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特許7409865材料の残存寿命を推定する方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】材料の残存寿命を推定する方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20231226BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20231226BHJP
   G01N 33/2045 20190101ALI20231226BHJP
   G01N 23/2055 20180101ALI20231226BHJP
   G01N 23/203 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G01N17/00
G01M99/00 Z
G01N33/2045 100
G01N23/2055 310
G01N23/203
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019232532
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021101162
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(72)【発明者】
【氏名】早房 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】中本 浩章
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-327455(JP,A)
【文献】特開2003-185603(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0135809(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00-19/10
23/00-23/2276
33/00-33/46
F04D 1/00-13/16
17/00-19/02
21/00-25/16
29/00-35/00
G01M 13/00-13/045
99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標材料の残存寿命を推定する方法であって、
前記目標材料の損傷評価値を測定し、
前記目標材料の損傷評価値に対応する寿命指標値を損傷カーブから決定する工程を含み、
前記損傷カーブは、前記目標材料と同じ材料からなる試料の、異なるキャビテーション時間での複数の損傷評価値と、対応する複数の寿命指標値とから特定される複数のデータ点から定められた近似線であり、
前記複数の寿命指標値は、前記異なるキャビテーション時間から、前記試料のキャビテーション壊食が起こり始めた時点までの時間長さを評価する指標である、方法。
【請求項2】
前記損傷評価値は、算術平均粗さ、結晶粒変形量、およびX線回析環の相対半値幅のうちの少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料の表面に接触する液体内でキャビテーションを発生させ、
前記試料の損傷評価値を測定し、
前記試料のキャビテーション壊食が起こるまで、前記キャビテーションを発生させる工程と、前記試料の損傷評価値を測定する工程を繰り返して、前記異なるキャビテーション時間での前記複数の損傷評価値を取得し、
前記複数の寿命指標値を前記複数の損傷評価値に割り当て、
前記複数の損傷評価値と、対応する前記複数の寿命指標値とから特定される複数のデータ点の近似線である前記損傷カーブを生成する工程をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記異なるキャビテーション時間を、前記試料のキャビテーション壊食開始時間で割り算することで、前記複数の寿命指標値を算定する工程をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
目標材料の残存寿命を推定するためのモニタリング装置であって、
前記目標材料の損傷評価値を測定する測定装置と、
損傷カーブが記憶された記憶装置を有する演算システムを備え、
前記演算システムは、前記目標材料の損傷評価値に対応する寿命指標値を前記損傷カーブから決定するように構成され、
前記損傷カーブは、前記目標材料と同じ材料からなる試料の、異なるキャビテーション時間での複数の損傷評価値と、対応する複数の寿命指標値とから特定される複数のデータ点から定められた近似線から構成され、
前記複数の寿命指標値は、前記異なるキャビテーション時間から、前記試料のキャビテーション壊食が起こり始めた時点までの時間長さを評価する指標である、モニタリング装置。
【請求項6】
前記測定装置は、算術平均粗さを測定する測定装置、結晶粒変形量を測定する測定装置、およびX線回析環の相対半値幅を測定する測定装置のうちのいずれか1つである、請求項5に記載のモニタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を取り扱う液体ポンプなどの流体機械を構成する材料の残存寿命を推定する方法および装置に関し、特に材料のキャビテーション壊食が始まる時点までの期間を推定する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体ポンプなどの流体機械の運転中に、液体中にキャビテーションが起こることがある。キャビテーションは、液体の圧力低下に起因して気泡が液体中に生じ、液体の圧力上昇に伴って気泡が崩壊する現象である。気泡が崩壊するとき、強い衝撃圧が発生する。この衝撃圧が流体機械を構成する材料の表面に繰り返し作用すると、材料の表面が徐々に崩れ落ち、ついには材料に亀裂や穴が生じることがある。このようなキャビテーションに起因して材料の表面が崩れ落ちる現象は、キャビテーション壊食と呼ばれる。
【0003】
キャビテーション自体を抑えるための様々な技術は従来から提案されているが、キャビテーションを完全に無くすことは難しい。キャビテーション壊食が起こると、流体機械の性能が低下し、あるいは大きな振動または騒音が発生する。したがって、キャビテーション壊食が始まる前に、流体機械を点検または補修することが望ましい。
【0004】
図11は、キャビテーション時間の経過に伴う壊食量の変化と、キャビテーション時間の経過に伴う壊食速度の変化を示すグラフである。図11に示すように、壊食の進行は、(1)潜伏期、(2)加速期と最大加速期、(3)減速期と定常期、の3つに大きく分けられる。
潜伏期は、キャビテーション壊食が起こる前の期間である。潜伏期では、材料はキャビテーションの衝撃圧を受け続けるものの、損傷は材料内部に蓄積され、材料表面には現れない。具体的には、材料の塑性変形や結晶変化などが材料内で進行し、塑性変形の結果として凹凸が材料表面に生じることがあるが、材料の崩落は始まらない。
加速期は、キャビテーション壊食が発生し始め、壊食速度が急峻に上昇している期間である。最大加速期は、最大壊食速度でキャビテーション壊食が進んでいる期間である。
減速期は、壊食速度が徐々に低下する期間である。
定常期は、壊食速度がほぼ一定となる期間である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-249804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
潜伏期では、キャビテーション自体は起こるものの、キャビテーション壊食は発生しない。したがって、潜伏期の終点、すなわち、キャビテーション壊食の開始点を予測し、必要に応じて材料の点検または補修をすることが望ましい。しかしながら、上述の通り、潜伏期では、衝撃圧に起因する損傷は材料内部に蓄積され、材料表面には現れない。このため、潜伏期の終点を予測することは難しい。
【0007】
そこで、本発明は、キャビテーション壊食が起こり始める時点までの期間である、材料の残存寿命を正確に予測することができる方法および装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様では、目標材料の残存寿命を推定する方法であって、前記目標材料の損傷評価値を測定し、前記目標材料の損傷評価値に対応する寿命指標値を損傷カーブから決定する工程を含み、前記損傷カーブは、前記目標材料と同じ材料からなる試料の、異なるキャビテーション時間での複数の損傷評価値と、対応する複数の寿命指標値とから特定される複数のデータ点から定められた近似線であり、前記複数の寿命指標値は、前記異なるキャビテーション時間から、前記試料のキャビテーション壊食が起こり始めた時点までの時間長さを評価する指標である、方法が提供される。
【0009】
一態様では、前記損傷評価値は、算術平均粗さ、結晶粒変形量、およびX線回析環の相対半値幅のうちの少なくとも1つである。
一態様では、前記方法は、前記試料の表面に接触する液体内でキャビテーションを発生させ、前記試料の損傷評価値を測定し、前記試料のキャビテーション壊食が起こるまで、前記キャビテーションを発生させる工程と、前記試料の損傷評価値を測定する工程を繰り返して、前記異なるキャビテーション時間での前記複数の損傷評価値を取得し、前記複数の寿命指標値を前記複数の損傷評価値に割り当て、前記複数の損傷評価値と、対応する前記複数の寿命指標値とから特定される複数のデータ点の近似線である前記損傷カーブを生成する工程をさらに含む。
一態様では、前記方法は、前記異なるキャビテーション時間を、前記試料のキャビテーション壊食開始時間で割り算することで、前記複数の寿命指標値を算定する工程をさらに含む。
【0010】
一態様では、目標材料の残存寿命を推定するためのモニタリング装置であって、前記目標材料の損傷評価値を測定する測定装置と、損傷カーブが記憶された記憶装置を有する演算システムを備え、前記演算システムは、前記目標材料の損傷評価値に対応する寿命指標値を前記損傷カーブから決定するように構成され、前記損傷カーブは、前記目標材料と同じ材料からなる試料の、異なるキャビテーション時間での複数の損傷評価値と、対応する複数の寿命指標値とから特定される複数のデータ点から定められた近似線から構成され、前記複数の寿命指標値は、前記異なるキャビテーション時間から、前記試料のキャビテーション壊食が起こり始めた時点までの時間長さを評価する指標である、モニタリング装置が提供される。
一態様では、前記測定装置は、算術平均粗さを測定する測定装置、結晶粒変形量を測定する測定装置、およびX線回析環の相対半値幅を測定する測定装置のうちのいずれか1つである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る方法および装置によれば、目標材料の損傷評価値と、同じ材料からなる試料の損傷カーブに基づいて、目標材料の残存寿命を正確に示す寿命指標値を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】モニタリング装置の一実施形態を示す模式図である。
図2】算術平均粗さの定義を説明する図である。
図3】目標材料と同じ材料からなる試料の算術平均粗さの、キャビテーション時間の経過に伴う変化を示すグラフである。
図4】目標材料の算術平均粗さの測定値に対応する損傷カーブ上の寿命指標値を決定する工程を説明する図である。
図5】目標材料と同じ材料からなる試料の結晶粒変形量の、キャビテーション時間の経過に伴う変化を示すグラフである。
図6】目標材料の結晶粒変形量の測定値に対応する損傷カーブ上の寿命指標値を決定する工程を説明する図である。
図7】目標材料と同じ材料からなる試料の相対半値幅の、キャビテーション時間の経過に伴う変化を示すグラフである。
図8】目標材料の相対半値幅の測定値に対応する損傷カーブ上の寿命指標値を決定する工程を説明する図である。
図9】損傷カーブを生成するときに使用されるキャビテーション発生装置の模式図である。
図10】損傷カーブを用いて目標材料の残存寿命を推定する方法を説明するフローチャートである。
図11】キャビテーション時間の経過に伴う壊食量の変化と、キャビテーション時間の経過に伴う壊食速度の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
以下に説明する実施形態は、水などの液体を取り扱う液体ポンプなどの流体機械を構成する材料の残存寿命を推定する方法および装置に関する。以下、残存寿命を推定すべき材料を、目標材料と称する。目標材料は、キャビテーションが起きやすい流体機械の部位を構成する材料である。目標材料は、流体機械に着脱可能に取り付けられた部材であってもよい。キャビテーションが起きやすい部位の例としては、流体機械の液体吸込口、羽根車、羽根車を収容するケーシングなどが挙げられる。
【0014】
図1は、目標材料の残存寿命を推定するためのモニタリング装置の一実施形態を示す模式図である。モニタリング装置は、流体機械(例えば液体ポンプ)1の一部を構成する目標材料2の損傷評価値を測定する3つの測定装置5,6,7と、損傷評価値から目標材料2の残存寿命を決定する演算システム10を備えている。損傷評価値は、キャビテーションに起因する目標材料2の損傷の程度を評価するための指標である。本実施形態では、損傷評価値として、算術平均粗さ、結晶粒変形量、およびX線回析環の相対半値幅の3つの指標が使用されている。
【0015】
3つの測定装置5,6,7は、目標材料2の算術平均粗さを測定する測定装置5と、目標材料2の結晶粒変形量を測定する測定装置6と、目標材料2のX線回析環の相対半値幅を測定する測定装置7を含む。一実施形態では、損傷評価値は、算術平均粗さ、結晶粒変形量、およびX線回析環の相対半値幅のうちのいずれか1つまたは2つであってもよい。この場合は、モニタリング装置は、3つの測定装置5,6,7のうちのいずれか1つまたは2つのみを備えてもよい。
【0016】
演算システム10は、少なくとも1台のコンピュータを備えている。演算システム10は、データベースおよびプログラムが格納された記憶装置10aと、プログラムに含まれる命令に従って演算を実行する処理装置10bを備えている。記憶装置10aは、RAMなどの主記憶装置と、ハードディスクドライブ(HDD)、ソリッドステートドライブ(SSD)などの補助記憶装置を備えている。処理装置10bの例としては、CPU(中央処理装置)、GPU(グラフィックプロセッシングユニット)が挙げられる。ただし、演算システム10の具体的構成はこれらの例に限定されない。
【0017】
測定装置5、測定装置6、および測定装置7によって測定された3つの損傷評価値は、自動または手動で演算システム10に入力される。演算システム10は、図示しない入力装置を有している。本実施形態では、測定装置5、測定装置6、および測定装置7は、有線通信または無線通信により演算システム10に接続されている。一実施形態では、測定装置5、測定装置6、および測定装置7は、インターネットまたはローカルエリアネットワークなどの通信ネットワークにより演算システム10に接続されてもよい。さらに、一実施形態では、測定装置5,6,7のうちの少なくとも1つ、あるいは測定装置5,6,7のいずれかの一部は、演算システム10と一体に構成されてもよい。
【0018】
図2は、算術平均粗さの定義を説明する図である。図2に示すように、算術平均粗さは、ある基準面から凹凸までの差の絶対値の平均である。算術平均粗さを測定する装置の例としては、三次元表面形状測定装置が挙げられる。このような三次元表面形状測定装置は、市場で入手することが可能である。本実施形態の測定装置5は、三次元表面形状測定装置を少なくとも備えている。
【0019】
測定装置5は、目標材料2の算術平均粗さを直接または間接に測定するように構成されている。一例では、測定装置5は、目標材料2の表面をレーザ光で走査し、目標材料2の算術平均粗さを直接測定してもよい。他の例では、シリコーン樹脂などからなる粘性材料を目標材料2の表面に押し付けて、目標材料2の表面形状を粘性材料に転写し、転写された表面形状をレーザ光で走査し、目標材料2の算術平均粗さを間接的に測定してもよい。測定装置5によって生成された算術平均粗さの測定値は、演算システム10に入力される。
【0020】
図3は、目標材料2と同じ材料からなる試料の算術平均粗さの、キャビテーション時間の経過に伴う変化を示すグラフである。図3の縦軸は試料の算術平均粗さを表し、横軸はキャビテーション時間と、後述する寿命指標値を表している。キャビテーション時間は、試料に接触している液体中にキャビテーションが発生している時間である。
【0021】
図3に示すグラフは、次のようにして作成した。試料の表面を水などの液体に接触させ、液体中にキャビテーションを発生させる(キャビテーション工程)。ある時間が経過した後、試料を液体から離し、試料の表面の算術平均粗さを測定装置5により直接または間接に測定する(表面粗さ測定工程)。測定後、試料の表面を再び液体に接触させ、液体中にキャビテーションを発生させる。キャビテーション工程と、表面粗さ測定工程は、試料にキャビテーション壊食が起こるまで繰り返される。これらの2つの工程は、試料のキャビテーション壊食が発生した後もさらに繰り返してもよい。結果として、異なるキャビテーション時間での算術平均粗さの複数の測定値が取得される。上記異なるキャビテーション時間は、キャビテーション時間軸に沿って等間隔または不等間隔で分布する。
【0022】
演算システム10は、上記異なるキャビテーション時間と、試料のキャビテーション壊食が起こり始めた時間(以下、キャビテーション壊食開始時間という)と、算術平均粗さの複数の測定値を記憶装置10a内に記憶する。キャビテーション壊食開始時間は、キャビテーション壊食が起こり始めるまで、試料に接触している液体中にキャビテーションを起こし続けた累積時間に相当する。
【0023】
演算システム10は、上記異なるキャビテーション時間をキャビテーション壊食開始時間で割り算することで、複数の寿命指標値を算定する。寿命指標値は、上記異なるキャビテーション時間から、試料のキャビテーション壊食が起こり始めた時点までの時間長さを評価する指標である。図3において時点t1は、算術平均粗さの測定値の変化率が、所定のしきい値を下回った時点である。時点tcは、試料のキャビテーション壊食が起こり始めた時点であり、試料のキャビテーション壊食開始時間に相当する。時点tcに対応する寿命指標値は1である。
【0024】
図3の横軸の上段はキャビテーション時間を表し、下段は寿命指標値を表す。寿命指標値は、試料の残存寿命を表している。すなわち、寿命指標値が1に近いほど、試料の残存寿命は少ない。時点t1に対応する寿命指標値は約0.3であり、これは試料の残存寿命の約30%に達したことを示している。図3から分かるように、算術平均粗さは、キャビテーション時間とともに増加する。したがって、算術平均粗さは、キャビテーションに起因する材料の損傷の程度を示す損傷評価値として使用することができる。
【0025】
演算システム10は、算定された複数の寿命指標値を、算術平均粗さの対応する複数の測定値にそれぞれ割り当てる。演算システム10は、複数の寿命指標値を、算術平均粗さの対応する複数の測定値にそれぞれ関連付けた状態で、記憶装置10aに記憶する。さらに、演算システム10は、図3に示すように、算術平均粗さの複数の測定値と、対応する複数の寿命指標値とにより特定される複数のデータ点DP1の近似線を生成し、この近似線からなる損傷カーブC1を決定する。より具体的には、演算システム10は、算術平均粗さの複数の測定値と、対応する複数の寿命指標値とにより特定される複数のデータ点DP1を、算術平均粗さと寿命指標値を表す座標軸を持つ座標系(図3参照)上にプロットし、この座標系上の複数のデータ点DP1から定められた近似線からなる損傷カーブC1を生成する。演算システム10は、損傷カーブC1を記憶装置10a内に記憶する。
【0026】
演算システム10は、測定装置5によって生成された目標材料2の算術平均粗さの測定値を損傷カーブC1に適用することにより、目標材料2の残存寿命を推定することができる。具体的には、図4に示すように、演算システム10は、目標材料2の算術平均粗さの測定値M1に対応する損傷カーブC1上の寿命指標値L1を決定する。この決定された寿命指標値L1は、目標材料2の残存寿命を表している。すなわち、寿命指標値L1が1に近いほど、目標材料2の残存寿命は少ない。したがって、ユーザーは、寿命指標値L1から、目標材料2の残存寿命を知ることができる。
【0027】
次に、損傷評価値の他の1つである結晶粒変形量(MCD(Modified Crystal Deformation)値)について説明する。結晶粒変形量は、材料を構成する結晶粒の全体の変形量を示す指標である。結晶粒変形量を測定することができる装置の例としては、電子線後方散乱回析装置(EBSD装置)が挙げられる。このような電子線後方散乱回析装置は、市場で入手することが可能である。本実施形態の測定装置6は、電子線後方散乱回析装置を少なくとも備えている。
【0028】
測定装置6は、目標材料2の結晶粒変形量を測定するように構成されている。一例では、測定装置6は、目標材料2の表面に電子線を照射し、目標材料2から放出される反射電子(後方散乱電子)の回析を分析して、目標材料2の結晶粒変形量を測定するように構成される。目標材料2は、流体機械1に着脱可能に取り付けられたダミー材料であってもよい。この場合は、結晶粒変形量を測定するために、ダミー材料からなる目標材料2を流体機械1から取り外してもよい。複数のダミー材料からなる複数の目標材料2を流体機械1に着脱可能に取り付け、結晶粒変形量を測定するために複数の目標材料2を1つずつ流体機械1から取り外してもよい。測定装置6によって生成された結晶粒変形量の測定値は、演算システム10に入力される。
【0029】
図5は、目標材料2と同じ材料からなる試料の結晶粒変形量の、キャビテーション時間の経過に伴う変化を示すグラフである。図5の縦軸は試料の結晶粒変形量を表し、横軸はキャビテーション時間と、寿命指標値を表している。
【0030】
図5に示すグラフは、次のようにして作成した。試料の表面を水などの液体に接触させ、液体中にキャビテーションを発生させる(キャビテーション工程)。ある時間が経過した後、試料を液体から離し、試料の結晶粒変形量を測定装置6により測定する(結晶粒変形量測定工程)。測定後、試料の表面を再び液体に接触させ、液体中にキャビテーションを発生させる。キャビテーション工程と、結晶粒変形量測定工程は、試料にキャビテーション壊食が起こるまで繰り返される。これらの2つの工程は、試料のキャビテーション壊食が発生した後もさらに繰り返してもよい。結果として、異なるキャビテーション時間での結晶粒変形量の複数の測定値が取得される。上記異なるキャビテーション時間は、キャビテーション時間軸に沿って等間隔または不等間隔で分布する。
【0031】
演算システム10は、上記異なるキャビテーション時間と、試料のキャビテーション壊食が起こり始めた時間であるキャビテーション壊食開始時間と、結晶粒変形量の複数の測定値を記憶装置10a内に記憶する。演算システム10は、上記異なるキャビテーション時間をキャビテーション壊食開始時間で割り算することで、複数の寿命指標値を算定する。図5において時点tcは、試料のキャビテーション壊食が起こり始めた時点であり、試料のキャビテーション壊食開始時間に相当する。時点tcに対応する寿命指標値は1である。
【0032】
図5の横軸の上段はキャビテーション時間を表し、下段は寿命指標値を表す。寿命指標値は、試料の残存寿命を表している。すなわち、寿命指標値が1に近いほど、試料の残存寿命は少ない。図5から分かるように、結晶粒変形量は、キャビテーション時間とともに増加する。したがって、結晶粒変形量は、キャビテーションに起因する材料の損傷の程度を示す損傷評価値として使用することができる。
【0033】
演算システム10は、算定された複数の寿命指標値を、結晶粒変形量の対応する複数の測定値にそれぞれ割り当てる。演算システム10は、複数の寿命指標値を、結晶粒変形量の対応する複数の測定値にそれぞれ関連付けた状態で、記憶装置10aに記憶する。さらに、演算システム10は、結晶粒変形量の複数の測定値と、対応する複数の寿命指標値とにより特定される複数のデータ点DP2の近似線を生成し、この近似線からなる損傷カーブC2を決定する。より具体的には、演算システム10は、結晶粒変形量の複数の測定値と、対応する複数の寿命指標値とにより特定される複数のデータ点DP2を、結晶粒変形量と寿命指標値を表す座標軸を持つ座標系(図5参照)上にプロットし、この座標系上の複数のデータ点DP2から定められた近似線からなる損傷カーブC2を生成する。演算システム10は、損傷カーブC2を記憶装置10a内に記憶する。
【0034】
演算システム10は、測定装置6によって生成された目標材料2の結晶粒変形量の測定値を損傷カーブC2に適用することにより、目標材料2の残存寿命を推定することができる。具体的には、図6に示すように、演算システム10は、目標材料2の結晶粒変形量の測定値M2に対応する損傷カーブC2上の寿命指標値L2を決定する。この決定された寿命指標値L2は、目標材料2の残存寿命を表している。すなわち、寿命指標値L2が1に近いほど、目標材料2の残存寿命は少ない。したがって、ユーザーは、寿命指標値L2から、目標材料2の残存寿命を知ることができる。
【0035】
次に、損傷評価値のさらに他の1つであるX線回析環の相対半値幅について説明する。半値幅は、X線が材料に入射したときに得られるX線回析環(デバイ環とも言う)の半値幅である。相対半値幅は、X線回析環の半値幅の基準値に対する相対的な値である。半値幅の基準値は、例えば、材料が損傷していないときに測定された半値幅の初期値である。本実施形態では、X線回析環の相対半値幅は、半値幅の現在値を上記基準値で割り算して得られた値である。
【0036】
X線回析環の半値幅を測定することができる装置の例としては、X線残留応力測定装置が挙げられる。このようなX線残留応力測定装置は、市場で入手することが可能である。本実施形態では、X線回析環の相対半値幅を測定する測定装置7は、X線回析環の半値幅を測定するX線残留応力測定装置と、得られた半値幅から相対半値幅を算定する算定装置を備えている。この算定装置はX線残留応力測定装置と一体であってもよい。測定装置7によって生成されたX線回析環の相対半値幅の測定値は、演算システム10に入力される。
【0037】
図7は、目標材料2と同じ材料からなる試料の相対半値幅の、キャビテーション時間の経過に伴う変化を示すグラフである。図7の縦軸は試料の結晶粒変形量を表し、横軸はキャビテーション時間と、後述する寿命指標値を表している。
【0038】
図7に示すグラフは、次のようにして作成した。試料の表面を水などの液体に接触させ、液体中にキャビテーションを発生させる(キャビテーション工程)。ある時間が経過した後、試料を液体から離し、試料の相対半値幅を測定装置7により測定する(相対半値幅測定工程)。測定後、試料の表面を再び液体に接触させ、液体中にキャビテーションを発生させる。キャビテーション工程と、相対半値幅測定工程は、試料にキャビテーション壊食が起こるまで繰り返される。これらの2つの工程は、試料のキャビテーション壊食が発生した後もさらに繰り返してもよい。結果として、異なるキャビテーション時間での相対半値幅の複数の測定値が取得される。上記異なるキャビテーション時間は、キャビテーション時間軸に沿って等間隔または不等間隔で分布する。
【0039】
演算システム10は、上記異なるキャビテーション時間と、試料のキャビテーション壊食が起こり始めた時間であるキャビテーション壊食開始時間と、相対半値幅の複数の測定値を記憶装置10a内に記憶する。演算システム10は、上記異なるキャビテーション時間をキャビテーション壊食開始時間で割り算することで、複数の寿命指標値を算定する。図7において時点tcは、試料のキャビテーション壊食が起こり始めた時点であり、試料のキャビテーション壊食開始時間に相当する。時点tcに対応する寿命指標値は1である。
【0040】
図7の横軸の上段はキャビテーション時間を表し、下段は寿命指標値を表す。寿命指標値は、試料の残存寿命を表している。すなわち、寿命指標値が1に近いほど、試料の残存寿命は少ない。図7から分かるように、相対半値幅は、キャビテーション時間とともに減少する。したがって、相対半値幅は、キャビテーションに起因する材料の損傷の程度を示す損傷評価値として使用することができる。
【0041】
演算システム10は、算定された複数の寿命指標値を、相対半値幅の対応する複数の測定値にそれぞれ割り当てる。演算システム10は、複数の寿命指標値を、相対半値幅の対応する複数の測定値にそれぞれ関連付けた状態で、記憶装置10aに記憶する。さらに、演算システム10は、相対半値幅の複数の測定値と、対応する複数の寿命指標値とにより特定される複数のデータ点DP3の近似線を生成し、この近似線からなる損傷カーブC3を決定する。より具体的には、演算システム10は、相対半値幅の複数の測定値と、対応する複数の寿命指標値とにより特定される複数のデータDP3点を、相対半値幅と寿命指標値を表す座標軸を持つ座標系(図7参照)上にプロットし、この座標系上の複数のデータ点DP3から定められた近似線からなる損傷カーブC3を生成する。演算システム10は、損傷カーブC3を記憶装置10a内に記憶する。
【0042】
演算システム10は、測定装置7によって生成された目標材料2の相対半値幅の測定値を損傷カーブC3に適用することにより、目標材料2の残存寿命を推定することができる。具体的には、図8に示すように、演算システム10は、目標材料2の相対半値幅の測定値M3に対応する損傷カーブC3上の寿命指標値L3を決定する。この決定された寿命指標値L3は、目標材料2の残存寿命を表している。すなわち、寿命指標値L3が1に近いほど、目標材料2の残存寿命は少ない。したがって、ユーザーは、寿命指標値L3から、目標材料2の残存寿命を知ることができる。
【0043】
図9は、損傷カーブC1、損傷カーブC2、および損傷カーブC3を生成するときに使用されるキャビテーション発生装置20の模式図である。キャビテーション発生装置20は、超音波発生器21を有する磁歪式振動装置22と、磁歪式振動装置22に連結された振動増幅装置としての増幅ホーン24と、増幅ホーン24の下方に配置された試料ステージ26と、試料ステージ26が配置された液体槽29と、液体槽29内の液体の温度を制御する液体温度制御装置31を備えている。液体槽29内には、水などの液体が貯留されている。液体温度制御装置31は、液体槽29内の液体を予め設定された温度に保つように構成されている。試料40は試料ステージ26上に配置される。
【0044】
超音波発生器21が作動すると、磁歪式振動装置22は振動を発生するように構成されている。振動は増幅ホーン24内で増幅され、振動は増幅ホーン24の端部から液体に伝わり、液体中にキャビテーションを発生させる。試料ステージ26上の試料40は、キャビテーションの気泡が崩壊するときに発生する衝撃圧を受け、損傷を受ける。
【0045】
目標材料2と同じ材料からなる試料40は、試料ステージ26上に置かれる。試料40にキャビテーション壊食が起こるまで、キャビテーション発生装置20によるキャビテーションの発生と、測定装置5による算術平均粗さの測定が繰り返される。結果として、異なるキャビテーション時間での算術平均粗さの複数の測定値が取得される。これらの算術平均粗さの測定値から特定されるデータ点は、図3を参照して説明したように、座標系上にプロットされ、これらデータ点から損傷カーブC1が作成される。同様にして、キャビテーション発生装置20と測定装置6を使用して結晶粒変形量の複数の測定値が取得され、キャビテーション発生装置20と測定装置7を使用してX線回析環の相対半値幅の複数の測定値が取得される。
【0046】
図10は、損傷カーブC1、損傷カーブC2、および損傷カーブC3を用いて、流体機械1を構成する目標材料2の残存寿命を推定する方法を説明するフローチャートである。
【0047】
ステップ1では、図9に示すキャビテーション発生装置20を用いて、流体機械1の一部を構成する目標材料2と同じ材料からなる試料40を、キャビテーション発生装置20の液体槽29内の液体に接触させ、液体にキャビテーションを発生させる。キャビテーションに起因して、試料40は損傷を受ける。
【0048】
ステップ2では、試料40を液体から取り出し、図1に示す3つの測定装置5,6,7を用いて、試料40の3種の損傷評価値である、算術平均粗さと、結晶粒変形量と、X線回析環の相対半値幅を測定する。これらの3種の損傷評価値は、演算システム10の記憶装置10a内に記憶される。
ステップ1のキャビテーション発生工程と、ステップ2の損傷評価値の測定工程は、試料40にキャビテーション壊食が起こるまで繰り返される。
【0049】
ステップ3では、演算システム10は、試料40のキャビテーション壊食が起こり始めた時間であるキャビテーション壊食開始時間を記憶装置10aに記憶する。
ステップ4では、演算システム10は、各種の損傷評価値が測定された異なるキャビテーション時間を、上記キャビテーション壊食開始時間で割り算して、複数の寿命指標値を算定する。
ステップ5では、演算システム10は、図3図5図7を参照して説明した工程に従って、損傷カーブC1、損傷カーブC2、および損傷カーブC3を生成する。演算システム10は、これら3つの損傷カーブC1,C2,C3を記憶装置10aに記憶する。
【0050】
ステップ6では、図1に示す3つの測定装置5,6,7は、流体機械1の一部を構成する目標材料2の算術平均粗さと、結晶粒変形量と、X線回析環の相対半値幅を測定する。目標材料2は、流体機械1に着脱可能に取り付けられたダミー材料であることもある。
ステップ7では、演算システム10は、目標材料2の算術平均粗さの測定値に対応する第1寿命指標値を損傷カーブC1から決定し、目標材料2の結晶粒変形量の測定値に対応する第2寿命指標値を損傷カーブC2から決定し、目標材料2のX線回析環の相対半値幅に対応する第3寿命指標値を損傷カーブC3から決定する。
【0051】
一実施形態では、演算システム10は、第1寿命指標値と、第2寿命指標値と、第3寿命指標値の平均を算定してもよい。
【0052】
図10に示す実施形態では、1つの試料40を用いて3つの損傷評価値が測定されるが、これら3つの損傷評価値は3つの試料を用いて別々に測定されてもよい。さらに、3つの損傷評価値のうちのいずれか1つまたは2つのみを用いて、1つまたは2つの寿命指標値を決定してもよい。
【0053】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0054】
1 流体機械
2 目標材料
5,6,7 測定装置
10 演算システム
20 キャビテーション発生装置
21 超音波発生器
22 磁歪式振動装置
24 増幅ホーン
26 試料ステージ
29 液体槽
31 液体温度制御装置
40 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11