(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】マルチ荷電粒子ビーム照射装置及びマルチ荷電粒子ビーム検査装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/28 20060101AFI20231226BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20231226BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20231226BHJP
H01J 37/147 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01J37/28 B
H01L21/30 541W
H01J37/244
H01J37/147 B
(21)【出願番号】P 2020071726
(22)【出願日】2020-04-13
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 和彦
(72)【発明者】
【氏名】白土 昌孝
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 宗博
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-047589(JP,A)
【文献】特開2014-229481(JP,A)
【文献】特開2006-080276(JP,A)
【文献】特表2014-519724(JP,A)
【文献】特開2008-215969(JP,A)
【文献】特開2019-200920(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0090899(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0305798(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0230697(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0355546(US,A1)
【文献】特開平09-007538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ荷電粒子ビームを形成する形成機構と、
前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームの中心軸軌道が前記マルチ荷電粒子ビームの軌道中心軸方向に直交する同一面内で集束しないように、前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームを個別に偏向する多極子偏向器アレイと、
前記マルチ荷電粒子ビームが集束されないままの状態で、前記マルチ荷電粒子ビームで基板を照射する電子光学系と、
を備えたことを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項2】
前記多極子偏向器アレイは、前記マルチ荷電粒子ビームの内、中心から外れた周辺側に位置する周辺ビームが、前記マルチ荷電粒子ビームの軌道中心軸を通らずに基板を照射するように、前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームを個別に偏向することを特徴とする請求項1記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項3】
前記多極子偏向器アレイは、前記マルチ荷電粒子ビームの中間像面位置に配置されることを特徴とする請求項1又は2記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項4】
前記多極子偏向器アレイを第1の多極子偏向器アレイとした場合に、前記第1の多極子偏向器アレイを通過後の前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームを個別に偏向する第2の多極子偏向器アレイをさらに備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項5】
前記多極子偏向器アレイを第1の多極子偏向器アレイとした場合に、前記第1の多極子偏向器アレイを通過後の前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームを個別に非点補正する第2の多極子偏向器アレイをさらに備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項6】
前記多極子偏向器アレイは、各ビームの収差を含むビーム径がしきい値以下になるように、各ビームを個別に偏向することを特徴とする請求項1又は2記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項7】
各ビームの偏向量は、前記多極子偏向器アレイにより各ビームを偏向しない場合に前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームの中心軸軌道が収束する位置におけるビーム間の離間量が基板面上におけるビーム径が前記しきい値以下になる離間量になる偏向量に調整されることを特徴とする請求項6記載のマルチ荷電粒子ビーム照射装置。
【請求項8】
マルチ荷電粒子ビームを形成する形成機構と、
前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームの中心軸軌道が前記マルチ荷電粒子ビームの軌道中心軸方向に直交する同一面内で集束しないように、前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームを個別に偏向する多極子偏向器アレイと、
前記マルチ荷電粒子ビームが集束されないままの状態で、前記マルチ荷電粒子ビームで基板を照射する電子光学系と、
前記マルチ荷電粒子ビームで前記基板が照射されたことによって放出されるマルチ2次電子ビームを検出するマルチ検出器と、
検出された前記マルチ2次電子ビームに基づく2次電子画像を検査する検査部と、
を備えたことを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム検査装置。
【請求項9】
前記多極子偏向器アレイは、前記マルチ荷電粒子ビームの内、中心から外れた周辺側に位置する周辺ビームが、前記マルチ荷電粒子ビームの軌道中心軸を通らずに基板を照射するように、前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームを個別に偏向することを特徴とする請求項8記載のマルチ荷電粒子ビーム検査装置。
【請求項10】
前記多極子偏向器アレイは、前記マルチ荷電粒子ビームの中間像面位置に配置されることを特徴とする請求項8又は9記載のマルチ荷電粒子ビーム検査装置。
【請求項11】
前記多極子偏向器アレイを第1の多極子偏向器アレイとした場合に、前記第1の多極子偏向器アレイを通過後の前記マルチ荷電粒子ビームの各ビームを個別に偏向する第2の多極子偏向器アレイをさらに備えたことを特徴とする請求項8又は9記載のマルチ荷電粒子ビーム検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ荷電粒子ビーム照射装置及びマルチ荷電粒子ビーム検査装置に関する。例えば、マルチ電子ビームで基板を照射する照射手法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化及び大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅はますます狭くなってきている。そして、多大な製造コストのかかるLSIの製造にとって、歩留まりの向上は欠かせない。しかし、1ギガビット級のDRAM(ランダムアクセスメモリ)に代表されるように、LSIを構成するパターンは、サブミクロンからナノメータのオーダーになっている。近年、半導体ウェハ上に形成されるLSIパターン寸法の微細化に伴って、パターン欠陥として検出しなければならない寸法も極めて小さいものとなっている。よって、半導体ウェハ上に転写された超微細パターンの欠陥を検査するパターン検査装置の高精度化が必要とされている。
【0003】
検査手法としては、半導体ウェハやリソグラフィマスク等の基板上に形成されているパターンを撮像した測定画像と、設計データ、あるいは基板上の同一パターンを撮像した測定画像と比較することにより検査を行う方法が知られている。例えば、パターン検査方法として、同一基板上の異なる場所の同一パターンを撮像した測定画像データ同士を比較する「die to die(ダイ-ダイ)検査」や、パターン設計された設計データをベースに設計画像データ(参照画像)を生成して、それとパターンを撮像した測定データとなる測定画像とを比較する「die to database(ダイ-データベース)検査」がある。撮像された画像は測定データとして比較回路へ送られる。比較回路では、画像同士の位置合わせの後、測定データと参照データとを適切なアルゴリズムに従って比較し、一致しない場合には、パターン欠陥有りと判定する。
【0004】
半導体ウェハやフォトマスクの欠陥検査では、より小さいサイズの欠陥を検出することが求められている。そのため、近年の検査装置では、上述したパターン検査装置には、レーザ光を検査対象基板に照射して、その透過像或いは反射像を撮像する装置の他、画像の画素分解能を上げるために、レーザ光よりも波長の短い電子ビームで検査対象基板上を走査(スキャン)して、電子ビームの照射に伴い検査対象基板から放出される2次電子を検出して、パターン像を取得する検査装置の開発も進んでいる。電子ビームを用いた検査装置では、さらに、マルチビームを用いた装置の開発も進んでいる。
【0005】
マルチビーム検査装置において、高分解能でかつ高スループットを実現するためには、各ビームのビーム径を小さくすること、及び総電流量を大きくすることが求められる。しかしながら、マルチビームの総電流量の増大に伴い、クーロン効果の作用も大きくなり、ビームが所謂ボケてしまう。これにより、基板上のビーム径が大きくなってしまう。よって、高分解能で、かつ高スループットを実現するためには、マルチビームに作用するクーロン効果を低減することが求められる。かかる問題は、検査装置に限るものではない。例えば、マルチビームを用いた描画装置等のマルチビームを照射する装置において同様に起こり得る。
【0006】
ここで、クーロン効果を低減するための補正ではないが、球面収差を補正するように、マルチビームに対して個別にアライメント用偏向を行うマルチアライナーアレイを配置した描画装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の一態様は、マルチビームに作用するクーロン効果を低減することが可能な照射装置および検査装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様のマルチ荷電粒子ビーム照射装置は、
マルチ荷電粒子ビームを形成する形成機構と、
マルチ荷電粒子ビームの各ビームの中心軸軌道がマルチ荷電粒子ビームの軌道中心軸方向に直交する同一面内で集束しないように、マルチ荷電粒子ビームの各ビームを個別に偏向する多極子偏向器アレイと、
マルチ荷電粒子ビームが集束されないままの状態で、マルチ荷電粒子ビームで基板を照射する電子光学系と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、多極子偏向器アレイは、マルチ荷電粒子ビームの内、中心から外れた周辺側に位置する周辺ビームが、マルチ荷電粒子ビームの軌道中心軸を通らずに基板を照射するように、マルチ荷電粒子ビームの各ビームを個別に偏向すると好適である。
【0011】
また、多極子偏向器アレイは、マルチ荷電粒子ビームの中間像面位置に配置されると好適である。
【0012】
また、多極子偏向器アレイを第1の多極子偏向器アレイとした場合に、第1の多極子偏向器アレイを通過後のマルチ荷電粒子ビームの各ビームを個別に偏向する第2の多極子偏向器アレイをさらに備えると好適である。
【0013】
本発明の一態様のマルチ荷電粒子ビーム検査装置は、
マルチ荷電粒子ビームを形成する形成機構と、
マルチ荷電粒子ビームの各ビームの中心軸軌道がマルチ荷電粒子ビームの軌道中心軸方向に直交する同一面内で集束しないように、マルチ荷電粒子ビームの各ビームを個別に偏向する多極子偏向器アレイと、
マルチ荷電粒子ビームが集束されないままの状態で、マルチ荷電粒子ビームで基板を照射する電子光学系と、
マルチ荷電粒子ビームで基板が照射されたことによって放出されるマルチ2次電子ビームを検出するマルチ検出器と、
検出されたマルチ2次電子ビームに基づく2次電子画像を検査する検査部と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、多極子偏向器アレイは、マルチ荷電粒子ビームの内、中心から外れた周辺側に位置する周辺ビームが、マルチ荷電粒子ビームの軌道中心軸を通らずに基板を照射するように、マルチ荷電粒子ビームの各ビームを個別に偏向すると好適である。
【0015】
また、多極子偏向器アレイは、マルチ荷電粒子ビームの中間像面位置に配置されると好適である。
【0016】
また、多極子偏向器アレイを第1の多極子偏向器アレイとした場合に、第1の多極子偏向器アレイを通過後のマルチ荷電粒子ビームの各ビームを個別に偏向する第2の多極子偏向器アレイをさらに備えると好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、マルチビームに作用するクーロン効果を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態1における検査装置の構成を示す構成図である。
【
図2】実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
【
図3】実施の形態1における多極子偏向器アレイの構成を示す図である。
【
図4】実施の形態1の比較例におけるx方向に並ぶ1次電子ビームアレイのx方向のビーム軌道の一例を示す図である。
【
図5】実施の形態1の比較例におけるx方向に並ぶ1次電子ビームアレイのy方向のビーム軌道の一例を示す図である。
【
図6】実施の形態1におけるマルチ1次電子ビームの総電流量と各ビームのビーム径との関係を示す図である。
【
図7】実施の形態1における多極子偏向器アレイによるマルチ1次電子ビームの偏向方向の一例を示す図である。
【
図8】実施の形態1におけるx方向に並ぶ1次電子ビームアレイのx方向のビーム軌道の一例を示す図である。
【
図9】実施の形態1におけるx方向に並ぶ1次電子ビームアレイのy方向のビーム軌道の一例を示す図である。
【
図10】実施の形態1における基板上でのビームサイズの一例を示す図である。
【
図11】実施の形態1におけるビーム間の離間量の一例を示す図である。
【
図12】実施の形態1における試料面上でのビーム径と収差量とX.O.面上でのビーム間の離間量との関係の一例を示す図である。
【
図13】実施の形態1における試料面上でのビーム径と収差量とX.O.面上でのビーム間の離間量との関係の他の一例を示す図である。
【
図14】実施の形態1の変形例におけるx方向に並ぶ1次電子ビームアレイのx方向のビーム軌道の一例を示す図である。
【
図15】実施の形態1における半導体基板に形成される複数のチップ領域の一例を示す図である。
【
図16】実施の形態1におけるマルチ1次電子ビームのスキャン動作を説明するための図である。
【
図17】実施の形態1における比較回路内の構成の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いて説明する。但し、これに限るものではない。例えば、イオンビーム等であっても構わない。また、マルチビーム照射装置の一例として、マルチビームを用いた検査装置について説明する。但し、これに限るものではない。例えば、マルチビームを用いた描画装置であっても良い。或いは、例えば、マルチビームを用いた画像取得装置であっても良い。
【0020】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における検査装置の構成を示す構成図である。
図1において、基板に形成されたパターンを検査する検査装置100は、マルチ電子ビーム検査装置の一例である。検査装置100は、画像取得機構150、及び制御系回路160を備えている。画像取得機構150は、電子ビームカラム102(電子鏡筒)及び検査室103を備えている。電子ビームカラム102内には、電子銃201、成形アパーチャアレイ基板203、多極子偏向器アレイ220、電磁レンズ202、電磁レンズ205、一括ブランキング偏向器212、制限アパーチャ基板213、電磁レンズ206、電磁レンズ207(対物レンズ)、主偏向器208、副偏向器209、ビームセパレーター214、偏向器218、電磁レンズ224、及びマルチ検出器222が配置されている。電子銃201、成形アパーチャアレイ基板203、多極子偏向器アレイ220、電磁レンズ202、電磁レンズ205、一括ブランキング偏向器212、制限アパーチャ基板213、電磁レンズ206、電磁レンズ207(対物レンズ)、主偏向器208、及び副偏向器209によって1次電子光学系151を構成する。また、電磁レンズ207、ビームセパレーター214、偏向器218、及び電磁レンズ224によって2次電子光学系152を構成する。
【0021】
検査室103内には、少なくともXY方向に移動可能なステージ105が配置される。ステージ105上には、検査対象となる基板101(試料)が配置される。基板101は、例えば、ステージ105上に搭載された静電チャック機構により裏面が吸着される。基板101には、露光用マスク基板、及びシリコンウェハ等の半導体基板が含まれる。基板101が半導体基板である場合、半導体基板には複数のチップ(ウェハダイ)が形成されている。基板101が露光用マスク基板である場合、露光用マスク基板には、チップパターンが形成されている。チップパターンは、複数の図形パターンによって構成される。かかる露光用マスク基板に形成されたチップパターンが半導体基板上に複数回露光転写されることで、半導体基板には複数のチップ(ウェハダイ)が形成されることになる。以下、基板101が半導体基板である場合を主として説明する。基板101は、例えば、パターン形成面を上側に向けてステージ105に配置される。また、ステージ105上には、検査室103の外部に配置されたレーザ測長システム122から照射されるレーザ測長用のレーザ光を反射するミラー216が配置されている。
【0022】
また、マルチ検出器222は、電子ビームカラム102の外部で検出回路106に接続される。検出回路106は、チップパターンメモリ123に接続される。
【0023】
制御系回路160では、検査装置100全体を制御する制御計算機110が、バス120を介して、位置回路107、比較回路108、参照画像作成回路112、ステージ制御回路114、偏向器アレイ制御回路121、レンズ制御回路124、ブランキング制御回路126、偏向制御回路128、リターディング電位印加回路170、磁気ディスク装置等の記憶装置109、モニタ117、メモリ118、及びプリンタ119に接続されている。また、偏向制御回路128は、DAC(デジタルアナログ変換)アンプ144,146,148に接続される。DACアンプ146は、主偏向器208に接続され、DACアンプ144は、副偏向器209に接続される。DACアンプ148は、偏向器218に接続される。
【0024】
また、基板101は、リターディング電位印加回路170に電気的に接続され、リターディング電位印加回路170は、基板101に負のリターディング電位Vrを印加する。
【0025】
また、チップパターンメモリ123は、比較回路108に接続されている。また、ステージ105は、ステージ制御回路114の制御の下に駆動機構142により駆動される。駆動機構142では、例えば、ステージ座標系におけるX方向、Y方向、θ方向に駆動する3軸(X-Y-θ)モータの様な駆動系が構成され、XYθ方向にステージ105が移動可能となっている。これらの、図示しないXモータ、Yモータ、θモータは、例えばステップモータを用いることができる。ステージ105は、XYθ各軸のモータによって水平方向及び回転方向に移動可能である。そして、ステージ105の移動位置はレーザ測長システム122により測定され、位置回路107に供給される。レーザ測長システム122は、ミラー216からの反射光を受光することによって、レーザ干渉法の原理でステージ105の位置を測長する。ステージ座標系は、例えば、マルチ1次電子ビーム20の光軸に直交する面に対して、X方向、Y方向、θ方向が設定される。
【0026】
電磁レンズ202、電磁レンズ205、電磁レンズ206、電磁レンズ207(対物レンズ)、電磁レンズ224、及びビームセパレーター214は、レンズ制御回路124により制御される。また、一括ブランキング偏向器212は、2極以上の電極により構成され、電極毎に図示しないDACアンプを介してブランキング制御回路126により制御される。副偏向器209は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ144を介して偏向制御回路128により制御される。主偏向器208は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ146を介して偏向制御回路128により制御される。偏向器218は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ148を介して偏向制御回路128により制御される。また、多極子偏向器アレイ220は、偏向器アレイ制御回路121によって、多極子の偏向器毎に個別に制御される。
【0027】
電子銃201には、図示しない高圧電源回路が接続され、電子銃201内の図示しないフィラメント(カソード)と引出電極(アノード)間への高圧電源回路からの加速電圧の印加と共に、別の引出電極(ウェネルト)の電圧の印加と所定の温度のカソードの加熱によって、カソードから放出された電子群が加速させられ、電子ビーム200となって放出される。
【0028】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。検査装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0029】
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、2次元状の横(x方向)m
1列×縦(y方向)n
1段(m
1,n
1は2以上の整数)の穴(開口部)22がx,y方向に所定の配列ピッチで形成されている。
図2の例では、23×23の穴(開口部)22が形成されている場合を示している。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ外径の円形であっても構わない。
【0030】
電子銃201(放出源)から放出された電子ビーム200は、成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。成形アパーチャアレイ基板203には、
図2に示すように、複数の穴22(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴22が含まれる領域を照明する。複数の穴22の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ基板203(形成機構)の複数の穴22をそれぞれ通過することによって、マルチ1次電子ビーム20が形成される。形成されたマルチ1次電子ビーム20は、多極子偏向器アレイ220に進む。
【0031】
図3は、実施の形態1における多極子偏向器アレイの構成を示す図である。
図3の例では、例えば、5×5列のマルチ1次電子ビーム20を用いる場合を示している。多極子偏向器アレイ220は、隙間を空けてこの順で上下に並ぶ2段の電極基板9,14、若しくは、隙間を空けてこの順で上中下に並ぶ3段の電極基板9,14,13を有する。電極基板9,13は、同じ構成で構わない。電極基板9,13は、基板本体12にマルチ1次電子ビーム20が通過する複数の通過孔11が形成され、基板本体12の少なくとも露出面全体が導電性材料により構成される。例えば、基板本体12が金属等の導電性材料で構成される。或いは、絶縁性材料により構成される基板本体12の露出面全体に導電膜がコーティングされていても好適である。基板本体12には、例えばグランド電位が印加される。電極基板14は、基板本体15にマルチ1次電位ビーム20が通過する電極基板9,13と例えば同じ孔径サイズの複数の通過孔17が形成される。基板本体15は、例えば、シリコン(Si)材により構成されると好適である。そして、基板本体15上にはそれぞれの通過孔17を囲むように多極子となる複数の電極16(a~h)が配置される。なお、各通過孔17を囲む複数の電極16間が導通しないように複数の電極16は絶縁層上に配置される。多極子を構成する複数の電極16は、4極以上で構成される。例えば、8極の電極を用いると好適である。マルチ1次電子ビーム20のビーム毎に、複数の電極16には、それぞれ個別に電位が印加される。ビーム毎に、複数の電極16に印加する電位をそれぞれ制御することにより、ビーム毎に、任意の方向に、かつ任意の偏向量だけ個別に偏向することができる。言い換えれば、ビーム毎に、ビーム軌道を変更できる。
【0032】
多極子偏向器アレイ220を通過したマルチ1次電子ビーム20は、電磁レンズ202、電磁レンズ205、及び電磁レンズ206によってそれぞれ屈折させられながら、マルチ1次電子ビーム20の各ビームの中間像面I.I.P(像面共役位置)に配置されたビームセパレーター214を通過して電磁レンズ207(対物レンズ)に進む。
【0033】
マルチ1次電子ビーム20が電磁レンズ207(対物レンズ)に入射すると、電磁レンズ207は、マルチ1次電子ビーム20を基板101にフォーカスする。対物レンズ207により基板101(試料)面上に焦点が合わされ(合焦され)たマルチ1次電子ビーム20は、主偏向器208及び副偏向器209によって一括して偏向され、各ビームの基板101上のそれぞれの照射位置に照射される。なお、一括ブランキング偏向器212によって、マルチ1次電子ビーム20全体が一括して偏向された場合には、制限アパーチャ基板213の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板213によってマルチ1次電子ビーム20全体が遮蔽される。一方、一括ブランキング偏向器212によって偏向されなかったマルチ1次電子ビーム20は、
図1に示すように制限アパーチャ基板213の中心の穴を通過する。かかる一括ブランキング偏向器212のON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが一括制御される。このように、制限アパーチャ基板213は、一括ブランキング偏向器212によってビームOFFの状態になるように偏向されたマルチ1次電子ビーム20を遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ基板213を通過したビーム群により、画像取得用のマルチ1次電子ビーム20が形成される。
【0034】
図4は、実施の形態1の比較例におけるx方向に並ぶ1次電子ビームアレイのx方向のビーム軌道の一例を示す図である。
図5は、実施の形態1の比較例におけるx方向に並ぶ1次電子ビームアレイのy方向のビーム軌道の一例を示す図である。
図4及び
図5に示す比較例では、多極子偏向器アレイ220が配置されていない場合のビーム軌道の一例を示している。また、
図4及び
図5に示す比較例では、3×3のマルチ1次電子ビーム20を用いる場合における、y方向中央のx方向に並ぶ3本の1次電子ビームアレイの軌道を示している。また、像は磁場により回転するが、
図4及び
図5に示す比較例では、実施の形態1との違いを理解し易くするために磁場の影響を無視して示している。成形アパーチャアレイ基板203により形成されたマルチ1次電子ビーム20は、高さ位置Z1において各1次電子ビーム10が中間像を形成した後、電磁レンズ202、電磁レンズ205、及び電磁レンズ206によってそれぞれ屈折させられながら、電磁レンズ207(対物レンズ)に進む。かかるビーム軌道中、電磁レンズ202、電磁レンズ205、及び電磁レンズ206によってそれぞれ屈折させられることによって、クロスオーバー(X.O.)を生じる。また、
図4及び
図5の例では、成形アパーチャアレイ基板203により形成されたマルチ1次電子ビーム20の高さ位置Z1における1回目の中間像と、電磁レンズ202と電磁レンズ205との間の各高さ位置Z2,Z3,Z4,Z5,Z6におけるマルチ1次電子ビーム像を示している。
図4に示すようにx方向軌道では、電磁レンズ202によって屈折させられたマルチ1次電子ビーム20が徐々に軌道中心軸方向に進み、高さ位置Z4において軌道中心軸上においてクロスオーバー(X.O.)を形成する。y方向軌道についても高さ位置Z4においてクロスオーバーが形成される状態が示されている。また、
図4及び
図5に示す比較例では、電磁レンズ205と電磁レンズ206との間で軌道中心軸上においてクロスオーバー(X.O.)を形成する。同様に、電磁レンズ207の磁場中心高さ位置で軌道中心軸上においてクロスオーバーを形成する。このように、
図4及び
図5に示す比較例では、電磁レンズ202、電磁レンズ205、及び電磁レンズ206によってそれぞれ屈折させられることによって、クロスオーバーを繰り返しながら、基板101上へと進む。
【0035】
図6は、実施の形態1におけるマルチ1次電子ビームの総電流量と各ビームのビーム径との関係を示す図である。
図6において、縦軸にビーム径を示し、横軸に総電流量を示す。
図6に示すように、マルチ1次電子ビームの総電流量が増大するのに伴い、各ビームのビーム径も大きくなることがわかる。これは、マルチ1次電子ビームの総電流量の増大に伴い、クーロン効果の作用も大きくなり、各ビームが所謂ボケてしまう。これにより、基板上でのビーム径が大きくなってしまうことによる。クーロン効果は、電流量に比例する。そして、マルチ1次電子ビームが1個所に集束するクロスオーバー位置において、空間あたりの電流量が最大となる。言い換えれば、クロスオーバー位置にマルチ1次電子ビームの総電流量が集中する。よって、マルチ1次電子ビームが集束するクロスオーバー位置において、マルチ1次電子ビームにクーロン効果が大きく作用することになる。なお、クロスオーバー位置は、1点である必要はなく、軌道中心軸方向に直交する同一面内でマルチ1次電子ビームが互いに重なり合う領域であればよい。そこで、実施の形態1では、マルチ1次電子ビーム20が1個所で集束しないようにビーム軌道を制御する。言い換えれば、マルチ1次電子ビーム20がクロスオーバーを形成しないようにビーム軌道を制御する。
【0036】
具体的には、多極子偏向器アレイ220が、マルチ1次電子ビーム20がマルチ1次電子ビーム20の軌道中心軸方向に直交する同一面内で集束しないように、マルチ1次電子ビーム20の各1次電子ビーム10を個別に偏向する。また、クーロン効果の作用をできるだけ低減するためには、マルチ1次電子ビーム20が形成された後、基板101に到達するまでの間においてクロスオーバーを形成しない方が望ましい。そのため、マルチ1次電子ビーム20が形成された後、1回目のクロスオーバー位置となる高さ位置Z4よりも上流側(成形アパーチャアレイ基板203側)に多極子偏向器アレイ220を配置すると好適である。
【0037】
マルチ1次電子ビーム20がクロスオーバーを形成しないようにするためには、マルチ1次電子ビーム20のうちの周辺ビームが、マルチ1次電子ビーム20の軌道中心軸を通らないように制御すればよい。よって、多極子偏向器アレイ220は、マルチ1次電子ビーム20の内、中心から外れた周辺側に位置する周辺ビームが、マルチ1次電子ビーム20の軌道中心軸を通らずに基板101を照射するように、マルチ1次電子ビーム20の各1次電子ビーム10を個別に偏向する。例えば、以下のように偏向する。
【0038】
図7は、実施の形態1における多極子偏向器アレイによるマルチ1次電子ビームの偏向方向の一例を示す図である。
図7の例では、例えば、3×3例のマルチ1次電子ビーム20を用いる場合を示している。多極子偏向器アレイ220は、例えば、マルチ1次電子ビーム20の各ビームの偏向方向をその他のビームの偏向方向とは異なる方向に制御する。
図7の例では、周辺ビームについて、半時計回りに偏向方向を変える場合を示している。また、偏向量についても、他のビームとは異なるように制御すると好適である。なお、実施の形態1では、マルチ1次電子ビーム20を放射状或いは逆放射状に偏向することは除かれる。放射状に偏向しても、マルチ1次電子ビーム20全体のビームサイズが軌道中心軸を軸に大きくなるだけであって、結局、1個所で集束されてしまうからである。同様に、逆放射状に偏向しても、マルチ1次電子ビーム20全体のビームサイズが軌道中心軸を軸に小さくなるだけであって、結局、1個所で集束されてしまうからである。
【0039】
図8は、実施の形態1におけるx方向に並ぶ1次電子ビームアレイのx方向のビーム軌道の一例を示す図である。
図9は、実施の形態1におけるx方向に並ぶ1次電子ビームアレイのy方向のビーム軌道の一例を示す図である。
図8及び
図9の例では、3×3列のマルチ1次電子ビーム20を用いる場合における、y方向中央のx方向に並ぶ3本の1次電子ビームアレイの軌道を示している。また、
図8及び
図9の例では、多極子偏向器アレイ220が、マルチ1次電子ビーム20の中間像面位置に配置される場合を示している。
図8及び
図9に示す例では、偏向による像の回転を示し、磁場の影響による像の回転を無視して示している。電磁レンズ202、電磁レンズ205、及び電磁レンズ206は、レンズの性質上、それぞれ所定の位置に像を結ぶため、多極子偏向器アレイ220を中間像面位置に配置することにより、かかる中間像面位置で各ビームを偏向してもその後の各像面位置において位置ずれを生じさせないようにできる。
図8及び
図9の例では、成形アパーチャアレイ基板203により形成されたマルチ1次電子ビーム20は、高さ位置Z1において各1次電子ビーム10の最初の中間像面位置である高さ位置Z1に配置された多極子偏向器アレイ220によって、ビーム毎に個別に偏向される。なお、中心ビームについては偏向しなくても良い。多極子偏向器アレイ220を通過したマルチ1次電子ビーム20は、電磁レンズ202、電磁レンズ205、及び電磁レンズ206によってそれぞれ屈折させられ、マルチ1次電子ビーム像が回転させられながら、電磁レンズ207(対物レンズ)に進む。
図8及び
図9の例では、成形アパーチャアレイ基板203により形成されたマルチ1次電子ビーム20の高さ位置Z1における1回目の中間像と、電磁レンズ202と電磁レンズ205との間の各高さ位置Z2,Z4,Z5,Z6におけるマルチ1次電子ビーム像を示している。
図4に示した高さ位置Z3については図示を省略している。
図8に示すようにx方向軌道では、電磁レンズ202によって屈折させられたマルチ1次電子ビーム20が徐々に軌道中心軸方向に進むものの、多極子偏向器アレイ220によって周辺ビームの軌道が修正されているため、高さ位置Z4において軌道中心軸上にクロスオーバー(X.O.)を形成しない。y方向軌道についても同様である。また、
図8及び
図9の例では、電磁レンズ205と電磁レンズ206との間、及び電磁レンズ207の磁場内においても同様にクロスオーバーを形成しないようにできる。このように、
図8及び
図9の例では、電磁レンズ202、電磁レンズ205、及び電磁レンズ206によってそれぞれ屈折させられても、クロスオーバーを形成せずにマルチ1次電子ビーム20を基板101上へと進ませることができる。言い換えれば、1次電子光学系151は、マルチ1次電子ビーム20が集束されないままの状態で、マルチ1次電子ビーム20で基板101を照射する。
【0040】
図10は、実施の形態1における基板上でのビームサイズの一例を示す図である。
図10(a)では、クロスオーバー形成後に基板101上に照射されたマルチ1次電子ビーム20のビームサイズの一例を示している。これに対して、実施の形態1では、多極子偏向器アレイ220による周辺ビームの軌道修正により、クロスオーバーを形成しないように制御することにより、クロスオーバー形成後のマルチ1次電子ビーム20に比べて、
図10(b)に示すように、基板101上に照射されたマルチ1次電子ビーム20の各1次電子ビーム10のビームサイズを小さくできる。
【0041】
図11は、実施の形態1におけるビーム間の離間量の一例を示す図である。
図11(a)では、クロスオーバー面におけるビーム間の離間量(或いは「離間長さ」ともいう。)がゼロの場合を示している。かかる状態は、
図4及び
図5にて説明した比較例での高さ位置Z4において軌道中心軸上においてクロスオーバー(X.O.)を形成する場合のビーム間の離間量を示している。言い換えれば、クロスオーバー面(X.O.面)にてマルチ1次電子ビーム20の各ビームの中心軸軌道が1点に収束する場合を示している。多極子偏向器アレイ220によって各ビームを個別に偏向することで、クロスオーバー面におけるビーム間の離間量を制御できる。
図11(b)の例では、ビーム間の離間量が0.4に制御される場合を示している。離間量が0.4とは、隣接するビーム同士の40%の部分が互いに重なり合わず、60%の部分が互いに重なっている状態を示す。
図11(c)の例では、ビーム間の離間量が1.0に制御される場合を示している。離間量が1.0とは、隣接するビーム同士の外周端がちょうど接する状態、言い換えれば隣接するビーム同士の重なりが無くなった状態を示す。
図8及び
図9の例では、多極子偏向器アレイ220により各ビームを偏向しない場合にマルチ1次電子ビーム20の各ビームの中心軸軌道が収束する高さ位置Z4におけるビーム間の離間量が1よりも大きい値に制御された状態が示されているが、これが最適値とは限らない。
【0042】
図12は、実施の形態1における試料面上でのビーム径と収差量とX.O.面上でのビーム間の離間量との関係の一例を示す図である。
図13は、実施の形態1における試料面上でのビーム径と収差量とX.O.面上でのビーム間の離間量との関係の他の一例を示す図である。
図12の例では、マルチ1次電子ビーム20の総電流量が大きい場合を示す。
図13の例では、マルチ1次電子ビーム20の総電流量が小さい場合を示す。
図12及び
図13において、縦軸にビーム径を示し、横軸にビーム間の離間量を示す。ビーム径には、マルチ1次電子ビーム20の各ビームのビーム径dcと、多極子偏向器アレイ220により偏向されることで生じる収差をビーム径に置き換えた収差量daと、収差を含む基板101面上での実効的なビーム径dと、が示される。実効的なビーム径dは、同じ離間量におけるビーム径dcと収差量daとの二乗和の平方根で定義できる。
図12及び
図13に示すように、離間量が大きいからといって、実効的なビーム径dが最小値になるわけではないことがわかる。また、
図12及び
図13に示すように、マルチ1次電子ビーム20の総電流量によって実効的なビーム径dが最小値になる離間量が変動することがわかる。実効的なビーム径dが最小値になる離間量が最適値となるが、これに限るものではなく、実施の形態1では、実効的なビーム径dがしきい値以下になる離間量に制御する。例えば、実効的なビーム径dの最小値の10%の誤差を許容するようにしきい値を設定すると好適である。そこで、多極子偏向器アレイ220は、各ビームの収差を含むビーム径dがしきい値以下になるように、各ビームを個別に偏向する。その際の各ビームの偏向量は、高さ位置Z4(多極子偏向器アレイ220により各ビームを偏向しない場合にマルチ1次電子ビーム20の各ビームの中心軸軌道が収束する高さ位置)におけるビーム間の離間量が基板101面上におけるビーム径がしきい値以下になる離間量になる偏向量に調整される。
【0043】
図14は、実施の形態1の変形例におけるx方向に並ぶ1次電子ビームアレイのx方向のビーム軌道の一例を示す図である。
図8の例では、多極子偏向器アレイ220を中間像面位置(Z1)に配置する場合を示したが、これに限るものではない。
図14の例では、多極子偏向器アレイ220を中間像面位置(Z1)からずれた高さ位置に配置する。かかる場合、その後の軌道上の像面位置ではビームの位置がずれてしまう。そこで、実施の形態1の変形例では、多極子偏向器アレイ220(第1の多極子偏向器アレイ)を通過後のマルチ1次電子ビーム20の各1次電子ビーム10を個別に偏向する多極子偏向器アレイ221(第2の多極子偏向器アレイ)をさらに配置する。多極子偏向器アレイ221は、例えば、最終電磁レンズ207(対物レンズ)と基板101との間に配置されると好適である。そして、多極子偏向器アレイ221は、位置ずれが生じた各1次電子ビーム10を個別に偏向することで、基板101上の所望の位置を各1次電子ビーム10で照射できる。
【0044】
或いは、多極子偏向器アレイ221を非点補正に用いても好適である。多極子偏向器アレイ220によって各ビームを個別に偏向する場合、ビームに非点収差が生じてしまう場合がある。そこで、多極子偏向器アレイ221が各1次電子ビーム10を個別に非点補正するように多極子偏向器アレイ221を使用しても好適である。
【0045】
図15は、実施の形態1における半導体基板に形成される複数のチップ領域の一例を示す図である。
図15において、基板101が半導体基板(ウェハ)である場合、半導体基板(ウェハ)の検査領域330には、複数のチップ(ウェハダイ)332が2次元のアレイ状に形成されている。各チップ332には、露光用マスク基板に形成された1チップ分のマスクパターンが図示しない露光装置(ステッパ)によって例えば1/4に縮小されて転写されている。1チップ分のマスクパターンは、一般に、複数の図形パターンにより構成される。各チップ332の領域は、例えばy方向に向かって所定の幅で複数のストライプ領域32に分割される。画像取得機構150によるスキャン動作は、例えば、ストライプ領域32毎に実施される。例えば、-x方向にステージ105を移動させながら、相対的にx方向にストライプ領域32のスキャン動作を進めていく。各ストライプ領域32は、長手方向に向かって複数の矩形領域33に分割される。対象となる矩形領域33へのビームの移動は、主偏向器208によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって行われる。
【0046】
図16は、実施の形態1におけるマルチ1次電子ビームのスキャン動作を説明するための図である。
図16の例では、例えば、5×5列のマルチ1次電子ビーム20の場合を示している。1回のマルチ1次電子ビーム20の照射で照射可能な照射領域34は、(基板101面上におけるマルチ1次電子ビーム20のx方向のビーム間ピッチにx方向のビーム数を乗じたx方向サイズ)×(基板101面上におけるマルチ1次電子ビーム20のy方向のビーム間ピッチにy方向のビーム数を乗じたy方向サイズ)で定義される。そして、マルチ1次電子ビーム20を構成する各1次電子ビーム10は、自身のビームが位置するx方向のビーム間ピッチとy方向のビーム間ピッチとで囲まれるサブ照射領域29内に照射され、当該サブ照射領域29内を走査(スキャン動作)する。各1次電子ビーム10は、互いに異なるいずれかのサブ照射領域29を担当することになる。そして、各ショット時に、各1次電子ビーム10は、担当サブ照射領域29内の同じ位置を照射することになる。サブ照射領域29内の1次電子ビーム10の移動は、副偏向器209によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって行われる。かかる動作を繰り返し、1つの1次電子ビーム10で1つのサブ照射領域29内を順に照射していく。
【0047】
基板101の所望する位置にマルチ1次電子ビーム20が照射されると、かかるマルチ1次電子ビーム20が照射されたことに起因して基板101からマルチ1次電子ビーム20の各ビームに対応する、反射電子を含む2次電子の束(マルチ2次電子ビーム300)が放出される。
【0048】
基板101から放出されたマルチ2次電子ビーム300は、電磁レンズ207を通って、ビームセパレーター214に進む。
【0049】
ここで、ビームセパレーター214はマルチ1次電子ビーム20の中心ビームが進む方向(軌道中心軸)に直交する面上において電界と磁界を直交する方向に発生させる。電界は電子の進行方向に関わりなく同じ方向に力を及ぼす。これに対して、磁界はフレミング左手の法則に従って力を及ぼす。そのため電子の侵入方向によって電子に作用する力の向きを変化させることができる。ビームセパレーター214に上側から侵入してくるマルチ1次電子ビーム20には、電界による力と磁界による力が打ち消し合い、マルチ1次電子ビーム20は下方に直進する。これに対して、ビームセパレーター214に下側から侵入してくるマルチ2次電子ビーム300には、電界による力と磁界による力がどちらも同じ方向に働き、マルチ2次電子ビーム300は斜め上方に曲げられ、マルチ1次電子ビーム20から分離する。
【0050】
斜め上方に曲げられ、マルチ1次電子ビーム20から分離したマルチ2次電子ビーム300は、偏向器218によって、さらに曲げられ、電磁レンズ224によって、屈折させられながらマルチ検出器222に投影される。マルチ検出器222は、投影されたマルチ2次電子ビーム300を検出する。マルチ検出器222は、例えば図示しないダイオード型の2次元センサを有する。そして、マルチ1次電子ビーム20の各ビームに対応するダイオード型の2次元センサ位置において、マルチ2次電子ビーム300の各2次電子がダイオード型の2次元センサに衝突して、電子を発生し、2次電子画像データを画素毎に生成する。マルチ検出器222にて検出された強度信号は、検出回路106に出力される。
【0051】
ここで、ステージ105が連続移動しながらマルチ1次電子ビーム20で基板101を照射する場合、マルチ1次電子ビーム20の照射位置がステージ105の移動に追従するように主偏向器208によって一括偏向によるトラッキング動作が行われる。そのため、マルチ2次電子ビーム300の放出位置がマルチ1次電子ビーム20の軌道中心軸に対して刻々と変化する。同様に、サブ照射領域29内をスキャンする場合に、各2次電子ビームの放出位置は、サブ照射領域29内で刻々と変化する。このように放出位置が変化した各2次電子ビームをマルチ検出器222の対応する検出領域内に照射させるように、偏向器218は、マルチ2次電子ビーム300を一括偏向する。
【0052】
2次電子画像の取得は、上述したように、マルチ1次電子ビーム20を照射して、マルチ1次電子ビーム20の照射に起因して基板101から放出される反射電子を含むマルチ2次電子ビーム300をマルチ検出器222で検出する。マルチ検出器222によって検出された各サブ照射領域29内の画素毎の2次電子の検出データ(測定画像データ:2次電子画像データ:被検査画像データ)は、測定順に検出回路106に出力される。検出回路106内では、図示しないA/D変換器によって、アナログの検出データがデジタルデータに変換され、チップパターンメモリ123に格納される。そして、得られた2次電子画像データ(2次電子画像1のデータ)は、位置回路107からの各位置を示す情報と共に、比較回路108に出力される。
【0053】
なお、上述した各ストライプ領域32の幅は、照射領域34のy方向サイズと同様、或いはスキャンマージン分狭くしたサイズに設定すると好適である。
図15の例では、照射領域34が矩形領域33と同じサイズの場合を示している。但し、これに限るものではない。照射領域34が矩形領域33よりも小さくても良い。或いは大きくても構わない。そして、1つのサブ照射領域29のスキャンが終了したら、主偏向器208によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって照射位置が同じストライプ領域32内の隣接する矩形領域33へと移動する。かかる動作を繰り返し、ストライプ領域32内を順に照射していく。1つのストライプ領域32のスキャンが終了したら、ステージ105の移動或いは/及び主偏向器208によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって照射領域34が次のストライプ領域32へと移動する。以上のように各1次電子ビーム10の照射によってサブ照射領域29毎のスキャン動作および2次電子画像の取得が行われる。これらのサブ照射領域29毎の2次電子画像を組み合わせることで、矩形領域33の2次電子画像、ストライプ領域32の2次電子画像、或いはチップ332の2次電子画像が構成される。また、実際に画像比較を行う場合には、
図16に示すように、例えば、各矩形領域33内のサブ照射領域29をさらに複数のフレーム領域30に分割して、フレーム領域30毎のフレーム画像31について比較する。
【0054】
比較回路108(検査部)は、検出されたマルチ2次電子ビーム300に基づく2次電子画像を検査する。以下、階調値等で定義される画像データ同士を比較する場合を説明する。但し、これに限るものではない。2次電子画像から、例えば、図形パターンの輪郭線を抽出して、参照輪郭線との距離を比較する場合であっても好適である。
【0055】
図17は、実施の形態1における比較回路内の構成の一例を示す構成図である。
図17において、比較回路108内には、磁気ディスク装置等の記憶装置50,52,56、フレーム画像作成部54、位置合わせ部57、及び比較部58が配置される。フレーム画像作成部54、位置合わせ部57、及び比較部58といった各「~部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。フレーム画像作成部54、位置合わせ部57、及び比較部58内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度図示しないメモリ、或いはメモリ118に記憶される。
【0056】
比較回路108内に転送された測定画像データ(ビーム画像)は、記憶装置50に格納される。
【0057】
そして、フレーム画像作成部54は、各1次電子ビーム10のスキャン動作によって取得されたサブ照射領域29の画像データをさらに分割した複数のフレーム領域30のフレーム領域30毎のフレーム画像31を作成する。なお、各フレーム領域30は、画像の抜けが無いように、互いにマージン領域が重なり合うように構成されると好適である。作成されたフレーム画像31は、記憶装置56に格納される。
【0058】
一方、参照画像作成回路112は、基板101に形成された複数の図形パターンの元になる設計データに基づいて、フレーム領域30毎に、フレーム画像31に対応する参照画像を作成する。具体的には、以下のように動作する。まず、記憶装置109から制御計算機110を通して設計パターンデータを読み出し、この読み出された設計パターンデータに定義された各図形パターンを2値ないしは多値のイメージデータに変換する。
【0059】
上述したように、設計パターンデータに定義される図形は、例えば長方形や三角形を基本図形としたもので、例えば、図形の基準位置における座標(x、y)、辺の長さ、長方形や三角形等の図形種を区別する識別子となる図形コードといった情報で各パターン図形の形、大きさ、位置等を定義した図形データが格納されている。
【0060】
かかる図形データとなる設計パターンデータが参照画像作成回路112に入力されると図形ごとのデータにまで展開し、その図形データの図形形状を示す図形コード、図形寸法などを解釈する。そして、所定の量子化寸法のグリッドを単位とするマス目内に配置されるパターンとして2値ないしは多値の設計パターン画像データに展開し、出力する。言い換えれば、設計データを読み込み、検査領域を所定の寸法を単位とするマス目として仮想分割してできたマス目毎に設計パターンにおける図形が占める占有率を演算し、nビットの占有率データを出力する。例えば、1つのマス目を1画素として設定すると好適である。そして、1画素に1/28(=1/256)の分解能を持たせるとすると、画素内に配置されている図形の領域分だけ1/256の小領域を割り付けて画素内の占有率を演算する。そして、8ビットの占有率データとなる。かかるマス目(検査画素)は、測定データの画素に合わせればよい。
【0061】
次に、参照画像作成回路112は、図形のイメージデータである設計パターンの設計画像データに、所定のフィルタ関数を使ってフィルタ処理を施す。これにより、画像強度(濃淡値)がデジタル値の設計側のイメージデータである設計画像データをマルチ1次電子ビーム20の照射によって得られる像生成特性に合わせることができる。作成された参照画像の画素毎の画像データは比較回路108に出力される。比較回路108内に転送された参照画像データは、記憶装置52に格納される。
【0062】
次に、位置合わせ部57は、被検査画像となるフレーム画像31と、当該フレーム画像31に対応する参照画像とを読み出し、画素より小さいサブ画素単位で、両画像を位置合わせする。例えば、最小2乗法で位置合わせを行えばよい。
【0063】
そして、比較部58は、フレーム画像31と参照画像とを画素毎に比較する。比較部58は、所定の判定条件に従って画素毎に両者を比較し、例えば形状欠陥といった欠陥の有無を判定する。例えば、画素毎の階調値差が判定閾値Thよりも大きければ欠陥と判定する。そして、比較結果が出力される。比較結果は、記憶装置109、モニタ117、若しくはメモリ118に出力される、或いはプリンタ119より出力されればよい。
【0064】
なお、上述した例では、ダイ-データベース検査について説明したが、これに限るものではない。ダイ-ダイ検査を行う場合であっても良い。ダイ-ダイ検査を行う場合、対象となるフレーム画像31(ダイ1)と、当該フレーム画像31と同じパターンが形成されたフレーム画像31(ダイ2)(参照画像の他の一例)との間で、上述した位置合わせと比較処理を行えばよい。
【0065】
以上のように、実施の形態1によれば、マルチ1次電子ビーム20に作用するクーロン効果を低減できる。よって、ビームサイズの増大を抑制ながら、マルチ1次電子ビーム20の総電流量を増大させることができる。よって、高分解能でかつ高スループットのマルチ1次電子ビーム20の照射を実現できる。
【0066】
以上の説明において、一連の「~回路」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~回路」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。プロセッサ等を実行させるプログラムは、磁気ディスク装置、磁気テープ装置、FD、或いはROM(リードオンリメモリ)等の記録媒体に記録されればよい。例えば、位置回路107、比較回路108、参照画像作成回路112、ステージ制御回路114、偏向器アレイ制御回路121、レンズ制御回路124、ブランキング制御回路126、偏向制御回路128、及びリターディング電位印加回路170は、上述した少なくとも1つの処理回路で構成されても良い。例えば、これらの回路内での処理を制御計算機110で実施しても良い。
【0067】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
図1の例では、1つの照射源となる電子銃201から照射された1本のビームから成形アパーチャアレイ基板203によりマルチ1次電子ビーム20を形成する場合を示しているが、これに限るものではない。複数の照射源からそれぞれ1次電子ビームを照射することによってマルチ1次電子ビーム20を形成する態様であっても構わない。
【0068】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。
【0069】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム照射装置及びマルチ荷電粒子ビーム検査装置、ならびにこれらの方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0070】
9,14,13 電極基板
10 1次電子ビーム
11,17 通過孔
12,15 基板本体
16 電極
20 マルチ1次電子ビーム
22 穴
29 サブ照射領域
30 フレーム領域
31 フレーム画像
32 ストライプ領域
33 矩形領域
34 照射領域
50,52,56 記憶装置
54 フレーム画像作成部
57 位置合わせ部
58 比較部
100 検査装置
101 基板
102 電子ビームカラム
103 検査室
105 ステージ
106 検出回路
107 位置回路
108 比較回路
109 記憶装置
110 制御計算機
112 参照画像作成回路
114 ステージ制御回路
117 モニタ
118 メモリ
119 プリンタ
120 バス
121 偏向器アレイ制御回路
122 レーザ測長システム
123 チップパターンメモリ
124 レンズ制御回路
126 ブランキング制御回路
128 偏向制御回路
142 駆動機構
144,146,148 DACアンプ
150 画像取得機構
151 1次電子光学系
152 2次電子光学系
160 制御系回路
170 リターディング電位印加回路
201 電子銃
202 電磁レンズ
203 成形アパーチャアレイ基板
205,206,207,224,226 電磁レンズ
208 主偏向器
209 副偏向器
212 一括ブランキング偏向器
213 制限アパーチャ基板
214 ビームセパレーター
216 ミラー
218 偏向器
220,221 多極子偏向器アレイ
222 マルチ検出器
300 マルチ2次電子ビーム
330 検査領域
332 チップ