(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】エッチング液、該エッチング液を用いた基板の処理方法及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/306 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
H01L21/306 E
(21)【出願番号】P 2023535293
(86)(22)【出願日】2023-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2023007478
【審査請求日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2022033292
(32)【優先日】2022-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】置塩 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】野村 奈生人
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-018498(JP,A)
【文献】特開2006-229215(JP,A)
【文献】特開2007-049145(JP,A)
【文献】国際公開第2019/151311(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/306
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸、水、及びセリウムイオンを含む均一溶液からなる、炭窒化ケイ素をエッチングするためのエッチング液
であって、
エッチング液に含まれるリン酸の含有量が50質量%以上98質量%以下であり、
エッチング液に含まれるセリウムイオンの含有量が0.001モル/L以上0.2モル/L以下である、エッチング液。
【請求項2】
さらに硫酸を含む請求項
1に記載のエッチング液。
【請求項3】
半導体デバイスの製造に用いられるエッチング液である、請求項1
又は2に記載のエッチング液。
【請求項4】
リン酸、水、及び二酸化セリウムを除くセリウム化合物を含む溶液からなる、炭窒化ケイ素をエッチングするためのエッチング液
であって、
エッチング液に含まれるリン酸の含有量が50質量%以上98質量%以下であり、
エッチング液に含まれるセリウムイオンの含有量が0.001モル/L以上0.2モル/L以下である、エッチング液。
【請求項5】
酸化ケイ素膜と、炭窒化ケイ素膜とを有する基板に請求項1
又は2に記載のエッチング液を接触させる工程を含む、基板の処理方法。
【請求項6】
請求項
5に記載の基板の処理方法を含む半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭窒化ケイ素をエッチングするエッチング液に関する。また、本発明は該エッチング液を用いた基板の処理方法に関する。また、本発明は該エッチング液を用いた半導体デバイスの製造方法に関する。なお、基板には、半導体ウエハ、又はシリコン基板などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程では種々の材料が用いられているが、その中で窒化ケイ素や炭窒化ケイ素は、銅拡散バリア膜、パッシベーション膜、エッチストップ膜、表面保護膜、ガスバリア膜など様々な分野に有用であることが知られている。例えば、窒化ケイ素膜(SiN膜、シリコン窒化膜)や炭窒化ケイ素膜(SiCN膜、シリコン炭窒化膜)は、シリコンウエハやその加工体等の基材上に形成され、用いられている。ここで炭窒化ケイ素とは、例えば非特許文献1に示すようにケイ素、炭素、窒素の骨格からなる化合物にさらに水素や酸素を含む化合物も含む。
【0003】
半導体のパターン形成においては、基板上に形成された窒化ケイ素膜や炭窒化ケイ素膜を、酸化ケイ素膜を残して選択的にエッチングする工程が必要な場合がある(なお以下、特に断りのない場合には「選択的」とは、酸化ケイ素に比べて選択的であることを意味する)。
【0004】
窒化ケイ素のエッチングには、一般的にリン酸水溶液が用いられている。しかしながら、炭窒化ケイ素は窒化ケイ素と異なりリン酸水溶液ではほとんどエッチングされない。
【0005】
炭窒化ケイ素膜をエッチングする方法に関しては、酸化剤、フッ素化合物、水を含む組成物を用いる方法が提案されている(特許文献1)が、実施例に記載されている炭窒化ケイ素のエッチング速度は250Å/30min未満であり、十分な速度は出ていない。またこのような組成物は、酸化ケイ素膜(SiO2膜、シリコン酸化膜)もエッチングしてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】ECS Journal of Solid State Science and Technology, 8 (6) P346-P350 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
半導体デバイスの製造において、炭窒化ケイ素膜の使用はより優れた性能を与えるが、上述のように酸化ケイ素に比べて炭窒化ケイ素を十分選択的にエッチングできるエッチング液が存在せず、その使用場面は極めて限られたものであった。したがって本発明の目的は、酸化ケイ素に対する炭窒化ケイ素のエッチング選択比が高いエッチング液、該エッチング液を接触させる工程を含む基板の処理方法、及び該基板の処理方法を含む半導体デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に鑑み、炭窒化ケイ素を選択的にエッチングできる組成物について鋭意検討した。その結果、従来から窒化ケイ素の選択的エッチングに使用されていたリン酸水溶液に、さらにセリウムイオンを含有させることにより酸化ケイ素のエッチング速度をほとんど変化させることなく、炭窒化ケイ素のエッチング速度を大幅に向上させることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、以下を要旨とする。
[1] リン酸、水、及びセリウムイオンを含む均一溶液からなる、炭窒化ケイ素をエッチングするためのエッチング液。
[2] エッチング液に含まれるセリウムイオンの含有量が0.001モル/L以上0.2モル/L以下である、[1]に記載のエッチング液。
[3] さらに硫酸を含む[1]又は[2]に記載のエッチング液。
[4] 半導体デバイスの製造に用いられるエッチング液である、[1]~[3]のいずれかに記載のエッチング液。
[5] リン酸、水、及び二酸化セリウムを除くセリウム化合物を含む溶液からなる、炭窒化ケイ素をエッチングするためのエッチング液。
[6] 酸化ケイ素膜と、炭窒化ケイ素膜とを有する基板に[1]~[5]のいずれかに記載のエッチング液を接触させる工程を含む、基板の処理方法。
[7] [6]に記載の基板の処理方法を含む半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リン酸、水、及びセリウムイオンを含む均一溶液をエッチング液として使用することにより、炭窒化ケイ素を選択的にエッチングすることができる。
【0012】
さらに本発明のエッチング液は、従来のリン酸水溶液とほぼ同様に窒化ケイ素もエッチングできるため、同一のエッチング液で炭窒化ケイ素の選択的エッチングを行う工程と、窒化ケイ素の選択的エッチングを行う工程の双方に対応することもでき、複数種のエッチング液をそれぞれ管理する手間を削減することも、必要に応じて行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(エッチング液)
本発明の一実施形態に係るエッチング液は、リン酸、水、及びセリウムイオンを含む均一溶液からなり、炭窒化ケイ素のエッチングに用いるものである。
【0014】
本実施形態のエッチング液におけるリン酸の含有量は、従来公知の窒化ケイ素のエッチング液と同様の範囲でよく、具体的には、50質量%以上98質量%以下、特に70質量%以上94質量%以下が好ましい。炭窒化ケイ素のエッチングは高温で行った方がエッチング速度が速くて有利であり、リン酸の割合が多い方がより高温で安定して使用できる。一方、本実施形態のエッチング液には水やセリウムイオンが必須であり、リン酸の含有量を98質量%超とすることは現実的ではない。なお本明細書において、各成分の配合量が質量%で記載されている場合、該数値はエッチング液全体を100質量%とした場合の割合である。
【0015】
なお本実施形態のエッチング液のようなリン酸の濃厚溶液において、リン酸は、液中でオルトリン酸(H3PO4)とポリリン酸の平衡状態にあるが、上記含有量は全量がオルトリン酸として存在するとした場合の量である。ピロリン酸等として存在する場合も同様である。
【0016】
本実施形態のエッチング液は水を必須成分とする。水が存在しないと炭窒化ケイ素のエッチングの反応が進行しないが、多すぎると高温での使用が困難となる傾向がある。他の成分の種類や量にもよるが、水の含有量は1質量%以上49質量%以下であることが好ましく、5質量%以上29質量%以下であることがより好ましい。なおこの場合の水の量も、前記リン酸が全てオルトリン酸として存在するとした場合の量である。
【0017】
本実施形態のエッチング液はセリウムイオンを必須成分とする。エッチング液中にセリウムイオンが存在することにより、炭窒化ケイ素のエッチング速度が大幅に上昇する。
炭窒化ケイ素はセリウムイオンを含まないリン酸水溶液ではほとんどエッチングされないが、これはSi-C結合とSi-N結合の極性の差に起因すると考えられる。Si原子との電気陰性度の差は、N原子よりもC原子のほうが小さい。よって、Si-C結合はSi-N結合と比較して分極が小さいため、酸による求電子付加反応が起こりにくく、炭窒化ケイ素のエッチングがほとんど進行しないと考えられる。一方、エッチング液がリン酸水溶液に加えてセリウムイオンを含むと、セリウムイオンがSi-C結合に作用して炭窒化ケイ素のエッチングが進行すると考えられる。
【0018】
当該セリウムイオンは、エッチング液中で単原子イオンとして存在していても、錯イオン(多原子イオン)の構成原子として存在していてもよい。またその価数は問わないが、3価又は4価であることが好ましい。なお異なる価数のセリウムイオンが混在していてもよい。
【0019】
本実施形態のエッチング液において、セリウムイオンの含有量は0.001モル/L以上0.2モル/L以下、特に0.002モル/L以上0.1モル/L以下が好ましい。セリウムイオンの含有量が多い方が炭窒化ケイ素のエッチングの促進効果が高い。一方で、セリウムイオンの含有量が多くなりすぎるとエッチング後の基板表面に残存物が多く堆積する傾向があり、エッチング後に後述するリンス処理を行っても残存物を除去できない場合がある。
【0020】
本実施形態のエッチング液は、セリウムイオン源とした化合物(後述する)に由来するカウンターイオンを含有してもよい。当該カウンターイオンとしては、フッ素イオン、塩素イオン、臭素イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、水酸化物イオン等の無機イオン、酢酸イオン、シュウ酸イオン等の有機イオンが挙げられる。また、用いたセリウム化合物が複塩であった場合、それに由来するアンモニウムイオンなどが含まれていてもよい。
【0021】
本実施形態のエッチング液は、さらに硫酸(硫酸イオンとして存在する場合を含む)を含むことが好ましい。硫酸の存在により、炭窒化ケイ素のエッチング速度を損なわずに酸化ケイ素のエッチング速度を抑制することができ、高い選択性を得ることができる。硫酸の濃度としては0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.2質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上2.0質量%以下である。
【0022】
本実施形態のエッチング液は、均一溶液であることを維持する限り、リン酸を主成分とするエッチング液に含まれる公知の成分をさらに含有してもよい。
【0023】
このような公知の成分として、例えば次のような酸化ケイ素のエッチング速度を抑える添加剤、ケイ酸の析出を抑制する添加剤が挙げられる。
【0024】
酸化ケイ素のエッチング速度を抑える添加剤として、可溶性ケイ素化合物やリン酸以外の酸が知られている。可溶性ケイ素化合物としては、ケイ酸、ケイ酸塩、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロケイ酸塩、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等のアルコキシシラン類、メチルトリメトキシシラン等のアルキルシラン類等が挙げられる。リン酸以外の酸としては、硫酸、硝酸、塩酸、シュウ酸等が挙げられる。
【0025】
さらに、ケイ酸の析出を抑制する添加剤としては、有機第4級アンモニウム塩、有機第4級ホスホニウム塩等が知られている。また、ケイ酸の析出を抑制する有機アルカリを含むケイ酸有機アルカリを添加する方法もある。
【0026】
即ち本実施形態のエッチング液には、これらの化合物を添加することにより液中で生成するイオンなどが含まれていてもよい。
【0027】
本実施形態のエッチング液は、均一溶液である。ここで均一溶液とは25℃で、水相と有機相などに分相していたり、目視で確認できる固形物が分散していたりしていない溶液である。均一溶液であるか否かは、目視で確認してもよいが、一般的なレーザーポインター(例えば、東心製TLP-3200、最大出力:1mw未満、波長:650~660nm)をエッチング液に照射し、光路が認められないことで均一溶液と判断することが好ましい。前記レーザーポインターをエッチング液に照射し、光路が認められる場合は不均一溶液である。不均一溶液をエッチング液として用いた場合、溶解していない成分がウエハや装置等の汚染の原因となったり、不均一なエッチングの原因となったりする可能性があるため、エッチング溶液として使用することは好ましくない。
【0028】
(エッチング液中の不純物)
本実施形態のエッチング液は、上述した均一溶液としての状態が維持できる範囲で、不純物として、パーティクルや微量の金属が含まれていてもよい。
パーティクルとしてはエッチング時の汚染を防ぐという意味で、200nm以上のパーティクルが100個/mL以下であることが好ましく、50個/mL以下であることがより好ましく、10個/mL以下であることがさらに好ましい。特に好ましくは、目開き50nmのフィルターにかけた際に、フィルターを通過しない粒子がなく全量が通過することであり、同10nmのフィルターを全量通過することが最も好ましい。
エッチング対象の汚染防止という観点からは、金属不純物も可能な限り少ない方が好ましい。ここで言う金属不純物とはセリウム以外の金属のことを指し、具体的には、Ag、Al、Ba、Ca、Cd、Cr、Cu、Fe、K、Li、Mg、Mn、Na、Ni、Pb、Zn、Prがいずれも1ppm以下であることが好ましい。
【0029】
(製造方法)
本実施形態のエッチング液の製造方法は特に限定されるものではなく、例えば上述のリン酸、水、及びセリウム化合物を、所定の濃度となるよう混合し、均一溶液とすればよい。
【0030】
リン酸は、前記したような金属不純物や不溶性の不純物が可能な限り少ないものを用いることが好ましく、必要に応じて市販品を再結晶、カラム精製、イオン交換精製、蒸留、昇華、濾過処理等により精製して使用できる。またリン酸は半導体製造用として製造・販売されている高純度品を用いることが好ましい。
【0031】
水もまた不純物が少ない高純度のものを使用することが好ましい。不純物の多寡は電気抵抗率で評価でき、具体的には、電気抵抗率が0.1MΩ・cm以上であることが好ましく、15MΩ・cm以上の水がさらに好ましく、18MΩ・cm以上が特に好ましい。このような不純物の少ない水は、半導体製造用の超純水として容易に製造・入手できる。さらに超純水であれば、電気抵抗率に影響を与えない(寄与が少ない)不純物も著しく少なく、適性が高い。
【0032】
セリウムイオン源としては、所望量を添加して調製したエッチング液が均一になるような溶解性をもつセリウム化合物を用いることができる。例えば、セリウム水酸化物、セリウム塩、並びにセリウム及びセリウム以外の陽イオン(例えばアンモニウムイオン)を含む複塩の一種以上を使用することができる。
【0033】
さらに溶解性が良好で、また高純度化が容易であるという点から、当該セリウム化合物としては、硝酸セリウム、硫酸セリウム、硝酸セリウムアンモニウム、硫酸セリウムアンモニウム等を用いることが好ましい。なおこれらは、水和物であってもよい。
【0034】
他方、例えば二酸化セリウムのような、リン酸を含む水溶液に対して溶解性の極めて低いセリウム化合物を使用した場合、リン酸及び水を含む溶液中に溶解しないため、均一溶液にはならず固形物が生じる。液中の不溶成分がパーティクル源となることにより、エッチングが不均一になったり、次工程で不良の発生原因になったりする恐れがある。すなわち、本実施形態のエッチング液を製造する際に用いるセリウムイオン源としては、二酸化セリウムを除くセリウム化合物が好ましい。また、酢酸セリウム、リン酸セリウム、炭酸セリウムのようなセリウム化合物も、リン酸を含む水溶液に対する溶解性が低い。このため、酢酸セリウム、リン酸セリウム、炭酸セリウム、及び二酸化セリウムを除くセリウム化合物がセリウムイオン源として、より好ましい。
【0035】
セリウム化合物もできるだけ純度の高いものを用いることが好ましく、必要に応じて市販品を再結晶、カラム精製、イオン交換精製、濾過処理等により精製して使用することができる。
【0036】
本実施形態のエッチング液の製造においては、各成分を混合溶解させたのち、数nm~数十nmのフィルターを通し、パーティクルを除去することも好ましい。必要に応じ、フィルター通過処理は複数回行ってもよい。またその他、半導体製造用薬液の製造方法として公知の種々の処理を施すことができる。
【0037】
(用途及び使用方法)
本実施形態のエッチング液は、半導体デバイスの製造に際して、炭窒化ケイ素を含む基板のエッチング処理に用いることができる。なお基板上への炭窒化ケイ素膜の形成方法は限定されず、CVD法、PVD法等の公知の方法で形成された炭窒化ケイ素膜をエッチングすることができる。また半導体デバイスの製造に用いられる炭窒化ケイ素膜は、その製法によっては、ケイ素に対して最大で133原子%の量の水素を含む場合があるが、そのような水素を含んだものも本実施形態のエッチング液を用いたエッチングの対象とする炭窒化ケイ素に該当する。さらにエッチング対象とする炭窒化ケイ素には、通常含まれる範囲で各種の不純物元素(例えば酸素)が含まれていてもよい。
【0038】
さらに、本実施形態のエッチング液は、酸化ケイ素膜と、炭窒化ケイ素膜とを有する基板の処理に用いることができる。本実施形態のエッチング液を使用すれば、酸化ケイ素のエッチングを抑制しながら炭窒化ケイ素を選択的にエッチングすることができる。このような選択的なエッチングは、従来のエッチング液では実質的に不可能であった。
【0039】
以下、炭窒化ケイ素膜の処理方法について、より具体的に述べる。
【0040】
本実施形態のエッチング液を用いた基板の処理方法は、酸化ケイ素膜と、炭窒化ケイ素膜とを有する基板に本実施形態のエッチング液を接触させる工程を含む。好ましくは、基板を水平姿勢に保持し、前記基板の中央部を通る、鉛直な回転軸線まわりに前記基板を回転させながら、前記基板の主面に本実施形態のエッチング液を供給する処理液供給工程を含む。
【0041】
他の好ましい態様において、本実施形態のエッチング液を用いた基板の処理方法は、複数の基板を直立姿勢で保持し、処理槽に貯留された本実施形態のエッチング液に前記基板を直立姿勢で浸漬する工程を含む。本発明の好ましい実施形態では、エッチング液は、上記の処理方法を含む半導体デバイスの製造に用いられる。
【0042】
本実施形態のエッチング液を用いたエッチングの際のエッチング液の温度は、所望のエッチング速度、エッチング後の表面状態、生産性等を考慮して100~200℃の範囲から適宜決定すればよいが、130~180℃の範囲とするのが好適である。200℃を超える温度では、炭窒化ケイ素以外の半導体材料に対してダメージが発生することがあり、100℃未満の温度では、工業的に満足できる速度で炭窒化ケイ素をエッチングすることが難しい。
【0043】
本実施形態のエッチング液を用いたエッチングの際、超音波等を使用し、エッチングを促進してもよい。
【0044】
本実施形態のエッチング液を用いた基板処理の後、基板の表面に残存する不純物がある場合、不純物を除去するために公知の種々の処理を施してもよい。例えば、リンス液を用いて基板にリンス処理を行う方法がある。リンス液としては公知のものが使用でき、塩酸、フッ酸、硫酸等の酸性水溶液、アンモニア水等のアルカリ水溶液、フッ酸と過酸化水素水との混合液(FPM)、硫酸と過酸化水素水との混合液(SPM)、アンモニア水と過酸化水素水との混合液(APM)、塩酸と過酸化水素水との混合液(HPM)等が挙げられる。これらを単独で使用してもよいし、複数のリンス液を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
本実施形態のエッチング液を用いた基板処理方法においては、ウエハに処理後のエッチング液を回収し、フィルターろ過やエッチング液の成分の濃度調整などの再生処理を行った後に別のウエハの処理に使用してもよい。成分の濃度調整としてリン酸や水分の濃度をモニターしながらフレッシュなリン酸や水を追添加する機構を備えてもよい。また、水分の調製には水や水で希釈した低濃度のリン酸を使用してもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1
(エッチング液の調製方法)
表1に記載の割合となるようにリン酸、水及びセリウム化合物として硝酸セリウムアンモニウムをフラスコに入れ、所定の液温となるよう温度を設定したオイルバスに浸けて600rpmで液を攪拌しながら30分間加熱した。
【0048】
(エッチング液の均一性の評価方法)
エッチング液を25℃で30分間加熱攪拌した後に中を観察したところ、固形物は認められなかった。さらに、レーザーポインター(東心製TLP-3200、最大出力:1mw未満、波長:650~660nm)を25℃でエッチング液に照射したところ、光路が認められなかったことから完全に溶解して均一溶液になっていると判断した。結果を表2に示す。表中、均一溶液であったものを〇で示す。
【0049】
(エッチング速度の評価方法)
炭窒化ケイ素を成膜した2×1cmサイズのシリコンウエハ(炭窒化ケイ素膜)を用意し、分光エリプソメーターで初期の膜厚を測定した。166℃の液温に加熱したエッチング液200gに、炭窒化ケイ素膜を5分間浸漬した。リンス処理によりウエハを洗浄し乾燥させた後、分光エリプソメーターで膜厚を測定した。エッチング速度(RSiCN)は、初期と処理後の膜厚差から炭窒化ケイ素のエッチング量を求め、エッチング時間で除することにより求めた。その結果を表2に示す。
【0050】
窒化ケイ素を成膜した2×1cmサイズのシリコンウエハ(窒化ケイ素膜)、酸化ケイ素を成膜した2×1cmサイズのシリコンウエハ(酸化ケイ素膜)についても、上記炭窒化ケイ素膜と同様にして、窒化ケイ素膜は2分間、酸化ケイ素膜は10分間浸漬し、エッチング速度(RSiN、RSiO2)を算出した。その結果を表2に示す。
【0051】
これらの測定結果から、炭窒化ケイ素膜と酸化ケイ素膜とのエッチング選択比(RSiCN/RSiO2)、窒化ケイ素膜と酸化ケイ素膜とのエッチング選択比(RSiN/RSiO2)を求めた。その結果を表2に示す。
【0052】
実施例2~13、比較例1
エッチング液として表1に示す組成のエッチング液を用い、表1記載の温度で、エッチングの絶対量が実施例1と同程度となるよう浸漬時間を変更してエッチングした以外、実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
リン酸及び水を含む溶液中に溶解するセリウム化合物を使用した実施例1~10は、セリウムイオンを含まないエッチング液(比較例1)と比較して、炭窒化ケイ素のエッチング速度が大きく向上している。一方、酸化ケイ素のエッチング速度はほとんど変化せず、窒化ケイ素のエッチング速度も良好である。このことから、本発明の一実施形態に係るエッチング液は、炭窒化ケイ素のエッチング速度に優れ、かつ酸化ケイ素に比べて炭窒化ケイ素の選択性が高いと言える。
【0056】
さらに硫酸を配合したエッチング液を用いた実施例11ないし13では、硫酸以外の成分は同様の組成の実施例2と比較して酸化ケイ素のエッチング速度が抑制され、結果として選択性がさらに向上している。
【0057】
比較例2、3
セリウム化合物として二酸化セリウム(IV)を使用し、セリウムとしての量が2mmol/L(比較例2;二酸化セリウムとして0.03質量%)又は18mmol/L(比較例3;二酸化セリウムとして0.3質量%)、水の量が15質量%となるようにリン酸と混合したが、液中にパーティクル源となる固形物が認められ、またレーザーポインターの照射では光路が見られ、均一溶液は得られなかった。したがって、比較例2、3に係る溶液は、エッチング溶液として不適であった。
【要約】
半導体デバイスの製造時に、誘電特性などに優れた炭窒化ケイ素が使用されることがある。製造に際しては、酸化ケイ素をエッチングすることなく炭窒化ケイ素をエッチングする必要のある場合が多いが、同様の目的で用いられる窒化ケイ素に比べ、炭素を含む炭窒化ケイ素を十分選択的にエッチングするエッチング液は知られていない。本発明は、酸化ケイ素に対する炭窒化ケイ素のエッチング選択比が高いエッチング液、該エッチング液を接触させる工程を含む基板の処理方法、及び該基板の処理方法を含む半導体デバイスの製造方法を提供することを課題とする。リン酸、水及びセリウムイオンを含む均一溶液からなる、炭窒化ケイ素をエッチングするためのエッチング液により課題を解決する。