(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】無線通信システムおよび無線通信方法
(51)【国際特許分類】
H04W 72/543 20230101AFI20231227BHJP
H04W 72/541 20230101ALI20231227BHJP
H04W 28/14 20090101ALI20231227BHJP
H04W 84/12 20090101ALI20231227BHJP
【FI】
H04W72/543
H04W72/541
H04W28/14
H04W84/12
(21)【出願番号】P 2020141144
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アベセカラ ヒランタ
(72)【発明者】
【氏名】中平 俊朗
(72)【発明者】
【氏名】石原 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山本 高至
(72)【発明者】
【氏名】尹 博
【審査官】三枝 保裕
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-523065(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0077934(US,A1)
【文献】特開2013-183228(JP,A)
【文献】特開2006-287385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信局として機能する無線基地局と、その配下の複数の無線端末とを備え、前記送信局がOFDMAを用いて前記複数の無線端末の少なくとも一部の端末宛てにデータを送信する無線通信システムであって、
前記送信局は、
前記複数の無線端末の夫々の通信品質が、夫々について予め決められた要求品質を満たすための制約条件を定める処理と、
前記制約条件の下で、前記送信局における合計スループットが最大となるように、前記複数の無線端末に対するOFDMAのリソースブロックの割り当てを決定する最適化問題を解く処理と、
前記最適化問題の解に従う前記リソースブロックの割り当てで、前記複数の無線端末宛てにデータを送信する処理と、
前記複数の無線端末の夫々について、授受すべきデータ量を表すキューサイズを演算する処理と、を実行
し、
前記制約条件は、前記複数の無線端末の夫々についての前記キューサイズを、夫々の許容値未満に抑えることである無線通信システム。
【請求項2】
前記送信局は、
前記複数の無線端末の夫々が、干渉局となる他の無線基地局からの干渉電力の影響を受ける環境に属しているか否かを検知する処理と、
前記干渉局がm番目のリソースブロックで通信をしている際に、前記干渉電力の影響を受ける環境に属している無線端末に当該m番目のリソースブロックを割り当てないとの条件を、前記最適化問題に組み入れる処理と、
を更に実行することを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記送信局は、
前記複数の無線端末の夫々が、干渉局となる他の無線基地局からの干渉電力の影響を受ける環境に属しているか否かを検知する処理と、
前記干渉局がm番目のリソースブロックでの通信を行っていない際に、前記干渉電力の影響を受ける環境に属している無線端末に当該m番目のリソースブロックを割り当てるとの条件を、前記最適化問題に組み入れる処理と、
を更に実行することを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記送信局は、
前記複数の無線端末の夫々が、干渉局となる他の無線基地局からの干渉電力の影響を受ける環境に属しているか否かを検知する処理と、
前記干渉局がm番目のリソースブロックでの通信を行っていない際に、前記干渉電力の影響を受けない環境に属している無線端末に当該m番目のリソースブロックを割り当てないとの条件を、前記最適化問題に組み入れる処理と、
を更に実行することを特徴とする請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記最適化問題は、次式の目的関数を含み、
【数1】
tは時刻であり、Tは時間であり、iは無線端末の番号であり、kは前記複数の無線端末の台数であり、mはリソースブロックの番号であり、Mはリソースブロックの個数であり、ximは無線端末iにリソースブロックmを割り当てるか否かに応じて1と0を取る2値変数であり、riは無線端末iのデータレートであり、
前記送信局は、
前記複数の無線端末の夫々から干渉状況に関するフィードバック情報を受け付ける処理と、
当該フィードバック情報に基づいて前記データレートを計算する処理と、
を更に実行することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の無線通信システム。
【請求項6】
送信局として機能する無線基地局と、その配下の複数の無線端末とを備える無線通信システムにおいて、前記送信局がOFDMAを用いて前記複数の無線端末の少なくとも一部の端末宛てにデータを送信するための無線通信方法であって、
前記複数の無線端末の夫々の通信品質が、夫々について予め決められた要求品質を満たすための制約条件を定めるステップと、
前記制約条件の下で、前記送信局における合計スループットが最大となるように、前記複数の無線端末に対するOFDMAのリソースブロックの割り当てを決定する最適化問題を解くステップと、
前記送信局が、前記最適化問題の解に従う前記リソースブロックの割り当てで、前記複数の無線端末宛てにデータを送信するステップと、
前記複数の無線端末の夫々について、授受すべきデータ量を表すキューサイズを演算するステップと、を含
み、
前記制約条件は、前記複数の無線端末の夫々についての前記キューサイズを、夫々の許容値未満に抑えることである無線通信システム。
を含むことを特徴とする無線通信方法。
【請求項7】
前記複数の無線端末の夫々が、干渉局となる他の無線基地局からの干渉電力の影響を受ける環境に属しているか否かを検知するステップと、
前記干渉局がm番目のリソースブロックで通信をしている際に、前記干渉電力の影響を受ける環境に属している無線端末に当該m番目のリソースブロックを割り当てないとの条件を、前記最適化問題に組み入れるステップと、
前記干渉局がm番目のリソースブロックでの通信を行っていない際に、前記干渉電力の影響を受ける環境に属している無線端末に当該m番目のリソースブロックを割り当てるとの条件を、前記最適化問題に組み入れるステップと、
を更に含むことを特徴とする請求項
6に記載の無線通信方法。
【請求項8】
前記最適化問題は、次式の目的関数を含み、
【数2】
tは時刻であり、Tは時間であり、iは無線端末の番号であり、kは前記複数の無線端末の台数であり、mはリソースブロックの番号であり、Mはリソースブロックの個数であり、ximは無線端末iにリソースブロックmを割り当てるか否かに応じて1と0を取る2値変数であり、riは無線端末iのデータレートであり、
前記複数の無線端末の夫々から干渉状況に関するフィードバック情報を受け付けるステップと、
当該フィードバック情報に基づいて前記データレートを計算するステップと、を更に含む請求項6または7に記載の無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線LAN(Local Area Network)の稠密環境において、各無線局のCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)制御に起因するスループットの低下を改善する無線通信システムおよび無線通信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノートパソコンやスマートフォン等の持ち運び可能で高性能な無線端末の普及により、企業や公共スペースだけではなく、一般家庭でもIEEE802.11標準規格の無線LANが広く使われるようになっている。IEEE802.11標準規格の無線LANには、 2.4GHz帯を用いるIEEE802.11b/g/n/ax 規格の無線LANと、5GHz帯を用いるIEEE802.11a/n/ac/ax規格の無線LANがある。
【0003】
2.4GHz帯を用いる無線LANでは、2400MHzから2483.5MHz間に5MHz間隔で13チャネルが用意されている。ただし、同一場所で複数のチャネルを使用する際は、干渉を避けるためスペクトルが重ならないようにチャネルを使用すると、最大で3チャネル、場合によっては4チャネルまで同時に使用できる。
【0004】
一方、5GHz帯を用いる無線LANでは、日本の場合は、5170MHzから5330MHzの間と、5490MHzから5710MHzの間で、それぞれ互いに重ならない8チャネルおよび11チャネルの合計19チャネルが規定されている。なお、IEEE802.11a規格では、チャネル当たりの帯域幅が20MHzに固定されている。
【0005】
無線LANの最大伝送速度は、IEEE802.11b規格の場合は11Mbpsであり、IEEE802.11a規格やIEEE802.11g規格の場合は54Mbpsである。ただし、ここでの伝送速度は物理レイヤ上での伝送速度である。実際にはMAC(Medium Access Control)レイヤでの伝送効率が50~70%程度であるため、実際のスループットの上限値はIEEE802.11b規格では5Mbps 程度、IEEE802.11a規格やIEEE802.11g規格では30Mbps程度である。また、伝送速度は、情報を送信しようとする送信局が増えればさらに低下する。
【0006】
一方で、有線LANでは、Ethernet(登録商標)の100Base-Tインタフェースをはじめとして、各家庭に向けた光ファイバを用いたFTTH(Fiber to the home)が普及しており、 100Mbps ~1Gbps 級の高速回線の提供が一般的となっている。このため、無線LANにおいても更なる伝送速度の高速化が求められている。
【0007】
そのため、2009年に標準化が完了したIEEE802.11n規格では、これまで20MHzに固定されていたチャネル帯域幅が最大で40MHzに拡大された。また、空間多重送信技術(MIMO:Multiple input multiple output)技術の導入も決定された。IEEE802.11n規格で規定されているすべての機能を適用して送受信を行うと、物理レイヤでは最大で600Mbps の通信速度を実現可能である。
【0008】
さらに、2013年に標準化が完了したIEEE802.11ac規格では、チャネル帯域幅を80MHz、最大で160MHzまで拡大することや、空間分割多元接続(SDMA:Space Division Multiple Access)を適用したマルチユーザMIMO(MU-MIMO)送信方法を導入することが決定している。IEEE802.11ac規格で規定されているすべての機能を適用して送受信を行うと、物理レイヤでは最大で約 6.9Gbps の通信速度を実現可能である。
【0009】
また、現在標準化規格策定中のIEEE802.11ax規格では、OFDMAを活用して複数ユーザ宛に異なる信号を同時送信する技術の導入が決まっている(非特許文献1)。この技術によれば、超高密度環境においても効率的なデータ送信が可能となる。
【0010】
IEEE802.11規格の無線LANは、2.4GHz帯または5GHz帯の免許不要な周波数帯で運用される。このため、IEEE802.11規格の無線基地局は、無線LANセル(BSS:Basic Service Set)を形成する際に、自無線基地局で対応可能な周波数チャネルのうち、運用する周波数チャネルを決定する必要がある。
【0011】
さらに、IEEE802.11n規格またはIEEE802.11ac規格の無線基地局では、運用する帯域幅も決定する必要がある。例えば、IEEE802.11n規格の場合は、帯域幅は最大で40MHzまで対応可能であるが、周辺の無線環境状況によって40MHzではなく20MHzで運用した方が効率的な場合がある。同様に、IEEE802.11acや11ax規格の場合は、連続した80MHz、連続した160MHz、または非連続の80+80MHzまでの対応、すなわち、最大で160MHzまでの対応が可能であるが、周辺の無線環境状況によっては40MHzや20MHzで運用した方が効率的な場合がある。
【0012】
自セルで使用するチャネル、帯域幅およびそれ以外のパラメータの設定値、並びに自無線基地局において対応可能なその他のパラメータは、定期的に送信するBeaconフレームや、無線端末から受信するProbe Requestフレームに対するProbe responseフレーム等に記載される。これらのフレームは、運用が決定された周波数チャネル上で送信され、配下の無線端末および周辺の他送信局に通知される。これによりセルの運用が行われる。
【0013】
自セルで使用するパラメータの設定値には、例えば、アクセス権取得に関するパラメータ値やQoS(Quality of Services )等のパラメータ値が含まれる。また、自無線基地局において対応可能なその他のパラメータには、フレーム送信に用いる帯域幅、制御フレーム送信に使用する基本データレート、およびデータ送受信可能な変調方式と符合化率に関するデータレートセットなどが含まれる。
【0014】
無線基地局において、周波数チャネルや帯域幅およびその他のパラメータの選択および設定方法には、次の4つの方法がある。
(1) 無線基地局の製造メーカで設定されたデフォルトのパラメータ値をそのまま使用する方法
(2) 無線基地局を運用するユーザが手動で設定した値を使用する方法
(3) 各無線基地局が起動時に自局において検知する無線環境情報に基づいて自律的にパラメータ値を選択して設定する方法
(4) 無線LANコントローラなどの集中制御局で決定されたパラメータ値を設定する方法
【0015】
ここで、IEEE802.11ac規格においてチャネル帯域幅を40MHz、80MHz、或いは160MHzと広く設定する場合、5GHz帯において同一場所で同時に使えるチャネル数は、チャネル帯域幅が20MHzである場合に比して少なくなる。具体的には、20MHzでは19チャネルだったものが、夫々9チャネル、4チャネル、2チャネルと少なくなる。すなわち、チャネル帯域幅が増加するにつれて、使えるチャネル数が低減することになる。
【0016】
また、同一場所で同時に使えるのは、通信に用いるチャネル帯域幅によって、2.4GHz帯の無線LANでは3チャネル、5GHz帯の無線LANでは2チャネル、4チャネル、9チャネル、または19チャネルになる。このため、実際に無線LANを導入する際には無線基地局が自BSS(Basic Service Set)内で使用するチャネルを選択する必要がある。
【0017】
このとき、使用可能なチャネル数よりもBSS数が多い無線LANの稠密環境では、複数のBSSが同一チャネルを使うことになる(OBSS:Overlapping BSS )。その場合、同一チャネルを使用するBSS間の干渉の影響により、当該BSSおよびシステム全体のスループットが低下することになる。そのため無線LANでは、CSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)を用いて、キャリアセンスによりチャネルが空いているときにのみデータの送信を行う自律分散的なアクセス制御が使われている。
【0018】
具体的には、送信要求が発生した送信局は、まず所定のセンシング期間(DIFS:Distributed Inter-Frame Space )だけキャリアセンスを行って無線媒体の状態を監視し、この間に他の送信局による送信信号が存在しなければ、ランダム・バックオフを行う。送信局は、引き続きランダム・バックオフ期間中もキャリアセンスを行うが、この間にも他の送信局による送信信号が存在しない場合に、チャネルの利用権(TXOP:Transmission Opportunity)を得る。チャネルの利用権を得た送信局(TXOP Holder )は、同一BSS内の他の送信局にデータを送信し、またそれらの送信局からデータを受信できる。このようなCSMA/CA制御を行う場合、同一チャネルを使用する無線LANの稠密環境では、キャリアセンスによりチャネルがビジーになる頻度が高くなるため、送信機会(チャネルの利用権を得る機会)が低下し、スループットが低下することになる。したがって、周辺環境をモニタリングし、適切なチャネルを選択することが重要になる。11ax対応無線局でOFDMAを用いる場合は各々端末宛に利用するリソースブロックを適切に選択する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【文献】Specification Framework for TGax, Robert Stacey, 2016年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
OFDMAを用いて複数端末宛にデータを送信する際には、無線端末の選択が重要である。無線端末が広範囲に広がっている場合は、端末毎の干渉状況が異なる。このように干渉状況が異なる端末の中から干渉を受けにくい端末を選択し、送信することでOFDMA送信が成功となり、端末の品質が改善される。
本発明は、OFDMA送信の際に宛先となる端末を適切に選択するための選定方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の第1の態様は、上記の課題を解決するため、送信局として機能する無線基地局と、その配下の複数の無線端末とを備え、前記送信局がOFDMAを用いて前記複数の無線端末の少なくとも一部の端末宛てにデータを送信する無線通信システムであって、前記送信局は、前記複数の無線端末の夫々の通信品質が、夫々について予め決められた要求品質を満たすための制約条件を定める処理と、前記制約条件の下で、前記送信局における合計スループットが最大となるように、前記複数の無線端末に対するOFDMAのリソースブロックの割り当てを決定する最適化問題を解く処理と、前記最適化問題の解に従う前記リソースブロックの割り当てで、前記複数の無線端末宛てにデータを送信する処理と、を実行することが望ましい。
【0022】
また、本発明の第2の態様は、送信局として機能する無線基地局と、その配下の複数の無線端末とを備える無線通信システムにおいて、前記送信局がOFDMAを用いて前記複数の無線端末の少なくとも一部の端末宛てにデータを送信するための無線通信方法であって、前記複数の無線端末の夫々の通信品質が、夫々について予め決められた要求品質を満たすための制約条件を定めるステップと、前記制約条件の下で、前記送信局における合計スループットが最大となるように、前記複数の無線端末に対するOFDMAのリソースブロックの割り当てを決定する最適化問題を解くステップと、前記送信局が、前記最適化問題の解に従う前記リソースブロックの割り当てで、前記複数の無線端末宛てにデータを送信するステップと、を含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、無線基地局が、データ送信の宛先とする無線端末、および使用するリソースブロックを適切に選択するため、無線端末における通信品質が改善される。その結果、ユーザにとって品質の良いアクセス回線を提供することが可能である。また、アンライセンス無線システムにおいても品質保証型サービスの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施の形態1の無線通信システムの構成例を示す図である。
【
図2】
図1に示す送信局の特徴的な機能を説明するためのブロック図である。
【
図3】本発明の実施の形態1を対象として実施したシミュレーションの環境を示す図である。
【
図4A】本発明の実施の形態1で得られる効果をキューサイズの比較で表した図である。
【
図4B】本発明の実施の形態1で得られる効果を遅延時間の比較で表した図である。
【
図5A】本発明の実施の形態2の特徴を説明するための図(その1)である。
【
図5B】本発明の実施の形態2の特徴を説明するための図(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1の無線通信システム10の構成を説明するための図である。
図1に示す無線通信システム10には、複数の無線基地局AP1~AP5が含まれている。無線基地局AP1~AP5は、夫々無線LANのアクセスポイントとして機能する。
【0026】
図1は、無線基地局AP1の無線LANセル内に4つの無線端末STA11~STA14が含まれる状態を示している。また、
図1では、無線端末STA11~STA14が、以下のような通信状態に置かれている。
STA11;AP1以外の無線基地局AP2~AP4からの干渉なし
STA12;AP4からの干渉あり
STA13;AP5からの干渉あり
STA14;AP2、AP3およびAP4からの干渉あり
【0027】
以下、本実施形態では、
図1における無線基地局AP1にように、無線端末STA11~STA14にデータを送信する基地局を「送信局」と称す。また、無線基地局AP2~AP5のように、他の無線基地局AP1の無線LANセル内に位置する無線端末STA11~STA14に干渉電力を与える基地局を「干渉局」と称す。
【0028】
図2は、本実施形態において、送信局AP1が有する特徴的な機能を説明するためのブロック図である。
図2に示す構成は、専用または汎用のハードウェアにより実現することができる。或いは、この構成は、プロセッサユニット、メモリ、各種インターフェース等のハードウェアに、専用または汎用のソフトウェアを組み合わせることにより実現することができる。
【0029】
送信局AP1は、干渉電力推定部22を備えている。干渉電力推定部12は、現在または将来の干渉電力を推定することができる。干渉電力推定部22で推定された干渉電力は、リソース最適化部24に提供される。
【0030】
本実施形態の無線通信システム10は、OFDMAを活用して無線通信を行う。リソース最適化部24は、OFDMAを活用するに当たって送信局AP1で利用可能なリソースブロックを、最適な状態で無線端末STA11~STA14に割り当てるためのスケジューリングを行う。リソース最適化部24では、具体的には、後述する最適化問題を、リアプノフ最適化の手法で解くことにより、無線リソースの割り当てに関する最適値を取得する。
【0031】
リソース最適化部24で決定された無線リソースの割り当ての結果は、データ送信部26に提供される。データ送信部26は、その割り当てに従って、無線端末STA11~STA14にリソースブロックを割り当ててデータを送信する。
【0032】
[実施の形態1における最適化]
次に、
図2に示すリソース最適化部24で実施される処理の詳細について説明する。以下、送信局AP1の無線LANセル内に位置する無線端末STA11~STA14は、必要に応じて「無線端末i」と称する。但し、i=1~kとする。また、kは無線端末の台数であり本実施形態では4である。
【0033】
送信局AP1と無線端末iとの間で通信が行われる際には、無線端末i毎に送信待ちのデータが生ずる。この送信待ちのデータ量を「キューサイズQi」と称す。特定の無線端末iにだけリソースブロックが割り当てられれば、その端末iについては良好な通信品質が得られるが、他の無線端末iでは過大なキューサイズQiが生ずる。そして、過大なキューサイズQiが生じた無線端末iでは、データの授受に多大な遅延時間が生じ易い。このため、本実施形態では、特定の無線端末iのキューサイズQiが突出して大きな値となる状態を、好ましくない状態と捉えることとする。
【0034】
一方、リソースブロックが有効に活用されているか否かは、無線端末i(i=1~k)夫々のスループットの合計値で評価することができる。より具体的には、その合計値が大きいほど、リソースブロックが無駄なく有効に活用されていると評価することができる。そこで、本実施形態では、無線端末i(i=1~k)のスループットの合計値を最大化する割り当てを、リソースブロックの最適な割り当てとして捉えることとする。
【0035】
以上の観点から、本実施形態において、送信局AP1は、以下の条件を満たす最適化問題を解くことで、複数の無線端末iへのリソースブロックの割り当てを決定する。
目的:無線端末i(i=1~k)のスループットの合計の最大化
制約条件:無線端末i(i=1~k)のキューサイズQiを、夫々一定値以下に抑える。
【0036】
上記の最適化問題は、以下に示す(1)式から(5)式で表すことができる。但し、送信局AP1で利用可能なリソースブロックはM個であるものとし、以下、それらを「リソースブロックm」(m=1~M)と称す。
【数1】
【0037】
上記(1)式は、時刻tにおける端末iのキューサイズQiを表す漸化式である。右辺のQi[t-1]は、時刻tの1サイクル前のキューサイズである。riは端末iに関するデータレートである。また、τはリソース割り当ての更新間隔である。従って、右辺第1項のmax関数が導出する値は、「『時刻t-1に溜まっていたキューサイズQi[t-1]から送出されたデータ量ri[t-1]τを減じた値』と、『ゼロ』のうち最大の値」となる。右辺第2項のaiは端末iに関するデータの到着率である。従って、右辺第2項ai[t]τは、時刻tにおいて新たに発生したデータ量を意味する。以上より、上記(1)式は、既存のデータ量から、送出されたデータ量を減じ、新たに発生したデータ量を加えた量が時刻tのキューサイズQiであることを示している。
【0038】
【0039】
上記(2)式および(3)式は、送信局AP1がリソースブロックの最適な割り当てを決定するために解くべき最適化問題を表している。より具体的には、上記(2)式は、その最適化問題の目的関数である。また、上記(3)式は、その最適化問題の制約条件である。
【0040】
上記(3)式中、(1/T)ΣQi[t]は、無限大の時間Tを想定した場合の端末iのキューサイズQiの収束値を意味している。そして、(3)式が表す制約条件は、「全ての端末iについて、そのキューサイズQiの収束値が許容値Qiバー未満であること」を定義している。この制約条件の下で(2)式の目的関数を解けば、一部の端末iにおいてキューサイズQiが突出してしまう事態の発生を回避することができる。
【0041】
上記(4)式および(5)式は、(2)式に含まれる変数ximを定義している。具体的には、上記(4)式は、変数xim(i=1~k、m=1~M)が、iとmの全ての組合せについて「0」および「1」の値をとることを表している。つまり、上記(4)式は、変数ximがk×M個のxの代用値であることを表している。そして、k×M個のximが、夫々2値を取り得ることから、xim(i=1~k、m=1~M)の組合せは、2の(k×M)乗個だけ存在することになる。
【0042】
また、上記(5)式は、全てのiについてのxim(i=1~k)の和が1以下であることを示している。これは、リソースブロックmが最大で1台の端末iにしか割り当てられないことを意味している。この条件によれば、同一の無線LANセル内で、複数の端末iに同一のリソースブロックが割り当てられるのを防ぐことができる。
【0043】
上記(2)式のうち、xim[t]ri[t]は、リソースブロックmにより端末iで実現できるスループットを意味する。端末iにリソースブロックmが割り当てられていない条件であれば、xim=0であるから、その計算値は0である。一方、端末iにリソースブロックmが割り当てられていれば、xim=1であるから、その計算値はriである。
【0044】
上記(2)式に示す(1/T)ΣΣΣxim[t]ri[t]は、全てのリソースブロックm(m=1~M)を活用して、全ての端末i(i=1~k)によって達成できるスループットの合計値となる。lim関数は、その収束値を求める関数である。そして、上記(2)式のmax関数は、2の(i×M)乗個のximの組合せについて算出されるスループットの合計値の中から、最大のものを目的値として選択する関数である。このため、上記(2)式を解けば、全てのリソースブロックmを活用して全ての無線端末iを対象として送信局AP1が達成できるスループットの最大値を得ることができる。また、その最大値を発生させるk×M個のxim(0または1)の組合せが、最適なリソースブロックの割り当てを表すことになる。
【0045】
但し、本実施形態では、上記(3)式の制約条件の下で上記(2)式の目的関数が解かれる。このため、スループットが高くても、(3)式の制約条件を満たさない解は排除される。このため、本実施形態によれば、端末iへのリソースブロックmの割り当ては、全ての端末iについてキューサイズQiを許容値Qiバー未満に抑えることができる組合せの中で、最大のスループットを達成する組合せに決定される。
【0046】
上記(1)式から(5)式で示した最適化問題は、無線端末i毎の、データレートriおよび到着率aiが判れば解くことができる。送信局AP1は、例えば、キャリアセンスを実施してデータレートriを検知することができる。また、送信局AP1は、干渉局AP2~AP5からの干渉電力に基づいてデータレートriを計算することもできる。更には、データレートriに関する情報は無線端末iからフィードバックを受けることとしてもよい。また、データの到着率aiは、下りデータに関しては自ら検知し、上りデータに関しては無線端末iからフィードバックを受けてもよい。データレートriおよび到着率aiの取得方法はこれらに限定されるものでなく、その取得には、公知のあらゆる手法を用いることができる。
【0047】
[実施の形態1の効果]
次に、実施の形態1の無線通信システムにより達成される効果を、シミュレーションの結果に基づいて説明する。
図3は、本実施形態の無線通信システムを対象として実施したシミュレーションの環境を示している。
図3は、例えば、送信局APが1台、無線端末STAが4台、干渉局が2台であることを示している。また、このシミュレーションでは、キューサイズQiの許容値(目標キュー値)Qiバーを、全ての端末iについて一律に50kbitに設定している。
【0048】
図4Aは、リソースブロックを割り当てるための4つの手法について、キューサイズQiを比較した結果を示す。縦軸は、平均キューサイズQi(kbit)を示している。横軸には、4つの無線端末i(STA1~4)が割り当てられている。無線端末i毎に示されている4本の棒グラフは、左から(1)リアプノフ最適化、(2)ランダム、(3)レート、(4)キューに対応している。
【0049】
上記の(1)~(4)は、リソースブロックの割り当て手法の呼称であり、夫々の概要は下記の通りである。
(1)リアプノフ最適化:本実施形態の割り当て手法
(2)ランダム:リソースブロックをランダムに無線端末iに割り当てる手法
(3)レート:送信局APの送信レートが最大にするための割り当て手法
(4)キュー:全ての無線端末iでキューサイズQiを均一化するための割り当て手法
【0050】
また、
図4Bは、それら4つの手法について、無線端末iにおける遅延時間を比較した結果を示す。
図4Bにおいて、縦軸は、平均遅延時間(ms)を示している。横軸および4本の棒グラフについては、
図4Aの場合と同様である。
【0051】
図4Aに示す結果は、以下の事象を表している。
(1)リアプノフ最適化の手法が用いられた場合は、全ての無線端末iのキューサイズQiが40kbit以下に抑えられる。
(2)ランダムの手法は、全ての無線端末iのキューサイズQiを適度に抑制する。但し、リアプノフ最適化の手法ほどにはQiを抑えることはできない。
(3)レートの手法では、STA1のキューサイズQiが突出して高くなる。加えて、無線端末i毎にキューサイズQiに大きなばらつきが生ずる。レートの手法では、データレートの低い無線端末iのキューサイズQiは大きくなり、他方、データレートriの高い無線端末iのキューサイズQiは小さくなる。従って、
図4Aに示す結果は、STA1のデータレートr1が他の無線端末に比して著しく低く、STA3が最高のデータレートr3を示していたことを示している。
(4)キューの手法では、データレートriのバラツキに関わらず、全ての無線端末iのキューサイズQiが平均化されてほぼ一律の値となる。
【0052】
図4Bに示す結果は、以下の事象を表している。
(1)リアプノフ最適化の手法が用いられた場合は、全ての無線端末iにおいて遅延時間が十分に短い時間となる。
(2)ランダムの手法でも、全ての無線端末iの遅延時間は、ある程度抑えることができる。但し、リアプノフ最適化の手法ほどには遅延時間を抑えることはできない。この現象は、データレートr1の低いSTA1において最も顕著に表れやすい。
(3)レートの手法では、データレートr1の低いSTA1の遅延時間が、他の遅延時間に比して突出して長くなる。
(4)キューの手法では、データレートr1が悪いにも関わらず他の端末と同じキューサイズQ1が与えられるSTA1において、突出した遅延時間が生ずる。
【0053】
以上説明した通り、シミュレーションの結果は、全ての無線端末iのキューサイズQiを適切に抑えつつ、個々の端末iの遅延時間を短縮するうえで、リアプノフ最適化の手法が、他の手法に比して優れていることを示している。このため、本実施形態の無線通信装置によれば、データ送信の際に宛先とする無線端末i、および使用するリソースブロックmを適切に選択して、全ての無線端末i(i=1~k)に良好な通信品質を提供することができる。
【0054】
ところで、上述した実施の形態1では、上記(1)式~(5)式に示す最適化問題を解く手法としてリアプノフ最適化の手法を用いている。しかしながら、その最適化問題を解く手法はこれに限定されるものではなく、その問題を解くことができる手法であれば、公知の如何なる手法であっても本発明に適用することが可能である。
【0055】
また、上述した実施の形態1では、無線端末iのキューサイズQiを一定値以下に抑えることを制約条件としているが、本発明に適用可能な制約条件はこれに限定されるものではない。例えば、各端末iのデータレートが一定値以上であることなど、他の通信品質についての要求を制約条件としてもよい。
【0056】
実施の形態2.
次に、
図1および
図2と共に、
図5Aおよび
図5Bを参照して、本発明の実施の形態2について説明する。
【0057】
[実施の形態2の特徴]
本発明の実施の形態2は、実施の形態1の場合と同様に、
図1および
図2に示す構成により実現することができる。また、本実施形態の無線通信システムは、送信局AP1が、無線端末iに対するリソースブロックmの割り当てを、上記の最適化問題を解くことで決定する点においても実施の形態1の場合と同様である。そして、本実施形態の無線通信システムは、送信局AP1が、その最適化問題を解く際に、干渉局AP2~AP5からの干渉電力の有無に関する情報を利用する点に特徴を有している。
【0058】
図5Aは、送信局AP1の無線LANセル内に2台の無線端末STA11およびSTA12が存在する状態を示している。STA11は、送信局AP1からの送信電力は届くが、干渉局AP2からの干渉電力には影響を受けない位置に存在している。一方、無線端末STA12は、干渉局AP2からの干渉電力に影響を受ける位置に存在している。
図5Aは、更に、干渉局AP2が、リソースブロックmを使ってSTA12とは異なる無線端末と通信を行っている状況を示している。
【0059】
この場合、送信局AP1が、リソースブロックmで無線端末STA12と通信しようとすれば、無線端末STA12では、送信局AP1との間で授受すべき信号と、干渉局AP2から送信されてくる信号との干渉が生ずる。その結果、無線端末STA12と送信局AP1との間でのデータレートriが悪化し、無線通信システム全体のスループットが低下する。
【0060】
本実施形態では、このような事態を避けるために、
図5Aに示すような状況下では、リソースブロックmを、干渉電力の影響を受けない無線端末STA11に優先的に割り当てる。このような割り当てによれば、干渉によるデータレートriの低下を回避して、無線通信システムの全体において、高いスループットを維持することができる。
【0061】
図5Bは、
図5Aと同様の状況下で、干渉局AP2が、リソースブロックmを使った通信を行っていない状態を示している。この場合、無線端末STA11のみならず、無線端末STA12についても、リソースブロックmでの干渉は生じない。本実施形態では、この場合、リソースブロックmを、無線端末STA12に優先的に割り当てる。このような割り当てによれば、干渉の影響を受ける無線端末STA12のキューサイズQが過大となってしまうのを有効の阻止することができる。
【0062】
[実施の形態2における最適化]
本実施形態において、送信局AP1は、上述した通り、実施の形態1で説明した最適化問題を解くことにより、無線端末iへのリソースブロックmの割り当てを決定する。但し、本実施形態において、送信局AP1は、無線端末i(i=1~k)の夫々が、干渉局AP2から発せられる干渉電力の影響を受けるか否かを把握している。
【0063】
送信局AP1は、例えばキャリアセンスを実施して、無線端末iが干渉電力の影響を受けるか否かを検知することができる。また、送信局AP1は、干渉局が発する干渉電力を検知して、無線端末iがその影響を受けるか否かを判断してもよい。更には、送信局AP1は、無線端末iからのフィードバックにより、干渉電力による影響の有無を判断してもよい。
【0064】
送信局AP1は、無線端末iがリソースブロックmで干渉を受けていると判断した場合、そのiおよびmに対応するximを「0」に固定して、上記(2)式の目的関数を解く。仮に、i=12であれば、x12mを「0」に固定して目的関数を解く。この処理によれば、
図5Aに示す状況下では、リソースブロックmをSTA12に割り当てるという選択肢を排除したうえで目的関数が解かれることになる。このため、本実施形態によれば、実施の形態1の場合に比して、最適化問題を解く際の演算負荷を少なくすることができる。
【0065】
また、上記の演算によりリソースブロックmの割り当てを決定すると、以下の特性を満たすことができる。
1.リソースブロックmが優先的にSTA11に割り当てられる。
2.全無線端末iのキューサイズQiが許容値Qiバー未満に抑えられる。
3.上記1,2の制約の下で最大のスループットが得られる。
【0066】
送信局AP1は、無線端末iが干渉電力の影響を受ける位置に存在するが、時刻tにおいてリソースブロックmの干渉を受けていないと判断した場合、そのiおよびmに対応するximを「1」に固定して上記(2)式を解く。仮に、i=12であれば、x12mを「1」に固定して目的関数を解く。この処理によれば、
図5Bに示す状況下では、リソースブロックmをSTA12に割り当てる前提で目的関数が解かれることになる。これにより、実施の形態1の場合に比して、最適化問題を解く際の演算負荷が更に軽減される。
【0067】
また、上記の演算によりリソースブロックmの割り当てを決定すると、以下の特性を満たすことができる。
4.リソースブロックmが優先的にSTA12に割り当てられる。
5.全無線端末iのキューサイズQiが許容値Qiバー未満に抑えられる。
6.上記1,2の制約の下で最大のスループットが得られる。
【0068】
尚、上記の説明では、x12mを「1」に固定することとしているが、
図5Bの状況に対応する手法はこれに限定されるものではない。
図5Bの状況下では、x12m以外のximを「0」に固定して目的関数を解くこととしてもよい。この処理によれば、リソースブロックmの割り当て候補をSTA12だけに限定して目的関数が解かれる。このような演算によっても、実施の形態1の場合に比して、最適化問題を解く際の演算負荷を少なくすることができると共に、上記4,5,6の特性を満たすことができる。
【符号の説明】
【0069】
AP1 無線基地局(送信局)
AP2、AP3、AP4、AP5 無線基地局(干渉局)
STA11、STA12、STA13、STA14 無線端末
10 無線通信システム
22 干渉電力推定部
24 リソース最適化部
26 データ送信部