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特許7410933重合体、それを用いた酸素吸収剤、及び硬化性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-26
(45)【発行日】2024-01-10
(54)【発明の名称】重合体、それを用いた酸素吸収剤、及び硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/24 20060101AFI20231227BHJP
   C08G 65/331 20060101ALI20231227BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20231227BHJP
   C08L 71/03 20060101ALI20231227BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231227BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20231227BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20231227BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
C08G65/24
C08G65/331
C08K3/10
C08L71/03
C08L101/00
B01D53/14 311
B01J20/26 A
B01J20/30
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021513509
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006926
(87)【国際公開番号】W WO2020208951
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2019075745
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野口 大樹
(72)【発明者】
【氏名】福本 隆司
(72)【発明者】
【氏名】西島 悠輝
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/088206(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G65/00-67/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される重合体。
【化1】

(一般式(I)中、X、X及びXはカルコゲン原子を表す。R及びRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。nは2以上の整数である。R、R、R及びRはそれぞれ連結して環構造を形成しない。)
【請求項2】
前記一般式(I)において、X及びXが酸素原子である、請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
前記一般式(I)において、R及びRが炭素数1~6のアルキル基である、請求項1又は2に記載の重合体。
【請求項4】
前記一般式(I)において、R、R及びRが水素原子である、請求項1~3のいずれかに記載の重合体。
【請求項5】
前記一般式(I)において、Rが水素原子である、請求項1~4のいずれかに記載の重合体。
【請求項6】
下記一般式(II)で表される重合体。
【化2】

(一般式(II)中、R11、R12、R13及びR14はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、R15は水素原子又はメチル基を表し、R16は水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。nは2以上の整数である。)
【請求項7】
前記一般式(II)において、R16が水素原子である、請求項6に記載の重合体。
【請求項8】
ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が300~50,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.05~10.0である、請求項1~7のいずれかに記載の重合体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の重合体を含む、酸素吸収剤。
【請求項10】
前記重合体のビニル基に対して遷移金属塩を0.001~10mol%含む、請求項9に記載の酸素吸収剤。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の酸素吸収剤と、重合性単量体及び/又は重合性樹脂を含む、硬化性組成物。
【請求項12】
前記重合性単量体及び/又は重合性樹脂がラジカル重合性単量体及び/又はラジカル重合性樹脂である、請求項11に記載の硬化性組成物。
【請求項13】
下記一般式(III)で表される化合物と、下記一般式(IV)で表される化合物と、塩基とを反応させて得られる下記一般式(V)を含む重合体組成物の製造方法。
【化3】

(一般式(III)中、R21及びR22はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。)
【化4】

(一般式(IV)中、R23は水素原子又はメチル基を表す。)
【化5】

(一般式(V)中、R21、R22及びR23は前記と同義であり、R24は水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。nは2以上の整数である。)
【請求項14】
前記一般式(III)で表される化合物及び一般式(IV)で表される化合物の比が、化合物(III)/化合物(IV)=1/2~2/1である、請求項13に記載の一般式(V)を含む重合体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の重合体、それを用いた酸素吸収剤、及び硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料、接着剤、及びコーティング剤等に使用されるラジカル重合性単量体及びラジカル重合性樹脂は、不飽和結合を有し、ビニル架橋剤によってして硬化する。これらのラジカル重合性単量体及びラジカル重合性樹脂を塗料、接着剤、及びコーティング剤等の用途に用いる場合、通常、空気雰囲気下で硬化を行うため、空気中の酸素により硬化が阻害されやすく、硬化が遅くなったり、表面がべたつくという問題等がある。これらの問題を防ぐ手段として、ラジカル重合性樹脂以外の配合物の添加や、ラジカル重合とは異なる重合様式を用いることが提案されている。特許文献1及び2には、ラジカル重合性樹脂に配合物として酸素吸収剤を添加する技術が提案されている。また、特許文献3及び4には、配合物である酸素吸収剤として、アリルグリシジルエーテル等が記載されている。また、特許文献5には、光酸発生剤を使用して、ラジカル重合性樹脂をカチオン重合で硬化する技術が記載されている。また、特許文献6には、オレフィンにチオール化合物を付加させる技術が記載されている。しかし、従来の配合物の添加を用いる方法では、十分な硬化阻害防止効果が得られていない。また、重合様式として、カチオン重合を用いた場合、空気中の水分により重合反応の速度が低下するという問題があった。また、特許文献6のようにチオール化合物を用いた場合、特有の臭気が発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-130610号公報
【文献】特開平5-78459号公報
【文献】特開昭61-101518号公報
【文献】米国特許第3644568号明細書
【文献】特開2008-308420号公報
【文献】特開2004-277660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のように、ラジカル重合性単量体及びラジカル重合性樹脂にとって、酸素による硬化阻害の問題は未解決のままである。
更に塗料用途においては、従来、反応性希釈剤としてスチレン等が多く用いられてきたが、環境保護の観点から、難揮発性の(メタ)アクリル酸エステルへ転換する動きが高まっている。しかし、(メタ)アクリル酸エステルを使用する場合、従来の反応性希釈剤を用いる場合よりも、硬化が酸素により阻害されやすいという問題があった。
このため、空気下など酸素による硬化阻害を受けやすい環境下における硬化おいて、硬化阻害を抑制する手法が望まれていた。
【0005】
本発明は前記従来の課題を鑑みてなされたものであって、塗料、接着剤、及びコーティング剤等に用いた場合に、硬化反応を十分に進行させることができ、酸素による硬化阻害を抑制する重合体を提供することを目的とする。また、この重合体を含む酸素吸収剤、及びこれを含む硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、下記一般式(I)又は一般式(II)で表される重合体が、従来の酸素吸収剤に比べ、発生したラジカルをより安定化させることができ、より高い酸素ラジカル捕捉性能、すなわち、より高い酸素吸収性能を示すことを見出し、当該知見に基づいて更に検討を重ねて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は下記[1]~[14]を提供する。
[1]下記一般式(I)で表される重合体。
【化1】

(一般式(I)中、X、X及びXはカルコゲン原子を表す。R及びRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、R及びRはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。nは任意の整数である。R、R、R及びRはそれぞれ連結して環構造を形成しない。)
[2]前記一般式(I)において、X及びXが酸素原子である、[1]に記載の重合体。
[3]前記一般式(I)において、R及びRが炭素数1~6のアルキル基である、[1]又は[2]に記載の重合体。
[4] 前記一般式(I)において、R、R及びRが水素原子である、[1]~[3]のいずれかに記載の重合体。
[5]前記一般式(I)において、Rが水素原子である、[1]~[4]のいずれかに記載の重合体。
[6]下記一般式(II)で表される重合体。
【化2】

(一般式(II)中、R11、R12、R13及びR14はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、R15は水素原子又はメチル基を表し、R16は水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。nは任意の整数である。)
[7]前記一般式(II)において、R16が水素原子である、[6]に記載の重合体。
[8]ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が300~50,000であり、分子量分布(Mw/Mn)が1.05~10.0である、[1]~[7]のいずれかに記載の重合体。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の重合体を含む、酸素吸収剤。
[10] 前記重合体のビニル基に対して遷移金属塩を0.001~10mol%含む、[9]に記載の酸素吸収剤。
[11][9]又は[10]に記載の酸素吸収剤と、重合性単量体及び/又は重合性樹脂を含む、硬化性組成物。
[12]前記重合性単量体及び/又は重合性樹脂がラジカル重合性単量体及び/又はラジカル重合性樹脂である、[11]に記載の硬化性組成物。
[13] 下記一般式(III)で表される化合物と、下記一般式(IV)で表される化合物と、塩基とを反応させて得られる下記一般式(V)を含む重合体組成物の製造方法。
【化3】

(一般式(III)中、R21及びR22はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。)
【化4】

(一般式(IV)中、R23は水素原子又はメチル基を表す。)
【化5】

(一般式(V)中、R21、R22及びR23は前記と同義であり、R24は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基、及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。nは任意の整数である。)
[14] 前記一般式(III)で表される化合物及び一般式(IV)で表される化合物の比が、化合物(III)/化合物(IVIV)=1/2~2/1である、[13]に記載の一般式(V)を含む重合体組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塗料、接着剤、及びコーティング剤等に用いた場合に、室温のような低温環境下においても、硬化反応を十分に進行させ、酸素による硬化阻害を抑制することができる酸素吸収性能を有する重合体を提供することができる。また、この重合体を含む酸素吸収剤、及びこれを含む硬化性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一般式(I)又は一般式(II)で表される重合体は、硬化性の(メタ)アクリル酸エステル等の重合性単量体や、不飽和ポリエステル樹脂等の重合性樹脂と共存させることにより、酸素による硬化阻害を抑制し、結果、優れた硬化物を与えることができる。この作用機構については定かではないが、重合反応中において、熱又は活性エネルギー線によって活性化された、本発明の一般式(I)又は一般式(II)で表される重合体の二重結合を構成する炭素に結合する水素原子が、重合反応を阻害する酸素、又は重合反応により酸素から生じるペルオキシラジカルと優先的に反応することで、酸素又はペルオキシラジカルが消費されるためだと推測される。また、本発明の製造方法によれば、一般式(I)又は一般式(II)で表される重合体を、入手可能な原料から簡便な方法で製造でき、かつ得られた重合体組成物は精製することなく使用できることから、プロセスにかかるコストを削減して安価にすることが可能となり、安価であることが求められる塗料用途等に適している。
また、本発明の一般式(I)又は一般式(II)で表される重合体は、高分子化合物であることから、硬化物中にとどまりやすく、溶出されにくい。
【0010】
[一般式(I)で表される重合体]
本発明の重合体は、下記一般式(I)で表される重合体である。
【0011】
【化6】

一般式(I)において、X,X及びXはそれぞれ独立してカルコゲン原子を表す。X、X及びXは、重合体の製造容易性の観点、及び酸素吸収性能を向上させる観点から、酸素原子又は硫黄原子が好ましく、酸素原子がより好ましい。
【0012】
一般式(I)におけるR、Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。
炭素数1~18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、イソヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基、n-ノニル基、イソノニル基、n-デカニル基、イソデカニル基、n-ウンデカニル基、n-ドデカニル基、n-テトラデカニル基、n-ヘキサデカニル基、n-オクタデカニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基、ノルボルニル基、イソボルニル基及びアダマンチル基等が挙げられる。
【0013】
炭素数2~18のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デカネニル基、ウンデカネニル基、ドデカネニル基、テトラデカネニル基、オクタデカネニル基、イソ-3-ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、ノルボルネニル基及びイソボルネニル基等が挙げられる。
【0014】
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-ナフチルエチル基及びジフェニルメチル基等が挙げられる。
これらの中でも、R、Rは、水素原子が好ましい。
【0015】
一般式(I)におけるR、Rはそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基のいずれかを表す。
炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0016】
炭素数2~6のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基、イソ-3-ヘキセニル基及びシクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0017】
アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基及びナフチル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-ナフチルエチル基及びジフェニルメチル基等が挙げられる。
【0018】
これらの中でも、R及びRはそれぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、及び炭素数2~6のアルケニル基のいずれかであることが好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
【0019】
一般式(I)におけるR及びR6はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基のいずれかを表す。
炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0020】
炭素数2~6のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基、イソ-3-ヘキセニル基及びシクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0021】
アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基及びナフチル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-ナフチルエチル基及びジフェニルメチル基等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、R及びR6はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、炭素数2又は3のアルケニル基、及びアリール基のいずれかであることが好ましく、水素原子、メチル基がより好ましく、水素原子が更に好ましい。中でも重合体の酸素吸収性能を向上させる観点から、Rは水素原子であることが好ましく、Rは水素原子又はメチル基であることが好ましく、いずれも水素原子であることがより好ましい。
【0023】
一般式(I)におけるR、R、R及びRはそれぞれ連結して縮環構造を形成しない。
【0024】
一般式(I)におけるRは水素原子又はメチル基を表す。Rは水素原子であることが好ましい。
【0025】
一般式(I)におけるRは水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基のいずれかを表す。
炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0026】
炭素数2~6のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基、イソ-3-ヘキセニル基及びシクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0027】
アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基及びナフチル基等が挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-ナフチルエチル基及びジフェニルメチル基等が挙げられる。
【0028】
これらの中でも、Rは水素原子又は炭素数2~6のアルケニル基のいずれかであることが好ましく、水素原子がより好ましい。
【0029】
一般式(I)において、nは任意の整数である。酸素吸収性能の観点から、2~150が好ましく、2~50がより好ましい。
【0030】
一般式(I)で表される重合体の具体例としては、例えば、下記重合体等が挙げられ、酸素吸収性能の観点から、下記一般式(II)で表される重合体が好ましい。
【0031】
【化7】
【0032】
【化8】

(一般式(II)中、R11、R12、R13及びR14はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、R15は水素原子又はメチル基を表し、R16は水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。nは任意の整数である。)
【0033】
一般式(II)において、R11、R12、R13及びR14はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、好ましい態様は、前記一般式(I)におけるR及びRと同じである。
【0034】
一般式(II)において、R15は水素原子又はメチル基を表し、好ましくは水素原子である。R16は水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、好ましくは水素原子である。
【0035】
一般式(II)において、nは任意の整数である。酸素吸収性能の観点から、2~150が好ましく、2~50がより好ましい。
【0036】
一般式(I)及び一般式(II)で表される重合体の標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは300~50,000である。一般式(I)で表される重合体の標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは300~1,000であり、更に好ましくは330~500である。一般式(II)で表される重合体の標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、より好ましくは1,000~25,000であり、更に好ましくは3,000~10,000である。
なお、本明細書に記載の「重量平均分子量(Mw)」、後述の「数平均分子量(Mn)」及び「分子量分布(Mw/Mn)」は全て、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0037】
一般式(I)及び一般式(II)で表される重合体の標準ポリスチレン換算の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.05~10.00であり、より好ましくは1.05~5.00であり、更にこのましくは1.10~3.00である。
【0038】
[酸素吸収剤]
本発明の酸素吸収剤は、前記一般式(I)又は一般式(II)で表される重合体を含むものである。前述のとおり本発明の重合体は酸素吸収性能に優れるため、これを含む酸素吸収剤を塗料、接着剤、及びコーティング剤等に用いた場合、硬化反応を十分に進行させることができる。
【0039】
本発明の酸素吸収剤は、本発明の重合体を含むため十分な酸素吸収性能を有するが、酸素吸収性能を更に向上させるために遷移金属塩を更に含んでもよい。
前記遷移金属塩を構成する遷移金属としては、例えば、鉄、ニッケル、銅、マンガン、コバルト、ロジウム、チタン、クロム、バナジウム、及びルテニウム等が挙げられる。これらの中でも、酸素吸収剤の酸素吸収性能を向上させる観点から、鉄、ニッケル、銅、マンガン、及びコバルトが好ましく、コバルトがより好ましい。
【0040】
前記遷移金属塩における遷移金属の対イオンとしては、相溶性の点から有機酸由来のアニオン種が好ましく、有機酸としては、例えば、酢酸、ステアリン酸、ジメチルジチオカルバミン酸、パルミチン酸、2-エチルへキサン酸、ネオデカン酸、リノール酸、オレイン酸、カプリン酸、及びナフテン酸等が挙げられる。
【0041】
本発明に用いる遷移金属塩は前記遷移金属と前記対イオンとを任意に組み合わせたものを用いることができるが、製造コストと酸素吸収性能とのバランスの観点から、2-エチルへキサン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、及びステアリン酸コバルトが好ましい。
【0042】
酸素吸収剤が遷移金属塩を含む場合、その含有量は、重合体中のビニル基に対して、0.001~10mol%が好ましく、0.005~5mol%がより好ましく、0.01~1mol%が更に好ましく、0.1~1mol%がより更に好ましい。
遷移金属塩の含有量が前記範囲内であると、酸素吸収剤に十分な酸素吸収性能を付与することができる。
【0043】
本発明の酸素吸収剤中の一般式(I)又は一般式(II)で表される重合体の含有量に特に制限はないが、効果的に酸素を吸収する観点から、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上がより更に好ましく、85質量%以上がより更に好ましく、90質量%以上がより更に好ましい。また、酸素吸収剤の製造コストの観点から、実質的に100質量%が好ましく、99.9質量%以下がより好ましく、99.8質量%以下が更に好ましい。
【0044】
本発明の酸素吸収剤は、一般式(I)又は一般式(II)で表される重合体及び遷移金属塩の他に、本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤を含んでもよい。具体的には、充填剤、紫外線吸収剤、顔料、増粘剤、低収縮化剤、老化防止剤、可塑剤、骨材、難燃剤、安定剤、繊維強化材、染料、酸化防止剤、レベリング剤、及びたれ止め剤等を含んでもよい。
【0045】
本発明の酸素吸収剤は常温においても優れた酸素吸収性能を示す。具体的に、本発明の酸素吸収剤が遷移金属塩を含まない場合の20℃における酸素吸収量は、酸素吸収剤として使用を開始した日から15日後の値として、好ましくは1.5mL/g以上であり、より好ましくは2mL/g以上であり、更に好ましくは3.5mL/g以上である。
また、本発明の酸素吸収剤が遷移金属塩を含まない場合の60℃における酸素吸収量は、酸素吸収剤として使用を開始した日から5日後の値として、好ましくは45mL/g以上であり、より好ましくは48mL/g以上であり、更に好ましくは50mL/g以上である。
なお、酸素吸収剤の酸素吸収量の上限に制限はなく、酸素吸収量は実施例に記載の方法により測定することができる。
【0046】
本発明の酸素吸収剤は、一般式(I)又は一般式(II)で表される重合体と、必要に応じて遷移金属塩及び/又は各種添加剤とを混合することにより得ることができる。具体的には、一般式(I)又は一般式(II)で表される重合体と、遷移金属塩とを撹拌、混合するなどして得ることができる。
【0047】
[硬化性組成物]
本発明の硬化性組成物は、本発明の酸素吸収剤と、重合性単量体及び/又は重合性樹脂を含むものである。一般式(I)又は一般式(II)で表される重合体は、それ自体が重合性基や反応性基を有するが、重合性単量体及び/又は樹脂に配合しても架橋反応や重合反応等を阻害しにくい。したがって、本発明の硬化性組成物は、酸素存在下でも重合性単量体及び重合性樹脂の架橋反応や重合反応に影響を与えにくい点で優れている。
【0048】
本発明の硬化性組成物に用いる重合性単量体は、塗料、接着剤、及びコーティング剤等に用いられる重合性単量体であれば特に制限はない。当該重合性単量体は熱硬化ラジカル重合性単量体であってもよく、また、UV硬化性樹脂等の活性エネルギー線硬化性樹脂に用いられる重合性単量体であってもよい。用途等にもよるが本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、当該樹脂は熱硬化ラジカル重合性単量体であることが好ましい。
本発明に用いるラジカル重合性単量体及び活性エネルギー線硬化性樹脂に用いられる重合性単量体としては、単官能性化合物と多官能性化合物が挙げられる。
【0049】
単官能性化合物としては、例えば、スチレン、ビニルエーテル類、ビニルエステル類、N-ビニルピロリドン等のビニル化合物、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル類等の(メタ)アクリロイル化合物、アリルアルコール、アリルエステル等のアリル化合物が挙げられる。
【0050】
多官能性化合物としては、例えば、分子内に1つ以上(好ましくは2つ以上)の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多価(メタ)アクリル酸エステル、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられ、これらの中でも、分子内に1つ以上(好ましくは2つ以上)の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する多価(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートが、得られる硬化性組成物の硬化速度及び硬化後の塗膜性能などの観点から特に好ましい。本発明の硬化性組成物において、多官能性化合物は、1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0051】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えば、多価アルコールと過剰の多価イソシアネートより合成されるイソシアネート基残存ポリマーに水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを付加させたものなどが挙げられる。
【0052】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールFなどが挙げられる。
【0053】
多価イソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,2,4-または2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。これらの中でも、硬化性に優れるヘキサメチレンジイソシアネートが好ましい。
【0054】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、多価イソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしてペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。
【0055】
エポキシ(メタ)アクリレートとしては、例えば、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂末端に(メタ)アクリル酸を付加させたものなど、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を付加させたものなどが挙げられる。
【0056】
本発明の硬化性組成物に用いる重合性樹脂は、塗料、接着剤、及びコーティング剤等に用いられる樹脂であれば特に制限はない。当該樹脂はラジカル重合性樹脂であってもよく、また、UV硬化性樹脂等の活性エネルギー線硬化性樹脂であってもよい。用途等にもよるが本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、当該樹脂はラジカル重合性樹脂であることが好ましい。また、本発明の酸素吸収剤は、酸素吸収性能に優れることから、低い酸素透過性が要求される酸素バリア性樹脂に、既に樹脂に含まれている酸素を吸収させる目的で好適に用いることができる。
樹脂の具体例としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、重合性基を有する(メタ)アクリル樹脂、及びウレタン(メタ)アクリレート樹脂等のラジカル重合性樹脂;ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体の部分又は完全鹸化物、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等の酸素バリア性が求められる樹脂等が挙げられる。
また、前記樹脂以外にも必要に応じて、フッ素樹脂、ポリアミド66等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂等を用いてもよい。
【0057】
不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば、プロピレングリコール-無水フタル酸-無水マレイン酸共重合体、エチレングリコール-無水フタル酸-無水マレイン酸共重合体等、多価アルコール化合物とα,β-不飽和多塩基酸化合物及び他の多塩基酸化合物との共重合体、並びに、該共重合体にスチレン等のラジカル重合性単量体を添加したもの等が挙げられる。
【0058】
前記多価アルコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、水添ビスフェノールA、及び水添ビスフェノールF等が挙げられる。
【0059】
前記α,β-不飽和多塩基酸化合物としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、及びシトラコン酸等が挙げられ、前記他の多塩基酸化合物としては、例えば、無水フタル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘット酸、アジピン酸、及びセバシン酸等が挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
これらの共重合体は、更にアリルグリシジルエーテル等の不飽和アルコールのグリシジル化合物を共重合成分の1つとして含んでもよい。
【0061】
ビニルエステル樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂末端に(メタ)アクリル酸を付加させたもの等、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を付加させたもの等が挙げられる。
【0062】
ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、例えば、多価アルコール化合物と過剰の多価イソシアネート化合物より合成されるイソシアネート基残存ポリマーに(メタ)アクリル酸を付加させたもの等が挙げられる。前記多価アルコール化合物は前記不飽和ポリエステル樹脂の説明における多価アルコール化合物と同様のものとすることができ、前記多価イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0063】
本発明の硬化性組成物中における一般式(I)又は一般式(II)で表される重合物の含有量は、樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~50質量部であり、より好ましくは0.2~40質量部であり、更に好ましくは0.5~30質量部である。
【0064】
本発明の硬化性組成物は、顔料、染料、充填剤、紫外線吸収剤、増粘剤、低収縮化剤、老化防止剤、可塑剤、骨材、難燃剤、安定剤、繊維強化材、酸化防止剤、レベリング剤、及びたれ止め剤等を適宜含んでもよい。また、本発明の硬化性組成物は、希釈剤として、例えばスチレン、(メタ)アクリル酸エステル等を含んでもよく、重合性の観点から(メタ)アクリル酸エステルを含む場合に本発明の効果がより顕著に奏されるため特に好ましい。
顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、アニリンブラック、カーボンブラック、シアニンブルー、及びクロムエロー等が挙げられる。充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、及びクレー等が挙げられる。
【0065】
本発明の硬化性組成物は、重合性単量体及び/又は重合性樹脂と本発明の酸素吸収剤とを混合することにより得ることができる。具体的には、本発明の酸素吸収剤、樹脂、及び必要に応じて任意成分を撹拌等によって混合することにより得ることができる。
【0066】
本発明の硬化性組成物は、例えば、塗料、接着剤、インク、シーリング剤、レジスト材料及びコーティング剤等の用途に好ましく用いることができる。特に、空気下など酸素による硬化阻害を受けやすい環境下における硬化や、硬化性組成物中に溶存酸素が存在する状態で硬化を行う用途において、好適に用いることができる。
【0067】
[一般式(V)を含む重合体組成物の製造方法]
本発明の一般式(V)を含む重合体組成物の製造方法は、下記一般式(III)で表される化合物と、下記一般式(IV)で表される化合物と、塩基とを反応させて得られる下記一般式(V)を含む、重合体組成物の製造方法である。
【0068】
【化9】
【0069】
【化10】
【0070】
【化11】
【0071】
一般式(III)中、R21及びR22はそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表す。好ましい態様は、前記一般式(I)におけるR及びRと同じである。
【0072】
一般式(IV)中、R23は水素原子又はメチル基を表す。
【0073】
一般式(V)中、R21、R22及びR23は前記と同義であり、R24は水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数2~6のアルケニル基、アリール基及びアラルキル基からなる群より選ばれるいずれかを表し、好ましい態様は前記一般式(I)におけるR16と同じである。nは任意の整数であり、好ましい態様は前記一般式(I)におけるnと同じである。
【0074】
本発明の製造方法では、前記一般式(III)で表される化合物及び一般式(IV)で表される化合物を塩基存在下中で反応させることにより容易に重合体を得ることができる。使用できる塩基としては、例えば、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等の無機塩基類、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ピリミジン、ジアザビシクロウンデセン、ピリジン、トリフェニルホスフィン、金属アルコキシド等の有機塩基類が挙げられる。これらは、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよく、反応基質への溶解性と活性の観点から水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましい。
【0075】
本発明の製造方法において、前記一般式(III)で表される化合物(以後、化合物(III)とも言う)及び一般式(IV)で表される化合物(以後、化合物(IV)とも言う)の比は特に限定されないが、重合体の生成の観点から化合物(III)/化合物(IV)=2/1~1/2であることが好ましい。2/1よりも大きいと停止反応が進行して重合体の生成量が著しく低下し、1/2よりも小さいと副反応が進行して収率が著しく低下する。
【0076】
本発明の製造方法の具体例として、例えば、下記式(A-1)で表される重合体を製造する場合、水酸化カリウム等のアルカリ存在下、対応するアルコールである3-メチル-2-ブテン-1-オールに対してエピクロロヒドリンなど重合性部位を形成可能な化合物を反応させることにより製造することができる。反応条件としては、十分に反応させる観点から、60~150℃程度の温度で0.5~20時間程度撹拌することが好ましい。また、精製においては、重合後の反応液をそのまま使用することもでき、シリカゲルカラムや活性炭カラム、蒸留操作などの公知の方法を組み合わせて所望の純度にすることもできる。
【0077】
【化12】
【実施例
【0078】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、参考例及び比較例における物性値の測定は、以下の方法により行った。
【0079】
H-NMR測定条件]
実施例、参考例及び比較例で得た酸素吸収剤20mgに、それぞれ重クロロホルム4gを加えて均一な溶液を調製し、この溶液を以下の測定条件で1H-NMR測定を行った。
装置:ブルカー(株)製「ULTRASHIELD400PLUS」
基準物質:テトラメチルシラン
測定温度:25℃
積算回数:16回
【0080】
[ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定]
実施例又は比較例で得た酸素吸収剤200mgに、それぞれテトラヒドロフラン(THF)2gを加えて均一な溶液を調製し、この溶液を以下の測定条件でゲル浸透クロマトグラフィー分析し、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量数(Mw)及び数平均分子量(Mn)を求め、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
装置:東ソー(株)製「HLC-8220GPC」
カラム:東ソー(株)製 「TSKgel SuperHM-N(内径6mm、有効長15cm)」を3本直列で接続
溶離液:THFを流量0.6mL/分で流通させた。
サンプル注入量:10μL
検出器:RI
検出器温度:40℃
【0081】
[酸素吸収量(20℃)の測定方法]
実施例又は比較例で得た酸素吸収剤から100mgを精秤し、内容量20mLのサンプル瓶に入れた。その後、サンプル瓶内の湿度を調整するために0.5mLのイオン交換水が入った小瓶を該サンプル瓶に入れ、該サンプル瓶の開口部をポリテトラフルオロエチレン樹脂でシールされたゴムキャップ及びアルミシールで塞いだ。
このサンプル瓶を20℃の恒温槽に静置し、酸素吸収剤として使用を開始した日から1日、5日、及び15日間経過後、それぞれ該サンプル瓶内の残存酸素量を残存酸素計(飯島電子工業株式会社製「パックマスターRO-103」)を使用して測定した。
対照用として、実施例及び比較例で得た酸素吸収剤を入れなかったこと以外は同様の条件で残存酸素量を測定し、実施例及び比較例で得た測定値と対照用に得た測定値との差(酸素吸収量)を求め、酸素吸収剤1gあたりの酸素吸収量を算出して酸素吸収剤の酸素吸収量(20℃)[mL/g]とした。なお、同じ試験を3度行い、その平均値を採用した。
【0082】
[酸素吸収量(60℃)の測定方法]
酸素吸収量(20℃)の測定において、恒温槽の温度を20℃から60℃に変更したこと以外は同様に酸素吸収剤の酸素吸収量(60℃)[mL/g](3度の試験の平均値)を測定した。
【0083】
[実施例1]
α-(3-メチル-2-ブテノキシ)-ω-ヒドロキシポリ[オキシ(3-メチル-2-ブテノキシメチルエタン-1,2-ジイル)](A-1)の合成
【化13】
【0084】
撹拌機、温度計、滴下ロートを備えた反応器に、窒素気流下、3-メチル-2-ブテン-1-オール1654g(株式会社クラレ製、19.2mol)、50%水酸化ナトリウム水溶液1842g(関東電化工業株式会社製、23.0mol)、ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロリド28g(東京化成工業株式会社製、0.084mol)を仕込んだ。内温を60℃以下に保持し、撹拌しながらエピクロロヒドリン1776g(富士フイルム和光純薬株式会社製、19.2mol)を滴下し、滴下終了後90℃に昇温した。内温90℃で9時間撹拌し、その後25℃まで冷却した。反応液を7.5%炭酸水素ナトリウム水溶液5000gで洗浄後、上層をイオン交換水5000mLで洗浄した。得られた有機層から蒸留により水及び未反応の3-メチル-2-ブテン-1-オールを留去し、前記一般式(A-1)で表されるα-(3-メチル-2-ブテノキシ)-ω-ヒドロキシポリ[オキシ(3-メチル-2-ブテノキシメチルエタン-1,2-ジイル)]1996g(収率73%)を得た。そのH-NMRの測定結果及びGPC測定結果を以下に示す。
【0085】
1H-NMR(270MHz,CDCl3,TMS)δ:5.37-5.32(m,5H),4.02-3.99(brd,10H),3.68-3.56(m,4H),3.55-3.40(m,10H),2.54(d,J=3.8Hz,1H),1.74(brs,15H),1.66(brs,H)
【0086】
GPC測定:重量平均分子量(Mw)=360,数平均分子量(Mn)=300,分子量分布(Mw/Mn)=1.2(ポリスチレン換算)
【0087】
[参考例1]
1-(3-メチル-2-ブテノキシ)-2,3-エポキシプロパン(A-2)の合成
【0088】
【化14】
【0089】
撹拌機、温度計、滴下ロートを備えた反応器に、窒素気流下、3-メチル-2-ブテン-1-オール324g(株式会社クラレ製、3.77mol)、シクロヘキサン2300mL、水酸化ナトリウム226g(富士フイルム和光純薬株式会社製、5.65mol)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド15.2g(東京化成工業株式会社製、37.3mmol)、精製水226mLを仕込んだ。内温を25℃以下に保持し、撹拌しながら、エピクロロヒドリン698g(富士フイルム和光純薬株式会社製、7.54mol)を90分かけて滴下し、滴下終了後は30分かけて40℃に昇温した。内温40℃で3時間撹拌し、その後25℃まで冷却した。反応液の上層を飽和食塩水670mLで5回洗浄し、有機層を硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ過し、ろ液を濃縮して濃縮物536gを得た。係る濃縮物を蒸留により精製し、上記式(A-2)に示した1-(3-メチル-2-ブテノキシ)-2,3-エポキシプロパン242g(1.67mol;収率44%)を得た。そのH-NMRの測定結果を以下に示す。
【0090】
H-NMR(400MHz,CDCl,TMS)δ:5.35(tquin,J=6.8,1.2Hz,1H),4.03(ddd,J=19.6,12.0,7.2Hz,2H),3.68(dd,J=11.6,3.2Hz,1H),3.99(dd,J=11.2,5.6Hz,1H),3.17-3.13(m,1H),2.79(dd,J=4.8,4.0Hz,1H),2.60(dd,J=5.2,2.8Hz,1H),1.75(s,3H),1.68(s,3H).
【0091】
[実施例2]
α-メトキシ-ω-ヒドロキシポリ[オキシ(3-メチル-2-ブテノキシメチルエタン-1,2-ジイル)](A-3)の合成
【化15】
【0092】
撹拌機、温度計、滴下ロートを備えた反応器に、窒素気流下、1-(3-メチル-2-ブテノキシ)-2,3-エポキシプロパン20g(株式会社クラレ製、0.14mol)、ナトリウムメトキシド76mg(富士フイルム和光純薬株式会社製、1.4mmol)を仕込んだ。内温を110℃に昇温して9時間撹拌し、その後25℃まで冷却した。反応液に1mLの酢酸を加えた後、エバポレーションにより低沸成分を除去し、前記一般式(A-3)で表されるα-メトキシ-ω-ヒドロキシポリ[オキシ(3-メチル-2-ブテノキシメチルエタン-1,2-ジイル)]18.8g(収率94%)を得た。そのH-NMRの測定結果及びGPC測定結果を以下に示す。
【0093】
1H-NMR(270MHz,CDCl3,TMS)δ:5.34(t,J=13.0Hz,47H),4.05-3.90(brd,94H),3.77-3.35(m,235H),2.61(brs,1H),1.74(brs,282H),1.67(brs,282H)
GPC測定:重量平均分子量(Mw)=7600,数平均分子量(Mn)=4800,分子量分布(Mw/Mn)=1.58 (ポリスチレン換算)
【0094】
[実施例3]
ガラス製サンプル瓶中に、化合物(A-1)5.00gを加えよく撹拌し、酸素吸収剤を得た。評価結果を表1に示す。
【0095】
[実施例4]
実施例3において、化合物(A-1)を化合物(A-3)に変更したこと以外は実施例3と同様の手法で酸素吸収剤を得た。評価結果を表1に示す。
【0096】
[比較例1]
実施例1において、化合物(A-1)を下記式で表される化合物(E-1)5.00g(東京化成工業株式会社製;純度99%;29.0mmol)に変更したこと以外は実施例3と同様の手法で酸素吸収剤を得た。評価結果を表1に示す。
【0097】
【化16】
【0098】
【表1】
【0099】
表1に示すように、本発明の重合体は、常温でも優れた酸素吸収能を有していることが分かる。また、驚くべきことに遷移金属塩を用いなくても酸素を吸収することができ、硬化性組成物の硬化反応を十分に発現させることができることが分かる。