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特許7409918研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法および半導体基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20231226BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231226BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20231226BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020044292
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021143311
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石黒 創之介
(72)【発明者】
【氏名】大西 正悟
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-189828(JP,A)
【文献】特開2004-031442(JP,A)
【文献】国際公開第2011/096331(WO,A1)
【文献】特開2019-119854(JP,A)
【文献】国際公開第2016/143323(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109659227(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110591565(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
H01L 21/463
B24B 3/00 - 3/60
B24B 21/00 - 39/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、添加剤と、pH調整剤と、分散媒と、を含む研磨用組成物であって、
前記砥粒のゼータ電位が、負であり、
前記添加剤が、第3級窒素原子を有する架橋二環式化合物であり、
前記添加剤の含有量が、研磨用組成物全質量に対して0質量%を超えて0.5質量%未満であり、
pHが、5未満である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記添加剤が、環形成原子として第3級窒素原子を有し、かつ炭素数6~12のアザビシクロ化合物である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記添加剤が、下記構造式(1):
【化1】

式(1)中、
Xは、それぞれ独立して、窒素原子またはCHであり、
Yは、-NH-、-NR-または-R-であり、この際、Rは、置換または非置換の炭素数1~3のアルキル基であり、Rは置換または非置換の炭素数1~3のアルキレン基であり、
nおよびmは、それぞれ独立して、0~2の整数であり、
ただし、Xのうち少なくとも一つがNであるか、またはYが-NR-である、
で表される化合物である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒の含有量が、研磨用組成物全質量に対して1質量%を超えて10質量%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記砥粒が、有機酸を表面に固定化したコロイダルシリカである、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記砥粒のゼータ電位が、-45mV以上-15mV以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
p型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む研磨対象物を研磨する用途で使用される、請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項9】
p型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む半導体基板を、請求項8に記載の研磨方法により研磨する工程を有する、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化膜(酸化ケイ素)、シリコン窒化物や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
例えば、分離領域を備えるシリコン基板の上に設けられたポリシリコン膜を研磨する技術として、特許文献1には、砥粒とアルカリと水溶性高分子と水とを含有する予備研磨用組成物を用いて予備研磨する工程と、砥粒とアルカリと水溶性高分子と水とを含有する仕上げ研磨用組成物を用いて仕上げ研磨する工程と、を備える研磨方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-103515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、半導体基板として、不純物がドープされた多結晶シリコン(ポリシリコン)を含む基板が用いられるようになり、該基板に対して研磨を行うという新たな要求が出てきている。こうした要求に対して、従来何ら検討がされていなかった。
【0006】
そこで本発明は、p型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む研磨対象物を、高い研磨速度で研磨することができる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の新たな課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を積み重ねた。その結果、砥粒と、添加剤と、pH調整剤と、分散媒と、を含む研磨用組成物であって、前記砥粒のゼータ電位が、負であり、前記添加剤が、第3級窒素原子を有する架橋二環式化合物であり、前記添加剤の含有量が、研磨用組成物全質量に対して0質量%を超えて0.5質量%未満であり、pHが、5未満である、研磨用組成物により、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、p型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む研磨対象物を、高い研磨速度で研磨することができる手段が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、p型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、砥粒と、pH調整剤と、添加剤と、分散媒と、を含む研磨用組成物であって、前記砥粒のゼータ電位が、負であり、前記添加剤が、第3級窒素原子を有する架橋二環式化合物であり、前記添加剤の含有量が、研磨用組成物全質量に対して0質量%を超えて0.5質量%未満であり、pHが、5未満である、研磨用組成物である。かような構成を有する本発明の研磨用組成物は、p型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む研磨対象物を高い研磨速度で研磨することができる。
【0010】
このような効果が得られるメカニズムは、以下の通りであると考えられる。ただし、下記メカニズムはあくまで推測であり、これによって本発明の範囲が限定されることがない。本発明の研磨用組成物には、添加剤として第3級窒素原子を有する架橋二環式化合物が含まれている。第3級窒素原子上に存在する非共有電子対は求核性を有している。よって、添加剤として求核性を有する化合物が用いられている。また、架橋二環式化合物に含まれる第3級窒素原子は、非共有電子対付近での立体障害が小さく、これにより求核性が高められていると考える。例えば、ホウ素(B)がドープされた多結晶シリコンの膜表面には、B-Si結合が形成されており、当該結合により研磨対象物の膜表面の研磨が抑制される。ここで、第3級窒素原子が有する非共有電子対は、研磨対象物の膜表面上のB原子に対して求核することにより、膜表面において形成されているB-Si結合距離を伸長するか、またはB-Si結合を切断する。これにより、研磨対象物の膜表面(すなわち、研磨面)が脆化し、砥粒による掻き取りが容易になるものと考えられる。すなわち、研磨用組成物の一成分として含まれる第3級窒素原子を有する架橋二環式化合物が、研磨対象物の膜表面に形成された化学結合に作用し、これにより、研磨用組成物に含まれる砥粒が研磨面を機械的に掻き取りやすくなり、効率的な研磨が実現できる。
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0012】
本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0013】
[研磨対象物]
本発明に係る研磨対象物は、p型不純物がドープされた多結晶シリコン(ポリシリコン)を含む。すなわち、本発明に係る研磨対象物は、p型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む研磨対象物を研磨する用途で使用される。
【0014】
多結晶シリコンにドープされるp型不純物の例としては、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)などの第13族元素が挙げられる。
【0015】
多結晶シリコンにドープされるp型不純物の含有量(ドープ量)の下限は特に制限されないが、多結晶シリコンと不純物との合計100at%に対して、2.5at%以上であることが好ましく、5at%以上であることがより好ましい。また、多結晶シリコンにドープされるp型不純物の含有量(ドープ量)の上限は特に制限されないが、多結晶シリコンと不純物との合計100at%に対して、20at%以下であることが好ましく、15at%以下であることがより好ましい。なお、多結晶シリコンにドープされるp型不純物の含有量は、多機能走査型X線光電子分光分析装置(XPS)を用いて、後述の実施例に記載の方法により算出される。
【0016】
本発明に係る研磨対象物は、p型不純物がドープされた多結晶シリコン(ポリシリコン)以外に、他の材料を含んでいてもよい。他の材料の例としては、窒化ケイ素、炭窒化ケイ素(SiCN)、酸化ケイ素、アンドープト多結晶シリコン(アンドープトポリシリコン)、アンドープト非晶質シリコン(アンドープトアモルファスシリコン)、金属、SiGe等が挙げられる。
【0017】
酸化ケイ素を含む研磨対象物の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化ケイ素面(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP膜、USG膜、PSG膜、BPSG膜、RTO膜等が挙げられる。
【0018】
上記金属としては、例えば、タングステン、銅、アルミニウム、コバルト、ハフニウム、ニッケル、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム等が挙げられる。
【0019】
[研磨用組成物]
[砥粒]
本発明の研磨用組成物は、砥粒を含む。本発明の研磨用組成物において、砥粒は、負(マイナス)のゼータ電位を有する。ここで、「ゼータ(ζ)電位」とは、互いに接している固体と液体とが相対運動を行なったときの両者の界面に生じる電位差のことである。
【0020】
本発明の研磨用組成物において、砥粒のゼータ電位は、好ましくは-60mV以上-5mV以下であるのが好ましく、-50mV以上-10mV以下であるのがより好ましく、-45mV以上-15mV以下であるのがさらに好ましく、-40mV以上-15mV以下であるのが特に好ましい。砥粒がこのような範囲のゼータ電位を有していることにより、研磨速度をより向上させることができる。
【0021】
ここで、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、研磨用組成物の希釈液をスペクトリクス社マルバーン・パナメトリクス事業部製zetasizer-nanoに供し、測定温度25℃でキャピラリーセルを用い、レーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)で測定し、得られるデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、算出する。
【0022】
本発明の研磨用組成物において、砥粒の種類としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物が挙げられる。該砥粒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。該砥粒は、それぞれ市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0023】
砥粒の種類としては、好ましくはシリカであり、より好ましくはコロイダルシリカである。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明の砥粒として好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、高純度で製造できるゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。
【0024】
ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。
【0025】
使用するコロイダルシリカの種類は特に限定されないが、例えば、表面修飾したコロイダルシリカの使用が可能である。コロイダルシリカの表面修飾は、例えば、コロイダルシリカの表面に有機酸の官能基を化学的に結合させること、すなわち有機酸の固定化により行うことができる。または、アルミニウム、チタンまたはジルコニウムなどの金属、あるいはそれらの酸化物をコロイダルシリカと混合してシリカ粒子の表面にドープさせることによりコロイダルシリカの表面修飾を行うことができる。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、研磨用組成物中に含まれるコロイダルシリカは、有機酸を表面に固定化したコロイダルシリカである。有機酸を表面に固定化したコロイダルシリカは、有機酸が固定化されていない通常のコロイダルシリカに比べて、研磨用組成物中でのゼータ電位の絶対値が大きい傾向がある。そのため、研磨用組成物中におけるコロイダルシリカのゼータ電位を負(例えば、-45mV以上-15mV以下の範囲)に調整しやすい。
【0027】
有機酸を表面に固定化したコロイダルシリカとしては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アルミン酸基等の有機酸を表面に固定化したコロイダルシリカが好ましく挙げられる。これらのうち、容易に製造できるという観点からスルホン酸、カルボン酸を表面に固定化したコロイダルシリカであるのが好ましく、スルホン酸を表面に固定化したコロイダルシリカであるのがより好ましい。
【0028】
コロイダルシリカの表面への有機酸の固定化は、コロイダルシリカと有機酸とを単に共存させただけでは果たされない。例えば、有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸を表面に固定化したコロイダルシリカ(スルホン酸修飾コロイダルシリカ)を得ることができる。
【0029】
あるいは、有機酸の一種であるカルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸を表面に固定化したコロイダルシリカ(カルボン酸修飾コロイダルシリカ)を得ることができる。
【0030】
ここで、砥粒の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱などの多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0031】
砥粒の大きさは特に制限されない。例えば、砥粒の平均一次粒子径は、5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましく、12nm以上が特に好ましい。砥粒の平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する。また、砥粒の平均一次粒子径は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、30nm以下であることがさらに好ましく、20nm以下であることが特に好ましく、15nm以下が最も好ましい。砥粒の平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いた研磨により欠陥が少ない表面を得ることが容易になる。すなわち、砥粒の平均一次粒子径は、5nm以上100nm以下であることが好ましく、8nm以上50nm以下であることがより好ましく、10nm以上30nm以下であることがさらに好ましく、12nm以上20nm以下であることが特に好ましく、12nm以上15nm以下が最も好ましい。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法から算出した砥粒の比表面積(SA)を基に、砥粒の形状が真球であると仮定して算出することができる。本明細書では、砥粒の平均一次粒子径は、実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0032】
また、砥粒の平均二次粒子径は、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましく、25nm以上であることが特に好ましい。砥粒の平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨中の抵抗が小さくなり、安定的に研磨が可能になる。また、砥粒の平均二次粒子径は、400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましく、100nm以下であることが特に好ましく、50nm以下であることが最も好ましい。砥粒の平均二次粒子径が小さくなるにつれて、砥粒の単位質量当たりの表面積が大きくなり、研磨対象物との接触頻度が向上し、研磨速度がより向上する。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、10nm以上400nm以下であることが好ましく、15nm以上300nm以下であることがより好ましく、20nm以上200nm以下であることがさらに好ましく、25nm以上100nm以下であることが特に好ましく、25nm以上50nm以下であることが特に好ましい。なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えばレーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。
【0033】
砥粒の平均会合度は、5.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましく、3.0以下であることがさらに好ましく、2.5以下であることが特に好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、欠陥をより低減することができる。砥粒の平均会合度はまた、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることがさらに好ましい。この平均会合度とは、砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度が向上する有利な効果がある。
【0034】
研磨用組成物中の砥粒のアスペクト比の上限は、特に制限されないが、2.0未満であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。なお、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡により砥粒粒子の画像に外接する最小の長方形をとり、その長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。研磨用組成物中の砥粒のアスペクト比の下限は、特に制限されないが、1.0以上であることが好ましく、1.2以上がより好ましい。
【0035】
砥粒のレーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子質量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比であるD90/D10の下限は、特に制限されないが、1.1以上であることが好ましく、1.4以上であることがより好ましく、1.7以上であることがさらに好ましく、2.0以上であることが最も好ましい。また、研磨用組成物中の砥粒における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子質量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比D90/D10の上限は特に制限されないが、3.0以下であることが好ましく、2.5以下であることがより好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥を寄り低減することができる。
【0036】
砥粒の大きさ(平均一次粒子径、平均二次粒子径、アスペクト比、D90/D10等)は、砥粒の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0037】
砥粒の含有量(濃度)は特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、0.5質量%以上であることが好ましく、0.8質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましく、1質量%を超えることがさらにより好ましく、1.5質量%以上であることが特に好ましい。また、砥粒の含有量の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましい。すなわち、砥粒の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、好ましくは0.5質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.8質量%以上20質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上15質量%以下、さらにより好ましくは1質量%を超えて10質量%以下、特に好ましくは1.5質量%以上5質量%以下である。このような範囲であれば、コストを抑えながら、研磨速度を向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量は、これらの合計量を意味する。
【0038】
[添加剤]
本発明の研磨用組成物は、添加剤として、第3級窒素原子を有する架橋二環式化合物(「ビシクロ化合物」とも称される)を含む。第3級窒素原子とは、炭素原子が3つ結合した窒素原子(N原子)を意味する。よって、架橋二環式化合物内に存在する窒素原子は、脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基と結合していることが好ましい。架橋二環式化合物において、第3級窒素原子と結合する基は、脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、アルキル基(アルキレン基)であることがさらに好ましい。架橋二環式化合物内に存在する窒素原子が第3級窒素原子であることにより、窒素原子の求核性がより高くなる。これにより、研磨用組成物により研磨を行う際に、研磨対象物の膜表面(具体的には、膜表面に形成された化学結合)に対して添加剤が効果的に作用することができる。
【0039】
ここで、架橋二環式化合物内に存在する窒素原子は、第3級窒素原子であれば、架橋環を形成する原子のひとつであってもよく、架橋環が有する置換基に含まれていてもよい。架橋二環式化合物内に存在する窒素原子は、好ましくは架橋環を形成する原子のひとつであるのが好ましい。よって、第3級窒素原子を有する架橋二環式化合物は、環内に存在する窒素原子が第3級窒素原子であるアザビシクロ化合物、すなわち、環形成原子として第3級窒素原子を有するアザビシクロ化合物であるのが好ましい。
【0040】
架橋二環式化合物が有する第3級窒素原子は、少なくとも1つあればよく、2以上であってもよい。例えば、架橋二環式化合物が、2つの第3級窒素原子を有することにより、本発明の効果がより発揮されるため好ましい。また、架橋二環式化合物は、第3級窒素原子以外の窒素原子(例えば、第2級窒素原子または第1級窒素原子)をさらに有していてもよい。
【0041】
第3級窒素原子を有する架橋二環式化合物としては、炭素数5~15であるのが好ましく、炭素数6~12であるのがより好ましく、炭素数6~10であるのがさらに好ましく、炭素数6~8であるのが特に好ましい。すなわち、より好ましい実施形態において、本発明で用いられる添加剤は、第3級窒素原子を有し、かつ炭素数6~12(さらに好ましくは炭素数6~10、特に好ましくは6~8)の架橋二環式化合物である。また、さらに好ましい実施形態において、本発明で用いられる添加剤は、環形成原子として第3級窒素原子を有し、かつ炭素数6~12(さらに好ましくは炭素数6~10、特に好ましくは6~8)のアザビシクロ化合物である。
【0042】
本発明で用いられる添加剤は、好ましい実施形態において、下記構造式(1)で表される。
【0043】
【化1】
【0044】
上記式(1)中、
Xは、それぞれ独立して、窒素原子またはCHであり、
Yは、-NH-、-NR-または-R-であり、この際、Rは、置換または非置換の炭素数1~3のアルキル基であり、Rは置換または非置換の炭素数1~3のアルキレン基であり、
nおよびmは、それぞれ独立して、0~2の整数であり、
ただし、Xのうち少なくとも一つがNであるか、またはYが-NR-である。
【0045】
ここで、RおよびRの基が置換基を有する場合、置換基は、ハロゲン(フッ素、塩素または臭素)、-NR(RおよびRは、それぞれ独立して、水素または炭素数1~3のアルキル基)、または炭素数1~3のアルキル基である。
【0046】
式(1)において、炭素数1~3のアルキル基は、直鎖または分岐であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、またはイソプロピル基である。Rとしては、好ましくはメチル基である。式(1)において、炭素数1~3のアルキレン基は、直鎖または分岐であってもよく、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基(-CHCHCH-)、またはプロピレン基(-CHCH(CH)-)である。Rとしては、好ましくはメチレン基、エチレン基である。式(1)において、nおよびmは、それぞれ独立して、0、1または2である。
【0047】
好ましい実施形態では、式(1)において、Xは、それぞれ独立して、窒素原子またはCHであり、Yは、-NH-、-N(CH)-、-CH-、または-CHCH-であり、nおよびmは、それぞれ独立して、0~2の整数であり、ただし、Xのうち少なくとも一つがNであるか、またはYが-N(CH)-である。
【0048】
式(1)で表される化合物としては、例えば、下記化合物が例示できる。
【0049】
【化2】
【0050】
上記式(1-1)で表される化合物は1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(別名:トリエチレンジアミン)であり、上記式(1-2)で表される化合物は1-アザビシクロ[2.2.2]オクタン(別名:キヌクリジン)である。また、上記式(1-3)で表される化合物は1-アザビシクロ[3.2.2]ノナン(別名:ホモキヌクリジン)であり、上記式(1-4)で表される化合物は9-メチル-9-アザビシクロ[3.3.1]ノナン(別名:グラナタン)である。これら架橋二環式化合物の中でも、研磨速度を向上する目的から、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンおよび1-アザビシクロ[2.2.2]オクタンから選択される少なくとも1種が好ましい。
【0051】
添加剤の含有量(濃度)は、研磨用組成物全質量(研磨用組成物の総質量)に対して、0質量%を超えて0.5質量%未満である。このような範囲であれば、研磨速度を向上させることができる。また、添加剤の含有量は、研磨用組成物の総質量に対して、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.03質量%以上であることがさらに好ましく、0.06質量%以上であることが特に好ましい。また、添加剤の含有量の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、0.45質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以下であることがより好ましく、0.25質量%以下であることがさらに好ましく、0.2質量%以下であることが特に好ましい。すなわち、添加剤の含有量は、研磨用組成物に対して、好ましくは0.001質量%以上0.45質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上0.3質量%以下、さらに好ましくは0.03質量%以上0.25質量%以下、特に好ましくは0.06質量%以上0.2質量%以下である。このような範囲であれば、コストを抑えながら、研磨速度を向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の添加剤を含む場合には、添加剤の含有量は、これらの合計量を意味する。
【0052】
[pHおよびpH調整剤]
本発明の研磨用組成物のpHは5未満である。仮に、pH5以上となると、研磨対象物の研磨速度を向上させることができない。本発明の研磨用組成物のpHは5未満であればよいが、好ましくはpH4.9以下であり、より好ましくはpH4.5以下であり、さらに好ましくはpH4以下であり、特に好ましくはpH3以下、もっとも好ましくはpH2.5以下である。pHが5未満であると、研磨対象物、特にp型不純物を含む多結晶シリコンの研磨速度が向上する有利な効果がある。pHの下限は、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。
【0053】
本発明の研磨用組成物は、pH調整剤を含む。pH調整剤は、研磨用組成物のpHを所望の値に調整する。
【0054】
本発明の研磨用組成物に含まれるpH調整剤は、無機酸、有機酸、アルカリ等がある。これらは1種単独でもまたは2種以上を組み合わせて使ってもよい。
【0055】
pH調整剤として使用できる無機酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸が挙げられる。なかでも好ましいのは、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸である。
【0056】
pH調整剤として使用できる有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸およびフェノキシ酢酸が挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸を使用してもよい。なかでも好ましいのは、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸および酒石酸のようなジカルボン酸、ならびにクエン酸のようなトリカルボン酸である。
【0057】
無機酸または有機酸の代わりにあるいは無機酸または有機酸と組み合わせて、無機酸または有機酸のアルカリ金属塩等の塩をpH調整剤として用いてもよい。弱酸と強塩基、強酸と弱塩基、または弱酸と弱塩基の組み合わせの場合には、pHの緩衝作用を期待することができる。
【0058】
pH調整剤として使用できるアルカリの具体例としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。pH調整剤の含有量は、本発明の効果を奏する範囲内で適宜調整することによって選択することができる。
【0059】
なお、研磨用組成物のpHは、例えばpHメータにより測定することができる。具体的には、pHメータ(例えば、株式会社堀場製作所製、型番:LAQUA)等を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより、研磨用組成物のpHを測定することができる。
【0060】
[分散媒]
本発明の研磨用組成物は、各成分を分散するための分散媒を含む。分散媒としては、水;メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトン等のケトン類等や、これらの混合物などが例示できる。これらのうち、分散媒としては水が好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態によると、分散媒は水を含む。本発明のより好ましい形態によると、分散媒は実質的に水からなる。なお、上記の「実質的に」とは、本発明の目的効果が達成され得る限りにおいて、水以外の分散媒が含まれ得ることを意図し、より具体的には、好ましくは90質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上10質量%以下の水以外の分散媒とからなり、より好ましくは99質量%以上100質量%以下の水と0質量%以上1質量%以下の水以外の分散媒とからなる。最も好ましくは、分散媒は水である。
【0061】
研磨用組成物に含まれる成分の作用を阻害しないようにするという観点から、分散媒としては、不純物をできる限り含有しない水が好ましく、具体的には、イオン交換樹脂にて不純物イオンを除去した後、フィルタを通して異物を除去した純水や超純水、または蒸留水がより好ましい。
【0062】
[その他の成分]
本発明の研磨用組成物は、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、酸化剤、錯化剤、防腐剤、防カビ剤等の、研磨用組成物に用いられ得る公知の添加剤を、必要に応じてさらに含有してもよい。
【0063】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、添加剤、pH調整剤、および必要に応じて他の成分を、分散媒(例えば、水)中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。したがって、本発明は、前記砥粒、前記添加剤、前記pH調整剤および前記分散媒を混合する工程を含む、本発明の研磨用組成物の製造方法を提供する。
【0064】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0065】
[研磨方法および半導体基板の製造方法]
上述のように、本発明の研磨用組成物は、p型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、p型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む研磨対象物を、本発明の研磨用組成物で研磨する研磨方法を提供する。また、本発明は、p型不純物がドープされた多結晶シリコンを含む半導体基板を前記研磨方法で研磨する工程を含む半導体基板の製造方法を提供する。
【0066】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0067】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0068】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm以上500rpmが好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0069】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0070】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【実施例
【0071】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
【0072】
<研磨用組成物の調製>
(表面修飾コロイダルシリカの準備)
コロイダルシリカとして、平均一次粒子径13.5nm、平均二次粒子径31.0nm、平均会合度2.3、D90/D10:2.3(D90:44nm、D10:19nm)のスルホン酸修飾コロイダルシリカを、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で作製したものを準備した。なお、スルホン酸修飾コロイダルシリカの平均一次粒子径、平均二次粒子径は、下記砥粒の粒子径の測定方法に従って測定した。
【0073】
(実施例1)
砥粒として上記で得られたスルホン酸修飾コロイダルシリカ(コロイダルシリカ;平均一次粒子径:13.5nm、平均二次粒子径:31.0nm、平均会合度:2.3、D90/D10:2.3)を4質量%、添加剤としてトリエチレンジアミンを0.1質量%の最終濃度となるように、それぞれ分散媒である純水に室温(25℃)で加え、混合液を得た。
【0074】
その後、混合液にpH調整剤としてマレイン酸を、pHが2.3となるように添加し、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメータ(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した。また、得られた研磨用組成物中のスルホン酸修飾コロイダルシリカのゼータ電位を、下記砥粒のゼータ電位の測定方法により測定したところ、-27.8mVであった。研磨用組成物に用いた添加剤であるトリエチレンジアミンは、第3級窒素原子を有している。なお、研磨用組成物中の砥粒(スルホン酸修飾コロイダルシリカ)の粒子径は、用いた砥粒の粒子径と同様であった。
【0075】
測定方法
[砥粒のゼータ電位]
得られた研磨用組成物を、砥粒濃度が0.01質量%になるように希釈し、この研磨用組成物の希釈液をゼータ電位測定装置(スペクトリクス社マルバーン・パナメトリクス事業部製zetasizer-nanoに供し、測定温度25℃でキャピラリーセルを用い、レーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定を行った。得られたデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、砥粒のゼータ電位を算出した。
【0076】
[砥粒の粒子径]
砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒の平均二次粒子径は、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151により測定した。
【0077】
(実施例2~11、比較例1~16、参考例1、2)
添加剤の種類と含有量、砥粒の種類と含有量、およびpH(pH調整剤の含有量)を下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~11、比較例1~16、参考例1、2の各研磨用組成物を調製した。なお、下記表1および表2において「-」と表示されているものは、その剤を含んでいないことを示す。得られた各研磨用組成物のpH、各研磨用組成物中のスルホン酸修飾コロイダルシリカまたは未修飾コロイダルシリカの平均二次粒子径、ゼータ電位は、下記表1および表2に示す。
【0078】
<評価>
上記で得られた各研磨用組成物を用いて、下記の研磨対象物のいずれかに対して、以下の研磨条件で研磨した際の研磨速度を測定した。
【0079】
(研磨装置および研磨条件)
研磨装置:日本エンギス株式会社製 ラッピングマシーン EJ-380IN-CH
研磨パッド:ニッタ・ハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:3.0psi(1psi=6894.76Pa)
研磨定盤回転数:60rpm
ヘッド(キャリア)回転数:60rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:100mL/分
研磨時間:60秒。
【0080】
(研磨対象物)
研磨対象物は、以下の300mmブランケットウェーハを準備した。それぞれのウェーハを30mm×30mmのチップに切断したクーポンを試験片とし、研磨試験を実施した。試験に用いた研磨対象物の詳細を下記に示す。なお、不純物の含有量(ドープ量)は、ポリシリコンおよび不純物の合計100at%に対する量である。
・p型不純物がドープされたポリシリコン
(1)ホウ素ドープトポリシリコン(ホウ素含有量:11.5at%)
(2)アルミニウムドープトポリシリコン(アルミニウム含有量:10at%)
なお、多結晶シリコンにドープされるp型不純物の含有量は、下記機器を用いて下記条件により算出される。
【0081】
測定機器;多機能走査型X線光電子分光分析装置(XPS)
機器名および製造会社:PHI5000 Versa Probe アルバック・ファイ株式会社製
測定:ホウ素ドープトポリシリコンの場合、測定元素はホウ素、シリコン、酸素、炭素の4種類であり、測定機器のsweep回数は各元素とも10回とし、そのポリシリコンの出力値(Poly-Si出力値;すなわち、Si、OおよびCの合計出力値)とホウ素の出力値(B出力値)とを用いて、下記式(i)によりポリシリコンとホウ素との合計100at%に対するホウ素の含有量(B含有量)(at%)を算出した。
【0082】
式(i)
B含有量(at%)=B出力値(%)/(Poly-Si出力値(%)+B出力値(%))。
【0083】
なお、アルミニウムドープトポリシリコンの場合、測定元素はアルミニウム、シリコン、酸素、炭素の4種類とし、上記式(i)のB出力値(%)をアルミニウムの出力値(Al出力値)に変えた以外は、その他の条件等はホウ素ドープトポリシリコンと同様にして、ポリシリコンとアルミニウムとの合計100at%に対するアルミニウムの含有量(Al含有量)(at%)を算出した。
【0084】
各研磨用組成物の評価に用いた研磨対象物は、表1および表2に示した。なお、表1および表2中、研磨対象物にドープされた不純物を「ポリシリコンのドープ種」の欄にしめした。ポリシリコンのドープ種がホウ素の場合は上記(1)のホウ素ドープトポリシリコンを示し、アルミニウムの場合は上記(2)のアルミニウムドープトポリシリコンを示す。
【0085】
(研磨速度)
研磨速度(研磨レート)は、以下の式により計算した。
【0086】
【数1】
【0087】
膜厚は、株式会社SCREENセミコンダクターソリューションズ製、光干渉式膜厚測定装置 ラムダエースVM-2030によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより評価した。結果を下記表1および表2に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
表1に示すように、実施例1~11の研磨用組成物を用いた場合、研磨速度が40Å/minを超え、比較例1~16の研磨用組成物と比べてp型不純物がドープされた多結晶シリコンを高い研磨速度で研磨できることがわかった。
【0091】
比較例10の結果から、研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位がプラスの場合、研磨用組成物中の砥粒が凝集してしまい、研磨用組成物として好適でないことがわかった。また、比較例11の結果から、添加剤として第3級窒素原子を有する架橋二環式化合物を用いた場合であっても、添加剤の含有量が研磨用組成物全質量に対して0.5質量%以上となると、研磨用組成物中の砥粒が凝集してしまい、研磨用組成物として好適でないことがわかった。
【0092】
実施例1および2と、比較例12および13とを比較することにより、添加剤として用いた架橋二環式化合物の有する窒素原子が第3級窒素原子であることによってp型不純物がドープされた多結晶シリコンを高い研磨速度で研磨できることがわかる。
【0093】
このことから、砥粒のゼータ電位が負であり、第3級窒素原子を有する架橋二環式化合物を0.5質量%未満で含むpH5未満の研磨用組成物により、p型不純物がドープされた多結晶シリコンの研磨速度が向上することがわかる。