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特許7409799ノズルユニット,坩堝,蒸発源及び蒸着装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】ノズルユニット,坩堝,蒸発源及び蒸着装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
C23C14/24 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019138876
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021021116
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市原 正浩
(72)【発明者】
【氏名】風間 良秋
(72)【発明者】
【氏名】菅原 由季
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-291589(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0043710(US,A1)
【文献】特開2005-060788(JP,A)
【文献】特開2008-174803(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0037982(US,A1)
【文献】特開2003-147510(JP,A)
【文献】特開2005-29839(JP,A)
【文献】特開2011-012309(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0028183(KR,A)
【文献】特開2006-193545(JP,A)
【文献】特開2011-21223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝の容器本体の開口部に装着されるノズルユニットであって、
蒸着材料を放出するノズル部を有するノズル部材と、
前記ノズル部材よりも前記容器本体の内部側に設けられる中板部材と、
を備え、
前記中板部材は、前記ノズル部材側の天板部と、蒸着材料が通過する複数の貫通孔が設けられた側壁と、を備え、前記ノズル部材側に突出する凸形状部を有すると共に、
前記蒸着材料によって蒸着される蒸着面上の任意の位置である第1の点から、前記複数の貫通孔内の任意の位置である第2の点に至る全ての線分は、ノズルユニットを構成する複数の部材のうちの少なくともいずれか一つの部材によって遮られるように構成されていることを特徴とするノズルユニット。
【請求項2】
坩堝の容器本体の開口部に装着されるノズルユニットであって、
蒸着材料を放出する放出口が設けられたノズル部を有するノズル部材と、
前記ノズル部材よりも前記容器本体の内部側に設けられる中板部材と、
を備え、
前記中板部材は、前記ノズル部材側の天板部と、蒸着材料が通過する複数の貫通孔が設けられた側壁と、を備え、前記ノズル部材側に突出する凸形状部を有すると共に、
前記放出口の先端面上の任意の位置である第3の点から、前記複数の貫通孔内の任意の位置である第2の点に至る全ての線分は、ノズルユニットを構成する複数の部材のうちの少なくともいずれか一つの部材によって遮られるように構成されていることを特徴とするノズルユニット。
【請求項3】
坩堝の容器本体の開口部に装着されるノズルユニットであって、
蒸着材料を放出するノズル部を有するノズル部材と、
前記ノズル部材よりも前記容器本体の内部側に設けられる中板部材と、
を備え、
前記中板部材は、前記ノズル部材側の天板部を備え、前記ノズル部材側に突出する凸形状部を有すると共に、
前記凸形状部の側壁に、蒸着材料が通過する複数の貫通孔が設けられていることを特徴とするノズルユニット。
【請求項4】
前記ノズル部材は、蒸着材料を放出する放出口に向かって、該蒸着材料を案内する案内壁を備えることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載のノズルユニット。
【請求項5】
前記複数の貫通孔の開口面積の総和は、前記ノズル部材における放出口の開口面積以上であることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載のノズルユニット。
【請求項6】
前記ノズル部材には、前記ノズル部の外周面側に、前記容器本体の内周面に沿って設けられる受熱用の筒状部が設けられていることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載のノズルユニット。
【請求項7】
前記ノズル部材と中板部材との間には、これらノズル部材と中板部材に対してそれぞれ接合されることで、これらノズル部材と中板部材とを接続する接続部材が設けられており、
前記接続部材には、前記中板部材の外周面側に、前記容器本体の内周面に沿って設けられる受熱用の筒状部が設けられていることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載のノズルユニット。
【請求項8】
容器本体と、
前記容器本体の開口部に装着される請求項1~のいずれか一つに記載のノズルユニットと、
を備えることを特徴とする坩堝。
【請求項9】
請求項に記載の坩堝と、
前記坩堝を加熱する加熱体と、
を備えることを特徴とする蒸発源。
【請求項10】
チャンバと、
前記チャンバ内に備えられ、かつ前記チャンバ内に設置された基板の蒸着面に蒸着を行う請求項に記載の蒸発源と、
を備えることを特徴とする蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着を行うために用いられるノズルユニット,坩堝,蒸発源及び蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空蒸着においては、坩堝内の蒸着材料が、突沸などによって、液体状または固体状の状態で坩堝の外に飛び出してしまうスプラッシュと呼ばれる現象が生じることがある。このように、液体状または固体状の蒸着材料が蒸着対象である基板に到達してしまうと、成膜中の膜(金属膜、有機膜、及び封止膜など)が破損してしまい欠陥品となってしまう。そこで、この対策として、坩堝の容器本体の開口部に、中板を設ける技術が知られている。図8を参照して、従来例に係る坩堝について説明する。図8は従来例に係る坩堝の概略構成図である。
【0003】
従来例に係る坩堝500は、容器本体510と、容器本体510の開口部に設けられる中板520とを備えている。中板520には、蒸発した蒸着材料を通過させるために、複数の貫通孔521が設けられている。このように構成される坩堝500によれば、スプラッシュが生じても、液体状または固体状の蒸着材料は中板520により遮られることで、当該蒸着材料が基板に到達してしまうことを抑制することができる。
【0004】
しかしながら、上記の坩堝500においても、スプラッシュが生じた際に、液体状または固体状の蒸着材料Sが直線的に貫通孔521を通り抜けてしまい(図中、矢印X参照)、基板に到達してしまうことがある。また、このような現象を極力少なくするために、貫通孔521の数を減らしたり、貫通孔521の開口面積を小さくしたりすることもある。しかし、そのような手法では、中板520よりも内部の圧力が高くなりやすく、また、一般的に中板520は冷えやすいため、中板520に蒸着材料が付着されやすくなってしまう。この場合、貫通孔521の付近に付着した蒸着材料にスプラッシュが生じて、基板に向かって放出されてしまうことがある(図中、矢印Y参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-21223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、液体状または固体状の蒸着材料が基板の蒸着面に到達してしまうことを抑制することのできるノズルユニット,坩堝,蒸発源及び蒸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0008】
すなわち、本発明のノズルユニットは、
坩堝の容器本体の開口部に装着されるノズルユニットであって、
蒸着材料を放出するノズル部を有するノズル部材と、
前記ノズル部材よりも前記容器本体の内部側に設けられる中板部材と、
を備え、
前記中板部材は、前記ノズル部材側の天板部と、蒸着材料が通過する複数の貫通孔が設けられた側壁と、を備え、前記ノズル部材側に突出する凸形状部を有すると共に、
前記蒸着材料によって蒸着される蒸着面上の任意の位置である第1の点から、前記複数の貫通孔内の任意の位置である第2の点に至る全ての線分は、ノズルユニットを構成する複数の部材のうちの少なくともいずれか一つの部材によって遮られるように構成されてい
ることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の他のノズルユニットは、
坩堝の容器本体の開口部に装着されるノズルユニットであって、
蒸着材料を放出する放出口が設けられたノズル部を有するノズル部材と、
前記ノズル部材よりも前記容器本体の内部側に設けられる中板部材と、
を備え、
前記中板部材は、前記ノズル部材側の天板部と、蒸着材料が通過する複数の貫通孔が設けられた側壁と、を備え、前記ノズル部材側に突出する凸形状部を有すると共に、
前記放出口の先端面上の任意の位置である第3の点から、前記複数の貫通孔内の任意の位置である第2の点に至る全ての線分は、ノズルユニットを構成する複数の部材のうちの少なくともいずれか一つの部材によって遮られるように構成されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のノズルユニットは、
坩堝の容器本体の開口部に装着されるノズルユニットであって、
蒸着材料を放出するノズル部を有するノズル部材と、
前記ノズル部材よりも前記容器本体の内部側に設けられる中板部材と、
を備え、
前記中板部材は、前記ノズル部材側の天板部を備え、前記ノズル部材側に突出する凸形状部を有すると共に、
前記凸形状部の側壁に、蒸着材料が通過する複数の貫通孔が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、液体状または固体状の蒸着材料が基板の蒸着面に到達してしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は蒸着装置の概略構成図である。
図2図2は本発明の実施例に係る蒸発源の概略構成図である。
図3図3は本発明の実施例に係るノズルユニットの概略構成図である。
図4図4は本発明の実施例に係るノズル部材を示す図である。
図5図5は本発明の実施例に係る接続部材を示す図である。
図6図6は本発明の実施例に係る中板部材を示す図である。
図7図7は本発明の変形例に係るノズル部材を示す図である。
図8図8は従来例に係る坩堝の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0014】
(実施例)
図1図7を参照して、本発明の実施例に係るノズルユニット,坩堝,蒸発源及び蒸着装置について説明する。図1は蒸着装置の概略構成図である。図2は本発明の実施例に係る蒸発源の概略構成図であり、蒸発源の概略構成について断面的に示している。図3は本発明の実施例に係るノズルユニットの概略構成図であり、基板との位置関係についても概
略図にて示している。図4は本発明の実施例に係るノズル部材を示す図である。なお、同図(a)はノズル部材の平面図であり、同図(b)は同図(a)中のA-A断面図である。図5は本発明の実施例に係る接続部材を示す図である。なお、同図(a)は接続部材の平面図であり、同図(b)は同図(a)中のB-B断面図である。図6は本発明の実施例に係る中板部材を示す図である。なお、同図(a)は中板部材の平面図であり、同図(b)は同図(a)中のC-C断面図である。図7は本発明の変形例に係るノズル部材を示す図である。なお、同図(a)はノズル部材の平面図であり、同図(b)は同図(a)中のAX-AX断面図である。
【0015】
<蒸着装置>
図1を参照して、蒸着装置1について簡単に説明する。蒸着装置1は、真空ポンプ30によって、内部が真空に近い状態(減圧雰囲気)となるように構成されるチャンバ20と、チャンバ20の内部に配置される蒸発源10とを備えている。蒸発源10は、基板40に蒸着させる物質の材料(蒸着材料)を加熱させることで、当該材料を蒸発又は昇華させる役割を担っている。この蒸発源10によって蒸発または昇華された物質が、チャンバ20の内部に設置された基板40の蒸着面(蒸発源10側の表面)に付着されることで、基板40に薄膜が形成される。
【0016】
<蒸発源>
図2を参照して、本実施例に係る蒸発源10の全体構成について説明する。蒸発源10は、基板40に蒸着させる物質の材料を収容する坩堝10Xと、坩堝10Xを取り囲むように設けられ、坩堝10Xを加熱する加熱体10Yとを備えている。なお、加熱体10Yを取り囲むように設けられ、熱を遮断する遮熱構造体(リフレクタ)が備えられる場合もある。坩堝10Xを加熱する方式は各種の構成が採用され得る。例えば、通電加熱方式が採用される場合には、加熱体10Yは、通電されるワイヤに相当する。また、高周波誘導加熱方式が採用される場合には、加熱体10Yは加熱コイルに相当する。
【0017】
そして、本実施例に係る坩堝10Xは、容器本体100と、容器本体100の開口部に装着されるノズルユニット200とを備えている。容器本体100は、蒸着材料Mが収容される有底円筒部110と、有底円筒部110の上端に設けられるフランジ部111とから構成される。この容器本体100は、窒化ホウ素(PBN)などの材料により構成される。ノズルユニット200は、ノズル部材210と、ノズル部材210よりも容器本体100の内部側に設けられる中板部材220と、ノズル部材210と中板部材220との間に設けられる接続部材230とから構成される。これらノズル部材210,中板部材220、及び接続部材230は、Mo,Ta,Wなどの高融点の金属材料により構成される。
【0018】
<ノズルユニット>
特に、図3図6を参照して、ノズルユニット200について、より詳細に説明する。ノズルユニット200は、上記の通り、ノズル部材210と、中板部材220と、接続部材230とから構成される。
【0019】
ノズル部材210は、円筒部211と、円筒部211の下端から上方に向かって縮径するように伸びるノズル部212と、円筒部211の上端に設けられるフランジ部213とを備えている。円筒部211は、容器本体100における有底円筒部110側からの熱を十分受けるための受熱用の筒状部としての役割を担っている。この円筒部211は、容器本体100の内周面(有底円筒部110の内周面)に沿って設けられる。なお、円筒部211の外径は、有底円筒部110の内径よりも数%小さく設定するのが望ましい。例えば、円筒部211の外径を60mmとした場合には、有底円筒部110の内径を61mm以上62mm以下に設定するとよい。これにより、受熱機能を維持しつつ、円筒部211と有底円筒部110とが擦れてしまうことを抑制することができる。また、熱膨張によって
、両者が密着してしまい、大きな応力が発生してしまうことを抑制することができる。
【0020】
ノズル部212は、蒸発または昇華された蒸着材料を基板40に向けて放出するための役割を担っている。このノズル部212の先端には、蒸着材料を放出する放出口212aが設けられている。このノズル部212は、上記の通り、円筒部211の下端から上方に向かって縮径するように伸びるテーパ形状の部分により構成されており、放出口212aに向かって蒸着材料を案内する案内壁としての機能を発揮する。このノズル部212の外周面側に、上記の通り、容器本体100の内周面に沿って設けられる受熱用の筒状部としての円筒部211が設けられる。なお、図示の例では、ノズル部212がテーパ形状の部分のみにより構成される場合を示しているが、本発明はそのような形状に限定されるものではなく、例えば、図7に示す変形例に係るノズル部材210Xのように、テーパ形状の部分の先端に更に円筒状の部分212Xを設けてもよい。なお、ノズル部材210Xは、上述したノズル部材210の構成に対して、円筒状の部分212Xが更に設けられている点のみが異なっている。図7においては、ノズル部材210と同一の構成部分については、同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0021】
以上のように構成されるノズル部材210におけるフランジ部213が、容器本体100におけるフランジ部111に載置されることで、容器本体100の開口部にノズルユニット200が装着される。
【0022】
中板部材220は、円筒部221と、円筒部221の上端に繋がるように設けられる平板部222と、平板部222の中央に設けられる凸形状部223とから構成される。本実施例においては、凸形状部223は、ノズル部材210側に突出している。この凸形状部223は、円錐台形状の部分により構成されている。すなわち、凸形状部223は、先端側の円板状の天板部223aと、テーパ状の側壁223bとから構成されている。そして、側壁223bに、蒸着材料が通過する複数の貫通孔223cが設けられている。複数の貫通孔223cの開口面積の総和は、ノズル部材210における放出口212aの開口面積以上となるように設定されている。
【0023】
以上のように構成されるノズル部材210と中板部材220との間に、これらノズル部材210と中板部材220に対してそれぞれ接合されることで、ノズル部材210と中板部材220とを接続する接続部材230が設けられる。ノズル部材210と接続部材230との接合、及び中板部材220と接続部材230との接合方法としては、リベット止めや溶接などの種々の方法を採用し得る。そして、接続部材230は、円筒部231と、円筒部231の先端に設けられるテーパ状部232とを備えている。接続部材230における円筒部231の内周面側が、中板部材220における円筒部221の外周面側と接合される。また、接続部材230におけるテーパ状部232の外周面側が、ノズル部材210におけるノズル部212の内周面側と接合される。
【0024】
ここで、接続部材230においては、中板部材220の外周面側に設けられる円筒部231が、上記のノズル部材210における円筒部211と同様に、容器本体100における有底円筒部110側からの熱を十分受けるための受熱用の筒状部としての役割を担っている。この円筒部231が容器本体100の内周面(有底円筒部110の内周面)に沿って設けられる点、及び円筒部231の外径の寸法設定については、ノズル部材210における円筒部211の場合と同様である。接続部材230における円筒部231の上下長は坩堝(容器本体100)の全長に対して4%以上(例えば、坩堝の全長が185mmの場合には8mm程度)に設定するのが望ましい。円筒部231の上下長は、坩堝に充填される蒸着材料Mの充填量(坩堝の全長に対する充填割合)にもよるが、坩堝の全長の4%以上28%以下とすることができる。具体的には、十分な材料充填量やノズル部材210の寸法等を確保する観点から、円筒部231の上下長は、坩堝の全長対して4%以上8%以
下とするのが好適である。これにより、受熱機能が十分に発揮され、中板部材220を十分に加熱することができる。
【0025】
以上のように構成されるノズルユニット200を備える蒸発源10が蒸着装置1に設置された状態において、ノズルユニット200と、蒸着装置1に設置された基板40との位置関係について説明する。図3においては、蒸着装置1に蒸発源10と基板40が設置された状態で、ノズルユニット200と基板40との位置関係を概略的に示している。ただし、便宜上、縮尺は、図1~3においては統一されていない。
【0026】
本実施例に係る蒸着装置1においては、ノズルユニット200における中板部材220の貫通孔223cを通過した蒸着材料が、直線的に基板40の蒸着面に到達することがないように構成されている。この点について、より詳細に説明する。
【0027】
蒸着材料によって蒸着される蒸着面上の任意の位置を「第1の点」とする。なお、「蒸着面」は、基板40における蒸発源10側の表面に相当する。従って、「蒸着面上の任意の位置」は、図3中の範囲P上の任意の位置(点)に相当する。また、中板部材220における複数の貫通孔223c内の任意の位置を「第2の点」とする。「貫通孔223c内の任意の位置」は、例えば、図3中の範囲Q上の任意の位置(点)に相当する。すると、本実施例に係る蒸着装置1においては、第1の点から第2の点に至る全ての線分は、ノズルユニット200を構成する複数の部材のうちの少なくともいずれか一つの部材によって遮られるように構成されている。例えば、図3中の貫通孔223cXに着目した場合、「第1の点から第2の点に至る全ての線分」が通り得る領域は、図中の領域Rに相当する。この図から、第1の点から第2の点に至る全ての線分は、ノズル部材210,中板部材220、及び接続部材230のうちの少なくともいずれか一つの部材によって遮られていることが分かる。
【0028】
以上の構成により、幾何学的に、中板部材220の貫通孔223cを通過した蒸着材料が、直線的に基板40に到達することはない。
【0029】
<本実施例に係るノズルユニット,坩堝,蒸発源及び蒸着装置の優れた点>
本実施例に係るノズルユニット200、及びこれを備える坩堝10X,蒸発源10及び蒸着装置1によれば、ノズルユニット200における中板部材220の貫通孔223cを通過した蒸着材料が、直線的に基板40の蒸着面に到達することがない。従って、坩堝10X内において、スプラッシュが生じても、液体状または固体状の蒸着材料が基板40の蒸着面に到達してしまうことを抑制することができる。これにより、成膜中の膜が破損してしまうことを抑制することができる。
【0030】
また、本実施例においては、中板部材220に設けられる複数の貫通孔223cの開口面積の総和は、ノズル部材210における放出口212aの開口面積以上となるように設定されている。従って、蒸発粒子の放出口212aへの移動(拡散)が良好に行われ、貫通孔223c付近での蒸発粒子の停滞を抑制することができる。よって、中板部材220よりも内部側の圧力の上昇が抑制される。また、凸形状部223は、ノズル部材210側に突出しているため、より一層、中板部材220よりも内部側の圧力が高くなってしまうことを抑制することができる。
【0031】
更に、本実施例においては、ノズル部材210における円筒部211と、接続部材230における円筒部231が、有底円筒部110側からの熱を十分受けるための受熱用の筒状部としての役割を担っている。これにより、中板部材220が冷えてしまうことを抑制することができる。特に、接続部材230における円筒部231の上下長が坩堝の全長に対して4%以上に設定されることで、中板部材220の温度低下を十分抑制することがで
きる。
【0032】
このように、中板部材220よりも内部側の圧力が高くなってしまうことを抑制できることと、中板部材220の温度低下を抑制できることが相まって、中板部材220に蒸着材料が付着してしまうことを効果的に抑制することができる。従って、中板部材220における貫通孔223cの付近でスプラッシュが発生してしまうことも抑制することができる。
【0033】
(その他)
蒸着装置1において、ノズルユニット200における中板部材220の貫通孔223cを通過した蒸着材料が、直線的に放出口212aを通って飛び出すことがないように構成することも好ましい。この点について、図3を参照して、より詳細に説明する。
【0034】
放出口212aの先端面上の任意の位置を「第3の点」とする。「放出口212aの先端面上の任意の位置」は、図3中の範囲PX上の任意の位置(点)に相当する。すると、図3に示す蒸着装置1においては、第3の点から第2の点に至る全ての線分は、ノズルユニット200を構成する複数の部材のうちの少なくともいずれか一つの部材によって遮られるように構成されている。例えば、図3中の貫通孔223cYに着目した場合、「第3の点から第2の点に至る全ての線分」が通り得る領域は、図中の領域RXに相当する。この図から、第3の点から第2の点に至る全ての線分は、中板部材220によって遮られていることが分かる。
【0035】
以上の構成により、幾何学的に、中板部材220の貫通孔223cを通過した蒸着材料が、直線的に放出口212aを通って飛び出すことはない。この構成を採用すれば、基板40の配置位置に関係なく、貫通孔223cを通過した蒸着材料が、直線的に基板40の蒸着面に到達することがない。
【0036】
上記実施例においては、ノズルユニット200が、ノズル部材210と、中板部材220と、接続部材230とから構成される場合を示した。このように、ノズルユニット200を3部材により構成したのは、製法上の理由に基づくものである。ただし、各部材の材料等により、製法上、特に問題がなければ、ノズルユニットを3部材により構成する必要はない。例えば、ノズル部材210の主要構成部と接続部材230の主要構成部とを有する部材を1部材として、この部材と中板部材220とを接続させることで、ノズルユニット200を構成することもできる。勿論、ノズルユニット200を4部材以上の部材により構成しても構わない。
【0037】
上記実施例においては、中板部材220に設けられる凸形状部223が、ノズル部材210側に突出している場合の構成を示した。しかしながら、本発明においては、凸形状部が、ノズル部材側とは反対側に突出している場合の構成も含まれ得る。この場合、中板部材よりも内部側の圧力が高くなってしまうことも懸念され得るが、中板部材220に設けられる複数の貫通孔223cの開口面積の総和と、ノズル部材210における放出口212aの開口面積との関係を適宜設定することで、中板部材よりも内部側の圧力が高くなってしまうことを抑制することができる。
【0038】
ここで、スプラッシュの発生に伴って、成膜中の膜が破損してしまう問題は、成膜材料が金属材料の場合に特に問題になる。従って、本実施例に係るノズルユニット,坩堝,蒸発源及び蒸着装置は、蒸着材料が金属材料の場合に特に有用である。ただし、その他の材料の場合でも、効果があることは言うまでもない。
【0039】
なお、上記実施例においては、幾何学的に、中板部材220の貫通孔223cを通過し
た蒸着材料が、直線的に基板40に到達することがない場合の構成について説明した。しかしながら、中板に凸形状部を設けて、この凸形状部の側壁に、蒸着材料が通過する複数の貫通孔を設ける構成を採用すれば、スプラッシュの発生により生じた液体状または固体状の蒸着材料が基板40の蒸着面に到達してしまうことを抑制できる効果を得ることができる。従って、上述した第1の点から第2の点に至る全ての線分の中で、その一部については、ノズルユニット200を構成する部材によって遮られない場合でも、ある程度の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 蒸着装置
10 蒸発源
10X 坩堝
20 チャンバ
40 基板
100 容器本体
200 ノズルユニット
210,210X ノズル部材
211 円筒部
212 ノズル部
212a 放出口
220 中板部材
221 円筒部
222 平板部
223 凸形状部
223a 天板部
223b 側壁
223c,223cX,223cY 貫通孔
230 接続部材
231 円筒部
232 テーパ状部
図1
図2
図3
図4
図5
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図8