(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】細胞内構成物質の抽出方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/10 20060101AFI20231226BHJP
C12M 1/00 20060101ALN20231226BHJP
【FI】
C12N15/10 100Z
C12M1/00 A
(21)【出願番号】P 2020070743
(22)【出願日】2020-04-10
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】杉本 悠
(72)【発明者】
【氏名】酒井 香苗
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-202778(JP,A)
【文献】特開2010-110234(JP,A)
【文献】特表2015-514997(JP,A)
【文献】剣菱 浩,ゴムのガス透過性 わかりやすいゴムの物性(12),ゴム技術者のための入門講座(III),1980年,第53巻、第12号,719-727
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12M 1/00- 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のウェルを有する本体部と、
水蒸気透過性を有し、前記ウェルの開口を塞ぐ蓋部と、を備えた器具を用いた細胞内構成物質の抽出方法であって、
微生物を含む培養液を前記ウェルに入れ、
前記開口を前記蓋部で覆った状態で、前記ウェル内の前記培養液の溶媒を蒸発させ、
前記蓋部を外して、前記ウェル内に酵素液を添加し、
前記開口を前記蓋部で覆い、所定時間置いた後に、前記蓋部を外して、前記細胞内構成物質を抽出する、細胞内構成物質の抽出方法。
【請求項2】
前記蓋部は、シリコーン樹脂を主成分とする、請求項1に記載の細胞内構成物質の抽出方法。
【請求項3】
前記本体部は、シリコーン樹脂を主成分とする、請求項1又は請求項2に記載の細胞内構成物質の抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞内構成物質の抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多様な微生物から有用な微生物を探索することが行われている。この場合に、培養後に有用な微生物の遺伝子を解析するため、DNA等の細胞内構成物質を抽出する必要がある。
従来、DNA等の細胞内構成物質を抽出する方法としては、例えば、非特許文献1に開示されている物理破砕を用いた方法、非特許文献2に開示されている熱を用いた方法、非特許文献3に開示されている電気穿孔を用いた方法が知られている。
非特許文献1では、ナノ粒子と微生物を混合し振動させて溶菌している。非特許文献2では、微生物を95℃で加熱して溶菌している。非特許文献3では、微生物にDC 8kVの電圧をかけて溶菌している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Biosens.Bioelectron.,2018,v99,p62
【文献】Lab Chip,2004,v4,p516
【文献】Electrophoresis,2011,v32,p3172
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の方法は、細胞内構成物質の抽出効率が必ずしも十分でなく、新規な抽出方法が求められていた。
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、細胞内構成物質を効率よく抽出できる抽出方法を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕複数のウェルを有する本体部と、
ガス透過性を有し、前記ウェルの開口を塞ぐ蓋部と、を備えた器具を用いた細胞内構成物質の抽出方法であって、
微生物を含む培養液を前記ウェルに入れ、
前記開口を前記蓋部で覆った状態で、前記ウェル内の前記培養液の溶媒を蒸発させ、
前記蓋部を外して、前記ウェル内に酵素液を添加し、
前記開口を前記蓋部で覆い、所定時間置いた後に、前記蓋部を外して、前記細胞内構成物質を抽出する、細胞内構成物質の抽出方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示の抽出方法によれば、効率的に細胞内構成物質を抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】器具(マイクロチャンバー)の一例を示す斜視図である。
【
図11】器具(マイクロチャンバー)の一例を示す断面図である。
【
図12】器具(マイクロチャンバー)の使用方法の一例を示す側面図である。
【
図17】各種抽出方法によるDNA回収量を示すグラフである。
【
図18】各種微生物を用いた場合のDNA回収量を示すグラフである。
【
図19】実験BにおけるウェルIDと菌体(微生物)の配置を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
ここで、本開示の望ましい例を示す。
〔2〕前記蓋部は、シリコーン樹脂を主成分とする、〔1〕に記載の細胞内構成物質の抽出方法。
蓋部の主成分がシリコーン樹脂であると、蓋部を通して溶媒の除去がしやすくなる。
〔3〕前記本体部は、シリコーン樹脂を主成分とする、〔1〕又は〔2〕に記載の細胞内構成物質の抽出方法。
本体部の主成分がシリコーン樹脂であると、本体部を通しても溶媒の除去が行える。
【0009】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0010】
1.細胞内構成物質1の抽出方法
細胞内構成物質1の抽出方法は、複数のウェル3を有する本体部5と、ウェル3の開口を塞ぐ蓋部7と、を備えた器具9を用いる(
図1,11参照)。蓋部7は、ガス透過性(水蒸気透過性)を有する。器具9は、マイクロチャンバー(マイクロデバイス)とも呼ばれる。
細胞内構成物質1の抽出方法は、以下の工程を少なくとも備える。なお、細胞内構成物質1とは、細胞内に存在する物質である。例えば、DNA、RNA、タンパク質が例示される。
〔1〕微生物21を含む培養液23をウェル3に入れる第1工程(
図2参照)。この際にウェル3毎に異なる種類の微生物21を入れてもよい。ウェル3毎に異なる種類の微生物21を入れれば、一度の実験で、複数種の微生物21の細胞内構成物質1を抽出できる。
〔2〕開口を蓋部7で覆った状態で、ウェル3内の培養液23の溶媒を蒸発させる第2工程(
図3,4参照)。
図3における矢印は水蒸気を示している(以下の
図7でも同様である)。第2工程で溶媒を蒸発させることで、ウェル3内に酵素液25を受け入れるスペースを十分に確保できる。仮に溶媒を蒸発させないと、第3工程で所定量の酵素液25を入れた際に、酵素液25がウェル3から溢れてしまい、隣接するウェル3間で内容物が混ざるおそれがある。すなわち、各ウェル3が異なる内容物の場合には、隣接するウェル3間でのコンタミネーションの原因となる可能性がある。
なお、第2工程の際に器具9は、例えば常温(15℃~30℃)の環境下に静置される。
〔3〕蓋部7を外して、ウェル3内に酵素液25を添加する第3工程(
図5,6参照)。
〔4〕開口を蓋部7で覆い、所定時間(例えば20分~2時間)置いた後に、蓋部7を外して、細胞内構成物質1を抽出する第4工程(
図7~10参照)。この工程では、酵素(例えば消化酵素)によって微生物の溶菌反応が起きて、細胞内構成物質1が細胞外へ出てくる。なお、第4工程の際に器具9は、例えば常温(15℃~30℃)の環境下に静置される。
この第4工程では、
図7に示すように、酵素液25の溶媒を蒸発させてもよい。
第4工程では、
図9に示すように細胞内構成物質1を乾燥した状態で取り出してもよいが、
図10に示すようにウェル3内に溶媒31(例えば水)を更に入れて、細胞内構成物質1を含有する液体とし、この液体を取り出してもよい。ウェル3内に溶媒31を加えて液体とすることで、細胞内構成物質1を抽出しやすくなる。
【0011】
なお、第2,4工程では、
図12に示すように、蓋部7を被せた本体部5を、一対の板状体41(例えばアクリル板)で挟み込んでもよい。このようにすることで、蓋部7が本体部5から外れることを防止できる。なお、板状体41を用いる場合には、
図12に示すように、蓋部7と板状体41との間に不織布43を挟むことが望ましい。不織布43を挟むことで、蓋部7と板状体41との間に隙間ができるため、溶媒の除去が効率的に行える。
【0012】
ここで、各用語について詳細に説明する。
(1)器具9
器具9は、複数のウェル3を有する本体部5と蓋部7とを備える。本体部5は、例えば、複数の窪みたるウェル3を有する平板状部材である。
(1.1)本体部5
本体部5の材質は、特に限定されない。材質としては、例えば、シリコーン樹脂が主成分として好適に用いられる。ここで、主成分とは、含有率(質量%)が50質量%以上の物質をいう。シリコーン樹脂は、特に制限されないが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、ポリメチルメトキシシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン等が好ましい。これらのシリコーン樹脂は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ポリジメチルシロキサン(PDMS)が好ましい。ポリジメチルシロキサンは、ガス透過性を有しており、水蒸気が透過するから、前記第2工程においてウェル3内の溶媒(水)を蒸発させるために好都合だからである。
【0013】
本体部5の平面形状及び大きさは、特に限定されない。
本体部5の厚みt(
図11参照)は、特に限定されない。
本体部5の厚みtは、ウェル3の深さを十分に確保する観点から、350μm以上が好ましく、400μm以上がより好ましく、450μm以上が更に好ましい。他方、本体部5の厚みtは、取扱い性及び生産性の観点から、5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましく、2mm以下が更に好ましい。これらの観点から、本体部5の厚みtは、350μm~5mmが好ましく、400μm~3mmより好ましく、450μm~2mmが更に好ましい。
【0014】
ウェル3の平面形状及び大きさは、特に限定されない。
ウェル3の平面形状は、例えば円形、矩形等を採用することができる。
【0015】
ウェル3の大きさは、その平面形状が円形の場合には、ウェル3に入る微生物の量を十分に確保する観点から、径3A(
図11参照)は350μm以上が好ましく、500μm以上がより好ましい。他方、ウェル3の大きさは、ウェル3を高密度に配置するの観点から、径3Aは1200μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましい。これらの観点から、ウェル3の大きさは、その平面形状が円形の場合には、径3Aは350μm~1200μmが好ましく、500μm~1000μmがより好ましい。
【0016】
ウェル間距離3B(
図11参照)は、特に限定されない。ウェル間距離3Bとは、隣合うウェル3同士の最短の直線距離を意味する。
ウェル間距離3Bは、隣接するウェル3間でコンタミネーション抑制の観点から、200μm~1000μmが好ましい。
【0017】
ウェル3の深さ3C(
図11参照)は、特に限定されない。
ウェル3の深さ3Cは、ウェル3内に十分な培養液23を内包する観点から、40μm以上が好ましく、60μm以上がより好ましく、80μm以上が更に好ましい。他方、ウェル3の深さ3Cは、深すぎて培養液23、酵素液25等を入れにくくなることを抑制する観点から、160μm以下が好ましく、140μm以下がより好ましく、120μm以下が更に好ましい。これらの観点から、ウェル3の深さ3Cは、40μm~160μmが好ましく、60μm~140μmがより好ましく、80μm~120μmが更に好ましい。
【0018】
ウェル3の容量は、特に限定されない。1つのウェル3の容量は、各ウェル3から十分な量の細胞内構成物質1を回収する観点から、30nL~100nLが好ましく、40nL~70nLがより好ましい。
【0019】
1つの本体部5におけるウェル3の個数は、特に限定されず、本体部5の大きさ等に応じて適宜選択される。
【0020】
(1.2)蓋部7
蓋部7は、ウェル3の開口を塞ぐものであり、例えば、平板状部材とされている。
蓋部7の材質は、ガス透過性(水蒸気透過性)を有するものであれば特に限定されない。材質としては、例えば、シリコーン樹脂が主成分として好適に用いられる。ここで、主成分とは、含有率(質量%)が50質量%以上の物質をいう。シリコーン樹脂は、特に制限されないが、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、ポリメチルメトキシシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン等が好ましい。これらのシリコーン樹脂は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。ポリジメチルシロキサン(PDMS)が好ましい。ポリジメチルシロキサンは、ガス透過性を有しており、水蒸気が透過するから、前記第2工程においてウェル3内の溶媒(水)を蒸発させるために好都合だからである。
【0021】
蓋部7の厚み7A(
図11参照)は、特に限定されない。
蓋部7の厚み7Aは、第2工程においてウェル3内の溶媒(水)を蒸発させやすくする観点から、100μm~700μmが好ましく、200μm~600μmがより好ましい。
【0022】
2.本実施形態の効果
本実施形態の抽出方法によれば、効率的に細胞内構成物質1を抽出できる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により更に具体的に説明する。
【0024】
<実験A>
以下の実験では、本開示の抽出方法(実施例1)、熱による抽出方法(比較例1)、電気穿孔による抽出方法(比較例2)、ビーズによる抽出方法(比較例3)をそれぞれ行い、抽出されたDNA量を比較した。なお、各方法の概念を
図13~16で示す。
図13は、本開示の抽出方法(実施例1)を示している。
図14は、熱による抽出方法(比較例1)を示している。
図15は、電気穿孔による抽出方法(比較例2)を示している。
図16は、ビーズによる抽出方法(比較例3)を示している。なお、
図13の符号43は酵素を示し、
図16の符号45はビーズを示している。
【0025】
1.実験方法
(1)試薬
リン酸緩衝食塩水タブレットはSigma Aldrichから購入した。これを純水に溶解させることで、2.7mM 塩化カリウムと137mM塩化ナトリウムを含む10mMリン酸緩衝食塩水(pH 7.4、これ以降PBS(-)と略記)を調製した。エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二水素二ナトリウム水和物はナカライテスクから購入した。1mM EDTAを含む10mMトリス緩衝液(pH 8.0、これ以降TE Bufferと略記)はニッポン・ジーンから購入した。クエン酸、クエン酸3ナトリウム、リゾチーム、アクロモペプチダーゼは富士フィルムから購入した。ラビアーゼはコスモバイオから購入した。リゾチーム、アクロモペプチダーゼの10mg mL-1ストック溶液はTE bufferを用いて調製した。ラビアーゼの10mg mL-1ストック溶液は1mM EDTAを含む10mMクエン酸緩衝液(pH 4.0)を用いて作成した。酵素による溶菌を用いた本開示の抽出方法では、実験直前にこれらのストック溶液をTE bufferで希釈し、リゾチーム溶液(200μg mL-1)、もしくはリゾチーム、アクロモペプチダーゼ、ラビアーゼの混合溶液(それぞれ200μg mL-1)を作製した。
【0026】
(2)微生物の培養
Escherichia coli(ATCC 25922)はLB培地にて37℃で振とう培養した。Acinetobacter radioresistens(NBRC 102413)、Bacillus subtilis subsp. subtilis(NBRC 13719)、Pseudomonas putida(NBRC 14164)はMedium No.702(ハイポリペプトン10g、酵母エキス2g、MgSO4・7H2O 1g、蒸留水1L、pH 7.0)にて30℃で振とう培養した。Staphylococcus(NBRC 100911)はMedium No.702で37℃にて振とう培養した。Streptomyces kanamyceticus(NBRC No.13414)はIsp Medium No.2(酵母エキス4g、麦芽エキス10g、グルコース4g、蒸留水1L、pH 7.3)にて28℃で振とう培養した。培養後、各菌体液を1,000×g、5minで遠心した。遠心後、上清を捨てPBS(-)を1mL加えて懸濁した。懸濁後、1,000×g、10minで遠心した。遠心後、上清を捨て、菌体の湿重量1mgに対してPBS(-)を1μL加えて懸濁し、各菌体の溶菌サンプルとした。
【0027】
(3)標準DNA試料の作製
各微生物を上述の手順で培養、遠心し、湿重量50~100mgを得た。この菌体を微生物破砕・精製キット(ZYMO RESEARCH, Quick-DNA Fungal/Bacterial Kit(D6005))にアプライし、DNAを抽出・精製した。精製したDNAの濃度(cDNA)は260nmの吸光度(Abs260)を測定し、以下の式を用いて算出した。
cDNA (ngμL-1)=Abs260×50
このDNAを標準DNA試料とした。これをTE bufferで希釈し、qPCRの検量線作成のための希釈系列(10ngμL-1、1ngμL-1、0.1ngμL-1、0.01ngμL-1、0.001ngμL-1)とした。
【0028】
(4)qPCR測定
各微生物の遺伝子に特異的なプライマーを作製した。Streptomycesの場合、作成したプライマー、測定サンプル、TAKARA,TB Green Premix Ex Taq GC (Perfect Real Time)を用い、溶液量20μLとしてqPCR測定を行った。Streptomyces以外の微生物の場合、作成したプライマー、測定サンプル、TAKARA,TB Green Premix Ex Taq II (Tli RNaseH Plus)を用い、溶液量20μLとしてqPCR測定を行った。検量線は標準DNAの希釈系列をサンプルとすることで作成した。
【0029】
(5)各実験に用いた器具
実施例1、比較例1、比較例3では、本体部5と蓋部7とを備えた器具9(マイクロチャンバー)を用いた。ウェル3のサイズ等を以下に示す。ウェル3の平面形状は、全て円形とした。これらの器具9(マイクロチャンバー)は、全てポリジメチルシロキサンにより作製した。
【0030】
【0031】
比較例2では、厚さ300μmのポリジメチルシロキサン製のシートを用いた。このシートには、直径500μmの円形の貫通孔が500μmの間隔で形成されている。このシートを2枚の白金電極で挟むことでチャンバとした。
【0032】
(6)実施例1の実験方法(酵素による溶菌)
本体部5(PDMS製)のウェル3に菌体液を50μLアプライし、すべてのウェル3を覆うように広げた後、PDMS片(25mm×25mm、厚み2mm程度)を用いて本体部5表面をワイプし余分な菌体液を除去した(第1工程)。この本体部5に蓋部7(PDMS製)を被せた状態にて常温で30min静置し、菌体液に含まれる水分を蒸発させた(第2工程)。水分を蒸発後、蓋部7を外して、ウェル3内に酵素溶液(リゾチーム溶液(200μg mL-1)、もしくはリゾチーム、アクロモペプチダーゼ、ラビアーゼ混合溶液(それぞれ200μg mL-1))を200μLアプライし、すべてのウェル3を覆うように広げた(第3工程)。蓋部7(PDMS製)を被せた状態で、常温で20minの酵素反応を進めた後、蓋部7を取り外した。その後、本体部5に純水200μLをアプライし、本体部5上でピペッティングしてDNAを回収した(第4工程)。回収した液体を10,000×g、1min遠心し、上清を回収、そこに含まれるDNA量をqPCR測定により決定した。
【0033】
(7)比較例1の実験方法(熱による溶菌)
本体部5(PDMS製)のウェル3に菌体液を50μLアプライし、すべてのウェル3を覆うように広げた後、PDMS片(25mm×25mm、厚み2mm程度)を用いて本体部5表面をワイプし余分な菌体液を除去した。この本体部5をホットプレートにて98℃、10min間加熱した。加熱後、本体部5に純水200μLをアプライし、本体部5上でピペッティングしてDNAを回収した。回収した液体を10,000×g、1min遠心し、上清を回収、そこに含まれるDNA量をqPCR測定により決定した。
【0034】
(8)比較例2の実験方法(電気穿孔による抽出方法)
貫通孔が形成された上述のポリジメチルシロキサン製のシートを用いた。ガラスに白金をスパッタしたものを電極とした。シートを白金電極にのせ、そこに菌体液を50μLアプライし、すべての穴を覆うように広げた後、もう一枚の白金電極で蓋をした。あふれた菌体液は除去した。これをクランプで固定し、電極間に100V、1s印加した。電圧印加後、クランプ、白金電極を取り外し、シートに純水200μLをアプライし、シート上でピペッティングしてDNAを回収した。回収した液体を10,000×g、1min遠心し、上清を回収、そこに含まれるDNA量をqPCR測定により決定した。
【0035】
(9)比較例3の実験方法(ビーズによる抽出方法)
本体部5(PDMS製)のウェル3に直径50μmのジルコニア製のビーズ45をアプライした。すべてのウェル3にビーズ45を入れた後、本体部5を裏返し、余分なビーズ45を振り落とした。ウェル3とウェル3の間の表面に付着したジルコニアのビーズ45はテープで除去した。ビーズ45を入れたウェル3に菌体液を50μLアプライし、すべてのウェル3(穴)を覆うように広げた。その後、PDMS片(20mm×20mm、厚み2mm程度)を蓋部7として押しつけるように本体部5に被せた。PDMS片を押しつけた際にあふれた菌体液は除去した。本体部5と蓋部7とを厚さ1mmのガラス板2枚で挟みクランプで固定した。これをボルテックスミキサーで20min間振とうした。その後、クランプ、ガラス板、蓋部7を取り外した。その後、ウェル3に純水200μLをアプライし、本体部5上でピペッティングしてDNAを回収した。回収した液体を10,000×g、1min遠心し、上清を回収、そこに含まれるDNA量をqPCR測定により決定した。
【0036】
2.実験結果
(1)各種抽出方法によるDNA回収量
微生物として、E.coliを用いた結果を
図17に示す。実施例1では酵素としてリゾチームを用いた場合の結果が示されている。
図17より、実施例1は、比較例1~3よりもDNAの回収量(抽出量)が多いことが確認された。
【0037】
(2)各種微生物を用いた場合のDNA回収量
実施例1において、6種類の異なる微生物を用いた場合のDNA回収量を検討した。
図18に結果を示す。いずれの微生物の場合においても、
図17の比較例1~3よりもDNAの回収量(抽出量)が多いことが確認された。
【0038】
3.実施例の効果
本実施例の抽出方法によれば、従来法よりもDNA等の細胞内構成物質を効率よく抽出できる。この抽出方法は、グラム陽性菌及びグラム陰性菌の種類を問わず、幅広い微生物に適用可能である。
【0039】
<実験B>
この実験では、本開示の器具9を用いた細胞内構成物質1の抽出方法において、各ウェル3毎にそれぞれ異なる微生物を含む培養液を入れた場合に、クロスコンタミネーションが抑制されることを確認した。
この実験では、
図19に示すように、隣接する複数の(5つの)ウェル3に対して、別々の微生物を含む培養液(菌体液(OD660=1.0))をアプライした。各ウェル3のウェル間距離3Bは、450μmとした。ウェル3は平面形状が円形であり、径が750μmとした。
各ウェル3には、ウェルIDを付している。各ウェル3には、次の微生物を含む培養液をアプライした。
ウェルID 1:Pseudomonas
ウェルID 2:Bacillus
ウェルID 3:Staphylococcus
ウェルID 4:Acinetobacter
ウェルID 5:E.coli
【0040】
実験方法を次に示す。本体部5(PDMS製)のウェル3にそれぞれの菌体液を50μLアプライし、すべてのウェル3を覆うように広げた後、PDMS片(25mm×25mm、厚み2mm程度)を用いて本体部5表面をワイプし余分な菌体液を除去した(第1工程)。この本体部5に蓋部7(PDMS製)を被せた状態にて常温で30min静置し、菌体液に含まれる水分を蒸発させた(第2工程)。水分を蒸発後、蓋部7を外して、ウェル3内にリゾチーム、アクロモペプチダーゼ、ラビアーゼ混合溶液(それぞれ200μg mL-1)を200μLアプライした(第3工程)。蓋部7(PDMS製)を被せた状態で、常温で20minの酵素反応を進めた後、蓋部7を取り外した。その後、マイクロピペットのチップで各ウェル3をこすってDNAを回収した(第4工程)。0.1N NaOH 5μLでチップ先端を洗い、0.1N HCl5μLで中和し、実験Aと同様にDNA量をqPCR測定により決定した。
【0041】
実験結果を
図20に示す。各ウェル3で、そこにアプライした微生物のDNAが主に回収されたことから、クロスコンタミネーションが抑制されていることが確認された。これは、第2工程で溶媒を蒸発させることによって、ウェル3内に酵素液を受け入れるスペースを十分に確保することができ、その結果、第3工程で所定量の酵素液を入れた際に、酵素液25がウェル3から溢れて、隣接するウェル3間で内容物が混ざりにくかったためと推測される。
【0042】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は本質から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0043】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本開示の細胞内構成物質の抽出方法を用いれば、細胞内構成物質を効率よく抽出できる
【符号の説明】
【0045】
1 …細胞内構成物質
3 …ウェル
3A…径
3B…ウェル間距離
3C…深さ
5 …本体部
7 …蓋部
7A…厚み
9 …器具
21…微生物
23…培養液
25…酵素液
31…溶媒
41…板状体
43…不織布