(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】光学式濃度測定装置および光導波路
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
G01N21/17 N
(21)【出願番号】P 2020004486
(22)【出願日】2020-01-15
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2019057277
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180655
【氏名又は名称】鈴木 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】坂本 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】八木 立志
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/075744(WO,A2)
【文献】特表2013-514555(JP,A)
【文献】特開平7-22700(JP,A)
【文献】特許第6420932(JP,B1)
【文献】Yunhong DING et al.,On-chip grating coupler array on the SOI platform for fan-in/fan-out of MCFs with low insertion loss and crosstalk,Optics Express,2015年02月09日,Vol. 23,No. 3,PP.3292-3298
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G02B 6/12-G02B 6/14
G02F 1/00-G02F 1/125
G02F 1/21-G02F 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層に光を入射可能な光源と、
前記コア層を伝搬した光を受光可能な検出部と、
光導波路と、
を備える、被測定気体または被測定液体の濃度を測定する光学式濃度測定装置であって、
前記光導波路は、
基板と、
延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、回折格子部と、を有する前記コア層と、
を備え、
前記光伝搬部は少なくとも第一伝搬路と第二伝搬路を有し、
前記回折格子部は少なくとも第一回折格子部を有し、
前記第一伝搬路と前記第一回折格子部とは、前記第一回折格子部が前記光源より光を受けて前記第一伝搬路へ光を導出することで光学的に接続されており、
前記第二伝搬路は前記第一回折格子部および前記第一伝搬路とは光学的に非接続であり、
前記第二伝搬路と前記第一回折格子部が平面視で重なっていて、
かつ前記第二伝搬路と前記第一回折格子部が、前記光導波路の厚さ方向に離隔して存在し、
かつ前記第二伝搬路と前記第一回折格子部の間には、前記第二伝搬路の屈折率及び前記第一回折格子部の屈折率よりも低い屈折率を持つ材料を含む
光学式濃度測定装置。
【請求項2】
前記第一回折格子部と、前記第二伝搬路とは、前記光導波路の厚さ方向に沿って測った離隔距離CLが、下記(1)式を満たす、請求項1に記載の光学式濃度測定装置。
【数1】
(1)式において、λは光の真空中における波長の平均値であり、n
coreは前記第二伝搬路を形成する材料の屈折率であり、n
cladは、前記第一回折格子部と、前記第二伝搬路との離隔部分に存在する材料の屈折率である。
【請求項3】
前記第一回折格子部と、前記第二伝搬路とは、前記光導波路の厚さ方向に沿って測った離隔距離CLが、(2)式を満たす、請求項1に記載の光学式濃度測定装置。
【数2】
(2)式において、λは光の真空中における波長の平均値であり、n
coreは前記第二伝搬路を形成する材料の屈折率であり、n
cladは、前記第一回折格子部と、前記第二伝搬路との離隔部分に存在する材料の屈折率であり、dは前記第二伝搬路の膜厚の最小値であり、L
Grは前記第一回折格子部の回折格子長の総和である。
【請求項4】
前記第一回折格子部と、前記第二伝搬路とは、前記光導波路の厚さ方向に沿って測った離隔距離CLが0.7μm以上である、請求項1から3のいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【請求項5】
前記第二伝搬路は、前記第一回折格子部と当該厚さ方向に離隔する位置で、厚さが0.3μm以上である、請求項1から4のいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【請求項6】
前記第一回折格子部と、前記第二伝搬路とは、それぞれ形成する材料が異なる、請求項1から5のいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【請求項7】
前記第一回折格子部は、前記光源の発光面と対向して近接配置され、
前記第一回折格子部は、複数の第1回折格子を有し、複数の当該第1回折格子のうち少なくとも2つの第1回折格子が前記光源の同一発光面から発せられた光を受ける、請求項1から6に記載の光学式濃度測定装置。
【請求項8】
前記第一回折格子部中の前記第1回折格子は、平面視で、配置方向に周期性がある、請求項7に記載の光学式濃度測定装置。
【請求項9】
複数の前記第1回折格子のうち少なくとも1つの第1回折格子の、回折格子長の最大値は、光の真空中における波長の平均値をλとするとき、20λ以下である、請求項7または8に記載の光学式濃度測定装置。
【請求項10】
前記第一回折格子部中の複数の前記第1回折格子のうち少なくとも2つの第1回折格子は、平面視で、前記第1回折格子から前記第二伝搬路への接続方向が相互に反対である、請求項7から9のいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【請求項11】
前記第一回折格子部中の前記第1回折格子は、前記光導波路の平面視で、配置が空間群p2、p2mm、p2mg、p2gg、c2mmのいずれかで表現される、請求項7から10のいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【請求項12】
前記第一回折格子部中の前記第1回折格子は、前記光導波路の平面視で、配置が空間群p1、pm、pg、cmのいずれかで表現される、請求項7から11のいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【請求項13】
前記第一回折格子部は、前記光源の発光面の面積に対する、当該発光面が覆う前記第1回折格子の合計の面積の割合が60%以上である、請求項7から12のいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【請求項14】
前記光源の発光面の面積に対する、当該発光面が覆う前記第1回折格子の合計の面積の割合が80%以上である、請求項7から13のいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【請求項15】
前記光伝搬部である第1部分が、前記回折格子部と前記光導波路の厚さ方向に離隔して存在し、且つ、前記光伝搬部である第2部分が、当該第1部分と当該厚さ方向に離隔して存在している、請求項1から14のいずれかに記載の光学式濃度測定装置。
【請求項16】
被測定気体または被測定液体の濃度を測定する光学式濃度測定装置に用いられる光導波路であって、
基板と、
延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、回折格子部と、を有するコア層と、
を備え、
前記光伝搬部は少なくとも第一伝搬路と第二伝搬路を有し、
前記回折格子部は少なくとも第一回折格子部を有し、
前記第一伝搬路と前記第一回折格子部とは、前記第一回折格子部
が光源より光を受けて前記第一伝搬路へ光を導出することで光学的に接続されており、
前記第二伝搬路は前記第一回折格子部および前記第一伝搬路とは光学的に非接続であり、
前記第二伝搬路と前記第一回折格子部が平面視で重なっていて、
かつ前記第二伝搬路と前記第一回折格子部が、前記光導波路の厚さ方向に離隔して存在し、
かつ前記第二伝搬路と前記第一回折格子部の間には、前記第二伝搬路の屈折率及び前記第一回折格子部の屈折率よりも低い屈折率を持つ材料を含む
光導波路。
【請求項17】
前記第一回折格子部と、前記第二伝搬路とは、前記光導波路の厚さ方向に沿って測った離隔距離CLが、下記(3)式を満たす、請求項16に記載の光導波路。
【数3】
(3)式において、λは光の真空中における波長の平均値であり、n
coreは前記第二伝搬路を形成する材料の屈折率であり、n
cladは、前記第一回折格子部と、前記第二伝搬路との離隔部分に存在する材料の屈折率である。
【請求項18】
前記第一回折格子部と、前記第二伝搬路とは、前記光導波路の厚さ方向に沿って測った離隔距離CLが、(4)式を満たす、請求項16に記載の光導波路。
【数4】
(4)式において、λは光の真空中における波長の平均値であり、n
coreは前記第二伝搬路を形成する材料の屈折率であり、n
cladは、前記第一回折格子部と、前記第二伝搬路との離隔部分に存在する材料の屈折率であり、dは前記第二伝搬路の膜厚の最小値であり、L
Grは前記第一回折格子部の回折格子長の総和である。
【請求項19】
前記第一回折格子部と、前記第二伝搬路とは、前記光導波路の厚さ方向に沿って測った離隔距離CLが0.7μm以上である、請求項16から18のいずれかに記載の光導波路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式濃度測定装置および光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶などで形成された薄膜などの構造体の中を伝搬する光は、構造体を形成する材料の屈折率が、構造体の外部の材料の屈折率よりも大きい場合、構造体の外部との界面で全反射を繰り返しながら進行していく。構造体を伝搬する光は、この界面で全反射するとき、屈折率の小さい外部側に染み出している。この染み出しは、エバネッセント波(
図16参照)と呼ばれている。エバネッセント波EWは、光Lが伝搬していく過程で構造体51に隣接している物質52により吸収されうる。このため、構造体51を伝搬している光Lの強度変化から、構造体51に接している物質52の検出や同定などが可能になる。上述したエバネッセント波EWの原理を利用した分析法は、全反射吸収分光法(ATR:Attenuated Total Reflection法)と呼ばれ、物質52の化学組成分析などに利用されている。伝搬させる光としては赤外線を用いることが一般的である。物質には特定の波長の赤外線を選択的に吸収する特性があるため、被測定物質の吸収スペクトルに合わせた赤外線を伝搬させることで、物質の分析やセンシングを行うことができる。
【0003】
特許文献1には、ATR法をセンサに応用した光導波路型センサが提案されている。この光導波路型センサは、基板の上にコア層を形成して光を通し、エバネッセント波を利用してコア層に接する物質を検出するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ATR法を利用したセンサでは、光源からの光を光導波路のコア層に導入する箇所と、光導波路のコア層から光検出器に向けて取り出す箇所が必要になる。そのため、光源と光導波路の間、光検出器と光導波路との間のそれぞれには、光の光軸を曲げるために回折格子(グレーティング)が設けられることが多い。
また、ATR法を利用したセンサでは、上述のように、コア層に導入した光を、エバネッセント波として、回折格子の間の光伝搬部から染み出させて外部の被測定物質に吸収させる必要があるため、光伝搬部(伝搬路)における光の伝搬距離を長くすることが求められる。また、光の入出力を行う回折格子についても、光源や光検出器の大きさに合わせた大きめのサイズが必要となるため、光学的濃度測定装置に用いられる光導波路全体のサイズは、比較的大きめの面積を有している。
したがって、このようなセンサにおいては、光導波路を形成する基板上において、回折格子および光伝搬部などのコア層の設計の自由度を上げ、各要素を効率良く配置することが求められている。
【0006】
そこで、本発明は、設計の自由度を向上させることが可能な光学式濃度測定装置および光導波路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、回折格子部と、当該回折格子部とは別の部分のコア層の一部とを、光導波路の厚さ方向で離隔させることで、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による光学式濃度測定装置は、
コア層に光を入射可能な光源と、
前記コア層を伝搬した光を受光可能な検出部と、
光導波路と、
を備える、被測定気体または被測定液体の濃度を測定する光学式濃度測定装置であって、
前記光導波路は、
基板と、
延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、回折格子部と、を有する前記コア層と、
を備え、
前記コア層の一部と前記回折格子部が、前記光導波路の厚さ方向に離隔して存在していることを特徴とする。
【0009】
また、上記目的を達成するために、本発明の他の一態様による光導波路は、被測定気体または被測定液体の濃度を測定する光学式濃度測定装置に用いられる光導波路であって、
基板と、
延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、回折格子部と、を有するコア層と、
を備え、
前記コア層の一部と前記回折格子部が、前記光導波路の厚さ方向に離隔して存在していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、設計の自由度を向上させることが可能な光学式濃度測定装置および光導波路を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態による光学式濃度測定装置および光導波路の概略構成を示す図である。
【
図2】
図1の光導波路を光源または光検出器側から見た平面図である。
【
図3】
図1の光導波路の第1回折格子部および伝搬路の一部を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)はA-A線で切断した断面を示す断面図である。
【
図4】
図1の光導波路の回折格子近傍の例示的な形状を示す平面図である。
【
図5】
図1の光導波路の回折格子近傍について、回折格子長の測定方法を説明するための図であって、(a)は平面図であり、(b)は、(a)の回折格子近傍をB-B線で切断した断面を示す断面図である。
【
図6】本発明の第1実施形態による光学式濃度測定装置に用いられる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
【
図7】本発明の第1実施形態による光学式濃度測定装置に用いられる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
【
図8】本発明の第1実施形態による光学式濃度測定装置に用いられる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
【
図9】本発明の第1実施形態による光学式濃度測定装置に用いられる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
【
図10】本発明の第1実施形態による光学式濃度測定装置に用いられる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
【
図11】本発明の第1実施形態による光学式濃度測定装置に用いられる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
【
図12】本発明の第1実施形態による光学式濃度測定装置に用いられる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
【
図13】本発明の第1実施形態による光学式濃度測定装置に用いられる光導波路の製造方法を説明するための、光導波路主要部の一部を示す断面図である。
【
図14】本発明の第2実施形態による光学式濃度測定装置に用いられる光導波路を光源または光検出器側から見た平面図である。
【
図15】本発明の光学式濃度測定装置における、近接配置を説明するための図である。
【
図16】光導波路を伝搬する光のエバネッセント波を説明するための図である。
【
図17】(a)は、発光素子の発光面よりも回折格子を大きくした例示的な回折格子を示す平面図であり、(b)は、(a)中のC-C線で切断した断面を、当該回折格子が受けた光の一部が再放射している様子を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0013】
<光学式濃度測定装置>
本発明の一実施形態に係る光学式濃度測定装置は、後述の本発明の実施形態に係る光導波路と、コア層に光を入射可能な光源と、コア層を伝搬した光を受光可能な検出部と、を備える。
【0014】
以下、光学式濃度測定装置を構成する各構成要件について、具体例を挙げて説明する。
【0015】
<光導波路>
本発明の実施形態に係る光導波路は、被測定気体または被測定液体の濃度を測定する光学式濃度測定装置に用いられる光導波路である。また、光導波路は、基板と、延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、回折格子部と、を有するコア層と、を備え、コア層の一部と回折格子部が、光導波路の厚さ方向に離隔して存在している。さらに、光導波路の回折格子部は、光源より光を受けて、光伝搬部へ光を導出する第1回折格子部と、光伝搬部から光を導入して検出部に光を出力する第2回折格子部を備えることができる。
【0016】
本実施形態に係る光導波路によれば、コア層の一部と回折格子部が、光導波路の厚さ方向に離隔して存在していることにより、回折格子部をコア層の一部に対して任意に配置できるので、光導波路、ひいては光導波路を用いた光学式濃度測定装置の設計の自由度を向上させることが可能となる。離隔させる光導波路の厚さ方向とは、例えば、回折格子部よりも光導波路の厚さ方向基板側である。
なお、本明細書において、光導波路の厚さ方向を単に厚さ方向とも称す。
【0017】
ここで、本実施形態において、延在方向とは、少なくとも1方向に沿って延びるように存在している方向である。例えば、三次元構造物において、一つの端部から他の端部(あるいは一つの任意の点から他の任意の点)に向けて当該三次元構造物に触れながら最短距離で進む経路は延在方向となる。あるいは、一つの端部から他の端部(あるいは一つの任意の点から他の任意の点)に向けて断面積の変化量が最も小さくなるように進行する方向も延在方向となる。延在方向は、直線状の方向だけでなく、曲線状の方向を含む。
また、コア層の一部と回折格子部が、光導波路の厚さ方向に離隔して存在しているとは、換言すれば、光導波路の平面視において、回折格子部の一部とコア層の一部とが重複していることを指し、厚さ方向に直交する方向から見て、回折格子部とコア層の一部が2階建て構造になっている。回折格子部と、当該回折格子部と離隔するコア層の一部とは、それぞれ光導波路のコア層に含まれるものであるので、光導波路内で同一コア層として接続することもできる。
また、回折格子部と、当該回折格子部と離隔したコア層の一部との間は、回折格子部およびコア層よりも相対的に屈折率の低い物質(空気も含む)が存在していれば、特に限定されず、任意の物質を存在させることができる。また、回折格子部と、コア層の一部との距離も任意にすることができる。
また、コア層の一部とは、例えばコア層の光伝搬部の一部や回折格子部の一部とすることができる。
【0018】
ところで、本実施形態において、回折格子部と、当該回折格子部と離隔するコア層の一部とは、厚さ方向に沿って測った離隔距離CLが、下記(1)式を満たすことができる。
【数1】
(1)式において、λは光の真空中における波長の平均値であり、n
coreは当該コア層の一部を形成する材料の屈折率であり、n
cladは、当該回折格子部と、当該回折格子部と離隔する当該コア層の一部との離隔部分に存在する材料の屈折率である。(1)式の右辺は、一般的に定義されるエバネッセント光の染み出し距離の3倍の値を規定している。エバネッセント光の染み出し距離とは、光のエネルギーが、当該コア層の一部の表面におけるエネルギー値から1/eに減衰する位置を示した、当該コア層の一部の表面からの厚さ方向の距離である。すなわち、(1)式の示すCLは、光のエネルギーが、当該コア層の一部の表面におけるエネルギー値から(1/e)
3以下に減衰する位置を、当該コア層の一部の表面からの距離として示している。
【0019】
また、本実施形態において、回折格子部と、当該回折格子部と離隔するコア層の一部とは、厚さ方向に沿って測った離隔距離CLが、(2)式を満たすことができる。
【数2】
(2)式において、λは光の真空中における波長の平均値であり、n
coreは当該コア層の一部を形成する材料の屈折率であり、n
cladは、当該回折格子部と、当該回折格子部と離隔する当該コア層の一部との離隔部分に存在する材料の屈折率であり、dは当該コア層の一部の膜厚の最小値であり、L
Grは当該コア層の一部と厚さ方向に離隔する当該回折格子部の回折格子長の総和である。なお、ここでの「コア層の一部と厚さ方向に離隔する当該回折格子部の回折格子長の総和」とは、平面視で、回折格子部の回折格子の取込部(取込部については後述する)のうち、コア層の一部と重複する部分について長さであり、複数の回折格子の取込部が重複する場合には当該重複する部分の長さの総和である。また、当該長さは、コア層の一部の延在方向に沿って測った長さである。
(1)式の右辺は、一般的に定義されるエバネッセント光の染み出し距離の3倍の値を規定したが、(2)式では、それを当該コア層の一部の膜厚の最小値(d)と、当該コア層の一部と厚さ方向に離隔している当該回折格子部の回折格子長の総和の関数として規定している。
(2)式は下記のように与えられる。例えば文献(2004年 共立出版 左貝潤一 「波動光学」p170)より、光導波路の厚さがdであり、距離がCL離れている2つの平行光導波路の結合長L
c(光がエバネッセント波による結合により、一方の光導波路から他方の光導波路に遷移する距離)は下記(3)式で与えられるが、結合長L
cよりも当該回折格子長L
Grが十分短ければ当該コア層の一部から回折格子部に光は遷移せず、さらに再放射も起こることはない。ここでuはコアの横方向規格化伝搬定数、wはクラッドの横方向規格化伝搬定数、γはクラッドの横方向伝搬定数である。なお、以降の説明では、エバネッセント波による結合のことを、単にエバネッセント結合とも称す。
【数3】
ここで、L
Gr<L
cであり、また十分に光が当該コア層の一部内に閉じ込められてエバネッセント結合が弱い極限状態としてd>>λを想定場合、下記(4)式、(5)式、(6)式が与えられる。
【数4】
【数5】
【数6】
この(4)式、(5)式、(6)式を用い、(3)式を変形・整理することで(2)式が得られる。
このように規定することで、当該コア層の一部の膜厚や当該コア層の一部と厚さ方向に離隔している当該回折格子部の回折格子長の総和がいかなる条件となった場合においても、光が当該回折格子部と当該コア層の一部との間でエバネッセント結合しないための離隔距離CLの下限値を規定することができる。なお、(1)式、(2)式において、当該コア層の一部をSiで構成した場合、n
coreは約3.4であり、離隔部分に存在する材料をSiO
2で構成した場合、n
cladは約1.4である。なお、離隔部分に存在する材料が複数である場合は、離隔部分を構成する材料の中で、屈折率が最も小さい材料の屈折率をn
cladとして扱ってよい。
【0020】
また、本実施形態において、離隔距離CLを0.7μm以上とすることもできる。例えば環境中に浮遊する代表的なガスであるCO2を検出するための光学的濃度測定装置では、光として、真空中における波長約4.3μmの赤外線を用いることが一般的であるが、上述の様に、ncoreを3.4、ncladを1.4で構成した場合、(1)式の右辺は約0.66μmとなり、CLを0.7μm以上とすることで、当該コア層の一部と当該回折格子部のエバネッセント結合を回避することができる。
【0021】
本実施形態において、当該離隔距離CLを上記の所定の長さにすることにより、光導波路を用いたセンサにおいて、当該コア層の一部を伝搬する光が、当該コア層の一部から厚さ方向に離隔した位置に存在する回折格子部を形成するコア層と、エバネッセント結合することなく、当該コア層の一部を伝搬させることができる。具体的には、当該離隔距離CLが短い場合には、当該回折格子部と離隔する当該コア層の一部を伝搬する光が、当該コア層の一部からエバネッセント波として染み出て、コア層の一部と離隔する回折格子部に伝搬し、そして、回折格子部から再放射されることがあり、この場合、コア層を伝搬する光の損失となる。しかし、当該離隔距離CLを上記の所定の長さにすることにより、コア層の一部を伝搬する光がエバネッセント波として染み出ても、回折格子部に伝搬することを抑制することができ、それゆえに、光の損失を防いでセンサの感度を向上させることができる。
また、本実施形態において、回折格子部と離隔するコア層の一部は、当該回折格子部と当該厚さ方向に離隔する位置での厚さを0.3μm以上とすることもできる。このような厚さにすることにより、コア層の一部を伝搬する光がエバネッセント波として染み出す量が低減し、光が回折格子部に伝搬することを抑制することができ、それゆえに、光の損失を防いでセンサの感度を向上させることができる。
【0022】
なお、本実施形態の光導波路において、離隔距離CLは、回折格子部と、当該回折格子部と離隔するコア層の一部とが、コア層の一部側の回折格子部の表面から、回折格子部側のコア層の一部の表面までを厚さ方向に沿って測った長さである。また、回折格子部と離隔するコア層の一部の厚さは、回折格子部と当該厚さ方向に離隔する位置において、コア層を厚さ方向に沿って測った長さである。
【0023】
また、本実施形態において、コア層の一部の材料と、回折格子部とは任意の材料により形成することができるが、回折格子部とコア層の一部とは、それぞれ形成する材料が異なることが好ましい。なぜなら、回折格子部と離隔するコア層の一部が光伝搬部として形成された場合などでは、回折格子部と光伝搬部では求められる機能が異なるため、両者を異なる材料で形成することにより、各要素に求められる機能にあった材料を選ぶことができる上に、本実施形態の光導波路をより好適に製造しやすくすることができる。なお、本発明において、材料が異なるとは、元素が異なる場合だけでなく、元素が同一元素であってもその結晶状態が異なる場合も、材料が異なるものとする。光学的には、材料の構成元素が同じであっても、結晶状態が異なれば、光の伝搬現象は異なるからである。
【0024】
ところで、本実施形態においては、コア層の一部である第1部分が、回折格子部と厚さ方向に離隔して存在し、且つ、コア層の一部である第2部分が、当該第1部分と厚さ方向に離隔して、存在する(換言すれば、厚さ方向に直交する方向から見て、回折格子部と第1部分と第2部分とが3階建て構造になる)ように光導波路を形成することもできる。
本実施形態において、このような構成にすることにより、さらに設計の自由度を向上させることができる。第1部分の回折格子部に対する厚さ方向は、例えば、厚さ方向基板側であり、また、第2部分の第1部分に対する厚さ方向は、例えば、厚さ方向基板側である。
【0025】
また、上述のように、光導波路の回折格子部は、光源より光を受けて、光伝搬部へ光を導出する第1回折格子部と、光伝搬部から光を導入して検出部に光を出力する第2回折格子部を備えることができる。本実施形態において、第1回折格子部が光伝搬部へ光を導出する(換言すれば、光伝搬部が第1回折格子部から光を導入する)、また、光伝搬部が第2回折格子部へ光を導出する(換言すれば、第2回折格子部が光伝搬部から光を導入する)とは、第1、第2回折格子部と光伝搬部との間で光が伝搬可能であれば、それぞれの接続形態は限定されず、例えば、それぞれが同一材料(結晶状態も同一)で途切れることなく連続して接続する場合の他、それぞれが光学的に連続する場合も含む。それぞれが光学的に連続する場合とは、それぞれが、材料が異なる(同一元素でも結晶状態が異なる場合も材料が異なる)ことで不連続になっていても、相互に同一軸線上に位置することで、それぞれが光学的に連続する場合や、それぞれが相互に同一軸線上に位置せず不連続になっていても(それぞれが途切れている)、例えば方向性結合器の様にエバネッセント波によって結合している場合が挙げられる。なお、方向性結合器とは、エバネッセント波を利用して、光が一方から他方に遷移する際に、その遷移の前後で、光の進行方向が変わらないような光学的な結合状態を指す。また、本明細書においては、回折格子部と光伝搬部との間で光が導出、導入可能である状態を、単に、回折格子部と光伝搬部とが接続しているとも称す。
【0026】
以下、光導波路を構成する各構成要件について、具体例を挙げて説明する。
<<コア層>>
本実施形態において、コア層は、延在方向に光が伝搬可能である光伝搬部と、回折格子部と、を有する。
【0027】
コア層の材料は、特に限定されない。例えば、単結晶シリコンや多結晶シリコン、アモルファスシリコン、窒化シリコン、シリコンゲルマニウム、ゲルマニウム、ガリウムひ素、インジウムリン、インジウムアンチモン、インジウムガリウムひ素、インジウムガリウムリン、フッ化インジウム、ダイヤモンド、サファイア、ニオブ酸リチウム、カルコゲナイドガラス等を含んだコア層が挙げられる。また、コア層は単層の膜でなく、多層膜で構成されていても良い。
また、回折格子部および光伝搬部と異なる材料で形成されていてもよい。その場合、光伝搬部を形成する材料が単結晶シリコンであり、回折格子部を形成する材料が多結晶シリコンまたはアモルファスシリコンを含んでいることが好ましい。シリコンは最も一般的な材料であり、このような構成にすることにより、光伝搬部での伝搬ロスを小さくし、且つ容易に回折格子部の加工自由度を向上することができる。
さらに、コア層の延在方向に沿った任意の位置における延在方向に垂直な断面は、例えば、当該断面のコア層の中心から外表面までの距離が変動する形状、例えば矩形であってよく、また、当該断面のコア層の中心から該表面までの距離が変動しない形状、すなわち円形であってもよい。
【0028】
また、本実施形態において、コア層の少なくとも一部は、露出し、または、薄膜により被覆されていてもよい。これにより、露出しまたは被覆されたコア層の一部は、被測定気体または被測定液体と直接接触可能、または、当該薄膜を介して被測定気体または被測定液体と接触可能となり、エバネッセント波と被測定気体または被測定液体を相互作用させ、被測定気体または被測定液体の濃度を測定することが可能となる。本実施形態においては、当該被膜は、コア層を伝搬する光の真空中における波長の1/4よりも薄いことが好ましい。
【0029】
また、本実形態において、コア層を伝搬する光はアナログ信号としての赤外線であってもよい。ここでアナログ信号としての赤外線とは、光のエネルギーの変化を0(低レベル)および1(高レベル)の2値で判定するのではなく、光のエネルギーの変化量を扱う信号であることを意味する。これにより、本実施形態に係る光導波路をセンサや分析装置に適用することができる。またこの場合、赤外線の真空中における波長は2μm以上12μm未満であってもよい。この波長帯は環境に代表的に浮遊するガス(CO2、CO、NO、N2O、SO2、CH4、H2O、C2H6O等)が吸収する波長帯である。これにより各実施形態に係る光導波路をガスセンサとして利用することができる。
【0030】
また、コア層は曲線状に延びる部分を含んでよい。これにより、コア層全体を平面視した際の、コア層の輪郭のアスペクト比を1に近づけ得るので、光導波路および光学式濃度測定装置が小型化され得る。
【0031】
<<<光伝搬部>>>
本実施形態において、光伝搬部は、延在方向に光が伝搬可能である伝搬路を有する。伝搬路は、伝搬路の延在方向に沿った任意の位置における延在方向に垂直な断面が、例えば、当該断面のコア層の中心から外表面までの距離が変動する形状、例えば矩形であってよく、また、当該断面のコア層の中心から該表面までの距離が変動しない形状、すなわち円形であってもよい。
【0032】
本実施形態において、伝搬路は、延在方向に膜厚を略均一とすることができ、略均一な膜厚とは、例えば膜厚の高低差が200nm以下である。また、伝搬路は、延在方向に幅が異なる部分が存在していてもよい。なお、光伝搬部が複数の伝搬路を有する場合には、複数の伝搬路は相互に膜厚や幅が異なっていてもよい。また、光伝搬部の全領域において、コア層の膜厚は均一であってもよく、均一でなくてもよい。
【0033】
<<<回折格子部>>>
本実施形態において、回折格子部は、光源より光を受けて、光伝搬部へ光を導出する第1回折格子部と、光伝搬部から光を導入して検出部に光を出力する第2回折格子部とを有することができる。また、第1回折格子部は、複数の第1回折格子を有し、複数の当該第1回折格子のうち少なくとも2つの第1回折格子が光源の同一発光面から発せられた光を受けるように位置することができる。また、第2回折格子部は、光伝搬部から光を導入して検出部に光を出力する、少なくとも1つの第2回折格子を有することができる。
【0034】
本実施形態において、第1回折格子部が、複数の第1回折格子を有し、複数の当該第1回折格子のうち少なくとも2つの第1回折格子が光源の同一発光面から発せられた光を受けるように位置することにより、本実施形態に係る光導波路は、発光素子と光導波路を高効率で結合させることができる。
具体的には、ATR法を利用したセンサにおいては、使用し得る赤外線LEDなどの光源(発光素子)は、100μm×100μm以上の比較的大きい面積の発光面を持つことが多く、数mm×数mmと巨大になることもある。また、回折格子についても、光導入効率および光取出効率を上げるため、使用する光源、光検出器の受発光面と同程度の大きさで機能することが求められる。そして、このような観点に基づき、光源の発光素子の大きさと回折格子の大きさとを同程度にするためには、回折格子部のサイズを発光面に合わせた巨大なサイズにする必要がある。
そこで、本発明者らは、
図17(a)に示すような、発光素子の発光面EFよりも大きい回折格子53を1つ形成したところ、それでは高効率で発光素子と結合できないことを見出した。また、本発明者らは、
図17(b)に示すように、回折格子53の光伝搬部への接続側と逆側の末端側の部分で受けた光は、全てが回折格子53の接続側へ伝搬せず、回折格子53の中間で一部が回折格子内からコア層の外側へ再放射されることを見出した。さらに、このような再放射が起こるため、発光素子の発光面と同等のサイズの1つの回折格子を形成するようにはせず、発光素子の発光面よりも小さいサイズの回折格子を複数形成することにより、高効率で発光素子と回折格子を結合できることを見出した。
したがって、本実施形態において、第1回折格子部は、複数の第1回折格子を有し、複数の当該第1回折格子のうち少なくとも2つの第1回折格子が光源の同一発光面から発せられた光を受けることにより、発光素子の発光面よりも大きい回折格子を1つ形成した場合に生じる上記弊害を抑えるとともに、2つ以上の第1回折格子により発光素子と光導波路とを結合できるので、当該結合を高効率にすることができる。
【0035】
また、本実施形態において、回折格子部と厚さ方向に離隔して存在するコア層の一部が光伝搬部である場合には、回折格子部中の各回折格子をより密に形成することができ、発光素子と光導波路との結合をより高効率にすることができる。なぜなら、回折格子は光伝搬部の伝搬路に接続するので、回折格子部が複数の回折格子を有し、回折格子部と厚さ方向に離隔して光伝搬部が存在しない場合には、伝搬路を避けながら回折格子を形成する必要があるからである。これに対して、本実施形態のように、回折格子部と厚さ方向に離隔して光伝搬部が存在すれば、回折格子と、当該回折格子と厚さ方向に離隔して位置する伝搬路に接続する他の回折格子とを接近させて配置することができ、回折格子に接続される伝搬路の形成位置に関わらずそれぞれの回折格子の配置を密にすることができる。
なお、本実施形態において、コア層の一部と厚さ方向に離隔して存在する回折格子部は、第1回折格子部および第2回折格子部のいずれでもよく、どちらか一方の回折格子部でも、両方の回折格子部でもよい。
【0036】
また、本実施形態において、回折格子部と厚さ方向に離隔して存在するコア層の一部が、光伝搬部である場合には、当該光伝搬部の複数の伝搬路が回折格子部中の回折格子と厚さ方向に離隔して存在するようにすることができる。これにより、回折格子部が複数の回折格子を有する場合において、各回折格子を密に配置することができる。
【0037】
なお、上述したように、本実施形態において、第1回折格子部が、複数の第1回折格子を有し、複数の当該第1回折格子のうち少なくとも2つの第1回折格子が光源の同一発光面から発せられた光を受けるように位置することができるが、複数の第1回折格子のうちの全ての第1回折格子が、光源の同一発光面から発せられた光を受ける構成でもよい。また、少なくとも2つの第1回折格子が光源の同一発光面から発せられた光を受けるとは、平面視(光導波路の厚さ方向表層側から視た場合)で、配置される光源の発光面のうち、同一発光面とみなせる範囲を、当該発光面に直交する方向に沿って第1回折格子部に対して投影した範囲内に、複数の第1回折格子のうち少なくとも2つの第1回折格子が存在することを指し、少なくとも2つの第1回折格子の全てが当該範囲内に存在しなくても、第1回折格子の、後述する取込部(凹凸部)が少なくとも存在していればよい。また、同一発光面とみなせる範囲とは、必ずしも1つの発光面であるとは限らず、発光面が複数あった場合においても、複数の発光面から出力されるそれぞれの光が、共通の駆動系で同期して制御される場合においては、複数の発光面を合計した範囲を同一発光面とみなす。さらに、同一発光面内の各点から出射される光の波長分散性は、全て等しくてもよい。すなわち、同一発光面内の各点からは、同じ波長帯の光が出射されていてもよい。なお、光源の発光面とは、光が出射される面のうち、被測定気体または被測定液体に接することが可能な面である。
【0038】
ここで、本実施形態において、第1回折格子は外部からの光をコア層に取り込ませる光取込部を、また、第2回折格子はコア層の外部へ光を取り出させる光取出部を、有することができる。本実施形態では、当該光取込部や光取出部は、表面に特定の周期(周期は複数であっても可)で凹凸が形成されている部分であってもよく、または、凹部と凸部を含む平面で光導波路を断面視した場合に、凹凸の凹部の溝が深くなり、コア層を切り離す構成であってもよい。そのような構成において、凸部は不連続で島状に形成されていることになる。
光取込部や光取出部は、平面視において、それぞれ平行に凹凸を形成するパターンが直線状や円弧状に延びるように設けることができるが、凹凸の延在の形状は任意にすることができる。
【0039】
また、本実施形態において、回折格子の平面視での形状は任意にすることができるが、例えば、第1回折格子および第2回折格子の光伝搬部への接続側の頂部を頂点とする、接続側から末端側に向かって幅が広がる部分を有する形状とすることができる。具体的には、第1回折格子および第2回折格子の光取込部や光取出部の形状にもよるが、第1回折格子および第2回折格子の頂部を中心とする扇形の他、第1回折格子および第2回折格子の頂部を中心とする三角形(例えば二等辺三角形)や、頂部を頂点し、頂部から取込部や取出部に向かって幅が広がる部分と、当該部分に続く任意の形状、例えば矩形状の部分とを有する形状、とすることができる。回折格子の形状としては、接続側から末端側に向かう方向に沿う任意の仮想線に対して線対称の形状が好ましく、また、頂部から取込部や取出部に向かう方向に幅が減少しない形状であることが好ましい。
なお、以下、第1回折格子および第2回折格子の光伝搬部への接続側を、回折格子の接続側、第1回折格子および第2回折格子の光伝搬部への接続側と逆側の末端側を、回折格子の末端側とも称す。
【0040】
本実施形態において、複数の第1回折格子のうち少なくとも1つの第1回折格子は、回折格子長の最大値を20λ以下とすることができ、好ましくは10λ以下、より好ましくは5λ以下である。少なくとも1つの第1回折格子の回折格子長の最大値を20λ以下とすることにより、発光素子と光導波路をより高効率で結合させることができる。なお、上記の「λ」はコア層を伝搬する光の真空中における波長の平均値である。
具体的には、例えば発光素子の発光面よりも大きい回折格子では、回折格子の光伝搬部への接続側とは逆側の末端側の部分で受けた光の一部が回折格子内からコア層の外側へ再放射していた。そして、本発明者らが、上記現象について鋭意研究を重ねた結果、当該再放射は、回折格子長を長くするほど、回折格子における波長の選択性が向上するという原理に基づいている、という知見を得た。つまり、回折格子長が長すぎると、より単一な波長が選択され、選択波長から僅かにずれている光でさえも、コア層の外部に再放射されてしまう。すなわち、回折格子長を長くするほど選択波長帯は狭くなり、線スペクトルに近づいていく。そして、発明者らは、当該知見に基づき、第1回折格子について、回折格子長の最大値を20λ以下とすることで、光学式濃度測定装置として有効な波長帯を選択できることを見出した。本実施形態の光導波路を用いることができる光学式濃度測定装置では、被測定物による光の吸収を利用して濃度を測定しているが、物質の有する光の吸収波長範囲は、ある程度の幅を持っており、厳密な単一波長であることはない。例えば、環境に浮遊するガスであるCO2の代表的な吸収波長は約4.20~4.35μmと比較的広範囲に分布している。つまり、厳密な単一波長にまで光を過剰選択してしまうと、濃度測定に有効な波長領域を捨てることになるので、光学式濃度測定装置としては好ましくない。すなわち、本実施形態において、複数の第1回折格子のうち少なくとも1つの第1回折格子は、回折格子長の最大値を20λ以下とすることで、回折格子に導入した光の不要な再放射(過剰な波長選択)を抑制することができ、光導波路として発光素子と光導波路の結合をより高効率化することができる。
また、少なくとも1つの第1回折格子の、回折格子長の最大値は、好ましくは10λ以下、より好ましくは5λ以下であり、当該範囲にすることにより、例えば環境に浮遊するCO2の濃度を測定する場合などにおいて、光学式濃度測定装置として有効な波長帯を選択しつつ不要な再放射(過剰な波長選択)を抑制することができ、それゆえに、光学式濃度測定装置に用いられる光導波路として、発光素子と光導波路の結合をさらに高効率化することができる。
【0041】
ここで、第1回折格子の回折格子長は、上述の第1回折格子の取込部の凹部または凸部を区画する壁面のうち、最も、光伝搬部への接続側に位置する壁面について、当該壁面の延在方向の特定の位置を起点に測定する。そして、回折格子長は、当該起点から末端側へ、当該特定の位置における壁面の延在方向に直交する方向に延びる仮想線上に沿って、当該仮想線上の最も末端側に位置する壁面(取込部の凹部または凸部を区画する壁面のうち最も末端側に位置する壁面)までを測った長さを指す。第1回折格子の回折格子長は、当該第1回折格子の取込部の形状によって変化し得、すなわち、取込部の形状によっては、上記起点からの長さが変化し得る。また、第1回折格子の回折格子長の最大値とは、上記の回折格子長のうち最も大きい長さを指す。
【0042】
なお、本実施形態においては、第1回折格子の回折格子長の最小値は、1λ以上であることが好ましい。1λの回折格子長は、光源から発せられる光に対して、特定の波長帯を選択するために最低限必要な距離である。
また、複数の第1回折格子のうち、回折格子長の最大値が20λ以下となる少なくとも1つの第1回折格子は、光源の発光面の範囲を投影した範囲内に位置するものであることが好ましい。また、回折格子長の最小値が1λ以上である第1回折格子も、光源の発光面の範囲を投影した範囲内に位置するものであることが好ましい。
【0043】
ところで、本実施形態においては、第1回折格子部中の第1回折格子は4個以上とすることができ、好ましくは8個以上、より好ましくは16個以上である。これにより、発光素子と光導波路をより高効率で結合させることができる。
【0044】
また、本実施形態において、第1回折格子部中の第1回折格子は、平面視で、配置方向に周期性をもたせるようには配置することができる。周期性のある配置方向とは、例えば、複数存在する第1回折格子の向きが交互になるように配置することである。また、第1回折格子部中の第1回折格子は、平面視で、配置が空間群p2、p2mm、p2mg、p2gg、c2mmのいずれかで表現されてもよい。このように配置することで、面積を効率良く使うことが可能になる。
【0045】
さらに、本実施形態において、第1回折格子部中の複数の第1回折格子のうち少なくとも2つの第1回折格子は、光導波路の平面視で、第1回折格子から光伝搬部への接続方向が相互に反対になるように配置することができる。具体的には、複数の第1回折格子を平面視した際に、少なくとも2つの第1回折格子が左右方向、または上下方向から光伝搬部へ接続されている。すなわち、少なくとも2つの第1回折格子の光伝搬部との接続方向が180度ずれている。また、第1回折格子部中の第1回折格子は、光導波路の平面視で、配置が、空間群p2、p2mm、p2mg、p2gg、c2mmに加え、空間群p1、pm、pg、cmのいずれかで表現されてもよい。このように配置することで、面積を効率良く使うことが可能になる。
【0046】
また、本実施形態において、第2回折格子部の構造は第1回折格子部の構造と同じ、または第2回折格子部の構造は第1回折格子部の構造から変換したものとすることができる。第1回折格子部の構造から変換したものとは、第2回折格子部が有する第2回折格子の形状および構成、第2回折格子の配置等が、第1回折格子部が有する第1回折格子の形状および構成、第1回折格子の配置等に対して、回転した形態、拡大した形態、縮小した形態、平行移動した形態、線対称である形態、点対称である形態になっていることを意味する。なお、それぞれの構造が1λ以内、好ましくは1μm以内で異なることは許容される。第2回折格子部の構造を第1回折格子部の構造と同じ、または第2回折格子部の構造を第1回折格子部の構造から変換したものとすることで、第1回折格子部における波長選択性と第2回折格子部における波長選択性を略等しくすることができるため、第1回折格子部と第2回折格子部で波長選択性が異なる場合に発生する光損失を避けることができる。
【0047】
<<基板>>
本実施形態において、基板は、基板上にコア層を形成可能であれば特に制限されず、基板上に後述の支持部を形成することもできる。具体的には、基板は、シリコン基板やGaAs基板等が挙げられる。
【0048】
<<支持部>>
本実施形態においては任意に支持部を設けることができる。支持部は、基板の少なくとも一部とコア層の少なくとも一部とを接続する。支持部は、基板およびコア層を接合可能であれば特に制限されないが、好ましくは任意の波長の光またはコア層を伝搬する光に対してコア層よりも屈折率が小さい材料である。一例として、支持部の形成材料として、SiO2などが挙げられる。本発明において、支持部は必須の構成ではない。コア層は支持部によって基板と接合されてもよく、基板上に直接コア層が形成されていてもよい。また、支持部が部分的に存在してもよく、コア層の少なくとも一部は、支持部に接合されておらず浮遊していてもよい。すなわち、このような構成の光導波路では、支持部が設けられた領域を除き、基板およびコア層の間には空間が形成されている。コア層の一部を浮遊させることで、エバネッセント波と被測定物質を相互作用させる量を多くさせることができ、センサ感度を向上させることができる。
【0049】
本実施形態において、支持部の形成方法の一例としては、SOI(Silicon On Insulator)基板の埋め込み酸化膜(BOX:Buried Oxide)層(SiO2層)をエッチングすることで、コア層(Si層)と基板(Si層)をBOX層で支持する構造を形成することができる。
【0050】
<光源>
光源は、コア層に光を入射可能であれば特に制限されない。ガスの測定に赤外線を用いる場合には光源として、白熱電球やセラミックヒータ、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ヒータや赤外線LED(Light Emitting Diode)などを用いることができる。すなわち、インコヒーレント光源であってよい。光源は光導波路と光接続可能な形態であればどのような配置でもよい。例えば、光源は、光導波路と同じ個体内に光導波路に隣接して配置してもよいし、別の個体として光導波路から一定の距離を置いて配置してもよい。また、ガスの測定に紫外線を用いる場合には光源として、水銀ランプや紫外線LEDなどを用いることができる。
【0051】
光学式濃度測定装置に備えられる光導波路のコア層を伝搬する光は、アナログ信号としての赤外線であってもよい。ここで、アナログ信号としての赤外線とは、光のエネルギーの変化を0(低レベル)および1(高レベル)の2値で判定するのではなく、光のエネルギーの変化量を扱う信号であることを意味する。これにより、光学式濃度測定装置をセンサや分析装置に適用することができる。またこの場合、赤外線の真空中における波長は2μm以上12μm未満であってもよい。この波長帯は環境に代表的に浮遊するガス(CO2、CO、NO、N2O、SO2、CH4、H2O、C2H6Oなど)が吸収する波長帯である。これにより本実施形態に係る光学式濃度測定装置をガスセンサとして利用することができる。
【0052】
本実施形態において、光源の発光面は第1回折格子部に対向して近接配置することができる(換言すれば、第1回折格子部は、光源の発光面と対向して近接配置することができる)。これにより、光源から第1回折格子部に向けて出力された光の、第1回折格子部に到達する割合が大きくなる(光源から第1回折格子部を見たときに、第1回折格子部が作る立体角が広くなる)ため、効率よく光導波路に光を導入することができる。
なお、近接とは、光源の同一発光面の面積をSsとしたときに、1mm以下または√Ss以下の長さを指し、好ましくは500μm以下または0.5×√Ss以下、より好ましくは200μm以下または0.2×√Ss以下の長さを指す。また、当該長さとは、光源の発光面の光導波路側の下端から、光導波路の厚さ方向で、最も光源の発光面側に位置する第1回折格子部までを、厚さ方向に沿って測った長さを指す。なお、光源の発光面と第1回折格子部までの間には、レンズや光ファイバー等の他の部材を存在させず、発光面から出力された光は、僅かな空間を経て直接第1回折格子部に到達することが好ましい。こうすることにより、安価に光学式濃度測定装置を実現することができる。
【0053】
本実施形態において、光源の発光面の面積に対する、当該発光面が覆う第1回折格子の合計の面積の割合は60%以上とすることができる。これにより、発光素子と光導波路を高効率で結合させることができる。
また、当該割合は80%以上とすることが好ましい。これにより、発光素子と光導波路をさらに高効率で結合させることができる。
なお、発光面が覆う第1回折格子の合計の面積とは、発光面に直交する方向に沿って第1回折格子部に対して投影した範囲に存在する第1回折格子の取込部の面積を指す。
【0054】
<検出部>
検出部は、光導波路のコア層を伝搬した光を受光可能であれば特に制限されない。ガスの測定に赤外線を用いる場合には検出部として、焦電センサ(Pyroelectric sensor)、サーモパイル(Thermopile)あるいはボロメータ(Bolometer)などの熱型赤外線センサや、ダイオードあるいはフォトトランジスタなどの量子型赤外線センサなどを用いることができる。また、ガスの測定に紫外線を用いる場合には検出部として、ダイオードやフォトトランジスタ等の量子型紫外線センサなどを用いることができる。
【0055】
本実施形態において、検出部は第2回折格子部に対向して近接配置することができる(換言すれば、第2回折格子部は、検出部と対向して近接配置することができる)。これにより、第2回折格子部から検出部に向けて出力された光の、検出部に到達する割合が大きくなる(第2回折格子部から検出部を見たときに、検出部が作る立体角が広くなる)ため、効率よく検出部に光を導入することができる。
なお、近接とは、検出部の受光面の面積をSdとしたときに、1mm以下または√Sd以下の長さを指し、好ましくは500μm以下または0.5×√Sd以下、より好ましくは200μm以下または0.2×√Sd以下の長さを指す。また、当該長さとは、検出部の光導波路側の下端から、光導波路の厚さ方向で、最も検出部側に位置する第2回折格子部までを、厚さ方向に沿って測った長さを指す。なお、第2回折格子部と検出部までの間には、レンズや光ファイバー等の他の部材を存在させず、第2回折格子部から出力された光は、僅かな空間を経て直接検出部に到達することが好ましい。こうすることにより、安価に光学式濃度測定装置を実現することができる。
【0056】
〔本発明の実施形態に係る光学式濃度測定装置〕
本発明の実施形態の光学式濃度測定装置について
図1を用いて説明する。
本実施形態の光学式濃度測定装置14は、後述の実施形態の光導波路15と、コア層12に光を入射可能な光源17と、コア層12を伝搬した光を受光可能な光検出器(検出部の一例)18と、を備える。また、光学式濃度測定装置14は、光伝搬部10から光を導入して前記光検出器18に光を出力する第2回折格子部13をさらに備える。
【0057】
より詳細には、本実施形態の光学式濃度測定装置14は、後述の本発明の実施形態に係る光導波路15を製造し、さらに、
図1に示すように、光導波路15の一方の回折格子部11(グレーティングカプラ)に赤外線IRを入射できるように光源17を設置し、光導波路15の他方の回折格子部13(グレーティングカプラ)から出射する赤外線IRを受光できるように光検出器18を配置することにより得られる。
【0058】
本実施形態の光学式濃度測定装置14では、第1回折格子部11が光源17の発光面と対向して近接配置されている。具体的には、光源17の発光面の光導波路側の下端から、光導波路15の厚さ方向で、最も光源17の発光面側に位置する第1回折格子部11までを、厚さ方向に沿って測った長さが1mm以下、または光源17の同一発光面の面積Ssに対し、√Ss以下である。また、当該長さは好ましくは500μm以下または0.5×√Ss以下であり、より好ましくは200μm以下または0.2×√Ss以下である。このように、当該長さを1mm以下または√Ss以下とすることにより、光源17から第1回折格子部11に向けて出力された光の、第1回折格子部11に到達する割合が大きくなる(光源17から第1回折格子部11を見たときに、第1回折格子部11が作る立体角が広くなる)ため、効率よく光導波路15に光を導入することができる。
また、上記の観点からは当該長さの下限値は限定されず、光源17の発光面と第1回折格子部11が接触していても構わないが、光学式濃度測定装置14を適切に製造する観点からは当該長さは3μm以上が好ましい。なお、光源17の発光面と第1回折格子部11までの間には、レンズや光ファイバーを存在させず、発光面から出力された光は、当該長さの僅かな空間を経て直接第1回折格子部11に到達させている。こうすることにより、安価に光学式濃度測定装置を実現することができる。
【0059】
ここで、近接配置の当該長さについて、詳細に説明する。上記に示した適切な当該長さを説明するために、光学シミュレーションにより該当長さを変化させた際の光の到達割合の数値計算結果を
図15に示す。
図15は、ランバーシアン光源の同一発光面の形状を一辺の長さがAの正方形と仮定し(すなわち同一発光面の面積はAの2乗)、当該長さをDとしたときに、光源の同一発光面から発せられた光が第1回折格子部に到達する割合をD/Aの関数として示している。なお、ここでは光源から発せられた光を受ける第1回折格子部の面積が、光源の同一発光面の面積と同じであると仮定している。
図15に示されるように、D/A>1の領域(すなわちD>Aとなる遠方に光源を配置した場合)では、光の第1回折格子部への到達割合は、当該長さDに対して逆2乗の法則で近似される。これは遠方においては、光が第1回折格子部へ到達した際に、その到達光の作る投影面積が、当該長さDの2乗に比例して大きくなり、それにしたがって、放射照度が減衰することによる。一方、D/A<1の領域(すなわちD<Aとなる近傍に光源を配置した場合)では、D/Aが小さくなるほど、到達光の割合が最大値で飽和傾向を示していく。つまり該当長さDをA(同一発光面の面積の平方根)以下、好ましくは0.5A以下、より好ましくは0.2A以下とすることで効率よく光導波路15に光を導入することができる。なお、本原理は、後述する第2回折格子部と光検出器の受光面に対しても同様に成り立つ。その際、第2回折格子部の面積が上述の光源の同一発光面の面積に相当し、光検出器の受光面の面積が上述の第1回折格子部の面積に相当する。また、光源の同一発光面の面積と光検出器の受光面の面積は1mm
2やそれ以上の大きさを有することもある。
【0060】
本実施形態の光学式濃度測定装置14では、第2回折格子部13が光検出器18と対向して近接配置されている。具体的には、光検出器18の光導波路側の下端から、光導波路15の厚さ方向で、最も光検出器18側に位置する第2回折格子部13までを、厚さ方向に沿って測った長さが1mm以下、または光検出器18の受光面の面積Sdに対し、√Sd以下である。また、当該長さは好ましくは500μm以下または0.5×√Sd以下であり、より好ましくは200μm以下または0.2×√Sd以下である。このように、当該長さを1mm以下または√Sd以下とすることにより、第2回折格子部13から光検出器18に向けて出力された光の、光検出器18に到達する割合が大きくなる(第2回折格子部13から光検出器18を見たときに、光検出器18が作る立体角が広くなる)ため、効率よく光検出器18に光を導入することができる。
また、上記の観点からは当該長さの下限値は限定されず、光検出器18の受光面と第2回折格子部13が接触していても構わないが、光学式濃度測定装置14を適切に製造する観点からは当該長さは3μm以上が好ましい。なお、第2回折格子部13と光検出器18までの間には、レンズや光ファイバーを存在させず、第2回折格子部13から出力された光は、当該長さの僅かな空間を経て直接光検出器18に到達させている。こうすることにより、安価に光学式濃度測定装置を実現することができる。
【0061】
本実施形態の光学式濃度測定装置14では、光源17の発光面の面積に対する、当該発光面が覆う第1回折格子111の合計の面積の割合が60%以上であり、より好ましくは80%以上である。これにより、発光素子と光導波路15を高効率で結合させることができる。
【0062】
本実施形態の光学式濃度測定装置14では、光源17は波長が2μm以上12μm未満の赤外線をコア層12に入射している。上記の赤外線をコア層12に入射することにより、コア層12から染出すエバネッセント波EWが外部空間16に存在する被測定物質、例えばCO2、CO、NO、N2O、SO2、CH4、H2O、C2H6Oなどのガスに吸収され、被測定物質の濃度を検知することができる。
【0063】
〔本発明の実施形態に係る光導波路〕
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る光導波路について
図1から
図5を用いて説明する。
【0064】
図1は、本実施形態による光学式濃度測定装置14の概略構成を示す図であるとともに、第1実施形態による光導波路15を利用したATR法の概念図でもある。
図1に示すように、光学式濃度測定装置14は、濃度などを検出するガスが存在する外部空間16に設置されて使用される。光学式濃度測定装置14は、本実施形態による光導波路15と、光導波路15に備えられたコア層12に光(本実施形態では赤外線IR)を入射可能な光源17と、コア層12を伝搬した赤外線IRを受光可能な光検出器(検出部の一例)18とを備えている。
【0065】
光導波路15は、基板19と、赤外線IR(光の一例)が伝搬可能なコア層12と、基板19の少なくとも一部とコア層12の少なくとも一部を接続し基板19に対してコア層12を支持する支持部20と、を備えている。コア層12および基板19は例えばシリコン(Si)で形成され、支持部20は例えば二酸化ケイ素(SiO
2)で形成されている。基板19および支持部20は例えば板状を有している。なお、支持部20は、
図1に示すように、支持部20がコア層12の全部を支持していてもよく、コア層12の少なくとも一部を支持するようにしてもよく、例えば、支持部20が、回折格子部の全部と、延在方向で断続的に光伝搬部10の一部を支持するようにすることができる(その結果、光導波路15は、光伝搬部10が、延在方向で断続的に支持部20に接続され、支持部20が設けられた領域を除いて、光伝搬部10および基板19の間にクラッド層などの所定の層を有さずに空隙を有する)。
【0066】
コア層12は、延在方向の一端に形成された第1回折格子部(一例としてグレーティングカプラ)11、および他端に形成された第2回折格子部(一例としてグレーティングカプラ)13を有している。また、コア層12は、延在方向の両端の第1回折格子部11および第2回折格子部13の間に光伝搬部10を有している。本実施形態に係る光導波路15において、光伝搬部10の膜厚は均一である。また、本実施形態に係る光導波路15において、光伝搬部10の幅は均一である。なお、幅方向とは、延在方向および膜厚方向に垂直な方向である。また、膜厚方向とは、基板19、支持部20、および、コア層12を積層させた積層方向に平行な方向である。
【0067】
第1回折格子部11は、光源17の出射方向に配置されている。なお、本実施形態では、光導波路15は、積層方向が鉛直方向に平行であり、基板19の主面が鉛直下方と直交するように設置されている。基板19の主面とは、基板19の板厚方向に垂直な表面であって、さらに言換えると、本実施形態において、基板19を形成する6面の中で、面積が最大である面である。すなわち、光源17の出射方向とは、このように光導波路15が設置された状態における、光源17の鉛直下方である。この回折格子部は、光源17から入射する赤外線IRをコア層12に結合するようになっている。したがって、第1回折格子部11の膜厚方向から、コア層12を伝搬する光が入力される。第2回折格子部13は、光検出器18に対向する方向に配置されている。なお、光検出器18に対向する方向とは、上述のように光導波路15が設置された状態における、光検出器18の鉛直下方である。この回折格子部は、コア層12を伝搬する赤外線IRを取出して光検出器18に向けて出射するようになっている。したがって、第2回折格子部13の膜厚方向に、コア層12を伝搬する光が出力される。
【0068】
このように、光源17側(光入射側)に配置されるコア層12は一端に、第1回折格子部11を有し、光検出器18側(光出射側)に配置されるコア層12は他端に、第2回折格子部13を有している。また、コア層12は延在方向の中央から両端までの間に、第1回折格子部11から入射して第2回折格子部13から出射される赤外線IRが伝搬する光伝搬部10を有している。コア層12から染出すエバネッセント波EWは主に、光伝搬部10において外部空間16に存在する被測定物質に吸収される。
【0069】
ここで、第1実施形態による光導波路15についてより詳細に説明する。ATR法を用いたセンサでは、
図1に示すように、コア層12から染み出るエバネッセント波EWと被測定物質との相互作用領域を拡大させる(つまりコア層12の露出部分を拡大させる)ことで、センサとしての感度を向上させることができる。また、ATR法を利用したセンサでは、上述のように、コア層に導入した光を、エバネッセント波として、回折格子の間の光伝搬部から染み出させて外部の被測定物質に吸収させる必要があるため、光伝搬部(伝搬路)における光の伝搬距離を長くすることが求められる。また、光の入出力を行う回折格子についても、光源や光検出器の大きさに合わせた大きめのサイズが必要となるため、光学式濃度測定装置に用いられる光導波路全体のサイズは、比較的大きめの面積を有している。このようなセンサにおいては、光導波路を形成する基板上において、回折格子および光伝搬部などのコア層の設計の自由度を上げ、回折格子および光伝搬部などのコア層の設計の自由度を上げ、各要素を効率良く配置することが求められている。
【0070】
これに対して、第1実施形態の光導波路15では、
図2、
図3に例示するように、回折格子部11、13よりも光導波路の厚さ方向基板側に、当該回折格子部11、13と当該厚さ方向に離隔して、コア層12の一部が存在している。
具体的には、図示の例では、第1回折格子部および伝搬路の一部の断面を拡大して示す断面図である
図3(b)に示すように、第1回折格子部11の第1回折格子111よりも厚さ方向基板側に、当該回折格子111と厚さ方向に離隔して、コア層12の一部である光伝搬部10の伝搬路103が存在している(第2回折格子部13についても同様)。
このような構成を有することにより、回折格子部をコア層の一部に対して任意に配置できるので、光導波路、ひいては光導波路を用いた光学式濃度測定装置の設計の自由度を向上させることが可能となる。
【0071】
また、第1実施形態では、回折格子部と、当該回折格子部と離隔するコア層の一部とは、厚さ方向に沿って測った離隔距離CLが、下記(1)式または(2)式を満たすことが好ましい。
【数7】
(1)式において、λは光の真空中における波長の平均値であり、n
coreは当該コア層の一部を形成する材料の屈折率であり、n
cladは、当該回折格子部と、当該回折格子部と離隔する当該コア層の一部との離隔部分に存在する材料の屈折率である。
【数8】
(2)式において、λは光の真空中における波長の平均値であり、n
coreは当該コア層の一部を形成する材料の屈折率であり、n
cladは、当該回折格子部と、当該回折格子部と離隔する当該コア層の一部との離隔部分に存在する材料の屈折率であり、dは当該コア層の一部の膜厚の最小値であり、L
Grは当該コア層の一部と厚さ方向に離隔する当該回折格子部の回折格子長の総和である。
【0072】
または、当該離隔距離CLを0.7μm以上とすることも好ましく、より好ましくは1.0μm以上である。このように、当該離隔距離CLを上記の所定の長さにすることにより、コア層の一部を伝搬する光がエバネッセント波として染み出ても、回折格子部11に伝搬することを抑制することができ(
図3(b)の破線矢印を抑制)、それゆえに、光の損失を防いでセンサの感度を向上させることができる。
また、回折格子部と離隔するコア層の一部は、回折格子部と当該厚さ方向に離隔する位置での厚さを0.3μm以上とすることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上である。このような厚さにすることにより、コア層の一部を伝搬する光がエバネッセント波として染み出す量が低減し、光が回折格子部に伝搬することを抑制することができ、それゆえに、光の損失を防いでセンサの感度を向上させることができる。
【0073】
ここで、第1実施形態では、回折格子部と、当該回折格子部と離隔したコア層の一部との間は、回折格子部およびコア層よりも相対的に屈折率の低い物質(空気も含む)が存在していれば、特に限定されず、任意の物質を存在させることができる。図示の例では、第1回折格子部11と、当該第1回折格子部11と離隔したコア層12の一部との間はシリコン酸化膜(SiO2)が存在している。
また、第1実施形態では、コア層の一部の材料と、回折格子部とは任意の材料により形成することができるが、回折格子部とコア層の一部とは、それぞれ形成する材料が異なることが好ましく、このようにすることにより、光導波路をより好適に製造しやすくすることができる。なお、図示の例では、回折格子部の材料は多結晶シリコンであり、コア層の一部の材料は単結晶シリコンとなっている。
【0074】
ところで、第1実施形態では、
図2に示すように、第1回折格子部11は、複数の第1回折格子111を有し、複数の当該第1回折格子111のうち少なくとも2つの第1回折格子111が光源17の同一発光面から発せられた光を受ける。具体的には、
図2の範囲R1は、平面視で、配置される光源17の発光面のうち、同一発光面とみなせる範囲を、当該発光面に直交する方向に沿って第1回折格子部11に対して投影した範囲であり、その範囲R1内に少なくとも2つの第1回折格子111が存在する。このようにすることにより、第1回折格子111を比較的小さいサイズにすることができ、
図17(a)で示すような大きな回折格子53で生じていた回折格子内での再放射が抑制され、発光素子と光導波路を高効率で結合することができる。
【0075】
なお、
図2の例では、範囲R1の中に第1回折格子部11の第1回折格子111の全てが存在するが、当該範囲R1の外側に存在する第1回折格子111が存在していてもよい。範囲R1の外側に当該第1回折格子111が位置していても、または、範囲R1の外側に第1回折格子111の一部があっても、光は光源17の発光面から広がりがあるため、外側に位置する第1回折格子や外側に位置する部分でも光をコア層12に取り込むことができる。
【0076】
また、第1実施形態では、上述のように第1回折格子部11が第1回折格子111を複数有し、また、第1回折格子部11よりも厚さ方向基板側に、当該第1回折格子部11と厚さ方向に離隔して存在するコア層12の一部が光伝搬部10となっていることにより、第1回折格子部11中の各第1回折格子111をより密に形成することができ、発光素子と光導波路との結合をより高効率にすることができる。
なぜなら、回折格子は光伝搬部10(の伝搬路103)に接続するので、回折格子部が複数の回折格子を有し、回折格子部よりも厚さ方向基板側に光伝搬部が存在しない場合には、伝搬路を避けながら回折格子を形成することとなる。しかし、
図3(a)に示す第1回折格子部の一部のA-A線での断面図である
図3(b)に示すように、第1回折格子部11よりも厚さ方向基板側に、当該第1回折格子部11と厚さ方向に離隔して光伝搬部10が存在すれば、第1回折格子111と、当該第1回折格子111の厚さ方向基板側に位置する伝搬路103に接続する他の第1回折格子111とを接近させて配置することができ、
図3(a)に示すように、第1回折格子111に接続される伝搬路103の形成位置に関わらずそれぞれの第1回折格子111の配置を密にすることができる。
【0077】
なお、第1実施形態では、光伝搬部10の複数の伝搬路103が第1回折格子111よりも厚さ方向基板側に存在している。また、第1回折格子部11および第2回折格子部13のいずれもがコア層12の一部と厚さ方向に離隔して存在している。
【0078】
なお、
図3(b)に示すように、第1回折格子111と光伝搬部10(の伝搬路103)とは、方向性結合器を利用して接続されている。具体的には、第1回折格子111が、その接続側の頂部111tの付近に接続部111aを有しており、当該接続部111aは、伝搬路103の第1回折格子側の端部103aと僅かな距離で離隔し、平面視で重複しつつ平行に延びている。接続部111aと伝搬路103の端部103aとが延在方向で所定の長さで重複することで、それぞれが光学的に接続し(エバネッセント結合し)、第1回折格子111で受けた光を、第1回折格子111から伝搬路103へ導出することができる。
【0079】
ここで、第1実施形態の光導波路15では、
図2に示すように、光導波路15の光伝搬部10は、1つの第1回折格子111が受けた光を導入して伝搬し、1つの第2回折格子131へ当該光を導出する、伝搬路103としての線状伝搬路101を少なくとも1本有している。当該線状伝搬路101は、全体として線状になっており、1つの第1回折格子111に対して1つの第2回折格子131を対応させる形状となっている。これにより、後述の第2実施形態に記載した分岐状伝搬路102を形成するよりも、分岐状伝搬路102における、合波や分波時に発生する光の損失を抑制することができ、より効率的に光を利用することができる。
なお、図示の例では全てが線状伝搬路101であるが、本実施形態では、少なくとも1本の線状伝搬路101を有していれば、それ以外の伝搬路の形態は任意にすることができる。
【0080】
また、
図2の例では、第1回折格子111および第2回折格子131の形状はともに第1回折格子111および第2回折格子131の頂部111tを中心とする扇形(
図4(a))になっているが、本実施形態においては、回折格子の平面視での形状は任意にすることができる。
具体的には、特に限定されないが例えば、第1回折格子111および第2回折格子131の光伝搬部10への接続側の頂部111tを頂点とする、接続側から末端側に向かって幅が広がる部分を有する形状とすることができる。より具体的には、回折格子および回折格子の頂部111tを中心とする扇形(
図4(a)、(b))の他、頂部111tを頂点とする三角形(例えば二等辺三角形(
図4(c)))や、頂部111tを頂点とし、接続側から末端側に向かって幅が広がる部分と、当該部分に続く任意の形状、例えば矩形状の部分とを有する形状(
図4(d))、とすることができる。回折格子の形状としては、接続側から末端側に向かう方向に沿う任意の仮想線に対して線対称の形状が好ましく、また、頂部111tから取込部や取出部に向かう方向に幅が減少しない形状であることが好ましい。
なお、第1回折格子111は、例えば
図4(a)や(d)に示すように、光取込部に対して光伝搬部10への接続側に隣接する部分に、凹凸部形成されていない部分を有することができる(換言すれば、
図3(b)や(c)のように回折格子の頂部111t付近まで光取込部が形成されていなくてもよい)。このようにすることにより、頂部111t付近まで光取込部が形成された同じ回折格子長の回折格子に比べて、光取込部の面積を大きくすることができる。
【0081】
また、第1実施形態において、複数の第1回折格子111のうち少なくとも1つの第1回折格子111(図示の例では全て)が、回折格子長の最大値GLMを20λ以下である。これにより、発光素子と光導波路15をより高効率で結合させることができる。なお、λは光の真空中における波長の平均値であり、例えば、被測定気体としてCO
2を想定する場合、λは約4.3μmである。
また、図示の例では、回折格子長の最大値GLMが20λ以下となる第1回折格子111が全て範囲R1内に位置しているが、当該範囲R1内に少なくとも1つ位置することが好ましく、当該範囲R1外に位置する、最大値GLMが20λ以下となる第1回折格子111が存在していてもよい。
なお、第1回折格子111の回折格子長GLとは、
図5(a)、(b)に示すように、上述の第1回折格子111の取込部の凹部または凸部を区画する壁面のうち、最も、接続側に位置する壁面W1について、当該壁面W1の延在方向の特定の位置を起点に測定する(例えば起点P1)。そして、回折格子長GLは、当該起点P1から末端側へ、当該特定の位置P1における壁面の延在方向に直交する方向に延びる仮想線VL上に沿って、当該仮想線VL上の最も末端側に位置する壁面(取込部の凹部または凸部を区画する壁面のうち最も末端側に位置する壁面)W2までを測った長さを指す(壁面W1の起点P1から、起点P1から延びて仮想線VL上に位置する壁面W2の終点P2まで長さ)。第1回折格子111の回折格子長GLは、当該第1回折格子111の取込部の形状によって変化し得、すなわち、取込部の形状によっては、上記起点からの長さが変化し得る。また、第1回折格子111の回折格子長の最大値GLMとは、上記の回折格子長GLのうち最も長い長さを指す。
【0082】
なお、
図2の例では、第1回折格子111の数は15個であるが、任意の数にすることができ、本実施形態においては、例えば、第1回折格子部11中の第1回折格子111は回折格子長の最大値GLMが80μm以下の回折格子を4個以上とすることが好ましい。
【0083】
本実施形態では、
図2に示すように、第1回折格子部11中の第1回折格子111は、平面視で、配置方向が交互に周期性をもって配置されている。さらに、本実施形態において、第1回折格子部11中の複数の第1回折格子111のうち少なくとも2つの第1回折格子111は、光導波路15の平面視で、第1回折格子111から光伝搬部10への接続方向が相互に反対になるように配置されている。
具体的には、
図2の例では、第1回折格子111が光導波路15の表層側に形成され、伝搬路103が第1回折格子111よりも基層側の層に形成されている。そして、
図2に示すように、相互に第1回折格子111の軸線(第1回折格子111の幅方向中心線であり、以下、単に回折格子の軸線とも称す)方向に隣り合う第1回折格子111が、相互に回折格子の軸線をずらしながら列をなしている。また、当該1列の第1回折格子111に対して、図中の左右方向に隣り合う他の1列の第1回折格子111が、相互に配置方向が逆向き(第1回折格子111から光伝搬部10への接続方向が相互に反対)に形成され、全体として、配置方向が交互になっている。このように第1回折格子111が形成されることにより、第1回折格子111がより密に配置されている。
【0084】
なお上記の第1実施形態では、第1回折格子部11中の第1回折格子111として、全て同じ大きさ、形状の回折格子を設けていたが、第1回折格子111として、大きさや形状の異なる回折格子を設けてもよい。大きさや形状の異なる回折格子を設けることで、光導波路15に多機能を持たせたりすることができる。多機能の具体例としては、例えば、それぞれの第1回折格子111毎に、回折格子を形成する凹凸の周期を異ならせ、多波長を選択できるようにする等である。
【0085】
また、本実施形態において、複数の当該第1回折格子111のうち少なくとも2つの第1回折格子111は、5×5mmの範囲内に存在することが好ましく、より好ましくは1×1mmの範囲内に存在することであり、さらに好ましくは500×500μmの範囲内に存在することである。これにより、発光素子と光導波路15を高効率で結合することができる。
また、本実施形態においては、範囲(5×5mm)内に存在する第1回折格子111の面積の割合が60%以上であることが好ましく、より好ましくは範囲(1×1mm)内に存在する第1回折格子111の面積の割合が60%以上であり、さらに好ましくは範囲(500×500μm)内に存在する第1回折格子111の面積の割合が60%以上である。これにより、発光素子と光導波路15を高効率で結合することができる。
【0086】
本実施形態において、第2回折格子部13の構造は、任意にすることができる。具体的には、図示の例では第2回折格子部13の構造は第1回折格子部11の構造と同じになっているが異なるようにすることもできる。また、
図2の範囲R2は、光導波路15の基板19の平面視で(基板19に向かって視た場合)、配置される検出部の範囲を、当該検出部の検出面に直交する方向に沿って第2回折格子部13に対して投影した範囲であるが、第2回折格子部13は例えば検出部によって回折格子の大きさを変化させたり、配置を変化させたり、任意にすることができる。
【0087】
次に、第1実施形態による光導波路15の製造方法の一例について、
図6から
図13を用いて説明する。
図6から
図13は
図3(b)に示す箇所の製造方法の一例を示した断面図である。
なお、
図6~13では、光導波路15の製造方法の説明の容易化のため、第1回折格子部11のうち1つの回折格子に着目して簡略化し模式的な図となっている。
図6~13は、
図3(a)のA-A線に対応する位置で切断した光導波路15の製造工程断面図を示している。
【0088】
まず、
図6に示すように、シリコンで形成され最終的に基板19となる支持基板19aと、シリコンで形成されコア層12が形成される活性基板12aのいずれか一方、または両方にSiO
2膜を形成し、このSiO
2膜を挟むようにして支持基板19aおよび活性基板12aを貼り合わせて熱処理して結合する。その後、活性基板12aを所定の厚さまで研削・研磨するなどして活性基板12aの膜厚を調整する。これにより、支持基板19aと、支持基板19a上に形成されたBOX層20aと、BOX層20a上に形成された活性基板12aとを有し、「シリコン-絶縁層-シリコン」構造を有するSOI基板15aが形成される。
【0089】
次に、SOI基板15aをリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いて活性基板12aをエッチングし、コア層12の一部を含む光伝搬部10を形成する。これにより、
図7に示すように、支持基板19aと、支持基板19a上に形成されたBOX層20aと、BOX層20aの上に形成された光伝搬部10(コア層12の一部を含む)とを有する光導波路主要部を形成する。
【0090】
次に、
図8に示すように、後に形成する第1回折格子111とコア層12の一部とを離隔するための離隔膜15cを、例えばTEOS(Tetraethyl orthosilicate)を原料とするSiO
2膜などを堆積することにより形成する。この離隔膜15cはBOX層20aの上およびコア層12の一部の上に形成された後、CMP(Chemical mechanical polishing)を用いるなどして表面を平坦化することで、
図8に示すような構造を実現できる。なお、離隔膜15cにより、コア層12の一部を、回折格子部11と厚さ方向に離隔させることができる。
【0091】
次に、
図9に示すように、離隔膜15cの上にフォトレジストをパターニングし、そのフォトレジストをマスク層M1として、離隔膜15cを部分的にエッチングする。その際、出来るだけ緩やかな傾斜を形成するために、BHF(Buffered hydrofluoric acid)などを用いてウェットエッチングを行う。ウェットエッチングでは、離隔膜15cとマスク層M1との界面の密着性を調整することで、より緩やかな傾斜を形成することができる。このようにすることで、
図9に示すように、後に形成する第1回折格子111の接続部111aと光伝搬部10(伝搬路103)の端部を光学的に接続するための穴が離隔膜15cに形成される。
【0092】
次に、マスク層M1をエッチングし取り除いた後、
図10に示すように、離隔膜15cの穴の形成により、露出したコア層12の一部の表面を酸化することによりSiO
2膜を例えば膜厚30nm程度形成する。この膜の形成方法は必ずしも酸化である必要はなく、CVD(Chemical vapor deposition)等の任意の方法でよい。また、この膜は、必ずしもSiO
2膜である必要はなく、例えばSiN膜等でもよい。
【0093】
次に、
図11に示すように、全面にポリシリコン膜(上層)21a/SiO
2膜21b/ポリシリコン膜(下層)21cの3層構造を形成する。2つのポリシリコン膜21a、21cは例えばCVDにて形成する。また、中間層のSiO
2膜21bは酸化やCVDなどで形成する。下層のポリシリコン膜21cの膜厚は、光伝搬部10(伝搬路103)の膜厚と略等しくすることが好ましく、膜厚が伝搬路103と略等しいことで、ポリシリコン膜21cより形成される第1回折格子111から伝搬路103への光接続を高効率で行うことができる。例えば、下層のポリシリコン膜21cと伝搬路103の膜厚は共に0.4μmである。
【0094】
次に、
図12に示すように、リソグラフィ技術、エッチング技術を用いて、上層のポリシリコン膜21aをエッチングし、回折格子111を形成するための凹凸パターンを形成する。その際、2つのポリシリコン層21a、21cの間に形成したSiO
2膜21bは、エッチング時のストッパー膜として働くため、精度良く凹凸パターンを形成できる他、下層のポリシリコン膜21cを過剰エッチングから保護することができる。凹凸パターンを形成した後、ストッパーとして用いたSiO
2膜21bはドライエッチングまたはウェットエッチングにより、SiO
2膜21bのうち露出している箇所のみを除去する。
【0095】
次に、
図13に示すように、リソグラフィ技術、エッチング技術を用いて、下層のポリシリコン膜21cをエッチングし、第1回折格子部11の輪郭を形成する。続いて、図示は省略するが、リソグラフィ技術、エッチング技術を用いて、ガスセンシングを行う光伝搬部10の一部(第1回折格子部11から第2回折格子部13までの間の光伝搬部10の一部)の表面を露出させるように、離隔膜15cの一部を除去することで、第1実施形態の光導波路15に相当する構造の光導波路主要部15bが得られる。
【0096】
次に、支持基板19aを所定領域で切断して光導波路主要部15bを個片化する。これにより、第1実施形態による光導波路15が完成する。
なお、上記説明では、回折格子部として第1回折格子部11に着目して説明したが、第2回折格子部13も同様に形成することができる。
【0097】
<第2実施形態>
つづいて、本発明の第2実施形態に係る光導波路について
図14を用いて説明する。なお、第1実施形態と共通する構成要素については同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0098】
第2実施形態では、光伝搬部10が、中央に位置する線状部分102aと、複数の第1回折格子111が受けた光を導入する複数の第1回折格子側部分102bと、複数の第1回折格子側部分102bから線状部分102aへ伝搬路が合流する合流部分102cと、線状部分102aを伝搬した光を第2回折格子部13へ導出する第2回折格子側部分102dと、を有する、伝搬路103としての分岐状伝搬路102を少なくとも1本有している。具体的には、当該分岐状伝搬路102は、中央に位置する線状部分102aが1本の伝搬路となっており、また、分岐状伝搬路102のなかでも第1回折格子側の第1回折格子側部分102bが、第1回折格子111と接続するための伝搬路となっており、さらに、合流部分102cが複数の当該第1回折格子側部分102bから当該線状部分102aへ向かって伝搬路が合流している。
なお、図示の例では、光伝搬部10は1本の分岐状伝搬路102のみを有し、分岐状伝搬路102は、1本の線状部分102aと、第1回折格子部11が有する第1回折格子111と同数の第1回折格子側部分102b(図示の例では15個)と、複数の第1回折格子側部分102bから1本の線状部分102aへ合流するための合流部分102cと、を有している。しかし、第2実施形態では、光伝搬部10が少なくとも1本の分岐状伝搬路102を有していれば、それ以外の伝搬路の形態は任意にすることができる。また、分岐状伝搬路102の複数の第1回折格子側部分102bは、それぞれ1つの第1回折格子111と接続するところ、分岐状伝搬路102が有する第1回折格子側部分102bの数は、第1回折格子部11の第1回折格子111の数と同じであっても、一部であってもよい。
【0099】
また、第2実施形態において、合流部分102cは、複数の第1回折格子111が受けた光を合波して分岐状伝搬路102の線状部分102aへ光を導出可能であれば、伝搬路の合流形態は特に限定されない。例えば、図示のように、複数の第1回折格子側部分102bの伝搬路を段階的に合流してもよく、図示は省略するが、一度に全ての第1回折格子側部分102bを合流させてもよい。具体的には、図示の例では、第1回折格子側部分102bから線状部分102aへ向かって、伝搬路が2つずつ合流しており、合流部分102c中に、合流点が14か所存在している。
【0100】
また、第2実施形態では、線状部分102aを伝搬した光を、第2回折格子側部分102dを介して第2回折格子部13へ導出することが可能となっている。具体的には、図示の例では、第2回折格子側部分102dが複数であるとともに、線状部分102aから複数の第2回折格子側部分102dへ伝搬路が分岐する分岐部分102eを、線状部分102aと第2回折格子側部分102dとの間に設けられている。当該分岐部分102eは、上記の合流部分102cと同様に、図示のように、複数の第2回折格子側部分102dへ、伝搬路を段階的に分岐してもよく、図示は省略するが、一度に全ての第2回折格子側部分102dへ分岐させてもよい。より具体的には、図示の例では、線状部分102aから第2回折格子側部分102dへ向かって、伝搬路が2つずつ分岐しており、分岐部分102e中に、分岐点が14か所存在している。
また、図示の例では分岐部分102eを設けているが、分岐部分102eを設けずに、光伝搬部10を1つにし、線状部分102aからの光を、1つの第2回折格子側部分102dを介して第2回折格子部13へ導出させてもよい。
【0101】
第2実施形態では、光伝搬部10が分岐状伝搬路102を有することにより、複数の第1回折格子111を設けても光伝搬部10の伝搬路が複雑化せず、省スペース化することができる。
なお、第2実施形態の光伝搬部10の分岐状伝搬路102を、第1実施形態の光導波路15の光伝搬部10に代えてまたは加えて、光導波路15を形成することができる。
【0102】
第2実施形態による光導波路15は、上記の第1実施形態による光導波路15の製造方法と同様な方法により製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明によれば、設計の自由度を向上させる、より高精度な光学式濃度測定装置および光導波路を提供することができる。
【符号の説明】
【0104】
10:光伝搬部
101:線状伝搬路
102:分岐状伝搬路
102a:中央に位置する線状部分
102b:第1回折格子側部分
102c:合流部分
102d:第2回折格子側部分
102e:分岐部分
103:伝搬路
103a:伝搬路の端部
11:第1回折格子部
111:第1回折格子
111a:第1回折格子の接続部
12:コア層
13:第2回折格子部
131:第2回折格子
14:光学式濃度測定装置
15:光導波路
15a:SOI基板
15b:光導波路主要部
15c:離隔膜
16:外部空間
17:光源
18:光検出器
19:基板
19a:支持基板
20:支持部
20a:BOX層
21a:ポリシリコン膜(上層)
21b:SiO2膜
21c:ポリシリコン膜(下層)
51:構造体
52:物質
53:回折格子
A:正方形の同一発光面の一辺の長さ
D:第1回折格子部に近接配置された光源と第1回折格子部の長さ
EW:エバネッセント波
IR:赤外線
L:光
M1:マスク層
GL:回折格子長
GLM:回折格子長の最大値
W1、W2:壁面
P1:起点
P2:終点
VL:仮想線
EF:発光面
R1、R2:範囲