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特許7410585増粘剤、その製造方法、及びそれを含有する飲食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】増粘剤、その製造方法、及びそれを含有する飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/206 20160101AFI20231227BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20231227BHJP
【FI】
A23L29/206
A23L19/00 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021527671
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024737
(87)【国際公開番号】W WO2020262432
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2019116902
(32)【優先日】2019-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514057743
【氏名又は名称】株式会社Mizkan Holdings
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日比 徳浩
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第96/032852(WO,A1)
【文献】特開2008-301811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/00-29/30
A23L 19/00-19/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物破砕物に、リグニン分解酵素処理と同時に、あるいは当該処理を行った後に、粉砕又は微細化処理を行うことにより得られる増粘剤であって、
前記粉砕又は微細化処理後における、50%粒子径が20μm以上である、増粘剤。
【請求項2】
植物破砕物に、リグニン分解酵素処理と同時に、あるいは当該処理を行った後に、粉砕又は微細化処理を行うことにより得られる増粘剤であって、
前記粉砕又は微細化処理後における、粘度(B型粘度計、20℃)が450cp以上である、増粘剤。
【請求項3】
植物破砕物に、リグニン分解酵素処理と同時に、あるいは当該処理を行った後に、粉砕又は微細化処理を行うことにより得られる増粘剤(ただし、植物破砕物に対してセルラーゼ処理を施した後にホモジナイズ処理することより得られる増粘剤を除く)。
【請求項4】
前記粉砕又は微細化処理後における、50%粒子径が20μm以上100μm以下であり、粘度(B型粘度計、20℃)が450cp以上である請求項1~3のいずれか1項記載の増粘剤。
【請求項5】
前記植物が、アブラナ属植物である請求項1~4のいずれか1項記載の増粘剤。
【請求項6】
前記リグニン分解酵素がラッカーゼである請求項1~のいずれか1項記載の増粘剤。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項記載の増粘剤を含有する飲食品。
【請求項8】
植物破砕物に、リグニン分解酵素処理と同時に、あるいは当該処理を行った後に、粉砕又は微細化処理を行う工程を含むことを特徴とする、増粘剤の製造方法(ただし、植物破砕物に対してセルラーゼ処理を施した後にホモジナイズ処理する方法を除く)
【請求項9】
植物破砕物にリグニン分解酵素処理を行う工程と、得られた酵素処理物にホモジナイズ処理を行う工程と、を含むことを特徴とする、請求項記載の方法。
【請求項10】
加熱した植物を破砕する工程と、得られた植物破砕物にリグニン分解酵素処理を行う工程と、得られた酵素処理物にホモジナイズ処理を行う工程と、を含むことを特徴とする、請求項記載の方法。
【請求項11】
前記リグニン分解酵素処理が、植物破砕物に対してリグニン分解酵素を0.01質量%以上2質量%以下添加し、40℃以上60℃以下で10時間以上36時間以下反応させるものである、請求項8~10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記ホモジナイズ処理が、固形分2.0質量%以上6.0質量%以下の酵素処理物に対して1MPa以上の条件で行われる、請求項8~11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
請求項1~のいずれか1項記載の増粘剤を配合することを特徴とする、飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、増粘剤、その製造方法、及びそれを含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品の粘性を増加させる目的で、天然増粘剤や合成増粘剤などの増粘剤が食品添加物として使用されてきている。しかし、これらの増粘剤のほとんどは、化学合成、化学処理、抽出、濃縮、分解、発酵などの工程を経て、精製、製造されたものであり、その製造工程が非常に複雑である。例えばカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(CMC)は、モノクロロ酢酸あるいはそのナトリウム塩とアルカリセルロースとの反応により製造されるが、副反応等により生成した不純物を除去するために、合成後において精製工程が必要である。
【0003】
一方、野菜を増粘剤として利用した例は乏しく、むしろ粘性を下げ、低粘度野菜汁として利用された例がある(特許文献1参照)のみであり、粘度調整に使用できる高粘度の野菜や野菜ペーストの増粘剤としての使用は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-301811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の課題は、化学的な処理工程を行うことなく製造でき、安全で、増粘性に優れた、食品に添加できる増粘剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために、野菜や果物等の植物を増粘剤の原料として利用することを着想した。しかし、植物を粉砕又は微細化処理しただけでは十分な粘度が出せず、また特許文献1のように粉砕又は微細化処理とセルラーゼ処理との組み合わせでは、逆に粘性を下げる結果となる。かかる状況下、本発明者が鋭意検討を重ねた結果、リグニン分解酵素処理と粉砕又は微細化処理を組み合わせることで、意外にも植物ペーストの粘性が増すことを見出し、この知見に基づいて本開示を完成させたのである。
【0007】
すなわち、本開示に係る増粘剤は、植物破砕物に、リグニン分解酵素処理と同時に、あるいは当該処理を行った後に、粉砕又は微細化処理を行うことにより得られるものである。本開示の増粘剤は、野菜や果実といった食経験豊富な天然物を原料としているため安全性が高く、非常に利用し易いという利点がある。また、本開示の増粘剤は、食物繊維を豊富に含有しているため、増粘剤としてだけでなく、機能性食品素材としても有用である。
また、本開示に係る飲食品は、本開示に係る増粘剤を含有することを特徴とするものである。
【0008】
本開示に係る増粘剤の製造方法は、植物破砕物に、リグニン分解酵素処理と同時に、あるいは当該処理を行った後に、粉砕又は微細化処理を行う工程を含むことを特徴とするものである。本開示の製造方法は、食経験豊富な天然物を原料としており、化学合成や化学的処理を必要とせず、副生成物の除去も不要であるため、安全性が高い製品が得られる上に、従来の合成増粘剤に比べて製造工程を簡素化できるという利点がある。
また、本開示に係る飲食品の製造方法は、本開示に係る増粘剤を配合することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、化学的な処理工程を行うことなく製造でき、安全で、増粘性に優れた、食品に添加できる増粘剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】酵素処理なし、高圧ホモジナイズ処理前の粒度分布測定結果を示すグラフである。
図1B】酵素処理なし、高圧ホモジナイズ処理後の粒度分布測定結果を示すグラフである。
図1C】酵素処理あり、高圧ホモジナイズ処理前の粒度分布測定結果を示すグラフである。
図1D】酵素処理あり、高圧ホモジナイズ処理後(本開示)の粒度分布測定結果を示すグラフである。
図2】粘度測定結果を示すグラフである。縦軸は粘度(単位:cp)を示す。
図3】「固形分・嵩」測定結果を示すグラフである。縦軸は「固形分・嵩」(単位:mL)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願に係る増粘剤は、植物破砕物に、リグニン分解酵素処理と同時に、あるいは当該処理を行った後に、粉砕又は微細化処理を行うことにより得られるものである。
また、本願に係る増粘剤の製造方法は、植物破砕物にリグニン分解酵素処理と同時に、あるいは当該処理を行った後に、粉砕又は微細化処理を行う工程を含むことを特徴とするものである。
【0012】
植物破砕物に対し、リグニン分解酵素処理と粉砕又は微細化処理を行うことによって、植物ペーストの粘性が飛躍的に向上する理由は、現時点では十分に解明できていない。おそらく、リグニンが適度に分解されることでセルロースの解繊が容易になり、粘度が上昇するものと推測されるが、その構造や特性を解析し、数値的に表現することは非常に困難であるため、過大な経済的支出を伴うものであり、その結果を特許請求の範囲において包括的に表現することも不可能である。よって、本実施形態の増粘剤をその構造又は特性により直接特定することは不可能又は非実際的であると言える。
【0013】
以下に、増粘剤の製造方法の実施形態について説明する。
【0014】
<植物>
原料である植物としては、ブロッコリー、キャベツ、カブ、小松菜、アブラナ、セイヨウアブラナ、カリフラワー、芽キャベツ、コールラビ、ケール、水菜、野沢菜、白菜、チンゲン菜、からし菜等のアブラナ属植物や、パプリカ、ピーマン、ナス、キュウリ、トマト、オクラ、カボチャ、ウリ、アボカド、モロヘイヤ、ホウレンソウ、レタス、シソ、ニンジン、ナズナ、ダイコン、わさび、ゴボウ、テンサイ、サツマイモ、ジャガイモ、コーヒーノキ、クリ、ごま、そば、クルミ、ひまわり、マンゴー、イチジク、ブドウ等が挙げられる。中でも、ブロッコリー、キャベツ等のアブラナ属ヤセイカンラン種(Brassica oleracea)に属する植物が好ましい。これらの植物は茎、花、蕾、葉、果実などを含む植物体全体として用いることが好ましい。また、上記植物は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0015】
<加熱工程>
本実施形態においては、上記原料を破砕して植物破砕物を得るが、素材を柔らかくするために破砕前に加熱することが好ましい。加熱には、蒸す、煮る、茹でる、焼く、炒める、揚げる、燻す、電子レンジでの加熱等、原料である植物をある程度軟化出来れば、目標が達成できる。中でも蒸すことが好ましい。
【0016】
蒸し方は通常の方法でよく、例えば以下のように行うことができる。あらかじめ鍋で水を沸騰させて蒸し湯を作り、その鍋の上に加熱したい植物を入れた蒸籠(竹や木を編んで作られた蒸し器)を置く。蒸籠内に湯気を絶えず充満させるため、水は常に加熱し、蒸籠には蓋をしたままにしておく。この状態で80℃以上100℃以下、好ましくは85℃以上100℃以下で約30分間、蒸す。
【0017】
蒸し条件としては、後述の破砕工程において植物が破砕しやすい状態となるよう適宜調整すればよい。例えば、常圧以上0.2MPa以下、好ましくは常圧下で、5分間以上90分間以下、好ましくは15分間以上60分間以下、より好ましくは25分間以上40分間以下とすることができる。
【0018】
<破砕工程>
本工程では、上記植物原料、もしくは、上記の加熱工程により得られた植物加熱物を破砕して植物破砕物を得る。本工程により、後述する粉砕又は微細化処理工程で処理可能な粒径2mm以下、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは100μm以下の植物破砕物を調製する。破砕処理の方法は特に限定されない。例えば、せん断力を使って粉砕するホモジナイザーや、切断力を使って磨砕するミキサーによる破砕方法が挙げられる。破砕時の水添加は必須ではないが、植物加熱物の水分量によっては水を加えて破砕することもできる。また、温度条件としては10℃以上40℃以下の範囲となるように調整することが好ましい。植物破砕物には、加熱工程を経ない物も含むものとする。
【0019】
<リグニン分解酵素処理工程>
上記の破砕工程により得られた植物破砕物に対してリグニン分解酵素を作用させ、原料に含まれるリグニンを部分的に分解する。リグニン分解酵素としては、白色腐朽菌が生産するリグニンペルオキシダーゼ、マンガンペルオキシダーゼ、ラッカーゼを用いることができる。また、白色腐朽菌に分類される多種のキノコ類を用いて、直接菌体に含まれる酵素を利用しても良いが、これらに限定されない。これらの酵素は1種のみ使用してもよく、2種以上を併用することもできる。
【0020】
酵素処理は、植物破砕物にリグニン分解酵素を添加、混合することにより行う。酵素処理と同時に後述する粉砕又は微細化処理を行う場合は、植物破砕物に酵素を添加した後に、粉砕又は微細化処理を行う。前記酵素の使用量は、用いる酵素の活性によっても異なるが、植物破砕物に対し0.01質量%以上2質量%以下とすることができ、さらに0.1質量%以上1質量%以下が好ましい。酵素の添加時期は、後述する粉砕又は微細化処理工程の前であればよい。
【0021】
処理温度条件は40℃以上60℃以下、好ましくは45℃以上55℃以下とすることができ、処理pH条件は4以上8以下、好ましくは5以上7以下とすることができ、処理時間条件は10時間以上36時間以下、好ましくは15時間以上30時間以下、より好ましくは18時間以上24時間以下とすることができる。酵素反応をより効率よく行うため、酵素添加後は撹拌又は振盪を継続することが好ましい。酵素反応終了後は、90℃以上に加熱することにより酵素を失活させる。
【0022】
<粉砕又は微細化処理工程>
本実施形態においては、上記のリグニン分解酵素処理工程と同時に、あるいは当該酵素処理工程により得られた酵素処理物に対して、粉砕又は微細化処理を行うことにより、植物ペーストの粘性を飛躍的に増大させ、増粘剤を得る。粉砕又は微細化処理としては、後述する粒径の高粘性植物ペーストを得られる方法であれば特に限定されないが、例えばホモジナイズ処理(特に高圧ホモジナイズ処理)が挙げられる。
【0023】
粉砕又は微細化処理の前処理として、酵素処理物の固形分を2.0質量%以上6.0質量%以下、好ましくは2.0質量%以上5.0質量%以下、より好ましくは2.2質量%以上4.0質量%以下に調整する。固形分が上記範囲内であると、ハンドリング性が良く、扱い易い。なお、固形分の調整方法に特に制限はなく、例えば加水や加熱による濃縮などが挙げられる。
【0024】
本工程に用いられる粉砕又は微細化手段としては、ホモジナイザー、ブレンダー、ミキサー、ミル機、混練機、粉砕機、解砕機、磨砕機などと称される機器類のいずれであってもよい。また、乾式粉砕、湿式粉砕のいずれであってもよい。処理温度条件は特に限定されず、高温粉砕、常温粉砕、低温粉砕のいずれであってもよい。例えば、乾式微粉砕機としては乾式ビーズミル、ボールミル(転動式、振動式など)などの媒体撹拌ミル、ジェットミル、高速回転型衝撃式ミル(ピンミルなど)、ロールミル、ハンマーミル、などを用いることができる。例えば、湿式微粉砕機としては、ビーズミル、ボールミル(転動式、振動式、遊星式ミルなど)などの媒体撹拌ミル、ロールミル、コロイドミル、スターバースト、ホモジナイザー(特に高圧ホモジナイザーが好ましい)などを用いることができる。湿式微粉砕処理された状態の特定の形状の食品微粒子を含有するペーストを得るためには、媒体撹拌ミル(ボールミル、ビーズミル)、ホモジナイザー(特に高圧ホモジナイザー)をより好適に用いることができ、中でもホモジナイザー(特に高圧ホモジナイザー)や媒体撹拌ミルを好ましく用いることができる。
【0025】
本工程において高圧ホモジナイザーを用いる場合、1MPa以上の条件でせん断処理が可能な機器なら何でも使用することができる。処理圧力条件は1MPa以上、好ましくは20MPa以上300MPa以下、より好ましくは40MPa以上200MPa以下、さらに好ましくは60MPa以上100MPa以下とすることができ、処理回数は1パス以上、好ましくは2パス以上5パス以下とすることができる。
【0026】
上記のようにして植物破砕物に対してリグニン分解酵素処理及び粉砕又は微細化処理を行うことにより、本願に係る増粘剤(高粘性植物ペースト)を製造することができる。なお、必要に応じて、粉砕又は微細化処理後に殺滅菌処理や、濃縮、精製、粉末化などの処理を行ってもよく、その際の加熱温度について特に制限はない。
以下に、前記した製造方法により得られる増粘剤の実施形態について説明する。
【0027】
<植物性増粘剤>
本実施形態の増粘剤は、植物破砕物に対するリグニン分解酵素処理と粉砕又は微細化処理により飛躍的に粘性が増大した高粘性植物ペーストである。
その粉砕又は微細化処理後における50%粒子径(メディアン径)は100μm以下、好ましくは10μm以上80μm以下、より好ましくは15μm以上60μm以下、さらに好ましくは20μm以上50μm以下である。なお、50%粒子径の測定は一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、Microtrac MT3300 EXII、マイクロトラック・ベル社製)で測定することができる。
【0028】
また、粉砕又は微細化処理後にB型粘度計(20℃)で測定した粘度は450cp以上、好ましくは480cp以上1000cp以下、より好ましくは480cp以上950cp以下である。高圧ホモジナイズ処理(80MPa、1パス)の前後で植物ペーストの粘度は1.5倍超と飛躍的に増大する。このように本実施形態の増粘剤は極めて高い粘性を示すことから、飲食品に添加して粘度調整に利用できるものと期待される。
【0029】
さらに、上記した高粘性に基づき、粉砕又は微細化処理後に測定した「固形分・嵩」は2.54mL以上、好ましくは2.96mL以上、より好ましくは3.23mL以上である。本明細書における「固形分・嵩」は次のように測定することができる。植物ペースト5gを15mL遠心チューブCFT1500(株式会社エル・エム・エス)に入れ、スイングローターで3000rpm、3分間遠心分離する。遠心後の沈殿の体積を求め、「固形分・嵩」(mL)とする。本明細書において「固形分・嵩」とはセルロースの状態を示す指標として用いられる。すなわち、セルロースの解繊の度合いが低いほど遠心分離により得られる「固形分・嵩」は小さくなるが、セルロースの解繊の度合いが高いほど遠心分離により得られる「固形分・嵩」は大きくなる。
【0030】
前記した粉砕又は微細化処理後の高粘性植物ペーストをそのまま長期間保管する場合は、腐敗を防止する観点から10℃以下での冷蔵又は凍結保存することが望ましい。あるいは、濃縮乾固などの方法で粉末化して保管することもできる。
【0031】
本実施形態の増粘剤は、上記製造方法により得られた高粘性植物ペーストのみからなるものであってもよいし、増粘剤としての機能を損なわない範囲で、食品製造において許容される一般的な食品素材や添加物を含んでいてもよい。ここで、高粘性植物ペースト以外の成分の配合量は、例えば、増粘剤全体に対して0質量%超70質量%以下、好ましくは0質量%超50質量%以下、より好ましくは0質量%超30質量%以下とすることができる。また、上記高粘性植物ペーストは、食物繊維を豊富に含んでいることから、機能性食品素材としても有用である。
【0032】
<飲食品、その製造方法>
以下に、本願に係る飲食品及びその製造方法の実施形態について説明する。
本実施形態の飲食品は、前記した増粘剤(高粘性植物ペースト)を含有するものであればよく、飲食品の種類は特に限定されない。上記増粘剤は一般的な食品添加物としての増粘剤と同様に、飲食品に配合することができる。したがって、本実施形態の飲食品の製造方法としては特に制限はなく、飲食品の製造工程の任意の段階において上記増粘剤を添加すればよい。飲食品に対する上記増粘剤の配合量は、飲食品に所望の物性を付与できる量とすればよく、飲食品本来の風味に悪影響を及ぼさない限りは特に限定されない。
【実施例
【0033】
以下に、実施例を示して本開示の実施形態を説明するが、本開示はこれら実施例に限定されるものではない。
【0034】
(サンプル調製)
家庭用蒸し器を使いブロッコリー(花蕾、茎を含む丸ごと使用)1000gを、85℃以上100℃以下で30分、蒸した。得られた蒸しブロッコリーのうち562gを取り、1.5倍量(843g)の水を加え、ホモジナイザー(商品名「ヒスコトロン」、株式会社マイクロテック・ニチオン製)を用いて25℃で5分間破砕した。得られたブロッコリー破砕物(植物破砕物)500gにリグニン分解酵素ラッカーゼ(商品名「ラッカーゼM120」、天野エンザイム社製)を1.5g添加し、50℃で21時間、振盪(100rpm)を継続することにより、酵素処理物を得た。
【0035】
得られた酵素処理物を90℃で10分間加熱することで酵素を失活させ、加水により当該酵素処理物の固形分を2.8質量%に調整した。ここで、固形分は、試料5gをシャーレに入れ、70℃で15時間乾燥させた後に、得られた乾燥物の質量を測定することにより求めた。次いで、固形分調整した酵素処理物500gを高圧ホモジナイザー(商品名「LAB2000」、エスエムテー社製)で処理(80Mpa、1パス)し、得られたブロッコリーペースト(高粘性植物ペースト)を試料とした。なお、対照として、上記酵素処理及び酵素失活処理を行わないこと以外は上記と同様の処理を行ったものを用いた。各試料について以下の通り50%粒子径(メディアン径)、粘度、「固形分・嵩」の測定を行った。
【0036】
(粒度分布測定)
レーザー回折式粒度分布測定装置の「Microtrac MT3300 EXII」(マイクロトラック・ベル社製)を用いて粒度分布測定を行い、50%粒子径(メディアン径)を求めた。測定時の溶媒として水を使用し、測定アプリケーションソフトウェアとしてDMS2(Data Management System version II、マイクロトラック・ベル社製)を用いた。測定は、測定アプリケーションソフトウェアの洗浄ボタンを押して洗浄したのち、同ソフトのSetZeroボタンを押してゼロ合わせを実施し、サンプルローディングで適正濃度範囲に入るまで直接試料を投入した。同ソフトの超音波処理ボタンを押し、30kHz、40W、180秒間の超音波処理を行い、3回の脱泡処理を行ったうえで、流速50%で10秒の測定時間でレーザー回折した結果を測定値とした。測定条件は、分布表示:体積;粒子屈折率:1.60;溶媒屈折率:1.33;測定上限(μm):2000;測定下限(μm):0.021、に設定して測定した。
【0037】
(粘度測定)
試料50gを粘度測定用容器に入れ、No.3スピンドルを装着したBII形粘度計(東機産業株式会社製)で測定した。回転数30rpm、2分間回転させて測定した。
【0038】
(「固形分・嵩」測定)
試料5gを15mL遠心チューブ(商品名「CFT1500」、株式会社エル・エム・エス製)に入れ、卓上遠心機(商品名「KUBOTA5200」、久保田商事株式会社製)にスイングローターRS-4/6をセットして3000rpmで3分間遠心分離した。得られた沈殿の体積を求めて「固形分・嵩(mL)」とした。
【0039】
測定結果を表1に示す。また、粒度分布測定結果を図1A~Dに、粘度測定結果を図2に、「固形分・嵩」測定結果を図3に、それぞれ示す。図1において、図1Aは酵素処理なし、高圧ホモジナイズ処理前;図1Bは酵素処理なし、高圧ホモジナイズ処理後;図1Cは酵素処理あり、高圧ホモジナイズ処理前;図1Dは酵素処理あり、高圧ホモジナイズ処理後(本開示);の粒子径分布を示す。図2において、縦軸は粘度(単位:cp)を示す。図3において、縦軸は「固形分・嵩」(単位:mL)を示す。
【0040】
【表1】
【0041】
これらの結果から、リグニン分解酵素処理と高圧ホモジナイズ処理を組み合わせることで、植物ペーストの粘性が飛躍的に増大することが分かった。その原理は不明であるが、おそらくリグニンが適度に分解されることでセルロースの解繊が容易になり粘度が上昇するものと推測される。当該植物ペーストは極めて高い粘性を示すことから、一般的な食品添加物としての増粘剤と同様に飲食品に配合して粘度調整に利用できるものと期待される。
【0042】
このようにして調製された本実施形態の増粘剤(高粘性植物ペースト)は、食経験豊富な野菜を原料としているため、安全性が高く、非常に利用し易い。また、食物繊維を豊富に含有しているため、増粘剤としてだけでなく機能性食品素材としても有用である。
【関連出願の相互参照】
【0043】
本出願は、2019年6月25日に日本国特許庁に出願された特願2019-116902に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3