以下、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)に由来する単位を0.1質量部以上4.0質量部以下、第4の単量体(A-4)に由来する単位を0.0質量部超過10.0質量部以下有することが好ましい。第4の単量体(A-4)に由来する単位が0.0質量部超過10.0質量部以下であれば、接着剤の接着力、粘着力がより高くなりやすい。
【0030】
また、クロロプレン共重合体(A)が、クロロプレン(A-1)、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)、及び第4の単量体(A-4)からなる単量体群の共重合体である場合においては、クロロプレン(A-1)に由来する単位は、85.0質量部以上97.0質量部以下であることがより好ましく、94.0質量部以上97.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0031】
同様に、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)に由来する単位は、1.0質量部以上5.0質量部以下であることがより好ましく、2.0質量部以上4.0質量部以下であることがさらに好ましい。同様に、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)に由来する単位は、0.3質量部以上3.0質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上2.0質量部以下であることがさらに好ましい。同様に、第4の単量体(A-4)に由来する単位は、0.1質量部以上7.0質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上5.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0032】
なお、これらの数値は、クロロプレン共重合体(A)が有するクロロプレン(A-1)に由来する単位とα,β-不飽和カルボン酸(A-2)に由来する単位と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)に由来する単位と第4の単量体(A-4)に由来する単位との合計量を100質量部とした場合の数値である。
【0033】
また、クロロプレン共重合体(A)は、テトラヒドロフランに不溶のゲルと、テトラヒドロフランに可溶のテトラヒドロフラン可溶成分とを有することが好ましい。テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量は、8万以上14万以下である。そして、クロロプレン共重合体(A)中のゲルの含有量は、0.1質量%以上15.0質量%未満であることが好ましい。なお、本発明におけるゲルとは、クロロプレン共重合体(A)のうちテトラヒドロフランに不溶の成分である。
【0034】
クロロプレン共重合体(A)中のゲルの含有量は、0.3質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上8.0質量%以下であることがより好ましい。テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量は、8.5万以上13.6万以下であることが好ましく、9.0万以上13.6万以下であることがより好ましく、9.0万以上11.0万以下であることがさらに好ましい。あるいは、テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量は、10.0万未満であってもよい。
【0035】
クロロプレン共重合体(A)中のゲルの含有量が0.1質量%以上であれば、接着剤(例えば、膜状に形成した接着剤)の強度が十分に高くなる。一方、クロロプレン共重合体(A)中のゲルの含有量が15質量%未満であれば、接着剤の粘着力が十分に高くなる(例えば0.4kN/m以上)。
【0036】
テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量が8万以上であれば、接着剤の接着力が十分に高くなる。一方、テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量が14万以下であれば、接着剤の粘着力が十分に高くなる。
なお、テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」と記す。)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量を測定する際には、クロロプレン共重合体(A)中のゲルの含有量の測定方法と同様にして溶液相を分離し、この溶液相をテトラヒドロフランで希釈した希釈液をGPC測定に供する。
【0037】
〔6〕クロロプレン共重合体ラテックスについて
本発明のクロロプレン共重合体ラテックスは、クロロプレン共重合体(A)が乳化剤によって乳化され、粒子として水中に分散しているものである。本実施形態のクロロプレン共重合体ラテックスは、クロロプレン共重合体(A)の粒子が乳化剤によって水に分散しているものであり、クロロプレン(A-1)と、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)と、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)と、所望により第4の単量体(A-4)とを、水媒体中で乳化ラジカル重合させることにより得ることができる。
【0038】
本実施形態のクロロプレン共重合体ラテックスのpHは、25℃において4.5以上8.5以下であることが好ましく、5.0以上8.5以下であることがより好ましく、6.0以上8.0以下であることがさらに好ましい。pHが上記範囲内であれば、被着体を形成する素材が樹脂や金属である場合でも、加水分解や発錆などの被着体の劣化が生じにくい。例えば、ポリウレタンの加水分解やアルミニウムの溶解が生じにくい。クロロプレン共重合体ラテックスのpHを上記範囲内とするために、pH調整剤をクロロプレン共重合体ラテックスに添加してもよい。pH調整剤の好ましい例としては、酸や塩基が挙げられ、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミンがより好ましい。
【0039】
本実施形態のクロロプレン共重合体ラテックスの固形分濃度は、35質量%以上65質量%以下であることが好ましく、37質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上55質量%以下であることがさらに好ましい。固形分濃度が上記範囲内であれば、クロロプレン共重合体ラテックスの乾燥時間の削減、クロロプレン共重合体ラテックスの乾燥装置にかかる負荷の軽減を達成することができる。また、固形分濃度が上記範囲内であれば、クロロプレン共重合体ラテックス中のクロロプレン共重合体(A)の粒子のコロイド安定性を維持することがより容易となり、凝集物の発生を最小限に留めることができる。
【0040】
〔7〕クロロプレン共重合体ラテックスの製造方法について
クロロプレン共重合体ラテックスは、前述したように、クロロプレン(A-1)と、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)と、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)と、所望により第4の単量体(A-4)とを、水媒体中で乳化ラジカル重合させることにより得ることができる。
【0041】
乳化ラジカル重合により生成するクロロプレン共重合体(A)のゲルの含有量及びテトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量は、乳化ラジカル重合に使用する乳化剤、連鎖移動剤、重合開始剤、重合停止剤の種類や、乳化ラジカル重合の重合条件(例えば、重合転化率、重合温度)により制御可能である。
【0042】
乳化剤の種類は特に限定されるものではないが、α,β-不飽和カルボン酸(A-2)が水溶性であることから、低pHでも乳化能力のある乳化剤を用いることができる。例えば、アニオン系の乳化剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸トリエタノールアミン塩等のドデシルベンゼンスルホン酸塩や、ジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム塩、ジフェニルエーテルスルホン酸アンモニウム塩等のジフェニルエーテルスルホン酸塩や、β-ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物のナトリウム塩等のナフタレンスルホン酸塩が挙げられる。
【0043】
また、ノニオン系の乳化剤としては、ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等が挙げられる。
これらの乳化剤の中では、クロロプレン共重合体ラテックスや接着剤の保管時にコロイド安定性が良好で、且つ、乾燥後に界面活性剤のブリードアウトが生じにくいことから、部分ケン化ポリビニルアルコールがより好ましい。なお、乳化剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
乳化ラジカル重合における乳化剤の使用量は特に限定されるものではないが、全単量体の総量100質量部に対して1.0質量部以上8.0質量部以下の範囲で使用することが好ましく、1.5質量部以上6.0質量部以下の範囲で使用することがより好ましく、2.0質量部以上5.0質量部以下の範囲で使用することがさらに好ましい。
【0045】
乳化剤の使用量が1.0質量部以上であれば、十分に良好な乳化状態が得られるため、重合熱が制御され、凝集物の生成や製品外観不良などの問題が発生しにくい。一方、乳化剤の使用量が8.0質量部以下であれば、乳化剤が残留しにくいため、クロロプレン共重合体(A)の耐水性の低下、粘着力や接着力の低下、乾燥時の発泡や製品の色調悪化などの問題が生じにくい。
【0046】
連鎖移動剤の種類は特に限定されるものではないが、キサントゲンジスルフィド、チオグリコール酸エステル、アルキルメルカプタンを使用することができる。具体例としては、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジシクロヘキシルキサントゲンジスルフィド、ジラウリルキサントゲンジスルフィド、ジベンジルキサントゲンジスルフィド、チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸2-エチルヘキシル、チオグリコール酸メトキシブチル、n-ドデシルメルカプタン、n-デシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等が挙げられる。これら連鎖移動剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
重合開始剤の種類は特に限定されるものではないが、一般的なラジカル重合開始剤を使用することができる。乳化重合の場合は、例えば、過酸化ベンゾイル、tert-ブチルヒドロペルオキシド等の有機過酸化物や、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の無機過酸化物や、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が使用される。重合開始剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。さらに、重合開始剤とともに、アントラキノンスルホン酸塩、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム等の助触媒を適宜併用してもよい。助触媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0048】
乳化ラジカル重合時に所望の分子量及び分子量分布のクロロプレン共重合体(A)を得る目的で、所定の重合率に到達した時点で、重合停止剤を添加して反応を停止させてもよい。重合停止剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、フェノチアジン、パラ-t-ブチルカテコール、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジエチルヒドロキシルアミン等を用いることができる。重合停止剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
本実施形態のクロロプレン共重合体(A)を製造する際の重合転化率は特に限定されるものではないが、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、98%以上であることがさらに好ましい。重合転化率が90%以上であれば、クロロプレン共重合体ラテックスの固形分濃度が十分な濃度となるため、接着剤を被着体に塗布した後の乾燥工程に負荷が掛かる問題や、接着剤を均一な厚さの膜状に形成することが困難となる問題が生じにくい。さらに、接着剤の粘着力、接着力の低下の問題が生じにくい。
【0050】
本実施形態のクロロプレン共重合体(A)を製造する際の重合温度は、特に限定されるものではないが、30℃以上60℃以下とすることが好ましく、35℃以上55℃以下とすることがより好ましく、40℃以上50℃以下とすることがさらに好ましい。重合温度が30℃以上であれば、クロロプレン共重合体(A)の生産性が高くなりやすいことに加えて、接着剤の粘着力が十分となりやすい。一方、重合温度が60℃以下であれば、重合時にクロロプレン(A-1)の蒸気圧が高くなりにくいため、重合の操作が行いやすいことに加えて、得られるクロロプレン共重合体(A)の引張強度等の機械的特性が十分に高くなりやすい。
【0051】
〔8〕金属酸化物(B)について
本実施形態の接着剤は、クロロプレン共重合体ラテックスと金属酸化物(B)とを含有している。そして、本実施形態の接着剤中の金属酸化物(B)の含有量は、以下の通りである。すなわち、金属酸化物(B)の含有量は、クロロプレン共重合体(A)100質量部に対する金属酸化物(B)の量をY質量部、テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量をXとした場合に、-1.2×X/100000+1.6<Y<-4.2×X/100000+5.7なる式を満たす量である。
上記式は、-1.5×X/100000+2.0<Y<-3.7×X/100000+5.0であることが好ましく、-3.4×X/100000+4.0<Y<-5.1×X/100000+6.1であることがより好ましい。
【0052】
上記式を満たす含有量の金属酸化物(B)が配合された接着剤は、クロロプレン共重合体(A)が有するカルボキシ基と金属酸化物(B)とがイオン架橋するため、接着力が優れており、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンに対して高い接着力(例えば0.7kN/m以上)を発現する。よって、接着される2つの被着体のうち少なくとも一方の被着体が、接着しにくい材質であるポリオレフィン製であったとしても、2つの被着体の間に本実施形態の接着剤を介在させることにより、2つの被着体を強く接着することができる。
【0053】
また、接着される2つの被着体のうち少なくとも一方の被着体が、多孔質材料で形成された被着体である場合でも、2つの被着体を強く接着することができる。多孔質材料で形成された被着体の具体例としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン製の多孔質体が挙げられる。被着体が多孔質である場合は、被着体の表面に凹凸があるため好ましい。
【0054】
金属酸化物(B)の含有量が上記式を満たしていれば、クロロプレン共重合体(A)が有するカルボキシ基と金属酸化物(B)との間に生じるイオン架橋の量が適度な量となるため、接着剤の接着力が優れている。また、クロロプレン共重合体ラテックス中のクロロプレン共重合体(A)の粒子のコロイド安定性が良好となるため、接着剤の増粘が発生しにくい。さらに、接着剤(例えば、膜状に形成した接着剤)の強度が十分に高くなる。
【0055】
金属酸化物(B)の種類は特に限定されるものではないが、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛、四酸化三鉛、三酸化アンチモン等が挙げられる。これら金属酸化物(B)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。金属酸化物(B)の中では、クロロプレン共重合体(A)が有するカルボキシ基とイオン架橋しやすい点から、酸化亜鉛が好ましい。
【0056】
本実施形態の接着剤は、クロロプレン共重合体ラテックスに金属酸化物(B)の粉末を添加して混合することにより製造することができる。金属酸化物(B)の粉末が水に不溶である場合や、金属酸化物(B)の粉末がクロロプレン共重合体(A)のコロイド状態を不安定化させる場合は、金属酸化物(B)の粉末を水に分散させた分散液(スラリー)を予め作製し、この分散液をクロロプレン共重合体ラテックスに添加して混合することが好ましい。
【0057】
金属酸化物(B)の動的光散乱法にて測定した体積平均粒子径は、10.0μm以下であることが好ましく、1.0μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらに好ましい。金属酸化物(B)の体積平均粒子径が10.0μm以下であれば、金属酸化物(B)の粒子が沈降しにくく、クロロプレン共重合体ラテックスに配合後の分散性に優れる。金属酸化物(B)の体積平均粒子径は、Malvern Panalytical社製のゼータサイザーナノSを用いて動的光散乱法にて測定することができる。
【0058】
また、本実施形態の接着剤は、クロロプレン共重合体ラテックスと金属酸化物(B)のみで形成することができるが、本発明の目的が損なわれない範囲であれば、必要に応じて、受酸剤、酸化防止剤、充填材、粘着付与剤、顔料、染料、着色剤、湿潤剤、消泡剤、増粘剤等の添加剤を含有してもよい。
【0059】
例えば、接着力の向上を目的に、粘着付与剤を含有させてもよい。粘着付与剤の種類は特に限定されるものではないが、フェノール系樹脂、テルペン樹脂、ロジン誘導体樹脂、石油系炭化水素等が挙げられる。粘着付与剤の具体例としては、水添ロジン、水添ロジンのペンタエリスリトールエステル、重合ロジン、ロジンを主成分とするロジン変性樹脂、アルキルフェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、天然テルペン樹脂が挙げられる。粘着付与剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0060】
粘着付与剤の配合量は、クロロプレン共重合体ラテックスの固形分100質量部に対して10質量部以上60質量部以下が好ましく、20質量部以上55質量部以下がより好ましく、25質量部以上50質量部以下がさらに好ましい。粘着付与剤の配合量が上記範囲内であれば、粘着性が十分確保され、接着力を十分に向上させることができる。粘着付与剤の配合方法は特に限定されるものではないが、例えば、粘着付与剤を乳化分散したエマルジョンの形態としてクロロプレン共重合体ラテックスに添加することにより行うことができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をより詳細に説明する。
〔実施例1〕
(1)クロロプレン共重合体ラテックスの調製
内容積3Lの反応器に、クロロプレン(昭和電工株式会社製)960g、メタクリル酸(東京化成工業株式会社製)32.5g、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(昭和電工株式会社製)7.5g、ポリビニルアルコール(乳化剤、クラレ株式会社製の商品名PVA-205)41g、N-ラウロイルエタノールアミド(東邦化学株式会社製の商品名トーホール(登録商標)N-230)6g、n-ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤、東京化成工業株式会社製)9g、チオグリコール酸2-エチルヘキシル(連鎖移動剤、東京化成工業株式会社製)3g、純水1058gを仕込み、40℃で15分間撹拌して乳化させ、乳化物を得た。
【0062】
この乳化物に亜硫酸ナトリウム(助触媒、大東化学株式会社製)1.5gを添加し、次いで過硫酸カリウム(純正化学株式会社製)2.3gを重合開始剤として添加して、窒素ガス雰囲気下45℃で重合を行った。重合転化率が95%以上であることを確認したら、直ちにフェノチアジンの乳濁液を添加して重合を停止して、クロロプレン共重合体ラテックスを得た。得られたクロロプレン共重合体ラテックスの重合転化率は96.0%であった。また、得られたクロロプレン共重合体ラテックスにジエタノールアミン(株式会社日本触媒製)を添加して、pHを中性付近に調整した。pH調整前の25℃におけるpHは3.7、pH調整後の25℃におけるpHは7.4であり、固形分濃度は45.6質量%であった。
【0063】
(2)接着剤の製造
得られたクロロプレン共重合体ラテックス43.5gに、酸化亜鉛のスラリー(大崎工業株式会社製のAZ-SW、体積平均粒子径0.2μm、固形分濃度50質量%、分散媒は水)0.2g、粘着付与剤であるテルペンフェノール樹脂エマルジョン(荒川化学工業株式会社製の商品名タマノルE-100、固形分濃度52質量%)11.5g、湿潤剤(サンノプコ株式会社製の商品名ノプコウェット50)0.2g、増粘剤(サンノプコ株式会社製の商品名SNシックナー612)0.03gを添加し、良く撹拌して接着剤を得た。
【0064】
なお、クロロプレン共重合体ラテックスの調製及び接着剤の製造において使用した各原料の使用量を表1にまとめて示す。表1中の各原料の使用量の単位は質量部である。また、接着剤の製造において使用したクロロプレン共重合体(クロロプレン共重合体ラテックス中のクロロプレン共重合体)、酸化亜鉛、及び粘着付与剤については、固形分としての量を示してある。
【0065】
【0066】
【0067】
〔実施例2~8及び比較例1~16〕
クロロプレン、メタクリル酸、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、n-ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2-エチルヘキシルの使用量を、表1、2に記載のように変更した点以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2~8及び比較例1~16のクロロプレン共重合体ラテックスの調製を行った。そして、酸化亜鉛の使用量を、表1、2に記載のように変更した点以外は、実施例1と同様の操作を行って、実施例2~8及び比較例1~16の接着剤を製造した。
【0068】
〔クロロプレン共重合体ラテックス及び接着剤の評価〕
上記のようにして得られた実施例1~8及び比較例1~16のクロロプレン共重合体ラテックスについて、重合転化率、pH、固形分濃度、テトラヒドロフランに不溶のゲルの含有量、及び、テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量の測定を行うとともに、実施例1~8及び比較例1~16の接着剤について接着力の測定を行った。各測定方法について以下に説明する。
【0069】
<固形分濃度の測定方法>
クロロプレン共重合体ラテックスを141℃で30分間加熱することにより乾固させて、固形分のみとする。そして、加熱前のクロロプレン共重合体ラテックスの質量と加熱して得られた固形分の質量とから、クロロプレン共重合体ラテックスの固形分濃度を算出する。
【0070】
<重合転化率の測定方法>
クロロプレン重合体ラテックスの固形分濃度を上記に従って測定し、この固形分濃度の測定値をSとする。単量体の全てが重合した場合、すなわち重合反応が100%進行した場合の固形分濃度(理論値)を理論的に算出し、この理論値をT100とする。単量体が全く重合していない場合、すなわち重合反応が0%進行した場合の固形分濃度(理論値)を理論的に算出し、この理論値T0をとする。理論値T0は、触媒、界面活性剤、還元剤、連鎖移動剤の質量を含めて算出する。そして、下記式により重合転化率(単位は%)を算出する。
重合転化率=(S-T0)/(T100-T0)×100
【0071】
<テトラヒドロフランに不溶のゲルの含有量の測定方法及びテトラヒドロフランに可溶のテトラヒドロフラン可溶成分の含有量の測定方法>
クロロプレン共重合体ラテックス1gをテトラヒドロフラン100mLに滴下して12時間振盪した後に、遠心分離機を用いて上澄みの溶液相とその他の沈降分とに分離する。そして、溶液相を100℃で1時間加熱してテトラヒドロフランを蒸発、乾固させて、得られた乾固物の質量を測定する。この乾固物の質量が、クロロプレン共重合体のうちテトラヒドロフラン可溶成分の質量であるので、クロロプレン共重合体の質量からテトラヒドロフラン可溶成分の質量を差し引いて、その値をゲルの質量として、クロロプレン共重合体中のゲルの含有量を算出する。なお、クロロプレン共重合体(A)の質量はクロロプレン共重合体ラテックスの固形分の質量とほぼ同一であるため、その値を利用することができる。
【0072】
<テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量の測定方法>
上記のテトラヒドロフランに不溶のゲルの含有量の測定方法と同様にして溶液相を分離し、この溶液相をテトラヒドロフランで希釈した希釈液をGPC測定に供して、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を測定する。
【0073】
GPC測定は、GPC測定装置として横河アナリティカルシステムズ株式会社製の商品名HP1050シリーズ、検出器として示差屈折率検出器RI―71、カラムとして昭和電工株式会社製Shodex(登録商標)PLgel MiniMIX-B(充填材の粒径10μm)を使用し、カラム温度40℃、流速0.4mL/分という条件で行う。
【0074】
<接着力の測定方法>
綿帆布(JIS L3102-1978で指定の9号帆布(No.1209))に、刷毛を使用して接着剤を塗布し、40℃で1時間乾燥した後に、70℃で1時間さらに乾燥した。接着剤は、塗布量が150~200g/m2となるように塗布した。
【0075】
接着剤を塗布した綿帆布の上にポリプロピレン製ナチュラル色板(縦200mm、横25mm、厚さ1mm)を重ね、綿帆布とポリプロピレン製ナチュラル色板を23℃にて圧着して、これを試験片とした。そして、接着後、温度23℃、相対湿度60%RHの環境下で試験片を3日間養生した後に、JIS K6854-2:1999に規定の180°剥離試験を行って、常態の接着力(kN/m)を測定した。また、180°剥離試験後の試験片の剥離部分を観察して、剥離モードが凝集破壊か界面破壊かを評価した。
【0076】
本例において、界面破壊とは、ポリプロピレン製ナチュラル色板と接着剤の層との界面で剥離した状態を表し、被着体への接着力が接着剤の層の強度よりも小さい場合に生じる。また、凝集破壊とは、接着剤の層において破壊が生じて剥離した状態を表し、被着体への接着力が接着剤の層の強度を上回っている場合に生じ、強度の高い被着体同士の接着には理想的な剥離状態である。
【0077】
クロロプレン共重合体ラテックス及び接着剤の評価結果を、表1、2に示す。また、実施例1~8及び比較例1~16の接着剤における、金属酸化物の量Yとテトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量Xとの関係を示すグラフを、
図1に示す。
図1のグラフにおける〇印のプロットは実施例を示し、△印のプロットは比較例を示す。
【0078】
実施例1~8の接着剤においては、金属酸化物の含有量が、クロロプレン共重合体100質量部に対する金属酸化物の量をY質量部、テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量をXとした場合に、-1.2×X/100000+1.6<Y<-4.2×X/100000+5.7なる式を満たす。そのため、実施例1~8の接着剤は、ポリプロピレンに対する接着力が0.77~1.16kN/mと高い(表1を参照)。よって、実施例1~8の接着剤は、ポリプロピレンを接着する接着剤として好適である。
【0079】
それに対して、比較例1~3の接着剤は、テトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量が14万を超えるため、ポリプロピレンに対する接着力がいずれも0.5kN/m未満と低く、接着力が不十分であった。
また、金属酸化物の含有量が上記式を満たしておらず、-1.2×X/100000+1.6>Yなる式を満たす比較例4~9の接着剤や、Y>-4.2×X/100000+5.7なる式を満たす比較例10~13の接着剤は、ポリプロピレンに対する接着力がいずれも0.65kN/m以下と低く、接着力が不十分であった。
【0080】
比較例14、15の接着剤は、クロロプレン共重合体(A)の量を100質量部とした場合に、クロロプレン共重合体(A)中のα,β-不飽和カルボン酸(A-2)に由来する単位が10質量部を超えるため、ポリプロピレンに対する接着力がいずれも0.5kN/m未満と低く、接着力が不十分であった。
比較例16の接着剤は、クロロプレン共重合体(A)中に2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-3)に由来する単位を有しないため、ポリプロピレンに対する接着力が0.5kN/m未満と低く、接着力が不十分であった。