(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20231226BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20231226BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
(21)【出願番号】P 2020025618
(22)【出願日】2020-02-18
【審査請求日】2022-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輝
【審査官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-145261(JP,A)
【文献】特開2007-096253(JP,A)
【文献】特表2017-527654(JP,A)
【文献】特開2016-058730(JP,A)
【文献】特表2010-541204(JP,A)
【文献】特開2020-025066(JP,A)
【文献】特開2007-005562(JP,A)
【文献】特開2013-042132(JP,A)
【文献】特開2002-170790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ、窒素含有アルカリ化合物、および過酸化水素を含有する研磨用組成物であって、
前記過酸化水素の含有量は、研磨用組成物の全質量に対して0質量%を超え0.03質量%未満であり、
pHが9を超
え、
電気伝導度が0.25mS/cm以下である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記窒素含有アルカリ化合物は、塩基性アミノ酸である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記過酸化水素の含有量は、0質量%を超え0.02質量%以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記過酸化水素の含有量は、0質量%を超え0.01質量%未満である、請求項3に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記電気伝導度が0.05mS/cm以上0.25mS/cm以下である、請求項
1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
不純物がドープされていない多結晶シリコンと、n型不純物がドープされた多結晶シリコンと、を含む研磨対象物を研磨する用途で使用される、請求項1~
5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項8】
不純物がドープされていない多結晶シリコンと、n型不純物がドープされた多結晶シリコンと、を含む半導体基板を、請求項
7に記載の研磨方法により研磨する工程を有する、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨方法、および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化膜(酸化ケイ素)、シリコン窒化物や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
例えば、分離領域を備えるシリコン基板の上に設けられたポリシリコン膜を研磨する技術として、特許文献1には、砥粒とアルカリと水溶性高分子と水とを含有する予備研磨用組成物を用いて予備研磨する工程と、砥粒とアルカリと水溶性高分子と水とを含有する仕上げ研磨用組成物を用いて仕上げ研磨する工程と、を備える研磨方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、半導体基板として、不純物がドープされていない多結晶シリコンと、n型不純物がドープされた多結晶シリコンとを共に含む基板が用いられるようになってきており、このような基板において、不純物がドープされていない多結晶シリコンを選択的に研磨するという新たな要求が出てきている。こうした要求に対して、従来何ら検討がされていなかった。
【0006】
そこで本発明は、不純物がドープされていない多結晶シリコンの研磨速度が十分に高く、かつn型不純物がドープされた多結晶シリコンの研磨速度に対する、不純物がドープされていない多結晶シリコンの研磨速度の比が十分に高い(すなわち、選択比が高い)研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の新たな課題を解決すべく、本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、シリカ、窒素含有アルカリ化合物、および過酸化水素を含有する研磨用組成物であって、前記過酸化水素の含有量は、研磨用組成物の全質量に対して0質量%を超え0.03質量%未満であり、pHが9を超える、研磨用組成物により、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、不純物がドープされていない多結晶シリコンの研磨速度が十分に高く、かつn型不純物がドープされた多結晶シリコンの研磨速度に対する、不純物がドープされていない多結晶シリコンの研磨速度の比が十分に高い(すなわち、選択比が高い)研磨用組成物が提供されうる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、シリカ、窒素含有アルカリ化合物、および過酸化水素を含有する研磨用組成物であって、前記過酸化水素の含有量は、研磨用組成物の全質量に対して0質量%を超え0.03質量%未満であり、pHが9を超える、研磨用組成物である。
【0010】
かような構成を有する本発明の研磨用組成物は、不純物がドープされていない多結晶シリコンの研磨速度が十分に高く、かつn型不純物がドープされた多結晶シリコンの研磨速度に対する、不純物がドープされていない多結晶シリコンの研磨速度の比が十分に高い。
【0011】
上記のような効果が得られるメカニズムは、以下の通りであると考えられる。ただし、下記メカニズムはあくまで推測であり、これによって本発明の範囲が限定されることがない。なお、本明細書において、不純物がドープされていない多結晶シリコンを、単に「アンドープトポリシリコン」とも称し、n型不純物がドープされた多結晶シリコンを、単に「n型ドープトポリシリコン」とも称する。また、n型不純物がドープされた多結晶シリコンの研磨速度に対する、不純物がドープされていない多結晶シリコンの研磨速度の比を、単に「選択比」とも称する。
【0012】
一般に、アルカリ性条件下では、ポリシリコンの研磨速度は高くなり、pHが高いほど研磨速度はより高くなる。窒素含有アルカリ化合物には求核剤としての働きがあり、アンドープトポリシリコン表面に求核的な付加をし、アンドープトポリシリコンのシリコン-シリコン結合を弱めて、アンドープトポリシリコンの研磨速度をより向上させる。また、本発明の研磨用組成物は、酸化剤である過酸化水素をさらに含んでおり、酸化されやすいn型ドープトポリシリコンの表面は、過酸化水素の作用により酸化ケイ素(SiO2)になる。SiO2は化学的に安定であり、pHや求核剤の影響を受けにくいことから、n型ドープトポリシリコンの研磨速度は低下する。一方、アンドープトポリシリコンの表面においても同様の酸化は生じるが、本発明の研磨用組成物中には、過酸化水素はごく少量しか含まれていないため、n型ドープトポリシリコンの表面よりもアンドープトポリシリコンの表面においての酸化反応は進行しづらい。よって、アンドープトポリシリコンの表面は、研磨用組成物のpHや窒素含有アルカリ化合物の影響を受け、研磨速度は高いまま維持される。このような作用機序により、本発明の研磨用組成物によれば、上記の効果を得ることができると考えられる。
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには限定されない。
【0014】
本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0015】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は、特に制限されないが、不純物がドープされていない多結晶シリコン(アンドープトポリシリコン)と、n型不純物がドープされた多結晶シリコン(n型ドープトポリシリコン)と、を含むことが好ましい。
【0016】
n型不純物の例としては、リン(P)、ヒ素(As)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)などの第15族元素が挙げられる。これらn型不純物の中でも、リンが好ましい。
【0017】
n型不純物の含有量(ドープ量)の下限は特に制限されないが、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)による測定において、1.0×1013atoms/cc以上であることが好ましく、2.0×1013atoms/cc以上であることがより好ましい。また、n型不純物の含有量(ドープ量)の上限は特に制限されないが、5.0×1021atoms/cc以下であることが好ましく、4.0×1021atoms/cc以下であることがより好ましい。
【0018】
本発明に係る研磨対象物は、上記のポリシリコン以外に他の材料を含んでいてもよい。他の材料の例としては、窒化ケイ素、炭窒化ケイ素(SiCN)、酸化ケイ素、金属、SiGe等が挙げられる。
【0019】
酸化ケイ素を含む研磨対象物の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素面(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP膜、USG膜、PSG膜、BPSG膜、RTO膜等が挙げられる。
【0020】
上記金属としては、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。
【0021】
[シリカ]
本発明の研磨用組成物は、砥粒としてシリカを含む。シリカの種類としては、好ましくはコロイダルシリカである。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法等が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明に係るシリカとして好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、高純度で製造できるゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。
【0022】
ここで、シリカの形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱などの多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0023】
さらに、該コロイダルシリカの表面は、シランカップリング剤等によって表面修飾されていてもよい。
【0024】
コロイダルシリカの表面をシランカップリング剤によって表面修飾する方法として、以下のような固定化方法が挙げられる。例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0025】
あるいは、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0026】
上記はアニオン性基を有するコロイダルシリカ(アニオン変性コロイダルシリカ)であるが、カチオン性基を有するコロイダルシリカ(カチオン変性コロイダルシリカ)を使用してもよい。カチオン性基を有するコロイダルシリカとして、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカが挙げられる。このようなカチオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特開2005-162533号公報に記載されているような、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカの表面に固定化する方法が挙げられる。これにより、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0027】
シリカの大きさは特に制限されない。例えば、シリカが球形状である場合には、シリカの平均一次粒子径は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましい。シリカの平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。また、シリカの平均一次粒子径は、300nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。シリカの平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いた研磨により欠陥が少ない表面を得ることが容易になる。すなわち、シリカの平均一次粒子径は、10nm以上300nm以下であることが好ましく、20nm以上250nm以下であることがより好ましく、30nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。なお、シリカの平均一次粒子径は、例えば、BET法から算出したシリカの比表面積(SA)を基に、シリカの形状が真球であると仮定して算出することができる。本明細書では、シリカの平均一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0028】
また、シリカの平均二次粒子径は、30nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。シリカの平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨中の抵抗が小さくなり、安定的に研磨が可能になる。また、シリカの平均二次粒子径は、400nm以下であることが好ましく、350nm以下であることがより好ましく、300nm以下であることがさらに好ましい。シリカの平均二次粒子径が小さくなるにつれて、シリカの単位質量当たりの表面積が大きくなり、研磨対象物との接触頻度が向上し、研磨速度がより向上する。すなわち、シリカの平均二次粒子径は、30nm以上400nm以下であることが好ましく、40nm以上350nm以下であることがより好ましく、50nm以上350nm以下であることがさらに好ましい。なお、シリカの平均二次粒子径は、例えばレーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。
【0029】
シリカの平均会合度は、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましい。シリカの平均会合度が小さくなるにつれて、欠陥をより低減することができる。シリカの平均会合度はまた、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。この平均会合度とは、シリカの平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。シリカの平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する有利な効果がある。
【0030】
研磨用組成物中のシリカのアスペクト比の上限は、特に制限されないが、2.0未満であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。なお、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡によりシリカ粒子の画像に外接する最小の長方形をとり、その長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。研磨用組成物中のシリカのアスペクト比の下限は、特に制限されないが、1.0以上であることが好ましい。
【0031】
シリカのレーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比であるD90/D10の下限は、特に制限されないが、1.1以上であることが好ましく、1.3以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましく、1.7以上がさらにより好ましく、2.0以上が最も好ましい。また、研磨用組成物中のシリカにおける、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比D90/D10の上限は特に制限されないが、2.04以下であることが好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。
【0032】
シリカの大きさ(平均一次粒子径、平均二次粒子径、アスペクト比、D90/D10等)は、シリカの製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0033】
シリカの含有量(濃度)は特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。また、シリカの含有量の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、3質量%以下であることが最も好ましい。すなわち、シリカの含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上10質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上5質量%以下、最も好ましくは1質量%以上3質量%以下である。このような範囲であれば、コストを抑えながら、研磨速度を向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上のシリカを含む場合には、シリカの含有量は、これらの合計量を意図する。
【0034】
シリカは、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。また、シリカは、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0035】
本発明の研磨用組成物は、砥粒としてシリカを含んでいれば、シリカ以外の他の砥粒をさらに含んでいてもよい。他の砥粒の例としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物が挙げられる。
【0036】
[窒素含有アルカリ化合物]
本発明の研磨用組成物は、窒素含有アルカリ化合物を含む。かような化合物を含むことにより、研磨用組成物の電気伝導度の上昇は抑えられ、砥粒であるシリカ表面の電気二重層は厚くなりやすく、過酸化水素により酸化された研磨対象物(n型ドープトポリシリコン)表面に対して接触しにくくなる。よって、n型ドープトポリシリコンの研磨速度は抑制され、選択比が向上する。
【0037】
窒素含有アルカリ化合物の例としては、例えば、アリルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、3-エトキシプロピルアミン、ジイソブチルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、トリ-n-オクチルアミン、t-ブチルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、n-プロパノールアミン、ブタノールアミン、2-アミノ-4-ペンタノール、2-アミノ-3-ヘキサノール、5-アミノ-4-オクタノール、3-アミノ-3-メチル-2-ブタノール、モノエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ネオペンタノールアミン、ジグリコールアミン、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,2-ジアミノプロパン、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ジアミノノナン、1,12-ジアミノドデカン、二量体脂肪酸ジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、N-アミノエチルピペラジン、N-アミノプロピルピペラジン、N-アミノプロピルジピペリジプロパン、ピペラジン等のアミン化合物;L-リシン、D-リシン、DL-リシン、L-アルギニン、D-アルギニン、DL-アルギニン、D-ヒスチジン、L-ヒスチジン、DL-ヒスチジン、D-シトルリン、L-シトルリン、DL-シトルリン、D-オルニチン、L-オルニチン、DL-オルニチン等の塩基性アミノ酸;等が挙げられる。
【0038】
これらの中でも、塩基性アミノ酸が好ましく、D-ヒスチジン、L-ヒスチジン、DL-ヒスチジン、L-アルギニン、D-アルギニン、DL-アルギニンがより好ましく、L-アルギニン、D-アルギニン、DL-アルギニンがさらにより好ましい。
【0039】
窒素含有アルカリ化合物は、1種単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。また、窒素含有アルカリ化合物は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0040】
これら窒素含有アルカリ化合物の中でも、塩基性アミノ酸が好ましい。塩基性アミノ酸に含まれるアミノ基は、研磨対象物(特に酸化されたn型ドープトポリシリコン)表面のシラノール基と水素結合しやすく、また塩基性アミノ酸に含まれるアルキレン基も研磨対象物表面に吸着しやすいと考えられる。このような作用により、塩基性アミノ酸は、n型ドープトポリシリコン表面の保護膜として働き、n型ドープトポリシリコンの研磨速度をより抑制し、選択比がより向上するものと考えられる。
【0041】
さらに、塩基性アミノ酸に含まれるカルボキシ基が、n型ドープトポリシリコン表面側と反対の側に向くため、n型ドープトポリシリコン表面のゼータ電位が負に保たれる。アルカリ性である本願の研磨用組成物中において、砥粒であるシリカ表面のゼータ電位は負になるため、n型ドープトポリシリコンの表面との間で静電的な反発が起こり、n型ドープトポリシリコンの研磨速度がさらに抑制されると考えられる。
【0042】
窒素含有アルカリ化合物は研磨用組成物のpH調整剤としての役割も担うため、その添加量は、研磨用組成物のpHが9を超えるように適宜調整すればよい。一例として、L-アルギニンを用いる場合、その添加量は研磨用組成物の総質量に対して、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
[過酸化水素]
本発明の研磨用組成物は、過酸化水素を含む。過酸化水素は研磨対象物(特に、n型ドープトポリシリコン)の表面を酸化する酸化剤として働き、研磨速度を向上させうる。
【0044】
過酸化水素の含有量(濃度)は、研磨用組成物の全質量に対して、0質量%を超え0.03質量%未満である。過酸化水素の含有量が0質量%、すなわち過酸化水素を含まない場合、選択比が低くなる。一方、過酸化水素の含有量が0.03質量%以上であると、アンドープトポリシリコンの研磨速度が低下する。過酸化水素の含有量は、0質量%を超え0.02質量%以下であることが好ましく、0質量%を超え0.01質量%未満であることがより好ましい。
【0045】
[分散媒]
本発明の研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含むことが好ましい。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。すなわち、本発明のより好ましい形態によると、分散媒は水を含む。本発明のさらに好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。最も好ましくは、分散媒は水である。
【0046】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0047】
[pH]
本発明の研磨用組成物のpHは9を超える。pHが9以下の場合、不純物がドープされた多結晶シリコンの研磨速度に対する、不純物がドープされていない多結晶シリコンの研磨速度の比(選択比)が低下する。
【0048】
該pHは、10.0以上であることが好ましく、10.5以上であることがより好ましい。一方、安全性の観点から、研磨用組成物のpHは、13.0以下であることが好ましく、12.5以下であることがより好ましく、12.0以下であることがさらに好ましく、11.5以下がさらにより好ましく、11.0以下が最も好ましい。
【0049】
なお、研磨用組成物のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製、型番:LAQUA)により測定することができる。
【0050】
本発明の研磨用組成物は、シリカ、窒素含有アルカリ化合物、および過酸化水素を必須成分とするが、これらのみによって所望のpHを得ることが難しい場合は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、pH調整剤を添加してpHを調整してもよい。
【0051】
pH調整剤は酸、および上記窒素含有アルカリ化合物以外の塩基のいずれであってもよく、また、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。pH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0052】
pH調整剤として用いられる酸の具体例としては、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸等の有機酸等が挙げられる。
【0053】
pH調整剤として使用できる塩基の具体例としては、上記の窒素含有アルカリ化合物以外の化合物が挙げられ、例えば、第1族元素の水酸化物または塩、第2族元素の水酸化物または塩、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩等が挙げられる。塩の具体例としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0054】
pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物が所望のpHとなるように適宜調整すればよい。
【0055】
[その他の成分]
本発明の研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、酸化剤、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0056】
[研磨用組成物の電気伝導度]
本発明の研磨用組成物の電気伝導度は0.25mS/cm以下であることが好ましい。この範囲であれば、シリカ表面の電気二重層が厚くなり、研磨対象物としてn型ドープトポリシリコンを含む場合、n型ドープトポリシリコンとの反発力が高まり、研磨速度が抑制され、選択比がより向上する。当該電気伝導度は、0.05mS/cm以上0.25mS/cm以下であることがより好ましい。
【0057】
研磨用組成物の電気伝導度は、窒素含有アルカリ化合物の種類および添加量を適宜選択することにより、制御することができる。また、研磨用組成物の電気伝導度は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0058】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、シリカ、窒素含有アルカリ化合物、過酸化水素、および必要に応じて他の添加剤を、分散媒(例えば、水)中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。したがって、本発明は、前記シリカ、前記窒素含有アルカリ化合物、および過酸化水素を混合する工程を含む、本発明の研磨用組成物の製造方法を提供する。
【0059】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0060】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、不純物がドープされていない多結晶シリコンと、n型不純物がドープされた多結晶シリコンと、を含む研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、不純物がドープされていない多結晶シリコンと、n型不純物がドープされた多結晶シリコンと、を含む研磨対象物を、本発明の研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。また、本発明は、不純物がドープされていない多結晶シリコンと、n型不純物がドープされた多結晶シリコンと、を含む半導体基板を前記研磨方法で研磨する工程を含む半導体基板の製造方法を提供する。
【0061】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0062】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0063】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm以上500rpm以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0064】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0065】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【実施例】
【0066】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0067】
研磨対象物として、アンドープトポリシリコン、およびリンドープトポリシリコン(ドープ量:3×1020atoms/cc)の300mmブランケットウェーハを準備した。それぞれのウェーハを60mm×60mmのチップに切断したクーポンを試験片とし、研磨試験を実施した。
【0068】
シリカの平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定されたBET法によるシリカの比表面積と、シリカの密度とから算出した。また、シリカの平均二次粒子径は、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151により測定した。
【0069】
研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製、型番:LAQUA)により確認した。
【0070】
研磨用組成物(液温:25℃)の電気伝導度(単位:mS/cm)は、卓上型電気伝導率計(株式会社堀場製作所製、型番:DS-71)を用いて測定した。
【0071】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1)
コロイダルシリカ(平均一次粒子径:35nm、平均二次粒子径:66.1nm)と、窒素含有アルカリ化合物としてL-アルギニンと、過酸化水素とを、分散媒(純水)中で攪拌混合することにより研磨用組成物を調製した(混合温度:約25℃、混合時間:約10分)。
【0072】
研磨用組成物中のコロイダルシリカの含有量は2質量%であり、過酸化水素の含有量は0.0027質量%であった。また、L-アルギニンは、研磨用組成物のpHが10.6となる量で添加した。
【0073】
(実施例2~12、比較例1~7)
窒素含有アルカリ化合物の種類、研磨用組成物のpH、および過酸化水素の含有量を下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。窒素含有アルカリ化合物は、表1に示す研磨用組成物のpHとなる量で添加した。なお、比較例1は過酸化水素を添加していない例である。
【0074】
<評価>
上記で得られた各研磨用組成物を用いて、上記の各研磨対象物を以下の研磨条件で研磨した際の研磨速度を測定した。
【0075】
(研磨装置および研磨条件)
研磨装置:小型卓上研磨機(日本エンギス株式会社製、EJ380IN)
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.25psi(1psi=6894.76Pa)
プラテン(定盤)回転数:60rpm
ヘッド(キャリア)回転数:60rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:100mL/分
研磨時間:アンドープトポリシリコンは30秒、リンドープトポリシリコンは60秒。
【0076】
(研磨速度)
研磨速度(研磨レート)は、以下の式により計算した。
【0077】
【0078】
膜厚は、株式会社SCREENセミコンダクターソリューションズ製、光干渉式膜厚測定装置 ラムダエースVM-2030によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより評価した。結果を下記表1に示す。
【0079】
【0080】
上記表1から明らかなように、実施例の研磨用組成物は、比較例の研磨用組成物に比べて、アンドープトポリシリコンの研磨速度が十分に高く、かつリンドープトポリシリコンの研磨速度に対する、アンドープトポリシリコンの研磨速度の比(選択比)が十分に高いことが分かった。特に、実施例1および2の研磨用組成物は、アンドープトポリシリコンの研磨速度と選択比とのバランスに優れていることが分かった。