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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】堤体の補強構造
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/10 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
E02B3/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019119323
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021004507
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 和輝
(72)【発明者】
【氏名】中山 裕章
(72)【発明者】
【氏名】西山 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】及川 森
(72)【発明者】
【氏名】原田 典佳
(72)【発明者】
【氏名】籾山 嵩
(72)【発明者】
【氏名】吉原 健郎
(72)【発明者】
【氏名】原 忠
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-007325(JP,A)
【文献】特開2011-214249(JP,A)
【文献】藤原覚太、乙志和孝、奥田洋一、栗林健太郎、原忠,鋼矢板を活用したため池堤防の補強に関する解析的研究,平成28年農業農村工学会大会講演会講演要旨集,2016年,pp. 397 - 398
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる地盤材料で形成された複数種類の地盤層を有する堤体の補強構造であって、
局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を上下に貫通する、前記堤体の内部に設けられ、当該堤体の内部の局所的な浸透破壊への対策としての鋼製壁体を備え、
前記鋼製壁体は、前記堤体の延在方向に沿って設置された第1鋼製壁体および/または前記堤体の横断方向に沿って設置された第2鋼製壁体によって構成され
前記鋼製壁体は、前記堤体の高さ方向において相対的に透水性の高い前記地盤層が最も多く存在する部位を貫通することを特徴とする堤体の補強構造。
【請求項2】
異なる地盤材料で形成された複数種類の地盤層を有する堤体の補強構造であって、
局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を上下に貫通する、前記堤体の内部に設けられ、当該堤体の内部の局所的な浸透破壊への対策としての鋼製壁体を備え、
前記鋼製壁体は、前記堤体の延在方向に沿って設置された第1鋼製壁体および/または前記堤体の横断方向に沿って設置された第2鋼製壁体によって構成され、
前記鋼製壁体は、相対的に透水性が高くかつ、層厚が最も厚い前記地盤層における、前記堤体の周囲からの水の流入部位を貫通することを特徴とする堤体の補強構造。
【請求項3】
異なる地盤材料で形成された複数種類の地盤層を有する堤体の補強構造であって、
局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を上下に貫通する、前記堤体の内部に設けられ、当該堤体の内部の局所的な浸透破壊への対策としての鋼製壁体を備え、
前記鋼製壁体は、前記堤体の延在方向に沿って設置された第1鋼製壁体および/または前記堤体の横断方向に沿って設置された第2鋼製壁体によって構成され、
前記鋼製壁体は、相対的に透水性の高い前記地盤層が重なり合う部位を貫通することを特徴とする堤体の補強構造。
【請求項4】
異なる地盤材料で形成された複数種類の地盤層を有する堤体の補強構造であって、
局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を上下に貫通する、前記堤体の内部に設けられ、当該堤体の内部の局所的な浸透破壊への対策としての鋼製壁体を備え、
前記鋼製壁体は、前記堤体の延在方向に沿って設置された第1鋼製壁体および/または前記堤体の横断方向に沿って設置された第2鋼製壁体によって構成され、
前記鋼製壁体は、相対的に透水性が高い前記地盤層における、最も上下の厚さが厚い部位を貫通することを特徴とする堤体の補強構造。
【請求項5】
異なる地盤材料で形成された複数種類の地盤層を有する堤体の補強構造であって、
局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を上下に貫通する、前記堤体の内部に設けられ、当該堤体の内部の局所的な浸透破壊への対策としての鋼製壁体を備え、
前記鋼製壁体は、前記堤体の延在方向に沿って設置された第1鋼製壁体および/または前記堤体の横断方向に沿って設置された第2鋼製壁体によって構成され、
前記鋼製壁体は、相対的に透水性の高い前記地盤層と、透水性の低い前記地盤層との境目となる部位を貫通することを特徴とする堤体の補強構造。
【請求項6】
前記鋼製壁体が、互いに結合された前記第1鋼製壁体および前記第2鋼製壁体によって構成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の堤体の補強構造。
【請求項7】
異なる地盤材料で形成された複数種類の地盤層を有する堤体の補強構造であって、
局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を上下に貫通する、前記堤体の内部に設けられ、当該堤体の内部の局所的な浸透破壊への対策としての鋼製壁体を備え、
前記鋼製壁体は、前記堤体の延在方向に沿って設置された第1鋼製壁体および前記堤体の横断方向に沿って設置された第2鋼製壁体によって構成され、
前記第1鋼製壁体および前記第2鋼製壁体が互いに結合されていることを特徴とする堤体の補強構造。
【請求項8】
前記第2鋼製壁体の下端が前記堤体の下方の地山に根入れされていることを特徴とする請求項6または7に記載の堤体の補強構造。
【請求項9】
前記第1鋼製壁体は前記堤体の延在方向に一列設けられるとともに、前記第1鋼製壁体の下端は前記堤体の下方の地山の天端位置または前記地山の天端より上方に位置していることを特徴とする請求項6~8のいずれか1項に記載の堤体の補強構造。
【請求項10】
前記第2鋼製壁体の天端は、前記堤体の傾斜面と面一になっていること特徴とする請求項6~9のいずれか1項に記載の堤体の補強構造。
【請求項11】
前記第2鋼製壁体は、地山と前記堤体の傾斜面が交わる部位を貫通することを特徴とする請求項10に記載の堤体の補強構造。
【請求項12】
前記堤体の内部に前記堤体の横断方向に延在する構造物が設けられ、
前記鋼製壁体の下端の一部は、前記構造物まで達していない
ことを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の堤体の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ため池や河川・海岸・遊水地等の堤体の補強構造および補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模な地震や局所的な集中豪雨に伴い河川堤防やため池堤防の損傷が多数発生しており、また幾つかの大規模地震の発生や気候変動による激甚化災害が想定されていることから、堤体の耐震補強が重要性を増している。
このような背景を踏まえ、従来、鋼矢板を用いた堤防(堤体)の補強技術の一例として特許文献1および特許文献2に記載のものが知られている。
特許文献1に記載の堤体の耐震性能補強構造では、アースフィルダム又はため池等の盛土された堤体のほぼ中央部分の長手方向に2列縦列に鋼矢板で形成された補強用板状体を埋設し、該両補強用板状体の上端部を所定間隔毎に連結部材により連結する二重締切り構造としている。
【0003】
特許文献2に記載の盛土の補強構造では、のり尻を除く盛土の内部に盛土を貫通し、支持地盤に根入れされる深さを持つ少なくとも1列の矢板壁を盛土の長さ方向に連続的に設置し、盛土を構成する地盤中に矢板壁と、矢板壁で締め切られた地盤からなる構造骨格部を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-321826号公報
【文献】特開2003-13451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ため池の堤体においては、堆積年代が多様であり、過去からの様々な補修・補強・嵩上げが繰り返される築造過程を経て、複雑な地盤構成となっており、地域特性により使用地盤材料も千差万別であり、延在方向や横断方向に亘って堤体を構成する地盤材料が均一でなく、不均一なものが分散していることがある。特に必ずしも技術的背景に基づかない経験則に頼った築造を行ってきているため、堤体内の材料(地盤材料)の相違が生じ易い。そのため、堤体を構成する地盤構造が不明瞭なため池が多く存在する。土質物性的には、個々の地盤材料のせん断強度、透水性、密度等が異なり、常時や地震時、または洪水時や降雨時など、異なる状況下において、堤体として発揮する抵抗挙動に差異が生じる。
堤体では、その周囲から、ため池の水面高さの変動や波浪等の横波、降雨・越流、地山からの流入などの水流の影響を受け、水圧変動、被圧/浸食堤体箇所、降雨継続時間や降雨量に応じて、たとえ堤体前後の水頭差が同じであっても、個々の地盤材料の性質や相対的な配置状況の影響を受け、水流による地盤強度の低下など堤体土自身の物理的特性や、堤体内での水流箇所や浸透圧が一定とならずに変化し、局所的な破壊の起こり易さや、破壊箇所が異なってくる。
【0006】
堤体によっては、水道となりやすい透水性が相対的に他の地盤よりも大きい箇所が偏在し、地盤の浸透破壊を引き起こすパイピングが形成され易い箇所が離散していることがある。
また、透水層と不透水層が深度方向に互層状態となっている場合、透水層へ水流が集中し、不透水層との境界で水膜が形成されることで、水膜より上部の堤体が滑り破壊を起こすことがある。
すなわち、ため池や降雨からの水圧増加に対する抵抗強度は、堤体各部位によって異なり、堤体に侵入した水の流線や局所的な浸透圧は、地盤の不均一性の影響を受ける。
【0007】
上述した特許文献1に記載の堤体の耐震性能補強構造では、アースフィルダムが均一材料で成形されている場合や、アースフィルダム内のある所定のゾーンに比較的透水性が高い土質材料が用いられている場合を対象としているが、地盤材料が不均一な堤体における局所的な破壊を引き起こす浸透破壊への対策という技術課題に対応していない。
また、特許文献2に記載の盛土の補強構造では、堤体を設置する周辺地盤の状態として、盛土下部の基礎地盤が軟弱地盤や液状化地盤である場合を想定しているが、地盤材料が不均一な堤体における局所的な破壊を引き起こす浸透破壊への対策という技術課題に対応していない。
【0008】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、局所的な破壊が起こり易い不均一な地盤材料からなる堤体における崩壊を抑制可能な堤体の補強構造および補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために誠意検討した結果、浸透水に対する堤体の脆弱箇所が空間的に離散し、堤体外側からの水の動きに応じて破壊箇所が変化する不均一な堤体の止水性を高めるためには、面的に脆弱部を網羅するかたちで局所破壊を防止し、不確実な層をシャットアウトするため広範囲に継続的に止水できる壁構造を設けることが効果的であることを見出した。
これに基づき、本発明の堤体の補強構造は、異なる地盤材料で形成された複数種類の地盤層を有する堤体の補強構造であって、
局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を上下に貫通する、前記堤体の内部に設けられた鋼製壁体を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の堤体の補強方法は、異なる地盤材料で形成された複数種類の地盤層を有する堤体を補強する方法であって、
不明瞭な地盤構成を明確化するために、局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を特定する第1工程と、
特定された前記部位および/または前記地盤層を上下に貫通するように、前記堤体の内部に鋼製壁体を設置する第2工程とを有することを特徴とする。
【0011】
ここで「局所的に水圧が上昇する部位」とは、局所破壊を引き起こす起点となる部位であって、水圧が他の部位に対して相対的に高くなる部位を意味する。
また、鋼製壁体としては、鋼矢板を複数連結してなる面状のものが好適に使用されるが、これに限るものではない。例えば、鋼管矢板を複数連結してなるものや、鋼矢板と鋼管矢板を複数連結してなるものを使用してもよい。
また、鋼製壁体は、ため池側からの浸透水を止水するために堤体の延在方向に沿って設置してもよいし、越流や降雨など、堤体の天端・側面・傾斜面から堤体内に水が流入した場合に対して、堤体の延在方向の水流に起因する浸透破壊を防止するために、堤体の横断方向に沿って設置してもよい。
さらに、鋼製壁体は、堤体の天端から底面まで打ち込んだり、さらには底面より下方の地山まで打ち込むのが好ましいが、局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を貫通するのであれば、堤体の天端から地山まで貫通させなくても、堤体の内部において当該堤体の上下方向の一部に設置してもよい。
【0012】
本発明においては、局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を上下に貫通する、前記堤体の内部に設けられた鋼製壁体を備えるので、当該鋼製壁体によって、堤体外側からの水の動きに応じて破壊箇所が変化する不均一な部位を網羅的に止水できる。したがって、滑り破壊やパイピングなどの局所的な破壊が起こり易い不均一な地盤材料からなる堤体を補強できる。
また、相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層では、その内部を水が流れ易く、水の速度が上昇するため、過剰間隙水圧が上昇し、液状化し易くなり、堤体に局所的に破壊が起こり易くなる。したがって、当該地盤層を上下に貫通するように鋼製壁体を堤体の内部に設置することによって、当該地盤層の止水性を高め、効果的に局所的な破壊を防止できる。
【0013】
また、第1工程によって、地盤内の状況が可視化できておらず実態が不明瞭な堤体において、局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を特定することで、堤体の局所的な破壊が起こり易い部位を確実に特定でき、第2工程によって、特定された前記部位および/または前記地盤層を上下に貫通するようにして、前記堤体の内部に鋼製壁体を設置することによって、堤体外側からの水の動きに応じて破壊箇所が変化する不均一な部位を網羅的に止水できる。したがって、滑り破壊やパイピングなどの局所的な破壊が起こり易い不均一な地盤材料からなる堤体を補強できる。
また、相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層では、その内部を水が流れ易く、水の速度が上昇するため、過剰間隙水圧が上昇し、液状化し易くなり、堤体に局所的に破壊が起こり易くなる。したがって、当該地盤層を上下に貫通するように鋼製壁体を堤体の内部に設置することによって、当該地盤層の止水性を高め、効果的に局所的な破壊を防止できる。
【0014】
本発明の前記構成において、前記鋼製壁体は、前記堤体の高さ方向において相対的に透水性の高い前記地盤層が最も多く存在する部位を貫通してもよい。
【0015】
このような構成によれば、相対的に透水性の高い前記地盤層が最も多く存在する部位は、局所的に水圧が上昇し、局所的な破壊が起こり易い箇所を最も多く含む断面となるので、この部位を貫通する鋼製壁体を設置することによって、この部位の止水性を高め、水流を遮断し局所的に地盤が崩れていくことを防ぎ、効率的かつ効果的に堤体全体の崩壊に繋がる局所的な地盤破壊を防止できる。
【0016】
また、本発明の前記構成において、前記鋼製壁体は、相対的に透水性が高くかつ、層厚が最も厚い前記地盤層における、前記堤体の周囲からの水の流入部位を貫通してもよい。
【0017】
このような構成によれば、前記水の流入部位は局所的に水圧が上昇するとともに、一旦前記流入部位から相対的に透水性の高い前記地盤層に水が流入してしまうと、当該地盤が液状化し易くなり局所破壊を引き起こしてしまうので、この流入部位を貫通する鋼製壁体を設置することによって、当該流入部位の止水性を高め、効果的に局所的な破壊を防止できる。
【0018】
また、本発明の前記構成において、前記鋼製壁体は、相対的に透水性の高い前記地盤層が重なり合う部位を貫通してもよい。
【0019】
このような構成によれば、相対的に透水性の高い地盤層が重なり合う部位は、水流が一気に増え局所的に水圧が上昇するので、当該部位を貫通する鋼製壁体を設置することによって、浸透破壊の起点となり易い部位の止水性を高め水流を遮断し、効果的に局所的な破壊を防止できる。
【0020】
また、本発明の前記構成において、前記鋼製壁体は、相対的に透水性が高い前記地盤層における、最も上下の厚さが厚い部位を貫通してもよい。
【0021】
このような構成によれば、相対的に透水性が高い前記地盤層における、最も上下の厚さが厚い部位を貫通する鋼製壁体を設置することによって、前記部位の止水性を高め、液状化の可能性の最も高い箇所での水流を抑え過剰間隙水圧の上昇を抑制できるので、効果的に局所的な破壊を防止できる。
【0022】
また、本発明の前記構成において、前記鋼製壁体は、相対的に透水性の高い前記地盤層と、透水性の低い前記地盤層との境目となる部位を貫通してもよい。
【0023】
このような構成によれば、堤体内の相対的に透水性の高い前記地盤層と、透水性の低い地盤層との境目となる部位は、水流が集中し局所的に水圧が上昇するので、当該部位を貫通する鋼製壁体を設置することによって、前記部位の止水性を高め水流を遮断し、効果的に局所的な破壊を防止できる。
【0024】
また、本発明の前記構成において、前記鋼製壁体は、前記堤体の延在方向に沿って設置された第1鋼製壁体および/または前記堤体の横断方向に沿って設置された第2鋼製壁体によって構成されていてもよい。
鋼製壁体が第1鋼製壁体および第2鋼製壁体によって構成されている場合、第1鋼製壁体と第2鋼製壁体とを結合してもよいし、結合しなくてもよい。
【0025】
このような構成によれば、第1鋼製壁体によってため池側からの浸透水を止水でき、第2鋼製壁体によって、越流や降雨など、堤体の天端・側面・傾斜面から堤体内に水が流入した場合に対して、堤体の延在方向の水流に対する浸透破壊を防止できる。
また、第1鋼製壁体および第2鋼製壁体を結合して設置する場合、堤体の横断方向に設置された第2鋼製壁体は、堤体の延在方向に設置された第1鋼製壁体の控え壁として、ため池からの水圧に抵抗することができるため、ため池の水面高さの変動や波浪等の横波、降雨・越流など、複数の水の流れに対し、より強固な補強対策を施すことができる。
【0026】
また、本発明の前記構成において、前記鋼製壁体が、互いに結合された前記第1鋼製壁体および前記第2鋼製壁体によって構成され、前記第2鋼製壁体の下端が前記堤体の下方の地山に根入れされていてもよい。
【0027】
このような構成によれば、第2鋼製壁体の下端が地山に根入れされているので、当該第2鋼製壁体の控え壁としての地耐力を高めることができ、より大きなため池側からの土水圧に対して抵抗することができる。
【0028】
また、本発明の前記構成において、前記第1鋼製壁体は前記堤体の延在方向に一列設けられるとともに、前記第1鋼製壁体の下端は前記堤体の下方の地山の天端位置または前記地山の天端より上方に位置していてもよい。
【0029】
このような構成によれば、第1鋼製壁体は堤体の延在方向に一列設けられるとともに、第1鋼製壁体の下端は地山に根入れされることなく、地山の天端位置または地山の天端より上方に位置しているので、第1鋼製壁体をカーテンウォール的に控え壁としての第2鋼製壁体に寄りかかる形式とすることができる。このため、第1鋼製壁体を経済的な断面として、その材料費を軽減できる。また、第1鋼製壁体を固い地山に根入れする必要がないため、オーガー掘削などの施工費用が高い工法を使用しなくても堤体内に第1鋼製壁体を設置できるため、施工費用を軽減できる。オーガーで地山を掘削した場合、もともと強固で密に締め固まった地盤を乱してしまうため、第1鋼製壁体の下端や側面は緩んだ地盤に設置されることになり、水道が形成され易くなってしまうことがある。この場合、第1鋼製壁体としての止水性が低下してしまうため、オーガー掘削を行わず、地山から天端以上の位置で、第1鋼製壁体の下端を打ち止めることが好ましい。
【0030】
また、本発明の前記構成において、前記第2鋼製壁体の天端は、前記堤体の傾斜面と面一になっていてもよい。
ここで、堤体の傾斜面とは水平面に対して傾斜している堤体の法面のことであり、ため池側に位置する上流側傾斜面とため池と逆側に位置する下流側傾斜面とがあり、第2鋼製壁体は第1鋼製壁体より下流側傾斜面側の堤体内部に設置するのが好ましい。
【0031】
このような構成によれば、第2鋼製壁体の天端が前記堤体の傾斜面と面一になるため、当該傾斜面から突出することがなく、このため、景観保護に寄与する。
【0032】
また、本発明の前記構成において、前記第2鋼製壁体は、地山と前記堤体の傾斜面が交わる部位を貫通してもよい。
【0033】
このような構成によれば、地山と堤体の傾斜面が交わる部位は、地山から堤体の延在方向に流れ込む水により局所的に水圧が上昇するので、当該部位を貫通する第2鋼製壁体を設置することによって、前記部位の地山からの止水性を高め、効果的に局所的な破壊を防止できる。
【0034】
また、本発明の前記構成において、前記堤体の内部に前記堤体の横断方向に延在する構造物が設けられ、前記鋼製壁体の下端の一部は、前記構造物まで達していなくてもよい。
【0035】
ここで、堤体の内部に設けられる構造物としては底樋が挙げられるが、これに限るものではない。
また、鋼製壁体が鋼矢板壁によって構成されている場合、当該鋼矢板壁を構成する複数の鋼矢板のうち、前記構造物の上方に位置する鋼矢板の下端部が前記構造物まで達していなくてもよい。
【0036】
このような構成によれば、堤体の内部に設置された鋼製壁体が堤体の内部の構造物に干渉して、当該構造物が損傷するのを防止できる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、局所的な破壊が起こり易い不均一な地盤材料からなる堤体において、堤体全体の破壊事象に至る局所破壊の起点となる堤体部位に鋼製壁体を設置することで、同じ補強効果を実現するために壁体量を増加することなく、効果的かつ効率的に補強でき、より確実に堤体の崩壊を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施形態に係る堤体の補強構造が適用される不均一な地盤材料から構成される堤体を模式的に示す斜視図である。
図2】同、図1におけるA-A線断面図である。
図3】本発明の第1の実施形態を示すもので、鋼製壁体によって補強された堤体を模式的に示す横断面図である。
図4】本発明の第2の実施形態を示すもので、鋼製壁体によって補強された堤体を模式的に示す横断面図である。
図5】本発明の第3の実施形態を示すもので、鋼製壁体によって補強された堤体を模式的に示す横断面図である。
図6】本発明の第4の実施形態を示すもので、鋼製壁体によって補強された堤体を模式的に示す斜視図である。
図7】本発明の第5の実施形態を示すもので、鋼製壁体によって補強された堤体を模式的に示す横断面図である。
図8】本発明の第6の実施形態を示すもので、鋼製壁体によって補強された堤体を模式的に示す斜視図である。
図9】本発明の実施形態に係る堤体の補強構造に使用される鋼製壁体を示す斜視図である。
図10】本発明の実施形態に係る堤体の補強構造を示すもので、堤体内部に底樋が設けられている状態を示す堤体の延長方向に沿う要部に断面図である。
図11】本発明の第7の実施形態を示すもので、鋼製壁体によって補強された堤体を模式的に示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
まず、本実施形態の堤体の補強構造を説明する前に、当該補強構造が適用されるため池の堤体について図1および図2を参照して説明する。
本実施形態では、ため池は皿池であってもよいし、谷池であってもよい。
堤体10は、図1および図2に示すように、一方向に延在して形成され、上面である天端10aの、横断方向(延在方向および高さ方向に直交する方向:図1参照)における一方側に水が貯水されたため池11が存在している。なお、天端10aの当該一方側を上流側(内側)と称し、他方側を下流側(外側)と称する。
また、堤体10は、天端10aのほかに、天端10aの上流側に位置する傾斜面(以下、上流側傾斜面ということもある)10bと、天端10aの下流側に位置する傾斜面(以下、下流側傾斜面ということもある)10cとを備えている。上流側傾斜面10bおよび下流側傾斜面10cの水平面に対する傾斜角は等しくてもよいし、異なっていてもよい。
また、堤体10およびため池11の下方には地山12が存在しており、この地山12の上面に堤体10およびため池11が設けられている。なお、地山は堤体12の延在方向の両端部となる側面側にある場合もある。
【0040】
ため池11には常時貯水されているが、常時満水位における水面が、堤体10の上流側傾斜面10bの高さの略1/2またはそれ以上の高さとなり、かつ、豪雨時等における設計洪水位における水面が、波の打上げ高さや水深に応じて、天端10aより1m以上、下げた高さとなるように、堤体10の高さが設定されている。
【0041】
また、堤体10は図示しない取水施設を備えている。この取水施設は、ため池11の貯水を取水するための斜樋または堅樋と、導水するための底樋(図10参照(構造物25))とを有している。一般的には、堤体10の上流側傾斜面10bに沿って埋設された斜樋管に取水孔が設けられ、これから取り入れた用水が堤体10の底部に埋設された底樋に導かれて取水される。
【0042】
このような堤体10は、異なる地盤材料で形成された複数種類の地盤層を有している。例えば、図1および図2に示すように、堤体10は、上から第1地盤層20a、第2地盤層20b、第3地盤層20c、第4地盤層20d、第5地盤層20e、第6地盤層20f、第7地盤層20g、第8地盤層20h、第9地盤層20i、第10地盤層20jおよび第11地盤層20kを有している。
また、第8地盤層20hは、堤体10のある横断面(横断方向を含む断面:例えば図1のA-A線断面)において、堤体10の横断方向の上流側において上下に離間した2つの地盤層20h1,20h2となっており、堤体10の横断方向の中央部で重なり始め、下流側において重なっている場合もある。
また、堤体10は、第12地盤層20mおよび第13地盤層20nをさらに有している。第12地盤層20mは、堤体10内のある一部分だけにスポット的に存在する塊であり、第13地盤層20nは、堤体の延在方向、および/または横断方向に亘って、高さ方向の深部に向かって傾斜する地盤層である。
【0043】
第1地盤層20a、第3地盤層20c、第5地盤層20e、第7地盤層20gおよび第9地盤層20iは全て同じまたは類似の地盤材料によって形成されており、他の地盤層に比べて相対的に透水性の低い地盤層となっている。
残りの第2地盤層20b、第4地盤層20d、第6地盤層20f、第8地盤層20i、第10地盤層20j、第11地盤層20k、第12地盤層20mおよび第13地盤層20nは、互いに異なる地盤材料で形成されており、相対的に第1地盤層20a、第3地盤層20c、第5地盤層20e、第7地盤層20gおよび第9地盤層20iより透水性の高い地盤層となっている。なお、第2地盤層20b、第4地盤層20d、第6地盤層20f、第8地盤層20h、第10地盤層20j、第11地盤層20k、第12地盤層20mおよび第13地盤層20nは互いに透水性が異なるが、第1地盤層20a、第3地盤層20c、第5地盤層20e、第7地盤層20gおよび第9地盤層20iより透水性は高くなっている。また、第2地盤層20b、第4地盤層20d、第6地盤層20f、第8地盤層20i、第10地盤層20j、第11地盤層20k、第12地盤層20mおよび第13地盤層20nは、互いに同一の地盤材料で形成されていてもよい。
相対的に透水性が異なる地盤が分散して存在することで、堤体内に浸透した水流には、部分的な圧力差が生じる。特に、スポット的に存在する第13地盤層20nの上部には、局所的に水がたまり宙水形態となり、水膜が生じることで地盤のすべり破壊が生じ易くなることがある。
【0044】
また、相対的に透水性の低い第1地盤層20a、および第7地盤層20gは、堤体10の延在方向および横断方向において連続して形成されている。相対的に透水性の低い第5地盤層20eは、堤体10の延在方向において堤体10の略中央部から一方側へ連続して形成されかつ、堤体10の横断方向において連続して形成されている。
相対的に透水性の高い第2地盤層20bおよび第4地盤層20dは堤体10の横断方向において連続して形成されているが、延在方向においては、図1に示すように堤体10の略中央部から当該一方側の側面まで連続して形成されている。
また、相対的に透水性の高い第6地盤層20fは堤体10の延在方向および横断方向において連続して形成され、第8地盤層20hは堤体10の延在方向において他方側の側面から当該一方側の側面へ向かって延在して形成されるとともに第10地盤層20jに突き当たっている。
【0045】
また、相対的に透水性の高い第11地盤層20kは、堤体10の横断方向において下流側傾斜面10cから堤体10の横断方向の略中央部まで連続して形成され、堤体10の延在方向において堤体10の一方の側面から堤体10の延在方向の略中央部より他方の側面側に寄ったところまで連続して形成されている。
また、相対的に透水性の高い第10地盤層20jは、堤体10の横断方向において下流側傾斜面10cから堤体10の横断方向の略中央部まで連続して形成され、堤体10の延在方向において堤体10の当該他方の側面から堤体10の横断方向の略中央側に向けて連続し、かつ第11地盤層20kとの間に所定間隔を空けた位置まで連続して形成されている。
【0046】
このように堤体10はその延在方向、横断方向、高さ方向等に亘って異なる地盤材料で形成された複数種類の地盤層20a~20nを有し、地盤材料が均一でなく、不均一なものが一部または全体に分散したものとなっている。
そして当該堤体10は以下のようにして鋼製壁体(鋼矢板壁)15によって補強されている。
鋼製壁体15は、図9に示すように、ハット形の鋼矢板16を複数連結することによって形成されている。
鋼矢板16はウェブ16aと、このウェブ16aの両端部にそれぞれ形成されたフランジ16bと、このフランジ16bのウェブ16aと逆側の端部に形成されたアーム16cとを備え、このアーム16cの先端部に継手16dが形成されている。
そして、隣り合う鋼矢板16,16どうしは継手16d,16dを互いに嵌合することによって連結され、これによって鋼製壁体15が形成されている。
鋼製壁体15を構成する鋼矢板はハット形の鋼矢板に限ることはなく、U形の鋼矢板、Z形鋼矢板、直線鋼矢板であってもよい。
なお、鋼製壁体15は堤体10の延在方向に沿って設置するものと、堤体10の横断方向に沿って設置するものがあるため、以下では延在方向に沿って設置される鋼製壁体15を鋼製壁体15Aとし、横断方向に沿って設置される鋼製壁体15を鋼製壁体15Bとする。
【0047】
そして、上述したような異なる地盤材料で形成された複数種類の地盤層20a~20nを有する、ため池11の堤体10を補強する場合、局所的に水圧が上昇する部位を含んで、適宜選択された複数種類の地盤層20a~20nを上下に貫通するように堤体10の内部に鋼製壁体15が設置されている。
【0048】
(第1の実施形態)
第1の実施形態では、上述した鋼製壁体15Aによって堤体10を補強する場合、例えば、図3に示すように、堤体10の高さ方向において透水性の高い地盤層が最も多く存在する部位、つまり第1地盤層20a、第3地盤層20c、第7地盤層20gおよび第9地盤層20iより相対的に透水性の高い第2地盤層20b、第4地盤層20d、第6地盤層20f、第8地盤層20hの地盤層20h1,20h2、第11地盤層20k、第12地盤層20m、および第13地盤層20nの合計8つの透水性の高い地盤層を上下に貫通するように鋼製壁体15Aが設置されている。この鋼製壁体15Aは堤体10の延在方向に沿って堤体10の内部に設置され、その下端は下方の地山12に根入れされ、上端は堤体10の天端10aに揃えられている。
【0049】
鋼製壁体15Aは、鋼矢板16(図9参照)を堤体10の延在方向に複数連結することによって連続的に形成され、より局所的に水圧が高まる継手箇所(継手16d,16dの継手箇所)において、止水材の塗布量や止水材質を調整することで、止水性を高めることができる。
【0050】
相対的に透水性の高い地盤層(第2地盤層20b、第4地盤層20d、第6地盤層20f、第8地盤層20hの地盤層20h1,20h2、第11地盤層20k、第12地盤層20m、および、第13地盤層20n)が最も多く存在する部位は、局所的な破壊が起こり易いので、この部位を貫通するように鋼製壁体15Aを設置することによって、この部位の止水性を高め、つまり、ため池11から浸透してきた水の流れ(堤体10の横断方向における水の流れ)を鋼製壁体15Aによって遮断することで、効果的に局所的な破壊を防止できる。
特に、堤体10内にスポット的に存在する第12地盤層20mにおいては、周辺全体が透水性が相対的に小さい層から囲まれていることから、集中的に被圧され圧力が高まり易いため、局所的な破壊が起きやすい場所であり、当該箇所に鋼製壁を設置することで、効果的に当該箇所の地盤補強が可能となる。
また、堤体10内で高さ方向に傾斜している第13地盤層20nは、一旦局所破壊が生じると、上部地盤層のすべりを誘発しやすい箇所であり、当該箇所への鋼製壁体15Aの設置は、すべり破壊の抑止にも貢献することができる。
【0051】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、図4に示すように、最も層厚が厚く、一度破壊すると堤体10に最も大きな被害をもたらす可能性のある、透水性が相対的に高い第11地盤層20kにおいて、堤体10の周囲(ため池11や周辺の地山12など)からの水の流入部位を貫通するように、鋼製壁体15Aが設置されている。具体的には、第11地盤層20kにおいて、ため池11から地山12と堤体10の底面との境界部を通って来る水や地山12から湧き出る水が第11地盤層20kに流入しないように、第11地盤層20kのため池側の先端にある流入部位30を貫通するように鋼製壁体15Aが設置されている。この鋼製壁体15Aは堤体10の延在方向(図4において紙面と直交する方向)に沿って堤体10の内部に設置され、その下端は下方の地山12に根入れされ、上端は堤体10の天端10aに揃えられている。
【0052】
水の流入部位30は局所的に水流が加速され水圧が上昇するので、この流入部位30を貫通するように、鋼製壁体15Aを設置することによって、当該流入部位30の止水性を高め、つまり、地山12と堤体10の底面との境界部を通って来る水の流れを鋼製壁体15Aによって流入部位30で遮断することで効果的に局所的な破壊を防止できる。
【0053】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、図5に示すように、相対的に透水性の高い地盤層が重なり浸透破壊の起点となり易い部位を貫通するようにして、鋼製壁体15Aが設置されている。すなわち、第1地盤層20a、第3地盤層20c、第7地盤層20gおよび第9地盤層20iより相対的に透水性の高い2つの地盤層20h1,20h2が上下に重なる部分は、水流が一気に高まり浸透破壊の起点となり易い部位31であるので、この部位31を上下に貫通するようにして鋼製壁体15Aが設置されている。この鋼製壁体15Aは堤体10の延在方向に沿って堤体10の内部に設置され、その下端は下方の地山12に根入れされ、上端は堤体10の天端10aに揃えられている。
【0054】
このように浸透破壊の起点となり易い部位31を貫通するようにして、鋼製壁体15Aを設置することによって、浸透破壊の起点となり易い部位31の止水性を高め、つまり、ため池11から浸透してきた水の流れ(堤体10の横断方向における水の流れ)を鋼製壁体15Aによって前記部位31で遮断することで、効果的に局所的な破壊(浸透破壊)を防止できる。
【0055】
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、図6に示すように、第1地盤層20a、第7地盤層20gおよび第9地盤層20iより相対的に透水性が高い第11地盤層20kでかつ最も上下の厚さが厚い部位32を貫通するようにして、鋼製壁体15Bが設置されている。すなわち、第11地盤層20kのうち最も上下の厚さが厚い部位32を上下に貫通するようにして、鋼製壁体15Bが設置されている。鋼製壁体15Bは、第1~第3の実施形態と異なり、堤体10の横断方向に沿って、堤体10に設置されている。この鋼製壁体15Bは、堤体10の横断方向に沿って、当該堤体10の横断方向中央部よりため池11側に寄った部位から堤体10の下流側傾斜面10cに亘って連続的に設置され、当該鋼製壁体15Bの下端は地山12に根入れされ、上端は堤体10の天端10aに揃えられている。
【0056】
また、堤体10の内部には鋼製壁体15Aが設置されている。この鋼製壁体15Aは、堤体10の延在方向に沿って堤体10の一方の側面から他方の側面に亘って連続的に設置され、その下端は地山12に根入れされ、上端は堤体10の天端10aに揃えられている。なお、鋼製壁体15Aの下端は、図7に示すように、地山12に根入れされることなく、地山12の天端より上方に位置していてもよいし、鋼製壁体15Aの下端は、地山の天端に位置してもよい。特に、地盤や地形条件によって、局部的な水圧の高まりが卓越し、周辺地盤の崩壊を誘発することが予想されるような場合には、鋼製壁体15Aの下端を、地山12の天端より上方に位置することで、スポット的に水を流し水圧の過度な上昇を緩和することが可能となる。
また、鋼製壁体15Aは堤体10の横断方向中央部よりため池11側に寄せて配置されているが、横断方向中央部に配置してもよい。
このような鋼製壁体15Aに前記鋼製壁体15Bが結合されている。
【0057】
このように相対的に透水性が高い第11地盤層20kでかつ最も上下の厚さが厚い部位32を貫通するようにして、鋼製壁体15Bを設置することによって、当該部位32の止水性を高め、つまり、鋼製壁体15Bによって、越流や降雨など、堤体10の天端10a・側面・傾斜面10b,10cから堤体10内に水が流入した場合に対し、堤体10の延在方向の水流を鋼製壁体15Bによって遮断することで、効果的に局所的な破壊(浸透破壊)を防止できる。
【0058】
また、図6に示すように、第1地盤層20a、第3地盤層20c、第5地盤層e、第7地盤層20gおよび第9地盤層20iより相対的に透水性の高い第10地盤層20jから、相対的に透水性の低い第9地盤層20iとの境目となる、堤体10内の浸透破壊の出口となる部位33を貫通するようにして、鋼製壁体15Bが設置されている。部位33は、第10地盤層20jにおいて、堤体延在方向に亘って地山側から中央部にかけて先細りとなる箇所であり、地山から流れ込んでくる水流が集中し、水圧が高まり易く、より局所的な浸透破壊が起き易い場所となっている。
鋼製壁体15Bは、第1~第3の実施形態と異なり、堤体10の横断方向に沿って、堤体10に設置されている。この鋼製壁体15Bは、堤体10の横断方向に沿って、当該堤体10の横断方向中央部よりため池11側に寄った部位から堤体10の下流側傾斜面10cに亘って連続的に設置されている。そして、当該鋼製壁体15Bの下端は地山12に根入れされ、上端は堤体10の天端10aに揃えられている。また、鋼製壁体15Bは鋼製壁体15Aに結合されている。
【0059】
このように、堤体10内の浸透破壊の出口となる部位33を貫通するようにして、鋼製壁体15Bを設置することによって、浸透破壊の出口となる部位33の止水性を高め、つまり、地山から堤体の延在方向に浸透してきた水の流れを部位33で鋼製壁体15Bによって遮断することで、効果的に局所的な破壊を防止できる。
一方で、地盤層20jを流れる水の量が多く、完全に水流を遮断することで、局部的な水圧の高まりが卓越し、周辺地盤の崩壊を引き起すことが予想されるような場合には、鋼製壁体15Bの一部に孔を設けるなどして、スポット的に水を流し水圧の過度な上昇を緩和することも可能であり、予想洪水量や降雨量などを勘案して、設計段階で、水圧、流速、地盤強度、地盤構成、地形などから総合的に判断して、鋼製壁体15Bの仕様を調整することが好ましい。
【0060】
また、相対的に透水性の高い地盤層が重なり浸透破壊の起点となり易い部位を貫通するようにして、鋼製壁体15Bが設置されている。すなわち、相対的に透水性の高い3つの地盤層20b,20d,20fが上下に重なる部分は浸透破壊の起点となり易い部位34であるので、この部位34を上下に貫通するようにして鋼製壁体15Bが設置されている。
この鋼製壁体15Bは前記部位33を貫通する鋼製壁体15Bと同様に、堤体10の横断方向に沿って、堤体10に設置され、当該鋼製壁体15Bの下端は地山12に根入れされ、上端は堤体10の天端10aに揃えられている。また、鋼製壁体15Bは鋼製壁体15Aに結合されている。
【0061】
このように浸透破壊の起点となり易い部位34を貫通するようにして、鋼製壁体15Bを設置することによって、浸透破壊の起点となり易い部位34の止水性を高め、つまり、鋼製壁体15Bによって、越流や降雨など、堤体10の天端10a・側面・傾斜面10b,10cから堤体10内に水が流入した場合に対し、堤体10の延在方向の水流を鋼製壁体15Bによって遮断することで、効果的に局所的な破壊(浸透破壊)を防止できる。
【0062】
また、堤体10の高さ方向において透水性の高い地盤層が最も多く存在する部位35、つまり第1地盤層20a、第3地盤層20c、第5地盤層e、第7地盤層20gおよび第9地盤層20iより相対的に透水性の高い第2地盤層20b、第4地盤層20d、第6地盤層20f、第8地盤層20hおよび第11地盤層20kの合計5つの透水性の高い地盤層が存在する部位35を上下に貫通するように鋼製壁体15Bが設置されている。
この鋼製壁体15Bは前記箇所33を貫通する鋼製壁体15Bと同様に、堤体10の横断方向に沿って、堤体10に設置され、当該鋼製壁体15Bの下端は地山12に根入れされ、上端は堤体10の天端10aに揃えられている。また、鋼製壁体15Bは鋼製壁体15Aに結合されている。
【0063】
透水性の高い地盤層が最も多く存在する部位35は、局所的な破壊が起こり易い箇所を最も多く含む断面となるので、この部位35を貫通するように鋼製壁体15Bを設置することによって、この部位35の止水性を高め、つまり、鋼製壁体15Bによって、越流や降雨など、堤体10の天端10a・側面・傾斜面10b,10cから堤体10内に水が流入した場合に対し、堤体10の延在方向の水流を鋼製壁体15Bによって遮断することで、効率的かつ効果的に局所的な破壊(浸透破壊)を防止できる。
【0064】
また、堤体10の内部には、上述した堤体10の延在方向に沿って設置された第1鋼製壁体15Aおよび堤体10の横断方向に沿って設置された複数の第2鋼製壁体15Bによって構成された鋼製壁体15が設置され、第1鋼製壁体15Aと第2鋼製壁体15Bは結合されているが、結合されていなくてもよい。
そして、第1鋼製壁体15Aによってため池側からの浸透水を止水でき、第2鋼製壁体15Bによって、越流や降雨など、堤体の天端・側面・傾斜面から堤体内に水が流入した場合に対して、堤体の延在方向の水流を遮断して浸透破壊を防止できる。
また、第1鋼製壁体15Aおよび第2鋼製壁体15Bを結合して設置する場合、堤体10の横断方向に設置された第2鋼製壁体15Bは、堤体10の延在方向に設置された第1鋼製壁体15Aの控え壁として、ため池11からの水圧に抵抗することができるため、ため池11の水面高さの変動や波浪等の横波、降雨・越流など、複数の水の流れに対し、より強固な補強対策を施すことができる。
【0065】
(第5の実施形態)
第5の実施形態では、図7に示すように、鋼製壁体15が、互いに結合された第1鋼製壁体15Aおよび第2鋼製壁体15Bによって構成されている場合に、第2鋼製壁体15Bの下端は堤体10の下方の地山12に根入れされている。なお、図7では、堤体10の断面を見せるために第2鋼製壁体15Bを半透視状態で記載している。
【0066】
このように第2鋼製壁体15Bの下端が地山12に根入れされているので、当該第2鋼製壁体15Bの控え壁としての地耐力を高めることができ、より大きなため池11側からの土水圧に対して抵抗することができる。
【0067】
また、第1鋼製壁体15Aは堤体10の延在方向に一列設けられるとともに、第1鋼製壁体15Aの下端は堤体10の下方の地山12の天端より上方に位置しており、地山12に根入れされていない。
【0068】
このように、第1鋼製壁体15Aは堤体10の延在方向に一列設けられるとともに、第1鋼製壁体15Aの下端は地山12に根入れされることなく、地山12の天端より上方に位置しているので、第1鋼製壁体15Aをカーテンウォール的に控え壁としての第2鋼製壁体15Bに寄りかかる形式とすることができる。このため、第1鋼製壁体15Aを経済的な断面として、その材料費を軽減できる。また、第1鋼製壁体15Aを固い地山に根入れする必要がないため、オーガー掘削などの施工費用が高い工法を使用しなくても堤体内に第1鋼製壁体15Aを設置できるため、施工費用を軽減できる。オーガーで地山を掘削した場合、もともと強固で密に締め固まった地盤を乱してしまうため、第1鋼製壁体15Aの下端や側面は緩んだ地盤に設置されることになり、水道が形成され易くなってしまうことがあるが、オーガー掘削を回避することで、第1鋼製壁体15Aとしての止水性を確実に担保できる。
【0069】
また、第2鋼製壁体15Bの天端は、堤体10の下流側傾斜面10cと面一になっている。すなわち、第2鋼製壁体15Bは複数の鋼矢板16を堤体10の横断方向に複数連結することによって形成されているが、下流側傾斜面10cの下方に位置する複数の鋼矢板16はそれら高さが、堤体10の横断方向において、下流側傾斜面10c側に位置するものほど、段階的に低くなっている。そして、これら高さが異なる鋼矢板16は全てその上端のうち下流側傾斜面10c側に位置する端が下流側傾斜面10cに揃えられており、当該下流側傾斜面10cから突出していない。
【0070】
このように、第2鋼製壁体15Bの天端が堤体10の下流側傾斜面10cと面一になるため、当該下流側傾斜面10cから突出することがなく、このため、景観保護に寄与する。
【0071】
(第6の実施形態)
第6の実施形態では、図8に示すように、地山12と堤体10の下流側傾斜面10cが交わる部位36,37を貫通するようにして、一対の第2鋼製壁体15B,15Bが設置されている。すなわちまず、本実施形態では、地山12が堤体10の延在方向両端部において、下流側傾斜面10cの下部に、第1地盤層20a、第3地盤層20c、第5地盤層20e、第7地盤層20gおよび第9地盤層20iより相対的に透水性の高い第10地盤層20jおよび第11地盤層20kが存在している。
【0072】
そして、地山12と堤体10の下流側傾斜面10cが交わる部位36において、第10地盤層20jを上下に貫通するように一方の第2鋼製壁体15Bが設置され、地山12と堤体10の下流側傾斜面10cが交わる部位37において、第11地盤層20kを上下に貫通するように他方の第2鋼製壁体15Bが設置されている。これら第2鋼製壁体15B,15Bは堤体10の横断方向に沿って堤体10に設置され、その下端は地山12に根入れされ、上端は堤体10の天端10aに揃えられている。
【0073】
また、堤体10の内部には鋼製壁体15Aが設置されている。この鋼製壁体15Aは、堤体10の延在方向に沿って堤体10の一方の側面から他方の側面に亘って連続的に設置され、その下端は地山12に根入れされ、上端は堤体10の天端10aに揃えられている。なお、鋼製壁体15Aの下端は、図7に示すように、地山12に根入れされることなく、地山12の天端より上方に位置していてもよい。
また、鋼製壁体15Aは堤体10の横断方向中央部よりため池11側に寄せて配置されているが、横断方向中央部に配置してもよい。
このような鋼製壁体15Aに前記鋼製壁体15B,15Bが結合されている。
【0074】
このように、地山12と堤体10の下流側傾斜面10cが交わる部位36,37を貫通するようにして、第2鋼製壁体15B,15Bを設置することによって、前記部位36,37の止水性を高め、すなわち地山12からの流入水を第2鋼製壁体15B,15Bによって効果的に遮断して、効果的に局所的な破壊を防止できる。特にため池11が谷池である場合に有効である。
【0075】
また、図10に示すように、堤体10の底部に、当該堤体10の延在方向と直交する横断方向(図10において紙面と直交する方向)に延在する底樋等の構造物25が設けられている場合、鋼製壁体15Aの下端の一部は、構造物25まで達していない。なお、底樋には、堤体10の上流側傾斜面10bに沿って埋設された斜樋管に取水孔から取り入れた用水が導かれて取水される。
鋼製壁体15Aは複数の鋼矢板16を連結することによって形成されているので、これら複数の鋼矢板16のうち、構造物25の上方に位置する鋼矢板16の下端部が構造物25まで達していない、つまり、当該鋼矢板16の下端と構造物25との間には所定の隙間が設けられているか、もしくは、構造物25の上端に接した状態で、鋼矢板16の下端が打ち止められている。
このようにして鋼製壁体15Aを堤体10の内部に設置することによって、堤体10の内部に設置された鋼製壁体15Aが堤体10の内部の構造物25に干渉して、当該構造物25が損傷するのを防止できる。
【0076】
(第7の実施形態)
第7の実施形態では、図11に示すように、堤体10は、異なる地盤材料で形成された複数種類の地盤層21a~21hを有している。このような堤体10を補強する場合に、相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を含んで、複数種類の地盤層を上下に貫通するように堤体10の内部に鋼製壁体15が設置されている。
【0077】
図11に示す堤体10は、上から順に第1地盤層21a、第2地盤層21b,第3地盤層21c、第4地盤層21d、第5地盤層21e、第6地盤層21f、第7地盤層21gおよび第8地盤層21hを有している。
これらの地盤層のうち、第1地盤層21a、第3地盤層21c、第5地盤層21eおよび第7地盤層21gが相対的に透水性の低い地盤層となっており、第2地盤層21b、第4地盤層21d、第6地盤層21fおよび第8地盤層21hが相対的に透水性の高い地盤層となっている。
【0078】
そして、相対的に透水性の低い第1地盤層21a、第3地盤層21c、第5地盤層21eおよび第7地盤層21gより層厚が厚くかつ透水性の高い第4地盤層21dを含んで、複数種類の地盤層21a~21hを上下に貫通するように堤体10の内部に鋼製壁体15(15A)が設置されている。この鋼製壁体15(15A)は堤体10の延在方向(図11において紙面と直交する方向)に沿って堤体10の内部に設置され、その下端は下方の地山12に根入れされ、上端は堤体10の天端10aに揃えられている。
【0079】
第1地盤層21a、第3地盤層21c、第5地盤層21eおよび第7地盤層21gより層厚が厚くかつ密度が緩く透水性の高い第4地盤層21dでは、その内部を水が流れ易く、水の速度が上昇するため、過剰間隙水圧が上昇し、液状化し易くなり、堤体10に局所的に破壊が起こり易くなる。したがって、この第4地盤層21dを上下に貫通するように鋼製壁体15(15A)を堤体10の内部に設置することによって、この第4地盤層21dの止水性を高め、つまり、ため池11から浸透してきた水の流れ(堤体10の横断方向における水の流れ)を鋼製壁体15(15A)によって遮断することで、効果的に局所的な破壊を防止できる。
【0080】
以上のような異なる地盤材料で形成された複数種類の地盤層20a~20nまたは第1地盤層21a~第8地盤層21hを有する堤体10を補強する場合、以下のようにして行う。
すなわちまず、第1工程として、局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を特定する。
【0081】
第1工程では、局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を特定するために、堤体10の表面で発生している緩み領域を特定したり、ボーリングにより直接試料を採取し土質判定を行ったり、サウンディングにより地盤強度を測定したりすることに加えて、地盤の強度・透水性・層厚を把握するために、弾性波探査・電気探査・2次元表面波探査・電磁波探査等の物理探査を組み合わせて行う。
これらの物理探査は、平面的な測定ピッチを高密度に配置(例えば、1m以下)することで、精度の高い地盤データを得ることができる。得られた地盤情報から、平面方向と深度方向の地盤構成を一体化し3次元的に堤体内部や、堤体下部や側面の周辺地盤を可視化することで、堤体崩壊の誘発リスクのある部位として以下のような部位を特定する。
【0082】
(1)相対的に透水性が異なる地盤が互層となっていたりスポット的に存在していたりし、相対的に透水性の高い断面が最も多く存在する断面(図2参照)。
(2)軟弱層(例えば相対的に透水性の高い地盤層)の層厚が厚い部位(例えば図6において、符号32で示す部位)。
(3)軟弱層(例えば相対的に透水性の高い地盤層)の層厚が著しく変化している部位。
(4)透水性の高い地層が重なる部位(例えば図5において、符号31で示す部位)。
(5)浸透破壊の入口/出口となる部位(例えば図4において、符号30で示す部位や、図6において、符号33で示す部位)。
(6)液状化の可能性のある部位(例えば図11において、相対的に透水性の高い地盤層21d)。
(7)地盤層の連続性が途切れ、水圧が高まりやすい部位(例えば、図1において、符号40で示す部位)。
(8)特に皿池において、堤体下部地盤において、透水層(相対的に透水性の高い地盤層)が深く、楊圧力が高い部位。
【0083】
次に第2工程として、このようにして特定された局所的に水圧が上昇する部位および/または相対的に透水性の低い地盤層より層厚が厚くかつ透水性の高い地盤層を含んで、複数種類の地盤層を上下に貫通するように堤体の内部に鋼製壁体15(15A,15B)を設置する工程を行う。この場合、例えば図3図8図10および図11に示すようにして、堤体10の内部に鋼製壁体15(15A,15B)を設置する。
【0084】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
(1)不均一な地盤材料から構成された堤体10において、鋼製壁体15(15A,15B)により一律に堤体10内の浸透を遮断し、堤体10を補強することができる。
(2)特に、堤体10の弱点箇所を重点的に補強することで、補強鋼材(鋼製壁体15(15A,15B))を効率的に有効利用できる。特に浸透圧が卓越する部位において、他の部分よりも相対的に剛性が高い鋼矢板16を部分的に適用することによって、当該部分が他の部分より局所的に大きく変形することを抑制し、鋼製壁体15(15A,15B)全体としての耐力・剛性を高めることができる。
【0085】
(3)堤体10の脆弱箇所の地盤材料を置換するために大規模な掘削や運搬作業を伴う土工事に比べて、鋼製壁体15(15A,15B)を設置する工法は、部分的に鋼製壁体15(15A,15B)を設置するだけで堤体全体の健全性や安全性を確保できるとともに、簡易・急速に施工でき、トータル工事費を削減できる。
(4)鋼材(鋼製壁体15(15A,15B))によるバラつきの少ない品質の安定した部材で補強できるため、施工現場により材料にバラつきのある土工事に比べて、長期的耐久性が向上するとともに、土工事のような長期的な管理が不要でありメンテナンスが容易となることから維持管理が軽減され、漏水管理も容易となる。
(5)洪水による越流などにより堤体10が損傷した場合でも、鋼製壁体15(15A,15B)の天端(上端)ラインは堤体10の損傷前の高さを保持することができ、下流側への水災害を軽減することができる。また、ため池11に流入した土石・流木などを鋼製壁体15(15A,15B)で受け止めることができるため、下流域への土砂・流木災害を防ぐことができる。
(6)鋼製壁体15(15A,15B)により壁面を形成するため、豪雨や洪水による浸水対策として適用できるばかりでなく、骨組み構造として堤体内部を補強するため、地震に対する堤体補強としても有効に機能する。
(7)鋼製壁体15(15A,15B)を構成する鋼矢板16,16の継手16d,16dに止水材を塗布することで、適宜鋼製壁体15(15A,15B)の止水性を調整できる。
【0086】
上述した堤体の補強構造および補強方法は、ため池の堤体を対象としているが、同様な不均一地盤から構成される河川・海岸・遊水地等の堤体にも適用できる。
【符号の説明】
【0087】
10 堤体
10a 天端
10b,10c 傾斜面
11 ため池
12 地山
15 鋼製壁体
15A 第1鋼製壁体
15B 第2鋼製壁体
20a~20n 地盤層
21a~21h 地盤層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11