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特許7409389撥水撥油剤組成物、その製造方法及び物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】撥水撥油剤組成物、その製造方法及び物品
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20231226BHJP
   C08F 214/18 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C09K3/18 102
C08F214/18
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021550503
(86)(22)【出願日】2020-09-04
(86)【国際出願番号】 JP2020033634
(87)【国際公開番号】W WO2021065351
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019182134
(32)【優先日】2019-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 弘之
(72)【発明者】
【氏名】塩田 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】上條 柚香
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/138680(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/058333(WO,A1)
【文献】特公平1-26601(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/18
C08F214/02
C08F214/18
C08F218/12
C08F2/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で表される含フッ素オレフィンに基づく単位と、炭素数12以上のアルキル基を有するカルボン酸ビニル(b1)に基づく単位と、炭素数1~6のアルキル基を有するカルボン酸ビニル(b2)に基づく単位とを有する含フッ素重合体を含み、
前記含フッ素重合体を構成する全単位に対して、前記含フッ素オレフィンに基づく単位の割合が20~35モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b1)に基づく単位の割合が30~70モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b2)に基づく単位の割合が5~50モル%である、撥水撥油剤組成物。
CH=CH-R (1)
ただし、Rは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
【請求項2】
前記カルボン酸ビニル(b1)に基づく単位の割合が30~55モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b2)に基づく単位の割合が10~50モル%である、請求項1に記載の撥水撥油剤組成物。
【請求項3】
前記式(1)におけるRが、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基である、請求項1又は2に記載の撥水撥油剤組成物。
【請求項4】
前記カルボン酸ビニル(b1)が、炭素数12~30のアルキル基を有し、前記カルボン酸ビニル(b2)が、炭素数1~3のアルキル基を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物。
【請求項5】
前記カルボン酸ビニル(b1)に基づく単位と前記カルボン酸ビニル(b2)に基づく単位との合計に対する前記カルボン酸ビニル(b1)に基づく単位の割合が、40~90モル%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物。
【請求項6】
前記含フッ素重合体が、反応性基を有する架橋性単量体に基づく単位をさらに有し、
前記含フッ素重合体を構成する全単位に対して、前記架橋性単量体に基づく単位の割合が0.1~20モル%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物。
【請求項7】
前記反応性基が、ヒドロキシ基、エポキシ基又はアミノ基である、請求項6に記載の撥水撥油剤組成物。
【請求項8】
前記架橋性単量体が、ビニルエーテル又はアリルエーテルである、請求項6又は7に記載の撥水撥油剤組成物。
【請求項9】
前記含フッ素重合体において、含フッ素重合体を構成する全単位に対して、前記含フッ素オレフィンに基づく単位の割合が22~33モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b1)に基づく単位の割合が30~60モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b2)に基づく単位の割合が6~50モル%であり、前記反応性基を有する架橋性単量体に基づく単位の割合が0.5~6モル%である、請求項6~8のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物。
【請求項10】
前記含フッ素重合体が、含フッ素オレフィン以外のハロゲン化オレフィン又はその誘導体に基づく単位を有さない、請求項1~9のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物。
【請求項11】
水性媒体、単量体成分、界面活性剤及び重合開始剤を含む乳化液中にて前記単量体成分を重合し、含フッ素重合体を含む撥水撥油剤組成物を得る方法であり、
前記単量体成分が、下式(1)で表される含フッ素オレフィンと、炭素数12以上のアルキル基を有するカルボン酸ビニル(b1)と、炭素数1~6のアルキル基を有するカルボン酸ビニル(b2)とを含み、
前記単量体成分全体に対して、前記含フッ素オレフィンの割合が20~35モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b1)の割合が30~70モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b2)の割合が5~50モル%である、撥水撥油剤組成物の製造方法。
CH=CH-R (1)
ただし、Rは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
【請求項12】
単量体成分全体に対して、前記カルボン酸ビニル(b1)の割合が30~55モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b2)の割合が10~50モル%である、請求項11に記載の撥水撥油剤組成物の製造方法。
【請求項13】
前記含フッ素重合体が、前記含フッ素オレフィン以外のハロゲン化オレフィン又はその誘導体に基づく単位を有さない、請求項11又は12に記載の撥水撥油剤組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の撥水撥油剤組成物を用いて処理された、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油剤組成物、その製造方法及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
物品(繊維製品等)の表面に撥水撥油性を付与する方法としては、ペルフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有する含フッ素重合体を含む撥水撥油剤組成物を用いて物品を処理する方法が知られている。しかし、(メタ)アクリレートに基づく単位におけるエステル結合は、アルカリ等による加水分解で切断されやすい。そのため、含フッ素重合体からペルフルオロアルキル基が失われて、物品の撥水撥油性が低下することがある。
【0003】
アルカリ等によって撥水撥油性が低下しにくい物品を得ることができる撥水撥油剤組成物としては、ペルフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有しない含フッ素重合体を含む撥水撥油剤組成物が知られている。ペルフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有しない含フッ素重合体としては、(ペルフルオロアルキル)エチレンに基づく単位を有する含フッ素重合体が知られている。
【0004】
特許文献1には、(ペルフルオロアルキル)エチレンに基づく単位を含む重合体を有する分散液が記載されている。また、(ペルフルオロアルキル)エチレンと重合し得る単量体として、ステアリン酸ビニル、塩化ビニル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル等の種々の単量体が開示されている。実施例の例10には、(ペルフルオロへキシル)エチレン(49.8モル%)とステアリン酸ビニルの共重合体が、例29には、(ペルフルオロへキシル)エチレン(40モル%)と酢酸ビニルと塩化ビニルとの共重合体が開示されている。
【0005】
特許文献2には、含フッ素オレフィンに基づく単位及び炭化水素系ビニルに基づく単位を有する含フッ素重合体を含んでなる表面処理剤組成物が記載されている。炭化水素系ビニルとしてステアリン酸ビニルが開示されている。また、任意の単量体として、ハロゲン化ビニル及びビニルアルキルエーテル等の非フッ素非架橋性単量体、非フッ素架橋性単量体が開示されている。実施例18には、(ペルフルオロへキシル)エチレン(15モル%)とステアリン酸ビニルとの共重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2019/138680号
【文献】国際公開第2013/058333号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、2の実施例に記載の含フッ素重合体を含む撥水撥油剤組成物で処理された物品は、撥水性及びその耐久性が不充分である。
【0008】
本発明は、撥水性及びその耐久性に優れる物品が得られる撥水撥油剤組成物、その製造方法、並びに撥水性及びその耐久性に優れる物品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]下式(1)で表される含フッ素オレフィンに基づく単位と、炭素数12以上のアルキル基を有するカルボン酸ビニル(b1)に基づく単位と、炭素数1~6のアルキル基を有するカルボン酸ビニル(b2)に基づく単位とを有する含フッ素重合体を含み、
前記含フッ素重合体を構成する全単位に対して、前記含フッ素オレフィンに基づく単位の割合が20~35モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b1)に基づく単位の割合が30~70モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b2)に基づく単位の割合が5~50モル%である、撥水撥油剤組成物。
CH=CH-R (1)
ただし、Rは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
[2]前記カルボン酸ビニル(b1)に基づく単位の割合が30~55モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b2)に基づく単位の割合が10~50モル%である、前記[1]の撥水撥油剤組成物。
[3]前記式1におけるRが、炭素数1~6のペルフルオロアルキル基である、前記[1]又は[2]の撥水撥油剤組成物。
[4]前記カルボン酸ビニル(b1)が、炭素数12~30のアルキル基を有し、前記カルボン酸ビニル(b2)が、炭素数1~3のアルキル基を有する、前記[1]~[3]のいずれかの撥水撥油剤組成物。
[5]前記カルボン酸ビニル(b1)に基づく単位と前記カルボン酸ビニル(b2)に基づく単位との合計に対する前記カルボン酸ビニル(b1)に基づく単位の割合が、40~90モル%である、前記[1]~[4]のいずれかの撥水撥油剤組成物。
[6]前記含フッ素重合体が、反応性基を有する架橋性単量体に基づく単位をさらに有し、
前記含フッ素重合体を構成する全単位に対して、前記架橋性単量体に基づく単位の割合が0.1~20モル%である、前記[1]~[5]のいずれかの撥水撥油剤組成物。
[7]前記反応性基が、ヒドロキシ基、エポキシ基又はアミノ基である、前記[6]の撥水撥油剤組成物。
[8]前記架橋性単量体が、ビニルエーテル又はアリルエーテルである、前記[6]又は[7]の撥水撥油剤組成物。
[9]前記含フッ素重合体において、含フッ素重合体を構成する全単位に対して、前記含フッ素オレフィンに基づく単位の割合が22~33モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b1)に基づく単位の割合が30~60モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b2)に基づく単位の割合が6~50モル%であり、前記反応性基を有する架橋性単量体に基づく単位の割合が0.5~6モル%である、前記[6]~[8]のいずれかの撥水撥油剤組成物。
[10]前記含フッ素重合体が、含フッ素オレフィン以外のハロゲン化オレフィン又はその誘導体に基づく単位を有さない、前記[1]~[9]のいずれかの撥水撥油剤組成物。
[11]水性媒体、単量体成分、界面活性剤及び重合開始剤を含む乳化液中にて前記単量体成分を重合し、含フッ素重合体を含む撥水撥油剤組成物を得る方法であり、
前記単量体成分が、下式1で表される含フッ素オレフィンと、炭素数12以上のアルキル基を有するカルボン酸ビニル(b1)と、炭素数1~6のアルキル基を有するカルボン酸ビニル(b2)とを含み、
前記単量体成分全体に対して、前記含フッ素オレフィンの割合が20~35モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b1)の割合が30~70モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b2)の割合が5~50モル%である、撥水撥油剤組成物の製造方法。
CH=CH-R (1)
ただし、Rは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
[12]単量体成分全体に対して、前記カルボン酸ビニル(b1)の割合が30~55モル%であり、前記カルボン酸ビニル(b2)の割合が10~50モル%である、前記[11]の撥水撥油剤組成物の製造方法。
[13]前記含フッ素重合体が、前記含フッ素オレフィン以外のハロゲン化オレフィン又はその誘導体に基づく単位を有さない、前記[11]又は[12]の撥水撥油剤組成物の製造方法。
[14]前記[1]~[10]のいずれかの撥水撥油剤組成物を用いて処理された、物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の撥水撥油剤組成物によれば、撥水性及びその耐久性に優れる物品が得られる。
本発明の撥水撥油剤組成物の製造方法によれば、撥水性及びその耐久性に優れる物品が得られる撥水撥油剤組成物を製造できる。
本発明の物品は、撥水性及びその耐久性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における用語の意味や定義は以下の通りである。
「単量体に基づく単位」は、単量体1分子が重合して直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。
「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの総称である。同様に、「(メタ)アクリロイルオキシ基」は、アクリロイルオキシ基及びメタアクリロイルオキシ基の総称である。
重合体の数平均分子量(以下、「Mn」とも記す。)及び質量平均分子量(以下、「Mw」とも記す。)は、標準ポリメチルメタクリレート試料を用いて作成した検量線を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、「GPC」とも記す。)で測定することによって得られるポリメチルメタクリレート換算分子量である。
固形分濃度は、加熱前の試料の質量を試料質量、120℃の対流式乾燥機にて試料を4時間乾燥した後の質量を固形分質量として、(固形分質量/試料質量)×100によって計算される。
【0012】
〔撥水撥油剤組成物〕
本発明の撥水撥油剤組成物(以下、「本組成物」とも記す。)は、特定の含フッ素重合体(以下、「重合体(A)」とも記す。)を含む。
本組成物は、後述の水性媒体を含むことが好ましい。
本組成物は、重合体(A)と水性媒体と界面活性剤とを含む重合体分散液であることが好ましい。
本組成物には、後述する本発明の重合体(A)の製造方法によって得られた分散液、及び物品を処理するために、さらに任意の水性媒体に希釈された当該分散液も包含される。
本組成物は、必要に応じて他の成分を含んでいてもよい。
【0013】
(重合体(A))
重合体(A)は、下式(1)で表される含フッ素オレフィン(以下、「単量体(a)」とも記す。)に基づく単位(以下、「単位(a)」とも記す。)と、炭素数12以上のアルキル基を有するカルボン酸ビニル(b1)(以下、「単量体(b1)」とも記す。)に基づく単位(以下、「単位(b1)」とも記す。)と、炭素数1~6のアルキル基を有するカルボン酸ビニル(b2)(以下、「単量体(b2)」とも記す。)に基づく単位(以下、「単位(b2)」とも記す。)とを有する。
CH=CH-R (1)
ただし、Rは、炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
重合体(A)は、必要に応じて、前記含フッ素オレフィン以外のハロゲン化オレフィン又はその誘導体(以下、「単量体(c)」とも記す。)に基づく単位(以下、「単位(c)」とも記す。)をさらに有していてもよい。
重合体(A)は、必要に応じて、反応性基を有する架橋性単量体(以下、「単量体(d)」とも記す。)に基づく単位(以下、「単位(d)」とも記す。)をさらに有していてもよい。
重合体(A)は、必要に応じて、単量体(a)、単量体(b1)、単量体(b2)、単量体(c)及び単量体(d)以外の他の単量体(以下、「単量体(e)」とも記す。)に基づく単位(以下、「単位(e)」とも記す。)をさらに有していてもよい。
【0014】
単量体(a)において、Rの炭素数は、重合体(A)への転化率が良好になりやすい点、原材料の入手性、及び取扱いの容易性の点から、1~6が好ましく、4~6がより好ましく、6が特に好ましい。
は、直鎖状であることが好ましい。
【0015】
単量体(a)としては、例えば、CH=CH-CF、CH=CH-CFCF、CH=CH-CFCFCF、CH=CH-CF(CF、CH=CH-(CFCF、CH=CH-CFCF(CF、CH=CH-C(CF、CH=CH-(CFCF、CH=CH-CFCFCF(CF、CH=CH-(CFCF、CH=CH-(CFCF(CF、CH=CH-(CFCFが挙げられる。
単量体(a)としては、CH=CH-CF、CH=CH-CFCF、CH=CH-CF(CF、CH=CH-(CFCF及びCH=CH-(CFCFが好ましく、CH=CH-CF、CH=CH-CFCF、CH=CH-(CFCF及びCH=CH-(CFCFがより好ましく、CH=CH-(CFCF及びCH=CH-(CFCFがさらに好ましい。
単量体(a)は、2種以上を併用してもよい。
【0016】
単量体(b1)は、下式(2)で表される単量体であることが好ましい。
CH=CH-O-C(=O)-R (2)
ただし、Rは、炭素数12以上のアルキル基である。
上記式(2)におけるRの炭素数は、撥水性及びその耐久性に優れる点から、12以上であり、16以上が好ましい。また、Rの炭素数は、入手性、及び取扱い性に優れ、撥水性により優れる点から、30以下が好ましく、20以下がより好ましい。Rは、直鎖状であることが好ましい。
【0017】
単量体(b1)としては、例えば、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニルが挙げられる。
単量体(b1)としては、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルが好ましく、ステアリン酸ビニルがより好ましい。
単量体(b1)は、2種以上を併用してもよい。
【0018】
単量体(b2)は、下式(3)で表される単量体であることが好ましい。
CH=CH-O-C(=O)-R (3)
ただし、Rは、炭素数1~6のアルキル基である。
上記式(3)におけるRの炭素数は、加工基材との密着性に優れる点から、1~3が好ましい。Rは、直鎖状であることが好ましい。
【0019】
単量体(b2)としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバル酸ビニル、及びカプロン酸ビニルが挙げられる。
単量体(b2)としては、プロピオン酸ビニル、ピバル酸ビニル及び酢酸ビニルが好ましく、酢酸ビニルがより好ましい。
単量体(b2)は、2種以上を併用してもよい。
【0020】
単量体(c)のうち、ハロゲン化オレフィンとしては、例えば、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン、フルオロエチレンが挙げられ、具体的には、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンが挙げられる。 ハロゲン化オレフィンの誘導体としては、例えば、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)が挙げられる。ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、例えば、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF、CF=CFOCFCFCF、CF=CFOCFCFCFCF、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCFが挙げられる。
単量体(c)としては、ハロゲン化ビニル又はハロゲン化ビニリデンが好ましく、塩化ビニル又は塩化ビニリデンがより好ましく、塩化ビニルがさらに好ましい。
単量体(c)は、2種以上を併用してもよい。
【0021】
単量体(d)において、反応性基としては、他の官能基(別の反応性基、任意に本組成物に含まれる架橋剤の官能基、又は本組成物で処理される物品の表面に存在する官能基等)との反応により架橋構造を形成するものであればよく、例えば、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシ基、イソシアネート基、オキサゾリン基、カルボジイミド基が挙げられる。モノアルキルアミノ基及びジアルキルアミノ基におけるアルキル基の炭素数は、例えば1~4である。
単量体(d)における反応性基としては、入手性、及び取扱い性に優れる点から、ヒドロキシ基、エポキシ基又はアミノ基が好ましく、ヒドロキシ基が特に好ましい。
【0022】
単量体(d)は、重合性の炭素-炭素二重結合を1つ有する単官能単量体でもよく、重合性の炭素-炭素二重結合を2つ以上有する多官能単量体でもよいが、重合性に優れる点から、単官能単量体が好ましい。
【0023】
単量体(d)としては、ビニルエーテル、アリルエーテル、(メタ)アクリレート、ビニルエステル、(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。
ビニルエーテルとしては、下式(4-1)で表される化合物が挙げられる。アリルエーテルとしては、下式(4-2)で表される化合物が挙げられる。(メタ)アクリレートとしては、下式(4-3)で表される化合物が挙げられる。
CH=CH-O-Z (4-1)
CH=CHCH-O-Z (4-2)
CH=C(R)C(=O)O-Z (4-3)
ただし、Zは、反応性基を有する有機基である。Rは水素原子又はメチル基である。
【0024】
Zとしては、例えば、反応性基を有する脂肪族炭化水素基、反応性基を有するアリール基、反応性基で置換されたヘテロ原子を有する環状の基が挙げられる。
脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルキル基の炭素原子間に酸素原子を有する基、アルケニル基、アルケニル基の炭素原子間に酸素原子を有する基、シクロアルキル基等が挙げられる。アルキル基及びアルケニル基の炭素数は、例えば1~6である。シクロアルキル基の環を形成する炭素数は、例えば3~8である。
ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子が挙げられる。ヘテロ原子を有する環状の基としては、飽和であるものが好ましく、3~9員環が好ましく、3~6員環がさらに好ましい。
Zとしては、ヒドロキシアルキル基が好ましい。ヒドロキシアルキル基の炭素数は、2~6が好ましい。
【0025】
単量体(d)としては、単量体(a)、単量体(b1)及び単量体(b2)との共重合性に優れる点とアルカリ等により分解されにくい点から、ビニルエーテル又はアリルエーテルが好ましく、アリルエーテルがより好ましい。
【0026】
単量体(d)としては、例えば、ヒドロキシ基を有するビニルエーテル(2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル等)、グリシジルビニルエーテル等のビニルエーテル;ヒドロキシ基を有するアリルエーテル(エチレングリコールモノアリルエーテル、ジエチレングリコールアリルエーテル、グリセリンモノアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等)、グリシジルアリルエーテル等のアリルエーテル;ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等)、グリシジル(メタ)アクリレート、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;N-メチロールアクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物が挙げられる。
これらの中でも、ヒドロキシ基を有するビニルエーテル、ヒドロキシ基を有するアリルエーテルが好ましく、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテルがより好ましい。
単量体(d)は、2種以上を併用してもよい。
【0027】
単量体(e)としては、単量体(a)、(b1)及び(b2)と共重合可能なものであればよく、例えば、単量体(a)、(b1)、(b2)、(c)及び(d)以外のビニルエステル、アリルエステル、ビニルエーテル、アリルエーテル、オレフィン、(メタ)アクリレート、N-ビニルピロリドン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、エチルビニルスルフィドが挙げられる。
【0028】
ビニルエステルとしては、例えば、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、安息香酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、アジピン酸ジビニルが挙げられる。ビニルエステルとしては、撥油性、撥アルコール性に優れる物品が得られる点から、ラウリン酸ビニルが特に好ましい。
アリルエステルとしては、例えば、酢酸アリル、アジピン酸ジアリルが挙げられる。
【0029】
ビニルエーテルとしては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、iso-ブチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、1-クロロメチルビニルエーテル、2-クロロエチルビニルエーテル、クロロプロピルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルが挙げられる。
【0030】
アリルエーテルとしては、例えば、アリルエチルエーテル、ジアリルエーテル、1,3-ジアリルオキシ-2-プロパノールが挙げられる。
オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレンが挙げられる。
【0031】
(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;2-ペルフルオロへキシルエチル(メタ)アクリレート等のフルオロアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。重合体(A)は、アルカリ等によって撥水撥油性がさらに低下しにくい物品を得ることができる点から、ペルフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を有しないことが好ましい。そのため、(メタ)アクリレートとしては、アルキル(メタ)アクリレート等のフッ素原子を有しない(メタ)アクリレートが好ましい。
【0032】
重合体(A)における単位(a)の割合は、重合体(A)を構成する全単位に対して、20~35モル%であり、22~33モル%が好ましく、24~31モル%がより好ましい。単位(a)の割合が前記下限値以上であれば、本組成物で処理された物品の撥油性に優れる。単位(a)の割合が前記上限値以下であれば、本組成物で処理された物品の撥水性に優れる。
【0033】
重合体(A)における単位(b1)の割合は、重合体(A)を構成する全単位に対して、30~70モル%であり、30~60モル%が好ましく、30~55モル%がより好ましく、32~53モル%がさらに好ましく、34~51モル%が特に好ましい。単位b1の割合が前記下限値以上であれば、本組成物で処理された物品の撥水性及びその耐久性に優れる。単位(b1)の割合が前記上限値以下であれば、本組成物で処理された物品の撥水性の耐久性に優れる。
【0034】
重合体(A)における単位(b2)の割合は、重合体(A)を構成する全単位に対して、5~50モル%であり、6~50モル%が好ましく、7~50モル%がより好ましく、10~50モル%がさらに好ましく、12~48モル%が特に好ましく、14~46モル%が最も好ましい。単位(b2)の割合が前記下限値以上であれば、本組成物で処理された物品の撥油性及び撥水性の耐久性に優れる。単位(b2)の割合が前記上限値以下であれば、本組成物で処理された物品の撥水性の耐久性に優れる。
【0035】
重合体(A)における単位(b1)と単位(b2)との合計に対する単位(b1)の割合は、40~90モル%が好ましく、40~89モル%がより好ましく、40~65モル%がさらに好ましく、42~63モル%が特に好ましく、44~61モル%が最も好ましい。単位(b1)と単位(b2)との合計に対する単位(b1)の割合が前記下限値以上であれば、本組成物で処理された物品の撥水性及びその耐久性がより優れ、前記上限値以下であれば、本組成物で処理された物品の撥水性の耐久性がより優れる。
【0036】
重合体(A)における単位(c)の割合は、重合体(A)を構成する全単位に対して、55モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましく、45モル%以下がさらに好ましく、0モル%であってもよい。単位(c)の割合が前記上限値以下であれば、本組成物で処理された物品の撥水性に優れる。
【0037】
重合体(A)が単位(d)を含む場合、重合体(A)における単位(d)の割合は、重合体(A)を構成する全単位に対して、0.1~8モル%が好ましく、0.5~6モル%がより好ましく、1~4モル%がさらに好ましい。単位(d)の割合が前記下限値以上であれば、本組成物で処理された物品の撥水性の耐久性がさらに優れる。単位(d)の割合が前記上限値以下であれば、本組成物で処理された物品の撥水性及びその耐久性がさらに優れる。
【0038】
重合体(A)における単位(e)の割合は、重合体(A)を構成する全単位に対して、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、0モル%であってもよい。
なお、重合体(A)を構成する全単位は、単位(a)、単位(b1)、単位(b2)、単位(c)、単位(d)及び単位(e)の合計である。
重合体(A)における、全単位に対する単位(a)、単位(b1)、単位(b2)、単位(c)、単位(d)及び単位(e)の割合(モル%)は、単位(a)/単位(b1)/単位(b2)/単位(c)/単位(d)/単位(e)として、20~35/30~70/5~50/0~55/0.1~8/0~10(モル%)が好ましく、22~33/30~60/6~50/0~50/0.5~6/0~5(モル%)がより好ましく、22~33/30~60/7~45/0~5/0.5~4/0~1(モル%)がさらに好ましい。上記範囲内であれば、本組成物で処理された物品の撥水性及びその耐久性がさらに優れる。
重合体(A)が単位(c)及び単位(e)を含まない場合には、重合体(A)における、全単位に対する単位(a)、単位(b1)、単位(b2)及び単位(d)の割合(モル%)は、単位(a)/単位(b1)/単位(b2)/単位(d)として、20~35/30~70/5~50/0.1~8(モル%)が好ましく、22~33/30~60/6~50/0.5~6(モル%)がより好ましく、22~33/30~60/7~45/0.5~4(モル%)がさらに好ましい。上記範囲内であれば、本組成物で処理された物品の撥水性及びその耐久性がさらに優れる。
【0039】
各単位の割合は、H-NMR、及びガスクロマトグラフィーによる各単量体成分の反応率によって算出できる。重合体(A)の製造時において、単量体成分の重合体(A)への転化率が高い(例えば90%以上)場合には、単量体成分の仕込み量に基づいて各単位の割合を算出してもよい。転化率は、後述する実施例に記載の方法により求められる。
【0040】
重合体(A)のMnは、10000以上が好ましく、11000以上がより好ましく、12000以上がさらに好ましい。重合体(A)のMnは、100000以下が好ましく、70000以下がより好ましく、50000以下がさらに好ましい。重合体(A)のMnが前記下限値以上であれば、本組成物で処理された物品の撥水撥油性がさらに優れる。重合体(A)のMnが前記上限値以下であれば、重合体(A)の水分散性がさらに優れる。
【0041】
重合体(A)のMwは、10000以上が好ましく、20000以上がより好ましく、30000以上がさらに好ましい。重合体(A)のMwは、150000以下が好ましく、120000以下がより好ましく、100000以下がさらに好ましい。重合体(A)のMwが前記下限値以上であれば、本組成物で処理された物品の撥水撥油性がさらに優れる。重合体(A)のMwが前記上限値以下であれば、重合体(A)の水分散性がさらに優れる。
【0042】
(水性媒体)
水性媒体としては、水、及び水溶性有機溶剤を含む水が挙げられる。
水溶性有機溶剤は、水と任意の割合で混和可能な有機溶剤である。水溶性有機溶剤としては、アルコール(ただし、エーテルアルコールを除く。)、エーテルアルコール及び非プロトン性極性溶剤からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。アルコールとしては、例えば、t-ブタノール、プロピレングリコールが挙げられる。エーテルアルコールとしては、例えば、3-メトキシメチルブタノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールが挙げられる。非プロトン性極性溶剤としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン(以下、「THF」とも記す。)、アセトニトリル、アセトン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。液状媒体が水性媒体である場合の水溶性有機溶剤としては、重合体(A)と水性媒体との相溶性を向上して物品上で均一な膜をつくりやすい点から、エーテルアルコールが好ましく、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール及びジプロピレングリコールモノメチルエーテルがより好ましい。
水性媒体が水溶性有機溶剤を含む水である場合、水溶性有機溶剤の含有量は、水の100質量部に対して、1~80質量部が好ましく、5~60質量部がより好ましい。
【0043】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、フッ素原子を有さない界面活性剤が好ましい。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
界面活性剤としては、重合体(A)を含む水分散液の分散安定性に優れる点から、ノニオン性界面活性剤の単独使用、ノニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤もしくは両性界面活性剤との併用、又はアニオン性界面活性剤の単独使用が好ましく、ノニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との併用がより好ましい。
ノニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との比(ノニオン性界面活性剤/カチオン性界面活性剤)は、100/0~40/60(質量比)が好ましく、97/3~40/60(質量比)がより好ましい。
ノニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤との特定の組み合わせにおいては、重合体(A)の100質量部に対する界面活性剤の合計量を、5質量部以下にできるので、界面活性剤に起因する本組成物で処理された物品の撥水撥油性への悪影響を低減できる。
【0044】
ノニオン性界面活性剤の例としては、特開2009-215370号公報の段落[0067]~[0095]に記載の界面活性剤s1~s6が挙げられる。
界面活性剤s1としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。
界面活性剤s2としては、アセチレングリコールエチレンオキシド付加物が好ましい。 界面活性剤s3としては、エチレンオキシドプロピレンオキシド重合物が好ましい。 ノニオン性界面活性剤は、2種以上を併用してもよい。
【0045】
カチオン性界面活性剤の例としては、特開2009-215370号公報の段落[0096]~[0100]に記載の界面活性剤s7が挙げられる。
界面活性剤s7としては、窒素原子に結合する水素原子の1個以上が、アルキル基、アルケニル基又は末端が水酸基であるポリオキシアルキレン鎖で置換されたアンモニウム塩が好ましく、下式(s71)で表される化合物(s71)がより好ましい。
[(R21]・X (s71)
21は、水素原子、炭素数が1~22のアルキル基、炭素数が2~22のアルケニル基、炭素数が1~9のフルオロアルキル基、又は末端が水酸基であるポリオキシアルキレン鎖である。4つのR21は、同一であってもよく、異なっていてもよいが、4つのR21は同時に水素原子ではない。Xは、対イオンである。
としては、塩素イオン、エチル硫酸イオン、又は酢酸イオンが好ましい。
化合物(s71)としては、例えば、モノステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、モノステアリルジメチルモノエチルアンモニウムエチル硫酸塩、モノ(ステアリル)モノメチルジ(ポリエチレングリコール)アンモニウムクロリド、モノフルオロヘキシルトリメチルアンモニウムクロリド、ジ(牛脂アルキル)ジメチルアンモニウムクロリド、ジメチルモノココナッツアミン酢酸塩が挙げられる。
カチオン性界面活性剤は、2種以上を併用してもよい。
【0046】
両性界面活性剤の例としては、特開2009-215370号公報の段落[0101]~[0102]に記載の界面活性剤s8が挙げられる。これらは1種を用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0047】
界面活性剤の組み合わせとしては、本組成物で処理された物品の撥水撥油性への悪影響が少ない点、及び重合体(A)を含む分散液の分散安定性に優れる点から、界面活性剤s1と界面活性剤s2と界面活性剤s7との組み合わせ、又は界面活性剤s1と界面活性剤s3と界面活性剤s7との組み合わせ、又は界面活性剤s1と界面活性剤s2と界面活性剤s3と界面活性剤s7との組み合わせが好ましく、界面活性剤s7が化合物s71である前記の組み合わせがより好ましい。
【0048】
(他の成分)
他の成分としては、例えば、重合体(A)以外の含フッ素重合体、非フッ素系重合体、非フッ素系撥水撥油剤、水溶性高分子樹脂(例えば、親水性ポリエステル及びその誘導体、親水性ポリエチレングリコール及びその誘導体、親水性ポリアミン及びその誘導体)、架橋剤、浸透剤(例えば、アセチレン基を中央に持ち左右対称の構造をした非イオン性界面活性剤、日油社製のディスパノール(登録商標)シリーズ)、コロイダルシリカ(例えば、日産化学社製のスノーテックス(登録商標)シリーズ、ADEKA社製のアデライトシリーズ)、消泡剤(例えば、日信化学社製のオルフィン(登録商標)シリーズ、東レダウコーニング社製のFSアンチフォームシリーズ)、造膜助剤、防虫剤、防かび剤、防腐剤、難燃剤、帯電防止剤(例えば、明成化学社製のディレクトールシリーズ)、防しわ剤、柔軟剤(例えば、シリコーンエマルジョン、ポリエチレンワックスエマルジョン、ポリアミドワックスエマルジョン)、pH調整剤(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、酢酸、クエン酸)が挙げられる。
【0049】
本組成物が架橋剤を含む場合、物品との接着性が向上しやすい。
架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、メチロール系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、及びオキサゾリン系架橋剤が好ましい。
【0050】
イソシアネート系架橋剤としては、例えば、芳香族ブロックタイプイソシアネート系架橋剤、脂肪族ブロックタイプイソシアネート系架橋剤、芳香族非ブロックタイプイソシアネート系架橋剤、脂肪族非ブロックタイプイソシアネート系架橋剤が挙げられる。イソシアネート系架橋剤は、界面活性剤によって乳化された水分散型、又は親水基を有した自己水分散型が好ましい。
【0051】
メチロール系架橋剤としては、例えば、尿素又はメラミンとホルムアルデヒドとの縮合物又は予備縮合物、メチロール-ジヒドロキシエチレン-尿素及びその誘導体、メチロール-エチレン-尿素、メチロール-プロピレン-尿素、メチロール-トリアゾン、ジシアンジアミド-ホルムアルデヒドの縮合物、メチロール-カルバメート、メチロール-(メタ)アクリルアミド、これらの重合体が挙げられる。
【0052】
カルボジイミド系架橋剤は、分子中にカルボジイミド基を有するポリマーであり、物品等のカルボキシ基、アミノ基、活性水素基と優れた反応性を示す架橋剤である。
オキサゾリン系架橋剤は、分子中にオキサゾリン基を有するポリマーであり、物品等のカルボキシ基と優れた反応性を示す架橋剤である。
【0053】
他の架橋剤としては、例えば、ジビニルスルホン、ポリアミド及びそのカチオン誘導体、ポリアミン及びそのカチオン誘導体、ジグリシジルグリセロール等のエポキシ誘導体、(エポキシ-2,3-プロピル)トリメチルアンモニウムクロライド、N-メチル-N-(エポキシ-2,3-プロピル)モルホリニウムクロライド等のハライド誘導体、エチレングリコールのクロロメチルエーテルのピリジニウム塩、ポリアミン-ポリアミド-エピクロヒドリン樹脂、ポリビニルアルコール又はその誘導体、ポリアクリルアミド又はその誘導体、グリオキサール樹脂系防しわ剤が挙げられる。
【0054】
本組成物が、メチロール系架橋剤又はグリオキサール樹脂系防しわ剤を含む場合、添加剤として、触媒を含むことが好ましい。好ましい触媒としては、例えば、無機アミン塩、有機アミン塩が挙げられる。無機アミン塩としては、例えば、塩化アンモニウムが挙げられる。有機アミン塩としては、例えば、アミノアルコール塩酸塩、セミカルバジド塩酸塩が挙げられる。アミノアルコール塩酸塩としては、例えば、モノエタノールアミン塩酸塩、ジエタノールアミン塩酸塩、トリエタノール塩酸塩、2-アミノ-2-メチルプロパノール塩酸塩が挙げられる。
【0055】
(各成分の割合)
本組成物が水性媒体を含む場合、水性媒体の含有量は、本組成物の所望の固形分濃度に応じて適宜選定できる。
本組成物の固形分濃度は、本組成物の製造直後は、25~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。
本組成物の固形分濃度は、本組成物を物品の処理に用いる際には、0.1~7質量%が好ましく、0.2~5質量%がより好ましい。
【0056】
本組成物中の界面活性剤の含有量は、本組成物の製造直後は、重合体(A)の100質量部に対して1~6質量部が好ましい。
【0057】
本組成物中の架橋剤の含有量は、本組成物を物品の処理に用いる際には、重合体(A)の100質量部に対して1~50質量部が好ましい。
【0058】
(作用機序)
以上説明した本組成物にあっては、重合体(A)が単位(a)を有するため、本組成物で処理された物品の撥水撥油性がアルカリ等によって低下しにくい。
そして、本組成物にあっては、重合体(A)を構成する単位(a)、単位(b1)及び単位(b2)の割合が特定の範囲内にあるため、本組成物で処理された物品の撥水性に優れるとともに、撥水性が洗濯等によって低下しにくく耐久性に優れる。
【0059】
〔撥水撥油剤組成物の製造方法〕
本組成物は、例えば、水性媒体、単量体成分、界面活性剤及び重合開始剤を含む乳化液中にて前記単量体成分を重合し、含フッ素重合体を含む撥水撥油剤組成物を得る方法により製造できる。この方法によれば、単量体成分の重合体(A)への転化率を向上させるとともに、得られる重合体(A)の数平均分子量も高くできる。
【0060】
単量体成分は、単量体(a)と単量体(b1)と単量体(b2)とを含む。単量体成分は、必要に応じて、単量体(c)、単量体(d)、単量体(e)をさらに含んでいてもよい。
単量体(a)の割合は、単量体成分全体に対して、20~35モル%であり、22~33モル%が好ましく、24~31モル%がより好ましい。単量体(a)の割合が前記下限値以上であれば、本組成物で処理された物品の撥油性に優れる。単量体(a)の割合が前記上限値以下であれば、本組成物で処理された物品の撥水性に優れる。
【0061】
単量体(b1)の割合は、単量体成分全体に対して、30~70モル%であり、30~60モル%が好ましく、30~55モル%がより好ましく、32~53モル%がさらに好ましく、34~51モル%が特に好ましい。単量体(b1)の割合が前記下限値以上であれば、本組成物で処理された物品の撥水性及びその耐久性に優れる。単量体(b1)の割合が前記上限値以下であれば、本組成物で処理された物品の撥水性の耐久性に優れる。
【0062】
単量体(b2)の割合は、単量体成分全体に対して、5~50モル%であり、6~50モル%が好ましく、7~50モル%がより好ましく、10~50モル%がさらに好ましく、12~48モル%が特に好ましく、14~46モル%が最も好ましい。単量体(b2)の割合が前記下限値以上であれば、本組成物で処理された物品の撥油性及び撥水性の耐久性に優れる。単量体(b2)の割合が前記上限値以下であれば、本組成物で処理された物品の撥水性の耐久性に優れる。
【0063】
単量体(b1)と単量体(b2)との合計に対する単量体(b1)の割合は、40~90モル%が好ましく、40~89モル%がより好ましく、40~65モル%がさらに好ましく、42~63モル%が特に好ましく、44~61モル%が最も好ましい。単量体(b1)と単量体(b2)との合計に対する単量体(b1)の割合が前記下限値以上であれば、本組成物で処理された物品の撥水性及びその耐久性がより優れ、前記上限値以下であれば、本組成物で処理された物品の撥水性の耐久性がより優れる。
【0064】
単量体(c)の割合は、単量体成分全体に対して、55モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましく、45モル%以下がさらに好ましく、0モル%であってもよい。単量体(c)の割合が前記上限値以下であれば、本組成物で処理された物品の撥水性に優れる。
【0065】
単量体成分が単量体(d)を含む場合、単量体(d)の割合は、単量体成分全体に対して、0.1~8モル%が好ましく、0.5~6モル%がより好ましく、1~4モル%がさらに好ましい。単量体(d)の割合が前記下限値以上であれば、本組成物で処理された物品の撥水性の耐久性がさらに優れる。単量体(d)の割合が前記上限値以下であれば、本組成物で処理された物品の撥水性及びその耐久性がさらに優れる。
【0066】
単量体(e)の割合は、単量体成分全体に対して、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、0モル%であってもよい。
なお、単量体成分全体は、単量体(a)、単量体(b1)、単量体(b2)、単量体(c)、単量体(d)及び単量体(e)の合計である。
本組成物における、各単量体(a)、(b1)、(b2)、(c)、(d)及び(e)の割合(モル%)は、単量体(a)/単量体(b1)/単量体(b2)/単量体(c)/単量体(d)/単量体(e)として、20~35/30~70/5~50/0~55/0.1~8/0~10(モル%)が好ましく、22~33/30~60/6~50/0~50/0.5~6/0~5(モル%)がより好ましく、22~33/30~60/7~45/0~5/0.5~4/0~1(モル%)がさらに好ましい。上記範囲内であれば、本組成物で処理された物品の撥水性及びその耐久性がさらに優れる。
本組成物が単量体(c)及び単量体(e)を含まない場合には、各単量体(a)、(b1)、(b2)及び(d)の割合(モル%)は、単量体(a)/単量体(b1)/単量体(b2)/単量体(d)として、20~35/30~70/5~50/0.1~8(モル%)が好ましく、22~33/30~60/6~50/0.5~6(モル%)がより好ましく、22~33/30~60/7~45/0.5~4(モル%)がさらに好ましい。上記範囲内であれば、本組成物で処理された物品の撥水性及びその耐久性がさらに優れる。
【0067】
重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光重合開始剤、放射線重合開始剤、ラジカル重合開始剤、イオン性重合開始剤が挙げられ、ラジカル重合開始剤が好ましい。ラジカル重合開始剤としては、例えば、アゾ系重合開始剤、過酸化物系重合開始剤、レドックス系開始剤が重合温度に応じて用いられる。ラジカル重合開始剤としては、アゾ系化合物が好ましく、アゾ系化合物の塩がより好ましい。重合温度は、20~150℃が好ましい。
重合開始剤の添加量は、単量体成分100質量部に対して0.1~5質量部が好ましく、0.1~3質量部がより好ましい。
【0068】
単量体成分を重合する際には、分子量調整剤を用いてもよい。分子量調整剤としては、例えば、芳香族化合物、メルカプトアルコール、メルカプトカルボン酸、アルキルメルカプタンが好ましく、メルカプトカルボン酸又はアルキルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤としては、例えば、メルカプトエタノール、メルカプトプロピオン酸、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、ステアリルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマ(CH2=C(Ph)CH2C(CH3)2Ph、ただしPhはフェニル基である。)が挙げられる。
分子量調整剤の添加量は、単量体成分100質量部に対して5質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましく、0質量部であってもよい。
【0069】
乳化液は、水性媒体、単量体成分及び界面活性剤を混合し、ホモジナイザー、高圧乳化機等で分散した後、重合開始剤を添加することによって調製できる。
乳化液中の単量体成分の濃度は、20~60質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。乳化液中の単量体成分の濃度が前記範囲内であれば、単量体成分の重合時に単量体成分の重合体(A)への転化率を向上させることができるとともに、重合体(A)の分子量を充分に高くできる。
【0070】
乳化液中の界面活性剤の合計量は、単量体成分の100質量部に対して1~6質量部が好ましい。界面活性剤の合計量が前記範囲の下限値以上であれば、乳化液の分散安定性に優れる。界面活性剤の合計量が前記範囲の上限値以下であれば、本組成物で処理された物品の撥水撥油性への悪影響が少ない。
【0071】
乳化液中にて単量体成分を重合して得られた重合体(A)の分散液は、そのまま本組成物としてもよく、水性媒体で希釈して固形分濃度を調整してから本組成物としてもよい。本組成物には、さらに他の成分を添加してもよい。
【0072】
重合終了時の単量体成分の重合体(A)への転化率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。転化率を高くすることにより、重合体(A)の分子量も高くなり、撥水撥油性能も良好となる。また、高い転化率にすることで残存単量体による性能低下が抑えられるとともに重合体(A)中に含まれるフッ素原子の量が多くなるため撥水撥油性が良好となる。
転化率を80%以上とするには、乳化組成の最適化、重合時間の最適化を行ことが好ましい。
【0073】
(作用機序)
以上説明した本組成物の製造方法にあっては、単量体(a)を含む単量体成分を重合しているため、アルカリ等によって撥水撥油性が低下しにくい物品を製造できる本組成物を製造できる。
また、本組成物の製造方法にあっては、乳化液中で単量体成分を重合しているため、重合体(A)の分子量を高くできる。そのため、撥水撥油性に優れる物品を製造できる本組成物を製造できる。
そして、本組成物の製造方法にあっては、単量体成分に含まれる単量体(a)、単量体(b1)及び単量体(b2)の割合が特定の範囲内にあるため、撥水性及びその耐久性に優れる物品を製造できる本組成物を製造できる。
【0074】
〔物品〕
本発明の物品は、本組成物を用いて処理された物品である。
本組成物で処理される物品としては、例えば、繊維、繊維布帛(繊維織物、繊維編物、不織布、起毛布等)、繊維布帛を備えた繊維製品(キーウェア、レインウェア、コート、ブルゾン、ウィンドブレーカー、ダウンジャケット、スポーツウェア、作業衣、ユニフォーム、防護服等の衣料、リュック、バックパック、カバン、テント、ツェルト等)、ガラス、紙、木、皮革、人工皮革、石、コンクリート、セラミックス、金属、金属酸化物、窯業製品、樹脂成形品、多孔質樹脂、多孔質繊維が挙げられる。多孔質樹脂は、例えば、フィルターとして用いられる。多孔質樹脂の材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。多孔質繊維の材料としては、例えば、ガラス繊維、セルロースナノファイバー、炭素繊維、セルロースアセテートが挙げられる。
【0075】
処理される物品としては、繊維、繊維布帛、繊維布帛を備えた繊維製品が好ましい。 繊維の種類としては、特に限定されないが、綿、羊毛、絹又はセルロース等の天然繊維、ポリエステル、ポリアミド、アクリル又はアラミド等の合成繊維、レーヨン、ビスコースレーヨン又はリヨセル等の化学繊維、天然繊維と合成繊維との混紡繊維、天然繊維と化学繊維との混紡繊維を例示できる。繊維基材が不織布である場合の繊維としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ガラス及びレーヨンを例示できる。
繊維布帛の厚みは、特に限定されないが、通常、0.01~5mmである。
【0076】
処理方法としては、撥水撥油剤組成物を被処理物品に付着できる方法であればよく、例えば、本組成物が液状媒体を含む場合には、塗布、含浸、浸漬、スプレー、ブラッシング、パディング、サイズプレス、ローラー等の公知の塗工方法によって物品に本分散液を処理した後、乾燥する方法が挙げられる。
被処理物品に付着させる撥水撥油剤組成物における固形分の量は、特に限定されないが、例えば繊維布帛の場合、繊維布帛の単位質量に対して0.001~1.0g/gであることが好ましく、0.001~0.5g/gであることがより好ましく、0.001~0.05g/gであることがさらに好ましい。
乾燥は、常温で行っても加熱してもよく、加熱することが好ましい。加熱する場合、加熱温度は40~200℃が好ましい。また、撥水撥油剤組成物が架橋剤を含有する場合、必要であれば、前記架橋剤の架橋温度以上に加熱してキュアリングすることが好ましい。
【0077】
(作用機序)
以上説明した本発明の物品にあっては、単位(a)を有する重合体(A)を含む本組成物を用いて処理されているため、アルカリ等によって撥水撥油性が低下しにくい。
そして、本発明の物品にあっては、単位(a)、単位(b1)及び単位(b2)の割合が特定の範囲内にある重合体(A)を含む本組成物を用いて処理されているため、撥水性及びその耐久性に優れる。
【実施例
【0078】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。 例1~10、例18及び19は実施例であり、例11~17は比較例である。
【0079】
(単量体単位の割合)
各例で得られた含フッ素重合体分散液から界面活性剤及び溶媒を取り除いた後にH-NMR、及び、各例で得られた含フッ素重合体分散液のガスクロマトグラフィーによる各単量体の反応率によって、含フッ素重合体を構成する全単位に対する各単量体単位の割合を算出した。
【0080】
(転化率)
原料の仕込み量から計算された含フッ素重合体分散液の固形分濃度の理論値と、含フッ素重合体分散液の固形分濃度の実測値とから、実測値/理論値×100によって単量体成分の含フッ素重合体への転化率を求めた。転化率が90%以上をA(良)、80%以上90%未満をB(可)、80%未満をC(不可)とした。
【0081】
(平均分子量)
<含フッ素重合体の回収>
各例で得られた含フッ素重合体分散液の6gを、ヘキサン6gと2-ブタノール54gとの混合液の60gに滴下し、撹拌して固体を析出させた。3000rpmで5分間遠心分離した後、得られた固体を分離した。分離した固体にイソプロピルアルコール変性アルコール(イマヅ社製、製品名:95%IPA変性アルコール)の30gと、イオン交換水の30gとを加えてよく撹拌した。3000rpmで5分間遠心分離した後、得られた固体を上澄み液から分離し、35℃で一晩真空乾燥して含フッ素重合体を得た。
【0082】
<Mn及びMwの測定>
回収した含フッ素重合体を含フッ素溶媒(AGC社製品名、AK-225)/テトラヒドロフラン(以下、「THF」と記す。)=6/4(体積比)の混合溶媒に溶解させて、固形分濃度0.5質量%の溶液とし、0.2μmのフィルターに通し、分析サンプルとした。分析サンプルについて、GPC測定によりMn及びMwを測定した。測定条件は下記のとおりである。
装置:東ソー社製、HLC-8320GPC、
カラム:Polymer laboratories社製、MIXED-C 長さ300mm、内径7.5mm、膜厚5μm、
移動相:AK-225/THF=6/4(体積比)、
流速:1.0mL/分、
オーブン温度:37℃、
試料濃度:1.0質量%、
注入量:50μL、
検出器:RI、
分子量標準:ポリメチルメタクリレート(Mp=2136000、955000、569000、332800、121600、67400、31110、13300、7360、1950、1010、及び550)。
【0083】
(撥水性)
製造した試験布の撥水性を、JIS L 1092:1998のスプレー試験にしたがって、1~5の5段階の等級で評価した。等級が大きいほど撥水性が良好であることを示す。等級に+(-)を記したものは、その等級と比べて撥水性がわずかに良い(悪い)ことを示す。
【0084】
(撥水性の洗濯耐久性)
上記撥水性の評価を行った試験布について、AATCC Monograph 6-2016の洗濯方法にしたがって、洗濯を10回又は20回繰り返した。洗濯後、AATCC Monograph 6-2016のタンブル乾燥方法にしたがって乾燥させた後、上記撥水性を評価した。
【0085】
(撥油性)
撥油性は、ヌジョールの液滴(直径5mm)を静置し、60秒後の液滴の変化を目視で観察し、染み込みの有無から判断した。60秒後に液滴が球形を保っている場合を「A」、試験布に完全に染み込んだ場合を「B」と評価した。
【0086】
(単量体(a))
C6OLF:CH=CH-(CFCF(東京化成工業社製)
(単量体(b1))
StV:ステアリン酸ビニル(東京化成工業社製)
PaV:パルミチン酸ビニル(東京化成工業社製)
(単量体(b2))
PivV:ピバル酸ビニル(東京化成工業社製)
ProV:プロピオン酸ビニル(東京化成工業社製)
AcV:酢酸ビニル(東京化成工業社製)
(単量体(c))
VCM:CH=CHCl(横浜ケミカル社製)
(単量体(d))
4-HBVE:4-ヒドロキシブチルビニルエーテル(富士フイルム和光純薬社製)
EGMAE:エチレングリコールモノアリルエーテル(東京化成工業社製)
【0087】
(界面活性剤)
PEL-12:ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エチレンオキシド約12モル付加物、PEL-12、花王社製、エマルゲン120)の10質量%水溶液
PEO-30:ポリオキシエチレンオレイルエーテル(エチレンオキシド約30モル付加物、PEO-30、花王社製、エマルゲン430)の10質量%水溶液
P104:エチレンオキシド・プロピレンオキシド重合物(平均分子量1670、エチレンオキシド40質量%含有、日油社製品名、プロノン#104)の10質量%水溶液。
P204:エチレンオキシド・プロピレンオキシド重合物(平均分子量3330、エチレンオキシド40質量%含有、日油社製品名、プロノン#204)
STMAC:塩化アルキル(炭素数:16~18)トリメチルアンモニウムクロリド(STMAC)の63質量%水及びイソプロピルアルコール溶液(ライオンスペシャリティケミカルズ社製、リポカード18-63)
【0088】
(媒体)
水:イオン交換水
DPG:ジプロピレングリコール
(重合開始剤)
VA-061A酢酸塩:2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン](VA-061、富士フイルム和光純薬社製)酢酸塩(VA-061A、VA-061:酢酸=1:0.8(質量比))の20質量%水溶液
【0089】
(例1~19)
ガラス製容器に、表1~2に示す単量体(ただしAcV及びVCMを除く。)、界面活性剤及び媒体を入れ、55℃で30分間加温した後、ホモミキサー(日本精機製作所社製、バイオミキサー)を用いて混合して混合液を得た。得られた混合液を55℃に保ちながら、高圧乳化機(APVラニエ社製、ミニラボ)を用いて、10MPaで前乳化した後、40MPaで処理して乳化液を得た。得られた乳化液をステンレス鋼製反応器に入れ、30℃以下となるまで冷却した。これに表1~2に示す重合開始剤を加えて、気相を窒素置換した後、表1~2に示す量のAcV、VCMを導入し、撹拌しながら55℃で24時間重合させ、含フッ素重合体を含む分散液を得た。単量体の含フッ素重合体への転化率、分散液の固形分濃度、分散液中の含フッ素重合体のMn及びMwを表1~2に示す。
表1~2中、単量体(b1)、(b2)の欄において各単量体(カルボン酸ビニル)の右側に付した括弧内の数値は、カルボン酸ビニルが有するアルキル基の炭素数である。界面活性剤及び重合開始剤の仕込量(g)は、媒体の質量を含めた全量である。
【0090】
含フッ素重合体分散液を水道水で希釈し、固形分濃度を2.0質量%に調整した後、イソシアネート系架橋剤(明成化学工業社製、メイカネートTP-10)を濃度が1.0質量%となるように添加し、撥水撥油剤組成物を得た。
得られた撥水撥油剤組成物に、ポリエチレンテレフタレート(PET)ウーリータフタ、ナイロンタスランタフタ、又は綿ブロードを浸漬し、ウェットピックアップが、PETウーリータフタでは50~60質量%、ナイロンタスランタフタでは55~65質量%、綿ブロードでは60~65質量%となるように絞った。これを110℃で90秒加熱した後、170℃で60秒間乾燥し、次いで23℃、湿度50%の部屋で一晩静置したものを試験布とした。
製造した試験布を用いて、上述した評価方法によって、撥水性(初期)、撥水性の洗濯耐久性(洗濯10回後の撥水性(「HL10」とも記す。)、洗濯20回後の撥水性(「HL20」とも記す。))、撥油性(初期)を評価した。評価結果を表3~4に示す。 表3~4中、「b1/(b1+b2)」は、単位(b1)と単位(b2)との合計に対する単位(b1)の割合である。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
単位(a)、単位(b1)及び単位(b2)を特定の割合で有する含フッ素重合体を含む組成物を用いて処理された例1~10並びに例18及び19の物品は、充分な撥油性を有するとともに、撥水性及びその耐久性(撥水性の洗濯耐久性)に優れていた。
例11では、含フッ素重合体中の単位(a)が35モル%超、単位(b1)が30モル%未満、単位(b2)が50モル%超であるため、物品の撥水性及びその耐久性(撥水性の洗濯耐久性)が不充分であった。
例12では、含フッ素重合体が単位(b1)を含まないため、物品の撥水性及びその耐久性(撥水性の洗濯耐久性)が不充分であった。
例13及び15では、含フッ素重合体が単位(b2)を含まないため、物品の撥油性及び撥水性の耐久性(撥水性の洗濯耐久性)が不充分であった。
例14では、含フッ素重合体が単位(a)を含まないため、物品の撥油性及び撥水性の耐久性(撥水性の洗濯耐久性)が不充分であった。
例16では、含フッ素重合体が単位(b1)の代わりに単位(c)を有するため、物品の撥水性及びその耐久性(撥水性の洗濯耐久性)が不充分であった。
例17では、含フッ素重合体中の単位(b1)が30モル%未満であるため、物品の撥水性及びその耐久性(撥水性の洗濯耐久性)が不充分であった。
【0096】
なお、2019年10月2日に出願された日本特許出願2019-182134号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。