(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】リン酸カルシウムの結晶、粉末、ブロック材、多孔体、骨補填材及び口腔用骨補填材並びにリン酸カルシウム結晶の製造方法、ブロック材の製造方法及び多孔体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/45 20060101AFI20231227BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20231227BHJP
C04B 35/447 20060101ALI20231227BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20231227BHJP
C04B 41/85 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C01B25/45 Z
A61L27/12
C04B35/447
C04B38/00 303Z
C04B41/85 A
(21)【出願番号】P 2021575863
(86)(22)【出願日】2021-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2021004149
(87)【国際公開番号】W WO2021157662
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2020017459
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 悠紀
(72)【発明者】
【氏名】槇田 洋二
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/046517(WO,A1)
【文献】特開2018-016523(JP,A)
【文献】特開平08-245208(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103159197(CN,A)
【文献】特開2019-077720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/45
A61K 6/838
A61L 27/12
A61L 27/54
A61P 1/02
A61P 19/08
C04B 35/447
C04B 38/00
C04B 41/85
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウムの結晶であって、
前記リン酸カルシウムはリン酸八カルシウム又は炭酸アパタイトであり、
前記結晶の結晶構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が、銀イオン又は銅イオンに置換されて
おり、
前記リン酸カルシウムがリン酸八カルシウムである場合は、粉末X線回折法において得られるXRDパターンは4.7°付近にピークを有し、
前記リン酸カルシウムが炭酸アパタイトである場合は、赤外分光法スペクトルは1400~1500cm
-1
付近に炭酸基由来の吸収バンドを有していることを特徴とするリン酸カルシウムの結晶。
【請求項2】
銀原子又は銅原子の含有率が0.01原子%以上13.00原子%以下である請求項
1に記載のリン酸カルシウムの結晶。
【請求項3】
銀原子又は銅原子の含有率が0.10原子%以上10.00原子%以下である請求項
1に記載のリン酸カルシウムの結晶。
【請求項4】
銀原子又は銅原子の含有率が1.00原子%以上7.00原子%以下である請求項
1に記載のリン酸カルシウムの結晶。
【請求項5】
銀原子又は銅原子の含有率が2.00原子%以上5.00原子%以下である請求項
1に記載のリン酸カルシウムの結晶。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムの結晶を含むことを特徴とする粉末。
【請求項7】
請求項1から
5のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムの結晶を含むことを特徴とするブロック材。
【請求項8】
請求項1から
5のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムの結晶を含むことを特徴とする多孔体。
【請求項9】
請求項1から
5のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムの結晶を含むことを特徴とする骨補填材。
【請求項10】
請求項1から
5のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムの結晶を含むことを特徴とする口腔用骨補填材。
【請求項11】
リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト及び炭酸アパタイトからなる群より選ばれるいずれかひとつのリン酸カルシウムの結晶の製造方法であって、
銀含有組成物又は銅含有組成物を水を含む溶媒に溶解し、銀イオン又は銅イオンの錯イオンを含む溶液を調製する工程と、
前記溶液にリン酸、水素及びカルシウムを含有する化合物を添加し、リン酸八カルシウムの結晶を形成させる工程と、を備え、
前記リン酸カルシウムの結晶の構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されていることを特徴とするリン酸カルシウムの結晶の製造方法。
【請求項12】
前記リン酸カルシウムは、リン酸八カルシウムである請求項1
1に記載のリン酸カルシウムの結晶の製造方法。
【請求項13】
前記リン酸カルシウムは、水酸アパタイトであり、
相変換溶液中での加水分解又は水熱反応により、前記リン酸八カルシウムの結晶を、固相状態を維持したまま水酸アパタイトの結晶に相変換する工程を更に備える請求項1
1に記載のリン酸カルシウムの結晶の製造方法。
【請求項14】
前記リン酸カルシウムは、炭酸アパタイトであり、
相変換溶液中での炭酸処理により、前記リン酸八カルシウムの結晶を、固相状態を維持したまま炭酸アパタイトの結晶に相変換する工程を更に備える請求項1
1に記載のリン酸カルシウムの結晶の製造方法。
【請求項15】
前記溶液を調製する工程における前記溶液中の銀イオン又は銅イオンの濃度が0.1mmol/Lから200mmol/Lの範囲内である請求項1
1から1
4のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムの結晶の製造方法。
【請求項16】
前記溶液を調製する工程における前記溶液中の銀イオン又は銅イオンの濃度が2.5mmol/Lから30mmol/Lの範囲内である請求項1
1から1
4のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムの結晶の製造方法。
【請求項17】
リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト及び炭酸アパタイトからなる群より選ばれるいずれかひとつのリン酸カルシウムの結晶を含むブロック材の製造方法であって、
カルシウム及びリン酸の少なくとも一方を含有するセラミックスからなる固体組成物を、前記カルシウム及びリン酸の他方並び
に銀の錯イオン又
は銅の錯イオンを含有する溶液に浸漬し、前記固体組成物の一部をリン酸八カルシウムの結晶に変換しブロック材を得る工程を備え、
前記リン酸八カルシウムの結晶の構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されていることを特徴とするブロック材の製造方法。
【請求項18】
前記リン酸カルシウムは、リン酸八カルシウムである請求項
17に記載のブロック材の製造方法。
【請求項19】
前記リン酸カルシウムは、水酸アパタイトであり、
前記ブロック材を、相変換溶液に浸漬し、相変換溶液中での加水分解又は水熱反応により、前記リン酸八カルシウムの結晶を、固相状態を維持したまま水酸アパタイトの結晶に相変換する工程を更に備える請求項
17に記載のブロック材の製造方法。
【請求項20】
前記リン酸カルシウムは、炭酸アパタイトであり、
前記ブロック材を、相変換溶液に浸漬し、相変換溶液中での炭酸処理により、前記リン酸八カルシウムの結晶を、固相状態を維持したまま炭酸アパタイトの結晶に相変換する工程を更に備える請求項
17に記載のブロック材の製造方法。
【請求項21】
前記溶液に含まれる銀イオン又は銅イオンの濃度が0.1mmol/Lから200mmol/Lの範囲内である請求項
17から
20のいずれか一項に記載のブロック材の製造方法。
【請求項22】
前記溶液に含まれる銀イオン又は銅イオンの濃度が2.5mmol/Lから30mmol/Lの範囲内である請求項
17から
20のいずれか一項に記載のブロック材の製造方法。
【請求項23】
リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト及び炭酸アパタイトからなる群より選ばれるいずれかひとつのリン酸カルシウムの結晶を含む多孔体の製造方法であって、
カルシウム及びリン酸の少なくとも一方を含有するセラミックスからなる固体組成物を、前記カルシウム及びリン酸の他方並び
に銀の錯イオン又
は銅の錯イオンを含有する溶液に浸漬し、前記固体組成物の一部をリン酸八カルシウムの結晶に変換し多孔体を得る工程を備え、
前記リン酸八カルシウムの結晶の構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されていることを特徴とする多孔体の製造方法。
【請求項24】
前記リン酸カルシウムは、リン酸八カルシウムである請求項
23に記載の多孔体の製造方法。
【請求項25】
前記リン酸カルシウムは、水酸アパタイトであり、
前記多孔体を、相変換溶液に浸漬し、相変換溶液中での加水分解又は水熱反応により、前記リン酸八カルシウムの結晶を、固相状態を維持したまま水酸アパタイトの結晶に相変換する工程を更に備える請求項
23に記載の多孔体の製造方法。
【請求項26】
前記リン酸カルシウムは、炭酸アパタイトであり、
前記
多孔体を、相変換溶液に浸漬し、相変換溶液中での炭酸処理により、前記リン酸八カルシウムの結晶を、固相状態を維持したまま炭酸アパタイトの結晶に相変換する工程を更に備える請求項
23に記載の多孔体の製造方法。
【請求項27】
前記溶液に含まれる銀イオン又は銅イオンの濃度が0.1mmol/Lから200mmol/Lの範囲内である請求項
23から
26のいずれか一項に記載の多孔体の製造方法。
【請求項28】
前記溶液に含まれる銀イオン又は銅イオンの濃度が2.5mmol/Lから30mmol/Lの範囲内である請求項
23から
26のいずれか一項に記載の多孔体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用材料及びその製造方法に関する。より詳しくは、医療分野又は医療に関連する分野で、骨・歯などの組織再生に利用可能な、抗菌性等を付与したリン酸カルシウムの結晶、粉末、ブロック材、多孔体、骨補填材及び口腔用骨補填材並びにリン酸カルシウム結晶の製造方法、ブロック材の製造方法及び多孔体の製造方法に関するものである。
本願は、2020年2月4日に、日本に出願された特願2020-017459号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
リン酸カルシウムからなる材料は、口腔外科、整形外科等で使用される人工骨補填材の材料として使用されている。
リン酸カルシウムからなる材料の例としては、リン酸水素カルシウム無水和物(DCPA、CaHPO4)、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD、CaHPO4・2H2O)、リン酸八カルシウム(OCP、Ca8(HPO4)2(PO4)4・5H2O)、α-リン酸三カルシウム(α-TCP、Ca3(PO4)2)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP、Ca3(PO4)2)、ヒドロキシアパタイト(HAp、Ca10(PO4)6(OH)2)、リン酸四カルシウム(TTCP、Ca4(PO4)2O)等が挙げられる。
これらリン酸カルシウムは、異なる性質(成形のしやすさ、骨置換性等)を備えており、用途に応じて適宜選択されて使用されている。
【0003】
HApは、最も広く利用されているリン酸カルシウムである。HApは中性付近のpHにおいて溶解度が最も低く、生体内で最も溶けにくい性質を有する。
HApに類似する材料としては、HApの化学組成式に含まれる二つの水酸基が、フッ素原子に置換されたフッ素アパタイト(FAp、Ca10(PO4)6F2)及びこれらが塩素原子に置換された塩化アパタイト(ClAp、Ca10(PO4)6Cl2)がある。
また、HApのリン酸基等(リン酸基、水酸基、酸素、フッ素及び塩素)の一部が、炭酸基に置換された炭酸アパタイト(CO3Ap、Ca10-a(PO4)6-b(CO3)c(OH)2-d)がある。炭酸アパタイトに含まれる炭酸の含有量が増加すると、その溶解度が増大することが知られている。
【0004】
HAp及びCO3Apは後述するOCPと比較して、その結晶構造が安定している。そのため、含有するカルシウムイオンの一部を、直接的に他の陽イオンに置換することは容易ではなかった。そのため、例えば、他の陽イオンをその結晶構造中に置換挿入することによって、抗菌性等の新たな機能をHAp、CO3Ap等に付与することは困難であった。
【0005】
一方、OCPは、HAp、α-TCP、β-TCPよりも高い骨置換性(材料が骨に置換される性質)、生体親和性を持つ優れた骨置換型の骨補填材の候補材料である。しかし、OCPには、OCP粉末の焼結による成型が困難であるという問題点があった。
また、OCPにおいても、その結晶構造中のカルシウムイオンの一部を効率良く、他の陽イオン、特に溶解性の低い塩を形成する陽イオン、に置換する方法は確立していなかった。
【0006】
OCPについてより詳しく述べると、非特許文献1は、焼結によらずに、解離沈殿反応によって、硫酸カルシウム1/2水和物(CSH)からなる前駆体ブロックから、OCPブロックを調製する方法を開示している。
また、非特許文献2には、リン酸水素カルシウム二水和物(DPCD)からOCPを形成する際に、ナトリウムイオンが適度に取り込まれるとOCP形成が促進され、過度に取り込まれるとOCPの安定性が低下することを示唆する実験結果が開示されている。
【0007】
骨補填材を主に用いる整形外科、口腔外科領域においては、術野の感染、すなわち術後感染が深刻な合併症として知られている。骨補填材自体は、感染に対して無力であるため、一度感染すると当該部位を除去する以外の方法は無く、予後不良となる。当該疾患は、全術式において凡そ数%の確率で発生する。
【0008】
術後の感染症発生の抑制の観点からは、骨補填材が抗菌性を長期間に亘り発揮することが望ましい。例えば、表面をHApでコーティングしたチタン製の人工関節において、このHApコーティングに抗菌物質を含ませることで、骨補填材に抗菌性を付与する技術が知られている(非特許文献3)。
しかし、骨補填材、特に骨置換型骨補填材に抗菌性を付与した例はない上、術後感染は術後数年後に発症する例もあることから、持続的な抗菌性を付与することが求められる。
【0009】
口腔外科分野においては、審美性の観点から、骨補填材が術後に変色することは望ましくない。
骨補填材への抗菌性の付与に使用される抗菌物質の一例として銀が挙げられる。銀塩が沈殿し骨補填材表面に付着した場合、その表面は徐々に黒系統の色彩を帯び、審美性を損なわれる問題が生じる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Y. Sugiura et al. “Fabrication of octacalcium phosphate block through a dissolution-preparation reaction using a calcium sulphate hemihydrate block as a precursor” Journal of Materials Science: Materials in Medicine 2018, 29: 151
【文献】Y. Sugiura and Y. Makita “Sodium induces octacalcium phosphate formation and enhances its layer structure by affecting the hydrous layer phosphate” Crystal Growth & Design 2018, 18: 6165
【文献】Akiyama T et al. “Silver oxide-containing hydroxyapatite coating has in vivo antibacterial activity in the rat tibia” Journal of Orthopaedic Research 2013, 31: 1195
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した実情に鑑み、リン酸カルシウム結晶構造中に担持される銀イオン及び/又は銅イオンを挿入し、抗菌性を発揮するリン酸カルシウムの結晶、粉末、ブロック材、多孔体、骨補填材及び口腔用骨補填材並びにリン酸カルシウム結晶の製造方法、ブロック材の製造方法及び多孔体の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するための手段について鋭意研究を重ね、以下に示す態様により、上記課題を解決することができることを見出した。
【0013】
(1)第1態様に係るリン酸カルシウムの結晶は、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト及び炭酸アパタイトからなる群より選ばれるいずれかひとつのリン酸カルシウムの結晶であって、前記結晶の結晶構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が、銀イオン又は銅イオンに置換されていることを特徴とする。
【0014】
(2)前記第1態様に係るリン酸カルシウムの結晶において、前記リン酸カルシウムがリン酸八カルシウムであってもよい。
【0015】
(3)前記第1態様に係るリン酸カルシウムの結晶において、前記リン酸カルシウムが水酸アパタイトであってもよい。
【0016】
(4)前記第1態様に係るリン酸カルシウムの結晶において、前記リン酸カルシウムが炭酸アパタイトであってもよい。
【0017】
(5)前記(1)から(4)のいずれかに係るリン酸カルシウムの結晶において、銀原子又は銅原子の含有率が0.01原子%以上13.00原子%以下であってもよい。
【0018】
(6)前記(1)から(4)のいずれかに係るリン酸カルシウムの結晶において、銀原子又は銅原子の含有率が0.10原子%以上10.00原子%以下であってもよい。
【0019】
(7)前記(1)から(4)のいずれかに係るリン酸カルシウムの結晶において、銀原子又は銅原子の含有率が1.00原子%以上7.00原子%以下であってもよい。
【0020】
(8)前記(1)から(4)のいずれかに係るリン酸カルシウムの結晶において、銀原子又は銅原子の含有率が2.00原子%以上5.00原子%以下であってもよい。
【0021】
(9)第2態様に係る粉末は、前記(1)から(8)のいずれかに係るリン酸カルシウムの結晶を含むことを特徴とする。
【0022】
(10)第3態様に係るブロック材は、前記(1)から(8)のいずれかに係るリン酸カルシウムの結晶を含むことを特徴とする。
【0023】
(11)第4態様に係る多孔体は、前記(1)から(8)のいずれかに係るリン酸カルシウムの結晶を含むことを特徴とする。
【0024】
(12)第5態様に係る骨補填材は、前記(1)から(8)のいずれかに係るリン酸カルシウムの結晶を含むことを特徴とする。
【0025】
(13)第6態様に係る口腔用骨補填材は、前記(1)から(8)のいずれかに係るリン酸カルシウムの結晶を含むことを特徴とする。
【0026】
(14)第7態様に係るリン酸カルシウムの結晶の製造方法は、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト及び炭酸アパタイトからなる群より選ばれるいずれかひとつのリン酸カルシウムの結晶の製造方法であって、銀含有組成物又は銅含有組成物を水を含む溶媒に溶解し、銀イオン又は銅イオンの錯イオンを含む溶液を調製する工程と、前記溶液にリン酸、水素及びカルシウムを含有する化合物を添加し、リン酸八カルシウムの結晶を形成させる工程と、を備え、前記リン酸カルシウムの結晶の構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されていることを特徴とする
【0027】
(15)前記(14)に係るリン酸カルシウムの結晶の製造方法において、前記リン酸カルシウムは、リン酸八カルシウムであってもよい。
【0028】
(16)前記(14)に係るリン酸カルシウムの結晶の製造方法において、前記リン酸カルシウムは、水酸アパタイトであってもよく、前記製造方法は、相変換溶液中での加水分解又は水熱反応により、前記リン酸八カルシウムの結晶を、固相状態を維持したまま水酸アパタイトの結晶に相変換する工程を更に備えてもよい。
【0029】
(17)前記(14)に係るリン酸カルシウムの結晶の製造方法において、前記リン酸カルシウムは、炭酸アパタイトであってもよく、前記製造方法は、相変換溶液中での炭酸処理により、前記リン酸八カルシウムの結晶を、固相状態を維持したまま炭酸アパタイトの結晶に相変換する工程を更に備えてもよい。
【0030】
(18)前記(14)から(17)のいずれかに係るリン酸カルシウムの結晶の製造方法において、前記溶液を調製する工程における前記溶液中の銀イオン又は銅イオンの濃度が0.1mmol/Lから200mmol/Lの範囲内であってもよい。
【0031】
(19)前記(14)から(17)のいずれかに係るリン酸カルシウムの結晶の製造方法において、前記溶液を調製する工程における前記溶液中の銀イオン又は銅イオンの濃度が2.5mmol/Lから30mmol/Lの範囲内であってもよい。
【0032】
(20)第8態様に係るブロック材の製造方法は、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト及び炭酸アパタイトからなる群より選ばれるいずれかひとつのリン酸カルシウムの結晶を含むブロック材の製造方法であって、カルシウム及びリン酸の少なくとも一方を含有するセラミックスからなる固体組成物を、前記カルシウム及びリン酸の他方並びに銀イオン若しくは銀の錯イオン又は銅イオン若しくは銅の錯イオンを含有する溶液に浸漬し、前記固体組成物の一部をリン酸八カルシウムの結晶に変換しブロック材を得る工程を備え、前記リン酸八カルシウムの結晶の構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されていることを特徴とする。
【0033】
(21)前記(20)に係るブロック材の製造方法において、前記リン酸カルシウムは、リン酸八カルシウムであってもよい。
【0034】
(22)前記(20)に係るブロック材の製造方法において、前記リン酸カルシウムは、水酸アパタイトであってもよく、前記製造方法は、前記ブロック材を、相変換溶液に浸漬し、相変換溶液中での加水分解又は水熱反応により、前記リン酸八カルシウムの結晶を、固相状態を維持したまま水酸アパタイトの結晶に相変換する工程を更に備えてもよい。
【0035】
(23)前記(20)に係るブロック材の製造方法において、前記リン酸カルシウムは、炭酸アパタイトであってもよく、前記ブロック材を、相変換溶液に浸漬し、相変換溶液中での炭酸処理により、前記リン酸八カルシウムの結晶を、固相状態を維持したまま炭酸アパタイトの結晶に相変換する工程を更に備えてもよい。
【0036】
(24)前記(20)から(23)のいずれかに係るブロック材の製造方法において、前記溶液に含まれる銀イオン又は銅イオンの濃度が0.1mmol/Lから200mmol/Lの範囲内であってもよい。
【0037】
(25)前記(20)から(23)のいずれかに係るブロック材の製造方法において、前記溶液に含まれる銀イオン又は銅イオンの濃度が0.1mmol/Lから200mmol/Lの範囲内であってもよい。
【0038】
(26)第9態様に係る多孔体の製造方法は、リン酸八カルシウム、水酸アパタイト、フッ素アパタイト、塩素アパタイト及び炭酸アパタイトからなる群より選ばれるいずれかひとつのリン酸カルシウムの結晶を含む多孔体の製造方法であって、カルシウム及びリン酸の少なくとも一方を含有するセラミックスからなる固体組成物を、前記カルシウム及びリン酸の他方並びに銀イオン若しくは銀の錯イオン又は銅イオン若しくは銅の錯イオンを含有する溶液に浸漬し、前記固体組成物の一部をリン酸八カルシウムの結晶に変換し多孔体を得る工程を備え、前記リン酸八カルシウムの結晶の構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されていることを特徴とする。
【0039】
(27)前記(26)に係る多孔体の製造方法において、前記リン酸カルシウムは、リン酸八カルシウムであってもよい。
【0040】
(28)前記(26)に係る多孔体の製造方法において、前記リン酸カルシウムは、水酸アパタイトであってもよく、前記製造方法は、前記多孔体を、相変換溶液に浸漬し、相変換溶液中での加水分解又は水熱反応により、前記リン酸八カルシウムの結晶を、固相状態を維持したまま水酸アパタイトの結晶に相変換する工程を更に備えてもよい。
【0041】
(29)前記(26)に係る多孔体の製造方法において、前記リン酸カルシウムは、炭酸アパタイトであってもよく、前記製造法は、前記ブロック材を、相変換溶液に浸漬し、相変換溶液中での炭酸処理により、前記リン酸八カルシウムの結晶を、固相状態を維持したまま炭酸アパタイトの結晶に相変換する工程を更に備えてもよい。
【0042】
(30)前記(26)から(29)のいずれかに係る多孔体の製造方法において、前記溶液に含まれる銀イオン又は銅イオンの濃度が0.1mmol/Lから200mmol/Lの範囲内であってもよい。
【0043】
(31)前記(26)から(29)のいずれかに係る多孔体の製造方法において、前記溶液に含まれる銀イオン又は銅イオンの濃度が2.5mmol/Lから30mmol/Lの範囲内であってもよい。
【発明の効果】
【0044】
本発明の態様に係るリン酸カルシウムの結晶、粉末、ブロック材、多孔体、骨補填材及び口腔用骨補填材によれば、骨補填材に対して抗菌性を付与することができる。
また、本発明の態様に係るリン酸カルシウムの結晶、粉末、ブロック材、多孔体、骨補填材及び口腔用骨補填材の製造方法によれば、抗菌性を備える骨補填材を製造することができる。
リン酸カルシウムがOCPであった場合は、骨補填材に付与される抗菌性を長期に亘って保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るOCPの結晶の構造の一例の模式図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るHApの結晶の構造の一例の模式図である。
【
図3】本発明の第7実施形態に係るリン酸カルシウムの結晶の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の第8実施形態に係るリン酸カルシウムのブロック材の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の第9実施形態に係るリン酸カルシウムの多孔体の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【
図6】硝酸銀濃度とAgを担持するOCPの粉末の色を数値化して示した表である。
【
図7】Agを担持するOCPの粉末の低角部のXRDパターンを示すグラフである。
【
図8】Agを担持するOCPの粉末のFT-IRスペクトルを示すグラフである。垂直方向に引かれた点線は比較のための補助線であり、916cm
-1及び864cm
-1に引かれた二本の補助線は、アルカリ金属を含まない試料でバンドが検出された波数を示し、857cm
-1に引かれた一本の点線は、OCPの粉末を含有しない銀イオン含有溶液を試料とした場合に検出されたバンドの波数を示す。
【
図9】Ag担持OCPの粉末の処理時の硝酸銀溶液の濃度とOCPの粉末中の銀濃度の関係を示すグラフである。
【
図10】Agを担持するOCP、HAp及びCO
3Apの粉末のXRDパターンを示すグラフである。
【
図11】Agを担持するOCP、HAp及びCO
3Apの粉末のFT-IRスペクトルを示すグラフである。
【
図12】Ag担持HAp及びCO
3Apの粉末の処理時の炭酸アンモニウム溶液の濃度とHAp及びCO
3Apの粉末中のAg度の関係を示すグラフである。
【
図13】Ag担持HAp及びCO
3Apの粉末の処理時の硝酸銀溶液の濃度とOCPの粉末中の銀濃度の関係を示すグラフである。
【
図14】硝酸銀と硝酸ナトリウムの濃度の和とOCP層構造の発達との関係を表したグラフである。
【
図15】Na濃度とOCPの粉末中のAg濃度の関係を表したグラフである。
【
図16】Ag担持OCP系ブロック材の写真である。
【
図17】Ag担持のOCP系ブロック材のXRDパターンを示すグラフである。
【
図19】Ag担持のOCP系多孔体のXRDパターンを示すグラフである。
【
図20】Ag担持のOSP系粉末を調製する際に使用した硝酸銀の濃度と、調製されたOSP系粉末の抗菌活性との関係を示すグラフである。
【
図21】Ag担持のOSP系粉末を作用させたS.mutans培養液を寒天培地上に塗抹後、コロニーを形成させた状態を示す写真である。
【
図22】Ag担持OCP粉末上に付着したS.mutansの所見を示す電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を実施するための形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。
【0047】
(第1実施形態)
「置換型リン酸カルシウムの結晶」
本発明の第1実施形態はリン酸カルシウムの結晶である。
本実施形態のリン酸カルシウムの結晶における、リン酸カルシウムは、OCP、HAp、FAp、ClAp及びCO3Apからなる群より選ばれるいずれか一つのリン酸カルシウムの結晶であり、前記結晶の結晶構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が、銀イオン又は銅イオンに置換されている。
複数のカルシウムイオンの一部は、銀イオン及び銅イオンに置換されてもよい。
【0048】
本実施形態の置換型リン酸カルシウムの結晶は、従来の共沈法又は加水分解法とは異なる方法によって製造される置換型OCPの結晶又はこれを出発物質とした方法により製造される置換型HAp、FAp、ClAp又はCO3Apである。
【0049】
上述の置換型OCPの結晶を製造する方法では、銀イオン又は銅イオンを含む難溶性の金属塩を、アンモニウムイオン等の存在下で錯イオンを形成させることにより分散/可溶化している。そして、得られた液体とDCPD等のリン酸及びカルシウムを含有する固体とを反応させることで、置換型OCPの結晶を製造する。本方法により製造される置換型OCPの結晶では、従来の共沈法又は加水分解法では達成することが不可能であった高いレベルで、カルシウムイオンが銀イオン又は銅イオンへ置換される。
【0050】
また、こうして得られる置換型OCPの結晶を出発物質として、HAp、FAp、ClAp又はCO3Apを製造することにより、これらApの製造においても、従来の方法では不可能であった高いレベルでのカルシウムイオンの銀イオン又は銅イオンへの置換を可能にしている。
【0051】
リン酸カルシウムの結晶に含まれる銀原子又は銅原子の含有率は0.01原子%以上13.00原子%以下であってもよい。上記含有率は、0.10原子%以上10.00原子%以下とされてもよく、1.00原子%以上7.00原子%以下とされてもよく、2.00原子%以上5.00原子%以下とされてもよい。
また、銀原子又は銅原子の下限値は、0.25、0.50、0.75、1.25、1.50又は1.75原子%であってもよい。
【0052】
図1及び
図2は、本発明の第1実施形態に係るリン酸カルシウム(OCPの場合及びHApの場合)の結晶の構造の一例の模式図である。
【0053】
本明細書の記載において「リン酸カルシウムの結晶」とは、OCP、HAp、FAp、ClAp又はCO3Apの結晶構造を保っている結晶であって、これらの結晶構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン及び銅イオン等の異種イオンにより置換されているものを意味する。置換挿入される銀イオン又は銅イオン以外のイオン又は組成物が、さらにこれらの結晶構造に取り込まれたものも「リン酸カルシウムの結晶」の定義に含まれる。例えば、リン酸カルシウムの結晶は、置換挿入される異種イオン以外に、カルシウムと化学結合する官能基を備える組成物が取り込まれていてもよい。
また、リン酸カルシウムの結晶を構成するイオン、原子、分子及び官能基等(以下、「イオン等」と称する。)について「複数の」と表現する場合、「リン酸カルシウムの結晶」中に含まれるそのイオン等と同一種の複数個のイオン等を意味し、そのイオン等とは異なる類似種のイオン等を意味しない。
【0054】
図1は、OCPの結晶の単位格子のうちHPO
4-OH層(水和層)に相当する部分を、c方向側から見たものである。c方向は図中の矢印で示すa方向及びb方向の両方に垂直な方向である。
不純物を含まないOCPの化学組成式はCa
8(HPO
4)
2(PO
4)
4・5H
2Oで表される。
図1において、リン酸イオン及びリン酸水素イオンは三角錐で示される。それぞれのリン酸に対しては、化学状態の違いに基づきP1からP6の符号が付されている。
図1における最も大きな球は、OCP結晶構造中に取り込まれた銀イオンを示し、二番目に大きな球はカルシウムイオンを示す。
【0055】
図1に示す本実施形態のリン酸カルシウム(OCP)の結晶は、OCP結晶構造を有するため、優れた生体親和性及び骨置換性を発揮することができる。
また、本実施形態に係るOCPの結晶では、複数のカルシウムイオンの一部が少なくとも銀イオンに置換されている。そのため、OCPの結晶は銀イオンの持つ抗菌性により抗菌性を発揮することができる。
上述の銀イオンが銅イオンであっても、銀イオンによる置換の場合と同様に、OCPの結晶は抗菌性を発揮する。
【0056】
図1に示した本実施形態のOCPの結晶では、HPO
4-OH層に相当する部分に含まれる8個のカルシウムイオンのうちの1個が銀イオンに置換されている。カルシウムイオンのイオン半径と銀イオンのイオン半径は近いため、本来、カルシウムイオンが占めていた位置に銀イオンが挿入されている。
図1に示すOCPの結晶においては、P5PO
4と共役関係にあるカルシウムイオンが銀イオンに置換されている。
銅イオンのイオン半径は、銀イオンほどカルシウムイオンに近くはないが、後述する方法により、銀イオンの場合と同様に、カルシウムイオンが占めていた位置に銅イオンを挿入することができる。
【0057】
OCPは、単位格子中にヒドロキシアパタイト層、遷移層及び水和層とを備える。水和層を備えると、複数の単位格子が重なり合う層構造が発達しやすくなる。
層構造が発達しているOCPの結晶中に取り込まれた異種イオンその他組成物は、層構造が発達していない他のリン酸カルシウムと比較して、強固に結晶構造中に担持される。
ここで、「異種イオンその他組成物」とは、対応するリン酸カルシウムの化学組成式の化学組成式に含まれないイオン又は化合物を意味し、上述の実施形態の場合、銀イオン又は銅イオンを意味する。
【0058】
異種イオンその他組成物が強固に担持されたOCPの結晶からなる骨補填材を使用した場合、異種イオンその他組成物は、体液環境下においては強固にOCPの結晶内部に保持されるものの、破骨細胞などの溶解作用を受けることで初めて少しずつ結晶外へ放出、すなわち徐放される。また、OCPの結晶表面には、内部に担持した異種イオンが表面に出現し、抗菌性を発揮する。
異種イオンが銀イオン又は銅イオンである場合、これらイオンが同様の機構で担持される。そのため、本実施形態に係るOCPの結晶を骨補填材の材料として使用すると、長期に亘って抗菌性が保たれ、術後の感染症発生を効果的に抑制することが期待できる。
【0059】
OCP結晶構造の維持可能以上の異種イオンの添加などが起きると、OCP結晶はその結晶構造を保つことが出来なくなる。試料中にOCPが含有されているかを検出するためには、粉末X線回折法(XRD)において得られた試料のXRDパターンにおいて、4.7°付近に明瞭なピークが得られている場合、測定試料には、OCPが含有されているとみなすことが出来る。仮に、測定試料に予め、4.7°付近に明瞭なピークを示すことが既知のOCPとは異なる結晶性試料が含有されている場合、本ピークに加え、9.2°付近に4.7°にピークより明らかにピーク強度の弱いピークの存在を確認することにより、OCPを検出することが出来る。
【0060】
OCPに含まれるカルシウムイオンの一部が、異種イオンその他組成物に置換されていることも、例えばXRD分析における、そのイオンその他化合物に特徴的なピークの存在によって確認できる。OCP結晶に挿入されるイオンが銀イオン又は銅イオンの場合、XRD分析におけるピークの強度比から、層間の発達を確認することで検出できる。
また、銀イオン又は銅イオンの挿入は、例えば赤外分光法(FT-IR)によりP5PO4の振動状態の変化として確認することができる。さらに、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)により銀イオン又は銅イオンを検出することにより確認できる。
OCP試料のXRDパターン中の、4.7°と9.2°のピーク強度を評価することにより、OCP試料のP5PO4共役サイトへのカチオン担持量を評価することが可能である。
すなわち、4.7°のピークの積分強度をI4.7、9.2°のピークの積分強度をI9.2とし、以下の式(1)にそれぞれの値を代入することにより、相対強度Rを求める。
R = I4.7/I9.2 (1)
Rの強度が大きい程、P5PO4共役サイトへのカチオン担持量が多いとみなすことが出来る。
【0061】
OCPの結晶は、後述するOCPの結晶を含む粉末の製造方法、OCPの結晶を含む成型体の製造方法等により調製することができる。
【0062】
図2は、
図1と同様の形式で示した第1実施形態に係る他のリン酸カルシウム(HAp)の結晶構造の模式図である。
図2は、HApの結晶の単位格子を、c方向側から見たものである。c方向は図中の矢印で示すa方向及びb方向の両方に垂直な方向である。
不純物を含まないHApの化学組成式はCa
10(PO
4)
6(OH)
2で表される。
【0063】
図2に示した本実施形態のHApの結晶では、10個のカルシウムイオンのうちの1個が異種イオンに置換されている。カルシウムイオンのイオン半径と異種イオンのイオン半径が近いと、本来、カルシウムイオンが占めていた位置に異種イオンが挿入されやすくなる。
図2に示すHApの結晶においては、水酸基と共役するPO
4と共役関係にあるカルシウムイオンが異種イオンに置換されている。
【0064】
HApのカルシウムイオンを置換する異種イオンとしては、銀イオン及び銅イオンが挙げられる。
【0065】
HApの結晶中に取り込まれた異種イオンその他組成物は、結晶構造中に担持される。
【0066】
リン酸カルシウムの結晶構造については、OCPの場合と同様に、例えばXRD分析において、それぞれの結晶に特徴的な10.5°付近のピークが存在することによって確認することができる。
【0067】
Apに含まれるカルシウムイオンの一部が、異種イオンその他組成物に置換されていることも、例えばXRD分析における、そのイオンその他化合物に特徴的なピークの存在によって確認できる。
また、異種イオンの挿入は、例えば赤外分光法(FT-IR)により水酸基又はリン酸基の振動状態の変化として確認することができる。さらに、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)により異種イオンを検出することもできる。
【0068】
HAp、CO3Ap等の結晶は、後述するリン酸カルシウムの結晶を含む粉末の製造方法、リン酸カルシウムの結晶を含む成型体の製造方法等により調製することができる。
【0069】
以下に、第1実施形態に係るリン酸カルシウムの結晶の幾つかのバリエーションを実施形態1-1から1-4として説明する。
【0070】
[実施形態1-1]
実施形態1-1に係るリン酸カルシウムの結晶においては、リン酸カルシウムの結晶構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されている。
【0071】
本実施形態に係るリン酸カルシウムの結晶の銀原子又は銅原子の含有率は、0.01原子%以上13.00原子%以下であってもよい。
本実施形態に係るリン酸カルシウムの結晶においては、リン酸カルシウムの結晶中に銀イオン又は銅イオンが担持され、骨補填材の材料として使用された場合、抗菌性を発揮する。
【0072】
リン酸カルシウムがOCPであった場合においては、OCPの結晶中に銀イオン又は銅イオンが強固に担持されるため、骨補填材の材料として使用された場合、長期に亘って銀イオンが徐放される。その結果、長期に亘って抗菌性が保たれ、術後の感染症の発生を効果的に抑制することができる。
特に限定はされないが、好ましい銀原子又は銅原子の含有率は、0.1原子%以上10原子%以下であり、より好ましくは1原子%以上7原子%以下であり、さらにより好ましくは2原子%以上5原子%以下である。
銀原子の含有率が0.001原子%以上6.5原子%以下であれば、銀塩又は銅塩の沈着等による、補填材表面の色調が黒み又は青みを帯びることを抑制することができ、口腔外科分野での使用時に求められる審美性が損なわれることを抑制することができる。
【0073】
リン酸カルシウムの結晶に含まれる銀元素及び銅元素の含有量は、誘導結合プラズマ原子発光吸光度法(ICP-AES)にて、試料を1%HNO3に溶解させた溶液中のCa、PO4、Ag、Cu濃度を測定し、その比率を取ることにより測定することができる。
また、固体核磁気共鳴法(固体NMR法)によっても、リン酸カルシウムの結晶に含まれる銀元素及び銅元素の含有量を測定することができる。
【0074】
本実施形態に係るOCPの結晶は、化学組成式Ca8-aAgb(PO4)4(HPO4)2+x・5H2O又はCa8-aCub(PO4)4(HPO4)2+x・5H2Oによって表され、前記化学組成式中のaは0.00125≦a≦1.00を満たし、bは0.00125≦b≦1.00を満たし、xは0.00125≦x≦1.00を満たし、前記a、前記b及び前記xは、前記化学組成式におけるカルシウムイオン、銀イオン又は銅イオン、リン酸イオン及びリン酸水素イオンの価数の総和が0となるように設定されていてもよい。
特に限定されないが、この場合のa、b及びxは、好ましくは0.1≦a≦1、0.2≦b≦1.00、0.2≦x≦1.00をそれぞれ満たしてもよく、より好ましくは0.3≦a≦1、0.6≦b≦1.00、0.6≦x≦1.00、さらにより好ましくは0.4≦a≦1、0.8≦b≦1.00、0.8≦x≦1.00をそれぞれ満たしてもよい。
前記化学組成式における化学量論比は、例えば測定対象となる結晶を2%の硝酸に完全に溶解させた後、誘電結合プラズマ原子発光吸光度法(ICP-AES)により溶液中のCa、PO4及びAgの濃度を測定した結果から取得することができる。
上述の方法は、後述する実施形態1-2~1-4についても同様である。
【0075】
[実施形態1-2]
実施形態1-2に係るOCPの結晶においては、OCPの結晶構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換され、さらにOCPの結晶構造に含まれる複数のカルシウムイオンの他の一部が銀イオン、銅イオン及びカルシウムイオンを除くカチオンに置換されている。
【0076】
銀イオン、銅イオン及びカルシウムイオンを除くカチオンとしては、銀イオン、銅イオン及びカルシウムイオンを除く一価、二価、三価又は四価以上のカチオンが挙げられ、例えば、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオンなどのアルカリ金属イオン、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン、鉄イオン、マンガンイオン、チタンイオン、ジルコニウムイオン、スカンジウムイオン、金イオン、スズイオン、亜鉛イオンなどの遷移金属イオン、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオンなどのオニウムイオン、ピリジニウムイオン、トリスアミノメタンイオンなどの分子イオンが挙げられる。
適量に取り込まれたナトリウムイオンは、OCP結晶の層構造の発達を促進する効果を持つ。そのため、銀イオン、銅イオンを除くカチオンとしてナトリウムイオンが、OCPの結晶構造中に挿入されると、OCPの結晶中に挿入された銀イオン、銅イオンは、より強くOCP結晶中に担持される。
その結果、OCPの結晶を含む骨補填材からの銀イオン、銅イオンの徐放性がさらに向上し、より長期に亘り抗菌性を骨補填材に付与することができる。
【0077】
本実施形態に係るOCPの結晶の銀原子又は銅原子の含有率は、0.01原子%以上13.00原子%以下であってもよい。
特に限定はされないが、好ましい銀原子又は銅原子の含有率は、0.1原子%以上10原子%以下であり、より好ましくは0.5原子%以上9原子%以下であり、さらにより好ましくは1原子%以上7原子%以下である。
実施形態1-1の場合と同様に、銀原子又は銅原子の含有率が0.001原子%以上6.5原子%以下であれば、銀塩又は銅塩の沈着等による、補填材表面の色調が黒み又は青みを帯びることを抑制することができ、口腔外科分野での使用時に求められる審美性が損なわれることを抑制することができる。
【0078】
本実施形態に係るOCPの結晶は、化学組成式Ca8-aAgbXc(PO4)4(HPO4)2+x・5H2O又はCa8-aCubXc(PO4)4(HPO4)2+x・5H2Oによって表され、Xは銀イオン、銅イオン及びカルシウムを除く前記カチオンを示し、一価、二価、三価又は四価のカチオンであり、前記化学組成式中のaは0.00125≦a≦1.00を満たし、b+cは0.00125≦b+c≦1.00、bは0.00125≦b≦1.00を満たし、cは0<cを満たし、xは0.00125≦x≦1.00を満たし、前記a、前記b及び前記xは、前記化学組成式におけるカルシウムイオン、銀イオン又は銅イオン、リン酸イオン及びリン酸水素イオンの価数の総和が0となるように設定されていてもよい。
特に限定されないが、この場合のa、b、a+b及びxは、好ましくは0.1≦a≦1、0.2≦b≦1.00、0.2≦b+c≦1.00、0.2≦x≦1.00をそれぞれ満たしてもよく、より好ましくは0.3≦a≦1.00、0.6≦b≦1.00、0.6≦b+c≦1.00、0.6≦x≦1.00を、さらにより好ましくは0.4≦a≦1.00、0.8≦b≦1.00、0.8≦b+c≦1.00、0.8≦x≦1.00をそれぞれ満たしてもよい。
【0079】
[実施形態1-3]
本実施形態に係るOCPの結晶においては、OCPの結晶構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換され、OCPの結晶構造に含まれる複数のカルシウムイオンの他の一部が銀イオン、銅イオン及びカルシウムイオンを除くカチオンに置換され、さらに前記OCPの結晶構造に含まれる複数のリン酸イオン又は複数のリン酸水素イオンがリン酸イオンを除くアニオン及びリン酸水素イオンを除くアニオンに置換されている。
【0080】
リン酸イオンを除くアニオン及びリン酸水素イオンを除くアニオンとしては、リン酸イオン及びリン酸水素イオンを除く一価、二価又は三価のアニオンが挙げられ、例えば、炭酸イオン、ホウ酸イオン、硫酸イオン、ケイ酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン、チオリンゴ酸イオン、セバシン酸イオン、アスパラギン酸イオンなどのジカルボン酸イオン、エチドロン酸イオンなどビスホスホネートに分類される分子イオンが挙げられる。
【0081】
本実施形態に係るOCPの結晶の銀原子又は銅原子の含有率は、0.01原子%以上13.00原子%以下であってもよい。
特に限定はされないが、好ましい銀原子又は銅原子の含有率は、0.1原子%以上10原子%以下であり、より好ましくは1原子%以上7原子%以下であり、さらにより好ましくは2原子%以上5原子%以下である。
実施形態1-1と同様に、銀原子又は銅原子の含有率が0.001原子%以上6.5原子%以下であれば、銀塩又は銅塩の沈着等による、補填材表面の色調が黒み又は青みを帯びることを抑制することができ、口腔外科分野での使用時に求められる審美性が損なわれることを抑制することができる。
【0082】
本実施形態に係るOCPの結晶は、化学組成式Ca8-aAgbXc(PO4)4(HPO4)2+xZm・5H2O又はCa8-aCubXc(PO4)4(HPO4)2+xZm・5H2Oによって表され、Xは銀イオン、銅イオン及びカルシウムを除く前記カチオンを示し、一価、二価、三価或いは四価のカチオンであり、Zはリン酸イオンを除く前記アニオン又はリン酸水素イオンを除くアニオンを示し、一価、二価或いは三価のアニオンであり、m<6+xを満足し、前記化学組成式中のaは0.00125≦a≦1.00を満たし、b+cは0.00125≦b+c≦1.00を満たし、xは0.00125≦x≦1.00を満たし、前記a、前記b、前記c、前記x及び前記mは、前記化学組成式におけるカルシウムイオン、銀イオン、銅イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、前記X及び前記Zの価数の総和が0となるように設定されていてもよい。
特に限定されないが、この場合のa、b+c及びxは、好ましくは0.1≦a≦1.00を満たし、0.2≦b+c≦1.00を満たし、0.2≦x≦1.00を満たしてもよく、より好ましくは0.4≦a≦1.00を満たし、0.8≦b+c≦1.00を満たし、0.8≦x≦1.00を満たしてもよい。
【0083】
[実施形態1-4]
本実施形態に係るOCPの結晶は、実施形態1-1から実施形態1-3のいずれか一つに係るOCPの結晶であって、その化学組成式におけるHPO4、PO4及びH2Oのうち一つ以上が、カルシウムと化学結合する官能基を備える第1組成物により置換され、前記第1組成物がOCPの結晶中に担持されている。
カルシウムと化学結合する官能基とは、水酸基、カルボキシル基、リン酸基、アミノ基、シラノール基、スルホ基、ヒドロキシル基、チオール基等が挙げられる。
第1組成物の例としては、カルボキシル基を持つ分子としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、トリカルボン酸、カルボン酸チオール、ハロゲン化カルボン酸、アミノ酸、芳香族酸、ヒドロキシ酸、糖酸、ニトロカルボン酸、ポリカルボン酸などに分類される物質、これらの誘導体、及びこれらを重合させた物質が用いられる。すなわち、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ギ酸、吉草酸、コハク酸、クエン酸、メルカプトウンデカン酸、チオグリコール酸、アスパラガス酸、α-リボ酸、β-リボ酸、ジヒドロリボ酸、クロロ酢酸、マロン酸、アコニット酸、リンゴ酸、シュウ酸、酒石酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸、オキサロ酢酸、α-ケトグルタル酸、オキサロコハク酸、ピルビン酸、イソクエン酸、α-アラニン、β-アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、システイン、ヒドロキシプロリン、o-ホスホセリン、デスモシン、ノバリン、オクトビン、マンノビン、サッカロピン、N-メチルグリシン、ジメチルグリシン、トリメチルグリシン、シトルリン、グルタチオン、クレアチン、γ-アミノ酪酸、テアニン、乳酸、フォリン酸、葉酸、パントテン酸、安息香酸、サリチル酸、o-フタル酸、m-フタル酸、p-フタル酸、ニコチン酸、ピコリン酸、没食子酸、メリト酸、ケイ皮酸、ジャスモン酸、ウンデシレン酸、レブリン酸、イズロン酸、グルクロン酸、ガラクツロン酸、グリセリン酸、グルコン酸、ムラミン酸、シアル酸、マンヌロン酸、グリコール酸、グリオキシル酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトロ酢酸、ニトロヒドロケイ皮酸、ニトロ安息香酸、ポリアクリル酸、ポリクエン酸、ポリイタコン酸並びにこれらの塩などを挙げることができる。
シラノール基を持つ分子としては、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(γ-MPTS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸、メタケイ酸、メタ二ケイ酸並びにこれらの塩などを挙げることができる。
リン酸基を持つ分子としては、アデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン二リン酸(ADP)、ヌクレオチド、グルコース-6-リン酸、フラビンモノヌクレオチド、ポリリン酸、10-メタクリロイルオキシデシル二水素リン酸(MDP)、フィチン酸、エチドロン酸、並びにこれらの塩などを挙げることができる。
スルホ基を持つ分子としては、ベンゼンスルホン酸、タウリン、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、キシレンシラノール、ブロモフェノールブルー、メチルオレンジ、4,4‘-ジイソチオシアノ-2,2’-スチルベンジスルホン酸(DIDS)、アゾルビン、アマランス、インジゴカルミン、ウォーターブルー、クレゾールレッド、クマシーブリリアントブルー、コンゴーレッド、スルファニル酸、タートラジン、チモールブルー、トシルアジド、ニューコクシン、ピラニン、メチレンブルー、ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、サイクラミン酸ナトリウム、サッカリン、タウコロール酸、イセチオン酸、システイン酸、10-カンファースルホン酸、4-ヒドロキシ-5-アミノナフタレン-2,7-ジスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、並びにこれらの塩などを挙げることができる。
ヒドロキシル基を持つ分子としては、アルコールに分類される化合物、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)、ヒドロキシルアミン、ヒドロキサム酸、フェノール、アルドールに分類される化合物、糖に分類される化合物、グリコールに分類される化合物、イノシトール、糖アルコールに分類される化合物、パンテテイン、並びにこれらの塩などを挙げることができる。
チオール基を持つ分子としては、カプトプリル、メタンチオール、エタンチオール、システイン、グルタチオン、チオフェノール、アセチルシステイン、1,2-エタンジチオール、システアミン、ジチオエリトリトール、ジチオトレイトール、ジメルカプロール、チオグリコール酸、チオプロニン、2-ナフタレンチオール、ブシラミン、フラン-2-イルメタンチオール、D-ペニシラミン、マイコチオール、メスナ、3-メチル-2-ブテン-1-チオール、3-メルカプトピルビン酸、並びにこれらの塩などを挙げることができる。
【0084】
本実施形態に係るOCPの結晶の銀原子又は銅原子の含有率は、0.01原子%以上13.00原子%以下であってもよい。
特に限定はされないが、好ましい銀原子又は銅原子の含有率は、0.1原子%以上10原子%以下であり、より好ましくは1原子%以上7原子%以下であり、さらにより好ましくは2原子%以上5原子%以下である。
実施形態1-1と同様に、銀原子又は銅原子の含有率が0.001原子%以上6.5原子%以下であれば、銀塩又は銅原子の沈着等による、補填材表面の色調が黒み又は青みを帯びることを抑制することができ、口腔外科分野での使用時に求められる審美性が損なわれることを抑制することができる。
本実施形態における化学組成式中の化学量論に関する数値範囲及びその好ましい範囲は、実施形態1-1~1-3のそれぞれの記載を適用することができる。
【0085】
リン酸カルシウムがHAp、FAp、ClAp及びCO3Apである場合も、リン酸カルシウムがOCPである場合と同様に、実施形態1-1~1-4で説明した通り、結晶を構成する各種イオンの一部が、銀イオン及び銅イオン以外のイオンで一部置換されてもよい。
【0086】
(第2実施形態)
「置換型リン酸カルシウムの結晶を含む粉末」
本発明の第2実施形態は置換型リン酸カルシウムの結晶を含む粉末(以下、「リン酸カルシウムの粉末」と称する)である。本実施形態のOCPの粉末は、第1実施形態のリン酸カルシウムの結晶を含む粉末である。
【0087】
本実施形態のリン酸カルシウムの粉末の好ましい粒径は、0.05μm~100μmであり、より好ましくは0.5μm~20μmであり、さらにより好ましくは1μm~10μmである。
本実施形態のリン酸カルシウムの粉末の全質量に対するリン酸カルシウムの結晶の含有率は、好ましくは10質量%~100質量%であり、より好ましくは50質量%~100質量%であり、さらにより好ましくは75質量%~100質量%である。
上記範囲の下限値は、60、70、80又は90質量%であってもよい。
リン酸カルシウムの粉末の全質量に対するリン酸カルシウムの結晶の含有率は、XRD法、FT-IR法により測定できる。
本実施形態のリン酸カルシウムの粉末には、リン酸カルシウムの結晶以外の含有物として、例えばHAp(当該リン酸カルシウムがHApの結晶である場合を除く)、β-TCP、α-TCP、ウィットロカイト、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)、炭酸カルシウム(当該リン酸カルシウムがCO3Apの結晶である場合を除く)、硫酸カルシウム、リン酸ガリウム、リン酸マグネシウムその他不可避不純物が含まれる。
これらリン酸カルシウムの結晶以外の含有物は、主にリン酸カルシウムの結晶の安定性及び取り扱い易さの向上のためOCPの粉末に添加されている。不可避不純物は、リン酸カルシウムの粉末を製造する際に不可避的に混入する成分である。
【0088】
リン酸カルシウムの結晶以外の含有物の一種である炭酸カルシウム、DCPDには、Caイオン徐放による新生骨形成向上の効果がある。α-TCP、DCPD、硫酸カルシウムには硬化性付与の効果がある。HApには生体内での賦形性、溶解速度遅延の効果がある。不可避不純物としてはリン酸銀、銀、酸化銀等が挙げられ、不可避不純物の含有量の上限値は、リン酸カルシウムの粉末中のOCP結晶の含有量によって異なる。例えばリン酸カルシウムの結晶の含有率が100%の場合、不可避不純物の含有量の上限値は0.1質量%である。リン酸カルシウムの結晶の含有率が90%、70%及び50%の場合は、それぞれ0.9質量%、0.7質量%、及び0.5質量%である。
本実施形態のリン酸カルシウムの粉末は、例えば液体と混合してペースト状にした後、患部に注入する形態で使用することができる。
【0089】
本実施形態のリン酸カルシウムの粉末を骨補填材の材料として使用した場合、その骨補填材は優れた生体親和性を発揮することができる。リン酸カルシウムがOCPである場合は、その骨補填材は優れた骨置換性を発揮することができる。
また、リン酸カルシウムの結晶構造内の複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンにより置換されているため、抗菌性を発揮することができる。
リン酸カルシウムがOCPである場合は、OCPの結晶構造は層構造を発達させ銀イオン又は銅イオンを強固に担持するため、骨補填材は長期に亘って抗菌性を発揮し、術後の感染症の発生を効果的に抑制することができる。
また、リン酸カルシウムの結晶中に挿入される銀イオンの含有量を適切な範囲内とすることで、銀塩の沈着等による、補填材表面の色調が黒みを帯びることを抑制することができる。その結果、口腔外科分野での使用時に求められる審美性が損なわれることを抑制することができる。
【0090】
(第3実施形態)
「置換型リン酸カルシウムの結晶を含むブロック材」
本発明の第3実施形態は置換型リン酸カルシウムの結晶を含むブロック材(以下、「リン酸カルシウムのブロック材」と称する)である。本実施形態のブロック材は、第1実施形態のリン酸カルシウムの結晶を含むブロック材であり、そのまま又は必要とされる加工を施した後、例えば、骨補填材として使用することができる。なお、ここでブロック材とは、角柱や円柱等の柱状その他のブロック状あるいは塊状であることを意味するものとする。
【0091】
本実施形態のリン酸カルシウムのブロック材においては、リン酸カルシウムのブロック材に含まれる無機成分の化学的な結合又は前記無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化されている。そのため、本実施形態のリン酸カルシウムのブロック材は、骨補填材として十分な物理的な強度を備える。
特に限定されないが、本実施形態のリン酸カルシウムのブロック材の好ましい圧縮強度は2MPa以上であり、より好ましくは5MPa以上である。上限値は特に限定されないが、実質的に500MPa以下となる。
【0092】
本実施形態のリン酸カルシウムのブロック材を骨補填材として使用した場合、リン酸カルシウムのブロック材はリン酸カルシウムの結晶を含むため、優れた生体親和性を発揮することができる。
リン酸カルシウムがOCPである場合は、その骨補填材は優れた骨置換性を発揮することができる。
また、リン酸カルシウムの結晶構造内の複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンにより置換されているため、抗菌性を発揮することができる。
リン酸カルシウムがOCPである場合は、OCPの結晶構造は層構造を発達させ銀イオン又は銅イオンを強固に担持するため、骨補填材は長期に亘って抗菌性を発揮し、術後の感染症の発生を効果的に抑制することができる。
また、リン酸カルシウムの結晶中に挿入される銀イオンの含有量を適切な範囲内とすることで、銀塩の沈着等による、補填材表面の色調が黒みを帯びることを抑制することができる。その結果、口腔外科分野での使用時に求められる審美性が損なわれることを抑制することができる。
リン酸カルシウムのブロック材における、全質量に対するリン酸カルシウムの結晶の含有率及び結晶以外の含有物について、上記第2実施形態と同様である。
【0093】
(第4実施形態)
「置換型リン酸カルシウム結晶を含む多孔体」
本発明の第4実施形態は置換型リン酸カルシウムの結晶を含む多孔体(以下、「リン酸カルシウムの多孔体」と称する)である。本実施形態の多孔体は、第1実施形態のリン酸カルシウムの結晶を含む多孔体であり、例えば、骨補填材の材料として使用することができる。
【0094】
本実施形態のリン酸カルシウムの多孔体はリン酸カルシウムの結晶を含む多孔質材料からなる。多孔質材料には、非常に多くの細孔が形成されている。細孔は三次元的に連通した気孔構造をとるため、リン酸カルシウム多孔体を骨補填材として使用した場合、その内部への生体組織の侵入を容易にする。その結果、本実施形態のリン酸カルシウムの多孔体は、多孔体構造をとらないものと比較して、より優れた生体親和性及び骨置換性を備える。
特に限定されないが、本実施形態のリン酸カルシウムの多孔体における好ましい気孔率は、10%以上95%であり、より好ましくは50%以上90%以下である。
【0095】
本実施形態のリン酸カルシウムの多孔体を骨補填材の材料として使用した場合、その骨補填材はより優れた生体親和性を発揮することができる。
リン酸カルシウムがOCPである場合は、その骨補填材は優れた骨置換性を発揮することができる。
また、リン酸カルシウムの結晶構造内の複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンにより置換されているため、抗菌性を発揮することができる。
リン酸カルシウムがOCPである場合は、OCPの結晶構造は層構造を発達させ銀イオン又は銅イオンを強固に担持するため、骨補填材は長期に亘って抗菌性を発揮し、術後の感染症の発生を効果的に抑制することができる。
また、リン酸カルシウムの結晶中に挿入される銀イオンの含有量を適切な範囲内とすることで、銀塩の沈着等による、補填材表面の色調が黒みを帯びることを抑制することができる。その結果、口腔外科分野での使用時に求められる審美性が損なわれることを抑制することができる。
リン酸カルシウムの多孔体における、全質量に対するリン酸カルシウムの結晶の含有率及び結晶以外の含有物について、上記第2実施形態と同様である。
【0096】
(第5実施形態)
「置換型リン酸カルシウム結晶を含む骨補填材」
本発明の第5実施形態は骨補填材である。
本実施形態の骨補填材は、第1実施形態のリン酸カルシウムの結晶を含む第2実施形態のOCPの粉末、第3実施形態のブロック材又は第4実施形態の多孔体からなる。
本実施形態の骨補填材を使用すると、上述したそれぞれの実施形態で得ることができる技術的な効果を得ることができる。
【0097】
(第6実施形態)
「置換型リン酸カルシウム結晶を含む口腔用骨補填材」
本発明の第6実施形態は口腔用骨補填材である。
本実施形態の口腔用骨補填材は、第1実施形態のリン酸カルシウムの結晶を含む第2実施形態のOCPの粉末、第3実施形態のブロック材又は第4実施形態の多孔体からなる。
本実施形態の口腔用骨補填材を使用すると、上述したそれぞれの実施形態で得ることができる技術的な効果を得ることができる。
【0098】
(第7実施形態)
「置換型リン酸カルシウムの結晶の製造方法」
本発明の第7実施形態は、置換型リン酸カルシウムの結晶の製造方法(以下、「リン酸カルシウムの結晶の製造方法」と称する)である。
図3は本発明の第7実施形態に係るリン酸カルシウムの結晶の製造方法の一例であり、置換型OCPの結晶及び置換型Apの結晶の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【0099】
OCP結晶の製造方法は、銀含有組成物又は銅含有組成物を水を含む溶媒に溶解し、銀イオン又は銅イオンの錯イオンを含む溶液を調製する工程(溶液調製工程S1)と、前記溶液にリン酸、水素及びカルシウムを含有する化合物を添加し、リン酸八カルシウム系結晶を含むリン酸八カルシウム系結晶を形成させる工程(OCPの結晶形成工程S2)と、を備え、前記OCPの結晶の構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されていることを特徴とする。
【0100】
[溶液調製工程S1]
溶液調製工程S1では、錯イオン形成反応により、銀イオン又は銅イオンに配位子が配位結合した錯イオンを含む溶液を調製する。
溶液の溶媒は、水又は水と有機溶媒の混合液であってもよい。例えば、0.01%から99.99%のアルコールを含む水であってもよい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパン-1-オール、ブタン-1-オール、ペンタン-1-オール、ヘキサン-1-オール、ヘプタン-1-オール、オクタン-1-オール、ノナン-1-オール、デカン-1-オールなどの第一級アルコール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、ブタン-2-オール、ペンタン-2-オール、ヘキサン-2-オール、シクロヘキサノールなどの第二級アルコール、tert-ブチルアルコール、2-メチルブタン-2-オール、2-メチルペンタン-2-オール、2-メチルヘキサン-2-オール、3-メチルペンタン-3-オール、3-メチルオクタン-3-オールなどの第三級アルコールをはじめとする一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの二価アルコール、グリセリンなどの三価アルコール、フェノールなどの芳香環アルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)などのポリエーテル、ポリアクリル酸、ポリカルバリン酸などのポリカルボン酸、酢酸、吉草酸、カプロン酸、ラウリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などの脂肪酸、ペンタン、ブタン、ヘキサン、セプタン、オクタンなどのアルカン、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル、ベンゼン、トルエン、ピクリン酸、TNTといった芳香族化合物、ナフタレン、アズレン、アントラセンなどの多環芳香族炭化水素、クロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などの有機ハロゲン化合物、酢酸エチル、酪酸メチル、サリチル酸メチル、ギ酸エチル、酪酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸オクチル、フタル酸ジブチル、炭酸エチレン、エチレンスルフィドのようなエステル類、シクロペンタン、シクロヘキサン、デカリンなどのシクロアルカン、ビシクロアルカン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、バニリンなどのアルデヒド、アミノメタン、アミノエタン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、アニリンなどのアミン化合物、グルコース、フルクトース、トレイトールなどの糖類、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、チオフェノールなどのチオール類、ジメチルスルフィド、ジフェニルスルフィド、アスパラガス酸、シスタミン、シスチンなどのジスルフィド化合物、などを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよいし、複数を混合して使用してもよい。
上記溶媒に、銀イオン源又は銅イオン源となる化合物を添加する。銀イオン源としては、易溶性銀化合物である硝酸銀、硫酸銀及びフッ化銀等を使用することができる。銅イオン源としては、易溶性銅化合物である硝酸銅三水和物、塩化銅、酢酸銅、硫酸銅、臭化銅、ヨウ化銅、ヨウ素酸銅及びフッ化銅等を使用することができる。
【0101】
さらに上記溶媒に、銀イオン又は銅イオンに配位結合する配位子源となる化合物を添加する。配位子源としては、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、サッカリン塩等を使用することができる。
溶媒に銀イオン源又は銅イオン源及び配位子源を添加した後、所定の条件下で撹拌し、これらを溶解させる。
一般的に銀塩及び銅塩は難溶性であり、弱塩基性条件下で、高濃度の溶液中では不溶性の塩として沈殿する場合が多い。しかし、溶液中で銀イオン又は銅イオンと、銀イオン又は銅イオンに配位する配位子とが共存することで、錯イオンが形成され、高濃度の銀イオン又は銅イオンを含む溶液中における銀塩又は銅塩の沈殿を抑制することができる。
銀イオン又は銅イオンの錯イオン形成されると、高い銀イオン濃度又は高い銅イオン濃度であっても、無色透明な溶液を得ることができる。
【0102】
例えば、銀イオン源として硝酸銀を、銅イオン源として硝酸銅三水和物を使用してもよい。配位子源としてリン酸水素アンモニウムを、溶媒として純水を使用して、溶液を調製してもよい。
この場合、硝酸銀及び硝酸銅の濃度は0.0001mol/L~0.2mol/Lの範囲内、好ましくは0.001mol/L~0.05mol/Lの範囲内に設定してもよい。
また、リン酸水素アンモニウムの濃度は0.01mol/L~2mol/Lの範囲内、好ましくは0.1mol/L~2mol/Lの範囲内に設定してもよい。
透明な溶液を得るために、溶媒に硝酸銀又は硝酸銅三水和物及びリン酸水素アンモニウムを添加した後、密閉容器中で0℃~99℃の範囲内で撹拌してもよい。
【0103】
溶液調製工程S1は、銀イオン又は銅イオン及びカルシウムイオンを除くカチオンを含む第2組成物を前記溶媒に溶解する工程S1aを備えてもよい。
第2組成物としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン等の水溶性のカチオンとなる物質を使用することができる。
第2組成物の濃度は0mol/L~5mol/Lの範囲内、好ましくは0.01mol/L~2mol/Lの範囲内、より好ましくは0.5mol/L~2mol/Lの範囲内に設定してもよい。
【0104】
溶液調製工程S1は、前記第2組成物を前記溶媒に溶解する工程S1aと、リン酸イオンの除くアニオン又はリン酸水素イオンを除くアニオンを含む第3組成物を前記溶媒に溶解する工程S1bと、を備えてもよい。
第3組成物としては、炭酸イオン、リン酸イオン、硫酸イオン、ケイ酸イオン、クエン酸イオン、コハク酸イオン等を使用することができる。
第3組成物の濃度は0mol/L~2mol/Lの範囲内、好ましくは0.01mol/L~0.5mol/Lの範囲内に設定してもよい。
【0105】
溶液調製工程S1は、カルシウムと化学結合する官能基を備える第4組成物を前記溶媒に溶解する工程S1cを備えてもよい。
第4組成物としては、ポリアクリル酸、イノシトール6リン酸及び核酸等を使用することができる。
第4組成物の濃度は0mol/L~1mol/Lの範囲内、好ましくは0.01mol/L~0.1mol/Lの範囲内に設定してもよい。
【0106】
溶液調製工程S1における前記溶液中の銀イオンの濃度、銅イオンの濃度又は銀イオンと銅イオンの合計濃度は、0.1mmol/Lから200mmol/Lの範囲内であってもよく、好ましくは2.5mmol/Lから30mmol/Lの範囲内であってもよい。
【0107】
[OCPの結晶形成工程S2]
OCPの結晶形成工程S2では、前記溶液にリン酸、水素及びカルシウムを含む化合物を添加し、OSPの結晶構造に含まれるカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されているOCPの結晶を形成させる。
リン酸、水素及びカルシウムは一種の化合物として添加してもよいし、複数種の化合物として添加してもよい。一種の化合物として添加する場合、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)、リン酸一水素カルシウム(無水)(DCPA)等を使用することができる。
リン酸、水素及びカルシウムとしては、粉末状の化合物を使用することができる。
【0108】
リン酸、水素及びカルシウムを含む化合物は、総量として、溶液100mLに対して0.1g~85gの範囲内で、より好ましくは0.5g~15gの範囲内で添加してもよい。
リン酸、水素及びカルシウムを含む化合物を添加し、撹拌した後、OCP結晶構造の形成を促進させるために、所定の温度で所定の時間、反応させる。
例えば、DCPDを使用した場合、0℃~99℃の範囲内で、0.1時間~168時間の範囲内で反応させる。
【0109】
この反応中に、OSPの結晶構造に含まれるカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されているOCP系結晶が形成される。
反応後、得られた沈殿物を回収し、純粋で洗浄し、乾燥させることで、OSPの結晶構造に含まれるカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されているOCPの結晶を得ることができる。
【0110】
図3のフローチャートに示す通り、得られた置換型OCPの結晶を、更に以下に説明する相変換工程S3A、S3Bに供することで、置換型Apの結晶を得ることができる。
【0111】
[相変換工程S3A]
相変換工程S3Aでは、相変換溶液中での加水分解又は水熱反応により、前記OCPの結晶を、固相状態を維持したまま、HApの結晶に相変換する。
ここで、相変換時に行う加水分解とは、OCPをはじめとする、熱力学的準安定相であるリン酸カルシウムを、水或いは溶液に含浸させ、これらとリン酸カルシウムが接触させることにより、リン酸カルシウムに含有されている分子の一部を溶液中に放出、或いは、溶液に含有されている分子の一部を取り込むこと、或いはその両方の反応を同時に引き起こさせることにより、リン酸カルシウムの組成及び、結晶構造を変化させ、より熱力学的に安定な化合物へと変化させる反応のことを意味する。
ここで、相変換時に行う水熱反応とは、開放系においては沸騰する温度条件下において、溶液及び、リン酸カルシウム試料を耐圧密閉容器中に封入することで、溶液を気化させることなく、溶液状態でリン酸カルシウムと反応させる処理を意味する。この場合の熱水中の組成に応じて、反応温度は自在に設定される。
水熱反応における温度条件については、特に限定されない。通常は-80℃以上350℃以下、好ましくは0℃以上、更に好ましくは25℃以上、特に好ましくは100℃以上である。
【0112】
加水分解反応に使用する相変換溶液としては、特に限定されない。通常は、水及び、水溶液である。これに加えて、メタノール、エタノール、プロパン-1-オール、ブタン-1-オール、ペンタン-1-オール、ヘキサン-1-オール、ヘプタン-1-オール、オクタン-1-オール、ノナン-1-オール、デカン-1-オールなどの第一級アルコール、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)、ブタン-2-オール、ペンタン-2-オール、ヘキサン-2-オール、シクロヘキサノールなどの第二級アルコール、tert-ブチルアルコール、2-メチルブタン-2-オール、2-メチルペンタン-2-オール、2-メチルヘキサン-2-オール、3-メチルペンタン-3-オール、3-メチルオクタン-3-オールなどの第三級アルコールをはじめとする一価アルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの二価アルコール、グリセリンなどの三価アルコール、フェノールなどの芳香環アルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)などのポリエーテル、ポリアクリル酸、ポリカルバリン酸などのポリカルボン酸、酢酸、吉草酸、カプロン酸、ラウリン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などの脂肪酸、ペンタン、ブタン、ヘキサン、セプタン、オクタンなどのアルカン、ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル、ベンゼン、トルエン、ピクリン酸、TNTといった芳香族化合物、ナフタレン、アズレン、アントラセンなどの多環芳香族炭化水素、クロロメタン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素などの有機ハロゲン化合物、酢酸エチル、酪酸メチル、サリチル酸メチル、ギ酸エチル、酪酸エチル、カプロン酸エチル、酢酸オクチル、フタル酸ジブチル、炭酸エチレン、エチレンスルフィドのようなエステル類、シクロペンタン、シクロヘキサン、デカリンなどのシクロアルカン、ビシクロアルカン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンなどのケトン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、バニリンなどのアルデヒド、アミノメタン、アミノエタン、エチレンジアミン、トリエチルアミン、アニリンなどのアミン化合物、グルコース、フルクトース、トレイトールなどの糖類、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、チオフェノールなどのチオール類、ジメチルスルフィド、ジフェニルスルフィド、アスパラガス酸、シスタミン、シスチンなどのジスルフィド化合物、などを挙げることができる。これらは、単独で用いてもよいし、複数を混合して使用してもよい。
OCPの結晶は、上記加水分解反応用の相変換溶液中で、-80℃から300℃の範囲内で、通常、10分~30日であり、好ましくは、2時間~14日であり、さらに好ましくは、2時間~7日加水分解反応させて調製される。
相変換工程S3Aにより得られるHApの結晶を含有するHApの粉末は、例えば、蒸留水で数回洗浄された後、80℃で1日加熱して乾燥される。
【0113】
加水分解反応により、OCP系結晶の水分子が除かれ、水和層(含水層)が消失する。そして、OCP系結晶構造中で、結晶格子の一部がb軸方向にシフトする結果、OCP結晶構造のHp結晶構造への相変換が起きると考えられている。
【0114】
水熱反応に使用する相変換溶液としては、通常は水及び、水溶液であるが、必要に応じて上記の加水分解反応に使用する相変換溶液が使用できる。
OCPの結晶は、上記水熱反応用の相変換溶液中で、100℃から300℃の範囲内で10分から30日間、水熱反応に供される。
その他の条件は、加水分解反応の場合と同様である。
【0115】
相変換工程S3Aが、加水分解反応及び水熱反応のどちらであっても、OCPの結晶の水分子が除かれ、水和層(含水層)が消失する。そして、OCPの結晶構造中で、結晶格子の一部がb軸方向にシフトする結果、OCP結晶構造からHAp結晶構造への相変換が起きていると考えられている。
相変換工程S3Aの出発物質として使用された置換型OCPの結晶に挿入されていた銀イオン又は銅イオンのほとんどは、相変換工程S3A後も、置換型HApの結晶中に保持される。
【0116】
[相変換工程S3B]
相変換工程S3Bでは、相変換溶液中での炭酸処理により、前記OCPの結晶を、固相状態を維持したまま、CO3Apの結晶に相変換する。
ここで、相変換時に行う炭酸処理とは、炭酸を含む溶液、或いは反応環境において分解するなどして炭酸イオンを放出する物質を含有する溶液或いは、懸濁液とリン酸カルシウムを接触させ、リン酸カルシウム中に炭酸イオンを取り込ませる処理を意味する。
【0117】
炭酸処理に使用する相変換溶液としては、(NH4)2CO3溶液、炭酸水素ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、炭酸水素カリウム溶液、炭酸カリウム溶液、炭酸ルビジウム溶液、炭酸リチウム溶液などの炭酸塩の溶液、クエン酸溶液、クエン酸ナトリウム溶液などの加熱環境下で分解し、炭酸イオンを放出する有機塩溶液、液化炭酸ガスなどが使用できる。
OCPの結晶は、上記炭酸処理用の相変換溶液中で、-80℃から350℃の範囲内で10分から、30日間、加水分解反応に供される。
相変換工程S3Bにより得られるCO3Apの結晶を含有するCO3Apの粉末は、例えば、蒸留水で数回洗浄された後、80℃で1日加熱して乾燥される。
【0118】
相変換工程S3Bの場合も相変換工程S3Aの場合と同様の機構で、OCP結晶構造からCO3Ap結晶構造への相変換が起きていると考えられる。
相変換工程S3Bの出発物質として使用された置換型OCPの結晶に挿入されていた銀イオン又は銅イオンのほとんどは、相変換工程S3B後も、置換型HApの結晶中に保持される。
【0119】
(第8実施形態)
「置換型リン酸カルシウム結晶を含むブロック材の製造方法」
本発明の第8実施形態は、OCP、HAp、FAp、ClAp及びCO
3Apからなる群より選ばれるいずれかひとつのリン酸カルシウムの結晶の構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されていることを特徴とするブロック材の製造方法である。
図4は本発明の第8実施形態に係るリン酸カルシウムのブロック材の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【0120】
本実施形態のブロック材の製造方法は、カルシウム及びリン酸の少なくとも一方を含有するセラミックスからなる固体組成物(ブロック材)を準備するセラミックス固体組成物準備工程S11と、前記固体組成物を前記カルシウム及びリン酸の他方並びに銀イオン又は銀の錯イオン及び銅イオン又は銅の錯イオンの一方又は両方を含有する溶液に浸漬し、前記固体組成物をリン酸八カルシウム系結晶に変換しブロック材を得る工程S12とを備え、前記ブロック材は、前記ブロック材に含まれる無機成分の化学的な結合又は前記無機成分の結晶同士の絡み合い若しくは融合により硬化されており、前記リン酸八カルシウム系結晶の構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されていることを特徴とする。
【0121】
本実施形態のブロック材の製造方法では、例えばカルシウム及びリン酸の少なくとも一方を含有するセラミックスからなる固体組成物(前駆体セラミックスブロック)を、カルシウム及びリンの他方並びに銀イオン又は銀の錯イオン及び銅イオン又は銅の錯イオンの一方又は両方を含有する溶液に浸漬し、前記固体組成物をOCPの結晶に変換する。
【0122】
[浸漬・変換工程S12]
浸漬・変換工程S12では、カルシウム及びリン酸の少なくとも一方を含有するセラミックスからなる固体組成物を、前記カルシウム及びリン酸の他方並びに銀イオン又は銀の錯イオン及び銅イオン又は銅の錯イオンの一方又は両方を含有する溶液に浸漬し、前記固体組成物をリン酸八カルシウム系結晶に変換しブロック材を得る。
【0123】
上記固体組成物としては、DCPAの硬化体を使用することができる。DCPA硬化体は例えば以下の手順で作成することができる。
β-TCPと、リン酸二水素カルシウム(MCPM:Ca(H2PO4)2・H2Oとを、乾燥状態を保った状態で混和し、ブルッシャイトセメント粉末を得る。吸湿による劣化を防止するために、得られたブルッシャイトセメント粉末は例えば60℃にて保管する。
【0124】
ブルッシャイトセメント粉末を型に填入し、70%エタノールを滴下した後、外部から圧縮圧をかけ、一次硬化を行う。一次硬化は、圧縮状態を保持したまま、例えば湿度100%、40℃の条件下で24時間以上養生(curing)することで完了する。
こうして得られた一次硬化後の硬化体を、圧縮圧から解放した後、再び例えば湿度100%、40℃の条件下に24時間以上晒すことで前駆体のセラミックスブロックとなるセラミックス固体組成物(DCPA硬化体)を得ることができる。
【0125】
上述の方法で得ることができるカルシウム及びリン酸の少なくとも一方を含有するセラミックスからなる固体組成物は、浸漬・変換工程S12において、前記カルシウム及びリン酸の他方並びに銀イオン又は銀の錯イオン及び銅イオン又は銅の錯イオンの一方又は両方を含有する溶液に浸漬される。
【0126】
例えば、DCPA硬化体をセラミックス固体組成物として使用する場合は、DCPA硬化体を、0.1mol/L~2mol/Lリン酸水素アンモニウム、0.1mol/L~200mol/L硝酸銀及び0mol/L~5mol/L硝酸ナトリウムを含む混合溶液に、所定の温度で所定の時間浸漬する。
上記混合液は、銀イオン又は銅イオンにアンモンが配位した錯イオンを含む。
温度条件としては0℃~99℃が好ましく、35℃~85℃がより好ましい。
浸漬時間としては、0.5日~14日間が好ましく、1日~7日間がより好ましい。
【0127】
調製した溶液中に銀塩の沈殿が見られる場合は、銀又は銅の錯イオン形成のためのアンモニウムイオン源として硝酸アンモニウムを0mol/L~5mоl/Lの範囲でさらに添加してもよい。
【0128】
セラミックス固体組成物が溶液に浸漬されている間に、DCPAはOCPへ変換される。さらに、錯イオン状態で浸漬溶液中に存在する銀イオンは、OCP結晶構造内に取り込まれ、OCPの複数のカルシウムイオンの一部を置換する形で挿入される。
その結果、複数のカルシウムイオンの一部が銀イオンに置換されていることを特徴とするOCPの結晶を含むブロック材が得られる。
浸漬後、例えば蒸留水にて余剰な反応溶液を除去し、例えば40℃の乾燥機中で完全に乾燥させる。
【0129】
上記溶液に浸漬することで、前駆体セラミックスブロックをOCPからなる成型体に組成変化させたOCPのブロック材は、使用された前駆体セラミックスブロックの外形をほぼ維持する。
再現性良く前駆体セラミックスブロックの寸法が、OCPへ組成変換させたOCP系ブロック材の寸法にほぼ引き継がれるため、所定の寸法を有するOCPのブロック材を、前駆体からの寸法の変化を考慮せずに容易に得ることができる。
【0130】
得られたOCPのブロック材を、更に相変換処理S13A(加熱分解又は水熱反応)、S23A(炭酸処理)に供することにより、HApのブロック材、CO3Apのブロック材等を製造することができる。
安定なリン酸カルシウムであるApの状態で、直接イオン置換を行うよりも、Apより不安定なリン酸カルシウムであるOCPの状態でイオン置換を行い、得られたOCP系ブロック体からApのブロック体に相変換させることで、複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されたApの結晶を含むブロック体を効率良く製造することができる。
【0131】
[相変換工程S13A]
相変換工程13Aでは、相変換溶液中での加水分解又は水熱反応により、前記OCP系ブロック体を、固相状態を維持したまま、HApのブロック体に相変換する。
相変換工程S13Aは、OCPの粉末の代わりにOCPのブロック体を使用する点以外は、相変換工程S3Aと同様に行うことができる。
相変換後、例えば蒸留水にて余剰な反応溶液を除去し、例えば40℃の乾燥機中で完全に乾燥させる。
【0132】
[相変換工程S13B]
相変換工程13Bでは、相変換溶液中での炭酸処理により、前記OCPのブロック体を、固相状態を維持したまま、CO3Apのブロック体に相変換する。
相変換工程S13Bは、OCPの粉末の代わりにOCPのブロック体を使用する点以外は、相変換工程S3Bと同様に行うことができる。
相変換後、例えば蒸留水にて余剰な反応溶液を除去し、例えば40℃の乾燥機中で完全に乾燥させる。
【0133】
得られる置換型のHAp及びCO3Apのブロック材は、使用された前駆体セラミックスブロックの外形をほぼ維持する。
再現性良く前駆体セラミックスブロックの寸法が、Apのブロック材の寸法にほぼ引き継がれるため、所定の寸法を有するApのブロック材を、前駆体からの寸法の変化を考慮せずに容易に得ることができる。
【0134】
(第9実施形態)
「置換型リン酸カルシウム結晶を含む多孔体の製造方法」
本発明の第9実施形態は、OCP、HAp、FAp、ClAp及びCO
3Apからなる群より選ばれるいずれかひとつのリン酸カルシウムの結晶の構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されていることを特徴とする多孔体の製造方法である。
図5は本発明の第9実施形態に係るリン酸カルシウムの多孔体の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【0135】
本実施形態の多孔体の製造方法は、カルシウム及びリン酸の少なくとも一方を含有するセラミックスからなる固体組成物(多孔材)を準備するセラミックス固体組成物準備工程S21と、前記カルシウム及びリン酸の他方並びに銀イオン又は銀の錯イオン及び銅イオン又は銅の錯イオンの一方又は両方を含有する溶液に浸漬し、前記固体組成物をリン酸八カルシウム系結晶に変換し多孔体を得る工程S22を備え、前記リン酸八カルシウム系結晶の構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されていることを特徴とする。
【0136】
本実施形態の多孔体の製造方法では、例えばカルシウム及びリン酸の少なくとも一方を含有するセラミックスからなる固体組成物(多孔性前駆体セラミックスブロック)を、カルシウム及びリンの他方並びに銀イオン又は銀の錯イオン及び銅イオン又は銅の錯イオンの一方又は両方を含有する溶液に浸漬し、前記固体組成物をOCPの結晶に変換する。
【0137】
本実施形態における浸漬・変換工程S22は、第8実施形態における浸漬・変換工程S12と同一の工程であるため詳細な記載は省略する。第8実施形態と第9実施形態との相違点は、浸漬・変換工程に供させるセラミックス固体組成物の違いであり、本実施形態では多孔材が用いられ、第8実施形態ではブロック材が用いられる。
以下、本実施形態で使用される多孔材の調製方法について説明する。
【0138】
[多孔材(多孔性前駆体セラミックスブロック)の調製方法]
まず、第8実施形態で説明したブルッシャイトセメント粉末を材料として、造粒を行う。次に、造粒された粒子に、霧吹きで純水を吹き付け、球状のブルッシャイトセメント粉末硬化球を得る。次に、得られたブルッシャイトセメント粉末硬化球から水分を除去し、例えば0.10~0.25mm、0.25~0.50mm、0.50~1.00mm、1.00~2.00mmとなるように分級する。
【0139】
次に、分級したブルッシャイトセメント粉末硬化球を型に填入し、0.1mol/L~1.0mol/Lのリン酸二水素カルシウム飽和H3PO4溶液を、適量滴下する。これにより、硬化球表面にDCPD結晶を析出させる硬化反応が惹起される。そのまま、クリップで固定させたまま硬化させることで、多孔材(多孔性前駆体セラミックスブロック)が得られる。
【0140】
得られた多孔材を、上述の通り浸漬・変換工程S22に供することでOCPの多孔体が得られる。
得られたOCPの多孔体を相変換工程S23Aに供することで、置換型HApの多孔体を得ることができる。相変換工程S23Aは、OCPの粉末の代わりにOCPの多孔体を使用する点以外は、相変換工程S3Aと同様に行うことができる。
得られたOCPの多孔体を相変換工程S23Bに供することで、置換型CO3Apの多孔体を得ることができる。相変換工程S23Bは、OCPの粉末の代わりにOCPの多孔体を使用する点以外は、相変換工程S3Bと同様に行うことができる。
【0141】
ブロック材の場合と同様に、安定なリン酸カルシウムであるApの状態で、直接イオン置換を行うよりも、Apより不安定なリン酸カルシウムであるOCPの状態でイオン置換を行い、得られたOCPの多孔体からAp系多孔体に相変換させることで、複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン又は銅イオンに置換されたApの結晶を含む多孔体を効率良く製造することができる。
【0142】
第8実施形態の場合と同様に、多孔性前駆体セラミックスブロックをOCPからなる成型体に組成変化させたOCPの多孔体は、使用された多孔性前駆体セラミックスブロックの外形をほぼ維持する。
再現性良く前駆体の寸法が、OCPへ組成変換させたOCPの多孔体の寸法にほぼ引き継がれるため、所定の寸法を有するOCPの多孔体を、前駆体からの寸法の変化を考慮せずに容易に得ることができる
【0143】
第8及び第9実施形態において、前記溶液は銀イオン、銅イオン及びカルシウムイオンを除くカチオンを含む第2組成物を含有してもよく、前記OCPの結晶の構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン、銅イオン及びこれらを除くカチオンに置換されていてもよい。
第8及び第9実施形態における第2組成物は、上記第7実施形態における第2組成物と同一である。
【0144】
第8及び第9実施形態において、前記溶液は銀イオン及び銅イオンを除くカチオンを含む第2組成物及びリン酸イオンを除くアニオン及びリン酸水素イオンを除くアニオンを含む第3組成物を含有してもよく、前記OCPの結晶の構造に含まれる複数のカルシウムイオンの一部が銀イオン、銅イオン及びこれらを除くカチオンに置換され、前記OCPの結晶の構造に含まれる複数のリン酸イオン又は複数のリン酸水素イオンがリン酸イオンを除くアニオン及びリン酸水素イオンを除くアニオンに置換されていてもよい。
第8及び第9実施形態における第3組成物は、上記第7実施形態における第3組成物と同一である。
【0145】
また、浸漬・変換工程S12、S22における前記溶液に含まれる銀イオン又は銅イオンの濃度は、0.1mmol/Lから200mmol/Lの範囲内であってもよく、好ましくは2.5mmol/Lから30mmol/Lの範囲内であってもよい。
【実施例】
【0146】
以下、本発明の実施形態について具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0147】
(実施例1)
[Ag含有OCPの粉末の調製]
OCPの結晶を含む粉末として、Agを含有するOCPの粉末(以下、「Ag含有OCPの粉末」と称する)を、以下に示す方法で調製した。
純水20mlに、リン酸水素二アンモニウム1.0mol/L、硝酸銀0.000mol/L、0.001mol/L、0.005mol/L、0.010mol/L、0.030mol/L、0.050mol/L及び0.100mmol/Lとなるようにそれぞれ入れ、密閉容器中で60℃にて完全に溶解させた。溶解反応直後は、硝酸銀塩の生成に起因すると思われる黄色の沈殿が生じたが、60℃にて攪拌を継続することにより、硝酸銀濃度が0.030mol/L以下の試料である、硝酸銀濃度が0.000mol/L、0.001mol/L、0.005mol/L、0.010mol/L及び0.030mol/Lの試料では、無色澄明な溶液を得ることが出来た。
本来であれば、Agイオンは、本実施例において選択した弱塩基性条件下では酸化銀、あるいはリン酸銀などの不溶性の塩として沈殿する。しかし、共存イオンとしてNH4イオンを作用させることにより、AgとNH4の錯イオンが形成され、沈殿の発生を抑制しつつ比較的高濃度のAg溶液を得ることが出来たと考えらえる。
30mmol/L超の硝酸銀を含む試料をAgを含有するOCPの粉末の調製に使用する場合は、この溶液にさらに硝酸アンモニウムを2.0mol/Lの濃度で添加した。これにより、硝酸銀0.050mol/L及び0.1mol/Lという非常に高濃度においても、無色澄明な溶液を得ることができた。
【0148】
次に、得られた錯イオンを含有する溶液に、リン酸水素カルシウム二水和物(DCPD)を、2.39g入れ、10分間攪拌したのち60℃にて静置し、24時間反応させた。得られた沈殿物をデカンテーション法により液相と分離後、よく純水で洗浄し、40℃に設定した乾燥機中で完全に乾燥させた。得られた沈殿物は、反応に用いた硝酸銀の濃度が0.03mol/L以下の試料である、0.000mol/L、0.001mol/L、0.005mol/L、0.010mol/L及び0.030mol/Lの試料では白色であり、それを超える濃度である、硝酸銀濃度が50mmol/L、100mmol/Lの試料ではやや黄色であった。
沈殿物の色は、乾燥後の沈殿物を対象として色差計(日本電色工業株式会社製、ZE-2000)を用いて、色差計に添付された使用方法に従い反射法にて測定した。また、生体環境中での変色性を評価するため、沈殿物を37℃にてリン酸緩衝生理食塩水中にて振蕩し、沈殿物の色合いの変化についても同様の方法で評価した。
【0149】
これらの結果を
図6に示す。
図6では色差計による測定で得られたRGB値及びこの値をHSB値に変換した値を併記している。
RGBは色の表現方法の一つであり、赤、緑及び青の三原色を基本要素とし、それぞれの明度を0-255段階で指定することで特定の色を表現している。RGB値の三つの値の一番目が赤、二番目が緑、三番目が青の明度に相当する。
HSBはRGBとは異なる色の表現方法であり、色相(Hue)、彩度(Saturation)及び明度(Brightness)の三つの成分からなる。RGBで表現された色は一定の計算式からHSB値に一義的に変換することができる。HSB値の三つの値の最初の値(色相)は0-360の数値で色の種類を示し、60近辺で黄色、180近辺でシアン、300近辺でマゼンタを表現する。HSB値二番目の値は1-100の段階で彩度)を指定し、無彩色で低く、鮮やかな色味で高くなる。HSB値の三番目の値は明度を示し、白に近くなると高くなり、黒に近づくと低くなる。
硝酸銀濃度が0.03mol/L以下の試料である、0.000mol/L、0.001mol/L、0.005mol/L、0.010mol/L及び0.030mol/Lの試料では、沈殿物の着色の程度は低く、PBS振盪後の目立った色調の変化は観察されなかった。硝酸銀の濃度が0.1mol/L~0.5mol/Lであった試料では、PBS振盪前に黄色を示す沈殿物が確認され、PBS振盪後に顕著に変色し紫系統の着色が観察された。
【0150】
次に、得られた沈殿物をX線粉末構造解析法にて同定した。
図7は、Agを担持するOCPの粉末の低角部のXRDパターンを示すグラフである。硝酸銀濃度の増大に伴い、OCPに特徴的な4.7°付近のピークの相対強度が増大していく様子が確認され、OCP結晶構造の形成が誘導されていることが分かった。硝酸銀濃度が0.05mol/L以上では、OCPに加えリン酸銀(Ag
3PO
4)に相当するピークが観察された。
【0151】
XRDにてOCPと同定された沈殿物結晶へのAgの担持状態を評価するため、赤外分光法(FT-IR:サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、Nicolet NEXUS 670 FTIR)にて、沈殿物の官能基の状態を評価した。
OCPの単位格子には12個のPO4基があり、6種類の異なる化学状態で存在している。これらのPO4基は、いずれも異なるCaイオン、あるいはOH基と共役関係にあり、共役関係にあるイオンの状態や種類が変化すると、これに応じてPO4基の化学状態も変化する。
このため、PO4基の化学状態の変化を検出することで、PO4基と共役しているカチオンの種類を推定できる。
【0152】
図8は、Agを担持するOCPの粉末のFT-IRスペクトルを示すグラフである。
硝酸銀濃度が増大するに従い、P5PO
4と呼称されるHPO
4-OH層構造の根元に位置するPO
4基の化学状態が変化していった(
図8)。このことから、AgはHPO
4-OH層構造の根元にあるP5PO
4と共役関係にあるCaイオンを部分的に置換する形にてOCPの結晶構造中に担持されることが分かった。
【0153】
さらに、AgがどれくらいOCPの結晶構造中に担持されるかを評価した。得られた沈殿物を2%硝酸に完全に溶解させた後、誘導結合プラズマ原子発光吸光度法(ICP-AES:アジレントテクノロジー社製、5110VDV)にて、溶液中のCa、PO4、Ag濃度を測定し、その比率を取ることにより測定した。
【0154】
図9は、Ag担持OCPの粉末の処理時の硝酸銀溶液の濃度とOCPの粉末中の銀濃度の関係を示すグラフである。
図9に示すように、リン酸銀のような銀化合物が検出されない硝酸銀濃度において合成した沈殿物においてもAgが沈殿物中に含有されていることが分かった。Agは最大6.4at%程度OCP中に担持されることが分かった。
ICP-AESにより測定した結果から、Agを担持するOCP(以下、「Ag担持OCP」と称する)の化学組成を見積もることが出来る。本実施例にて調製したAg担持OCPの化学組成は、Ca
8-aAg
b(PO
4)
4(HPO
4)
2+c・5H
2O(a≦2、b≦2)を満足することが確認された。
【0155】
(実施例2)
[Cu含有OCPの粉末の調製]
錯イオン溶解液調製に使用した硝酸銀の代わりに硝酸銅三水和物を使用して、実施例1と同様の方法で、Cu含有OCPの粉末を調製した。
硝酸銅三水和物の濃度が0~0.2mol/Lの範囲内の複数の試料を調製した。0.2mol/Lの硝酸銅を含有する溶液においては、青色のゲル状の沈殿物が観察された。それより低い濃度では、群青色の溶液となっていた。
錯体イオン溶解液20mlに2.39gのDCPDを添加後、60℃で24時間反応させた後、得られた固相粉末(沈殿物)をデカンテーション法で分離し、蒸留水で複数洗浄した。
洗浄後の固相粉末を40℃で完全に乾燥させ、粉末試料とした。
【0156】
得られた粉末試料を、実施例1と同様に、XRD、ICP-AES及びFT-IRにより分析評価した。
【0157】
いずれも銅イオン濃度を含む溶液においても、OCPの(100)回折ピークに対応する4.7°のピークが観察された。また、4.7°のピーク強度と、倍数回折である9.2°のピーク強度比を取ったところ、銅イオンを含有していない系にくらべ、ピーク強度比が増大していた。このことから、Cuは、OCPのP5PO4共役サイトに担持されていることが示唆された。
【0158】
ICP-AESによる分析では、反応溶液中の硝酸銅濃度の増大に伴い、線形に試料中のCu濃度が増大することが示された。
【0159】
FT-IRスペクトラから、溶液中のCuイオン濃度の増大に伴い、P5PO4の化学状態が変動している様子が観察され、Cuがこの位置に担持されていることが示唆された。
【0160】
以上から、銅イオンも、銀イオンと同様に、OCP結晶の複数のカルシウムの一部を置換する形で、OCP結晶に担持させることができることが示された。
【0161】
(実施例3)
「Ag含有HAp及びCO3Apの粉末の調製」
HApの結晶を含む粉末として、Agを含有するHApの粉末(以下、「Ag含有HApの粉末」と称する)を、以下に示す方法で調製した。同時に、CO3Apの結晶を含む粉末として、Agを含有するCO3Apの粉末(以下、「Ag含有CO3Apの粉末」と称する)を、以下に示す方法で調製した。
実施例1に記載の方法で調整したAg含有OCPの粉末(硝酸銀の濃度:0.02mol/L)0.4gを、20mlの蒸留水及び濃度の異なる(NH4)2CO3溶液(0.1mol/L、0.2mol/L、0.5mol/L、1.0mol/L、2.0mol/L)中にそれぞれ80℃で3日間浸漬した。
浸漬後、固相成分を、蒸留水にて数回洗浄し、ドライオーブンにて80℃で1日間乾燥させ、Ag含有HAp及びCO3Apの粉末を得た。
【0162】
得られたAg含有HAp及びCO
3Apの粉末を、実施例1及び2と同様の方法で分析した。
図10はXRDパターンを示すグラフである。全ての試料において、OCPに特徴的な4.7°付近のピークは消え、参照用のHAp標品と類似したXRDパターンを示した。
また、得られた試料をSEMで観察した結果、粉末の微視的形態に顕著な変化は認められなかった(観察写真は示さず)。
【0163】
得られた試料について、CO
3イオンの結晶格子への導入をd-spacingの変化及びIR分析により分析した結果、浸漬に(NH
4)
2CO
3溶液を用いた試料において、結晶格子へのCO
3イオンの導入が認められた(d-spacingの変化の結果は示さず)。
図11は、Agを担持するHAp及びCO
3Ap粉末のFT-IRスペクトルを示すグラフである。
浸漬に(NH
4)
2CO
3溶液を用いた試料において、CO
3の吸収バンドが、1400~1500cm
-1付近に認められた。一方、蒸留水に浸漬され相変換処理を行った試料(CO
3-0.0mol/L)では、CO
3の吸収バンドは認められなかった。
【0164】
図12は、熱分析により粉末試料に含まれるCO
3の含有量を測定した結果を表すグラフである。得られた試料を熱分析により分析した結果、(NH
4)
2CO
3溶液の濃度が高くなるに従い、高い含有量のCO
3が含まれることが示された。
【0165】
次に、Ag含有OCPから相変換されたHAp又はCO
3Apにどの程度のAgが保持されているかを調べた。
図13は、得られた試料に含まれるAg含有量と浸漬時の(NH
4)
2CO
3溶液濃度との関係を示すグラフである。
蒸留水に浸漬された状態で相変換を行った試料は、出発材料であるAg含有OCPと同レベル(2.0原子%)のAgを含有していた。低濃度の(NH
4)
2CO
3溶液を使用した試料も、Ag含有OCPと同レベルのAgを含有していた。0.1mol/L~2.0mol/Lの(NH
4)
2CO
3溶液を使用した試料においては、Ag含有量が若干減少したが(1.6原子%)、0.2mol/L以上の範囲では濃度依存的なAg含有率の減少は見られず、そのままほぼ一定の値が保たれた。
【0166】
(実施例4)
[OCP構造をより発達させたAg担持OCPの粉末の調製]
実施例1にて調製したAg担持OCPの粉末(以下、「Ag担持OCPの粉末」と称する)は、部分的にAgがOCP結晶構造中のP5PO4基と共役関係にあったため、OCP固有の構造であるHPO4-OH層構造の発達が部分的であった。そこでNaイオンをさらに担持させ、OCP構造をより発達させたAg担持OCPの粉末の調製を試みた。
【0167】
1.0mol/Lのリン酸水素二アンモニウム及び0.0~0.1mol/L硝酸銀を含む溶液にさらに、硝酸ナトリウムを0.0~1.0mol/Lとなるように添加し、OCP結晶の層間構造の発達とAg及び、NaのOCPへの担持性について評価した。
【0168】
図14は、硝酸銀と硝酸ナトリウムの濃度の和とOCP層構造の発達との関係を表したグラフを示す。
硝酸銀と硝酸ナトリウムの濃度の和が0.1mol/L以上においては、XRDによる分析により、これらのカチオンがP5PO
4基と共役関係を良くなすことにより、OCP層構造が非常によく発達していることが分かった(
図14)。
次に、Na含有によるOCPの結晶粉末中のAg担持量について評価した。NaとAgはOCPの結晶構造中に2つ同位で存在するサイトに担持されるため、競合、或いは共役などの機構により、Ag担持量が変動することが示唆される。このため、得られたOCP試料についてICP-AESを用いて元素分析することにより、Ag担持量に対するNaの影響について検討した。
【0169】
図15は、Na濃度とOCPの粉末中のAg濃度の関係を表したグラフである。合成時に用いた硝酸銀溶液の濃度にもよるが、硝酸ナトリウムの濃度増大に伴い、OCP中のAg濃度は漸減した。硝酸ナトリウムを入れていない系に比べ、0.5mol/L硝酸ナトリウムの系においては、OCP中のAg担持量は凡そ30-80%程度まで減少した(
図15)。しかし、後述する実施例5に示すように、漸減後のAg担持量であっても十分な抗菌性が発揮される。試料の化学組成は、Ca
8-aNa
bAg
c(PO
4)
4(HPO
4)
2+d・5H
2O(b+c≦2)を満足することが確認された。
【0170】
(実施例5)
[Ag担持OCP系ブロック材の調製]
炭酸カルシウム50gと、リン酸水素カルシウム二水和物172gと、1%ポリビニルアルコール‐1%ポリエチレングリコール溶液を30mLを遊星ボールミルのジルコニアジャーにジルコニアボールと共に入れ、フリッチュ社製遊星ボールミル(P-5)にて200rpmにて1時間粉砕し完全にこれらを混合させた。
【0171】
その後、アルミナ深皿に混合物を入れ、電気炉中で900℃にて12時間焼成し、β型リン酸三カルシウム(β-TCP:Ca3(PO4)2)を得た。得られた試料は、XRDにて同定した。得られたβ‐TCPを5gと、リン酸二水素カルシウム水和物(MCPM:Ca(H2PO4)2・H2O)を3gとを、よく乾燥させた自動乳鉢にて30分混合し、ブルッシャイトセメント粉末を得た。得られたブルッシャイトセメント粉末は吸湿による劣化を防止するため、60℃にて保管した。
【0172】
ブルッシャイトセメント粉末約0.1gをシリコンゴムシートモールド(φ6×3mm)に填入後、70%エタノール0.02mLを滴下し、クリップで圧縮することにより混合粉末を一次硬化させた。一次硬化後、圧縮したまま湿度100%、40℃下にて24時間以上養生し、一次硬化を完了させた。その後、クリップを除去し、再び湿度100%、40℃にて水蒸気に24時間以上晒すことにより、前駆体セラミックスブロックとなるDCPA硬化体を得た。
【0173】
得られたDCPA硬化体10個を、1mol/Lのリン酸水素アンモニウム、0.02mol/Lの硝酸銀及び2mol/Lの硝酸ナトリウムを含む溶液20mLに70℃にて3日間浸漬した。浸漬後、蒸留水にて余剰な反応溶液を除去後、40℃の乾燥機中で完全に乾燥させた。
図16は、Ag担持OCPのブロック材の写真を示す。浸漬後の成型体は、前駆体セラミックスブロックであるDCPA硬化体の外形をほぼ維持していた(
図16)。島津製作所製万能試験機(AGS-X)にて、クロスヘッドスピード1mm/mにてダイアメトラル引張強さを測定したところ、2.5±0.8MPaであった。
Ag担持のOCPのブロック材のXRDパターンを示す。試験片についてXRD測定をしたところ、ほぼOCPからなる成型体に組成変換していることが分かった(
図17)。
得られたOCPのブロック材を固相のまま相変換することにより、OCPの場合と同様に、HAp及びCO
3Apのブロック材を製造することができた(データは示さず)。
【0174】
(実施例6)
[Ag担持OCPの多孔体の調製]
実施例3にて調製したブルッシャイトセメント粉末を、パン型造粒機に約1g入れ、パンを40°傾斜させ、20rpmの回転速度にて回転させ、ブルッシャイトセメント粉末がパン型造粒機内を滑り落ちるように調節した。
ここに霧吹き機を用いて純水を吹き付け、粉末を固めて球状とすることで球状のブルッシャイトセメント粉末硬化体を得た。30分以上造粒機を回転させたままの状態に保ち、余剰水を除去したのち、ポリスチレントレーに得られたブルッシャイトセメント粉末硬化体からなる反応物を取り、40℃にて乾燥させた。その後、ふるい振盪器を用いてブルッシャイトセメント粉末硬化球を0.10-0.25mm、0.25-0.50mm、0.50-1.00mm、1.00-2.00mmとなるように分級した。分級したブルッシャイトセメント粉末硬化球は、60℃にて保管した。
【0175】
分級したブルッシャイトセメント粉末硬化球を、シリコンゴムシートモールド(φ6×3mm)に填入後、0.4~0.9mol/Lリン酸二水素カルシウム飽和H3PO4溶液を0.02mL滴下した後クリップで固定された状態で、硬化球表面にDCPD結晶を析出させる硬化反応を惹起させることで内部に多孔構造を持つペレット状成型体を得た。
【0176】
得られたペレット状成型体10個を、1mol/Lリン酸水素アンモニウム‐0.02mol/L硝酸銀‐2mol/L硝酸ナトリウム混合溶液20mLに70℃にて3日間浸漬した。浸漬後、蒸留水にて余剰な反応溶液を除去後、40℃の乾燥機中で完全に乾燥させた。
浸漬後のペレット状成型体は、前駆体セラミックスブロックであるDCPA硬化体の外形をほぼ維持していた(
図18)。
【0177】
島津製作所製万能試験機(AGS-X)にて、クロスヘッドスピード1mm/mにてダイアメトラル引張強さを測定したところ、0.36MPaであった。また、試験片についてXRD測定をしたところ、ほぼOCPからなる成型体に組成変換していることが分かった(
図19)。
得られたOCPの多孔体を固相のまま相変換することにより、OCPの場合と同様に、HAp及びCO
3Apの多孔体を製造することができた(データは示さず)。
【0178】
(実施例7)
[Ag担持OCPの粉末のS.mutansに対する抗菌性評価]
Ag担持OCPの粉末のS.mutans(Streptococcus mutans)に対する最小発育阻止濃度を評価した。ハートインフュジョンブイヨン培地(栄研化学株式会社、製品番号:E-MC04 110929)中にてタイプカルチャー株(Streptococcus mutans Clark 1924、ATCC 25175)のS.mutansを接種した。L字管に5mL入れたブイヨン培地中で37℃、24時間、100rpmの振盪速度で振盪し培養した。
吸光度計を用いて630nmの吸光度を測定することにより、S.mutansが対数増殖期となっていることを確認後、菌液を0.1mL取り、これを新たに5mLのブイヨン培地に接種した。
【0179】
ここに0.01g/mLの濃度になるように、実施例1で調製したAg担持OCPの粉末を懸濁させた。これを37℃、100rpmの振盪速度で24時間作用させ、Ag担持OCPの粉末の抗菌性を評価した。
24時間作用後、室温環境下で5分間静置し、ブイヨン培地中に懸濁させたAg担持OCPの粉末を沈殿させた後、上澄みをPBS溶液で適宜希釈後、寒天培地(φ100)上に0.1mL接種した。3日間、37℃で培養後、寒天培地上に形成したコロニー数をカウントし、抗菌性を評価した。
【0180】
また、作用後のAg担持OCPの粉末上でのS.mutansの発育性を評価するため、作用後のAg担持OCP粉末をPBSで複数回洗浄後、中性緩衝ホルマリンにて固定後、脱水し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察を行った。
さらに、培地中に溶出したAg濃度を測定するため、培地を200nmシリンジフィルターにて濾過後、2%硝酸で20倍に希釈し、溶液中のAgイオン濃度をICP-AESで測定した。
【0181】
Ag担持OCPの粉末中のAg濃度が1.5at%以上のOCPの粉末においては、形成したコロニー数は顕著に減少した(
図20)。Ag濃度が2.7at%以上では、Agを担持していないOCPに比べ、コロニー数は100分の1程度になっており、顕著な抗菌効果があることが分かった(
図21)。
また、粉末上における菌を実視観察したところ、Ag濃度が1.5at%以下では、球状の菌が連なった構造が観察されたものの、Ag濃度が2.7at%の試料では、ごく少ない菌のみ観察され、さらに一部の菌実体が崩壊している所見が観察された(
図22)。
また、これ以上の濃度では菌実体を観察することが出来なかった。
また、作用後の培地中からはAgはほぼ検出限界以下のAgイオンのみしか測定されなかった。このため、Agは培地中に溶解して抗菌性を作用するのではなく、接触することにより抗菌性を発揮しているものと考えられる。
【0182】
(比較例1)
[NH4を含有しない溶液中におけるAg担持OCP粉末の調製]
NH4イオンのAgイオンの塩基性溶液中での分散能を評価するため、(NH4)2HPO4溶液の替わりに、Na2HPO4を塩基性リン酸溶液として用いた。
純水20mlにリン酸水素二ナトリウムを1.0mol/L、硝酸銀を0.0-0.1mol/Lとなるように入れ、密閉容器中で60℃にて攪拌した。その結果、硝酸銀溶液が0.001mol/L以上の濃度においては、溶液中に生じた黄色沈殿物が溶解せずに懸濁している様子が観察された。
この黄色沈殿物が生じている懸濁液中でDCPDを加水分解しOCPを調製することを試みたところ、顕著に黄色に着色した沈殿物が得られた。得られた沈殿物は、いずれもリン酸銀を含有していた。
【産業上の利用可能性】
【0183】
従来よりも有用な骨補填材等を提供することができる。