(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】接着性樹脂組成物、接着性樹脂成形体、接着性樹脂積層体、及び筐体封止材
(51)【国際特許分類】
C09J 123/26 20060101AFI20231227BHJP
C09J 177/00 20060101ALI20231227BHJP
C09J 167/00 20060101ALI20231227BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20231227BHJP
【FI】
C09J123/26
C09J177/00
C09J167/00
C09J7/35
(21)【出願番号】P 2020042994
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000224101
【氏名又は名称】藤森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100155066
【氏名又は名称】貞廣 知行
(72)【発明者】
【氏名】武井 邦浩
(72)【発明者】
【氏名】丸山 悠以子
(72)【発明者】
【氏名】竹山 俊輔
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-226870(JP,A)
【文献】特開2009-242503(JP,A)
【文献】特開2000-248124(JP,A)
【文献】特開2018-138637(JP,A)
【文献】特開2017-149460(JP,A)
【文献】特開昭54-113629(JP,A)
【文献】特開2016-124876(JP,A)
【文献】特開2016-124877(JP,A)
【文献】特開2015-71746(JP,A)
【文献】特開2014-24876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 123/26
C09J 177/00
C09J 167/00
C09J 7/35
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、ガス遮断成分としてガス遮断性樹脂(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物であって、
前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の密度が0.8~1.0g/cm
3の範囲内であり、前記ガス遮断性樹脂(B)の密度が1.1~1.5g/cm
3の範囲内であり、
前記接着性樹脂組成物が、全固形分100重量部中に、前記ガス遮断性樹脂(B)を10~40重量部の範囲内で含有することを特徴とする接着性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ガス遮断性樹脂(B)が、ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂からなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項3】
前記接着性樹脂組成物が、全固形分100重量部中に、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を50~90重量部の範囲内で含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項4】
前記接着性樹脂組成物が、全固形分100重量部中に、熱可塑性エラストマー樹脂(C)を1~15重量部の範囲内で含有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の接着性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の接着性樹脂組成物から形成される、接着性樹脂フィルム又は接着性樹脂シートからなることを特徴とする接着性樹脂成形体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載の接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層を基材層の少なくとも片面に有する、接着性樹脂フィルム又は接着性樹脂シートからなることを特徴とする接着性樹脂積層体。
【請求項7】
請求項5に記載の接着性樹脂成形体から形成されることを特徴とする筐体封止材。
【請求項8】
請求項6に記載の接着性樹脂積層体から形成されることを特徴とする筐体封止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着性樹脂組成物、接着性樹脂成形体、接着性樹脂積層体、及び筐体封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
金属、ガラス等の無機材料に比べると、樹脂、ゴム等の有機材料はポリマー分子の隙間が大きく、酸素などのガスバリア性が低い傾向にある。このため、ガスバリア性材料を用いて、ガスバリア性を付与することが行われている。例えば、特許文献1には、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)に、無機フィラー微粒子を分散したコーティング剤をプラスチックフィルムに塗布することが記載されている。また、ポリエチレンナフタレートフィルムに透明プライマー層を介して、無機蒸着層と無機フィラー含有層とを順次積層することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-211038号公報
【文献】特許第5092421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1、2には、接着性とガスバリア性とを兼ね備えた樹脂フィルムについては、何らの示唆もない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、接着性とガスバリア性とを兼ね備えた接着性樹脂組成物、接着性樹脂成形体、接着性樹脂積層体、これらの製造方法、及び筐体封止材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、ガス遮断成分としてガス遮断性樹脂(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物であって、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の密度が0.8~1.0g/cm3の範囲内であり、前記ガス遮断性樹脂(B)の密度が1.1~1.5g/cm3の範囲内であり、前記接着性樹脂組成物が、全固形分100重量部中に、前記ガス遮断性樹脂(B)を10~40重量部の範囲内で含有することを特徴とする接着性樹脂組成物を提供する。
【0007】
前記ガス遮断性樹脂(B)が、ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂からなる群から選択された少なくとも1種であってもよい。
前記接着性樹脂組成物が、全固形分100重量部中に、前記酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を50~90重量部の範囲内で含有してもよい。
前記接着性樹脂組成物が、全固形分100重量部中に、熱可塑性エラストマー樹脂(C)を1~15重量部の範囲内で含有してもよい。
【0008】
また、本発明は、前記接着性樹脂組成物から形成される、接着性樹脂フィルム又は接着性樹脂シートからなることを特徴とする接着性樹脂成形体を提供する。
また、本発明は、前記接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層を基材層の少なくとも片面に有する、接着性樹脂フィルム又は接着性樹脂シートからなることを特徴とする接着性樹脂積層体を提供する。
また、本発明は、前記接着性樹脂成形体から形成されることを特徴とする筐体封止材を提供する。
また、本発明は、前記接着性樹脂積層体から形成されることを特徴とする筐体封止材を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、接着性とガスバリア性とを兼ね備えた接着性樹脂組成物、接着性樹脂成形体、接着性樹脂積層体、及び筐体封止材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の接着性樹脂成形体の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の接着性樹脂積層体の一例を示す断面図である。
【
図3】本発明の筐体封止材を用いて封止した筐体の一例を示す断面図である。
【
図4】接着強度の測定方法の説明図であって、(a)試験片の作製方法、(b)試験片、(c)測定方法をそれぞれ表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好適な実施形態に基づいて、本発明を説明する。
実施形態の接着性樹脂組成物は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、ガス遮断成分としてガス遮断性樹脂(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物である。
【0012】
〔酸変性ポリオレフィン樹脂(A)〕
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)は、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されたポリオレフィン系樹脂であり、ポリオレフィン系樹脂中にカルボキシル基や無水カルボン酸基を有する。好ましくは、ポリオレフィン系樹脂を、不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したものである。酸変性ポリオレフィン樹脂における酸変性方法としては、有機過酸化物や脂肪族アゾ化合物などのラジカル重合開始剤の存在下で酸官能基含有モノマーをポリオレフィン樹脂と溶融混練する等のグラフト変性や、酸官能基含有モノマーとオレフィン類との共重合などが挙げられる。
【0013】
前記ポリオレフィン類としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリイソブチレン、プロピレンとエチレンまたはα-オレフィンとのランダム共重合体、プロピレンとエチレンまたはα-オレフィンとのブロック共重合体などが挙げられる。中でも、ホモポリプロピレン(ホモPP、プロピレン単独重合体)、プロピレン-エチレンのブロック共重合体(ブロックPP)、プロピレン-エチレンのランダム共重合体(ランダムPP)等のポリプロピレン系樹脂が好ましい。特に、ランダムPPが好ましい。
共重合する場合の前記オレフィン類としては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン、α-オレフィン等のオレフィン系モノマーが挙げられる。
【0014】
前記酸官能基含有モノマーとしては、エチレン性二重結合と、カルボン酸基またはカルボン酸無水物基とを、同一分子内に持つ化合物であり、各種の不飽和モノカルボン酸、ジカルボン酸、またはジカルボン酸の酸無水物からなる。
カルボン酸基を有する酸官能基含有モノマー(カルボン酸基含有モノマー)としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、ナジック酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、テトラヒドロフタル酸、エンド-ビシクロ[2.2.1]-5-ヘプテン-2,3-ジカルボン酸(エンディック酸)などのα,β-不飽和カルボン酸モノマーが挙げられる。
カルボン酸無水物基を有する酸官能基含有モノマー(カルボン酸無水物基含有モノマー)としては、無水マレイン酸、無水ナジック酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水エンディック酸などの不飽和ジカルボン酸無水物モノマーが挙げられる。
これらの酸官能基含有モノマーは、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)において、1種類を用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0015】
前記酸官能基含有モノマーのうち、より好ましくは、カルボン酸無水物基含有モノマーであり、より好ましくは、無水マレイン酸である。
酸変性に用いた酸官能基含有モノマーの一部が未反応である場合は、接着力への悪影響を抑制するため、未反応の酸官能基含有モノマーを除去したものを、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)として用いることが好ましい。
【0016】
酸変性ポリオレフィン樹脂(A)におけるプロピレン成分に関しては、該樹脂の耐熱性の観点により、プロピレン単位が過半量であることが好ましい。ここでいう過半量とは、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)に対するプロピレン成分が50重量%以上のことを意味する。したがって、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)としては、プロピレン単位が過半量である、酸変性ポリプロピレン系樹脂が好ましい。
【0017】
〔ガス遮断性樹脂(B)〕
ガス遮断性樹脂(B)は、接着性樹脂組成物にガスバリア性を付与するガス遮断成分として機能する。ガス遮断性樹脂(B)としては、特に限定されないが、接着性樹脂組成物のガスバリア性、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)等の樹脂との混和性等の観点から、適宜選択されることが好ましい。
【0018】
ガス遮断性樹脂(B)は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)より密度が高いことが好ましい。例えば、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の密度が0.8~1.0g/cm3の範囲内であり、ガス遮断性樹脂(B)の密度が1.1~1.5g/cm3の範囲内であることが好ましい。ガス遮断性樹脂(B)の具体例としては、ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂から選択された少なくとも1種が挙げられる。
【0019】
ポリアミド樹脂としては、ポリアミンとポリカルボン酸とが脱水縮合した構造の高分子〔例えば、-(NH-X-NH-CO-Y-CO)n-〕、アミノカルボン酸が脱水縮合した構造の高分子〔例えば、-(NH-Z-CO)m-〕、ポリアミンとポリカルボン酸とアミノカルボン酸とが縮合した構造の高分子〔例えば、-(NH-X-NH-CO-Y-CO)n-(NH-Z-CO)m-〕が挙げられる。なお、同一構造の高分子が得られるのであれば、ラクタム類の開環重合など、脱水縮合以外の反応により合成したポリアミド樹脂を用いることも可能である。
【0020】
ポリエステル樹脂としては、ポリオールとポリカルボン酸とが脱水縮合した構造の高分子〔例えば、-(O-X-O-CO-Y-CO)n-〕、ヒドロキシカルボン酸が脱水縮合した構造の高分子〔例えば、-(O-Z-CO)m-〕、ポリオールとポリカルボン酸とヒドロキシカルボン酸とが縮合した構造の高分子〔例えば、-(O-X-O-CO-Y-CO)n-(O-Z-CO)m-〕が挙げられる。なお、同一構造の高分子が得られるのであれば、エステル交換、ラクトン類の開環重合など、脱水縮合以外の反応により合成したポリエステル樹脂を用いることも可能である。
【0021】
ポリアミド樹脂又はポリエステル樹脂の化学構造の例示において、X,Y,Zは、脂肪族又は芳香族の多価基である。多価基X,Y,Zは2価基に限らず、3価以上の多価基であってもよい。多価基X,Y,Zは、例えば、アルキレン基、フェニレン基等の炭化水素基、酸素原子、窒素原子等を含み得る有機基である。Xは1種又は2種以上の有機基であってよく、Yは1種又は2種以上の有機基であってよく、Zは1種又は2種以上の有機基であってよい。m及びnは、モノマーに対応する単位の個数を表す。
【0022】
前記接着性樹脂組成物は、全固形分100重量部中に、ガス遮断性樹脂(B)を10~40重量部の範囲内で含有することが好ましい。また、前記接着性樹脂組成物は、全固形分100重量部中に、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)を50~90重量部の範囲内で含有することが好ましい。
【0023】
ガス遮断性樹脂(B)を前記接着性樹脂組成物中に良好に、より均一に分散させるため、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とガス遮断性樹脂(B)とを溶融混練させることが好ましい。溶融混練の装置としては、一軸押出機、多軸押出機、バンバリーミキサー、プラストミル、加熱ロールニーダーなどを使用することができる。溶融混練時の加熱温度は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)が充分に溶融し、かつ熱分解しないという点で、130~300℃の範囲内から選択することが好ましい。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)がポリプロピレン系の樹脂である場合、混練温度は、180~300℃が好ましく、さらにガス遮断性樹脂(B)の分散性を向上するには、240~300℃が好ましい。なお、混練温度は、溶融混練の装置から押し出された直後における、溶融状態の接着性樹脂組成物に、熱電対を接触させる等の方法によって、測定することが可能である。ガス遮断性樹脂(B)は、溶融混練時に溶融してもよい。ガス遮断性樹脂(B)の融点が混練温度より高い場合は、ガス遮断性樹脂(B)が溶融せず、粒子状などで分散されてもよい。
【0024】
溶融混練の際には、水分等の揮発成分は、予め装置外へ除去しておくことが好ましい。また、溶融混練中に揮発成分が発生する場合には、脱気等により随時装置外へ排出することが望ましい。これにより、前記接着性樹脂組成物を用いて接着性樹脂成形体又は接着性樹脂層を製膜する際における、発泡を抑制することができる。
【0025】
〔熱可塑性エラストマー樹脂(C)〕
前記接着性樹脂組成物は、熱可塑性エラストマー樹脂(C)を含有することができる。熱可塑性エラストマー樹脂(C)としては、スチレンエラストマー、スチレンブタジエン共重合体、エポキシ変性スチレンブタジエン共重合体、オレフィンエラストマー、ポリエステルエラストマー、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体などが挙げられる。接着性樹脂組成物が熱可塑性エラストマー樹脂(C)を含有する場合、全固形分100重量部中に、熱可塑性エラストマー樹脂(C)を1~15重量部の範囲内で含有することが好ましい。
【0026】
熱可塑性エラストマー樹脂(C)は、接着性樹脂組成物の溶融混練の条件下において、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)又はガス遮断性樹脂(B)と反応しないものであれば、溶融混練の前に配合することもできる。また、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)とガス遮断性樹脂(B)とを溶融混練した後に、熱可塑性エラストマー樹脂(C)を接着性樹脂組成物中に混練することもできる。
【0027】
〔接着性樹脂組成物〕
実施形態の接着性樹脂組成物は、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)と、ガス遮断成分としてガス遮断性樹脂(B)とを、必須成分とする接着性樹脂組成物を溶融混練し、押出成形する方法により、接着性樹脂層を製造することが可能である。酸変性ポリオレフィン樹脂(A)の酸官能基が存在することにより、金属等の各種の被着体に対して、優れた接着力が得られる。前記接着性樹脂組成物が、ガス遮断性樹脂(B)を含有することにより、接着性とガスバリア性とを兼ね備えることができる。前記接着性樹脂組成物は、単純な組成からなり、接着性樹脂層を容易に製造することが可能である。
【0028】
前記接着性樹脂組成物は、その他の添加剤として、充填剤、着色剤、酸化防止剤、消泡剤、レベリング剤、光吸収剤などを適宜添加することができる。前記接着性樹脂組成物は、必須成分である酸変性ポリオレフィン樹脂(A)及びガス遮断性樹脂(B)と、任意成分である熱可塑性エラストマー樹脂(C)と以外には、樹脂成分又は高分子成分を含有しないで構成することが可能である。必須成分である酸変性ポリオレフィン樹脂(A)及びガス遮断性樹脂(B)と、任意成分である熱可塑性エラストマー樹脂(C)とを除いた他の固形分の割合は、全固形分100重量部中に、10重量部以下、5重量部以下、1重量部等としてもよい。
【0029】
〔被着体〕
実施形態の接着性樹脂組成物を用いて接着することが可能な被着体としては、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の被着体が挙げられる。被着体の形状は、特に限定されるものではなく、フィルム、シート、板、パネル、トレイ、ロッド(棒状体)、箱体、筐体等が挙げられる。
【0030】
金属としては、鉄鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、ニッケル、クロムやその合金などが挙げられる。また、表面に金属メッキ層を有する複合材料にも適用でき、その場合のメッキの下地材は、メッキが可能な限り、特に限定されず、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の材質であってもよい。
【0031】
ガラスとしては、アルカリガラス、無アルカリガラス、石英ガラスなどが挙げられる。
プラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂;ナイロンなどのポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)などの芳香族ポリエステル系樹脂;ポリアクリロニトリル(PAN)などのアクリル系樹脂;酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)などのポリビニル系樹脂;などが挙げられる。
【0032】
〔接着性樹脂成形体〕
実施形態の接着性樹脂成形体は、前記接着性樹脂組成物から形成され、フィルム、シート等の形状を有する成形体であり、接着性樹脂フィルム又は接着性樹脂シート等として用いることができる。
図1に示すように、接着性樹脂成形体10は、前記接着性樹脂組成物を溶融混練し、押出成形等により、フィルム、シート等の接着性樹脂層11に成形する方法で、製造することが可能である。接着性樹脂成形体10の少なくとも片面において、被着体21,22と接着することが可能である。
【0033】
接着性樹脂成形体10は、例えば、下記の(1)~(4)に挙げるような方法で、被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である。
(1)被着体の片面に、接着性樹脂成形体10を積層して接着する方法。
(2)被着体の両面に、それぞれ別の接着性樹脂成形体を積層して接着する方法。
(3)接着性樹脂成形体の両面に、それぞれ別の被着体を積層して接着する方法。
(4)複数の接着性樹脂成形体と、複数の被着体とを、交互に積層して接着する方法。
【0034】
〔接着性樹脂積層体〕
実施形態の接着性樹脂積層体は、前記接着性樹脂組成物からなる接着性樹脂層を基材層の少なくとも片面に有する積層体である。
図2に示すように、接着性樹脂積層体10Aは、接着性樹脂層11を基材層12の片面または両面に有することにより、接着性樹脂層11を用いて、被着体21,22と接着することができる。基材層12としては、基材層12自体に接着性を有する必要はなく、接着性樹脂層11と接着可能なものが好ましい。上述の被着体として例示したものと同様に、金属、ガラス、プラスチックなどの各種の基材層12が挙げられる。薄い基材層12を用いることにより、接着性樹脂積層体10Aを、接着性樹脂フィルム又は接着性樹脂シート等として用いることができる。
【0035】
前記接着性樹脂積層体は、前記接着性樹脂組成物を溶融混練し、押出成形等により、前記接着性樹脂層を成形する方法で、製造することが可能である。基材層が熱可塑性樹脂からなる場合は、前記接着性樹脂組成物の押出成形を、共押出法により行うことが可能である。また、前記接着性樹脂組成物の押出成形を、押出ラミネート法によって行うことも、可能である。
【0036】
前記接着性樹脂積層体が、前記基材層の片面のみに前記接着性樹脂層を有する場合は、例えば、上記の(1)または(2)に挙げるような方法で、被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である。
また、前記接着性樹脂積層体が、前記基材層の両面に前記接着性樹脂層を有する場合は、例えば、上記の(1)~(4)に挙げるような方法で、被着体と積層し、加熱により、好ましくは、加熱及び加圧により、各種の被着体と接着することが可能である。
【0037】
〔筐体封止材〕
実施形態の筐体封止材は、前記接着性樹脂成形体、又は前記接着性樹脂積層体から形成することができる。
図3には、筐体20を構成する被着体21,22の間に接着性樹脂成形体10を配置し、接着性樹脂成形体10を用いて被着体21,22を接着することにより、筐体20の内部空間23を筐体20の外部から封止する構成を例示する。
【0038】
筐体20を構成する一対の被着体21,22が金属、ガラス等からなる場合、筐体20自体のガスバリア性が高いことから、被着体21,22の隙間を封止する接着性樹脂成形体10は薄いことが好ましい。前記接着性樹脂組成物は、厚み50μmでも製膜可能であるため、筐体20の断面方向のガスバリア性が低下することを防ぐことが可能である。筐体20の封止材としては、基材層12の両面に接着性樹脂層11を有する接着性樹脂積層体10Aを用いることも可能である。筐体20の断面方向に沿った筐体封止材の幅は、特に限定されないが、例えば、1~5mm程度としてもよい。
【0039】
以上、本発明を好適な実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例をもって、本発明を具体的に説明する。
【0041】
(接着性樹脂フィルム)
表1に示す組成により、各実施例及び比較例の接着性樹脂フィルムを製造した。接着性樹脂フィルムの製造は、まず酸変性ポリオレフィン樹脂(A)、ガス遮断性樹脂(B)、熱可塑性エラストマー樹脂(C)を溶融混練した後、押出成形により所定の厚さのフィルム状に成形する方法により実施した。押出成形する際の溶融混練は、275℃、2分間の溶融混練とした。
【0042】
【0043】
表1において用いた略語の意味は、次のとおりである。
「(A)-1」:マレイン酸変性ポリプロピレン(酸付加0.1質量%、融点140℃、密度0.9g/cm3)
「(B)-1」:ポリアミド6(密度1.13g/cm3、融点225℃、アミラン(登録商標)CM1021T、東レ株式会社製)
「(B)-2」:ポリアミド66(密度1.14g/cm3、融点265℃、アミラン(登録商標)CM3001N、東レ株式会社製)
「(B)-3」:MXナイロン(密度1.22g/cm3、融点237℃、MXナイロンS6001、三菱ガス化学株式会社製)
「(B)-4」:ポリアミド12(密度1.02g/cm3、融点178℃、ダイアミド(登録商標)X1743、ダイセル・エボニック株式会社製)
「(B)-5」:ポリエステル(密度1.4g/cm3、融点240℃、ポリエチレンテレフタレート(PET))
「(C)-1」:プロピレン-α-オレフィン共重合体エラストマー(軟化点70℃)
【0044】
(製膜性の評価方法)
押出成形により得られた接着性樹脂フィルムの外観を目視で確認し、外観上問題がない場合を「○」、ムラによる裂け、穴等の不良が発生した場合を「×」と評価した。
【0045】
(接着強度の測定方法)
図3(a)に示すように、長さ50mmの試験用被着体31,32の間に長さ20mmの接着性樹脂成形体10のサンプルを挟み込み、
図3(b)に示すように加熱圧着して、試験片30を作製した。試験片30の幅は15mmとした。加熱圧着した後に試験片30の幅方向を切断して、接着性樹脂成形体10及び試験用被着体31,32の幅が揃うようにしてもよい。
図3(c)に示すように、試験用被着体31,32の接着性樹脂成形体10で接着していない側の端部が略180°方向となるT字剥離により試験片30を引っ張り、接着性樹脂成形体10と試験用被着体31,32との間で接着強度を測定した。
【0046】
接着性樹脂成形体10のサンプルは、表1に示す組成の接着性樹脂組成物から成形した厚みが50μmの接着性樹脂フィルムである。試験用被着体31,32は、厚みが40μmのアルミ箔である。試験片30を作製するときの加熱圧着条件は、温度150℃、圧力0.1MPa、時間3secである。T字剥離の測定条件は、速度300mm/min、幅15mmである。接着強度が5N/15mm以上の場合を「○」、5N/15mm未満の場合を「×」と評価した。
【0047】
(酸素透過度の測定方法)
JIS K 7126-2(プラスチック-フィルム及びシート-ガス透過度試験方法-第2部:等圧法)のA法(電解センサ法)に準拠して、温度30℃、湿度70%RH、測定面積50cm2の測定条件で、接着性樹脂フィルムの酸素透過度を測定した。酸素透過度の測定に使用する接着性樹脂フィルムの厚みは、接着強度の測定に使用した接着性樹脂フィルムと同じく、50μmにした。
【0048】
接着性樹脂フィルムの酸素透過度が1700cc/(m2・day・atm)未満の場合を「○」、1700cc/(m2・day・atm)以上の場合を「×」と評価した。なお、測定装置の制限から、測定値が1800cc/(m2・day・atm)以上になる場合は、結果を「1800以上」と表示した。
【0049】
【0050】
接着性樹脂フィルムの評価結果を表2に示す。実施例1~7の接着性樹脂フィルムによれば、製膜性が良好で、十分な接着強度(接着性)と酸素透過度(ガスバリア性)とを兼ね備えている。
比較例1の接着性樹脂フィルムは、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)のみを用いて、ガス遮断性樹脂(B)を含有していないため、酸素透過度が高く、ガスバリア性が低かった。比較例2の接着性樹脂フィルムは、ガス遮断性樹脂(B)の割合が多すぎるためか、製膜性が不良で、接着性がなく、酸素透過度が高く、ガスバリア性が低かった。比較例3の接着性樹脂フィルムは、ガス遮断性樹脂(B)の密度が低すぎる、あるいは、酸変性ポリオレフィン樹脂(A)との密度差が小さすぎるためか、酸素透過度が高く、ガスバリア性が低かった。
【符号の説明】
【0051】
10…接着性樹脂成形体、10A…接着性樹脂積層体、11…接着性樹脂層、12…基材層、20…筐体、21,22…被着体、23…筐体の内部空間、30…試験片、31,32…試験用被着体。