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特許7410065生体電極、生体電極の製造方法及び生体信号の測定方法
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  • 特許-生体電極、生体電極の製造方法及び生体信号の測定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】生体電極、生体電極の製造方法及び生体信号の測定方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/266 20210101AFI20231226BHJP
   C08F 220/38 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61B5/266
C08F220/38
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021018402
(22)【出願日】2021-02-08
(65)【公開番号】P2021151436
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2020050087
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】畠山 潤
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 元亮
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幸士
(72)【発明者】
【氏名】池田 譲
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/139164(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/039151(WO,A1)
【文献】特開2018-099504(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0120329(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/25-5/297
A61K 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体電極であって、前記生体電極は導電性基材と生体接触層を含み、前記生体接触層は水を含まない樹脂層を含み、該樹脂層の生体に接触する表面側に、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ベタインから選ばれる水溶性塩と水とが浸透した浸透層を有し、前記樹脂層が、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、及びN-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩から選ばれる塩構造を有する繰り返し単位を含有する高分子化合物(A)を含有するものであることを特徴とする生体電極。
【請求項2】
前記水溶性塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、サッカリンナトリウム塩、アセスルファムカリウム、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸カリウム、カルボン酸カルシウム、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カリウム、スルホン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、ベタインから選ばれる塩であることを特徴とする請求項1に記載の生体電極。
【請求項3】
前記生体電極が、前記導電性基材の上に前記生体接触層を有し、前記生体接触層は前記導電性基材の上に前記樹脂層を有し、前記樹脂層の上に前記浸透層を有するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生体電極。
【請求項4】
前記塩構造が下記一般式(1)-1~(1)-4で示されるものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の生体電極。
【化1】
(式中、Rf~Rfのうち1つ以上はフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。また、Rf、Rfがこれらと結合する炭素原子と合わさってカルボニル基を形成してもよい。Rf、Rf、Rfは、フッ素原子、炭素数1~4の直鎖状、又は炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。mは1~4の整数である。Mはアンモニウム、ナトリウム、カリウム、又は銀である。)
【請求項5】
前記一般式(1)-1、(1)-2で示されるフルオロスルホン酸、(1)-3で示されるスルホンイミド、又は(1)-4で示されるスルホンアミドのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩から選ばれる1種以上の繰り返し単位が、下記一般式(1’)で示される繰り返し単位A1~A7から選ばれる1種以上を有する繰り返し単位であることを特徴とする請求項4に記載の生体電極。
【化2】
(式中、R、R、R、R、R10、R11、及びR13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R、R、R、R、及びR12は、それぞれ独立に単結合、エステル基、又はエーテル基のいずれか、もしくはこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、炭素数3~12の分岐状、又は環状の炭化水素基のいずれかである。Rは、炭素数1~4の直鎖状、又は炭素数3、4の分岐状のアルキレン基であり、R中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X、X、X、X、X、及びXは、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、又はアミド基のいずれかであり、Xは、単結合、エーテル基、又はエステル基のいずれかであり、Yは酸素原子、-NR14-基であり、R14は水素原子、炭素数1~4の直鎖状、又は炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、Rとともに環を形成してもよく、mは1~4の整数である。a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0、0≦a5≦1.0、0≦a6≦1.0、0≦a7≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7<1.0である。M、Rf、Rf、Rfは前記と同様である。)
【請求項6】
前記一般式(1)-1~(1)-4で示される塩構造が、Mとして、下記一般式(2)で示されるアンモニウムイオンを含有するものであることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の生体電極。
【化3】
(式中、R101d、R101e、R101f、R101gはそれぞれ水素原子、炭素数1~12の直鎖状、炭素数3~12の分岐状、又は環状のアルキル基、炭素数2~12の直鎖状、炭素数3~12の分岐状、又は環状のアルケニル基もしくはアルキニル基、あるいは炭素数4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。R101dとR101e、R101dとR101eとR101fはこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101dとR101e及びR101dとR101eとR101fは炭素数3~10のアルキレン基であるか、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を形成する。)
【請求項7】
前記浸透層が、さらに炭素数1~4の1価アルコール又は多価アルコールを含有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項8】
前記多価アルコールがグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリグリセリン構造を有するシリコーン化合物、単糖類、多糖類又はこれらのヒドロキシ基が置換されている材料から選ばれるものであることを特徴とする請求項7に記載の生体電極。
【請求項9】
前記ポリグリセリン構造を有するシリコーン化合物が下記一般式(3)、(4)で示されるものであることを特徴とする請求項8に記載の生体電極。
【化4】
(式(3)および(4)中、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一であっても異なっていても良く、炭素数1~50の直鎖状若しくは炭素数3~50の分岐状のアルキル基、又はフェニル基であり、エーテル基を含有していても良く、一般式(5)で示されるシリコーン鎖であってもよく、R’は一般式(3)-1又は一般式(3)-2で表されるポリグリセリン基構造を有する基であり、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一であっても異なっていても良く、前記R’基又は前記R’基であり、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一であっても異なっていても良く、前記R’基、前記R’基又は酸素原子である。R’が酸素原子である場合、2つのR’基は一体化して1つのエーテル基となって、ケイ素原子とともに環を形成しても良い。aは同一であっても異なっていても良く0~100であり、bは0~100であり、a+bは0~200である。但し、bが0の時はR’の少なくとも1つが前記R’基である。一般式(3)-1及び一般(3)-2中、R’は炭素数2~10のアルキレン基又は炭素数7~10のアラルキレン基であり、R’、R’、R’は炭素数2~6のアルキレン基であり、cは0~20、dは1~20である。)
【請求項10】
前記樹脂層が、更に(B)成分として、シリコーン系、アクリル系、及びウレタン系の樹脂から選ばれる1種以上を含むものであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項11】
前記(B)成分のシリコーン系樹脂が、RSiO(4-x)/2単位(Rは炭素数1~10の置換又は非置換の一価炭化水素基、xは2.5~3.5の範囲である。)及びSiO単位を有するシリコーン樹脂、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、並びにSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有するものであることを特徴とする請求項10に記載の生体電極。
【請求項12】
前記樹脂層が、カーボン材料、銀粉、珪素粉、チタン酸リチウム粉を含有することを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項13】
前記カーボン材料が、カーボンブラック及びカーボンナノチューブのいずれか又は両方であることを特徴とする請求項12に記載の生体電極。
【請求項14】
前記導電性基材が、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものであることを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項15】
前記浸透層上に、さらに保護フィルムを有するものであることを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の生体電極。
【請求項16】
生体電極の製造方法であって、導電性基材の上に、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、及びN-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩から選ばれる塩構造を有する繰り返し単位を含有する高分子化合物(A)を含有する生体電極組成物を塗布し、硬化させて生体接触層を形成し、前記生体接触層の生体に接触する表面側に、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ベタインから選ばれる水溶性塩を含む水溶液を接触させて、前記生体接触層の生体に接触する表面側に、前記水溶性塩を含む水溶液が浸透した浸透層を形成することを特徴とする生体電極の製造方法。
【請求項17】
前記生体接触層の生体に接触する表面側に、前記水溶性塩と、炭素数1~4の1価アルコール又は多価アルコールと、水とを含有する溶液を噴霧法により接触させることを特徴とする請求項16に記載の生体電極の製造方法。
【請求項18】
前記導電性基材として、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものを用いることを特徴とする請求項16又は請求項17に記載の生体電極の製造方法。
【請求項19】
前記浸透層の上に、さらに保護フィルムを積層することを特徴とする請求項16から請求項18のいずれか1項に記載の生体電極の製造方法。
【請求項20】
肌の上を水を含有する溶液で処理し、処理した部分に請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の生体電極を貼り付けて生体信号を測定することを特徴とする生体信号の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の皮膚に接触し、皮膚からの電気信号によって心拍数等の体の状態を検知することができる生体電極、及びその製造方法、並びに該生体電極を使用する生体信号の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT(Internet of Things)の普及と共にウェアラブルデバイスの開発が進んでいる。インターネットに接続できる時計や眼鏡がその代表例である。また、医療分野やスポーツ分野においても、体の状態を常時モニタリングできるウェアラブルデバイスが必要とされており、今後の成長分野である。
【0003】
医療分野では、例えば電気信号によって心臓の動きを感知する心電図測定のように、微弱電流のセンシングによって体の臓器の状態をモニタリングするウェアラブルデバイスが検討されている。心電図の測定では、導電ペーストを塗った電極を体に装着して測定を行うが、これは1回だけの短時間の測定である。これに対し、上記のような医療用のウェアラブルデバイスの開発が目指すのは、数週間連続して常時健康状態をモニターするデバイスの開発である。従って、医療用ウェアラブルデバイスに使用される生体電極には、長時間使用した場合にも導電性の変化がないことや肌アレルギーがないことが求められる。また、これらに加えて、軽量であること、低コストで製造できることも求められている。
【0004】
医療用ウェアラブルデバイスとしては、体に貼り付けるタイプと、衣服に組み込むタイプがあり、体に貼り付けるタイプとしては、上記の導電ペーストの材料である水と電解質を含む水溶性ゲルを用いた生体電極が提案されている(特許文献1)。水溶性ゲルは、水を保持するための水溶性ポリマー中に、電解質としてナトリウム、カリウム、カルシウムを含んでおり、肌からのイオン濃度の変化を電気に変換する。一方、衣服に組み込むタイプとしては、PEDOT-PSS(Poly-3,4-ethylenedioxythiophene-Polystyrenesulfonate)のような導電性ポリマーや銀ペーストを繊維に組み込んだ布を電極に使う方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、上記の水と電解質を含む水溶性ゲルを使用した場合には、乾燥によって水がなくなると導電性がなくなってしまうという問題があった。一方、銅等のイオン化傾向の高い金属を使用した場合には、人によっては肌アレルギーを引き起こすリスクがあるという問題があり、PEDOT-PSSのような導電性ポリマーを使用した場合にも、導電性ポリマーの酸性が強いために肌アレルギーを引き起こすリスクがあるという問題、洗濯中に繊維から導電性ポリマーが剥がれ落ちる問題があった。
【0006】
また、優れた導電性を有することから、金属ナノワイヤー、カーボンブラック、及びカーボンナノチューブ等を電極材料として使用することも検討されている(特許文献3、4、5)。金属ナノワイヤーはワイヤー同士の接触確率が高くなるため、少ない添加量で通電することができる。しかしながら、金属ナノワイヤーは先端が尖った細い材料であるため、肌アレルギー発生の原因となる。また、カーボンナノチューブも同様の理由で生体への刺激性がある。カーボンブラックはカーボンナノチューブほどの毒性はないものの、肌に対する刺激性が若干ある。このように、そのもの自体がアレルギー反応を起こさなくても、材料の形状や刺激性によって生体適合性が悪化する場合があり、導電性と生体適合性を両立させることは困難であった。
【0007】
金属膜は導電性が非常に高いために優れた生体電極として機能すると思われるが、必ずしもそうではない。心臓の鼓動によって肌から放出されるのは微弱電流だけではなく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンである。このためイオンの濃度変化を電流に変える必要があるが、イオン化しづらい貴金属は肌からのイオンを電流に変える効率が悪い。よって貴金属を使った生体電極はインピーダンスが高く、肌との通電は高抵抗である。
【0008】
イオン性のポリマーを添加した生体電極が提案されている(特許文献6、7、8)。シリコーン粘着剤にイオンポリマーとカーボン粉を添加して混合した生体電極は粘着性を有し、撥水性が高いためにシャワーを浴びたり汗をかいた状態で長時間肌に貼り付けても安定的に生体信号を採取することが可能である。イオンポリマーは肌を通過しないために肌への刺激性がなく生体適合性が高く、これによっても長時間の装着を可能とする生体電極である。
【0009】
シリコーンは本来絶縁物であるが、イオンポリマーとカーボン粉との組み合わせによってイオン導電性が向上し、生体電極として機能するのである。しかしながら、更なるイオン導電性の向上による性能の向上が求められている。
【0010】
前述の特許文献6、7、8には、イオン導電性を向上するためにポリエーテル鎖を有するシリコーン化合物の添加剤が効果的であることが示されている。ポリエーテル鎖はリチウムイオンポリマーバッテリーのイオン導電性向上にも使われており、イオンの導電性向上に効果的である。しかしながら、水溶性ゲルの含水ゲル中のイオン導電性よりは低く、更なるイオン導電性の向上が必要である。
【0011】
生体電極は肌に貼り付け直後に信号が取れる必要がある。ゲル電極は肌と電極のイオン濃度が近くイオンの出入りがスムーズであり、含水ゲル中のイオンの移動スピードが早いため、肌に貼り付け直後に信号の検知が可能である。一方、ドライ電極は肌に貼り付けてから信号か検知されるまでの時間が長い。肌から放出されるイオンがドライ電極表面上で飽和するまで信号が出てこないためと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2013-039151号
【文献】特開2015-100673号公報
【文献】特開平05-095924号公報
【文献】特開2003-225217号公報
【文献】特開2015-019806号公報
【文献】特開2018-099504号公報
【文献】特開2018-126496号公報
【文献】特開2018-130533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがなく、肌に貼り付けて速やかに信号を採取できるドライ型の生体電極、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明では、以下の生体電極、これの製造方法及び生体信号の測定方法を提供する。
【0015】
本発明では、生体電極であって、前記生体電極は導電性基材と生体接触層を含み、前記生体接触層は水を含まない樹脂層を含み、該樹脂層の生体に接触する表面側に、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ベタインから選ばれる水溶性塩と水とが浸透した浸透層を有するものであることを特徴とする生体電極を提供する。
【0016】
このような生体電極であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがなく、肌に貼り付けて速やかに信号を採取できるドライ型の生体電極となる。
【0017】
また、本発明では、前記水溶性塩が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、サッカリンナトリウム塩、アセスルファムカリウム、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸カリウム、カルボン酸カルシウム、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カリウム、スルホン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、ベタインから選ばれる塩であることを特徴とする生体電極を提供する。
【0018】
このような生体電極であれば、イオン導電性を向上させることができる。
【0019】
また、本発明では、前記樹脂層が、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、及びN-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩から選ばれる塩構造を有する繰り返し単位を含有する高分子化合物(A)を含有するものであることを特徴とする生体電極を提供する。
【0020】
このような生体電極であれば、本発明の効果を向上させることができる。
【0021】
また、本発明では、前記塩構造が下記一般式(1)-1~(1)-4で示されるものであることを特徴とする生体電極を提供する。
【化1】
(式中、Rf~Rfのうち1つ以上はフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。また、Rf、Rfがこれらと結合する炭素原子と合わさってカルボニル基を形成してもよい。Rf、Rf、Rfは、フッ素原子、炭素数1~4の直鎖状、又は炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。mは1~4の整数である。Mはアンモニウム、ナトリウム、カリウム、又は銀である。)
【0022】
このような生体電極であれば、本発明の効果をより向上させることができる。
【0023】
また、本発明では、前記一般式(1)-1、(1)-2で示されるフルオロスルホン酸、(1)-3で示されるスルホンイミド、又は(1)-4で示されるスルホンアミドのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩から選ばれる1種以上の繰り返し単位が、下記一般式(1’)で示される繰り返し単位A1~A7から選ばれる1種以上を有する繰り返し単位であることを特徴とする生体電極を提供する。
【化2】
(式中、R、R、R、R、R10、R11、及びR13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R、R、R、R、及びR12は、それぞれ独立に単結合、エステル基、又はエーテル基のいずれか、もしくはこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、炭素数3~12の分岐状、又は環状の炭化水素基のいずれかである。Rは、炭素数1~4の直鎖状、又は炭素数3、4の分岐状のアルキレン基であり、R中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X、X、X、X、X、及びXは、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、又はアミド基のいずれかであり、Xは、単結合、エーテル基、又はエステル基のいずれかであり、Yは酸素原子、-NR14-基であり、R14は水素原子、炭素数1~4の直鎖状、又は炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、Rとともに環を形成してもよく、mは1~4の整数である。a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0、0≦a5≦1.0、0≦a6≦1.0、0≦a7≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7<1.0である。M、Rf、Rf、Rfは前記と同様である。)
【0024】
このような生体電極であれば、本発明の効果をさらに向上させることができる。
【0025】
また、本発明では、前記一般式(1)-1~(1)-4で示される塩構造が、Mとして、下記一般式(2)で示されるアンモニウムイオンを含有するものであることを特徴とする生体電極を提供する。
【化3】
(式中、R101d、R101e、R101f、R101gはそれぞれ水素原子、炭素数1~12の直鎖状、炭素数3~12の分岐状、又は環状のアルキル基、炭素数2~12の直鎖状、炭素数3~12の分岐状、又は環状のアルケニル基もしくはアルキニル基、あるいは炭素数4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。R101dとR101e、R101dとR101eとR101fはこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101dとR101e及びR101dとR101eとR101fは炭素数3~10のアルキレン基であるか、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を形成する。)
【0026】
このような生体電極においては、このようなアンモニウムイオンが好適である。
【0027】
また、本発明では、前記浸透層が、さらに炭素数1~4の1価アルコール又は多価アルコールを含有することを特徴とする生体電極を提供する。
【0028】
このような生体電極においては、このようなアルコールが好適である。
【0029】
また、本発明では、前記多価アルコールがグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリグリセリン構造を有するシリコーン化合物、単糖類、多糖類又はこれらのヒドロキシ基が置換されている材料から選ばれるものであることを特徴とする生体電極を提供する。
【0030】
このような生体電極においては、このようなアルコールがより好適である。
【0031】
また、本発明では、前記ポリグリセリン構造を有するシリコーン化合物が下記一般式(3)、(4)で示されるものであることを特徴とする生体電極を提供する。
【化4】
(式(3)および(4)中、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一であっても異なっていても良く、炭素数1~50の直鎖状若しくは炭素数3~50の分岐状のアルキル基、又はフェニル基であり、エーテル基を含有していても良く、一般式(5)で示されるシリコーン鎖であってもよく、R’は一般式(3)-1又は一般式(3)-2で表されるポリグリセリン基構造を有する基であり、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一であっても異なっていても良く、前記R’基又は前記R’基であり、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一であっても異なっていても良く、前記R’基、前記R’基又は酸素原子である。R’が酸素原子である場合、2つのR’基は一体化して1つのエーテル基となって、ケイ素原子とともに環を形成しても良い。aは同一であっても異なっていても良く0~100であり、bは0~100であり、a+bは0~200である。但し、bが0の時はR’の少なくとも1つが前記R’基である。一般式(3)-1及び一般(3)-2中、R’は炭素数2~10のアルキレン基又は炭素数7~10のアラルキレン基であり、R’、R’、R’は炭素数2~6のアルキレン基であり、cは0~20、dは1~20である。)
【0032】
このような生体電極であれば、本発明の効果をより向上させることができる。
【0033】
また、本発明では、前記樹脂層が、更に(B)成分として、シリコーン系、アクリル系、及びウレタン系の樹脂から選ばれる1種以上を含むものであることを特徴とする生体電極を提供する。
【0034】
このような生体電極であれば、高分子化合物(A)のイオン性材料(塩)と相溶して塩の溶出を防ぎ、金属粉、カーボン材料、珪素粉、チタン酸リチウム粉等の導電性向上剤を保持し、粘着性を発現させることができる。
【0035】
また、本発明では、前記(B)成分のシリコーン系樹脂が、RSiO(4-x)/2単位(Rは炭素数1~10の置換又は非置換の一価炭化水素基、xは2.5~3.5の範囲である。)及びSiO単位を有するシリコーン樹脂、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、並びにSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有するものであることを特徴とする生体電極を提供する。
【0036】
このような生体電極であれば、高分子化合物(A)成分のシリコーン樹脂中での分散性を向上できる。
【0037】
また、本発明では、前記樹脂層が、カーボン材料、銀粉、珪素粉、チタン酸リチウム粉を含有することを特徴とする生体電極を提供する。
【0038】
このような生体電極であれば、導電性を向上させることができる。
【0039】
また、本発明では、前記カーボン材料が、カーボンブラック及びカーボンナノチューブのいずれか又は両方であることを特徴とする生体電極を提供する。
【0040】
このような生体電極であれば、導電性をより向上させることができる。
【0041】
また、本発明では、前記導電性基材が、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものであることを特徴とする生体電極を提供する。
【0042】
このような生体電極においては、このような導電性基材が好適である。
【0043】
また、本発明では、前記浸透層上に、さらに保護フィルムを有するものであることを特徴とする生体電極を提供する。
【0044】
このような生体電極であれば、浸透層の乾燥を防止することができる。
【0045】
また、本発明では、生体電極の製造方法であって、導電性基材の上に、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、及びN-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩から選ばれる塩構造を有する繰り返し単位を含有する高分子化合物(A)を含有する生体電極組成物を塗布し、硬化させて生体接触層を形成し、前記生体接触層の生体に接触する表面側に、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ベタインから選ばれる水溶性塩を含む水溶液を接触させて、前記生体接触層の生体に接触する表面側に、前記水溶性塩を含む水溶液が浸透した浸透層を形成することを特徴とする生体電極の製造方法を提供する。
【0046】
このような生体電極の製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがなく、肌に貼り付けて速やかに信号を採取できるドライ型の生体電極を効率よく製造できる。
【0047】
また、本発明では、前記生体接触層の生体に接触する表面側に、前記水溶性塩と、炭素数1~4の1価アルコール又は多価アルコールと、水とを含有する溶液を噴霧法により接触させることを特徴とする生体電極の製造方法を提供する。
【0048】
このような生体電極の製造方法であれば、本発明の生体電極をより効率よく製造することができる。
【0049】
また、本発明では、前記導電性基材として、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものを用いることを特徴とする生体電極の製造方法を提供する。
【0050】
このような生体電極の製造方法においては、本発明の生体電極をより効率よく製造することができる。
【0051】
また、本発明では、前記浸透層の上に、さらに保護フィルムを積層することを特徴とする生体電極の製造方法を提供する。
【0052】
このような生体電極の製造方法であれば、浸透層の乾燥を防止しつつ、本発明の生体電極をより効率よく製造することができる。
【0053】
また、本発明では、肌の上を水を含有する溶液で処理し、処理した部分に生体電極を貼り付けて生体信号を測定することを特徴とする生体信号の測定方法を提供する。
【0054】
このような生体信号の測定方法であれば、肌を湿らすだけでなく、肌表面の油脂を取り除く効果もあり、これによっても生体信号の感度が向上し、効率的に生体信号を測定することができる。
【発明の効果】
【0055】
以上のように、本発明の生体電極及びその製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがなく、肌に貼り付けて速やかに信号を採取できるドライ型の生体電極、その製造方法、及び生体信号の測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】本発明の生体電極の一例を示す概略断面図である。
図2】塩水処理をする前の生体電極の一例を示す概略断面図である。
図3】本発明の生体電極を生体に装着した場合の一例を示す概略断面図である。
図4】本発明の実施例で作製した生体電極の概略図である。
図5】本発明の実施例で作製した生体電極の1つを切り取って、粘着層と電線を取り付けた概略図である。
図6】心電計の電極とアースをつける位置を示した人体の概略図である。
図7】P、Q、R、S、T波からなる心電図波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
上述のように、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、肌に貼り付けて速やかに信号を採取できる生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物、該生体電極組成物で生体接触層を形成した生体電極、及びその製造方法の開発が求められていた。
【0058】
心臓の鼓動に連動して肌表面からナトリウム、カリウム、カルシウムイオンが放出される。生体電極は、肌から放出されたイオンの増減を電気信号に変換する必要がある。そのために、イオンの増減を伝達するためのイオン導電性に優れた材料が必要である。
【0059】
中和塩を形成する酸の酸性度が高いとイオンが強く分極し、イオン導電性が向上する。リチウムイオン電池として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸やトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド酸のリチウム塩が高いイオン導電性を示すのはこのためである。一方、中和塩になる前の酸の状態で酸強度が高くなればなるほど、この塩は生体刺激性が強いという問題がある。つまり、イオン導電性と生体刺激性はトレードオフの関係である。しかしながら、生体電極に適用する塩では、高イオン導電特性と低生体刺激性が両立されなければならない。
【0060】
イオン化合物の分子量が大きくなればなるほど肌への浸透性が低下し、肌への刺激性が低下する特性がある。このことからイオン化合物は高分子量のポリマー型が好ましい。そこで、本発明者らは、この重合性の二重結合を有するイオン化合物を重合したポリマーを合成し、これを添加することによって、肌から放出されるイオンの増減に対して敏感な生体電極を構成することが可能になることを見いだした。
【0061】
前述特許文献6、7、8には、強酸性のイオン性の繰り返し単位と、シリコーン鎖を有する繰り返し単位と、ポリエーテルなどの親水性の繰り返し単位の共重合ポリマーが示されている。イオン性の繰り返し単位と親水性の繰り返し単位の組み合わせによってイオン導電性を発現し、これを高めるのに必要な単位である。しかしながら、これだけだと親水性が高すぎて生体電極膜が水や汗に接触したときにイオンポリマーが水に溶解して生体信号が取れなくなる場合がある。このため、イオンポリマーを非水溶性にする必要からシリコーン鎖を有する繰り返し単位を共重合しているのである。
【0062】
イオン性の繰り返し単位と、親水性の繰り返し単位と、疎水性のシリコーンを有する繰り返し単位のすべてを有するイオンポリマーをシリコーン粘着剤に添加することによってイオン導電性が発現し、生体信号を得ることが出来る。本来絶縁体であるシリコーン粘着剤中をイオン導電が起こるメカニズムは、イオンポリマーのミクロ相分離構造であると考えられる。イオン導電性に優れるナフィオンは、親水性のスルホン酸部分と疎水性のフッ素ポリマー部分とがミクロ相分離することによって高いイオン導電性を発現すると言われている。
【0063】
生体電極用のイオンポリマーにおいても、より顕著なミクロ相分離を形成することが出来れば、より高いイオン導電性となり、より高感度な生体信号を得ることが出来るドライ電極を形成することが出来ると考えられる。
【0064】
皮膚表面の電位やナトリウム、カリウム、カルシウムイオンの放出量は個人差があり、皮膚表面の電位が低かったりイオンの放出量が少ない人の場合、シグナルが検出されなかったり、ノイズが大きかったりする。ソフトウエア的にノイズ除去を行うことも出来るが、検出の元となる生体電極の感度を上げることが最も重要である。
【0065】
生体電極膜内のイオン導電性は前述の通り、高度に分極したイオンポリマーの添加やミクロ相分離の形成によって向上させることが出来る。更には、肌から放出されるナトリウム、カリウム、カルシウムイオンをトリガーとして、イオンポリマーを含有している生体電極内をスムーズにイオン導電する必要がある。
【0066】
肌から放出されるナトリウム、カリウム、カルシウムイオンをイオンポリマーにスムーズに導入させるためには、生体電極表面が肌に近い状態であることが好ましい。すなわち生体電極の表面にナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ベタインイオンと水が存在していることである。
【0067】
本発明者らは、このように上記課題について鋭意検討を重ねた結果、下記構成の生体電極及びその製造方法を見出し、本発明を完成させた。
【0068】
即ち、本発明は、生体電極であって、前記生体電極は導電性基材と生体接触層を含み、前記生体接触層は水を含まない樹脂層を含み、該樹脂層の生体に接触する表面側に、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ベタインから選ばれる水溶性塩と水とが浸透した浸透層を有するものであることを特徴とする生体電極、その製造方法及び生体信号の測定方法である。
【0069】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
<生体電極>
本発明の生体電極は、導電性基材と生体接触層を含み、前記生体接触層は水を含まない樹脂層を含み、該樹脂層の生体に接触する表面側に、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ベタインから選ばれる水溶性塩と水とが浸透した浸透層を有するものであることを特徴とする。
【0071】
以下、本発明の生体電極について、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
図1は、本発明の生体電極の一例を示す概略断面図である。図1の生体電極1は、導電性基材2と該導電性基材2上に形成された生体接触層3とを有するものである。生体接触層3は、浸透層5-1と水を含まない樹脂層5-2を含む層である。また、生体接触層3はカーボン材料4を含んでもよい。図2は、塩水処理する前の生体電極の一例を示す概略断面図である。
【0073】
浸透層は水を含まない樹脂層の生体に接触する表面側に、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ベタインから選ばれる水溶性塩と水とが浸透したものである。浸透層は、例えば後述のように、水溶性塩を含む水で処理することにより形成することができる。
【0074】
このような図1の生体電極1を使用する場合には、図3に示されるように、生体接触層3(即ち、カーボン材料4と浸透層5-1と水を含まない樹脂層5-2を含む層)を生体6と接触させ、カーボン材料4と浸透層5-1によって生体6から電気信号を取り出し、これを導電性基材2を介して、センサーデバイス等(不図示)まで伝導させる。このように、本発明の生体電極であれば、後述のイオン性ポリマー(イオン性材料)によって導電性及び生体適合性を両立でき、粘着性も有しているために肌との接触面積が一定で、肌からの電気信号を安定的に高感度で得ることができる。この場合、浸透層の乾燥を防止するために、浸透層の上にさらに保護フィルムを配置することができる。
【0075】
以下、本発明の生体電極の構成について、更に詳しく説明する。
【0076】
[導電性基材]
本発明の生体電極は、導電性基材を有するものである。この導電性基材は、通常、センサーデバイス等と電気的に接続されており、生体から生体接触層を介して取り出した電気信号をセンサーデバイス等まで伝導させる。
【0077】
導電性基材としては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものとすることが好ましい。
【0078】
本発明の生体電極においては、このような導電性基材が好適である。
【0079】
また、導電性基材の形態は、特に限定されず、硬質な導電性基板等であってもよいし、フレキシブル性を有する導電性フィルムや、伸縮性を有するフィルム上に導電ペーストをコーティングした基板や、導電性ペーストを表面にコーティングした布地や導電性ポリマーを練り込んだ布地であってもよい。導電性基材は平坦でも凹凸があっても金属線を織ったメッシュ状であってもよく、生体電極の用途等に応じて適宜選択すればよい。これらの中でも、肌上に貼り付けて用いることを考慮すると、伸縮性のフィルムや布上に導電ペーストをコートした基板が好ましい。伸縮性のフィルムとしては、ポリウレタンやポリエステルを挙げることが出来る。導電ペーストとしては、ポリウレタン、ポリエステル、シリコーン、ニトリル樹脂等の伸縮性の樹脂中に、カーボン、銀、金、銅等の導電粉末を溶剤と混合させたものが用いられる。
【0080】
[生体接触層]
本発明の生体電極は、導電性基材と生体接触層を含み、前記生体接触層は水を含まない樹脂層を含み、該樹脂層の生体に接触する表面側に、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ベタインから選ばれる水溶性塩と水とが浸透した浸透層を有するものである。この生体接触層は、導電性基材上に形成されており、生体電極を使用する際に、実際に生体と接触する部分であって、導電性及び粘着性を有する。生体接触層は、前記水を含まない樹脂層を含み、該樹脂層の生体に接触する表面側に、前記浸透層を有するものであれば特に限定されないが、例えば、後述の生体電極組成物の硬化物からなる樹脂層であり、即ち、後述の高分子化合物(A)のイオン性材料(塩)、(B)樹脂等の添加剤を含有する組成物を硬化させた粘着性の樹脂層上に、特定のイオンを含有する水溶液を浸透させて浸透層を形成したものとすることができる。
【0081】
なお、生体接触層の粘着力としては、0.5N/25mm以上20N/25mm以下の範囲が好ましい。粘着力の測定方法は、JIS Z 0237に示される方法が一般的であり、基材としてはSUS(ステンレス鋼)のような金属基板やPET(ポリエチレンテレフタラート)基板を用いることができるが、人の肌を用いて測定することもできる。人の肌の表面エネルギーは、金属や各種プラスチックより低く、テフロン(登録商標)に近い低エネルギーであり、粘着しにくい性質である。
【0082】
生体電極の生体接触層の厚さは、1μm以上5mm以下が好ましく、2μm以上3mm以下がより好ましい。生体接触層が薄くなるほど粘着力は低下するが、フレキシブル性は向上し、軽くなって肌へのなじみが良くなる。粘着性や肌への風合いとの兼ね合いで生体接触層の厚さを選択することができる。
【0083】
また、本発明の生体電極では、従来の生体電極(例えば、特開2004-033468号公報に記載の生体電極)と同様、使用時に生体から生体電極が剥がれるのを防止するために、生体接触層上に別途粘着膜を設けてもよい。別途粘着膜を設ける場合には、アクリル型、ウレタン型、シリコーン型等の粘着膜材料を用いて粘着膜を形成すればよく、特にシリコーン型は酸素透過性が高いためこれを貼り付けたままの皮膚呼吸が可能であり、撥水性も高いため汗による粘着性の低下が少なく、更に、肌への刺激性が低いことから好適である。なお、本発明の生体電極では、生体電極組成物に粘着性付与剤を添加したり、生体への粘着性が良好な樹脂を用いたりすることで、生体からの剥がれを防止することができるため、上記の別途設ける粘着膜は必ずしも設ける必要はない。
【0084】
本発明の生体電極をウェアラブルデバイスとして使用する際の、生体電極とセンサーデバイスの配線や、その他の部材については、特に限定されるものではなく、例えば、特開2004-033468号公報に記載のものを適用することができる。
【0085】
[水を含まない樹脂層]
本発明の生体電極の生体接触層は水を含まない樹脂層を含む。以下水を含まない樹脂層について説明する。
【0086】
[生体電極組成物]
本発明の生体電極の水を含まない樹脂層を作製するための生体電極組成物は、特に限定されないが、例えば、高分子化合物(A)のイオン性材料として、イオンの繰り返し単位を有するポリマーを含有するものであることができる。以下、一例として、このような生体電極組成物の各成分について、更に詳細に説明する。
【0087】
[イオン性材料(塩)]
生体電極組成物に高分子化合物(A)((A)成分)のイオン性材料(導電性材料)として配合される塩は、高分子化合物(A)のイオン性材料として、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、N-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩から選ばれる塩構造の繰り返し単位を有するポリマーであることができる。
【0088】
フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、N-カルボニルフルオロスルホンアミドから選ばれるアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩(上記塩構造)は、下記一般式(1)-1~(1)-4で示されるものを挙げることができる。
【化5】
(式中、Rf~Rfのうち1つ以上はフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。また、Rf、Rfがこれらと結合する炭素原子と合わさってカルボニル基を形成してもよい。Rf、Rf、Rfは、フッ素原子、炭素数1~4の直鎖状、又は炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。mは1~4の整数である。Mはアンモニウム、ナトリウム、カリウム、又は銀である。)
【0089】
上記一般式(1)-1、(1)-2で示されるフルオロスルホン酸、(1)-3で示されるスルホンイミド、又は(1)-4で示されるN-カルボニルスルホンアミドのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩から選ばれる1種以上の繰り返し単位が下記一般式(1’)で示される繰り返し単位A1~A7から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【化6】
(式中、R、R、R、R、R10、R11、及びR13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R、R、R、R、及びR12は、それぞれ独立に単結合、エステル基、又はエーテル基のいずれか、もしくはこれらの両方を有していてもよい炭素数1~12の直鎖状、炭素数3~12の分岐状、又は環状の炭化水素基のいずれかである。Rは、炭素数1~4の直鎖状、又は炭素数3、4の分岐状のアルキレン基であり、R中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X、X、X、X、X、及びXは、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、又はアミド基のいずれかであり、Xは、単結合、エーテル基、又はエステル基のいずれかであり、Yは酸素原子、-NR14-基であり、R14は水素原子、炭素数1~4の直鎖状、又は炭素数3、4の分岐状のアルキル基であり、Rとともに環を形成してもよく、mは1~4の整数である。a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0、0≦a5≦1.0、0≦a6≦1.0、0≦a7≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7<1.0である。M、Rf、Rf、Rfは前記と同様である。)
【0090】
上記一般式(1’)で示されるa1~a7はそれぞれ繰り返し単位A1~A7の比率である。繰り返し単位A1~A7のうち、繰り返し単位A1~A5を得るためのフルオロスルホン酸塩モノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0091】
【化7】
【0092】
【化8】
【0093】
【化9】
【0094】
【化10】
【0095】
【化11】
【0096】
【化12】
【0097】
【化13】
【0098】
【化14】
【0099】
【化15】
【0100】
【化16】
【0101】
【化17】
【0102】
【化18】
【0103】
【化19】
【0104】
【化20】
【0105】
【化21】
【0106】
【化22】
【0107】
【化23】
【0108】
【化24】
【0109】
【化25】
【0110】
【化26】
【0111】
【化27】
【0112】
上記一般式繰り返し単位A6を得るためのスルホンイミド塩モノマーは、具体的には下記に例示することができる。
【0113】
【化28】
【0114】
【化29】
【0115】
【化30】
【0116】
【化31】
【0117】
【化32】
【0118】
上記一般式繰り返し単位A7を得るためのN-カルボニルスルホンアミド塩モノマーは、具体的には下記に例示することができる。
【0119】
【化33】
【0120】
【化34】
【0121】
式中、R、R、R、R、R10、R11、及びR13は、前記の通りである。
【0122】
また、高分子化合物(A)成分は、上記塩構造(例えば、繰り返し単位A(繰り返し単位A1~A7)中)のMとして、下記一般式(2)で示されるアンモニウムイオン(アンモニウムカチオン)を含有するものであることが好ましい。
【化35】
(式中、R101d、R101e、R101f、R101gはそれぞれ水素原子、炭素数1~12の直鎖状、炭素数3~12の分岐状、又は環状のアルキル基、炭素数2~12の直鎖状、炭素数3~12の分岐状、又は環状のアルケニル基もしくはアルキニル基、あるいは炭素数4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。R101dとR101e、R101dとR101eとR101fはこれらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101dとR101e及びR101dとR101eとR101fは炭素数3~10のアルキレン基であるか、又は式中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を形成する。)
【0123】
上記一般式(2)で示されるアンモニウムイオンとして、具体的には、以下のものを例示することができる。
【0124】
【化36】
【0125】
【化37】
【0126】
【化38】
【0127】
【化39】
【0128】
【化40】
【0129】
【化41】
【0130】
【化42】
【0131】
【化43】
【0132】
【化44】
【0133】
【化45】
【0134】
【化46】
【0135】
【化47】
【0136】
【化48】
【0137】
【化49】
【0138】
【化50】
【0139】
【化51】
【0140】
上記一般式(2)で示されるアンモニウムイオンとしては、3級又は4級のアンモニウムイオンが特に好ましい。
【0141】
(繰り返し単位B)
生体電極組成物の高分子化合物(A)成分には、上記の繰り返し単位A1~A7に加えて、導電性を向上させるためにグライム鎖を有する繰り返し単位Bを共重合することも出来る。グライム鎖を有する繰り返し単位Bを得るためのモノマーは、具体的には下記に例示することが出来る。グライム鎖を有する繰り返し単位を共重合することによって、肌から放出されるイオンのドライ電極膜内での移動を助長し、ドライ電極の感度を高めることが出来る。
【0142】
【化52】
【0143】
【化53】
【0144】
【化54】
【0145】
【化55】
【0146】
ここでRは水素原子、又はメチル基である。
【0147】
(繰り返し単位C)
生体電極組成物の高分子化合物(A)成分には、上記の繰り返し単位A1~A7、Bに加えて、導電性を向上させるために、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アンモニウム塩、ベタイン、アミド基、ピロリドン、ラクトン環、ラクタム環、スルトン環、スルホン酸、リン酸のナトリウム塩、スルホン酸のカリウム塩を有する親水性の繰り返し単位Cを共重合することも出来る。親水性の繰り返し単位Cを得るためのモノマーは、具体的には下記に例示することが出来る。これらの親水性基を含有する繰り返し単位を共重合することによって、肌から放出されるイオンの感受性を高め、ドライ電極の感度を高めることが出来る。
【0148】
【化56】
【0149】
【化57】
【0150】
【化58】
【0151】
ここでRは水素原子、又はメチル基である。
【0152】
(繰り返し単位D)
生体電極組成物の高分子化合物(A)成分には、上記の繰り返し単位A1~A7、B、Cに加えて、粘着能を付与させるために繰り返し単位Dを共重合することも出来る。繰り返し単位Dを得るためのモノマーは、具体的には下記に例示することができる。
【0153】
【化59】
【0154】
【化60】
【0155】
【化61】
【0156】
【化62】
【0157】
【化63】
【0158】
(繰り返し単位E)
生体電極組成物の高分子化合物(A)成分には、上記の繰り返し単位A1~A7、B~Dに加えて、更には架橋性の繰り返し単位Eを共重合することも出来る。架橋性の繰り返し単位はオキシラン環又はオキセタン環を有する繰り返し単位を挙げることが出来る。オキシラン環又はオキセタン環を有する繰り返し単位Eを得るためのモノマーは、具体的には下記に例示することができる。
【0159】
【化64】
【0160】
【化65】
【0161】
ここでRは水素原子、又はメチル基である。
【0162】
(繰り返し単位F)
生体電極組成物の高分子化合物(A)成分には、上記の繰り返し単位A1~A7、B~Eに加えて、珪素を有する繰り返し単位Fを共重合することも出来る。珪素を有する繰り返し単位Fを得るためのモノマーは、具体的には下記に例示することができる。
【0163】
【化66】
【0164】
nは1~50の範囲である。
【0165】
【化67】
【0166】
(繰り返し単位G)
生体電極組成物の高分子化合物(A)成分には、上記の繰り返し単位A1~A7、B~Fに加えて、フッ素を有する繰り返し単位Gを共重合することも出来る。フッ素を有する繰り返し単位Gを得るためのモノマーは、具体的には下記に例示することができる。
【0167】
【化68】
【0168】
【化69】
【0169】
【化70】
【0170】
【化71】
【0171】
【化72】
【0172】
【化73】
【0173】
【化74】
【0174】
ここでRは水素原子、又はメチル基である。
【0175】
高分子化合物(A)成分を合成する方法の1つとして、繰り返し単位A1~A7、B、C、D、E、F、Gを与えるモノマーのうち所望のモノマーを、有機溶剤中、ラジカル重合開始剤を加えて加熱重合し、共重合体の高分子化合物を得る方法を挙げることができる。
【0176】
重合時に使用する有機溶剤としては、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等が例示できる。重合開始剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等が例示できる。加熱温度は、好ましくは50~80℃であり、反応時間は、好ましくは2~100時間、より好ましくは5~20時間である。
【0177】
ここで、高分子化合物(A)中における繰り返し単位A1~A7、B、C、D、E、F、Gの割合は、それぞれa1~a7、b1、c1、d1、e1、f1、g1で表され、その範囲はそれぞれ、0≦a1<1.0、0≦a2<1.0、0≦a3<1.0、0≦a4<1.0、0≦a5<1.0、0≦a6<1.0、0≦a7<1.0、0<a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦1.0、0≦b1<1.0、0≦c1<1.0、0≦d1<1.0、0≦e1<0.9、0≦f1<0.9、0≦g1<0.9であり、好ましくは0≦a1≦0.9、0≦a2≦0.9、0≦a3≦0.9、0≦a4≦0.9、0≦a5≦0.9、0≦a6≦0.9、0≦a7≦0.9、0.01≦a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦0.9、0.03≦b1≦0.9、0≦c1≦0.8、0≦d1≦0.8、0≦e1<0.8、0≦f1<0.8、0≦g1<0.8であり、より好ましくは0≦a1≦0.8、0≦a2≦0.8、0≦a3≦0.8、0≦a4≦0.8、0≦a5≦0.8、0≦a6≦0.8、0≦a7≦0.8、0.02≦a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦0.8、0.05≦b1≦0.9、0≦c1≦0.7、0≦d1≦0.5、0≦e1<0.3、0≦f1<0.7、0≦g1<0.7である。
【0178】
なお、例えば、a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7+b1+c1+d1+e1+f1+g1=1とは、繰り返し単位A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、B、C、D、E、F、Gを含む高分子化合物において、繰り返し単位A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、B、C、D、E、F、Gの合計量が全繰り返し単位の合計量に対して100モル%であることを示し、a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7+b1+c1+d1+e1+f1+g1<1とは、繰り返し単位A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、B、C、D、E、F、Gの合計量が全繰り返し単位の合計量に対して100モル%未満でA1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、B、C、D、E、F、G以外に他の繰り返し単位を有していることを示す。
【0179】
高分子化合物(A)成分の分子量は、重量平均分子量として500以上が好ましく、より好ましくは1,000以上、1,000,000以下であり、更に好ましくは2,000以上、500,000以下である。また、重合後に高分子化合物(A)成分に組み込まれていないイオン性モノマー(残存モノマー)が少量であれば、生体適合試験でこれが肌に染みこんでアレルギーを引き起こす恐れがなくなるため、残存モノマーの量は減らすのが好ましい。残存モノマーの量は、高分子化合物(A)成分全体100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましい。また、高分子化合物(A)成分は、1種を単独で使用してもよいし、分子量や分散度、重合モノマーの異なる2種以上を混合で使用してもよい。
【0180】
[(B)樹脂]
上記生体電極組成物に配合される(B)樹脂((B)成分)は、上記の高分子化合物(A)のイオン性材料(塩)と相溶して塩の溶出を防ぎ、金属粉、カーボン材料、珪素粉、チタン酸リチウム粉等の導電性向上剤を保持し、粘着性を発現させるための成分である。高分子化合物(A)のイオン性材料が粘着性を有している場合は、(B)樹脂は必ずしも必要ではない。なお、樹脂は、上述の高分子化合物(A)成分以外の樹脂であればよく、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか、又はこれらの両方であることが好ましく、特には、シリコーン系、アクリル系、及びウレタン系の樹脂から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0181】
粘着性のシリコーン系の樹脂としては、付加反応硬化型又はラジカル架橋反応硬化型のものが挙げられる。付加反応硬化型としては、例えば、特開2015-193803号公報に記載の、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、RSiO0.5及びSiO単位を有するMQレジン、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、白金触媒、付加反応制御剤、及び有機溶剤を含有するものを用いることができる。また、ラジカル架橋反応硬化型としては、例えば、特開2015-193803号公報に記載の、アルケニル基を有していてもいなくてもよいジオルガノポリシロキサン、RSiO0.5及びSiO単位を有するMQレジン、有機過酸化物、及び有機溶剤を含有するものを用いることができる。ここでRは炭素数1~10の置換又は非置換の一価の炭化水素基である。
【0182】
また、ポリマー末端や側鎖にシラノールを有するポリシロキサンと、MQレジンを縮合反応させて形成したポリシロキサン・レジン一体型化合物を用いることもできる。MQレジンはシラノールを多く含有するためにこれを添加することによって粘着力が向上するが、架橋性がないためにポリシロキサンと分子的に結合していない。上記のようにポリシロキサンとレジンを一体型とすることによって、粘着力を増大させることができる。
【0183】
また、シリコーン系の樹脂には、アミノ基、オキシラン基、オキセタン基、ポリエーテル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、メタクリル基、アクリル基、フェノール基、シラノール基、カルボン酸無水物基、アリール基、アラルキル基、アミド基、エステル基、ラクトン環から選ばれる基を有する変性シロキサンを添加することもできる。変性シロキサンを添加することによって、高分子化合物(A)成分のシリコーン樹脂中での分散性が向上する。変性シロキサンはシロキサンの片末端、両末端、側鎖のいずれが変性されたものでも構わない。
【0184】
粘着性のアクリル系の樹脂としては、例えば、特開2016-011338号公報に記載の、親水性(メタ)アクリル酸エステル、長鎖疎水性(メタ)アクリル酸エステルを繰り返し単位として有するものを用いることができる。場合によっては、官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルやシロキサン結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合してもよい。
【0185】
粘着性のウレタン系の樹脂としては、例えば、特開2016-065238号公報に記載の、ウレタン結合と、ポリエーテルやポリエステル結合、ポリカーボネート結合、シロキサン結合を有するものを用いることができる。
【0186】
また、生体接触層から高分子化合物(A)成分が溶出することによる導電性の低下を防止するために、生体電極組成物において、(B)樹脂は上述の高分子化合物(A)成分との相溶性が高いものであることが好ましい。また、導電性基材からの生体接触層の剥離を防止するために、生体電極組成物において、(B)樹脂は導電性基材に対する接着性が高いものであることが好ましい。樹脂を、導電性基材や塩との相溶性が高いものとするためには、極性が高い樹脂を用いることが効果的である。このような樹脂としては、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、チオウレタン結合、及びチオール基から選ばれる1つ以上を有する樹脂、あるいはポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリチオウレタン樹脂等が挙げられる。また、一方で、生体接触層は生体に接触するため、生体からの汗の影響を受けやすい。従って、生体電極組成物において、(B)樹脂は撥水性が高く、加水分解しづらいものであることが好ましい。樹脂を、撥水性が高く、加水分解しづらいものとするためには、珪素を含有する樹脂を用いることが効果的である。
【0187】
珪素原子を含有するポリアクリル樹脂としては、シリコーンを主鎖に有するポリマーと珪素原子を側鎖に有するポリマーとがあるが、どちらも好適に用いることができる。シリコーンを主鎖に有するポリマーとしては、(メタ)アクリルプロピル基を有するシロキサンあるいはシルセスキオキサン等を用いることができる。この場合は、光ラジカル発生剤を添加することで(メタ)アクリル部分を重合させて硬化させることができる。
【0188】
珪素原子を含有するポリアミド樹脂としては、例えば、特開2011-079946号公報、米国特許5981680号公報に記載のポリアミドシリコーン樹脂等を好適に用いることができる。このようなポリアミドシリコーン樹脂は、例えば、両末端にアミノ基を有するシリコーン又は両末端にアミノ基を有する非シリコーン化合物と、両末端にカルボキシル基を有する非シリコーン又は両末端にカルボキシル基を有するシリコーンを組み合わせて合成することができる。
【0189】
また、カルボン酸無水物とアミンを反応させて得られる、環化する前のポリアミド酸を用いてもよい。ポリアミド酸のカルボキシル基の架橋には、エポキシ系やオキセタン系の架橋剤を用いてもよいし、カルボキシル基とヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル化反応を行って、(メタ)アクリレート部分の光ラジカル架橋を行ってもよい。
【0190】
珪素原子を含有するポリイミド樹脂としては、例えば、特開2002-332305号公報に記載のポリイミドシリコーン樹脂等を好適に用いることができる。ポリイミド樹脂は粘性が非常に高いが、(メタ)アクリル系モノマーを溶剤かつ架橋剤として配合することによって低粘性にすることができる。
【0191】
珪素原子を含有するポリウレタン樹脂としては、ポリウレタンシリコーン樹脂を挙げることができ、このようなポリウレタンシリコーン樹脂では、両末端にイソシアネート基を有する化合物と末端にヒドロキシ基を有する化合物をブレンドして加熱することによってウレタン結合による架橋を行うことができる。なお、この場合、両末端にイソシアネート基を有する化合物か、末端にヒドロキシ基を有する化合物のいずれかあるいは両方に珪素原子(シロキサン結合)を含有する必要がある。あるいは、特開2005-320418号公報に記載されるように、ポリシロキサンにウレタン(メタ)アクリレートモノマーをブレンドして光架橋させることもできる。また、シロキサン結合とウレタン結合の両方を有し、末端に(メタ)アクリレート基を有するポリマーを光架橋させることもできる。特に、特開2018-123304号公報、同2019-70109号公報記載の側鎖にシリコーン鎖が付き主鎖がポリウレタンが高強度で高伸縮な特性を有しているため好ましい。
【0192】
珪素原子を含有するポリチオウレタン樹脂は、チオール基を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物の反応によって得ることができ、これらのうちいずれかが珪素原子を含有していればよい。また、末端に(メタ)アクリレート基を有していれば、光硬化させることも可能である。
【0193】
シリコーン系の樹脂において、上述のアルケニル基を有するジオルガノシロキサン、RSiO0.5及びSiO単位を有するMQレジン、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンに加えて、アミノ基、オキシラン基、オキセタン基、ポリエーテル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、メタクリル基、アクリル基、フェノール基、シラノール基、カルボン酸無水物基、アリール基、アラルキル基、アミド基、エステル基、ラクトン環から選ばれる基を有する変性シロキサンを添加することによって上述の塩との相溶性が高まる。
【0194】
生体電極組成物において、(B)成分の配合量は、高分子化合物(A)のイオンポリマー100質量部に対して0~2000質量部とすることが好ましく、10~1000質量部とすることがより好ましい。また、樹脂(B)成分はそれぞれ、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合で使用してもよい。
【0195】
なお、上述のように、生体接触層は生体電極組成物の硬化物である。硬化させることによって、肌と導電性基材の両方に対する生体接触層の接着性が良好なものとなる。なお、硬化手段としては、特に限定されず、一般的な手段を用いることができ、例えば、熱及び光のいずれか、又はその両方、あるいは酸又は塩基触媒による架橋反応等を用いることができる。架橋反応については、例えば、架橋反応ハンドブック 中山雍晴 丸善出版(2013年)第二章p51~p371に記載の方法を適宜選択して行うことができる。
【0196】
アルケニル基を有するジオルガノシロキサンと、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、白金触媒による付加反応によって架橋させることができる。
【0197】
白金触媒としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物、白金-オレフィン錯体、白金-ビニル基含有シロキサン錯体等の白金系触媒、ロジウム錯体及びルテニウム錯体等の白金族金属系触媒などが挙げられる。また、これらの触媒をアルコール系、炭化水素系、シロキサン系溶剤に溶解・分散させたものを用いてもよい。
【0198】
なお、白金触媒の添加量は、高分子化合物(A)と(B)樹脂を合わせた樹脂100質量部に対して5~2,000ppm、特には10~500ppmの範囲とすることが好ましい。
【0199】
また、付加硬化型のシリコーン樹脂を用いる場合には、付加反応制御剤を添加してもよい。この付加反応制御剤は、溶液中及び塗膜形成後の加熱硬化前の低温環境下で、白金触媒が作用しないようにするためのクエンチャーとして添加するものである。具体的には、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニルシクロヘキサノール、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ブチン、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ペンチン、3,5-ジメチル-3-トリメチルシロキシ-1-ヘキシン、1-エチニル-1-トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2-ジメチル-3-ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン等が挙げられる。
【0200】
付加反応制御剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0~10質量部、特に0.05~3質量部の範囲とすることが好ましい。
【0201】
光硬化を行う方法としては、(メタ)アクリレート末端やオレフィン末端を有している樹脂を用いるか、末端が(メタ)アクリレート、オレフィンやチオール基になっている架橋剤を添加するとともに、光によってラジカルを発生させる光ラジカル発生剤を添加する方法や、オキシラン基、オキセタン基、ビニルエーテル基を有している樹脂や架橋剤を用い、光によって酸を発生させる光酸発生剤を添加する方法が挙げられる。
【0202】
光ラジカル発生剤としては、アセトフェノン、4,4’-ジメトキシベンジル、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、2-ベンゾイル安息香酸、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、4-ベンゾイル安息香酸、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2-ベンゾイル安息香酸メチル、2-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(BAPO)、1,4-ジベンゾイルベンゼン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、2-イソニトロソプロピオフェノン、2-フェニル-2-(p-トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノンを挙げることができる。
【0203】
熱分解型のラジカル発生剤を添加することによって硬化させることもできる。熱ラジカル発生剤としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(メチルプロピオンアミジン)塩酸、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]塩酸、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、ジメチル-2,2’-アゾビス(イソブチレート)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、ジ-tert-アミルパーオキシド、ジ-n-ブチルパーオキシド、ジクミルパーオキシド等を挙げることができる。
【0204】
光酸発生剤としては、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニルジアゾメタン、N-スルホニルオキシイミド、オキシム-O-スルホネート型酸発生剤等を挙げることができる。光酸発生剤の具体例としては、例えば、特開2008-111103号公報の段落[0122]~[0142]、特開2009-080474号公報に記載されているものが挙げられる。
【0205】
なお、ラジカル発生剤や光酸発生剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0.1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0206】
これらの中でも、(B)成分の樹脂としては、RSiO(4-x)/2単位(Rは炭素数1~10の置換又は非置換の一価炭化水素基、xは2.5~3.5の範囲である。)及びSiO単位を有するシリコーン樹脂、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、並びにSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有するものが特に好ましい。
【0207】
[金属粉]
生体電極組成物には、電子導電性を高めるために、金、銀、白金、銅、錫、チタン、ニッケル、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ルテニウム、クロム、インジウムから選ばれる金属粉を添加することもできる。金属粉の添加量は、樹脂100質量部に対して1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0208】
金属粉の種類として導電性の観点では金、銀、白金が好ましく、価格の観点では銀、銅、錫、チタン、ニッケル、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ルテニウム、クロムが好ましく、生体適合性の観点では貴金属が好ましい。これらの観点で総合的には銀が最も好ましい。
【0209】
金属粉の形状としては、球状、円盤状、フレーク状、針状を挙げることが出来るが、フレーク状の粉末を添加したときの導電性が最も高くて好ましい。金属粉のサイズは100μm以下、タップ密度が5g/cm以下、比表面積が0.5m/g以上の、比較的低密度で比表面積が大きいフレークが好ましい。
【0210】
[カーボン材料]
導電性向上剤として、カーボン材料を添加することができる。カーボン材料としては、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、炭素繊維等を挙げることができる。カーボンナノチューブは単層、多層のいずれであってもよく、表面が有機基で修飾されていても構わない。カーボン材料の添加量は、樹脂100質量部に対して1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0211】
[珪素粉]
生体電極組成物には、イオン受容の感度を高めるために、珪素粉を添加することが出来る。珪素粉としては、珪素、一酸化珪素、炭化珪素からなる粉体を挙げることが出来る。粉体の粒子径は100μmよりも小さい方が好ましく、より好ましくは1μm以下である。より細かい粒子の方が表面積が大きいために、たくさんのイオンを受け取ることが出来、高感度な生体電極となる。珪素粉の添加量は、樹脂100質量部に対して1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0212】
[チタン酸リチウム粉]
生体電極組成物には、イオン受容の感度を高めるために、チタン酸リチウム粉を添加することが出来る。チタン酸リチウム粉としては、LiTiO、LiTiO、スピネル構造のLiTi12の分子式を挙げることが出来、スピネル構造品が好ましい。又、カーボンと複合化したチタン酸リチウム粒子を用いることも出来る。粉体の粒子径は100μmよりも小さい方が好ましく、より好ましくは1μm以下である。より細かい粒子の方が表面積が大きいために、たくさんのイオンを受け取ることが出来、高感度な生体電極となる。これらは炭素との複合粉であっても良い。チタン酸リチウム粉の添加量は、樹脂100質量部に対して1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0213】
[粘着性付与剤]
また、生体電極組成物には、生体に対する粘着性を付与するために、粘着性付与剤を添加してもよい。このような粘着性付与剤としては、例えば、シリコーンレジンや非架橋性のシロキサン、非架橋性のポリ(メタ)アクリレート、非架橋性のポリエーテル等を挙げることができる。
【0214】
[架橋剤]
生体電極組成物にはエポキシ系の架橋剤を添加することも出来る。この場合の架橋剤は、エポキシ基やオキセタン基を1分子内に複数有する化合物である。添加量としては、樹脂100質量部に対して1~30質量部である。
【0215】
[架橋触媒]
生体電極組成物にはエポキシ基やオキセタン基を架橋するための触媒を添加することも出来る。この場合の触媒は、特表2019-503406号中、段落0027~0029に記載されているものを用いることが出来る。添加量としては、樹脂100質量部に対して0.01~10質量部である。
【0216】
[イオン性添加剤]
生体電極組成物には、イオン導電性を上げるためのイオン性添加剤を添加することが出来る。生体適合性を考慮すると、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、サッカリンナトリウム塩、アセスルファムカリウム、特開2018-44147号公報、同2018-59050号公報、同2018-59052号公報、同2018-130534公報の塩を挙げることが出来る。
【0217】
本発明の生体電極組成物において、ポリグリセリン構造を有するシリコーン化合物(C)((C)成分)を含有することもできる。(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.01~100質量部とすることが好ましく、0.5~60質量部とすることがより好ましい。また、(C)成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合で使用してもよい。
【0218】
ポリグリセリン構造を有するシリコーン化合物(C)は、下記一般式(3)又は(4)で示されるものであることが好ましい。
【化75】
(式(3)および(4)中、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一であっても異なっていても良く、炭素数1~50の直鎖状若しくは炭素数3~50の分岐状のアルキル基、又はフェニル基であり、エーテル基を含有していても良く、一般式(5)で示されるシリコーン鎖であってもよく、R’は一般式(3)-1又は一般式(3)-2で表されるポリグリセリン基構造を有する基であり、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一であっても異なっていても良く、前記R’基又は前記R’基であり、R’は、それぞれ独立であり、互いに同一であっても異なっていても良く、前記R’基、前記R’基又は酸素原子である。R’が酸素原子である場合、2つのR’基は一体化して1つのエーテル基となって、ケイ素原子とともに環を形成しても良い。aは同一であっても異なっていても良く0~100であり、bは0~100であり、a+bは0~200である。但し、bが0の時はR’の少なくとも1つが前記R’基である。一般式(3)-1及び一般(3)-2中、R’は炭素数2~10のアルキレン基又は炭素数7~10のアラルキレン基であり、R’、R’、R’は炭素数2~6のアルキレン基であり、cは0~20、dは1~20である。)
【0219】
このようなポリグリセリン構造を有するシリコーン化合物(C)としては、例えば以下を例示することができる。
【0220】
【化76】
【0221】
【化77】
【0222】
【化78】
【0223】
【化79】
【0224】
【化80】
【0225】
【化81】
【0226】
【化82】
【0227】
【化83】
(式中、a、b、c及びdはそれぞれ独立して上記のとおりである)
【0228】
[有機溶剤]
また、生体電極組成物には、有機溶剤を添加することができる。有機溶剤としては、具体的には、トルエン、キシレン、クメン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、スチレン、αメチルスチレン、ブチルベンゼン、sec-ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、シメン、ジエチルベンゼン、2-エチル-p-キシレン、2-プロピルトルエン、3-プロピルトルエン、4-プロピルトルエン、1,2,3,5-テトラメチルトルエン、1,2,4,5-テトラメチルトルエン、テトラヒドロナフタレン、4-フェニル-1-ブテン、tert-アミルベンゼン、アミルベンゼン、2-tert-ブチルトルエン、3-tert-ブチルトルエン、4-tert-ブチルトルエン、5-イソプロピル-m-キシレン、3-メチルエチルベンゼン、tert-ブチル-3-エチルベンゼン、4-tert-ブチル-o-キシレン、5-tert-ブチル-m-キシレン、tert-ブチル-p-キシレン、1,2-ジイソプロピルベンゼン、1,3-ジイソプロピルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、ジプロピルベンゼン、ペンタメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、1,3,5-トリエチルベンゼン等の芳香族系炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0229】
また、その他には、n-ヘプタン、イソヘプタン、3-メチルヘキサン、2,3-ジメチルペンタン、3-エチルペンタン、1,6-ヘプタジエン、5-メチル-1-ヘキシン、ノルボルナン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1-メチル-1,4-シクロヘキサジエン、1-ヘプチン、2-ヘプチン、シクロヘプタン、シクロヘプテン、1,3-ジメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、1-メチル-1-シクロヘキセン、3-メチル-1-シクロヘキセン、メチレンシクロヘキサン、4-メチル-1-シクロヘキセン、2-メチル-1-ヘキセン、2-メチル-2-ヘキセン、1-ヘプテン、2-ヘプテン、3-ヘプテン、n-オクタン、2,2-ジメチルヘキサン、2,3-ジメチルヘキサン、2,4-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、3,4-ジメチルヘキサン、3-エチル-2-メチルペンタン、3-エチル-3-メチルペンタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,2,4-トリメチルペンタン、シクロオクタン、シクロオクテン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、1,3-ジメチルシクロヘキサン、1,4-ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、イソプロピルシクロペンタン、2,2-ジメチル-3-ヘキセン、2,4-ジメチル-1-ヘキセン、2,5-ジメチル-1-ヘキセン、2,5-ジメチル-2-ヘキセン、3,3-ジメチル-1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、2-エチル-1-ヘキセン、2-メチル-1-ヘプテン、1-オクテン、2-オクテン、3-オクテン、4-オクテン、1,7-オクタジエン、1-オクチン、2-オクチン、3-オクチン、4-オクチン、n-ノナン、2,3-ジメチルヘプタン、2,4-ジメチルヘプタン、2,5-ジメチルヘプタン、3,3-ジメチルヘプタン、3,4-ジメチルヘプタン、3,5-ジメチルヘプタン、4-エチルヘプタン、2-メチルオクタン、3-メチルオクタン、4-メチルオクタン、2,2,4,4-テトラメチルペンタン、2,2,4-トリメチルヘキサン、2,2,5-トリメチルヘキサン、2,2-ジメチル-3-ヘプテン、2,3-ジメチル-3-ヘプテン、2,4-ジメチル-1-ヘプテン、2,6-ジメチル-1-ヘプテン、2,6-ジメチル-3-ヘプテン、3,5-ジメチル-3-ヘプテン、2,4,4-トリメチル-1-ヘキセン、3,5,5-トリメチル-1-ヘキセン、1-エチル-2-メチルシクロヘキサン、1-エチル-3-メチルシクロヘキサン、1-エチル-4-メチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、1,1,3-トリメチルシクロヘキサン、1,1,4-トリメチルシクロヘキサン、1,2,3-トリメチルシクロヘキサン、1,2,4-トリメチルシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルシクロヘキサン、アリルシクロヘキサン、ヒドリンダン、1,8-ノナジエン、1-ノニン、2-ノニン、3-ノニン、4-ノニン、1-ノネン、2-ノネン、3-ノネン、4―ノネン、n-デカン、3,3-ジメチルオクタン、3,5-ジメチルオクタン、4,4-ジメチルオクタン、3-エチル-3-メチルヘプタン、2-メチルノナン、3-メチルノナン、4-メチルノナン、tert-ブチルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、4-イソプロピル-1-メチルシクロヘキサン、ペンチルシクロペンタン、1,1,3,5-テトラメチルシクロヘキサン、シクロドデカン、1-デセン、2-デセン、3-デセン、4-デセン、5-デセン、1,9-デカジエン、デカヒドロナフタレン、1-デシン、2-デシン、3-デシン、4-デシン、5-デシン、1,5,9-デカトリエン、2,6-ジメチル-2,4,6-オクタトリエン、リモネン、ミルセン、1,2,3,4,5-ペンタメチルシクロペンタジエン、α-フェランドレン、ピネン、テルピネン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、5,6-ジヒドロジシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、1,4-デカジイン、1,5-デカジイン、1,9-デカジイン、2,8-デカジイン、4,6-デカジイン、n-ウンデカン、アミルシクロヘキサン、1-ウンデセン、1,10-ウンデカジエン、1-ウンデシン、3-ウンデシン、5-ウンデシン、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ-4-エン、n-ドデカン、2-メチルウンデカン、3-メチルウンデカン、4-メチルウンデカン、5-メチルウンデカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、1,3-ジメチルアダマンタン、1-エチルアダマンタン、1,5,9-シクロドデカトリエン、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0230】
さらに、その他には、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、メチルn-ペンチルケトン等のケトン系溶剤、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘプチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジ-n-ペンチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジ-secブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジ-sec-ペンチルエーテル、ジ-tert-アミルエーテル、ジ-n-ヘキシルエーテル、アニソール等のエーテル系溶剤、
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸tert-ブチル、プロピレングリコールモノtert-ブチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、
γ-ブチロラクトン等のラクトン系溶剤などを挙げることができる。
【0231】
なお、有機溶剤の添加量は、樹脂100質量部に対して10~50,000質量部の範囲とすることが好ましい。
【0232】
[その他添加剤]
生体電極組成物には、シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子を混合することも出来る。シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子は表面が親水性であり、親水性のイオンポリマーやポリグリセリンシリコーンとのなじみが良く、疎水性のシリコーン粘着剤でのイオンポリマーやポリグリセリンシリコーンのシリコーン粘着剤での分散性を向上させることが出来る。シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子は乾式、湿式どちらでも好ましく用いることが出来る。シリカ粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、ジルコニア粒子の形状は、球状、楕円状、不定形状、中空状、多孔質のいずれであっても構わない。
【0233】
以上のように、本発明の生体電極であれば、上述の生体電極組成物の硬化物で生体接触層が形成されるため、肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができ(即ち、導電性に優れ)、長期間肌に装着してもアレルギーを起こす恐れがなく(即ち、生体適合性に優れ)、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない生体電極となる。また、金属粉を添加することによって一層導電性を向上させることができ、粘着性と伸縮性を有する樹脂と組み合わせることによって特に高粘着力で伸縮性が高い生体電極を製造することができる。更に、添加剤等により肌に対する伸縮性や粘着性を向上させることができ、樹脂の組成や生体接触層の厚さを適宜調節することで、伸縮性や粘着性を調整することもできる。従って、このような本発明の生体電極であれば、医療用ウェアラブルデバイスに用いられる生体電極として、特に好適である。
【0234】
<生体電極の製造方法>
本発明の生体電極の製造方法は、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極の製造方法であって、生体接触層が水を含まない樹脂層を含み、該樹脂層の生体に接触する表面側に、水溶性塩と水とが浸透した浸透層を有するように構成できれば特に限定されないが、例えば、前記導電性基材上に、生体電極組成物を塗布し、硬化させることで前記生体接触層を形成した後、浸透層を形成する方法とすることができる。浸透層は、水を含まない樹脂層の生体に接触する表面側に、水溶性塩と水とを含む液(浸透液)が浸透することで形成できる。浸透液は後述のものを使用できる。
【0235】
なお、本発明の生体電極の製造方法に使用される導電性基材、生体電極組成物等は、上述のものと同様でよい。
【0236】
具体的には、生体電極の製造方法であって、導電性基材の上に、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、及びN-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、銀塩から選ばれる塩構造を有する繰り返し単位を含有する高分子化合物(A)を含有する生体電極組成物を塗布し、硬化させて生体接触層を形成し、前記生体接触層の生体に接触する表面側に、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ベタインから選ばれる水溶性塩を含む水溶液(浸透液)を接触させて、前記生体接触層の生体に接触する表面側に、前記水溶性塩を含む水溶液が浸透した浸透層を形成することを特徴とする生体電極の製造方法が挙げられる。
【0237】
導電性基材上に生体電極組成物を塗布する方法は、特に限定されないが、例えばディップコート、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、フローコート、ドクターコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、ステンシル印刷、インクジェット印刷等の方法が好適である。
【0238】
樹脂の硬化方法は、特に限定されず、生体電極組成物に使用する(B)樹脂の種類によって適宜選択すればよいが、例えば、熱及び光のいずれか、又はこれらの両方で硬化させることが好ましい。また、上記の生体電極組成物に酸や塩基を発生させる触媒を添加しておいて、これによって架橋反応を発生させ、硬化させることもできる。
【0239】
なお、加熱する場合の温度は、特に限定されず、生体電極組成物に使用する(B)樹脂の種類によって適宜選択すればよいが、例えば50~250℃程度が好ましい。
【0240】
また、加熱と光照射を組み合わせる場合は、加熱と光照射を同時に行ってもよいし、光照射後に加熱を行ってもよいし、加熱後に光照射を行ってもよい。また、塗膜後の加熱の前に溶剤を蒸発させる目的で風乾を行ってもよい。
【0241】
生体接触層の表面は、前記水溶性塩を含む水溶液が浸透しやすくするために、微細な凹凸がある表面の方が好ましい。微細な凹凸を形成するために、生体電極組成物を塗布、溶剤を蒸発させた後に凹凸のある基板を押しつけて硬化させる方法、導電性基材として導電繊維などの凹凸のある基板上に生体電極組成物を塗布、硬化させる方法、スクリーン印刷やインクジェット印刷などにより印刷によって凹凸を付ける方法などが挙げられる。
【0242】
硬化後の膜表面に水溶性塩を含有する水滴を付けたり、水蒸気やミストを吹きかける等の前処理を行うと肌とのなじみが向上し、素早く生体信号を得ることが出来る。水と混合させる水溶性塩は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ベタインから選ばれる。
【0243】
[浸透層]
本発明の生体電極の生体接触層に含まれる浸透層は、前記水を含まない樹脂層の生体に接触する表面側に、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、ベタインから選ばれる水溶性塩と水とを含む液(浸透液)を浸透させる処理を行うことで形成される。
【0244】
[水溶性塩]
前記浸透液に含まれる前記水溶性塩は特に限定されないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、サッカリンナトリウム塩、アセスルファムカリウム、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸カリウム、カルボン酸カルシウム、スルホン酸ナトリウム、スルホン酸カリウム、スルホン酸カルシウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、ベタインから選ばれる塩であることができる。なお、上述の高分子化合物(A)は、前記水溶性塩に含まれない。
【0245】
より具体的には、上記の他に酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、ピバル酸ナトリウム、グリコール酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、吉草酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、エナント酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、ペラルゴン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ウンデシル酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、トリデシル酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ペンタデシル酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、マルガリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、アジピン酸二ナトリウム、マレイン酸二ナトリウム、フタル酸二ナトリウム、2-ヒドロキシ酪酸ナトリウム、3-ヒドロキシ酪酸ナトリウム、2-オキソ酪酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、メタンスルホン酸ナトリウム、1-ノナンスルホン酸ナトリウム、1-デカンスルホン酸ナトリウム、1-ドデカンスルホン酸ナトリウム、1-ウンデカンスルホン酸ナトリウム、ココイルセチオン酸ナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム、ココイルメチルタウリンナトリウム、ココイルグルタミン酸ナトリウム、ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ラウミドプロピル、イソ酪酸カリウム、プロピオン酸カリウム、ピバル酸カリウム、グリコール酸カリウム、グルコン酸カリウム、メタンスルホン酸カリウム、ステアリン酸カルシウム、グリコール酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、3-メチル-2-オキソ酪酸カルシウム、メタンスルホン酸カルシウムが挙げられる。ベタインは分子内塩の総称で、具体的にはアミノ酸のアミノ基に3個のメチル基が付加した化合物を例示できるが、より具体的にはトリメチルグリシン、カルニチン、プロリンベタインを挙げることが出来る。
【0246】
[アルコールとシリコーン化合物]
前記浸透液は、さらに炭素数1~4の1価アルコール又は多価アルコールを含有することができ、前記アルコールがエタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、ソルビトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジグリセリン、ポリグリセリン、ポリグリセリン構造を有するシリコーン化合物、単糖類、多糖類又はこれらのヒドロキシ基が置換されている材料から選ばれるものであることが好ましく、前記ポリグリセリン構造を有するシリコーン化合物が上記一般式(3)で示されるものであることがより好ましい。
【0247】
水溶性塩含有水溶液による前処理方法は、硬化後の生体電極膜上に噴霧法、水滴ディスペンス法等で生体電極膜を塗らすことが出来る。サウナのように高温高湿状態で塗らすことも出来る。塗らした後は乾燥を防止するために、浸透層の上に、さらに保護フィルムを積層することで覆うことも出来る。保護フィルムは肌に貼り付ける直前に剥がす必要があるので、剥離剤がコートされているか、剥離性のテフロンフィルムが用いられることができる。剥離フィルムで覆われたドライ電極は、長期間の保存のためにはアルミニウムなどでカバーされた袋で封止されることが好ましい。アルミニウムでカバーされた袋の中での乾燥を防止するためには、この中に水分を封入しておくことが好ましい。
【0248】
水溶性塩を含有する水溶液(浸透液)を吹きかける前処理法は、一般式(1’)で示される繰り返し単位を有するイオンポリマーを含有するドライ電極において最も有効であるが、PEDOT-PSS、塩化銀、カーボンや金属を含有する導電性繊維からなるドライ電極においても有効である。
【0249】
以上のように、本発明の生体電極の製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがない本発明の生体電極を、低コストで容易に製造することができる。
【0250】
<生体信号の測定方法>
本発明の生体信号の測定方法は、肌の上を水を含有する溶液で処理し、処理した部分に本発明の生体電極を貼り付けて生体信号を測定する方法である。生体電極が貼り付けられる側の肌を、貼り付ける直前に水や水を含有するエタノールやグリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリンなどのアルコールを含有する布で拭いたり、スプレー塗布したりすることは、肌の表面を湿らせてより短時間で高感度かつ高精度な生体信号を取る上で有効である。前記水含有布で拭くことは、肌を湿らすだけでなく、肌表面の油脂を取り除く効果もあり、これによっても生体信号の感度が向上する。
【実施例
【0251】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、「Me」はメチル基、「Vi」はビニル基を示す。
【0252】
生体電極組成物溶液(生体電極溶液)にイオン性材料(導電性材料)として配合したイオン性ポリマー1~16、比較イオン性ポリマー1は、以下のようにして合成した。各モノマーの30質量%シクロペンタノン溶液を反応容器に入れて混合し、反応容器を窒素雰囲気下-70℃まで冷却し、減圧脱気、窒素ブローを3回繰り返した。室温まで昇温後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をモノマー全体1モルに対して0.01モル加え、60℃まで昇温後、15時間反応させた。得られたポリマーの組成は、溶剤を乾燥後、H-NMRにより確認した。また、得られたポリマーの重量平均分子量(Mw)及び分散度(Mw/Mn)は、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により確認した。このようにして合成したイオン性ポリマー1~16、比較イオン性ポリマー1を以下に示す。
【0253】
イオン性ポリマー1
Mw=38,100
Mw/Mn=1.91
【化84】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0254】
イオン性ポリマー2
Mw=36,100
Mw/Mn=1.93
【化85】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0255】
イオン性ポリマー3
Mw=150,600
Mw/Mn=1.85
【化86】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0256】
イオン性ポリマー4
Mw=44,400
Mw/Mn=1.94
【化87】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0257】
イオン性ポリマー5
Mw=43,100
Mw/Mn=1.88
【化88】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0258】
イオン性ポリマー6
Mw=41,200
Mw/Mn=1.72
【化89】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0259】
イオン性ポリマー7
Mw=43,600
Mw/Mn=1.93
【化90】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0260】
イオン性ポリマー8
Mw=31,600
Mw/Mn=2.10
【化91】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0261】
イオン性ポリマー9
Mw=55,100
Mw/Mn=2.02
【化92】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0262】
イオン性ポリマー10
Mw=87,500
Mw/Mn=2.01
【化93】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0263】
イオン性ポリマー11
Mw=43,600
Mw/Mn=1.91
【化94】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0264】
イオン性ポリマー12
Mw=97,100
Mw/Mn=2.20
【化95】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0265】
イオン性ポリマー13
Mw=98,300
Mw/Mn=2.05
【化96】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0266】
イオン性ポリマー14
Mw=68,900
Mw/Mn=2.26
【化97】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0267】
イオン性ポリマー15
Mw=67,100
Mw/Mn=1.89
【化98】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0268】
イオン性ポリマー16
Mw=23,400
Mw/Mn=1.77
【化99】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0269】
比較イオン性ポリマー1
Mw=46,700
Mw/Mn=2.25
【化100】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0270】
ポリグリセリンシリコーン化合物1~6を下記に示す。これらの化合物は、特開2019-99469号に記載のSiH基を有するシリコーン化合物と、二重結合を有するポリグリセリン化合物を白金触媒存在下におけるヒドロシリル化反応によって合成した。
【0271】
【化101】
【0272】
生体電極組成物溶液にシリコーン系の樹脂として配合したシロキサン化合物1~4を以下に示す。
(シロキサン化合物1)
30%トルエン溶液での粘度が27,000mPa・sであり、アルケニル基含有量が0.007モル/100gであり、分子鎖末端がSiMeVi基で封鎖されたビニル基含有ポリジメチルシロキサンをシロキサン化合物1とした。
(シロキサン化合物2)
MeSiO0.5単位及びSiO単位からなるMQレジンのポリシロキサン(MeSiO0.5単位/SiO単位=0.8)の60%トルエン溶液をシロキサン化合物2とした。
(シロキサン化合物3)
30%トルエン溶液での粘度が42,000mPa・sであり、アルケニル基含有量が0.007モル/100gであり、分子鎖末端がOHで封鎖されたビニル基含有ポリジメチルシロキサン40質量部、MeSiO0.5単位及びSiO単位からなるMQレジンのポリシロキサン(MeSiO0.5単位/SiO単位=0.8)の60%トルエン溶液100質量部、及びトルエン26.7質量部からなる溶液を還流させながら4時間加熱後、冷却して、MQレジンにポリジメチルシロキサンを結合させたものをシロキサン化合物3とした。
(シロキサン化合物4)
メチルハイドロジェンシリコーンオイルとして、信越化学工業製 KF-99を用いた。
【0273】
生体電極組成物溶液にアクリル系の樹脂として配合したアクリルポリマーを以下に示す。
アクリルポリマー1
Mw=108,000
Mw/Mn=2.32
【化102】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0274】
生体電極組成物溶液にシリコーン系、アクリル系、あるいはウレタン系の樹脂として配合したシリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート1~3、ウレタン(メタ)アクリレート1を以下に示す。
【0275】
【化103】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0276】
生体電極組成物溶液に配合した架橋剤を以下に示す。
【化104】
【0277】
生体電極組成物溶液に配合した有機溶剤の略称などを以下に示す。
EDE:ジエチレングリコールジエチルエーテル
BE:ジエチレングリコールブチルエーテル
アイソパーG(エクソンモービル社製):イソパラフィン
【0278】
生体電極組成物溶液に添加剤として配合したチタン酸リチウム粉、銀フレーク、ラジカル発生剤、白金触媒、導電性向上剤(カーボンブラック、カーボンナノチューブ)を以下に示す。
チタン酸リチウム粉、スピネル:Sigma-Aldrich社製 サイズ200nm以下
銀フレーク:Sigma-Aldrich社製 平均サイズ10μm
ラジカル発生剤:BASF社製 イルガキュアTPO
白金触媒:信越化学工業製 CAT-PL-50T
カーボンブラック:デンカ社製 デンカブラックLi-400
多層カーボンナノチューブ:Sigma-Aldrich社製 直径110~170nm、長さ5~9μm
【0279】
[実施例1~42、比較例1~3]
表1、表2に記載の組成で、イオン性材料(塩)、樹脂、有機溶剤、及び添加剤(ラジカル発生剤、白金触媒、導電性向上剤)、架橋剤をブレンドし、生体電極溶液(生体電極溶液1~17、比較生体電極溶液1、2)を調製した。
【0280】
表3に記載の組成で、水溶性塩、溶剤(水)、添加剤(アルコール)をブレンドし、前処理水溶液1~25を調製した。ポリグリセリンとしては、阪本薬品工業社のポリグリセリン#310を用いた。
【0281】
【表1】
【0282】
【表2】
【0283】
【表3】
【0284】
(生体電極の作製)
ビーマス(Bemis)社の熱可塑性ウレタン(TPU)フィルムのST-604上に、スクリーン印刷によって藤倉化成製の導電ペースト、ドータイトFA-333をコートし、120℃で10分間オーブン中でベークして円の直径が2cmの鍵穴状の導電パターンを印刷した。その上の円形部分に重ねて、表1、2記載の生体電極溶液をスクリーン印刷で塗布し、室温で10分風乾した後、オーブンを用いて125℃で10分間ベークして溶剤を蒸発させ、硬化させて生体電極を作製した(生体電極1~9、比較生体電極1、2)。更には生体電極10~17では、窒素雰囲気下でキセノンランプを200mJ/cm照射して硬化させた。図4はウレタンフィルム7上に導電パターン8が印刷され、硬化して作製された生体電極9を示す図である。図5は導電パターン8が印刷されて硬化したウレタンフィルム7を切り取って、両面テープ10を貼り付けた生体電極9を示す図である。
【0285】
(生体接触層の厚さ測定)
上記作製した生体電極において、生体接触層の厚さをマイクロメーターを用いて測定した。結果を表4に示す。
【0286】
(前処理)
前記の様に作製した生体電極1~17の上に、前処理水溶液1~25を、噴霧法では噴霧ノズルから発せられた水滴を20秒間当て、その後20分間乾燥させ、テフロンフィルムを貼った。ディスペンス法では、生体電極上に前処理溶液を約100μL垂らし、テフロンフィルムを貼った。
【0287】
(生体シグナルの測定)
生体電極の導電ペーストによる導電配線パターンとオムロンヘルスケア(株)製携帯心電計HCG-901とを導電線で結び、心電計のプラス電極を図6中の人体のLAの場所、マイナス電極をLLの場所に、アースをRAの場所にそれぞれ貼り付けた。実施例30では、貼り付ける直前に、水を含有する脱脂綿で肌の表面を拭いた。テフロンフィルムを剥がし、速やかに胸の上に貼り付け、その直後に心電図の測定を開始し、図7に示されるP、Q、R、S、T波からなる心電図波形(ECGシグナル)が現れるまでの時間を計測した。結果を表4に示す。
【0288】
【表4】
【0289】
表4に示されるように、特定の塩を含有する水で前処理した本発明の生体電極を用いて生体接触層を形成した実施例1~42では、身体に貼り付け直後で生体シグナルを得ることが出来た。一方、前処理を行わず、浸透層を含有しない場合(比較例1)や、特定の構造のイオン成分を含有しない場合(比較例2、3)は生体信号を得るまでの時間が長かったり、信号自体を得ることが出来なかった。
【0290】
また、このような実施例1~42の生体電極は、初期の導電性が高く、水に濡れたり乾燥した場合にも導電性の大幅な低下が起こらない生体電極であり、軽量であり、生体適合性に優れ、低コストで製造可能であった。
【0291】
以上のことから、本発明の前処理を行って表面に浸透層を有する生体接触層を形成した生体電極であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがなく、肌に貼り付けて速やかに信号を採取できることが明らかとなった。
【0292】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0293】
1…生体電極、 2…導電性基材、 3…生体接触層、
4…カーボン材料、 5-1…浸透層、 5-2…水を含まない樹脂層、
6…生体、 7…ウレタンフィルム、 8…導電パターン、 9…生体電極、
10…両面テープ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7