(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】受信システム、通信補償要求装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04N 21/438 20110101AFI20231227BHJP
G06N 3/08 20230101ALI20231227BHJP
H04B 17/373 20150101ALI20231227BHJP
【FI】
H04N21/438
G06N3/08
H04B17/373
(21)【出願番号】P 2019170843
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】阿部 晋矢
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽一
(72)【発明者】
【氏名】小泉 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】横畑 和典
(72)【発明者】
【氏名】筋誡 久
【審査官】富樫 明
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-364272(JP,A)
【文献】特開2019-080144(JP,A)
【文献】特開2008-113139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 21/00-21/858
G06N 3/08
H04B 17/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放送波の減衰時に通信により補償データを受信する受信システムで用いられる通信補償要求装置であって、
受信した前記放送波の受信電波品質を記録し、受信電波品質データ列を出力する記録部と、
再帰型ニューラルネットワーク(RNN)を備え、前記受信電波品質データ列を入力として、所定時間後の受信電波品質を予測し、又は、所定時間後に前記補償データを要求すべきかの判定を予測し、前記予測に基づいて前記補償データの要求信号を出力する予測部と、
前記受信電波品質データ列から学習データを生成する学習データ生成部と、
を備え
、
前記再帰型ニューラルネットワークは、学習モード時に、前記学習データに基づいて、所定時間後の受信電波品質又は所定時間後に補償データを要求すべきかの判定を予測する学習を行い、
前記学習データ生成部は、
前記受信電波品質データ列を保存する保存部と、
前記受信電波品質データ列を用いて、放送波が受信不可能となる受信電波品質を含み、学習データとして有効な範囲を判定する判定部と、
前記保存部の前記受信電波品質データ列から前記判定部で判定された前記範囲の受信電波品質データ列を選択して、学習データを生成する生成部と、を備え、
前記学習データは、入力データである受信電波品質データ列と、前記受信電波品質データ列が入力される時点から所定時間後の受信電波品質である正解受信電波品質及び前記受信電波品質データ列が入力される時点から所定時間後に補償データを要求すべきかを判定した正解補償要求判定の少なくとも一方を、組とし、
前記判定部は、
前記受信電波品質データ列のうち最新の受信電波品質データを確認し、最新の受信電波品質データが受信不可能となる受信電波品質となるときを挟んで、通常時の受信電波品質が劣化した受信電波品質となる第1の時点と劣化した受信電波品質が通常時の受信電波品質に戻る第2の時点とを特定し、前記第1の時点と前記第2の時点の間の範囲に予め定めたマージンを加えて、前記学習データとして有効な範囲とすることを特徴とする、通信補償要求装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の通信補償要求装置において、
前記記録部は、一定間隔で前記受信電波品質を記録し、所定個数の受信電波品質データを保持するバッファを備え、前記一定間隔ごとに前記バッファに保持する前記受信電波品質データを受信電波品質データ列として出力することを特徴とする、通信補償要求装置。
【請求項3】
請求項
1又は2に記載の通信補償要求装置において、
前記予測部は、内部に前記再帰型ニューラルネットワークを備え、前記受信電波品質データ列を入力として所定時間後の受信電波品質を予測し、又は、所定時間後に前記補償データを要求すべきかの判定を予測して出力する、RNN部と、
入力された前記受信電波品質データ列の最新のデータと、前記RNN部から出力された受信電波品質の予測又は前記補償データを要求すべきかの判定の予測に基づいて、補償データサーバに前記補償データの要求信号を出力する補償データ要求部と
を備えることを特徴とする、通信補償要求装置。
【請求項4】
コンピュータを、請求項
1乃至
3のいずれか一項に記載の通信補償要求装置として機能させるためのプログラム。
【請求項5】
放送波を受信し、復調及びデコードする放送波受信装置と、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の通信補償要求装置であって、前記放送波の受信状況の時系列データに基づいて、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)により受信の所定時間後の放送波の受信状況を予測し、受信状況の悪化が予測される場合、通信による補償データを要求する通信補償要求装置と、
前記通信補償要求装置の要求への応答として得られる前記補償データを受信し、デコードする補償データ受信装置と、
前記放送波の受信状況に基づいて、前記放送波受信装置から出力される放送波受信データと前記補償データ受信装置から出力される前記補償データを切替えて出力する放送波補償データ切替器と、
を備える受信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信システム、通信補償要求装置、及びプログラムに関し、特に、放送波の減衰時に通信によりデータを補償する受信システム、その通信補償要求装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
衛星放送及び地上放送のデジタル方式の放送波において、衛星デジタル放送では降雨による減衰、地上デジタル放送ではフェージングなどにより伝送条件が悪化した場合、放送波の受信が困難となる。降雨減衰に関しては、周波数が大きいほど減衰量が増えるため、将来利用可能となる21GHz帯の電波を使用した衛星放送では更なる受信状況の悪化が懸念される。降雨減衰やフェージングなどにより、受信状況が悪化した際にも継続してコンテンツを視聴できるよう放送波への補償技術が求められる。放送波の受信が困難となった場合、例えばインターネット網等を利用した通信による同一内容のコンテンツ配信(補償データ)を受信し、継続してコンテンツを視聴可能な補償技術が複数提案されている(特許文献1~4)。
【0003】
ここで、「放送」とは、不特定多数のユーザに対してコンテンツをブロードキャストする伝送方式をいい、特に、電波による配信を想定している。また、「通信」とは、双方向で情報の送受信を行う伝送方式いい、特に、IP(Internet Protocol)ネットワーク等を介してデータを取得し、コンテンツを補完する手段を想定している。
【0004】
これらの通信による放送波の補償を考えた場合、放送波が完全に受信不可能となってから通信によりコンテンツを要求するのではなく、放送波の受信状況の悪化を予測し、事前にコンテンツを要求することで安定した視聴が継続できることが望ましい。
【0005】
衛星放送の受信において、受信状況の悪化を予測してコンテンツを要求し、放送波の補償を行う仕組みについて提案する文献もあるが(特許文献5)、具体的な予測手段について言及していない。また、移動体での地上放送の受信について、受信が難しい場所に移動する際に通信により補償する場合、移動体の緯度経度の連続情報から将来の移動体の緯度経度を予測し、事前にコンテンツを要求する仕組みが提案されている(特許文献6)。しかし、移動先を予測する手法は移動体での放送波の補償については有効だが、衛星放送の降雨減衰や、地上放送でのフェージングのような固定受信で起こりうる受信状況の悪化の予測に適用することはできない。これまで提案された事前にコンテンツを要求する仕組みは、受信状況の予測とは異なり、例えば、常に放送波の受信C/N(キャリア(Carrier)ノイズ(Noise)比)を計測し、受信C/Nの値について受信不可能となる値に対し一定のマージンを取ることで、受信不能になるある程度前にコンテンツを要求するというものである(特許文献7)。
【0006】
放送波の受信状況の時系列変化の予測としては、衛星放送の降雨減衰予測が提案されている(特許文献8)。例えば、観測地点に置かれた雨量計の10分間の計測値の記録、若しくは気象庁の観測地点の10分間雨量データから、その観測地点の今後の1分間の雨量値を確率的に予測する。この予測に基づいて、降雨減衰により受信状況が悪化する地域については、例えばフェーズドアレイアンテナを利用して電力を増強し、受信状況を改善することを言及している。しかし、気象庁の観測地点はフェーズドアレイアンテナの増力ポイントを決定するには十分かもしれないが、各受信装置の置かれる各家庭の受信状況悪化を予測するには地点数が足りない。もちろん、各家庭に雨量計を設置することは難しい。また、通信での補償を考えた場合、1分間よりも短い時間間隔での受信状況予測が求められる。また、地上デジタル放送のフェージングには対応できない。
【0007】
一方、気象予測、気象予報に関する提案は多く、例えば放送衛星や通信衛星の受信強度を測定し、測定した受信強度から雲の量といった気象情報を測定し、その測定結果をもとに気象予測を実施する手法が提案されている(特許文献9)。しかし、これらの手法で目的としていることは気象予測であり、放送波の受信状況の予測を目的としていない。
【0008】
将来衛星放送として検討される21GHz帯を含むKa帯の電波の降雨減衰予測として、多層パーセプトロンを利用した手法(非特許文献1)、或いは、金融に用いられる統計学的な時系列モデルであるARIMA/GARCHモデルを用いた手法(非特許文献2)が提案されている。これらの提案は、電波の降雨減衰を関数的手法で予測し、前述のフェーズドアレイアンテナや、送信局のサイトダイバーシティへ利用することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-40380号公報
【文献】特開2004-220569号公報
【文献】特開2017-199956号公報
【文献】国際公開第2015/048569号
【文献】特開2012-138649号公報
【文献】特開2007-259049号公報
【文献】特開2003-134064号公報
【文献】特開2006-246375号公報
【文献】特開2005-318398号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】A. P. Chambers and I. E. Otung, “Neural network approach to short-term fade prediction on satellite links,” Electron. Lett., (2005), vol. 41, no. 23, pp. 45-46
【文献】L. De Montera, C. Mallet, L. Barthes, and P. Gole, “Short-term prediction of rain attenuation level and volatility in Earth-to-Satellite links at EHF band,” Nonlinear Process. Geophys., (2008), vol. 15, no. 4, pp. 631-643
【文献】F. Chollet et al., “Keras,” インターネット<URL: https://keras.io>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
デジタル放送の受信状況悪化に対して通信により安定的に補償する場合、デジタル放送の受信状況の予測が求められる。しかし、上記の通り、これまでの提案は降雨減衰やフェージングのような時系列的な受信状況の悪化を予測する仕組みがなく、場合によってはコンテンツが欠損する、欠損しなくとも通信との接続まで再生を待たされる状況が生じてしまう。
【0012】
受信不可能となる値に対し、適切なマージンを取った閾値を利用することで、受信状況の悪化を予測していることと類似した効果は得られるが、例えば降雨減衰であれば地域や季節によって突然雨量が増して減衰前にコンテンツを要求できない場合や、悲観的に閾値を用意してしまうと常に通信からコンテンツを要求し続けてしまう場合等が生じ、それぞれの受信装置の状況に合わせた閾値を用意することは難しい。
【0013】
また、雨量データ等を用いて降雨減衰の時系列変化を予測する手法は、送信装置への適用が前提であり、各受信装置、例えば各家庭のテレビに実装して受信状況の変化を予測することは難しい。気象予測や受信状況の悪化を予測する手法は提案されているが、受信電波の時系列データを活用して、受信状況の時系列変化を予測し、受信装置に適用する手法は提案されていない。
【0014】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、各受信装置(受信システム)で計測可能な受信電波の状態のみを入力として受信状況の時系列変化を予測し、受信状況が悪化した際にも、安定したコンテンツ視聴を継続することができる受信システム、通信補償要求装置、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために本発明に係る通信補償要求装置は、放送波の減衰時に通信により補償データを受信する受信システムで用いられる通信補償要求装置であって、受信した前記放送波の受信電波品質を記録し、受信電波品質データ列を出力する記録部と、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)を備え、前記受信電波品質データ列を入力として、所定時間後の受信電波品質を予測し、又は、所定時間後に前記補償データを要求すべきかの判定を予測し、前記予測に基づいて前記補償データの要求信号を出力する予測部と、前記受信電波品質データ列から学習データを生成する学習データ生成部と、を備え、前記再帰型ニューラルネットワークは、学習モード時に、前記学習データに基づいて、所定時間後の受信電波品質又は所定時間後に補償データを要求すべきかの判定を予測する学習を行い、前記学習データ生成部は、前記受信電波品質データ列を保存する保存部と、前記受信電波品質データ列を用いて、放送波が受信不可能となる受信電波品質を含み、学習データとして有効な範囲を判定する判定部と、前記保存部の前記受信電波品質データ列から前記判定部で判定された前記範囲の受信電波品質データ列を選択して、学習データを生成する生成部と、を備え、前記学習データは、入力データである受信電波品質データ列と、前記受信電波品質データ列が入力される時点から所定時間後の受信電波品質である正解受信電波品質及び前記受信電波品質データ列が入力される時点から所定時間後に補償データを要求すべきかを判定した正解補償要求判定の少なくとも一方を、組とし、前記判定部は、前記受信電波品質データ列のうち最新の受信電波品質データを確認し、最新の受信電波品質データが受信不可能となる受信電波品質となるときを挟んで、通常時の受信電波品質が劣化した受信電波品質となる第1の時点と劣化した受信電波品質が通常時の受信電波品質に戻る第2の時点とを特定し、前記第1の時点と前記第2の時点の間の範囲に予め定めたマージンを加えて、前記学習データとして有効な範囲とすることを特徴とする。
【0019】
また、前記通信補償要求装置は、前記記録部が、一定間隔で前記受信電波品質を記録し、所定個数の受信電波品質データを保持するバッファを備え、前記一定間隔ごとに前記バッファに保持する前記受信電波品質データを受信電波品質データ列として出力することが望ましい。
【0020】
また、前記通信補償要求装置は、前記予測部が、内部に前記再帰型ニューラルネットワークを備え、前記受信電波品質データ列を入力として所定時間後の受信電波品質を予測し、又は、所定時間後に前記補償データを要求すべきかの判定を予測して出力する、RNN部と、入力された前記受信電波品質データ列の最新のデータと、前記RNN部から出力された受信電波品質の予測又は前記補償データを要求すべきかの判定の予測に基づいて、補償データサーバに前記補償データの要求信号を出力する補償データ要求部とを備えることが望ましい。
【0023】
上記課題を解決するために本発明に係るプログラムは、コンピュータを、上記通信補償要求装置として機能させることを特徴とする。
また、上記課題を解決するために本発明に係る受信システムは、放送波を受信し、復調及びデコードする放送波受信装置と、前記通信補償要求装置であって、前記放送波の受信状況の時系列データに基づいて、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)により受信の所定時間後の放送波の受信状況を予測し、受信状況の悪化が予測される場合、通信による補償データを要求する通信補償要求装置と、前記通信補償要求装置の要求への応答として得られる前記補償データを受信し、デコードする補償データ受信装置と、前記放送波の受信状況に基づいて、前記放送波受信装置から出力される放送波受信データと前記補償データ受信装置から出力される前記補償データを切替えて出力する放送波補償データ切替器と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明における受信システム、通信補償要求装置、及びプログラムによれば、各受信装置(受信システム)で計測可能な受信電波の状態のみを入力として受信状況の時系列変化を予測し、受信状況が悪化した際にも、安定したコンテンツ視聴を継続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の受信システムの全体図の例を示す図である。
【
図2】本発明の通信補償要求装置の構成の一例を示す図である。
【
図3】受信電波品質データ列の作成例を説明する図である。
【
図4】学習データ生成部の構成の一例を示す図である。
【
図5】判定部の動作アルゴリズムを示すフローチャートの一例である。
【
図6】学習データの有効範囲の決め方を説明する図である。
【
図7】学習データを作成する例を説明する図である。
【
図9】補償データ要求部の動作アルゴリズムを示すフローチャートの一例である。
【
図10】補償データ要求部の動作アルゴリズムを示すフローチャートの別の例である。
【
図11】本発明の通信補償要求装置の構成の別の例を示す図である。
【
図12】2018年8月3日における21GHz帯のビーコン電波受信状況を示す図である。
【
図13】学習データとして有効と判定された受信状況データの範囲を示す図である。
【
図14】2018年9月4日における21GHz帯のビーコン電波受信状況を示す図である。
【
図15】予測受信電波品質の変化と、補償データの要求期間を示す図である。
【
図16】閾値にマージンを設けた場合の補償データ要求期間を示す図である。
【
図17】閾値調整をした場合の受信状況の予測に基づく補償データ要求期間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0027】
図1に、本発明の受信システムの全体図の例を示す。受信システム100は、放送波受信装置10、通信補償要求装置20、補償データ受信装置30、及び放送波補償データ切替器40を備える。受信システム100は、更に再生装置50を備えてもよい。
【0028】
放送波受信装置10には、放送波として、衛星アンテナ61で受信された衛星放送、及び/又は、地上波アンテナ62で受信された地上放送が入力される。放送波受信装置10は、受信した放送波を復調及びデコード(復号)し、デコードした番組(コンテンツ)を放送波受信データとして放送波補償データ切替器40へ出力する。通常の受信状態であれば、放送波受信装置10でデコードされた番組が、切替器40を介して再生装置50に入力され、再生される。放送波が再生できないほど受信状況が悪化した場合、放送波受信装置10は、放送波補償データ切替器40へ切替信号を出力する。
【0029】
受信した放送波は通信補償要求装置20にも入力され、受信状況が分析される。ここで、受信状況とは放送波の受信電波の状態であり、受信電界値、MER(Modulation Error Ratio:変調誤差比)、BER(Bit Error Rate:ビット誤り率)、C/N等を用いて定量的に検出し得るデータである。通信補償要求装置20は、放送波の受信状況の時系列データに基づいて、再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)により受信状況の時系列変化(受信の所定時間後の放送波の受信状況)を予測する。受信状況の悪化が予測される場合、通信により補償データサーバ120へ補償データを要求する要求信号を出力する。なお、後述するとおり、再帰型ニューラルネットワークの学習は、通信補償要求装置20の内部で実施することも可能だが、外部の学習サーバ110に受信状況の記録データを送信し、学習については外部で実行し、学習サーバ110で構築された学習済みの再帰型ニューラルネットワークモデル(RNNモデル)を受信し、通信補償要求装置20に反映することも可能である。
【0030】
補償データ受信装置30は、通信補償要求装置20からの要求信号に対する応答として補償データサーバ120から通信で届いた補償データを受信し、これをデコードして、放送波補償データ切替器40へ出力する。
【0031】
放送波補償データ切替器40は、放送波受信装置10でデコードされた番組(放送波受信データ)と、補償データ受信装置30でデコードされた補償データとが入力され、その一方を再生装置50に出力する。通常の受信状態であれば、放送波補償データ切替器40は放送波データを再生装置50に出力するが、放送波が再生できないほど受信状況が悪化した場合、放送波受信装置10からの切替信号に基づいて切替えを行い、補償データを再生装置50に出力する。なお、受信状況の復帰後は、再び切替信号に基づいて放送波データを再生装置50に出力する。
【0032】
再生装置50は、一般的な表示装置及び音声出力装置等であり、放送波補償データ切替器40から入力されるデータを再生する。切替器40の動作に基づいて、通常時は放送波受信データを再生するが、受信状況が悪いときは補償データを再生する。
【0033】
次に、通信補償要求装置20について、詳細に説明する。
図2に通信補償要求装置20の構成の一例を示す。本実施形態では、通信補償要求装置20は、記録部21、学習データ生成部22、及び予測部23を備える。
【0034】
記録部21は、受信アンテナ61,62より放送波が入力され、放送波を分析して、受信電界値、或いは、MER、C/Nといった受信電波品質を記録する。受信電界値、MER、C/N等をそれぞれ記録してもよいし、いずれか1つを記録し、受信状況の予測に用いてもよい。なお、受信電界値は放送波の番組再生が可能か否かを決定するデータとなり得るから、本明細書では、受信電界値も受信電波品質の一つとして取り扱う。後述のとおり、記録部21は、受信電波品質データ列を作成し、学習データ生成部22、及び予測部23へ、一定間隔で、すなわち、単位時間(サンプリング時間)tごとに出力する。
【0035】
学習データ生成部22は、記録部21から出力された受信電波品質データ列を受信し、再帰型ニューラルネットワークが学習を行うための学習データを生成する。生成した学習データは予測部23に出力する。
【0036】
予測部23は、内部に再帰型ニューラルネットワーク(RNN)を備え、放送波の受信状況の時系列変化を予測し、受信状況の悪化が予測される場合、補償データの要求信号を出力する。予測部23の動作は、学習モード時の動作と予測モード時の動作に分けられる。学習モード時は、学習データ生成部22から出力された学習データをもとに、再帰型ニューラルネットワークの学習を実施し、パラメータの最適化等を行う。予測モード時は、記録部21から入力される受信電波品質データ列を用いて、所定時間後の受信状況(受信電波品質)又は所定時間後に補償データを要求すべきかの判定を予測する。予測結果から補償データの要求が必要と判断された場合、予測部23は要求信号を通信により出力し、補償データを要求する。
【0037】
図3は、記録部21における受信電波品質データ列の作成例を説明する図である。記録部21は一定間隔、すなわち単位時間(サンプリング時間)tごとに受信電波品質Rを記録するものとし、記録部21のバッファに受信電波品質Rのデータが記録される。予測部23で受信電波品質を予測する際、過去n個(nは1以上の整数)のデータを使用し、予測先変数p(pは1以上の整数)を定義し時刻Tからp×t後の受信電波品質を予測する場合、又はp×t後に補償データを要求すべきかを予測する場合、記録部21は少なくともn個のデータを保持する。
【0038】
図3(a)は、ある時刻Tにて、R
1からR
nのデータ(R
nが時刻Tで記録された最新の受信電波品質データである。)が記録部21のバッファに保存されている状況を示している。この時、記録部21は、R
1からR
nのn個のデータからなる受信電波品質データ列を一つのデータセットとして、学習データ生成部22、及び予測部23に出力する。
【0039】
図3(b)は、次に受信電波品質Rが記録される時刻T+tの時点の記録部21のバッファの状態を示す。時刻Tの状態と比較して、時刻T+tのデータR
n+1が追加され、最も古いデータR
1が削除されて、記録部21のバッファにはR
2からR
n+1が保存されている。このとき、記録部21は、R
2からR
n+1のn個のデータからなる受信電波品質データ列を学習データ生成部22、及び予測部23に出力する。この後も、時刻T+2tにおいて、記録部21は、R
3からR
n+2の受信電波品質データ列を学習データ生成部22、及び予測部23に出力する。以下、同様にデータ出力を行う。
【0040】
図4に、学習データ生成部22の構成の一例を示す。学習データ生成部22は、受信電波品質データ列の保存部221、データ有効範囲の判定部222、及び学習データの生成部223を備える。
【0041】
保存部221では記録部21から入力される受信電波品質データ列を保存する。また、保存したデータ列を、生成部223に出力する。ここでは、受信電波品質データ列をR
xy[xはデータ取得時刻、yはデータ列の中での番号(1≦y≦n)を示す。]と表現することとする。
図3(a)における記録部21からの出力を例とすると、R
T1=R
1、R
T2=R
2、...R
Tn=R
nとなる。
【0042】
判定部222は、記録部21からの入力である受信電波品質データ列から学習データとして有効な範囲を判定する。再帰型ニューラルネットワークの学習を行う際、通常状態の時系列データを教師データとするよりも、放送波が受信不可能となる受信電波品質Rの閾値Rthを下回る変化を含むデータを教師データとして利用した方が、受信状況の悪化を予測する場合は有効であることが実験的に分かっている。そのため、判定部222では直近の受信電波品質データであるRxnをもとに、受信状況が悪化した時間帯を含むように、学習データとして利用する範囲を判定する。判定部222の動作アルゴリズムは後述する。判定部222は学習データとなる有効範囲(有効範囲の始めと終わりの時刻情報S,E)を出力する。
【0043】
生成部223は、判定部222から入力される時刻情報S,Eと、保存部221に保存されている受信電波品質データ列Rxyにより、有効範囲の受信電波品質データ列Rxy (S≦x≦E、1≦y≦n)を選択し、この有効範囲の受信電波品質データ列を用いて学習データを生成する。生成部223の動作については後述する。
【0044】
図5は、判定部222の動作アルゴリズムを示すフローチャートの一例である。以下、各ステップを説明する。
【0045】
ステップS1:FlagをFalseとして(Flag←False、以下同様に記述する。)、アルゴリズムを開始する。なお、アルゴリズムは、データサンプリングの時間tごとにステップS2~S10のループを1回実施する。
【0046】
ステップS2:通常時の受信電波品質をRnormalとし、ある時点iに入力された受信電波品質データ列をRiy(1≦y≦n)とするとき、最新のデータRinとRnormalを比較する。Rin>RnormalのときステップS3へ、Rin≦RnormalのときステップS8へ進む。なお、フローチャートにおいて、時刻を示す記号i,a,b,S,E等は、実際の時刻を単位時間tで割った時刻番号を示す記号である。
【0047】
ステップS3:Flagを判断する。Flag=Trueの時、ステップS4に進み、Flag=Falseの時、ステップS7に進む。(Trueの状態は、その時間帯が学習データとなり得ることを意味する。)
【0048】
ステップS4~S6:Rin>RnormalかつFlag=Trueの時、b←iとする(S4)。その後、S←a-Ms、E←b+Meとし、SとEの値を出力する(S5)。ここで、Ms及びMeはマージンとし、Ms≧n+p、Me≧pの範囲の任意の値とする。そして、Flag←Falseに戻し(S6)、処理を終了してステップS10に進む。なお、マージンの範囲について、Meは、p×t後(pは予測先変数)を予測するのにp個先のデータセットを確保するためであり、Msは、さらに1つのデータセットにn個データが必要なためである。
【0049】
ステップS7:Rin>RnormalかつFlag=Falseの時、a←iとし、ステップS10に進む。
【0050】
ステップS8~S9:ステップS2でRin≦Rnormalの場合、Rinと放送波が受信不可能となる受信品質の閾値Rthとを比較する(S8)。Rin<Rthの場合、Flag←Trueとし(S9)、Rin≧Rthの場合は、そのまま処理を終了し、ステップS10に進む。
【0051】
ステップS10:それぞれのルートの処理を終了した後は、iをインクリメントし(i←i+1)、ループの最初に戻る。アルゴリズムは、次のサンプリング時点(i+1)でステップS2から再スタートする。
【0052】
図5のアルゴリズムによる、学習データの有効範囲の時刻情報S,Eの決め方について、
図6に基づいて説明する。
図6は、横軸を時間、縦軸を受信電波品質R
in(受信電波品質データ列のうち最新の受信電波品質データ)の値としており、時間とともに受信電波品質R
in(実線で示す)が変動している様子を示している。
【0053】
放送波が受信不可能となる受信品質の閾値をRthとする。放送波の受信電波品質が閾値Rthを下回った点(Flag←Trueとなる)を境に前後でRnormalとなっている時刻をa及びbとする(a,bは時刻番号であるので、実際の時刻はa×t,b×t(tは単位時間)となる。)。過去n個のデータを使用し、p×t後を予測するため、マージンのパラメータMs≧n+p、Me≧pとする。時刻aよりも時間Ms(Ms×t)だけ早い時刻をS(有効範囲の開始時)とし、時刻bよりも時間Me(Me×t)だけ遅い時刻をE(有効範囲の終了時)とする。SとE(実際の時刻はS×t,E×t)の間の受信電波品質データ列が、学習データに用いられる。
【0054】
すなわち、最新の受信電波品質データRinが受信不可能となる受信電波品質となるとき(Flag←True)を挟んで、通常時の受信電波品質が劣化した受信電波品質となる第1の時点(a)と劣化した受信電波品質が通常時の受信電波品質に戻る第2の時点(b)とを特定し、前記第1の時点と前記第2の時点の間の範囲に予め定めたマージン(Ms、Me)を加えて、学習データとして有効な範囲(S~E)とする。
【0055】
図7は、生成部223で学習データを作成する例を説明する図である。
図7(a)は、保存部221から得る受信電波品質データ列R
xy(S≦x≦E、1≦y≦n)であり、このデータ列をもとに、
図7(b)に示す学習データを生成する。
【0056】
図7(b)において、入力データとしてR
xy(S≦x≦(E-p)、1≦y≦n)を用意する。正解受信電波品質(p×t後の受信電波品質)として、R
(x+p)n(S≦x≦(E-p))を入力データR
xy(S≦x≦(E-p))にそれぞれ対応させて組とする。また、p×t後に補償データを要求すべきかの判定を、正解補償要求判定として入力データにそれぞれ対応させて組とすることができる。放送波が受信不可能となる受信品質をR
thとしR
(x+p)n<R
thの場合、正解補償要求判定をTrue、そうでない場合Falseとする。正解受信電波品質と正解補償要求判定の少なくとも一方を入力データR
xy(S≦x≦(E-p))と組みにして、生成されたデータの組を学習データ組として出力する。
【0057】
図8に、通信補償要求装置20の予測部23の構成の一例を示す。予測部23は、入力データ選択器231、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)部232、及び補償データ要求部233を備える。
【0058】
入力データ選択器231は、記録部21から入力される受信電波品質データ列、若しくは学習データ生成部22から入力される学習データを選択して、RNN部に出力する。学習モード時は学習データ生成部22からの入力を選択し、予測モード時は記録部21からの入力を選択する。
【0059】
RNN部232は、再帰型のニューラルネットワークとして、単純な構成のRNNや、LSTM(Long Short-Term Memory)のようなモデルを適用する。学習モード時は学習データをもとに学習し、内部のパラメータを調整する。予測モード時は記録部21からの受信電波品質データ列を入力データとして、p×t後の受信電波品質(予測受信電波品質RP)又はp×t後に補償データを要求すべきかの判定(予測補償要求判定JP)を出力する。なお、後述の別の実施形態のように、RNN部は、学習モードを行わず、外部の学習サーバ110から学習済みのRNNモデルを入手して、これをRNN部に反映してもよい。
【0060】
補償データ要求部233は、RNN部232から入力された予測受信電波品質RP又は予測補償要求判定JP、及び記録部21から入力される現時点の受信電波品質に応じて、補償データを要求するための要求信号を出力する。
【0061】
図9は、補償データ要求部233の動作アルゴリズムを示すフローチャートの一例である。
図9は、RNN部232でp×t後の受信電波品質を予測する場合の補償データ要求部233の動作アルゴリズムを示している。以下、各ステップを説明する。
【0062】
記録部21からR1からRnの受信電波品質データ列が入力された場合、すなわち、時刻tごとに、フローチャートを実行する。
【0063】
ステップS11:受信電波品質データ列のうち最新(現在)の受信電波品質データRnを確認し、現在の受信電波品質Rnと、放送波が受信不可能となる受信品質の閾値Rthとを比較する。予測以前に、現在電波の品質が悪化している場合は、直ちに補償データを要求する。したがって、Rn<Rthの場合ステップS13に進み、そうでない場合はステップS12に進んで予測に基づいて補償データを要求すべきか判定する。
【0064】
ステップS12:予測モードでは、RNN部232がp×t後の受信電波品質を予測し、RNN部232からは予測受信電波品質RPが出力される。補償データ要求部233にて予測受信電波品質の閾値RPthを用意し、予測受信電波品質RPと閾値RPthとを比較する。RP<RPthの場合、ステップS13(補償データを要求)に進み、そうでない場合はステップS14へ進む。
【0065】
ステップS13:補償データを要求する要求信号を出力する。この要求信号は、通信にて、補償データサーバ120に送信される。その後、処理を終了する。
【0066】
ステップS14:RP≧RPthの場合は補償データを要求せず、処理を終了する。
【0067】
図10は、補償データ要求部233の動作アルゴリズムを示すフローチャートの別の例である。
図10は、RNN部232でp×t後に補償データを要求すべきかを判定する場合の補償データ要求部233の動作アルゴリズムを示している。以下、各ステップを説明する。
【0068】
記録部21からR1からRnの受信電波品質データ列が入力される時刻tごとに、フローチャートを実行する。
【0069】
ステップS21:受信電波品質データ列のうち最新(現在)の受信電波品質データR
nを確認し、現在の受信電波品質R
nと、放送波が受信不可能となる受信品質の閾値R
thとを比較する。
図9と同様に、R
n<R
thの場合ステップS23に進み、そうでない場合はステップS22に進んで予測に基づいて補償データを要求すべきか判定する。
【0070】
ステップS22:RNN部232でp×t後に補償データを要求すべきかを判定する場合、RNN部232からは予測補償要求判定JP(補償データを要求した方がよい場合True、要求しなくて良い場合False)が出力される。RNN部232からの出力が、Trueであるか判断する。Trueの場合、ステップS23(補償データを要求)に進み、そうでない場合はステップS24へ進む。
【0071】
ステップS23:補償データを要求する要求信号を出力する。この要求信号は、通信にて、補償データサーバ120に送信される。その後、処理を終了する。
【0072】
ステップS24:予測補償要求判定JPがFalseの場合は補償データを要求せず、処理を終了する。
【0073】
以上のとおり、
図2の通信補償要求装置20は、通信補償要求装置20の内部に学習データ生成部22を備えており、通信補償要求装置20内で再帰型ニューラルネットワーク(RNN)の学習をすることができる。
【0074】
図11に、通信補償要求装置の構成の別の例を示す。通信補償要求装置20’は、記録部21、及び予測部23を備える。本実施形態では、外部の学習サーバ110を用いて、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)の学習をする。
【0075】
記録部21は、受信アンテナ61,62より放送波が入力され、放送波を分析して、受信電界値、MER、C/N等の受信電波品質Rを記録する。記録部21の構成及び動作は、
図2の通信補償要求装置20の記録部21と基本的に同じであり、
図3の受信電波品質データ列を一定間隔(サンプリング時間t)で生成するが、本実施形態では、記録部21は、受信電波品質データ列を学習データ生成部22へ出力するとともに、外部の学習サーバ110へ、出力の受信電波品質データ列を送信する。
【0076】
予測部23は、内部に再帰型ニューラルネットワーク(RNN)を備え、受信電波品質データ列を入力として所定時間後の受信電波品質を予測する。しかし、本実施形態では、学習データ生成や、学習自体は外部の学習サーバ110で行う。例えば、学習サーバ110は、受信電波品質データ列を受信し、その内部で
図7に示す学習データを生成し、サーバ内部の再帰型ニューラルネットワーク(RNN)の学習を行い、学習済みRNNモデルを作成する。
【0077】
その後、予測部23は、学習サーバ110から学習済みRNNモデルを受信し、予測部23内部の再帰型ニューラルネットワーク(RNN)に反映する。反映後は、記録部21から入力される受信電波品質データ列を用いて、所定時間後の受信状況(受信電波品質)を予測し、又は、所定時間後に補償データを要求すべきかの判定を予測し、その予測に基づいて前記補償データの要求信号を出力する。すなわち、予測部23の動作は、
図2の予測部23の予測モードにおける動作と同じである。
【0078】
図11の通信補償要求装置20’は、通信補償要求装置内に学習データ生成部22を設ける必要がなく、装置の構成を簡素化できる効果がある。
【実施例】
【0079】
実施例として、実際の21GHz帯のビーコン電波の測定データから受信状況悪化を予測し、
図9示すアルゴリズムを適用して、補償データを要求する処理を検証した。2018年8月3日の受信状況(受信電界強度)の測定データから学習データを生成し、学習データに基づいて学習した結果得たモデルを用いて2018年9月4日の受信状況の減衰を予測した。
【0080】
図12は、2018年8月3日における21GHz帯のビーコン電波受信状況である。横軸は時間(日時)であり、縦軸は電波の受信電界[dBm]である。単位時間(サンプリング期間)t=1秒とし、1秒ごとに受信電界が記録され、
図12では、8月3日の16時48分0秒から19時12分0秒の様子を抜き出している。この期間について降雨があり、17時ごろから減衰が始まり、19時ごろに減衰が収まる様子が分かる。
【0081】
21GHz帯の衛星放送についてまだ詳細な規定はないため、放送を受信できない受信品質について定義はないが、本実施例では、通常時の受信品質(受信電界)Rnomarl=-50dBm、閾値受信電界Rth=-60dBmとし、受信電界が10dBm減衰した場合、受信不可能となることを想定する。また、受信状況が悪化する30秒前に補償データを要求することを目的とし、入力データ数n=20、予測先変数p=30とすることで、n×t=20秒間の受信電界値を用いて、p×t=30秒後の予測受信電界値RPを予測することを学習する。予測部23の実装には、TensorFlow/KerasのSimple RNN(非特許文献3)を用いた。
【0082】
図13に、学習データの有効範囲として判定された受信状況データの範囲を示す。
図13の受信状況データは、
図12の受信状況データと同一であるが時間軸が拡大されている。
図5の判定部222のアルゴリズムより、a=17時42分51秒、b=18時18分17秒となり、この実施例ではM
s=171、M
e=102とし、S=17時40分0秒、E=18時19分59秒と判定されて、学習データの有効範囲が設定される。
【0083】
予測部23のRNN部232は、学習モードにて、2018年8月3日の17時40分0秒から18時19分59秒のデータを用いて学習する。学習の際、データの前処理を行い、平均を-60dBm、標準偏差を10とし、標準化したデータを利用した。本来、上記時間帯に限らず、任意の日の
図5のアルゴリズムにより判定される日時、時間帯のデータを学習データとして用いてよい。しかし、本実施例では分かり易くデータを単純化し、学習データを2018年8月3日の17時40分0秒から18時19分59秒のみに限定し、学習を実施した。
【0084】
予測結果の評価を行うため、2018年9月4日の21GHz帯のビーコン電波受信状況を用いた。
図14は、2018年9月4日における7時0分0秒から8時0分0秒の受信状況である。横軸は時間(日時)であり、縦軸は電波の受信電界[dBm]である。実際の受信電界が閾値受信電界R
th=-60dBmを下回る期間は7時20分20秒から7時34分25秒であった。
図14からも分かる通り、受信電界はシンチレーションがあるため、閾値を下回る30秒前から閾値を下回っている期間のみ補償データを要求することとすると、要求期間に短い空白が生じる場合がある。受信電界からシンチレーションを取り除いてもよいが、本実施例では単純のため閾値を下回る30秒前から閾値を下回っている期間に加え、閾値を下回る期間の30秒後までを、補償データを要求する期間とした。そのため、理想的な補償データの要求期間は7時19分50秒から7時34分55秒となる。本実施例による検証では、この理想的補償データ要求期間を補償データ要求期間の基準とした。
【0085】
まず、従来技術として、単純に閾値を用いて、補償データを要求する場合を考える。補償データを要求する際は、30秒間の補償データを要求することとした。受信電界が閾値受信電界Rth=-60dBmを下回った際に補償データの要求を開始した場合、補償データを要求する期間は7時20分20秒から7時34分55秒となる。この受信状況においては、理想的には7時19分50秒から補償データを要求する必要があったため、始めの30秒間補償データが欠損する。
【0086】
次に、本発明の受信状況の予測に基づいて、補償データを要求する場合について説明する。
図15に、予測受信電波品質(本実施例の場合は予測受信電界)の変化と、補償データを要求する期間を示す。実線のグラフが実際の受信電界の変化、点線のグラフが予測した受信電界の変化である。受信不可能となる予測受信電波品質の閾値RP
th=R
th=-60dBmとし、
図9のアルゴリズムに則り、補償データを要求する際は、30秒間の補償データを要求することとした。本発明に基づく受信状況の予測によれば、補償データの要求期間は7時19分56秒から7時35分6秒までとなった。
【0087】
理想的な補償データの要求期間と比較した場合、7時19分50秒から7時19分55秒までの6秒間補償データが欠損する。一方、7時34分56秒から7時35分6秒までの11秒間、本来必要がないのに補償データを要求することとなる。本実施例では、本来必要ない期間も補償データを要求することとなったが、閾値を用いた場合は30秒間補償データが欠損するのと比較し、6秒間のみの欠損できたため、欠損する期間を80%削減できた。このように、本発明によれば、従来技術と比較して、補償データが欠損する期間を大幅に削減できる。
【0088】
次に、受信電波品質の閾値にマージンを設定する場合について説明する。既存の提案の一つとして、受信不可能となる前に補償データを要求するため、閾値に対してマージンを設ける手法がある。しかしながら、どのようにマージンを取ればよいか言及している提案はないため、まず、理想的な補償データ要求期間をすべて含むよう閾値のマージンを設定する場合について検討する。
【0089】
図16に、既存の閾値を用いた補償データ要求手法において、閾値にマージンを設けた場合の補償データ要求期間を示す。マージンを設けた閾値をR
thmargin=-58dBmとし、受信電界が閾値R
thmargin 以下となった際に補償データを30秒間要求する場合、7時19分10秒から7時35分26秒までが補償データ要求期間となった。この場合、理想的補償データ要求期間(7時19分50秒から7時34分55秒)と比較して補償データの欠損はなくなるが、7時19分10秒から7時19分49秒までの40秒間、及び7時34分56秒から7時35分26秒までの31秒間、合計71秒間、本来必要ない期間について補償データを要求することとなる。なお、マージンを設けた閾値R
thmargin=-58dBmは、閾値を-60dBmから所定の刻み(ここでは1dBm刻み)で変更し、理想的な補償データの要求期間をすべて含む閾値を探索し、探索した閾値の中で最小の、必要のない補償データ要求が最も少ない閾値として求められたものである。
【0090】
次に、本発明の受信電波品質予測を行う手法において、閾値のマージンを設定し、理想的な補償データの要求期間をすべて含むように、予測受信電波品質の閾値RPthを調整する場合を検討する。
【0091】
図17に、閾値RP
thにマージンを設けて閾値調整をした場合の、受信状況の予測に基づく補償データ要求期間を示す。実線のグラフが実際の受信電界の変化、点線のグラフが予測した受信電界の変化である。調整した予測受信電波品質の閾値をRP
th=-59dBmとし、30秒後の予測受信電波品質が閾値を下回るとき補償データを要求する場合、補償データ要求期間は7時19分5秒から7時35分16秒となり、理想的な補償データの要求期間をすべて含む。ただし、この場合、7時19分5秒から7時19分49秒までの45秒間、及び7時34分56秒から7時35分16秒までの21秒間合計66秒間、本来必要ない期間について補償データを要求することとなる。閾値調整したRP
th=-59dBmは、R
thmargin=-58dBmと同様に、閾値を-60dBmから所定の受信電波品質の刻み(ここでは1dBm刻み)で変更し、理想的な補償データの要求期間をすべて含む閾値を探索し、探索した閾値の中で最小の、必要のない補償データ要求が最も少ない閾値である。本実施例では、適切なマージンを有する閾値を探索で求めたが、再帰型ニューラルネットワークにより適切な閾値調整を行ってもよい。
【0092】
従来の閾値にマージンを設定し、理想的な補償データ要求期間をすべて含む補償データ要求期間となうように閾値を調整する手法と比較して、本発明による予測結果と閾値調整を用いた場合は、本来必要ない補償データ要求期間を、71秒から66秒と約7%削減できた。
【0093】
上記の実施の形態では、受信システム100及び通信補償要求装置20の構成と動作について説明したが、本発明はこれに限らず、受信状況の悪化に対して通信により補償する方法として構成されてもよい。すなわち、放送波の受信状況の時系列変化を予測し、予測結果をもとに補償データを要求する方法として構成されてもよい。
【0094】
なお、上述した通信補償要求装置20として機能させるためにコンピュータを好適に用いることができ、そのようなコンピュータは、通信補償要求装置20の各機能を実現する処理内容を記述したプログラムを該コンピュータの記憶部に格納しておき、該コンピュータのCPUによってこのプログラムを読み出して実行させることで実現することができる。なお、このプログラムは、コンピュータ読取り可能な記録媒体に記録可能である。
【0095】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、各ブロック、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成ブロックやステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0096】
10 放送波受信装置
20 通信補償要求装置
21 記録部
22 学習データ生成部
23 予測部
30 補償データ受信装置
40 放送波補償データ切替器
50 再生装置
61 衛星アンテナ
62 地上波アンテナ
100 受信システム
110 学習サーバ
120 補償データサーバ
221 保存部
222 判定部
223 生成部
231 入力選択部
232 RNN部
233 補償データ要求部