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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】新規無蛍光性ローダミン類
(51)【国際特許分類】
   C09B 11/28 20060101AFI20231227BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20231227BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20231227BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20231227BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C09B11/28 E CSP
G01N21/64 F
G01N21/78 C
G01N33/48 P
G01N33/68
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020503670
(86)(22)【出願日】2019-03-04
(86)【国際出願番号】 JP2019008396
(87)【国際公開番号】W WO2019168198
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018038018
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度国立研究開発法人科学技術振興機構 委託研究開発事業「新規近赤外蛍光団の開発と実用的蛍光プローブの創製」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】花岡 健二郎
(72)【発明者】
【氏名】浦野 泰照
(72)【発明者】
【氏名】池野 喬之
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-267968(JP,A)
【文献】特表2004-518766(JP,A)
【文献】国際公開第2010/149190(WO,A1)
【文献】特表2007-513096(JP,A)
【文献】特表2005-534931(JP,A)
【文献】Novel Reversible Mechanochromic Elastomer with High Sensitivity: Bond Scission and Bending-Induced M,WANG, Taisheng et al.,ACS Applied Materials & Interfaces,2017年,Vol.9, No.13,p.11874-11881,ISSN 1944-8244, 特にScheme 1
【文献】BUTKEVICH, Alexey N.,Fluorescent Rhodamines and Fluorogenic Carbopyronines for Super-Resolution STED Microscopy in Living,Angewandte Chemie, International Edition,2016年,Vol.55, No.10,p.3290-3294,ISSN 1433-7851, 特にScheme 1.
【文献】OU, Jun et al.,pH-sensitive nanocarriers for Ganoderma applanatum polysaccharide release via host-guest interaction,Journal of Materials Science,2018年,Vol.53, No.11,p.7963-7975,ISSN 0022-2461, Published online: 2018.03.07, 特にScheme 2
【文献】池野喬之 ほか,ねじれ型分子内電荷移動に基づく消光機構を利用した蛍光プローブの開発,日本薬学会年会第138年会(金沢)発表要旨,[オンライン],2018年02月01日,[検索日 2019.05.09], 28PA-am039S,インターネット:<URL:http://nenkai.pharm.or.jp/138/pc/isearch/asp>, 全文
【文献】岩木慎平 ほか,N-Ph rhodamine類の消光機構の解析と蛍光プローブへの応用,JSMI Report,2015年,Vol.9, No.1,p.40-42,ISSN 1882-6490, 特に図1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 1/00-69/10
G01N 1/00-37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩。
(式中、
は、水素原子を示すか、又はベンゼン環上に存在する1ないし3個の同一又は異なる一価の置換基を示し:
及びRは、各々独立に、水素原子又はベンゼン環上に存在する一価の置換基を示し、当該一価の置換基は、炭素数1~6個のアルキル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、カルボキシル基又はエステル基から選択され;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基又はハロゲン原子を示し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基又はハロゲン原子を示し;
ただし、R、R、R、Rのうちいずれか1以上は水素原子以外の置換基であり;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換又は無置換の炭素数1~14個のアルキル基を示し、
及びRは一緒になってR及びRが結合している窒素原子を含む4~7員のヘテロシクリルを形成してもよく;
Xは、酸素原子、Si(R)(R)、C(R)(R)、Ge(R)(R)、P(=O)R、SO又はSeから選択され、
ここで、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であり、Rは、炭素数1~6個のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基であり;
Yは、-NR10 11 あり、
ここで、R10及びR11は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換又は無置換の炭素数1~14個のアルキル基を示し、
10及びR11は一緒になってR10及びR11が結合している窒素原子を含む4~7員のヘテロシクリルを形成してもよく;
(i)Yが-NR1011の場合は、
とRの組、R10とR11の組のいずれか1以上の組において、当該組を構成する2つの基がいずれも水素原子以外の置換基であり、
ここで、
(1)R、R、R10、R11は、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基であって、R及びRのうちいずれか1以上、及び/又は、R及びRのうちいずれか1以上は、水素原子以外の置換基であり、R、R、R10、R11のアルキル基の少なくとも1つが水酸基又はアルコキシ基で置換されているアルキル基であり、
あるいは、
(2)RとR、R10とR11のいずれかの組において、いずれもが同一又は異なる置換又は無置換の炭素数1~14個のアルキル基であり、当該アルキル基の少なくとも1つが水酸基又はアルコキシ基で置換されているアルキル基であり、
ここで、R及びRのいずれもが、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~14個のアルキル基である場合は、R及びRのうちいずれか1以上は水素原子以外の置換基であり、あるいは
10及びR11のいずれもが、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~14個のアルキル基である場合は、R及びRのうちいずれか1以上は水素原子以外の置換基である。)
【請求項2】
請求項1に記載の化合物又はその塩を含むP450活性検出用蛍光プローブ。
【請求項3】
細胞内のP450を検出する方法であって、(a)請求項に記載の蛍光プローブを細胞内に導入する工程、及び(b)当該蛍光プローブが細胞内で発する蛍光を測定する工程、を含む方法。
【請求項4】
以下のいずれかの式で表される化合物又はその塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の無蛍光性ローダミン類に関わり、より詳しくはTICT機構に基づく新規無蛍光性ローダミン類に関わる。
【背景技術】
【0002】
ローダミン類は、キサンテン環の3、6位に窒素原子が結合した色素の総称であり、高い蛍光量子収率、強い光退色耐性とともに水溶性を併せ持つ色素として蛍光イメージングにおいて汎用されてきた(図1)。
一方で、ローダミン類の一部には何らかの消光メカニズムによって無蛍光性を示すものが存在する。このような「無蛍光性ローダミン類」は、FRETのアクセプターとしてドナー分子の蛍光を消光させるクエンチャーとして利用されているだけでなく、その無蛍光性のメカニズムを解明し、特定の生命現象をスイッチに無蛍光性を解除する適切な分子設計を行うことで、新たな蛍光制御原理に基づく蛍光プローブの開発が可能となる。
【0003】
代表的な無蛍光性ローダミンであるQSY類は、ローダミンのキサンテン環上のN原子に芳香環が結合した色素である(以下「N-フェニルローダミン類」とも言う)。このN-フェニルローダミン類がなぜ無蛍光性となるのか、という理由についての詳細な解析はこれまで行われてこなかったが、本発明者らの先行研究により、この消光が励起状態におけるTICT(Twisted intramolecular charge transfer)状態の生成によって起こることが示唆された(図2(a)参照)。TICTとは、励起状態において分子内の電荷の偏り(ICT)が起こると同時に分子構造のねじれが生じる現象である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】The Molecular Probes Handbook.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、N-フェニルローダミン類のようなアリール基をキサンテン環上N原子に結合させるというアプローチとは異なる方法で、同様のTICT状態を生成する新たな無蛍光性ローダミン色素を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述したように、N-フェニルローダミン類は励起状態においてキサンテン環-N原子間結合が約90°ねじれるTICT状態を形成することで無蛍光性となることが示唆されている。本発明者らは、このねじれを伴う消光機構に着目し、N原子へのアリール基の導入とは異なるアプローチでの無蛍光性化が可能なのではないかと考えた。
具体的には、強蛍光性を示す一般的なローダミンであるテトラメチルローダミン(TMR)(図2(b))のキサンテン環上ジメチルアミノ基のオルト位に立体障害を引き起こすような置換基を導入し、基底状態である程度のねじれを与えることで、励起状態でのTICT状態の形成が促進され、無蛍光性を示すのではないかと考え、計算化学的手法を用いた検討を行ったところ、分子設計した種々の化合物がTICT状態に起因する無蛍光性を示す可能性が示唆された。この知見を基に、本発明者らは、キサンテン環上のアミノ基の置換基、及び当該置換基と立体障害を引き起こすことができるオルト位における置換基等について種々検討した結果、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は、
[1]以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩。

(式中、
は、水素原子を示すか、又はベンゼン環上に存在する1ないし3個の同一又は異なる一価の置換基を示し:
及びRは、各々独立に、水素原子又はベンゼン環上に存在する一価の置換基を示し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基又はハロゲン原子を示し;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、カルボキシル基、エステル基、アミド基又はハロゲン原子を示し;
ただし、R、R、R、Rのうちいずれか1以上は水素原子以外の置換基であり;
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換又は無置換の炭素数1~14個のアルキル基を示し、
及びRは一緒になってR及びRが結合している窒素原子を含む4~7員のヘテロシクリルを形成してもよく;
Xは、酸素原子、Si(R)(R)、C(R)(R)、Ge(R)(R)、P(=O)R、SO又はSeから選択され、
ここで、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基であり、Rは、炭素数1~6個のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基であり;
Yは、-NR1011又は-OHであり、
ここで、R10及びR11は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換又は無置換の炭素数1~14個のアルキル基を示し、
10及びR11は一緒になってR10及びR11が結合している窒素原子を含む4~7員のヘテロシクリルを形成してもよく;
(i)Yが-NR1011の場合は、
とRの組、R10とR11の組のいずれか1以上の組において、当該組を構成する2つの基がいずれも水素原子以外の置換基であり、
ここで、
(a)RとRの組を構成する2つの基がいずれも水素原子以外の置換基であり、R10とR11の組を構成する少なくとも1つの基が水素原子である場合は、R、Rのいずれか1以上は水素原子以外の置換基であり、
(b)R10とR11の組を構成する2つの基がいずれも水素原子以外の置換基であり、RとRの組を構成する少なくとも1つの基が水素原子である場合は、R、Rのいずれか1以上は水素原子以外の置換基であり、
(c)R、R、R10、R11のいずれも水素原子以外の置換基である場合は、R、R、R、Rのうちいずれか1以上は水素原子以外の置換基であり;
(2)Yが-OHの場合は、
及びRのいずれもが水素原子以外の置換基であり、かつ、R、Rのいずれか1以上は置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子である。)
[2]Yが-NR1011である、[1]に記載の化合物又はその塩。
[3]RとR、R10とR11のいずれかの組において、いずれもが水素原子以外の置換基である、[2]に記載の化合物又はその塩。
[4]RとR、R10とR11の両方の組において、いずれもが水素原子以外の置換基である、[2]に記載の化合物又はその塩。
[5]RとRのうちいずれか1以上は水素原子以外の置換基であり、RとRのうちいずれか1以上は水素原子以外の置換基である、[4]に記載の化合物又はその塩。
[6]R、R、R10、R11は、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基であって、R及びRのうちいずれか1以上、及び/又は、R及びRのうちいずれか1以上は、水素原子以外の置換基であり、R、R、R10、R11のアルキル基の少なくとも1つが水酸基又はアルコキシ基で置換されているアルキル基である、[2]~[5]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩。
[7]RとR、R10とR11のいずれかの組において、いずれもが同一又は異なる置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基であり、当該アルキル基の少なくとも1つが水酸基又はアルコキシ基で置換されているアルキル基である、[3]に記載の化合物又はその塩。
[8][1]~[7]のいずれか1項に記載の化合物又はその塩を含むP450活性検出用蛍光プローブ。
[9]細胞内のP450を検出する方法であって、(a)[8]に記載の蛍光プローブを細胞内に導入する工程、及び(b)当該蛍光プローブが細胞内で発する蛍光を測定する工程、を含む方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、TICT状態を生成する新たな無蛍光性ローダミン色素を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】種々のローダミン色素の化学構造
図2】本発明の研究の概念図
図3】B3LYP/6-31G*で計算したTMR、4-Cl TMR、4,5-diCl TMRのS(a)及びS(b)状態の最適化構造を示す。
図4】テトラメチルローダミン(TMR)、4-Cl TMR及び4,5-diCl TMRの化学構造と光学特性を示す。
図5】4-Cl TMRの各種溶媒中での光学特性を示す。
図6】2-Cl TMR、2-Me TMR及び2-F TMRの化学構造及び光学特性を示す。
図7】2-ClトリMeローダミンの光学特性を示す。
図8】Dabcylの化学構造と吸収スペクトルを示す。
図9】BHQ1、BHQ2及びBHQ3の化学構造と規格化吸収スペクトルを示す。
図10】QSY7、QSY9、QSY21及びQSY35の化学構造とQSY35、QSY7、QSY21の規格化吸収スペクトルを示す。
図11】4-Cl TMSiR及び4,5-diCl TMSiRの化学構造と光学特性を示す。
図12】本発明におけるP450活性蛍光プローブの設計戦略を示す。
図13】11種のP450サブタイプを用いたローダミン誘導体の時間依存性蛍光変化を示す。
図14】11種のP450サブタイプを用いた化合物23~26の時間依存性蛍光変化を示す。
図15】11種のP450サブタイプを用いたローダミン誘導体の時間依存性蛍光変化を示す。
図16】化合物29をCYP3A4と反応させたときの、吸収、蛍光スペクトル変化を示す。
図17】ヒト肝ミクロソームとNADPH生成系を用いた化合物29の時間依存性蛍光変化を示す。
図18】化合物29を用いた分化済みHepaRGの蛍光イメージング。
図19図18の実験において、各群からそれぞれ20個の細胞を選び、それらの蛍光強度の分布を示した箱ひげ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「アルキル基」又はアルキル部分を含む置換基(例えばアルコキシ基など)のアルキル部分は、特に言及しない場合には例えば炭素数1~14個、好ましくは炭素数1~12個、更に好ましくは炭素数1~6個程度の直鎖、分枝鎖、環状、又はそれらの組み合わせからなるアルキル基を意味している。炭素数を指定した場合は、その数の範囲の炭素数を有する「アルキル」を意味する。より具体的には、アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、シクロプロピルメチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などを挙げることができる。
【0011】
本明細書において「ハロゲン原子」という場合には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子のいずれでもよく、好ましくはフッ素原子、塩素原子、又は臭素原子である。
【0012】
1.一般式(I)で表される化合物又はその塩
本発明の1つの実施態様は、以下の一般式(I)で表される化合物又はその塩である。
【0013】
一般式(I)において、Rは、水素原子を示すか、又はベンゼン環上に存在する1ないし3個の同一又は異なる一価の置換基を示す。
【0014】
が示す一価の置換基の種類は特に限定されないが、例えば、炭素数1~14個(好ましくは、1~12個、更に好ましくは、1~6個)のアルキル基、炭素数1~6個のアルケニル基、炭素数1~6個のアルキニル基、炭素数1~14個(好ましくは、1~12個、更に好ましくは、1~6個)個のアルコキシ基、水酸基、カルボキシ基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、アミノ基、アミド基、アルキルアミド基からなる群から選ばれることが好ましい。
これらの一価の置換基は更に任意の置換基を1個又は2個以上有していてもよい。例えば、Rが示すアルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばRが示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基、又はアミノアルキル基などであってもよい。
【0015】
また、例えばRが示すアミノ基には1個又は2個のアルキル基が存在していてもよく、Rが示すアミノ基はモノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基であってもよい。更に、Rが示すアルコキシ基が置換基を有する場合としては、例えば、カルボキシ置換アルコキシ基又はアルコキシカルボニル置換アルコキシ基などが挙げられ、より具体的には4-カルボキシブトキシ基又は4-アセトキシメチルオキシカルボニルブトキシ基などを挙げることができる。
また、例えばRが示すアミド基、アルキルアミド基、スルホニル基、アルコキシカルボニル基には1個又は2個のアルキル基が存在していてもよい。
【0016】
本発明の1つの好ましい側面においては、Rは何れも水素原子である。
【0017】
一般式(I)において、R及びRは、各々独立に、水素原子又はベンゼン環上に存在する一価の置換基を示す。
、Rの一価の置換基としては、好ましくは、炭素数1~6個のアルキル基、炭素数1~6個のアルコキシ基、カルボキシル基又はエステル基から選択される。
また、R、Rがアルキル基を示す場合には、該アルキル基にはハロゲン原子、スルホニル基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよい。
【0018】
一般式(I)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、カルボキシル基(-COOH)、エステル基(COOR)、アミド基(CONR)又はハロゲン原子を示す(Rはアルキル基である)。
又はRのアルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが挙げられ、これらは1個又は2個以上存在していてもよい。R又はRが示す置換アルキル基には、例えば、ハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などが挙げられる。
【0019】
一般式(I)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、カルボキシル基(-COOH)、エステル基(COOR)、アミド基(CONR)又はハロゲン原子を示す(Rはアルキル基である)。R及びRの詳細については、R及びRについて説明したものと同様である。
【0020】
本発明においては、一般式(I)におけるR、R、R、Rのうちいずれか1以上は水素原子以外の置換基であることが重要である。
理論に拘束されることを意図するものではないが、本発明においては、キサンテン環上のアミノ基の置換基と立体障害を引き起こすことができる置換基を当該アミノ基に対してオルト位に導入することにより、基底状態である程度のねじれを与えることで、励起状態でのTICT状態の形成が促進され、式(I)の化合物は無蛍光性を示すものと考えられる。立体障害を引き起こすことができる置換基としては、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、カルボキシル基(-COOH)、エステル基(COOR)、アミド基(CONR)又はハロゲン原子である(Rはアルキル基である)。好ましくは、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、i-プロピル基、三フッ化メチル基、塩素原子、フルオロ基等が挙げられる。
【0021】
一般式(I)において、Xは、酸素原子、Si(R)(R)、C(R)(R)、Ge(R)(R)、P(=O)R、SO又はSeから選択される。
本発明の1つの好ましい側面においては、Xは、酸素原子又はSi(R)(R)である。
【0022】
及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~6個のアルキル基又は置換されていてもよいアリール基である。R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1~3個のアルキル基であることが好ましく、R及びRがともにメチル基であることがより好ましい。
及びRが示すアルキル基にはハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよく、例えばR及びRが示すアルキル基はハロゲン化アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシアルキル基などであってもよい。
及びRがアリール基を示す場合には、アリール基は単環の芳香族基又は縮合芳香族基のいずれであってもよく、アリール環は1個又は2個以上の環構成ヘテロ原子(例えば窒素原子、酸素原子、又は硫黄原子など)を含んでいてもよい。アリール基としてはフェニル基が好ましい。アリール環上には1個又は2個以上の置換基が存在していてもよい。置換基としては、例えばハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが1個又は2個以上存在していてもよい。
【0023】
は、炭素数1~6個のアルキル基又は置換されていてもよいフェニル基である。フェニル基の置換基としては、メチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基などが挙げられる。
合成上の導入のし易さの点から、Rは、好ましくはメチル基又はフェニル基である。また、Rがメチル基である方が水溶性は高いため、より好ましい。
【0024】
及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換又は無置換の炭素数1~14個、好ましくは、1~12個、更に好ましくは、1~6個のアルキル基を示す。
アルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが挙げられる。
また、R及びRは一緒になってR及びRが結合している窒素原子を含む4~7員(好ましくは5員)のヘテロシクリルを形成してもよい。
【0025】
一般式(I)においてYは、-NR1011又は-OHである。
【0026】
Yが-NR1011である場合は、一般式(I)の化合物は以下の式で表すことができる。
【0027】
一般式(I)及び(II)において、R10及びR11は、それぞれ独立に、水素原子、又は、置換又は無置換の炭素数1~14個、好ましくは1~12個、更に好ましくは1~6個のアルキル基を示す。
アルキル基の置換基としては、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホニル基、水酸基、アミノ基、アルコキシ基などが挙げられる。
また、R10及びR11は一緒になってR10及びR11が結合している窒素原子を含む4~7員(好ましくは5員)のヘテロシクリルを形成してもよい。
【0028】
一般式(I)においてYが-NR1011の場合は、RとRの組、R10とR11の組のいずれか1以上の組において、当該組を構成する2つの基がいずれも水素原子以外の置換基である。
ここで、(a)RとRの組を構成する2つの基がいずれも水素原子以外の置換基であり、R10とR11の組を構成する少なくとも1つの基が水素原子である場合は、R、Rのいずれか1以上は水素原子以外の置換基である。
また、(b)R10とR11の組を構成する2つの基がいずれも水素原子以外の置換基であり、RとRの組を構成する少なくとも1つの基が水素原子である場合は、R、Rのいずれか1以上は水素原子以外の置換基である。
また、(c)R、R、R10、R11のいずれも水素原子以外の置換基である場合は、R、R、R、Rのうちいずれか1以上は水素原子以外の置換基である。
【0029】
本発明においては、一般式(I)においてYが-NR1011の場合は、キサンテン環上のアミノ基の置換基であるRとR、R10とR11の少なくとも1つの組が、それらのオルト位の置換基と立体障害を引き起こすように分子設計をすることが重要である。このように分子設計を行うことにより、基底状態である程度のねじれを与えることで、励起状態でのTICT状態の形成が促進され、式(I)の化合物は無蛍光性を示すものと考えられる。
【0030】
本発明の1つの好ましい実施態様は、一般式(I)において、RとR、R10とR11の両方の組において、これらの組を構成するいずれの基も水素原子以外の置換基であり、R、R、R、Rのうちいずれか1以上は水素原子以外の置換基である。
【0031】
また、本発明のもう1つの好ましい実施態様は、一般式(I)において、RとR、R10とR11の両方の組において、これらの組を構成するいずれの基も水素原子以外の置換基であり、RとRのうちいずれか1以上は水素原子以外の置換基であり、RとRのうちいずれか1以上は水素原子以外の置換基である。
この実施態様では、キサンテン環上の両方のアミノ基において、アミノ基の置換基と各アミノ基に対してオルト位にある置換基との間で立体障害が引き起こされ、無蛍光性のレベルが非常に高くなり、優れた消光団として用いることができる。
【0032】
本発明のもう1つの好ましい実施態様は、一般式(I)において、RとR、R10とR11のいずれかの組において、当該組を構成するいずれの基(即ち、R及びR、又は、R10及びR11)も水素原子以外の置換基である。この場合、(a)RとRの組を構成する2つの基がいずれも水素原子以外の置換基である場合は、R、Rのいずれか1以上は水素原子以外の置換基であり、また、R10とR11の組を構成する2つの基がいずれも水素原子以外の置換基である場合は、R、Rのいずれか1以上は水素原子以外の置換基である。
この実施態様では、キサンテン環上の一方のアミノ基において、アミノ基の置換基と当該アミノ基に対してオルト位にある置換基との間で立体障害が引き起こされる。
このような実施態様は、高い無蛍光性のレベルを有し、また、例えば、P450を作用させてそのN-脱アルキル活性によってアミノ基上のアルキル基が外れることによって立体障害の緩和が起こり、蛍光性を回復させるような場合は、反応点が1点であることからP450の検出に有効に用いることができる。
【0033】
本発明の1つの好ましい側面においては、一般式(I)において、R、R、R10、R11は、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基であり、R及びRのうちいずれか1以上、及び/又は、R及びRのうちいずれか1以上は、水素原子以外の置換基、即ち、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、ハロゲン原子、カルボキシル基(-COOH)、エステル基(COOR)、アミド基(CONR)又はハロゲン原子であり(Rはアルキル基である)、好ましくは、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、メチル基、エチル基、i-プロピル基、三フッ化メチル基、塩素原子、フッ素原子等である。
ここで、R、R、R10、R11の置換又は無置換のアルキル基としては、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基である。
また、R及びR、及び/又は、R10及びR11は、一緒になってR及びR、又は、R10及びR11が結合している窒素原子を含む4~7員(好ましくは5員)のヘテロシクリルを形成してもよい。
【0034】
本発明のもう1つの好ましい側面においては、一般式(I)においてYが-NR1011であり、R、R、R10、R11は、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基であって、R及びRのうちいずれか1以上、及び/又は、R及びRのうちいずれか1以上は、水素原子以外の置換基であり、R、R、R10、R11のアルキル基の少なくとも1つが水酸基で置換されているアルキル基である。
この場合、水酸基で置換されているアルキル基が結合しているキサンテン環上のアミノ基に対してオルト位にある置換基(即ち、R及び/又はRが水酸基で置換されているアルキル基である場合はR、Rを、R10及び/又はR11が水酸基で置換されているアルキル基である場合はR、Rを意味する)の少なくとも1つは水素原子以外の置換基であることが好ましい。水素原子以外の置換基は、上記と同様に、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、ハロゲン原子、カルボキシル基(-COOH)、エステル基(COOR)、アミド基(CONR)又はハロゲン原子であり(Rはアルキル基である)、好ましくは、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、メチル基、エチル基、i-プロピル基、三フッ化メチル基、塩素原子、フッ素原子等である。
水酸基で置換されているアルキル基としては、例えば、ヒドロキシエチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
また、R、R、R10、R11のうち、水酸基で置換されているアルキル基以外のアルキル基は無置換であっても置換されていてもよい。無置換のアルキル基としては、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基である。
、R、R10、R11のアルキル基の少なくとも1つが水酸基で置換されているアルキル基である場合は、本発明の化合物の構造の他の部分(オルト位の置換基や、キサンテン骨格に結合したベンゼン環の置換基等)の組み合わせによって、無蛍光性ローダミンが、主要なP450分子種の中でもCYP3Aに対して選択性を示す場合があり、好ましい。
【0035】
本発明のもう1つの好ましい側面においては、一般式(I)においてYが-NR1011であり、R、R、R10、R11は、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基であって、R及びRのうちいずれか1以上、及び/又は、R及びRのうちいずれか1以上は、水素原子以外の置換基であり、R、R、R10、R11のアルキル基の少なくとも1つがアルコキシ基で置換されているアルキル基(アルコキシアルキル基)である。
この場合、アルコキシ基で置換されているアルキル基が結合しているキサンテン環上のアミノ基に対してオルト位にある置換基(即ち、R及び/又はRがアルコキシ基で置換されているアルキル基である場合はR、Rを、R10及び/又はR11がアルコキシ基で置換されているアルキル基である場合はR、Rを意味する)の少なくとも1つは水素原子以外の置換基であることが好ましい。水素原子以外の置換基は、上記と同様に、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、ハロゲン原子、カルボキシル基(-COOH)、エステル基(COOR)、アミド基(CONR)又はハロゲン原子であり(Rはアルキル基である)、好ましくは、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、メチル基、エチル基、i-プロピル基、三フッ化メチル基、塩素原子、フッ素原子等である。
また、R、R、R10、R11のうち、アルコキシ基で置換されているアルキル基以外のアルキル基は無置換であっても置換されていてもよい。無置換のアルキル基としては、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基である。
アルコキシ基で置換されているアルキル基の炭素数の合計は2~12、好ましくは2~10である。
アルコキシ基で置換されているアルキル基としては、例えば、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、ブトキシエチル基、ペンタキシエチル基等が挙げられるが、これらに限定されない。
、R、R10、R11のアルキル基の少なくとも1つがアルコキシ基で置換されているアルキル基である場合は、本発明の化合物の構造の他の部分(オルト位の置換基や、キサンテン骨格に結合したベンゼン環の置換基等)の組み合わせによって、無蛍光性ローダミンが、主要なP450分子種の中でもCYP3Aに対して選択性を示す場合があり、好ましい。
【0036】
本発明の別の好ましい側面においては、一般式(I)において、RとR、R10とR11のいずれかの組において、いずれもが同一又は異なる置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基であり、当該アルキル基の少なくとも1つが水酸基又はアルコキシ基で置換されているアルキル基である。
ここで、R及びRのいずれもが、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基である場合は、R及びRのうちいずれか1以上は、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、カルボキシル基(-COOH)、エステル基(COOR)、アミド基(CONR)又はハロゲン原子であり(Rはアルキル基である)、好ましくは、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、メチル基、エチル基、i-プロピル基、三フッ化メチル基、塩素原子、フルオロ基等である。
また、R10及びR11のいずれもが、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基である場合は、R及びRのうちいずれか1以上は、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、カルボキシル基(-COOH)、エステル基(COOR)、アミド基(CONR)又はハロゲン原子である(Rはアルキル基である)。好ましくは、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、i-プロピル基、三フッ化メチル基、塩素原子、フルオロ基等である。
ここで、R、R、R10、R11の置換又は無置換の炭素数1~14個のアルキル基のうち、水酸基又はアルコキシ基で置換されているアルキル基以外のアルキル基は無置換であっても置換されていてもよい。無置換のアルキル基としては、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基である。
【0037】
本発明の別の好ましい側面においては、一般式(I)において、RとR、R10とR11のいずれかの組において、R及びR、又は、R10及びR11のいずれもが、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基である。
ここで、R及びRのいずれもが、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基である場合は、R及びRのうちいずれか1以上は、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、カルボキシル基(-COOH)、エステル基(COOR)、アミド基(CONR)又はハロゲン原子であり(Rはアルキル基である)、好ましくは、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、メチル基、エチル基、i-プロピル基、三フッ化メチル基、塩素原子、フルオロ基等である。
また、R10及びR11のいずれもが、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基である場合は、R及びRのうちいずれか1以上は、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、カルボキシル基(-COOH)、エステル基(COOR)、アミド基(CONR)又はハロゲン原子である(Rはアルキル基である)。好ましくは、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり、より好ましくは、メチル基、エチル基、i-プロピル基、三フッ化メチル基、塩素原子、フルオロ基等である。
ここで、R、R、R10、R11の置換又は無置換のアルキル基としては、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基である。
また、R及びR、及び/又は、R10及びR11は、一緒になってR及びR、又は、R10及びR11が結合している窒素原子を含む4~7員(好ましくは5員)のヘテロシクリルを形成してもよい。
【0038】
一般式(I)においてYが-OHである場合は、一般式(I)の化合物は以下の式で表すことができる。
【0039】
一般式(I)においてYが-OHの場合は、R及びRのいずれもが水素原子以外の置換基であり、かつ、R、Rのいずれか1以上は置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、カルボキシル基(-COOH)、エステル基(COOR)、アミド基(CONR)又はハロゲン原子である(Rはアルキル基である)。好ましくは、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子である。)
【0040】
本発明の1つの好ましい側面においては、上記一般式(III)において、R、Rは、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基であり、R及びRのうちいずれか1以上は、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基、カルボキシル基(-COOH)、エステル基(COOR)、アミド基(CONR)又はハロゲン原子であり(Rはアルキル基である)、好ましくは、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基又はハロゲン原子であり、更に好ましくは、メチル基、エチル基、i-プロピル基、三フッ化メチル基、塩素原子、フルオロ基等である。
ここで、R、Rの置換又は無置換のアルキル基としては、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基である。
【0041】
本発明の一般式(I)~(III)の化合物は、酸付加塩又は塩基付加塩として存在することができる。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの鉱酸塩、又はメタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩などを挙げることができ、塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩、アンモニウム塩、又はトリエチルアミン塩などの有機アミン塩などを挙げることができる。これらのほか、グリシンなどのアミノ酸との塩を形成する場合もある。本発明の一般式(I)~(III)の化合物又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合もあるが、これらの物質も本発明の範囲内である。
【0042】
本発明の一般式(I)~(III)の化合物は、置換基の種類により、1個又は2個以上の不斉炭素を有する場合があるが、1個又は2個以上の不斉炭素に基づく光学活性体や2個以上の不斉炭素に基づくジアステレオ異性体などの立体異性体のほか、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などは、いずれも本発明の範囲に包含される。
【0043】
本発明の一般式(I)~(III)の化合物の代表的化合物の製造方法を本明細書の実施例に具体的に示した。従って、当業者は、これらの説明をもとにして、反応原料、反応条件、反応試薬などを適宜選択して、必要に応じてこれらの方法に修飾や改変を加えることにより、一般式(I)~(III)で表される化合物を製造することができる。
【0044】
本発明の化合物又はその塩の非限定的例を以下に示す。

【0045】
2.シトクロムP450活性検出用蛍光プローブ
本発明のもう1つの実施態様は、一般式(I)~(III)の化合物又はその塩を含むP450活性検出用蛍光プローブである。
シトクロムP450は薬物代謝の第I相反応における酸化還元反応を担う代謝酵素であり、薬物の体内からの消失において重要な役割を担っている。通常、体に入った薬物の多くは、肝臓においてP450を含む代謝酵素によって水溶性の高い化合物となり、体外へと排出される。一方、薬物の中にはP450の特定のサブタイプに対する阻害や、酵素誘導といった作用を有するものも少なくなく、薬物の併用投与時に、治療効果の変化や重篤な副作用の発現といった薬物間相互作用を引き起こす原因となる。従って、医薬品開発の初期段階において医薬品候補化合物のP450阻害、誘導活性を測定することは極めて重要である。
医薬品開発におけるP450阻害、誘導活性の測定には、例えば、テストステロンやミダゾラムのようなP450基質の代謝産物をLC-MS/MSを用いて定量する方法が用いられているが、これらの方法はサンプル調整や測定に手間と時間を要する。一方、P450分子種によって代謝されることで初めて蛍光、生物発光を示すプローブを用いた手法は、マルチウェルプレート上で多数サンプルを同時に測定が可能であり、創薬初期における多数の薬品候補化合物のP450に対する阻害作用、誘導作用をハイスループットな測定を可能にすることから、様々な蛍光、生物発光基質がこれまでに開発されてきた。しかしながら、これらのプローブの大部分は、特定のP450サブタイプに対する特異性を示さず、その使用はリコンビナントP450に対する阻害活性の検出に限られている。従って、特定のサブタイプに特異的に代謝され、蛍光上昇を示すプローブは、ヒト肝ミクロソームや生細胞中でのP450活性の阻害、及び誘導の検出を可能にする有用なツールとなる。
ところで、既存のP450蛍光検出プローブのほとんどは、O-脱アルキル化を蛍光スイッチング部位として用いるものであり、N-脱アルキル化を直接蛍光検出するような蛍光プローブの報告はごくわずかである。これは、O-脱アルキル化に比べN-脱アルキル化を蛍光変化に結びつけることが難しいためと考えられる。
【0046】
本発明の一般式(I)~(III)の化合物は、N原子上のアルキル基とオルト位上の置換基の立体障害により無蛍光性を示すと考えられることから、P450のN-脱アルキル活性によってアミノ基上のアルキル基が外れることによって立体障害の緩和が起こり、蛍光性を回復すると考えられ、これによりP450の活性を検出することが可能である。
また、本発明の一般式(I)~(III)の化合物は、反応前後で高いS/Nが期待できることに加え、ローダミン色素自体が水溶性や波長の長さ、細胞応用といった観点で優れた蛍光母核であるため、この母核を用いたP450活性検出プローブを開発できれば、既存のプローブの性能を上回る蛍光プローブとなることが期待される。
【0047】
本発明のP450活性検出用蛍光プローブは、幅広いP450の検出に適用することが可能である。例えば、CYP3A4、CYP3A5、CYP1A1、CYP2C8等に適用することができる。
【0048】
ここで、CYP3A4は人体に存在するP450種の中で最も主要な薬物代謝酵素であり、現在臨床で使用されている医薬品の約50%の代謝に関わる。従って、CYP3A4に対する薬物の阻害、誘導作用を調べることは薬物間相互作用を知るうえで非常に重要であり、生細胞でCYP3A4の活性を選択的に検出するプローブが開発できれば、CYP3A4の阻害、誘導といった薬物間相互作用を生細胞レベルで検出可能なツールになることが期待される。CYP3Aに対して選択性が高い蛍光プローブはこれまでいくつか報告がなされている。7-ベンジルオキシ-4-トリフルオロメチルクマリン(BFC)や7-ベンジルオキシキノリン(BQ)はCYP3Aによって代謝される蛍光プローブであるが、これらのプローブはCYP1A2によってもある程度代謝を受けることが知られている(Stresser, D. M.; Turner, S. D.; Blanchard, A. P.; Miller, V. P.; Crespi, C. L. Drug Metab. Dispos. 2002, 30(7), 845-852.)。また、特許文献(WO2017/068612)には以下の化合物がCYP3A選択的蛍光プローブとして報告されているが、その利用は今のところ精製P450酵素を用いた検討にとどまっている。
【0049】
本発明のもう1つの実施態様は一般式(I)においてYが-NR1011であり、R、R、R10、R11は、同一又は異なる、置換又は無置換の炭素数1~6個のアルキル基であって、R及びRのうちいずれか1以上、及び/又は、R及びRのうちいずれか1以上は、水素原子以外の置換基であり、R、R、R10、R11のアルキル基の少なくとも1つが水酸基又はアルコキシ基で置換されているアルキル基)である化合物又はその塩を含む、
P450活性検出用蛍光プローブ、好ましくは、CYP3A活性検出用蛍光プローブである。
当該プローブにおいては、水酸基又はアルコキシ基で置換されているアルキル基が結合しているキサンテン環上のアミノ基に対してオルト位にある置換基(即ち、R及び/又はRが水酸基又はアルコキシ基で置換されているアルキル基である場合はR、Rを、R10及び/又はR11が水酸基又はアルコキシ基で置換されているアルキル基である場合はR、Rを意味する)の少なくとも1つは水素原子以外の置換基であることが好ましい。
また、当該プローブにおいては、R、R、R10、R11のうち、アルコキシ基で置換されているアルキル基以外のアルキル基は無置換であっても置換されていてもよい。無置換のアルキル基としては、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基である。
本発明のCYP3A活性検出用蛍光プローブは、CYP3Aを選択的に検出することが可能であり、その有用性は高い。
【0050】
本発明のもう1つの実施態様は、細胞内のP450を検出する方法であって、(a)本発明の蛍光プローブを細胞内に導入する工程、及び(b)当該蛍光プローブが細胞内で発する蛍光を測定すること含む方法である。
【0051】
本発明の蛍光プローブの使用方法は特に限定されず、従来公知の蛍光プローブと同様に用いることが可能である。通常は、生理食塩水や緩衝液などの水性媒体、又はエタノール、アセトン、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの水混合性の有機溶媒と水性媒体との混合物などに一般式(I)で表される化合物又はそれらの塩を溶解し、細胞や組織を含む適切な緩衝液中にこの溶液を添加して、蛍光スペクトルを測定すればよい。本発明の蛍光プローブを適切な添加物と組み合わせて組成物の形態で用いてもよい。例えば、緩衝剤、溶解補助剤、pH調節剤などの添加物と組み合わせることができる。
【0052】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない
【実施例
【0053】
[予備検討]
本発明者らは、強蛍光性を示す一般的なローダミンであるテトラメチルローダミン(TMR)(図2(b))のキサンテン環上ジメチルアミノ基のオルト位に立体障害を引き起こすような置換基を導入し、基底状態である程度のねじれを与えることで、励起状態でのTICT状態の形成が促進され、無蛍光性を示すのではないかと考えた。そこで、本発明者らは、まず計算化学を用いてこの仮説を検証することとした。図3に示すように、一般的に強蛍光性を示すことで知られるTMRに加え、キサンテン環4位、または4,5位にCl基を置換することでジメチルアミノ基との立体障害を生じさせた4-Cl TMR及び4,5-diCl TMRについて計算化学的手法を用いた検討を行った。
分子軌道計算には市販のソフトウェアであるGaussian09を用い、基底関数は6-31G*として計算を行った。それぞれの基底状態での再安定構造を計算した後に時間依存密度半関数法(TD-DFT)によって励起状態での再安定構造の計算を行った。
【0054】
得られた基底状態、及び励起状態における最安定構造とHOMO、LUMOに相当する軌道を図3に示す。ここで、図3のそれぞれの構造式中の原子a,b,cを通る平面及びb,c,dを通る平面がなす二面角をφと表す。ジメチルアミノ基のオルト位に置換基の導入されていないTMRでは、基底状態、励起状態共に最安定構造における二面角φはほぼ0となり、平面構造をとっていることがわかる。
また、HOMO、LUMOに相当する軌道はキサンテン環とジメチルアミノ基の両方に分布しており、励起状態において二つの軌道が十分に重なることでS→S遷移が電子遷移となることが支持された。
また、電子遷移の起こりやすさの指標となる振動子強度fが、f=0.49となったことからも、TMRにおいてS→S遷移が電子遷移となり、蛍光性を示すことが計算化学から支持された。
【0055】
一方で、キサンテン環にCl基が導入された4-Cl TMRおよび4,5-diCl TMRでは、基底状態において二面角が35前後となっておりキサンテン環とジメチルアミノ基の間に立体障害に起因する分子内ねじれが生じていることが示唆された。さらに、励起状態において二面角φは約90となり、キサンテン環とジメチルアミノ基が直交するようなtwist(ねじれ)構造が安定であるという結果になった。また、励起状態においてHOMOに相当する軌道がジメチルアミノ基に、LUMOの軌道がキサンテン環部位に局在化することで二つの軌道の重なり合いが非常に小さくなり、振動子強度fはどちらの化合物も0と計算されたことから、これらの化合物がS→S遷移において蛍光として遷移せず、無輻射失活で基底状態に戻ることによって無蛍光性になることが示唆された。
【0056】
誘導体合成による検討
上記の計算化学による検討から、今回設計した化合物がTICT状態に起因する無蛍光性を示す可能性が示唆されたことから、次に本発明者らは、実際にこれらの化合物を合成し、その光学特性を評価することとした。
【0057】
[合成実施例1]
(1)3,6-ビス(N,N-ジメチルアミノ)キサンテン(化合物1)の合成
【0058】
文献1(Kenmoku, S.; Urano, Y.; Kojima, H.; Nagano, T. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129 (23), 7313-7318)に従って、上記化合物1を合成した。
【0059】
(2)テトラメチルローダミン(TMR)(化合物2)の合成
【0060】
化合物1(29.1mg、0.10mmol)を二径ナスフラスコ中テトラヒドロフラン(THF)に溶解し、アルゴン置換した後、氷冷下でo-トリルマグネシウムクロライド(0.9M THF溶液)(6.0mL、5.4mmol)をゆっくり加え、60℃で70分攪拌した。反応液が酸性になるまで2N塩酸を加え、反応液をCHClで抽出し、有機層を減圧除去した。残渣をHPLC(eluent、A/B=40/60→0/100、25分;A:HO containing 0.1%trifluoroacetic acid(TFA)(v/v)、B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1 %TFA(v/v))で精製し、更にHPLC(eluent、A/B=40/60→0/100、25分;A:HO,B:MeCN/HO=80/20)で精製し、化合物2(17.2mg、収率35%)を得た。
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 2.04 (s, 3H), 3.38 (s, 12H), 6.90 (d, 2H, J = 2.2 Hz), 6.97 (dd, 2H, J = 9.5 Hz, 2.2 Hz), 7.15-7.20 (m, 3H), 7.38-7.45 (m, 2H), 7.50-7,54 (m, 1H).
13C-NMR (75 MHz, CDCL3) δ 19.5, 41.1, 96.8, 113.5, 114.5, 126.1, 128.7, 130.1, 130.7, 131.3, 131.4, 135.7, 157.4, 157.7, 158.3.
HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 357.1967, Found, 357.1938 (-2.9 mmu).
【0061】
(3)4-Cl-3,6-ビス(N,N-ジメチルアミノ)キサントン(化合物3)の合成
【0062】
化合物1(118.1mg、0.42mmol)をMeOH(22mL)に懸濁させ、攪拌しながら氷冷下で0.1N NaOHaq.に溶解させたNaOCl・5HO(72.6mg、0.44mmol)を加え、室温で12時間攪拌した。さらにNaOCl・5HO(52.1mg、0.32mmol)を加え、6時間室温で攪拌した。反応液からMeOHを減圧除去し、HOを加えAcOEtで抽出したのち、有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/CHCl=50/50)で精製し、化合物3(58.2mg、収率30%)を得た。
1H-NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ 2.99 (s, 6H), 3.09 (s, 6H), 6.56 (d, 1H, J = 2.2 Hz), 6.69 (dd, 1H, J = 8.8 Hz, 2.2 Hz), 6.99 (d, 1H, J = 8.8 Hz) 8.10 (d, 1H, J = 8.8 Hz), 8.12 (d, 1H, J = 8.8Hz).
13C-NMR (75 MHz, CDCl3) δ40.2, 43.3, 97.1, 109.7, 111.2, 112.6, 114.3, 117.3, 124.9, 127.7, 153.3, 154.7, 155.1, 158.1, 174.9.
HRMS (ESI+): Calcd for [M+H]+, 317.1057, Found, 317.1072 (+1.5 mmu).
【0063】
(4)4-ClTMR(化合物4)の合成
【0064】
化合物3(17.0mg、0.05mmol)を二径ナスフラスコ中THFに溶解し、アルゴン置換した後、氷冷下でo-トリルマグネシウムクロライド(0.9M THF溶液)(2.8mL、2.52mmol)をゆっくり加え、60℃で2.5時間攪拌した。反応液が酸性になるまで2N塩酸を加え、反応液をCHClで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をHPLC(eluent、A/B=80/20→0/100、20分;A:HO containing 0.1%TFA(v/v),B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物4(24.6mg、収率91%)を得た。
1H-NMR (300 MHz, CD3OD) δ2.06 (s, 3H), 3.35 (s, 6H), 3.46 (s, 6H), 7.14-7.17 (m, 1H), 7.20-7.31, (m, 5H), 7.45-7.61 (m, 3H).
13C-NMR (75 MHz, CDCl3) δ19.7, 41.5, 43.9, 97.9, 108.1, 116.5, 116.6, 117.7, 118.8, 127.3, 129.7, 130.2, 131.5, 132.0, 132.8, 132.9, 137.4, 154.6, 158.3, 159.7, 160.1, 160.3.
HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 391.1577, Found, 391.1607 (+3.0 mmu).
【0065】
(5)4,5-ジCl-3,6-ビス(N,N-ジメチルアミノ)キサントン(化合物5)の合成
【0066】
化合物1(145mg、0.51mmol)をMeOH(5mL)に溶解させ、攪拌しながら氷冷下で0.1N NaOHaq.(2.5mL)に溶解させたNaOCl・5HO(469mg、2.86mmol)を加え、室温で8時間攪拌した。反応液をAcOEtで抽出し、飽和NaHCOaq.で洗浄した後、有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン/CHCl=10/90)で精製し、化合物5(93mg、収率52%)を得た。
1H-NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ3.28 (s, 12H), 7.29 (d, 2H, J = 8.8 Hz), 8.29 (d, 2H, J = 8.8 Hz).
13C-NMR (100 MHz, CD2Cl2) δ43.4, 112.7, 115.4, 116.5, 125.1, 153.8, 156.1, 174.9..
HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 351.0667, Found, 351.0620 (-4.7 mmu).
【0067】
(6)4,5-diClTMR(化合物6)の合成
【0068】
化合物5(18.8mg、0.05mmol)を二径ナスフラスコ中THFに溶解し、アルゴン置換した後、氷冷下でo-トリルマグネシウムクロライド(0.9M THF溶液)(3.0mL、2.7mmol)をゆっくり加え、60℃で1時間攪拌した。反応液が酸性になるまで2N塩酸を加え、反応液をCHClで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CHCl/MeOH=100/0→80/20)で粗精製し、HPLC(eluent、A/B=80/20→0/100、20分;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物6(26.7mg、収率92%)を得た。
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 2.06 (s, 3H), 3.47 (s, 12H), 7.25 (d, 2H, J = 9.5 Hz), 7.29 (m, 1H), 7.33 (d, 2H, J = 9.5Hz), 7.45-7.62 (m, 3H).
13C-NMR (75 MHz, CDCL3) δ 19.7, 44.4, 107.4, 117.4, 120.1, 127.3, 130.2, 130.3, 131.7, 132.0, 132.5, 137.5, 155.5, 159.0, 161.0.
HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 425.1187, Found, 425.1217 (+3.0 mmu).
【0069】
[合成実施例2]
(1)2-(4-(ジメチルアミノ)-2-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸(化合物7)の合成
【0070】
文献2(Sauers, R. R.; Husain, S. N.; Piechowski, A. P.; Bird, G. R. Dye. Pigment. 1987, 8 (1), 35-53.)に従って、化合物7を合成した。
【0071】
(2)2’-クロロ-6’-(ジメチルアミノ)-3-オキソ-3H-スピロ[イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン]-3’-イル トリフルオロメタンスルフォネート(化合物8)の合成
【0072】
化合物7(863mg、3.0mmol)、4-クロロレゾルシノール(442mg、3.1mmol)を85%リン酸(5mL)に溶解させ、170℃で3時間攪拌した。室温まで反応液を冷ました後、60%HClOaq.(8mL)を加え、100℃でさらに20分間攪拌した。反応液に氷水を加えたのち、桐山ろ取した。残渣をMeOHに溶解させた後、無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をDMF(8mL)に溶解させ、さらにN-フェニルビス(トリフルオロメタンスルホンイミド)(1.45g、4.1mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(1.04g、8.1mmol)を加え、アルゴン雰囲気下室温で1時間40分間攪拌した。反応液にsat. NHClaq.を加え、AcOEt+ヘキサンの混合溶媒で抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CHCl)で粗精製し、化合物8の粗精製体(1.12g)を得た。
【0073】
(3)2-ClTMR(化合物9)の合成
【0074】
化合物8の粗精製体(105mg)、ジメチルアミン塩酸塩(164mg、2.01mmol)、CsCO(1967mg、2.13mmol)をシュレンク管中でトルエン(19mL)に溶解させアルゴン置換した後、Pd(dba)(22mg、0.02mmol)とキサントフォス(12mg、0.02mmol)を加え再度アルゴン置換を行い100℃で12時間攪拌した。反応液を室温に戻し、桐山ろ過を行った後、溶媒を減圧除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CHCl/MeOH=95/5→0/100で粗精製し、さらにHPLC(eluent、A/B=80/20→0/100、20分;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物9(11mg)を得た。
1H-NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ3.18(s, 6H), 3.26 (s, 6H), 6.78 (s, 1H), 6.86 (dd, 1H, J = 9.5Hz, 3.0 Hz), 7.03 (s, 1H), 7.15 (d, 1H, J = 9.5 Hz), 7.13 (s, 1H), 7.25-7.28 (m, 1H), 7.75-7.77 (m, 2H), 8.30-8.32 (m, 1H).
13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ 41.3, 43.7, 97.7, 105.2, 116.1, 116.6, 117.0, 124.2, 130.9, 131.8, 132.0, 132.0, 132.2, 132.5, 134.3, 136.0, 156.1, 158.1, 159.4, 159.8, 168.2.
HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 421.1319, Found, 421.1281 (-3.8 mmu).
【0075】
[合成実施例3]
(1)2-MeTMR(化合物10)の合成
【0076】
化合物7(299.2mg、1.05mmol)、3-ジメチルアミノ-4-メチルフェノール(152.9mg、1.01mmol)を85%リン酸(3mL)に加え、170℃で4時間攪拌した。反応液を室温まで冷ました後、Sep-Pak(登録商標)(Vac 35cc(10g)C18 Cartridges)を用いてHOで洗浄し、その後MeOHで溶出した。溶媒を減圧除去し、HPLC(eluent、A/B=70/30→0/100、40分;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物9(28.5mg、収率5%)を得た。
1H-NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ2.30 (s, 3H), 3.13 (s, 6H), 3.24 (s, 6H), 6.77 (d, 1H, J = 2.4 Hz), 6.84 (dd, 1H, J = 9.5 Hz, J = 2.7 Hz), 6.94 (s, 1H), 6.97 (s, 1H), 7.11 (d, 1H, J = 9.3Hz), 7.23-7.25 (m, 1H), 7.71-7.77 (m, 2H), 8.32-8.35 (m, 1H).
13C-NMR (75 MHz, CD3OD) δ 17.4, 30.7, 40.8, 94.8, 97.3, 114.7, 115.1, 115.3, 126.8, 130.1, 131.4, 131.5, 131.7, 132.3, 132.5, 133.9, 135.5, 158.4, 158.7, 159.3, 159.5, 161.2, 168.1.
HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 401.1865, Found, 401.1863 (-0.2 mmu).
【0077】
[合成実施例4]
(1)6’-ジメチルアミノ-2’-フルオロ-3-オキソ-3H-スピロ(イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン)-3’-イル トリフルオロメタンスルフォネート(化合物11)の合成
【0078】
化合物7(288.7mg、1.0mmol)、4-フルオロレゾルシノール(130.1mg、1.0mmol)を85%リン酸(3mL)に溶解させ、170℃で4時間攪拌した。室温まで反応液を冷ました後、60%HClOaq.(3mL)を加え、100℃でさらに25分間攪拌した。反応液に氷水を加えたのち、桐山ろ取した。残渣をMeOHに溶解させた後、無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をDMF(5mL)に溶解させ、さらにN-フェニルビス(トリフルオロメタンスルホンイミド)(548.1mg、1.5mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(388.1mg、3.0mmol)を加え、アルゴン雰囲気下室温で3時間攪拌した。反応液にsat. NHClaq.を加え、AcOEtとヘキサンの混合溶媒で抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CHCl)で精製し、化合物11(207.8mg、収率40%)を得た。
1H-NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ2.98 (s, 6H), 6.47 (dd, 1H), 6.51 (d, 1H, J = 2.2 Hz), 6.63 (d, 1H, J = 8.8 Hz), 6.74 (d, 1H, J = 10.3 Hz), 7.22 (m, 1H), 7.34 (d, 1H, J = 6.6 Hz), 7.71 (m, 2H), 8.04 (m, 1H).
13C-NMR (75 MHz, CD2Cl2) δ 40.3, 82.7, 98.4, 104.8, 110.0, 112.9, 116.4 (d, J = 20.4 Hz), 119.1 (q, J = 318.3 Hz), 121.6 (d, J = 5.5 Hz), 124.3, 125.6, 127.0, 128.8, 130.7, 135.8, 137.8 (d, J = 15.4 Hz),148.4, 148.5, 149.7 (d, J = 217.8 Hz), 152.5 152.7 (d, J = 28.4 Hz), 169.1.
HRMS (ESI+): Calcd for [M+H]+, 510.0635, Found, 510.0626 (-0.9 mmu).
【0079】
(2)2-FTMR(化合物12)の合成
【0080】
化合物11(102mg、0.20mmol)、ジメチルアミン塩酸塩(127mg、1.56mmol)、CsCO(1137mg、3.49mmol)をシュレンク管中でトルエン(15mL)に溶解させアルゴン置換した後、Pd(dba)(103.5mg、0.11mmol)とキサントホス(58.4mg、0.10mmol)を加え再度アルゴン置換を行い100℃で17.5時間攪拌した。反応液を室温に戻し、桐山ろ過を行った後、溶媒を減圧除去した。残渣をHPLC(eluent、A/B=70/30→0/100、40分;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物12(11mg、収率11%)を得た。
1H-NMR (300 MHz, CD3CN) δ3.15 (m, 12H), 6.70 (d, 1H, J = 9.5 Hz), 6.73 (d, 1H, J = 2.9 Hz), 6.80-6.86 (m, 2H), 6.94 (d, 1H, J = 9.5 Hz), 7.26-7.29 (m, 1H), 7.72-7.78 (m, 2H), 8.17-8.20 (m, 1H).
13C-NMR (75 MHz, CD3OD) δ 41.1, 43.3 (d, J = 8.1 Hz), 97.3, 101.8 (d, J = 5.0 Hz), 114.6, 114.7, 114.9, 115.2, 115.8, 116.5, 131.3, 131.7, 132.1 (d, J = 8.1 Hz), 132.6, 134.0, 135.0, 150.0, (d, J = 11.2 Hz), 152.1 (d, J = 250.5 Hz), 155.6, 159.4, (d, J = 3.1 Hz), 161.3, 168.0.
HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 405.1615, Found, 405.1590 (-2.5 mmu).
【0081】
[合成実施例4]
(1)2-Cl triMeローダミン(化合物13)の合成
【0082】
化合物8の粗精製体(108.2mg)、メチルアミン塩酸塩(140mg、2.08mmol)、CsCO(2062mg、6.33mmol)をシュレンク管中でトルエン(18mL)に溶解させアルゴン置換した後、Pd(dba)(19.5mg、0.02mmol)とキサントホス(13.5mg、0.02mmol)を加え再度アルゴン置換を行い100℃で一晩攪拌した。反応液を室温に戻し、桐山ろ過を行った後、溶媒を減圧除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CHCl/MeOH=95/5)で粗精製し、さらにHPLC(eluent、A/B=70/30→0/100、25分;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物13(16mg)を得た。
【0083】
[合成実施例5]
(1)3,6-ビス(N,N-ジメチルアミノ)Si-キサントン(化合物14)の合成
【0084】
文献3(Lukinavicius, G.; Umezawa, K.; Olivier, N.; Honigmann, A.; Yang, G.; Plass, T.; Mueller, V.; Reymond, L.; Correa, I. R.; Luo, Z. G.; Schultz, C.; Lemke, E. A.; Heppenstall, P.; Eggeling, C.; Manley, S.; Johnsson, K. Nat. Chem. 2013, 5 (2), 132-139.)に従って、化合物14を合成した。
【0085】
(2)SiR650(化合物15)の合成
【0086】
化合物15(61.1.mg、0.19mmol)を二径ナスフラスコ中THFに溶解し、アルゴン置換した後、氷冷下でo-トリルマグネシウムクロライド(1.0M THF溶液)(9.5mL、9.5mmol)をゆっくり加え、60℃で60分間攪拌した。反応液が酸性になるまで2N塩酸を加え、反応液をCHClで抽出し、有機層をHOで洗浄し、無水NaSOで乾燥させた後、減圧除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CHCl/MeOH=93/7→85/15)で精製し、化合物15(75.4mg、収率91%)を得た。
1H-NMR (300 MHz, CDCl3) δ 0.63 (s, 3H), 0.65 (s, 3H), 2.03 (s, 3H), 3.42 (s, 12H), 6.64 (dd, 2H, J = 9.5 Hz, 2.9 Hz), 7.06-7.09 (m, 3H), 7.21 (d, J = 2.9 Hz, 2H), 7.31-7.35 (m, 2H), 7.42-7,44 (m, 1H).
13C-NMR (75 MHz, CDCl3) δ -0.3, 0.0, 20.0, 41.8, 114.6, 121.4, 126.2, 128.2, 129.5, 130.9, 136.2, 139.0, 142.1, 149.1, 154.7, 170.5.
HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 399.2257, Found, 399.2266 (+0.9 mmu).
【0087】
(3)4-Cl TMSiR(化合物16)の合成

【0088】
化合物14(80.9mg、0.19mmol)をMeOH(10mL)に溶解させ、攪拌しながら氷冷下で4mL0.1N NaOHaq.に溶解させた1.5M NaOCl溶液(280μL、0.42mmol)を加えた。これを室温で30分間攪拌し、反応液からMeOHを減圧除去した後2N塩酸を加え、CHClで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をHPLC(eluent、A/B=70/30→0/100,40分;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物16(5.4mg、収率5%)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CD2Cl2): δ 0.74 (s, 3H), 0.75 (s, 3H), 2.00 (s, 3H), 3.13 (s, 6H), 3.48 (br s, 6H), 6.92 (dd, J = 10.1, 2.7 Hz, 1H), 6.96 (d, J = 9.1 Hz, 1H), 7.05 (d, J = 9.1 Hz, 1H), 7.11 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.14 (d, J = 10.1 Hz, 1H), 7.32-7.43 (m, 2H), 7.46 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.48 (d, J = 2.3 Hz, 1H).
HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 433.1867; found, 433.1867 (+0.0 mmu).
The HPLC chromatogram after purification is shown below. (A/B = 70/30→0/100, 40 min; A: H2O containing 0.1% TFA (v/v), B: MeCN/H2O = 80/20 containing 0.1% TFA (v/v). 1.0 mL/min flow rate. Detection at 650 nm).
【0089】
[合成実施例6]
(1)4,5-diCl-3,6-ビス(N,N-ジメチルアミノ)Si-キサントン(化合物17)の合成
【0090】
化合物14(333mg、1.02mmol)をMeOH(90mL)に溶解させ、攪拌しながら氷冷下で6mL 0.1N NaOHaq.に溶解させた1.5M NaOCl溶液(4.0mL、6.00mmol)を加えた。これを室温で1.5時間攪拌し、反応液からMeOHを減圧除去した後sat. NaHCO aq.を加え、CHClで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CHCl)で精製し、化合物17(224.1mg、収率56%)を得た。
1H-NMR (400 MHz,CD2Cl2): δ 0.79 (s, 6H), 2.89 (s, 12H), 7.20 (d, J = 8.7 Hz, 2H), 8.31 (d, J = 8.7 Hz, 2H)
13C-NMR (100 MHz, CD2Cl2): δ-1.3, 43.2, 121.0. 129.7, 132.4, 134.6, 140.6, 153.9, 184.7.
HRMS (ESI+): Calcd for [M+H]+, 393.0957; found, 393.0954 (-0.3 mmu).
【0091】
(2)4,5-diCl TMSiR(化合物18)の合成
【0092】
2-ブロモ-1,3-ジメトキシベンゼン(599.6mg、2.76mmol)をAr置換下、THF(10mL)に溶解し、-78℃でsec-BuLi(1.0Mヘキサン溶液)(2.70mL、2.70mmol)を加え、30分間攪拌した。これに化合物17(108.6mg、0.28mmol)をTHF(5mL)に溶解したものを加え、室温で2時間攪拌した。これに2N塩酸を加え、反応を終了させた。反応液をCHClで抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CHCl/MeOH=95/5 to 85/15)で精製し、さらにHPLC(eluent、A/B=70/30→0/100、40分;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物18(19.3 mg、収率11%)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CD2Cl2): δ 0.91 (s, 6H), 3.31 (s, 12H), 3.63 (s, 6H), 6.71 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 6.79 (d, J = 9.6 Hz, 2H), 7.25 (d, J = 9.1 Hz, 2H),7.50 (t, J = 8.5 Hz, 1H)
13C-NMR (100 MHz, CD2Cl2): δ -2.1, 44.5, 56.4, 104.4, 115.9, 119.3, 131.2, 131.8, 132.0, 140.4, 148.7, 156.9, 157.7, 170.0.
HRMS (ESI+): Calcd for [M]+,513.1532; found, 513.1533 (+0.1 mmu).
【0093】
[合成実施例7]
(1)5’-クロロ-3’-ジメチルアミノ-3-オキソ-3H-スピロ(イソベンゾフラン-1,9’-キサンテン)-6’-イル トリフルオロメタンスルフォネート(化合物19)の合成
【0094】
化合物7(574mg、2.0mmol)、2-クロロレゾルシノール(287mg、2.0mmol)を85%リン酸(4mL)に溶解させ、170℃で3時間攪拌した。室温まで反応液を冷ました後、60%HClO aq.(5.0mL)を加え、100℃でさらに20分間攪拌した。反応液に氷水を加えたのち、桐山ろ取した。残渣をMeOHに溶解させた後、無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。乾燥させた残渣をDMF(8.0mL)、に溶解させ、さらにN-フェニルビス(トリフルオロメタンスルホンイミド)(1264mg、3.5mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(890mg、6.8mmol)を加え、アルゴン雰囲気下、室温で14時間攪拌した。反応液にsat. NHClaq.を加え、AcOEtとヘキサンの混合溶媒で抽出し、有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、CHCl)で精製し、化合物19(990mg、収率95%)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CD2Cl2) δ 3.89 (s, 6H), 6.38 (dd, 1H, J = 8.8 Hz, 2.4 Hz), 6.50-6.54 (m, 2H), 6.71 (d, 1H, J = 8.8 Hz), 6.94 (d, 1H, J = 8.8 Hz), 7.07-7.10 (m, 1H), 7.56-7.61 (m, 2H) 7.90-7.92 (m, 1H).
13C-NMR (100 MHz, CD2Cl2) δ 40.4, 82.7, 98.7, 105.3, 110.3, 116.6, 117.1, 119.0, (q, J = 322 Hz), 122.0, 124.3, 125.5, 127.1, 127.6, 128.8, 130.6, 135.7, 147.0, 149.6, 152.3, 152.7, 153.0, 169.2.
HRMS (ESI+): Calcd for [M+H]+, 526.0339, Found, 526.0307 (-3.2 mmu).
【0095】
(2)2’-COOH-4-Cl TMR(化合物20)の合成
【0096】
化合物19(105mg、0.20mmol)、ジメチルアミン塩酸塩(163mg、2.00mmol)、CsCO(2092mg、6.42mmol)をシュレンク管中でトルエン(15mL)に溶解させアルゴン置換した後、Pd(dba)(22mg、0.02mmol)とキサントホス(13mg、0.02mmol)を加え再度アルゴン置換を行い100℃で12時間攪拌した。反応液を室温に戻し、桐山ろ過を行った後、溶媒を減圧除去した。残渣に2N塩酸を加え、CHClで抽出した。有機層をHOで洗浄し、無水NaSOで乾燥させ溶媒を減圧除去した。残渣をHPLC(eluent、A/B=70/30→0/100、25分;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物9(8mg、収率7%)を得た。
1H-NMR (300 MHz, CD2Cl2) δ 3.11 (s, 6H), 3.20 (s, 6H), 6.76 (dd, 1H, J = 8.8 Hz, 2.9 Hz), 6.82 (d, 1H, J = 2.9 Hz), 6.87-6.94 (m, 2H), 6.97 (d, 1H, J = 9.5 Hz), 7.20-7.23 (m, 1H), 7.68-7.76 (m, 2H), 8.20-8.23 (m, 1H).
13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ 41.2, 43.8, 98.1, 109.7, 114.8, 116.2, 116.8, 118.0, 129.0, 130.3, 131.4, 131.6, 132.1, 134.4, 153.5, 157.4, 158.6, 159.1, 168.6.
HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 421.1319, Found, 421.1290 (-2.9 mmu).
【0097】
[実施例1]
上記の合成例で合成した化合物について光学特性を評価した。結果を図4に示す。
図4の(a~c)は、テトラメチルローダミン(TMR)(a)、4-Cl TMR(b)及び4,5-diCl TMR(c)についての化学構造、0.1%TFA含有MeOH中での蛍光量子収率(Φfl)、吸収極大(λabs及び発光極大(λem)を示す。Φflは、EtOHのローダミンB(Φfl=0.65)を基準にして決定した相対蛍光量子収率である。
図4の(d~f)は、0.1%TFA及び0.1%DMSO含有MeOH中での1μMのTMR(d)、4-Cl TMR(e)及び4,5-diCl TMR(f)の吸収スペクトル及び発光スペクトルである。
【0098】
合成した3種類の化合物は、いずれも同じような吸収スペクトルの形状を示した。一方で、TMRがΦfl=0.399と強蛍光性を示したのに対し、ジメチルアミノ基のオルト位にCl基を置換した4-Cl TMR及び4,5-diCl TMRは蛍光量子収率がそれぞれ0.003、0.001となり、ほぼ無蛍光性を示すことが分かった。この結果から、計算化学による検討から予想された通りキサンテン環状ジメチルアミノ基のオルト位にかさ高い置換基を導入することで強蛍光性のローダミン色素を無蛍光性化させることが可能であることが明らかとなった。
【0099】
[実施例2]
次に、今回開発した無蛍光性ローダミンの無蛍光性がTICT状態の生成によるものかを検討するために、蛍光量子収率の溶媒粘度依存性について検討した。具体的には、吸収、蛍光スペクトルおよび蛍光量子収率をMeOH(ε=32.6、η=0.61cP)、エチレングリコール(ε=38.7、η=19.9cP)、グリセロール(ε=42.5、η=1412cP)の3種の溶媒中で測定した。これら3種の溶媒は誘電率εが近い一方で粘度ηが大きく異なるため化合物の光学特性の粘度依存性を検討することができる。置換基の導入による立体障害によりTICT状態の形成が促進されるならば、MeOH中ではTICT状態の形成により消光する一方で、グリセロール等の粘度の高い溶媒中では分子内ねじれの速度が遅くなりTICT状態への移行が抑制されるため蛍光量子収率が上昇すると予想した。
【0100】
実際に4-Cl TMRの光学特性の溶媒粘度依存性を図5に示す。
図5の(a)は、グリセロール、エチレングリコール及びMeOH中での4-Cl TMRのΦflである。Φflは、EtOHのローダミンB(Φfl=0.65)を基準にして決定した相対蛍光量子収率である。図5の(b、c)は、グリセロール、エチレングリコール及びMeOH中での1μMの4-Cl TMRの吸収スペクトル(b)及び発光スペクトル(c)である。
【0101】
実験の結果、4-Cl TMRは粘度の低いMeOH中ではΦfl=0.003と消光しているのに対し、粘度が大きいエチレングリコール及びグリセロール中においてはΦflがそれぞれ0.01、0.09となり蛍光量子収率の上昇が観察された。従って、今回開発した無蛍光性ローダミンは、溶媒粘度に応じて蛍光強度が増大する性質を有することから、実際にTICT機構によって消光していることが支持された。
【0102】
[実施例3]
次に、今回開発した無蛍光性ローダミン類の消光が立体障害に起因するものであることを確かめるため、立体障害の程度の異なる誘導体を合成し、その光学特性の評価を行った。ここで、本検討では、キサンテン環に直結したベンゼン環の2’位の置換基をMe基からCOOH基へ変更し、さらに、立体障害を引き起こす置換基の置換位置をキサンテン環4位から2位へと変更した誘導体で検討を行った。
まず、キサンテン環2位にCl基を導入した化合物の光学特性を取得した。その結果、2-Cl TMRにおいても4-Cl TMRと同様に無蛍光性を示したことから、立体障害を引き起こす置換基であるCl基はキサンテン環2位に置換された場合もTICT状態の形成による消光が起きることが明らかとなった。
次に、キサンテン環上2位の置換基をCl基以外の置換基に変更した誘導体を合成し、その光学特性を検討することとした。具体的には、置換基の立体的な大きさを表すパラメータとして知られるtaftの立体因子(文献4:藤田稔夫. 有機合成化学 1978, 36 (10), 832-833.)を参考に、Cl基と同等の立体的な大きさを示すMe基、及びCl基、Me基に比べ立体的に小さいF基をキサンテン環2位に置換した誘導体を合成し、蛍光量子収率が置換基の大きさに依存して変化するかを検討した。その結果、Cl基と同等の立体的な大きさ有するCH基を置換した2-Me TMRでは蛍光量子収率が約1%とほぼ無蛍光性を示したのに対し、より立体障害の影響が緩和されると考えられるF基を置換した2-F TMRは蛍光量子収率が約10%と蛍光性を示した。この結果から、今回開発した無蛍光性ローダミンの消光は、キサンテン環上ジメチルアミノ基とオルト位上置換基との立体障害によって引き起こされることが強く示唆された。
【0103】
図6の(a~c)は、2-Cl TMR(a)、2-Me TMR(b)及び2-F TMR(c)の化学構造、0.1%TFA含有MeOH中での蛍光量子収率(Φfl)、吸収極大(λabs)及び発光極大(λem)を示す。Φflは、EtOHのローダミンB(Φfl=0.65)を基準にして決定した相対蛍光量子収率である。
図6の(d~f)は、0.1%TFA及び0.1%DMSO含有MeOH中での1μMの2-Cl TMR(a)、2-Me TMR(b)及び2-F TMR(c)の吸収スペクトル及び発光スペクトルである。
【0104】
[実施例4]
次に、アミノ基上の置換基をジメチル基からモノメチル基へと変更した化合物を合成し、その光学特性を評価した。この化合物は、消光の原因となるアミノ基上アルキル基とオルト位上置換基との立体障害が緩和されると考えられるため、蛍光性が回復するのではないかと予想した。図7にその結果を示す。
【0105】
図7の(a)は、0.1%TFA含有MeOH中での2-ClトリMeローダミンのΦfl、λabs及びλemを示す。図7の(b)は、0.1%TFA含有MeOH中での1μMの2-ClトリMeローダミンの吸収スペクトル及び発光スペクトルを示す。
【0106】
開発した化合物は、蛍光量子収率が15%と蛍光性を示し、実際にアミノ基上置換基をモノメチル基にすることで立体障害が緩和され、蛍光性が回復することが明らかとなった。
以上の結果から、計算化学に基づく論理的な分子設計を行うことで、従来の分子設計とは異なる構造修飾によるローダミンの無蛍光性化に成功した。次に、これら新規無蛍光性ローダミンを利用することで可能になると考えられる応用例について示す。
【0107】
応用例:新規蛍光消光団としての応用
本発明の無蛍光性ローダミン類を応用し、新規蛍光消光団(dark quencher)の開発が可能であると考えられる。蛍光消光団は、光によって励起された後に蛍光以外のプロセスで失活する化合物のことであり、代表的な用途としてはFRETのアクセプターとしての利用が挙げられる。既存の蛍光消光団で、市販もされている代表的なものとしては、Dabcyl、Black Hole Quencher(BHQ)、QSYシリーズ等がある。
【0108】
Dabcylは、分子内にアゾ構造を有することにより無蛍光性になると考えられている蛍光消光団であり、図8に示すようにシンプルな構造をしているため汎用性が高いと考えられるが、消光できる波長が500nm以下とやや短波長である(文献5:Johansson, M. K. Methods Mol. Biol. 2006, 335, 17-29.)。
【0109】
Black Hole Quencher(BHQ)シリーズ(文献6:M. Cook, R.; Lyttle, M.; Dick, D. ,. U.S. Patent 7019129, 2006.)も分子内のアゾ構造により無蛍光性になると考えられている消光団であり、こちらはdabcylよりも長波長の蛍光を消光することが可能である。これらアゾ構造を有するquencherは、幅広い波長帯に対応した消光団が存在するものの(図9)、アゾ構造は還元されやすい構造であり、生体内や細胞内で不安定な場合がある。
【0110】
QSYシリーズ(文献7:The Molecular Probes Handbook.
)も、Dabcylより長波長の蛍光を消光することができる消光団であり、QSY7、QSY9、QSY21はローダミンのキサンテン環上N原子にアリール基が結合したジアリールローダミン類である(図10)。
【0111】
本発明の新規消光団はアゾ構造を有していないため、DabcylやBHQに比べて還元状態でも安定であると考えられる。
QSYシリーズと今回の消光団の違いは、N原子にアリール基を導入して消光させるか、オルト位にCl基やMe基といった置換基を導入して消光させるかの違いであるが、この違いによってもたらされる利点としては、以下のようなものが可能性として挙げられる。
・消光に脂溶性の高いアリール基の導入を必要としないため、水溶性が上がりハンドリングの向上が期待される。
・分子サイズがQSYシリーズに比べコンパクトであるためFRET等のアクセプターとして使用する場合に、酵素認識の向上が期待される。
よって、今回開発した無蛍光性ローダミンは、既存の蛍光消光団に比べてより実用的な蛍光消光団になることが期待される。
【0112】
[実施例5]
TICT機構に基づく近赤外蛍光消光団の開発
新規無蛍光性ローダミン類を応用した蛍光消光団の開発において、幅広い波長帯で使用可能な蛍光消光団が開発できることが望ましい。ローダミン類は、キサンテン環10位のO原子をSi原子、C原子、Ge原子、P原子、SOへと置換することで、様々な吸収波長を示すことが知られており、本発明の分子設計による無蛍光性化が他の10位置換ローダミンにおいても可能であれば、様々な波長にわたる蛍光消光団を開発可能であると考えられる。そこで本発明者らは、これら10位置換ローダミンの一例として、キサンテン環10位にSi原子を置換したSi-ローダミン(SiR)類について本分子設計による無蛍光性化が可能であるかを検討した。SiRはO-ローダミンに比べ約90nm長波長化することが知られており、組織透過性に優れ、光毒性の少ない近赤外領域に吸収を示すローダミン類である。
具体的には、SiRのキサンテン環上4位にCl基を置換した化合物及び4,5位にCl基を置換した化合物を合成し、その光学特性を測定した。なお、4,5-diCl TMSiRは求核種によるキサンテン間9位への求核攻撃を防ぐためにベンゼン環の2’,6’位にOMe基を置換した。
【0113】
図11の(a、b)は、(a)4-Cl TMSiR及び(b)4,5-diCl TMSiRの化学構造を示す。また、同図の(c、d)は、4-Cl TMSiR(c)及び4,5-diCl TMSiR(d)の規格化した吸収スペクトル(実戦)と発光スペクトル(破線)を示す。
【0114】
4-Cl TMSiRは蛍光量子収率が1%、4,5-diCl TMSiRは0.1%以下となり、いずれの化合物もほぼ無蛍光性を示した。この結果から、本分子設計による消光はSiR類においても応用可能であることが明らかとなり、様々な波長のバリエーションを持つ新規蛍光消光団の開発ができることが示された。
【0115】
[実施例6]
P450のN-脱アルキル活性を検出可能な新規蛍光プローブの開発(1)
本発明の新規無蛍光性ローダミン類を利用して、P450のN-脱アルキル反応を検出可能な新たな蛍光プローブの開発が可能である。
P450は薬物代謝の第I相反応における酸化還元反応を担う代謝酵素であるが、薬物によるP450の阻害や誘導は、薬物間相互作用の原因となるため、創薬プロセスの初期段階において医薬品候補化合物のP450阻害、誘導活性を測定することは極めて重要である。多検体を迅速に調べるためには、医薬品候補化合物のP450に対する阻害作用、誘導作用をハイスループットに測定する必要があるが、このような手法としてP450活性を蛍光で測定する蛍光法が用いられている。
既にP450に代謝されることによって蛍光性を回復する蛍光プローブが開発されているが、多くの蛍光プローブはP450のサブタイプ選択性に乏しく、精製酵素でのP450活性評価にしか用いることができない(文献8:Jurica, J.; Sulcova, A. In Vivo (Brooklyn). 2011.)。また、それらの多くは波長の短さや水溶性の低さから、生細胞や動物個体での応用に適さない場合が多い。
従って、ローダミンをベースとした新たなP450の酵素活性検出蛍光プローブが開発できれば、長波長、高い水溶性、高い光褪色耐性といった優れた特性を有するP450活性検出蛍光プローブとなりうる。
【0116】
具体的なデザインを図12に示す。今回開発した無蛍光性ローダミンは、前述したようにN原子上アルキル基とオルト位上置換基の立体障害が無蛍光性の原因である。従って、P450のN-脱アルキル活性によってアミノ基上のアルキル基が外れることによって立体障害の緩和が起こり、蛍光性を回復すると考えられる。
既存のP450活性検出プローブのほとんどはO-脱アルキル反応を蛍光OFF/ONのスイッチに用いている一方で、今回検討したN-脱アルキル化をスイッチとする新たな蛍光プローブは、これまでのプローブと異なる反応性やサブタイプ選択性を示す可能性が考えられる。
実際に初期検討として、今回開発した無蛍光性ローダミン類がP450によって代謝されることで蛍光上昇が観察されるかの検討を行った。結果を図13に示す。
【0117】
図13は、0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)中でNADPH生成系(MgCl:1.5mM、グルコース-6-リン酸:3mM、NADP:0.3mM、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ:0.5U/mL)及び11種のP450サブタイプを用いた1μMのローダミン誘導体の時間依存性蛍光変化を示す(Ex.544nm/Em.590nm)。
【0118】
開発した無蛍光性ローダミン類はいくつかのP450サブタイプに代謝され、蛍光上昇を示した。特にこれらの無蛍光性ローダミン類は、いくつかのP450サブタイプに認識されることで蛍光上昇を示し、中でもCYP3A4によく認識される傾向にあることが明らかとなった。CYP3A4は、CYPによる酸化反応において寄与が最も大きいサブタイプであり、肝臓に存在するCYPのうちの大部分を占める。CYP3A4は多くの薬物の代謝に関わる代謝酵素であるため、細胞や動物個体においてCYP3A4の酵素活性を蛍光検出する蛍光プローブは、創薬における薬物間相互作用の予測に有用なツールとなりうる。
【0119】
[合成実施例8]
(1)化合物21の合成
【0120】
化合物7(1.15g、4.02mmol)、3-ブロモ-4-メチルフェノール(1.02g、5.46mmol)をメタンスルホン酸(6mL)に溶解させ、100℃で1時間攪拌した。反応液を10N NaOH水溶液で中和し、CHClで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をMeOHで洗浄することで、化合物を得た。(1.56g)
1H-NMR (400 MHz, CD2Cl2): δ 2.20 (s, 3H), 2.95 (s, 6H), 6.39 (dd, J = 8.8 Hz, 2.9 Hz, 1H), 6.45 (d, J = 2.2 Hz, 1H), 6.58-6.61 (m, 2H), 7.13-7.16 (m, 1H), 7.46 (s, 1H), 7.60-7.66 (m, 2H), 8.01-8.04 (m, 1H).
13C-NMR (100 MHz, CD2Cl2): δ 22.0, 40.1, 83.2, 98.3, 105.5, 108.9, 118.4, 120.5, 123.8, 124.9, 126.0, 126.6, 128.5, 129.0, 129.6, 132.7, 134.9, 149.9, 152.0, 152.1, 153.1, 169.5.
HRMS (ESI+): Calcd for [M]+,436.0548; found, 436.0589 (+4.1 mmu).
【0121】
(2)化合物22の合成
【0122】
化合物21(444mg、1.02mmol)、2-(メチルアミノ)メタノール(799μL、10.0mmol)、CsCO(1650mg、5.06mmol)、Pd(dba)(45.5mg、0.05mmol)、キサントホス(87.7mg、0.15mmol)をトルエン(20mL)に加えアルゴン置換を行い、100℃で20時間攪拌した。反応液を室温に戻し、水を加え、CHClで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣を逆相中圧分取(eluent、A/B=90/10→0/100;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物22(138mg、収率25%)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ 8.32-8.34 (m, 1H), 7.77-7.86 (m, 2H), 7.38-7.40 (m, 1H), 7.23 (s, 1H), 7.17 (d, J = 9.6 Hz, 1H), 7.11 (dd, J = 9.6, 2.3 Hz, 1H), 7.01 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 6.96 (d, J = 0.9 Hz, 1H), 3.81 (t, J = 5.7 Hz, 2H), 3.62 (t, J = 5.5 Hz, 2H), 3.32 (s, 6H), 3.21 (s, 3H), 2.33 (s, 3H); 13C NMR (100 MHz, CD2Cl2): d 18.1, 40.4, 41.8, 57.8, 59.4, 98.5, 106.6, 108.4, 109.2, 114.1, 124.3, 125.1, 127.5, 128.8, 129.0, 129.9, 130.2, 135.1, 150.9, 152.7, 153.0, 153.3, 154.7, 169.7; HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 431.1971; found, 431.1978 (+0.7 mmu).
【0123】
[合成実施例9]
化合物23の合成
【0124】
化合物21(59.6mg、0.147mmol)、N-エチルメチルアミン(214μL、25.1mmol)、CsCO(202mg、0.620mmol)、Pd(dba)(10.9mg、0.0119mmol)、キサントホス(10.3mg、0.0178mmol)をトルエン(5mL)に加え、マイクロ波合成装置(Anton Paar社製、Monowave300)にて、110℃で3時間、その後130℃で1時間攪拌した。反応液を室温に戻し、水を加え、CHClで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をHPLC(eluent、A/B=70/30→0/100;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物23(9.6mg、0.018mmol,収率12%)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ 8.33 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.82 (dtd, J = 20.2, 7.5, 1.3 Hz, 2H), 7.39 (d, J = 7.3 Hz, 1H), 7.17-7.19 (m, 2H), 7.11 (dd, J = 9.6, 2.3 Hz, 1H), 7.01 (d, J = 2.7 Hz, 1H), 6.97 (s, 1H), 3.49 (q, J = 7.2 Hz, 2H), 3.32 (s, 6H), 3.14 (s, 3H), 2.31 (s, 3H), 1.29 (t, J = 7.1 Hz, 3H); HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 415.2022; found, 415.2041 (+1.89 mmu).
The HPLC chromatogram after purification is shown below. (A/B = 80/20→0/100, 25 min; A: H2O containing 0.1% TFA (v/v), B: MeCN/H2O = 80/20 containing 0.1% TFA (v/v). 1.0 mL/min flow rate. Detection at 560 nm).
【0125】
[合成実施例10]
化合物24の合成
【0126】
化合物21(108mg、0.248mmol)、N-メチルプロピルアミン(500μL、4.97mmol)、CsCO(429mg、1.32mmol)、RuPhos Pd G3(41.8mg、0.0550mmol)をトルエン(4mL)に加え、アルゴン置換を行い、マイクロ波合成装置(Anton Paar社製、Monowave300)にて、110℃で1時間攪拌した。反応液を室温に戻し、水を加え、CHClで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をHPLC(eluent、A/B=70/30→0/100、40分;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物24(9.4mg、0.017mmol,収率7%)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ 8.33 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.77-7.86 (m, 2H), 7.39 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.17 (d, J = 9.6 Hz, 1H), 7.15 (s, 1H), 7.11 (dd, J = 9.6, 2.3 Hz, 1H), 7.00 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 6.96 (s, 1H), 3.43 (t, J = 7.5 Hz, 2H), 3.31 (s, 6H), 3.16 (s, 3H), 2.31 (s, 3H), 1.69-1.78 (m, 2H), 0.93 (t, J = 7.3 Hz, 3H); HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 429.2178; found, 429.2194 (+1.6 mmu).
The HPLC chromatogram after purification is shown below. (A/B = 80/20→0/100, 25 min; A: H2O containing 0.1% TFA (v/v), B: MeCN/H2O = 80/20 containing 0.1% TFA (v/v). 1.0 mL/min flow rate. Detection at 560 nm).
【0127】
[合成実施例11]
化合物25の合成
【0128】
化合物21(109mg、0.250mmol)、N-メチルブチルアミン(588μL、5.00mmol)、CsCO(423mg、1.30mmol)、Pd(dba)(14.6mg、0.0159mmol)とキサントホス(26.5mg、0.0458mmol)をトルエン(10mL)に加え、アルゴン置換を行い100℃で22時間攪拌した。反応液を室温に戻し、水を加え、CHClで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をHPLC(eluent、A/B=70/30→0/100;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物25(9.3mg、0.017mmol,収率7%)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ 8.34-8.37 (m, 1H), 7.81-7.87 (m, 2H), 7.40-7.43 (m, 1H), 7.20 (d, J = 9.2 Hz, 1H), 7.17 (s, 1H), 7.13 (dd, J = 10.0, 2.4 Hz, 1H), 7.03 (d, J = 2.4 Hz, 1H), 6.99 (s, 1H), 3.49 (t, J = 7.6 Hz, 2H), 3.34 (s, 6H), 3.18 (s, 3H), 2.33 (s, 3H), 1.68-1.76 (m, 2H), 1.33-1.42 (m, 2H), 0.96 (t, J = 7.2 Hz, 3H); HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 443.2335; found, 443.2364 (+3.0 mDa).
The HPLC chromatogram after purification is shown below. (A/B = 80/20→0/100, 25 min; A: H2O containing 0.1% TFA (v/v), B: MeCN/H2O = 80/20 containing 0.1% TFA (v/v). 1.0 mL/min flow rate. Detection at 560 nm).
【0129】
[合成実施例12]
化合物26の合成
【0130】
化合物21(56.3mg、0.129mmol)、N-メチルイソブチルアミン(745μL、6.21mmol)、CsCO(116mg、0.356mmol)、RuPhos Pd G3(23.6mg、0.0282mmol)をトルエン(5mL)に加えアルゴン置換を行い、マイクロ波合成装置(Anton Paar社製、Monowave300)にて、100℃で30分間攪拌した。反応液を室温に戻し、水を加え、CHClで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣をHPLC(eluent、A/B=70/30→0/100、40分;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN/HO=80/20 containing 0.1%TFA(v/v))で精製し化合物26(2.6mg、0.0047mmol,収率4%)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ 8.33 (dd, J = 7.8, 1.4 Hz, 1H), 7.82 (dtd, J = 20.1, 7.5, 1.5 Hz, 2H), 7.39 (dd, J = 7.3, 1.4 Hz, 1H), 7.16-7.19 (m, 2H), 7.11 (dd, J = 9.6, 2.3 Hz, 1H), 7.01 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 6.97 (s, 1H), 3.34 (d, J = 7.3 Hz, 2H), 3.32 (s, 6H), 3.17 (s, 3H), 2.30 (s, 3H), 2.03-2.13 (m, 1H), 0.90 (dd, J = 6.6, 1.6 Hz, 6H); HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 443.2335; found, 443.2354 (+1.9 mmu).
The HPLC chromatogram after purification is shown below. (A/B = 80/20→0/100, 25 min; A: H2O containing 0.1% TFA (v/v), B: MeCN/H2O = 80/20 containing 0.1% TFA (v/v). 1.0 mL/min flow rate. Detection at 560 nm).
【0131】
[合成実施例13]
化合物27の合成
【0132】
化合物22(14.5mg、0.267mmol)、水素化ナトリウム(油性、含量50~72%)(4.3mg)をDMF(800μL)に加えアルゴン置換を行い、0℃で30分間攪拌した。ヨードエタン(10.9μL、0.136mmol)、を反応液に加え、更に16.5時間室温で攪拌した。反応液に水を加え、CHClで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣を逆相中圧分取(eluent、A/B=80/20→10/90;A:HO containing 酢酸トリエチルアミン(100mM)、B:MeCN containing酢酸トリエチルアミン(100mM)、及びA/B=80/20→10/90;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN containing 0.1%TFA(v/v))で精製し、化合物27(5.8mg、0.010mmol,収率38%)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ 8.34 (dd, J = 7.3 Hz, 1.4 Hz, 1H), 7.77-7.87 (m, 2H), 7.39 (dd, J = 7.3 Hz, 1.4 Hz, 1H), 7.23 (s, 1H), 7.18 (d, J = 9.6 Hz, 1H), 7.12 (dd, J = 9.6 Hz, 2.3 Hz, 1H), 7.02 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 6.95 (s, 1H), 3.69 (s, 4H), 3.44 (q, J = 7.0 Hz, 2H), 3.32 (s, 6H), 3.21 (s, 3H), 2.31 (s, 3H), 1.07 (t, J = 6.9 Hz, 3H); HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 459.2284; found, 459.2234 (-5.0 mmu).
The HPLC chromatogram after purification is shown below. (A/B = 80/20→0/100, 25 min; A: H2O containing 0.1% TFA (v/v), B: MeCN/H2O = 80/20 containing 0.1% TFA (v/v). 1.0 mL/min flow rate. Detection at 560 nm).
【0133】
[合成実施例14]
化合物28の合成
【0134】
化合物22(35.5mg、0.0652mmol)、水素化ナトリウム(油性、含量50~72%)(15.7mg)をDMF(1mL)に加えアルゴン置換を行い、0℃で30分間攪拌した。ヨードプロパン(32μL、0.329mmol)、を反応液に加え、更に14.5時間室温で攪拌した。反応液に水を加え、CHClで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣を逆相中圧分取(eluent、A/B=90/10→10/90;A:HO containing 酢酸トリエチルアミン(100mM)、B:MeCN containing酢酸トリエチルアミン(100mM))、及びHPLC(eluent,A/B=70/30→0/100;A:HO containing 0.1%TFA(v/v)、B:MeCN containing 0.1%TFA(v/v))で精製し、化合物28(13.0mg、0.0222mmol,収率34%)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ 8.33 (dd, J = 7.8, 1.4 Hz, 1H), 7.77-7.86 (m, 2H), 7.38 (dd, J = 7.5 Hz, 1.1 Hz, 1H), 7.22 (s, 1H), 7.18 (d, J = 9.6, 1H), 7.11 (dd, J = 9.6 Hz, 2.3 Hz, 1H), 7.01 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 6.95 (s, 1H), 3.66-3.72 (m, 4H), 3.32-3.35 (m, 8H), 3.21 (s, 3H), 2.31 (s, 3H), 1.42-1.51 (m, 2H), 0.81 (t, J = 7.6 Hz, 3H); 13C-NMR (100 MHz, CD3OD) δ 168.0, 162.9, 161.4, 159.5, 159.5, 157.1, 135.4, 133.9, 133.0, 132.5, 132.3, 132.3, 131.6, 131.4, 130.3, 116.6, 116.2, 104.2, 97.3, 73.9, 69.3, 55.5, 41.7, 41.1, 23.9, 21.8, 10.9; HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 473.2440; found, 473.2407(-3.3 mmu).
【0135】
[合成実施例15]
化合物29の合成
【0136】
化合物22(89.7mg、0.165mmol)、水素化ナトリウム(油性、含量50~72%)(46.3mg)をDMF(1mL)に加えアルゴン置換を行い、0℃で30分間攪拌した。ヨードペンタン(135μL、1.04mmol)、を反応液に加え、更に17時間室温で攪拌した。2N塩酸で中和し、飽和塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水NaSOで乾燥させ、溶媒を減圧除去した。残渣を逆相中圧分取(eluent、A/B=90/10→0/100;A:HO containing0.1%TFA(v/v)、B:MeCN containing0.1%TFA(v/v)で精製し、化合物29(58.3mg、0.0949mmol,収率58%)を得た。
1H-NMR (400 MHz, CD3OD) δ 8.36 (dd, J = 7.5, 1.1 Hz, 1H), 7.79-7.89 (m, 2H), 7.40 (dd, J = 7.3, 0.9 Hz, 1H), 7.23 (s, 1H), 7.20 (d, J = 9.6 Hz, 1H), 7.13 (dd, J = 9.6, 2.3 Hz, 1H), 7.00 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 6.98 (s, 1H), 3.67-3.78 (m, 4H), 3.39 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 3.32 (s, 6H), 3.23 (s, 3H), 2.33 (s, 3H), 1.43-1.50 (m, 2H), 1.22-1.27 (m, 4H), 0.82 (t, J = 7.1 Hz, 3H); 13C-NMR (101 MHz, CD3OD) δ 167.5, 162.5, 161.3, 159.0, 159.0, 156.7, 134.8, 133.5, 132.6, 132.2, 131.9, 131.8, 131.2, 131.0, 129.8, 116.2, 116.1, 115.8, 103.7, 96.9, 71.8, 68.9, 55.1, 41.2, 40.7, 30.1, 29.1, 23.1, 21.5, 14.0; HRMS (ESI+): Calcd for [M]+, 501.2753; found, 501.2734 (-1.9 mDa).
【0137】
[実施例7]
P450のN-脱アルキル活性を検出可能な新規蛍光プローブの開発(2)
合成実施例8~15で合成した化合物について、実施例6と同様の条件で、P450によって代謝されることで蛍光上昇が観察されるかの検討を行った。結果を図14及び15に示す。
【0138】
図14は、0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)中でNADPH生成系(MgCl:1.5mM、グルコース-6-リン酸:3mM、NADP:0.3mM、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ:0.5U/mL)及び11種のP450サブタイプを用いた1μMのローダミン誘導体(化合物23~26)の時間依存性蛍光変化を示す(励起波長:544nm/検出波長:590nm)。
図14に示されるように、これらの化合物は、実施例6の結果と同様に、CYP3Aに代謝されるものの、他のP450分子種にも代謝を受けることが分かる。
【0139】
図15は、0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)中でNADPH生成系(MgCl:1.5mM、グルコース-6-リン酸:3mM、NADP:0.3mM、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ:0.5U/mL)及び11種のP450サブタイプを用いた1μMのローダミン誘導体(化合物22、27~29)の時間依存性蛍光変化を示す(励起波長:544nm/検出波長:590nm)。
図15に示されるように、いくつかの無蛍光性ローダミンが、主要なP450分子種の中でもCYP3Aによって選択的に代謝されることが見出された。
【0140】
[実施例8]
次に、図15に示した化合物の代表として、化合物29(下図)をCYP3A4と反応させたときの、吸収、蛍光スペクトル変化を示す(図16)。RhodamineのN-脱アルキル化に伴う吸収波長の短波長化(a)、及び蛍光強度の大きな上昇が観察された(b、c)。
【0141】
ここで、図16は、CYP3A4(10nM)及びNADPH生成系(MgCl:1.5mM、グルコース-6-リン酸:3mM、NADP:0.3mM、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ:0.5U/mL)を用いた0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)中の1μM化合物29の経時的吸収(a)および蛍光(b、c)変化を示す(励起波長:520nm)。
【0142】
また、化合物29はヒト肝ミクロソーム(XENOTECH:XTreme 200 Human Liver Microsomes)との反応によっても蛍光上昇を示し、その上昇はCYP3Aを強く阻害する阻害剤であるketoconazoleの添加によって抑制された(図17)。従って、化合物29はヒト肝ミクロソーム中でもCYP3Aの活性を蛍光検出可能であることが明らかとなった。
ここで、図17は、NADPH生成系(MgCl:1.5mM、グルコース-6-リン酸:3mM、NADP+:0.3mM、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ:0.5U/mL)およびヒト肝臓ミクロソーム(0.05mg/mL)を用いた0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)中の化合物29(1μM)の時間依存性蛍光変化を示す(Ex544nm/Em.590nm)。ヒト肝臓ミクロソーム及びNADPH生成系を、化合物29を添加する前に30分間0.1%DMSOまたは10μMケトコナゾールとプレインキュベートし、そして化合物29を添加した直後に測定を開始した。
【0143】
[実施例9]
次に化合物29が生細胞でのCYP3A活性を検出可能か検討した。
株式会社ケー・エー・シーより購入したHepaRG(登録商標)凍結バイアル 8M(HPR116-8M)をメーカーのプロトコルに従い融解、播種し8ウェルチャンバー(松浪:SCC-038 コラーゲンコート)にて六日間培養した後、化合物29でHepaRGのCYP3A活性が検出可能か検討した。
イメージングはコントロール群、阻害剤添加群、誘導体添加群の3種類について行った。
阻害剤としては、ケトコナゾールを用いた。CYP3A活性の誘導剤としてはリファンピシンを用い、イメージングの直前3日間、誘導体添加群にはリファンピシン20μMを添加し、コントロール群、阻害剤添加群にはvehicleとして0.1%DMSOを添加した。
【0144】
イメージングは以下のプロトコルに従って行った。
【0145】
イメージング画像を図18に示す。
また、それぞれの群から2ウェル×2視野×5細胞の計20細胞をROIで囲い、その蛍光強度の分布を示したグラフを図19に示す。
【0146】
ここで、図18は、0.1%DMSOを三日間添加したHepaRGに、0.1%のDMSOで30分間前処理をしたのち、1μMの化合物29を加え、37℃で30分間インキュベートした後のHepaRGの蛍光画像(コントロール)、0.1%DMSOを三日間添加し、イメージング前に30分間1μMのケトコナゾールで前処理後、更に化合物29を添加し37℃で30分間インキュベートした後のHepaRGの蛍光画像、(+阻害剤)、及び、20μMのリファンピシンを三日間添加し、0.1%のDMSOで30分間前処理をしたのち、化合物29を加えてさらに37℃で30分間インキュベートした後のHepaRGの蛍光画像である。
Arレーザーおよび対物レンズを備えた共焦点顕微鏡を用いて画像を撮影した(40倍)。条件:励起波長514nm、検出波長540~590nm(PMT1)。
【0147】
図19は、図18の実験において、各群からそれぞれ20個の細胞を選び、それらの蛍光強度の分布を示した箱ひげ図である。
【0148】
阻害剤添加群に比べコントロール群、誘導体添加群において強い蛍光が観察されたことから、化合物29は生細胞においてもCYP3A活性の検出が可能であることが明らかとなった。
【0149】
創薬プロセスにおける薬物代謝試験には現在ヒト初代凍結肝細胞が使用されているが、この細胞はドナー由来の差異や、安定供給の難しさという問題を有している。一方、ヒトiPS細胞由来肝細胞はヒト初代凍結肝細胞の代替細胞となると考えられており、現在ヒトiPS細胞を肝細胞へと分化誘導させる研究が盛んに行われている。肝細胞への分化誘導研究において、CYP3A4の活性はiPS細胞から肝細胞への成熟化の指標として用いられることがあり、生細胞で使用可能なCYP3A活性選択的蛍光プローブの開発はこれらiPS由来肝細胞の成熟化を可視化するツールとなると考えられ、より実用的なiPS細胞由来肝細胞の開発へと貢献することが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19