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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】重合体
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/045 20160101AFI20231227BHJP
   C07C 43/215 20060101ALN20231227BHJP
   C07C 41/00 20060101ALN20231227BHJP
【FI】
C08G75/045
C07C43/215
C07C41/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019126457
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2021011541
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】兼橋 真二
(72)【発明者】
【氏名】荻野 賢司
(72)【発明者】
【氏名】下村 武史
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-236415(JP,A)
【文献】特開2017-206572(JP,A)
【文献】特開2015-129074(JP,A)
【文献】特開平07-003025(JP,A)
【文献】特開2017-079113(JP,A)
【文献】国際公開第01/000702(WO,A1)
【文献】繊維学会予稿集2017,72巻1号,日本,2P244
【文献】Polymer,日本,108(2017),215-222
【文献】有機合成化学,日本,第26巻第4号(1968),327-339
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/
C08G 79/
C07C 43/
C07C 41/
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アリルカルダノール(A)が有する炭素-炭素不飽和二重結合と、チオール化合物(B)が有するチオール基と、のモル比を0.25:1.0~1.0:0.25とした、前記アリルカルダノール(A)と、前記チオール化合物(B)との重合体であり、
分子内にジスルフィド結合を有し、532nmのレーザー光を照射したときのラマンシフト1450cm-1におけるピーク強度〔I(1450)〕に対するラマンシフト530cm-1におけるピーク強度〔I(530)〕の比〔I(530)/I(1450)〕が0.15以上であり、
前記アリルカルダノール(A)は、芳香環に酸素原子を介して結合するアリル基、及び、カルダノールに由来する炭素-炭素不飽和二重結合を有する、重合体。
【請求項2】
チオール化合物(B)が、二官能チオール化合物、三官能チオール化合物、及び四官能チオール化合物からなる群から選択される少なくとも1つである請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
アリルカルダノール(A)と、チオール化合物(B)と、紫外線領域から可視光領域の光線の照射によりラジカルを生成する光開始剤(C)とを準備する工程1と、
前記アリルカルダノール(A)と、前記チオール化合物(B)と、前記光開始剤(C)とを、前記アリルカルダノール(A)が有する炭素-炭素不飽和二重結合と、前記チオール化合物(B)が有するチオール基とをモル比で0.25:1.0~1.0:0.25となる割合で混合して、有機溶媒を含まない分散液である重合体を形成する組成物を調製する工程2と、
前記工程2で得られた重合体を形成する組成物を支持体上に塗布して、波長300nm~450nmの紫外線又は可視光を照射して重合体を形成する工程3と、
前記工程3で得られた重合体に対して、50℃以上250℃以下で加熱処理を行う工程4と、を有し、
分子内にジスルフィド結合を有し、532nmのレーザー光を照射したときのラマンシフト1450cm-1におけるピーク強度〔I(1450)〕に対するラマンシフト530cm-1におけるピーク強度〔I(530)〕の比〔I(530)/I(1450)〕が0.15以上である重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球温暖化対策として化石燃料の使用量の削減や再生可能エネルギーの導入などが求められている。バイオベースポリマーはカーボンニュートラルという特性を持ち、石油を出発原料とするプラスチックに代替することで石油資源の消費削減、温室効果ガスの排出削減といった効果が期待されている
ここで、バイオベースポリマーの一つとして、カシューナッツの外殻から抽出される非可食なフェノール性の植物油(以下、「CNSL」ともいう。)が、主に塗料、接着剤や樹脂の原料として工業的に利用されている。CNSLの工業的利用例として、フェノール樹脂をはじめ、エポキシ硬化剤、反応希釈剤、木工用塗料、ブレーキライニング用添加剤(フェノール樹脂パーティクル)があげられる。また、タイヤなどのエラストマーへの石油系フェノール樹脂の安価な代替添加剤としても検討されている。
例えば、非特許文献1では、ホルマリンや揮発性有機化合物(VOC)を用いない塗料の研究として、CNSLに含まれるカルダノールに対して、カルダノールの酸化カップリングにより硬化性プレポリマーを合成し、これにナフテン酸コバルトを加え、側鎖の二重結合を架橋させる方法により硬化物を得ることが開示されている。
また、同様に、ホルマリンやVOCを用いない塗料の研究として、非特許文献2及び非特許文献3では、エポキシ化カルダノールを熱重合することによりプレポリマーを合成し、アミンを加えて架橋させる方法により硬化物を得ることが開示されている。
また、非特許文献4では、CNSLを用いたUV硬化材料について、エポキシ化カルダノールを熱重合することによりプレポリマーを合成し、光カチオン重合開始剤を加え、UV照射する方法により得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】S.Kobayashi,et al, Chem. Eur. J. 22, 4754-4760 (2002)
【文献】S.Kanehashi,et al, J. Appl. Polym. Sci., 130, 2468-2478 (2013)
【文献】S.Kanehashi,et al, J. Appl. Polym. Sci., 132, 42725 (2015)
【文献】S.Kanehashi,et al, J. Fiber Sci. Technol., 73, 210-221 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、非特許文献1~4に記載のCNSL由来の重合体は、架橋後に残存するカルダノールの側鎖の二重結合部分が、時間経過と共に酸化するため、重合体の物性値である色度、硬度、ガラス転移温度、光吸収特性、動的粘弾性等が経時変化してしまうことがあり、さらなる特性の改善が要求されている。
【0005】
そこで、本開示の一態様の目的は、動的粘弾性の経時変化が抑制された重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
【0007】
<1>
アリルカルダノール(A)と、チオール化合物(B)との重合体であり、ジスルフィド結合を有し、532nmのレーザー光を照射したときのラマンシフト1450cm-1におけるピーク強度〔I(1450)〕に対するラマンシフト530cm-1におけるピーク強度〔I(530)〕の比〔I(530)/I(1450)〕が0.10以上である重合体。
<2>
前記アリルカルダノール(A)が有する炭素-炭素不飽和二重結合と、前記チオール化合物(B)が有するチオール基とをモル比率で0.1:1.0~1.0:0.1として、前記アリルカルダノール(A)と前記チオール化合物(B)とを重合した<1>に記載の重合体。
<3>
チオール化合物(B)が、二官能チオール化合物、三官能チオール化合物、及び四官能チオール化合物からなる群から選択される少なくとも1つである<1>又は<2>に記載の重合体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一実施形態によれば、動的粘弾性の経時変化が抑制された重合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の重合体を形成する組成物の加熱処理前の重合体の構造を示す図である。
図2】本開示の重合体を形成する組成物の加熱処理後の重合体(すなわち、本開示の一実施形態の重合体)の構造を示す図である。
図3】実施例及び比較例で得られた重合体のDMA曲線(弾性率)を示す図である。
図4】実施例及び比較例で得られた重合体のDMA曲線(損失正弦)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0011】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0012】
<重合体>
本開示の重合体は、アリルカルダノール(A)と、チオール化合物(B)との重合体である。また、重合体は、ジスルフィド結合を有し、532nmのレーザー光を照射したときのラマンシフト1450cm-1におけるピーク強度〔I(1450)〕に対するラマンシフト530cm-1におけるピーク強度〔I(530)〕の比〔I(530)/I(1450)〕が0.10以上である。
また、本開示の重合体を構成する組成物は、更に、その他の添加剤(D)を含んでいてもよい。
【0013】
上記構成とすることで、重合体の動的粘弾性の経時変化が抑制される。その理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0014】
アリルカルダノール(A)と、チオール化合物(B)との重合体において、アリルカルダノール(A)に由来する未反応の炭素-炭素不飽和二重結合、及びチオール化合物(B)に由来する未反応のチオール基が一定量以上存在すると、時間経過と共に酸化反応が生じやすく、材料物性(特に、動的粘弾性)に経時変化を与えやすいと考えられる。
ここで、重合体に対して532nmのレーザー光を照射したときのピーク強度について、ラマンシフト1450cm-1におけるピーク強度〔I(1450)〕は芳香環のC=C結合に由来する強度であり、ラマンシフト530cm-1におけるピーク強度〔I(530)〕はジスルフィド結合に由来する強度を示す。
本開示の重合体は、532nmのレーザー光を照射したときの〔I(1450)〕に対する〔I(530)〕の比〔I(530)/I(1450)〕が0.10以上と高い値であるため、重合体中にジスルフィド結合が、高い割合で形成されていると考えられ、そのため、本開示の重合体では、未反応のチオール基の含有割合が十分に低減されているものと推測される。よって、前記重合体において、ピーク強度の比〔I(530)/I(1450)〕が0.10以上であると、動的粘弾性の経時変化が抑制され得る。また同時に、ピーク強度の比〔I(530)/I(1450)〕が0.10以上未満である重合体に比べ、ジスルフィド結合の数が増加しているため、重合体の強度が向上し得るものと考えらえる。
【0015】
本開示の重合体は、532nmのレーザー光を照射したとき、ラマンシフト1450cm-1におけるピーク強度〔I(1450)〕に対するラマンシフト530cm-1におけるピーク強度〔I(530)〕の比〔I(530)/I(1450)〕が0.10以上
である。ピーク強度の比〔I(530)/I(1450)〕は、動的粘弾性の経時変化を抑制する観点から、0.15以上であることが好ましく、0.20以上であることがより好ましい。ピーク強度の比〔I(530)/I(1450)〕の上限値は特に限定されるものではないが、例えば2.0以下である。
【0016】
本開示の重合体は、アリルカルダノール(A)と、チオール化合物(B)と、光開始剤(C)とを含む組成物を用いて形成される。
以下、組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0017】
[アリルカルダノール(A);成分(A)]
本開示のアリルカルダノール(A)とは、カルダノール化合物のフェノール性水酸基又はカルボン酸をアリル化したものであり、カルダノール化合物にアリル基を有するものである。また、カルダノール化合物における芳香環をアリル化したものであってもよい。
なお、アリル化の方法は特に制限されるものでなく、公知の方法を適用すればよい。
【0018】
-カルダノール化合物-
カルダノール化合物とは、カシューナッツの殻に含まれる成分であり、例えば、下記の構造式(A-1)~(A-4)で表される化合物(以下、「化合物(A-1)~(A-4)」ともいう。)、又は前記成分からの誘導体を含む。
なお、化合物(A-1)~(A-4)それぞれに記載のRCDNは、下記の構造式で示される飽和炭化水素、又は不飽和炭化水素が、所定の割合で含まれたものである。
【0019】
【化1】
【0020】
本開示に係るアリルカルダノール(A)に用いられるカルダノール化合物として、CNSLを原料とする天然由来の化合物の混合物を含んでもよいし、CNSLから精製した1種の化合物、又は2種以上の化合物を使用してもよい。
CNSLからの誘導体としては、例えば以下の混合物や単体等が挙げられる。
【0021】
CNSL中の各成分の組成比を調整した混合物、CNSL中の成分を変性した変性体を含む混合物、CNSL中の成分を重合した重合体を含む混合物、CNSL中の成分を変性し且つ重合した変性重合体を含む混合物、又はCNSL中から特定の成分のみを単離した単体等が挙げられる。
また、前記組成比を調整した混合物中の成分をさらに変性した変性体を含む混合物、前記組成比を調整した混合物中の成分をさらに重合した重合体を含む混合物、前記組成比を調整した混合物中の成分をさらに変性し且つ重合した変性重合体を含む混合物、前記単離した単体をさらに変性した変性体、前記単離した単体をさらに重合した重合体、又は前記単離した単体をさらに変性し且つ重合した変性重合体等が挙げられる。
ここで単体には、2量体及び3量体等の多量体も含まれるものとする。
【0022】
本開示のアリルカルダノール(A)に用いられるカルダノール化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本開示のアリルカルダノール(A)に用いられるカルダノール化合物として、好ましくは化合物(A-1)~(A-4)であり、特に好ましくは化合物(A-1)(すなわち、「カルダノール」)である。本実施形態で使用するカルダノールとしては、カシューナッツ殻から抽出されたカルダノール(すなわち、化合物(A-1))を使用してもよい。
【0023】
本開示の重合体中のアリルカルダノール(A)(「成分(A)」ともいう。)に由来する構成単位の割合は、重合体の全構成単位に対して質量比で、例えば、10質量%~50質量%であることが好ましく、15質量%~45質量%であることがより好ましく、20質量%~40質量%であることが更に好ましい。
【0024】
本開示の重合体を形成する組成物中において、成分(A)の含有量は、組成物全体に対して、例えば、10質量%~50質量%であることが好ましく、15質量%~45質量%であることがより好ましく、20質量%~40質量%であることが更に好ましい。
【0025】
[チオール化合物(B);成分(B)]
本開示のチオール化合物(B)とは、チオール基を含む化合物である。チオール化合物(B)は、分子内にチオール基を2個以上含むチオール化合物(以下、適宜「多官能チオール化合物」と称する。)であることが好ましい。
本開示のチオール化合物(B)は、動的粘弾性の経時変化が抑制される重合体を得る観点から、好ましくは多官能チオール化合物であり、より好ましくは二官能チオール化合物、三官能チオール化合物、及び四官能チオール化合物からなる群から選択される少なくとも1つである。
【0026】
-多官能チオール化合物-
多官能チオール化合物としては、1,8-オクタンジチオール、1,4-ビス(メルカプトアセトキシ)ブタン、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン等の2官能チオール化合物、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3-メルカプトブチリルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールエタントリス(3-メルカプトブチレート)等の3官能チオール化合物、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)等の4官能チオール化合物、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)等の6官能チオール化合物などが挙げられる。
【0027】
本開示のチオール化合物(B)としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
本開示の重合体中のチオール化合物(B)(「成分(B)」ともいう。)に由来する構成単位の割合は、重合体の全構成単位に対して質量比で、例えば、10質量%~70質量%であることが好ましく、20質量%~65質量%であることがより好ましく、30質量%~60質量%であることが更に好ましい。
【0029】
本開示の重合体を形成する組成物中において、成分(B)の含有量は、組成物全体に対して、例えば、10質量%~70質量%であることが好ましく、20質量%~65質量%であることがより好ましく、30質量%~60質量%であることが更に好ましい。
【0030】
[光開始剤(C);成分(C)]
本開示の重合体を形成する組成物は、光開始剤(C)を含む。
本開示の光開始剤(C)としては、光により重合性化合物の重合を開始する能力を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、また、紫外線領域から可視の光線に対して感光性を有するものが好ましい。
本発明の重合体を形成する組成物は、光開始剤(C)から発生したラジカルによって、アリルカルダノール(A)とチオール化合物(B)とのチオールエン反応が進行することで硬化する。
【0031】
光開始剤(C)としては、特に限定されるものではなく、当業者間で公知のものを制限なく用いることができる。
【0032】
光開始剤(C)としては、ベンゾイン誘導体化合物、ベンジルケタール化合物、α-ヒドロキシアセトフェノン化合物、チオキサントン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物等が挙げられる。
具体的には、光開始剤(C)としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン〔商品名:イルガキュア184、BASFジャパン(株)〕、2-ヒドロキシ-2-メチル-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノールオリゴマー〔商品名:エサキュアONE、ランバルティ(株)〕、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン〔商品名:イルガキュア2959、BASFジャパン(株)〕、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン〔商品名:イルガキュア127、BASFジャパン(株)〕、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン〔商品名:イルガキュア651、BASFジャパン(株)〕、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン〔商品名:ダロキュア1173、BASFジャパン(株)〕、2-メチル-1-[(4-メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン〔商品名:イルガキュア907、BASFジャパン(株)〕、フェニルグリオキシル酸メチル、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)ブタノン-1、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0033】
これらの中でも、光開始剤(C)としては、重合体の強度向上、及び重合体の黄変抑制の観点から、α-ヒドロキシアセトフェノン化合物が好ましく、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン
、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンがより好ましい。
【0034】
本開示の重合体を形成する組成物は、光開始剤(C)を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0035】
本開示の重合体を形成する組成物において、光開始剤(C)(「成分(C)」ともいう。)の含有量は、組成物中に含まれる成分(A)及び成分(B)との合計の含有量に対して、0.1質量%~20質量%であることが好ましく、0.5質量%~10質量%であることがより好ましく、1質量%~7質量%が更に好ましい。
成分(C)の含有量が、組成物中に含まれる成分(A)と成分(B)との合計の含有量に対して、0.1質量%以上であると、光照射をした際に組成物の光硬化が十分に進むため、硬化不良が生じ難い。
成分(C)の含有量が、組成物中に含まれる成分(A)と成分(B)との合計の含有量に対して、20質量%以下であると、成分(C)が過度に光を吸収しないため、硬化不良が生じ難い。また、成分(C)が経時により析出し難く、重合体の保存特性がより良好となる。
【0036】
[その他の成分:成分(D)]
本開示の重合体を形成する組成物は、本開示の一実施形態が奏する効果を損なわない範囲において、必要に応じて、アリルカルダノール(A)、チオール化合物(B)、及び光開始剤(C)以外のその他の成分(D)を更に含んでいてもよい。
他の成分(D)としては、重合禁止剤、可塑剤、増感剤、難燃剤、相溶化剤、離型剤、耐光剤、耐候剤、着色剤、顔料、改質剤、ドリップ防止剤、帯電防止剤、加水分解防止剤、充填剤、補強剤(ガラス繊維、炭素繊維、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ミルドガラス、ガラスビーズ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ボロンナイトライド等)、受酸剤(酸化マグネシウム、酸化アルミニウム等の酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の金属水酸化物;炭酸カルシウム;タルク;など)、反応性トラップ剤(例えば、エポキシ化合物、酸無水物化合物、カルボジイミド等)、酸化防止剤、レべリング剤、消泡剤、顔料等の各種添加剤が挙げられる。
【0037】
その他の成分(D)(「成分(D)」ともいう。)の含有量は、重合体の全質量に対して、25質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましく、特に好ましくは0質量%である。ここで、「0質量%」とはその他の成分を含まないことを意味する
ただし、成分(D)が、補強剤、改質剤、又は充填剤である場合に限り、重合体の全質量に対して成分(D)は、15質量%以上含むことが好ましく、25質量%以上含むことがより好ましく、50質量%以上含むことが更に好ましい。また、上限値としては特に限定されるものではないが、150質量%以下であることが例示される。
【0038】
本開示の重合体は、成分(A)及び成分(B)以外に由来する構成単位を含んでいてもよい。成分(A)及び成分(B)以外に由来する構成単位として、例えば成分(A)以外のエチレン性不飽和結合を有する化合物、に由来する構成単位が挙げられる。
【0039】
成分(A)以外のエチレン性不飽和結合を有する化合物としては、例えば、アクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレートが挙げられる。このような多官能アクリレートとしては、例えば、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリテトラエチレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、アルコキシ化グリセリントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アルコキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、アルコキシ化ペンタエリスリトールトリアクリレート、グリセリンプロポキシトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、アルコキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、及びジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが挙げられる。
また、成分(A)以外のエチレン性不飽和結合を有する化合物として、亜麻仁油、桐油、ベニバナ油、ケシ油、シソ油、エゴマ油、ヒマワリ油、サフラワー油等の乾性油が挙げられる。
【0040】
-成分(A)と成分(B)の含有量又は含有量比-
本開示の重合体を形成する組成物において、動的粘弾性の経時変化が抑制される重合体を得る観点から、成分(A)の炭素-炭素不飽和二重結合と、成分(B)が有するチオール基とがモル比で、0.1:1.0~1.0:0.1であることが好ましく、0.25:1~1:0.25であることがより好ましい。
【0041】
<重合体の製造方法>
本開示の重合体の製造方法は、具体的には以下の工程を含むことが好ましい。
1)アリルカルダノール(A)と、チオール化合物(B)と、光開始剤(C)とを準備する工程(以下、「工程1」ともいう。)。
2)アリルカルダノール(A)と、チオール化合物(B)と、光開始剤(C)とが混合された分散液(「本開示の重合体を形成する組成物」の一例である。)を調製する工程(以下、「工程2」ともいう。)。
3)工程2で得られた分散液を支持体上に塗布して、紫外線又は可視光を照射する工程(以下、「工程3」ともいう。)。
4)工程3で得られた重合体に対して、加熱処理を行う工程(以下、「工程4」ともいう。)
【0042】
工程1において、アリルカルダノール(A)は、カシューナッツの外殻から抽出される非可食なフェノール性の植物油(「CNSL」ともいう。)をアリル化したものでもよいし、カシューナッツの外殻から単離したカルダノールをアリル化したものでもよいし、市販品を使用してもよい。
【0043】
工程2では、アリルカルダノールが有機溶媒の代替となるため、有機溶媒を使用することなく(すなわち、無溶剤で)、分散液を調製することができる。均一な分散液を得る観点から、分散液は超音波処理されることが好ましい。超音波処理とは、分散液に超音波を印加することであり、この超音波処理を行うことにより、無溶剤でも、室温にて均一な分散液を作製することが可能となる。均一な分散液を得るために、分散液は超音波により少なくとも1分間以上処理されることが好ましい。
【0044】
工程3では、波長300nm~450nmの紫外線又は可視光を2秒以上10分以下照射することにより、アリルカルダノール(A)とチオール化合物(B)と光開始剤(C)とを含む組成物において、チオールエン反応が進行し、アリルカルダノール(A)に由来する構成単位と、チオール化合物(B)に由来する構成単位とを含む重合体が得られる。紫外線又は可視光を照射した後の重合体の構造は、図1で示されるものが想定される。図1に示すように、紫外線又は可視光を照射した後の重合体は、アリルカルダノール(A)に由来する構成単位とチオール化合物(B)に由来する構成単位とが重合している箇所がみられる一方、未反応の残存するチオール基(SH基)が多くみられる。
【0045】
工程4の加熱処理を行うことで、例えば図2に示すように、工程3において未反応の残存していたチオール基同士が結合し、重合体中にジスルフィド結合が新たに形成される。
得られる重合体について、532nmのレーザー光を照射したときのラマンシフト1450cm-1におけるピーク強度〔I(1450)〕に対するラマンシフト530cm-1におけるピーク強度〔I(530)〕の比〔I(530)/I(1450)〕を0.10以上にする観点から、加熱処理の条件として、加熱温度は50℃以上250℃以下であることが好ましく、100℃以上200℃以下であることがより好ましく、加熱時間は1分以上24時間以下であることが好ましい。
【0046】
<用途>
本開示の重合体は、動的粘弾性の経時変化が抑制さる重合体であること、また、本開示の重合体は、室温で有機溶媒を使用することなく作製可能で、短時間で光硬化する環境調和型材料として、以下の分野に適用されることが好適である。
本開示の重合体の用途として、塗料、接着剤、粘着剤、電子光学材料(例えば、低誘電率材料)、包装材料(例えば、ガスバリア材料)、農業用生分解性マルチフィルム、ポッティング材、耐熱材料、耐薬品材料、抗菌材料等を例示することができる。
【実施例
【0047】
以下、本発明を、実施例等を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
実施例及び比較例における物性値等は、以下の方法により測定した。
【0048】
〔動的粘弾性測定(貯蔵弾性率・損失正弦)〕
各例で得られた重合体について、動的粘弾性試験機(METTLER TOLEDO DMA 1、メトラー・トレド株式会社製)を使用して、引張方向の弾性率(MPa)を測定した。また、昇温速度5℃/minで10Hzの周波数での貯蔵弾性率および、損失弾性率を測定し、その比を損失正接(tanδ)として測定し、ピーク値を示す温度(℃)を求めた
また、貯蔵弾性率、及び損失正弦の経時変化は、重合体を作製してから、1カ月後、又は3カ月後に同様の測定を行い、得られたDMA曲線により経時変化を観察した。その結果を図3及び図4に示す。
【0049】
〔ラマンスペクトル測定〕
各例で得られた重合体について、以下の方法で、ラマンシフト1450cm-1におけるピーク強度〔I(1450)〕に対するラマンシフト530cm-1におけるピーク強度〔I(530)〕の比〔I(530)/I(1450)〕の測定を行った。
比〔I(530)/I(1450)〕は、下記の条件でラマンスペクトル測定を行った。ラマン分光測定は、レーザーラマン分光光度計(型番:Nicolet Almega XR、Thermo Scientific社)を用い、各例で得られた重合体が平らになるようにセットした試料板にレーザー光を照射して行った。測定条件は以下の通りである。
レーザー光の波長:532nm
波数分解能:2.56cm-1
測定範囲:500cm-1~3500cm-1
ピークリサーチ:バックグラウンド除去
測定条件:25℃、55%RH下
【0050】
〔ガラス転移点〕
各例で得られた重合体のガラス転移点は、下記の方法で測定した。
メトラー・トレド株式会社製動的粘弾性装置「METTLER TOLEDO DMA 1」を用い、試料を窒素雰囲気で-35~100℃の温度範囲を5℃/分で昇温した。周波数は10Hzとした。損失弾性率(E’’)が極大値を示す温度を、ガラス転移点(Tg)とした。
【0051】
〔光吸収特性〕
各例で得られた重合体の光吸収特性は、下記の方法で測定した。
分光光度計(日本分光株式会社製「紫外・可視分光光度計(V-550)」)を用い、波長200nmから800nmの範囲での、得られたフィルムの分光スペクトルを得て、各波長範囲での平均透過率を得た。
なお、測定は、大気の雰囲気下で、25℃にて行い、測定光の入射角は0度設定とした。各波長における透過率は2nm間隔で測定し、波長300nmの範囲で透過率の平均値をとり、波長300nmの透過率とした。
【0052】
〔屈折率〕
各例で得られた重合体の屈折率は、下記の方法で測定した。
支持体上に形成された重合体の屈折率を測定した。屈折率は、Prism Coupler Model: 2010(Metricon社製)を使用して測定した。測定波長は532、633、及び780nmを用いて、各波長における屈折率を算出した。
なお、表1に記載の値は、測定波長532nmで測定された屈折率である。
【0053】
<実施例1>
以下に示す合成経路に従って、本開示の重合体に含まれるアリルカルダノールを得た。以下の合成経路は、カルダノール(「化合物(1-1)」ともいう。)を出発原料として、アリルカルダノール(「化合物(1-2)」ともいう。)を得る合成経路を示している。
【0054】
【化2】
【0055】
-化合物(1-2)の合成-
マグネチックスターラーを備えた500mLナスフラスコに化合物(1-1)48.12g(0.16mol)、蒸留したDMF144mL、KOH18.01g(0.32mol)、撹拌子を加え、氷浴下で撹拌しながらallylbromide42.0mL(0.50mol)をゆっくり滴下し、室温で24時間撹拌した。撹拌後、蒸留水を加え、さらに30分撹拌し、酢酸エチルで抽出した。抽出した有機層を水で洗い、硫酸マグネシウムで乾燥、エバポレーションを行い、カラム(展開溶媒はヘキサン:酢酸エチル=19:1)により分離後再度エバポレーション、真空乾燥を行った。精製終了後、透明な液体が41.3g(収率93.6%)得られた。化合物(1-2)は、これ以上精製せず、そのまま重合体の合成に用いた。
【0056】
-モノマー溶液の調製-
得られた化合物(1-2)と、チオール化合物と、光開始剤とを準備した。化合物(1-2)中の側鎖のC=C二重結合の数と、チオール化合物中のSH基の数との比率が1:1(すなわち、C=C:S-H=1:1)となるように、化合物(1-2)及びチオール化合物とを加え、更に光開始剤を、化合物(1-2)及びチオール化合物との合計の質量に対して6質量%となるように加えて、混合液を調製した。この混合液に対して、超音波を印加し、均一溶液であるモノマー溶液を得た。
ここで、使用したチオール化合物は、下記式に示すトリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)(「化合物(1-3)」ともいう。)であり、また、使用した光開始剤は下記式に示す2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(「化合物(1-4)」ともいう。)であった。
【0057】
【化3】
【0058】
-重合体の作製-
得られたモノマー溶液は、ガラス板(「支持体」の一例。)の上に滴下され、アプリケーターを用いてコートされ、主波長365nmの紫外線が1分間照射され、硬化物が得られた。得られた硬化物の厚さは、75μm~1000μmであった。この硬化物に対し、更に、130℃、1時間の大気雰囲気にて加熱処理を行うことにより、重合体を得た。得られた重合体について、各種物性の測定を行った。
【0059】
<比較例1>
重合体の作製において、加熱処理を行わなかった以外は実施例1と同様に作製し、得られた重合体について、各種物性の測定を行った。
【0060】
図3から分かるように、貯蔵弾性率について、DMA曲線の経時変化をみると、実施例で得られた重合体は、時間経過による弾性率の変化はほとんど見られなかった(図3の(E1)を参照。)。一方、比較例で得られた重合体は、1カ月を経過した時点で時間経過による弾性率の変化が、実施例と比べて顕著であった(図3の(C1)を参照)。
【0061】
また、図4から分かるように、損失正弦について、DMA曲線の経時変化をみると、実施例で得られた重合体は、時間経過による弾性率の変化はほとんど見られなかった(図4の(E1)を参照。)。一方、比較例で得られた重合体は、1カ月を経過した時点で時間経過による弾性率の変化が、実施例と比べて顕著であった(図4の(C1)を参照)。
【0062】
したがって、実施例で得られた重合体は、比較例に比べ、動的粘弾性の経時変化が抑制されていることがわかる。
【0063】
次に、実施例及び比較例の各例で得られた各種物性について、表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1の結果より、実施例で得られた重合体は、比較例に比べ、ガラス転移点が高く、硬度に優れていることが伺える。
図1
図2
図3
図4